説明

車両用操舵装置

【課題】車両用操舵装置のクラッチの隙間の管理を容易にすると共に操作フィーリングの向上を図る。
【解決手段】電磁クラッチ8として、ピニオン軸に連結された出力プ−リ15の端面に結合された内周面回転体17と、該内周面回転体17の内周面を転動する外周面を有する外周面回転体18と、内周面回転体17の中心部に一体成形した筒部17bと外周面回転体18の中心部に形成された円形孔18bとの間の円環状空間22と、該円環状空間22に設けられ基端部どうしが対向する一対のくさび20と、一対のくさび20の基端部間に介在し接続シャフト13の端面に突出形成された駆動ピン23と、一対のくさび20を相互に離反する方向へ付勢する板ばね21と、接続シャフト13の端面から夫々のくさび20の先端部へ進退可能に設けられ板ばね21の付勢力に抗して一対のくさび20を相互に接近する方向へ押圧してロック解除する一対のロック解除ピン28とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホィールと、該ステアリングホィールの回転運動を往復運動に変換する操舵機構との機械的連結を切り離した状態で、ステアリングホィールの回転数を電気信号に変換し、該電気信号に基づいて操舵機構を構成するラックを駆動して車輪を操舵する、いわゆるステアバイワイヤ(SBW)方式を採用した車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアバイワイヤ(SBW)方式を採用した従来の車両用操舵装置として、特許文献1に開示されたものがある。特許文献1に開示された車両用操舵装置1は、運転者により回転操作されるステアリングホィール2と、該ステアリングホィール2の回転方向および回転数を電気信号として検出する舵角センサ3と、該舵角センサ3の電気信号に基づいて図示しない操舵モータを回転駆動制御するステアバイワイヤ制御部9と、該操舵モータの回転運動を往復運動に変換して車輪を操舵する操舵機構としての車輪角度変換機構6と、ステアリングホィール2と車輪角度変換機構6との接続・切り離しを機械的に行う電磁クラッチ機構8とを備えている。
【0003】
該電磁クラッチ機構8は、特許文献1の図1〜図4に示すように、ステアリングホィール2に連結された図2の上部のシャフト13と、ケーブル7を介して車輪角度変換機構6に連結された図2の下部の出力プーリ15とを、その接合部において接続・切り離しを行うものであり、出力プーリ15の上面に結合された内周歯車体17の内周歯部17aと、浮遊状態の外周歯車体18の外周歯部18aとを円周の一箇所で噛み合わせたものである。リング状ばね21により開く方向へ付勢される一対のロック片20aの間へスプール23が突出していないときは、シャフト13から軸方向下方へ突出している駆動突起16により一対のロック片20aのみが回転駆動され、出力プーリ15の内周歯車体17に対してシャフト13から突出する駆動突起16が空転するので、電磁クラッチ機構8が切り離し状態となる。一方、シャフト13からスプール23が軸方向下方へ突出すると、一対のロック片20aのくさび効果により一対のロック片20aと外周歯車体18と内周歯車体17とが一体になると共にこれらが駆動突起16により回転駆動され、結果としてシャフト13から突出する駆動突起16が出力プーリ15の内周歯車体17を回転駆動し、電磁クラッチ機構8が接続状態となる。
【0004】
通常時は、ステアバイワイヤ制御部9の制御により電磁クラッチ機構8の電磁コイル27に通電されているため、バネ25の付勢力に抗して電磁コイル27がスプール23を吸引して電磁クラッチ機構8が切り離し状態となり、ステアリングホィール2と車輪角度変換機構6とが切り離されている。そして、ステアリングホィール2が回転操作されると、ステアバイワイヤ制御部9は、舵角センサ3が検出したステアリングホィール2の回転数に応じて操舵モータを回転駆動し、該操舵モータの回転運動が車輪角度変換機構6により往復運動に変換され、図示しない車輪が操舵される。
【0005】
ステアバイワイヤ制御部9により、操舵モータが故障したと判断された場合には、ステアバイワイヤ制御部9により、電磁コイル27への通電が止められるためバネ25の付勢力によりスプール23が一対のロック片20aの間へ向かって前進する。このため、電磁クラッチ機構8が接続状態となる一方、舵角センサ3が検出した電気量による操舵モータの駆動が止められる。これにより、ステアリングホィール2の操作力が電磁クラッチ機構8を介して車輪角度変換機構6へ伝達され、該車輪角度変換機構6により回転運動が往復運動に変換され、図示しない車輪が操舵される。
【0006】
このように、ステアバイワイヤ(SBW)方式の車両用操舵装置では、システム故障時には通電の停止により電磁クラッチ機構8が接続状態になり、万が一のことがあっても車両用操舵装置が正常に機能する。
【特許文献1】特開2007−22460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、くさびの食い込みによりクラッチが連結される特許文献1に記載の発明では隙間の管理をすることが必要であり、しかも隙間は高い精度が要求されることから、管理が煩雑になる。また、一対のロック片とスプールとの間に隙間を有するため、ステアリングホィールの操作フィーリングが悪いという問題がある。即ち、特許文献1の図4において、通常の運転時であってスプール23が一対のロック片20aの基端部どうしの間へ跳びこんでいない状態では、一対のロック片20aの基端部どうしの間の隙間G1が、一対のロック片20aの先端部と駆動突起16との間の隙間G2よりも大きい状態で一対のロック片20aが駆動突起16に押されて空転する一方、緊急時にスプール23が一対のロック片20aの基端部どうしの間へ跳び込み、一対のロック片20aが相互に離反する方向へ移動して楔効果により一対のロック片20aと内周歯車体17と外周歯車体18とが相対的に動かなくなり、スプール23が内周歯車体18を駆動して大きなトルクが伝達されるときは、スプール23と一対のロック片20aの基端部との間の隙間G3が、ロック片20aの先端部と駆動突起16との間の隙間G2よりも小さくなる。そして、スプール23を一対のロック片20aの間へ押し込んだときでも隙間G3は隙間G2よりも小さくなるように設定する必要がある。このように、隙間G1,G2,G3が存在し、隙間G1,G2,G3の大きさを管理する必要があることから、高い制度が要求され管理が煩雑となる。また、一対のロック片20aとスプール23との間の隙間G3は、ステアリングホィールの遊びとして感じられるため、ステアリングホィールの操作フィーリングが悪くなる。
【0008】
そこで、本発明は斯かる問題を解決し、隙間の管理を軽減して操作フィーリングの改善を図った車両用操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、ステアリングホィールの回転数を検出して得た検出値と対応した量だけ駆動する操舵アクチュエータを設け、該操舵アクチュエータを車体左右方向へ往復移動自在なラックに連結し、該ラックの両端を車輪に連結する一方、前記ステアリングホィールに機械的な連結と切り離しとを行うクラッチを介してピニオン軸を連結し、該ピニオン軸に設けたピニオンを前記ラックに噛合させ、前記クラッチには、端面どうしが対向配置され前記ステアリングホィールに連結された入力軸または前記ピニオン軸に連結された出力軸とのいずれか一方の端面に結合された内周面形成部材と、該内周面形成部材の内周面を転動する外周面を有する外周面形成部材と、前記内周面形成部材の中心部に一体に設けられた筒部と前記外周面形成部材の中心部に形成された円形孔との間に形成された円環状空間と、該円環状空間に設けられ幅広の基端部どうしが対向配置された一対のくさびと、前記一対のくさびの基端部どうしの間に介在し前記入力軸または前記出力軸の他方の端面に突出形成された駆動ピンと、前記一対のくさびを相互に離反する方向へ付勢してロックするロック用付勢手段と、前記入力軸または前記出力軸の他方の端面から前記夫々のくさびの先端部へ進退可能に設けられ前記ロック用付勢手段の付勢力に抗して前記一対のくさびを相互に接近する方向へ押圧してロック解除する一対のロック解除ピンと、を設けたことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、通常の使用状態であるステアバイワイヤモードでは、ステアリングホィールの回転数が検出され、該検出による検出値と対応した量だけ操舵アクチュエータが駆動し、該操舵アクチュエータの駆動によりラックが車体左右方向へ往復移動し、該ラックにより車輪が操舵される。このとき、クラッチのロック解除ピンは夫々のくさびの先端部へ向かって突出しているため、一対のくさびはロック用付勢手段の付勢力に抗して相互に接近する方向へ押圧されロック解除状態を保持しており、該ロック解除状態の一対のくさびは駆動ピンにより回転駆動されて内周面形成部材と外周面形成部材との間で空回りする。従って、駆動ピンの設けられた入力軸から内周面形成部材の設けられた出力軸へ回転が伝わらず、クラッチは切り離し状態となる。
【0011】
異常時にロック解除ピンが後退すると、ロック用付勢手段が一対のくさびを離反する方向へ付勢するので、楔効果により一対のくさびと内周面形成部材と外周面形成部材とが相対回転できないロック状態となり、ロック状態の内周面形成部材は駆動ピンにより回転駆動される。従って、駆動ピンの設けられた入力軸から内周面形成部材の設けられた出力軸へ回転が伝わり、クラッチは接続状態となる。このクラッチの接続により、ステアリングホィールとピニオン軸とが機械的に直結されて直結モードとなり、直結モードにより操舵アクチュエータを介することなく、ステアリングホィールからピニオン軸が直接に回転駆動され、ピニオン軸の回転運動がラックの往復運動に変換され、車輪が操舵される。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の車両用操舵装置において、前記内周面形成部材と前記外周面形成部材とが、前記内周面に対して前記外周面が転がり接触する内周面回転体と外周面回転体とであることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、内周面回転体と外周面回転体とが転がり接触し該接触部で回転を伝達する構成にしたので、歯車加工を要しない分だけ製造コストが安い。また、歯車どうしの噛み合い接触の場合は噛み合いが外れる際に引っ掛かりが生じないように精度が要求されるが、転がり接触なので精度が要求されない。更に、噛み合い接触の場合は精度が要求されるため内歯車と外歯車との偏心量の大きさが制限されるが、内周面回転体と外周面回転体との場合は精度が要求されないため、偏心量の大きさが制限されることはなく、偏心量を小さくしてくさびの角度を小さくすることにより伝達トルクを大きくすることもでき、設計の自由度が高い。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の車両用操舵装置において、前記内周面形成部材と前記外周面形成部材とが、前記内周面に対して前記外周面が噛み合い接触する内歯歯車と外歯歯車とであることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、内歯歯車と外歯歯車との噛み合いによって外歯歯車が内歯歯車の内部を転動するので、内歯歯車と外歯歯車との間に滑りが生じることによるクラッチの入力軸と出力軸との間の滑りが回避される。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の車両用操舵装置において、前記ロック用付勢手段は、前記駆動ピンと前記夫々のくさびの基端部との間に設けられていることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、ロック用付勢手段を駆動ピンと夫々のくさびの基端部との間に設けたので、駆動ピンが一対のくさびを回転駆動する際に駆動ピンとくさびとの間に隙間が生じても、駆動ピンが空転することなくトルク(反力)が発生する。そのため、駆動ピントくさびとの間の隙間がステアリングホィールの遊びとして感じられることがなく、ステアリングホィールの操作フィーリングが良い。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の車両用操舵装置において、前記ロック解除ピンを後退する方向へ付勢する後退用付勢手段と、該後退用付勢手段の付勢力に抗して前記ロック解除ピンを突出させる電磁ソレノイドと、を設けたことを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、ステアバイワイヤモード時は電磁ソレノイドに通電されているため、一対のロック解除ピンは電磁ソレノイドに吸引されて夫々のくさびの先端部へ向かって突出しており、一対のくさびは相互に接近する方向へ押圧されてロック解除状態を保持して空回りし、クラッチは切り離し状態となる。一方、異常が生じて電磁ソレノイドに通電されなくなると、後退用付勢手段の付勢力により一対のロック解除ピンが後退して一対のくさびへの押圧が解除されるため、ロック用付勢手段が一対のくさびを離反する方向へ付勢し、楔効果によりロック状態となった内周面形成部材が駆動ピンにより回転駆動され、クラッチは接続状態となる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る車両用操舵装置によれば、一対のくさびの基端部どうしの間に介在し入力軸または出力軸の他方の端面に突出形成された駆動ピンと、一対のくさびを相互に離反する方向へ付勢してロックするロック用付勢手段と、入力軸または出力軸の他方の端面から夫々のくさびの先端部へ進退可能に設けられロック用付勢手段の付勢力に抗して一対のくさびを相互に接近する方向へ押圧してロック解除する一対のロック解除ピンと、を設けたので、通常の使用状態であるステアバイワイヤモードでは、クラッチのロック解除ピンが夫々のくさびの先端部へ向かって突出し、一対のくさびはロック用付勢手段の付勢力に抗して相互に接近する方向へ押圧されロック解除状態を保持する一方、異常時にロック解除ピンが後退すると、ロック用付勢手段が一対のくさびを離反する方向へ付勢して楔効果により一対のくさびと内周面形成部材と外周面形成部材とを相対回転できないロック状態に保持する。このような構成であるため、従来のように2つの隙間の大きさを管理する必要がなく、従来より精度が低くても確実なロックを保障でき、安全性の高い車両用操舵装置を提供することができる。
【0021】
請求項2に係る車両用操舵装置によれば、内周面形成部材と外周面形成部材とを歯を有しない内周面回転体と外周面回転体とにしたので、歯車加工を要しない分だけ製造コストが安い。更に、歯車どうしの噛み合い接触の場合は噛み合いが外れる際に引っ掛かりが生じないように精度が要求されるが、ころがり接触なので精度が要求されない。また更に、噛み合い接触の場合はこのように精度が要求されるため内歯車と外歯車との偏心量の大きさが制限されるが、内周面回転体と外周面回転体との場合は精度が要求されないため、偏心量の大きさが制限されることはなく、偏心量を小さくしてくさびの角度を小さくすることにより伝達トルクを大きくすることもでき、設計の自由度が高い。
【0022】
請求項3に係る車両用操舵装置によれば、内周面形成部材と外周面形成部材とを歯を有する内歯歯車と外歯歯車にしたので、内周面形成部材と外周面形成部材とが噛み合い接触し、滑りが生じない。
【0023】
請求項4に係る車両用操舵装置によれば、ロック用付勢手段を駆動ピンと夫々のくさびの基端部との間に設けたので、駆動ピンが一対のくさびを回転駆動する際に駆動ピンとくさびとの間に隙間が生じても駆動ピンが空転することなくトルク(反力)が発生する。そのため、駆動ピンとくさびとの間の隙間がステアリングホィールの遊びとして感じられることはなく、ステアリングホィールの操作フィーリングが良い。
【0024】
請求項5に係る車両用操舵装置によれば、ステアバイワイヤモード時は電磁ソレノイドに通電されているため、一対のロック解除ピンは電磁ソレノイドに吸引されて夫々のくさびの先端部へ向かって突出しており、一対のくさびは相互に接近する方向へ押圧されてロック解除状態を保持して空回りし、クラッチは切り離し状態となる。一方、異常が生じて電磁ソレノイドに通電されなくなると、後退用付勢手段の付勢力により一対のロック解除ピンが後退して一対のくさびへの押圧が解除されるため、ロック用付勢手段が一対のくさびを離反する方向へ付勢し、楔効果によりロック状態となった内周面形成部材が駆動ピンにより回転駆動され、クラッチは接続状態となる。つまり、異常時に通電が停止されると自動的にクラッチが接続されて直結モードになり、安全性が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明による車両用操舵装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(a)実施の形態1
まず、実施の形態1について説明する。
【0026】
図1,図2は作用説明図、図3は車両用操舵装置の概略構成図、図4は電磁クラッチの切り離し状態の断面図、図5は電磁クラッチの接続状態の断面図、図6は電磁クラッチの斜視図、図7は要部の断面図である。
【0027】
図3に示すように、車両用操舵装置1は運転者により回転操作されるステアリングホィール2と、該ステアリングホィール2に結合されたステアリングシャフト2aと、該ステアリングシャフト2aの回転操作量を検出して舵角信号aを発する操作量検出手段としての舵角センサ3と、該ステアリングシャフト2aの回転トルクを検出して操舵トルク信号bを発するトルクセンサ4と、ステアリングシャフト2aに反力を付与する操舵反力機構5と、前記舵角センサ3の舵角信号aと対応した回転数だけピニオン軸6aを回転駆動する操舵アクチュエータ6dと、該操舵アクチュエータ6dにより駆動されるピニオン軸6aの回転運動を該ピニオン軸に設けた図示しないピニオンとラック6cとの噛み合いにより該ラック6cの往復運動に変換して車輪10を操舵するための操舵機構としての車輪角度変換機構6と、ステアリングシャフト2aと車輪角度変換機構6のピニオン軸6aとを機械的に接続・切り離しするクラッチとしての電磁クラッチ8と、前記舵角信号a,前記操舵トルク信号bを入力し、更に車内LAN信号Sとして車速(V),ヨーレート(ω),横加速度(G)等の各信号を入力し、操舵アクチュエータ6d,操舵反力機構5,電磁クラッチ8を制御するステアバイワイヤ制御部(SBW制御部)9と、を備えている。なお、11はバッテリである。
【0028】
通常に運転する際には、ステアリングホィール2を回転操作すると、ステアリングシャフト2aの回転操作量が舵角センサ3により検出され、該舵角センサ3の舵角信号aに基づいてステアバイワイヤ制御部9が操舵アクチュエータ6dに制御信号Aを出す。これにより、操舵アクチュエータ6dがステアリングホィール2の回転操作量に応じて駆動され、操舵アクチュエータ6dの回転運動が車輪角度変換機構6のピニオン軸6aに伝達され、車輪角度変換機構6では該ピニオン軸6aの回転運動がラック6cの往復運動に変換され、ラック6cの往復運動により車輪10が操舵される。このように、ステアリングホィール2の回転を操舵アクチュエータ6dの回転に変換するステアバイワイヤモードでは、トルクセンサ4が操舵トルクを検出し、該トルクセンサ4の操舵トルク信号bに基づいてステアバイワイヤ制御部9が操舵反力機構5に制御信号Bを出力し、ステアリングホィール2を適切なトルクで操作できるようにする。
【0029】
一方、車両電装系の異常やステアバイワイヤシステムの異常等によってステアバイワイヤモードを正常に実行できないと判断される場合には、ステアバイワイヤ制御部9が電磁クラッチ8に制御信号Cを出し、電磁クラッチ8を切り離し状態から接続状態に切り換え、直結モードにする。これにより、接続状態になった電磁クラッチ8を介して、ステアリングシャフト2aが車輪角度変換機構6のピニオン軸6aに機械的に接続される。
【0030】
次に、前記電磁クラッチ8の構成を説明する。図4に示すように、筒形状のハウジング11が設けられ、該ハウジング11の上部には入力軸としての接続シャフト13が軸受12を介して回転自在に設けられ、下部には出力軸としての出力プーリ15が軸受14を介して回転自在に設けられている。上部の接続シャフト13は、図3に示すステアリングシャフト2aに連結される一方、下部の出力プーリ15は、車輪角度変換機構6のピニオン軸6aに連結されている。接続シャフト13は、センタリング軸部13bを有する下部の軸端部材13cと、上部の軸端部材13dとを、ボルト13eを介して結合して構成されている。出力プーリ15とピニオン軸6aとは、出力プーリ15とピニオン軸6aのプーリ6bとの間に巻回されたケーブル7を介して連結されている。
【0031】
図4のように端面どうしが上下方向で対向する接続シャフト13と出力プーリ15との間に、これらの2軸を連結して一体回転させたり切り離して回転を伝えないようにするための連結機構24が設けられている。該連結機構24は、図1,図2,図7に示すように、下方の出力プーリ15の上部端面に結合された内周面形成部材としての内周面回転体17と、該内周面回転体17の内周面17aを転動する外周面18aを有する外周面形成部材としての外周面回転体18と、一対のくさび20と、上方の接続シャフト13から軸方向の下方へ突出形成され一対のくさび20の基端部どうしの間に介在する駆動ピン23と、該駆動ピン23と夫々のくさびの基端部との間に設けられ一対のくさび20を離反する方向へ付勢するロック用付勢手段としての板ばね21と、前記接続シャフト13の端面から前記夫々のくさび20の先端部へ進退可能に設けられ前記板ばね21の付勢力に抗して前記一対のくさび20を相互に接近する方向へ押圧する一対のロック解除ピン28とから構成されている。
【0032】
図1,図4,図7に示すように、内周面回転体17には円盤の内部をプレスで半抜きすることにより円形凹部17cが形成され、内周面回転体17は複数のボルト26を介して下方の出力プーリ15の上端面に結合されている。そして、内周面回転体17には円形凹部17cの中心部から軸方向上方へ立ち上がるように筒部17bが一体成形され、該筒部17bと円形凹部17cの内周面17aとの間がリング状の溝となっており、該溝の部分に外周面回転体18が遊嵌されている。そして、内周面回転体17の内周寸法よりも外周面回転体18の外周寸法が短くなっており、内周面回転体17の内周面17aには外周面回転体18の外周面18aがころがり接触している。これらの内周面17aと外周面18aとにはローレット加工等により細かな凹凸が形成されている。
【0033】
図1,図4,図7に示すように、外周面回転体18の中央部には円形孔が形成されており、該円形孔には滑りを円滑にするための金属メタルが貼り付けられ摺動内周面18bを構成している。該摺動内周面18bと内周面回転体17の筒部17bとの間には円環状空間22が形成され、該円環状空間22には一対のくさび20が収容されている。該くさび20はいずれも略円弧形状であり、半径方向の幅寸法が大きい基端部と小さい先端部とを有し、基端部どうしが相互に対向するように配置されている。
【0034】
図1,図4,図7に示すように、接続シャフト13の下方の端面の軸芯位置には、前記のようにセンタリング軸部13bが突出形成されており、該センタリング軸部13bは、前記内周面回転体17の筒部17bに回転自在に挿通されている。そして、接続シャフト13の下方の端面の偏心した位置に、下方へ突出させて駆動ピン23が設けられている。即ち、前記下部の軸端部材13cには凹部13fが形成され、該凹部13fへ向かって軸端部材13cを貫通させた駆動ピン23の上端をかしめることにより、駆動ピン23が固定されている。該駆動ピン23の先端部は一対のくさび20の基端部どうしの間に介在しており、該駆動ピン23と夫々のくさび20の基端部との間には、一対のくさび20を相互に離反する方向へ付勢するロック用付勢手段としての板ばね21が夫々設けられている。夫々の板ばね21は、断面形状が「く」の字形状に形成されている。
【0035】
また、上方の接続シャフト13の下端であって円周方向での前記駆動ピン23とは相互に反対方向へ同じ角度だけ離れた2位置には、接続シャフト13の下端面から軸方向の下方へ向かって進退可能に一対のロック解除ピン28が設けられている。この一対のロック解除ピン28は、前記板ばね21の付勢力に抗して前記一対のくさび20を相互に接近する方向へ押圧するためのものである。
【0036】
この一対のロック解除ピン28を接続シャフト13の端面から下方へ向かって進退させるための機構について説明する。図4に示すように、接続シャフト13を構成する下部の軸端部材13cに形成された凹部13fと、上部の軸端部材13dに形成された凹部13hとにより収容空間が形成され、該収容空間には、一対のロック解除ピン28を下方へ進退させる電磁ソレノイド16が収容されている。電磁ソレノイド16を構成する可動鉄心16aの上端には、可動鉄心16aに対して直角な略円形の円板19が結合され、図7(b)に示すように該円板19の偏心した位置の2箇所に孔が形成され、該孔に前記ロック解除ピン28の上端が挿通され、いずれも2つのナット27によりその長さが調整できるようになっている。該ロック解除ピン28の先端にはテーパ部28aを介して小径部28bが形成される一方、軸端部材13cにはテーパ孔13gが形成され、ロック解除ピン28の突出時にテーパ部28aがテーパ孔13gに隙間なく嵌合する。つまり、ロック解除ピン28が最下位置へ到着する前はロック解除ピン28とテーパ孔13gとの間に隙間があって遊びがあるが、最下位置へ到着すると、テーパ部28aがテーパ孔13gに隙間なく嵌合するため、一対のくさび20を相互に接近する方向へ押圧することになる。可動鉄心16aの下端は前記センタリング軸部13bの内部に形成した孔13aの内部に挿通されており、該孔13aには、可動鉄心16aが下方へ向かって吸引されていないときには可動鉄心16aを上方へ向かって付勢するための後退用付勢手段としての後退用ばね25が設けられている。
【0037】
次に、駆動ピン23と前記一対のロック解除ピン28との関係を説明する。接続シャフト13から下方へ突出する駆動ピン23が、円環状空間22内の一対のくさび20の基端部どうしの間に介装されていることにより、一対のくさび20の先端部と一対のロック解除ピン28との円周方向での相対的な位置が固定されており、従って上方の接続シャフト13が回転していても、該接続シャフト13から突出する一対のロック解除ピン28の位置は、常に一対のくさび20の先端部の位置となる。
【0038】
次に、車両用操舵装置の作用を説明する。
【0039】
この発明によれば、通常の使用状態であるステアバイワイヤモードでは、ステアリングホィール2の回転数が検出され、該検出による検出値と対応した量だけ操舵アクチュエータ6dが駆動し、該操舵アクチュエータ6dの駆動によりラック6cが車体左右方向へ往復移動し、該ラック6cにより車輪が操舵される。このとき、図1,図4に示すように、電磁クラッチ8のロック解除ピン28は夫々のくさび20の先端部へ向かって突出しているため、一対のくさび20は板ばね21の付勢力に抗して相互に接近する方向へ押圧されロック解除状態を保持しており、該ロック解除状態の一対のくさび20は駆動ピン23により回転駆動されて内周面形成部材17と外周面形成部材18との間で空回りする。従って、駆動ピン23の設けられた接続シャフト13から内周面形成部材17の設けられた出力プーリ15へ回転が伝わらず、電磁クラッチ8は切り離し状態となる。
【0040】
一方、車両電装系の異常やステアバイワイヤシステムの異常等によってステアバイワイヤモードが正常に実行できず、異常であるとステアバイワイヤ制御部9が判断した場合には、電磁ソレノイド16への通電が止められる。すると、可動鉄心16aへの吸引力が作用しなくなり、後退用ばね25の付勢力が可動鉄心16aに作用して可動鉄心16aおよび円板19と共にロック解除ピン28が軸方向の上方へ向かって後退するので、図2,図5のようになる。ロック解除ピン28が後退すると、板ばね21が一対のくさび20を離反する方向へ付勢するので、楔効果により一対のくさび20と内周面形成部材17と外周面形成部材18とが相対回転できないロック状態となり、ロック状態の内周面形成部材17が駆動ピン23により回転駆動される。従って、駆動ピン23の設けられた接続シャフト13から内周面形成部材17の設けられた出力プーリ15へ回転が伝わり、電磁クラッチ8は接続状態となる。この電磁クラッチ8の接続により、ステアリングホィール2とピニオン軸6aとが機械的に直結されて直結モードとなり、直結モードにより操舵アクチュエータ6dを介することなく、ステアリングホィール2からピニオン軸6aが直接に回転駆動され、ピニオン軸6aの回転運動がラック6cの往復運動に変換され、車輪10が操舵される。
【0041】
この発明によれば、内周面回転体17と外周面回転体18とが転がり接触し該接触部で回転を伝達する構成にしたので、歯車加工を要しない分だけ製造コストが安い。また、歯車どうしの噛み合い接触の場合は噛み合いが外れる際に引っ掛かりが生じないように精度が要求されるが、転がり接触なので精度が要求されない。更に、噛み合い接触の場合は精度が要求されるため内歯車と外歯車との偏心量の大きさが制限されるが、内周面回転体17と外周面回転体18との場合は精度が要求されないため、偏心量の大きさが制限されることはなく、偏心量を小さくしてくさび20の角度を小さくすることにより伝達トルクを大きくすることもでき、設計の自由度が高い。
【0042】
この発明によれば、板ばね21を駆動ピン23と夫々のくさび20の基端部との間に設けたので、駆動ピン23が一対のくさび20を回転駆動する際に駆動ピン23とくさび20との間に隙間が生じても駆動ピン23が隙間分だけ空転することなくトルク(反力)が発生する。そのため、駆動ピン23とくさび20との間の隙間がステアリングホィールの遊びとして感じられることはなく、ず、駆動ピン23と一対のくさび20とが一体となって回転し、ステアリングホィール2の操作フィーリングが良い。
【0043】
この発明によれば、ステアバイワイヤモード時は電磁ソレノイド16に通電されているため、一対のロック解除ピン28は電磁ソレノイド16に吸引されて夫々のくさび20の先端部へ向かって突出しており、一対のくさび20は相互に接近する方向へ押圧されてロック解除状態を保持して空回りし、電磁クラッチ8は切り離し状態となる。一方、異常が生じて電磁ソレノイド16に通電されなくなると、後退用ばね25の付勢力により一対のロック解除ピン28が後退して一対のくさび20への押圧が解除されるため、板ばね21が一対のくさび20を離反する方向へ付勢し、楔効果によりロック状態となった内周面形成部材17が駆動ピン23により回転駆動され、電磁クラッチ8は接続状態となる。
(b)実施の形態2
次に、実施の形態2について説明する。
【0044】
この実施の形態は、実施の形態1の一部を変更したものなので、同一部分の説明を省略し異なる部分のみを説明する。
【0045】
実施の形態1における図1(b)と対応する部分の図面を図8に示す。実施の形態1では、図1(a)に示すように内周面形成体としての内周面回転体17と外周面形成体としての外周面回転体18とを設け、内周面回転体17の内周面17aを外周面回転体18が転がるように構成したものであるが、実施の形態2では図8に示すように内周面形成体としての内歯歯車17pと外周面形成体としての外歯歯車18pとを設け、内歯歯車17pの内歯17qと外歯歯車18pの外歯18qとが噛み合いながら外歯歯車18pが内歯歯車17pの内部を転がるように構成したものである。外歯18qの歯数が内歯17qの歯数よりも1または2だけ少なく構成されている。
【0046】
その他の構成作用は実施の形態1と同じなので、説明を省略する。
【0047】
この発明によれば、内歯歯車17pと外歯歯車18pとの噛み合いによって外歯歯車18pが内歯歯車17pの内部を転動するので、内歯歯車17pと外歯歯車18pとの間に滑りが生じることによる電磁クラッチ8の接続シャフト13と出力プーリ15との間の滑りが回避される。
【0048】
なお、実施の形態1,2ではクラッチを構成する出力軸の端面に内周面回転体あるいは内歯歯車を結合し、入力軸の端面に駆動ピンを突出形成したが、出力軸と入力軸とを逆にしてもよい。また、操舵アクチュエータの回転運動を操舵機構によりラックの往復運動に変換したが、操舵アクチュエータの回転運動を操舵機構を介することなく直接にラックの往復運動に変換する構成を採用してもよい。更に、ロック用付勢手段は、駆動ピンと夫々のくさびの基端部との間に設けたが、駆動ピンを介在させることなく、夫々のくさびの間に設けるようにしてもよい。また更に、ロック解除ピンを駆動するのに、異常時に通電が停止する電磁ソレノイドと後退用ばねを用いたが、その他の構成を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ロック解除状態の連結機構に係り、(a)は断面図、(b)は(a)のA−A矢視図(実施の形態1)。
【図2】ロック状態の連結機構に係り、(a)は断面図、(b)は(a)のB−B矢視図(実施の形態1)。
【図3】車両用操舵装置の全体構成を示す構成図(実施の形態1)。
【図4】切り離し状態の電磁クラッチの断面図(実施の形態1)。
【図5】接続状態の電磁クラッチの断面図(実施の形態1)。
【図6】電磁クラッチの斜視図(実施の形態1)。
【図7】電磁クラッチの要部に係り、(a)は正面断面図、(b)は平面図(実施の形態1)。
【図8】電磁クラッチの要部を示す平面図(実施の形態2)。
【符号の説明】
【0050】
1…車両用操舵装置
2…ステアリングホィール
6…車輪角度変換機構(操舵機構)
6a…ピニオン軸
6c…ラック
6d…操舵アクチュエータ
8…電磁クラッチ(クラッチ)
10…車輪
13…接続シャフト(入力軸)
15…出力プーリ(出力軸)
16…電磁ソレノイド
17…内周面回転体(内周面形成部材)
17a…内周面
17b…筒部
17p…内歯歯車(内周面形成部材)
17q…内歯
18…外周面回転体(外周面形成部材)
18a…外周面
18b…摺動内周面(円形孔)
18p…外歯歯車(外周面形成部材)
18q…外歯
20…くさび
21…板ばね(ロック用付勢手段)
22…円環状空間
23…駆動ピン
25…後退用ばね(後退用付勢手段)
28…ロック解除ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホィールの回転数を検出して得た検出値と対応した量だけ駆動する操舵アクチュエータを設け、該操舵アクチュエータを車体左右方向へ往復移動自在なラックに連結し、該ラックの両端を車輪に連結する一方、前記ステアリングホィールに機械的な連結と切り離しとを行うクラッチを介してピニオン軸を連結し、該ピニオン軸に設けたピニオンを前記ラックに噛合させ、
前記クラッチには、端面どうしが対向配置され前記ステアリングホィールに連結された入力軸または前記ピニオン軸に連結された出力軸とのいずれか一方の端面に結合された内周面形成部材と、該内周面形成部材の内周面を転動する外周面を有する外周面形成部材と、前記内周面形成部材の中心部に一体に設けられた筒部と前記外周面形成部材の中心部に形成された円形孔との間に形成された円環状空間と、該円環状空間に設けられ幅広の基端部どうしが対向配置された一対のくさびと、前記一対のくさびの基端部どうしの間に介在し前記入力軸または前記出力軸の他方の端面に突出形成された駆動ピンと、前記一対のくさびを相互に離反する方向へ付勢してロックするロック用付勢手段と、前記入力軸または前記出力軸の他方の端面から前記夫々のくさびの先端部へ進退可能に設けられ前記ロック用付勢手段の付勢力に抗して前記一対のくさびを相互に接近する方向へ押圧してロック解除する一対のロック解除ピンと、を設けたことを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用操舵装置において、
前記内周面形成部材と前記外周面形成部材とが、前記内周面に対して前記外周面が転がり接触する内周面回転体と外周面回転体とであることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用操舵装置において、
前記内周面形成部材と前記外周面形成部材とが、前記内周面に対して前記外周面が噛み合い接触する内歯歯車と外歯歯車とであることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の車両用操舵装置において、
前記ロック用付勢手段は、前記駆動ピンと前記夫々のくさびの基端部との間に設けられていることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の車両用操舵装置において、
前記ロック解除ピンを後退する方向へ付勢する後退用付勢手段と、該後退用付勢手段の付勢力に抗して前記ロック解除ピンを突出させる電磁ソレノイドと、を設けたことを特徴とする車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−308054(P2008−308054A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158126(P2007−158126)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000237307)富士機工株式会社 (392)
【Fターム(参考)】