車両用測距装置
【課題】リフレクタが高い位置にある先行車も確実に認識するとともに、天候に関係なく実際には障害物とならない看板等の誤検出を防止する車両用測距装置を提供する。
【解決手段】レーザレーダ装置(車両用測距装置)は、レーザ光を2次元スキャンするスキャナ13と、制御回路11とを備えている。制御回路11は、スキャンにより得られた受光データから、検出した物体が所定条件を満たしていれば看板候補オブジェクトとして距離値を登録する。この距離値を自車速に基づいて時間継続的に更新する。制御回路11は、遠方に存在し、所定幅以上の物体について看板と判定する。また、近傍に存在する物体については上記看板候補オブジェクトの距離値と比較し、これと略一致し、かつ下方向に検知していなければ看板と判定する。
【解決手段】レーザレーダ装置(車両用測距装置)は、レーザ光を2次元スキャンするスキャナ13と、制御回路11とを備えている。制御回路11は、スキャンにより得られた受光データから、検出した物体が所定条件を満たしていれば看板候補オブジェクトとして距離値を登録する。この距離値を自車速に基づいて時間継続的に更新する。制御回路11は、遠方に存在し、所定幅以上の物体について看板と判定する。また、近傍に存在する物体については上記看板候補オブジェクトの距離値と比較し、これと略一致し、かつ下方向に検知していなければ看板と判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光等の電磁波をスキャンすることにより、前方に存在する物体までの距離を測定する車両用測距装置に関し、特に、当該物体が走行車線上の頭上に存在する看板であるかを判定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の前方をレーザ光等で照射して、物体が車両であるかどうか、および物体までの距離を測定する車両用測距装置が有る。この車両用測距装置を用いて、先行車との距離を測定し、車間距離を一定に保つ定車間距離追従走行(ACC:Adaptive Cruise Control)が行われている。また、この車間距離が安全な距離以下になると運転者に警告音を発する、シートベルトを締める、制動を行う、といった安全制御が行われている。
【0003】
上記のような制御を行うためには、物体が車両であるかどうかを正確に検知し、物体までの距離を正確に測定することが重要となる。そのためには、レーザ光等が確実に先行車に照射される必要がある。そこで、自車線上方に存在する看板の検出頻度から上下軸のずれを検出する装置が提案されている(特許文献1参照)。また、看板の認識が不能となる直前の距離に基づいて上下軸(光軸)のずれを検出する装置も提案されている(特許文献2参照)。これらの装置により、上下軸のずれ量が所定の範囲より大きいと判定された場合、上記安全制御の作動をキャンセルする。このようにして、確実に物体までの距離を測定できるようにしている。
【0004】
また、第1の検知エリアにおいて、先行車に接近していると判定され、かつ先行車が検知されなくなった場合、第1の検知エリアよりも上方のエリアを含む第2の検知エリアに切換えるとともに、第2の検知エリアの最大検知距離を、切換え前の先行車までの距離に基づいて設定する先行車認識装置が提案されている(特許文献3参照)。これによれば、先行車を見失う(ロストする)ことがなく、また、自車線上方の看板等の誤検出を低減する効果が得られる。
【特許文献1】特開2002−202360号公報
【特許文献2】特開2003−43147号公報
【特許文献3】特開2000−315299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、および特許文献2の従来の装置では、自車線上方に存在する看板を正確に検出する手法は開示されておらず、例えば上方向に高い位置にリフレクタが配置された車両と、自車線上方の看板とを誤検出する可能性が有った。自車線上方の看板を地上に存在する停止物(障害物)として誤検出すると、実際には接触するおそれの無い看板であっても、安全制御が働き、不要な制動等を行うおそれがある。
【0006】
特許文献3の装置では、リフレクタが高い位置に設置されている先行車をロストした場合に検知エリアを上方向にシフトするので、先行車をロストすることがなく、また、シフト後の最大検知距離を切換え前の先行車までの距離に基づいて設定するので、看板等の誤検出を低減することができる。しかし、そもそも遠方から看板を誤検出していた場合は、これを誤検出し続けるという問題が有った。図12〜図14は、このような状況が発生することを説明するための図である。
【0007】
図12は、自車1の前部に設けたレーザレーダ2からレーザ光3を前方に照射する様子を示している。同図(A)は、レーザ光3が先行車(トラック)5のリフレクタ6で反射せず、荷台の後下部(および路面4)で複雑に乱反射する様子を示している。この場合、先行車をロストした状態となる。特許文献3の装置では、このように先行車をロストした場合、同図(B)に示すように、検知エリアを上方向にシフトする。これにより先行車認識精度を向上させる。
【0008】
図13は、自動車前方に看板7が存在する場合の様子を示している。同図(A)に示すように、トラック5の上方には看板7が存在する。同図(A)においては、トラック5でレーザ光3が反射するとともに、トラック5によってレーザ光3が遮られるため、看板7にレーザ光3が照射されることはない。ここで、先行車が車線変更し、自車の前方に存在しなくなった場合(ロストではなく実際に自車の前方から存在しなくなった場合)、同図(B)に示すように、検知エリアを上方向にシフトするが、このときに最大検知距離を先行車をロストした時点の距離に基づいて決定する。したがって、レーザ光3は看板7に反射されるが、最大検知距離を超えているので誤検出することは無い。
【0009】
しかし、図14(A)に示すように、遠方で看板7を先行車等として誤検出していた場合、これをロストすると、同図(B)に示すように、検知エリアを上方にシフトするため、また、最大検知距離よりも近い位置に看板7が存在するために、誤検出し続けてしまう。
【0010】
さらに、同図(C)に示すように、雨天時においては、自動車に付着する雨滴の影響によりレーザ光が拡散し、通常は照射しない上方にまでレーザ光が照射されてしまうという問題が有った。この場合、自車の近距離においても上方の看板にレーザ光が照射され、誤検出する可能性が高くなっていた。
【0011】
本発明は、リフレクタが高い位置にある先行車も確実に認識するとともに、天候に関係なく、実際には障害物とならない頭上看板等の誤検出を防止する車両用測距装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の車両用測距装置は、電磁波を水平方向及び鉛直方向にスキャンさせ、受信した反射波に基づいて前方の物体を検出するとともに、当該物体の距離と方向を測定するレーダスキャン部と、検出した物体の距離、およびその検出の方向の角度範囲からその物体の幅を推定する幅判定手段と、前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上であり、かつ該物体の幅が所定の幅以上である第1の条件を満たした場合に、当該物体を頭上看板として判定する看板判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
この発明では、検出した各物体の距離と方向をメモリに記録しておく。車両用測距装置の制御回路は、このメモリに記録された距離値、方向値から各物体の移動速度(対地速度)と移動方向(移動ベクトル)を求めることができ、同じ移動ベクトルを有する検出物を同一物体として判断することで、物体の大きさ(幅)を算出することができる。さらに制御回路は、検出した物体について、静止物体であり、距離値が所定値以上(例えば70m)であり、かつメモリに記録された幅の値を参照した結果、所定の幅(例えば3m)以上である値が存在すれば、その物体を頭上看板として判定する。
【0014】
また、本発明の車両用測距装置は、さらに、電磁波を水平方向及び鉛直方向にスキャンさせ、受信した反射波に基づいて前方の物体を検出するとともに、当該物体の距離と方向を測定するレーダスキャン部と、検出した物体の距離、およびその検出の方向の角度範囲からその物体の幅を推定する幅判定手段と、前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上であり、かつ鉛直方向で最上のスキャン、またはその近辺のスキャンにより検出された物体を頭上看板として判定する看板判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
この発明では、制御回路は、検出した物体について、静止物体であり、距離値が所定値以上(例えば70m)であり、さらに、鉛直方向のスキャンのうち最上のスキャン(上、中、下の3段階であれば上スキャン)またはその近辺のスキャンにおいて検出された場合に、その物体を頭上看板として判定する。
【0016】
また、本発明の車両用測距装置は、電磁波を水平方向及び鉛直方向にスキャンさせ、受信した反射波に基づいて前方の物体を検出するとともに、当該物体の距離と方向を測定するレーダスキャン部と、検出した物体の距離、およびその検出の方向の角度範囲からその物体の幅を推定する幅判定手段と、前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上であり、かつ該物体の幅が所定の幅以上である物体、または鉛直方向で最上のスキャンまたはその近辺のスキャンで、検出された物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上である物体、を看板候補物体として該物体の距離値とともに記録する記録手段と、自車の速度を検出する自車速度検出手段と、前記記録手段に記録されている看板候補物体の距離値を、前記自車の速度に基づいた推定値に更新する更新手段と、前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第2の所定値未満であり、かつ該物体の距離値が前記推定値と略同一である第2の条件を満たした場合に、当該物体を頭上看板として判定することを特徴とする。
【0017】
この発明では、制御回路は、検出した物体について、静止物体であり、距離値が所定値以上(例えば70m)であり、メモリに記録された幅の値を参照した結果、所定の幅(例えば3m)以上である値が存在した場合、その物体を看板候補リストに登録する。また、上スキャンにおいて検出された場合、所定の幅(例えば3m)未満であってもその物体を看板候補リストに登録する。さらに、制御回路は、登録した物体について、自車の車速からその存在位置を推定更新する。制御回路は、物体を検出したとき、静止物体であり、距離値が所定値未満(例えば50m)であり、かつ当該物体の距離値が看板候補リストの推定値と略同一(例えば1フレーム時間に移動する自車の距離値程度の差以内)であれば、その物体を頭上看板として判定する。
【0018】
また、本発明の車両用測距装置は、さらに、前記看板判定手段は、前記第2の条件を満たした物体のうち、鉛直方向で最下のスキャンまたはその近辺のスキャンで検出された場合に、該物体を頭上看板として判定しないことを特徴とする。
【0019】
この発明では、制御回路は、物体を検出したとき、静止物体であり、距離値が所定値未満(例えば50m)であり、当該物体の距離値が看板候補リストの推定値と略同一であっとしても、下スキャンにおいて検出された場合に、その物体を頭上看板として判定しない。
【0020】
また、本発明の車両用測距装置は、さらに、自車前方の道路形状を推定する道路形状推定手段を備え、前記看板判定手段は、前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、前記第2の条件を満たした場合に加えて、前記道路形状推定手段が自車前方の道路形状を直線形状、または所定半径以上のカーブ形状であると推定した場合に、当該物体を頭上看板として判定することを特徴とする。
【0021】
この発明では、前方の道路形状を推定する。前方の道路形状は、例えばヨーレート、ハンドルの舵角等から推定すればよい。自車が直線道路を走行しているか、カーブを走行しているかを検出し、カーブを走行していればその道路半径を算出する。制御回路は、上述の諸条件に加え、自車が直線道路を走行している、または所定半径(例えば300m)以上のカーブを走行していると判断した場合にその物体を頭上看板として判定する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、静止物体であり、距離値が所定値以上(例えば70m)であり、所定の幅(例えば3m)以上である場合に、その物体を頭上看板であると判定するので、リフレクタが高い位置にある先行車も確実に認識するとともに、看板の誤検出を防止することができる。また、物体を検出したときに看板候補として記録しておき、近傍距離において看板であるか否かの判断時に、当該物体の距離値と看板候補記録時の距離値から推定される推定距離値とを比較して略一致した場合に頭上看板であると判定するので、雨天時のようにビームが拡散したとしても、誤検出を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は、本発明の実施形態であるレーザレーダ装置(車両用測距装置)のブロック図である。
LD(Laser Diode)駆動回路10は、制御回路11で生成された駆動信号に基づいて、LD12の発光を制御する。スキャナ13は、制御回路11の制御に基づいて、LD12により発生されたレーザ光を所定のスキャン範囲でスキャンさせる。スキャナ13より出射されたレーザ光は、投光レンズを介して自車1の走行方向(前方)に出射される。鉛直走査位置検出装置14と水平走査位置検出装置15は、スキャナ13におけるレーザ光の水平方向と鉛直方向のスキャン(走査)位置をそれぞれ検出して、制御回路11に出力する。
【0024】
LD12が出射したレーザ光が、検出対象としての前方の物体(例えば、車両や路面)に反射して戻ってきた反射光は、受光レンズにより集光され、PD(Photo Diode)16によって受光され、その受光レベルに対応する信号が受光回路17に出力される。受光回路17は、入力された反射光の信号レベルを数値化して、制御回路11に出力する。制御回路11は、入力された数値(受光レベル)を、鉛直走査位置検出装置14と水平走査位置検出装置15から入力されたスキャン位置に対応してメモリ18に記億する。メモリ18には、その他、検出した物体が上方に存在する看板(以下、頭上看板と言う)であることを認識したときに、その物体が頭上看板であることを確定させるための頭上看板判定フラグが割り当てられる。また、頭上看板であることを認識するために用いる各物体の距離や幅等の数値、および認識処理を行う手順を定めたプログラムが記録される。
【0025】
制御回路11には、車速センサ19、ジャイロ20が接続され、車速センサ19は、自車の車速を検出し、ジャイロ20は、自車のヨーレート(水平方向への旋回時の回頭速度)を検出するために使用される。
【0026】
制御回路11は、メモリ18に記憶された受光レベルに基づいて、光軸(スキャン範囲の鉛直方向の中心位置)を補正するとともに、レーザ光を出射してからその反射光を受光するまでの時間に基づいて、物体と自車との距離を測定する。また、制御回路11は、物体との距離の検出を時間継続的に複数回繰り返すことで、その物体の移動速度と移動方向(移動ベクトル)を求めることができ、同じ移動ベクトルを有する検出物を同一物体として判断することで、物体の大きさ(幅)を算出することができる。制御回路11は、これらの物体の情報から、検出した物体が頭上看板であるかどうか、先行車であるかどうかの判定を行う。なお、先行車とは、自車が走行している車線前方を走行する直前の車両(1台)を意味する。
【0027】
スキャナ13の投光レンズと受光レンズを支持する部分の構成を図2に示す。
制御回路11からの制御信号が、駆動回路30に入力される。駆動回路30は、入力された制御信号に基づき、水平方向駆動用コイル31と鉛直方向駆動用コイル32に駆動電流を供給する。水平方向駆動用コイル31と鉛直方向用コイル32は、投光レンズ35と受光レンズ36を一体的に支持する支持部材(図示せず)を、それぞれ、水平方向または鉛直方向に移動させる。支持部材は、水平方向板バネ33と鉛直方向板バネ34により、それぞれ水平方向または鉛直方向に移動自在に支持されている。従って、支持部材(投光レンズ35と受光レンズ36)は、駆動電流により水平方向駆動用コイル31に発生した力と水平方向板バネ33に発生する反力がつりあう水平方向の位置に移動して、静止するとともに、鉛直方向駆動用コイル32に発生した力と鉛直方向板バネ34に発生する反力および重力がつりあう位置に移動して、静止する。なお、各レンズの位置は図示していないセンサにより検出し、このセンサ出力を駆動回路30に入力することでサーボ機構を構成している。
【0028】
このようにして、投光レンズ35と受光レンズ36は、水平方向と鉛直方向の両方向の所定の位置に移動することができる。
【0029】
スキャナ13によって駆動された、投光レンズ35と受光レンズ36の光路を図3に示す。投光レンズ35は、LD12の前面に設けられ、受光レンズ36は、PD16の前面に設けられている。
【0030】
LD12から出射されたレーザ光は、投光レンズ35の中心方向に偏光される。投光レンズ35の位置が中心にある場合は、図3の実線で示されるような光路で、レーザ光は正面に出射される。出射されたレーザ光は、前方の物体(例えば、車両)で反射され、図3の実線で示されるような光路で、受光レンズ36に入射し、PD16によって受光される。
【0031】
また、スキャナ13によって、図中、上方向に投光レンズ35が移動した場合、レーザ光は、図3の点線で示されるような光路で、図中、上方向に出射される。そして、出射されたレーザ光は、図中、上方向の物体で反射され、図3の点線で示されるような光路で、受光レンズ36に入射し、PD16によって受光される。
【0032】
このようにして、スキャナ13は、投光レンズ35と受光レンズ36を一体的に水平方向の所定の位置に移動することで、レーザ光を水平方向にスキャンする。また、同様に、スキャナ13は、投光レンズ35と受光レンズ36を一体的に鉛直方向に移動することで、レーザ光を鉛直方向にスキャンをする。
【0033】
図4は、水平方向と鉛直方向のスキャンについて説明する図である。
本装置において、計測処理1フレームにおけるスキャンの鉛直方向位置は、上、中、下の3段階に設定され、それぞれ、スキャン(上)、スキャン(中)、スキャン(下)となる。各スキャン時間は、本装置では例えば50msecに設定されている。各スキャンの走査範囲(レーザ光の上下広がり角度範囲)は、それぞれ一部重複し、走査範囲に漏れが無いようになっている。例えば、スキャン(中)を地面に略水平方向とすると、スキャン(上)は、スキャン(中)よりも上方向に2度、スキャン(下)は、スキャン(中)よりも下方向に2度に設定される。
【0034】
これらの3つのスキャンで1フレームを構成し、各フレームで実行される計測データ処理には、頭上看板判定処理、先行車判定処理が含まれる。頭上看板判定処理では、物体が頭上看板か否かを判定し、頭上看板として認識されると、その物体に対して頭上看板判定フラグをセットし、それ以降、当該物体については頭上看板として確定認識する。また、先行車判定処理においては、看板判定されていない物体の中から先行車がどれかを判定する。物体の種類(頭上看板、先行車等)を認識した場合、この情報を、物体の距離、方向の情報とともに後段に接続される車両制御装置(図示せず)に送信する。車両制御装置においては、先行車と車間距離を一定に保つACCや、この車間距離が安全な距離以下になると運転者に警告音を発する、シートベルトを締める、制動を行う、といった安全制御が行われる。
【0035】
なお、この例では、各スキャンの鉛直方向は、上、中、下の3段階に設定されているが、上、中の2段階や中、下の2段階で1フレームを構成するようにしてもよい。また、上記例では、同一の方向(左方向へのスキャン)にそれぞれスキャンする場合について説明したが、反対方向のスキャンを含めてもよい。例えば、左方向スキャン(中)→右方向スキャン(下)→左方向スキャン(中)→右方向スキャン(上)→左方向スキャン(中)→右方向スキャン(下)→・・・・と繰り返すことにより、水平方向と鉛直方向のスキャン(2次元スキャン)を連続して行うようにすればよい。
【0036】
以下、計測データの具体的な手順につき、図5〜図11を参照して詳細に説明する。
図5は、計測データ処理の全体手順を示す図である。
任意のフレームにおいて得られた計測データがメモリ18に取り込まれると、制御回路11は、ST1において、まずジャイロ20により検出した自車のヨーレートにより前方道路形状の推定処理を行う。すなわち、自車が直線道路を走行しているか、カーブを走行しているかを検出し、カーブを走行していればその道路半径を算出する。なお、前方道路形状は、ヨーレートに基づく推定に限るものではない。例えば、ハンドルの舵角によっても推定することができる。また、GPSとナビゲーションとの組み合わせによって推定することも可能であり、さらに、前方を撮影するカメラと、撮影した画像内容から道路に表示されている白線を検出する画像処理装置と、の組み合わせによっても推定することができる。ヨーレート、またはハンドルの舵角に基づいて推定する場合、自車が走行している時点で前方道路形状を推定する。GPSとナビゲーション、またはカメラと画像処理装置を用いて推定する場合、前方の道路形状をさらに正確に推定することができる。
【0037】
次に、制御回路11は、ST2において頭上看板判定フラグをオフし、所謂初期化処理を行う。
制御回路11は、ST3において、登録済みである看板候補リストのデータ更新処理を行う。看板候補リストとは、検出した各物体のうち、頭上看板の可能性を有する物体について、メモリ18にその距離を記録したものである。図6に看板候補リストの例を示す。同図に示すように、看板候補リストは、リスト要素番号、登録距離、下方向検知フラグの3つの項目からなり、頭上看板の可能性があると判断した物体(ST5の処理で詳細に説明する)について、看板候補オブジェクトとしてそれぞれ番号を付し、そのときの距離を登録距離として記載する。下方向検知フラグについては後述する。
【0038】
次に、制御回路11は、ST4〜ST8において、検出した各物体が頭上看板であるか否かの判定処理を行う。全ての検出物体に対する処理を終えると、ST9の先行車判定処理に進み、当該フレームにより得られた計測データに対する処理を終える。
【0039】
頭上看板判定処理のうち、ST4においては、検出した物体が停止物であるか否かを判断する。停止物であるか否かの判断は、前回のフレームにおいて検出していた同じ物体との距離差を算出し、前回からの経過時間から検出物体との相対速度を求め、当該物体が自車速度と同じ速度で近づいていれば停止物として判断する。
ST5においては、看板候補リストの新規登録処理を行う。上記のように、看板候補リストは、検出した物体のうち、頭上看板の可能性を有する物体について、その距離を記録したものである。既に登録済みの物体であればこの処理は行わない。詳細は図8を用いて後述する。
【0040】
ST6において、頭上看板判定(遠方)処理を行う。この処理においては、自車からの距離が所定距離(例えば70m)以上離れている物体について、当該物体が頭上看板であるか否かを判定する。
ST7において、頭上看板判定(近傍)処理を行う。この処理においては、自車からの距離が所定距離(例えば50m)よりも接近している物体について、当該物体が頭上看板であるか否かを判定する。
ST8では、検出している全ての物体についてST4〜ST7の処理を行ったか否かを判断する。
【0041】
以下、各処理(ST3、ST5、ST6、ST7、およびST9)について詳細に説明する。
図7は、登録済み看板候補リストデータ更新処理の手順を示している。この処理は、看板候補リストに記載されている、過去に登録した内容を更新する処理であり、物体の検出有無とは関係なく行われる。すなわち、新たな物体を検出していない場合、物体をロストした場合等であってもこの処理は行われる。
まず、看板候補リストに記載されている登録距離の値を更新する(s11)。この更新値は、(更新後距離値)=(更新前距離値)−(1フレームの間に自車が進んだ距離)の式で算出される値である。すなわち、1フレーム前の距離値から自車の進んだ距離を差し引くことで、当該物体(看板候補オブジェクト)の現在の位置を推定する。自車の進んだ距離は、車速センサ19が検出した車速から算出する。
【0042】
次に、この更新後距離値が0よりも小さくなっているか否かを判断する(s12)。距離値が0よりも小さくなっていれば、当該物体が既に自車を通過して後方に位置すると判断し、看板候補リストから消去する(s13)。更新後距離値が0以上であれば、更新後距離値と自車走行車線に相当する領域内の検出物体の下方向検出距離値が近いか(略一致するか)否かを判断する(s14)。すなわち、更新後距離値と車線中心付近の下方向検出距離値との差が所定値(例えば自車速×1フレーム分の時間)以下であるか否かを判断する。ここで、車線中心付近とは、ST1で算出した前方道路形状から推定される自車走行車線に相当する方向を示す。また、車線中心付近の下方向検出距離値とは、図4で示したスキャン(下)において、車線中心付近で検出した物体の距離値を示す。この判断は全ての検出物体について行う。なお、車線中心付近でなくともスキャン(下)で検出した物体の距離値と更新後距離値とを比較するようにしてもよい。
【0043】
更新後距離値と車線中心付近の各物体の下方向検出距離値との差が所定値よりも大きい場合、すなわち各登録済みの看板候補オブジェクトの登録距離値(更新後距離値)において、スキャン(下)で中心付近に物体を検出していない場合、その看板候補オブジェクトの下方向検知フラグをオフにする(s15)。更新後距離値と車線中心付近の各物体の下方向検出距離値との差が所定値以下であれば下方向検知フラグをオンにする(s16)。詳細は後述するが、看板判定処理時に、下方向検知フラグがオフであれば、そのオブジェクトは頭上看板と判定され、下方向検知フラグがオンであれば、地上に存在する自車走行を妨げる障害物(または先行車)として判定する。また、車線中心付近以外の検出物体は、自車の走行を妨げる可能性は極めて低いため、車線中心付近の各物体について判断するものである。
【0044】
以上のs11〜s16の処理を全ての登録済みオブジェクトについて行ったか否かを判断し(s17)、ST3の登録済み看板候補リストデータ更新処理の手順を終え、図5の計測データ処理にリターンする。
【0045】
次に、ST5の看板候補リスト新規登録処理手順について図8を用いて説明する。この手順は、検出した各物体がST4において停止物であると判断した場合に実行する。まず、制御回路11は、s21において、検出した物体の距離値が70m以上であるか否かを判断する。70m未満であれば看板候補リストに新規登録せず、図5の計測データ処理にリターンする。なお、ここではs21の処理で、判断基準として70mを記載しているが、これは一例であり、本発明を限定するものではない。実際の使用条件に応じて数値調整すればよい。
【0046】
s21で物体の距離値が70m以上として判断した場合、制御回路11は、メモリ18を読み出して、過去の検出時にその物体の最大幅が3m以上として検出されたか否かを判断する(s22)。3m以上の幅が過去に検出されていれば、この物体は頭上看板である可能性が有るため、看板候補リストに登録し、その距離値を登録する(s23)。ただし、看板候補リストに既に同じ距離値が登録済みであれば、追加して登録はしない。なお、s22の判断値についても3mは一例であり、これに限定するものではない。
【0047】
s22において、過去の検出時にその物体の最大幅が3m以上として検出されていなければ、その物体が車線中心付近で検出されているか否かを判断する(s24)。また、その物体が車線中心付近のスキャン(上)において検出されたか否かを判断する(s25)。車線中心付近で検出されていない、または車線中心付近のスキャン(上)で検出されていなければ、看板候補リストに登録せず、図5の計測データ処理にリターンする。車線中心付近で検出され、かつスキャン(上)で検出されていれば頭上看板の可能性が有るとして、看板候補リストに登録する(s23)。なお、s24の処理を行わずに、スキャン(上)で検出されていれば頭上看板の可能性が有るとして、看板候補リストに登録するようにしてもよい。雨天時はビームが拡散して検出精度が低下するため、実際の物体幅よりも狭い幅で検出される可能性がある。したがって、物体の幅が3m未満であった場合であっても、スキャン(上)で検出されていれば頭上看板の可能性が有るとして看板候補リストに登録する。
【0048】
また、車線中心付近で検出される物体は、自車の走行車線上に存在する可能性が高いため、後段の車両制御装置で行われるACCや安全制御への影響が大きい。車線中心付近の頭上看板を先行車であると誤認識すると不要な安全制御が行われる可能性が有る。したがって、物体の幅が3m未満であっても、車線中心付近で検出される物体(かつスキャン上で検出される物体)は看板候補リストに登録しておくことが望ましい。無論、車線中心以外、前方全領域において看板判定をすることが望ましいが、特に重要な車線中心付近においてのみ看板候補リストに登録することで、処理負担を低減することができる。
【0049】
以上の処理を終えると、図5の計測データ処理にリターンする。
【0050】
次に、ST6の頭上看板判定(遠方)処理の手順について図9を用いて説明する。まず、制御回路11は、s31において検出した物体の距離値が70m以上であるか否かを判断する。物体の距離値が70m以上でなければ、遠方の判定を行わずに図5の計測データ処理にリターンする。物体の距離値が70m以上であれば、制御回路11は、メモリ18を読み出して、過去の検出時にその物体の最大幅が3m以上として検出されたか否かを判断する(s32)。3m以上の幅が過去に検出されていれば、頭上看板であると判定して当該物体に頭上看板判定フラグを割り当てる(s33)。以後、この物体については頭上看板であると判断され、先行車として誤検出されることはない。3m以上の幅が過去に検出されていなければ、さらにその物体がスキャン(上)において検出されたか否かを判断する(s34)。3m以上の幅が過去に検出されておらず、スキャン(上)においても検出されなければ、この頭上看板判定(遠方)処理においては頭上看板でないと判断して、図5の計測データ処理にリターンする。スキャン(上)において検出された場合は、頭上看板であると判定して当該物体に頭上看板判定フラグを割り当てる(s33)。なお、s34の処理は必須ではなく、物体の幅が3m未満であれば頭上看板でないと判断するようにしてもよい。上述のように、雨天時は検出精度が低下するため、物体の幅が3m未満であった場合であっても、スキャン(上)で検出されていれば看板であると判定することが望ましい。なお、s31、s32の判断値についても一例を示したものであり、これらに限定するものではない。
【0051】
次に、ST7の頭上看板判定(近傍)処理の手順について図10を用いて説明する。まず、制御回路11は、s41において、検出した物体の距離値が50m未満であるか否かを判断する。物体の距離値が50m以上であれば、近傍の判定を行わずに図5の計測データ処理にリターンする。この距離値についても一例であり、限定するものではない。物体の距離値が50m未満であれば、制御回路11は、その物体が車線中心付近で検出されたものであるか否かを判断する(s42)。車線中心付近で検出されていなければ、図5の計測データ処理にリターンする。車線中心付近で検出されていれば、直線走行中または道路半径300mより緩いカーブを走行中であるか否かを判断する(s43)。道路半径300mより急なカーブを走行中であれば、図5の計測データ処理にリターンする。この判断においては、ST1において求めた前方道路形状の推定を用いる。なお、道路半径の基準値も300mは一例であり、これに限定するものではない。
【0052】
直線走行中または道路半径300mより緩いカーブを走行中であると判断した場合、制御回路11は、メモリ18に登録されている看板候補リストを読み出し、その物体の距離値に近い登録距離値を有する看板候補オブジェクトが存在するか否かを判断する(s44)。この判断は、その物体の距離値と看板候補リストに記載されている登録距離値との差が、例えば1フレーム分の自車移動距離値以下となる看板候補オブジェクトが存在するか否かで行われる。該当する看板候補オブジェクトが存在しなければ、図5の計測データ処理にリターンする。
【0053】
該当する看板候補オブジェクトが存在した場合、さらにその看板候補オブジェクトに下方向検知フラグがオフされているか否かを判断する(s45)。下方向検知フラグがオンされていれば、地上に存在する物体である可能性が有るため、頭上看板と判定せずに図5の計測データ処理にリターンする。下方向検知フラグがオフされていれば、頭上看板であると判定して、当該物体に頭上看板判定フラグを割り当てる(s46)。以後、この物体については頭上看板であると判断され、先行車や障害物として誤検出されることはない。
【0054】
以上のST4〜ST7の処理を全ての検出物体について繰り返し行い(図5のST8)、全ての物体について頭上看板判定処理を行う。ST8で全ての物体について処理を行ったと判断した場合、ST9の先行車判定処理を行う。ST9の先行車判定処理も検出した各物体について行われる。図11は、先行車判定処理の手順を示すフローチャートである。まず、制御回路11は、その物体について、頭上看板判定フラグが割り当てられているか否かを判断する(s51)。頭上看板判定フラグが割り当てられていなければ、さらに、その物体が推定した道路形状、すなわち自車の走行線内に存在しているか否かを判断する(s52)。この判断は、当該物体が上述した車線中心付近に検出されているか否かによって行われる。
【0055】
自車の走行線内に存在していると判断した場合、その物体を先行車候補リストに追加する(s53)。先行車候補リストは、上記頭上看板候補リストと同様に、各物体の距離値が記載されたものである。制御回路11は、このs51〜s53の処理を全検出物体について行われたか否かを判断する(s54)。また、s51で頭上看板判定フラグがオンされている、またはs52で自車走行車線内に存在しないと判断した場合は、先行車リスト登録を行わず、s54の判断を行う。全ての物体について処理が行われていなければs51から処理を繰り返す。全ての物体について処理が行われていると判断した場合は、先行車候補リストのうち、最も近距離に存在する物体を先行車として判定し(s55)、図5の計測データ処理にリターンする。
【0056】
なお、ST9では先行車の判定のみを行っているが、これに限らず、その物体が道路上に存在する障害物であるか否かの判定をさらに行うようにしてもよい。
【0057】
以上のようにして、物体の距離値が所定値以上(例えば70m)であり、所定の幅(例えば3m)以上である場合に、その物体を頭上看板であると判定するので、リフレクタが高い位置にある先行車も確実に認識するとともに、看板の誤検出を防止することができる。さらに、物体を検出したときに看板候補リストを作成しておき、近傍距離において看板であるか否かの判断時に、当該物体の距離値と看板候補リストから推定される距離値とを比較して略一致した場合に頭上看板であると判定するので、雨天時のようにビームが拡散したとしても、看板の誤検出を防止することができる。
【0058】
なお、本実施形態はレーザレーダ装置について説明したが、本発明は他の測距装置(例えばミリ波レーダ等)であっても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態であるレーザレーダ装置(車両用測距装置)のブロック図
【図2】スキャナの投光レンズと受光レンズを支持する部分の構成を示す図
【図3】スキャナによって駆動された投光レンズと受光レンズの光路を示す図
【図4】鉛直方向のスキャンについて説明する図
【図5】計測データ処理の具体的な手順を示すフローチャート
【図6】看板候補リストの示す図
【図7】登録済み看板候補リストデータ更新処理の具体的な手順を示すフローチャート
【図8】看板候補リスト新規登録処理の具体的な手順を示すフローチャート
【図9】頭上看板判定(遠方)処理の具体的な手順を示すフローチャート
【図10】頭上看板判定(近傍)処理の具体的な手順を示すフローチャート
【図11】先行車判定処理の具体的な手順を示すフローチャート
【図12】レーザを前方に照射する様子を示した図
【図13】自動車前方に看板が存在する場合の様子を示す図
【図14】看板を誤検出する様子を示す図
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光等の電磁波をスキャンすることにより、前方に存在する物体までの距離を測定する車両用測距装置に関し、特に、当該物体が走行車線上の頭上に存在する看板であるかを判定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の前方をレーザ光等で照射して、物体が車両であるかどうか、および物体までの距離を測定する車両用測距装置が有る。この車両用測距装置を用いて、先行車との距離を測定し、車間距離を一定に保つ定車間距離追従走行(ACC:Adaptive Cruise Control)が行われている。また、この車間距離が安全な距離以下になると運転者に警告音を発する、シートベルトを締める、制動を行う、といった安全制御が行われている。
【0003】
上記のような制御を行うためには、物体が車両であるかどうかを正確に検知し、物体までの距離を正確に測定することが重要となる。そのためには、レーザ光等が確実に先行車に照射される必要がある。そこで、自車線上方に存在する看板の検出頻度から上下軸のずれを検出する装置が提案されている(特許文献1参照)。また、看板の認識が不能となる直前の距離に基づいて上下軸(光軸)のずれを検出する装置も提案されている(特許文献2参照)。これらの装置により、上下軸のずれ量が所定の範囲より大きいと判定された場合、上記安全制御の作動をキャンセルする。このようにして、確実に物体までの距離を測定できるようにしている。
【0004】
また、第1の検知エリアにおいて、先行車に接近していると判定され、かつ先行車が検知されなくなった場合、第1の検知エリアよりも上方のエリアを含む第2の検知エリアに切換えるとともに、第2の検知エリアの最大検知距離を、切換え前の先行車までの距離に基づいて設定する先行車認識装置が提案されている(特許文献3参照)。これによれば、先行車を見失う(ロストする)ことがなく、また、自車線上方の看板等の誤検出を低減する効果が得られる。
【特許文献1】特開2002−202360号公報
【特許文献2】特開2003−43147号公報
【特許文献3】特開2000−315299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、および特許文献2の従来の装置では、自車線上方に存在する看板を正確に検出する手法は開示されておらず、例えば上方向に高い位置にリフレクタが配置された車両と、自車線上方の看板とを誤検出する可能性が有った。自車線上方の看板を地上に存在する停止物(障害物)として誤検出すると、実際には接触するおそれの無い看板であっても、安全制御が働き、不要な制動等を行うおそれがある。
【0006】
特許文献3の装置では、リフレクタが高い位置に設置されている先行車をロストした場合に検知エリアを上方向にシフトするので、先行車をロストすることがなく、また、シフト後の最大検知距離を切換え前の先行車までの距離に基づいて設定するので、看板等の誤検出を低減することができる。しかし、そもそも遠方から看板を誤検出していた場合は、これを誤検出し続けるという問題が有った。図12〜図14は、このような状況が発生することを説明するための図である。
【0007】
図12は、自車1の前部に設けたレーザレーダ2からレーザ光3を前方に照射する様子を示している。同図(A)は、レーザ光3が先行車(トラック)5のリフレクタ6で反射せず、荷台の後下部(および路面4)で複雑に乱反射する様子を示している。この場合、先行車をロストした状態となる。特許文献3の装置では、このように先行車をロストした場合、同図(B)に示すように、検知エリアを上方向にシフトする。これにより先行車認識精度を向上させる。
【0008】
図13は、自動車前方に看板7が存在する場合の様子を示している。同図(A)に示すように、トラック5の上方には看板7が存在する。同図(A)においては、トラック5でレーザ光3が反射するとともに、トラック5によってレーザ光3が遮られるため、看板7にレーザ光3が照射されることはない。ここで、先行車が車線変更し、自車の前方に存在しなくなった場合(ロストではなく実際に自車の前方から存在しなくなった場合)、同図(B)に示すように、検知エリアを上方向にシフトするが、このときに最大検知距離を先行車をロストした時点の距離に基づいて決定する。したがって、レーザ光3は看板7に反射されるが、最大検知距離を超えているので誤検出することは無い。
【0009】
しかし、図14(A)に示すように、遠方で看板7を先行車等として誤検出していた場合、これをロストすると、同図(B)に示すように、検知エリアを上方にシフトするため、また、最大検知距離よりも近い位置に看板7が存在するために、誤検出し続けてしまう。
【0010】
さらに、同図(C)に示すように、雨天時においては、自動車に付着する雨滴の影響によりレーザ光が拡散し、通常は照射しない上方にまでレーザ光が照射されてしまうという問題が有った。この場合、自車の近距離においても上方の看板にレーザ光が照射され、誤検出する可能性が高くなっていた。
【0011】
本発明は、リフレクタが高い位置にある先行車も確実に認識するとともに、天候に関係なく、実際には障害物とならない頭上看板等の誤検出を防止する車両用測距装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の車両用測距装置は、電磁波を水平方向及び鉛直方向にスキャンさせ、受信した反射波に基づいて前方の物体を検出するとともに、当該物体の距離と方向を測定するレーダスキャン部と、検出した物体の距離、およびその検出の方向の角度範囲からその物体の幅を推定する幅判定手段と、前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上であり、かつ該物体の幅が所定の幅以上である第1の条件を満たした場合に、当該物体を頭上看板として判定する看板判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
この発明では、検出した各物体の距離と方向をメモリに記録しておく。車両用測距装置の制御回路は、このメモリに記録された距離値、方向値から各物体の移動速度(対地速度)と移動方向(移動ベクトル)を求めることができ、同じ移動ベクトルを有する検出物を同一物体として判断することで、物体の大きさ(幅)を算出することができる。さらに制御回路は、検出した物体について、静止物体であり、距離値が所定値以上(例えば70m)であり、かつメモリに記録された幅の値を参照した結果、所定の幅(例えば3m)以上である値が存在すれば、その物体を頭上看板として判定する。
【0014】
また、本発明の車両用測距装置は、さらに、電磁波を水平方向及び鉛直方向にスキャンさせ、受信した反射波に基づいて前方の物体を検出するとともに、当該物体の距離と方向を測定するレーダスキャン部と、検出した物体の距離、およびその検出の方向の角度範囲からその物体の幅を推定する幅判定手段と、前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上であり、かつ鉛直方向で最上のスキャン、またはその近辺のスキャンにより検出された物体を頭上看板として判定する看板判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
この発明では、制御回路は、検出した物体について、静止物体であり、距離値が所定値以上(例えば70m)であり、さらに、鉛直方向のスキャンのうち最上のスキャン(上、中、下の3段階であれば上スキャン)またはその近辺のスキャンにおいて検出された場合に、その物体を頭上看板として判定する。
【0016】
また、本発明の車両用測距装置は、電磁波を水平方向及び鉛直方向にスキャンさせ、受信した反射波に基づいて前方の物体を検出するとともに、当該物体の距離と方向を測定するレーダスキャン部と、検出した物体の距離、およびその検出の方向の角度範囲からその物体の幅を推定する幅判定手段と、前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上であり、かつ該物体の幅が所定の幅以上である物体、または鉛直方向で最上のスキャンまたはその近辺のスキャンで、検出された物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上である物体、を看板候補物体として該物体の距離値とともに記録する記録手段と、自車の速度を検出する自車速度検出手段と、前記記録手段に記録されている看板候補物体の距離値を、前記自車の速度に基づいた推定値に更新する更新手段と、前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第2の所定値未満であり、かつ該物体の距離値が前記推定値と略同一である第2の条件を満たした場合に、当該物体を頭上看板として判定することを特徴とする。
【0017】
この発明では、制御回路は、検出した物体について、静止物体であり、距離値が所定値以上(例えば70m)であり、メモリに記録された幅の値を参照した結果、所定の幅(例えば3m)以上である値が存在した場合、その物体を看板候補リストに登録する。また、上スキャンにおいて検出された場合、所定の幅(例えば3m)未満であってもその物体を看板候補リストに登録する。さらに、制御回路は、登録した物体について、自車の車速からその存在位置を推定更新する。制御回路は、物体を検出したとき、静止物体であり、距離値が所定値未満(例えば50m)であり、かつ当該物体の距離値が看板候補リストの推定値と略同一(例えば1フレーム時間に移動する自車の距離値程度の差以内)であれば、その物体を頭上看板として判定する。
【0018】
また、本発明の車両用測距装置は、さらに、前記看板判定手段は、前記第2の条件を満たした物体のうち、鉛直方向で最下のスキャンまたはその近辺のスキャンで検出された場合に、該物体を頭上看板として判定しないことを特徴とする。
【0019】
この発明では、制御回路は、物体を検出したとき、静止物体であり、距離値が所定値未満(例えば50m)であり、当該物体の距離値が看板候補リストの推定値と略同一であっとしても、下スキャンにおいて検出された場合に、その物体を頭上看板として判定しない。
【0020】
また、本発明の車両用測距装置は、さらに、自車前方の道路形状を推定する道路形状推定手段を備え、前記看板判定手段は、前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、前記第2の条件を満たした場合に加えて、前記道路形状推定手段が自車前方の道路形状を直線形状、または所定半径以上のカーブ形状であると推定した場合に、当該物体を頭上看板として判定することを特徴とする。
【0021】
この発明では、前方の道路形状を推定する。前方の道路形状は、例えばヨーレート、ハンドルの舵角等から推定すればよい。自車が直線道路を走行しているか、カーブを走行しているかを検出し、カーブを走行していればその道路半径を算出する。制御回路は、上述の諸条件に加え、自車が直線道路を走行している、または所定半径(例えば300m)以上のカーブを走行していると判断した場合にその物体を頭上看板として判定する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、静止物体であり、距離値が所定値以上(例えば70m)であり、所定の幅(例えば3m)以上である場合に、その物体を頭上看板であると判定するので、リフレクタが高い位置にある先行車も確実に認識するとともに、看板の誤検出を防止することができる。また、物体を検出したときに看板候補として記録しておき、近傍距離において看板であるか否かの判断時に、当該物体の距離値と看板候補記録時の距離値から推定される推定距離値とを比較して略一致した場合に頭上看板であると判定するので、雨天時のようにビームが拡散したとしても、誤検出を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は、本発明の実施形態であるレーザレーダ装置(車両用測距装置)のブロック図である。
LD(Laser Diode)駆動回路10は、制御回路11で生成された駆動信号に基づいて、LD12の発光を制御する。スキャナ13は、制御回路11の制御に基づいて、LD12により発生されたレーザ光を所定のスキャン範囲でスキャンさせる。スキャナ13より出射されたレーザ光は、投光レンズを介して自車1の走行方向(前方)に出射される。鉛直走査位置検出装置14と水平走査位置検出装置15は、スキャナ13におけるレーザ光の水平方向と鉛直方向のスキャン(走査)位置をそれぞれ検出して、制御回路11に出力する。
【0024】
LD12が出射したレーザ光が、検出対象としての前方の物体(例えば、車両や路面)に反射して戻ってきた反射光は、受光レンズにより集光され、PD(Photo Diode)16によって受光され、その受光レベルに対応する信号が受光回路17に出力される。受光回路17は、入力された反射光の信号レベルを数値化して、制御回路11に出力する。制御回路11は、入力された数値(受光レベル)を、鉛直走査位置検出装置14と水平走査位置検出装置15から入力されたスキャン位置に対応してメモリ18に記億する。メモリ18には、その他、検出した物体が上方に存在する看板(以下、頭上看板と言う)であることを認識したときに、その物体が頭上看板であることを確定させるための頭上看板判定フラグが割り当てられる。また、頭上看板であることを認識するために用いる各物体の距離や幅等の数値、および認識処理を行う手順を定めたプログラムが記録される。
【0025】
制御回路11には、車速センサ19、ジャイロ20が接続され、車速センサ19は、自車の車速を検出し、ジャイロ20は、自車のヨーレート(水平方向への旋回時の回頭速度)を検出するために使用される。
【0026】
制御回路11は、メモリ18に記憶された受光レベルに基づいて、光軸(スキャン範囲の鉛直方向の中心位置)を補正するとともに、レーザ光を出射してからその反射光を受光するまでの時間に基づいて、物体と自車との距離を測定する。また、制御回路11は、物体との距離の検出を時間継続的に複数回繰り返すことで、その物体の移動速度と移動方向(移動ベクトル)を求めることができ、同じ移動ベクトルを有する検出物を同一物体として判断することで、物体の大きさ(幅)を算出することができる。制御回路11は、これらの物体の情報から、検出した物体が頭上看板であるかどうか、先行車であるかどうかの判定を行う。なお、先行車とは、自車が走行している車線前方を走行する直前の車両(1台)を意味する。
【0027】
スキャナ13の投光レンズと受光レンズを支持する部分の構成を図2に示す。
制御回路11からの制御信号が、駆動回路30に入力される。駆動回路30は、入力された制御信号に基づき、水平方向駆動用コイル31と鉛直方向駆動用コイル32に駆動電流を供給する。水平方向駆動用コイル31と鉛直方向用コイル32は、投光レンズ35と受光レンズ36を一体的に支持する支持部材(図示せず)を、それぞれ、水平方向または鉛直方向に移動させる。支持部材は、水平方向板バネ33と鉛直方向板バネ34により、それぞれ水平方向または鉛直方向に移動自在に支持されている。従って、支持部材(投光レンズ35と受光レンズ36)は、駆動電流により水平方向駆動用コイル31に発生した力と水平方向板バネ33に発生する反力がつりあう水平方向の位置に移動して、静止するとともに、鉛直方向駆動用コイル32に発生した力と鉛直方向板バネ34に発生する反力および重力がつりあう位置に移動して、静止する。なお、各レンズの位置は図示していないセンサにより検出し、このセンサ出力を駆動回路30に入力することでサーボ機構を構成している。
【0028】
このようにして、投光レンズ35と受光レンズ36は、水平方向と鉛直方向の両方向の所定の位置に移動することができる。
【0029】
スキャナ13によって駆動された、投光レンズ35と受光レンズ36の光路を図3に示す。投光レンズ35は、LD12の前面に設けられ、受光レンズ36は、PD16の前面に設けられている。
【0030】
LD12から出射されたレーザ光は、投光レンズ35の中心方向に偏光される。投光レンズ35の位置が中心にある場合は、図3の実線で示されるような光路で、レーザ光は正面に出射される。出射されたレーザ光は、前方の物体(例えば、車両)で反射され、図3の実線で示されるような光路で、受光レンズ36に入射し、PD16によって受光される。
【0031】
また、スキャナ13によって、図中、上方向に投光レンズ35が移動した場合、レーザ光は、図3の点線で示されるような光路で、図中、上方向に出射される。そして、出射されたレーザ光は、図中、上方向の物体で反射され、図3の点線で示されるような光路で、受光レンズ36に入射し、PD16によって受光される。
【0032】
このようにして、スキャナ13は、投光レンズ35と受光レンズ36を一体的に水平方向の所定の位置に移動することで、レーザ光を水平方向にスキャンする。また、同様に、スキャナ13は、投光レンズ35と受光レンズ36を一体的に鉛直方向に移動することで、レーザ光を鉛直方向にスキャンをする。
【0033】
図4は、水平方向と鉛直方向のスキャンについて説明する図である。
本装置において、計測処理1フレームにおけるスキャンの鉛直方向位置は、上、中、下の3段階に設定され、それぞれ、スキャン(上)、スキャン(中)、スキャン(下)となる。各スキャン時間は、本装置では例えば50msecに設定されている。各スキャンの走査範囲(レーザ光の上下広がり角度範囲)は、それぞれ一部重複し、走査範囲に漏れが無いようになっている。例えば、スキャン(中)を地面に略水平方向とすると、スキャン(上)は、スキャン(中)よりも上方向に2度、スキャン(下)は、スキャン(中)よりも下方向に2度に設定される。
【0034】
これらの3つのスキャンで1フレームを構成し、各フレームで実行される計測データ処理には、頭上看板判定処理、先行車判定処理が含まれる。頭上看板判定処理では、物体が頭上看板か否かを判定し、頭上看板として認識されると、その物体に対して頭上看板判定フラグをセットし、それ以降、当該物体については頭上看板として確定認識する。また、先行車判定処理においては、看板判定されていない物体の中から先行車がどれかを判定する。物体の種類(頭上看板、先行車等)を認識した場合、この情報を、物体の距離、方向の情報とともに後段に接続される車両制御装置(図示せず)に送信する。車両制御装置においては、先行車と車間距離を一定に保つACCや、この車間距離が安全な距離以下になると運転者に警告音を発する、シートベルトを締める、制動を行う、といった安全制御が行われる。
【0035】
なお、この例では、各スキャンの鉛直方向は、上、中、下の3段階に設定されているが、上、中の2段階や中、下の2段階で1フレームを構成するようにしてもよい。また、上記例では、同一の方向(左方向へのスキャン)にそれぞれスキャンする場合について説明したが、反対方向のスキャンを含めてもよい。例えば、左方向スキャン(中)→右方向スキャン(下)→左方向スキャン(中)→右方向スキャン(上)→左方向スキャン(中)→右方向スキャン(下)→・・・・と繰り返すことにより、水平方向と鉛直方向のスキャン(2次元スキャン)を連続して行うようにすればよい。
【0036】
以下、計測データの具体的な手順につき、図5〜図11を参照して詳細に説明する。
図5は、計測データ処理の全体手順を示す図である。
任意のフレームにおいて得られた計測データがメモリ18に取り込まれると、制御回路11は、ST1において、まずジャイロ20により検出した自車のヨーレートにより前方道路形状の推定処理を行う。すなわち、自車が直線道路を走行しているか、カーブを走行しているかを検出し、カーブを走行していればその道路半径を算出する。なお、前方道路形状は、ヨーレートに基づく推定に限るものではない。例えば、ハンドルの舵角によっても推定することができる。また、GPSとナビゲーションとの組み合わせによって推定することも可能であり、さらに、前方を撮影するカメラと、撮影した画像内容から道路に表示されている白線を検出する画像処理装置と、の組み合わせによっても推定することができる。ヨーレート、またはハンドルの舵角に基づいて推定する場合、自車が走行している時点で前方道路形状を推定する。GPSとナビゲーション、またはカメラと画像処理装置を用いて推定する場合、前方の道路形状をさらに正確に推定することができる。
【0037】
次に、制御回路11は、ST2において頭上看板判定フラグをオフし、所謂初期化処理を行う。
制御回路11は、ST3において、登録済みである看板候補リストのデータ更新処理を行う。看板候補リストとは、検出した各物体のうち、頭上看板の可能性を有する物体について、メモリ18にその距離を記録したものである。図6に看板候補リストの例を示す。同図に示すように、看板候補リストは、リスト要素番号、登録距離、下方向検知フラグの3つの項目からなり、頭上看板の可能性があると判断した物体(ST5の処理で詳細に説明する)について、看板候補オブジェクトとしてそれぞれ番号を付し、そのときの距離を登録距離として記載する。下方向検知フラグについては後述する。
【0038】
次に、制御回路11は、ST4〜ST8において、検出した各物体が頭上看板であるか否かの判定処理を行う。全ての検出物体に対する処理を終えると、ST9の先行車判定処理に進み、当該フレームにより得られた計測データに対する処理を終える。
【0039】
頭上看板判定処理のうち、ST4においては、検出した物体が停止物であるか否かを判断する。停止物であるか否かの判断は、前回のフレームにおいて検出していた同じ物体との距離差を算出し、前回からの経過時間から検出物体との相対速度を求め、当該物体が自車速度と同じ速度で近づいていれば停止物として判断する。
ST5においては、看板候補リストの新規登録処理を行う。上記のように、看板候補リストは、検出した物体のうち、頭上看板の可能性を有する物体について、その距離を記録したものである。既に登録済みの物体であればこの処理は行わない。詳細は図8を用いて後述する。
【0040】
ST6において、頭上看板判定(遠方)処理を行う。この処理においては、自車からの距離が所定距離(例えば70m)以上離れている物体について、当該物体が頭上看板であるか否かを判定する。
ST7において、頭上看板判定(近傍)処理を行う。この処理においては、自車からの距離が所定距離(例えば50m)よりも接近している物体について、当該物体が頭上看板であるか否かを判定する。
ST8では、検出している全ての物体についてST4〜ST7の処理を行ったか否かを判断する。
【0041】
以下、各処理(ST3、ST5、ST6、ST7、およびST9)について詳細に説明する。
図7は、登録済み看板候補リストデータ更新処理の手順を示している。この処理は、看板候補リストに記載されている、過去に登録した内容を更新する処理であり、物体の検出有無とは関係なく行われる。すなわち、新たな物体を検出していない場合、物体をロストした場合等であってもこの処理は行われる。
まず、看板候補リストに記載されている登録距離の値を更新する(s11)。この更新値は、(更新後距離値)=(更新前距離値)−(1フレームの間に自車が進んだ距離)の式で算出される値である。すなわち、1フレーム前の距離値から自車の進んだ距離を差し引くことで、当該物体(看板候補オブジェクト)の現在の位置を推定する。自車の進んだ距離は、車速センサ19が検出した車速から算出する。
【0042】
次に、この更新後距離値が0よりも小さくなっているか否かを判断する(s12)。距離値が0よりも小さくなっていれば、当該物体が既に自車を通過して後方に位置すると判断し、看板候補リストから消去する(s13)。更新後距離値が0以上であれば、更新後距離値と自車走行車線に相当する領域内の検出物体の下方向検出距離値が近いか(略一致するか)否かを判断する(s14)。すなわち、更新後距離値と車線中心付近の下方向検出距離値との差が所定値(例えば自車速×1フレーム分の時間)以下であるか否かを判断する。ここで、車線中心付近とは、ST1で算出した前方道路形状から推定される自車走行車線に相当する方向を示す。また、車線中心付近の下方向検出距離値とは、図4で示したスキャン(下)において、車線中心付近で検出した物体の距離値を示す。この判断は全ての検出物体について行う。なお、車線中心付近でなくともスキャン(下)で検出した物体の距離値と更新後距離値とを比較するようにしてもよい。
【0043】
更新後距離値と車線中心付近の各物体の下方向検出距離値との差が所定値よりも大きい場合、すなわち各登録済みの看板候補オブジェクトの登録距離値(更新後距離値)において、スキャン(下)で中心付近に物体を検出していない場合、その看板候補オブジェクトの下方向検知フラグをオフにする(s15)。更新後距離値と車線中心付近の各物体の下方向検出距離値との差が所定値以下であれば下方向検知フラグをオンにする(s16)。詳細は後述するが、看板判定処理時に、下方向検知フラグがオフであれば、そのオブジェクトは頭上看板と判定され、下方向検知フラグがオンであれば、地上に存在する自車走行を妨げる障害物(または先行車)として判定する。また、車線中心付近以外の検出物体は、自車の走行を妨げる可能性は極めて低いため、車線中心付近の各物体について判断するものである。
【0044】
以上のs11〜s16の処理を全ての登録済みオブジェクトについて行ったか否かを判断し(s17)、ST3の登録済み看板候補リストデータ更新処理の手順を終え、図5の計測データ処理にリターンする。
【0045】
次に、ST5の看板候補リスト新規登録処理手順について図8を用いて説明する。この手順は、検出した各物体がST4において停止物であると判断した場合に実行する。まず、制御回路11は、s21において、検出した物体の距離値が70m以上であるか否かを判断する。70m未満であれば看板候補リストに新規登録せず、図5の計測データ処理にリターンする。なお、ここではs21の処理で、判断基準として70mを記載しているが、これは一例であり、本発明を限定するものではない。実際の使用条件に応じて数値調整すればよい。
【0046】
s21で物体の距離値が70m以上として判断した場合、制御回路11は、メモリ18を読み出して、過去の検出時にその物体の最大幅が3m以上として検出されたか否かを判断する(s22)。3m以上の幅が過去に検出されていれば、この物体は頭上看板である可能性が有るため、看板候補リストに登録し、その距離値を登録する(s23)。ただし、看板候補リストに既に同じ距離値が登録済みであれば、追加して登録はしない。なお、s22の判断値についても3mは一例であり、これに限定するものではない。
【0047】
s22において、過去の検出時にその物体の最大幅が3m以上として検出されていなければ、その物体が車線中心付近で検出されているか否かを判断する(s24)。また、その物体が車線中心付近のスキャン(上)において検出されたか否かを判断する(s25)。車線中心付近で検出されていない、または車線中心付近のスキャン(上)で検出されていなければ、看板候補リストに登録せず、図5の計測データ処理にリターンする。車線中心付近で検出され、かつスキャン(上)で検出されていれば頭上看板の可能性が有るとして、看板候補リストに登録する(s23)。なお、s24の処理を行わずに、スキャン(上)で検出されていれば頭上看板の可能性が有るとして、看板候補リストに登録するようにしてもよい。雨天時はビームが拡散して検出精度が低下するため、実際の物体幅よりも狭い幅で検出される可能性がある。したがって、物体の幅が3m未満であった場合であっても、スキャン(上)で検出されていれば頭上看板の可能性が有るとして看板候補リストに登録する。
【0048】
また、車線中心付近で検出される物体は、自車の走行車線上に存在する可能性が高いため、後段の車両制御装置で行われるACCや安全制御への影響が大きい。車線中心付近の頭上看板を先行車であると誤認識すると不要な安全制御が行われる可能性が有る。したがって、物体の幅が3m未満であっても、車線中心付近で検出される物体(かつスキャン上で検出される物体)は看板候補リストに登録しておくことが望ましい。無論、車線中心以外、前方全領域において看板判定をすることが望ましいが、特に重要な車線中心付近においてのみ看板候補リストに登録することで、処理負担を低減することができる。
【0049】
以上の処理を終えると、図5の計測データ処理にリターンする。
【0050】
次に、ST6の頭上看板判定(遠方)処理の手順について図9を用いて説明する。まず、制御回路11は、s31において検出した物体の距離値が70m以上であるか否かを判断する。物体の距離値が70m以上でなければ、遠方の判定を行わずに図5の計測データ処理にリターンする。物体の距離値が70m以上であれば、制御回路11は、メモリ18を読み出して、過去の検出時にその物体の最大幅が3m以上として検出されたか否かを判断する(s32)。3m以上の幅が過去に検出されていれば、頭上看板であると判定して当該物体に頭上看板判定フラグを割り当てる(s33)。以後、この物体については頭上看板であると判断され、先行車として誤検出されることはない。3m以上の幅が過去に検出されていなければ、さらにその物体がスキャン(上)において検出されたか否かを判断する(s34)。3m以上の幅が過去に検出されておらず、スキャン(上)においても検出されなければ、この頭上看板判定(遠方)処理においては頭上看板でないと判断して、図5の計測データ処理にリターンする。スキャン(上)において検出された場合は、頭上看板であると判定して当該物体に頭上看板判定フラグを割り当てる(s33)。なお、s34の処理は必須ではなく、物体の幅が3m未満であれば頭上看板でないと判断するようにしてもよい。上述のように、雨天時は検出精度が低下するため、物体の幅が3m未満であった場合であっても、スキャン(上)で検出されていれば看板であると判定することが望ましい。なお、s31、s32の判断値についても一例を示したものであり、これらに限定するものではない。
【0051】
次に、ST7の頭上看板判定(近傍)処理の手順について図10を用いて説明する。まず、制御回路11は、s41において、検出した物体の距離値が50m未満であるか否かを判断する。物体の距離値が50m以上であれば、近傍の判定を行わずに図5の計測データ処理にリターンする。この距離値についても一例であり、限定するものではない。物体の距離値が50m未満であれば、制御回路11は、その物体が車線中心付近で検出されたものであるか否かを判断する(s42)。車線中心付近で検出されていなければ、図5の計測データ処理にリターンする。車線中心付近で検出されていれば、直線走行中または道路半径300mより緩いカーブを走行中であるか否かを判断する(s43)。道路半径300mより急なカーブを走行中であれば、図5の計測データ処理にリターンする。この判断においては、ST1において求めた前方道路形状の推定を用いる。なお、道路半径の基準値も300mは一例であり、これに限定するものではない。
【0052】
直線走行中または道路半径300mより緩いカーブを走行中であると判断した場合、制御回路11は、メモリ18に登録されている看板候補リストを読み出し、その物体の距離値に近い登録距離値を有する看板候補オブジェクトが存在するか否かを判断する(s44)。この判断は、その物体の距離値と看板候補リストに記載されている登録距離値との差が、例えば1フレーム分の自車移動距離値以下となる看板候補オブジェクトが存在するか否かで行われる。該当する看板候補オブジェクトが存在しなければ、図5の計測データ処理にリターンする。
【0053】
該当する看板候補オブジェクトが存在した場合、さらにその看板候補オブジェクトに下方向検知フラグがオフされているか否かを判断する(s45)。下方向検知フラグがオンされていれば、地上に存在する物体である可能性が有るため、頭上看板と判定せずに図5の計測データ処理にリターンする。下方向検知フラグがオフされていれば、頭上看板であると判定して、当該物体に頭上看板判定フラグを割り当てる(s46)。以後、この物体については頭上看板であると判断され、先行車や障害物として誤検出されることはない。
【0054】
以上のST4〜ST7の処理を全ての検出物体について繰り返し行い(図5のST8)、全ての物体について頭上看板判定処理を行う。ST8で全ての物体について処理を行ったと判断した場合、ST9の先行車判定処理を行う。ST9の先行車判定処理も検出した各物体について行われる。図11は、先行車判定処理の手順を示すフローチャートである。まず、制御回路11は、その物体について、頭上看板判定フラグが割り当てられているか否かを判断する(s51)。頭上看板判定フラグが割り当てられていなければ、さらに、その物体が推定した道路形状、すなわち自車の走行線内に存在しているか否かを判断する(s52)。この判断は、当該物体が上述した車線中心付近に検出されているか否かによって行われる。
【0055】
自車の走行線内に存在していると判断した場合、その物体を先行車候補リストに追加する(s53)。先行車候補リストは、上記頭上看板候補リストと同様に、各物体の距離値が記載されたものである。制御回路11は、このs51〜s53の処理を全検出物体について行われたか否かを判断する(s54)。また、s51で頭上看板判定フラグがオンされている、またはs52で自車走行車線内に存在しないと判断した場合は、先行車リスト登録を行わず、s54の判断を行う。全ての物体について処理が行われていなければs51から処理を繰り返す。全ての物体について処理が行われていると判断した場合は、先行車候補リストのうち、最も近距離に存在する物体を先行車として判定し(s55)、図5の計測データ処理にリターンする。
【0056】
なお、ST9では先行車の判定のみを行っているが、これに限らず、その物体が道路上に存在する障害物であるか否かの判定をさらに行うようにしてもよい。
【0057】
以上のようにして、物体の距離値が所定値以上(例えば70m)であり、所定の幅(例えば3m)以上である場合に、その物体を頭上看板であると判定するので、リフレクタが高い位置にある先行車も確実に認識するとともに、看板の誤検出を防止することができる。さらに、物体を検出したときに看板候補リストを作成しておき、近傍距離において看板であるか否かの判断時に、当該物体の距離値と看板候補リストから推定される距離値とを比較して略一致した場合に頭上看板であると判定するので、雨天時のようにビームが拡散したとしても、看板の誤検出を防止することができる。
【0058】
なお、本実施形態はレーザレーダ装置について説明したが、本発明は他の測距装置(例えばミリ波レーダ等)であっても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態であるレーザレーダ装置(車両用測距装置)のブロック図
【図2】スキャナの投光レンズと受光レンズを支持する部分の構成を示す図
【図3】スキャナによって駆動された投光レンズと受光レンズの光路を示す図
【図4】鉛直方向のスキャンについて説明する図
【図5】計測データ処理の具体的な手順を示すフローチャート
【図6】看板候補リストの示す図
【図7】登録済み看板候補リストデータ更新処理の具体的な手順を示すフローチャート
【図8】看板候補リスト新規登録処理の具体的な手順を示すフローチャート
【図9】頭上看板判定(遠方)処理の具体的な手順を示すフローチャート
【図10】頭上看板判定(近傍)処理の具体的な手順を示すフローチャート
【図11】先行車判定処理の具体的な手順を示すフローチャート
【図12】レーザを前方に照射する様子を示した図
【図13】自動車前方に看板が存在する場合の様子を示す図
【図14】看板を誤検出する様子を示す図
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を水平方向及び鉛直方向にスキャンさせ、受信した反射波に基づいて前方の物体を検出するとともに、当該物体の距離と方向を測定するレーダスキャン部と、
検出した物体の距離、およびその検出の方向の角度範囲からその物体の幅を推定する幅判定手段と、
前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上であり、かつ該物体の幅が所定の幅以上である第1の条件を満たした場合に、当該物体を頭上看板として判定する看板判定手段と、
を備えた車両用測距装置。
【請求項2】
電磁波を水平方向及び鉛直方向にスキャンさせ、受信した反射波に基づいて前方の物体を検出するとともに、当該物体の距離と方向を測定するレーダスキャン部と、
検出した物体の距離、およびその検出の方向の角度範囲からその物体の幅を推定する幅判定手段と、
前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上であり、かつ鉛直方向で最上のスキャン、またはその近辺のスキャンにより検出された物体を頭上看板として判定する看板判定手段と、
を備えた車両用測距装置。
【請求項3】
電磁波を水平方向及び鉛直方向にスキャンさせ、受信した反射波に基づいて前方の物体を検出するとともに、当該物体の距離と方向を測定するレーダスキャン部と、
検出した物体の距離、およびその検出の方向の角度範囲からその物体の幅を推定する幅判定手段と、
前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上であり、かつ該物体の幅が所定の幅以上である物体、または鉛直方向で最上のスキャンまたはその近辺のスキャンで、検出された物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上である物体、を看板候補物体として該物体の距離値とともに記録する記録手段と、
自車の速度を検出する自車速度検出手段と、
前記記録手段に記録されている看板候補物体の距離値を、前記自車の速度に基づいた推定値に更新する更新手段と、
前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第2の所定値未満であり、かつ該物体の距離値が前記推定値と略同一である第2の条件を満たした場合に、当該物体を頭上看板として判定する車両用測距装置。
【請求項4】
前記看板判定手段は、前記第2の条件を満たした物体のうち、鉛直方向で最下のスキャンまたはその近辺のスキャンで検出された場合に、該物体を頭上看板として判定しない請求項3に記載の車両用測距装置。
【請求項5】
自車前方の道路形状を推定する道路形状推定手段を備え、
前記看板判定手段は、前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、前記第2の条件を満たした場合に加えて、前記道路形状推定手段が自車前方の道路形状を直線形状、または所定半径以上のカーブ形状であると推定した場合に、当該物体を頭上看板として判定する請求項3、または請求項4に記載の車両用測距装置。
【請求項1】
電磁波を水平方向及び鉛直方向にスキャンさせ、受信した反射波に基づいて前方の物体を検出するとともに、当該物体の距離と方向を測定するレーダスキャン部と、
検出した物体の距離、およびその検出の方向の角度範囲からその物体の幅を推定する幅判定手段と、
前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上であり、かつ該物体の幅が所定の幅以上である第1の条件を満たした場合に、当該物体を頭上看板として判定する看板判定手段と、
を備えた車両用測距装置。
【請求項2】
電磁波を水平方向及び鉛直方向にスキャンさせ、受信した反射波に基づいて前方の物体を検出するとともに、当該物体の距離と方向を測定するレーダスキャン部と、
検出した物体の距離、およびその検出の方向の角度範囲からその物体の幅を推定する幅判定手段と、
前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上であり、かつ鉛直方向で最上のスキャン、またはその近辺のスキャンにより検出された物体を頭上看板として判定する看板判定手段と、
を備えた車両用測距装置。
【請求項3】
電磁波を水平方向及び鉛直方向にスキャンさせ、受信した反射波に基づいて前方の物体を検出するとともに、当該物体の距離と方向を測定するレーダスキャン部と、
検出した物体の距離、およびその検出の方向の角度範囲からその物体の幅を推定する幅判定手段と、
前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上であり、かつ該物体の幅が所定の幅以上である物体、または鉛直方向で最上のスキャンまたはその近辺のスキャンで、検出された物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第1の所定値以上である物体、を看板候補物体として該物体の距離値とともに記録する記録手段と、
自車の速度を検出する自車速度検出手段と、
前記記録手段に記録されている看板候補物体の距離値を、前記自車の速度に基づいた推定値に更新する更新手段と、
前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、静止物体であり、該物体の距離値が第2の所定値未満であり、かつ該物体の距離値が前記推定値と略同一である第2の条件を満たした場合に、当該物体を頭上看板として判定する車両用測距装置。
【請求項4】
前記看板判定手段は、前記第2の条件を満たした物体のうち、鉛直方向で最下のスキャンまたはその近辺のスキャンで検出された場合に、該物体を頭上看板として判定しない請求項3に記載の車両用測距装置。
【請求項5】
自車前方の道路形状を推定する道路形状推定手段を備え、
前記看板判定手段は、前記レーダスキャン部が検出した物体のうち、前記第2の条件を満たした場合に加えて、前記道路形状推定手段が自車前方の道路形状を直線形状、または所定半径以上のカーブ形状であると推定した場合に、当該物体を頭上看板として判定する請求項3、または請求項4に記載の車両用測距装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−240446(P2007−240446A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66286(P2006−66286)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
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