説明

車両用駆動装置

【課題】簡単な構造で、それぞれの操舵輪をそれぞれに対応したモーターで駆動することができる車両用駆動装置を提供すること。
【解決手段】車両用駆動装置1は、モーター700のシャフト701と連結される等速ジョイント900を回転可能に支持するハブユニット800と、モーター700を支持し、かつ車両2とハブユニット800との間に配置される緩衝装置400に取り付けられる第1のナックル200と、第1のナックル200に対して、所定の揺動中心軸Zsの周りに揺動できるように第1のナックル200に支持され、かつハブユニット800を支持する第2のナックル300と、を有し、第2のナックル300の揺動中心軸上に、等速ジョイント900の揺動中心Cが配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれの駆動輪に対応したモーターを備える車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動力源としてモーターを用いる乗用車やバス、トラック等の車両が実用化されてきている。モーターを動力源として用いる車両は、それぞれの車輪をそれぞれに対応したモーターで駆動する方式のものがある。このような方式は、インホイールモーターと呼ばれており、種々の提案がされている。
【0003】
一般に、モーターの動力は、モーターの容積によって制限を受ける。このため、車輪の近傍の狭い空間内で、車両を走行させるために十分なモーターの動力を確保することは難しい。特に、車輪の向きを変更する必要がある操舵輪は、車輪と一体にモーターが向きを変える場合、モーターが他の部品と干渉しないようにするため、モーターが動く範囲に空間を確保しなければならない。その結果、モーターの容積がより制限されるという問題がある。
【0004】
上記問題を解決するため、車輪に隣接する空間にモーターを配置し、等速ジョイント等を介してモーターの動力を車輪へ伝達する方式の駆動装置が提案されている(例えば、特許文献1)。このようにすることで、操舵輪の向きが変更されても、モーターは自身の姿勢を変化させないので、モーターが操舵輪とともに向きを変更する構造と比較すると、モーターの容積を大きくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−027529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術は、ロワアーム上にフローティング支持されたモーターから車輪まで動力を伝達するために一対二個の等速ジョイントを使用している。しかし、等速ジョイントを二個使用することから、構造が複雑になり、質量も増加するという問題がある。
【0007】
本発明は、簡単な構造で、それぞれの操舵輪をそれぞれに対応したモーターで駆動することができる車両用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る車両用駆動装置は、モーターを動力発生装置とする車両に搭載される車両用駆動装置であり、前記モーターのシャフトと連結される等速ジョイントを回転可能に支持するハブユニットと、前記モーターを支持し、かつ前記車両と前記ハブユニットとの間に配置される緩衝装置に取り付けられる第1のナックルと、前記第1のナックルに対して、所定の揺動中心軸の周りに揺動できるように前記第1のナックルに支持され、かつ前記ハブユニットを支持する第2のナックルと、を有し、前記第2のナックルの揺動中心軸上に、前記等速ジョイントの揺動中心が配置されることを特徴とする。
【0009】
このような構造により、本発明は、操舵によって操舵輪が向きを変え、その結果、ハブユニットが所定の揺動中心軸の周りを揺動した場合であっても、モーターの動力を車軸へ等速(等回転角速度)で伝達できる。また、本発明に係る車両用駆動装置は、等速ジョイントは一つでよいので、特許文献1に開示されたものと比較して、部品点数を削減できる。その結果、本発明に係る車両用駆動装置は、簡単な構造で、それぞれの操舵輪をそれぞれに対応したモーターで駆動することができる。さらに、本発明に係る車両用駆動装置は、構造が簡単になることによって保守及び点検が容易になるとともに、質量も小さくすることができる。また、本発明に係る車両用駆動装置は、部品点数が少なくなることにより小型化でき、かつ製造コストを低減できる。
【0010】
また、操舵輪が取り付けられるハブユニットを支持する第2のナックルは、モーターが取り付けられる第1のナックルに対して揺動できるように支持される。このような構造により、操舵輪が揺動しても、モーターは第1のナックルに固定されたまま、操舵輪の動きに追従して動くことはない。このように、操舵によってモーターは動かないので、モーターが動く範囲に空間を確保する必要はなく、モーターの容積の制限を緩和できる。その結果、モーターの出力を確保しやすくなる。
【0011】
本発明の望ましい態様として、前記揺動中心軸は、前記緩衝装置の中心軸と平行に配置されることが好ましい。本発明に係る車両用駆動装置は、懸架装置の一部となるが、上記構造により、懸架装置が動作したときにおいてはキングピン角を略一定に保つことができるので、前記懸架装置に支持される車輪のアライメントの変化を低減できる。
【0012】
本発明の望ましい態様として、前記揺動中心軸を中心とし、かつ前記緩衝装置に遠い位置で前記第2のナックルを揺動できるように支持する第1の軸受と、前記揺動中心軸を中心とし、かつ前記第1の軸受よりも前記緩衝装置から近い位置で前記第2のナックルを揺動できるように支持する第2の軸受と、前記第1のナックルに設けられて、前記第1の軸受を支持する第1の連結機構と、前記第1のナックルに設けられて、前記第2の軸受を支持する第2の連結機構と、を有することが好ましい。このような構造により、本発明は、第1のナックルと第2のナックルとの相対的な位置関係を一定に保つことができる。その結果、緩衝装置が伸縮した場合でも、モーターの動力を車軸へ等速(等回転角速度)で伝達できる。
【0013】
本発明の望ましい態様として、前記車両の懸架装置のロワアームに設けられ、かつ前記第1の軸受によって前記揺動中心軸の周りを回転できるように支持されるボールジョイントを有し、前記第1のナックル及び前記第2のナックルは、前記ボールジョイントを介して前記ロワアームに支持されることが好ましい。このような構造により、本発明は、第1のナックル及び第2のナックルは、ロワアームの揺動を許容して、ロワアームの揺動に追従して上下できる。その結果、本発明に係る車両用駆動装置は、懸架装置の機能を阻害せずに車両を走行させることができる。
【0014】
本発明の望ましい態様として、前記モーターのシャフトと前記等速ジョイントとは、溝と、前記溝に噛み合う突起とを有する継ぎ手構造を介して連結されており、前記継ぎ手構造は、前記シャフトの回転軸と平行な方向に移動可能であることが好ましい。このような構造により、本発明は、モーターのシャフトの回転軸と平行な方向における等速ジョイントの動きを許容できるので、等速ジョイントに作用する軸方向荷重を低減させて、等速ジョイントを確実に機能させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、簡単な構造で、それぞれの操舵輪をそれぞれに対応したモーターで駆動することができる車両用駆動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置の断面図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る車両用駆動装置の斜視図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る車両用駆動装置が備える等速ジョイントを示す模式図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る車両用駆動装置が備えるモーターのシャフトと等速ジョイントとの継ぎ手構造を示す断面図である。
【図5】図5は、本実施形態に係る車両用駆動装置が備えるハブユニットのハブベアリングの変形例を示す模式図である。
【図6】図6は、第1のジョイントを示す分解図である。
【図7】図7は、第2のジョイントを示す分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、発明を実施するための形態(実施形態)を説明する。なお、下記の記載により本発明が限定されるものではない。また、下記に記載する構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0018】
図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置の断面図である。図2は、本実施形態に係る車両用駆動装置の斜視図である。車両用駆動装置1は、モーター(電動機)700を動力発生装置とする車両2に搭載される。車両用駆動装置1は、車両2に取り付けられて当該車両2を走行させる。車両用駆動装置1は、モーター700と、ハブユニット800と、第1のナックル200と、第2のナックル300とを含む。車両用駆動装置1は、車両2の懸架装置4に組み込まれており、懸架装置4の一部となる。
【0019】
懸架装置4は、ロワアーム100と、緩衝装置400と、第1のナックル200と、第2のナックル300と、第1のジョイント(第1の連結機構)500と、第2のジョイント(第2の連結機構)600とを含む。本実施形態において、懸架装置4の方式は、ストラット式である。第1のナックル200と第2のナックル300とは、第1のジョイント500及び第2のジョイント600によって連結されている。第2のナックル300は、第1のナックル200に対して、所定の揺動中心軸Zsの周りに揺動できるように、第1のジョイント500及び第2のジョイント600を介して前記第1のナックル200に支持されている。また、第2のナックル300は、ボルト803を介してハブユニット800が取り付けられて、これを支持する。
【0020】
緩衝装置400は、減衰装置(オイルダンパー)401と、弾性体(コイルスプリング)402とを有する。緩衝装置400は、車両2とハブユニット800との間に配置されて、緩衝装置400の中心軸Zcと平行な方向に伸縮する。緩衝装置400の一端部は第1のナックル200に連結されており、他端部は車両2に取り付けられる。このように、第1のナックル200は、緩衝装置400に取り付けられる。第1のナックル200と第2のナックル300とを連結する第1のジョイント500は、ボルト103によってロワアーム100の第1取付部101に連結されている。ロワアーム100の第2取付部102は、車両2に設けられるブラケット3に取り付けられている。そして、第2取付部102は、揺動軸Zlを中心としてロワアーム100が揺動できるように、ブラケット3に支持される。
【0021】
このような構造により、第1のナックル200と第2のナックル300と、第1のジョイント500と、第2のジョイント600とを組み合わせた組立体は、緩衝装置400とロワアーム100とによって、上下方向に移動できるように車両2に支持される。第2のナックル300には、車両2の車輪を回転可能に支持するハブユニット800が取り付けられる。したがって、前記車輪は、車両2の上下方向に移動できるように車両2に支持される。そして、前記車輪を介して路面から車両2へ入力される衝撃や振動は、緩衝装置400によって吸収され、また、減衰される。
【0022】
モーター700は、電気エネルギーを運動エネルギーに変換して、車両2を走行させるための動力を発生する。本実施形態において、モーター700は、交流同期モーターであるが、モーター700の種類は問わない。図2に示すように、モーター700は、ボルト704によって第1のナックル200に取り付けられて、支持される。ハブユニット800は、ハブシャフト801と、ハブシャフト801を回転可能に支持するハブ軸受802とを有する。モーター700のシャフト(入出力軸)701は、等速ジョイント900を介してハブシャフト801と連結される。このような構造により、モーター700とハブシャフト801との間で動力が伝達される。ハブシャフト801には車輪(タイヤとホイールとの組立体)が取り付けられる。この車輪は、車両2の操舵輪である。ハブユニット800は、モーター700のシャフト(入出力軸)701と連結される等速ジョイント900を回転可能に支持する。本実施形態において、等速ジョイント900は、ハブシャフト801に挿入されている。このような構造により、ハブユニット800は、ハブシャフト801を介して等速ジョイント900を回転可能に支持する。
【0023】
図3は、本実施形態に係る車両用駆動装置が備える等速ジョイントを示す模式図である。図3の上図に示すように、等速ジョイント900は、動力伝達軸901と、インナー902と、複数の転動体903と、保持器904とを含む。本実施形態において、等速ジョイント900の形式は問わないが、大きな角度で揺動可能なツェッパ型の等速ジョイントが好ましい。動力伝達軸901のインナー902側における端部は、モジュール1、歯数24のオス型のインボリュートセレーション(オス)905を有する。また、インナー902の内側は、インボリュートセレーション905と噛み合うメス型のインボリュートセレーション906を有する。そして、動力伝達軸901のインボリュートセレーション905とインナー902のインボリュートセレーション906とが噛み合うことにより、動力伝達軸901とインナー902との間で動力が伝達される。また、等速ジョイント900は、揺動中心Cを中心として、動力伝達軸901及びインナー902及び保持器904及び転動体903が一体となって、ハブシャフト801に対して揺動する。
【0024】
インナー902とハブシャフト801の内側に形成されたアウターとの間には、保持器904に保持された複数個(本実施形態では8個)の転動体903が等間隔に配置される。そして、等速ジョイント900は、ハブシャフト801と動力伝達軸901との間で動力を伝達しつつ、ハブシャフト801と動力伝達軸901とは揺動可能となる。このような構造により、等速ジョイント900は、図1に示す懸架装置4が動作することによって発生する揺動変位を吸収して等速ジョイント900に作用する軸方向荷重を抑制する。
【0025】
車両用駆動装置1において、第2のナックル300及びハブユニット800は、第1のナックル200に対して、図1に示す揺動中心軸Zsの周りを揺動する。このような構造によって、ハブユニット800は、揺動中心軸Zsの周りを転舵する。図3、図1に示すように、本実施形態においては、第2のナックル300の揺動中心軸Zs上に、等速ジョイント900の揺動中心Cが配置される。このため、車両用駆動装置1は、ハブユニット800が揺動中心軸Zsの周りを揺動、すなわち転舵した場合であっても、モーター700の動力をハブシャフト(車軸)801へ等速(等回転角速度)で伝達できる。
【0026】
例えば、図1、図3に示すハブユニット800が、転舵によって揺動中心軸Zsを中心として揺動した場合を考える。この場合、図3の下図に示すように、ハブユニット800のハブシャフト801は、揺動中心軸Zsを中心として揺動する(図3の下図に示す矢印M2方向)。転舵によってハブユニット800が揺動すると、図3の下図に示すように、モーター700のシャフト701の回転軸Zrとハブシャフト801の回転軸との相対角度が変化する。等速ジョイント900の揺動中心Cは、モーター700のシャフト701の回転軸Zr上に存在している。図3の上図に示すように、等速ジョイント900は、ハブシャフト801の内部を揺動する。このため、ハブシャフト801の揺動中心軸Zsと等速ジョイント900の揺動中心Cとがずれている場合、ハブシャフト801、すなわちハブユニット800は揺動中心軸Zsの周りを揺動できないので、その結果として転舵はできず、また、転舵時において、等速ジョイント900とハブシャフト801との間で、動力を伝達することはできない。
【0027】
本実施形態では、上述したように、ハブユニット800、すなわちハブシャフト801の揺動中心軸Zs上に、等速ジョイント900の揺動中心Cが配置される。したがって、等速ジョイント900の揺動中心Cは、常にモーター700のシャフト701の回転軸Zr及びハブユニット800の揺動中心軸Zs上にある。このため、転舵によってハブユニット800及びハブシャフト801が揺動しても、ハブシャフト801の内部に配置される等速ジョイント900の揺動中心Cとハブシャフト801の揺動中心軸Zsとの相対的な位置関係は変化しない。その結果、ハブユニット800の転舵が可能になるとともに、等速ジョイント900とハブシャフト801との間で動力を伝達できる。
【0028】
また、緩衝装置400が伸縮した場合、第1のナックル200及び第2のナックル300は、ロワアーム100に対して第1のジョイント500が有するボールジョイント520cを中心として揺動する。したがって、第1のナックル200と第2のナックル300との相対的な位置関係は変化しない。このため、緩衝装置400が伸縮した場合でも、モーター700の動力をハブシャフト801へ等速(等回転角速度)で伝達できる。さらに、車両用駆動装置1においては、車輪からハブユニット800に伝えられた路面反力は、第2のナックル300と、第1のジョイント500及び第2のジョイント600と、第1のナックル200とを介して緩衝装置400へ入力される。その結果、等速ジョイント900に、路面反力は伝達されない。これによって、懸架装置4が動作しても、等速ジョイント900には軸方向荷重がほとんど作用しないため、懸架装置4の動作中においても、等速ジョイント900はモーター700のシャフト701とハブシャフト801との間で、確実に動力を伝達できる。
【0029】
図4は、本実施形態に係る車両用駆動装置が備えるモーターのシャフトと等速ジョイントとの継ぎ手構造を示す断面図である。図4に示すように、モーター700のシャフト701は中空部702を有する。中空部702は、シャフト701の回転軸Zrと平行な方向に向かってシャフト701を貫通している。図1に示すハブユニット800側におけるシャフト701の内面は、例えば、モジュール1、歯数35のインボリュートセレーション703を有する。インボリュートセレーション703は、メス型である。
【0030】
インボリュートセレーション703は、図1に示す等速ジョイント900の動力伝達軸901の一端部に形成されたオス型のインボリュートセレーション907と摺動可能に嵌め合わされる。すなわち、シャフト701と等速ジョイント900の動力伝達軸901とは、溝と、当該溝に噛み合う突起とを有する継ぎ手構造を介して連結される。このような継ぎ手構造により、等速ジョイント900とモーター700のシャフト701との間で動力を伝達するとともに、シャフト701の回転軸Zrと平行な方向における動力伝達軸901の動き(図4の矢印M1で示す方向)が許容される。このような構造により、図1に示す車両用駆動装置1は、等速ジョイント900に作用する軸方向荷重を低減させて、等速ジョイント900を確実に機能させることができる。
【0031】
図5は、本実施形態に係る車両用駆動装置が備えるハブユニットのハブベアリングの変形例を示す模式図である。この変形例は、車輪側に配置される車輪側転動体807と、車体側に配置される車体側転動体808とを比較すると、図5に示すように、車体側転動体808のボール径d8は、車輪側転動体807のボール径d7よりも大きい(d7<d8)。また、この変形例は、車輪側転動体807のボールピッチ円直径D7は、車体側転動体808のボールピッチ円直径D8よりも大きい(D7>D8)。これは、次の理由による。まず、車体に近い車体側転動体808は、車体の質量を支持するためにボールの直径を大きくしてボールピッチ円の直径を小さくする。一方、車輪側転動体807は、車輪からのモーメントを支持するため、ボールの直径を小さくしてボールピッチ円の直径を大きくする。本変形例では、このような構造により、車輪側転動体807のモーメント剛性を大きくでき、かつ、車輪側転動体807及び車体側転動体808の摩擦を小さくすることができるので好ましい。なお、D7=D8としたり、d7=d8としたりする構造を除外するものではない。次に、第1のジョイント500について説明する。
【0032】
図6は、第1のジョイントを示す分解図である。図6に示すように、第1のジョイント500は、第1部材510と、第2部材520と、第3部材530とを有する。第1のジョイント500は、図1、図2に示す緩衝装置400から遠い側で、第1のナックル200と第2のナックル300とを連結する。第1部材510は、図1に示すロワアーム100の第1取付部101(図1、図2に示す緩衝装置400から遠い側)に、第1のナックル200に対してボルト103で締結される。第2部材520は、第2のナックル300の緩衝装置400から遠い側とボルト303(図6、図1参照)で締結される。第3部材530は、第1のナックル200の緩衝装置400から遠い側とボルト201(図1参照)で締結される。ここで、「遠い」とは、第2のジョイント600との比較で、緩衝装置400から遠いことを意味する。
【0033】
第2部材520は、第3部材530と連結されるためのシャフト520aと、第2のナックル300と連結されるためのフランジ520bと、ボールジョイント520cとを有する。シャフト520aと、フランジ520bとは、それぞれ別個に製造されてから、溶接等の接合手段によって連結されて、一体化される。本実施形態において、シャフト520aとボールジョイント520cは、一体で製造されるが、それぞれ別個に製造されてから溶接やねじ止め等によって連結され、一体化されてもよい。第1部材510と第2部材520とは、第2部材520の一部であるボールジョイント520cを介して連結される。ボールジョイント520cにより、第1部材510と第2部材520とは、互いに揺動できるように連結される。
【0034】
第2部材520と、第3部材530とは、第1の軸受540を介して連結される。本実施形態において、第1の軸受540は玉軸受であるが、これに限定されるものではない。上述した第2部材520と第3部材530との連結構造により、第2部材520と、第3部材530とは、第1の軸受540を介して互いに揺動又は回転できるように連結される。図6に示すように、第1の軸受540は、外輪540aと内輪540bと、外輪540aと内輪540bとの間に配置される玉540cとを有する。外輪540aは、第3部材530に設けられたハウジング530hに取り付けられる。そして、例えば鋼板で製造されたベアリング押さえ550が、ハウジング530hに溶接等の接合手段によって固定される。ベアリング押さえ550は、外輪540aがハウジング530hから脱落することを防止する。
【0035】
内輪540bは、第2部材520のシャフト520aに圧入される。そして、内輪540bは、カラー560を介してナット570でシャフト520aに締結される。ナット570は、内輪540bがシャフト520aから脱落することを防止する。ナット570の頭部は、切り欠き570cを有している。ナット570をシャフト520aにねじ込んだ後、切り欠き570cからピンを差し込み、前記ピンをシャフト520aに貫通させる。このような構造により、ナット570の緩み止めがなされる。次に、第2のジョイント600について説明する。
【0036】
図7は、第2のジョイントを示す分解図である。図7に示すように、第2のジョイント600は、第4部材610と、第5部材620とを有する。そして、第2のジョイント600は、図1、図2に示す緩衝装置400から近い側で、第4部材610及び第5部材620を介して、第1のナックル200と第2のナックル300とを連結する。第4部材610は、第1のナックル200の緩衝装置400から近い側とボルト302(図7、図1参照)で締結される。第5部材620は、第1のナックル200の緩衝装置400から近い側と、ボルト202(図1参照)で締結される。ここで、「近い」とは、第1のジョイント500との比較で、緩衝装置400から近いことを意味する。
【0037】
図7に示すように、第4部材610は、第5部材620と連結されるためのシャフト610aと、第2のナックル300の緩衝装置400側と連結されるためのフランジ610bとを有する。シャフト610aと、フランジ610bとは、それぞれ別個に製造されてから、溶接等の接合手段によって連結されて、一体化される。第4部材610と第5部材620とは、第2の軸受630を介して連結される。本実施形態において、第2の軸受630は玉軸受であるが、これに限定されるものではない。第2の軸受630により、第4部材610と、第5部材620とは、互いに揺動又は回転できるように連結される。第2の軸受630は、外輪630aと、内輪630bと、外輪630aと内輪630bとの間に配置される玉630cとを有する。外輪630aは、第5部材620に設けられたハウジング620hに取り付けられる。そして、例えば鋼板で製造されたベアリング押さえ640が、ハウジング620hに溶接等の接合手段によって固定される。ベアリング押さえ640は、外輪630aがハウジング620hから脱落することを防止する。
【0038】
内輪630bは、第4部材610のシャフト610aに圧入される。そして、内輪630bは、カラー650を介してナット660でシャフト610aに締結される。ナット660は、内輪630bがシャフト610aから脱落することを防止する。ナット660の頭部は、切り欠き660cを有している。ナット660をシャフト610aにねじ込んだ後、切り欠き660cからピンを差し込み、前記ピンをシャフト610aに貫通させる。このような構造により、ナット660の緩み止めがなされる。
【0039】
以上、本実施形態に係る車両用駆動装置は、操舵によって操舵輪が向きを変えるとともに、ハブユニットが所定の揺動中心軸の周りを揺動した場合であっても、モーターの動力を車軸へ等速(等回転角速度)で伝達できる。また、上述した構造により、本実施形態に係る車両用駆動装置を操舵輪に適用した場合でも、第1のナックルに配置されたモーターは操舵方向に姿勢を変化させる必要はなく、第2のナックルに配置されたハブユニットのみがその方向を変化させる。したがって、操舵にともなってモーターが移動する空間を小さくできるので、モーターの容積を大きくできる。その結果、モーターの動力を大きくすることができる。
【0040】
また、本実施形態に係る車両用駆動装置は、等速ジョイントが一つでよいので、等速ジョイントを複数使用する装置と比較して、部品点数を削減できる。その結果、本実施形態に係る車両用駆動装置は、簡単な構造で、それぞれの操舵輪をそれぞれに対応したモーターで駆動することができる。さらに、本実施形態に係る車両用駆動装置は、構造が簡単になることにより、保守及び点検が容易になるとともに、質量も小さくすることができる。また、本実施形態に係る車両用駆動装置は、部品点数が少なくなることにより小型化でき、かつ製造コストを低減できる。このように、本実施形態に係る車両用駆動装置は、それぞれの操舵輪に対応したモーターで駆動する構造に適している。操舵輪は、通常前輪であるが、4WS(4 Wheel Steering)の後輪に本実施形態に係る車両用駆動装置を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明に係る車両用駆動装置は、それぞれの操舵輪をそれぞれに対応したモーターで駆動することに有用である。
【符号の説明】
【0042】
1 車両用駆動装置
2 車両
4 懸架装置
7 モーター
100 ロワアーム
200 第1のナックル
300 第2のナックル
301 外輪
400 緩衝装置
500 第1のジョイント
510 第1部材
520 第2部材
520a シャフト
520b フランジ
520c ボールジョイント
530 第3部材
540 第1の軸受
560 カラー
570 ナット
600 第2のジョイント
610 第4部材
620 第5部材
630 第2の軸受
650 カラー
660 ナット
700 モーター
701 シャフト
800 ハブユニット
801 ハブシャフト
802 ハブ軸受
900 等速ジョイント
901 動力伝達軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーターを動力発生装置とする車両に搭載される車両用駆動装置であり、
前記モーターのシャフトと連結される等速ジョイントを回転可能に支持するハブユニットと、
前記モーターを支持し、かつ前記車両と前記ハブユニットとの間に配置される緩衝装置に取り付けられる第1のナックルと、
前記第1のナックルに対して、所定の揺動中心軸の周りに揺動できるように前記第1のナックルに支持され、かつ前記ハブユニットを支持する第2のナックルと、を有し、
前記第2のナックルの揺動中心軸上に、前記等速ジョイントの揺動中心が配置されることを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
前記揺動中心軸は、前記緩衝装置の中心軸と平行に配置される請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記揺動中心軸を中心とし、かつ前記緩衝装置に遠い位置で前記第2のナックルを揺動できるように支持する第1の軸受と、
前記揺動中心軸を中心とし、かつ前記第1の軸受よりも前記緩衝装置から近い位置で前記第2のナックルを揺動できるように支持する第2の軸受と、
前記第1のナックルに設けられて、前記第1の軸受を支持する第1の連結機構と、
前記第1のナックルに設けられて、前記第2の軸受を支持する第2の連結機構と、
を有する請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記車両の懸架装置のロワアームに設けられ、かつ前記第1の軸受によって前記揺動中心軸の周りを回転できるように支持されるボールジョイントを有し、
前記第1のナックル及び前記第2のナックルは、前記ボールジョイントを介して前記ロワアームに支持される請求項3に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記モーターのシャフトと前記等速ジョイントとは、溝と、前記溝に噛み合う突起とを有する継ぎ手構造を介して連結されており、前記継ぎ手構造は、前記シャフトの回転軸と平行な方向に移動可能である請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−1017(P2012−1017A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135210(P2010−135210)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】