説明

車輪外力推定装置

【課題】車輪に作用する外力の推定値を車輪に作用する実外力に近づけることができる車輪外力推定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】車輪外力推定装置2は、車両ボデーと前記車輪とを連結支持するサスペンション1に作用する荷重に応じた出力信号Sを出力するセンサ21と、出力信号Sに対してサスペンション1の共振周波数Hf以上の周波数をカットオフ周波数とするローパスフィルタリング処理を行い、且つ、出力信号Sに対して微分演算して共振周波数を含む所定周波数帯内から選択された選択周波数に対応する角周波数により除算する微分演算処理を行い、共振周波数の周波数成分を含む第1信号S2を生成する第1信号生成部23と、出力信号Sから第1信号S2を除去した第2信号S3を生成する第2信号生成部24と、第2信号S3に基づき外力の推定値を演算する外力推定値演算部25とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車輪に作用する外力を推定する車輪外力推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の走行安定性を向上させるために、ドライバーの操作にメカニズム的な補助を与えてスリップ等の不安定な車体挙動を抑える車両制御システムがある。この車両制御システムは、例えば、ブレーキング時における車輪のロックを抑えるアンチロックブレーキングシステム(ABS)や、急加速時における車輪の空転を抑えるトラクション制御、車両の挙動安定化を総合的に制御するビークルスタビリティ制御(VSC)等である。
【0003】
そして、この車両制御システムを行うために、車輪に作用する外力を用いている。この車輪に作用する外力とは、例えば、路面摩擦力や垂直抗力である。ところで、直接的に車輪に作用する外力を検出するには、種々の問題が生じるため困難である。そこで、直接的に車輪に作用する外力を検出するのではなく、車輪に作用する外力を推定することが、例えば、特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1には、車両ボデーと車輪との間のサスペンションに作用する荷重に応じた出力信号を出力するセンサを備えることが開示されている。このセンサは、例えば、車両ボデーに防振ゴムを介して支持され車輪を連結支持するサスペンションフレームと車両ボデーとの相対変位量に応じた出力信号を出力する変位センサなどである。そして、当該センサにより出力される出力信号に基づいて車輪に作用する外力を推定している。
【特許文献1】特開2004−270832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記変位センサ等により出力される出力信号そのものを用いて算出された車輪に作用する外力の推定値と実験的に測定した車輪に作用する実外力とを比較した場合には、両者にずれが生じることが分かった。そのため、車輪に作用する実外力に対してずれた車両に作用する外力の推定値に基づき、アンチロックブレーキングシステム等の車両制御システムを機能させた場合には、適切な制御を行うことができないおそれがあった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、車輪に作用する外力の推定値を車輪に作用する実外力に近づけることができる車輪外力推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、車輪に作用する実外力に対する車輪に作用する外力の推定値のずれは、サスペンションの共振、いわゆる車体バネ下共振によるものであることを見出した。具体的には、変位センサにより出力される出力信号に対して周波数解析を行った結果、サスペンションの共振の影響により、出力信号はサスペンションの共振周波数付近の周波数帯において増幅していることが分かった。
【0008】
そこで、本発明者は、出力信号からサスペンションの共振により増幅した周波数成分を取り除く処理を行うことを思いついた。つまり、出力信号からサスペンションの共振周波数付近の周波数成分を抽出して、抽出した周波数成分を出力信号から除去することを思いついた。ここで、サスペンションの共振周波数付近の周波数成分を抽出するために、例えば、バンドパスフィルタを用いることが考えられる。しかし、バンドパスフィルタを用いてサスペンションの共振周波数付近の周波数成分を抽出すると、抽出される周波数成分は出力信号に対して時間の遅れる方向へずれが生じる。この時間の遅れる方向へのずれは、車輪に作用する外力の推定値にそのまま影響を及ぼす。つまり、抽出される周波数成分の時間の遅れる方向へのずれが大きい場合には、適切に車輪に作用する外力を推定することができないおそれがある。
【0009】
そこで、本発明者は、さらに研究を重ね、抽出されるサスペンションの共振周波数付近の周波数成分が出力信号に対して時間の遅れる方向へのずれを小さくすることができる車輪外力推定装置を発明した。
【0010】
本発明の車輪外力推定装置は、車輪に作用する外力を推定する車輪外力推定装置であって、センサと、第1信号生成部と、第2信号生成部と、演算部とを備えることを特徴とする。センサは、車両ボデーと前記車輪とを連結支持するサスペンションに作用する荷重に応じた出力信号を出力する。そして、この出力信号には、上述したように、サスペンションの共振周波数の周波数成分などの複数の周波数成分が含まれている。第1信号生成部は、前記出力信号に対して前記サスペンションの共振周波数以上の周波数をカットオフ周波数とするローパスフィルタリング処理を行い、且つ、前記出力信号に対して微分演算して前記共振周波数を含む所定周波数帯内から選択された選択周波数に対応する角周波数により除算する微分演算処理を行い、前記共振周波数の周波数成分を含む第1信号を生成する。第2信号生成部は、前記出力信号から前記第1信号を除去した第2信号を生成する。演算部は、前記第2信号に基づき前記外力の推定値を演算する。
【0011】
ここで、微分演算処理は、上述したように、前記出力信号に対して微分演算して、選択周波数に対応する角周波数により除算する処理である。ここで、サスペンションの共振周波数を含む所定周波数帯とは、サスペンションの共振周波数付近の周波数帯である。例えば、所定周波数帯とは、サスペンションの共振周波数の0.8〜1.2倍の周波数範囲などとする。そして、微分演算処理により、出力信号に含まれる周波数成分のうち選択周波数以下の周波数帯における周波数成分を低減することができる。つまり、微分演算処理により、出力信号に含まれる周波数成分のうちサスペンションの共振周波数付近の周波数より低い周波数帯の周波数成分が低減される。
【0012】
一方、ローパスフィルタリング処理は、出力信号に含まれる周波数成分のうちカットオフ周波数付近の周波数よりも高い周波数帯における周波数成分を低減することができる。ここで、カットオフ周波数はサスペンションの共振周波数以上の周波数であるので、ローパスフィルタリング処理により、出力信号に含まれる周波数成分のうち少なくともサスペンションの共振周波数よりも高い周波数帯の周波数成分が低減される。
【0013】
従って、第1信号生成部は、出力信号に対してローパスフィルタリング処理及び微分演算処理を行うことで、出力信号に含まれる周波数成分のうちサスペンションの共振周波数付近の周波数成分を確実に抽出した第1信号を生成することができる。
【0014】
ところで、ローパスフィルタリング処理により、ローパスフィルタリング処理前の信号に比べてローパスフィルタリング処理後の信号には時間遅れが生じる。つまり、ローパスフィルタリング処理を行うことにより、ローパスフィルタリング処理前の信号に比べてローパスフィルタリング処理後の信号は、時間の遅れる方向にずれが生じる。一方、微分演算処理により、微分演算処理後の信号には微分演算処理前の信号に比べて位相進みが生じる。つまり、微分演算処理を行うことにより、微分演算処理前の信号に比べて微分演算処理後の信号は、時間の進む方向にずれが生じる。従って、ローパスフィルタリング処理に加えて微分演算処理を行うことで、ローパスフィルタリング処理による時間遅れの時間(処理遅れ時間)の少なくとも一部に対して微分演算処理の位相進み時間により相殺することができる。つまり、微分演算処理を行うことで、ローパスフィルタリング処理による時間遅れを低減することができる。
【0015】
つまり、第1信号生成部により生成される第1信号は、サスペンションの共振周波数付近の周波数成分とすることができると共に、出力信号に対して時間の遅れる方向へのずれを小さくできる。
【0016】
そして、第2信号は、上述した第1信号を用いて処理された信号であり、具体的には、出力信号から第1信号を除去した信号である。ここで、第1信号は、出力信号に対して時間の遅れる方向へのずれが小さい信号である。従って、第2信号は、出力信号から適切にサスペンションの共振周波数付近の周波数成分を除去された信号とすることができる。そして、この第2信号を用いて、演算部が車輪に作用する外力を推定している。従って、本発明の車輪外力推定装置によれば、車輪に作用する外力の推定値を車輪に作用する実外力に近似させることができる。つまり、本発明の車輪外力推定装置により算出された車輪に作用する外力の推定値は、車輪に作用する実外力と比較すると、力のずれ及び時間のずれを小さくすることができる。
【0017】
また、本発明の車輪外力推定装置を構成する前記第1信号生成部は、以下のようにするとよい。第1の第1信号生成部としては、前記出力信号に対して前記ローパスフィルタリング処理を行いフィルタリング処理信号を生成するローパスフィルタリング処理部と、前記フィルタリング処理信号に対して前記微分演算処理を行い前記第1信号を生成する微分演算処理部とを備えるようにしてもよい。つまり、センサから出力された出力信号に対して、まずローパスフィルタリング処理を行い、その後に微分演算処理を行うようにする。
【0018】
第2の第1信号生成部としては、前記出力信号に対して前記微分演算処理を行い微分演算処理信号を生成する微分演算処理部と、前記微分演算処理信号に対して前記ローパスフィルタリング処理を行い前記第1信号を生成するローパスフィルタリング処理部とを備えるようにしもよい。つまり、センサから出力された出力信号に対して、まず微分演算処理を行い、その後にローパスフィルタリング処理を行うようにする。
【0019】
上述した第1及び第2の第1信号生成部は、何れも出力信号のうちサスペンションの共振周波数付近の周波数成分を抽出することができ、且つ、ローパスフィルタリング処理に伴う時間遅れを低減することができる。
【0020】
ここで、第1の第1信号生成部と第2の第1信号生成部とを比較する。微分演算処理を行うことにより、出力信号に含まれる周波数成分のうちサスペンションの共振周波数付近の周波数より低い周波数帯の周波数成分が低減される。正確には、微分演算処理を行うことにより、除算する角周波数に対応付けられる選択周波数よりも低い周波数帯の周波数成分が低減される。しかし、微分演算処理を行うことにより、出力信号に含まれる周波数成分のうちサスペンションの共振周波数付近の周波数よりも高い周波数帯の周波数成分は増幅する。
【0021】
一方、ローパスフィルタリング処理を行うことにより、出力信号に含まれる周波数成分のうちカットオフ周波数より高い周波数帯の周波数成分は低減される。また、ローパスフィルタリング処理を行ったとしても、カットオフ周波数より低い周波数帯の周波数成分はそれほど変化しない。そして、カットオフ周波数はサスペンションの共振周波数よりも高い周波数であるので、ローパスフィルタリング処理を行うことにより、サスペンションの共振周波数より高い周波数帯の周波数成分が低減される。
【0022】
つまり、第1の第1信号生成部においては、最初にローパスフィルタリング処理を行うので、サスペンションの共振周波数より高い周波数帯の周波数成分が大きく低減される。その後、微分演算処理を行うことで、サスペンションの共振周波数付近より高い周波数帯の周波数成分は増幅される。しかし、微分演算処理を行う前にローパスフィルタリング処理によりサスペンションの共振周波数より高い周波数帯の周波数成分が大きく低減されているので、微分演算処理により増幅されたとしても、その増幅幅を小さくすることができる。
【0023】
一方、第2の第1信号生成部においては、微分演算処理によりサスペンションの共振周波数付近より高い周波数帯の周波数成分が増幅された後に、ローパスフィルタリング処理によりサスペンションの共振周波数より高い周波数帯の周波数成分を低減している。そのため、一度増幅されたサスペンションの共振周波数より高い周波数帯の周波数成分をローパスフィルタリング処理により低減しようとしても、より高い低減効果を得ることができない。
【0024】
従って、第1の第1信号生成部が、第2の第1信号生成部に比べて、より確実にサスペンションの共振周波数よりも高い周波数帯の周波数成分を低減することができる。
【0025】
また、前記ローパスフィルタリング処理における前記カットオフ周波数は、前記共振周波数の2倍近傍の周波数であるとよい。ローパスフィルタリング処理を行った場合に、カットオフ周波数より低い周波数帯の周波数成分についても低減されることがある。しかし、カットオフ周波数をサスペンションの共振周波数の2倍近傍の周波数とすることで、確実にサスペンションの共振周波数付近の周波数成分が低減されることを抑制できる。つまり、カットオフ周波数をサスペンションの共振周波数の2倍近傍とすることで、出力信号のうちサスペンションの共振周波数付近の成分を確実に残留することができる。
【0026】
また、微分演算処理において、出力信号を除算する角周波数に対応付けられる選択周波数は、サスペンションの共振周波数とするとよい。このように、サスペンションの共振周波数に対応する角周波数により出力信号を除算することで、出力信号のうちサスペンションの共振周波数の周波数成分を確実に残留することができる。つまり、このような第1信号生成部を用いることで、より確実にサスペンションの共振周波数付近の周波数成分を抽出することができる。
【0027】
また、前記ローパスフィルタリング処理の処理遅れ時間は、前記微分演算処理による前記共振周波数付近の周波数成分の位相進み時間以下であるとよい。もちろん、処理遅れ時間は、位相進み時間と一致させるようにしてもよい。処理遅れ時間と位相進み時間を一致させることで、出力信号と第1信号とがサスペンションの共振周波数付近において、ほぼ一致することになる。つまり、出力信号と第1信号のサスペンションの共振周波数付近の時間のずれが生じることを防止できる。
【0028】
そして、処理遅れ時間を位相進み時間より短くした場合には、第1信号が、出力信号に比べて、時間の進む方向にずれが生じる。ただし、第1信号が時間の進む方向にずれているとしても、この第1信号を用いて第2信号を生成する際に、進んでいる時間を考慮して第2信号を生成することは容易である。つまり、処理遅れ時間を位相進み時間より短くすることで、この第1信号は、出力信号に対して時間のずれがない信号と同等の信号として用いることができる。
【0029】
なお、例えば、前記処理遅れ時間は、前記微分演算処理によるサスペンションの共振周波数の周波数成分の位相進み時間以下であるとよい。これにより、第1信号のうちサスペンションの共振周波数の周波数成分が、出力信号のうちサスペンションの共振周波数の周波数成分に対して、ローパスフィルタリング処理の時間遅れによる時間のずれが生じることを防止できる。
【0030】
また、前記サスペンションは、前記車輪が連結されるサスペンションフレームと、前記車両ボデーと前記サスペンションフレームとを弾性的に連結するゴムマウントとを備え、前記センサは、前記ゴムマウントに作用する荷重に応じた出力信号を出力するようにしてもよい。ここで、ゴムマウントに作用する荷重は、サスペンションフレームの各部に作用する荷重が合計された荷重に対応する。つまり、ゴムマウントに作用する荷重を用いることで、より高精度に車輪に作用する外力を推定することができる。
【0031】
また、前記サスペンションは、前記車輪が連結されるサスペンションフレームと、前記車両ボデーと前記サスペンションフレームとを弾性的に連結するゴムマウントとを備え、前記センサは、前記車両ボデーに対する前記サスペンションフレームの相対変位量に対応する出力信号を出力する変位センサとしてもよい。前記相対変位量は、例えば、直交3軸方向の相対変位量とするとよい。この直交3軸方向とは、例えば、車両前後方向、車両左右方向、及び車両上下方向などとする。そして、この変位センサにより出力される前記相対変位量は、サスペンションに作用する荷重さらにはゴムマウントに作用する荷重に対応している。つまり、変位センサを用いることで、確実にゴムマウントに作用する荷重に応じた出力信号を出力することができる。そして、その出力信号を用いて、車輪に作用する外力を確実に推定することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の車輪外力推定装置によれば、車輪に作用する外力の推定値を車輪に作用する実外力に非常に近似させることができる。つまり、本発明の車輪外力推定装置により算出された車輪に作用する外力の推定値は、車輪に作用する実外力と比較すると、力のずれ及び時間のずれを小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。以下に、本実施形態の車輪外力推定装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0034】
(1)サスペンション1の構成
まず、本実施形態の車輪外力推定装置による外力推定対象である車輪が連結されるサスペンション1の構成について図1を参照して説明する。図1は、サスペンション1を示す斜視図である。
【0035】
サスペンション1は、車両ボデー(図示せず)と車輪(図示せず)とを連結支持する懸架装置である。さらに、このサスペンション1は、路面からの衝撃や振動が車両ボデーに伝達されることを抑制する。このサスペンション1は、図1に示すように、左右の車輪の中間に配置され左右の車輪を連結支持するサスペンションフレーム11と、サスペンションフレーム11と車両ボデーとの間に介装されたゴムマウント12、・・、12とから構成される。
【0036】
サスペンションフレーム11は、車両ボデーの直下に配置される略矩形形状のサブフレーム13と、サブフレーム13と左右の車輪とをそれぞれ連結するロッド、リンク又はアーム等の連結部品14とから構成される。ゴムマウント12、・・、12は、サブフレーム13の四隅にそれぞれ配置され、車両ボデーとサブフレーム13とを弾性的に連結している。そして、路面からの衝撃や振動が車輪及びサスペンションフレーム11を介して伝達された場合であっても、ゴムマウント12、・・、12が変形することにより、前記衝撃や振動が車両ボデーに伝達されないようにしている。ここで、ゴムマウント12、・・、12は、車両前後方向、車両左右方向、及び車両上下方向に変形するようにされている。つまり、サブフレーム3が車両ボデーに対して車両前後方向、車両左右方向、及び車両上下方向に相対移動することができるようになる。
【0037】
(2)第1実施形態の車輪外力推定装置2の構成
次に、第1実施形態の車輪外力推定装置2の構成について図2を参照して説明する。図2は、第1実施形態の車輪外力推定装置2の構成を示すブロック図である。図2に示すように、車輪外力推定装置2は、複数の変位センサ21、・・、21と、車輪外力推定部22とから構成される。
【0038】
複数の変位センサ21、・・、21は、車両後側の2つのゴムマウント12、12付近に取り付けられて、車両ボデーに対するサブフレーム3の相対変位量を検出する。具体的には、変位センサ21、・・、21は、車両ボデーに対するサブフレーム3の車両前後方向(x方向)の相対変位量(Sx−LH、Sx−RH)、車両左右方向(y方向)の相対変位量(Sy)、及び車両上下方向(z方向)の相対変位量(Sz−LH、Sz−RH)の各変位量をそれぞれ検出する。そして、変位センサ21、・・、21は、検出した各変位量を電気信号に変換して車輪外力推定部22へ出力する。これらの変位センサ21、・・、21がそれぞれ出力する出力信号Sには、複数の周波数成分が含まれている。この出力信号Sを数1に示す。なお、この変位センサ21、・・、21としては、例えば、ホール素子を用いた磁気センサや渦電流センサなど種々の変位センサが適用できる。
【0039】
【数1】

【0040】
車輪外力推定部22は、第1信号生成部23と、第2信号生成部24と、外力推定演算部25とから構成される。第1信号生成部23は、変位センサ21、・・、21から出力される出力信号Sを取り込む。そして、第1信号生成部23は、それぞれの出力信号Sに対して第1信号処理を行う。第1信号処理とは、出力信号Sから主としてサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分を含む第1信号S2を生成する処理である。
【0041】
この第1信号生成部23は、共振周波数記憶部26と、ローパスフィルタリング処理部27と、微分演算処理部28とから構成される。共振周波数記憶部26は、車両前後方向、車両左右方向、及び車両上下方向におけるサスペンション1の共振周波数Hfをそれぞれ記憶している。ここで、例えば、車両前後方向におけるサスペンション1の共振周波数Hfは、約14.5Hzである。
【0042】
ローパスフィルタリング処理部27は、変位センサ21、・・、21から出力信号Sを取り込む。さらに、ローパスフィルタリング処理部27は、共振周波数記憶部26からサスペンション1の共振周波数Hfを取り込む。そして、ローパスフィルタリング処理部27は、変位センサ21、・・、21から取り込まれた出力信号Sに対してローパスフィルタリング処理を行い、フィルタリング処理信号S1を生成する。このフィルタリング処理信号S1を数2に示す。
【0043】
【数2】

【0044】
そして、ローパスフィルタリング処理は、出力信号Sに含まれる周波数成分のうちカットオフ周波数よりも高い周波数帯の周波数成分を低減する処理である。つまり、カットオフ周波数より高い周波数帯における数2の係数Dkは、数1の係数Ckに比べて小さくなっている。ここで、カットオフ周波数は、共振周波数記憶部26から取り込まれたサスペンション1の共振周波数Hfより高い周波数に設定される。従って、フィルタリング処理信号S1は、出力信号Sのうちサスペンション1の共振周波数Hfより高い周波数帯の周波数成分を除去され、出力信号Sのうちサスペンション1の共振周波数Hf以下の周波数成分を含む信号となる。
【0045】
ここで、カットオフ周波数は、サスペンション1の共振周波数Hfの2倍近傍の周波数とするとよい。この理由について簡単に説明する。ローパスフィルタリング処理により、カットオフ周波数より高い周波数帯の周波数成分は大きく低減される。ただし、ローパスフィルタリング処理により、カットオフ周波数より低い周波数帯の周波数成分についても僅かではあるが低減されることがある。しかし、カットオフ周波数をサスペンション1の共振周波数Hfの2倍近傍の周波数とすることで、ローパスフィルタリング処理が行われたとしても、サスペンション1の共振周波数Hf付近の周波数成分は低減されることなく確実に残すことができる。
【0046】
微分演算処理部28は、ローパスフィルタリング処理部27からフィルタリング処理信号S1を取り込む。さらに、微分演算処理部28は、共振周波数記憶部26からサスペンション1の共振周波数Hfを取り込む。そして、微分演算処理部28は、フィルタリング処理信号S1に対して微分演算して、サスペンション1の共振周波数Hfに対応する角周波数ωm(以下、「共振角周波数」という)を微分回数だけ累乗した値により除算する微分演算処理を行い、微分演算処理信号S2を生成する。すなわち、1回微分演算の微分演算処理の場合には、1回微分演算して共振角周波数ωmそのものにより除算する。また、2回微分演算の微分演算処理の場合には、2回微分演算して共振角周波数ωmの2乗により除算する。ここで、1回微分演算の微分演算処理の場合における微分演算処理信号S2について数3に示す。なお、微分演算処理信号S2は、上述した第1信号S2に相当する。
【0047】
【数3】

【0048】
ここで、数3から分かるように、共振角周波数ωm以下の角周波数ωkに対応付けられる周波数帯においては、第1信号S2はフィルタリング処理信号S1よりも小さくなる。一方、共振角周波数ωm以上の角周波数ωkに対応付けられる周波数帯においては、第1信号S2はフィルタリング処理信号S1よりも大きくなる。ただし、共振角周波数ωm以上の角周波数ωkに対応付けられる周波数帯におけるフィルタリング処理信号S1は、ローパスフィルタリング処理により大きく低減されている。
【0049】
ここで、車両前後方向における出力信号S及び第1信号S2について、図3を参照してさらに詳細に説明する。図3は、車両前後方向における出力信号S及び第1信号S2について、周波数に対する信号出力値を示す図である。なお、図3において、横軸の周波数Hfは、上述したサスペンション1の共振周波数Hfである。また、車両前後方向におけるサスペンション1の共振周波数Hfは、上述したように、約14.5Hzである。
【0050】
車両前後方向の出力信号Sの信号出力値は、図3の破線にて示すように、車両前後方向のサスペンション1の共振周波数Hf付近において、大きなピークが存在する。この出力信号Sに対してローパスフィルタリング処理及び微分演算処理を行った車両前後方向の第1信号S2の信号出力値は、図3の実線にて示すように、車両前後方向のサスペンション1の共振周波数Hf付近においては、出力信号Sの信号出力値と同等である。それに対して、車両前後方向のサスペンション1の共振周波数Hfより低い周波数帯及び共振周波数Hfより高い周波数帯において、第1信号S2の信号出力値は、出力信号Sの信号出力値に比べて小さくなっている。特に、車両前後方向のサスペンション1の共振周波数Hfから遠ざかるほど、第1信号S2の信号出力値は出力信号Sの信号出力値に比べてより小さくなっている。このように、第1信号S2は、出力信号Sに含まれる周波数成分のうち、主としてサスペンション1の共振周波数Hf付近の周波数成分を抽出された信号となっている。なお、車両左右方向及び車両上下方向における出力信号S及び第1信号S2の関係についても、車両前後方向における出力信号S及び第1信号S2の関係と同様の関係となる。
【0051】
ここで、出力信号Sと第1信号S2の時間のずれについて説明する。まず、第1信号S2は、上述したように、出力信号Sに対してローパスフィルタリング処理及び微分演算処理が行われた信号である。ここで、ローパスフィルタリング処理を行うことで、時間遅れを伴う。つまり、ローパスフィルタリング処理後の信号は、ローパスフィルタリング処理前の信号に比べて、時間の遅れる方向にずれが生じる。以下、この時間の遅れる方向のずれ時間を処理遅れ時間T1という。そして、この処理遅れ時間T1は、ローパスフィルタリング処理の種類などに応じて異なる。
【0052】
また、微分演算処理を行うことで、位相進みが生じる。すなわち、微分演算処理後の信号は、微分演算処理前の信号に比べて、時間の進む方向にずれが生じる。以下、この時間の進む方向のずれ時間を位相進み時間T2という。そして、この位相進み時間T2は、1回微分演算を行った場合には、周波数成分の周期の4分の1となる。つまり、第1信号S2は、フィルタリング処理信号S1に対して、それぞれの周波数成分の周期Tの4分の1だけ位相進み時間T2を生じる。例えば、車両前後方向のサスペンション1の共振周波数Hfは約14.5Hzであるので、車両前後方向の第1信号S2のうち車両前後方向のサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分の位相進み時間T2は、約17msecとなる。
【0053】
つまり、第1信号S2は、出力信号Sに対して、ローパスフィルタリング処理の処理遅れ時間T1と微分演算処理の位相進み時間T2との合計した時間だけずれを生じることになる。ここで、微分演算処理の位相進み時間T2は、微分回数及び周波数成分によって一定である。一方、ローパスフィルタリング処理の処理遅れ時間T1は、ローパスフィルタリング処理次第で自由に調整することが可能である。
【0054】
そこで、ローパスフィルタリング処理の処理遅れ時間T1を微分演算処理のサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分の位相進み時間T2に一致させるようにする。例えば、1回の微分演算処理を行う場合に、処理遅れ時間T1が約17msecとなるローパスフィルタリング処理を選定する。そうすると、車両前後方向の出力信号Sのサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分と車両前後方向の第1信号S2のサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分とに時間のずれが生じない。同様に、車両左右方向及び車両上下方向についても、ローパスフィルタリング処理の処理遅れ時間T1を適宜調整することで、車両左右方向及び車両上下方向の出力信号Sのサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分と車両左右方向及び車両上下方向の第1信号S2のサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分とに時間のずれが生じない。
【0055】
第2信号生成部24は、変位センサ21、・・、21から出力された出力信号Sを入力する。さらに、第2信号生成部24は、微分演算処理部28にて生成された第1信号S2を入力する。そして、第2信号生成部24は、出力信号Sから第1信号S2を除去する除去処理を行う。つまり、第2信号生成部24は、数4に示すように、出力信号Sから第1信号S2を除去した第2信号S3を生成する。従って、第2信号生成部24により生成される第2信号S3は、出力信号Sからサスペンション1の共振周波数Hf付近の周波数成分を除去した信号となる。
【0056】
【数4】

【0057】
第2信号S3は、それぞれの出力信号Sに対応する信号である。つまり、第2信号S3は、車両ボデーに対するサブフレーム3の車両前後方向(x方向)の相対変位量(Sx−LH、Sx−RH)、車両左右方向(y方向)の相対変位量(Sy)、及び車両上下方向(z方向)の相対変位量(Sz−LH、Sz−RH)に対応する信号からなる。すなわち、第2信号S3は、車両ボデーに対するサブフレーム3の車両前後方向(x方向)の処理後相対変位量(S3x−LH、S3x−RH)、車両左右方向(y方向)の処理後相対変位量(S3y)、及び車両上下方向(z方向)の処理後相対変位量(S3z−LH、S3z−RH)からなる。
【0058】
ここで、上述したように、第1信号S2は、出力信号Sと時間のずれがない信号となっている。従って、第2信号生成部24における除去処理の際に、ある時刻で見た場合に、出力信号Sのうちサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分と第1信号S2とが適切に一致又は近似している。従って、生成される第2信号S3は、出力信号Sから適切にサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分が除去された信号となる。
【0059】
外力推定値演算部25は、第2信号生成部24にて生成された第2信号S3を入力する。そして、外力推定値演算部25は、第2信号S3を用いて車輪に作用する外力の推定値Fを算出する。具体的には、外力推定値演算部25は、数5に示す演算式を用いて、外力の推定値Fを算出する。外力推定値演算部25により算出される車輪に作用する外力は、左右車輪に作用する車両前後方向(x方向)の推定外力(Fx−LH、Fx−RH)、左右車輪に作用する車両左右方向(y方向)の推定外力の合計値(Fy)、及び左右車輪に作用する車両上下方向(z方向)の推定外力(Fz−LH、Fz−RH)である。
【0060】
【数5】

【0061】
ここで、数5における係数K11〜K55及び定数項C1〜C5は、予め実測した実験データ等によって得られた車輪に作用する外力とサスペンション1の伝達力の相関をとった伝達関数を考慮した値としている。なお、数5中における係数K11〜K55や定数C1〜C5は、必要に応じてその値を書き換えることも可能である。このように書き換えを行うことで、例えば伝達関数が経時的あるいは条件的に変化するような場合にも、より高精度に対応することができる。
【0062】
このようにして算出された車輪に作用する外力の推定値Fのうち車両前後方向の推定値は、図4に示すようになる。ここで、図4は、ブレーキをかけた直後からの経過時間に対する車輪に作用する車両前後方向の外力の推定値Fを示す図である。なお、図4において、ブレーキをかけた後の経過時間が約6500msec付近に車両が停止している。後述するが、図4に示す車輪に作用する車両前後方向の外力の推定値Fは、車輪に作用する車両前後方向の実外力に非常に近似している。なお、図示しないが、車輪に作用する車両左右方向及び車両上下方向の外力の推定値Fについても、車輪に作用する車両左右方向及び車両上下方向の実外力に非常に近似している。
【0063】
そして、このようにして算出された車輪に作用する外力の推定値Fは、アンチロックブレーキングシステム(ABS)、トラクション制御、ビークルスタビリティ制御(VSC)等の車両制御システムの制御信号として利用することができる。つまり、本実施形態により算出された車輪に作用する外力の推定値Fを制御信号として利用することで、車両制御システムを適切に制御することができる。
【0064】
(3)上記処理を行わない場合の車輪に作用する外力の推定値について
次に、上述した第1信号生成部23の第1信号処理及び第2信号生成部24の除去処理を行わない場合における車輪に作用する車両前後方向の外力の推定値(以下、「未処理の外力の推定値」という)について図5を参照して説明する。なお、比較のため、車輪に作用する車両前後方向の実外力(以下、単に「実外力」という)について図6を参照する。図5及び図6は、何れもブレーキをかけた直後からの経過時間に対する未処理の外力の推定値及び実外力を示す図である。また、図5及び図6において、上述した図4と同様に、ブレーキをかけた後の経過時間が約6500msec付近に車両が停止している。
【0065】
ここで、図5に示す未処理の外力の推定値は、変位センサ21、・・、21から出力される出力信号Sそのものを用いて上述した外力推定値演算部25にて算出された値である。また、図6に示す実外力は、車軸6分力計を用いて計測した値である。
【0066】
図5及び図6を比較すると、図6に示す実外力に対して図5に示す未処理の外力の推定値は、全体的に振れが大きくなっていることが分かる。つまり、未処理の外力の推定値は、実外力に対して大きくずれていることになる。
【0067】
ここで、図5に示す未処理の外力の推定値と図6の実外力について、周波数解析を行った結果を図7に示す。図7は、周波数に対する車輪に作用する車両前後方向の外力について示す図である。図7に示すように、サスペンション1の共振周波数Hf付近において、未処理の外力の推定値は実外力よりも特に大きくなっていることが分かる。つまり、このサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分のずれが、図5に示す未処理の外力の推定値と図6の実外力とのずれに影響を及ぼしているものと考えられる。そして、このサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分のずれは、サスペンション1の共振作用によるものと考えられる。
【0068】
これに対して、上述した図4に示すように、本実施形態のように第1信号処理及び除去処理を行った信号を用いて算出した車輪に作用する外力の推定値Fは、図6に示す実外力に非常に近似している。つまり、変位センサ21、・・、21から出力される出力信号Sに対して第1信号処理及び除去処理を行って、サスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分を除去した信号を用いて車輪に作用する外力の推定値Fを算出することで、より高精度の外力の推定値を得ることができる。従って、本実施形態により算出された車輪に作用する外力の推定値Fを制御信号として利用することで、車両制御システムを適切に制御することができる。
【0069】
(4)第2実施形態の車輪外力推定装置3の構成
次に、第2実施形態の車輪外力推定装置3の構成について図8を参照して説明する。図8は、第2実施形態の車輪外力推定装置3の構成を示すブロック図である。なお、第2実施形態の車輪外力推定装置3において、第1実施形態の車輪外力推定装置2と同一構成については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0070】
第2実施形態の車輪外力推定装置3は、図8に示すように、変位センサ21、・・、21と、車輪外力推定部32とから構成される。車輪外力推定部32は、第1信号生成部33と、第2信号生成部24と、外力推定演算部25とから構成される。第1信号生成部33は、変位センサ21、・・、21から出力される出力信号Sを取り込む。そして、第1信号生成部33は、それぞれの出力信号Sに対して第1信号処理を行う。第1信号処理とは、出力信号Sから主としてサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分を含む第1信号S5を生成する処理である。
【0071】
この第1信号生成部33は、共振周波数記憶部26と、微分演算処理部34と、ローパスフィルタリング処理部35とから構成される。
【0072】
微分演算処理部34は、変位センサ21、・・、21から出力信号Sを取り込む。さらに、微分演算処理部34は、共振周波数記憶部26からサスペンション1の共振周波数Hfを取り込む。そして、微分演算処理部34は、出力信号Sに対して微分演算して、サスペンション1の共振周波数Hfに対応する共振角周波数ωmを微分回数だけ累乗した値により除算する微分演算処理を行い、微分演算処理信号S4を生成する。すなわち、1回微分演算の微分演算処理の場合には、1回微分演算して共振角周波数ωmそのものにより除算する。また、2回微分演算の微分演算処理の場合には、2回微分演算して共振角周波数ωmの2乗により除算する。ここで、1回微分演算の微分演算処理の場合における微分演算処理信号S4について数6に示す。
【0073】
【数6】

【0074】
ここで、数6から分かるように、共振角周波数ωm以下の角周波数ωkに対応付けられる周波数帯においては、微分演算処理信号S4は出力信号Sよりも小さくなる。一方、共振角周波数ωm以上の角周波数ωkに対応付けられる周波数帯においては、微分演算処理信号S4は出力信号Sよりも大きくなる。
【0075】
ローパスフィルタリング処理部35は、微分演算処理部34から微分演算処理信号S4を取り込む。さらに、ローパスフィルタリング処理部35は、共振周波数記憶部26からサスペンション1の共振周波数Hfを取り込む。そして、ローパスフィルタリング処理部35は、微分演算処理信号S4に対してローパスフィルタリング処理を行い、フィルタリング処理信号S5を生成する。このフィルタリング処理信号S5を数7に示す。なお、このフィルタリング処理信号S5は、上述した第1信号S5に相当する。
【0076】
【数7】

【0077】
なお、ローパスフィルタリング処理のカットオフ周波数は、共振周波数記憶部26から取り込まれたサスペンション1の共振周波数Hfの2倍近傍の周波数としている。また、カットオフ周波数より高い周波数帯における数7の係数Ekは、数6の係数Ckに比べて小さくなっている。そして、ローパスフィルタリング処理の処理遅れ時間T1は、微分演算処理のサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分の位相進み時間T2に一致させるようにする。これにより、出力信号Sのサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分と第1信号S5のサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分とに時間のずれが生じない。
【0078】
第2信号生成部24は、変位センサ21、・・、21から出力された出力信号Sを入力する。さらに、第2信号生成部24は、ローパスフィルタリング処理部35にて生成された第1信号S5を入力する。そして、第2信号生成部24は、出力信号Sから第1信号S5を除去する除去処理を行う。つまり、第2信号生成部24は、出力信号Sから第1信号S5を除去した第2信号S6を生成する。従って、第2信号生成部24により生成される第2信号S6は、出力信号Sからサスペンション1の共振周波数Hf付近の周波数成分を除去した信号となる。
【0079】
そして、外力推定値演算部25は、第2信号生成部24にて生成された第2信号S6を入力する。そして、外力推定値演算部25は、第2信号S6を用いて車輪に作用する外力の推定値Fを算出する。外力推定値演算部25による車輪に作用する外力の推定値Fの算出は、上述した第1実施形態にて説明したものと同様であるので、説明を省略する。
【0080】
外力推定値演算部25により算出された車輪に作用する外力の推定値Fは、車輪に作用する実外力に非常に近似している。そして、このようにして算出された車輪に作用する外力の推定値Fは、アンチロックブレーキングシステム(ABS)、トラクション制御、ビークルスタビリティ制御(VSC)等の車両制御システムの制御信号として利用することができる。つまり、本実施形態により算出された車輪に作用する外力の推定値Fを制御信号として利用することで、車両制御システムを適切に制御することができる。
【0081】
(5)その他の実施形態
上記実施形態においては、ローパスフィルタリング処理の処理遅れ時間T1と微分演算処理のサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分の位相進み時間T2とを一致させるようにしたが、これに限られるものではない。ローパスフィルタリング処理の処理遅れ時間T1が微分演算処理のサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分の位相進み時間T2以下であればよい。処理遅れ時間T1が位相進み時間T2より短い場合には、第1信号S2、S5が出力信号Sに対して時間の進む方向にずれが生じる。しかし、このような時間の進む方向へのずれは、第2信号生成部24において第1信号S2、S5を出力信号Sから除去する際に、第1信号S2、S5を容易に調整することができる。つまり、処理遅れ時間T1を位相進み時間T2以下とすることで、第2信号生成部24において出力信号Sから除去する第1信号S2、S5を出力信号Sに対して時間のずれが生じないものとして利用することができる。つまり、第2信号生成部24において生成される第2信号S3、S6は、出力信号Sから適切にサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分を除去した信号とすることができる。
【0082】
また、上記実施形態の微分演算処理においては、サスペンション1の共振周波数Hfに対応する共振角周波数ωmにより除算したが、これに限られるものではない。除算する角周波数ωは、サスペンション1の共振周波数Hf付近の周波数帯内から選択された選択周波数に対応する角周波数ωとすればよい。なお、除算する角周波数ωをサスペンション1の共振周波数Hfに対応する共振角周波数ωmにすることで、出力信号Sと第1信号S2、S5のサスペンション1の共振周波数Hfにおける周波数成分を一致させることができる。従って、除算する角周波数ωがサスペンション1の共振周波数Hfとは異なる選択周波数に対応する角周波数ωとした場合には、出力信号Sと第1信号S2、S5のサスペンション1の共振周波数Hfにおける周波数成分は僅かにずれを生じる。しかし、選択周波数をサスペンション1の共振周波数Hf付近とすることで、前記ずれは、非常に僅かである。従って、選択周波数をサスペンション1の共振周波数Hf付近とすることで、出力信号Sのうちサスペンション1の共振周波数Hf付近の周波数成分を主とする第1信号S2、S5を十分に抽出することができる。
【0083】
また、上記実施形態のローパスフィルタリング処理におけるカットオフ周波数は、サスペンション1の共振周波数Hfの2倍近傍としたが、これに限られるものではない。ローパスフィルタリング処理により処理前の信号のうちサスペンション1の共振周波数Hfの周波数成分が低減されることなく、残すことができるのであれば、カットオフ周波数はサスペンション1の共振周波数Hfの2倍よりも低い周波数としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】サスペンション1を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態の車輪外力推定装置2の構成を示すブロック図である。
【図3】車両前後方向における出力信号S及び第1信号S2について、周波数に対する信号出力値を示す図である。
【図4】ブレーキをかけた直後からの経過時間に対する車輪に作用する車両前後方向の外力の推定値Fを示す図である。
【図5】ブレーキをかけた直後からの経過時間に対する未処理の外力の推定値を示す図である。
【図6】ブレーキをかけた直後からの経過時間に対する実外力を示す図である。
【図7】周波数に対する車輪に作用する車両前後方向の外力について示す図である。
【図8】第2実施形態の車輪外力推定装置3の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0085】
1:サスペンション、 2、3:車輪外力推定装置、 11:サスペンションフレーム、 12:ゴムマウント、 13:サブフレーム、 14:連結部品、 21:変位センサ、 22、32:車輪外力推定部、 23、33:第1信号生成部、 24:第2信号生成部、 25:外力推定演算部、 26:共振周波数記憶部、 27、35:ローパスフィルタリング処理部、 28、34:微分演算処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に作用する外力を推定する車輪外力推定装置であって、
車両ボデーと前記車輪とを連結支持するサスペンションに作用する荷重に応じた出力信号を出力するセンサと、
前記出力信号に対して前記サスペンションの共振周波数以上の周波数をカットオフ周波数とするローパスフィルタリング処理を行い、且つ、前記出力信号に対して微分演算して前記共振周波数を含む所定周波数帯内から選択された選択周波数に対応する角周波数により除算する微分演算処理を行い、前記共振周波数の周波数成分を含む第1信号を生成する第1信号生成部と、
前記出力信号から前記第1信号を除去した第2信号を生成する第2信号生成部と、
前記第2信号に基づき前記外力の推定値を演算する演算部と、
を備えることを特徴とする車輪外力推定装置。
【請求項2】
前記第1信号生成部は、
前記出力信号に対して前記ローパスフィルタリング処理を行いフィルタリング処理信号を生成するローパスフィルタリング処理部と、
前記フィルタリング処理信号に対して前記微分演算処理を行い前記第1信号を生成する微分演算処理部と、
を備える請求項1記載の車輪外力推定装置。
【請求項3】
前記第1信号生成部は、
前記出力信号に対して前記微分演算処理を行い微分演算処理信号を生成する微分演算処理部と、
前記微分演算処理信号に対して前記ローパスフィルタリング処理を行い前記第1信号を生成するローパスフィルタリング処理部と、
を備える請求項1記載の車輪外力推定装置。
【請求項4】
前記カットオフ周波数は、前記共振周波数の2倍近傍の周波数である請求項1〜3の何れか一項に記載の車輪外力推定装置。
【請求項5】
前記選択周波数は、前記共振周波数である請求項1〜3の何れか一項に記載の車輪外力推定装置。
【請求項6】
前記ローパスフィルタリング処理の処理遅れ時間は、前記微分演算処理による前記共振周波数付近の周波数成分の位相進み時間以下である請求項1〜3の何れか一項に記載の車輪外力推定装置。
【請求項7】
前記処理遅れ時間は、前記微分演算処理による前記共振周波数の周波数成分の位相進み時間以下である請求項6記載の車輪外力推定装置。
【請求項8】
前記サスペンションは、前記車輪に連結されるサスペンションフレームと、前記車両ボデーと前記サスペンションフレームとを弾性的に連結するゴムマウントと、を備え、
前記センサは、前記ゴムマウントに作用する荷重に応じた出力信号を出力する請求項1記載の車輪外力推定装置。
【請求項9】
前記サスペンションは、前記車輪に連結されるサスペンションフレームと、前記車両ボデーと前記サスペンションフレームとを弾性的に連結するゴムマウントと、を備え、
前記センサは、前記車両ボデーに対する前記サスペンションフレームの相対変位量に対応する出力信号を出力する変位センサである請求項1記載の車輪外力推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−292575(P2006−292575A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114608(P2005−114608)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】