説明

配線構造とその製造方法

【課題】 誘電率の低い有機物を主成分とする層間絶縁膜層に接して金属又は化合物の薄層からなる拡散障壁層の相互間の結合が強く、その界面で剥離・脱離が発生することのない配線構造及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 誘電率の低い有機物を主成分とする層間絶縁膜層に接して金属又は化合物の薄層からなる拡散障壁層を堆積・被覆し、該拡散障壁層に接して導電部分を配設することによって構成される配線構造であって、層間絶縁膜層(有機絶縁膜層)30と拡散障壁層との界面付近に高速粒子照射により両側の部材を構成する原子又は分子が互いにミキシングされた状態のミキシング領域(ミキシング層31)を形成した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有機材料から成る低誘電率の層間絶縁膜層の上に拡散障壁層を形成した半導体デバイスの配線構造及びその製造方法に関し、特に層間絶縁膜層と拡散障壁層との境界領域への高速粒子ビーム照射の作用によって該境界領域に原子又は分子レベルのミキシング領域(混合層)を形成する過程を含むことを特徴とする配線構造及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年半導体デバイスの微細化、高集積化の動きが一段と激しくなった結果、酸化珪素系の層間絶縁膜層とアルミニウム系の導電体から成る従来の半導体デバイスにおいては配線間隔の狭小化及び配線電流密度の著しい増大によって、信号伝達のRC遅延(電気抵抗と静電容量による遅延)と導電体材料のエレクトロマイグレーション損傷が由々しい問題として浮上している。
【0003】そこで、この弊害を回避するために、半導体デバイスの層間絶縁膜層の材料を現在の酸化珪素系から誘電率の低い有機系のものへ、導電体の材料をアルミニウム系から、更に電気比抵抗の低い銅へと夫々、置き換えることが近い将来の当産業上の行き詰まりを打開するための必須の条件と見なされ、当業者の研究・開発の行動が活発化している。
【0004】しかしながら、有機材料からなる層間絶縁膜層に接して金属又は化合物等からなる拡散障壁層を堆積・形成しても通常のやり方では、相互の材料の性質の違いが大きいので、良好な付着・接合強度が得られず、堆積・形成後にこれらが熱的又は機械的負荷を受けることによって容易に拡散障壁層の剥離・脱落を起こし易いという重大な欠点がある。
【0005】例えば層間絶縁膜層に近い将来充当する有機材料の代表的なものにシロキサン系として、メチル基を持つ有機SODたるMSQ(Methyl Silsesquioxane)があり、一方シロキサンを含まない純粋材料として有機ポリマ〔ポリアリルエーテルや芳香族炭化水素等〕があって、その誘電率は2.5程度と次世代配線用として最有力な材料と考えられている(例えば、Electronic Journal 1998年8月号 P.91)。
【0006】これらの有機材料とこれに接して拡散障壁層を形成する金属又は化合物材料として常用されるものとでは、有機物−無機物という違いに加えて、分子構造、原子(分子)間距離はもとより、一般的な物理・化学的、熱的、及び機械的性質が著しく異なるので、両者を相互に密着・接合することは困難であって、もしできたとしてもその付着強度(結合強度)が著しく小さく、半導体デバイス製造プロセス中に受ける負荷や供用中の負荷によって相互間で剥離・脱離を起こし、製造工程の中断や供用開始後の機能停止に追い込まれるおそれがきわめて大きい。
【0007】そこで、従来技術によれば、拡散障壁層を形成する前に、その下地となる絶縁層の表面を物理的手段で粗化したり、化学的処理によって表面を活性化したりすることによって、その上に形成する拡散障壁層材料となじみやすくするような試みがなされてきた。しかし、拡散障壁層は本来厚さが10〜50nmと非常に薄い層なのでこれに対応する適正な粗度を得るのが困難で、且つ下地=絶縁層の微細な凹みの内面を最適の表面形態にするのは極めて難しい。また、化学的活性化処理は、廃液による公害問題が発生するおそれがあるので、その廃液処理に多大の出費を要するところから実用的に好ましくない。
【0008】他方、層間絶縁膜層表面を予め活性種(例えば水素ラジカル)と接触して下地表面を還元したりその原子結合を予め切断しておく(前処理)か又は、拡散障壁層堆積後に昇温による相互拡散や相互間の化合物形成を狙う(後処理)ことも考えられるが、両膜の材料の物性差が極めて大きいので、該前処理、後処理共に効果は少なく、かえって有害な反応生成物の現出と言う逆効果を生じることも考えられる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、誘電率の低い有機物を主成分とする層間絶縁膜層に接して金属又は化合物の薄層からなる拡散障壁層の相互間の結合が強く、その界面で剥離・脱離が発生することのない配線構造及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため請求項1に記載の発明は、誘電率の低い有機物を主成分とする層間絶縁膜層に接して金属又は化合物の薄層からなる拡散障壁層を堆積・被覆し、該拡散障壁層に接して導電部分を配設することによって構成される配線構造であって、層間絶縁膜層と拡散障壁層との界面付近に高速粒子照射により両側の部材を構成する原子又は分子が互いにミキシングされた状態のミキシング領域を形成したことを特徴とする。
【0011】請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の配線構造において、配線構造は微細なパターン状をなす層間絶縁膜層と拡散障壁層と導電部分とからなっており、該配線構造は半導体デバイスに設けられたものであることを特徴とする。
【0012】請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の配線構造において、層間絶縁膜層材料としてシロキサン系有機化合物か又はそれ以外の有機ポリマを充当し、導電部分の材料として銅を充当したものであることを特徴とする。
【0013】請求項4に記載の発明は、層間絶縁膜層に接して拡散障壁層を形成し、該拡散障壁層に接して導電部分を形成する配線構造の製造方法であって、層間絶縁膜層に接して拡散障壁層を形成する工程には所定の元素を堆積する成膜過程と、粒子ビームの照射を行う粒子ビーム照射過程とを含み、該成膜過程と粒子ビーム照射過程を夫々同時に、又は別々に、又は交互に繰返して実施することを特徴とする。
【0014】請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の配線構造の製造方法において、粒子ビーム照射過程は、粒子エネルギーを800eV以上で且つ2MeV以下の範囲の値とすることを特徴とする。
【0015】一般に薄膜堆積過程実行中又は薄膜堆積後に、該薄膜の上から高速のイオンビーム又は原子ビーム又は分子ビーム等のような高速粒子を照射することによって薄膜と下地との界面近傍で両者を構成する原子レベルでの混合=ミキシングを起こすことが知られている。ミキシングの生じた部分では通常結晶としての規則正しい格子配列が著しく乱された無秩序な原子の混合状態が得られる。このような無秩序な混合状態の領域から離れるに従って徐々に原子配列は高速粒子照射以前と同様の規則的なものへと遷移している。
【0016】2層の境界領域でこのように原子が相互に混合した構造の領域を持つことによって、本領域は極めて大きな付着強度(接合強度)を得ることが知られている。上記のように請求項1に記載の発明は、層間絶縁膜層と拡散障壁層との界面付近に高速粒子照射により両側の部材を構成する原子が互いにミキシングされた状態のミキシング領域を形成したので、層間絶縁膜層と拡散障壁層は大きな付着強度で結合されることになり、層間絶縁膜層と拡散障壁層との界面で剥離・脱離が発生するおそれはない配線構造となる。
【0017】図1は本来ならいかなる相手材とも接合することが殆ど困難なポリエチレンとSiをイオンビームを利用した成膜法(Si基材上へのクラスタイオンビーム法によるポリエチレン蒸着)によって付着したときの付着強度を示す(山田公「イオンビームによる薄膜設計」(1991.9 共立出版) P.108から抜粋)。通常接合や接着が殆ど又は100%不可能な材料の組合せにも拘らず、イオンの加速電圧とイオン電流を適切に選ぶことによって5〜15kgf/cm2もの付着強度が得られており、注目に値する特性を示す。これはイオン照射によって両材料の界面付近で原子のミキシングが生じたことに起因している以外には合理的な説明が不可能な現象と言える。
【0018】一般に基材に高速のイオンビーム、原子ビーム、分子ビーム等の高速粒子ビームを照射した場合、粒子の持つエネルギーによって基材表面に与える影響が異なっている。
【0019】図2は基材に高速の粒子ビームを照射したときの基材内部への衝突粒子の侵入深さの傾向と基材に与える主な作用を示す。粒子のエネルギーが大きくなるのに伴って、基材内部への粒子の侵入深さが増加し、基材の表面への蒸着から表面層のスパッタリング内部への注入・ミキシングへと主たる作用が遷移している。図2に示すように照射粒子エネルギー3keVから3MeVの間の範囲にあるときは特にミキシング作用が活発に起り、注入した粒子と衝突した基材の原子は格子からはじき出され、隣接する基材原子に次々と衝突する、所謂カスケード衝突を起こして格子欠陥を発生することがわかっている。このようなカスケード衝突に伴う原子の混合がミキシングの本質であり、前述の3keV〜3MeVの照射エネルギーの場合、ミキシングが最も激しく起る。
【0020】ミキシングが適度な深さで起きると基材表面上の堆積膜と基材との接合強度は著しく高くなる。これは堆積膜と基材の夫々の構成原子・分子がミキシングによって混合される結果によって生じる現象とされている。前述の図1ではこのミキシング作用をうまく使って元来付着し難い材料どうしを付着・接合することに成功している。このように、高速の粒子ビームのエネルギーを適正に制御して用いることによって、従来不可能とされた材料の組合せに対しても良好な付着・接合強度をもった成膜ができる。
【0021】そこで、高速粒子ビームの作用を使うことによって有機材料からなる層間絶縁膜層上にTaN、WN、TiN、TaSiN、WSiN、TiSiNのような化合物やTaからなる拡散障壁層を十分な付着(接合)強度をもって堆積することが可能となる。
【0022】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態例を図面に基づいて説明する。図3は本発明に係る配線構造を製造するための蒸着注入併用成膜装置の構成例を示す図である。図3において、1は成膜室であり、該成膜室1内にTaソース2を収容したるつぼ3が配置され、該るつぼ3の外周にはヒータ4を配置している。ヒータ4でるつぼ3を加熱することにより、成膜室1内にTa蒸気101を放射するようになっている。
【0023】また、成膜室1内にはイオン源5及び中和器6が配置され、イオン源5にN2ガス102を供給することにより、イオン源5からNイオンが発せられ該Nイオンは中和器6を通ってN粒子(原子)ビーム103となって基材ホルダ7に保持された半導体ウエハ等の基材8に照射されるようになっている。即ち、本蒸着注入併用成膜装置では、Taの蒸着と並行してN粒子ビーム103を照射するようになっており、この場合はTaNの合成の要素として、及び蒸着物質の基材8の内部でのミキシング作用を起こさせることを狙っている。
【0024】なお、上記成膜室1には原料ガスの導入口9、Ta蒸気101やN粒子ビーム103の基材への照射を遮蔽するシャッター10が設けられている。また、成膜室1には排気口11が設けられ、図示しない真空排気系に接続され、真空排気されるようになっている。
【0025】図3の成膜装置ではTa蒸気101の蒸着とN粒子ビーム103の照射を同時に行っても別々に又は交互に行っても良く、必要に応じて種々のデューティ操作を使いわけることが考えられる。また、図3ではNをN2ガス102として供給したが、場合によっては、ソース材料をTaNとしてイオン源5にArを供給して、高速Ar粒子ビームを照射することも可能である。また、ソース材料を使うことなく、これに替えて例えば導入口9からTaを含む原料ガスを導入することも可能となる。
【0026】図4は本発明に係る配線構造を製造するためのクラスタ粒子ビーム成膜装置の構成例を示す図である。図4において、図3と同一符号を付した部分は同一又は相当部分を示す。るつぼ3にはTaNソース12が配置され、該ソース12に電子銃13からの電子を照射することにより加熱し、発生したTa蒸気及びN2ガスをビーム104として基材8に照射するようになっている。なお、14は電子加速電極、15は電子放出源、16は加速電極、17は中和器、18はヒータである。ここではソース材料をTaNとしこれを夫々Ta、Nのクラスタ(塊状粒子集団)ビームの形で照射する方法をとっている。
【0027】図5〜図8は図3及び図4に示す成膜装置を用いて行う原料・ガス供給のデューティ操作と膜堆積・ミキシング状況の例を示す図である。図4の成膜装置での原料供給形態は、主としてTa蒸気101、N粒子ビーム103を同時に連続して照射することが多いが、一般に原料の一部を別の形態で供給することも可能であって、それに応じて図5〜図8に示す種々のものを実行することができる。
【0028】図5はTa粒子ビームとN粒子ビームを同時に連続供給することにより膜堆積・ミキシングを行う場合を示す図である。図5(a)に示すようにTa粒子ビーム104とN粒子ビーム103を所定の一定量で同時に連続して照射・供給することによって、図5(b)に示すように基材8(図示せず)の表面に形成された有機絶縁膜層30の表面にTaN膜層33の堆積・形成を行い、同時に該TaN膜層33と有機絶縁膜層30の界面近傍に両側の部材を構成する原子が互いにミキシングされた状態のミキシング層31を形成する。
【0029】図6はTa蒸気連続供給とN粒子ビームの断続供給により膜堆積・ミキシングを行う場合を示す図であり、図6(a)に示すように所定の一定量のTa蒸気101を連続供給すると共に、N粒子ビーム103を断続的に供給することによって、図6(b)に示すように基材8(図示せず)の表面に形成された有機絶縁膜層30の表面にTaN膜層33を堆積・形成すると共に、該TaN膜層33と有機絶縁膜層30の界面近傍に両側の部材を構成する原子が互いにミキシングされた状態のミキシング層31を形成する。
【0030】図7はTa蒸気とN粒子ビームの交互断続供給により膜堆積・ミキシングを行う場合を示す図である。図7(a)に示すように所定の一定量のTa蒸気101とN粒子ビーム103を交互断続的に供給し、基材8(図示せず)の表面に形成された有機絶縁膜層30に図7(b)、(c)に示すようにTaN膜層33の堆積・形成を行うことと並行して該TaN膜層33と有機絶縁膜層30の界面近傍に両側の部材を構成する原子が互いにミキシングされた状態のミキシング層31を形成する。
【0031】図8はTa蒸気供給後にN粒子ビームを供給して膜堆積・ミキシングを行う場合を示す図である。図8(a)に示すように所定の一定量のTa蒸気101を供給した後、所定の一定量のN粒子ビーム103を照射することによって基材8(図示せず)の表面に形成された有機絶縁膜層30に、図8(b)に示すようにTa膜層32の堆積・形成を行い、その後から該Ta膜層32をTaN膜層33に変換し、同時に該TaN膜層33と有機絶縁膜層30の界面近傍に両側の部材を構成する原子が互いにミキシングされた状態のミキシング層31を形成する。
【0032】図3及び図4に示す成膜装置では照射する粒子として生成したイオンそのものを用いてもよく、また中和器6、17を作動させることによって荷電粒子を中性の粒子に変換してから照射してもよい。半導体デバイスを製造する過程において過度の帯電が起り、それによって素子が損傷するおそれがある場合は、照射粒子としてはイオン等のような荷電粒子でなく、中和器6、17を作動させることによって得られる中性の原子又は分子ビームの方が望ましいことは言うまでもない。
【0033】上記図5〜図8に示すように、膜堆積とミキシングを同時に起こすことをダイナミックミキシングといい、膜堆積終了後にミキシングを起こすことをスタティックミキシングと呼んでいる。
【0034】図9は前述の高速粒子ビームを照射するための図3、図4とは別形態の高速粒子ビーム照射装置の構成例を示す図である。本高速粒子ビーム照射装置は、処理室41を具備し、該処理室にはガス導入口46、排気口47が設けられ、排気口47は図示しない真空排気系に接続され、真空排気されるようになっている。処理室41には基材43を載置する載置台42が回転可能に配置されている。また、処理室41の上部には基材43の表面と垂直方向から一定の角度(θ)傾斜した中心軸を持つ高速粒子ビーム源45が配置され、該高速粒子ビーム源45にArガス105を導入することにより、表面に皮膜44が形成された基材43に高速Ar原子線106を照射するようになっている。
【0035】ここで高速粒子ビーム源45としては公知の平行平板直流プラズマ式のもの(例えば特願平7−86542号の明細書及び図面)を用い、これのガス流方向の全長を通常よりはるかに短く(狭電極方式)(例えば、徳山巍「半導体ドライエッチング技術」(1992.10産業図書)P.241〜243、特願2000−254790の明細書及び図面)することによってプラズマの均一分布及び高プラズマ密度と全体の小型化を実現している。また、本方式では多数の小孔状ノズルから分子流領域の処理室41内へ高速Ar原子線106を吹出すので、アルゴン原子は互いに平行に処理室41内を飛行して基材43に衝突する。
【0036】また、図9に示すように基材43を載置した載置台42は処理中に回転し、更に高速Ar原子線106は基材表面に微細な凹みが形成されていても、凹み内部の側壁や深・底部を含む各部位までAr原子が到達し、拡散障壁層全体が下地の層間絶縁膜層と強く付着・接合する。当然のことながら、図9に示した高速粒子照射装置は上述の操作条件以外(異なるガス種や堆積層材料、中和機構の要否等)でも使うことができ、例えば、基材43表面にTaだけを堆積(成膜)して置き、Arの替りにN2ガスを供給することによって、TaNの合成及び高速窒素原子によるミキシング作用を起こすことも可能である。更に、図9のガス導入口46から原料ガスを導入することによって、図3及び図4に示す成膜装置と同様の働き(成膜+ミキシング)を行わせることもできる。
【0037】堆積膜の付着・接合強度の必要値を見積もるために図10(a)に示すように、半導体装置の配線部分として単位厚さで幅b、高さdの2次元の拡散障壁層51と導電路52からなる埋込み要素53を想定し、これが化学機械研摩工程中に回転研摩テーブル(図示せず)から作用する横方向の研摩摩擦力Fを受けて、図10(b)のように側壁面で一様に剥離する簡便モデルを考える。なお、図10において、Pは回転研摩テーブルに作用する平均接触面圧、54は基材(図示せず)表面に形成された有機絶縁膜層、55は拡散障壁層51が有機絶縁膜層54から剥離した剥離部をそれぞれ示す。
【0038】図10において、平均接触面圧Pが回転研摩テーブルに作用するとき単位厚さの埋込み要素53を横方向に移動させるように働く研摩摩擦力Fは次式(1)のようになる。
F=μPb (1)
ここでμは平均摩擦係数を示す。
【0039】研摩摩擦力Fによって拡散障壁層51の側面が均一に分離するときの単位面積当りの抵抗力(=付着・接合強度)をσとし底面での付着力の寄与を無視すれば、次式(2)が成立つ。
F=σd (2)
【0040】式(1)、(2)からσは次式(3)の形をとる。
σ=μPb/d (3)
【0041】ここで、安全のためμ=0.3とし、平均接触面圧Pは実機での最大予想値としてP=10kgf/cm2、アスペクト比は最小予測値としてd/b=1/4.5とすれば、式(3)からσ=13.5kgf/cm2となる。即ち、求める有機絶縁膜層54と拡散障壁層51の付着強度としては最低でも13.5kgf/cm2の値が必要となる。ここで、厳密には剥離の起きる過程では接合面の局部(最弱部)から界面分離が始まり、その剥離荷重は図10のモデルのように有機絶縁膜層54と拡散障壁層51の界面がその垂直方向に一気に分離するために必要な力よりも小さくなる。ここでは、前述のように簡単のため界面が同時に分離すると仮定している。
【0042】結論として、ミキシングを利用して必要な付着(接合)強度を得るためには、図1を参照することによって加速電圧は少なくとも800V以上(粒子エネルギーとしては800eV以上)にする必要があることがわかる。一方、図2から明らかなようにミキシング作用の起る最大エネルギーは3MeV程度であるが半導体デバイスに及ぼす損傷を緩和するため2MeVを上限とすると都合がよい。以上によって、望ましい粒子エネルギーの値の範囲は800eVから2MeVとなる。
【0043】図11は本発明に係る配線構造の製造過程の流れを示す図である。ステップST1において、基材表面に塗布等により有機ポリマの有機絶縁層を形成する。続いてステップST2において、有機絶縁層の表面にリソグラフィ・エッチングにより穴・溝を形成する。次にステップST3において、図3に示す成膜装置により粒子ビーム照射によるTaN等の拡散障壁層(バリア層)を形成すると共に、有機絶縁層との結合を強化する(有機絶縁層と拡散障壁層の界面近傍に両部材を構成する原子が互いにミキシングされた状態の領域を形成)。
【0044】次にステップST4において、スパッタリング、CVD或いは上記本発明に係る成膜方法によりシード層を形成し、続いてステップST5においてめっきにより配線埋込み(表面にシード層が形成された穴や溝内に配線部となる導電路を形成)を行う。もしくは、上記ステップST3で拡散障壁層を形成した後、ステップST6において直接リフロー・スパッタリング、CVD或いは上記本発明に係る成膜方法で配線埋込みを行う。ステップST3からステップST4、5へ移行するか、又はステップST6へ移行するかは配線の微細化の程度や実際面での必要に応じて選択する。上記配線埋込みが終了したらステップST7において、化学機械研摩(CMP)により広域平坦化を行う。
【0045】上記ステップST3の拡散障壁層の形成には、図3に示す成膜装置を用いる例を示したが、図4〜図9の説明で述べたような、種々のやり方を用いることもできる。上記ステップST1〜ステップST7の過程を配線層数に応じて繰返す。
【0046】
【発明の効果】以上説明したように各請求項に記載の発明によれば、下記のような優れた効果が得られる。
【0047】請求項1に記載の発明によれば、層間絶縁膜層と拡散障壁層との界面付近に高速粒子照射による両側の部材を構成する原子又は分子が互いにミキシングされた状態のミキシング領域を形成したので、層間絶縁膜層と拡散障壁層は大きな付着・接合強度で結合されることになり、剥離・脱離が発生することのない配線構造を提供できる。
【0048】請求項2に記載の発明によれば、上記配線構造を半導体デバイスに設けるので、剥離・脱離が発生することのない配線構造を有する半導体デバイスを提供できる。
【0049】請求項3に記載の発明によれば、絶縁膜材料としてシロキサン系有機化合物か又はそれ以外の有機ポリマを充当し、導電部分の材料として銅を充当したので、層間絶縁膜層と拡散障壁層の界面で剥離・離脱が発生することがなく、信号伝達のRC遅延が小さく、エレクトロマイグレーション損傷のない配線構造を提供できる。
【0050】請求項4に記載の発明によれば、層間絶縁膜層に接して拡散障壁層を形成する工程には所定の元素を堆積する成膜過程と、粒子ビームの照射を行う粒子ビーム照射過程とを含み、該成膜過程と粒子ビーム照射過程を夫々同時に、又は別々に、又は交互に繰り返して実施するので、層間絶縁膜層と拡散障壁層との界面付近に両側の部材を構成する原子又は分子が互いにミキシングされた状態のミキシング領域が形成される。その結果、層間絶縁膜層と拡散障壁層は大きな付着・接合強度で結合されるから、剥離・脱離が発生することのない配線構造を製造できる。
【0051】請求項5に記載の発明によれば、粒子エネルギーを800eV以上で且つ2MeV以下の範囲の値とするので、層間絶縁膜層と拡散障壁層との界面付近に両側の部材の原子又は分子のミキシング領域が十分形成されると共に、粒子エネルギーによりデバイスに損傷を与えることのない配線構造を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Si基材とポリエチレンの付着・接合強度とイオン加速電圧の関係を示す図である。
【図2】高速粒子ビームを照射したときの基材への侵入深さと主な表面現象と粒子エネルギーの関係を示す図である。
【図3】本発明に係る配線構造を製造するための蒸着注入併用成膜装置の構成例を示す図である。
【図4】本発明に係る配線構造を製造するためのクラスタ粒子ビーム成膜装置の構成例を示す図である。
【図5】本発明に係る配線構造の製造方法における原料ガス供給のデューティ操作と膜堆積・ミキシング状況の例を示す図である。
【図6】本発明に係る配線構造の製造方法における原料ガス供給のデューティ操作と膜堆積・ミキシング状況の例を示す図である。
【図7】本発明に係る配線構造の製造方法における原料ガス供給のデューティ操作と膜堆積・ミキシング状況の例を示す図である。
【図8】本発明に係る配線構造の製造方法における原料ガス供給のデューティ操作と膜堆積・ミキシング状況の例を示す図である。
【図9】本発明に係る配線構造を製造するための高速粒子ビーム照射装置の構成例を示す図である。
【図10】堆積膜の化学機械研摩(CMP)工程中の起り得る界面剥離モデルを示す図である。
【図11】本発明に係る配線構造の製造過程の流れを示す図である。
【符号の説明】
1 成膜室
2 Taソース
3 るつぼ
4 ヒータ
5 イオン源
6 中和器
7 基材ホルダ
8 基材
9 導入口
10 シャッター
11 排気口
12 TaNソース
13 電子銃
14 電子加速電極
15 電子放出源
16 加速電極
17 中和器
18 ヒータ
30 有機絶縁膜層
31 ミキシング層
32 Ta膜層
33 TaN膜層
41 処理室
42 載置台
43 基材
44 皮膜
45 高速粒子ビーム源
46 ガス導入口
47 排気口
51 拡散障壁層
52 導電路
53 埋込み要素
54 有機絶縁膜層
55 剥離部
101 Ta蒸気
102 N2ガス
103 N粒子ビーム
104 Ta粒子ビーム
105 Arガス
106 高速Ar原子線

【特許請求の範囲】
【請求項1】 誘電率の低い有機物を主成分とする層間絶縁膜層に接して金属又は化合物の薄層からなる拡散障壁層を堆積・被覆し、該拡散障壁層に接して導電部分を配設することによって構成される配線構造であって、前記層間絶縁膜層と前記拡散障壁層との界面付近に高速粒子照射により両側の部材を構成する原子又は分子が互いにミキシングされた状態のミキシング領域を形成したことを特徴とする配線構造。
【請求項2】 請求項1に記載の配線構造において、前記配線構造は微細なパターン状をなす層間絶縁膜層と拡散障壁層と導電部分とからなっており、該配線構造は半導体デバイスに設けられたものであることを特徴とする配線構造。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の配線構造において、前記層間絶縁膜層材料としてシロキサン系有機化合物か又はそれ以外の有機ポリマを充当し、前記導電部分の材料として銅を充当したものであることを特徴とする配線構造。
【請求項4】 層間絶縁膜層に接して拡散障壁層を形成し、該拡散障壁層に接して導電部分を形成する配線構造の製造方法であって、前記層間絶縁膜層に接して拡散障壁層を形成する工程には所定の元素を堆積する成膜過程と、粒子ビームの照射を行う粒子ビーム照射過程とを含み、該成膜過程と粒子ビーム照射過程を夫々同時に、又は別々に、又は交互に繰り返して実施することを特徴とする配線構造の製造方法。
【請求項5】 請求項4に記載の配線構造の製造方法において、前記粒子ビーム照射過程は、粒子エネルギーを800eV以上で且つ2MeV以下の範囲の値とすることを特徴とする配線構造の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図11】
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【図10】
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【公開番号】特開2002−176054(P2002−176054A)
【公開日】平成14年6月21日(2002.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−370601(P2000−370601)
【出願日】平成12年12月5日(2000.12.5)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】