説明

金属粒子分散液、金属粒子分散液の製造方法、導電膜形成基板の製造方法、電子デバイスおよび電子機器

【課題】分散媒中での分散性および安定性に優れ、配線、導電性パターン等の導電膜として加工する際に紫外線照射を併用することで焼成温度を低く抑えることのできる金属粒子分散液を提供すること、前記金属粒子分散液を容易かつ確実に製造することができる金属粒子分散液の製造方法を提供すること、性能、信頼性に優れた導電膜形成基板の製造方法、性能、信頼性に優れた電子デバイスおよび電子機器を提供すること。
【解決手段】本発明の金属粒子分散液は、硫黄原子を含む化合物と、貴金属材料を含む材料で構成され、粒径が1〜100nmの金属粒子と、分散媒とを含み、金属粒子が前記化合物で被包されていることを特徴とする。金属粒子は、主としてAgで構成されたものであるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粒子分散液、金属粒子分散液の製造方法、導電膜形成基板の製造方法、電子デバイスおよび電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性被膜(導電膜)は、ブラウン管の電磁波遮蔽、建材又は自動車の赤外線遮蔽、電子機器や携帯電話の静電気帯電防止剤、曇りガラスの熱線、回線基板やICカードの配線、樹脂に導電性を付与するためのコーティング、スルーホール、回路自体等の広い範囲に用途を有する。
導電性被膜の製造方法としては従来から、例えば、金属の真空蒸着、化学蒸着、イオンスパッタリング等が行われていた。しかしながら、これらの方法は真空系又は密閉系での作業を必要とするため、操作が煩雑な上、高価で量産性に乏しいという問題があった。
そこで、近年、金属粒子を分散媒に分散させた金属粒子分散液を塗布し、加熱焼成することにより導電性被膜を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、真空系または密閉系での作業を必要とせず、簡便な操作で、安価に導電性被膜を得ることができる。
【0003】
【特許文献1】特開2001−325831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような分散液では、通常は金属粒子を分散させるための分散剤が添加されている。この分散剤は分散液中では安定である必要があるが、分散液を塗布した後、金属膜に変換する際にはすみやかに分解除去される必要がある。
しかしながら、分散性を高めるために安定な分散剤を用いると、分散剤の除去が困難であり、金属膜に変換する際に高温が必要となったりする。また、最終的な金属膜に分散剤(有機物成分)が残留しやすく金属膜の抵抗値を小さくするのが困難であった。一方で、金属膜の抵抗を小さくするために分散剤の安定性を低くすると、分散液自体の分散性が低下して十分な分散性を確保するのが困難であり、特に、長期間にわたって安定した分散状態を保持するのが困難であった。
【0005】
本発明の目的は、分散媒中での分散性および安定性に優れ、配線、導電性パターン等の導電膜として加工する際に紫外線照射を併用することで焼成温度を低く抑えることのできる金属粒子分散液を提供すること、前記金属粒子分散液を容易かつ確実に製造することができる金属粒子分散液の製造方法を提供すること、性能、信頼性に優れた導電膜形成基板の製造方法、性能、信頼性に優れた電子デバイスおよび電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の金属粒子分散液は、硫黄原子を含む化合物と、
貴金属材料を含む材料で構成され、粒径が1〜100nmの金属粒子と、
分散媒とを含み、
前記金属粒子が前記化合物で被包されていることを特徴とする。
これにより、金属粒子の分散媒中での分散性および安定性に優れ、配線、導電性パターン等の導電膜として加工する際に紫外線照射を併用することで焼成温度を低く抑えることのできる金属粒子分散液を提供することができる。
【0007】
本発明の金属粒子分散液では、前記化合物は、分子内にメルカプト基とエステル基とを有するものであることが好ましい。
これにより、金属粒子の分散性および安定性を特に優れたものとすることができるとともに、金属粒子分散液を用いて形成される導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。また、導電膜を形成する際の焼成温度をより低いものとすることができる。また、紫外線の照射条件をより穏やかなものとした場合であっても、十分な導電性の導電膜を形成することができる。
【0008】
本発明の金属粒子分散液では、前記化合物は、一般式HS(CHCOOR(nは1〜5の整数、Rは炭素数1〜8の直鎖、分岐、または環状アルキル基)で表される化合物であることが好ましい。
これにより、金属粒子の分散性および安定性を特に優れたものとすることができるとともに、金属粒子分散液を用いて形成される導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。また、導電膜を形成する際の焼成温度をより低いものとすることができる。また、このような化合物は紫外線に対する反応性が高いため、紫外線の照射条件をより穏やかなものとした場合であっても、十分な導電性の導電膜を形成することができる。
【0009】
本発明の金属粒子分散液では、前記化合物の含有率が、前記金属粒子を構成する金属原子に対するモル比で0.1〜1であることが好ましい。
これにより、分散媒中における金属粒子の分散性を、より長期間にわたって特に優れたものとして好適に維持することができる。また、分散剤を除去する場合、より少ないエネルギーで除去することができる。
【0010】
本発明の金属粒子分散液では、前記化合物の平均分子量は、106〜260であることが好ましい。
これにより、分散媒中における金属粒子の分散性を、より長期間にわたって特に優れたものとして好適に維持することができる。また、分散剤を除去する場合、より少ないエネルギーで除去することができる。
【0011】
本発明の金属粒子分散液では、前記化合物は、分子内に硫黄原子を含む複素環式化合物であることが好ましい。
これにより、金属粒子の分散性および安定性を特に優れたものとすることができるとともに、金属粒子分散液を用いて形成される導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。また、導電膜を形成する際の焼成温度をより低いものとすることができる。また、紫外線の照射条件をより穏やかなものとした場合であっても、十分な導電性の導電膜を形成することができる。
【0012】
本発明の金属粒子分散液では、前記複素環式化合物の含有率が、前記金属粒子を構成する金属原子に対するモル比で0.1〜1であることが好ましい。
これにより、分散媒中における金属粒子の分散性を、より長期間にわたって特に優れたものとして好適に維持することができる。また、分散剤を除去する場合、より少ないエネルギーで除去することができる。
【0013】
本発明の金属粒子分散液では、前記複素環式化合物は、分子内に窒素原子を含むものであることが好ましい。
これにより、分散媒中における金属粒子の分散性を、より長期間にわたって特に優れたものとして好適に維持することができる。また、分散剤を除去する場合、より少ないエネルギーで除去することができる。
【0014】
本発明の金属粒子分散液では、前記複素環式化合物は、環状構造に窒素原子および/または硫黄原子を含むものであることが好ましい。
これにより、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合、形成される導電膜中に、複素環式化合物、およびその分解物である有機物が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
【0015】
本発明の金属粒子分散液では、前記複素環式化合物は、複素環に結合し、前記金属粒子を構成する金属原子に配位可能な基を有するものであることが好ましい。
これにより、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合、形成される導電膜中に、複素環式化合物、およびその分解物である有機物が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
【0016】
本発明の金属粒子分散液では、前記複素環式化合物の平均分子量は80〜300であることが好ましい。
これにより、分散媒中における金属粒子の分散性を、より長期間にわたって特に優れたものとして好適に維持することができる。また、分散剤を除去する場合、より少ないエネルギーで除去することができる。
【0017】
本発明の金属粒子分散液では、前記化合物は、炭素数が8〜18のチオールであることが好ましい。
これにより、金属粒子の分散性および安定性を特に優れたものとすることができるとともに、金属粒子分散液を用いて形成される導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。また、導電膜を形成する際の焼成温度をより低いものとすることができる。また、紫外線の照射条件をより穏やかなものとした場合であっても、十分な導電性の導電膜を形成することができる。
【0018】
本発明の金属粒子分散液では、前記金属粒子の平均粒径をA[nm]、前記チオールの含有率(前記貴金属原子に対するモル比)をXとしたとき、0.05/A≦X≦1/Aの関係を満足することが好ましい。
これにより、分散媒中における金属粒子の分散性を、より長期間にわたって特に優れたものとして好適に維持することができる。また、分散剤を除去する場合、より少ないエネルギーで除去することができる。
【0019】
本発明の金属粒子分散液では、前記金属粒子の粒度分布におけるピークの半値幅が、0.1〜3nmであることが好ましい。
これにより、金属粒子分散液中における金属粒子の含有率が比較的高い場合であっても、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、当該金属粒子分散液を導電膜の形成に用いる場合、形成すべき導電膜が微細なものであっても、容易かつ確実に形成することができる。
【0020】
本発明の金属粒子分散液では、金属粒子分散液は、前記化合物、前記金属粒子および前記分散媒に加え、β−ケトエステルを含むものであることが好ましい。
これにより、金属粒子の分散性および安定性を特に優れたものとすることができるとともに、金属粒子分散液を用いて形成される導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。また、導電膜を形成する際の焼成温度をより低いものとすることができる。また、紫外線の照射条件をより穏やかなものとした場合であっても、十分な導電性の導電膜を形成することができる。
【0021】
本発明の金属粒子分散液では、前記化合物として炭素数が8以上のチオールを含むことが好ましい。
これにより、分散媒中における金属粒子の分散性を、より長期間にわたって特に優れたものとして好適に維持することができる。また、分散剤を除去する場合、より少ないエネルギーで除去することができる。
【0022】
本発明の金属粒子分散液では、前記β−ケトエステルは、下記式(VIII)で示される構造を有するものであることが好ましい。
【化1】

これにより、金属粒子の分散性および安定性を特に優れたものとすることができるとともに、金属粒子分散液を用いて形成される導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。また、導電膜を形成する際の焼成温度をより低いものとすることができる。また、このような化合物は紫外線に対する反応性が高いため、紫外線の照射条件をより穏やかなものとした場合であっても、十分な導電性の導電膜を形成することができる。
【0023】
本発明の金属粒子分散液では、前記β−ケトエステルの含有率が、前記金属粒子を構成する金属原子に対するモル比で0.1〜0.4であることが好ましい。
これにより、分散媒中における金属粒子の分散性を、より長期間にわたって特に優れたものとして好適に維持することができる。また、分散剤を除去する場合、より少ないエネルギーで除去することができる。
【0024】
本発明の金属粒子分散液では、前記β−ケトエステルの平均分子量は、140〜400であることが好ましい。
これにより、分散媒中における金属粒子の分散性を、より長期間にわたって特に優れたものとして好適に維持することができる。また、分散剤を除去する場合、より少ないエネルギーで除去することができる。
【0025】
本発明の金属粒子分散液では、前記貴金属はAgであることが好ましい。
これにより、金属粒子の導電性を特に優れたものとすることができる。また、金属粒子分散液を用いて形成される導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
本発明の金属粒子分散液では、前記金属粒子の含有率が、10〜60wt%であることが好ましい。
これにより、分散液における金属粒子の分散性がより優れたものとなる。
【0026】
本発明の金属粒子分散液の製造方法は、
前記金属粒子を構成する貴金属元素の金属塩と、前記化合物と、水系極性液体と、当該水系極性液体と実質的に相溶しない非極性液体と、相間移動触媒とを含む二相液を調製する工程と、
前記二相液に還元剤を加え、前記化合物によって被包された前記金属粒子を形成する工程と、
前記非極性液体で構成される非極性液体相を前記金属粒子とともに分離する工程と、
分離した前記非極性液体相と炭素数が1〜3のアルコールとを混合し、前記金属粒子を沈殿させる工程と、
沈殿した前記金属粒子を分散媒として機能する液体中に分散する工程とを有することを特徴とする。
これにより、金属粒子の分散媒中での分散性および安定性に優れ、導電膜として加工する際に紫外線照射を併用することで焼成温度を低く抑えることのできる金属粒子分散液を容易かつ確実に製造することができる。
【0027】
本発明の導電膜形成基板の製造方法は、本発明の金属粒子分散液の製造方法を用いることを特徴とする。
これにより、性能、信頼性に優れた導電膜形成基板を製造することができる。
本発明の導電膜形成基板の製造方法は、
前記金属粒子分散液を基板に配置し塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、
前記塗布膜を導電膜に変換する導電膜形成工程と、を有し、
前記導電膜形成工程は、
前記塗布膜に紫外線を照射する紫外線照射工程と、
前記塗布膜に熱を加える加熱工程と、を含むことを特徴とする。
これにより、性能、信頼性に優れた導電膜形成基板を製造することができる。
【0028】
本発明の導電膜形成基板の製造方法では、前記加熱工程は、150度以下の加熱であることが好ましい。
これにより、製造工程における加熱温度をより低温に維持することができるため、導電膜形成基板の信頼性を特に優れたものとすることができる。
本発明の電子デバイスは、本発明の導電膜形成基板の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする。
これにより、性能、信頼性に優れた電子デバイスを提供することができる。
本発明の電子機器は、本発明の電子デバイスを備えることを特徴とする。
これにより、性能、信頼性に優れた電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
[金属粒子分散液]
まず、本発明の金属粒子分散液について説明する。
本発明の金属粒子分散液は、硫黄原子を含む化合物(以下、「硫黄含有化合物」とも言う)と、貴金属材料を含む材料で構成され、粒径が1〜100nmの金属粒子(分散質)と、分散媒とを含むものである。そして、金属粒子分散液中において、金属粒子は、硫黄原子を含む化合物(硫黄含有化合物)で被包されている。
なお、本発明において、金属粒子分散液とは、金属粒子が分散媒中に分散した液体のことを指し、例えば、コロイド液(コロイド溶液)を含む概念である。
【0030】
≪第1実施形態≫
まず、本発明の金属粒子分散液の第1実施形態について説明する。
本実施形態の金属粒子分散液は、主として貴金属材料で構成された金属粒子(分散質)と、分散媒と、分子内にメルカプト基およびエステル基を有する化合物(以下、「メルカプト基エステル基含有化合物」とも言う)とを含むものである。すなわち、本実施形態の金属粒子分散液は、硫黄含有化合物として、メルカプト基エステル基含有化合物を含むものである。
【0031】
<金属粒子>
金属粒子は、主として貴金属材料で構成されたものである。
金属粒子が、主として貴金属材料で構成されたものであることにより、例えば、金属粒子分散液を配線、導電性パターン等の導電膜の形成に用いた場合に、形成される導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。特に、貴金属材料は、一般に、優れた化学的安定性を有しているため、長期間にわたって優れた導電性を保持することができる。また、貴金属材料は、後に詳述する硫黄含有化合物(本実施形態でのメルカプト基エステル基含有化合物等)との親和性に優れるものであるため、金属粒子が貴金属材料で構成されたものであることにより、金属粒子分散液中における金属粒子の分散性は特に優れたものとなる。
【0032】
金属粒子は、主として貴金属材料で構成されたものであればよいが、貴金属材料を90wt%以上含むものであるのが好ましく、95wt%以上含むものであるのがより好ましく、実質的に貴金属材料のみで構成されたもの(例えば、貴金属材料の含有率が99.9wt%以上)であるのがさらに好ましい。これにより、上述したような効果はさらに顕著なものとして発揮される。
【0033】
金属粒子を構成する貴金属材料としては、例えば、Ag、Au、Pt、Pd、Ru、Rh、Os、Ir等が挙げられる。中でも、金属粒子を構成する貴金属材料としては、Agが好ましい。金属粒子が、主としてAgで構成されたものであると、Agは、各種貴金属材料の中でも特に優れた導電性を有しているため、例えば、金属粒子分散液を用いて形成される導電膜の導電性を、特に優れたものとすることができる。
なお、金属粒子は、実質的に単体としての金属で構成されたものであってもよいし、合金等のように、複数の成分で構成されたものであってもよい。また、金属粒子中には、貴金属材料(貴金属原子)以外の成分が含まれていてもよい。例えば、金属粒子中には、Cu、Al、Ni、Sn、Mg等の成分が含まれていてもよい。
【0034】
また、金属粒子の平均粒径は、1〜100nmであるが、3〜20nmであるのが好ましく、3〜7nmであるのがより好ましい。金属粒子の平均粒径が前記範囲内の値であると、金属粒子分散液中における金属粒子の含有率が比較的高い場合であっても、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、当該金属粒子分散液を導電膜の形成に用いる場合、形成すべき導電膜が、微細なものであっても、容易かつ確実に形成することができる。これに対し、金属粒子の平均粒径が前記下限値未満であると、金属粒子の含有率や硫黄含有化合物の含有率等によっては、この分散液から形成した導電膜中の残留有機物の成分が多くなり、導電膜の導電率が低下する傾向が現れるとともに、金属粒子分散液中における金属粒子の凝集が起こり易くなり、金属粒子の分散の安定性が低下する傾向が現れる。一方、金属粒子の平均粒径が前記上限値を超えると、金属粒子の含有率や硫黄含有化合物の含有率等によっては、金属粒子の分散の安定性が低下する傾向が現れる。また、金属粒子の平均粒径が前記上限値を超えると、例えば、当該金属粒子分散液を導電膜の形成に用いる場合、形成すべき導電膜を、十分に微細なものとして形成するのが困難になる可能性がある。
【0035】
また、金属粒子の粒度分布におけるピークの半値幅は、特に限定されないが、0.1〜3nmであるのが好ましく、0.5〜2nmであるのがより好ましい。金属粒子の粒度分布におけるピークの半値幅が前記範囲内の値であると、金属粒子分散液中における金属粒子の含有率が比較的高い場合であっても、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、金属粒子分散液中における各粒子の分散性のばらつきをより小さくすることができ、金属粒子分散液全体としての信頼性、安定性が特に優れたものとなる。また、例えば、当該金属粒子分散液を導電膜の形成に用いる場合、形成すべき導電膜が、微細なものであっても、容易かつ確実に形成することができる。
【0036】
また、金属粒子分散液中における金属粒子の含有率は、特に限定されないが、10〜80wt%であるのが好ましく、20〜60wt%であるのがより好ましく、40〜60wt%であるのがさらに好ましい。金属粒子の含有率が前記範囲内の値であると、金属粒子分散液中における金属粒子の良好な分散状態を長期間にわたって十分に保持することができる。また、例えば、当該金属粒子分散液を導電膜の形成に用いる場合、少量の金属粒子分散液で、導電膜を効率良く形成することができる。
【0037】
<分散媒>
分散媒は、金属粒子分散液中において、金属粒子を分散させる媒体として機能するものである。
分散媒を構成する材料としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、テルピネオール(例えば、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール等)等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、各種セロソロブ類等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ギ酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ぺンタン、ヘキサン、オクタン、トリデカン等の脂肪族炭化水素類(パラフィン系炭化水素類)、シクロへキサン、メチルシクロへキサン、テトラリン、リモネン等の脂環式炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキシルベンゼン、ヘブチルベンゼン、オクチルベンゼン、ノニルベンゼン、デシルベンゼン、ウンデシルベンゼン、ドデシルベンゼン、トリデシルベンゼン、テトラデシルベンゼンのような長鎖アルキル基を有するベンゼン類(アルキルベンゼン誘導体)、テトラリン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環類、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ミネラルスピリット等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。この中でも、分散媒としては、分子内に環状構造を有し、かつ、前記環状構造内に不飽和結合を有するもの(例えば、テルピネオール(例えば、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール等)、テトラリン、リモネン、各種芳香族炭化水素類、各種芳香族複素環類等)で構成されたものであるのが好ましい。分散媒が上記のような材料で構成されたものであると、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。
【0038】
<メルカプト基エステル基含有化合物>
上述したように、本実施形態の金属粒子分散液は、分子内にメルカプト基およびエステル基を備えたメルカプト基エステル基含有化合物を含むものである。
このように、メルカプト基エステル基含有化合物を含有することにより、金属粒子分散液中における金属粒子の分散性を優れたものとすることができること、特に、攪拌等を行わなくても長期間にわたって金属粒子の分散性を優れたものとすることができることを、本発明者は見出した。
【0039】
また、本発明者は、メルカプト基エステル基含有化合物を含有することにより、金属粒子含有分散液を金属配線等の導電膜の形成に好適に適用することができることを見出した。言い換えると、金属粒子含有分散液を用いて、所定の形状に成膜した後、得られた膜から分散媒および分散剤(メルカプト基エステル基含有化合物)を除去することにより得られる導電膜を形成した場合、所望の形状のパターン(特に、微細なパターン)を容易かつ確実に形成することができるとともに、形成される導電膜の導電性を特に優れたものとすることができることを、本発明者は見出した。
【0040】
これは、以下のような理由によるものであると考えられる。すなわち、分散剤としてのメルカプト基エステル基含有化合物は、金属微粒子への親和性、室温での安定性、低温での分解性を同時に兼ね備えており、これを分散剤として用いることで分散液は安定であるが、低温での加熱により分散剤がすみやかに分解除去されるためである。また、エステル基は、紫外線に対する反応性を持つため、焼成時に紫外線照射を併用することによってより低温での焼成で、分散剤の分解除去ができるためである。
【0041】
これに対し、メルカプト基エステル基含有化合物を含まない場合、上記のような効果は得られない。例えば、メルカプト基を有しかつエステル基を有さない化合物を用いた場合や、エステル基を有しかつメルカプト基を有さない化合物を用いた場合、メルカプト基を有しかつエステル基を有さない化合物と、エステル基を有しかつメルカプト基を有さない化合物とを併用した場合等には、本発明の効果は得られない。
【0042】
メルカプト基エステル基含有化合物は、分子内にメルカプト基とエステル基とを有するものであればいかなるものであってもよいが、例えば、一般式HS(CHCOOR(nは1〜5の整数、Rは炭素数1から8の直鎖、分岐、または環状アルキル基)で示される構造を有するものであるのが好ましい。
メルカプト基エステル基含有化合物が上記のような構造を有するものであることにより、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合に、形成される導電膜中に、メルカプト基エステル基含有化合物、およびその分解物である有機物が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
【0043】
また、メルカプト基エステル基含有化合物の平均分子量は、特に限定されないが、110〜250であるのが好ましく、120〜240であるのがより好ましく、130〜215であるのがさらに好ましい。メルカプト基エステル基含有化合物の平均分子量が前記範囲内の値であると、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合に、形成される導電膜中に、メルカプト基エステル基含有化合物が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
【0044】
金属粒子分散液中におけるメルカプト基エステル基含有化合物の含有率は、特に限定されないが、金属原子に対するモル比で0.1〜1であるのが好ましく、0.3〜1であるのがより好ましく、0.3〜0.5であるのがさらに好ましい。メルカプト基エステル基含有化合物の含有率が前記範囲内の値であると、金属粒子分散液中における金属粒子の含有率が比較的高い場合であっても、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合、形成される導電膜中に、メルカプト基エステル基含有化合物が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
【0045】
また、上述したような金属粒子分散液中には、他の成分が含まれていてもよい。例えば、金属粒子分散液中には、メルカプト基エステル基含有化合物以外の分散剤が含まれていてもよい。このような分散剤としては、例えば、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、りんご酸二ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、グリコール酸ナトリウム等のイオン性化合物、へキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、ノナンチオール、デカンチオール、ウンデカンチオール、ドデカンチオール、トリデカンチオール、テトラデカンチオール、ペンタデカンチオール等のチオール類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物等の界面活性剤、ゼラチン、アラビアゴム、アルブミン、ポリエチレンイミン、ポリビニルセルロース類、アルカンチオール類等の高分子化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
≪第2実施形態≫
次に、本発明の金属粒子分散液の第2実施形態について説明する。
本実施形態の金属粒子分散液は、主として貴金属材料で構成された金属粒子(分散質)と、分散媒と、分子内に窒素原子および硫黄原子を含む複素環式化合物とを含むものであり、前記複素環式化合物は、分散剤として機能するものである。すなわち、本実施形態の金属粒子分散液は、硫黄含有化合物として、分子内に硫黄原子を含む複素環式化合物を含むものである。言い換えると、本実施形態において、金属粒子分散液は、分散剤として機能する、分子内に硫黄原子を含む複素環式化合物(以下、単に「複素環式化合物」とも言う)を含有するものである。
【0047】
<金属粒子>
前述した第1実施形態と同様である。
貴金属材料は、硫黄含有化合物としての複素環式化合物との親和性に優れるものであるため、金属粒子が貴金属材料で構成されたものであることにより、金属粒子分散液中における金属粒子の分散性は特に優れたものとなる。
【0048】
<分散媒>
前述した第1実施形態と同様である。
<複素環式化合物(分散剤)>
上述したように、本実施形態の金属粒子分散液は、分散剤としての複素環式化合物を含有するものである。
このように、複素環式化合物を含有することにより、金属粒子分散液中における金属粒子の分散性を優れたものとすることができること、特に、攪拌等を行わなくても長期間にわたって金属粒子の分散性を優れたものとすることができることを、本発明者は見出した。
【0049】
また、本発明者は、複素環式化合物を含有することにより、金属粒子含有分散液を金属配線等の導電膜の形成に好適に適用することができることを見出した。言い換えると、金属粒子含有分散液を用いて、所定の形状に成膜した後、得られた膜から分散媒および分散剤を除去することにより得られる導電膜を形成した場合、所望の形状のパターン(特に、微細なパターン)を容易かつ確実に形成することができるとともに、形成される導電膜の導電性を特に優れたものとすることができることを、本発明者は見出した。
【0050】
これは、以下のような理由によるものであると考えられる。すなわち、分散剤としての複素環式化合物は、金属微粒子への親和性、室温での安定性、低温での分解性を同時に兼ね備えており、これを分散剤として用いることで分散液は安定であるが、低温での加熱により分散剤がすみやかに分解除去されるためである。また、複素環式化合物は紫外線に対する反応性を持つため、焼成時に紫外線照射を併用することによってより低温での焼成で、分散剤の分解除去ができるためである。
【0051】
これに対し、複素環式化合物を含まない場合、上記のような効果は得られない。例えば、複素環構造を有さない含硫黄化合物を用いた場合や、硫黄原子を含まない複素環式化合物(例えば、ヘテロ原子として、酸素原子、ホウ素原子、アルミニウム原子、ケイ素原子、リン原子、スズ原子、砒素原子、銅原子から選択される原子を含む複素環式化合物)を用いた場合等には、本発明の効果は得られない。
【0052】
複素環式化合物は、分子内に硫黄原子を含むものであればいかなるものであってもよく、例えば、複素環内に硫黄原子を含むもの(複素環を構成するヘテロ原子として硫黄原子を含むもの)であってもよいし、複素環外に硫黄原子を含むもの(複素環を構成するヘテロ原子が硫黄原子以外の原子であるもの)であってもよい。
複素環式化合物は、分子内に硫黄原子を含むものであればよいが、分子内に窒素原子を含むものであるのが好ましい。これにより、分散媒中における金属粒子の分散性を、より長期間にわたって特に優れたものとして好適に維持することができる。また、分散剤を除去する場合、より少ないエネルギーで除去することができる。
【0053】
複素環式化合物は、環状構造に不飽和結合を有するものであるのが好ましい。これにより、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合、形成される導電膜中に、複素環式化合物、およびその分解物である有機物が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
また、複素環式化合物は、環状構造に窒素原子および/または硫黄原子を含むものであるのが好ましい。これにより、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合、形成される導電膜中に、複素環式化合物、およびその分解物である有機物が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
【0054】
また、複素環式化合物は、複素環に結合し、金属粒子を構成する貴金属原子に配位可能な基を有するものであるのが好ましい。これにより、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合、形成される導電膜中に、複素環式化合物、およびその分解物である有機物が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。上記のような基(官能基)としては、例えば、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、水酸基等が挙げられるが、中でもメルカプト基が好ましい。複素環式化合物が複素環に結合する基として、メルカプト基を有するものであると、上記のような効果は、さらに顕著のものとして発揮される。
複素環式化合物としては、例えば、下記式(I)、式(II)、式(III)、式(IV)、式(V)、式(VI)、式(VII)で示される構造を有するもの等が挙げられる。
【0055】
【化2】

【0056】
【化3】

【0057】
【化4】

【0058】
【化5】

【0059】
【化6】

【0060】
【化7】

【0061】
【化8】

【0062】
中でも、上記式(I)または式(II)で示される構造を有するものが好ましい。複素環式化合物が上記のような構造を有するものであると、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合、形成される導電膜中に、複素環式化合物、およびその分解物である有機物が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
【0063】
また、複素環式化合物の平均分子量は、特に限定されないが、80〜300であるのが好ましく、85〜128であるのがより好ましく、90〜120であるのがさらに好ましい。複素環式化合物の平均分子量が前記範囲内の値であると、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合に、形成される導電膜中に、複素環式化合物が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
【0064】
金属粒子分散液中における複素環式化合物の含有率は、特に限定されないが、金属粒子を構成する金属原子に対するモル比で0.1〜1であるのが好ましく、0.3〜1であるのがより好ましく、0.3〜0.5であるのがさらに好ましい。複素環式化合物の含有率が前記範囲内の値であると、金属粒子分散液中における金属粒子の含有率が比較的高い場合であっても、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合、形成される導電膜中に、複素環式化合物が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
【0065】
また、上述したような金属粒子分散液中には、他の成分が含まれていてもよい。例えば、金属粒子分散液中には、複素環式化合物以外の分散剤が含まれていてもよい。このような分散剤としては、例えば、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、りんご酸二ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、グリコール酸ナトリウム等のイオン性化合物、へキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、ノナンチオール、デカンチオール、ウンデカンチオール、ドデカンチオール、トリデカンチオール、テトラデカンチオール、ペンタデカンチオール等のチオール類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物等の界面活性剤、ゼラチン、アラビアゴム、アルブミン、ポリエチレンイミン、ポリビニルセルロース類、アルカンチオール類等の高分子化合物、第1実施形態で説明したメルカプト基エステル基含有化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
≪第3実施形態≫
次に、本発明の金属粒子分散液の第3実施形態について説明する。
本実施形態の金属粒子分散液は、主として貴金属材料で構成された金属粒子(分散質)と、分散媒と、炭素数が8〜18のチオール(以下、単に「チオール」とも言う)とを含むものである。すなわち、本実施形態の金属粒子分散液は、硫黄含有化合物として、炭素数が8〜18のチオールを含むものである。
【0067】
<金属粒子>
前述した第1実施形態と同様である。
貴金属材料は、硫黄含有化合物としてのチオールとの親和性に優れるものであるため、金属粒子が貴金属材料で構成されたものであることにより、金属粒子分散液中における金属粒子の分散性は特に優れたものとなる。
【0068】
<分散媒>
前述した第1実施形態と同様である。
<チオール>
上述したように、本実施形態の金属粒子分散液は、炭素数が8〜18のチオールを分散剤として含有するものである。
このようなチオールとしては、例えば、オクタンチオール(1−オクタンチオール、2−オクタンチオール等)、ノナンチオール、デカンチオール、ウンデカンチオール、ドデカンチオール、トリデカンチオール、テトラデカンチオール、ペンタデカンチオール、ヘキサデカンチオール、ヘプタデカンチオール、オクタデカンチオールや、これらの分子内に置換基(例えば、ハロゲン基や2個目以上のメルカプト基等)が導入された化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、炭素数が8〜18のチオールとしては、例えば、分子内に2個以上のメルカプト基を有するものを用いてもよい。
【0069】
上記のようなチオールを含有することにより、金属粒子分散液中における金属粒子の分散性を優れたものとすることができる。そして、本発明者は、金属粒子の大きさと、金属粒子を好適に分散させるのに求められる分散剤の含有量との関係に着目し、鋭意研究を行った結果、上記のようなチオールを、前述した金属粒子の平均粒径との間で、所定の関係を満足するような含有率で含むことにより、金属粒子分散液中における金属粒子の分散性を非常に優れたものとすることができると同時に、金属粒子分散液を後述するような導電膜の形成に用いた場合に(特に、後述するような紫外線の照射を行う場合において)、比較的温和な条件(例えば、比較的低温)で処理した場合であっても、形成される導電膜中に、チオール(分散剤)が残存するのを効果的に防止することができ、形成される導電膜の導電性を特に優れたものとすることができることができることを見出した。
【0070】
本発明においては、以下のような関係を満足する。すなわち、金属粒子の平均粒径をA[nm]、金属粒子分散液中におけるチオールの含有率(前記貴金属原子に対するモル比)をXとしたとき、0.05/A≦X≦1/Aの関係を満足する。これにより上記のような優れた効果が得られる。これに対し、Xの値が、前記下限値未満の場合には、上記のような効果は得られず、金属粒子の分散状態を良好なものとすることができない(。また、チオールの含有率Xが前記上限値を超える場合には、金属粒子分散液を後述するような導電膜の形成に用いた場合、形成される導電膜中に、チオールが残存してしまい、形成される導電膜は、導電性に劣ったものとなる。
【0071】
上記式は次のような考えで導き出されている。例えば金属粒子の平均粒径が5nmである時は、上記式はチオールの金属原子に対するモル比が0.01〜0.2である場合に上記のような良好な結果が得られることを示している。これは、チオールが金属粒子の表面をすべて覆って保護するには不足する量(すべて覆うには粒径5nmの場合でおおむね0.3以上のモル比が必要)であるが、良好な分散性を得ることが可能な量であり、チオールの量がこの範囲であることによって、分散液状態での安定性と、低温での分解除去性(特に紫外線照射を併用した場合)が両立することを発明者らが見出したものである。
【0072】
ここで、分散液中の金属原子の総数が同じで粒径が大きくなったとすると、金属粒子一個の表面積は大きくなるが、金属粒子の総数がそれ以上に減るため、結果としてもとの粒子の場合と同じ割合で表面を覆うのに必要なチオールの量は粒径に反比例して少なくなる。すなわち粒径がAとなった場合には、粒径5nmの場合に0.01〜0.2であったチオールのモル比が、粒径に反比例した0.01×5/A〜0.2×5/Aとなることによって同様の効果が得られる(粒径が1〜100nmの場合には)ことを発明者らが見出し、これを式として表したものが上記式である。また、銀以外の貴金属原子からなる粒子や、貴金属の合金からなる粒子の場合でも、同じ個数の原子からなる粒子の直径はほとんど変化しないため、上記式は貴金属一般について同様に成り立つと考えられる。
【0073】
上述したように、本発明では、金属粒子の平均粒径をA[nm]、金属粒子分散液中におけるチオールの含有率(前記貴金属原子に対するモル比)をXとしたとき、0.05/A≦X≦1/Aの関係を満足するが、特に、0.1/A≦X≦1/Aの関係を満足するのが好ましく、0.2/A≦X≦0.5/Aの関係を満足するのがより好ましい。このような関係を満足することにより、上述したような効果はさらに顕著なものとして発揮される。
【0074】
また、上記のような効果は、炭素数が8〜18のチオールを用いた場合に得られるものであって、炭素数が8〜18のチオールの代わりに他の分散剤を用いた場合には得られない。言い換えると、分散剤として、炭素数が7以下のチオールや炭素数が19以上のチオール、あるいは、チオール以外の分散剤を用いた場合には、当該分散剤と、金属粒子との間で、上記のような関係を満足したとしても本発明の効果は得られない。
【0075】
金属粒子分散液中における炭素数が8〜18のチオールの含有率(前記貴金属原子に対するモル比)の具体的な値は、特に限定されないが、0.001〜0.5であるのが好ましく、0.01〜0.2であるのがより好ましい。炭素数が8〜18のチオールの含有率が前記範囲内の値であると、金属粒子分散液中における金属粒子の含有率が比較的高い場合であっても、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができると同時に、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合、形成される導電膜中に、チオールが残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
【0076】
また、上述したような金属粒子分散液中には、他の成分が含まれていてもよい。例えば、金属粒子分散液中には、炭素数が8〜18のチオール以外の分散剤が含まれていてもよい。このような分散剤としては、例えば、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、りんご酸二ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、グリコール酸ナトリウム等のイオン性化合物、ブタンチオール、ペンタンチオール、へキサンチオール、ヘプタンチオール等の炭素数が7以下のチオール、ノナデカンチオール、イコサンチオール等の炭素数が19以上のチオール、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物等の界面活性剤、ゼラチン、アラビアゴム、アルブミン、ポリエチレンイミン、ポリビニルセルロース類、アルカンチオール類等の高分子化合物、第1実施形態で説明したメルカプト基エステル基含有化合物、第2実施形態で説明した複素環式化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。このように、炭素数が8〜18のチオール以外の分散剤を含む場合、当該分散剤の金属粒子分散液中における含有率(前記チオールに対するモル比)は、0.5以下であるのが好ましい。
【0077】
≪第4実施形態≫
次に、本発明の金属粒子分散液の第4実施形態について説明する。
本実施形態の金属粒子分散液は、主として貴金属材料で構成された金属粒子(分散質)と、分散媒と、分散剤としての硫黄含有化合物と、分散助剤としてのβ−ケトエステルとを含むものである。すなわち、本実施形態の金属粒子分散液は、硫黄含有化合物等のほかに、さらに、β−ケトエステルを含むものである。
【0078】
<金属粒子>
前述した第1実施形態と同様である。
貴金属材料は、後に詳述するβ−ケトエステル等との親和性に優れるものであるため、金属粒子が貴金属材料で構成されたものであることにより、金属粒子分散液中における金属粒子の分散性は特に優れたものとなる。
【0079】
<分散媒>
前述した第1実施形態と同様である。
<分散剤およびβ−ケトエステル>
上述したように、本実施形態の金属粒子分散液は、分散剤としての硫黄含有化合物と、分散助剤としてのβ−ケトエステルとを含むものである。
このように、分散剤と、β−ケトエステルとを含有することにより、金属粒子分散液中における金属粒子の分散性を優れたものとすることができること、特に、攪拌等を行わなくても長期間にわたって金属粒子の分散性を優れたものとすることができることを、本発明者は見出した。
【0080】
また、本発明者は、分散剤と、β−ケトエステルとを含有することにより、金属粒子含有分散液を金属配線等の導電膜の形成に好適に適用することができることを見出した。言い換えると、金属粒子含有分散液を用いて、所定の形状に成膜した後、得られた膜から分散媒を除去することにより得られる導電膜を形成した場合、所望の形状のパターン(特に、微細なパターン)を容易かつ確実に形成することができるとともに、形成される導電膜の導電性を特に優れたものとすることができることを、本発明者は見出した。
【0081】
これは、以下のような理由によるものであると考えられる。すなわち、β−ケトエステルを用いることにより、分散剤とβ−ケトエステルとが相乗的に機能し合い、分散剤のみを用いた場合(β−ケトエステルを用いなかった場合)に比べて、分散剤の含有量(分散剤の含有量と分散助剤としてのβ−ケトエステルの含有量との和)を十分に低くしても、金属粒子の分散性を優れたものとすることができる。このため、導電膜の形成において、分散剤(およびβ−ケトエステル)の除去を容易かつ確実に行うことができる。その結果、形成される導電膜の導電性を特に優れたものとすることができるものと考えられる。
これに対し、分散剤とβ−ケトエステルとを含まない場合、上記のような効果は得られない。例えば、金属粒子分散液が、分散剤を含み、かつ、β−ケトエステルを含まないものである場合や、β−ケトエステルを含み、かつ、分散剤を含まないものである場合等には、本発明の効果は得られない。
【0082】
《分散剤》
分散剤は、主として金属粒子を分散させるために必要な機能を有するものである。
分散剤としては、例えば、へキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、ノナンチオール、デカンチオール、ウンデカンチオール、ドデカンチオール、トリデカンチオール、テトラデカンチオール、ペンタデカンチオール等のチオール類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の界面活性剤、ゼラチン、アラビアゴム、ポリビニルセルロース類、アルカンチオール類等の高分子化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
中でも、分散剤としては、炭素数が8以上のチオールが好ましい。これにより、分散剤とβ−ケトエステルとの相互作用がより効果的に発揮され、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合、形成される導電膜中に、分散剤やβ−ケトエステル等が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。炭素数が8以上のチオールとしては、例えば、オクタンチオール(1−オクタンチオール、2−オクタンチオール等)、ノナンチオール、デカンチオール、ウンデカンチオール、ドデカンチオール、トリデカンチオール、テトラデカンチオール、ペンタデカンチオールや、これらの分子内に置換基(例えば、ハロゲン基や2個目以上のメルカプト基等)が導入された化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、炭素数が8以上のチオールとしては、例えば、分子内に2個以上のメルカプト基を有するものを用いてもよい。
【0084】
また、金属粒子分散液が、炭素数が8以上のチオール(以下、単に「チオール」とも言う)を含むものである場合、当該チオールの平均分子量は、特に限定されないが、146〜300であるのが好ましく、160〜272であるのがより好ましく、188〜230であるのがさらに好ましい。チオールの平均分子量が前記範囲内の値であると、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合に、形成される導電膜中に、チオールが残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
【0085】
また、分散液中におけるチオールの含有率は、特に限定されないが、金属粒子を構成する金属原子に対するモル比で、0.1〜0.4であるのが好ましく、0.2〜0.3であるのがより好ましい。分散液中におけるチオールの含有率が前記範囲内の値であると、金属粒子分散液中における金属粒子の含有率が比較的高い場合であっても、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合、形成される導電膜中に、チオール等が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
また、分散剤としては、第1実施形態で説明したメルカプト基エステル基含有化合物、第2実施形態で説明した複素環式化合物等を用いてもよい。これにより、例えば、前述したような効果と、分散剤とβ−ケトエステルとを併用することによる効果とが、時相乗的に作用し、特に優れた効果が得られる。
【0086】
《β−ケトエステル》
β−ケトエステルは、エステル基を有し、そのβ位にケト基を有するものであればいかなるものであってもよいが、例えば、下記式(VIII)で示される構造を有するものであるのが好ましい。
【0087】
【化9】

【0088】
β−ケトエステルが上記のような構造を有するものであることにより、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合に、形成される導電膜中に、β−ケトエステル等が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。また、市販の試薬を用いて容易にβ−ケトエステルを合成することができる。
【0089】
また、β−ケトエステルの平均分子量は、特に限定されないが、140〜400であるのが好ましく、160〜370であるのがより好ましく、180〜330であるのがさらに好ましい。β−ケトエステルの平均分子量が前記範囲内の値であると、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合に、形成される導電膜中に、β−ケトエステル等が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
【0090】
β−ケトエステルの含有率は、金属原子とのモル比で、0.1〜1であるのが好ましく、0.3〜1であるのがより好ましく、0.3〜0.4であるのがさらに好ましい。このような条件を満足することにより、金属粒子分散液中における金属粒子の含有率が比較的高い場合であっても、金属粒子の分散性を特に優れたものとすることができる。また、例えば、金属粒子分散液を導電膜の形成に用いた場合、形成される導電膜中に、チオールやβ−ケトエステル等が残存するのをより確実に防止することができ、結果として、導電膜の導電性を特に優れたものとすることができる。
【0091】
[金属粒子分散液の製造方法(調製方法)]
上記のような金属粒子分散液は、いかなる方法で製造(調製)されたものであってもよいが、例えば、金属粒子を構成する貴金属元素の金属塩と、硫黄含有化合物と、水系極性液体と、水系極性液体と実質的に相溶しない非極性液体と、相間移動触媒とを含む二相液を調製する工程と、二相液に還元剤を加え、硫黄含有化合物によって被包された金属粒子を形成する工程と、非極性液体で構成される非極性液体相を金属粒子とともに分離する工程と、分離した非極性液体相と炭素数が1〜3のアルコールとを混合し、金属粒子を沈殿させる工程と、沈殿した金属粒子を分散媒として機能する液体中に分散する工程とを有する方法により、得ることができる。二相液を調製する工程においては、必要に応じて、β−ケトエステルを用いることができる。以下、金属粒子分散液の製造方法(調製方法)について、より具体的に説明する。
【0092】
(第1の方法)
まず、還元剤により、金属粒子に対応する金属元素の金属塩を、水系極性液体(相間移動触媒および硫黄含有化合物を含む)と非極性液体(当該水系極性液体と実質的に相溶しない)の二相液において還元して、分散剤(硫黄含有化合物)によって保護された金属粒子を形成する。還元剤による金属塩の還元は、二相液を攪拌により行うのが好ましい。これにより、粒径のばらつきが特に小さい金属粒子を得ることができる。
【0093】
本工程は、例えば、金属塩を含む二相液に、還元剤を混合することで行ってもよいし、金属塩を含む水系極性液体と、還元剤を含む非極性液体とを混合することで行ってもよい。
金属塩としては、例えば、硝酸銀、硫酸銀、塩化銀、酸化銀、酢酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、硫化銀等の銀塩、塩化金酸、塩化金カリウム、塩化金ナトリウム等の金塩、塩化白金酸、塩化白金、酸化白金、塩化白金酸カリウム等の白金塩、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、酸化パラジウム、硫酸パラジウム等のパラジウム塩、その他の貴金属の金属塩等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
水系極性液体としては、水または水との相溶性に優れた極性液体(例えば、25℃における水100gに対する溶解度が30g以上の液体)を用いることができ、例えば、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類等が挙げられる。
【0094】
また、非極性液体としては、水系極性液体と実質的に相溶しないもの(例えば、25℃における水100gに対する溶解度が1g未満の液体)であればいかなるものを用いてもよく、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ギ酸エチル等のエステル類、ぺンタン、ヘキサン、オクタン、トリデカン等の脂肪族炭化水素類(パラフィン系炭化水素類)、シクロへキサン、メチルシクロへキサン、テトラリン、リモネン等の脂環式炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキシルベンゼン、ヘブチルベンゼン、オクチルベンゼン、ノニルベンゼン、デシルベンゼン、ウンデシルベンゼン、ドデシルベンゼン、トリデシルベンゼン、テトラデシルベンゼンのような長鎖アルキル基を有するベンゼン類(アルキルベンゼン誘導体)、テトラリン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0095】
還元剤としては、例えば、ジメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、フェニドン、ヒドラジン等のアミン化合物、水酸化ホウ素ナトリウム、ヨウ化水素、水素ガス等の水素化合物、一酸化炭素、亜硫酸等の酸化物、硫酸第一鉄、塩化鉄、フマル酸鉄、乳酸鉄、シュウ酸鉄、硫化鉄、酢酸錫、塩化錫、二リン酸錫、シュウ酸錫、酸化錫、硫酸錫等の低原子価金属塩、ホルムアルデヒド、ハイドロキノン、ピロガロール、タンニン、タンニン酸、サリチル酸、D−グルコース等の糖等の有機化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの還元剤を使用する際には、光や熱を加えて還元反応を促進させてもよい。
【0096】
次に、分散剤(硫黄含有化合物)によって保護された金属粒子が分散している非極性液体相を分離し、分離した非極性液体相に炭素数が1〜3のアルコールを添加することによって金属粒子の分散性を低下させて、分散剤で保護された金属粒子を沈殿させる。必要があれば沈殿により得られた微粒子を取り出し、再び上記アルコールを加えて洗浄(不要な還元剤および相間移動触媒を取り除く)しても良い。またこの洗浄工程を数回繰り返しても良い。このようにして得られる金属粒子は、各粒子間での粒径のばらつきが小さく、不純物の少ないものである。
炭素数が1〜3のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール(n−プロパノール、イソプロパノール)等が挙げられる。
次に、沈殿した金属粒子を、分散媒として機能する液体中に分散する。これにより、金属粒子分散液が得られる。
【0097】
(第2の方法)
また、金属粒子分散液は、以下のようにして得ることもできる。
まず、金属粒子に対応する金属元素の金属塩と、炭素数が1〜3のアルコールとを含む液体と、硫黄含有化合物とを混合した後、還元剤を加え、攪拌する。
その後、この反応液を熟成し、金属粒子を沈殿させる。熟成期間は、特に限定されないが、例えば、5分〜20時間とすることができる。
【0098】
次に、沈殿した金属粒子を分散媒として機能する液体中に分散する。これにより、金属粒子分散液が得られる。
上記のような各方法を用いることにより、金属粒子の分散性に優れた金属粒子分散液を容易かつ確実に製造することができる。また、金属配線等の導電膜の形成に好適に適用することができる金属粒子分散液を容易かつ確実に製造することができる。
上述したような金属粒子分散液は、いかなる用途に用いられるものであってもよく、例えば、装飾品の製造(装飾パターンの形成)、導電膜の形成(配線パターンの形成等)等に適用することができるが、以下、導電膜の形成方法および当該方法により形成される導電膜について説明する。
【0099】
[導電膜の形成方法および導電膜]
本発明の導電膜は、上述したような金属粒子分散液を用いて形成されたものである。
本発明の導電膜は、例えば、以下のようにして形成することができる。
まず、導電膜を形成すべき基材上に、金属粒子分散液を付与する。
金属粒子分散液を付与する方法(成膜方法)は、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、液滴吐出法(例えばインクジェット印刷法)等の各種塗布法を用いることができる。中でも、液滴吐出法が好適である。液滴吐出法によれば、微細な形状の膜を容易かつ寸法精度よく形成することができる。
【0100】
その後、所定の形状に成膜された膜から、分散媒および金属粒子の表面を被包し保護している分散剤を除去する。これにより、導電膜が得られる。
分散媒および分散剤の除去は、いかなる方法で行ってもよいが、加熱(焼成)により行うのが好ましい。これにより、金属粒子間での接合(拡散)が進行し、得られる導電膜は、特に優れた導電性を有するものとなり、また、信頼性に優れたものとなる。
【0101】
加熱温度は、特に限定されないが、300℃以下であるのが好ましく、200℃以下であるのがより好ましく、150℃以下であるのがさらに好ましい。
また、加熱とともに、紫外線の照射を行うのが好ましい。これにより、比較的低い温度で、分散剤(硫黄含有化合物等)の除去を効率良く行うことができ、金属粒子間での接合(拡散)が十分に進行した導電膜を形成することができる。また、このようにして形成された導電膜は、特に優れた信頼性を有するものとなる。
【0102】
紫外線の照射を行う場合、加熱温度は、特に限定されないが、250℃以下であるのが好ましく、100〜200℃であるのがより好ましく、120〜180℃であるのがさらに好ましい。
また、紫外線の照射を行う場合、加熱方法は、特に限定されないが、赤外線照射により行うのが好ましい。これにより、基材温度の上昇を防止、抑制しつつ、膜を選択的に加熱することができる。
【0103】
紫外光は、400nm以下の波長成分を含むものであればよいが、1〜380nmの波長成分を主とするものであるのが好ましい。これにより、上述したような紫外線を用いることによる効果がさらに顕著なものとして発揮される。特に、硫黄含有化合物として、第1実施形態で説明したメルカプト基エステル基含有化合物、第2実施形態で説明した複素環式化合物を用いる場合や、第4実施形態で説明したβ−ケトエステルを分散剤(硫黄含有化合物)とともに用いる場合は、紫外光は、180〜360nmの波長成分を主とするものであるのが好ましく、240〜260nmの波長成分を主とするものであるのがより好ましい。また、硫黄含有化合物として、第3実施形態で説明した炭素数が8〜18のチオールを用いる場合は、紫外光は、30〜360nmの波長成分を主とするものであるのが好ましく、60〜260nmの波長成分を主とするものであるのがより好ましい。これにより、上述したような紫外線を用いることによる効果がさらに顕著なものとして発揮される。
【0104】
紫外光の照射強度は、特に限定されないが、例えば、0.5mW/cm以上であるのが好ましく、2mW/cm以上であるのがより好ましく、10mW/cm以上であるのがさらに好ましい。
紫外光の照射時間は、特に限定されないが、1秒〜5時間程度であるのが好ましい。
なお、上記のような紫外線の照射は、例えば、加熱と同時に行うものであってもよいし、加熱処理とは時間差をもって行うもの(例えば、加熱前や加熱後に行うもの)であってもよい。
上記のようにして形成される導電膜は、特に優れた導電性を有している。
このような導電膜は、電気抵抗率(比抵抗)が10μΩcm以下であるのが好ましく、5μΩcm以下であるのがより好ましい。
【0105】
[電子デバイス]
次に、このような導電膜を備える本発明の電子デバイスを、アクティブマトリックス駆動方式の透過型液晶表示装置に適用した場合を一例に説明する。
図1は、本発明を透過型液晶表示装置に適用した場合の実施形態を示す分解斜視図である。
【0106】
なお、図1では、図が煩雑となるのを避けるため一部の部材を省略している。また、以下の説明では、図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図1に示す透過型液晶表示装置100(以下、単に「液晶表示装置100」と言う。)は、液晶パネル(表示パネル)200と、バックライト(光源)600とを有している。
この液晶表示装置100は、バックライト600からの光を液晶パネル200に透過させることにより画像(情報)を表示し得るものである。
【0107】
液晶パネル200は、互いに対向して配置された第1の基板220と第2の基板230とを有し、これらの第1の基板220と第2の基板230との間には、表示領域を囲むようにしてシール材(図示せず)が設けられている。
そして、これらの第1の基板220、第2の基板230との間に、液晶層240が介挿されている。
【0108】
第1の基板220および第2の基板230は、それぞれ、例えば、各種ガラス材料等で構成されている。
第1の基板220は、その上面(液晶層240側の面)221に、マトリックス状(行列状)に配置された複数の画素電極223と、X方向に延在する信号電極224とが設けられ、1列分の画素電極223の各々が1本の信号電極224に、それぞれ、スイッチング素子222を介して接続されている。
ここで、スイッチング素子222には、TFD素子やTFT素子が挙げられる。
【0109】
たとえば、スイッチング素子222がTFD素子である場合、信号電極224から引き出された引き出し部228上に、絶縁膜を介して金属層229が積層されて構成され、金属層229が画素電極223に接続されている。なお、このスイッチング素子222は、金属/絶縁体/金属のサンドイッチ構造を採るため、正負双方向のダイオードスイッチング特性を有することになる。
【0110】
この信号電極224および引き出し部228が、それぞれ、本発明の導電膜で構成されている。
また、第1の基板220の下面には、偏光板225が設けられている。
一方、第2の基板230は、その下面(液晶層240側の面)231に、複数の帯状をなす走査電極232が設けられている。これらの走査電極232は、信号電極224とほぼ直交するY方向に沿って、互いに所定間隔をおいてほぼ平行に配置され、かつ、画素電極223の対向電極となるように配列されている。
画素電極223と走査電極232とが重なる部分(この近傍の部分も含む)が1画素を構成し、これらの電極間で充放電を行うことにより、各画素毎に、液晶層240の液晶が駆動、すなわち、液晶の配向状態が変化する。
【0111】
各走査電極232の下面には、それぞれ、赤(R)、緑(G)、青(B)の有色層(カラーフィルタ)233が設けられ、これらの各有色層233がブラックマトリックス234によって仕切られている。
また、第2の基板230の上面には、前記偏光板225とは偏光軸が異なる偏光板235が設けられている。
【0112】
このような構成の液晶パネル200では、バックライト600から発せられた光は、偏光板225で偏光された後、第1の基板220および各画素電極223を介して、液晶層240に入射する。液晶層240に入射した光は、各画素毎に配向状態が制御された液晶により強度変調される。強度変調された各光は、有色層233、走査電極232および第2の基板230を通過した後、偏光板235で偏光され、外部に出射する。これにより、液晶表示装置100では、第2の基板230の液晶層240と反対側から、例えば、文字、数字、図形等のカラー画像(動画および静止画の双方を含む)を視認することができる。
【0113】
このような液晶表示装置100は、各種電子機器の表示部に用いることができる。
なお、本発明の電子デバイスは、上記の液晶表示装置に限られず、例えば、有機または無機のエレクトロルミネッセンス装置、有機または無機の薄膜トランジスタ、電気泳動表示装置、非接触ICカード等に適用することもできる。すなわち、本発明の導電膜は、これらの電子デバイスが備える電極や配線等に適用することができる。
【0114】
[電子機器]
次に、上記のような電子デバイス(液晶表示装置)を備えた本発明の電子機器について説明する。
図2は、本発明を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【0115】
この図において、パーソナルコンピュータ1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示ユニット1106とにより構成され、表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。
このパーソナルコンピュータ1100においては、表示ユニット1106が前述の液晶表示装置(電気光学装置)100を備えている。
【0116】
図3は、本発明を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
この図において、携帯電話機1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206とともに、前述の液晶表示装置(電気光学装置)100を表示部に備えている。
【0117】
図4は、本発明を適用したデジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。なお、この図には、外部機器との接続についても簡易的に示されている。
デジタルスチルカメラ1300におけるケース(ボディー)1302の背面には、前述の液晶表示装置100が表示部に設けられ、CCDによる撮像信号に基づいて表示を行う構成になっており、被写体を電子画像として表示するファインダとして機能する。
【0118】
ケースの内部には、回路基板1308が設置されている。この回路基板1308は、撮像信号を格納(記憶)し得るメモリが設置されている。
また、ケース1302の正面側(図示の構成では裏面側)には、光学レンズ(撮像光学系)やCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
撮影者が液晶表示装置100に表示された被写体像を確認し、シャッタボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、回路基板1308のメモリに転送・格納される。
【0119】
また、このデジタルスチルカメラ1300においては、ケース1302の側面に、ビデオ信号出力端子1312と、データ通信用の入出力端子1314とが設けられている。そして、図示のように、ビデオ信号出力端子1312にはテレビモニタ1430が、デ−タ通信用の入出力端子1314にはパーソナルコンピュータ1440が、それぞれ必要に応じて接続される。さらに、所定の操作により、回路基板1308のメモリに格納された撮像信号が、テレビモニタ1430や、パーソナルコンピュータ1440に出力される構成になっている。
【0120】
なお、本発明は、図2のパーソナルコンピュータ(モバイル型パーソナルコンピュータ)、図3の携帯電話機、図4のデジタルスチルカメラの他にも、例えば、テレビや、ビデオカメラ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、タッチパネルを備えた機器(例えば金融機関のキャッシュディスペンサー、自動券売機)、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電表示装置、超音波診断装置、内視鏡用表示装置)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ、その他各種モニタ類、プロジェクター等の投射型表示装置等に適用することができる。
【0121】
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の金属粒子分散液の製造方法では、任意の目的の工程が1または2以上追加されてもよい。
また、本発明の金属粒子分散液は、前述したような製造方法以外の方法により、製造されたものであってもよい。例えば、前述した実施形態では、還元剤を用いて金属塩を還元するものとして説明したが、紫外線等の光、電子線、熱エネルギーを用いて還元させてもよい。
また、本発明の電子デバイスおよび電子機器では、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。
【実施例】
【0122】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[銀分散液(金属粒子分散液)の製造]
(サンプルNo.I−1)
1.23gのn−オクチルチオグリコレート(メルカプト基エステル基含有化合物)をトルエン100mlに溶解した溶液(メルカプト基エステル基含有化合物溶液)を用意した。
一方、1.02gの硝酸銀1水和物(金属塩)を20mlの水に溶解した後、14.6gのテトラオクチルアンモニウムブロマイド(相間移動触媒)を270mlのトルエンに溶解した溶液を加え、室温で30分間攪拌した。この溶液に、上記のメルカプト基エステル基含有化合物溶液を加え、さらに30分間攪拌し、トルエン−水二相液を得た。
【0123】
次に、2.28gのホウ素化水素ナトリウム(還元剤)を140mlの水に溶解した溶液を用意し、この溶液を、強攪拌している上記のトルエン−水二相液に滴下した。滴下終了後、さらに室温で3時間攪拌することにより銀の微粒子が分散した分散液を得た。溶液の攪拌をやめてしばらく静置するとトルエン相と水相に分離し、このとき、水相は無色透明であり、銀微粒子がトルエン相に存在することを確認した。水相を分離除去した後、トルエン相に740mlのエタノールを添加し、銀粒子を沈殿させた。沈殿した銀粒子を遠心分離機により完全に沈降させた後、トルエンを除去し、銀粒子を分離した。得られた銀粒子を、銀濃度が30wt%となるように、テトラリン中に分散させ、銀分散液(金属粒子分散液)を得た。得られた銀分散液中における銀粒子の粒径を動的散乱法(マルバーン社製、HPPS)により測定したところ、3.0nmであった。また、TEM観察でも結晶性の1次粒子が形成されていることが確認された。
【0124】
(サンプルNo.I−2)
銀粒子の分散において、テトラリンの代わりにリモネンを用いた以外は、前記サンプルNo.I−1と同様にして銀分散液を調製した。
(サンプルNo.I−3)
銀粒子の分散において、テトラリンの代わりにα−テルピネオールを用いた以外は、前記サンプルNo.I−1と同様にして銀分散液を調製した。
【0125】
(サンプルNo.I−4〜No.I−6)
メルカプト基エステル基含有化合物としてn−オクチルチオグリコレートの代わりに3−メルカプトプロピオン酸エチルを0.81g用いた以外は、前記サンプルNo.I−1〜No.I−3と同様にして銀分散液を調製した。
(サンプルNo.I−7〜No.I−9)
メルカプト基エステル基含有化合物としてn−オクチルチオグリコレートの代わりに6−メルカプトカプロン酸n−オクチルを1.57g用いた以外は、前記サンプルNo.I−1〜No.I−3と同様にして銀分散液を調製した。
【0126】
(サンプルNo.I−10〜No.I−12)
メルカプト基エステル基含有化合物としてn−オクチルチオグリコレートの代わりに8−メルカプトカプリル酸n−ノニルを1.82g用いた以外は、前記サンプルNo.I−1〜No.I−3と同様にして銀分散液を調製した。
(サンプルNo.I−13)
n−オクチルチオグリコレートの代わりにカプロン酸n−オクチルを1.37g用いた以外は、前記サンプルNo.I−1と同様にして銀分散液を調製した。この場合は合成時に銀が凝集して分散液は得られなかった。
【0127】
(サンプルNo.I−14)
n−オクチルチオグリコレートの代わりに8−メルカプトカプリル酸を1.06g用いた以外は、前記サンプルNo.I−1と同様にして銀分散液を調製した。
(サンプルNo.I−15)
n−オクチルチオグリコレートの代わりに1−ドデカンチオールを1.22g用いた以外は、前記サンプルNo.I−1と同様にして銀分散液を調製した。
上記の各サンプルについて、それぞれ、透過型電子顕微鏡によって得られた写真像から粒度分布を調べ、その平均粒径およびピークの半値幅をそれぞれ計測した。各サンプルについての銀分散液の条件を表1にまとめて示す。
【0128】
【表1】

【0129】
表1から明らかなように、本発明の金属粒子分散液は、粒径のばらつきが小さく、シャープな粒度分布を有するものであった。
【0130】
[分散液の安定性]
上記の各サンプルについて、それぞれ、20℃の環境下で3日間放置した後の銀粒子の分散性を以下の4段階の基準に従い評価した。
◎:分散質としての銀粒子は、極めて均一性の高い状態での分散状態を保持している。
○:銀粒子の沈殿等は認められないが、分散液中に銀粒子の大きさのばらつきに由来すると考えられる濃淡がわずかに認められる。
△:銀粒子の沈殿がわずかに認められる。
×:銀粒子の沈殿が顕著に認められる。
これらの結果を表2にまとめて示す。
【0131】
【表2】

【0132】
表2から明らかなように、本発明の金属粒子分散液は、金属粒子の分散の安定性に優れていた。
【0133】
[配線(導電膜)の作製]
(サンプルNo.II−1)
前記サンプルNo.I−1の銀分散液を、ガラス基板上に、インクジェット装置を用いて、ライン状のパターンで吐出した後、100℃で乾燥することにより成膜した。さらに、この膜上に同様に膜を形成する操作を繰り返して行った。
次に、得られた膜を150℃で60分間焼成することにより、線幅50μm、厚さ1μmの配線(導電膜)を形成した。なお、上記の焼成は、波長254nm、照射強度10mW/cmの紫外線を照射しつつ行った。
【0134】
(サンプルNo.II−2〜No.II−15)
前記サンプルNo.I−1の銀分散液の代わりに、サンプルNo.I−2〜No.I−15の銀分散液を用いた以外は、前記サンプルNo.II−1と同様にして配線(導電膜)を形成した。
(サンプルNo.III−1〜No.III−15)
焼成条件を250℃で10分間に変更した以外は、前記サンプルNo.II−1〜No.II−15と同様にして配線(導電膜)を形成した。
【0135】
[配線(導電膜)の評価]
上記サンプルNo.II−1〜No.II−15およびサンプルNo.III−1〜No.III−15の配線(導電膜)について、それぞれ、電気抵抗率(比抵抗)を測定した。
その結果を表3に示す。
【0136】
【表3】

【0137】
表3に示すように、本発明の配線(導電膜)は、いずれも電気抵抗率の低いものであった。さらに、比較例に比べて低温での焼成により配線を形成することが可能であった。
これに対し、比較例I−13は分散液ができず、II−13およびIII−13については評価することができなかった。これは、チオールがないので分散剤として働かないためである。
【0138】
また、比較例II−14およびII−15は、電気伝導が発現せず抵抗値を測定することができなかった。さらに、高温で焼成した比較例III−14およびIII−15においては、電気伝導は現れたが本発明と比べると抵抗の大きいものであった。これは、比較例I−14およびI−15がエステル基を有しないため、配線(導電膜)を形成する際に紫外線を照射しても効果が現れないためである。
【0139】
また、サンプルNo.III−1〜III−12の配線(導電膜)を用いて、図1〜図4に示すような電子デバイス、電子機器を製造した。その結果、信頼性に優れた電子デバイス、電子機器が得られることが確認された。
また、金属粒子として、金で構成された粒子、Ag−Pd合金で構成された粒子を用いた以外は、上記と同様にして金属粒子分散液を調製し、上記と同様な評価を行ったところ、上記と同様の結果が得られた。
【0140】
次に、本発明の他の具体的実施例について説明する。
[銀分散液(金属粒子分散液)の製造]
(サンプルNo.IV−1)
まず、下記式(IX)で示される2−メルカプト−5−メチル−1,3,4−チアジアゾール(複素環式化合物):0.72gをトルエン100mlに溶解した溶液(複素環式化合物溶液)を用意した。
【0141】
【化10】

【0142】
一方、1.02gの硝酸銀1水和物(金属塩)を20mlの水に溶解した後、14.6gのテトラオクチルアンモニウムブロマイド(相間移動触媒)を270mlのトルエンに溶解した溶液を加え、室温で30分間攪拌した。この溶液に、上記の複素環式化合物溶液を加え、さらに30分間攪拌し、トルエン−水二相液を得た。
次に、2.28gのホウ素化水素ナトリウム(還元剤)を140mlの水に溶解した溶液を用意し、この溶液を、強攪拌している上記のトルエン−水二相液に滴下した。滴下終了後、さらに室温で3時間攪拌することにより銀の微粒子が分散した分散液を得た。溶液の攪拌をやめてしばらく静置するとトルエン相と水相に分離し,このとき、水相は無色透明であり、銀微粒子がトルエン相に存在することを確認した。水相を分離除去した後、トルエン相に740mlのエタノールを添加し、銀粒子を沈殿させた。沈殿した銀粒子を遠心分離機により完全に沈降させた後、トルエンを除去し、銀粒子を分離した。得られた銀粒子を、銀濃度が10wt%となるように、トルエン中に分散させ、銀分散液(金属粒子分散液)を得た。得られた銀分散液中における銀粒子の粒径を動的散乱法(マルバーン社製、HPPS)により測定したところ、5nmであった。また、TEM観察でも結晶性の1次粒子が形成されていることが確認された。
【0143】
(サンプルNo.IV−2、No.IV−3)
2−メルカプト−5−メチル−1,3,4−チアジアゾールの使用量を変更し、銀分散液中における2−メルカプト−5−メチル−1,3,4−チアジアゾールの含有量を表4に示すように変更した以外は、前記サンプルNo.IV−1と同様にして銀分散液を調製した。
(サンプルNo.IV−4)
複素環式化合物として2−メルカプト−5−メチル−1,3,4−チアジアゾールの代わりに下記式(X)で示される2−メルカプトチアゾール(0.65g)を用いた以外は、前記サンプルNo.IV−1と同様にして銀分散液を調製した。
【0144】
【化11】

【0145】
(サンプルNo.IV−5)
複素環式化合物として2−メルカプト−5−メチル−1,3,4−チアジアゾールの代わりに下記式(XI)で示される5−メルカプト−1,2,3−トリアゾール(0.55g)を用いた以外は、前記サンプルNo.IV−1と同様にして銀分散液を調製した。
【0146】
【化12】

【0147】
(サンプルNo.IV−6)
分散液の調製において、複素環式化合物(分散剤)を用いなかった以外は、前記サンプルNo.IV−1と同様にして銀分散液を調製した。しかしこの場合は還元剤を添加した時点で銀が凝集し、分散液は得られなかった。
(サンプルNo.IV−7)
2−メルカプト−5−メチル−1,3,4−チアジアゾールの代わりに1−ドデカンチオール(1.1g)を用いた以外は、前記サンプルNo.IV−1と同様にして銀分散液を調製した。
【0148】
(サンプルNo.IV−8)
2−メルカプト−5−メチル−1,3,4−チアジアゾールの代わりに2,5−ジメチルフラン(0.52g)を用いた以外は、前記サンプルNo.IV−1と同様にして銀分散液を調製した。しかし、この場合も還元剤を添加した時点で銀が凝集し、分散液は得られなかった。
上記の各サンプルについて、それぞれ、透過型電子顕微鏡によって得られた写真像から粒度分布を調べ、その平均粒径およびピークの半値幅をそれぞれ計測した。各サンプルについての銀分散液の条件を表4にまとめて示す。
【0149】
【表4】

【0150】
表4から明らかなように、本発明の金属粒子分散液は、粒径のばらつきが小さく、シャープな粒度分布を有するものであった。
【0151】
[分散液の安定性]
上記の各サンプルについて、それぞれ、20℃の環境下で3日間放置した後の銀粒子の分散性を以下の4段階の基準に従い評価した。
◎:分散質としての銀粒子は、極めて均一性の高い状態での分散状態を保持している。
○:銀粒子の沈殿等は認められないが、分散液中に銀粒子の大きさのばらつきに由来すると考えられる濃淡がわずかに認められる。
△:銀粒子の沈殿がわずかに認められる。
×:銀粒子の沈殿が顕著に認められる。
これらの結果を表5にまとめて示す。
【0152】
【表5】

【0153】
表5から明らかなように、本発明の金属粒子分散液は、金属粒子の分散の安定性に優れていた。
【0154】
[配線(導電膜)の作製]
(サンプルNo.V−1)
前記サンプルNo.IV−1の銀分散液を、ガラス基板上に、インクジェット装置を用いて、ライン状のパターンで吐出した後、110℃で乾燥することにより成膜した。さらに、この膜上に同様に膜を形成する操作を繰り返して行った。
次に、得られた膜を150℃で60分間焼成することにより、線幅:50μm×厚さ:1μmの配線(導電膜)を形成した。なお、上記の焼成は、波長254nm、照射強度10mW/cmの紫外線を照射しつつ行った。
【0155】
(サンプルNo.V−2〜No.V−8)
前記サンプルNo.IV−1の銀分散液の代わりに、サンプルNo.IV−2〜No.IV−8の銀分散液を用いた以外は、前記サンプルNo.V−1と同様にして配線(導電膜)を形成した。
(サンプルNo.VI−1〜No.VI−8)
焼成条件を250℃10分間に変更した以外は、前記サンプルNo.V−1〜No.V−8と同様にして配線(導電膜)を形成した。
【0156】
[配線(導電膜)の評価]
上記サンプルNo.V−1〜No.V−8、およびVI−1〜VI−8の配線(導電膜)について、それぞれ、電気抵抗率(比抵抗)を測定した。
その結果を表6に示す。
【0157】
【表6】

【0158】
表6に示すように、本発明の配線(導電膜)は、いずれも電気抵抗率の低いものであった。さらに、比較例に比べて低温での焼成により配線を形成することが可能であった。
これに対し、比較例であるIV−6およびIV−8は分散液ができず、V−6およびV−8、VI−6およびVI−8については評価することができなかった。
また、比較例であるV−7は、電気伝導が発現せず抵抗値を測定することができなかった。さらに、高温で焼成した比較例であるVI−7においては、電気伝導は現れたが本発明と比べると抵抗の大きいものであった。
【0159】
また、サンプルNo.VI−1〜No.VI−5の導電膜を用いて、図1〜図4に示すような電子デバイス、電子機器を製造した。その結果、信頼性に優れた電子デバイス、電子機器が得られることが確認された。
また、金属粒子として、金で構成された粒子、Ag−Pd合金で構成された粒子を用いた以外は、上記と同様にして金属粒子分散液を調製し、上記と同様な評価を行ったところ、上記と同様の結果が得られた。
【0160】
次に、本発明の他の具体的実施例について説明する。
[銀分散液(金属粒子分散液)の製造]
(サンプルNo.VII−1)
まず、1−ドデカンチオール:0.55gをトルエン10mlに溶解した溶液(チオール溶液)を用意した。
一方、5.1gの硝酸銀1水和物(金属塩)を10mlの水に溶解した後、19.6gのテトラオクチルアンモニウムブロマイド(相間移動触媒)を50mlのトルエンに溶解した溶液を加え、室温で30分間攪拌した。この溶液に、上記のチオール溶液を加え、さらに30分間攪拌し、トルエン−水二相液を得た。
【0161】
次に、1.3gのホウ素化水素ナトリウム(還元剤)を200mlの水に溶解した溶液を用意し、この溶液を、強攪拌している上記のトルエン−水二相液に滴下した。滴下終了後、さらに室温で3時間攪拌することにより銀の微粒子が分散した分散液を得た。このとき、水相は無色透明であり、銀微粒子がトルエン相に存在することを確認した。水相を分離除去した後、トルエン相を3分の1に濃縮し、その後、70mlのエタノールを添加し、銀粒子を沈殿させた。沈殿した銀粒子を遠心分離機により完全に沈降させた後、トルエンを除去し、銀粒子を分離した。得られた銀粒子を、銀濃度が30wt%となるように、テトラリン中に分散させ、銀分散液(金属粒子分散液)を得た。得られた銀分散液中における銀粒子の粒径を動的散乱法(マルバーン社製、HPPS)により測定したところ、2nmであった。また、TEM観察でも結晶性の1次粒子が形成されていることが確認された。
【0162】
(サンプルNo.VII−2、No.VII−3)
ホウ素化水素ナトリウム(還元剤)の溶液をトルエン−水二相液に滴下した際における、トルエン−水二相液の攪拌および滴下条件を変更した以外は、サンプルNo.VII−1と同様にして銀分散液を調製した。
(サンプルNo.VII−4〜No.VII−8)
1−ドデカンチオールおよびテトラリンの使用量を変更し、銀分散液中における1−ドデカンチオールの含有量、銀分散液中における銀粒子の含有率を表7に示すように変更した以外は、サンプルNo.VII−1と同様にして銀分散液を調製した。
【0163】
(サンプルNo.VII−9〜No.VII−13)
1−ドデカンチオールおよびテトラリンの使用量を変更し、銀分散液中における1−ドデカンチオールの含有量、銀分散液中における銀粒子の含有率を表7に示すように変更した以外は、サンプルNo.VII−2と同様にして銀分散液を調製した。
(サンプルNo.VII−14〜No.VII−18)
1−ドデカンチオールおよびテトラリンの使用量を変更し、銀分散液中における1−ドデカンチオールの含有量、銀分散液中における銀粒子の含有率を表7に示すように変更した以外は、サンプルNo.VII−3と同様にして銀分散液を調製した。
【0164】
(サンプルNo.VII−19〜No.VII−21)
1−ドデカンチオールの代わりに、1−オクタンチオールを用いた以外は、サンプルNo.VII−1〜No.VII−3と同様にして銀分散液を調製した。
(サンプルNo.VII−22〜No.VII−24)
1−ドデカンチオールの代わりに、1−ヘキサンチオールを用いた以外は、サンプルNo.VII−1〜No.VII−3と同様にして銀分散液を調製した。
【0165】
(サンプルNo.VII−25〜No.VII−27)
1−ドデカンチオールの代わりに、1−イコサンチオールを用いた以外は、サンプルNo.VII−1〜No.VII−3と同様にして銀分散液を調製した。
(サンプルNo.VII−28)
銀粒子の分散において、テトラリンの代わりにリモネンを用いた以外は、前記サンプルNo.VII−1と同様にして銀分散液を調製した。
【0166】
(サンプルNo.VII−29)
銀粒子の分散において、テトラリンの代わりにα−テルピネオールを用いた以外は、前記サンプルNo.VII−1と同様にして銀分散液を調製した。
上記の各サンプルについて、それぞれ、透過型電子顕微鏡によって得られた写真像から粒度分布を調べ、その平均粒径およびピークの半値幅をそれぞれ計測した。各サンプルについての銀分散液の条件を表7、表8にまとめて示す。
【0167】
【表7】

【0168】
【表8】

【0169】
[分散液の安定性]
上記の各サンプルについて、それぞれ、20℃の環境下で3日間放置した後の銀粒子の分散性を以下の4段階の基準に従い評価した。
◎:分散質としての銀粒子は、極めて均一性の高い状態での分散状態を保持している。
○:銀粒子の沈殿等は認められないが、分散液中に銀粒子の大きさのばらつきに由来すると考えられる濃淡がわずかに認められる。
△:銀粒子の沈殿がわずかに認められる。
×:銀粒子の沈殿が顕著に認められる。
これらの結果を表9にまとめて示す。
【0170】
【表9】

【0171】
表9から明らかなように、本発明の金属粒子分散液は、金属粒子の分散の安定性に優れていた。
【0172】
[配線(導電膜)の作製]
(サンプルNo.VIII−1)
前記サンプルNo.VII−1の銀分散液を、ガラス基板上に、インクジェット装置を用いて、ライン状のパターンで吐出した後、110℃で乾燥することにより成膜した。さらに、この膜上に同様に膜を形成する操作を繰り返して行った。
次に、得られた膜を150℃で60分間焼成することにより、線幅:50μm×厚さ:1μmの配線(導電膜)を形成した。なお、上記の焼成は、波長254nm、照射強度10mW/cmの紫外線を照射しつつ行った。
【0173】
(サンプルNo.VIII−2〜No.VIII−29)
前記サンプルNo.VII−1の銀分散液の代わりに、サンプルNo.VII−2〜No.VII−29の銀分散液を用いた以外は、前記サンプルNo.VIII−1と同様にして配線(導電膜)を形成した。
(サンプルNo.IX−1〜No.IX−29)
焼成条件を250℃10分間に変更した以外は、前記サンプルNo.VIII−1〜No.VIII−29と同様にして配線(導電膜)を形成した。
【0174】
[配線(導電膜)の評価]
上記サンプルNo.VIII−1〜No.VIII−29およびNo.IX−1〜No.IX−29の配線(導電膜)について、それぞれ、電気抵抗率(比抵抗)を測定した。
その結果を表10に示す。
【0175】
【表10】

【0176】
表10に示すように、本発明の配線(導電膜)は、いずれも電気抵抗率の低いものであった。さらに、比較例に比べて低温での焼成により配線を形成することが可能であった。
これに対して、比較例の配線(導電膜)は、いずれも、本発明に比べて、抵抗の大きいものであった。
また、サンプルNo.VIII−1〜No.VIII−29のうち本発明における導電膜(比較例を除く)を用いて、図1〜図4に示すような電子デバイス、電子機器を製造した。その結果、本発明の導電膜を用いることにより、信頼性に優れた電子デバイス、電子機器が得られることが確認された。
また、金属粒子として、金で構成された粒子、Ag−Pd合金で構成された粒子を用いた以外は、上記と同様にして金属粒子分散液を調製し、上記と同様な評価を行ったところ、上記と同様の結果が得られた。
【0177】
次に、本発明の他の具体的実施例について説明する。
[銀分散液(金属粒子分散液)の製造]
(サンプルNo.X−1)
1.2gの1−ドデカンチオール(分散剤)と、4.8gの4,4,4−トリフルオロアセト酢酸イソプロピル(β−ケトエステル)とをトルエン10mlに溶解した溶液(分散剤/β−ケトエステル溶液)を用意した。
一方、5.1gの硝酸銀1水和物(金属塩)を10mlの水に溶解した後、19.6gのテトラオクチルアンモニウムブロマイド(相間移動触媒)を50mlのトルエンに溶解した溶液を加え、室温で30分間攪拌した。この溶液に、上記の分散剤/β−ケトエステル溶液を加え、さらに30分間攪拌し、トルエン−水二相液を得た。
【0178】
次に、1.3gのホウ素化水素ナトリウム(還元剤)を200mlの水に溶解した溶液を用意し、この溶液を、強攪拌している上記のトルエン−水二相液に滴下した。滴下終了後、さらに室温で3時間攪拌することにより銀の微粒子が分散した分散液を得た。 溶液の攪拌をやめてしばらく静置するとトルエン相と水相に分離し、このとき、水相は無色透明であり、銀微粒子がトルエン相に存在することを確認した。水相を分離除去した後、トルエン相を3分の1に濃縮し、その後、70mlのエタノールを添加し、銀粒子を沈殿させた。沈殿した銀粒子を遠心分離機により完全に沈降させた後、トルエンを除去し、銀粒子を分離した。得られた銀粒子を、銀濃度が30wt%となるように、テトラリン中に分散させ、銀分散液(金属粒子分散液)を得た。得られた銀分散液中における銀粒子の粒径を動的散乱法(マルバーン社製、HPPS)により測定したところ、5nmであった。また、TEM観察でも結晶性の1次粒子が形成されていることが確認された。
【0179】
(サンプルNo.X−2)
銀粒子の分散において、テトラリンの代わりにリモネンを用いた以外は、前記サンプルNo.X−1と同様にして銀分散液を調製した。
(サンプルNo.X−3)
銀粒子の分散において、テトラリンの代わりにα−テルピネオールを用いた以外は、前記サンプルNo.X−1と同様にして銀分散液を調製した。
【0180】
(サンプルNo.X−4、No.X−5)
4,4,4−トリフルオロアセト酢酸イソプロピル(β−ケトエステル)の使用量を変更し、銀分散液中における4,4,4−トリフルオロアセト酢酸イソプロピルの含有量を表11に示すように変更した以外は、前記サンプルNo.X−1と同様にして銀分散液を調製した。
【0181】
(サンプルNo.X−6〜No.X−8)
β−ケトエステルとして4,4,4−トリフルオロアセト酢酸イソプロピルの代わりにアセト酢酸エチルを3.2g用いた以外は、前記サンプルNo.X−1〜No.X−3と同様にして銀分散液を調製した。
(サンプルNo.X−9〜No.X−11)
分散剤として1−ドデカンチオールの代わりに1−オクタンチオールを0.87g用いた以外は、前記サンプルNo.X−1〜No.X−3と同様にして銀分散液を調製した。
【0182】
(サンプルNo.X−12)
分散液の調製において、1−ドデカンチオールを用いなかった以外は、前記サンプルNo.X−1と同様にして銀分散液を調製した。
(サンプルNo.X−13)
分散液の調製において、4,4,4−トリフルオロアセト酢酸イソプロピルを用いなかった以外は、前記サンプルNo.X−1と同様にして銀分散液を調製した。
上記の各サンプルについて、それぞれ、透過型電子顕微鏡によって得られた写真像から粒度分布を調べ、その平均粒径およびピークの半値幅をそれぞれ計測した。各サンプルについての銀分散液の条件を表11にまとめて示す。
【0183】
【表11】

【0184】
表11から明らかなように、本発明の金属粒子分散液は、粒径のばらつきが小さく、シャープな粒度分布を有するものであった。
【0185】
[分散液の安定性]
上記の各サンプルについて、それぞれ、20℃の環境下で3日間放置した後の銀粒子の分散性を以下の4段階の基準に従い評価した。
◎:分散質としての銀粒子は、極めて均一性の高い状態での分散状態を保持している。
○:銀粒子の沈殿等は認められないが、分散液中に銀粒子の大きさのばらつきに由来すると考えられる濃淡がわずかに認められる。
△:銀粒子の沈殿がわずかに認められる。
×:銀粒子の沈殿が顕著に認められる。
これらの結果を表12にまとめて示す。
【0186】
【表12】

【0187】
表12から明らかなように、本発明の金属粒子分散液は、金属粒子の分散の安定性に優れていた。
【0188】
[配線(導電膜)の作製]
(サンプルNo.XI−1)
前記サンプルNo.X−1の銀分散液を、ガラス基板上に、インクジェット装置を用いて、ライン状のパターンで吐出した後、110℃で乾燥することにより成膜した。さらに、この膜上に同様に膜を形成する操作を繰り返して行った。
次に、得られた膜を150℃で60分間焼成することにより、線幅:50μm×厚さ:1μmの配線(導電膜)を形成した。なお、上記のような焼成は、ピーク波長254nm、照射強度10mW/cmの紫外線を照射しつつ行った。
【0189】
(サンプルNo.XI−2〜No.XI−13)
前記サンプルNo.X−1の銀分散液の代わりに、サンプルNo.X−2〜No.X−13の銀分散液を用いた以外は、前記サンプルNo.XI−1と同様にして配線(導電膜)を形成した。
(サンプルNo.XII−1〜No.XII−13)
焼成条件を250℃10分に変更した以外は、前記サンプルNo.XI−1〜No.XI−13と同様にして配線(導電膜)を形成した。
【0190】
[配線(導電膜)の評価]
上記サンプルNo.XII−1〜No.XII−13の配線(導電膜)について、それぞれ、電気抵抗率(比抵抗)を測定した。
その結果を表13に示す。
【0191】
【表13】

【0192】
表13に示すように、本発明の配線(導電膜)は、いずれも電気抵抗率の低いものであった。また、比較例に比べていずれも低温での焼成により配線を形成することが可能であった。
これに対して、比較例の配線(導電膜)は、いずれも、本発明に比べて、電気抵抗率が明らかに大きかった。
【0193】
これにより、サンプルNo.XI−1〜No.XI−11の導電膜を用いて、図1〜図4に示すような電子デバイス、電子機器を製造した。その結果、本発明を用いることにより、低温の工程で、信頼性に優れた電子デバイス、電子機器が得られることが確認された。
また、金属粒子として、金で構成された粒子、Ag−Pd合金で構成された粒子を用いた以外は、上記と同様にして金属粒子分散液を調製し、上記と同様な評価を行ったところ、上記と同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1】本発明の電子デバイスを透過型液晶表示装置に適用した場合の実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の電子機器を適用したデジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0195】
100…液晶表示装置 200…液晶パネル 220…第1の基板 221…上面 222…スイッチング素子 223…画素電極 224…信号電極 225…偏光板 228…引き出し部 229…金属層 230…第2の基板 231…下面 232…走査電極 233…有色層 234…ブラックマトリックス 235…偏光板 240…液晶層 600…バックライト 1100…パーソナルコンピュータ 1102…キーボード 1104…本体部 1106…表示ユニット 1200…携帯電話機 1202…操作ボタン 1204…受話口 1206…送話口 1300…デジタルスチルカメラ 1302…ケース(ボディー) 1304…受光ユニット 1306…シャッタボタン 1308…回路基板 1312…ビデオ信号出力端子 1314…データ通信用の入出力端子 1430…テレビモニタ 1440…パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄原子を含む化合物と、
貴金属材料を含む材料で構成され、粒径が1〜100nmの金属粒子と、
分散媒とを含み、
前記金属粒子が前記化合物で被包されていることを特徴とする金属粒子分散液。
【請求項2】
前記化合物は、分子内にメルカプト基とエステル基とを有するものである請求項1に記載の金属粒子分散液。
【請求項3】
前記化合物は、一般式HS(CHCOOR(nは1〜5の整数、Rは炭素数1〜8の直鎖、分岐、または環状アルキル基)で表される化合物である請求項2に記載の金属粒子分散液。
【請求項4】
前記化合物の含有率が、前記金属粒子を構成する金属原子に対するモル比で0.1〜1である請求項2または3に記載の金属粒子分散液。
【請求項5】
前記化合物の平均分子量は、106〜260である請求項2ないし4のいずれかに記載の金属粒子分散液。
【請求項6】
前記化合物は、分子内に硫黄原子を含む複素環式化合物である請求項1に記載の金属粒子分散液。
【請求項7】
前記複素環式化合物の含有率が、前記金属粒子を構成する金属原子に対するモル比で0.1〜1である請求項6に記載の金属粒子分散液。
【請求項8】
前記複素環式化合物は、分子内に窒素原子を含むものである請求項6または7に記載の金属粒子分散液。
【請求項9】
前記複素環式化合物は、環状構造に窒素原子および/または硫黄原子を含むものである請求項6ないし8のいずれかに記載の金属粒子分散液。
【請求項10】
前記複素環式化合物は、複素環に結合し、前記金属粒子を構成する金属原子に配位可能な基を有するものである請求項6ないし9のいずれかに記載の金属粒子分散液。
【請求項11】
前記複素環式化合物の平均分子量は80〜300である請求項6ないし10のいずれかに記載の金属粒子分散液。
【請求項12】
前記化合物は、炭素数が8〜18のチオールである請求項1に記載の金属粒子分散液。
【請求項13】
前記金属粒子の平均粒径をA[nm]、前記チオールの含有率(前記貴金属原子に対するモル比)をXとしたとき、0.05/A≦X≦1/Aの関係を満足する請求項12に記載の金属粒子分散液。
【請求項14】
前記金属粒子の粒度分布におけるピークの半値幅が、0.1〜3nmである請求項1ないし13のいずれかに記載の金属粒子分散液。
【請求項15】
金属粒子分散液は、前記化合物、前記金属粒子および前記分散媒に加え、β−ケトエステルを含むものである請求項1ないし14のいずれかに記載の金属粒子分散液。
【請求項16】
前記化合物として炭素数が8以上のチオールを含む請求項15に記載の金属粒子分散液。
【請求項17】
前記β−ケトエステルは、下記式(VIII)で示される構造を有するものである請求項15または16に記載の金属粒子分散液。
【化1】

【請求項18】
前記β−ケトエステルの含有率が、前記金属粒子を構成する金属原子に対するモル比で0.1〜0.4である請求項15ないし17のいずれかに記載の金属粒子分散液。
【請求項19】
前記β−ケトエステルの平均分子量は、140〜400である請求項15ないし18のいずれかに記載の金属粒子分散液。
【請求項20】
前記貴金属はAgである請求項1ないし19のいずれかに記載の金属粒子分散液。
【請求項21】
前記金属粒子の含有率が、10〜60wt%である請求項1ないし20のいずれかに記載の金属粒子分散液。
【請求項22】
請求項1ないし21のいずれかに記載の金属粒子分散液を製造する方法において、
前記金属粒子を構成する貴金属元素の金属塩と、前記化合物と、水系極性液体と、当該水系極性液体と実質的に相溶しない非極性液体と、相間移動触媒とを含む二相液を調製する工程と、
前記二相液に還元剤を加え、前記化合物によって被包された前記金属粒子を形成する工程と、
前記非極性液体で構成される非極性液体相を前記金属粒子とともに分離する工程と、
分離した前記非極性液体相と炭素数が1〜3のアルコールとを混合し、前記金属粒子を沈殿させる工程と、
沈殿した前記金属粒子を分散媒として機能する液体中に分散する工程とを有することを特徴とする金属粒子分散液の製造方法。
【請求項23】
請求項22に記載の金属粒子分散液の製造方法を用いることを特徴とする導電膜形成基板の製造方法。
【請求項24】
請求項1ないし21のいずれかに記載の金属粒子分散液を用いた導電膜形成基板の製造方法において、
前記金属粒子分散液を基板に配置し塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、
前記塗布膜を導電膜に変換する導電膜形成工程と、を有し、
前記導電膜形成工程は、
前記塗布膜に紫外線を照射する紫外線照射工程と、
前記塗布膜に熱を加える加熱工程と、を含むことを特徴とする導電膜形成基板の製造方法。
【請求項25】
前記加熱工程は、150度以下の加熱である請求項24に記載の導電膜形成基板の製造方法。
【請求項26】
請求項23ないし25のいずれかに記載の導電膜形成基板の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする電子デバイス。
【請求項27】
請求項26に記載の電子デバイスを備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−91663(P2009−91663A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301183(P2008−301183)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【分割の表示】特願2005−352761(P2005−352761)の分割
【原出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超フレキシブルディスプレイ部材技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】