説明

間接噴射式のエンジン、特に過給エンジンの燃焼済みガスの掃気を制御する方法と、その方法を用いるエンジン

【課題】エンジンの燃料の消費と放出を低減し、燃焼室内に収容されている燃料混合ガスの均質性を良好にする。
【解決手段】間接噴射式の過給エンジンが、燃焼室12を含むシリンダー10と、吸気弁22,24によって制御されるパイプ18,20を含む2つの吸気手段14,16と、各吸気手段14,16に付属する燃料噴射ノズル26,28と、排気弁32を備えた排気手段30とを有する。このエンジンは、燃焼済みガスの掃気を伴う吸気モードと掃気しない吸気モードに従って作動する。掃気を伴う吸気モードでは、炭化物と混合されていない空気を一方の吸気手段16を通して燃焼室10に供給し、掃気の終わり近くでは、炭化物と混合された空気を他方の吸気手段14を通して燃焼室10に供給する。掃気しない吸気モードでは、炭化物と混合された空気を、両方の吸気手段14,16を通して燃焼室10に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの吸気手段を備えた間接噴射式の内燃エンジン、特に過給エンジン、とりわけ火花点火エンジンの、燃焼済みガスの掃気を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、内燃エンジンによって出力される力は、このエンジンの燃焼室内に供給される空気の量によって決まる。この空気量自体は、この空気の密度に比例する。従って、大きな力が必要ならば、空気を燃焼室内に供給する前にそれを圧縮することによって、この空気量を多くする。この作業は、より一般的には過給と呼ばれ、ターボ過給機などの過給装置、またはスクリュー型圧縮機などの被駆動圧縮機によって実施できる。
【0003】
シリンダーに供給されるこの空気量を多くするために、残っている燃焼済みガスを掃気する段階を含む吸気モードが用意されている。この掃気によって、エンジンの排気段階が終わる前に、燃焼室内に存在する燃焼済みガスを排出することと、それらの燃焼済みガスを過給空気に入れ替えることができる。
【0004】
特許文献1に説明されているように、この掃気段階は、エンジンの排気段階の終わりと吸気段階の始まりにおいて、シリンダーの排気弁と吸気弁をオーバーラップさせることである。このオーバーラップは、クランク軸の回転角の数度から数十度だけ、これらの排気弁および吸気弁が同時に開くことによって実現する。
【0005】
この文献に開示されている間接噴射式の過給エンジンの例には、排気パイプを制御する排気弁を備えた少なくとも1つの燃焼済みガス排出手段と、少なくとも2つの吸気手段が設けられている。吸気手段のうちの一方は、パイプと弁を備えている、炭化物と混合されていない過給空気(non-carbureted supercharged air)用の吸気手段であり、他方の吸気手段は、燃料噴射ノズルと弁が設けられたパイプからなる、炭化物と混合された過給空気(carbureted supercharged air)用の吸気手段である。
【0006】
燃焼済みガスの掃気は、一方では、炭化物と混合された空気の吸気弁は閉じられたままで、排気弁と、炭化物と混合されていない過給空気の吸気弁とのオーバーラップによって、他方では、開いた吸気弁における空気の圧力が、燃焼室内に依然として存在する排出ガスの圧力よりも高いことによって、実行される。燃焼室内に入ることができる、炭化物と混合されていない過給空気が、これらの排出ガスを排気弁を通して排出するために、これらの排出ガスを掃気する。こうして、炭化物と混合されていない過給空気は、これらの排出ガスから開放された容積を占め、エンジンの吸気段階中に供給される空気の量をかなり著しく増加させることを可能にする。掃気段階の終わりの近くで、排気弁は閉じ、炭化物と混合された過給空気の吸気弁は開き、燃料噴射ノズルは作動させられ、炭化物と混合された過給空気は、供給された、炭化物と混合されていない過給空気を補うものとして、他の吸気手段を介して燃焼室内に供給される。
【特許文献1】米国特許4,217,866号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この種のエンジンは満足のいく動作をするが、決して些細ではない欠点を有する。
【0008】
実際に、この掃気段階に続く、掃気段階を必要としない従来のエンジン作動中に、2つの吸気弁は、エンジンの吸気段階の間、同時に開いたままである。これは、炭化物と混合された空気を一方のパイプを通して、炭化物と混合されていない空気を他のパイプを通して、それぞれ供給する作用を有する。燃焼室内で、これらの2種類の空気を混合することは困難であり、混合ガスが不均質になるように行われる。こうして、この均質性の欠如によって、この混合ガスの燃焼中に汚染物質が発生する。さらに、燃焼室内の燃料混合ガスを、平均の燃料/空気の比が1に近くなるようにするためには、大量の燃料を、2に近い燃料/空気の比で、炭化物と混合された空気の吸気パイプ内に噴射しなければならない。その結果、この大量の燃料は、エンジンの冷却開始時に、燃料室内の混合ガスの燃焼中に燃焼していない炭化水素(HC)の形態の汚染物質を生じさせる。
【0009】
本発明は、燃料の消費と放出を低減するとともに、燃焼室内に収容されている燃料混合ガスの均質性をより良好にすることができるエンジンの吸気制御方法によって、前記した欠点を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このように、本発明は、燃焼室を含む少なくとも1つのシリンダーと、各々が、吸気弁によって制御されるパイプを含む、少なくとも2つの吸気手段と、各吸気手段に付属する少なくとも1つの燃料噴射手段と、排気弁を備えた少なくとも1つの燃焼済みガス排出手段とを有し、燃焼済みガスの掃気を伴うモードと掃気しないモードの2つの吸気モードに従って作動する、間接噴射式のエンジン、特に過給エンジン、とりわけ火花点火エンジンを制御する方法において、掃気を伴う吸気モードで、炭化物と混合されていない空気を一方の吸気手段を通して供給し、次に、掃気の終わり近くでは、炭化物と混合された空気を他方の吸気手段を通して供給することと、掃気しない吸気モードで、炭化物と混合された空気を2つの吸気手段を通して供給することと、を含むことを特徴とする、エンジンを制御する方法に関する。
【0011】
有利には、燃焼済みガスの掃気は、吸気部での空気の圧力を排気部での気体の圧力よりも高くなるようにすることと組み合わせて、一方の吸気手段の吸気弁を排気弁とオーバーラップさせることによって行ってもよい。
【0012】
この方法は、掃気しない吸気モードで、燃料/空気の比が1に近い、炭化物と混合された空気を、2つの吸気手段の各々を通して供給するものであってもよい。
【0013】
本発明は、間接噴射式の内燃エンジン、特に過給エンジン、とりわけ火花点火エンジンであって、燃焼室を含む少なくとも1つのシリンダーと、吸気弁によって制御されるパイプを含む少なくとも1つの吸気手段と、吸気手段に付属する、炭化物と混合された空気をシリンダーに供給する少なくとも1つの燃料噴射手段と、排気弁を備えた少なくとも1つの燃焼済みガス排出手段とを有する内燃エンジンにおいて、燃料噴射が制御されている、他の吸気手段をさらに有することを特徴とする内燃エンジンにも関する。
【0014】
このエンジンは、他の吸気手段内への燃料噴射を許容または阻止する制御手段を有していてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、特に間接噴射型の過給内燃エンジン、とりわけ火花点火エンジンを示している。このエンジンは、ピストン(図示せず)がスライドする少なくとも1つのシリンダー10と、過給空気と燃料との、または再循環した排出ガス(EGR)を含む過給空気と燃料との混合ガスの燃焼が生じる燃焼室12とを有している。
【0017】
シリンダー10は、炭化物と混合された過給空気(すなわち炭化物と混合された空気)の吸引を可能にする従来通りの吸気手段14と、炭化物と混合された過給空気(すなわち炭化物と混合された空気)または炭化物と混合されていない過給空気である、過給空気(すなわち空気)の供給を可能にする、燃料噴射が制御されている吸気手段と呼ばれる他の吸気手段16の、少なくとも2つの過給空気吸気手段14,16を有している。通常、これらの吸気手段は、シリンダーヘッドに設けられたオリフィスからなり、このエンジンは、一般に、このオリフィスと連通するパイプ18,20と、吸気弁などの、前記したオリフィスを閉じる手段22,24とを備えている。燃料噴射手段26,28が、燃料が、パイプの内部を循環する空気と混合されるように、燃料をパイプ18,20に供給するのを可能にする。このように、従来通りの吸気手段14は、パイプ18と、弁22と、噴射ノズル26を有しているのに対して、燃料噴射が制御されている吸気手段16は、パイプ20と、弁24と、噴射ノズル28を有している。このシリンダーは、ここでは、各々が例えば排気弁32のような閉じ手段と排気パイプ34とを有する2つの排気手段30である、燃焼済みガス排出手段も有している。図1に示す例では、シリンダーは、燃焼室12内に入っている燃料混合ガスの燃焼を開始させることができる点火プラグ36などの発火手段も有している。
【0018】
吸気弁22,24と排気弁32は、これらの弁を開く時/閉じる時に、すなわち、互いに独立して、または関連して弁を持ち上げる時に、これらの弁の持ち上げの規則(lift laws)を変えることを可能にするように、手段38と40によってそれぞれ制御される。これらの手段は、VVT(可変の弁タイミング:Variable Valve Timing)、VVL(可変の弁持ち上げ:Variable Valve Lift)、またはVVA(可変の弁動作:Variable Valve Actuation)として知られている。VVT型の手段が好適に用いられる。
【0019】
制御手段38と40は、エンジンに一般に設けられている、コンピュータなどの制御ユニット42によって駆動される。このコンピュータは、手段38および40をそれぞれ制御する制御ライン44および46によって、エンジンの作動条件に応じて弁の持ち上げの規則を変えることを可能にするマッピング(mappings)またはテーブルを有している。このコンピュータは、制御ライン48,50によって、噴射ノズル26,28の作動または作動停止も制御する。
【0020】
作動中であってエンジンによって必要とされる力が変化する場合に、または、エンジンが低速または中速で、かつ高負荷であるこのエンジンの作動状況で、エンジンは、燃焼済みガスの掃気を伴う吸気モードに従って、空気を過給しながら作動する。この場合、コンピュータ42は、燃焼済みガスを掃気しながら、弁のオーバーラップ段階を開始させる。従って、図2も参照すると、コンピュータは、排気上死点(exhaust top dead center)PMHの近くで、排気弁32が開き、従来通りの吸気手段14の吸気弁22が閉じられ、図2に点線の曲線24bで示されているように、制御されている吸気手段16の吸気弁24が開くように、弁持ち上げの規則を変更する手段38,40を制御する。この弁のオーバーラップの間、コンピュータは、噴射ノズル26,28が非作動になるように噴射ノズル26,28も制御する。弁24を介して燃焼室12内に供給された、炭化物と混合されていない過給空気の圧力と、この燃焼室12内に存在する残りの燃焼済みガスの圧力との間の圧力差の作用によって、残りの燃焼済みガスは燃焼室12から出され、弁32を通して排出される。これによって、燃焼室12内に存在する残りの燃焼済みガスを掃気し、燃料を含まない過給空気と入れ替えることが可能になる。
【0021】
燃焼済みガスの掃気段階が完了すると直ちに、制御手段40の作用によって排気弁32が閉じられ、制御手段38の作動によって、制御されている吸気手段16の吸気弁24が開いたままで(曲線24b)、従来通りの吸気手段14の吸気弁22が開く。同時に、コンピュータ42は噴射ノズル26の作動を制御し、従って、燃料はパイプ18内に噴射され、燃料混合ガスが燃焼室12に供給される。炭化物と混合された空気のこの燃焼室への供給を改善するために、吸気弁22が依然として閉じている間であって排気弁32が閉じる前のサイクルに関して前もって燃料をパイプ18内に噴射することができる。従って、吸気パイプ18内に入っている空気は炭化物と混合された空気であり、これらの排気弁が閉じ吸気弁22が開いているときに、この予め炭化物と混合された空気は燃焼室12内に供給される。
【0022】
従来のエンジン作動の場合、すなわち、特にアイドリング中に、燃焼済みガスを掃気しない吸気モードにおいて、コンピュータ42は、通常、制御手段38と40を制御する。より正確には、ピストンの排気上死点(PMH)の近くで、排気弁32は閉じ、排気弁が閉じているときに従来通りの吸気手段14の吸気弁22と、燃料噴射が制御されている吸気手段16の吸気弁24(曲線24a)は開いている。同時に、コンピュータは、燃料をパイプ18および20内に噴射し各パイプ内で燃料混合ガスを得るように、2つの燃料噴射ノズル26と28の作動を制御する。好ましくは、燃料噴射は、吸気弁22,24において燃料/空気の比が1に近い燃料混合ガスを得るように、各パイプ内で行われる。
【0023】
従って、燃焼室内で得られた混合ガスは、燃焼済みガスの掃気段階が行われた後でさえも、均質な混合ガスである。
【0024】
本発明はここに記載された例に限定されず、あらゆる変形例および等価なものを含む。
【0025】
特に、図2に一例として示されているように、弁24の持ち上げの規則は、制御手段38の作動によって、2つの曲線、すなわち掃気を伴う吸気モードの曲線24bと掃気しない吸気モードの曲線24aに従うことができるが、制御手段38の代わりに、オフセットしたカム軸を用いることもできる。こうして、このようなカム軸は、掃気を伴う吸気モードおよび掃気しない吸気モードの間に、曲線22は変わらないままで、弁24を曲線24bのみに従って位置させることができる。従って、この弁のオーバーラップによって、吸気弁における空気の圧力が排気弁36における排出ガスの圧力よりも高い時にのみ燃焼済みガスを掃気することが可能になる。通常、これは、低速および中速のエンジン速度で高負荷の場合である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による内燃エンジンを図示する図である。
【図2】本発明によるエンジンのクランク軸の位置(V)の関数として、シリンダーの弁の持ち上げの規則(L)を表す曲線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0027】
10 シリンダー
12 燃焼室
14,16 吸気手段
18,20 パイプ
22,24 吸気弁
26,28 燃料噴射手段(噴射ノズル)
30 排気手段(燃焼済みガス排出手段)
32 排気弁
34 排気パイプ
36 点火プラグ
38,40 制御手段
42 コンピュータ(制御ユニット)
44,46 制御ライン
48,50 制御ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室(12)を含む少なくとも1つのシリンダー(10)と、各々が、吸気弁(22,24)によって制御されるパイプ(18,20)を含む、少なくとも2つの吸気手段(14,16)と、前記各吸気手段に付属する少なくとも1つの燃料噴射手段(26,28)と、排気弁(32)を備えた少なくとも1つの燃焼済みガス排出手段(30)とを有し、燃焼済みガスの掃気を伴うモードと掃気しないモードの2つの吸気モードに従って作動する、間接噴射式のエンジン、特に過給エンジン、とりわけ火花点火エンジンを制御する方法において、
前記掃気を伴う吸気モードで、炭化物と混合されていない空気を一方の前記吸気手段(16)を通して供給し、次に、掃気の終わり近くでは、炭化物と混合された空気を他方の前記吸気手段(14)を通して供給することと、
前記掃気しない吸気モードで、炭化物と混合された空気を2つの前記吸気手段(14,16)を通して供給することと、
を含むことを特徴とする、エンジンを制御する方法。
【請求項2】
燃焼済みガスの掃気は、吸気部(16,24)での空気の圧力が排気部(30,32)での気体の圧力よりも高くなるようにすることと組み合わせて、前記一方の吸気手段の前記吸気弁(24)を前記排気弁(32)とオーバーラップさせて動作させることによって行う、請求項1に記載のエンジンを制御する方法。
【請求項3】
前記掃気しない吸気モードで、燃料/空気の比が1に近い、炭化物と混合された空気を、2つの前記吸気手段(14,16)の各々を通して供給する、請求項1に記載のエンジンを制御する方法。
【請求項4】
間接噴射式の内燃エンジン、特に過給エンジン、とりわけ火花点火エンジンであって、燃焼室(12)を含む少なくとも1つのシリンダー(10)と、吸気弁(22,24)によって制御されるパイプ(18,20)を含む少なくとも1つの吸気手段(14)と、前記吸気手段に付属する、炭化物と混合された空気を前記シリンダー(10)に供給する少なくとも1つの燃料噴射手段(26,28)と、排気弁(32)を備えた少なくとも1つの燃焼済みガス排出手段(30)とを有する内燃エンジンにおいて、
燃料噴射が制御されている、他の吸気手段(16)をさらに有する
ことを特徴とする内燃エンジン。
【請求項5】
前記他の吸気手段内への燃料噴射を許容または阻止する制御手段(42)を有する、請求項4に記載の内燃エンジン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−329193(P2006−329193A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142530(P2006−142530)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(591007826)アンスティテュ フランセ デュ ペトロール (261)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT FRANCAIS DU PETROL
【Fターム(参考)】