説明

電動オイルポンプの制御装置

【課題】エンジンの自動運転停止制御中に、変速機構の作動油圧を電動オイルポンプからの供給油圧によって再始動用油圧以上に維持させる一方、ポンプ故障時に電力消費を節減しつつ可能な限り再始動用油圧を確保して再始動時の締結ショックを緩和する。
【解決手段】電動オイルポンプを駆動するモータの駆動回路の電源電流Ibが、再始動用油圧の発生に必要な駆動電力に基づいて設定された第1制限値Ib1または、再始動性確保のためバッテリ電圧低下を抑制する許容電流値として設定される第2制限値Ib2によって制限され、かつ、第1回転数閾値未満の状態が所定時間以上継続したときには、ポンプの運転を許容しつつ故障時ポンプ駆動制御を行い、第2回転数閾値未満となったときには、ポンプの運転を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを一時的に運転停止させる自動運転停止制御中に、該エンジンに接続される変速機構に再始動用の油圧を供給する電動オイルポンプの制御装置に関し、特に、ポンプ故障時の対策技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一時停車時に、エンジンのアイドル運転を自動停止するアイドルストップ機構付車両においては、エンジン運転のアイドルストップ後、エンジンに接続された変速機構の作動油圧がエンジン駆動されるオイルポンプの回転低下に伴って低下する。
このため、変速機構において、無段変速機ではエンジンと変速機構入力軸とを接続する発進用のクラッチ機構、有段自動変速機では変速要素締結用のクラッチ機構が再始動時に締結されるときに、ショックを発生することがあった。
【0003】
そこで、特許文献1には、アイドルストップ機構付車両において、エンジンのアイドルストップ制御中(エンジン停止前)に、エンジンに接続された変速機構に電動オイルポンプから作動油圧を供給し、再始動時の変速機構におけるクラッチ機構締結時のショック(以下、締結ショックという)を緩和する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−293649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種のエンジン再始動時用に変速機構に供給される作動油圧は、走行時に供給される締結用油圧より低めの、締結ショックを緩和できる程度の油圧(以下再始動用油圧という)でよい。
このため、電動オイルポンプに効率低下等の異常が生じても、油圧供給が可能であれば油圧供給を継続して締結ショックの低減を図ることが考えられる。
【0006】
しかし、電動オイルポンプの異常時にも、正常時と同様な油圧供給制御を続けると、駆動電源であるバッテリの電圧低下が増大し、再始動性(クランキング回転数低下、点火エネルギ量低下、変速機内油圧制御ソレノイドの制御不良、等)が悪化することがある。
本発明は、このような課題を解決するためなされたもので、電動オイルポンプの異常時に、バッテリ電圧の低下を抑制して再始動性を確保しつつ、可能な範囲で再始動用油圧を確保して締結ショックを軽減できるようにした電動オイルポンプの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明は、
エンジンの自動運転停止制御中に、該エンジンに接続される変速機構の作動油圧を、電動オイルポンプからの供給油圧によって再始動用油圧以上に維持させる電動オイルポンプの制御装置であって、以下の各手段を含んで構成される。
A.前記電動オイルポンプの故障を診断するポンプ故障診断手段
B.前記電動オイルポンプの供給油圧に関連するパラメータの値を検出するパラメータ値検出手段
C.前記電動オイルポンプが故障していると診断されたときに、前記パラメータの値に基づいて、前記再始動用油圧より低い所定油圧以上に前記供給油圧が維持されているかを判定する供給油圧判定手段
D.前記再始動用油圧より低い所定油圧以上に前記供給油圧が維持されていると判定したときには、前記電動オイルポンプの運転を許容し、前記供給油圧が前記所定油圧未満の状態と判定したときには、前記電動オイルポンプの運転を停止させるポンプ運転/停止制御手段
【発明の効果】
【0008】
電動オイルポンプからの供給油圧が所定油圧未満のときは、ポンプの運転が停止される。これにより、供給油圧が締結ショック緩和効果を期待できないような低圧のときは、ポンプ運転を停止して、可能な限りバッテリ電圧低下を抑制することにより再始動性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係る電動オイルポンプの制御装置を備えた車両の駆動力伝達系を示す図。
【図2】上記電動オイルポンプの制御装置の制御ブロック図。
【図3】第1実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御のフローチャート。
【図4】第1実施形態において、第1制限値による制限の有無による作用の相違を示すタイムチャート。
【図5】第1実施形態において、恒常的または及び一時的なモータ回転抵抗の増大により第2制限値による制限が行われているときの状態変化を示すタイムチャート。
【図6】第1実施形態における故障診断及びフェールセーフ制御のフローチャート。
【図7】同上フェールセーフ制御における故障時ポンプ駆動制御のフローチャート。
【図8】同上フェールセーフ制御における別の故障時ポンプ駆動制御のフローチャート。
【図9】第2実施形態における故障診断及びフェールセーフ制御のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1において、アイドルストップ機能付き車両に搭載されたエンジン(内燃機関)1には、トルクコンバータ2及び発進用クラッチ機構である前後進切換機構3を介して無段変速機4が接続されている。
前後進切換機構3は、例えば、エンジン出力軸と連結したリングギア、ピニオン及びピニオンキャリア、変速機入力軸と連結したサンギアからなる遊星歯車機構と、変速機入力軸とピニオンキャリアを連結する前進クラッチと、変速機ケースをピニオンキャリアに固定する後退ブレーキと、を含んで構成される。
【0011】
そして、前進クラッチの締結による車両の前進と後退ブレーキの締結による車両の後退とを切換える。これら前進クラッチ及び後退ブレーキの切換えは、無段変速機4と共通の作動油を用いた油圧による締結の切換えによって行われる。
無段変速機4は、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42と、これらプーリ間に掛けられたVベルト43と、を含んで構成され、プライマリプーリ41の回転は、Vベルト43を介してセカンダリプーリ42へ伝達され、セカンダリプーリ42の回転は、駆動車輪へ伝達されて車両が走行駆動される。
【0012】
上記駆動力伝達中、プライマリプーリ41の可動円錐板及びセカンダリプーリ42の可動円錐板を軸方向に移動させてVベルト43との接触位置半径を変えることにより、プライマリプーリ41とセカンダリプーリ42との間の回転比つまり変速比を変えることができる。
かかる前後進切換機構3及び無段変速機4を備えた変速機構20の制御は、以下のように行われる。
【0013】
車両の各種信号に基づいてCVTコントロールユニット5が変速制御信号を演算し、該変速制御信号を入力した調圧機構6が、エンジン駆動される機械式オイルポンプ7からの吐出圧を変速機構20の各部毎に調圧して、それぞれ供給することにより行われる。
一方、前記機械式オイルポンプ7をバイパスする通路に電動オイルポンプ8を設ける。該電動オイルポンプは、車両のアイドルストップ後の再始動時における締結ショックを緩和するため、CVTコントロールユニット5からの制御信号によって駆動される。
【0014】
すなわち、一時的に停車してアイドルストップ制御が開始されると、電動オイルポンプ8が駆動されて変速機構20の各部へ作動油を供給する。これにより、前後進切換機構3の前進クラッチの油圧を再始動用油圧以上に維持させた後、エンジン停止を許可してアイドル運転を停止する。
また、上記の再始動用油圧供給制御と共に、電動オイルポンプ8の回転抵抗が許容レベル以上である故障、その他、モータ自体の劣化による出力や効率の悪化により、モータ回転数が上昇しにくく消費電力も増大するポンプ故障の診断を行い、該ポンプ故障の有無、故障レベルに応じた制御を行う。
【0015】
なお、電動オイルポンプ8出口の油通路には、通常時のオイルの逆流を防止する逆止弁9が介装される。また、図示点線で示すように、電動オイルポンプ8からの吐出圧を所定圧以下に制限するため、該所定圧以下で開弁するリリーフ弁10を設けてもよい。
図2は、上記再始動用油圧制御の制御ブロック図を示す。
目標値演算部51は、車両の各種センサからの検出信号(車速、ブレーキ、アクセル、シフト位置、油水温度、エンジン回転速度、バッテリ電圧、その他)を入力し、これら信号に基づいて検出された車両運転状態に応じて、電動オイルポンプ8を駆動するモータ81の回転数(またはモータ電流)の目標値を演算する。
【0016】
フィードバック制御器52は、前記目標値演算部51からの目標値(目標モータ回転数又は目標モータ電流)、制御量(モータ81の実回転数又は実モータ電流)、及びモータ81の駆動回路82の実電源電流Ibを入力する。
電源電流Ibは、電流センサ53によって検出される。モータ81の実回転数は、センサによって直接計測する他、駆動回路82からモータの相電圧を入力して検出することも可能である。
【0017】
そして、通常は、モータ81の実回転数(実モータ電流)を、目標回転数(目標モータ電流)に近づけるようにPID制御等を用いて演算したフィードバック操作量を出力して制御する。操作量としては、例えば、PWM(パルス幅変調)制御の場合、パルス幅(デューティ比)である。なお、モータ電流によってフィードバック制御する場合など、モータ電流は、センサで検出してもよいが、電源電流とデューティ比とによって算出することもできる。
【0018】
しかし、通常のフィードバック制御を行うだけでは、上述したように電動オイルポンプ8のモータ回転抵抗が増大する異常が発生すると、モータ81の駆動回路82の電源電流が過剰となって、駆動源であるバッテリの電圧が大きく減少し、再始動性が悪化する。すなわち、スタータモータの電力不足によるクランキング回転数低下、点火エネルギ量低下、変速機内油圧制御ソレノイドの制御不良(電圧低下によるソレノイド自体の動作不良による)、等の影響がでる。
【0019】
また、電動オイルポンプ8の個体差(性能バラツキ)を考慮して、どの個体でも再始動用油圧を確保できるようにモータ回転数(又はモータ電流)の目標値を高めに設計とした場合、特に、バラツキの少ない個体でモータ回転数が過剰に増大して電力を過剰に消費してしまうことがある。
そこで、通常のフィードバック制御で設定される操作量を修正し、電源電流が過剰となることを抑制する制御を行う。この制御については、後に詳述する。
【0020】
駆動回路82は、モータ81に駆動信号を出力してモータ81を駆動し、これにより、電動オイルポンプ8が駆動して前記前後進切換機構3の前進クラッチ又は後退ブレーキ及びその他の変速機構20各部に油圧が供給される。この再始動用油圧は、変速機構20各部のクラッチ締結機構を完全に締結する油圧より低圧であり、アイドルストップからの再始動時に締結ショックを緩和するのに十分な大きさに設定すればよい。
【0021】
次に、上記再始動用油圧制御と共に、本発明に係るポンプ故障の診断及び診断結果に応じたフェールセーフ制御について説明する。
図3は、再始動用油圧制御のフローチャートである。
ステップS1では、駆動回路82の電源電圧(バッテリ電圧)VBを読み込み、該電圧VBに基づいて、前記第1制限値Ib1と第2制限値Ib2を設定する。
【0022】
ここで、第1制限値Ib1は、前記再始動用油圧の発生に必要なモータの駆動電力に基づいて設定される。
より具体的には、再始動用油圧を得るのに必要なモータ回転数(又は該必要モータ回転数を得るのに必要なモータ電流)は、ポンプ個体差(ポンプ本体やモータの性能バラツキ)を有する。そこで、どの個体でも必要回転数(必要モータ電流)以上となって再始動用油圧を確保できる電力の下限値(下限電力)に、マージン(余裕分)を加えた要求電力に対し、該要求電力が得られる電源電流値として第1制限値Ib1を設定する。
【0023】
なお、電動オイルポンプ8と同様、該電動オイルポンプ8からの供給油圧を受けて作動する側の機器、つまり本実施形態では、前後進切換機構3の前進クラッチも個体差を有する。前記必要回転数(必要モータ電流)は、該前進クラッチの個体差をも考慮して、前進クラッチのどの個体であっても再始動用油圧を確保できる値である。
本実施形態では、バッテリ電圧(駆動電圧)VBの変動に応じて第1制限値Ib1を以下のように可変に設定する。例えば要求電力が60Wの場合の第1制限値は、電圧VBが12Vのときには5A、電圧VBが10Vのときには6Aとして可変に設定される。
【0024】
このように、バッテリ電圧VBに応じて第1制限値Ib1を可変に設定することにより、過不足のない適正な第1制限値Ib1を設定できる。
ただし、簡易的には電動オイルポンプの駆動を許容できるバッテリ電圧VBの許容下限値に対応する第1制限値Ib1を固定値として設定してもよい。
一方、第2制限値Ib2は、それ以上の電源電流Ibが流れると、バッテリ電圧の低下が大きく、再始動性を確保するのが難しくなる許容電流の限界値として設定される。
【0025】
ここで、バッテリ電圧VBが低いときは、高いときに比較してバッテリ充電量が小さくバッテリ電圧VBが低下しやすいので、バッテリ電圧VBが低いほど第2制限値Ib2を低い値とするように可変に設定する。ただし、第2制限値Ib2は、第1制限値Ib1より大きい値に維持される。
このように、第2制限値Ib2についてもバッテリ電圧VBに応じて可変に設定することにより、過不足のない適正な第2制限値Ib2を設定できる。
【0026】
ただし、第1制限値Ib1同様、簡易的には電動オイルポンプの駆動を許容できるバッテリ電圧VBの許容下限値に対応する第2制限値Ib2を固定値として設定してもよい。
ステップS2では、電流センサ53で検出された実電源電流Ibが第2制限値Ib2以下であるかを判定する。
ステップS2で実電源電流Ibが第2制限値Ib2以下と判定されたときは、ステップS3へ進む。
【0027】
ステップS3では、モータの目標回転数及び実回転数(目標モータ電流及び実モータ電流)に基づいて、例えばPID(比例積分微分)制御によって通常の制御ゲイン(P分,I分,D分)を用いて操作量を演算する。
次いで、ステップS4では、実電源電流Ibが第1制限値Ib1以下であるかを判定する。
【0028】
ステップS4で実電源電流Ibが第1制限値Ib1以下と判定されたときは、ステップS5へ進み、ステップS2で演算された操作量を最終の操作量として駆動回路82に出力してフィードバック制御を行う。
これにより、適正な応答特性でモータの回転数が速やかに目標回転数(目標モータ電流)に収束され、電動オイルポンプ8から供給される作動油によって、前後進切換機構3の作動油圧が再始動用油圧以上に維持される。この結果、再始動時に前後進切換機構3の前進クラッチの締結ショックを十分に緩和しつつ、バッテリ電圧の低下も抑制されて再始動性が確保され、円滑な再発進を行える。
【0029】
また、ステップS4で実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えていると判定されたときは、ステップS6へ進み、ステップS3で演算した操作量が、前回演算した操作量より増加したかを判定する。
そして、操作量が増加したと判定されたときは、ステップS7へ進んで、最終的な操作量を前回演算した操作量に維持する設定とする。
【0030】
ステップS6で操作量が増加していないと判定されたときは、ステップS8へ進み、今回演算した操作量を最終的な操作量に設定する。
このようにして、操作量の増加を禁止する。ステップS7またはステップS8で設定された操作量は、ステップS5で出力される。
このように、電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えたときに操作量の増加を禁止することにより、電源電流Ibが増大しないように制限することができる。これにより、電動オイルポンプ8の正常時(個体差の範囲内)には、消費電力を最小限に抑制しつつ、モータを必要回転数(必要モータ電流)以上に上昇させて、再始動用油圧を確保することができる。
【0031】
図4は、第1制限値Ib1による制限の有無による作用の相違を示す。
上述したように、ポンプの個体差により再始動用油圧を確保できるモータの必要回転数(必要モータ電流)にバラツキがある。そこで、どのポンプ個体でも、再始動用油圧を確保できるようにするため、モータの目標回転数(目標モータ電流)を最も必要回転数(必要モータ電流)が高いポンプの該最大の必要回転数(必要モータ電流)より高く設定している。
【0032】
また、再始動用油圧を確保できる消費電力は、必要回転数(必要モータ電流)が高いポンプの方が、低いポンプに比較して、回転数(モータ電流)を大きくする必要がある分、増大する。
一方、目標回転数(目標モータ電流)でモータを回転する場合で比較すると、必要回転数(必要モータ電流)が低いポンプの方が、必要回転数(必要モータ電流)が高いポンプより、必要回転数(必要モータ電流)から目標回転数(目標モータ電流)までの上昇分が大きいので再始動用油圧に対して油圧がより高く上昇する。すなわち、必要回転数(必要モータ電流)が低いポンプの方が、必要回転数(必要モータ電流)が高いポンプより、仕事量が増大することになるので消費電力が増大する。
【0033】
したがって、特に必要回転数(必要モータ電流)が低いポンプのモータを、電源電流の第1制限値Ib1による制限なく目標回転数(目標モータ電流)までフィードバック制御すると、図4に点線で示すように、実電源電流が第1制限値Ib1を超えて消費電力が大きく損なわれてしまう場合がある。
これに対し、本実施形態では、同じく必要回転数(必要モータ電流)が低いポンプのモータに対し、電源電流Ibを第1制限値Ib1によって制限することにより、図4に実線で示すように、モータ回転数(モータ電流)は、目標回転数(目標モータ電流)より減少するが該ポンプの必要回転数(必要モータ電流)は超える。このため、再始動用油圧を確保できる一方、過剰な回転数上昇が抑制されて消費電力損失を抑制できる。
【0034】
このように、第1制限値Ib1による制限を行うことで、ポンプ個体差があっても、最低限の電力消費で必要回転数(必要モータ電流)以上として再始動用油圧を確保でき、締結ショックを十分に緩和できる。
また、電源電流Ibが第1制限値Ib1近傍に維持されることで、バッテリ電圧の低下を抑制でき再始動性を確保できることは勿論である。
【0035】
なお、電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えたときの第1制限値Ib1による制限は、上記のような操作量の増加禁止(電源電流Ibの増大禁止制御)の他、操作量の減少(電源電流Ibの低減制御)、又は、電源電流Ib増大方向の制御ゲイン減少などでもよい。
一方、電動オイルポンプのモータ回転抵抗が増大する異常時には、上記操作量の増加を禁止する制御等を行っても、さらに電流が増大して第2制限値Ib2を超えてしまうことがある。
【0036】
このような場合には、ステップS2で電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えていると判定されてステップS9へ進む。
ステップS9では、電流超過量に応じて電源電流Ibを強制的に低減させるように以下のように操作量を演算する。
まず、電源電流Ibの第2制限値Ib2に対する超過電流量ΔIbを次式(1)により演算する。
【0037】
ΔIb2(>0)=Ib−Ib2・・・(1)
次いで、電源電流Ibを低減するための操作量低減量を次式(2)により演算する。
操作量低減量=ΔIb2×ゲイン(>0)・・・(2)
最後に、前回操作量を操作量低減量で補正して、今回の操作量を次式(3)により演算する。
【0038】
操作量=前回操作量−操作量低減量・・・(3)
ステップS9で演算した操作量は、ステップS5で出力される。
このように、操作量を低減して電源電流Ibを低減する方向に制御することにより、電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えないように制限することができ、これにより、バッテリ電圧VBの低下が抑制されて再始動性を確保することができる。
【0039】
なお、異物によって一時的に回転抵抗増大する異常の場合は、通常は、図5に示すように、異物がモータの回転部や摺動部から離脱すると、回転抵抗の低下により、その後の回転上昇によって必要回転数を超えて再始動用油圧を確保できる。
また、ポンプ個体差が特に大きい場合は、電源電流Ibが第1制限値Ib1によって制限しても第2制限値Ib2まで到達してしまう可能性もある。この場合は、第1制限値Ib1より大きい第2制限値Ib2まで電源電流Ibが増大するから、当然に再始動用油圧は確保され、締結ショックの回避と再始動性確保を両立できる。
【0040】
また、ポンプ個体差の範囲を超えて恒常的にモータ回転抵抗が大きい異常時にも、図5に示すように、電源電流Ibが第1制限値Ib1あるいは第2制限値Ib2によって制限されることがある。
かかる異常時において、モータ回転数が低すぎて電動オイルポンプ8からの供給油圧が再始動用油圧、あるいは、締結ショックを多少なりとも緩和できる油圧にも達する見込みがない場合は、電動オイルポンプ8を駆動しても電力を無駄に消費するだけである。したがって、かかる場合は、電動オイルポンプ8の運転を停止させるのが望ましい。
【0041】
一方、異常のレベルが低い場合は、電動オイルポンプ8の全ての個体で再始動用油圧を確保できる保証は無いが、前進クラッチの個体(個体差)との組み合わせ次第では、再始動用油圧、あるいは、締結ショックを多少なりとも緩和できる油圧が得られる可能性がある。したがって、このような場合は、再始動性を確保した上で電動オイルポンプ8の運転を許容するのが望ましい。
【0042】
そこで、本発明に係る制御として、上記異常の発生に応じてポンプ故障の診断を行うと共に、異常のレベルに応じた適切なフェールセーフ制御を行う。
図6は、ポンプ故障の診断のフローを示す。
ステップS11では、上記図3のフローにおいて、電源電流Ibが第1制限値Ib1又は第2制限値Ib2で制限されているかを判定する。
【0043】
ステップS11の判定がYESである場合は、ステップS12へ進み、モータ回転数が第1回転数閾値未満であるかを判定する。ここで、第1回転数閾値は、例えば、ポンプ個体差により個体毎に相違する必要回転数のうち、最も高い必要回転数と等しい回転数に設定する。すなわち、第1回転数閾値以上であれば、どのポンプ個体でも再始動用油圧を確保できる。
【0044】
ステップS12で、モータ回転数が第1回転数閾値未満と判定された場合は、ステップS13へ進み、モータ回転数が前記第1回転数閾値より小さい第2回転数閾値未満であるかを判定する。
ここで、第2回転数閾値は、以下の機能を持たせた値として設定されている。上述したように、電動オイルポンプ8からの供給油圧を利用する側の機器である前進クラッチにも個体差がある。例えば、電動オイルポンプ8からの供給油圧が同一でも、前進クラッチの液密の程度が低い(高い)場合は、最終的に利用される前進クラッチの作動油圧は低く(高く)なる。第1回転数閾値は、かかる前進クラッチの個体差も考慮してどの個体でも(クラッチ個体差の範囲内で最も性能が低いクラッチ個体でも)再始動用油圧又は多少なりとも締結ショックを緩和できる作動油圧を確保できる下限回転数に設定してある。
【0045】
これは、モータ回転数が第1回転数閾値より低い場合でも、前進クラッチが高性能側の個体であれば、再始動用油圧を確保できる場合がありうるということである。そこで、第2回転数閾値は、前進クラッチが最も高性能な個体である場合に再始動用油圧又は多少なりとも締結ショックを緩和できる作動油圧を確保できるモータ回転数の下限値として設定する。
【0046】
換言すれば、モータ回転数が第2回転数閾値未満のときは、締結ショックを緩和できる作動油圧を確保できる可能性はないということである。
ステップS13でモータ回転数が第2回転数閾値未満と判定されたときは、ステップS14へ進んで、第2回転数閾値未満が所定時間以上継続したかを判定する。
第2回転数閾値未満が所定時間以上継続したと判定されたときは、ステップS15へ進んで電動オイルポンプ8の運転を停止する。ここで、所定時間以上の継続を判定条件とするのは、電動オイルポンプ8の起動時、モータ回転数上昇中、あるいは、上述した異物によって一時的に回転抵抗増大するような場合の異常判定を回避するためである。
【0047】
このように、締結ショックを緩和できる作動油圧を確保できる可能性のない場合に、電動オイルポンプ8の運転による電力消費を節減できる。したがって、再始動性が確保されることは勿論である。
また、上記にように電動オイルポンプ8の運転を停止したときは、該電動オイルポンプ8による発進時の締結ショックの解消が困難となるので、アイドルストップ自体を禁止して作動油圧の低下を抑制し、発進時の締結ショックを解消するようにしてもよい。
【0048】
一方、ステップS13でモータ回転数が第2回転数閾値以上と判定されたときは、ステップS16へ進み、この状態が所定時間以上継続したかを判定する。
ステップS16の判定がYESのとき、つまり、電源電流Ibが第1制限値Ib1又は第2制限値Ib2で制限された状態で、モータ回転数が第1回転数閾値未満(第2回転数閾値以上)の状態が所定時間以上継続したときは、ステップS17へ進み、電源電流Ibを許容電流値以下に制限しつつ供給油圧を再始動用油圧に近づける制御(故障時ポンプ制御)を行う。なお、所定時間以上の継続を判定条件とするのは、上述したのと同様の理由である。また、ステップS17の故障時ポンプ制御(図7参照)は、該制御中において当該故障が継続していると判断される限り、図6の診断フローをリセットすることなく実施され、制御中に故障が解消されて正常状態に復帰したことを判定したときには、図6の診断フローがリセット後、再開される。
【0049】
上記以外の場合、すなわち、ステップS11〜S14及びS16の判定がそれぞれNOである場合は、正常範囲と判定してステップS18へ進み、通常のポンプ駆動制御(図3に示した制御)を継続する。
なお、ステップS15,17で、これらの異常が電動オイルポンプ8の故障に基づくものであるため、「ポンプ故障あり」との警報(表示や音等による)を行ってもよい。
【0050】
図7は、上記ステップS16における故障時ポンプ制御のサブフローを示す。なお、図6で初めて故障判定されてステップ17に進み、本故障時ポンプ制御を開始するときから説明する。
ステップS21では、本フローの初回であるかを判定する。
初回と判定されたときは、ステップS22へ進み、モータ回転数を故障時目標回転数とするように操作量を演算する。ここで、故障時目標回転数は、初めて故障と判定された直後は、該故障と判定されたときのモータ回転数、又はこれより若干低い値とする。
【0051】
本故障時ポンプ制御においては、後述するように故障判定時同様、電源電流Ibを制限しつつ得られる最大限のモータ回転数を最終的な故障時目標回転数として設定することになる。したがって、該最終的な故障時目標回転数は、故障判定時のモータ回転数に近い値となる可能性が高いと考えられる。そこで、故障時目標回転数の初期値を、故障判定時の回転数と近い値に設定することにより、速やかに最終的な故障時目標回転数を得ることができる。
【0052】
なお、図6で故障と判定された後、2回目以降のアイドルストップ制御毎に本フローで設定される故障時目標回転数を随時記憶更新しておくことにより、制御毎の本フローで最終的に記憶された故障時目標回転数が、次回制御時の初期値として設定されることとなる。
次いでステップS23では、前記ステップS22で演算された操作量の出力によって生じる電源電流Ibが電流制限値以下であるかを判定する。ここでの電流制限値は、例えば、再始動性確保のための許容電流の限界値として、第2制限値Ib2と同一値か、これに近い値に設定する。
【0053】
そして、電源電流Ibが電流制限値以下と判定された場合は、現在の電源電流Ibで故障時目標回転数に到達できるので、電流の制限を行うことなく今回のフローを終了する。
一方、電源電流Ibが電流制限値を超えていると判定された場合は、ステップS24へ進み、電源電流Ibを電流制限値で制限する処理を行う。
この電流制限処理は、例えば、第2制限値Ib2で制限する場合と同様に、上記ステップS9における操作量の演算(1)〜(3)を行って、電源電流Ibを低減させる。
【0054】
上記電源電流Ibの制限(低減)によって、モータ回転数は現状の故障時目標回転数まで増大することができなくなる。
この後、2回目以降のフローでは、ステップS21からステップS25へ進んで、モータ回転数が故障時目標回転数より誤差量ΔN(>0)を超えて下回っているか、を判定する。この誤差量ΔNは、モータ回転数の目標値への収束時における変動許容量である。
【0055】
ステップS23の判定がNOで電流制限が行われた場合は、上記のようにモータ回転数が低下する。したがって、ステップS25においてモータ回転数が故障時目標回転数より誤差量ΔNを超えて下回っていると判定され、ステップS26へ進んで故障時目標回転数を所定量低減する。
ステップS27では、上記低減した故障時目標回転数とするように操作量を演算する。
【0056】
次いでステップS23へ進んで、電源電流Ibを電流制限値と比較し、まだ、電源電流Ibが電流制限値を超えている場合は、ステップS24で電源電流Ibを電流制限値で制限する。
このように、故障時目標回転数がモータ回転数を超え、かつ、電源電流Ibが電流制限値を超える場合は、故障時目標回転数を徐々に低減しつつ電源電流Ibも徐々に低減する処理が繰り返される。
【0057】
そして、ステップS23で電源電流Ibが電流制限値以下となったところで、電源電流Ibの制限がなくなるため、モータ回転数を故障時目標回転数まで上昇させることができる。また、フローの初回からステップS23で電源電流Ibが電流制限値以下と判定された場合も、モータ回転数を故障時目標回転数まで上昇させることができる。
したがって、これらの場合は、現状の電源電流Ibで故障時目標回転数に収束するので、収束したときは、ステップS25の判定がNOとなって、ステップS28へ進む。
【0058】
ステップS28では、モータ回転数が故障時目標回転数に誤差量ΔN(>0)を加算した値以下であるか、を判定する。同上の理由で、収束後は、モータ回転数が故障時目標回転数+誤差量ΔN以下となって、この判定がYESとなる。
次いで、ステップ29へ進んでモータ回転数が正常時の目標回転数未満であるかを判定する。
【0059】
故障が継続している場合は、モータ回転数は正常時の目標回転数より低いので、このステップS29の判定はYESとなってステップS30へ進む。
ステップS30では、ステップS30では、故障時目標回転数を所定量増加した後、ステップ27へ進み、該増加した故障時目標回転数となるように操作量を演算する。
ステップ27からステップ23以降へ進んで、電源電流Ibと電流制限値とを比較し、電源電流Ibが電流制限値を超えた場合には、該電流制限値で制限する処理を行う。
【0060】
このように、電源電流Ibを電流制限値で制限しつつ、故障時目標回転数を増減調整することにより、可能な限り高いモータ回転数に制御することができる。
また、モータ回転数が故障時目標回転数より誤差量ΔN(>0)を超えて上回る場合、即ち、電源電流Ibが過渡的に増大した場合は、ステップS28からステップS23へ進んで電源電流Ibを電流制限値と比較し、電流制限値を超えた場合には、再度電流制限値で制限されモータ回転数が減少することとなる。
【0061】
また、例えば、一時的故障で異物が除去されるなど、故障が解消された場合は、ステップS30で故障時目標回転数を増加しても、電源電流Ibが電流制限値で制限されないまま、故障時目標回転数の増加が繰り返され、ついには、正常時の目標回転数に達することがある。そこで、ステップS29の判定がYESとなった後、このフローを終了する。この場合は、以後、正常の目標回転数を用いて通常のフィードバック制御に復帰する(図6の故障診断フローがリセット後、再開される)。
【0062】
なお、ステップS29でモータ回転数を正常時の目標回転数と比較する代わりに、第1回転数閾値、または、該第1回転数閾値に制御バラツキなどによる振れ分を考慮して所定の余裕代を加算した値と比較するような変形態様とすることもできる。
例えば、電源電流Ibが第1制限値Ib1によって、第2制限値Ib2で制限される場合より強く制限され、その結果モータ回転数が第1回転数閾値を下回ってポンプ故障と判定されるような場合がある。
【0063】
このような状況では、電流制限値(≒第2制限値Ib2)より小さい電源電流Ibで、モータ回転数が第1回転数閾値を超えることがある。
したがって、上記ステップS29の変形態様で、モータ回転数が第1回転数閾値又は第1回転数閾値+余裕代を超えたと判定された場合には、そのとき設定される故障時目標回転数を、今回の制御での最終的な故障時目標回転数とする。
【0064】
これにより、必要最小限の電源電流Ibでモータ回転数を第1回転数閾値以上として、再始動用油圧を確保し、締結ショック軽減効果を確保できる。
なお、該ステップS29での変形態様に合わせて(ステップS29の判定がYESとなる場合も多いと想定して)、ステップS22での故障判定直後の初期値を、ステップS29での比較値と合わせて、第1回転数閾値又は第1回転数閾値+余裕代に設定してもよい。
【0065】
以上のように、本故障時ポンプ駆動制御によれば、電源電流Ibを電流制限値以下に制限して再始動性を確保しつつ、可能な限りモータ回転数を上昇させることができる。
これにより、前進クラッチの高性能側の個体と組み合わされることによって、再始動用油圧を確保して締結ショックを少しでも緩和できる確率を高めることができる。
そして、上記のように電流制限値で制限した制御によって最終的に収束するモータ回転数に相当する故障時目標回転数が求められ、該故障時目標回転数を次回の制御時に初期値として設定することができる。これにより、応答性のよい制御を行うことができ、より速やかに故障時目標回転数に収束させて、消費電力を節減できると共に、アイドルストップ制御を開始してからエンジン停止するまでの時間を短縮でき、さらに燃費を節減できる。
【0066】
なお、本実施形態では、ステップS23で用いる電流制限値を第2制限値Ib2と同一か、近い値に設定したが、該電流制限値を第1制限値Ib1と同一か、近い値に設定してもよい。
この場合は、電源電流Ibを電流制限値でより強く制限するので、通常は、故障時目標回転数は、第1回転数閾値より小さい値に収束する。ただし、例えば、一時的な故障が回復して正常状態に復帰するような場合には、故障時目標回転数が、第1回転数閾値以上に達することもある。したがって、この場合は、故障判定を解除して、正常時の目標回転数を用いた制御に復帰させるようにしてもよい。
【0067】
また、上述したように図6のステップS15で電動オイルポンプ8の運転を停止した時は、電動オイルポンプ8によっては締結ショックを解消できず、また、ステップS17で効率の悪いポンプの電流制限を行うなど故障時ポンプ駆動制御を行っているときは締結ショックを十分には解消できない可能性がある。
これらの場合には、以下のような発進を遅らせる制御を行ってもよい。例えば、停車中に変速機をDレンジとしたまま変速機内部をニュートラル状態として発進時に走行状態に戻す制御を行い、この走行状態に戻すタイミングを、機械式オイルポンプによる作動油圧が締結ショックを生じない程度に上昇する期間に基づいて設定すればよい。故障時ポンプ駆動制御を行っているときは、電動オイルポンプ8の駆動によりある程度の作動油圧の上昇を見込んで、発進遅延時間を短くするようにしてもよく、それだけ燃費を改善しつつ、発進遅延時間を短縮できる。
【0068】
次に、より簡易な、別の故障時ポンプ駆動制御について説明する。
図8は、該第2の故障時ポンプ制御のフローチャートである。
ステップS31では、故障時目標電流を設定する。この故障時目標電流も、再始動性確保のための許容電流の限界値を意図するものであるから、第2制限値Ib2と同一値か近い値に設定してよい。
【0069】
ステップS32では、前記故障時目標電流が得られるように操作量を演算し、該演算された操作量を出力する。
かかる構成とすれば、再始動性を確保しつつ、最大限の電源電流Ibを供給してモータ回転数を可能な限り増大することができる。
したがって、第1の故障時ポンプ制御と同様に、前進クラッチの高性能側の個体と組み合わされることによって、再始動用油圧を確保して締結ショックを少しでも緩和できる確率を高めることができる。また、極めて簡易な制御で済む。
【0070】
また、以上の実施形態のような電源電流Ibの第1制限値Ib1、第2制限値Ib2による制限を行うことなく故障診断を行い、診断結果に応じて上記実施形態同様のフェールセーフ制御を行う構成とすることもできる。
図9は、上記制御を行う第2実施形態のフローチャートを示す。
ステップS41では、電動オイルポンプ8の駆動開始後所定時間内での電源電流Ibの増大変化率が所定値以上かを判定する。モータの回転抵抗が大きい異常時(ポンプ故障時)は、電源電流Ibの増大変化率が大きくなって所定値以上と判定される。
【0071】
ステップS41での判定がNOのときは、ステップS44へ進んで、同じく電動オイルポンプ8の駆動開始後所定時間内でのモータ回転数の最大増加率が所定値未満かを判定する。モータの回転抵抗が大きい異常時(ポンプ故障時)は、モータ回転数の最大増加率が小さくなって所定値未満と判定される。
上記ステップS41,44の判定のいずれかがYESとなってポンプ故障ありと判定された場合は、ステップS42へ進んでモータ回転数が第2回転数閾値未満となったかを判定する。
【0072】
ステップS42で第2回転数閾値未満と判定されたときは、ステップS43へ進んで電動オイルポンプ8の運転を停止し、第2回転数閾値以上と判定されたときは、ステップS45へ進んで図7あるいは図8で示したポンプ故障時制御を実施する。
ステップS41,44の判定がいずれもNOの場合は、ポンプが正常と判定してステップS46へ進み通常の制御を行う。
【0073】
このように、本第2実施形態でも、第1実施形態と同様、供給油圧が所定油圧未満で締結ショック緩和効果を期待できないときは、ポンプ運転を停止して、可能な限りバッテリ電圧低下を抑制することにより再始動性を高めることができる。
また、供給油圧が所定油圧以上で締結ショック緩和効果を多少なりとも期待できるときは、電動オイルポンプの運転を許容することにより、可能な限り作動油圧を高めて締結ショック緩和効果が得られる確率を高めることができる。
【0074】
また、故障判定後に電源電流Ibの制限を行うようにしたため、制御全体を簡素化できる。
以上示した実施形態では、故障診断を行うパラメータ、及びポンプ駆動停止と故障時ポンプ駆動制御との切換判断を行うパラメータとして、簡易に検出が可能なモータ回転数を用いたが、変速機構(の前進クラッチ)への供給油圧を判断できるパラメータであればよく、供給油圧自体を検出して行ってもよい。
【0075】
また、以上示した実施形態は、変速機構として発進用クラッチ機構及び無段変速機を有したものに適用したが、有段の自動変速機に適用してもよい。この場合、自動変速機内の変速要素のクラッチ機構の締結油圧を電動オイルポンプから供給される作動油によって再始動用油圧に制御する際に、本発明を適用することによって、同様の効果が得られる。
また、減速走行時にブレーキ操作を行って車速一定以下となったときにエンジンの運転を自動停止させ、ブレーキ操作を解除しアクセル操作を行ったときにエンジンを再始動するエンジン自動停止制御がある。かかる、エンジン自動停止制御中に電動オイルポンプによって変速機構の作動油圧を再始動用油圧以上に確保する制御としたものにも、本発明を適用することができ、同様の効果を得られる。
【0076】
更に、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下にその効果と共に記載する。
(イ)
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記所定油圧は、変速機構の個体差を考慮して設定される。
【0077】
(イ)の構成とすれば、以下の効果が得られる。
電動オイルポンプ側からの供給油圧は、変速機構(前進クラッチ)の個体差を考慮して最も低性能側の個体でも、作動油圧が締結ショックを緩和できる作動油圧以上となるように高めに設定されている。
したがって、電動オイルポンプが低性能側の個体で供給油圧が多少低くても、変速機構の高性能側の個体と組み合わせれば、作動油圧が締結ショックを緩和できる作動油圧以上となる可能性がある。
【0078】
そこで、変速機構の個体差を考慮し、作動油圧が締結ショックを緩和できる作動油圧以上となりうるように前記所定値を設定することにより、締結ショック緩和効果が得られる運転領域を拡大することができる。
(ロ)
請求項1〜請求項3、又は(イ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記電動オイルポンプの供給油圧に関連するパラメータは、電動オイルポンプを駆動するモータの回転数である。
【0079】
(ロ)の構成とすれば、モータの回転数によって電動オイルポンプからの作動油の吐出量ひいては供給油圧を容易かつ精度よく判断することができる。
(ハ)
請求項1〜請求項3、又は(イ)、(ロ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記モータは、モータ回転数を目標値としてフィードバック制御される。
【0080】
(ハ)の構成とすれば、電動オイルポンプからの供給油圧を再始動用油圧以上に維持できるモータ回転数を目標値として設定することにより、良好な制御を行うことができる。
(ニ)
請求項1〜請求項3、又は(イ)、(ロ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記モータは、モータ電流を目標値としてフィードバック制御される
(ニ)の構成とすれば、同じく再始動用油圧以上に維持できるモータ回転数を得られるモータ電流を、目標値として設定することにより、良好な制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0081】
1…エンジン、3…前後進切換機構、4…無段変速機、5…CVTコントロールユニット、6…調圧機構、7…機械式オイルポンプ、8…電動オイルポンプ、20…変速機構、51…目標値演算部、52…フィードバック制御器、53…電流センサ、81…モータ、82…駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの自動運転停止制御中に、該エンジンに接続される変速機構の作動油圧を、電動オイルポンプからの供給油圧によって再始動用油圧以上に維持させる電動オイルポンプの制御装置であって、
前記電動オイルポンプの故障を診断するポンプ故障診断手段と、
前記電動オイルポンプの供給油圧に関連するパラメータの値を検出するパラメータ値検出手段と、
前記電動オイルポンプが故障していると診断されたときに、前記パラメータの値に基づいて、前記再始動用油圧より低い所定油圧以上に前記供給油圧が維持されているかを判定する供給油圧判定手段と、
前記再始動用油圧より低い所定油圧以上に前記供給油圧が維持されていると判定したときには、前記電動オイルポンプの運転を許容し、前記供給油圧が前記所定油圧未満の状態と判定したときには、前記電動オイルポンプの運転を停止させるポンプ運転/停止制御手段と、
を、含んで構成した電動オイルポンプの制御装置。
【請求項2】
前記ポンプ運転/停止制御手段は、前記電動オイルポンプの運転を許容するときには、前記電動オイルポンプを駆動するモータの駆動回路の電源電流を許容電流値以下に制限しつつ、前記供給油圧を前記再始動油圧に近づけるように制御する請求項1に記載の電動オイルポンプの制御装置。
【請求項3】
前記ポンプ運転/停止制御手段は、前記電動オイルポンプの運転を許容するときには、前記電動オイルポンプを駆動するモータの駆動回路の電源電流を許容電流値とする請求項1に記載の電動オイルポンプの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−196500(P2011−196500A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65731(P2010−65731)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】