説明

電動圧縮機の制御装置

【課題】低電圧域と高電圧域との間の絶縁境界部分においてフォトカプラ等の現状存在する絶縁素子を使用可能とするとともに、インバータ制御用マイコンに所定の電源電圧を確実に供給できるようにして、信号の通信の信頼性を向上した電動圧縮機の制御装置を提供する。
【解決手段】高電圧電源から供給される直流を疑似交流に変換し電動圧縮機のモータに駆動電流として供給するインバータと、低電圧域に配置され高速通信バスを介して指示信号が伝達される通信用マイコンと、高電圧域に配置され、通信用マイコンと絶縁素子を介して接続され、通信用マイコンからの指示信号をインバータの制御信号としてインバータに伝達する制御用マイコンとを有し、通信用マイコンの電源電圧を低電圧電源から供給するとともに、、該低電圧電源からの電圧をトランスを介して変圧し、制御用マイコンの電源電圧として供給することを特徴とする電動圧縮機の制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動圧縮機の制御装置に関し、とくに、車両用空調装置に用いられる電動圧縮機用のインバータ制御装置として好適な電動圧縮機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両用空調装置に用いられる電動圧縮機のモータの駆動を制御するために、直流電源(例えば、高電圧電源)から供給される直流を、複数のスイッチング素子とゲート駆動回路を備えたインバータにより疑似交流(例えば、3相交流)に変換し、その疑似交流電圧をモータに印加してモータを制御する技術が知られている。このインバータの制御には、例えば制御用マイコンが使用され、制御用マイコンには、上位のコントロールユニットからの指示信号が送られる。
【0003】
このようなシステムは、例えば図2に示すように構成される。高電圧電源101から供給される直流が、複数のスイッチング素子102とゲート駆動回路103を備えたインバータ104により疑似交流に変換され、その交流がモータ105に供給されて電動圧縮機106が駆動される。通信バス107を介して上位のコントロールユニット(図示略)から送られてくる指示信号が、例えば絶縁素子としてのフォトカプラ108を介して制御用マイコン109に伝達され、制御用マイコン109からの指示信号により各スイッチング素子102のゲート駆動回路103が制御され、モータ105に供給される交流電圧が制御されようになっている。通常、通信バス107からフォトカプラ108までは、低電圧域110(例えば、12V域)に配置され、フォトカプラ108から制御用マイコン109、インバータ104、モータ105側は、モータを高電圧で駆動することが要求されることから、高電圧域111(例えば、200V域)に配置され、両電圧域110、111の境界が絶縁境界112として形成されて、この絶縁境界112部分にフォトカプラ108が位置されている。
【0004】
近年、通信速度の高いCAN(Controller Area Network)などの通信プロトコルが採用され始めているが、このような高速通信バスを採用する場合、図2に示したような従来構成では、高速通信バス107と制御用マイコン109とをフォトカプラ108で直接接続することになるが、現状では高速通信用フォトカプラが存在しないことから、フォトカプラ108の応答遅れが生じ、通信の遅延が発生するという問題があり、通信信頼性を確保することが難しい。
【0005】
このような問題に対し、特許文献1には、高速通信バスからの信号を一旦通信用マイコンで受信し、その通信用マイコンからの信号を通常のフォトカプラを介して比較的低速の通信速度で制御用マイコンに伝達し、その制御用マイコンによりインバータを制御するようにした技術が開示されている。この場合にも、フォトカプラは、低電圧域と高電圧域との間の絶縁境界部分に位置される。
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の構成では、制御用マイコンの電源電圧を、高電圧電源(つまり、図2における電源101)から供給する構成となっているので、この高電圧電源が接続されていないと、通信用マイコンから制御用マイコンへの低速通信が行われないことになり、不具合が生じる可能性がある。また、インバータ側の高電圧電源から制御用マイコンの電源電圧を取っているので、実際の回路構成としては配線の引回し長が長くなって回路が大型化するとともに、所定の電圧が安定して制御用マイコンに供給される保証がなく、供給電圧を安定化させるための電圧チェック回路等が別途必要になる。そのため、制御用マイコンの動作の安定性に欠けるおそれがあり、ひいては信号の通信の信頼性に欠けるおそれがある。
【特許文献1】特開2004−336907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術における問題点に着目し、低電圧域と高電圧域との間の絶縁境界部分においてフォトカプラ等の現状存在する絶縁素子を使用可能とするとともに、インバータ制御用マイコンに所定の電源電圧を確実に供給できるようにして、信号の通信の信頼性を向上した、電動圧縮機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る電動圧縮機の制御装置は、高電圧電源から供給される直流を疑似交流に変換し電動圧縮機のモータに駆動電流として供給するインバータと、低電圧域に配置され高速通信バスを介して指示信号が伝達される通信用マイコンと、高電圧域に配置され、前記通信用マイコンと絶縁素子を介して接続され、前記通信用マイコンからの指示信号をインバータの制御信号としてインバータに伝達する制御用マイコンとを有し、前記通信用マイコンの電源電圧を低電圧電源から供給するとともに、、該低電圧電源からの電圧をトランスを介して変圧し、前記制御用マイコンの電源電圧として供給することを特徴とするものからなる。
【0009】
この電動圧縮機の制御装置においては、通信バスからの信号は通信用マイコンで受信されるので高速通信が可能になり、通信用マイコンから制御用マイコンへの信号伝達は、低電圧域と高電圧域との絶縁境界に配置された、現状存在している絶縁素子を介して行われるので、低速通信が確実に可能になり、この間の通信信頼性が確保される。そして、通信用マイコンの電源電圧は低電圧電源から供給されるので、所定の電源電圧が安定して供給され、制御用マイコンの電源電圧は低電圧電源からの電圧をトランスを介して変圧した電圧が供給され、このトランスが低電圧域と高電圧域との絶縁境界を構成できるので、制御用マイコンには所定の電源電圧が安定して確実に供給され、通信用マイコン、制御用マイコンともに安定した作動が確保されて、信号の通信信頼性が向上される。すなわち、現状存在している絶縁素子を使用しながら、通信信頼性が向上される。
【0010】
上記電動圧縮機の制御装置においては、後述の実施態様にも示すように、インバータのゲート駆動用電圧も、上記低電圧電源からの電圧をトランスを介し変圧して供給するようにすることが好ましい。これによって、インバータのゲート駆動用電圧としても、確実に所定の電圧が安定して供給できるようになる。
【0011】
また、上記絶縁素子としては、代表的にはフォトカプラを使用するが、フォトカプラ以外の素子を使用できる可能性もある。つまり、低電圧域と高電圧域との絶縁境界を形成でき、かつ、通信用マイコンから制御用マイコンへの所定の信号伝達ができる素子であればよい。
【0012】
この本発明に係る電動圧縮機の制御装置は、とくに、車両用空調装置に用いられる電動圧縮機に対して好適なものである。車両用空調装置では、一般制御用機器の電圧として例えば12V程度の低電圧が使用され、冷凍サイクル中に用いられる電動圧縮機に対しては200V程度の高電圧が使用され、両電圧の電位差が大きいが、本発明に係る制御装置の構成により、この電位差が問題なく吸収できるようになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電動圧縮機の制御装置によれば、低電圧域と高電圧域との間の絶縁境界部分に現状存在する絶縁素子を使用することができ、高速通信バスから信号を受信する通信用マイコンと制御用マイコンとの間の低速通信を安定して確保できるとともに、通信用マイコン、制御用マイコンともに所定の電源電圧を確実に供給できるようにして、安定した作動を確保でき、制御装置全体としての通信信頼性を大幅に向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る電動圧縮機の制御装置を示しており、とくに、車両用空調装置の冷凍サイクルに設けられる電動圧縮機用の制御装置の例を示している。図1において、1は直流の高電圧電源(例えば、車両搭載の高電圧バッテリー)を示しており、高電圧電源1から供給される直流が、複数のスイッチング素子2とゲート駆動回路3を備えたインバータ4により疑似交流(本実施態様では、3相の交流)に変換され、その交流がモータ5に供給されて、モータ5を内蔵した電動圧縮機6が駆動される。電動圧縮機6としては、駆動源としてモータ5のみを内蔵した圧縮機の他、一つの圧縮機内に内蔵モータで駆動される第1圧縮機構と、内蔵モータとは別の外部駆動源により駆動される第2圧縮機構とを備えたハイブリッド式の圧縮機も含まれる。
【0015】
7は、高速通信が可能な通信バスを示しており、上位のコントロールユニット(例えば、車両搭載のECU:Electric(またはElectronic) Control Unit、図示略)からの指示信号が、通信バス7を介して通信用マイコン8に伝達される。通信用マイコン8からの指示信号は、絶縁素子としてのフォトカプラ9を介して制御用マイコン10に伝達され、制御用マイコン10からの指示信号により各スイッチング素子2のゲート駆動回路3が制御され、それによってモータ5に供給される交流電圧が制御されようになっている。通信バス7から通信用マイコン8、フォトカプラ9までは、低電圧域11(例えば、12V域)に配置され、フォトカプラ9から制御用マイコン10、インバータ4、モータ5側は、モータを高電圧で駆動することが要求されることから、高電圧域12(例えば、200V域)に配置されており、両電圧域11、12の境界が絶縁境界13として形成されて、この絶縁境界13部分にフォトカプラ9が位置されている。フォトカプラ9は、現状存在する(一般に市場で入手可能な)絶縁素子であり、安定した低速通信が可能なものである。
【0016】
14は、低電圧電源(例えば、車両搭載の低電圧バッテリー)を示しており、15は、絶縁境界13の一部として機能できるトランスを示している。このトランス15の一次側から、低電圧電源14による所定の電圧(1)が通信用マイコン8の電源電圧として通信用マイコン8に供給される。また、トランス15の二次側(高電圧域12側)では、トランス15によって変圧された所定の電圧(2)が制御用マイコン10の電源電圧として制御用マイコン10に供給される。同時に、本実施態様では、トランス15によって変圧された所定の電圧(3)が、インバータ4のゲート駆動用電圧としてインバータ4に供給されている。
【0017】
このように構成された電動圧縮機の制御装置においては、高速通信バス7からの信号はそのまま通信用マイコン8で受信されるので、上位のコントロールユニットからの高速通信が可能になる。通信用マイコン8から制御用マイコン10への信号伝達は、低電圧域11と高電圧域12との絶縁境界13に配置された絶縁素子としてのフォトカプラ9を介して行われるが、フォトカプラには現状高速通信用のものは存在しないものの、現状入手可能なフォトカプラ9にて、通信用マイコン8から制御用マイコン10への安定した低速通信が可能であり、この間の通信の信頼性は確実に確保される。したがって、制御用マイコン10からインバータ4への指示信号の伝達も安定して行われ、所望のインバータ制御が高精度で安定して行われることになる。
【0018】
そして、上記通信用マイコン8の電源電圧は低電圧電源14から外乱なく安定して供給されるので、通信用マイコン8は所定の電源電圧で安定して作動される。制御用マイコン10の電源電圧としては、低電圧電源14からの電圧をトランスを介して変圧した所定の電圧が供給され、このトランス14が低電圧域11と高電圧域12との絶縁境界13を構成できるので、制御用マイコン10にも所定の電源電圧が安定して確実に供給される。したがって、通信用マイコン8、制御用マイコン10ともに安定した作動が確保され、かつ、通信用マイコン8と制御用マイコン10との間の信号の伝達も現状存在しているフォトカプラ9を用い安定して行われるので、通信バス7からインバータ4に至るまでの全領域での信号の通信信頼性が向上される。
【0019】
さらに、本実施態様では、低電圧電源14からの電圧が、トランス15によって所定の電圧(3)に変圧されてインバータ4のゲート駆動用電圧として供給されるので、各スイッチング素子2に対するゲート駆動制御も外乱なく安定して行われ、電動圧縮機6のモータ5の制御のためのシステム全体の作動が安定して行われることになる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明に係る電動圧縮機の制御装置は、通信バスからの信号によって制御される、あらゆる電動圧縮機用の制御装置として適用でき、とくに、車両用空調装置に用いられる電動圧縮機の制御装置として好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施態様に係る電動圧縮機の制御装置の概略回路図である。
【図2】従来の電動圧縮機の制御装置の概略回路図である。
【符号の説明】
【0022】
1 高電圧電源
2 スイッチング素子
3 ゲート駆動回路
4 インバータ
5 モータ
6 電動圧縮機
7 通信バス
8 通信用マイコン
9 絶縁素子としてのフォトカプラ
10 制御用マイコン
11 低電圧域
12 高電圧域
13 絶縁境界
14 低電圧電源
15 トランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧電源から供給される直流を疑似交流に変換し電動圧縮機のモータに駆動電流として供給するインバータと、低電圧域に配置され高速通信バスを介して指示信号が伝達される通信用マイコンと、高電圧域に配置され、前記通信用マイコンと絶縁素子を介して接続され、前記通信用マイコンからの指示信号をインバータの制御信号としてインバータに伝達する制御用マイコンとを有し、前記通信用マイコンの電源電圧を低電圧電源から供給するとともに、、該低電圧電源からの電圧をトランスを介して変圧し、前記制御用マイコンの電源電圧として供給することを特徴とする電動圧縮機の制御装置。
【請求項2】
前記インバータのゲート駆動用電圧も、前記低電圧電源からの電圧をトランスを介し変圧して供給する、請求項1に記載の電動圧縮機の制御装置。
【請求項3】
前記絶縁素子がフォトカプラからなる、請求項1または2に記載の電動圧縮機の制御装置。
【請求項4】
車両用空調装置に用いられる、請求項1〜3のいずれかに記載の電動圧縮機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−312342(P2008−312342A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157327(P2007−157327)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】