説明

駆動装置

【課題】より適正に漏電部位の切り分け判定を行なう。
【解決手段】インバータ素子温度Tinvが閾値Tref以下であるか否かを判定し(S120)、インバータ素子温度Tinvが閾値Tref以下のときには、ゲート許可でもゲート遮断での漏電判定が正常のときには漏電なし(S160)、ゲート許可でもゲート遮断でも漏電判定が異常のときには直流エリアで漏電が生じていると切り分け(S180)、ゲート遮断で漏電判定が正常でゲート許可としたときに漏電判定が異常に変化したときには交流エリアで漏電が生じていると切り分け(S200)、漏電なし,直流エリア,交流エリアのいずれにも切り分け判定されないときには切り分け不定と判定する(S210)。インバータ素子温度Tinvが閾値Tref以下のときにだけ漏電部位の切り分け判定を行なうから、より適正に漏電部位の切り分けを行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置に関し、詳しくは、三相交流電力により駆動する電動機とこの電動機を駆動するためのインバータ回路とこのインバータ回路に直流電力を供給する二次電池とを備える駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の駆動装置としては、直流ステージの平滑コンデンサのプラス側およびマイナス側の各端子と、交流を直流に変換する整流器の直流側の各端子との間にリアクトルを接続し、平滑コンデンサのプラス側およびマイナス側の各短詩と接地との間にコンデンサと抵抗とを直列接続して挿入するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、インバータ装置の漏洩電流を抑制し、これにより漏電遮断器の誤動作を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−210649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三相交流電動機とこの電動機を駆動するためのインバータとこのインバータに電力を供給する二次電池とからなる駆動装置では、漏電が生じている部位を判定することができれば、漏電が生じている部位を切り離して作動することができるため、漏電部位の切り分けを適正に行なうことが望まれる。インバータのスイッチング素子が高温になると、ゲート遮断時の直流部と交流部との間の絶縁抵抗が低下するため、交流部の漏電を直流部の漏電と切り分ける際に誤りが生じる場合がある。こうした誤切り分けは、本来作動することができる部位を作動することができなかったり、作動することができない部位を作動しようとしたりしてしまう。
【0005】
本発明の駆動装置は、より適正に漏電部位の切り分け判定を行なうことを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の駆動装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の第1の駆動装置は、
三相交流電力により駆動する電動機と、前記電動機を駆動するためのインバータ回路と、前記インバータ回路に直流電力を供給する二次電池と、を備える駆動装置であって、
アースされた発振電源と検出抵抗とカップリングコンデンサと直列接続すると共に前記カップリングコンデンサの前記検出抵抗に接続されていない接続端子を前記二次電池の正極側または負極側に接続してなる検出回路と、前記検出抵抗と前記カップリングコンデンサとの接続点の電圧を検出する電圧センサと、を有し、前記電圧センサにより検出される信号を漏電検出信号として検出する漏電検出信号検出手段と、
前記インバータのスイッチング素子の温度を検出する温度検出手段と、
前記検出されたスイッチング素子の温度が漏電の切り分けを十分に行なうことができる上限の温度として予め定められた所定温度より高いときには漏電の切り分けができる状態にないと判定し、前記検出されたスイッチング素子の温度が前記所定温度以下のときには、前記インバータ回路のゲート許可とゲート遮断とを伴って前記漏電検出信号検出手段により検出される漏電検出信号に基づいて漏電に対して正常であるか異常であるかの漏電判定を行ない、ゲート操作状態と前記漏電判定とに基づいて漏電エリアの切り分けを行なう漏電切り分け判定手段と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の第1の駆動装置では、インバータ回路のスイッチング素子の温度が漏電の切り分けを十分に行なうことができる上限の温度として予め定められた所定温度より高いときには漏電の切り分けができる状態にないと判定する。インバータ回路のスイッチング素子の温度が所定温度以下のときには、インバータ回路のゲート許可とゲート遮断とを伴って漏電検出信号検出手段により検出される漏電検出信号に基づいて漏電に対して正常であるか異常であるかの漏電判定を行ない、ゲート操作状態と前記漏電判定とに基づいて漏電エリアの切り分けを行なう。こうした判定により、インバータ回路のスイッチング素子の温度に基づいてより適正に漏電部位の切り分け判定を行なうことができる。なお、アースされた発振電源と検出抵抗とカップリングコンデンサと直列接続すると共にカップリングコンデンサの検出抵抗に接続されていない接続端子を二次電池の正極側または負極側に接続してなる検出回路と、検出抵抗とカップリングコンデンサとの接続点の電圧を検出する電圧センサと、を有する漏電検出信号検出手段の電圧センサにより検出される信号は、カップリングコンデンサより二次電池側(以下、漏電検査対象)に漏電が生じていないときには、漏電検査対象の絶縁抵抗が低下していないため、検出抵抗にはほとんど電流が流れず、発振電源とほとんど同一の振幅の電圧波形となるが、漏電検査対象で漏電が生じているときには、漏電検査対象の絶縁抵抗が低下するため、検出抵抗に電流が流れ、発振電源より振幅が小さな電圧波形となる。この振幅の程度により絶縁抵抗の低下を検出し、これをもって漏電が生じているか否かを判定するための漏電検出信号としている。
【0009】
本発明の第2の駆動装置は、
三相交流電力により駆動する電動機と、前記電動機を駆動するためのインバータ回路と、前記インバータ回路に直流電力を供給する二次電池と、を備える駆動装置であって、
アースされた発振電源と検出抵抗とカップリングコンデンサと直列接続すると共に前記カップリングコンデンサの前記検出抵抗に接続されていない接続端子を前記二次電池の正極側または負極側に接続してなる検出回路と、前記検出抵抗と前記カップリングコンデンサとの接続点の電圧を検出する電圧センサと、を有し、前記電圧センサにより検出される信号を漏電検出信号として検出する漏電検出信号検出手段と、
前記インバータのスイッチング素子の温度を検出する温度検出手段と、
前記検出されたスイッチング素子の温度が高いほど大きくなる傾向に前記インバータ回路における漏れ電流を推定すると共に該推定した漏れ電流に基づいて第1の抵抗値を設定し、計測結果により得られた結果に基づいて予め定められた前記漏電検出信号の値と抵抗値との関係である信号抵抗値関係に前記インバータ回路のゲート遮断時に前記漏電検出信号検出手段により検出される漏電検出信号を適用して得られる抵抗値を第2の抵抗値として設定し、前記信号抵抗値関係に前記第1の抵抗値と前記第2の抵抗値との和の抵抗値を適用して得られる漏電検出信号の値を判定用閾値として設定する判定用閾値設定手段と、
前記インバータ回路のゲート許可とゲート遮断とを伴って前記漏電検出信号検出手段により検出される漏電検出信号と前記設定された判定用閾値とに基づいて漏電に対して正常であるか異常であるかの漏電判定を行ない、ゲート操作状態と前記漏電判定とに基づいて漏電エリアの切り分けを行なう漏電切り分け判定手段と、
を備えることを要旨とする。
【0010】
この本発明の第2の駆動装置では、インバータ回路のスイッチング素子の温度が高いほど大きくなる傾向にインバータ回路における漏れ電流を推定すると共にこの推定した漏れ電流に基づいて第1の抵抗値を設定し、計測結果により得られた結果に基づいて予め定められた漏電検出信号の値と抵抗値との関係である信号抵抗値関係にインバータ回路のゲート遮断時に漏電検出信号検出手段により検出される漏電検出信号を適用して得られる抵抗値を第2の抵抗値として設定し、信号抵抗値関係に第1の抵抗値と第2の抵抗値との和の抵抗値を適用して得られる漏電検出信号の値を判定用閾値として設定する。そして、インバータ回路のゲート許可とゲート遮断とを伴って漏電検出信号検出手段により検出される漏電検出信号と設定された判定用閾値とに基づいて漏電に対して正常であるか異常であるかの漏電判定を行ない、ゲート操作状態と前記漏電判定とに基づいて漏電エリアの切り分けを行なう。このように、インバータ回路のスイッチング素子の温度に基づいて漏電判定用の閾値である判定用閾値を設定し、この判定用閾値を用いて漏電の判定を行なうから、インバータ回路のスイッチング素子の温度に基づいて、より適正に漏電部位の切り分け判定を行なうことができる。本発明の第2の駆動装置の漏電検出信号検出手段により漏電検出信号を検出することができるのは上述した本発明の第1の駆動装置と同様である。
【0011】
こうした本発明の第1または第2の駆動装置において、前記漏電切り分け判定手段は、ゲート操作状態と前記漏電判定とに基づいて漏電エリアの切り分けとして、ゲート許可のとき及びゲート遮断のときに前記漏電判定が正常であるときには漏電なしと判定し、ゲート許可のとき及びゲート遮断のときに前記漏電判定が異常であるときには前記インバータ回路より前記二次電池側の直流エリアに漏電が生じていると切り分け判定し、ゲート遮断のときに前記漏電判定が正常でゲート許可のときに前記漏電判定が異常であるときには前記インバータ回路より電動機側の交流エリアに漏電が生じていると切り分け判定し、漏電なし,直流エリア,交流エリアのいずれにも切り分け判定できないときには切り分け不定と判定する手段である、ものとすることもできる。これらは、ゲート許可でもゲート遮断でも漏電判定が正常であれば漏電なしと考えられること、ゲート許可でもゲート遮断でも漏電判定が異常であれば直流エリアに漏電が生じていると考えられること、ゲート遮断で正常でありゲート許可で異常であれば直流エリアには漏電は生じておらず交流エリアに漏電が生じていると考えられること、漏電なし,直流エリア,交流エリアのいずれにも切り分けできないときには切り分けを行なうことができないと考えられること、に基づく。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施例としての駆動装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】第1実施例の漏電検出信号検出器64とこの漏電検出信号検出器64が接続された系の簡易モデル90とを示す説明図である。
【図3】第1実施例のハイブリッド自動車20におけるハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される漏電ダイアグ確定処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】第2実施例のハイブリッド自動車20Bにおけるハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される漏電ダイアグ確定処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】漏れ電流設定用マップの一例を示す説明図である。
【図6】信号抵抗関係マップの一例と遮断時漏電波高値Vsetから抵抗R2を換算する様子と和の抵抗(R1+R2)から漏電解除波高値Vrefを求める様子との一例を示す説明図である。
【図7】漏電解除波高値Vrefを用いて漏電の検出をしている様子の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の第1の駆動装置の一実施例(以下、第1実施例という。)としての駆動装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。第1実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料として動力を出力するエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという。)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪38a,38bにデファレンシャルギヤ37を介して連結された駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸36に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためにパッケージされたインバータ41,42と、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御することによってモータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという。)40と、インバータ41,42が接続された駆動電力系と電力をやりとりするバッテリ50と、バッテリ50と駆動電力系に接続された正極側電力ラインと負極側電力ラインとを接続したり接続を解除(遮断)する正極側リレー52aと負極側リレー52bとからなるシステムメインリレー52と、システムメインリレー52より駆動電力系に取り付けられた平滑コンデンサ54および電圧センサ53と、システムメインリレー52よりバッテリ50側でバッテリ50の負極側端子が接続された負極側電力ラインに接続された漏電検出信号検出器64と、パッケージされたインバータ41,42のスイッチング素子の近傍に取り付けられた温度センサ43からのスイッチング素子の温度(以下、インバータ素子温度という)Tinvや、シフトレバーのポジションを検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジション,アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度,ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキポジション,車速センサ88からの車速,加速度センサ89からの加速度Gなどを入力すると共にエンジンECU24やモータECU40と通信して車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット70と、を備える。
【0015】
図2は、第1実施例の漏電検出信号検出器64とこの漏電検出信号検出器64が接続された系の簡易モデル90とを示す説明図である。図示するように、漏電検出信号検出器64は、一方が接地された発振電源65と、一方の端子が発振電源65に接続された検出抵抗66と、一方の端子が検出抵抗66の他方の端子に接続されると共に他方の端子が簡易モデル90に接続されたカップリングコンデンサ67と、検出抵抗66とカップリングコンデンサ67との接続部の電圧を検出する電圧センサ68と、を備える。ここで、簡易モデル90は、システムメインリレー52の正極側リレー52aや負極側リレー52bのいずれか一方または双方をオンとしたときの回路モデルであり、一方の端子がカップリングコンデンサ67に接続されると共に他方の端子が接地された絶縁抵抗92と、この絶縁抵抗92に並列に接続されたコモンモードコンデンサ93とにより構成される。電圧センサ68から検出される電圧波形は、簡易モデル90のインピーダンスが大きいときには、検出抵抗66にほとんど電流が流れないため、発振電源65とほぼ同じ振幅の電圧波形となるが、簡易モデル90のインピーダンスが小さいときには検出抵抗66に電流が流れるため、検出抵抗66で電圧降下した分だけ小さな振幅の電圧波形となる。従って、漏電検出信号検出器64の電圧センサ68は、簡易モデル90で漏電が生じていないとき、即ち、駆動電力系の絶縁抵抗が低下していないときには発振電源65とほぼ同じ振幅の電圧波形を出力し、簡易モデル90で漏電が生じているとき、即ち、駆動電力系の絶縁抵抗が低下しているときには発振電源65より小さな振幅の電圧波形を出力することになる。第1実施例の漏電判定では、漏電検出信号検出器64からの信号が、電圧センサ68から検出される電圧波形の振幅が発振電源65の電圧波形の振幅より若干小さな値として予め設定された判定用閾値より大きいときに漏電は生じておらず正常であると判定し、電圧センサ68から検出される電圧波形の振幅が判定用閾値より小さいときに漏電が生じており異常であると判定するものとした。
【0016】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力が駆動軸36に出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されて駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力を駆動軸36に出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。
【0017】
次に、第1実施例のハイブリッド自動車20における動作、特に漏電の切り分け判定の動作について説明する。図3は、第1実施例のハイブリッド自動車20におけるハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される漏電ダイアグ確定処理の一例を示すフローチャートである。この処理はシステム起動時や駆動系で異常が判定されたときなど、漏電に対して必要なタイミングで実行される。
【0018】
この漏電ダイアグ確定処理が実行されると、まず、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、インバータ41,42のゲート操作が可能であるか否かを判定し(ステップS100)、インバータ41,42のゲート操作が不能であるときには、漏電の切り分け処理を行なう状態にないため、漏電切り分け処理待機状態として(ステップS130)、本処理を終了する。ここで、インバータ41,42のゲート操作が可能であるか否かの判定は、実施例では、インバータ41,42のゲート操作に対する異常が生じているか否かにより行なうものとした。
【0019】
インバータ41,42のゲート操作が可能であると判定したときには、温度センサ43からのインバータ素子温度Tinvを入力し(ステップS110)、入力したインバータ素子温度Tinvが漏電の切り分けを十分に行なうことができる上限の温度として予め定められた温度としての閾値Tref以下であるか否かを判定し(ステップS120)、インバータ素子温度Tinvが閾値Trefより大きいときには、インバータ素子温度Tinvが高いことにより漏電の切り分けを行なう状態にないため、漏電切り分け処理待機状態として(ステップS130)、本処理を終了する。ここで、インバータ素子温度Tinvが高いと漏電の切り分けを十分に行なうことができなくなるのは、インバータ素子温度Tinvが高くなると漏れ電流が大きくなる結果、図2における簡易モデルのインピーダンスが小さくなり、漏電検出信号検出器64により検出される電圧波形が異なるものとなって判定用閾値では適正に判定することができなくなることに基づく。従って、閾値Trefは、インバータ素子温度Tinvと漏電の判定との関係を実験などにより調べて定めることができる。
【0020】
インバータ素子温度Tinvが閾値Tref以下のときには、インバータ41,42のゲート許可とゲート遮断とを伴って漏電検出信号検出器64からの漏電検出信号により漏電に対する正常・異常を判定する(ステップS140)。漏電判定については上述した。インバータ41,42のゲート許可の状態でもゲート遮断の状態での漏電判定が正常であると判定されたときには(ステップS150)、漏電なしと確定して(ステップS160)、本処理を終了する。インバータ41,42のゲート許可の状態やゲート遮断の状態のいずれかで漏電判定が異常であると判定されたときには、インバータ41,42をゲート許可の状態で漏電判定が異常でこの状態からゲート遮断の状態としたときに漏電判定が正常に変化しなかったとき(ステップS170)、即ち、ゲート許可でもゲート遮断でも漏電判定が異常のときには、インバータ41,42よりバッテリ50側の直流エリアで漏電が生じていると切り分けを確定して(ステップS180)、本処理を終了する。ゲート許可でもゲート遮断でも漏電判定が異常であれば、直流エリアに漏電が生じていると考えられるからである。インバータ41,42をゲート遮断の状態で漏電判定が正常でこの状態からゲート許可の状態としたときに漏電判定が異常に変化したときには(ステップS190)、インバータ41,42よりモータMG1,MG2側の交流エリアで漏電が生じていると切り分けを確定して(ステップS200)、本処理を終了する。ゲート遮断で正常でありゲート許可で異常であれば直流エリアには漏電は生じておらず、交流エリアに漏電が生じていると考えられるからである。一方、ステップS170で直流エリアに切り分けられることもなく且つステップS190で交流エリアに切り分けられることもないときには漏電エリアの切り分けはできないとして切り分け不定を確定し(ステップS210)、本処理を終了する。
【0021】
以上説明した第1実施例のハイブリッド自動車20によれば、インバータ素子温度Tinvが漏電の切り分けを十分に行なうことができる上限の温度として予め定められた温度としての閾値Tref以下であるか否かを判定し、インバータ素子温度Tinvが閾値Tref以下のときにだけ漏電部位の切り分け判定を行なうから、インバータ素子温度Tinvが閾値Trefより高いときに漏電部位の切り分け判定を行なったときに生じ得る不適正な切り分け行なうことなく、より適正に漏電部位の切り分けを行なうことができる。即ち、インバータ41,42のスイッチング素子の温度Tinvに基づいてより適正に漏電部位の切り分け判定を行なうことができるのである。しかも、漏電部位の切り分けは、ゲート許可の状態でもゲート遮断の状態での漏電判定が正常であるときには漏電なしと判定し、ゲート許可でもゲート遮断でも漏電判定が異常のときにはインバータ41,42よりバッテリ50側の直流エリアで漏電が生じていると切り分け判定し、ゲート遮断の状態で漏電判定が正常でこの状態からゲート許可の状態としたときに漏電判定が異常に変化したときには、インバータ41,42よりモータMG1,MG2側の交流エリアで漏電が生じていると切り分け判定し、漏電なし,直流エリア,交流エリアのいずれにも切り分け判定されないときには切り分け不定と判定するから、漏電部位の切り分けをより適正に行なうことができる。
【実施例2】
【0022】
次に、本発明の第2の駆動装置の一実施例(以下、第2実施例という。)としての駆動装置を搭載するハイブリッド自動車20Bについて説明する。第2実施例のハイブリッド自動車20Bは、図1および図2に示した第1実施例のハイブリッド自動車20と同一のハード構成をしている。したがって、重複した説明を回避するため、第2実施例のハイブリッド自動車20Bのハード構成についての説明は省略する。第2実施例のハイブリッド自動車20Bによる漏電判定では、漏電検出信号検出器64からの信号が、電圧センサ68から検出される電圧波形とインバータ素子温度Tinvを用いて設定された判定用閾値とに基づいて行なわれる点が第1実施例のハイブリッド自動車20による漏電判定と異なる。以下、第2実施例のハイブリッド自動車20Bによる漏電判定を中心に説明する。
【0023】
図4は、第2実施例のハイブリッド自動車20Bにおけるハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される漏電ダイアグ確定処理の一例を示すフローチャートである。この処理も第1実施例と同様にシステム起動時や駆動系で異常が判定されたときなど、漏電に対して必要なタイミングで実行される。
【0024】
漏電ダイアグ確定処理が実行されると、第2実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、温度センサ43からのインバータ素子温度Tinvや電圧センサ53からの電圧Vhを入力し(S300)、入力したインバータ素子温度Tinvに基づいて漏れ電流Ieを推定し(ステップS310)、推定した漏れ電流Ieで入力した電圧Vhを除してゲート遮断による抵抗復帰量としての抵抗R1を算出する(ステップS320)。ここで、漏れ電流Ieの推定は、第2実施例では、インバータ素子温度Tinvと漏れ電流Ieとの関係を実験などにより調べて漏れ電流設定用マップとしてROM74に記憶しておき、インバータ素子温度Tinvが与えられるとマップから対応する漏れ電流Ieを導出することにより行なうものとした。漏れ電流設定用マップの一例を図5に示す。図示するように、インバータ素子温度Tinvが高いほど漏れ電流Ieは大きくなる。
【0025】
続いて、ゲート遮断時に漏電検出信号検出器64により検出される漏電検出信号Vwを遮断時漏電波高値Vsetとして入力し(ステップS330)、漏電検出信号の値(漏電波高値)と抵抗値との関係として予め実験などにより定めた信号抵抗関係マップに遮断時漏電波高値Vsetを適用して得られる抵抗値を抵抗R2として換算し(ステップS340)、信号抵抗関係マップに換算した抵抗R2と漏れ電流Ieから得られる抵抗R1との和の抵抗(R1+R2)を適用して得られる信号値を漏電判定を行なう際の判定用閾値として用いられる漏電解除波高値Vrefとして設定する(ステップS350)。信号抵抗関係マップの一例と遮断時漏電波高値Vsetから抵抗R2を換算する様子と和の抵抗(R1+R2)から漏電解除波高値Vrefを求める様子とを図6に示す。図示するように、抵抗値が大きいほど漏電波高値は大きくなる。ここで、漏れ電流Ieはインバータ素子温度Tinvが高くなるほど大きくなるから、抵抗R1はインバータ素子温度Tinvが高くなるほど小さくなる。このため、漏電解除波高値Vrefを求める際の抵抗値(R1+R2)は、遮断時漏電波高値Vsetが同じであれば、インバータ素子温度Tinvが高いほど小さくなり、漏電解除波高値Vrefはインバータ素子温度Tinvが高いほど小さくなる。漏電解除波高値Vrefを用いて漏電の検出をしている様子を図7に示す。図7中、実線はインバータ素子温度Tinvが比較的高いときにインバータ41,42をゲート遮断したときの漏電検出信号Vwの時間変化の一例であり、一点鎖線はインバータ素子温度Tinvが比較的低いときにインバータ41,42をゲート遮断したときの漏電検出信号Vwの時間変化の一例である。実線に示すように、インバータ素子温度Tinvが比較的高いときには、漏れ電流Ieが大きくなる結果、ゲート遮断による抵抗復帰量が小さくなるため、インバータ素子温度Tinvが比較的低いときの漏電解除波高値Vref(低温時)を用いると異常と判定されてしまうが、インバータ素子温度Tinvが比較的高いときの漏電解除波高値Vref(高温時)を用いると正常と判定される。第2実施例では、このようにインバータ素子温度Tinvの温度に応じて漏電判定用の閾値としての漏電解除波高値Vrefを設定することにより、漏電判定をより適正に行なうのである。
【0026】
こうして漏電解除波高値Vrefを設定すると、インバータ41,42のゲート操作が可能であるか否かを判定し(ステップS360)、インバータ41,42のゲート操作が不能であるときには、漏電の切り分け処理を行なう状態にないため、漏電切り分け処理待機状態として(ステップS370)、本処理を終了する。インバータ41,42のゲート操作が可能であると判定したときには、 インバータ41,42のゲート許可とゲート遮断とを伴って漏電検出信号検出器64からの漏電検出信号Vwを入力し(ステップS380)、漏電検出信号Vwと漏電解除波高値Vrefとにより漏電判定を行なう(ステップS390)。そして、図3に示す第1実施例の漏電ダイアグ確定処理のステップS150〜S210の処理と同一のゲート状態と漏電判定との結果による漏電なし,直流エリア,交流エリア,切り分け不定を判定する処理(ステップS400〜S460)を実行して本処理を終了する。ゲート状態と漏電判定との結果による漏電なし,直流エリア,交流エリア,切り分け不定を判定する処理については第1実施例で詳述したので、ここでは省略する。
【0027】
以上説明した第2実施例のハイブリッド自動車20Bによれば、インバータ素子温度Tinvが高いほど大きくなる傾向の漏れ電流Ieを推定すると共に推定した漏れ電流Ieと電圧Vhとによりゲート遮断による抵抗復帰量としての抵抗R1を算出し、ゲート遮断時に漏電検出信号検出器64により検出される漏電検出信号Vwを遮断時漏電波高値Vsetとして信号抵抗関係マップに適用して抵抗R2を求めると共に抵抗R1と抵抗R2との和(R1+R2)を信号抵抗関係マップに適用して漏電解除波高値Vrefを設定し、ゲート操作を伴って漏電検出信号検出器64により検出される導電検出信号Vwに対して漏電解除波高値Vrefを閾値として用いて漏電判定することにより、インバータ素子温度Tinvに基づいてより適正に漏電部位の切り分け判定を行なうことができる。もとより、漏電部位の切り分けは、ゲート許可の状態でもゲート遮断の状態での漏電判定が正常であるときには漏電なしと判定し、ゲート許可でもゲート遮断でも漏電判定が異常のときにはインバータ41,42よりバッテリ50側の直流エリアで漏電が生じていると切り分け判定し、ゲート遮断の状態で漏電判定が正常でこの状態からゲート許可の状態としたときに漏電判定が異常に変化したときには、インバータ41,42よりモータMG1,MG2側の交流エリアで漏電が生じていると切り分け判定し、漏電なし,直流エリア,交流エリアのいずれにも切り分け判定されないときには切り分け不定と判定するから、漏電部位の切り分けをより適正に行なうことができる。
【0028】
上述した第1実施例や第2実施例のハイブリッド自動車20,20Bでは、パッケージされたインバータ41,42のスイッチング素子の温度を検出する温度センサ43からのインバータ素子温度Tinvに基づいて漏電切り分けを行なうものとしたが、インバータ素子の温度を反映するもの、例えば、インバータ41,42を冷却水などの冷却媒体を用いて冷却する場合には冷却媒体の温度に基づいて漏電切り分けを行なうものとしてもよい。
【0029】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。第1の駆動装置と第1実施例では、モータMG1やモータMG2が「電動機」に相当し、インバータ41,42が「インバータ回路」に相当し、バッテリ50が「二次電池」に相当し、漏電検出信号検出器64が「漏電検出信号検出手段」に相当し、温度センサ43が「温度検出手段」に相当し、図3の漏電ダイアグ確定処理を実行するハイブリッド用電子制御ユニット70が「漏電切り分け判定手段」に相当する。また、第2の駆動装置と第2実施例では、モータMG1やモータMG2が「電動機」に相当し、インバータ41,42が「インバータ回路」に相当し、バッテリ50が「二次電池」に相当し、漏電検出信号検出器64が「漏電検出信号検出手段」に相当し、温度センサ43が「温度検出手段」に相当し、図4の漏電ダイアグ確定処理のステップS300〜S350の処理を実行するハイブリッド用電子制御ユニット70が「判定用閾値設定手段」に相当し、図4の漏電ダイアグ確定処理のステップS360〜S460の処理を実行するハイブリッド用電子制御ユニット70が「漏電切り分け判定手段」に相当する。
【0030】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0031】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、駆動装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
20,20B ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、37 デファレンシャルギヤ、38a,38b 駆動輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43 温度センサ、50 バッテリ、52 システムメインリレー、52a 正極側リレー、52b 負極側リレー、53 電圧センサ、54 平滑コンデンサ、64 漏電検出信号検出器、65 発振電源、66 検出抵抗、67 カップリングコンデンサ、68 電圧センサ、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、82 シフトポジションセンサ、84 アクセルペダルポジションセンサ、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、89 加速度センサ、90 簡易モデル、92 絶縁抵抗、93 コモンモードコンデンサ、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電力により駆動する電動機と、前記電動機を駆動するためのインバータ回路と、前記インバータ回路に直流電力を供給する二次電池と、を備える駆動装置であって、
アースされた発振電源と検出抵抗とカップリングコンデンサと直列接続すると共に前記カップリングコンデンサの前記検出抵抗に接続されていない接続端子を前記二次電池の正極側または負極側に接続してなる検出回路と、前記検出抵抗と前記カップリングコンデンサとの接続点の電圧を検出する電圧センサと、を有し、前記電圧センサにより検出される信号を漏電検出信号として検出する漏電検出信号検出手段と、
前記インバータのスイッチング素子の温度を検出する温度検出手段と、
前記検出されたスイッチング素子の温度が漏電の切り分けを十分に行なうことができる上限の温度として予め定められた所定温度より高いときには漏電の切り分けができる状態にないと判定し、前記検出されたスイッチング素子の温度が前記所定温度以下のときには、前記インバータ回路のゲート許可とゲート遮断とを伴って前記漏電検出信号検出手段により検出される漏電検出信号に基づいて漏電に対して正常であるか異常であるかの漏電判定を行ない、ゲート操作状態と前記漏電判定とに基づいて漏電エリアの切り分けを行なう漏電切り分け判定手段と、
を備える駆動装置。
【請求項2】
三相交流電力により駆動する電動機と、前記電動機を駆動するためのインバータ回路と、前記インバータ回路に直流電力を供給する二次電池と、を備える駆動装置であって、
アースされた発振電源と検出抵抗とカップリングコンデンサと直列接続すると共に前記カップリングコンデンサの前記検出抵抗に接続されていない接続端子を前記二次電池の正極側または負極側に接続してなる検出回路と、前記検出抵抗と前記カップリングコンデンサとの接続点の電圧を検出する電圧センサと、を有し、前記電圧センサにより検出される信号を漏電検出信号として検出する漏電検出信号検出手段と、
前記インバータのスイッチング素子の温度を検出する温度検出手段と、
前記検出されたスイッチング素子の温度が高いほど大きくなる傾向に前記インバータ回路における漏れ電流を推定すると共に該推定した漏れ電流に基づいて第1の抵抗値を設定し、計測結果により得られた結果に基づいて予め定められた前記漏電検出信号の値と抵抗値との関係である信号抵抗値関係に前記インバータ回路のゲート遮断時に前記漏電検出信号検出手段により検出される漏電検出信号を適用して得られる抵抗値を第2の抵抗値として設定し、前記信号抵抗値関係に前記第1の抵抗値と前記第2の抵抗値との和の抵抗値を適用して得られる漏電検出信号の値を判定用閾値として設定する判定用閾値設定手段と、
前記インバータ回路のゲート許可とゲート遮断とを伴って前記漏電検出信号検出手段により検出される漏電検出信号と前記設定された判定用閾値とに基づいて漏電に対して正常であるか異常であるかの漏電判定を行ない、ゲート操作状態と前記漏電判定とに基づいて漏電エリアの切り分けを行なう漏電切り分け判定手段と、
を備える駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の駆動装置であって、
前記漏電切り分け判定手段は、ゲート操作状態と前記漏電判定とに基づいて漏電エリアの切り分けとして、ゲート許可のとき及びゲート遮断のときに前記漏電判定が正常であるときには漏電なしと判定し、ゲート許可のとき及びゲート遮断のときに前記漏電判定が異常であるときには前記インバータ回路より前記二次電池側の直流エリアに漏電が生じていると切り分け判定し、ゲート遮断のときに前記漏電判定が正常でゲート許可のときに前記漏電判定が異常であるときには前記インバータ回路より電動機側の交流エリアに漏電が生じていると切り分け判定し、漏電なし,直流エリア,交流エリアのいずれにも切り分け判定できないときには切り分け不定と判定する手段である、
駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−172373(P2011−172373A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33450(P2010−33450)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】