説明

III族窒化物半導体装置

【課題】p型III族窒化物半導体8をドライエッチングして形成した平坦表面に電極を形成してもオーミック接触させることができない。
【解決手段】p型III族窒化物半導体8の電極形成範囲をドライエッチングして溝8dを形成し、その溝8dに金属20を充填して電極を形成する。p型III族窒化物半導体8のドライエッチング面は、エッチングによって生じた欠陥によってn型化しているために、平坦平面にドライエッチングしておいて電極を形成するとオーミック接触しない。溝8dを設けておくと、欠陥が少ない溝8dの側面においてp型III族窒化物半導体8と電極がオーミック接触し、半導体と電極の接触抵抗が低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式がAlGaInN1−(x+y+z)(0≦x<1,0≦y<1,0≦z<1,x+y+z<1)で示されるIII族窒化物半導体で構成されている半導体装置に関する。GaNで代表されるIII族窒化物半導体は、高耐圧低損失のパワー半導体装置を実現する有望な材料として大いに期待されている。
【背景技術】
【0002】
図1は、III族窒化物半導体で構成した横型トランジスタの断面を模式的に示しており、2はサファイア基板であり、4はバッファ層であり、6は高抵抗なn型GaN層であり、8はp型GaN層であり、10は高抵抗なn型GaN層であり、12はAlGaN層である。12aは不純物がドープされたAlGaN領域であり、ソース領域として機能する。12cは不純物がドープされたAlGaN領域であり、ドレイン領域として機能する。12bはチャネル領域として機能する。16はゲート絶縁膜であり、18はゲート電極であり、14aはソース電極であり、14bはドレイン電極であり、20はアース電極である。アース電極20は接地して用いられ、作動中のトランジスタから正孔を引き抜く。
n型GaN層10の下方に位置しているp型GaN層8に接するアース電極20を形成するために、製造時には積層基板の上面からドライエッチングしてp型GaN層8に達する溝を形成する。すなわち溝の底面にp型GaN層8の上面が露出している状態をつくり、その状態でアース電極20を形成する。p型GaN層8に達する溝は、素子分離溝としても機能する。
【0003】
図2は、III族窒化物半導体で構成した縦型トランジスタの断面を模式的に示しており、特許文献1に類似の構造が開示されている。図示30はドレイン電極であり、36はn型GaN基板であり、38はn型GaN層であり、40もn型GaN層であり、42はAlGaN層である。42a,42cは不純物がドープされたAlGaN領域であり、ソース領域として機能する。42bはチャネルのバリア層として機能する。46はゲート絶縁膜であり、48はゲート電極であり、44a,44bはソース電極である。38a,38bは、p型化されているGaN領域であり、50a,50bはアース電極である。アース電極50a,50bは接地して用いられ、作動中のトランジスタから正孔を引き抜く。
n型GaN層40の下方に位置しているp型GaN領域38a,38bに接するアース電極50a,50bを形成するために、製造時には積層基板の上面からドライエッチングしてp型GaN領域38a,38bに達する溝を形成する。すなわち溝の底面にp型GaN領域38a,38bの上面が露出している状態をつくり、その状態でアース電極50a,50bを形成する。p型GaN層8に達する溝は、素子分離溝としても機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−260140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、III族窒化物半導体装置の製造工程では、積層基板の上面からドライエッチングしてp型III族窒化物半導体に達する溝を形成することによって溝の底面にp型III族窒化物半導体の上面が露出している状態をつくり、その状態でp型III族窒化物半導体の上面に接する電極を形成する工程を経ることが多い。しかしながら上記工程によって形成した電極がp型III族窒化物半導体にオーミック接触しないことが多い。p型III族窒化物半導体と電極がオーミック接触しないために、III族窒化物半導体装置の特性が低下してしまう事態が発生しやすい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書では、p型III族窒化物半導体の上面にp型III族窒化物半導体に接する電極を形成した場合に、p型III族窒化物半導体とオーミック接触する電極が安定的に製造される技術を開示する。
本明細書で開示するIII族窒化物半導体装置は、p型III族窒化物半導体の上面から内部に侵入する溝が形成されており、その溝に充填された金属によって電極が形成される。その電極は、p型III族窒化物半導体にオーミック接触する。
【0007】
積層基板の上面からドライエッチングして形成した溝の底面に露出しているp型III族窒化物半導体の上面に形成した電極がp型III族窒化物半導体にオーミック接触しない原因は、下記のものと推定される。
上記の場合、p型III族窒化物半導体をドライエッチングした面に電極が形成される。p型III族窒化物半導体をドライエッチングすると、そのエッチング面にイオンが衝撃を与えることから多くの欠陥が発生する。特に窒素が抜けてしまう欠陥が多く発生する。窒素が抜けてしまった欠陥はドナーとして機能する。すなわち、p型III族窒化物半導体のドライエッチング面はn型化する。その結果、p型III族窒化物半導体のドライエッチング面に電極を形成すると、「電極・n型化したIII族窒化物半導体・p型III族窒化物半導体」の積層構造が構成させてしまう。この結果、電極とp型III族窒化物半導体の間にオーミック特性が得られないと思われる。
【0008】
p型III族窒化物半導体のドライエッチング面に凹凸を形成すれば、電極とp型III族窒化物半導体の接触面積が増大し、接触抵抗の低減に有利であると想像される。III族窒化物半導体は化学的に安定しており、ウエットエッチングすることが難しい。ウエットエッチングする技術が提案されてはいるが、現状では制御することが難しく、実用に供せない。現状の技術では、凹凸を形成する際にもドライエッチングによらざるを得ない。凹凸を形成する面をドライエッチングで形成すれば、凹凸形成面がn型化すると予想され、凹凸を形成して接触面積を増大させてもオーミック電極を得るための有効な対策にならないはずである。
【0009】
実際に、p型III族窒化物半導体の上面から内部に侵入する溝を形成してみると、溝の底面を提供するp型III族窒化物半導体の上面のみならず、溝の側面を提供するp型III族窒化物半導体の側面までn型化してしまう。溝の側面といっても、溝の底面に直交しているわけでない。上方に向かって拡径する方向に傾斜している。側面が傾斜していることから、ドライエッチング用のイオンは、傾斜している側面にも衝突して衝撃を与える。溝の側面にもドライエッチング用のイオンが衝撃を与え、欠陥を発生させ、n型化させる。実際にも、n型化したp型III族窒化物半導体の側面に沿ってリーク電流が流れてしまう現象が観察される。p型III族窒化物半導体の側面に沿って絶縁膜を形成しても、p型III族窒化物半導体の側面がn型化する現象をとめることができず、n型化したIII族窒化物半導体の側面に沿ってリーク電流が流れるのをとめることができない。
上記のことから、p型III族窒化物半導体のドライエッチング面に凹凸を形成しても、その凹凸をドライエッチングして形成する限り、p型III族窒化物半導体と電極の間にオーミック特性を実現することは困難であると推定できる。
【0010】
しかしながら、p型III族窒化物半導体の上面から内部に侵入する溝を形成し、その溝に金属を充填して電極を形成すると、その溝がドライエッチングして形成されたものであっても、p型III族窒化物半導体と電極の間にオーミック特性が確保されることが確認された。
上記したように、溝を形成しても、その溝がドライエッチングで形成したものである限り、p型III族窒化物半導体と電極の間にオーミック特性を付与するのに有利に作用しないと推測されていた、しかしながら、ドライエッチングして形成した溝に金属を充填すると、その金属とp型III族窒化物半導体の間にオーミック特性が確保される。その理由は下記のように推定される。
1)III族窒化物半導体をドライエッチングすると、欠陥が発生してn型化する。この時点で発生する欠陥は、溝の底面において高密度であり、溝の側面において低密度である。イオンの進行方向に直交する面と、イオンの進行方向に傾斜する面では、イオン衝撃の大きさが相違し、欠陥密度も相違する。
2)III族窒化物半導体を加熱すると、ドライエッチング面に形成された欠陥数が増大するか、あるいはドナーとして作用する効果が強調される。この結果、n型化が顕著となる。
溝の側面に絶縁膜を形成する場合、SiOを製膜することが多い。SiOを製膜する際に、III族窒化物半導体が加熱される。
上記したように、p型III族窒化物半導体の側面に絶縁膜を形成しても、p型III族窒化物半導体の側面がn型化する現象をとめることができず、n型化したIII族窒化物半導体の側面に沿ってリーク電流が流れるのをとめることができない。その現象は、前記1)と2)によるものと推定される。
それに対して、ドライエッチングして形成した溝に金属を充填すると、前記1)の事象は発生するものの、前記2)の事象が発生しないかあるいはその事象の発生程度が抑制されるものと思われる。溝の側面において発生する欠陥が低密度であるからこそn型化の程度が低く、それゆえにp型III族窒化物半導体と電極の間にオーミック特性が実現されるとしか説明できない事象が生じる。
しかも、ドライエッチングして形成した溝に金属を充填してオーミック特性を得ると、その後にIII族窒化物半導体が加熱しても、そのオーミック特性は失われない。溝に金属を充填してからIII族窒化物半導体を加熱すると、前記2)の事象が発生しないかあるいはその事象の発生程度が抑制されるものと推定される。
上記の推定が正しいか否かはともかく、実際に、p型III族窒化物半導体の上面から内部に侵入する溝が形成されており、その溝に金属が充填されていると、その金属によって形成される電極とp型III族窒化物半導体の間にオーミック特性が得られる。
【0011】
前記した溝は、p型III族窒化物半導体の内部で留まっていてもよいし、p型III族窒化物半導体を貫通していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本明細書に開示されている技術によると、p型III族窒化物半導体のドライエッチング面に電極を形成することが可能となり、III族窒化物半導体装置の設計自由度が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】III族窒化物半導体で製造した横型トランジスタの断面を模式的に示す図。
【図2】III族窒化物半導体で製造した縦型トランジスタの断面を模式的に示す図。
【図3】第1実施例のp型III族窒化物半導体と電極の断面図。
【図4】第2実施例のp型III族窒化物半導体と電極の断面図。
【図5】第3実施例のp型III族窒化物半導体と電極の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
下記で説明する実施例の主要な特長を以下に例示する。
(特長1)p型III族窒化物半導体のドライエッチング面に形成されている溝は、ドライエッチング面を平面視したときに一定方向に伸びている。
(特長2)p型III族窒化物半導体のドライエッチング面を平面視したときに、個々には短い溝の複数個が、マトリクス状に配置されている。
(特長3)複数の溝が配置されているp型III族窒化物半導体のドライエッチング面を平面視したときに、個々の溝の形状は、多角形、円形、半円形、楕円等の形状をしている。
【実施例】
【0015】
図3〜図5は、図1に例示したp型III族窒化物半導体(実施例ではGaN)層8の上面に電極を形成した部分の断面を示している。図3から図5に共通に示されているように、実施例1〜3では、n型III族窒化物半導体(実施例ではGaN)層10の上面からドライエッチングしてn型III族窒化物半導体層10を貫通してp型III族窒化物半導体層8に達する溝60を設ける。溝60の底面にはp型III族窒化物半導体層8の上面8aが露出し、溝60の側面にはn型III族窒化物半導体層10の側面10cとp型III族窒化物半導体層8の側面8cが露出する。
【0016】
(実施例1) 図3に示すように、溝60の底面に露出するp型III族窒化物半導体層8の上面8aをさらにドライエッチングして、複数本の溝8dを設ける。個々の溝8dは紙面垂直方向に長く伸びている。個々の溝8dの深さは、p型III族窒化物半導体層8内に留まっている。
個々の溝8dを金属20を充填する。金属20は、溝60を形成した段階での底面8aをも被覆する厚みとする。金属には、Ni, Au, Pd あるいはこれらの合金が利用できる。溝8dに金属20を充填してから、酸素シンターして電極とする。個々の溝8dに金属20を充填すると、溝8dの側面と金属20がオーミック接触する。金属20によって、p型III族窒化物半導体層8にオーミック接触する電極が形成される。
【0017】
(実施例2) 図4に示すように、個々の溝8eがp型III族窒化物半導体層8を貫通してn型III族窒化物半導体層6に到達していてもよい。金属ないし電極24がp型III族窒化物半導体層8とn型III族窒化物半導体層6の両者に接触しても問題は生じない。通常、金属ないし電極24とn型III族窒化物半導体層6の間にはショットキーバリアが形成され、金属ないし電極24とn型III族窒化物半導体層6の間にはそのショットキーバリアによって電流が流れるのを阻止する向きの電圧が加えられることが多いからである。
【0018】
図3と図4では、個々の溝8d,8eが紙面垂直方向に長い。紙面垂直方向に短い溝の複数本が、紙面垂直方向に繰り返されていてもよい。後者の場合、個々の溝を図3の上側から見たときに(ドライエッチング面6aを平面視したときに)、正方形、長方形、三角形、六角形、八角形等の多角形をしていてもよい。あるいは、円、半円、楕円等の形状であってもよい。
【0019】
(実施例3) 図5に示すように、p型III族窒化物半導体層8をドライエッチングして上面8aと側面8bを露出させ、露出した上面8aと側面8bの双方に接する金属膜26を電極としてもよい。側面8bに接することから、電極26とp型III族窒化物半導体層8の間にオーミック特性を実現することができる。
【0020】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
また下記に記載する特許請求の範囲の技術的範囲は、実施例に限定されない。実施例はあくまで例示である。
【符号の説明】
【0021】
2:サファイア基板
4:バッファ層
6:n型GaN層
8:p型GaN層
10:n型GaN層
12:AlGaN層
12a:ソース領域
12b:チャネル領域
12c:ドレイン領域
14a:ソース電極
14b:ドレイン電極
16:ゲート絶縁膜
18:ゲート電極
20:アース電極
8a:エッチング上面
8b:エッチング側面
8c:エッチング側面
8d,8e:溝
20,24,26:金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型III族窒化物半導体の上面から内部に侵入する溝が形成されており、
その溝に充填された金属によってp型III族窒化物半導体にオーミック接触する電極が形成されているIII族窒化物半導体装置。
【請求項2】
溝がp型III族窒化物半導体の内部で留まっていることを特徴とする請求項1のIII族窒化物半導体装置。
【請求項3】
溝がp型III族窒化物半導体を貫通していることを特徴とする請求項1のIII族窒化物半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−119435(P2012−119435A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266810(P2010−266810)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】