説明

N−フェニルプロペノイル−アミノ酸誘導体およびその関連化合物の医学的使用

本発明は、人体または動物体の治療のための、診断方法または治療方法に使用するための、所定の一般構造式(式I)を有する化合物に関する。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−フェニルプロペノイル−アミノ酸誘導体およびその関連化合物の医学的、美容的および食品工業的な使用に関する。これらの化合物は、特にカカオ植物(Theobroma cacao)から単離され得る植物二次産物(secondary plant products)である。
【背景技術】
【0002】
長い間、植物二次産物の治療効果が知られている。また、抗菌特性あるいは抗酸化特性ついては、多数の物質に、例えばカカオ植物から得られるエピカテキン等のポリフェノール類に、認められている。
【0003】
また、ローズマリー酸(Rosmarinic acid)も同じように知られている。この化合物は、1−カルボキシ−2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エチル−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)アクリレートである。この化合物およびその誘導体は、例えば、抗バクテリア特性、抗ウイルス特性、抗炎症特性、抗性腺刺激特性、抗酸化特性などの、注目に値する特性を示す。
【0004】
しかしながら、生理的条件下では、これらの化合物は、体内中の内在性エステラーゼ(endogenous esterase)により比較的早く加水分解されてしまう。そのため、投与量のうち、ごく少量だけが血流中に入り、さらに、この滞留時間は非常に短い。したがって、見込まれる治療効果の発揮に必要な閾値を下回ってしまう低い血中力値(blood titer)にしか達成できない。
【0005】
植物二次産物の新しい群である、N−フェニルプロペノイルアミノ酸誘導体は、StarkおよびHofmann(2005年)による引用文献[1]、「Isolation, structure determination, syntesys and sensory activity of N-phenylpropenioic acid from cocoa (Theobroma vovoa)」(J.Agric. Food Chem;5:5419〜5428)において、初めて記載された。この化合物は、アミド結合でアミノ酸残基に結合された任意に置換されたフェニルプロペン酸から構成されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Stark T, Hofman T. Isolation, structure determination, synthesis, and sensory activity of N-phenylpropenoyl-L-amino acids from cocoa (Theobroma cocoa). J. Agric. Food Chem. 2005; 53; 5419-5428
【非特許文献2】Dauer A, Hensel A, Lhoste F, Knasmueller S, Mersch-Sundermann V. Genotoxic and antigenotoxic effects of catechin and tannins from the bark of Hamamelis virginiana L. in metabolically competent, human hepatoma cells (HepG2) using single cell electrophoresis. Phytochem. 2003; 63: 199-207
【非特許文献3】Mosmann M. Rapid colorimetric assay for cellular growth and survival: applications to proliferation and cytotoxicity assays. J. Immun. Meth. 1983; 65: 55-63
【非特許文献4】Martin A, Clynes M. Comparison of 5 microplate colorimetric assays for in vitro cytotoxicity testing and cell proliferation assays. Cytotechnol. 1993; 11: 49-58
【非特許文献5】Porstmann T, Ternyk T, Avrameas S. Quantification of 5-bromo-2’-deoxyuridine into DNA: an enzyme immunoassay for the assessment of the lymphoid cell proliferative response. J. Immun. Meth. 1985: 82:
【非特許文献6】Lengsfeld C, Deters A, Faller G, Hensel A. High molecular weight polysaccharides from black currant seeds inhibit adhesion of Helicobacter pylori to human gastric mucosa. Planta Med. 2004; 70: 620-626
【非特許文献7】Lengsfeld C, Titgemeyer F, Faller G, Hensel A. Glycosylated compounds from okra inhibit adhesion of Helicobacter pylori to human gastric mucosa. J. Agric. Food Chem. 2004; 52: 1495-1503
【非特許文献8】Stark T, Justus H, Hofmann T. A stable isotope dilution analysis (SIDA) for the quantitative determination of N-phenylpropenoyl-L-amino acids in coffee beverage and cocoa. J. Agric. Food Chem. 2006; 54: 2859-2867.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、体内でのより長い滞在時間を示すとともに、既に開示された植物二次産物に対して同等又はより優れた特性、あるいは、医療、美容および食品産業における付加的特性を有する医学的適用(medical indication)を伴う植物二次産物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
当該目的は、本独立請求項の特徴によって達成される。また、本従属請求項は、その好適態様を示している。
すなわち、人体または動物体の治療のための、外科的方法、治療的方法または診断方法において、一般式
【0009】
【化1】

【0010】
で示される化合物の使用を提供する。
このような、当該一般式に包含される化合物の医療的な使用は、本発明において初めて記載されたものである。見込まれる医学的適用についての実験的適用に関しては、実施例にて言及されている。
【0011】
これらの化合物は、しばしば天然にて見出される置換型桂皮酸エステル(ローズマリー酸、クロロゲン酸等)およびその誘導体と、構造上、高い類似性を有している。しかしながら、本発明の化合物においては、既に言及したように、体内に広範囲に存在するエステラーゼによって速やかに加水分解されやすい置換型桂皮酸エステル中のエステル結合よりも、一層、生理的条件下で安定的なアミド結合によって、2つの分子が結合されている。
【0012】
式1の化合物は、好ましくは、R〜R位において、水素ラジカル(H−)、ヒドロキシル基(OH−)、メトキシ基(CHO−)および/またはエトキシ基(CO−)および/または架橋型のメチレンジオキシ基(−O−CHO−)および/またはグリコシル基を有する。
【0013】
また、これに関連して、官能基R3および/またはR4は、特に好ましくは、ヒドロキシル基および/またはメトキシ基であり、一方、その他の官能基は、好ましくは水素ラジカルである。
【0014】
は、好ましくはアミノ酸の有機残基であり、Rはヒドロキシル基(OH−)またはペプチドのN末端である。
以下、「アミノ酸の有機残基」という用語は、アミノ酸において、アミド基を有する炭素原子に位置する有機残基を指す。
【0015】
たとえば、アミノ酸がアラニンである場合、Rはメチル基であり、フェニルアラニンである場合、Rはフェニル基、などとなる。
は、特に、α―アミノ酸および/またはL-アミノ酸の有機残基であることが好ましい。
【0016】
しかしながら、Rも、アミド結合で結合されたアミノ酸、または最終カルボシキ末端を有するペプチドであってもよい。
Xは、好ましくは、n=0−6のC2n基またはC基で、Yは水素ラジカル(H−),アルキル基(例えば、CH、C,C)、置換型の、窒素、酸素または硫黄原子であってもよい。多価結合のC基においては、EおよびZの両方の立体構造も含み得る。
【0017】
生理的効果の必須条件および医学的適用の適格性は、おそらく一つには、アミド結合にある。この結合は、例えばエステル結合と比べて、特に生理条件下でも、著しく安定である。そのため、本発明に係る化合物が、小腸上皮を介して、血流中へ吸収されて、血流中での十分に長い残留時間を達成することができる。
【0018】
それに対して、カルボキシル基は、アミノ酸、ペプチドまたはR位のヒドロキシル基にて与えられるが、このカルボキシル基の存在が、生理活性のための前提条件であるように思われる。
【0019】
さらには、官能基Xの鎖長も同様に重要であると思われ、0〜6の長さを超えてはならない。
Xは、特に好ましくは、n=2のCnYn基であり、例えば、XがHC=CH基である。この場合、本発明の化合物は、N−フェニルプロペノイル−アミノ酸である。このような化合物は、以下の一般式を有している。
【0020】
【化2】

【0021】
化学用語上、当該化合物は、任意に置換された桂皮酸(フェニルプロペン酸またはフェニルアクリル酸)とアミノ酸とから構成されているアミド化合物である。
フェノイル基が、RおよびRのそれぞれで、ヒドロキシ基に置換されている場合では、カフェイン酸となる。当該アミノ結合は、桂皮酸またはカフェイン酸のカルボキシル基とアミノ酸のアミノ基との間にて形成される。
【0022】
は、好ましくは、脂肪族基、芳香族基、極性基、塩基性基、酸性基、タンパク新生(proteinogenic)アミノ酸、非タンパク新生(non-proteinogenic)アミノ酸、αアミノ酸、βアミノ酸、γアミノ酸および/またはL−もしくはD−アミノ酸を含む官能基群から選択されるアミノ酸の有機残基である。
【0023】
これに関して、αアミノ酸の残基としては、アスパラギン酸、グルタミン酸、チロシン、トリプトファンおよびドーパが特に好ましい。
別の、同様な好適態様としては、X=0である。このような化合物は、以下のような一般構造式を有する。
【0024】
【化3】

【0025】
化学用語上、この場合の当該化合物は、任意に置換された安息香酸とアミノ酸とから構成されるアミド化合物である。
さらに、バクテリア、ウイルスまたは菌による感染の予防用および/または治療用の薬剤製造のための、先行請求項に係る化合物の使用も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る一部のN−フェニルプロペノイルーアミノ酸の構造式
【図2】48時間インキュベーション後におけるヒト肝臓細胞(HEPG2)のミトコンドリア活性に対する化合物5および化合物8(10および100μg/ml)の影響 図2のプロットされた測定値は、ミトコンドリアデヒドロゲナーゼの相対活性(未処理コントロール=100%)である。バーは、n=10の代表実験の平均値を表している。
【図3】60時間インキュベーション後におけるHaCaTケラチノサイトでのミトコンドリア活性(A)および有糸分裂の増殖(B)に対する化合物5および8(10μg/ml)の影響 図3Aのプロットされた測定値は、ミトコンドリアデヒドロゲナーゼの相対活性(未処理コントロール=100%)であり、図3Bのプロットされた測定値は、ミトコンドリア増殖の相対比率(未処理コントロール=100%)である。ミトコンドリア活性をMTTアッセイで、ミトコンドリアの増殖をBrdU取込ELISAで、それぞれ調べた。バーは、n=10での標準誤差を示す。ネガティブコントロール:未処理細胞、ポジティブコントロール:繊維芽増殖因子FGF
【図4】ヒト胃粘膜におけるFITCラベル化ヘリコバクターピロリ菌のin situ試験例の蛍光顕微鏡(200倍):(A)未処理バクテリアの完全接着(+++++)、蛍光強度は100%に標準化されている(ネガティブコントロール)。(B)ポジティブコントロール(-)、蛍光強度10%(C)化合物5(++++)、蛍光強度78%(D)化合物8(+)、蛍光強度19%
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明者らの検討により、驚くべきことに、本発明に係る化合物は、例えば、皮膚、粘膜、食道、胃壁および小腸上皮といった体表での、バクテリア、ウイルス、菌類によるコロニー形成に対して、抗接着作用を発揮することが示された。
【0028】
上記効果は、一例として、胃粘膜でのヘリコバクターピロリ菌に対しても証明されている。本効果に関しては、実施例にて言及されている。
さらには、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobactor jejuni)、付着性大腸菌(adherent E. coli)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)においても、抗接着作用の適用性がある。これらの結果は、微生物、特にグラム陽性またはグラム陰性のバクテリア、ウイルスおよび菌類に対して、共通する抗接着作用があることを示唆している。
【0029】
この効果の一つの要因は、本発明に係る化合物が、微生物のコロニー形成マトリックス(colonization matrix)(多くは、多糖および糖タンパク質からなる)の形成を阻害すること、あるいは、微生物、特にバクテリアのアドヘシンと相互作用すること、すなわち、コロニー形成される体表上皮側での接着を担うレセプターの機能を阻害すること、にあるように思われる。
【0030】
これらの特性は、例えば慢性的胃粘膜炎の治療用薬物や予防用薬物、例えば皮膚火傷や不完全な回復創傷(例えば、潰瘍)における感染予防用薬物の製造に有益なものとなり得る。
【0031】
さらに、見込まれる医学的適用については、当業者にとって自明である。
肝再生用薬剤、細胞代謝の改善用薬剤および/または細胞増殖の改善用薬剤の製造のための、先行請求項に係る化合物の使用も、同様に本発明の好ましい態様である。
【0032】
この態様に関して、本発明者らの実験により、本発明に係る化合物は、ヒトケラチノサイトに対して細胞増殖因子発現の影響を及ぼすことなく、増殖促進効果を発揮することが示された。かかる事実に関しては、実施例にて言及されている。
【0033】
本発明者らは、本発明に係る化合物がヒト肝細胞において顕著な効果を示し、エネルギー生産や細胞増殖を著しく向上できることを明らかにした。さらには、本発明に係る化合物が肝細胞のミトコンドリア活性の上昇を引き起こすことも明らかにした。この事実に関しては、実施例にて言及されている。
【0034】
これに関連して、見込まれる医学的適用としては、化学療法、放射線治療、投薬治療、または投薬の中毒作用、アルコール乱用、薬物乱用、中毒(特に、菌類による中毒)、肝臓感染(特に肝炎)によって損傷を受けた肝細胞の再生がある。
【0035】
また、見込まれる使用方法としては、ミトコンドリア活性、特に、細胞内の解毒化酵素として作用するシトクロームP450の活性の向上である。
さらなる適用としては、創傷治癒、皮膚再生や粘膜再生の促進のための薬剤、外皮系付属器(例えば、毛髪)や軟骨組織の形成における細胞増殖促進用薬剤、褥瘡性の潰瘍や瘢痕の予防用薬剤や治療用薬剤、または、例えば(化学)火傷、床ずれ後の皮膚や組織の再生用薬剤などの製造のための、本発明に係る化合物の使用である。
【0036】
抗接着作用により、歯垢に対処用薬剤の製造のための、本発明に係る化合物の使用も同様に考えられる。
本発明は、さらに食品サプリメントや機能性食品としての、先行請求項に係る化合物の使用を提供する。
【0037】
これに関して、上記作用(抗接着性、細胞増殖促進、細胞代謝促進)に加えて、本発明の化合物は、多くの植物二次産物と同様に、高い可能性で、抗酸化作用を有しているということは、大きな意味を有する。
【0038】
付加的な要因としては、本発明に係る化合物は、水に可溶であり、そのため、この化合物を、低脂肪食品、ファットフリー食品、またはカロリーが低減された食品に、高い濃度で混合することができることと、本化合物は単離および合成をすることが容易であることである。そして、本発明の化合物は、これらすべての特性を有するので、いわゆる機能性食品や食品サプリメントとしての使用に適している。
【0039】
細胞培養培地へ、本発明に係る化合物を添加する使用も提供される。本発明の化合物は、上述の細胞増殖促進効果を有するので、特に、人工組織や人工臓器の生産や、スキンモデルまたはオートロガス系インプラントシステム(autologous implant system)などのin-vitro系での細胞増殖培養での使用にも適していると考えられる。かかる細胞増殖促進効果は、ヒトや動物の細胞培養と植物の細胞培養との両方にも関与するように考えられる。
【0040】
この点の説明に関して、見込まれる着眼点は、本発明に係る化合物が、天然に、特に植物種子(例えば、カカオ豆のような種子)に存在し、発芽後において細胞分裂を促進することにある。
【0041】
上記抗接着性効果により、体表における微生物の沈着形成を予防するための、本発明に係る化合物のさらに好ましい使用が提供される。
この効果は、特にインプラント、人工器官、カテーテル(特に肺用や膀胱用のカテーテル)、カニューレ、外科器具や診断器具(特に内視鏡)、および歯科用人工器官に応用することができる。同様に、特に、抗生物質に対して耐性を有する院内病原菌の蔓延に対処できるであろう。
【0042】
さらなる使用範囲としては、下水道パイプ、例えば牛乳のような食品製品用のパイプライン、衛生設備内のパイプライン、遊泳槽(特に、ワールプール)、船舶用防汚塗料、おむつの表面、絆創膏やその他の衛生品、および例えば歯ブラシのような美容器具である。
【0043】
本発明に係る化合物は、高い化学的安定性を有するので、まさに、露出表面でのこれらの使用範囲が適している。
スキンケア剤やオーラルケア剤としての本発明に係る化合物の使用も、好ましく提供される。これに関して、スキンクレーム、アンチエイジング製品、瘢痕予防用製品、火傷や日焼けの治療用製品、歯科用クレーム、マウスウォッシュなどが想定される。さらに、使用態様によっては、本発明に係る化合物の、抗接着性効果、細胞増殖促進効果、細胞代謝向上効果、または抗酸化効果が主要な効果となる。
【0044】
本発明は、さらに、本発明に係る化合物を含む、薬剤、化粧料用組成物、スキンケアー用組成物、体表の治療用組成物、あるいは食品サプリメント、機能性食品を提供する。
また、本発明に係る化合物を含む、診断方法、治療方法または化粧方法も提供され、水性抽出物、溶液、エマルション、懸濁液、肺吸入剤、インプラント、水/油エマルション、油/水エマルション、ゲル、タブレット、カプセル、クレーム、軟膏、膏薬、マイクロエマルション、ナノエマルションの各形態として、あるいは、トランスフェロソーム(transferosome)、つまりリポソーム、ミセルまたは微小球の内部に封入された形態として提供される。
【0045】
本発明の方法として、本発明に係る化合物の単離・加工方法が提供され、植物原料を得る工程、水抽出物または水アルコール抽出物を調製する工程、当該抽出物を遠心分離する工程、必要により抽出物を凍結乾燥する工程、クロマトグラフィー処理(例えば、IEC,GPC,吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー)および/または、本発明に係る化合物の濃度が抽出物100g当たり少なくとも1gになるまでの限外濾過により当該抽出物を精製する工程を含む。
【0046】
抽出に供される植物原料は、好ましくは、下記表にて詳細に記載された植物に由来するものであることが好ましい。水性抽出物を調製するには、例えば、再蒸留水15mlとともに乾燥植物原料1gを、15分間2回インキュベートする。遠心分離は、例えば、5000×g10分間行うことができる。
【0047】
さらに、本発明者らは本発明に係る化合物を調製するための合成工程を開発したことも付言される。これに関しては、文献1にて言及されている。
【実施例】
【0048】
本発明を、以下に明示および考察された実施例および図面により、さらに詳細に説明する。これに関して、実施例および図面は、ひとつの記載上の特徴のみを有するものであって、何ら本発明を限定する意図はないことを考慮すべきである。
【0049】
表1は、本発明の保護範囲内にある様々な化合物を示しており、これらの化合物は、種々の植物より単離されたものである。同一の化合物の構造式について、図1にて示す。これらの化合物は、すべてN−フェニルプロペノイルーアミノ酸類(式2参照)である。このように、請求項1の式1で示されるように、XはHC=CH基であり、一方、RはOH基である。この化学名については、表1より明らかである。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例1
一覧表1で詳細に記載されている植物に由来する乾燥原料を、上述した処理にしたがって、水性抽出に供した。得られた抽出物は、HPLC(高圧液体クロマトグラフィー)、LCMS(液体クロマトグラフィー/マススペクトロメトリー)またはNMR(核スピン共鳴スペクトロメトリー)に供した。これに関して、表1中の標準品として合成された化合物2,4,5,7,8,9,11および12の重水素ラベル化アナログを測定した。
リスト1
【0052】
【表2】

【0053】
本発明の化合物は、以下の植物(化合物の番号は表1中と同じ)から検出可能であった。
【0054】
【表3】

【0055】
実施例2〜4
本発明に係る化合物の見込まれる薬理学的特性を調べるために、化合物5((+)−N−[3´,4´−ジヒドロキシ−(E)−シナモイル]−L−トリプトファン;Rが脂肪族アミノ酸残基である例として、カフェイン酸−L−トリプトファン)および化合物8((+)−N−[3´,4´−ジヒドロキシ−(E)−シナモイル]−L−アスパラギン酸;Rが芳香族アミノ酸残基である例として、カフェイン酸−L−トリプトファン)を使用した。
【0056】
実施例2:ヒト肝細胞株での調査
HepG2細胞株クローンH20は、ギッセン大学Mersch-Sundermann教授より提供され、この細胞を、文献2に記載されているように培養した。該細胞をL−グルタミンおよび25mMのHepsとともに、熱不活化仔牛血清(FCS)15%(v/v)およびゲンタマイシン(30μg/ml)が混合されている低糖(1g/L)ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で、37±0.5℃、5%CO2の雰囲気下にて培養した。次いで、該細胞をトリプシン処理し、PBS(pH 7.4)で洗浄し、緩やかに遠心分離して、ニードルにより沈殿物に力を加えて、細胞培地の細胞懸濁液を調製した。この培地を、5日間で3回変えた。試験に供する化合物5および8を、HepG2培地中に1mg/mlの濃度で溶解し、FCSの代わりに無血清添加物であるSerExを添加して、0.2μm穴のセルロースアセテートフィルターにより濾過した。
【0057】
該細胞を、96ウェルマイクロタイタープレート(1×10細胞/ウェル)に播種した。24時間後、培地を取り除き、細胞を試験に供する化合物に100μg/mlおよび10μg/mlの濃度で48時間曝した。そして、文献3に準拠して2.5mg/mlMTTアッセイで細胞代謝活性を定量した。また、細胞毒素アッセイとともに、文献4に準拠して細胞外液のLDHを定量した。
【0058】
化合物5および化合物8の両方とも、48時間のインキュベーション後に、ミトコンドリア活性を上昇させた(図2参照)。24時間に短縮されたインキュベーション時間においては、化合物8は有意にエネルギー状態を向上させるのに対して、化合物5は効果を示さなかった。化合物8が急速かつ強力な活性効果を示すことを立証することができた。また、LDHの測定により、ネクローシス性の細胞毒素が全く検出されないことが示された。
【0059】
実施例3;ヒトケラチノサイト株での調査
ヒト初代ケラチノサイト(NHK)を、白人患者の外科切片から得られた皮膚から単離した。ミトコンドリア活性(文献3)、BrdUの取り込み(文献5)およびLDHアッセイによるネクローシス効果(文献4)についてのin vitro試験を実施した。
【0060】
リアルタイム定量PCRのために、NHKを無血清ケラチノサイト培地に溶解させた試験用化合物とともに6時間インキュべートした。様々な増殖因子を含むケラチノサイト培地をポジティブコントロールとして使用した。Perfect RNA eukaryotic mini Kitを用いて、トータルRNAを精製した。各RNAのロットを逆転写PCR(RT-PCR)用に調製し、TaqMan Reverse Transcription Reagent(登録商標)を使用して調製した。
【0061】
TaqMan Universal PCR Master Mixと、アプライドバイオシステム社の7300リアルタイムPCRシステムにおいて、内在コントロールとして、KGF、KGF受容体、EGF受容体、インシュリン受容体、STAT6および18srRNAに特異的なTaqMan gene expression assayを用いて、定量的RT-PCRを実施した。
【0062】
さらに2継代および6継代目の細胞を使用して調査を実施した。化合物5および化合物8は両方とも、10μg/mlの濃度で、ミトコンドリア活性および細胞増殖(図3)を向上させた。なお、細胞毒性は全く検知されなかった。
【0063】
多くの場合、ケラチノサイトの生理学上の作用は、増殖因子あるいは増殖因子受容体の発現増加が介在するので、ケラチノサイト増殖因子KGF、その受容体(KGFR)、上皮増殖因子受容体EGFR、インシュリン受容体InsRの遺伝子発現に対する化合物5および8の影響を定量的RT-PCRで調べた。
【0064】
転写因子STAT6の発現およびインボルクリン(初期細胞分化に特異的なタンパク質)の遺伝子発現も調べた。
なお、KGF、KGFR、EGFR、InsRおよびインボルクリンの発現において、特定可能な効果は全く観察されなかった。STAT6に関しては、顕著な発現増加が観察された(コントロールとの対比で9倍の高さ)。
【0065】
実施例4;ヘリコバクターピロリの接着について調査
接着テストを、文献6,7に準拠して実施した。本試験では、試験に供した化合物(1mg/ml)とともにインキュべートされているFITC標識化バクテリアも伴う。胃組織の脱パラフィン化切片を当該バクテリアとともにインキュべートした。蛍光顕微鏡の下、この組織上皮に接着する微生物数をカウントし、未処理コントロールと対比した。
【0066】
未処理コントロール群(ネガティブコントロール)を例として見られるように、最大の接着を+++++のスコアとし、一方、より低い接着を、++++、+++、++、+あるいは−のスコアとした。ここで、ポジティブコントロール(シアリルラクトース,文献7)で見られるスコアを−とした。
【0067】
ヘリコバクターピロリに対して、ほぼ完全な接着抑制を伴って、強力でかつ再現性がよい抗接着効果が、特に化合物8(1mg/ml)とバクテリアとのインキュべーション後において観察され、一方、化合物5では効果が示されなかった。ヘリコバクターピロリに対しての、試験に供した化合物の直接的な細胞毒性を調べるために、ディスク拡散法において、該化合物を2.5mg/mlの濃度で、この微生物に試験した(ポジティブコントロールでは0.5μgのアモキシシリンを含む。)。この場合において、本試験に供した化合物の殺菌効果あるいは静菌効果の兆候は見られなかった。
【0068】
実施例2〜4に記載の実験も、化合物11を用いて実施した。しかしながら、これらもまた、上記効果を全く示さなかった。それにも関らず、典型的な構造であることから選ばれた化合物5および化合物8を用いた結果によれば、式1、2および図1の本発明に係る化合物は同様の効果を発揮することが示された。したがって、上式に包含される化合物すべてに、上術の医学的適用を要求することは許容されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式で示され、式中のXは、HC=CH基であり、当該化合物中に1つだけのフェニルプロペノイル基または1つだけのフェニルプロペノイル基誘導体を有する、人体または動物体の治療のための、外科的方法、治療的方法または診断方法において使用するための化合物。
【化1】

(式 1)
【請求項2】
a) R1〜R5は、水素ラジカル(H−),ヒドロキシ基(HO−)、メトキシ基(CHO−)、エトキシ基(CO−)、架橋型のメチレンジオキシ基(−O−CHO−)および/またはグリコシ基であり、
b) Rは、アミノ酸の有機残基であり、
c) Rは、ヒドロキシル基(−OH)、アミド結合により結合されたアミノ酸、または最終カルボキシル基末端を有するペプチドである
ことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
が、脂肪族基、芳香族基、極性基、塩基性基、酸性基、タンパク新生アミノ酸、非タンパク新生アミノ酸、αアミノ酸、βアミノ酸、γアミノ酸および/またはL−アミノ酸またはD−アミノ酸から選択される有機残基であることを特徴とする先行請求項の何れか1項に記載の化合物。
【請求項4】
バクテリア、ウイルスまたは菌による感染の予防用薬剤および/または治療用薬剤のための、先行請求項の何れか1項に記載の化合物の使用。
【請求項5】
肝再生用薬剤、細胞代謝の改善用薬剤および/または細胞増殖の改善用薬剤の製造のための、先行請求項の何れか1項に記載の化合物の使用。
【請求項6】
歯垢に対処用薬剤の製造のための、先行請求項の何れか1項に記載の化合物の使用。
【請求項7】
食品サプリメントや機能性食品としての、先行請求項の何れか1項に記載の化合物の使用。
【請求項8】
細胞培養培地への添加剤としての、先行請求項の何れか1項に記載の化合物の使用。
【請求項9】
体表での微生物の沈着形成を予防するための、先行請求項の何れか1項に記載の化合物の使用。
【請求項10】
スキンケア剤やオーラルケア剤としての、先行請求項の何れか1項に記載の化合物の使用。
【請求項11】
先行請求項の何れか1項に記載の化合物を含む、薬剤、化粧料組成物、スキンケア組成物、体表の処置用組成物、食品サプリメントまたは機能性食品。
【請求項12】
先行請求項の何れか1項に記載の化合物を含み、かつ、当該化合物が水性抽出物、溶液、エマルション、懸濁液、肺吸入剤、インプラント、水/油エマルション、油/水エマルション、ゲル、タブレット、カプセル、クレーム、軟膏、膏薬、マイクロエマルション、ナノエマルション、またはリポソーム、ミセルもしくは微小球の内部に封入された形態であることを特徴とする、診断方法、または治療方法。
【請求項13】
以下の工程を含む、先行請求項の何れか1項に記載の化合物の単離・加工する方法。
a) 植物原料を得る工程、
b) 水抽出物または水アルコール抽出物を調製する工程
c) 当該抽出物を遠心分離する工程
d) 必要により抽出物を凍結乾燥する工程
e) 先行請求項の何れか1項に記載の化合物の濃度が抽出物100g当たり少なくとも1gになるまで、クロマトグラフィー処理および/または限外濾過する工程により、当該抽出物を精製する工程

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−543847(P2009−543847A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519968(P2009−519968)
【出願日】平成19年7月16日(2007.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057324
【国際公開番号】WO2008/009655
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(509018959)ウエストフェーリッシュ ヴィルヘルムス−ユニバーシタット マンスター (1)
【Fターム(参考)】