説明

エンジンの冷却構造およびエンジンの冷却構造の製造方法

【課題】冷却媒体の漏れを防止しつつ、ボア間領域の冷却性を高めることが可能なエンジンの冷却構造、およびエンジンの冷却構造の製造方法を提供する。
【解決手段】エンジンの冷却構造1は、複数のシリンダライナ31と、複数のシリンダライナ31のうち、隣り合うシリンダライナ同士を連結する連結部32とを有する連結ライナ3が鋳込まれたシリンダブロック2と、シリンダブロック2のデッキ面21に対して設けられたシリンダヘッド22と、を備える。連結部32は、デッキ面21からボア間領域Rで露出している。通路322はシリンダブロック2のうち、連結部32に形成されるとともに、連結部32のうち、デッキ面21から露出した部分に開口している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの冷却構造およびエンジンの冷却構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンは、ボア間領域で特に高温になり易いことが知られている。これに対し特許文献1では、3つのボア領域を取囲む鉄合金をアルミニウム合金で取囲んだ構造のシリンダライナ集合体を備え、シリンダライナ集合体が構成するボア壁と他の領域とを接続することで、ボア間領域に冷却水を流通させるドリルパスを設けたシリンダブロックの冷却構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−291013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
隣り合うシリンダライナ同士を連結する連結部を有し、シリンダブロックに鋳込まれる連結ライナを備えたエンジンで、ボア間領域に冷却媒体通路を設ける場合、シリンダブロックの母材を介して連結部に冷却媒体通路を設けることが考えられる。
【0005】
ところが、冷却媒体通路が連結部とシリンダブロックの母材の界面を貫く場合、当該界面から冷却媒体が漏れ出す虞がある。そして、冷却媒体が漏れ出した場合、冷却媒体がボア内やオイルパンに流入する結果、エンジンの運転不良を引き起こすことが考えられる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み、冷却媒体の漏れを防止しつつ、ボア間領域の冷却性を高めることが可能なエンジンの冷却構造、およびエンジンの冷却構造の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は複数のシリンダライナと、前記複数のシリンダライナのうち、隣り合うシリンダライナ同士を連結する連結部とを有する連結ライナが鋳込まれたシリンダブロックと、前記シリンダブロックのデッキ面に対して設けられたシリンダヘッドと、を備え、前記連結部が、前記デッキ面からボア間領域で露出しており、冷却媒体を流通させる冷却媒体通路が、前記シリンダブロックのうち、前記連結部に形成されるとともに、前記連結部のうち、前記デッキ面から露出した部分に開口したエンジンの冷却構造である。
【0008】
また本発明は前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドとの間に、表面に断熱層を設けたヘッドガスケットをさらに備えた構成であることが好ましい。
【0009】
また本発明はシリンダブロックに複数のシリンダライナが連結された連結ライナを鋳込むとともに、前記連結ライナを鋳込む際に、前記連結ライナのうち、隣り合うシリンダライナ同士を連結する連結部を前記シリンダブロックのデッキ面からボア間領域で露出させ、冷却媒体を流通させる冷却媒体通路を、前記シリンダブロックのうち、前記連結部に形成し、前記連結部のうち、前記デッキ面から露出させた部分に開口させるエンジンの冷却構造の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、冷却媒体の漏れを防止しつつ、ボア間領域の冷却性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】シリンダブロックの冷却構造の概略構成図である。
【図2】連結ライナの単体図である。
【図3】シリンダブロックの上面図である。
【図4】ボア間領域の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【0013】
図1はエンジンの冷却構造(以下、冷却構造と称す)1の概略構成図である。図2は連結ライナ3の単体図である。図3はシリンダブロック2の上面図である。図4は図3に示すボア間領域Rの拡大図である。図1では冷却構造1をボア間中央位置における断面で示している。
【0014】
図1に示すように、冷却構造1はシリンダブロック2とシリンダヘッド4とヘッドガスケット5とを備えている。シリンダブロック2は連結ライナ3を備えている。連結ライナ3は鋳鉄製であり、シリンダブロック2に鋳込まれている。これに対し、シリンダブロック2は母材をアルミ合金としている。シリンダヘッド4は、シリンダブロック2のデッキ面21に対して設けられている。ヘッドガスケット5は、シリンダブロック2とシリンダヘッド4との間に設けられている。
【0015】
図2に示すように、連結ライナ3は複数(ここでは4つ)のシリンダライナ31と連結部32とを有している。シリンダライナ31はボアを形成する。複数のシリンダライナ31は互いに直列に設けられている。連結部32は、複数のシリンダライナ31のうち、隣り合うシリンダライナ同士を連結している。
【0016】
連結部32はシリンダブロック2のうち、図3に示すボア間領域Rに設けられる。ボア間領域Rの幅(最小幅)は例えば7mm以下である。図4に示すように、連結部32はシリンダブロック2の母材から露出した部分である露出部321を有している。露出部321は具体的にはボア間領域Rでデッキ面21から露出している。露出部321は周囲をシリンダブロック2の母材に囲まれた状態で露出している。
【0017】
図1に示すように、連結部32には冷却媒体通路である通路322が形成されている。通路322はシリンダブロック2のうち、連結部32に形成されている。すなわち、通路322はシリンダブロック2の母材を介することなく連結部32に形成されている。このため、通路322は図4に示すように露出部321に開口している。通路322はシリンダヘッド4との間で冷却媒体である冷却水を流入出させることができる。したがって、シリンダヘッド4からの冷却水を流通させることができる。通路322の径は例えばφ2mm以下である。
【0018】
通路322はレーザー加工によって形成されたレーザーパスとなっている。このため、通路322は露出部321から直線状に延伸するとともに、端部で互いに連通する2つの部分通路で構成されており、概ねV字型の形状を有している。具体的には、通路322は露出部321からシリンダライナ31の軸線方向に沿って形成した部分通路と、当該部分通路と端部で互いに連通するように露出部321からシリンダライナ31の軸線方向に対して斜めに形成した部分通路とで構成されている。
【0019】
ヘッドガスケット5には、通路322に対応させて開口した開口部51が設けられている。開口部51はシリンダヘッド4との間で、通路322を流通する冷却水の流通を可能にするとともに、流通する冷却水の漏れをヘッドガスケット5で防止できるように設けられている。この点、開口部51は例えば露出部321全体に対応させて開口するように設けられてもよい。ヘッドガスケット5の表面には断熱層52が設けられている。表面はシリンダヘッド4側であってもよい。断熱層52は例えばゴムなどの非金属材をコーティングすることで設けることができる。
【0020】
冷却構造1の製造方法は次の通りである。すなわち、まずシリンダブロック2に複数のシリンダライナ31が連結された連結ライナ3を鋳込む。連結ライナ3を鋳込む際には、連結部32をデッキ面21からボア間領域Rで露出させる。そして、冷却水を流通させる通路322をシリンダブロック2のうち、連結部32に形成し、露出部321に開口させる。
【0021】
次に冷却構造1の作用効果について説明する。冷却構造1では、冷却水を流通させる通路322が、シリンダブロック2のうち、連結部32に形成されるとともに、連結部32のうち、デッキ面21から露出した部分に開口している。このため、冷却構造1は通路322を流通する冷却水でボア間領域Rを冷却することができる。また、冷却構造1では、通路322が連結部32とシリンダブロック2の母材の界面を貫くことがない。このため、冷却構造1は冷却水の漏れを防止しつつ、ボア間領域Rの冷却性を高めることができる。そしてこれにより、具体的には冷却水の漏れを防止しつつ、ノッキングの改善を図ることができる。
【0022】
また、冷却構造1は表面に断熱層52が設けられたヘッドガスケット5を備えている。このため、冷却構造1は特に高温になるが故に冷却が必要となるボア間領域Rを集中的に冷却することができる。そしてこれにより、冷却損失が必要以上に大きくなることを抑制することで、熱効率の向上も図ることができる。
【0023】
また、冷却構造1は鋳鉄製の連結部32に通路322を形成することで、レーザー加工で通路322の穴形状を所望通りに形成できる。この点、仮にボア間領域Rに連結部32を設けていない場合には、シリンダブロック2の母材となるアルミ合金の熱伝導性が高いことに起因し、レーザーが拡散したり、溶融部が拡大したりする。このため、レーザー加工では通路322の穴形状を所望通りに形成することが困難となる。また、冷却構造1はレーザー加工で通路322を形成することで、ボア間領域Rの幅が狭い場合でも、通路322を容易に形成できる。
【0024】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば上述した実施例では、通路322がレーザーパスである場合について説明した。しかしながら、本発明においては必ずしもこれに限られず、冷却媒体通路は例えばドリルパスであってもよい。
【符号の説明】
【0025】
冷却構造 1
シリンダブロック 2
デッキ面 21
連結ライナ 3
シリンダライナ 31
連結部 32
露出部 321
通路 322
シリンダヘッド 4
ヘッドガスケット 5
開口部 51
断熱層 52


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシリンダライナと、前記複数のシリンダライナのうち、隣り合うシリンダライナ同士を連結する連結部とを有する連結ライナが鋳込まれたシリンダブロックと、
前記シリンダブロックのデッキ面に対して設けられたシリンダヘッドと、を備え、
前記連結部が、前記デッキ面からボア間領域で露出しており、
冷却媒体を流通させる冷却媒体通路が、前記シリンダブロックのうち、前記連結部に形成されるとともに、前記連結部のうち、前記デッキ面から露出した部分に開口したエンジンの冷却構造。
【請求項2】
請求項1記載のエンジンの冷却構造であって、
前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドとの間に、表面に断熱層を設けたヘッドガスケットをさらに備えたエンジンの冷却構造。
【請求項3】
シリンダブロックに複数のシリンダライナが連結された連結ライナを鋳込むとともに、前記連結ライナを鋳込む際に、前記連結ライナのうち、隣り合うシリンダライナ同士を連結する連結部を前記シリンダブロックのデッキ面からボア間領域で露出させ、
冷却媒体を流通させる冷却媒体通路を、前記シリンダブロックのうち、前記連結部に形成し、前記連結部のうち、前記デッキ面から露出させた部分に開口させるエンジンの冷却構造の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−87678(P2012−87678A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234979(P2010−234979)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】