説明

エンジンシステム

【課題】アイドルストップ制御によるエンジン回転数減少中にドライバーの再加速動作を検知した際、直ちにエンジンを再始動することができるエンジンシステムを提供する。
【解決手段】ターボチャージャにモータ3を組合わせた電動アシストターボチャージャ4をエンジン2の吸排気系に接続し、車両停車中のエンジン2のアイドル時にエンジン2への燃料噴射を中断させるアイドルストップ制御を行うアイドルストップ制御部26を備えたエンジンシステム1において、アイドルストップ制御部26は、アイドルストップ制御中に再加速動作を検知したとき、モータ3を作動させつつエンジン2への燃料噴射を再開させ、エンジン2を再始動させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアイドルストップ制御を行うエンジンシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の燃費向上(あるいは排出CO2低減)の為に、アイドリング時のエンジン停止システム(Idle Stop and Start system;ISS)の開発が盛んに行われている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
図3に示すように、アイドルストップ制御により燃料噴射を中断したエンジンの回転数減少中に、例えば赤信号が青信号となるなどの状況変化を受けたドライバーが再加速動作(チェンジオブマインド)を行った際、再加速動作を検知したISSは車両を再加速させるべくエンジンの再始動を行うが、この再始動時の制御は再加速動作を検知したときのエンジン回転数により大きく異なる。
【0004】
エンジン回転数がエンジン自立可能回転数、すなわち、エンジンが燃焼サイクルを継続できる限界の回転数(図3中の細い破線)以上である場合には、エンジンの燃料噴射を再開させてエンジンの再始動を直ちに行う。
【0005】
一方、エンジン回転数がエンジン自立可能回転数未満である場合には、エンジンを再始動させるためにエンジンが備えるスタータを作動させる必要がある。さらに、従来のエンジンが備えるスタータではエンジンが完全停止するまで再始動が禁止され、スタータの作動はエンジンの完全停止後に行われる。これは、完全停止前のエンジンのリングギアにスタータのピニオンギアを係合させようとしたとき、特にエンジンが逆回転しているところへピニオンギアを係合させようとすると、ピニオンギアやスタータモータが破損する虞があるためである。
【0006】
ISSを備えた車両では、エンジン停止、再始動後即発進の頻度が増加するため、再加速が要求された際に速やかにエンジンを再始動して加速するなど、発進製や運転性の確保が課題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−173546号公報
【特許文献2】特開2010−190226号公報
【特許文献3】特開2010−196629号公報
【特許文献4】特開2006−177171号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】茨木誠一ほか,「電動アシストターボチャージャ“ハイブリッドターボ”の開発」,三菱重工技報,第43巻,第3号,2006年,pp.36−40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年ではさらなる燃費向上のため、エンジンを小型化する技術の開発が行われている。小型化したエンジンはエンジン内部の摩擦による燃費低下を低減できる。
【0010】
小型化したエンジンは排気量が低下してエンジントルクが減少するため、ターボチャージャを搭載して過給を行い動力性能を向上させることが行われるが、発進時など低負荷時では大排気量エンジンと比較して排気エネルギがさらに低下するため、ターボチャージャの排気タービン・吸気コンプレッサを応答性よく回転させることが困難であり、一般に発進性が低下する。
【0011】
小型化エンジンにおいてもISSを備えて燃費性能をさらに向上させることが望まれるが、前述の通りISSはエンジン停止、再始動後即発進の頻度が増すため、小型化エンジンでの発進性確保が課題である。
【0012】
本発明は上記の問題を解決すべく為されたものであり、アイドルストップ制御によるエンジン回転数減少中にドライバーの再加速動作を検知した際、直ちにエンジンを再始動することができるエンジンシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、ターボチャージャにモータを組合わせた電動アシストターボチャージャをエンジンの吸排気系に接続し、車両停車中の前記エンジンのアイドル時に前記エンジンへの燃料噴射を中断させるアイドルストップ制御を行うアイドルストップ制御部を備えたエンジンシステムにおいて、
前記アイドルストップ制御部は、前記アイドルストップ制御中に再加速動作を検知したとき、前記モータを作動させつつ前記エンジンへの燃料噴射を再開させ、前記エンジンを再始動させるようにしたものである。
【0014】
前記アイドルストップ制御部は、前記アイドルストップ制御中のエンジン回転数を検出し、前記アイドルストップ制御中に再加速動作を検知した際の前記エンジン回転数が、前記モータ作動時の前記エンジンが燃焼サイクルを継続できる回転数以上であったときには、前記モータを作動させつつ前記エンジンへの燃料噴射を再開させ、前記エンジンを再始動させると良い。
【0015】
前記アイドルストップ制御部は、前記アイドルストップ制御中に再加速動作を検知した際の前記エンジン回転数が、前記モータ作動時の前記エンジンが燃焼サイクルを継続できる回転数未満であったときには、前記エンジンが完全停止した後に、前記モータと前記エンジンが備えるスタータとを作動させつつ前記エンジンへの燃料噴射を再開させ、前記エンジンを再始動させると良い。
【0016】
エンジン回転数に関わらずエンジンを直ちに再始動可能なスタータを備えても良い。
【0017】
前記アイドルストップ制御部は、ブレーキリリース、パーキングブレーキ解除、あるいはクラッチペダル操作から前記再加速動作を検知すると良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アイドルストップ制御によるエンジン回転数減少中にドライバーの再加速動作を検知した際、エンジンの回転数が自立可能回転数未満であっても、直ちにエンジンを再始動することができるエンジンシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のエンジンシステムの構成を示す図である。
【図2】本発明のエンジンシステムの動作概要と効果を説明する図である。
【図3】停車した車両のエンジンがISSにより燃料噴射を中断され、そのエンジンが完全停止するまでのエンジン回転数の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の好適な実施の形態を図面に基づき説明する。
【0021】
図1は、本発明のエンジンシステムの構成を示す図である。
【0022】
図1に示すように、本発明のエンジンシステム1は、エンジン2からの排気エネルギおよび/あるいはモータ3の作動により駆動されてエンジン2にエアを過給する電動アシストターボチャージャ4を備える。ここでは、本実施の形態に係るエンジン2は、すなわち、エンジン自立可能回転数未満では、エンジンの完全停止まで作動が禁止されるスタータを備える場合について説明するが、本発明はこれに限定されず、チェンジオブマインド対応スタータ(すなわち、エンジン回転数に依らず直ちに作動可能なスタータ)を備えたエンジン2としても良い。
【0023】
電動アシストターボチャージャ4は、排気ガスの排気エネルギにより回転駆動される排気タービン5と、排気タービン5の回転駆動が伝達されて駆動する吸気コンプレッサ7と、吸気コンプレッサ7の回転駆動を電動アシストするモータ3と、を備える。ここではモータ3のモータ軸が、排気タービン5の回転駆動を吸気コンプレッサ7に伝達するターボ軸6と一体に形成されている。
【0024】
吸気コンプレッサ7のコンプレッサハウジング8は吸気通路9に配置され、吸気通路9の最上流にエアクリーナ11が、下流側にインタークーラ12と吸気スロットル13が順次設けられる。吸気通路9の最下流は、エンジン2の吸気マニホールド14に接続される。エアクリーナ11から吸入されたエアは、吸気管9、コンプレッサハウジング8、インタークーラ12、吸気スロットル13、吸気マニホールド14、を経て、エンジン2に供給される。
【0025】
一方、排気タービン5のタービンハウジング15は排気通路16に配置され、タービンハウジング15の下流側には排気スロットル18と消音器19が順次設けられる。排気通路16の最上流は、エンジン2の排気マニホールド20に接続される。エンジン2から排出された排気ガスは、排気マニホールド20、排気通路16、タービンハウジング15、排気スロットル18、消音器19、を経て、大気へ排出される。なお本発明では、DPF(Diesel Particulate Filter)システムや、De−NOx触媒などを排気通路16に設けるなどしても良い。
【0026】
またエンジンシステム1は、エンジン2から排出される排気ガスの一部を吸気側に還流させ、エンジンアウトのNOx量を低減するためのEGR(Exhaust Gas Recirculation)システム21を備える。
【0027】
EGRシステム21は、排気マニホールド20と吸気マニホールド14を接続するEGR管22と、EGR管22を通過する排気ガスの温度を冷却するEGRクーラ23と、吸気側に還流させる排気ガスの量を調節するためのEGRバルブ24と、からなり、ECU(Electronical Control Unit)25と接続されたEGRバルブは、エンジンの運転状態に合わせて、エンジンアウトのNOx量を低減させるように開度を制御・調節される。
【0028】
ECU25は、EGRバルブの他にもエンジン2、モータ3、吸気スロットル13、排気スロットル18と接続され、これらの動作を制御する。その他、ECU25では車速、エンジン回転数、燃料噴射量、アクセル開度、ブレーキ信号、クラッチ信号など、車両の運転パラメータに関わる信号が認識される。
【0029】
さて、本発明のエンジンシステムは、車両の燃費性能を向上させるべく、車両停車中のエンジンのアイドル時に、エンジンへの燃料噴射を中断してエンジンを停止するアイドルストップ制御を行う。この場合、アイドルストップ制御中に状況変化を受けたドライバーが再加速動作(チェンジオブマインド)を行った際には、エンジンを再始動して速やかに車両を再加速させることが求められる。
【0030】
電動アシストターボチャージャ4を備えるエンジンシステム1では、極低速でもモータ3の作動により過給を行い、エンジントルクを上昇させることが出来るため、エンジン2が燃焼サイクルを自立継続できる限界の回転数をより低回点側(例えば150rpm程度)とすることができる。
【0031】
そこで本発明のエンジンシステム1では、図1に示すように、アイドルストップ制御中に再加速動作を検知したとき、電動アシストターボチャージャ4のモータ3を作動させつつエンジン2への燃料噴射を再開させ、エンジン2を再始動させるアイドルストップ制御部26を備える。
【0032】
またアイドルストップ制御部26は、アイドルストップ制御中のエンジン2の回転数を検出し、アイドルストップ制御中に再加速動作を検知した際のエンジン回転数が、モータ3作動時(すなわち、電動アシスト過給時)のエンジン2が燃焼サイクルを継続できる回転数(電動アシストターボチャージャ4付きエンジン2の自立運転可能速度)以上であったときには、モータ3を作動させつつエンジン2への燃料噴射を再開させ、エンジン2を再始動させるように構成される。電動ターボ付きエンジンの自立回転数は、エンジンシステムが備えるエンジン2の排気量、電動アシストターボチャージャ4の過給性能、モータ3の出力、などを基に適宜設定可能であり、例えば150rpm程度に設定される。
【0033】
さらにアイドルストップ制御部26は、アイドルストップ制御中に再加速動作を検知した際のエンジン回転数が、電動アシストターボチャージャ4付きエンジン2の自立運転可能速度未満であったときには、エンジン2が完全停止した後に、モータ3とエンジン2が備えるスタータとを作動させつつエンジン2への燃料噴射を再開させ、エンジン2を再始動させるように構成される。
【0034】
なお、エンジン2が備えるスタータがチェンジオブマインド対応スタータであったときには、エンジン回転数に依らずスタータを直ちに作動させてエンジンの再始動を行うように構成される。
【0035】
このアイドルストップ制御部26は、ECU25にプログラムとして搭載される。
【0036】
次に、本発明のエンジンシステム1の、アイドルストップ制御時の動作について説明する。
【0037】
図2は、本発明のエンジンシステム1の動作の概要と、本発明の効果を説明する図である。
【0038】
車両が停車してエンジン2がアイドル回転している状態が所定時間継続するなどしたとき、ECU25のアイドルストップ制御部26は、エンジン2への燃料噴射を中断し、エンジン2を停止することを行う。車両が停車状態にあることを検知するための手段を本発明は限定するものではなく、車速センサからの信号を基に停車状態を検知するなどすればよい。
【0039】
アイドルストップ制御中には、アイドルストップ制御部26はECU25に入力されるエンジン2の回転数を取得する。
【0040】
アイドルストップにより燃料噴射を中断されたエンジン2は徐々に回転数が減少するが、赤信号が青信号になるなどの状況変化を受けたドライバーが車両を再加速させるための再加速動作を行ったとき、その再加速動作を検知したアイドルストップ制御部26は、エンジン2の再始動を行うべく以下の動作を実行する。
【0041】
再加速動作を検知したとき、アイドルストップ制御部26は電動アシストターボチャージャ4のモータ3を作動させて、電動アシストターボチャージャ4によるエアの過給を行いつつ、エンジン2への燃料噴射を再開し、エンジン2が備えるスタータを作動させることなくエンジン2を再始動する。
【0042】
このとき、常に電動アシストターボチャージャ4をモータ3で回転させることは電力浪費(すなわち、燃費悪化)につながる為、運転手の再加速動作において、例えば、ブレーキペダルを離す、パーキングブレーキを解除、クラッチペダルの操作(MT車)などを起点としてモータ3を制御することで、効率的なモータアシストが可能となる。
【0043】
一方、アイドルストップ制御により燃料噴射を中断されたエンジン2は徐々に回転数が減少していくが、再加速動作を検知した際に、エンジン2の回転数が、電動アシストターボチャージャ4付きエンジン2の自立運転可能速度未満であったときには、エンジン2が完全停止した後に、電動アシストターボチャージャ4によるエアの過給を行いつつエンジン2が備えるスタータを作動させ、エンジン2への燃料噴射を再開してエンジン2を再始動する。なお、エンジン2が備えるスタータがチェンジオブマインド対応スタータであった場合には、エンジン2の回転数に依らず直ちにチェンジオブマインド対応スタータを作動させ、エンジンの再始動を行う。
【0044】
以上の動作により、本発明のエンジンシステム1では、従来のエンジンシステムではトルクの低下によりエンジンが燃焼サイクルを自立継続できなくなる回転数未満においても、電動アシストターボチャージャ4のモータ3を作動させてエアを過給し、より大きなトルクをエンジン2に発生させ、エンジン2が備えるスタータを作動させることなく、エンジン2を直ちに再始動して車両を再加速できる運転領域を広げることができる。
【0045】
つまり、従来のエンジンシステムではエンジンの再始動を禁止されていた自立運転可能速度以下においても、本発明ではエンジンを再始動することが可能となり、エンジンが自立運転できなくなってから完全停止して再始動可能となるまでの時間を、従来システムよりも短縮することができる。これにより、本発明のエンジンシステム1を搭載する車両では運転性を向上することができる。
【0046】
また、電動アシストターボ付きエンジンはエンジン速度に依らずトルクを発生可能な為、燃費の為に小排気量化したエンジンでも、大排気量エンジンと同様の発進が可能となる。つまり、エンジンを再始動した際には電動アシストターボチャージャによる過給が行われているため、エンジントルクを速やかに上昇させ、スムーズな発進を行うことができる。
【0047】
さらに、チェンジオブマインド対応スタータ(すなわち、エンジンの回転数に依らず常に再始動可能なスタータ)と、本発明を組合わせた場合には、スタータの作動回数を減少させることで、スタータ寿命を向上させ、スタータ駆動時の振動・騒音の低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0048】
2 エンジン
3 モータ
4 電動アシストターボチャージャ
26 アイドルストップ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボチャージャにモータを組合わせた電動アシストターボチャージャをエンジンの吸排気系に接続し、車両停車中の前記エンジンのアイドル時に前記エンジンへの燃料噴射を中断させるアイドルストップ制御を行うアイドルストップ制御部を備えたエンジンシステムにおいて、
前記アイドルストップ制御部は、前記アイドルストップ制御中に再加速動作を検知したとき、前記モータを作動させつつ前記エンジンへの燃料噴射を再開させ、前記エンジンを再始動させるようにしたことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項2】
前記アイドルストップ制御部は、前記アイドルストップ制御中のエンジン回転数を検出し、前記アイドルストップ制御中に再加速動作を検知した際の前記エンジン回転数が、前記モータ作動時の前記エンジンが燃焼サイクルを継続できる回転数以上であったときには、前記モータを作動させつつ前記エンジンへの燃料噴射を再開させ、前記エンジンを再始動させる請求項1記載のエンジンシステム。
【請求項3】
前記アイドルストップ制御部は、前記アイドルストップ制御中に再加速動作を検知した際の前記エンジン回転数が、前記モータ作動時の前記エンジンが燃焼サイクルを継続できる回転数未満であったときには、前記エンジンが完全停止した後に、前記モータと前記エンジンが備えるスタータとを作動させつつ前記エンジンへの燃料噴射を再開させ、前記エンジンを再始動させる請求項2記載のエンジンシステム。
【請求項4】
エンジン回転数に関わらずエンジンを直ちに再始動可能なスタータを備える請求項1記載のエンジンシステム。
【請求項5】
前記アイドルストップ制御部は、ブレーキリリース、パーキングブレーキ解除、あるいはクラッチペダル操作から前記再加速動作を検知する請求項1〜4いずれかに記載のエンジンシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−97607(P2012−97607A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244387(P2010−244387)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】