説明

エンジン自動停止再始動制御装置

【課題】高いブレーキ圧が発生させられている場合にエンジンの再始動による電源電圧低下が発生することでABS制御の制御性が確保できなくなることを抑制する。
【解決手段】ブレーキ圧が第1の閾値以上になるとIS制御によるアイドルストップを実行するが、ブレーキ圧が第1の閾値よりも大きな第2の閾値以上になると、アイドルストップが禁止されるようにする。これにより、第2の閾値以上のブレーキ圧が発生している状況下においてアイドルストップが実行された場合に、アイドルストップ実行後にABS制御が開始され、さらにエンジン1が再始動されたときに、ABS制御の制御性を確保できなくなるという不具合が発生することを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定条件を満たした場合にアイドリングストップを行うべく、走行駆動源となるエンジン(内燃機関)を停止するアイドリングストップ制御(以下、IS制御という)を実行するエンジン自動停止再始動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、燃料の消費量を低減することができるエンジン自動停止再始動制御装置が提案されている。このエンジン自動停止再始動制御装置では、ブレーキ圧が所定のしきい値を超えたことをエンジン停止許可条件として、アイドリングストップを行っている。このように、ブレーキ圧がしきい値を超えていればドライバが車両を停止させる意志があると判定し、IS制御を実行することで、燃料の消費量を低減することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−63001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車両減速時にもIS制御によるエンジン停止を実行する場合、エンジン停止が実行されるときと、アンチスキッド制御(以下、ABS制御という)が実行される車速領域とが重なることがある。このため、ブレーキ圧が所定のしきい値を超えることをエンジン停止許可条件とする場合、しきい値を超えるブレーキ圧が発生したままの状態でエンジン停止させられることとなるが、このときに例えば路面摩擦係数(以下、路面μという)の変化により、ABS制御が開始される場合がある。このときに、例えばオルタネータの作動要求やエアコンのコンプレッサの作動要求のように、エンジンによって駆動されるものによるエンジンの作動要求、つまりドライバの意図しないエンジン再始動要求がだされ、これに基づいてエンジンを再始動させると、再始動によってバッテリ電圧低下が発生する。このようにバッテリ電圧低下が発生したときに、高いブレーキ圧が発生させられていると、ポンプ負荷が過大になってABS制御用のモータの作動に影響を及ぼし、ABS制御の制御性を確保できなくなるという問題が発生することが確認された。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、高いブレーキ圧が発生させられている場合にエンジンの再始動による電源電圧低下が発生することでABS制御の制御性が確保できなくなることを抑制できるエンジン自動停止再始動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、自動停止再始動制御手段(100〜300)にて、車両の走行駆動源となるエンジン(1)を停止および再始動させるエンジン自動停止再始動制御装置において、ブレーキ圧検出手段にて検出されたブレーキ圧が第1の閾値以上であるか否かを判定する第1判定手段(230)とブレーキ圧が第1の閾値より大きな第2の閾値以上であるか否かを判定する第2判定手段(240)とによってブレーキ圧を判定し、エンジン(1)の稼動中に、ブレーキ圧が第1の閾値以上かつ第2の閾値未満であれば、停止許可手段(270)にてエンジン(1)の停止を許可し、ブレーキ圧が第1の閾値未満であるか、もしくは、第2の閾値以上であれば、停止禁止手段(220)にてエンジン(1)の停止を禁止することを特徴としている。
【0007】
このように、ブレーキ圧が第1の閾値以上になるとエンジン(1)の停止を許可するが、ブレーキ圧が第1の閾値よりも大きな第2の閾値以上になると、エンジン(1)の停止が禁止されるようにしている。このため、第2の閾値以上のブレーキ圧が発生している状況下においてエンジン(1)の停止が実行された場合に、エンジン(1)の停止後にABS制御が開始され、さらにエンジン(1)が再始動されたときに、ABS制御の制御性を確保できなくなるという不具合が発生することを防止することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、エンジン(1)の稼動中に、ABS制御中であるか否かを判定する制御中判定手段(250)を備え、停止禁止手段(220)は、エンジン(1)の稼動中に、制御中判定手段(250)にてABS制御中であると判定されると、エンジン(1)の停止を禁止することを特徴としている。
【0009】
このように、ABS制御中にも、ブレーキ圧が第2の閾値以上であるなしに関わらず、エンジン(1)の停止が禁止されるようにしている。このため、ABS制御中にエンジン(1)の停止が実行された場合に、エンジン(1)が再始動されることによるバッテリ電圧低下に起因して、ABS制御の制御性を確保できなくなることを防止できる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、エンジン(1)の稼動中に、ABS制御が実行されるという予測があるか否かを判定する制御予測判定手段(260)を有し、停止禁止手段(220)は、エンジン(1)の稼動中に、制御予測判定手段(260)にてABS制御が実行されるという予測があると判定されると、エンジンの停止を禁止することを特徴としている。
【0011】
このように、ABS制御が実行されるという予測(ABS作動予測)が判定された場合にも、ABS制御が実行される可能性が高いことから、エンジン(1)の停止が禁止されるようにしている。このため、このような場合にも後でABS制御が実行されたときに、ABS制御の制御性を確保できなくなることを防止することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、エンジン(1)の停止中に、ABS制御中であるか否かを判定する制御中判定手段(310)と、エンジン(1)の停止中に、制御中判定手段(310)にてABS制御中であると判定されると、自動停止再始動制御手段(100〜300)による再始動を禁止する再始動禁止手段(320)とを有していることを特徴としている。
【0013】
このように、エンジン(1)の停止中に、ABS制御中であると判定された場合には、エンジン(1)の再始動を禁止することで、ABS制御中にエンジン(1)が再始動されることによるバッテリ電圧低下に起因して、ABS制御の制御性を確保できなくなることを防止できる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、再始動禁止手段(320)は、エンジン(1)の停止中に、第2判定手段(240)でブレーキ圧が第2の閾値以上であると判定されると自動停止再始動制御手段(100〜300)による再始動を禁止することを特徴としている。
【0015】
このように、エンジン(1)の停止中にブレーキ圧が第2の閾値以上になった場合にも、エンジン(1)の再始動を禁止することにより、エンジン(1)が再始動されることによるバッテリ電圧低下に起因して、ABS制御の制御性を確保できなくなることを防止できる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、エンジン(1)の停止中に、ABS制御が実行されるという予測があるか否かを判定する制御予測判定手段(330)を備え、再始動禁止手段(320)は、エンジン(1)の停止中に、制御予測判定手段(330)にてABS制御が実行されるという予測があると判定されると、再始動を禁止することを特徴としている。
【0017】
このように、エンジン(1)の停止中に、ABS作動予測が判定された場合にも、ABS制御が実行される可能性が高いことから、エンジン(1)の再始動が禁止されるようにしている。このため、このような場合にも後でABS制御が実行されたときに、ABS制御の制御性を確保できなくなることを防止することができる。
【0018】
例えば、請求項7に記載したように、制御予測判定手段(260、330)は、車両減速時の車輪のスリップ率が閾スリップ率以上であると、ABS制御が実行されるという予測があると判定する手段(430)にて、ABS作動予測を判定できる。
【0019】
また、請求項8に記載したように、制御予測判定手段(260、330)は、車両減速時の車輪減速度が第1閾減速度以上であると、ABS制御が実行されるという予測があると判定する手段(450)にて、ABS作動予測を判定することもできる。
【0020】
また、請求項9に記載したように、制御予測判定手段(260、330)は、車両減速時のブレーキ圧変化速度が閾変化速度以上であると、ABS制御が実行されるという予測があると判定する手段(460)にて、ABS作動予測を判定することもできる。
【0021】
また、請求項10に記載したように、制御予測判定手段(260、330)は、車両減速時の車体減速度が第2閾減速度以上であると、ABS制御が実行されるという予測があると判定する手段(470)にて、ABS作動予測を判定することもできる。
【0022】
さらに、請求項11に記載したように、制御予測判定手段(260、330)は、車両減速時の路面摩擦係数が閾値以下であると、ABS制御が実行されるという予測があると判定する手段(480)にて、ABS作動予測を判定することもできる。
【0023】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるIS制御を実行するエンジン自動停止再始動制御装置が適用された車両制御システムの全体構成図である。
【図2】エンジンECU20が実行するIS制御処理のフローチャートである。
【図3】図2中のエンジン稼動中の処理を示したフローチャートである。
【図4】図2中のエンジン停止中の処理を示したフローチャートである。
【図5】ブレーキECU40で実行するABS作動予測判定の詳細を示したフローチャートである。
【図6】閾スリップ率と車速との関係を示したマップである。
【図7】第2閾減速度と車速との関係を示したマップである。
【図8】閾変化速度と車速との関係を示したマップである。
【図9】第1閾減速度と車速および車体減速度の関係を示したマップである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0026】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかるIS制御を実行するエンジン自動停止再始動制御装置が適用された車両制御システムの全体構成図である。ここでは、エンジン1が前方に搭載され、後輪RR、RL側を駆動輪とするFR車両に対して本発明の一実施形態となるエンジン自動停止再始動制御装置を適用した場合について説明するが、前輪FR、FL側を駆動輪とするFF車両等、他の形態の車両についても同様に適用可能である。
【0027】
図1に示されるように、FR車両の駆動系は、エンジン1、トランスミッション2、プロペラシャフト3、デファレンシャル4およびドライブシャフト5にて構成され、これらを通じて駆動輪となる後輪RR、RLに駆動力を付与する。具体的には、アクセルペダル6の操作量に基づいて発生させられたエンジン出力(エンジントルク)がトランスミッション2に伝えられ、トランスミッション2で設定されたギア位置に応じたギア比で変換されたのち、プロペラシャフト3に駆動力が伝達される。そして、プロペラシャフト3に対し、デファレンシャル4を介して接続されたドライブシャフト5を通じて、後輪RR、RLに駆動力を付与する。
【0028】
また、制動系は、ブレーキペダル7の操作量に応じてM/C8内にブレーキ液圧を発生させると共に、それを各車輪FR〜RLに伝えることで制動力を発生させるブレーキシステムにより構成されている。このブレーキシステムには、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ10および各車輪FR〜RLそれぞれに対して備えられたホイールシリンダ(以下、W/Cという)11FR、11FL、11RR、11RL、キャリパ12FR、12FL、12RR、12RL、および、ディスクロータ13FR、13FL、13RR、13RLが備えられている。そして、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ10にてW/C11FR〜11RLに加えられるブレーキ液圧(以下、W/C圧という)を制御することにより、キャリパ12FR、12FL、12RR、12RL内に備えられたブレーキパッドによるディスクロータ13FR、13FL、13RR、13RLの挟持力を調整し、各車輪FR〜RLの制動力を制御できる構成とされている。
【0029】
例えば、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ10は、W/C11FR〜11RLの圧力を増圧、保持、減圧するための各種制御弁や減圧時にW/C11FR〜11RL内のブレーキ液を収容するリザーバ、リザーバに収容されたブレーキ液をM/C8側に戻すポンプおよびこのポンプを駆動するモータなどを備えた構成とされている。このような構成により、ノーマルブレーキ時にはM/C8とW/C11FR〜11RLとの間を接続することで、ブレーキペダル7の操作量(ストローク量もしくは踏力)に応じた制動力を各車輪FR〜RLに発生させる。そして、各車輪FR〜RLのスリップ率がABS制御開始閾値を超えるとABS制御を開始し、W/C圧を制御することでロック傾向を回避する。具体的には、ABS制御時には、各種制御弁を駆動すると共に、モータを駆動してポンプを作動させることで、W/C圧を増圧、保持、減圧し、各車輪FR〜RLのスリップ率を所望のスリップ率に制御して、ロック傾向を回避できるようにしている。
【0030】
また、本システムでは、駆動系を制御するためのエンジンコントローラ(以下、エンジンECUという)20やトランスミッションコントローラ(以下、T/M−ECUという)30および制動系を制御するためのブレーキコントローラ(以下、ブレーキECUという)40が備えられている。
【0031】
エンジンECU20は、基本的にはエンジン1の制御を行うものであるが、本実施形態の場合、IS制御も実行する部分として機能する。本実施形態では、このエンジンECU20と後述するブレーキECU40が一体となって本発明のエンジン自動停止再始動制御装置を構成している。
【0032】
エンジンECU20は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従った各種演算や処理を実行することでエンジン出力(エンジントルク)を制御し、後輪RR、RLに発生させられる駆動力を制御する。例えば、エンジンECU20は、アクセルペダル6の操作量をペダルセンサ6aの検出信号より入力し、アクセルペダル6の操作量に基づいて燃料噴射装置を調整して燃料噴射量を調整する。これにより、エンジン出力が制御され、駆動力が制御される。また、本実施形態では、このエンジンECU20によってIS制御も行っており、エンジン1に対してエンジン停止要求の出力を行うと共に、スタータ1aに対してエンジン始動要求の出力を行っている。エンジン停止要求やエンジン始動要求は、各種条件を満たしたときに出力される。この各種条件については、後述する。
【0033】
また、エンジンECU20は、T/M−ECU30からのATポンプ2aの始動要求(以下、ATポンプ始動要求という)を入力すると共に、ブレーキECU40からブレーキ・車速情報を入力している。ATポンプ2aは、エンジン1の駆動に伴って駆動されるトランスミッション2を駆動するためのものである。このATポンプ2aを駆動する際には、エンジン1を駆動することが必要になるため、T/M−ECU30からエンジンECU20に対してATポンプ始動要求を出力することで、エンジンECU20を介してエンジン1の始動要求を出力させるようにしている。また、IS制御におけるエンジン停止要求を出力する条件として、後述するようにブレーキ圧やABS制御中であるか否かの情報および車速を用いている。このため、ブレーキECU40からエンジンECU20にブレーキ情報としてブレーキ圧やABS制御中であるか否かの情報を伝えると共に車速情報を伝えることで、IS制御に利用できるようにしている。
【0034】
さらに、エンジンECU20は、バッテリ21の電圧(バッテリ電圧)に関する情報を入力している。このバッテリ電圧についても、IS制御におけるエンジン始動要求を出力する条件として用いているため、エンジンECU20に入力することで、IS制御に利用できるようにしている。
【0035】
T/M−ECU30は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従った各種演算や処理を実行することでトランスミッション2のギア位置の選択等を行う。T/M−ECU30は、エンジンECU20と情報交換を行っており、トランスミッション2のギア位置をエンジンECU20に伝えている。このため、上述したエンジンECU20では、アクセルペダル6の操作量に加えて、このT/M−ECU30から伝えられた情報に示されたトランスミッション2のギア位置を考慮に入れて、エンジン出力を演算する。また、T/M−ECU30は、ATポンプ2aを駆動するときにはATポンプ始動要求を出力し、エンジンECU20にその旨を伝えている。
【0036】
ブレーキECU40は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従った各種演算や処理を実行することで、任意の制動力を各車輪FR〜RLに対して発生させる。
【0037】
また、ブレーキECU40は、各種センサの検出信号に基づいて各種演算を行っている。例えば、ブレーキペダル7の操作量に応じて発生させられるM/C8内のM/C圧を圧力センサ8aによって検出し、M/C圧を時間微分することでブレーキ圧変化速度を演算している。また、ブレーキECU40は、前後加速度(以下、前後Gという)センサ41の検出信号を入力し、この前後Gセンサ41の検出信号に基づいて車両減速度を演算している。また、ブレーキECU40は、車載カメラ42が撮影した映像に基づき、道路上の温度や路面種類(アスファルト路面、コンクリート路面、積雪路、凍結路などの種類)を公知の手法によって識別することで路面μを検出している。さらに、ブレーキECU40は、各車輪FR〜RLに備えられた車輪速度センサ14FR、14FL、14RR、14RLからの検出信号を受け取り、各車輪速度を求めると共に、求めた各車輪速度に基づいて公知の手法によって推定車体速度(以下、単に車速という)を演算したり、車速と各車輪速度との差を車速で割ることで、各車輪FR〜RLのスリップ率を演算している。そして、スリップ率がABS制御の開始閾値を超えると、ブレーキECU40がブレーキ液圧制御用アクチュエータ10に対して制御信号を出力することにより、制御対象輪のW/C11FR〜11RLに発生させられるW/C圧を制御し、該当車輪の制動力を制御することでロック傾向を回避する。
【0038】
なお、ここでは詳細については図示していないが、エンジンECU20には、ブレーキ圧以外の他の始動要求として、ATポンプ始動要求以外にも様々なECUからの始動要求が入力されるようになっている。すなわち、エンジン1によって駆動されるような装置を使用する際には、エンジン1を再始動しなければならなくなるため、そのような装置の制御を行っているECUからの始動要求がエンジンECU20に入力される。例えば、図1中に示したように、バッテリ21に対して充電を行うために駆動されるオルタネータ50やエアコンを利用する際に駆動されるコンプレッサ60も、エンジン1によって駆動されるものであるため、これらを駆動する場合にはエンジン1を再始動しなければならない。したがって、例えば、オルタネータ50の制御を司る電源ECUやエアコンの制御を司るエアコンECUから始動要求が出力されることで、ブレーキ圧以外を理由とする始動要求がエンジンECU20に入力されるようになっている。
【0039】
このようにして、IS制御を実行するエンジン自動停止再始動制御装置が備えられた車両制御システムが構成されている。続いて、本実施形態の車両制御システムが行うIS制御について、図2〜図4を参照して説明する。
【0040】
図2〜図4は、本実施形態のエンジン自動停止再始動制御装置として機能するエンジンECU20が実行するIS制御処理のフローチャートである。この図に示される処理は、例えば図示しないイグニッションスイッチがオンされた場合において、所定の制御周期ごとに実行される。
【0041】
まず、ステップ100では、エンジン稼動中であるか否かを判定する。イグニッションスイッチがオンされている場合において、エンジンECU20がエンジン停止要求を出力してエンジン1を停止しており、かつ、その後に始動要求を出力してエンジン1を再始動させていない状況であれば、エンジン1は停止中である。また、エンジン回転数がアイドル時に想定される所定回転数以上であれば、エンジン1は稼動中である。エンジンECU20は、自分自身でこれらの情報を扱っているため、これらいずれかの情報に基づいてエンジン稼動中であるか否かを判定することができる。
【0042】
そして、ステップ100で肯定判定されれば、ステップ200に進んでエンジン稼動中の処理を行う。また、ステップ100で否定判定されれば、ステップ300に進んでエンジン停止中の処理を行う。
【0043】
図3は、エンジン稼動中の処理を示したフローチャートである。この図を参照してエンジン稼動中の処理について説明する。
【0044】
まず、ステップ210では、ブレーキ圧以外のアイドルストップ許可条件が成立しているか否かを判定する。ブレーキ圧以外のアイドルストップ許可条件とは、アイドルストップを許可する条件として決められている諸条件であり、例えばアクセルオフかつ車速が所定速度(例えば10km/h)以下であること、バッテリ電圧が確保できていること(バッテリ電圧が閾値以上有ること)などが挙げられる。
【0045】
アクセルオフかつ車速が所定速度以下であることは、ドライバが車両を停止させる意志があることを示している。アクセルオフについては、アクセルペダル6の操作量の検出を行うペダルセンサ6aの検出信号に基づいて検出され、車速については、ブレーキECU40から伝えられる。アイドルストップは、ドライバが車両を停止させる際に燃費向上を図るために実行されるのであり、車両を停止させずに走行させる可能性が有る場合には実行することが好ましくない。このため、アクセルオフかつ車速が所定速度以下を条件としている。また、バッテリ電圧が確保できていることは、アイドルストップしたときにエンジンECU20がエンジン1をバッテリ電圧の回復のために再始動させるような状況ではないことを示している。つまり、バッテリ電圧低下が生じると、オルタネータ50を駆動するために始動要求が出され、エンジン1が再始動させられる可能性がある。この場合には、ABS制御の制御性を確保できなくなる可能性があるため、バッテリ電圧が確保できていることを条件としている。なお、バッテリ21の電圧低下については、バッテリ21の電圧が所定の閾値以上あるか否かを判定することで、確保できているか否かを判定できる。
【0046】
ここで否定判定されれば、アイドルストップを実行するタイミングではないため、ステップ220に進み、エンジン停止禁止処理として、アイドルストップを禁止して、本制御周期での処理を終了する。したがって、アクセルオンもしくは車速が所定速度を超えているときのように、車両を停止させずに走行させる可能性がある場合にはアイドルストップが禁止される。また、バッテリ電圧が確保できていない場合にもアイドルストップが禁止され、アイドルストップ中にブレーキ圧以外の条件でエンジン1が再始動されるような場合にも、アイドルストップが禁止される。
【0047】
一方、ステップ210で肯定判定されればステップ230に進み、ブレーキ圧が第1の閾値以上であるか否かを判定する。第1の閾値は、アイドルストップを許可する閾値であり、車両が減速するブレーキ圧であって、ドライバがブレーキの意思が有ると想定されるブレーキ圧に設定される。ここでいうブレーキ圧は、W/C圧のことを示しているが、ABS制御実行中ではないため、M/C圧をブレーキ圧として用いても良い。M/C圧については、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ10に圧力センサ8aが備えられるため、その圧力センサの検出信号に基づいてブレーキECU40で演算することができる。この演算結果がブレーキECU40からエンジンECU20に伝えられるようにすることで、エンジンECU20にM/C圧が伝えられるようにしている。なお、ここではW/C圧そのものの検出を行っていないが、各W/C11FR〜11RLに圧力センサを備えることで各W/C圧を検出することもできる。
【0048】
ここで、肯定判定されればステップ240に進み、否定判定されればステップ220に進んで上述したエンジン停止禁止処理を実行して処理を終了する。
【0049】
ステップ240ではブレーキ圧が第2の閾値以上であるか否かを判定する。第2の閾値は、第1の閾値よりも高い値であって、アイドルストップを許可する条件を満たしたものの、仮にアイドルストップを行ったとすると、その後、何らかの始動要求によってエンジン1が再始動させられたときのバッテリ電圧低下によってABS制御の制御性を確保できなくなる可能性がある高さのブレーキ圧に設定される。例えば、第2の閾値以上のブレーキ圧が発生している状況下において、アイドルストップが実行され、その後ABS制御が開始されることがある。この場合において、エンジン1が再始動されることによるバッテリ電圧低下が発生すると、高いブレーキ圧が印加されることによる過大なポンプ負荷がABS制御用のモータの作動に影響を及ぼすため、ABS制御の制御性を確保できなくなる。このため、このような可能性がある場合には、ステップ220に進み、上述したエンジン停止禁止処理を実行して処理を終了する。
【0050】
ステップ250では、ABS制御中であるか否かを判定する。ABS制御中であるか否かは、ブレーキECU40から伝えられるブレーキ情報中に含まれるABS制御中であるか否かの情報に基づいて判定される。例えば、ブレーキECU40では、ABS制御の開始条件を満たしたときに、車速が停止もしくはブレーキ操作が解除されるまでABS制御中フラグをセットするようにしている。このABS制御中フラグがセットされているときにはエンジンECU20にABS制御中であるという情報が伝えられ、リセットされていればエンジンECU20にABS制御中でないという情報が伝えられる。
【0051】
ABS制御中に、何らかの始動要求が出されてエンジン1が再始動させられることになると、実行中のABS制御が制御性良く実行できなくなる可能性がある。このため、ABS制御中には、アイドルストップを実行するよりもABS制御が優先して行われるようにする方が好ましい。したがって、本ステップで肯定判定されるとステップ220に進んでアイドルストップを禁止し、否定判定されればステップ260に進む。
【0052】
ステップ260では、ABS作動予測判定を行う。この判定は、後述するABS作動予測判定処理での判定結果に基づいて設定される作動予測フラグがセットされているか否かに基づいて行われる。ここで作動予測フラグがリセットされていれば否定判定されてステップ270に進み、セットされていれば肯定判定されてステップ220に進んでアイドルストップを禁止する。このように、ABS制御中やABS作動予測が判定されたときにはアイドルストップが禁止され、ABS制御が終了またはABS作動予測の条件が回避された後に再びアイドルストップが許可される。
【0053】
ステップ270では、エンジン停止処理として、アイドルストップを許可し、本制御周期での処理を終了する。これにより、エンジンECU20からエンジン停止要求が出力され、エンジン1が停止させられる。したがって、燃料噴射装置の調整によって燃料噴射量が0とされるため、燃費向上を図ることが可能となる。このようにして、エンジン稼動中の処理が完了する。
【0054】
図4は、エンジン停止中の処理を示したフローチャートである。この図を参照してエンジン停止中の処理について説明する。
【0055】
まず、ステップ310では、ABS制御中であるか否かを判定する。この判定は、上述した図3のステップ250と同様にして行われる。ここで肯定判定されれば、ABS制御の制御性が悪化することを抑制するために、ステップ320に進み、再始動禁止処理を実行する。つまり、エンジン1を再始動することによってバッテリ電圧低下が発生し、ABS制御用のモータの作動に影響を及ぼし、ABS制御の制御性を確保できなくなる可能性があることから、ABS制御中には再始動禁止処理を実行し、エンジン1が再始動されないようにする。
【0056】
続いて、ステップ310で否定判定された場合にはステップ330に進み、ABS作動予測があるか否かを判定する。この判定は、上述した図3のステップ260と同様にして行われる。ここで肯定判定されれば、ABS制御が実行される可能性があることから、ステップ320に進み、上記と同様に再始動禁止処理を実行する。このように、ABS制御が実行される可能性がある場合にも、エンジン1の再始動に伴うバッテリ電圧低下によってABS制御の制御性が確保できなくなることを防止している。つまり、ABS制御中やABS作動予測が判定されたときにはエンジン1の再始動が禁止され、ABS制御が終了またはABS作動予測の条件が回避された後に再び再始動が許可されるようにしている。
【0057】
一方、ステップ330で否定判定された場合にはステップ340に進み、ブレーキ圧による再始動要件を満たしたか否かを判定する。ここでいうブレーキ圧による再始動要件とは、ドライバがブレーキペダル7を離した、もしくはドライバに制動意思が無いと想定されるまでブレーキペダル7を緩めたと考えられる程度に、ブレーキ圧が低下したことを意味している。具体的には、ブレーキ圧が第1、第2の閾値よりも小さい解除閾値以下になったことをブレーキ圧による再始動要件として上記判定を行っている。
【0058】
ここで肯定判定される場合にはブレーキが解除されると想定され、ABS制御が実行されることは無く、車両が発進する可能性もあるため、ステップ350に進んで再始動許可処理を実行する。これにより、エンジンECU20からスタータ1aに対して始動要求が出力され、エンジン1が再始動させられる。
【0059】
また、ここで否定判定された場合にはステップ360に進み、ブレーキ圧以外の再始動要求があったか否かを判定する。ブレーキ圧以外の再始動要求とは、ATポンプ始動要求などの始動要求のことを意味している。このようなブレーキ圧以外の再始動要求があった場合にも、ステップ350に進んで再始動許可処理を実行する。これにより、エンジンECU20からスタータ1aに対して始動要求が出力され、エンジン1が再始動させられる。このようにして、エンジン停止中の処理が完了する。
【0060】
次に、上述した図3のステップ260で説明したABS作動予測判定の処理について説明する。図5は、ABS作動予測判定の詳細を示したフローチャートである。この図に示す処理は、IS制御処理とは別フローのもので、ブレーキECU40で所定の制御周期毎に実行される。
【0061】
まず、ステップ400では、ABS制御中であるか否かを判定する。この判定は、上述した図3のステップ250と同様にして行われる。ここで肯定判定されれば、既にABS制御中であることから、ステップ410に進んでABS作動予測なしを設定して処理を終了する。この場合、エンジン稼動中の処理でもステップ250で肯定判定されてエンジン停止禁止処理がなされ、エンジン停止中の処理でもステップ310で肯定判定されて再始動禁止処理がなされるため、ABS制御中のエンジン停止や、再始動が防止できる。
【0062】
一方、ステップ400で否定判定されるとステップ420に進み、車速がABS開始許可車速以上であるか否かを判定する。この判定は、各車輪速度センサ14FR〜14RLの検出信号から求められる車輪速度に基づいて演算された車速をABS開始許可車速と比較することで行われる。ここでいうABS開始許可車速は、ABS制御を実行する必要がない程度の低速度の上限値に設定され、例えば数km/h程度の車速とされる。ABS開始許可車速未満では、ABS制御が実行されないようにプログラムされているため、車速がABS開始車速未満と判定されればABS制御が実行される可能性がない。このため、ここで否定判定されればステップ410に進み、上述したようにABS作動予測なしを設定して処理を終了する。そして、ここで肯定判定されればステップ430に進む。
【0063】
ステップ430では、スリップ率が予め設定しておいた閾スリップ率以上であるか否かを判定する。この判定は、上述したように車速と各車輪速度との差を車速で割ることにより演算したスリップ率を閾スリップ率と比較することにより行われる。ここでいう閾スリップ率は、ABS制御開始閾値よりも若干小さなスリップ率で、ABS制御に入ると予測される程度に高いスリップ率に設定されている。したがって、ここで肯定判定されるとステップ440に進み、ABS作動予測ありを設定して処理を終了する。この場合、ブレーキECU40からエンジンECU20に対してABS作動予測ありを示す信号が出力され、エンジンECU20がそれを取得すると、エンジンECU20内に備えられる作動予測フラグがセットされる。このように作動予測フラグがセットされることにより、エンジンECU20が図3のステップ260のABS予測判定を行うときに肯定判定されることになる。
【0064】
また、ステップ430で否定判定されると、ステップ450に進んで各車輪FR〜RLいずれかの車輪減速度が予め設定しておいた第1閾減速度以上発生しているか否かを判定する。ここでいう第1閾減速度は、車輪減速度が通常の減速度として生じる値よりも大きく、ABS制御に入ると予測される値に設定されている。したがって、ここで肯定判定された場合にもステップ440に進み、ABS作動予測ありを設定して処理を終了する。第1閾値減速度は、例えば車両がドライアスファルト路面で発生できる最大の減速度としても良いし、前後Gセンサ41で検出した車両の減速度に基づいて決定しても良い。
【0065】
また、ステップ450で否定判定されると、ステップ460に進んでブレーキ圧変化速度が予め設定しておいた閾変化速度以上であるか否かを判定する。ブレーキ圧変化速度は、上述したように、圧力センサ8aにて検出されるM/C圧を時間微分することによって演算される値である。このブレーキ圧変化速度が大きい場合にも、ABS制御に入る可能性が高い。このため、ABS制御に入ると予測される程度のブレーキ圧変化速度を閾変化速度に設定し、ブレーキ圧変化速度が閾変化速度以上であればABS制御に入ると予測している。ここで肯定判定された場合にもステップ440に進み、ABS作動予測ありを設定して処理を終了する。この閾変化速度は、緊急制動時に制動力を増加するブレーキアシスト制御の開始条件と同様に決定することが出来る。例えば、ブレーキペダル踏み込み面の移動速度が350mm/sとなるようにブレーキペダル7が踏み込まれたときのブレーキ圧の変化速度に基づいて決定しても良い。
【0066】
また、ステップ460で否定判定されると、ステップ470に進んで車体減速度が第2閾減速度以上であるか否かを判定する。この判定は、前後Gセンサ41の検出信号から求められた車両減速度を第2閾減速度と比較することで行われる。ここでいう第2閾減速度は、ABS制御が開始される可能性がある車体減速度を意味している。つまり、車体減速度が高い場合にもABS制御に入る可能性が高い。このため、ABS制御に入ると予測される程度の車体減速度を第2閾減速度に設定し、車体減速度が第2閾減速度以上であればABS制御に入ると予測している。ここで肯定判定された場合にもステップ440に進み、ABS作動予測ありを設定して処理を終了する。第2閾減速度は、例えば、ドライアスファルト路面で車両が発生できる最大減速度の85%等に設定しても良い。また、直進状態を最大(最大減速度の85%等)にして、旋回限界に近づくほど閾値が小さくなるようにしても良い。
【0067】
また、ステップ470で否定判定されると、ステップ480に進んで路面μが閾μ値以下であるか否かを判定する。路面μは、上述したように、車載カメラ42が撮影した映像に基づいて識別される。路面μが高い程、車輪がスリップし易くなるため、ABS制御が開始される可能性が高くなる。このため、ABS制御に入る可能性が高いと予測される程度の路面μ値を閾μ値に設定し、路面μが閾μ値以下であればABS制御に入ると予測している。ここで肯定判定された場合にもステップ440に進み、ABS作動予測ありを設定して処理を終了する。このようにして、ABS作動予測判定が完了する。
【0068】
以上説明したように、本実施形態では、ブレーキ圧が第1の閾値以上になるとIS制御によるアイドルストップを実行するが、ブレーキ圧が第1の閾値よりも大きな第2の閾値以上になると、アイドルストップが禁止されるようにしている。
【0069】
このため、第2の閾値以上のブレーキ圧が発生している状況下においてアイドルストップが実行された場合に、アイドルストップ実行後にABS制御が開始され、さらにエンジン1が再始動されたときに、ABS制御の制御性を確保できなくなるという不具合が発生することを防止することができる。そして、このようにABS制御性を確保できることで、緊急ブレーキ時において、より高い制動力を発生させつつ、ABS制御を制御性良く行えるため、より車両の安全性を確保することができる。
【0070】
また、エンジン1が稼動中には、ABS制御中にも、ブレーキ圧が第2の閾値以上であるなしに関わらず、アイドルストップが禁止されるようにしている。このため、ABS制御中にアイドルストップが実行された場合に、エンジン1が再始動されることによるバッテリ電圧低下に起因して、ABS制御の制御性を確保できなくなることを防止できる。さらに、エンジン1が稼動中には、ABS作動予測が判定された場合にも、ABS制御が実行される可能性が高いことから、アイドルストップが禁止されるようにしている。このため、このような場合にも後でABS制御が実行されたときに、ABS制御の制御性を確保できなくなることを防止することができる。
【0071】
逆に、エンジン1が停止中には、ABS制御中に、エンジン1の再始動が禁止されるようにしている。このため、ABS制御中にエンジン1が再始動されることによるバッテリ電圧低下に起因して、ABS制御の制御性を確保できなくなることを防止できる。さらに、エンジン1が停止中には、ABS作動予測が判定された場合にも、ABS制御が実行される可能性が高いことから、エンジン1の再始動が禁止されるようにしている。このため、このような場合にも後でABS制御が実行されたときに、ABS制御の制御性を確保できなくなることを防止することができる。
【0072】
(他の実施形態)
上記実施形態では、エンジン稼動中に、ブレーキ圧が第2の閾値以上になるとアイドルストップを禁止する場合について説明した。これと同様に、エンジン停止中に、ブレーキ圧が第2の閾値以上になると、再始動を禁止することもできる。例えば、図4のステップ340よりも前に、ブレーキ圧が第2の閾値以上であるか否かを判定するステップを設け、このステップで肯定判定された場合には、ステップ320の再始動禁止処理が実行されるようにすれば良い。このようにしても、エンジン1が再始動されることによるバッテリ電圧低下に起因して、ABS制御の制御性を確保できなくなることを防止できる。
【0073】
また、上記実施形態では、図3のステップ220におけるエンジン停止禁止処理でアイドルストップ禁止を行っているが、ステップ210、230〜260の判定結果によっては、直ぐにステップ270のエンジン停止処理でアイドルストップ許可となる可能性がある。このため、エンジン停止禁止処理でアイドルストップ禁止が出されてからエンジン停止処理に移行してきた場合に、エンジン停止処理に移行してきてからの経過時間をカウントし、繰り返しエンジン停止禁止処理に至ることなくエンジン停止処理に至る状況が続いた場合に、初めてエンジン停止処理としてアイドルストップ許可が実行されるようにすることもできる。このように、判定時間を持たせることで、アイドルストップ禁止からアイドルストップ許可への移行で、無駄にエンジン停止されることを抑制することが可能となる。
【0074】
さらに、上記実施形態では、ABS作動予測に用いている各種閾値を一定値としているが、これを車両状態に応じて可変としても良い。ABS制御は、車速が大きいほど実行され易いことから、図5のステップ430、450〜480で説明した閾スリップ率、第1、第2閾減速度、閾変化速度、閾μ値を車速が大きくなる程小さくなるようにしても良い。図6〜図8は、閾スリップ率、第2閾減速度、閾変化速度の車速に対する関係を示したマップである。この図に示されるように、閾スリップ率、第2閾減速度、閾変化速度については、車速が低速のときには一定値としておき、その後は車速の上昇に伴って各値を小さくしていき、さらに車速が所定値以上になると一定値となるように、車速に応じて各値を可変としても良い。また、第1閾減速度についても同様のことができるが、さらに、車体減速度に応じて可変とすることもできる。図9は、第1閾減速度の車速および車体減速度に対する関係を示したマップである。この図の実線で示したように、車速の上昇に伴って第1閾減速度を低下させつつ、車体減速度の上昇に伴って第1閾減速度が上昇するような関係とすることができる。この場合、例えば、図に示したように、車体減速度の小さい時には第1閾減速度を一定値にしておき、その後は車体減速度の上昇に伴って第1閾減速度を大きくしていき、さらに車体減速度が所定値以上になると第1閾減速度が一定値となるようにすることができる。
【0075】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。例えば、ステップ100〜300の処理を実行する部分が自動停止再始動制御手段、ステップ220の処理を実行する部分が停止禁止手段、ステップ230、240の処理を実行する部分が第1、第2判定手段、ステップ250、310の処理を実行する部分が制御中判定手段、ステップ260、330の処理を実行する部分が制御予測判定手段、ステップ270の処理を実行する部分が停止許可手段に相当する。また、上記実施形態では、各種処理を実行する各機能部をエンジンECU20とブレーキECU40に分けて備えた形態としたが、エンジンECU20のみに備えても良いし、エンジンECU20とは別にIS制御用のECUを備え、このECUにすべての機能部を備えても良い。勿論、車両用のLANによって、各種データの受け渡しが可能であるため、複数のECUに各機能部が分散されて備えられた形態であっても構わない。
【符号の説明】
【0076】
1 エンジン
1a スタータ
2 トランスミッション
2a ATポンプ
6 アクセルペダル
7 ブレーキペダル
10 ブレーキ液圧制御用アクチュエータ
20 エンジンECU
21 バッテリ
40 ブレーキECU
50 オルタネータ
60 コンプレッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行駆動源となるエンジン(1)を停止および再始動させる自動停止再始動制御手段(100〜300)と、
ドライバのブレーキ操作に応じたブレーキ圧を発生させることで、車輪(FR〜RL)に対して制動力を発生させると共に、前記ブレーキ圧を制御することでアンチスキッド制御を実行するブレーキシステム内の前記ブレーキ圧を検出するブレーキ圧検出手段と、
前記ブレーキ圧検出手段で検出された前記ブレーキ圧が第1の閾値以上であるか否かを判定する第1判定手段(230)と、
前記ブレーキ圧検出手段で検出された前記ブレーキ圧が前記第1の閾値より大きな第2の閾値以上であるか否かを判定する第2判定手段(240)と、
前記エンジン(1)の稼動中に、前記第1判定手段(230)で前記ブレーキ圧が前記第1の閾値以上であると判定され、かつ、前記第2判定手段(240)で前記ブレーキ圧が前記第2の閾値未満であると判定されると前記自動停止再始動制御手段(100〜300)による前記停止を許可する停止許可手段(270)と、
前記エンジン(1)の稼動中に、前記第1判定手段(230)で前記ブレーキ圧が前記第1の閾値未満であると判定される、もしくは、前記第2判定手段(240)で前記ブレーキ圧が前記第2の閾値以上であると判定されると前記自動停止再始動制御手段(100〜300)による前記停止を禁止する停止禁止手段(220)とを有していることを特徴とするエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項2】
前記エンジン(1)の稼動中に、前記アンチスキッド制御中であるか否かを判定する制御中判定手段(250)を有し、
前記停止禁止手段(220)は、前記エンジン(1)の稼動中に、前記制御中判定手段(250)にて前記アンチスキッド制御中であると判定されると、前記停止を禁止することを特徴とする請求項1に記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項3】
前記エンジン(1)の稼動中に、前記アンチスキッド制御が実行されるという予測があるか否かを判定する制御予測判定手段(260)を有し、
前記停止禁止手段(220)は、前記エンジン(1)の稼動中に、前記制御予測判定手段(260)にて前記アンチスキッド制御が実行されるという予測があると判定されると、前記停止を禁止することを特徴とする請求項1または2に記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項4】
前記エンジン(1)の停止中に、前記アンチスキッド制御中であるか否かを判定する制御中判定手段(310)と、
前記エンジン(1)の停止中に、前記制御中判定手段(310)にて前記アンチスキッド制御中であると判定されると、前記自動停止再始動制御手段(100〜300)による前記再始動を禁止する再始動禁止手段(320)とを有していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項5】
前記再始動禁止手段(320)は、前記エンジン(1)の停止中に、前記第2判定手段(240)で前記ブレーキ圧が前記第2の閾値以上であると判定されると前記自動停止再始動制御手段(100〜300)による前記再始動を禁止することを特徴とする請求項4に記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項6】
前記エンジン(1)の停止中に、前記アンチスキッド制御が実行されるという予測があるか否かを判定する制御予測判定手段(330)を有し、
前記再始動禁止手段(320)は、前記エンジン(1)の停止中に、前記制御予測判定手段(330)にて前記アンチスキッド制御が実行されるという予測があると判定されると、前記再始動を禁止することを特徴とする請求項4または5に記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項7】
前記制御予測判定手段(260、330)は、車両減速時の車輪のスリップ率が閾スリップ率以上であると、前記アンチスキッド制御が実行されるという予測があると判定する手段(430)を含むことを特徴とする請求項3または6に記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項8】
前記制御予測判定手段(260、330)は、車両減速時の車輪減速度が第1閾減速度以上であると、前記アンチスキッド制御が実行されるという予測があると判定する手段(450)を含むことを特徴とする請求項3、6および7のいずれか1つに記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項9】
前記制御予測判定手段(260、330)は、車両減速時のブレーキ圧変化速度が閾変化速度以上であると、前記アンチスキッド制御が実行されるという予測があると判定する手段(460)を含むことを特徴とする請求項3、6ないし8のいずれか1つに記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項10】
前記制御予測判定手段(260、330)は、車両減速時の車体減速度が第2閾減速度以上であると、前記アンチスキッド制御が実行されるという予測があると判定する手段(470)を含むことを特徴とする請求項3、6ないし9のいずれか1つに記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項11】
前記制御予測判定手段(260、330)は、車両減速時の路面摩擦係数が閾値以下であると、前記アンチスキッド制御が実行されるという予測があると判定する手段(480)を含むことを特徴とする請求項3、6ないし10のいずれか1つに記載のエンジン自動停止再始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−226315(P2011−226315A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94396(P2010−94396)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】