説明

ガラス基板およびその製造方法

【課題】 微小なクラックや微小なガラス粉が発生し難いフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の端縁構造、つまり面取り形状を提供することで、フラットパネルディスプレイの製造効率や製品特性を向上させる。
【解決手段】 ガラス基板1の表面2と端面3とが交差する端縁に二段の面取り面6,7を形成し、ガラス基板1の表面2と一段目の面取り面6との交差角θ1を5〜40°とし、ガラス基板1の表面2と二段目の面取り面7との交差角θ2を30〜70°とし、θ1<θ2の関係を満足させる。ガラス基板1を形成するためのガラス原板は、オーバーフローダウンドロー法で成形すると共に、レーザースクライブを施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の表面と端面とが交差する端縁に形成される面取り面の改良技術に関する。
【0002】
周知のように、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、有機ELディスプレイ(OLED)などに代表されるフラットパネルディスプレイ(FPD)、或いは太陽電池などの製作に使用されるガラス基板は、オーバーフローダウンドロー法やフロート法等でガラス原板を作製した後に、所定寸法に切断することで製造される。
【0003】
この種のガラス原板の切断は、従来より、ダイヤモンドカッター等を用いて、ガラス原板の表面にスクライブ(罫書き)を入れ、このスクライブ痕を起点に引張応力が集中するようにガラス原板を折り曲げて折り割りにより割断する手法が採用されていた。
【0004】
この方法により作製されたガラス基板は、その表面(厚み方向両側にそれぞれ存在する表面)と端面(切断面)とが交差する端縁近傍に、微小なクラックやガラス粉が不可避的に発生する。つまり、ダイヤモンドカッター等でガラス原板の表面にスクライブを入れると、ガラス原板の表面の微小領域が破壊され、ガラス原板の表面から板厚方向に微小なメディアンクラックが生じる。
【0005】
また、ダイヤモンドカッター等でガラス原板の表面にスクライブを入れると、板厚方向のみならず、ガラス原板の表面に水平な方向にもガラスを破壊する力が作用し、約100〜150μmの微小なラテラルクラックが生じる。
【0006】
このラテラルクラックは、ガラス原板の表面から微小のガラス片(ガラス粉)を剥離させるために、微小なガラス粉がガラス基板の表面に付着する原因となる。微小なガラス粉がガラス基板の表面に付着すると、FPD等の製造工程で電極や配線を断線させる一因となり、結果として、FPD等の製造効率や製品特性が損なわれる。また、微小なガラス粉は、一旦、ガラス基板の表面に付着すると、洗浄等で除去することが困難である。
【0007】
このような状況下、微小なクラックを除去するために、ガラス基板の表面や端面、特に表面と端面とが交差する端縁領域を研磨することで面取り処理を行っていた。
【0008】
具体例として、特許文献1の段落[0017]には、微小なガラス粉を除去するために、ガラス基板の端縁領域を研磨処理し、凸状の曲面に面取り(所謂、R面取り)するとともに、ガラス基板の表面も研磨処理することが記載されている。
【0009】
また、特許文献2の段落[0008]、[0009]および図4には、微小なガラス粉がガラス基板の表面に付着する事態を防止するために、ガラス基板の端面全体をR状に粗研磨して、半円状に面取りした後に、回転砥石を面取りした角部に所定の角度で圧接して、仕上げ研磨を行うことが記載されている。
【0010】
さらに、特許文献3には、ガラス板の稜部を、平均砥石粒径が50μm以下の砥石を用いて表面凹凸を最大0.003mm以下に仕上げることが記載されている。
【0011】
しかしながら、上記の方法でガラス基板の端縁領域を面取りし、微小なクラックを完全に取り除いたとしても、研磨処理により微小なガラス粉が多量に発生して、ガラス基板の表面に付着することから、結局のところ、微小なガラス粉に起因する上記問題を解決することができない。
【0012】
また、特許文献4には、ガラス基板の表面と端面が交差する端縁の一部または全部に面取り面が形成されており、且つ面取り面の寸法が、ガラス基板の板厚方向において18〜75μmであることが記載されている。また、望ましくは面取り面の算術平均粗さRaが0.2μm以下であることが記載されている。
【0013】
しかしながら、微小なガラス粉が発生しないように、面取り面の算術平均粗さRaが0.2μm以下になるような砥石で研削した場合には、面取り量が少なくなりすぎるため、微小なクラック等を充分に除去することができず、FPD等の製造工程でガラス基板が欠損する確率を低減することができないという問題がある。
【0014】
これに対して、面取り量を確保するため、砥石の切り込み量を大きくした場合には、研磨面にクラックが発生したり、ガラス粉の発生を抑制することができず、面粗さの品位が低下し、FPD等の製造工程でガラス基板が欠損する確率を低減することができない。
【0015】
また、特許文献5には、単板ガラスの少なくとも一方の表面の周縁部に面取り領域が形成された自動車用ガラス板において、前記表面と前記面取り領域との間に、前記面取り領域よりも破壊強度が高い加工領域を設けることが記載されている。
【0016】
しかしながら、前記面取り領域の粗さは、自動車という用途から考えて粗くなっており、FPD用等として使用する場合には、ガラス粉の発生を抑えることが出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平7−140450号公報
【特許文献2】特開2002−59346号公報
【特許文献3】特開平11−77500号公報
【特許文献4】特開2008−266046号公報
【特許文献5】特開2002−154321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところで、近年においては、上記問題を解決すべく、ガラス原板の切断方法として、ガラス原板の表面にスクライブを入れる際に、ガラス基板の表面に微小なクラックが発生し難い方法が開発されるに至っている。
【0019】
すなわち、この方法は、レーザー光をガラス原板の表面に照射し、ガラス原板の微小領域を加熱膨張させ、次いでその微小領域を冷却材で冷却収縮させて、ガラス原板の表面にスクライブを入れる方法(以下、レーザースクライブと称する)である。この方法によれば、ガラスの熱膨張により発生した応力を利用して、ガラス原板にスクライブ線を入れ、そのスクライブに沿ってガラス原板を切断することにより、所望の大きさのガラス基板を得ることができる。
【0020】
このレーザースクライブは、ダイヤモンドカッター等でスクライブを入れる方法と異なり、ガラス基板の端面および端縁近傍で微小なクラック、特にラテラルクラックが発生し難く、得られる端面も滑らかである。
【0021】
また、ガラス原板の切断としては、熱応力割断(レーザーフルボディーカットを含む)を採用することができる。熱応力割断によりガラス原板を切断する場合も、レーザースクライブによりガラス原板を切断する場合と同様、ガラス基板の端面および端縁近傍で微小なクラック、特にラテラルクラックが発生し難く、得られる端面も滑らかである。
【0022】
しかし、レーザースクライブ或は熱応力割断により形成されたガラス基板は、ガラス基板の表面と端面とが交差する角度が略直角になり、ガラス基板の端縁領域が非常に脆い状態となる。この場合、端縁領域が鋭利なガラス基板は、FPD等の製造工程で位置決め装置等に接触すると、その接触部位に欠損等が生じ、これにより微小なクラックが発生しやすくなる。
【0023】
一方、上述のようにレーザースクライブ或は熱応力割断によりガラス原板を切断する場合に、図5に示すように、ガラス基板11の端縁領域(表面12と端面13とが交差する領域)に従来通りに数百μm程度の面取り15を施すと、ガラス基板11の端縁領域が欠損する問題は生じないが、ガラス基板11の面取り量が多いことから、面取り時に微小なガラス粉が発生し、ガラス基板11の表面12に付着し得ることになり、結局のところ、従来の問題が生じることになる。
【0024】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、微小なクラックや微小なガラス粉が発生し難いガラス基板の端縁構造(面取り形状)を提供して、FPD等の製造効率や製品特性の向上に資することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するために創案された本発明は、表面と端面とが交差する端縁に面取り面が形成されたガラス基板において、前記端縁に、前記表面に一端が接する一段目の面取り面と、該一段目の面取り面に一端が接し且つ前記端面に他端が接する二段目の面取り面とが形成されると共に、前記表面と前記一段目の面取り面との交差角θ1が5〜40°で且つ前記表面と前記二段目の面取り面との交差角θ2が30〜70°であって、θ1<θ2の関係を満たすことに特徴づけられる。
【0026】
このような構成によれば、ガラス基板の表面と端面とが交差する端縁に、二段の面取り面が形成されているため、表面と一段目の面取り面とのなす角度を大きくできるとともに、二段目の面取り面と端面とのなす角度も大きくすることができる。これにより、ガラス基板の端縁領域における不当な角張り部をなくして、脆さを緩和することができるため、FPD等の製造工程でガラス基板が欠損する確率を低減することができる。
【0027】
また、このようにガラス基板の端縁領域に形成する面取り面を二段にしたことから、ガラス基板の端縁領域の研削は、2回に亘って行なわれることになり、これにより一回あたりの研削量が少なくても、最終的には適切な研削量を確保することが出来るので、加工速度を高めることができる。また、一段目と二段目の角度を変えることにより、より少ない研削量で面取り幅を確保できるので、ガラス基板の端縁領域に残存している微小なクラックを効率よく除去でき、その結果、FPD等の製造工程でガラス基板が欠損する事態が生じ難くなる。さらに、二つの面取り面が形成されていることにより、ガラス基板は、表面側からの負荷と、端面側からの負荷の双方に対して欠け難くなる。
【0028】
そして、前記表面と前記一段目の面取り面との交差角θ1が5〜40°で且つ前記表面と前記二段目の面取り面との交差角θ2が30〜70°であって、θ1<θ2の関係を満たすからこそ、上述の利点が有効に得られることになる。
【0029】
また、FPD等の製造工程では、ガラス基板を加熱する熱処理工程が存在するが、ガラス基板は、この熱処理工程で均一に熱処理されることはなく、通常、ガラス基板の表面からガラス基板の内部に向かって温度勾配が生じている。そして、この種の温度勾配が生じると、ガラス基板の表面、端面および面取り面に応力が作用する。このような場合、ガラス基板に微小なクラックが存在していると、そのクラックを起点としてガラス基板が破損する確率が高くなる。その点、本発明によれば、ガラス基板の微小なクラックを可及的に低減できるため、このような事態を的確に防止することができる。
【0030】
また、上記課題を解決するために創案された本発明は、表面と端面とが交差する端縁に面取り面が形成されたガラス基板において、前記端縁に、前記表面に一端が接する一段目の面取り面と、該一段目の面取り面に一端が接する二段目の面取り面と、該二段目の面取り面に一端が接し且つ前記端面に他端が接する三段目の面取り面とが形成されると共に、前記表面と前記一段目の面取り面との交差角θ1が5〜30°で且つ前記表面と前記二段目の面取り面との交差角θ2が30〜60°で且つ前記表面と前記三段目の面取り面との交差角θ3が50〜80°であって、θ1<θ2<θ3の関係を満たすことに特徴づけられる。
【0031】
このような構成によれば、ガラス基板の表面と端面とが交差する端縁に、三段の面取り面が形成されているため、表面と一段目の面取り面とのなす角度をより小さくできるとともに、三段目の面取り面と端面とのなす角度はより大きくすることができ、ガラス基板の端縁領域における脆さの緩和効果をより一層高めることができる。しかも、面取り面を形成する際の研削量も効率よく低減できるなどのように、上記面取り面を二段で形成した場合と同等またはそれ以上の利点を得ることができる。
【0032】
以上の構成において、ガラス基板の前記端面は、レーザースクライブ或は熱応力割断による切断面であることが好ましい。
【0033】
このようにすれば、ガラス基板に微小なクラック、特にラテラルクラックが発生し難くなり、ガラス基板の端面が滑らかになるため、ガラス基板の端面を研磨処理する必要がなくなり、ガラス基板の製造効率が向上する。
【0034】
以上の構成において、全ての段における前記面取り面の算術平均粗さRaは、0.2μm以下であることが好ましい。ここで、「算術平均粗さRa」は、JIS B0601:2001(以下、単にJIS B0601と称する)に準拠した方法により測定した値を指し、評価長さ8mm、カットオフ値λc=0.8mm、カットオフ比λc/λs=100の条件で測定した値を指す。
【0035】
このようにすれば、ガラス基板の面取り面を起点としたクラックが発生し難くなる。尚、面取り面の算術平均粗さRaを0.2μm以下にするためには、例えば、#1000〜#3000のレジンボンドダイヤモンド砥石で面取り面を形成、或は研磨すればよい。
【0036】
以上の構成において、レーザースクライブ或は熱応力割断による切断面である前記端面は、未研磨面であることが好ましい。
【0037】
このようにすれば、端面の研磨等が不要になって作業能率が向上するとともに、レーザースクライブにより形成された当該端面は平滑な面であるが故に、当該端面にクラックが発生し難くなり、クラックを起点とする欠損の発生が回避され得る。
【0038】
ここで、ダイヤモンドカッター等でガラス原板にスクライブを入れた場合、得られるガラス基板の端面は粗面になるため、ガラス基板の端面を研磨しないと、ガラス基板の端面を起点として、ガラス基板にクラックが発生しやすくなる。一方、レーザースクライブの場合、前記したように、得られるガラス基板の端面は平滑な面となるので、ガラス基板の端面の研磨工程を簡素化して、ガラス基板の製造効率を向上させることができると共に、ガラス基板の端面を起点としたクラックの発生を抑えることができる。
【0039】
以上の構成において、ガラス基板が、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウンドロー法またはリドロー法で成形され、当該ガラス板の表面が、未研磨面であることが好ましい。
【0040】
このようにすれば、ガラス基板の表面は、研磨することなく平滑な面になるので、ガラス基板の表面の研磨工程を簡素化して、ガラス基板の製造効率を向上させることができる。なお、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形すれば、その表面の算術平均粗さRaが10nm以下となる。
【0041】
以上の構成において、ガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板であることが好ましい。
【0042】
このようにすれば、上述の種々の利点を有するフラットパネルディスプレイ用ガラス基板が得られることになり、この種のガラス基板に求められる優れた特性を付与することができる。ここで、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板としては、液晶ディスプレイ(LCD)用、プラズマディスプレイ(PDP)用、フィールドエミッションディスプレイ(FED)用、さらには有機ELディスプレイ(OLED)用などのガラス基板を挙げることができる。なお、フラットパネルディスプレイ用以外であっても、例えば太陽電池や有機EL照明などの製作に使用されるガラス基板にも適用可能である。
【0043】
また、ガラス基板の板厚は、0.2mm以上で且つ1.8mm以下であることが好ましい。このようにすれば、ガラス基板の端縁に二段または三段の面取り面を適切に形成することができる。
【0044】
上記課題を解決するための本願にかかる他の発明は、表面と端面とが交差する端縁に面取り面が形成されたガラス基板において、前記端縁に、前記表面に一端が接する一段目の面取り面と、該一段目の面取り面に一端が接し且つ前記端面に他端が接する二段目の面取り面とが形成されていることを特徴とする。この発明の作用および効果については、段落0025〜0026、および、0028と同じであるため、その詳細な説明を省略する。
【0045】
上記課題を解決するための本願にかかる更に別の発明は、表面と端面とが交差する端縁に面取り面が形成されたガラス基板において、前記端縁に、前記表面に一端が接する一段目の面取り面と、該一段目の面取り面に一端が接する二段目の面取り面と、該二段目の面取り面に一端が接し且つ前記端面に他端が接する三段目の面取り面とが形成されていることを特徴とする。この発明の作用および効果については、段落0030と同じであるため、その詳細な説明を省略する。
【0046】
上記課題を解決するために創案された本発明に係る方法は、表面と端面とが交差する端縁に面取り面が形成されたガラス基板の製造方法において、前記端縁に、前記表面に一端が接する一段目の面取り面を形成する第一面取り工程と、前記一段目の面取り面に一端が接し且つ前記端面に他端が接する二段目の面取り面を形成する第二面取り工程とを有し、これら両工程の実行により、前記表面と前記一段目の面取り面との交差角θ1を5〜40°とし、前記表面と前記二段目の面取り面との交差角θ2を30〜70°とし、θ1<θ2の関係を充足することに特徴づけられる。
【0047】
この製造方法の構成は、上述の本発明に係るガラス基板のうち冒頭で述べた二段の面取り面を形成したガラス基板の構成と実質的に同一であるので、作用効果を含む説明事項は、当該ガラス基板について既に述べた説明事項と実質的に同一である。
【0048】
また、上記課題を解決するために創案された本発明に係る方法は、表面と端面とが交差する端縁に面取り面が形成されたガラス基板の製造方法において、前記端縁に、前記表面に一端が接する一段目の面取り面を形成する第一面取り工程と、前記一段目の面取り面に一端が接し且つ前記端面に他端が接する二段目の面取り面を形成する第二面取り工程とを有し、これら両工程の実行により、前記表面と前記一段目の面取り面との交差角θ1を5〜40°とし、前記表面と前記二段目の面取り面との交差角θ2を30〜70°とし、θ1<θ2の関係を充足することに特徴づけられる。
【0049】
この製造方法の構成は、上述の本発明に係るガラス基板のうち冒頭の直後で述べた三段の面取り面を形成したガラス基板の構成と実質的に同一であるので、作用効果を含む説明事項は、当該ガラス基板について既に述べた説明事項と実質的に同一である。
【0050】
以上の方法において、全ての段における前記面取り面を、#1000番以上の砥粒の砥石で形成することが好ましい。
【0051】
このようにすれば、ガラス基板の端縁領域に残存している微小なクラックを確実に除去することができるとともに、初回の二段または三段の全ての面取り面の研磨をこのような微細研磨のみで行うことができ、粗研磨から仕上げ研磨の複数回に亘る研磨作業を行わなくても済むため、面取り面の研削量の削減ならびに研削時間の短縮を確実に図ることができる。
【0052】
以上の方法において、ガラス基板の前記端面は、ガラス原板をレーザースクライブ或は熱応力割断することによって形成されることが好ましい。
【0053】
このようにすれば、ダイヤモンドカッター等でスクライブを入れて折り割りする方法と異なり、ガラス基板の端面および端縁近傍に微小なクラック、特にラテラルクラックが発生し難いため、得られる端面を滑らかにできるとともに、面取り時に微小なガラス粉が発生して、ガラス基板の表面に付着するという事態を回避することができる。
【発明の効果】
【0054】
以上のように本発明によれば、ガラス基板の端縁領域における不当な角張り部をなくして、脆さを緩和することができるため、FPD等の製造工程でガラス基板が欠損する確率を低減することができる。しかも、より少ない研削量で面取り幅を確保できるので、ガラス基板の端縁領域に残存している微小なクラックを効率よく除去でき、その結果、FPD等の製造工程でガラス基板が欠損するという事態が生じ難くなる。さらに、ガラス基板は、表面側からの負荷と、端面側からの負荷の双方に対して欠け難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施形態に係るガラス基板の要部を示す断面図である。
【図2】図1に示す第1実施形態に係るガラス基板の製造工程を説明するためのもので、面取り処理が行われる前のガラス基板の要部を示す断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るガラス基板の要部を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例を説明するもので、本発明のガラス基板と、従来のガラス基板のクラック特性等の試験条件およびその試験結果をまとめた表である。
【図5】従来のガラス基板の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明の実施形態について説明する。尚、以下の実施形態では、FPD用ガラス基板を対象とした場合を例示する。
【0057】
図1は、本発明の第1実施形態に係るFPD用ガラス基板の要部を示す断面図である。同図に示すように、このFPD用ガラス基板1の表面2と端面3とが交差する端縁にはそれぞれ、二段の面取り面6,7が形成されている。詳述すると、この二段の面取り面6,7は、図2に示す面取り前におけるFPD用ガラス基板1の表面2と端面3とが交差する端縁4にそれぞれ面取り加工を施すことにより形成されたものである。
【0058】
そして、ガラス基板1の表面2と一段目の面取り面6との交差角θ1は5〜40°が好ましく、10〜25°がより好ましく、15〜20°がさらに好ましい。ガラス基板1の表面2と一段目の面取り面6との交差角θ1が5°よりも小さいと、面取り面6の幅が大きくなりすぎたり、面取り加工の制御が困難になる。一方、ガラス基板1の表面2と一段目の面取り面6との交差角が40°よりも大きいと、一段目の面取り面6の面取り幅が小さくなりすぎたり、ガラス基板1の表面2と一段目の面取り面6の交差する領域に欠けやクラックが発生しやすくなる。
【0059】
ガラス基板1の表面2と二段目の面取り面7との交差角θ2は30〜70°が好ましく、35〜55°がより好ましく、40〜50°がさらに好ましい。ガラス基板1の表面2と二段目の面取り面7の交差角が30°よりも小さいと、必然的に交差角θ1も小さくなり、一段目の面取り面6との角度差が無く、二段目の面取り面7の幅が大きくなりすぎたり、制御が困難になる。一方、ガラス基板1の表面2と二段目の面取り面7の交差角が70°よりも大きいと、一段目の面取り面6と二段目の面取り面7とが交差する領域に欠けやクラックが発生しやすくなる。
【0060】
ガラス基板1の表面2と端面3とが交差する端縁4に形成する面取り面6,7は、特に形状が限定されるものではないが、平坦な状態(均一な斜面状、糸面取りとも称される)であることが好ましい。このようにすれば、面取り面6,7の形成が簡便になり、ガラス基板1の面取り効率を向上させることができる。
【0061】
面取り面6,7の算術平均粗さRaは、0.2μm以下が好ましく、0.1μm以下がより好ましく、0.08μm以下が更に好ましく、0.05μm以下が特に好ましく、0.03μm以下が最も好ましい。面取り面6,7の算術平均粗さRaが0.2μmよりも大きいと、ガラス基板2の面取り面6,7が粗くなり、ガラス基板1がFPDの製造装置に接触したときに、面取り面6,7を起点として、ガラス基板1にクラックが発生しやすくなる。
【0062】
面取り面6,7の十点平均粗さRzは、1μm以下が好ましく、0.7μmがより好ましく、0.4μm以下が更に好ましく、0.25μm以下が特に好ましく、0.15μm以下が最も好ましい。ここで、「十点平均粗さ」とは、JIS B 0601に準拠した方法により測定した値を指す。このようにすれば、ガラス基板1の面取り面6,7を起点としたクラックが発生し難くなる。面取り面6,7の十点平均粗さRzを1μm以下にするためには、例えば、#1000〜#3000のレジンボンドダイヤモンド砥石で面取り面6,7を均一に研磨すればよい。
【0063】
ガラス基板1の板厚は、0.2mm以上で且つ1.8mm以下が好ましく、0.2〜1.1mmがより好ましく、0.3〜0.7mmが更に好ましい。ガラス基板1の板厚が0.2mmよりも小さいと、ガラス基板1の板厚に対して、面取り面6,7の寸法が大きくなりすぎ、FPDの製造工程でガラス基板1の位置決めを正確に行えないおそれが生じる。一方、ガラス基板1の板厚が1.8mmよりも大きいと、ガラス原板(図示省略)を切断し難くなり、ガラス基板1の生産効率が低下する。
【0064】
本発明のFPD用ガラス基板1は、種々の寸法のガラス基板に適用可能であり、例えば、寸法が0.1m2以上(具体的には、320×420mm以上)、0.5m2以上(具体的には、630×830mm以上)、1.0m2以上(具体的には、950mm×1150mm以上)、更には2.3mm2以上(具体的には、1400mm×1700mm以上)、3.5m2以上(具体的には、1750mm×2050mm)、4.8m2以上(具体的には、2100×2300mm以上)のガラス基板に適用可能である。ガラス基板の寸法が大きい程、ガラス基板の端縁領域が大きくなるため、ガラス基板の破損確率が上昇し、また、ガラス粉が付着しやすくなるが、本発明によれば、このような場合であっても、微小なクラックや微小なガラス粉の発生を的確に制御することができる。
【0065】
ガラス基板1のガラス組成としては、実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず、且つ質量百分率でSiO2 50〜70%、Al23 10〜25%、 B23 3〜20%、MgO 0〜10%、CaO 3〜15%、BaO 0〜10%、 SrO 0〜10%、 ZnO 0〜10%、TiO2 0〜5%、P25 0〜5%含有することが好ましい。ガラス組成をこのように規制すれば、LCD用ガラス基板に好適に使用することができる。以下にガラス組成範囲を限定した理由を説明する。
【0066】
ガラス組成中にアルカリ金属酸化物を実質的に含有していない場合、熱処理中にアルカリイオンが成膜された半導体物質中に拡散し、膜特性が劣化する事態を防止することができる。なお、「アルカリ金属酸化物を実質的に含有しない」とは、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物(Li2O、Na2O、K2O)の含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
【0067】
SiO2は、ガラスネットワークを形成する成分であり、その含有量は50〜70%、好ましくは55〜70%、より好ましくは58〜68%、更に好ましくは59〜66%である。SiO2の含有量が50%より少ないと、耐薬品性、特に耐酸性が悪化し、また低密度化を図ることが困難となる。一方、SiO2の含有量が70%より多いと、高温粘度が高くなり、溶融性が悪くなるとともに、ガラス中に失透異物(クリストバライト)の欠陥が生じやすくなる。
【0068】
Al23は、ガラスの歪点を高める効果がある成分であり、その含有量は10〜25%、好ましくは12〜19%、より好ましくは14.5〜17%である。Al23の含有量が10%より少ないと、歪点を600℃以上にすることが困難となる。また、Al23の含有量が10%より少ないと、ヤング率が低下しやすくなり、比ヤング率も低下しやすくなる。一方、Al23の含有量が25%よりも多いと、液相温度が高くなり、耐失透性が低下しやすくなる。
【0069】
23は、融剤として働き、粘性を下げ、溶融性を改善する成分である。一方、LCDに使用されるガラス基板には高い耐酸性が要求されるが、B23の含有量が多くなる程、耐酸性が低下する傾向にある。以上の点を考慮すると、B23の含有量は3〜20%、好ましくは5〜15%、より好ましくは8.6〜14%、更に好ましくは9.5〜12%である。B23の含有量が3%より少ないと、融剤としての働きが不十分になることに加えて、耐バッファードフッ酸性が悪化しやすくなる。一方、B23の含有量が20%より多いと、ガラスの歪み点が低下し、耐熱性が低下しやすくなることに加えて、耐酸性が悪化しやすくなる。更には、B23の含有量が20%より多いと、ヤング率が低下し、比ヤング率が低下しやすくなる。
【0070】
MgOは、歪点を低下させることなく、高温粘性を下げ、ガラスの溶融性を改善する成分である。また、MgOは、アルカリ土類金属酸化物の中では最も密度を下げる効果がある成分である。しかし、MgOを多量に含有させると、液相温度が上昇し、耐失透性が低下しやすくなる。さらに、MgOは、バッファードフッ酸と反応して生成物を形成し、ガラス基板1の表面2の素子上に固着したり、ガラス基板1に付着してこれを白濁させるおそれがあるため、その含有量には制限がある。以上の点を考慮すると、MgOの含有量は0〜10%、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1%、更に好ましくは0〜0.5%である。
【0071】
CaOも、MgOと同様に歪点を低下させることなく、高温粘性を下げ、ガラスの溶融性を顕著に改善する成分であり、その含有量は3〜15%、好ましくは4〜12%、より好ましくは5〜10%、更に好ましくは6〜9%である。この種の無アルカリガラス基板は、一般的に溶融し難く、安価に高品質のガラス基板を大量に供給するためには、その溶融性を高めることが重要である。上記のガラス組成系ではSiO2の含有量を減少させることが、溶融性を高めるために最も効果的であるが、SiO2の含有量を減らすと、耐酸性が極端に低下することに加えて、ガラスの密度、熱膨張係数が増大しやすくなる。このような事情から、CaOの含有量が3%より少ないと、ガラスの溶融性を高めにくくなる。一方、CaOの含有量が15%より多いと、ガラスの耐バッファードフッ酸性が悪化し、ガラス基板1の表面2が侵食されやすくなることに加えて、反応生成物がガラス基板1の表面2に付着してガラス基板1を白濁させ、さらに熱膨張係数が高くなりすぎる。
【0072】
BaOは、ガラスの耐薬品性、耐失透性を向上させる成分である。一方、BaOは、ガラスの密度や熱膨張係数を大きく上昇させる成分であり、ガラス基板の低密度化、低膨張化を図る場合には極力含有させないことが好ましい。また、BaOは、環境面からも多量の含有は好ましくない。以上の点を考慮すると、BaOの含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜2%、更に好ましくは0〜1%、特に好ましくは0〜0.5%である。
【0073】
SrOは、ガラスの耐薬品性、耐失透性を向上させる成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜6%、より好ましくは0〜4.5%、更に好ましくは0〜1.5%である。SrOの含有量が10%より多いと、ガラスの密度や熱膨張係数が上昇しやすくなる。
【0074】
BaOおよびSrOは、特に耐バッファードフッ酸性を高める性質を持つ成分であり、耐バッファードフッ酸性を向上させるためには、これらの成分を含量で0.1%以上(好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.5%以上)含有させることが好ましい。しかし、既述のように、BaOおよびSrOを多量に含有させると、ガラスの密度や熱膨張係数が上昇するため、これらの成分は合量で6%以下に抑えることが望ましい。その範囲内で、これらの合量は、耐バッファードフッ酸性および耐失透性を高めるという観点に立てば、できるだけ多く含有することが望ましく、一方、密度や熱膨張係数の低下、或は環境面への配慮という観点に立てば、できるだけ少なくすることが望ましい。
【0075】
ZnOは、ガラス基板の耐バッファードフッ酸性を改善するとともに、溶融性を改善する成分であるが、多量に含有させると、ガラスが失透しやすくなり、歪点も低下する上、密度が上昇しやすくなる。よって、ZnOの含有量は0〜10%、好ましくは0〜7%、より好ましくは0〜5%、更に好ましくは0〜3%、特に好ましくは0〜0.9%、最も好ましくは0〜0.5%である。
【0076】
MgO、CaO、BaO、SrO、ZnOの各成分は混合して含有させることによりガラスの液相温度を著しく下げ、ガラス中に結晶異物を生じさせ難くすることができ、結果として、ガラスの溶融性、成形性を改善することができる。しかし、これらの成分の合量が少なすぎると、溶剤としての働きが充分に発揮されず、ガラスの溶融性が悪化することに加えて、熱膨張係数が低くなりすぎ、TFT材料と熱膨張係数が整合し難くなる。一方、これらの成分の合量が多すぎると、密度が上昇し、ガラス基板1の軽量化が図れなくなる上、比ヤング率が低下しやすくなる。よって、これらの成分の合量は6〜20%、好ましくは6〜15%、より好ましくは6〜14%である。
【0077】
TiO2は、ガラスの耐薬品性、特に耐酸性を改善し、且つ高温粘性を下げて溶融性を向上させる成分であるが、多量に含有させると、ガラスが着色し、その透過率を損なわれる。よって、TiO2の含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜1%である。
【0078】
25は、ガラスの耐失透性を向上させる成分であるが、多量に含有させると、ガラス中に分相、乳白が生じることに加えて、耐酸性が著しく悪化する傾向がある。よって、P25の含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜1%である。
【0079】
また、上記成分以外にも、ガラス組成中に、Y23、Nb25、La23を合量で5%程度まで含有させてもよい。これらの成分は、歪点、ヤング率等を高める働きがあるが、多量に含有させると、密度が増大してしまう。更にガラス特性が損なわれない範囲で、As23、Sb23、F2、Cl2、SO3、C、あるいはAl、Siなどの金属粉末等の清澄剤を合量で5%まで含有させることができる。また、CeO2、Fe23、As23および/またはSb23は、環境面から実質的に使用しないことが望ましい。
【0080】
本実施形態にかかるガラス基板1は、例えば、ガラス原板(図示省略)をレーザースクライブにより切断して、図2に示すようなガラス基板1を採取し、ガラス基板1の表面2と端面3が交差する端縁4を二段に面取りすることで面取り面6,7を形成し、ガラス基板1の表面2と一段目の面取り面6との交差角θ1、及び、ガラス基板1の表面2と二段目の面取り面7との交差角θ2を、既述の所定角度にすることで作製することができる。なお、ガラス原板の切断は、レーザースクライブに限らず、熱応力割断により行うことも可能である。
【0081】
ガラス原板をレーザースクライブ或は熱応力割断することにより形成される端面3は、平滑な面であるため、研磨されることなく、未研磨面とされる。従って、端面3の研削および研磨は不要である。詳述すると、レーザースクライブ或は熱応力割断は、ダイヤモンドカッター等でスクライブを入れる方法と異なり、ガラス基板1の端面3および端縁4(図2)近傍で微小なクラック、特にラテラルクラックが発生しにくく、得られる端面3を滑らかにできる。
【0082】
尚、ガラス原板(図示省略)をレーザースクライブ或は熱応力割断する場合、ガラス基板1の表面2と端面3が交差する角度が略直角になるため、この部分にFPDの製造工程で使用する位置決め装置が接触して欠損やクラックが生じるのを防止するために、上述のように面取り面を形成する必要がある。特に、本実施形態のように面取り面を二段で形成すると、面取り時に微小なガラス粉が発生して、ガラス基板1の表面2に付着するのを防止することができる。
【0083】
この場合、二段の面取り面6,7の形成には、例えば、円盤状砥石、ドラム状砥石、カップ状砥石等が使用可能であるが、面取り形成部に対する角度調整が行い易いという観点から、カップ状砥石を使用することが好ましい。また、一段目の面取り面6を形成するための砥石と、二段目の面取り面7を形成するための砥石を別々に用意し、各砥石をガラス基板1の各面取り形成部に予め直列に近接配置させ、同時に端縁4の長手方向に移動させる構成としておけば、一度の研磨作業で面取り面6,7を同時に形成できるので、ガラス基板1の面取り効率の向上が図られる。
【0084】
そして、端面加工の順番は交差角θの小さい順に、つまり一段目の面取り面6の加工を先に行うことが望ましい。このように交差角の小さい順に面取り面6,7を加工した場合、ガラス基板1の表面2と砥石との交差角が小さくなり、加工時に振動が生じにくく、微小なクラックの発生が抑えられる。一方、交差角の大きい順に加工した場合、ガラス基板1の表面2と砥石の交差角が大きくなり、加工時の振動により、面取り量が安定しなかったり、甚だしい場合は微小なクラックが発生したりする。
【0085】
また、一段目の面取り面6と二段目の面取り面7は、#1000以上の砥粒の砥石で微細研磨することが好ましい。このようにすれば、ガラス基板の端縁領域に残存している微小なクラックを確実に除去することができる。ここで、本実施形態に係るガラス基板1と従来のガラス基板とを対比すれば、以下に示すような結論が得られる。
【0086】
従来では、ガラス基板の表面と端面とが交差する端縁の面取りを一段にしているため、微小クラックを除去し得る充分な研削量を確保するには、まず大きな砥粒(#が小さい砥粒)の砥石で研削し、この後、研削する砥石の砥粒の大きさを小さくして(#を大きくして)再度研削を行う必要があった。しかし、本実施形態では、ガラス基板1の表面2と端面3とが交差する端縁4に二段の面取り面6,7を形成しているため、ガラス基板1の端縁4の面取りの際、研削開始時(面取り面形成開始時)から、既述のように、#1000番以上の小さな砥粒の砥石で研削を行なうことができる。このようにすれば、面取り面の研削量を削減でき、研削時間の短縮を確実に図ることができる。さらに、一段目の面取り面6と二段目の面取り面7を形成する際の砥石の砥粒の大きさの差は、小さくすることが好ましい。面取り面6,7間で研磨する砥石の砥粒の大きさに差を設けると、面取り面6,7間で面粗さに起因する強度差が生じることになるため、ガラス基板1の強度不足に繋がるからである。
【0087】
ガラス原板は、所望のガラス組成となるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を加熱溶融し、脱泡した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。
【0088】
ガラス原板の成形方法として、種々の方法を採用することができ、例えば、オーバーフローダウンドロー法、フロート法、スロットダウンドロー法、リドロー法、ロールアウト法等の様々な成形方法を採用することができる。
【0089】
本実施形態にかかるFPD用ガラス基板1は、表面品位が良好なガラス基板1を製造する観点から、ダウンドロー法、特に、オーバーフローダウンドロー法で板状に成形することが好ましい。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス基板1の表面2となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されることにより、無研磨で表面品位が良好なガラス原板を成形できるからである。
【0090】
前記オーバーフローダウンドロー法は、溶融状態のガラスを耐熱性の樋状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形して板状のガラスを製造する方法である。樋状構造物の構造や材質は、ガラス基板の寸法や表面精度を所望の状態とし、TFT−LCD用ガラス基板等に使用できる品位を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方へ延伸成形を行うためにガラスに対してどのような方法で力を印加するものであってもよい。例えば、複数の対になった耐熱性ロールをガラスの端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。
【0091】
ガラス原板をレーザースクライブにより切断する場合、照射するレーザー光は、CO2レーザー、COレーザー、YAGレーザー等が使用可能である。
【0092】
ガラス基板1の端縁の面取りに際し、微小なガラス粉がガラス基板1の表面2に極力付着しないように、ガラス基板1の表面2中央部から端縁側に向けて、高圧の水流を噴射しながら、ガラス基板1の端縁を面取りすることが好ましい。このようにすれば、ガラス基板1の端縁の面取りに際し、ガラス基板1の表面2に微小なガラス粉が付着する確率を更に低下させることができる。
【0093】
図3は、本発明の第2実施形態に係るFPD用ガラス基板1Aを例示している。この第2実施形態に係るガラス基板1Aが上述の第1実施形態に係るガラス基板1と相違しているところは、ガラス基板1の端縁4に、三段の面取り面6,7,8を形成した点である。
【0094】
詳述すると、この第2実施形態かかるガラス基板1Aは、例えば、ガラス原板(図示省略)をレーザースクライブ或は熱応力割断することにより切断して、ガラス基板1Aの表面2と端面3とが交差する端縁4の一部または全部を面取りすることで面取り面を形成し、ガラス基板1Aの表面2と一段目の面取り面6との交差角θ1を5〜30°とし、ガラス基板1Aの表面2と二段目の面取り面7との交差角θ2を30〜60°とし、ガラス基板1Aの表面2と三段目の面取り面8との交差角θ3を60〜80°とし、θ1<θ2<θ3の関係を満たさせることで作製できる。その他のガラス基板1Aの構成や製造方法については、上述の第1実施形態の場合と同様であるため、その説明を省略する。
【0095】
本発明にかかるFPD用ガラス基板は、種々のFPDに適用可能であり、例えばLCD、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、無機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、各種電子放出素子を有する各種形式のフィールドエミッションディスプレイ(FED)、蛍光表示管(VFD)等に適用可能である。
【実施例1】
【0096】
以下、比較例との対比において、本発明の実施例を説明する。
【0097】
図4に本発明の実施例および比較例の条件を示す。この図4に示す試料No.1〜10は、次のようにして調製した。
【0098】
まず、ガラス原板を用意し、ガラス原板の表面にレーザースクライブを入れた。ガラス原板は、オーバーフローダウンドロー法で成形されたものを使用し、ガラス基板は、日本電気硝子株式会社製OA−10を用いた。なお、ガラス基板の表面および端面は、未研磨面とした。
【0099】
次に、刻設されたレーザースクライブに沿って、ガラス原板を割断し、550mm×650mm×0.7mm厚のガラス基板を得た。その後、面取り寸法、および、ガラス基板の表面と面取り面との交差角が図4に示す条件となるように、ガラス基板の端縁すべてに略平坦な面取り面を形成した。面取りに際し、#3000のレジンボンドダイヤモンド砥石(樹脂基材にダイヤモンド砥粒を分散させたもの)を用いた。このようにして、ガラス基板の端縁の面取りが二段(図1)である試料No.1〜4(実施例)、ガラス基板の端縁の面取りが三段(図3)である試料No.5〜8(実施例)、およびガラス基板の端縁の面取りが一段(図5)である試料No.9〜10(比較例)を作製した。
【0100】
以上の試料を用いて、面取り寸法、面取り時間、クラック特性およびガラス粉の付着を評価した。その結果を前記各試料の条件と共に図4の表に示した。面取り時間およびクラック特性は、同様の面取り寸法を有するガラス基板を10枚作製した上で、各10回測定し、その平均値を算出することで評価した。
【0101】
この場合、「面取り時間」は、面取り開始から面取り終了までの時間を測定することで評価した。また、「クラック特性」は、ガラス基板を載置し、ガラス基板の板厚方向からガラス基板の面取り面に3.0gの球状の金属塊を落下させて、欠けやクラックが発生する時の高さを測定することで評価した。なお、4.5cmの高さで金属塊を落下させた時、ガラス基板の面取り面にクラックや欠けが発生しなければ、FPDの製造工程で面取り面に起因したクラックや欠けが発生し難いと判断できる。
【0102】
「ガラス粉の付着」の評価は、ガラス基板の表面に10μm以上のガラス粉が付着していなかったものを「○」、ガラス基板に表面に10μm以上のガラス粉が付着していたものを「×」で評価した。
【0103】
図4に示す試験結果から明らかなように、実施例に係る試料No.1〜8は、二段以上で面取りしていることから面取り時間が1.6秒以下であり、短時間で面取りすることができた。また、試料No.1〜8は、クラック特性の評価が5cm以上であり、FPDの製造工程でガラス基板にクラックや欠けが発生し難いと判断することができる。さらに、試料No.1〜8は、面取り面が細かかったため、ガラス基板の表面にガラス粉が付着していなかった。
【0104】
一方、図4に示す試験結果から明らかなように、比較例に係るNo.9は、ガラス基板の表面にガラス粉の付着はみられなかったものの、板厚方向における面取り面が一段であり、その寸法が10μmであるため、クラック特性が不良であった。また、比較例に係る試料No.10は、板厚方向における面取り面が一段であり、ガラス基板1の表面と面取り面との交差角θ1が45°と大きく、これに起因して面取り面の表面方向寸法が100μmと長くなっているため、面取り時間が不当に長くなったことに加えて、ガラス基板の表面にガラス粉の付着が認められ、クラック特性も低下した。
【0105】
1 フラットパネルディスプレイ(FPD)用ガラス基板
2 ガラス基板の表面
3 ガラス基板の端面
4 ガラス基板の表面と端面が交差する端縁
6 一段目の面取り面
7 二段目の面取り面
8 三段目の面取り面
θ1 ガラス基板の表面と一段目の面取り面との交差角
θ2 ガラス基板の表面と二段目の面取り面との交差角
θ3 ガラス基板の表面と三段目の面取り面との交差角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面と端面とが交差する端縁に面取り面が形成されたガラス基板において、
前記端縁に、前記表面に一端が接する一段目の面取り面と、該一段目の面取り面に一端が接し且つ前記端面に他端が接する二段目の面取り面とが形成されると共に、前記表面と前記一段目の面取り面との交差角θ1が5〜40°で且つ前記表面と前記二段目の面取り面との交差角θ2が30〜70°であって、θ1<θ2の関係を満たすことを特徴とするガラス基板。
【請求項2】
表面と端面とが交差する端縁に面取り面が形成されたガラス基板において、
前記端縁に、前記表面に一端が接する一段目の面取り面と、該一段目の面取り面に一端が接する二段目の面取り面と、該二段目の面取り面に一端が接し且つ前記端面に他端が接する三段目の面取り面とが形成されると共に、前記表面と前記一段目の面取り面との交差角θ1が5〜30°で且つ前記表面と前記二段目の面取り面との交差角θ2が30〜60°で且つ前記表面と前記三段目の面取り面との交差角θ3が50〜80°であって、θ1<θ2<θ3の関係を満たすことを特徴とするガラス基板。
【請求項3】
前記端面は、レーザースクライブによる切断面であることを特徴とする請求項1または2に記載のガラス基板。
【請求項4】
前記端面は、熱応力割断による切断面であることを特徴とする請求項1または2に記載のガラス基板。
【請求項5】
全ての段における前記面取り面の算術平均粗さRaが、0.2μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガラス基板。
【請求項6】
前記端面は、未研磨面であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のガラス基板。
【請求項7】
オーバーフローダウンドロー法、スロットダウンドロー法またはリドロー法で成形され、前記表面が未研磨面であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のガラス基板。
【請求項8】
フラットパネルディスプレイ用であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のガラス基板。
【請求項9】
表面と端面とが交差する端縁に面取り面が形成されたガラス基板において、
前記端縁に、前記表面に一端が接する一段目の面取り面と、該一段目の面取り面に一端が接し且つ前記端面に他端が接する二段目の面取り面とが形成されていることを特徴とするガラス基板。
【請求項10】
表面と端面とが交差する端縁に面取り面が形成されたガラス基板において、
前記端縁に、前記表面に一端が接する一段目の面取り面と、該一段目の面取り面に一端が接する二段目の面取り面と、該二段目の面取り面に一端が接し且つ前記端面に他端が接する三段目の面取り面とが形成されていることを特徴とするガラス基板。
【請求項11】
表面と端面とが交差する端縁に面取り面が形成されたガラス基板の製造方法において、
前記端縁に、前記表面に一端が接する一段目の面取り面を形成する第一面取り工程と、前記一段目の面取り面に一端が接し且つ前記端面に他端が接する二段目の面取り面を形成する第二面取り工程とを有し、これら両工程の実行により、前記表面と前記一段目の面取り面との交差角θ1を5〜40°とし、前記表面と前記二段目の面取り面との交差角θ2を30〜70°とし、θ1<θ2の関係を充足することを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項12】
表面と端面とが交差する端縁に面取り面が形成されたガラス基板の製造方法において、
前記端縁に、前記表面に一端が接する一段目の面取り面を形成する第一面取り工程と、前記一段目の面取り面に一端が接する二段目の面取り面を形成する第二面取り工程と、前記二段目の面取り面に一端が接し且つ前記端面に他端が接する三段目の面取り面を形成する第三面取り工程とを有し、これら三つの工程の実行により、前記表面と前記一段目の面取り面との交差角θ1を5〜30°とし、前記表面と前記二段目の面取り面との交差角θ2を30〜60°とし、前記表面と前記三段目の面取り面との交差角θ3を50〜80°とし、θ1<θ2<θ3の関係を充足することを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項13】
全ての段における前記面取り面を、#1000番以上の砥粒の砥石で形成することを特徴とする請求項11または12に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項14】
前記端面は、ガラス原板をレーザースクライブにより切断することによって形成されることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。
【請求項15】
前記端面は、ガラス原板を熱応力割断することによって形成されることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−111661(P2012−111661A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261588(P2010−261588)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】