説明

サーボ制御装置および画像形成装置、並びにサーボ制御プログラム

【課題】サーボ機構のジャム判定において、制御対象を駆動する駆動力に対して閾値を設けたジャム判定を実現すること。
【解決手段】駆動体の速度を測定する速度測定部と、前記駆動体を駆動する目標速度を記憶する目標速度保持部303と、電圧制御またはPWM制御を実行する際に、速度測定部により測定された速度と、目標速度保持部に記憶された目標速度との差に応じてDCモータを駆動制御する駆動制御部と、駆動制御部によりDCモータを駆動させた場合に、前記駆動体と異物との干渉によりモータトルクが異常値になったことを検出するモータトルク異常検出部301と、を備え、モータトルク異常検出部301は、DCモータの回転数と電圧またはPWM制御Duty比から算出した値によってモータトルクが異常値であることを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボ制御装置および画像形成装置、並びにサーボ制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録装置などの画像形成装置において、機械的な部品、ユニットなどのばらつき、経時変化、周囲の環境等によるモータ出力変動分の影響を加味しながら、実用的に有用なジャム判定を行う目的で、キャリッジの等速移動中のモータ出力に履歴を指標として、平均値、最頻値、最大・最小値の差を元に基準値を定め、この基準値からさらに許容範囲幅を設定して、搬送不良の判定を行うという方法が知られている。
【0003】
また、特別な外部回路を必要とせずに、DCモータを過電流から保護する目的で、DCモータの速度と速度検出時のモータへの入力電圧とから、該DCモータに流れる電流値を推定し、あらかじめ設定された電流上限値よりも大きい場合には電流上限値以下となるように入力電圧を制御する方法が考えられ既に知られている。また、モータを一定加速度で短時間に変動させるため、加速度A、モータ回転位置θとして、サーボ制御の目標速度値Vを、V=√(2Aθ)で算出する方法が知られている。
【0004】
しかし、従来のジャム判定方法では、PWM(Pulse Width Modulation)のDuty比に対して一定の閾値を設けることで、ジャム検知を行っているが、PWMのDuty比はモータ出力トルクに比例する値ではないので、Duty比に対して一定の閾値を設けても、制御対象を駆動する駆動力に対して閾値を設けているとはいえなかった。
【0005】
また、従来のDCモータを過電流から保護する方法では、動作異常時の過電流を防ぐことはできるが、異常を検知して駆動を停止することはしていないので、機器の保護という点では不十分であった。
【0006】
また、従来の加速方法では、目標速度値に追従するようにサーボ制御を行うことで一定加速度での加速を行うため、サーボ機構のメカ剛性が低い場合などに、目標速度値に追従しきれず、加速挙動が振動的になってしまう場合があるという問題があった。
【0007】
このような技術背景から、装置を構成する各ユニットや部品の機械的な精度のばらつき、経時変化、周囲の環境等によるモータ出力変動分の影響を加味しながら、実用的に有用なジャム判定を行う目的で、キャリッジの等速移動中のモータ出力に履歴を指標として、平均値、最頻値、最大・最小値の差を元に基準値を定め、この基準値からさらに許容範囲幅を設定して、搬送不良の判定を行うという方法が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0008】
また、DCモータによるサーボ制御で、電流ではなく、速度と電圧またはPWMのDUTY比によってモータトルクを算出し、ジャム検知やトルク制限を行うものとして、特別な外部回路を必要とせずに、DCモータを過電流から保護する目的で、DCモータの速度と速度検出時のモータへの入力電圧とから、該DCモータに流れる電流値を推定し、あらかじめ設定された電流上限値よりも大きい場合には電流上限値以下となるように入力電圧を制御する方法が開示されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0009】
また、モータの回転速度とPWM信号とに基づいて、電流値を求め、この電流値からトルクを求めることで等加速度で加速制御を行うDCモータ制御方法として、モータを一定加速度で短時間に変動させる目的で、加速度A、モータ回転位置θとして、サーボ制御の目標速度値Vを、V=√(2Aθ)で算出する方法が開示されている(たとえば、特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記に示されるような従来の技術にあっては、つぎのような問題点があった。すなわち、特許文献1に開示されている技術では、Duty比に対して一定の閾値を設けても、制御対象を駆動する駆動力に対して閾値を設けているとはいえないという問題は解消されていない。また、特許文献2に開示されている技術では、動作異常時の過電流を防ぐことはできるものの、異常を検知して駆動を停止することはしていないので、機器の保護という点では不十分であった。また、特許文献3に開示されている技術では、サーボ機構の機械的な剛性が低い場合などに、目標速度値に追従しきれず、加速挙動が振動的になってしまう場合が生じる。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、サーボ機構のジャム判定において、制御対象を駆動する駆動力に対して閾値を設けたジャム判定を実現することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、動作異常時の過電流を防ぐだけではなく、異常を検知して駆動を停止することで機器を保護することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、サーボ機構の機械的な剛性が低い場合であっても、加速挙動が振動的になることがない加速方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、駆動モータにより駆動体を駆動制御するサーボ制御装置であって、前記駆動体の速度を測定する速度測定手段と、前記駆動体を駆動する目標速度を記憶する目標速度記憶手段と、電圧制御またはPWM制御を実行する際に、前記速度測定手段により測定された速度と、前記目標速度記憶手段に記憶された目標速度との差に応じて前記駆動モータを駆動制御する駆動制御手段と、前記駆動制御手段により前記駆動モータを駆動させた場合に、前記駆動体と異物との干渉によりモータトルクが異常値になったことを検出するモータトルク異常検出手段と、を備え、前記モータトルク異常検出手段は、前記駆動モータの回転数と電圧またはPWM制御Duty比から算出した値によってモータトルクが異常値であることを検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、ジャム判定において、制御対象を駆動する駆動力に対して閾値を設けているので、外部から異常な力がかかったことを検知してジャム検知をすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この実施の形態にかかるサーボ制御装置を搭載したインクジェット記録装置の構成を示す説明図である。
【図2】図2は、図1におけるインクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、この実施の形態にかかるサーボ制御装置を搭載したインクジェット記録装置の機能構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、一般的なサーボ制御の概要を示す説明図である。
【図5】図5は、通常のキャリッジ移動時の速度とモータ出力の状態について示す説明図である。
【図6】図6は、モータ出力のばらつきによるジャム判定方法例(1)を示す説明図である。
【図7】図7は、モータ出力のばらつきによるジャム判定方法例(2)を示す説明図である。
【図8】図8は、モータ出力のばらつきによるジャム判定方法例(3)を示す説明図である。
【図9】図9は、電圧をジャム判定基準にした場合の各異物接触パターンを示す説明図である。
【図10】図10は、電圧をジャム判定基準にした場合の各異物接触パターンでのジャム検知時のモータトルクを示す説明図である。
【図11】図11は、トルクをジャム判定基準にした場合の各異物接触パターンについて示す説明図である。
【図12】図12は、トルクをジャム判定基準にした場合の各異物接触パターンでのジャム検知時のモータトルクを示す説明図である。
【図13】図13は、トルクをジャム判定基準にした場合のジャム判定方法を示すフローチャートである。
【図14】図14は、サーボ制御で速度目標値を等加速度になるように設定して加算する場合の挙動を示す説明図である。
【図15】図15は、サーボ機構の摺動負荷を示す説明図である。
【図16】図16は、温度、位置、回転速度によって変動する摺動負荷テーブル例を示す図表である。
【図17】図17は、回転速度一定で電圧を増加させたときのトルク増加分の関係を示す説明図である。
【図18】図18は、目標加速度と実際の加速度にずれがある例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかるサーボ制御装置および画像形成装置、並びにサーボ制御プログラムの一実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
(実施の形態)
本発明は、DCサーボ制御装置におけるジャム検出および加速制御の処理に際して、以下の特徴を有する。すなわち、サーボ機構のジャム判定において、モータの回転速度とPWM信号からモータトルクを求め、このトルクを基準としてジャム判定を行うことで、制御対象を駆動する駆動力の異常を検出するジャム判定ができるようになることが特徴になっている。また、現在の速度で等速駆動する際に発生する摺動負荷トルクと、慣性モーメントIの制御対象を所定の角加速度αで加速させるために必要なトルクTa=I×αを、加算したトルクを求め、このトルクとモータの回転速度から求めたPWM信号をモータ出力値とすることで、所望の加速度で加速動作を行うことが特徴になっている。本発明の特徴について、以下の図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
図1は、この実施の形態にかかるサーボ制御装置を搭載したインクジェット記録装置の構成を示す説明図である。このインクジェット記録装置は、図示しない左右の側板に横架したガイドロット104でキャリッジ100を保持し、主走査モータ105によって、駆動プーリ106と従動プーリ107間にかけ渡したタイミングベルト102を介して主走査方向に移動走査する。
【0020】
このキャリッジ100には、たとえばイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出する4個の液吐出ヘッドから成る記録ヘッド118を複数のインク吐出口(ノズル)を形成したノズル面のノズル列を主走査方向と直交する方向(副走査方向)に配列し、インク吐出口方向を下方に向けて装着している。なお、ここでは独立した液滴吐出ヘッドを用いているが、各色の記録液の液滴を吐出する複数のノズル列を有する1または複数の吐出ヘッドを用いる構成とすることもできる。また、色の数および配列順序はこれに限るものではない。
【0021】
記録ヘッド118を構成するインクジェットヘッドとしては、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなどを、液滴を吐出するための圧力を発生する圧力発生手段として備えたものなどを使用できる。
【0022】
記録ヘッド118上の特定のノズルから長時間インクが吐出されない場合に、ノズル内でインクが乾燥、固着することで、吐出不良の原因になることがある。これに対して、空吐出口119を有する空吐出受け120を備え、ここに所定のタイミングで全ノズルから吐出を行うことで、ノズルの固着を防ぐ。
【0023】
また、キャリッジ100には、スリットを形成したエンコーダスケール103を主走査方向に沿って設け、キャリッジ100にはエンコーダスケール103のスリットを検出するエンコーダセンサ117を設け、これらによって、キャリッジ100の主走査方向位置を検知するためのリニアエンコーダを構成している。
【0024】
一方、記録用紙108を搬送するために、記録用紙108を静電吸着して記録ヘッド118に対向する位置で搬送するための搬送手段である搬送ベルト101を備えている。この搬送ベルト101は、副走査モータ111によって、搬送駆動プーリ112と搬送ローラプーリ113間に渡したタイミングベルト114を介して搬送ローラ109を回転駆動することで、駆動している。また、図1に示す符号115はホイール、符号116はホイールエンコーダセンサであり、搬送ベルト101の搬送機構のホイールエンコーダを構成している。
【0025】
この搬送ベルト101は、無端状ベルトであり、搬送ローラ109とテンションローラ110との間に掛け渡されて、ベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成し、周回移動しながら不図示の帯電ローラによって帯電(電荷付与)される。この搬送ベルト101としては、1層構造のベルトでも良く、または複層(2層以上の)構造のベルトでもよい。1層構造の搬送ベルトの場合には、用紙や帯電ローラに接触するので、層全体を絶縁材料で形成している。また、複層構造の搬送ベルトの場合には、用紙や帯電ローラに接触する側は絶縁層で形成し、用紙や帯電ローラと接触しない側は導電層で形成することが好ましい。
【0026】
図2は、図1におけるインクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図である。このメイン制御部200は、この装置全体の制御を司る。メイン制御部200は、用紙の搬送動作および記録ヘッド118の移動動作に関する制御を司る手段を兼ねたCPU201と、CPU201が実行するプログラム、その他の固定データを格納するROM202と、画像データ等を一時格納するRAM203と、装置の電源が遮断されている間もデータを保持するための書き換え可能なNVRAM(不揮発性メモリ)204と、画像データに対する各種信号処理、並び替え等を行う画像処理やその他装置全体を制御するための入出力信号を処理するASIC(Application Specific integrated Circuit)205と、を備えている。
【0027】
また、このメイン制御部200は、ホストコンピュータ(不図示)側のプリンタドライバ220とのデータ、信号の送受を行うためのホストI/F206と、記録ヘッド118を駆動するための駆動波形を生成するとともに、記録ヘッド118の圧力発生手段を選択駆動させる画像データおよびそれに伴う各種データをヘッドドライバ215に出力する印刷制御部210と、主走査モータ105を駆動するための主走査モータ駆動部211と、副走査モータ111を駆動するための副走査モータ駆動部213と、帯電ローラ216にACバイアスを供給するACバイアス供給部212と、リニアエンコーダ217、ホイールエンコーダ218からの検出パルス、およびその他の各種センサからの検知信号を入力するためのI/O207などを備えている。また、このメイン制御部200には、この装置に必要な情報の入力および表示を行うための操作パネル230が接続されている。
【0028】
ここで、メイン制御部200は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置、イメージスキャナなどの画像読み取り装置、デジタルカメラなどの撮像装置など、ホストコンピュータのプリンタドライバ220が生成した印刷データ等を通信ケーブルあるいは通信ネットワークを介してホストI/F206で受信する。
【0029】
そして、メイン制御部200のCPU201は、ホストI/F206に含まれる受信バッファ内の印刷データを読み出して解析し、ASIC205にて必要な画像処理、データの並び替え処理等を行って印刷制御部210に転送し、印刷制御部210から所要のタイミングでヘッドドライバ215に画像データや駆動波形を出力する。なお、画像出力するためのドットパターンデータの生成は、たとえばROM202にフォントデータを格納して行っても良いし、ホストコンピュータ側のプリンタドライバ220で画像データをビットマップデータに展開してこの装置に転送するようにしてもよい。ここでは、プリンタドライバ220で行うようにしている。
【0030】
印刷制御部210の駆動波形生成部(不図示)は、ROM202に格納されてCPU201で読み出される駆動パルスのパターンデータをD/A変換するD/A変換器および増幅器(いずれも不図示)等で構成され、1つの駆動パルスあるいは複数の駆動パルスで構成される駆動波形をヘッドドライバ215に対して出力する。
【0031】
ヘッドドライバ215は、シリアルに入力される記録ヘッド118の1行分に相当する画像データ(ドットパターンデータ)に基づいて印刷制御部210の駆動波形生成部から与えられる駆動波形を構成する駆動パルスを選択的に記録ヘッド118の圧力発生手段に対して印加することで記録ヘッド118を駆動する。なお、このヘッドドライバ215は、たとえば、クロック信号および画像データであるシリアルデータを入力するシフトレジスタと、シフトレジスタのレジスト値をラッチ信号でラッチするラッチ回路と、ラッチ回路の出力値をレベル変化するレベル変換回路(レベルシフタ)と、このレベルシフタでオン/オフが制御されるアナログスイッチアレイ(スイッチ手段)等を含み、アナログスイッチアレイのオン/オフを制御することで駆動波形に含まれる所要の駆動パルスを選択的に記録ヘッド118の圧力発生手段に印加する。
【0032】
図3は、この実施の形態にかかるサーボ制御装置を搭載したインクジェット記録装置の機能構成を示すブロック図である。この図3において、主走査モータ制御部300、副走査モータ制御部320は、プログラムにそれぞれ従うことにより、モータトルク異常検出部301、加速度測定部302、目標速度保持部303、駆動機構負荷保持部304、駆動機構負荷電圧保持部305、加速必要トルク算出部306、加速必要電圧算出部307、加速度差分算出部308、加速必要電圧補正部309、モータ出力算出部311の各機能を実現するものである。
【0033】
モータトルク異常検出手段としてのモータトルク異常検出部301は、モータの回転数と電圧またはPWM制御Duty比から算出した値によってモータトルクが異常値であることを検出する。速度測定手段として機能する加速度測定部302は、キャリッジ100、搬送ベルト101それぞれの駆動体の速度を測定する。キャリッジ100の速度測定はリニアエンコーダ217によって測定する。搬送ベルト101の速度測定はホイールエンコーダ218によって測定する。
【0034】
また、モータトルク異常検出部301は、駆動体と異物との干渉によりモータトルクが異常値になったことを検出する。目標速度保持手段として機能する目標速度保持部303は、それぞれの駆動体を駆動する目標速度を保持する。
【0035】
主走査モータ制御部300、副走査モータ制御部320は、加速度測定部302により求まる速度と、目標速度保持部303により求まる目標速度との差に応じてそれぞれの駆動体への駆動制御値を算出する。この駆動体制御手段としての主走査モータ制御部300、副走査モータ制御部320は、電圧制御またはPWM制御を行う。
【0036】
駆動機構負荷保持手段として機能する駆動機構負荷保持部304は、駆動機構の負荷を保持する。加速必要トルク算出手段として機能する加速必要トルク算出部306は、それぞれの駆動体を加速または減速させる際、駆動機構負荷保持部304により求まる現在の速度で等速駆動するために必要な負荷に抗するトルク値と、駆動機構の慣性モーメントIを加速度αで加速するために必要なトルクTa=I×αとを加算したトルクを算出する。モータ出力算出手段として機能するモータ出力算出部311は、加速または減速時には、加速必要トルク算出部306により求まる必要トルクと現在の回転速度から求まる電圧またはPWM制御Duty比を、モータ出力値とする。
【0037】
また、駆動機構負荷電圧保持手段として機能する駆動機構負荷電圧保持部305は、駆動機構の負荷を電圧の単位で保持する。加速必要電圧算出手段として機能する加速必要電圧算出部307は、所望の加速度で加速するために必要なトルクを発生させるために必要な電圧値を求める。ここでモータ出力算出部311は、加速または減速時には、駆動機構負荷電圧保持手段により求まる負荷電圧と、加速必要電圧算出部307により求まる加速必要電圧とを加算することでモータ出力値とする。
【0038】
また、加速度測定部302は加速または減速実施後、実際の加速度を測定する。加速度差分算出部308は、目標加速度と、加速度測定部302により求まる実際の加速度と、の差分を求める。加速必要電圧補正手段として機能する加速必要電圧補正部308は、加速度差分算出部308によりもとまる加速度差分によって、加速必要電圧算出部307により求まる加速必要電圧を補正する。
【0039】
また、摺動負荷保持部310は、書込込み・読み出しが可能なHDDあるいは不揮発性メモリなどの記憶装置を用い、たとえば、後述する摺動負荷に関するデータ(たとえば図16参照)を保持しておく。この摺動負荷保持部310は、たとえば、後述する図16に示すような温度、回転速度、位置に対応した摺動負荷(PWM制御Duty比換算)のテーブルを、主走査モータ制御部300や副走査モータ制御部320が参照できるような方法で実現できる。また、実際のサーボ機構の動作中に、各条件での等速時電圧を算出して、この値で式やテーブルを補正してもよい。
【0040】
以下、上述した制御系におけるサーボ制御例について具体的に説明する。DCモータの速度サーボ制御には、PI(Proportional Integral:比例・積分)制御が使用される。図4は、サーボ制御の概要を示す説明図である。PI制御では、目標速度vel_tar、現在の速度vel_nowとしたとき、モータ出力Vを、式(1)のように求める。
V=−Pc×(vel_now−vel_tar)−Ic×Σ(vel_now−vel_tar)・・・(1)
Pc:比例定数
Ic:積分定数
vel_now:現在の速度
vel_tar:目標速度
【0041】
式(1)の右辺第一項の部分は比例制御と呼ばれるもので、ある時刻tにおいて、目標速度と現在速度との差分を補正するため、目標速度よりも速度が遅ければ速度を速めるためにモータ出力を増加させ、速ければ反対にモータ出力を減少させる効果がある。
【0042】
また、式(1)の右辺第二項の部分は積分制御と呼ばれるもので、ある時刻tまでの目標速度との差分の積分値に応じてモータ出力を増減させるものである。これは、キャリッジ100を目標速度で等速駆動させるには所定のモータ出力を保つ必要があるが、比例制御だけでは、現在速度=目標速度になった時点でモータ出力がゼロになってしまい、目標速度が保てなくなるためで、積分値が残ることで等速駆動に必要なモータ出力分を保持する役割がある。
【0043】
図5は、通常のキャリッジ移動時の速度とモータ出力の状態について示す説明図である。図5に示すように、前記目標速度を、加速、等速、減速の台形型に設定して制御することで、所望の速度で所望の位置まで駆動させている。
【0044】
[制御例1]
サーボ制御装置において、制御対象が移動中に他の物体との干渉(ジャム)が発生した場合、移動を継続するためにモータ出力を増加させることで、制御対象や干渉した物体を破損してしまう恐れがある。これを防ぐため、ジャムを検知した場合にサーボ制御を停止する処理が行われる。
【0045】
図6は、モータ出力のばらつきによるジャム判定方法例を示す説明図である。ジャム判定の方法としては、たとえば図6に示すように、等速移動時のモータ出力値がジャム判定閾値を超えた場合に、出力異常としてジャム判定する方法が知られている。
【0046】
また、たとえば、特開2009−276543号公報には、モータ出力分布のバラツキが所定範囲よりも広い場合に、ジャム判定する技術が開示されている。特開2009−276543号公報におけるモータ出力値は、PWM制御のDuty比や電圧値、電流値のいずれでもよいとされている。ここで、ジャムを検知する目的は、異物との干渉により異常なトルクがかかり、制御対象や異物を破損することを防ぐためである。
【0047】
DCモータにおいて、電流値はトルクと比例する値であるため、電流値を基準としてジャム判定することは、前記の目的に適合しているといえる。しかし、サーボ制御手段が電流値を測定するためには、部品の増加によるコストアップを伴う。また、PWM制御のDuty比や電圧値を基準値とする場合、これらの値はモータトルクと比例する値ではないため、上記目的に必ずしも適合しているとはいえない。
【0048】
ここで、DCモータにおける、トルクTと回転数ωと電圧Vの関係について述べる。DCモータに電圧Vを印加し、回転数ωで回転しているとき、逆起電力定数をKe、直流内部抵抗をRとすると、モータに流れる電流Imは、式(2)のようになる。
Im=(V−Ke×ω)/R・・・(2)
Im:モータ電流
V:モータ印加電圧
ω:モータ回転数
Ke:逆起電力定数
R:モータ内部抵抗
【0049】
モータトルクTは、電流とトルク定数Ktを乗算した値になるので、式(3)で求められる。
T=Im×Kt
=−(KeKt/R)ω+(Kt/R)V・・・(3)
Kt:トルク定数
【0050】
式(3)の関係を、図8に示す。DCモータの回転速度ωとトルクTの関係は、傾き負の直線となり、そのω切片は印加電圧Vに比例する。
【0051】
図6に示す方法で、電圧(PWM制御Duty比)を基準としてジャム判定を行う場合に、異物との接触の仕方が異なる場合について示す。図9(a)は、異物との接触による反力が比較的大きく、短時間で減速するパターンである。図9(b)は比較的弱い力で長時間接触しているようなパターンで、たとえばキャリッジ100が用紙を擦りながら駆動しているような状態である。
【0052】
図10は、電圧をジャム判定基準にした場合の各異物接触パターンでのジャム検知時のモータトルクを示す説明図である。この図10において、図9(a)に示すパターンでは、モータ回転速度ωfix/印加電圧Vfixの状態から、回転速度ωjam1/印加電圧Vjamの状態になるので、モータトルクの増加はTjam1−Tfixになる。また、この図10において、図9(b)に示すパターンでは、モータ回転速度ωfix/印加電圧Vfixの状態から、回転速度ωjam2/印加電圧Vjamの状態になるので、モータトルクの増加はTjam2−Tfixになる。
【0053】
このように、同じ電圧を基準としてジャム判定を行っている場合には、ジャムを検知したときのモータトルクは異なってしまうことがあるので、前記ジャム検知の目的である異常トルクの検出に対して、必ずしも適合しているとはいえない。
【0054】
図11は、トルクをジャム判定基準にした場合の各異物接触パターンについて示す説明図である。また、図11の各異物接触パターンにおける回転速度、印加電圧、モータトルクの関係を図12に示す。上述した不具合を解決するため、この実施の形態では、ジャム判定基準に電圧(PWM制御Duty比)ではなく、モータ回転数と電圧(PWM制御Duty比)から式(3)により換算したモータトルクを使用することで、トルクの異常によってジャム判定できるようになるので、異物との干渉により異常なトルクがかかり、制御対象や異物を破損することを防ぐためというジャム検知の目的に適合したジャム判定を行うことが可能になる。
【0055】
モータトルクの算出およびジャム判定は、キャリッジ100の駆動については主走査モータ制御部300が、搬送ベルト101の搬送機構の駆動については副走査モータ制御部320が行う。
【0056】
つぎに、トルクをジャム判定基準にしたジャム判定方法についてのフローチャートを図13に示す。この動作は主走査モータ制御部300または副走査モータ制御部320(図3参照)によって統括的に実行される。主走査モータ制御部300または副走査モータ制御部320がモータ出力値を定期的に算出する際、まずリニアエンコーダ217、ホイールエンコーダ218により主走査モータ105、副走査モータ111の各回転数を取得する(ステップS1)。続いて、このモータ回転数から、式(1)に示したPI制御によりモータ出力値(PWM制御Duty比)を算出する(ステップS2)。さらに、このモータ回転数とモータ出力値から式(3)によりモータトルクを算出する(ステップS3)。
【0057】
続いて、上記算出したモータトルクを、主走査モータ制御部300または副走査モータ制御部320が保持するジャム判定トルク閾値と比較判断する(ステップS4)。ここで、モータトルクが閾値を下回っていれば(判断No)、ステップS2で算出したモータ出力値を主走査モータ105または副走査モータ111に出力して(ステップS5)、処理を終える。一方、ステップS4において、モータトルクが閾値以上である場合(判断Yes)、ジャムと判定してモータ駆動を停止し(ステップS6)、ジャム検知によるエラー処理を実施して(ステップS7)、処理を終える。
【0058】
なお、図13のフローチャートは、図6に示したジャム判定方法について示しているが、図7の方法や、その他従来技術に記載された方法の判定基準となるモータ出力値として、式(3)によるモータトルク換算値を使用してもよい。
【0059】
[制御例2]
図14は、サーボ制御で速度目標値を等加速度になるように設定して加算する場合の挙動を示す説明図である。DCサーボ機構で等加速度での加速、減速を行う場合、図5の説明で記載したように、サーボ制御の目標速度値を等加速度になるように設定し、この目標速度値に追従するようにPI制御などによってサーボ制御を行う。しかし、サーボ機構のメカ剛性が不十分である場合などに、目標速度値に追従しきれず、加速、減速挙動が振動的になってしまうことがある。加速、減速挙動が振動的になると、騒音の発生や、インクジェットプリンタであればインク滴の吐出位置ずれによる画像障害が発生することもある。
【0060】
図15は、サーボ機構の摺動負荷を示す説明図である。キャリッジ100が等速で駆動する際、移動方向と反対にかかる摺動負荷が発生する。摺動負荷は、メカ機構によってさまざまな特性を持つが、負荷が速度に比例することが多い。ここでは速度に比例するものとして説明を行う。
【0061】
図16は、温度、位置、回転速度によって変動する摺動負荷テーブル例を示す図表である。摺動負荷は、事前に測定した結果を元に、回転速度に対する負荷トルクの摺動負荷保持部310(図3参照)や、回転速度とトルクの式として保持しておく。たとえば以下のように求める。図16の例では、温度0℃未満、温度0℃〜10℃、温度10℃〜20℃、温度20℃以上の各温度条件について示す。
【0062】
サーボ機構上のDCモータに電圧V0,V1,V2,V3を印加して等速になるまで待ち、そのときの回転速度を測定し、ω0,ω1,ω2,ω3とする。これを式(3)の回転速度ωとトルクTの関係式上にプロットして、近似直線を引く。このようにして求めた摺動負荷を、Tf(ω)とする。また、慣性モーメントIを角加速度αで加速するために必要なトルクTaは、式(4)で求められる。
Ta=I×α・・・(4)
I:モータ軸に対する機構全体(キャリッジ100やプーリなど)の合計慣性モーメント
α:角加速度
よってキャリッジ100が等加速度運動を行うために必要なトルクTは、式(5)で求められる。
T=Tf(ω)+I×α・・・(5)
Tf(ω):回転速度ωに対する摺動負荷
また、式(3)を変形して、回転速度ωとトルクTから、式(6)によって、電圧Vを求めることができる。
V=(R/Kt)T+Ke×ω・・・(6)
【0063】
以上より、本発明では、サーボ機構を加速、減速させる際には、PI制御などのサーボ制御によって加速、減速状態に設定した目標速度値に追従させるのではなく、式(5)によって求めたモータトルクを、式(6)によって電圧に換算した値をモータ出力値とすることで、挙動が振動的になることなく加速、減速を行うことが可能となる。なお、モータトルクの算出およびモータ出力電圧の算出は、キャリッジ100の駆動については主走査モータ制御部300が、搬送ベルト101の搬送機構の駆動については副走査モータ制御部320が行う。
【0064】
なお、この摺動負荷は、上記の例で示した回転速度ωの一次関数でない場合や、位置、温度など、他のパラメータによっても変動する値であっても、同様の効果を得ることができる。また式やテーブルを、回転速度とトルクではなく、回転速度と電圧(PWM制御Duty比)の関係として保持してもかまわない。
【0065】
これはたとえば、図16に示すような温度、回転速度、位置に対応した摺動負荷(PWM制御Duty比換算)のテーブルを用意しておき、主走査モータ制御部300や副走査モータ制御部320が参照できるような方法で実現できる。また、実際のサーボ機構の動作中に、各条件での等速時電圧を算出して、この値で式やテーブルを補正してもよい。
【0066】
[制御例3]
図17は、回転速度一定で電圧を増加させたときのトルク増加分の関係を示す説明図である。インクジェット記録装置でサーボ制御を行うようなCPU201は、一般に性能がそれほど高くないものが用いられる。式(5)によって求めたモータトルクを、式(6)によって電圧に換算した値をモータ出力値とすることで、挙動が振動的になることなく加速、減速を行う方法について、式(5)や式(6)のような計算をCPU201で行うことは、計算負荷が大きい。
【0067】
ここで、式(3)の関係より、回転速度ωが一定であるとき、トルクTと電圧Vは比例関係になる。回転速度ω0、電圧V0でモータトルクT0であるとき、回転速度はω0のままで、電圧をV0+ΔVに増加したとき、モータトルクがT0+ΔTに増加するものとすると、以下の式が成り立つ。
T0=−(KeKt/R)ω0+(Kt/R)V0
T0+ΔT=−(KeKt/R)ω0+(Kt/R)×(V0+ΔV)
辺々差をとって、
ΔT=(Kt/R)×ΔV
⇔ΔV=(R/Kt)×ΔT・・・(7)
【0068】
よって、回転速度が一定であれば、回転速度の値に限らず、モータトルクの増加分と電圧の増加分は式(7)の関係で比例することがわかる。このことから、式(4)のTaだけモータトルクを増加させたい場合には、式(8)により求まる電圧Vaだけ増加させればよいことになる。
Va=(R/Kt)×Ta
=(R/Kt)×I×α・・・(8)
【0069】
また、図16の説明でも記載したとおり、摺動負荷は電圧(PWM制御のDuty比)で保持してもよいので、電圧単位の摺動負荷をVf(ω)とする。このとき、モータ出力電圧Vを、式(9)で求めることによっても、前記式(5)、式(6)を計算することでモータ出力値を決める方法と同様の効果が得られる。ここで、式(9)のVaの値は、式(8)により、事前に求めておくことで、サーボ制御中には式(9)の加算のみ行えばよいことになる。
V=Vf(ω)+Va・・・(9)
【0070】
以上より、本発明では、式(9)によってモータ出力電圧を求めることで、複雑な計算を行うことなく、挙動が振動的にならないように加速、減速を行うことが可能となる。なお、Vf(ω)やVaの値の保持およびモータ出力電圧の算出は、キャリッジ100の駆動については主走査モータ制御部300が、搬送ベルト101の搬送機構の駆動については副走査モータ制御部320が行う。
【0071】
[制御例4]
図18は、目標加速度と実際の加速度にずれがある例を示す説明図である。式(9)の方法で加速を行う場合、DCモータの内部抵抗R、トルク定数Kt、慣性モーメントIのバラツキにより、所望の加速度αとは異なる加速度になる可能性がある。たとえば式(8)によって加速度α0として算出したVaを使用して、式(9)により加速を行ったとき、実際には加速度α0×0.8の加速度でしか駆動しなかったとすると、想定した定数(R/Kt×I)が、実際のモータ、メカの定数の0.8倍の値でしかなかったため、Vaが実際に必要な電圧の0.8倍になってしまった、と考えられる。よって次回の加速を実施する前に、式(8)のα=α0/0.8としてVaを算出しなおすことで、実際の加速度をα0に近づけることができる。
【0072】
以上より、本発明では、加速を行う前に式(8)によりVaを求める際、目標加速度αを式(10)で求めることで、実際の加速度を所望の加速度に近づけるよう補正することが可能になる。
α=α0/(αn−1/α0)・・・(10)
α0:目標加速度
αn−1:前回加速時の加速度測定値
【0073】
上記において、実際の加速度の測定および目標加速度αの算出は、キャリッジ100の駆動については主走査モータ制御部300が、搬送ベルト101の搬送機構の駆動については副走査モータ制御部320が行う。
【0074】
ところで、本実施の形態のサーボ制御装置は、CPUなどの制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶装置と、HDD、CDドライブ装置などの外部記憶装置と、ディスプレイ装置などの表示装置と、キーボードやマウスなどの入力装置を備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成となっている。本実施形態のサーボ制御装置で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD−ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD−R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0075】
また、本実施の形態のサーボ制御装置で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、本実施の形態のサーボ制御装置で実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。また、本実施の形態のプログラムを、ROM等にあらかじめ組み込んで提供するように構成してもよい。
【0076】
つぎに、上述した実施の形態のサーボ制御装置が奏する効果についてまとめて以下に列記する。まず、モータの回転速度とPWM信号とに基づいて、式(A)によりモータトルクを求め、このトルクを基準としてジャム判定を行うので、ジャム判定において、制御対象を駆動する駆動力に対して閾値を設けているので、外部から異常な力がかかったことを検知してジャム検知をすることができる。
【0077】
T=−(KeKt/R)ω+(Kt/R)V・・・(A)
T:DCモータの出力トルク(または駆動力)
V:DCモータ印加電圧(またはPWM制御の印加電圧V0×Duty比)
ω:DCモータの回転数
Ke:DCモータの逆起電力定数
Kt:DCモータのトルク定数
R:DCモータの直流内部抵抗
【0078】
また、制御周期ごとに、式(B)によって、「現在の速度で等速駆動するために必要な力」と「加速度αで加速するために必要な力」の合計値である現在のモータ出力トルク(または駆動力)Tを求め、ここから式(A)を変形した式(C)によって電圧(またはPWM制御のDuty比)を求めてモータ出力値とすることで、加速度αで加速することができるので、サーボ機構のメカ剛性が低い場合であっても、加速挙動が振動的にならないように加速させることができる。
【0079】
T=Tf+I×α・・・(B)
T:現在のモータ出力トルク(または駆動力)
I:駆動対象の慣性モーメント(または質量)
α:駆動対象の角加速度(または加速度)
Tf:現在の速度で等速駆動する際に発生する摺動負荷トルク(または力)
式(A)⇔
V={T+(KeKt/R)ω}/(Kt/R)・・・(C)
【0080】
式(A)の関係より、速度ω一定であればT∝Vとなるため、式(D)により求まる値をモータ出力値とすることで、複雑な計算をすることなく、式(C)でモータ出力値を求めたのと同等の効果が得られる。なお、このときのVaの値は、所望の加速度αに対して式(E)であらかじめ求めた値を使用する。
V=Vf+Va・・・(D)
V:DCモータ印加電圧(またはPWM制御の印加電圧V0×Duty比)
Vf:各速度で等速駆動しているときの電圧(摺動負荷相当の電圧)
Va:固定の電圧
【0081】
DCモータに電圧V0を印加したときのモータトルクT0、角速度ω0とし、角速度をω0に保ったまま電圧をΔV上昇させたときのトルク上昇分をΔTとすると、
T0=−(KeKt/R)ω0+(Kt/R)V0
T0+ΔT=−(KeKt/R)ω0+(Kt/R)(V0+ΔV)
辺々差をとって、
ΔT=(Kt/R)ΔV
⇔ΔV=(R/Kt)ΔT
ここでΔVは式(D)のVaに、ΔTは式(B)のI×αに相当する。
Va=(R/Kt)(I×α)・・・(E)
【0082】
DCモータの回転数ωとトルクTの関係式は、モータの逆起電力定数Ke、トルク定数Kt、内部抵抗R、入力電圧Vとして、T=-(KeKt/R)ω+(Kt/R)Vの関係であるため、速度一定であればT∝Vとなり、摺動負荷相当の電圧Vfに固定電圧Vaを加算することは、固定トルクTaを加算することと同じであるので、複雑な演算を行うことなく、サーボ機構のメカ剛性が低い場合であっても、加速挙動が振動的にならないように加速させることができる。
【0083】
また、上記の方法で加速した際の加速度を、駆動する毎に計測し、所望の加速度とのずれに対してVaを補正することで、所望の加速度で加速することができるので、モータ特性のばらつきによらず、所望の加速度による加速を行うための補正を行うことができる。
【0084】
したがって、上述した実施の形態によれば、制御対象を駆動する駆動力に対して閾値を設けているので、外部から異常な力がかかったことを検知してジャム検知をすることができる。また、サーボ機構のメカ剛性が低い場合であっても、加速挙動が振動的にならないように加速させることができる。また、複雑な演算を行うことなく、サーボ機構のメカ剛性が低い場合であっても、加速挙動が振動的にならないように加速させる効果もある。さらに、モータ特性のばらつきによらず、所望の加速度による加速を行うための補正ができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように、本発明にかかるサーボ制御装置および画像形成装置、並びにサーボ制御プログラムは、DCモータを駆動源としてサーボ制御を行う、たとえばインクジェット記録装置などの各プリンタや複写機の画像形成装置などに有用であり、特に、モータの回転速度とPWM信号からモータトルクを求め、このトルクを基準として制御対象を駆動する駆動力の異常を検出するジャム判定する装置やシステムに適している。
【符号の説明】
【0086】
100 キャリッジ
101 搬送ベルト
105 主走査モータ
111 副走査モータ
200 メイン制御部
201 CPU
211 主走査モータ駆動部
213 副走査モータ駆動部
217 リニアエンコーダ
218 ホイールエンコーダ
300 主走査モータ制御部
301 モータトルク異常検出部
302 加速度測定部
303 目標速度保持部
304 駆動機構負荷保持部
305 駆動機構負荷電圧保持部
306 加速必要トルク算出部
307 加速必要電圧算出部
308 加速度差分算出部
309 加速必要電圧補正部
310 摺動負荷保持部
311 モータ出力算出部
320 副走査モータ制御部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0087】
【特許文献1】特開2009−029037号公報
【特許文献2】特開2000−245187号公報
【特許文献3】特開平5−22975号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータにより駆動体を駆動制御するサーボ制御装置であって、
前記駆動体の速度を測定する速度測定手段と、
前記駆動体を駆動する目標速度を記憶する目標速度記憶手段と、
電圧制御またはPWM制御を実行する際に、前記速度測定手段により測定された速度と、前記目標速度記憶手段に記憶された目標速度との差に応じて前記駆動モータを駆動制御する駆動制御手段と、
前記駆動制御手段により前記駆動モータを駆動させた場合に、前記駆動体と異物との干渉によりモータトルクが異常値になったことを検出するモータトルク異常検出手段と、
を備え、
前記モータトルク異常検出手段は、前記駆動モータの回転数と電圧またはPWM制御Duty比から算出した値によってモータトルクが異常値であることを検出することを特徴とするサーボ制御装置。
【請求項2】
駆動モータにより駆動体を駆動制御するサーボ制御装置であって、
前記駆動体の速度を測定する速度測定手段と、
前記駆動体を含む駆動機構の負荷を記憶する駆動機構負荷記憶手段と、
前記駆動体を加速または減速させる際、駆動機構負荷記憶手段に記憶された現在の速度で等速駆動するために必要な負荷に抗するトルク値と、駆動機構の慣性モーメントIを加速度αで加速するために必要なトルクTa=I×αとを加算したトルクを算出する加速必要トルク算出手段と、
加速または減速時には、前記加速必要トルク算出手段により求まる必要トルクと現在の回転速度から求まる電圧またはPWM制御Duty比を、前記駆動モータの出力値とするモータ出力算出手段と、
を備えることを特徴とするサーボ制御装置。
【請求項3】
駆動モータにより駆動体を駆動制御するサーボ制御装置であって、
前記駆動体の速度を測定する速度測定手段と、
前記駆動体を含む駆動機構の負荷を電圧の単位で記憶する駆動機構負荷電圧記憶手段と、
所望の加速度で加速するために必要なトルクを発生させるために必要な電圧値を求める加速必要電圧算出手段と、
加速または減速時には、前記駆動機構負荷電圧記憶手段に記憶された負荷電圧と、前記加速必要電圧算出手段により求まる加速必要電圧とを加算することでモータ出力値とするモータ出力算出手段と、
を備えることを特徴とするサーボ制御装置。
【請求項4】
さらに、
加速または減速実施後、実際の加速度を測定する加速度測定手段と、
目標加速度と、加速度測定手段により求まる実際の加速度との差分を求める加速度差分算出手段と、
前記加速度差分算出手段により求まる加速度差分によって、前記加速必要電圧算出手段により求まる加速必要電圧を補正する加速必要電圧補正手段と、
を備えることを特徴とする請求項3に記載のサーボ制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載のサーボ制御装置と、
印刷対象の画像情報を記録紙に印刷する印刷手段と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
記憶手段を有し、駆動モータにより駆動体を駆動制御するコンピュータを、
前記駆動体の速度を測定する速度測定手段と、
前記駆動体を駆動する目標速度を前記記憶手段に記憶する目標速度記憶手段と、
電圧制御またはPWM制御を実行する際に、前記速度測定手段により測定された速度と、前記目標速度記憶手段に記憶された目標速度との差に応じて前記駆動モータを駆動制御する駆動制御手段と、
前記駆動制御手段により前記駆動モータを駆動させた場合に、前記駆動体と異物との干渉によりモータトルクが異常値になったことを検出するモータトルク異常検出手段と、
として機能させ、
前記モータトルク異常検出手段が、前記駆動モータの回転数と電圧またはPWM制御Duty比から算出した値によってモータトルクが異常値であることを検出することを特徴とするサーボ制御プログラム。
【請求項7】
記憶手段を有し、駆動モータにより駆動体を駆動制御するコンピュータを、
前記駆動体の速度を測定する速度測定手段と、
前記駆動体を含む駆動機構の負荷を前記記憶手段に記憶する駆動機構負荷記憶手段と、
前記駆動体を加速または減速させる際、駆動機構負荷保持手段により求まる現在の速度で等速駆動するために必要な負荷に抗するトルク値と、駆動機構の慣性モーメントIを加速度αで加速するために必要なトルクTa=I×αとを加算したトルクを算出する加速必要トルク算出手段と、
加速または減速時には、前記加速必要トルク算出手段により求まる必要トルクと現在の回転速度から求まる電圧またはPWM制御Duty比を、前記駆動モータの出力値とするモータ出力算出手段と、
して機能させるためのサーボ制御プログラム。
【請求項8】
記憶手段を有し、駆動モータにより駆動体を駆動制御するコンピュータを、
前記駆動体の速度を測定する速度測定手段と、
前記駆動体を含む駆動機構の負荷を電圧の単位で記憶する駆動機構負荷電圧記憶手段と、
所望の加速度で加速するために必要なトルクを発生させるために必要な電圧値を求める加速必要電圧算出手段と、
加速または減速時には、前記駆動機構負荷電圧記憶手段に記憶された負荷電圧と、前記加速必要電圧算出手段により求まる加速必要電圧とを加算することでモータ出力値とするモータ出力算出手段と、
して機能させるためのサーボ制御プログラム。
【請求項9】
さらに、前記コンピュータを、
加速または減速実施後、実際の加速度を測定する加速度測定手段と、
目標加速度と、加速度測定手段により測定される実際の加速度との差分を求める加速度差分算出手段と、
前記加速度差分算出手段により求まる加速度差分によって、前記加速必要電圧算出手段により求まる加速必要電圧を補正する加速必要電圧補正手段と、
して機能させる請求項8に記載のサーボ制御プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2012−60830(P2012−60830A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203359(P2010−203359)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】