説明

ショットキー電極の製造方法

【課題】理想的な特性に近いショットキー電極を製造する方法を提供する。
【解決手段】GaAs基板101にリセス107を形成するためのエッチングを行う際に、このリセス107の表面に、水酸基を多く含むGa酸化膜108が形成される。このGa酸化膜108はショットキー電極の特性を悪化させる原因になる。このため、エッチング後、このGaAs基板101をホットプレートで加熱することにより、このGa酸化膜108から水酸基を取り除き、絶縁性の高いGa酸化膜109に変質させる。その後、Ga酸化膜109上にショットキー電極111を形成し、レジストパターン106や金属層110を取り除いた後、保護膜113を形成する。この発明によれば、Ga酸化膜108内の水酸基が水に変化する反応を加熱処理によって促進させることができ、これにより水酸基を取り除くことができるので、理想的な特性に近いショットキー電極111を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ショットキー電極の製造方法に関する。この発明は、例えば、リセス構造を有する電界効果トランジスタのゲート電極製造工程に適用される。
【背景技術】
【0002】
ショットキー電極を用いた半導体デバイスとしては、例えば、高出力パワー電界効果トランジスタが知られている。高出力パワー電界効果トランジスタは、例えば、信号パワーの増幅等に使用される。
【0003】
図22は、従来の高出力パワー電界効果トランジスタ2200の一構造例を概念的に示す断面図である。図22において、GaAs基板2201の表面には、n型GaAs層2202が形成される。n型GaAs層2202の表面には、リセス(すなわち溝)2203が形成される。そして、リセス2203の底面には、ゲート電極2204が形成される。一方、n型GaAs層2202上のリセス非形成領域には、ソース電極2205およびドレイン電極2206が形成される。そして、n型GaAs層2202の表面には、リセス2203や電極2204〜2206を覆うように、絶縁膜2207が堆積される。ここで、ゲート電極2204は、ショットキー電極であり、また、ソース電極2205およびドレイン電極2206はオーミック電極である。
【0004】
図22に示した電界効果トランジスタ2200において、リセス2203は、n型GaAs層2202をエッチングすることによって形成される。このエッチングでは、例えば、過酸化水素水および燐酸を純水に混合したエッチング液が使用される。このようなエッチング液を使用する場合、リセス2203の表面には、Ga酸化物およびAs酸化物が形成される。ここで、As酸化物は水溶性が高いので、エッチング液中の純水に溶解する。このため、エッチング終了後には、リセス2203の底面や内側面にGa酸化膜2301が形成されてしまう(図23参照)。また、Ga酸化膜2301は、エッチング工程とは別に、自然酸化膜として形成される場合もある。このため、実際には、ゲート電極2204は、n型GaAs層2202の表面に直接形成されるのではなく、Ga酸化膜2301を介して形成される。
【0005】
従来、図23に示したような電界効果トランジスタ2200には、n型GaAs層2202とゲート電極2204との間に漏れ電流Igdo が発生するという欠点があった。例えば、ゲート電極2204およびドレイン電極2206にそれぞれ16ボルトの電圧を印加したとき、このゲート・ドレイン間に漏れ電流Igdo が流れてしまう。本発明者の検討によれば、漏れ電流Igdo が発生するのは、n型GaAs層2202とゲート電極2204との間に上述のようなGa酸化膜2301が介在するためであると思われる。これに対して、Ga酸化膜2301が存在しない場合には、n型GaAs層2202とゲート電極2204との界面が理想状態に近いショットキー界面となり、漏れ電流Igdo はほとんど流れない。
【0006】
ここで、漏れ電流Igdo の発生を防止する方法の一つとして、ゲート電極2204を形成する前にGa酸化膜2301を除去する方法が考えられる。しかしながら、Ga酸化膜2301を完全に取り除くことは、製造コストや歩留まり等の理由から、現実には困難である。
【0007】
また、電界効果トランジスタの製造方法を開示する文献としては例えば下記特許文献1〜3があるが、いずれもGa酸化膜2301に起因する漏れ電流Igdo には着目していない。
【特許文献1】特開平9−64065
【特許文献2】特開平9−92605
【特許文献3】特開平10−107258
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の課題は、理想状態に近い特性を有するショットキー電極を、歩留まり良く安価に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、基板表面の半導体領域上にショットキー電極を形成する方法に関する。
【0010】
そして、半導体領域の表面に形成された酸化膜中の水酸基を減少させるための水酸基除去工程と、水酸基除去工程後の酸化膜上にショットキー電極を形成する電極形成工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明者の検討によれば、半導体領域とショットキー電極との界面に酸化膜が介在する場合、この酸化膜の水酸基含有量が少ないほど漏れ電流が小さくなる。このため、かかる酸化膜を除去しなくても、この酸化膜中の水酸基含有量を十分に少なくすれば、漏れ電流の発生は無視できるようになる。このような理由から、この発明では、かかる酸化膜中の水酸基を減少させるための水酸基除去工程を、新たに設けた。したがって、この発明によれば、理想的な特性に近いショットキー界面を有するショットキー電極を、歩留まり良く安価に製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、図中、各構成成分の大きさ、形状および配置関係は、この発明が理解できる程度に概略的に示してあるにすぎず、また、以下に説明する数値的条件は単なる例示にすぎない。
【0013】
第1の実施の形態
以下、第1の実施形態に係るショットキー電極の製造方法について、この発明を高出力パワー電界効果トランジスタの製造工程に適用する場合を例に採って説明する。
【0014】
図1および図2は、この実施形態に係る電界効果トランジスタの製造方法を説明するための断面工程図である。以下、この実施形態に係る電界効果トランジスタの製造方法について、図1および図2を用いて説明する。
【0015】
(1)まず、GaAs基板101の表面に、以下のようにして、n型GaAs層(本発明の半導体領域に相当)を形成する。まず、GaAs基板101の表面に、n型GaAs層を形成すべき領域を露出するような、レジストパターン102を形成する(図1(A)参照)。そして、通常の注入装置を用いて、GaAs基板101の表面に、29Si(質量数が29のシリコン原子)を注入する(図1(B)参照)。レジストパターン102を取り除いた後、GaAs基板101に対して、アルシン(AsH3 )雰囲気下で、800℃、1時間のアニールを行うことにより、Siを活性化する。これにより、GaAs基板101の表面に、n型GaAs層103を形成することができる(図1(C)参照)。
【0016】
(2)次に、GaAs基板101上に、通常の堆積技術やフォトリソグラフィー技術等を用いて、ソース電極およびドレイン電極としてのオーミック電極104,105を形成する(図1(D)参照)。オーミック電極104,105の形成材料としては、例えば、AuGeを使用することができる。
【0017】
(3)続いて、GaAs基板101の表面にレジスト膜を形成した後、通常のフォトリソグラフィー技術等を用いてリフトオフ加工することにより、ゲート用のレジストパターン106を形成する(図1(E)参照)。
【0018】
(4)そして、このレジストパターン106をマスクとしてGaAs基板101の露出面をエッチングすることにより、リセス107を形成する(図2(A)参照)。この実施形態では、エッチング液として、5ミリリットルの35%過酸化水素水と100ミリリットルの85%燐酸とを2リットルの純水に混合したものを使用する。
【0019】
このエッチングでは、リセス107の表面に、アモルファス構造のGa酸化膜108が形成される。このGa酸化膜108の膜厚は、例えば50オングストローム以下である。Ga酸化膜108が形成される理由については、後述する。
【0020】
(5)次に、以下のような水酸基除去工程を実行する。この水酸基除去工程により、Ga酸化膜108の絶縁性を高めて、漏れ電流Igdo を減少させることができる。水酸基除去工程によってGa酸化膜108の絶縁性が高まる理由については、後述する。
【0021】
この水酸基除去工程では、空気雰囲気下で、ホットプレートを用いて、GaAs基板101がベークされる。ベーク温度は例えば100℃、ベーク時間は例えば1時間である。加えて、湿度も、所定の値に制御される(後述)。これにより、水酸基を多量に含むGa酸化膜108を、水酸基をほとんど含まないGa酸化膜109に、変化させることができる(図2(B)参照)。
【0022】
(6)その後、例えば蒸着法等を用いて、GaAs基板101の表面に、ゲート電極用の金属を堆積する。これにより、レジストパターン106上に金属層110が形成されるとともに、Ga酸化膜109上にゲート電極111が形成される。この実施形態では、ゲート電極111を、Ti/Pt/Auの積層膜(図示せず)で構成する。このため、Ga酸化膜109とゲート電極111(最下層はチタン層)との界面に、GaおよびTiの酸化膜112が形成される(図2(C)参照)。
【0023】
(7)続いて、リフトオフ用の溶媒を用いて、レジストパターン106を除去する。これにより、レジストパターン106上の金属層110も除去される(図2(D)参照)。
【0024】
(8)最後に、例えばCVD(Chemical Vaper Deposition) 法等を用いて、GaAs基板101の表面に、Si酸化膜或いはSi窒化膜などの保護膜113を堆積する。これにより、高出力パワー電界効果トランジスタ114が、完成する(図2(E)参照)。
【0025】
次に、上述の水酸基除去工程について(上記工程(5)参照)、詳述する。
【0026】
上述のように、この実施形態では、Ga酸化膜108中の水酸基を、空気中でのベーク処理によって、除去する。したがって、ベーク処理を行う際には、半導体工場内の湿度(以下、環境湿度)を制御することが重要になる。本発明者は、この実施形態に係る高出力パワー電界効果トランジスタ114(図2(E)参照)の特性と水酸基除去工程(ベーク処理)での環境湿度との関係を評価した。以下、この評価試験の結果を説明する。
【0027】
この評価試験では、上述の工程(5)で環境湿度を変えながら高出力パワー電界効果トランジスタ114を作製し、完成後に漏れ電流Igdo の測定および歩留まりの評価を行った。ここで、高出力パワー電界効果トランジスタ114のゲートとしては、ゲート長が0.8μm且つ単位ゲート幅が175μmの櫛歯状ゲートを20本有する(したがって総ゲート幅は3.5mm)ものを使用した。ベークは100℃且つ1時間とし、環境湿度は48%から52.5%の間で変化させた(後述の図5参照)。漏れ電流Igdo は、ゲート電極111およびソース電極104にそれぞれ16ボルトの電圧を印加したときのゲート・ソース間電流とした。また、歩留まりを評価するに際しては、漏れ電流Igdo が−80μA以上の場合を良品とし、−80μAよりも小さい場合を不良品とした。なお、歩留まりの評価では、他にも多数種類の評価項目を検査したが、結果的に不良品のほとんどは漏れ電流Igdo に起因するものであったため、漏れ電流Igdo のみに基づいて歩留まり評価を行ったものと考えても実質的には同じである。
【0028】
図3は、この評価試験の試験方法を説明するための概念図であり、(A)は平面図、(B)は側面図である。半導体工場内は、ある程度の湿度制御は行っているものの、数パーセント程度は変動する。このため、この評価試験では、ホットプレート301の近傍に湿度計302を設置した。また、半導体工場では、工場内のクリーン度を確保するために、ヘパ(HEPA;High Efficiency Particulate Airfilter)と称されるフィルタ303が設けられている。このため、ホットプレート301に塵や埃が付着することはない。しかしながら、ヘパフィルタ303では、空気中の水分を完全に除去することはできない。
【0029】
図4は、加熱時間と湿度変化との関係を示すグラフであり、縦軸は湿度、横軸は時間である。図4から解るように、環境湿度(湿度計302の測定結果)は、ホットプレート301の加熱を開始すると一時的に低下し、ある程度の時間が経過すると加熱開始前の湿度付近に戻る。これは、湿度計302が、ホットプレート301の熱の影響を受けているからであると考えられる。このため、この評価試験では、環境湿度として、ホットプレート301による加熱開始時の湿度測定値を採用した。
【0030】
図5は、環境湿度と、漏れ電流Igdo および歩留まりの評価結果との関係を示す表である。また、図6は、図5の評価結果のうち環境湿度と漏れ電流Igdo との関係をグラフ化したものであり、図7は、図5の評価結果のうち環境湿度と歩留まりとの関係をグラフ化したものである。図5〜図7から解るように、漏れ電流Igdo および歩留まりは、水酸基除去工程の環境湿度に大きく依存し、かかる環境湿度が低い方が望ましい。特に、環境湿度が50%以下の場合には、80%以上の高い歩留まりを得ることができる。
【0031】
次に、この実施形態に係る製造方法によって高出力パワー電界効果トランジスタ114の漏れ電流特性および歩留まりを向上させることができる理由について、本発明者の検討結果を説明する。
【0032】
ゲート電極111とGaAs基板101との間に理想的なショットキー接続が形成されている場合には、漏れ電流Igdo はほとんど流れないと考えられる。しかしながら、上述したように、現実の高出力パワー電界効果トランジスタ114では、無視できないレベルの漏れ電流Igdo が流れる。そこで、本発明者は、かかる漏れ電流Igdo の発生原因は、ゲート電極111とGaAs基板101との間に生成されるGa酸化膜108(図2(A)参照)にあると考えた。
【0033】
Ga酸化膜108が形成されるのは、以下のような理由によると考えられる。過酸化水素水および燐酸を純水に混合してなるエッチング液を使用してリセス工程すなわちエッチング工程を行う場合(上記工程(4)参照)、過酸化水素がGaAs基板101の表面を酸化することにより、Ga酸化物およびAs酸化物が生成される。このうち、As酸化物は、水溶性が高いので、そのまま水に溶解する。また、Ga酸化物の一部は、燐酸と反応して水酸化ガリウムGa(OH)3 となり、純水に溶解する。そして、残りのGa酸化物は、リセスされたGaAs基板101の表面にそのまま残り、アモルファス構造のGa酸化膜108になると考えられる。
【0034】
ここで、Ga酸化物も、本来的には絶縁物である。したがって、Ga酸化膜が本来の酸化物構造を有していれば、漏れ電流Igdo はほとんど流れないはずである。しかしながら、本発明者の検討によれば、実際には、Ga酸化膜108には、無視できないレベルの漏れ電流Igdo が流れる。この原因について、本発明者は、以下のような仮説を立てた。
【0035】
この実施形態では水中でエッチングを行っているため、Ga酸化膜108には多量の水酸基(OH基)が含まれていると考えられる。すなわち、Ga酸化膜108は、図8(A)に示したような状態で、GaAs基板101の表面に堆積していると考えられる。このような構造において、水酸基を含むGa酸化物の局在的なLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital ;最低空軌道)が近接して並んでいるとすれば、このLUMOを介して電子がホッピング伝導する可能性が考えられる。図8(B)は、Ga酸化物間を電子がホッピング伝導する様子を概念的に示している。本発明者は、このようなホッピング伝導によってGa酸化物間を電子が移動するとすれば、漏れ電流Igdo の原因となり得ると考えた。
【0036】
このため、本発明者は、水酸基を有するGa酸化物でホッピング伝導が生じ得ることを、電子軌道の計算によって立証しようと試みた。ここで、上述のようにGa酸化膜108はアモルファス構造を有するが、アモルファス構造の電子軌道を求めようとすると、計算時間が長くなりすぎる。このため、本発明者は、図9(A)に示したような、GaAs基板の代わりに水素でターミネイトされた構造のGa酸化物について、計算を行った。また、ここでは、軌道計算プログラムとしてWAVEFUNCTION社製のPC SPARTAN PRO ver 1.0.5(商標)を使用し、さらに、計算法としては密度汎関数法(DFT;Density Functional Theory) を使用して、LUMOおよびHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital;最高占有軌道)を算出した。図9(B)は、この密度汎関数法計算に用いた分子モデルを示している。また、図10(A)はLUMOの計算結果、図10(B)はHOMOの計算結果を、それぞれモデル化して示している。
【0037】
この計算の結果、LUMOは、水酸基を有するGa酸化物の骨格部分を成すGa−O結合の、σ* 軌道(反結合性σ軌道)となることが解った(図10(A)参照)。また、HOMOは、水酸基を構成する酸素原子の孤立電子対となった(図10(B)参照)。LUMOが上述のようなσ* 軌道になることより、Ga酸化物の水酸基が図8(A)のように並んでいる場合には、電子がホッピング伝導を行い得ると考えられる(図8(B)参照)。なお、以上の計算では、水酸基が2次元的に配列していると仮定し(図8(A)参照)且つGa酸化物が水素でターミネイトされているとしたが(図9(A)参照)、水酸基が3次元的に配列され且つGa酸化物がGaAs基板上に堆積されている場合でも、LUMOが上述のようなσ* 軌道になることは同じであると考えられ、したがって、そのような場合にも電子がホッピング伝導を行い得ると考えられる。
【0038】
以上のような計算結果から、本発明者は、漏れ電流Igdo の原因が、Ga酸化膜108内の水酸基にある可能性が高いと考えるに至った。このことより、本発明者は、漏れ電流Igdo を低減させるためにはGa酸化膜108中の水酸基を除去或いは低減させればよいと考えた。
【0039】
上述のように、LUMOは骨格部分を成すGa−O結合のσ* 軌道であると考えられ、且つ、HOMOは水酸基を構成する酸素原子の孤立電子対であると考えられる。このような場合、水酸基の酸素原子(図11(A)のα1参照)は、その水酸基の水素原子(図11(A)のα2参照)との結合を解き、近傍に存在する他のGa−O結合のガリウム原子(図11(A)のα3参照)と結合してGa−O結合を作ろうとするであろうと、発明者は考えた。このようにして新しいGa−O結合が生成された場合、酸素原子α1に結合していた水素原子α2はGa酸化物から分離し、且つ、ガリウム原子α3に結合していた水酸基もGa酸化物から分離する。これにより、2個の水酸基が、Ga酸化膜108から取り除かれることになる(図11(B)参照)。このとき、分離した水素原子および水酸基は、互いに結合して、水H2 Oを生成すると考えられる(図11(B)のα4参照)。
【0040】
本発明者は、このような脱水反応を促進させることによってGa酸化物から水酸基を取り除けば、電子がホッピング伝導できなくなるであろうと考えた。このため、本発明者は、図12(A)に示したようにして、ゲート電極111(図2(C)参照)を形成する前のGaAs基板101をホットプレート301でベークし、これにより上述のような脱水反応を促進させて、漏れ電流Igdo を低減させることを試みた。
【0041】
その結果、本発明者は、GaAs基板101を加熱することによって漏れ電流Igdo を低減させることはできるものの、その効果は環境湿度に強く影響されることを知見するに至った(上記図5〜図7参照)。これは、ベークの際にレジストパターン106から大量の水が放出されるためであると考えられる。すなわち、図12(B)の拡大図に示したように、ベークの際にレジスト106内の水分が大量に蒸発するために、ベークの際にリセス107近傍の水分量が局所的に非常に多くなって、上述のような脱水反応の促進を妨げていると考えるのが妥当である。したがって、漏れ電流Igdo が小さい高出力パワー電界効果トランジスタ114を短時間で製造するためには、ベーク(すなわち水酸基除去工程)における環境湿度を十分に低くすることが望ましい。
【0042】
効率の良い脱水反応を行わせるためには、真空槽内で真空引きをしながらベークを行う方法も考えられる。しかしながら、真空引きを行うと、レジストパターン106が変形を起こす場合がある。また、エッチング工程(上記工程(4)参照)と水酸基除去工程とを真空槽内で連続的に行おうとすると、エッチング時の溶解性が極端に低下してリフトオフを形成できなくなる場合がある。したがって、環境湿度を抑えるためには、真空槽を用いるのではなく、空気中での湿度制御を行うことが望ましい。
【0043】
以上説明したように、この実施形態に係る製造方法によれば、漏れ電流Igdo が小さいショットキー電極を、歩留まり良く、安価に製造することができる。
【0044】
なお、この実施形態では基板としてGaAs基板101を使用したが、他の種類の基板を使用する場合にも、この発明を適用することができる。例えば、Al、Ga、Inのいずれか1種類以上とAsとによって組成された半導体基板を、この発明の基板として採用することができる。
【0045】
この実施形態では、エッチング液として、過酸化水素水と燐酸とを純水に混合させたものを使用したが、過酸化水素水と酸またはアルカリとを用いたエッチング液であれば、どのようなものであっても、この発明の製造方法に使用することができる。例えば、燐酸の代わりにクエン酸等の有機酸を含むエッチング液を使用してもよい。
【0046】
また、この実施形態では、リセス構造を有する高出力パワー電界効果トランジスタを製造する場合を例に採って説明したが、ショットキー電極を有する半導体デバイスであれば、他の種類のデバイスであっても、この発明を適用することができる。
【0047】
第2の実施の形態
以下、第2の実施形態に係るショットキー電極の製造方法について、この発明を高出力パワー電界効果トランジスタの製造工程に適用する場合を例に採って説明する。
【0048】
この実施形態では、高出力パワー電界効果トランジスタを形成する基板として、エピタキシャル基板を使用する場合について説明する。
【0049】
図13は、この実施形態に係る電界効果トランジスタの製造方法を説明するための断面工程図である。以下、この実施形態に係る電界効果トランジスタの製造方法について、図13を用いて説明する。
【0050】
この実施形態では、エピタキシャル基板1304として、GaAs基板1301上にn型AlGaAs層1302およびn型GaAs層1303をエピタキシャル成長させたものを使用する。n型AlGaAs層1302およびn型GaAs層1303は、例えばMBE(Molecular Beam Epitaxy)装置或いはMO−VPE(Metal Organic - Vaper Phase Epitaxial Growth;有機金属化学気相成長)装置等を用いて、形成することができる(図13(A)参照)。
【0051】
(1)まず、エピタキシャル基板1304の表面に、上述の第1実施形態と同様にして、ソース電極およびドレイン電極としてのオーミック電極を形成する(図示せず)。
【0052】
(2)続いて、エピタキシャル基板1304の表面にレジスト膜を形成した後、通常のフォトリソグラフィー技術等を用いてリフトオフ加工することにより、ゲート用のレジストパターン1305を形成する(図13(B)参照)。
【0053】
(3)そして、このレジストパターン1305をマスクとしてエピタキシャル基板1304の表面をエッチングする。これにより、エピタキシャル基板1304の表面に、リセス1306が形成される(図13(C)参照)。ここで、エッチング液としては、5ミリリットルの35%過酸化水素水と100ミリリットルの85%燐酸とを2リットルの純水に混合したものを使用することができる。また、燐酸の代わりに、クエン酸を使用してもよい。
【0054】
ここで、リセス1306は、n型GaAs層1303内のみに形成してもよいし、n型AlGaAs層1302にまで達するように(すなわちAlGaAsが露出するように)形成してもよい。リセス1306がn型GaAs層1303内に形成される場合、このリセス1306の表面には、酸化膜1307として、Ga酸化膜が形成される。一方、リセス1306がn型AlGaAs層1302まで達するように形成される場合、このリセス1306の表面には、酸化膜1307として、AlGa酸化膜が形成される。いずれの場合も、酸化膜1307には、第1実施形態と同様、大量の水酸基が含まれる。なお、第1実施形態と同様、As酸化物は、エッチング液中の水に溶解するので、リセス1306の表面膜にならない。
【0055】
(4)次に、第1実施形態と同様、空気雰囲気下で、ホットプレートを用いて、エピタキシャル基板1304全体をベークする。ベーク温度は例えば100℃、ベーク時間は例えば1時間である。加えて、第1実施形態と同様、湿度も、所定の値に制御する。これにより、水酸基を多量に含む酸化膜1307を、水酸基をほとんど含まない酸化膜1308に、変化させることができる(図3(D)参照)。
【0056】
(5)その後、第1実施形態と同様にして、ゲート電極(図示せず)を堆積し、レジストパターン1305を除去し、さらに、保護膜(図示せず)を堆積する。これにより、高出力パワー電界効果トランジスタが完成する。
【0057】
本発明者の検討によれば、酸化膜1307がAlGa酸化膜の場合は、リセス1306の表面に、図14(A)に示したような状態で、AlGa酸化膜が形成されると考えられる。すなわち、このような場合も、上述の第1実施形態(すなわち酸化膜がGa酸化膜の場合)と同様、酸化膜1307には水酸基が大量に含まれる。このため、本発明者は、第1実施形態と同様にして、AlGa酸化物に形成されるLUMOおよびHOMOを算出した。その結果、AlGa酸化物の場合にも、電子がホッピング伝導できるような状態になっていることが解った(図14(A)参照)。このようにして、本発明者は、酸化膜1307がAlGa酸化膜の場合にも、第1実施形態と同様の脱水処理を行えば、水酸基OHおよび水素H(図14(B)のα5参照)を取り除いて水(図14(C)のα6参照)に変化させることができるので、漏れ電流Igdo を低減することができると考えるに至った。
【0058】
このため、本発明者は、上述のようにして高出力パワー電界効果トランジスタを作製し、漏れ電流および歩留まりを評価した。この結果、酸化膜1307がGa酸化膜の場合およびAlGa酸化膜の場合ともに、第1実施形態と同様の、優れた評価結果を得ることができた。
【0059】
以上説明したように、この実施形態によれば、基板としてエピタキシャル基板1304を使用する場合に、この発明に係る製造方法を適用することができる。
【0060】
なお、この実施形態では、エピタキシャル基板1304として、GaAs基板1301にAlGaAs層1302およびGaAs層1303をエピタキシャル成長させてなるものを使用したが、他の種類のエピタキシャル層を成長させたエピタキシャル基板を使用する場合にも、この発明を適用することができる。例えば、Al、Ga、Inのいずれか1種類以上とAsとによって組成された半導体層を、この発明のエピタキシャル層として採用することができる。
【0061】
また、過酸化水素水と酸またはアルカリとを用いたエッチング液であればどのようなものであっても使用できる点、ショットキー電極を有する半導体デバイスであればリセス構造の高出力パワー電界効果トランジスタ以外のデバイスであってもこの発明を適用できる点は、上述の第1実施形態と同様である。
【0062】
第3の実施の形態
以下、第3の実施形態に係るショットキー電極の製造方法について、この発明を高出力パワー電界効果トランジスタの製造工程に適用する場合を例に採って説明する。
【0063】
この実施形態では、高出力パワー電界効果トランジスタのゲート(すなわちショットキー電極)として、T型ゲート電極を形成する場合について説明する。
【0064】
図15および図16は、この実施形態に係る電界効果トランジスタの製造方法を説明するための断面工程図である。以下、この実施形態に係る電界効果トランジスタの製造方法について、図15および図16を用いて説明する。
【0065】
この実施形態では、半導体基板として、GaAs基板1501上にAlGaAs層1502およびn型GaAs層1503を形成してなる、エピタキシャル基板1504を使用する(図15(A)参照)。
【0066】
(1)まず、エピタキシャル基板1504の表面に、上述の第1実施形態と同様にして、ソース電極およびドレイン電極としてのオーミック電極を形成する(図示せず)。
【0067】
(2)次に、n型GaAs層1503の表面に、例えばCVD(Chemical Vaper Deposition) 等の堆積技術を用いて、シリコン窒化膜1505を形成する(図15(B)参照)。なお、シリコン窒化膜1505に代えて、シリコン酸化膜を形成してもよい。
【0068】
(3)続いて、シリコン窒化膜1505の表面にレジストを塗布し、通常のフォトリソグラフィー技術等を用いてパターニングすることにより、レジストパターン1506を形成する(図15(C)参照)。
【0069】
(4)そして、このレジストパターン1506をマスクとし、例えば反応性イオンエッチング等のエッチング技術を用いて、シリコン窒化膜1505をエッチングする。このようにして、シリコン窒化膜1505から、ゲート形成予定領域のn型GaAs層1503を露出させる(図15(D)参照)。
【0070】
(5)その後、レジスト剥離液等を用いて、レジストパターン1506を除去する(図15(E)参照)。
【0071】
(6)続いて、エピタキシャル基板1504の表面にレジスト膜を形成した後、通常のフォトリソグラフィー技術等を用いてリフトオフ加工する。これにより、ゲート形成予定領域のn型GaAs層1503とその周辺領域のシリコン窒化膜1505とが露出する、レジストパターン1507が形成される(図16(A)参照)。
【0072】
(7)そして、このレジストパターン1507をマスクとして、エピタキシャル基板1504の表面をエッチングする。これにより、エピタキシャル基板1504の表面に、リセス1508が形成される(図16(B)参照)。エッチング液としては、上述の第2実施形態と同様の、過酸化水素水と燐酸とを純水に混合したものを使用することができる。また、燐酸の代わりにクエン酸を使用してもよい。
【0073】
ここで、リセス1508は、n型GaAs層1503内のみに形成してもよいし、n型AlGaAs層1502にまで達するように形成してもよいが、本実施形態ではn型AlGaAs層1502にまで達するように形成した場合を説明する。この場合、リセス1508の表面には、上述の第2実施形態と同様、酸化膜1509としてAlGa酸化膜が形成される。そして、第2実施形態と同様、AlGa酸化膜1509には、大量の水酸基が含まれる。なお、第1、第2実施形態と同様、As酸化物は、エッチング液中の水に溶解するので、リセス1508の表面膜にならない。
【0074】
(8)次に、第1、第2実施形態と同様、空気雰囲気下で、ホットプレートを用い、所定の湿度制御の下で、エピタキシャル基板1504全体をベークする。ベーク温度は例えば100℃、ベーク時間は例えば1時間である。これにより、水酸基を多量に含む酸化膜1509を、水酸基をほとんど含まないAlGa酸化膜1510に、変化させることができる(図16(C)参照)。
【0075】
(9)その後、通常の堆積技術およびフォトリソグラフィー技術等を用いてゲート電極1511を形成し、レジストパターン1507およびシリコン窒化膜1505を除去し、さらに、保護膜(図示せず)を堆積する。これにより、図16(D)に示したような、高出力パワー電界効果トランジスタが完成する。
【0076】
この実施形態のようにT型ゲート電極を形成する場合も、上述の第2実施形態と同様の、水酸基を大量に含むAlGa酸化膜が形成されると考えられる(図14(A)参照)。このため、LUMOの状態も第2実施形態と同様となり、電子がホッピング伝導できると考えられる。したがって、本発明者は、第1、第2実施形態と同様の脱水処理(図14(B)、(C)参照)を行えば、漏れ電流Igdo を低減することができると考えた。
【0077】
このため、本発明者は、上述のようにして作製した高出力パワー電界効果トランジスタについて、漏れ電流および歩留まりを評価した。この結果、第1、第2実施形態と同様の、優れた評価結果を得ることができた。
【0078】
以上説明したように、この実施形態によれば、T型ゲート電極を使用する高出力パワー電界効果トランジスタの製造に、この発明に係る製造方法を適用することができる。
【0079】
なお、他の種類の半導体材料で形成された領域上にショットキー電極を形成する場合にもこの発明を適用できる点、過酸化水素水と酸またはアルカリとを用いたエッチング液であればどのようなものであっても使用できる点、ショットキー電極を有する半導体デバイスであればリセス構造の高出力パワー電界効果トランジスタ以外のデバイスであってもこの発明を適用できる点は、上述の第1、第2実施形態と同様である。
【0080】
第4の実施の形態
以下、第4の実施形態に係るショットキー電極の製造方法について、この発明を高出力パワー電界効果トランジスタの製造工程に適用する場合を例に採って説明する。
【0081】
この実施形態では、高出力パワー電界効果トランジスタを形成する基板を、InP基板を用いて形成した場合について説明する。
【0082】
図17は、この実施形態に係る電界効果トランジスタの製造方法を説明するための断面工程図である。以下、この実施形態に係る電界効果トランジスタの製造方法について、図17を用いて説明する。
【0083】
この実施形態では、エピタキシャル基板1704として、InP基板1701上にn型InAlAs層1702およびn型InGaAs層1703を形成したものを使用する。なるエピタキシャル基板1704を使用する(図17(A)参照)。n型InAlAs層1702およびn型InGaAs層1703は、上述の第2実施形態と同様、MBE装置やMO−VPE装置を使用して、形成することができる。
【0084】
(1)まず、エピタキシャル基板1704の表面に、上述の第1実施形態と同様にして、ソース電極およびドレイン電極としてのオーミック電極を形成する(図示せず)。
【0085】
(2)続いて、エピタキシャル基板1704の表面にレジスト膜を形成した後、通常のフォトリソグラフィー技術等を用いてリフトオフ加工することにより、ゲート用のレジストパターン1705を形成する(図17(B)参照)。
【0086】
(3)そして、このレジストパターン1705をマスクとしてエピタキシャル基板1704の表面をエッチングする。これにより、エピタキシャル基板1704の表面に、リセス1706が形成される(図17(C)参照)。ここで、エッチング液としては、第1〜第3実施形態と同様、過酸化水素水と燐酸とを純水に混合したものを使用することができる。また、燐酸の代わりに、クエン酸を使用してもよい。
【0087】
ここで、リセス1706は、n型InGaAs層1703内のみに形成してもよいし、n型InAlAs層1702にまで達するように(すなわちInAlAsが露出するように)形成してもよい。リセス1706がn型InGaAs層1703内に形成される場合には、このリセス1706の表面に、酸化膜1707として、InGa酸化膜が形成される。一方、リセス1706がn型InAlAs層1702まで達するように形成される場合には、このリセス1706の表面に、酸化膜1707として、InAl酸化膜が形成される。いずれの場合も、酸化膜1707には、第1〜第3実施形態と同様、大量の水酸基が含まれる。なお、第1〜第3実施形態と同様、As酸化物は、エッチング液中の水に溶解するので、リセス1706の表面膜にならない。
【0088】
(4)次に、第1〜第3実施形態と同様、空気雰囲気下で、湿度制御下で、ホットプレートを用いて、エピタキシャル基板1704全体をベークする。ベーク温度は例えば100℃、ベーク時間は例えば1時間である。これにより、水酸基を多量に含む酸化膜1707を、水酸基をほとんど含まない酸化膜1708に、変化させることができる(図17(D)参照)。
【0089】
(5)その後、第1実施形態と同様にして、ゲート電極(図示せず)を堆積し、レジストパターン1705を除去し、さらに、保護膜(図示せず)を堆積する。これにより、高出力パワー電界効果トランジスタが完成する。
【0090】
本発明者の検討によれば、酸化膜1707がInGa酸化膜の場合は、リセス1706の表面に、図18(A)に示したような状態で、InGa酸化物が形成されると考えられる。このような場合も、上述の第1〜第3実施形態と同様、酸化膜1707には水酸基が大量に含まれる。このため、本発明者は、第1実施形態と同様の計算によって、InGa酸化物に形成されるLUMOおよびHOMOを算出した。その結果、InGa酸化物の場合も電子がホッピング伝導できるような状態になっているとの結論を得た(図18(A)参照)。InGa酸化膜の場合は、LUMOは、骨格部分を成すIn−O結合およびGa−O結合のσ* 軌道であると考えられ、且つ、HOMOは、水酸基を構成する酸素原子の孤立電子対であると考えられる。このような場合、水酸基の酸素原子(図18(B)のα7参照)は、その水酸基の水素原子(図18(B)のα8参照)との結合を解き、隣に存在する他のGa−O結合やIn−O結合のGa原子或いはIn原子(図18(B)のα9参照)と結合して新たなGa−O結合或いはIn−O結合を作ろうとするであろうと、発明者は考えた。このようにして新しいGa−O結合やIn−O結合が生成された場合、酸素原子α7に結合していた水素原子α8はInGa酸化物から分離し、且つ、Ga原子やIn原子α9に結合していた水酸基もInGa酸化物から分離する。これにより、2個の水酸基が、InGa酸化膜から取り除かれることになる(図18(C)参照)。このとき、分離した水素原子および水酸基は、互いに結合して水H2 O(図18(C)のα10参照)を生成すると考えられる。このようにして、本発明者は、酸化膜1707がInGa酸化膜の場合にも、第1実施形態と同様の脱水処理を行えば、漏れ電流Igdo を低減することができると考えるに至った。
【0091】
また、酸化膜1707がInAl酸化膜の場合は、リセス1706の表面に、図19(A)に示したような状態で、InAl酸化物が形成されると考えられる。そして、酸化膜1707には、水酸基が大量に含まれる。このため、本発明者は、第1実施形態と同様の計算によって、InAl酸化物に形成されるLUMOおよびHOMOを算出した。その結果、InAl酸化物の場合も電子がホッピング伝導できるような状態になっているとの結論を得た(図19(A)参照)。InAl酸化膜の場合は、LUMOは、骨格部分を成すIn−O結合およびAl−O結合のσ* 軌道であると考えられ、且つ、HOMOは、水酸基を構成する酸素原子の孤立電子対であると考えられる。したがって、上述のInGa酸化物の場合と同様、水酸基の酸素原子(図19(B)のα11参照)は、その水酸基の水素原子(図19(B)のα12参照)との結合を解き、近傍に存在する他のAl−O結合やIn−O結合のAl原子或いはIn原子(図19(B)のα13参照)と結合して新たなAl−O結合或いはIn−O結合を作ろうとするであろうと、発明者は考えた。このようにして新しいAl−O結合やIn−O結合が生成された場合、酸素原子α11に結合していた水素原子α12はInAl酸化物から分離し、且つ、Al原子やIn原子α13に結合していた水酸基もInAl酸化物から分離する。これにより、2個の水酸基が、InAl酸化膜から取り除かれることになる(図19(C)参照)。このとき、分離した水素原子および水酸基は、互いに結合して水H2 O(図19(C)のα14参照)を生成すると考えられる。このようにして、本発明者は、酸化膜がInAl酸化膜の場合にも、第1実施形態と同様の脱水処理を行えば、漏れ電流Igdo を低減することができると考えるに至った。
【0092】
以上のような理由から、本発明者は、上述のようにして高出力パワー電界効果トランジスタを作製し、漏れ電流および歩留まりを評価した。この結果、酸化膜1707がGa酸化膜の場合およびAlGa酸化膜の場合ともに、第1実施形態と同様の、優れた評価結果を得ることができた。
【0093】
以上説明したように、この実施形態によれば、InP基板を用いた高出力パワー電界効果トランジスタの製造に、この発明に係る製造方法を適用することができる。
【0094】
なお、他の種類の半導体材料で形成された領域上にショットキー電極を形成する場合にもこの発明を適用できる点、過酸化水素水と酸またはアルカリとを用いたエッチング液であればどのようなものであっても使用できる点、ショットキー電極を有する半導体デバイスであればリセス構造の高出力パワー電界効果トランジスタ以外のデバイスであってもこの発明を適用できる点は、上述の第1〜第3実施形態と同様である。
【0095】
第5の実施の形態
次に、第5の実施形態に係るショットキー電極の製造方法について説明する。
【0096】
この実施形態では、水酸基除去工程において湿度を制御する方法について、他の例を説明する。
【0097】
上述の第1〜第4実施形態では、半導体工場の湿度(すなわち環境湿度)を管理することによって、水酸基除去工程の湿度制御を行った。しかしながら、水酸基除去工程のために半導体工場全体の湿度を管理することは、非効率的であり、実用的ではない。すなわち、低コストで効率的に湿度を制御するためには、被処理基板の周囲の湿度を局所的に制御することが望ましい。このため、この実施形態では、以下のようなシステムを用いて湿度制御を行った。
【0098】
図20は、この実施形態に係る湿度制御システムを示す概念図である。図20に示したように、この実施形態では、被処理基板2001をベークするためのホットプレート2002と、被処理基板2001にドライエアー等を吹き付けるための穴あき配管2003とを設ける。
【0099】
通常、半導体工場内の空調システムには、ヘパフィルタ2004が設けられている。しかしながら、上述したようにヘパフィルタ2004は空気中の水分量を完全に除去することができない。
【0100】
このため、この実施形態では、穴あき配管2003を用いてベーク処理中の被処理基板2001にドライエアー等を吹き付けることにより、酸化膜108(図2参照)の周囲湿度を十分に低く制御する。このときの好適な湿度は、例えば50%以下である(図5参照)。
【0101】
ホットプレート2002の加熱条件(温度やベーク時間等)は、特に限定されず、例えば上述の第1実施形態と同じでよい。
【0102】
穴あき配管2003に設けられる排気穴の個数、サイズ、配置等は特に限定されず、被処理基板2001の周囲湿度を好適な値に維持できるように決定される。
【0103】
穴あき配管2003から排気されるガスは、ドライエアーに限定されず、被処理基板2001に実質的に影響を与えることなく、周囲湿度を制御できればよい。例えば、ドライエアーに代えて、窒素等を使用してもよい。また、穴あき配管2003から排気されるガスの流量、温度、湿度等の条件も特に限定されず、ホットプレート2002によるベークを妨げることなく好適な湿度が得られるような条件であればよい。
【0104】
本発明者は、このようなシステムを用いて、上述の第1〜第4実施形態で示したような製造工程により高出力パワー電界効果トランジスタを製造し、漏れ電流および歩留まりを評価した。その結果、第1〜第4実施形態と同様の評価結果(図5参照)を得ることができた。
【0105】
以上説明したように、本実施形態によれば、被処理基板2001の周囲湿度を局所的に制御することができ、したがって、水酸基除去工程における湿度制御を低コストで効率的に行うことができる。
【0106】
第6の実施の形態
次に、第6の実施形態に係るショットキー電極の製造方法について説明する。
【0107】
この実施形態では、水酸基除去工程において湿度を制御する方法について、さらに他の例を説明する。
【0108】
図21は、この実施形態に係る湿度制御システムを示す概念図である。図21に示したように、この実施形態では、被処理基板2110をベークするためのホットプレート2120と、このホットプレート2120を収容する処理容器2130とが設けられる。
【0109】
処理容器2130は、吸気口2131と、排気口2132とを備えている。吸気口2131からは、例えばドライエアー等の、所定湿度のガスが吸気される。また、排気口2132からは、このガスが排気される。このガスの好適な湿度は、例えば50%以下である(図5参照)。
【0110】
ホットプレート2002の温度やベーク時間等は、特に限定されず、例えば上述の第1実施形態と同じでよい。
【0111】
吸気口2131および排気口2132のサイズ、位置等は特に限定されず、被処理基板2110の周囲湿度を好適な値に維持できるように決定される。
【0112】
また、吸気口2131から吸気されるガスは、ドライエアーに限定されず、被処理基板2001に実質的に影響を与えることなく、周囲湿度を制御できればよい。例えば、ドライエアーに代えて、窒素等を使用してもよい。このガスの流量、温度、湿度等の条件も特に限定されず、ホットプレート2002によるベークを妨げることなく好適な湿度が得られるような条件であればよい。
【0113】
本発明者は、このようなシステムを用いて、上述の第1〜第4実施形態で示したような製造工程により高出力パワー電界効果トランジスタを製造し、漏れ電流および歩留まりを評価した。その結果、第1〜第4実施形態と同様の評価結果(図5参照)を得ることができた。
【0114】
以上説明したように、本実施形態によれば、被処理基板2110の周囲湿度を局所的に制御することができ、したがって、水酸基除去工程における湿度制御を低コストで効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】第1の実施の形態に係る電界効果トランジスタの製造方法を説明するための断面工程図である。
【図2】第1の実施の形態に係る電界効果トランジスタの製造方法を説明するための断面工程図である。
【図3】第1の実施の形態に係る評価試験の試験方法を説明するための概念図である。
【図4】第1の実施の形態に係る評価試験の試験方法を説明するためのグラフである。
【図5】第1の実施の形態に係る評価試験の評価結果を説明するための表である。
【図6】第1の実施の形態に係る評価試験の評価結果を説明するためのグラフである。
【図7】第1の実施の形態に係る評価試験の評価結果を説明するためのグラフである。
【図8】第1の実施の形態に係る製造方法の作用を説明するための概念図である。
【図9】第1の実施の形態に係る製造方法の作用を説明するための概念図である。
【図10】第1の実施の形態に係る製造方法の作用を説明するための概念図である。
【図11】第1の実施の形態に係る製造方法の作用を説明するための概念図である。
【図12】第1の実施の形態に係る製造方法の作用を説明するための概念図である。
【図13】第2の実施の形態に係る電界効果トランジスタの製造方法を説明するための断面工程図である。
【図14】第2の実施の形態に係る製造方法の作用を説明するための概念図である。
【図15】第3の実施の形態に係る電界効果トランジスタの製造方法を説明するための断面工程図である。
【図16】第3の実施の形態に係る電界効果トランジスタの製造方法を説明するための断面工程図である。
【図17】第4の実施の形態に係る電界効果トランジスタの製造方法を説明するための断面工程図である。
【図18】第4の実施の形態に係る製造方法の作用を説明するための概念図である。
【図19】第4の実施の形態に係る製造方法の作用を説明するための概念図である。
【図20】第5の実施の形態に係る製造方法の水酸基除去工程に使用するシステムを示す概念図である。
【図21】第6の実施の形態に係る製造方法の水酸基除去工程に使用するシステムを示す概念図である。
【図22】従来の高出力パワー電界効果トランジスタの一構造例を概念的に示す断面図である。
【図23】従来の高出力パワー電界効果トランジスタの一構造例を概念的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0116】
101 GaAs基板
102,106 レジストパターン
103 n型GaAs層
104,105 オーミック電極
107 リセス
108 水酸基を多く含むGa酸化膜
109 水酸基をほとんど含まないGa酸化膜
110 金属層
111 ゲート電極
112 GaおよびTiの酸化膜
113 保護膜
114 高出力パワー電界効果トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面の半導体領域上にショットキー電極を形成する方法であって、
前記半導体領域の表面に形成された酸化膜中の水酸基を減少させるための水酸基除去工程と、
当該水酸基除去工程後の前記酸化膜上にショットキー電極を形成する電極形成工程と、
を有することを特徴とするショットキー電極の製造方法。
【請求項2】
前記酸化膜が、前記水酸基除去工程よりも前に行われるエッチング工程で形成される酸化膜であることを特徴とする請求項1に記載のショットキー電極の製造方法。
【請求項3】
前記半導体領域が、Al、Ga、Inのいずれか一つ以上とAsとを組成材料として含む半導体領域であり、且つ、前記エッチング工程が酸またはアルカリと過酸化水素水とを含むエッチング液を使用して当該半導体領域の表面をエッチングする工程であることを特徴とする請求項2に記載のショットキー電極の製造方法。
【請求項4】
前記エッチング工程が、前記半導体領域の表面に、前記ショットキー電極を形成するリセスを設けるための工程であることを特徴とする請求項2または3に記載のショットキー電極の製造方法。
【請求項5】
前記酸化膜が、前記水酸基除去工程よりも前に形成された自然酸化膜であることを特徴とする請求項1に記載のショットキー電極の製造方法。
【請求項6】
前記水酸基除去工程が、ホットプレートを用いて、前記基板を加熱する工程であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のショットキー電極の製造方法。
【請求項7】
前記水酸基除去工程が、湿度50%以下の環境下で、前記基板を加熱する工程であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のショットキー電極の製造方法。
【請求項8】
前記水酸基除去工程が、湿度管理されたガスを前記半導体領域に吹き付けることにによって湿度制御を行いつつ、前記基板を加熱する工程であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のショットキー電極の製造方法。
【請求項9】
前記水酸基除去工程が、湿度管理されたガスを処理容器内に導入することによって湿度制御を行いつつ、前記基板を加熱する工程であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のショットキー電極の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2006−93595(P2006−93595A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−279900(P2004−279900)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】