説明

タービン保護装置

【課題】タービン翼車に共振時の応力が強く作用しないようにしてターボチャージャの必要強度を軽減し、該ターボチャージャにかかるコストを削減する。
【解決手段】タービン2b側のノズル部に多数の角度調整可能なノズルベーンを環状に備えてノズル開度を任意に変更し得るようにした可変ノズル式のターボチャージャ2のタービン保護装置に関し、ターボチャージャ2の回転数を検出するターボ回転センサ12(回転数検出手段)と、該ターボ回転センサ12からの検出信号12aに基づきターボチャージャ2の回転数がタービン翼車の共振回転数付近の警戒回転数帯で所定時間継続した時に該警戒回転数帯からターボチャージャ2の回転数を外すべくノズル開度を通常制御から独立して変更する制御装置13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変ノズル式のターボチャージャのタービン保護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、タービン側のノズル部に多数の角度調整可能なノズルベーンを環状に備えてノズル開度を任意に変更し得るようにした可変ノズル式のターボチャージャが知られており、このような可変ノズル式のターボチャージャを採用すれば、エンジン回転数や走行状況等に応じターボチャージャの容量を適宜に変更して理想的な過給効果を得ることができるようになる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−303147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来における可変ノズル式のターボチャージャにおいては、タービン翼車が共振を起こす回転数(共振回転数)を避けて運転することが困難であり、このようなタービン翼車の共振回転数での運転が長く継続されたり、頻繁に繰り返されたりすることでタービン翼車に応力が作用して破損を招く虞れがあった。
【0004】
このため、タービン翼車の剛性アップによる固有振動数の向上、タービンケースの形状や圧力バランスの調整による強制力の低減化、材料強度の大幅な向上、といったコストのかかる対策を施したターボチャージャを採用しなければならず、ターボチャージャに要するコストの大幅な高騰を招いてしまっていた。
【0005】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、タービン翼車に共振時の応力が強く作用しないようにしてターボチャージャの必要強度を軽減し、該ターボチャージャにかかるコストを削減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タービン側のノズル部に多数の角度調整可能なノズルベーンを環状に備えてノズル開度を任意に変更し得るようにした可変ノズル式のターボチャージャのタービン保護装置であって、ターボチャージャの回転数を検出する回転数検出手段と、該回転数検出手段からの検出信号に基づきターボチャージャの回転数がタービン翼車の共振回転数付近の警戒回転数帯で所定時間継続した時に該警戒回転数帯からターボチャージャの回転数を外すべくノズル開度を通常制御から独立して変更する制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0007】
而して、このようにすれば、ターボチャージャの回転数がタービン翼車の共振回転数付近の警戒回転数帯で所定時間継続した際に、制御手段によりノズル開度が通常制御から独立して変更され、ターボチャージャの回転数を前記警戒回転数帯から外す共振回避制御が実行されるので、タービン翼車が所定時間を超えて長く共振し続けるような事態が未然に回避され、これによりタービン翼車に共振時の応力が強く作用しなくなってターボチャージャの必要強度が従来よりも軽減されることになる。
【0008】
また、本発明においては、ターボチャージャの回転数を警戒回転数帯から外す制御により生じたトルク変動を補償するための燃料噴射圧力と燃料噴射タイミングと燃料噴射量の修正を行う燃料噴射制御が制御手段で同時に行われるように構成されていることが好ましい。
【0009】
このようにすれば、ターボチャージャの回転数を警戒回転数帯から外す共振回避制御を実行することでトルク変動が惹起されても、該トルク変動を補償し得るよう制御手段により燃料噴射圧力と燃料噴射タイミングと燃料噴射量が修正されるので、同じアクセル開度に対してトルク変動が起こらなくなる。
【発明の効果】
【0010】
上記した本発明のタービン保護装置によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0011】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、タービン翼車が所定時間を超えて長く共振し続けるような事態を未然に回避することができ、これによりタービン翼車に共振時の応力を強く作用させないようにしてターボチャージャの必要強度を従来より著しく軽減させることができるので、タービン翼車の剛性アップによる固有振動数の向上、タービンケースの形状や圧力バランスの調整による強制力の低減化、材料強度の大幅な向上、といったコストのかかる対策を施さなくて済み、ターボチャージャにかかるコストの大幅な削減化を図ることができる。
【0012】
(II)本発明の請求項2に記載の発明によれば、ターボチャージャの回転数を警戒回転数帯から外す共振回避制御を実行することでトルク変動が惹起されても、該トルク変動を制御手段による燃料噴射制御で補償することができるので、同じアクセル開度に対しトルク変動が起こらないようにしてドライバビリティーの悪化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1〜図3は本発明のタービン保護装置を実施する形態の一例を示すもので、図1中における符号の1は可変ノズル式のターボチャージャ2を搭載したエンジンを示しており、エアクリーナ3から導かれた吸気4が吸気管5を通し前記ターボチャージャ2のコンプレッサ2aへと送られ、該コンプレッサ2aで加圧された吸気4がインタークーラ6へと送られて冷却され、該インタークーラ6から更に吸気マニホールド7へと吸気4が導かれてエンジン1の各気筒8(図1では直列6気筒の場合を例示している)に分配されるようになっており、該各気筒8から排出された排気ガス9は、排気マニホールド10を介しターボチャージャ2のタービン2bへと送られ、該タービン2bを駆動した排気ガス9が排気管11を介し車外へ排出されるようになっている。
【0015】
ここで、ターボチャージャ2には、その回転数を検出するターボ回転センサ12(回転数検出手段)が装備され、該ターボ回転センサ12からの検出信号12aがエンジン制御コンピュータ(ECU:Electronic Control Unit)を成す制御装置13(制御手段)に対し入力されるようになっており、一方、前記制御装置13においては、ターボチャージャ2のタービン2b側に備えたアクチュエータ14に対し制御信号14aが出力されて前記ターボチャージャ2の容量が適宜に変更されるようになっている。
【0016】
即ち、図2に一例を示す如く、前記ターボチャージャ2においては、タービン2bのノズルベーン15が、タービン翼車16周囲のノズル部17に環状に配置されてノズルリングプレート18に対しピン19を介して傾動自在に装着されており、これら各ノズルベーン15の角度が前記ノズルリングプレート18に対するリンクプレート20の円周方向への相対変位により連動して変更されるようになっていて、このリンクプレート20がアクチュエータ14によるレバー21の傾動操作でリンク22を介し回動操作されるようになっている。
【0017】
例えば、一定の排気ガス量に対しノズルベーン15の開度を大きく開くと、ターボチャージャ2のタービン2bにおける排気ガス9の旋速が下がり、これによりタービン2bの回転数が下がってコンプレッサ2a側における吸入空気量が減少するので、結果的にターボチャージャ2の容量が増加することになり(同じ駆動回転数を得るのに多量の排気ガスが必要となる)、これとは反対に、一定の排気ガス量に対しノズルベーン15の開度を絞ると、ターボチャージャ2のタービン2bにおける排気ガス9の旋速が上がり、これによりタービン2bの回転数が上がってコンプレッサ2a側における吸入空気量が増加するので、結果的にターボチャージャ2の容量が減少することになる(同じ駆動回転数を得るのに少量の排気ガスで済む)。
【0018】
そして、通常制御にあっては、制御装置13によりエンジン回転数に応じた最も効率の良い過給が成されるようにターボチャージャ2の容量が制御されるようになっており、より具体的には、ターボチャージャ2の容量を複数段階で変更するものとし、ターボチャージャ2の容量が低速で小容量、中速で中容量、高速で大容量となるように変更する通常制御が制御装置13で行われるようになっている。
【0019】
ただし、本形態例においては、このような通常制御が制御装置13で実行されるだけでなく、ターボ回転センサ12からの検出信号12aに基づきターボチャージャ2の回転数がタービン翼車16の共振回転数付近の警戒回転数帯で所定時間継続した時に、該警戒回転数帯からターボチャージャ2の回転数を外すべくノズル開度を通常制御から独立して変更する共振回避制御が実行されるようになっている。
【0020】
即ち、制御装置13における具体的な制御手順は図3のフローチャートに示す通りであり、ステップS1でターボ回転センサ12からの検出信号12aに基づきターボチャージャ2の回転数が検出され、次いで、ステップS2でターボチャージャ2の回転数[Nt]がタービン翼車16の共振回転数付近の警戒回転数帯[A≦Nt≦B]に突入し且つ所定の[T]秒間継続したか否かが判定され(A,B,Tは任意に設定可能)、「NO」の場合はステップS3へ進んで通常制御が継続されるが、「YES」の場合はステップS4へ進んで警戒回転数帯からターボチャージャ2の回転数を外す共振回避制御が実行されるようになっている。
【0021】
ここで、警戒回転数帯からターボチャージャ2の回転数を外すにあたっては、より早くターボチャージャ2の回転数が警戒回転数帯から外れるように回転数を適宜に増減すれば良いが、基本的には、ノズル開度を開いてターボチャージャ2の回転数を落とすことで警戒回転数帯から外れるようにすることが安全面から好ましい。
【0022】
また、図1に示している例では、アクセル開度(アクセルペダルの踏み込み角)をエンジン1の負荷として検出するアクセルセンサ23(負荷センサ)が備えられていると共に、エンジン1の適宜位置に機関回転数を検出するエンジン回転センサ24が装備されており、これらアクセルセンサ23及びエンジン回転センサ24からの検出信号23a,24aが前記制御装置13に入力されるようになっている。
【0023】
そして、前記制御装置13では、アクセルセンサ23及びエンジン回転センサ24からの検出信号23a,24aに基づいて、運転者が要求する出力が発揮されるよう適切な制御信号25aが燃料噴射装置25に出力されるようになっているが、前述のターボチャージャ2の回転数を警戒回転数帯から外す制御により生じたトルク変動を補償するための燃料噴射圧力と燃料噴射タイミングと燃料噴射量の修正が同時に行われるようになっている。
【0024】
即ち、前記燃料噴射装置25は、図示しないコモンレールに蓄圧した燃料を複数のインジェクタにより各気筒8内に噴射するように構成されており、前記制御装置13からの制御信号25aによりコモンレール内の圧力が調整されて燃料噴射圧力が修正され、また、各インジェクタの電磁弁の開弁タイミングや開弁時間が調整されて燃料噴射タイミングと燃料噴射量とが修正されるようになっている。
【0025】
尚、図中26は排気ガス9の一部を排気マニホールド10から吸気管5へ再循環するEGRパイプ、27は該EGRパイプ26の途中に装備されたEGRバルブ、28は再循環される排気ガス9を水冷するEGRクーラ、29は排気管11の下流側に装備されたマフラを示す。
【0026】
而して、このようにタービン保護装置を構成すれば、ターボチャージャ2の回転数がタービン翼車16の共振回転数付近の警戒回転数帯で所定時間継続した際に、制御装置13からの制御信号14aによりノズル開度が通常制御から独立して変更され、ターボチャージャ2の回転数を前記警戒回転数帯から外す共振回避制御が実行されるので、タービン翼車16が所定時間を超えて長く共振し続けるような事態が未然に回避され、これによりタービン翼車16に共振時の応力が強く作用しなくなってターボチャージャ2の必要強度が従来よりも軽減されることになる。
【0027】
また、特に本形態例においては、ターボチャージャ2の回転数を警戒回転数帯から外す制御により生じたトルク変動を補償するための燃料噴射圧力と燃料噴射タイミングと燃料噴射量の修正を行う燃料噴射制御が制御装置13で同時に行われるようになっているので、ターボチャージャ2の回転数を警戒回転数帯から外す共振回避制御を実行することでトルク変動が惹起されても、該トルク変動を補償し得るよう制御装置13により燃料噴射圧力と燃料噴射タイミングと燃料噴射量が修正され、同じアクセル開度に対してトルク変動が起こらなくなる。
【0028】
従って、上記形態例によれば、タービン翼車16が所定時間を超えて長く共振し続けるような事態を未然に回避することができ、これによりタービン翼車16に共振時の応力を強く作用させないようにしてターボチャージャ2の必要強度を従来より著しく軽減させることができるので、タービン翼車16の剛性アップによる固有振動数の向上、タービンケースの形状や圧力バランスの調整による強制力の低減化、材料強度の大幅な向上、といったコストのかかる対策を施さなくて済み、ターボチャージャ2にかかるコストの大幅な削減化を図ることができる。
【0029】
また、ターボチャージャ2の回転数を警戒回転数帯から外す共振回避制御を実行することでトルク変動が惹起されても、該トルク変動を制御装置13による燃料噴射制御で補償することができるので、同じアクセル開度に対しトルク変動が起こらないようにしてドライバビリティーの悪化を防止することができる。
【0030】
尚、本発明のタービン保護装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、可変ノズル式のターボチャージャにおけるタービンのノズルベーンを角度調整する機構は必ずしも図示例に限定されないこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【図2】図1のタービンのノズルベーンの傾動機構についての詳細図である。
【図3】図1の制御装置の具体的な制御手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0032】
1 エンジン
2 ターボチャージャ
2a コンプレッサ
2b タービン
12 ターボ回転センサ(回転数検出手段)
12a 検出信号
13 制御装置(制御手段)
14 アクチュエータ
14a 制御信号
15 ノズルベーン
16 タービン翼車
17 ノズル部
25 燃料噴射装置
25a 制御信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービン側のノズル部に多数の角度調整可能なノズルベーンを環状に備えてノズル開度を任意に変更し得るようにした可変ノズル式のターボチャージャのタービン保護装置であって、ターボチャージャの回転数を検出する回転数検出手段と、該回転数検出手段からの検出信号に基づきターボチャージャの回転数がタービン翼車の共振回転数付近の警戒回転数帯で所定時間継続した時に該警戒回転数帯からターボチャージャの回転数を外すべくノズル開度を通常制御から独立して変更する制御手段とを備えたことを特徴とするタービン保護装置。
【請求項2】
ターボチャージャの回転数を警戒回転数帯から外す制御により生じたトルク変動を補償するための燃料噴射圧力と燃料噴射タイミングと燃料噴射量の修正を行う燃料噴射制御が制御手段で同時に行われるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のタービン保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−8202(P2008−8202A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179511(P2006−179511)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】