説明

テルル化カドミウム水銀の製造

テルル化カドミウム水銀(CMT)を製造する方法が開示される。方法は、分子ビームエピタキシ(MBE)によって1つまたは複数のバッファ層を基板上に成長させることを含む。その後、xを0と1を含めて、その間としてテルル化カドミウム水銀Hg1−xCdTeの少なくとも1つの層が、有機金属気相エピタキシ(MOVPE)によって成長される。バッファ層を成長させるためにMBEを使用することにより、ある範囲の基板がCMT成長に使用されることが可能になる。MBEバッファ層は、CMTの後続のMOVPE成長について正確な配向を提供し、また、MOVPE中のCMTの化学汚染および基板の侵食を防止する。方法は、CMT層のデバイス処理が、結晶CMT層および/またはパッシベーション層の他のMOVPE成長と共に実施されることをも可能である。本発明は、この方法によって形成される新規なデバイスにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テルル化カドミウム水銀を製造する方法に関し、具体的には、赤外線デバイスにおいて使用することができるテルル化カドミウム水銀層、およびそのように成長されたテルル化カドミウム水銀構造を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テルル化カドミウム水銀Hg1−xCdTeは、検出器、源、LED、負のルミネセンスデバイスなど、赤外線デバイスにおいて使用される材料としてよく知られている。テルル化カドミウム水銀は、CMT(または時にはMCT)と呼ばれ、半導体合金であり、そのバンドギャップは、合金の組成、すなわちカドミウム含有量xを変更することによって変化させることができる。バンドギャップは、短波(SW)、中波(MW)、長波(LW)、および超長波(VLW)にわたる赤外線デバイスの領域について、CMTを使用することができるように調整することが可能である。CMTは、多くの赤外線焦平面アレイの応用分野について選択される材料である。低漏れ電流および高キャリア移動度により、優れた感度を有する検出器が得られる。CMTは、広範な波長にわたる単一帯域および複数帯域のシステムについて最適の解決法であるが、その理由は、適切な組成を選択することによって波長を調整することが可能であり、また、2つ以上の波長が単一デバイス内において動作するように組成が調整される構造を設計および成長させることが可能であるからである。
【0003】
赤外線デバイスを製作する一般的な原理は、よく確立されている。CMTは、結晶基板上にエピタキシャルに成長される。次いで、デバイスは、メサエッチング、イオン注入、またはイオンビームミリングによって形成される。次いで、金属接触が形成され、デバイスは、シリコン読取り回路に結合される。CMTは、バルク結晶としても成長され、このバルク結晶から、イオン注入またはイオンビームミリングによってデバイスが作製されるが、エピタキシャル成長は、バルク結晶成長より有利なことがある。
【0004】
様々なエピタキシャル成長方法が、CMTを製作するために提案されてきた。有機金属気相エピタキシ(MOVPE)が、大領域にわたる再生可能で一様な成長のための技術として首尾よく使用されてきた。米国特許第4650539号は、MOVPEを使用するCMTの製造を記載している。米国特許第4566918号は、一様なCMT構造を形成するために、相互拡散するCdTeおよびHgTeの薄層を成長させるこの技術を修正したものである。米国特許第4950621号は、有機金属化合物の光触媒分解を使用するCMT成長のMOVPE技術を記載している。
【0005】
CMTを成長させる他の方法は、分子ビームエピタキシ(MBE)を含む。赤外線デバイスは、MBEプロセスによってテルルカドミウム亜鉛(Cd1−yZnTeはCZTとしても知られている)基板上に成長されたCMTから形成されてきた。たとえば、M Zandian、JD Garnett、RE Dewames、M Carmody、JG Pasko、M Farris、CA Cabelli、DE Cooper、G Hildebrandt、J Chow、J M Arias、K Vural、およびDNB Hall、J.Electronic Materials32(7)803(2003)、「Mid−wavelength infrared p−on−n Hg1−xCdTe heterostructure detectors:30−120Kelvin state of the art performance」、または、JD Phillips、DD Edwall およびaDL Lee J.Electronic Materials31(7)664(2002)、「Control of very long wavelength infrared HgCdTe detector cut−off wavelength」を参照されたい。
【0006】
赤外線撮像応用分野は、長距離の検出および識別のために、大領域の2次元検出器アレイをますます必要としている。これらのアレイの物理的サイズが大きくなったので、CMTについての従来の基板材料および成長技術の限界が明らかになった。テルル化カドミウム亜鉛は、CMT成長の基板として広く使用されてきたが、大きなアレイの生産について有用性を限定する小さいサイズにおいてのみ利用可能である。同様に基板として使用されてきたテルル化カドミウムも、小さいサイズにおいてのみ利用可能である。さらに、CdTeおよびCZTの両方とも極度に脆弱で、結晶品質は特に良好ではない。
【0007】
ヒ化ガリウム(GaAs)基板は、比較的大きなサイズにおいて利用可能である。しかし、上述されたように、デバイスは、通常、シリコン読取り回路に結合される。動作時、検出器は、熱雑音を低減するために、約80K(しかし、異なるデバイスは、異なる温度において最適に作用する)などの低温にしばしば冷却される。検出器の動作温度において、シリコン読取り回路とGaAs基板との間の熱不整合により、赤外線デバイスが回路から層剥離することがある。この影響は、基板を薄くすることによって低減することができるが、薄くするプロセスは、複雑で、歩留まりを低下させ、生産コストを増大させることがある。熱不整合のこの問題は、テルル化カドミウムおよびCZTの基板にも当てはまる。
【0008】
シリコンが基板として使用される場合、基板は、読取り回路に対して本質的に熱整合されるが、これまで、シリコン基板上に実用的なCMTデバイスのアレイを作製することは、極度に困難であることが実証されていた。たとえば、個々の実用的なLW検出器デバイスは、良好な性能を有してシリコン基板の上に作製されたが、そのようなデバイスのアレイは、良好な実用的検出器をわずかに含み、すなわちアレイの動作性は、非常に不十分である。
【0009】
シリコンは、高い熱伝導率を有するという点で、基板として他の利点を有する。これにより、検出器にとって特に有用なデバイス動作温度により迅速に冷却されることになる。また、赤外線源から熱を有効に除去することにも有益である。
【0010】
シリコン上にCMTを成長させ、CMTを成長させる前にバッファ層をシリコン上に成長させるために、MBE技術が適用されてきた。たとえば、T.J.de Lyon、J.E.Jensen、M.D.Gorwitz、C.A.Cockrum、S.M.Johnson、およびG.M.Venzor、J.Electronic.Materials.28、705(1999)。シリコン上にCMTをMBE成長させることは、難題なタスクであることが実証されていた。第1に、任意の基板上にCMTをMBE成長させるために、成長温度は精確に制御されなければならず、再生可能ウエハ取付け技術および微細基板温度制御を必要とする。第2に、材料の欠陥は、排除することが困難であることが実証されていた。これらの欠陥は、中波長赤外線デバイスの特性(デバイスに応じる)に対して常に深刻な影響を有するとは限らないが、長波長デバイスには悪影響を与える。その結果、MBEによってシリコン上にCMTを成長させることは、困難なプロセスであり、許容可能な中波長赤外線デバイスおよびアレイのみを作製した。
【0011】
実用的なデバイスを作製するために、シリコン上にCMTをMOVPE成長させることにも問題があった。J Electronic Materials25(8)(1996)1347ページ、K Shigenaka、K Matsushita、L Sugiura、F Nakata、およびK Hirahara、M Uchikoshi、M Nagashima、およびH Wada、「Orientation dependence of HgCdTe epitaxial layers grown by MOCVD on silicon substrates」、1353ページ、K Maruyama、H Nishino、T Okamoto、S Murakami、T Saito、Y Nishijima、M Uchikoshi、M Nagahima、およびH Wada、「Growth of (111) HgCdTe on(100)Si by MOVPE using metal organic tellurium absorption and annealing」、または1358ページ H Ebe、T Okamoto、H Nishino、T SaitoおよびY Nishijima、M Uchikoshi、M Nagashima、およびH Wada、「Direct growth of CdTe on(100)、(211)、and (111)Si by metal organic chemical vapour deposition」を参照されたい。
【0012】
したがって、様々な基板、特にシリコン上にCMTを成長させる方法が望ましい。さらに、再生可能で大規模な成長を達成することができ、波長特有の性能を与えるようにCMTの特性を制御することができることが望ましい。また、その方法が、実用的な赤外線デバイスを製作する実行可能プロセスの一部であることが明らかに望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、これらの目標の少なくともいくつかを満たすCMT製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明によれば、0≦x≦1として、テルル化カドミウム水銀Hg1−xCdTeを成長させる方法が提供され、結晶基板を選ぶ(take)ステップと、分子ビームエピタキシによって前記基板上に少なくとも1つのバッファ層を成長させるステップと、その後、有機金属気相エピタキシによって前記少なくとも1つのバッファ層上にテルル化カドミウム水銀の少なくとも1つの層を成長させるステップとを含む。
【0015】
したがって、本発明は、MBE技術とMOVPE技術との組合せである。少なくとも1つのバッファ層が、MBEによって基板材料上に成長される。次いで、CMTが、MOVPE技術を使用して、少なくとも1つのバッファ層の頂部に成長される。バッファ層は、たとえば基板がヒ化ガリウムである場合は、ガリウム原子である基板層の原子によるCMT層の化学汚染を防止することができ、CMT層における格子不整合を軽減することができる。MBEプロセスにより、CMTの成長の基盤を提供する十分に厚く良好な品質のバッファ層を成長させることが可能になる。次いで、CMTは、制御された再生可能な方式で、MOVPEによってバッファ層上に成長させることができる。さらに、少なくとも1つのバッファ層は、その後のMOVPE処理中に基板を保護することができる。いくつかの基板は、MOVPE中の化学的侵食のために、一般的にMOVPEの処理には適していない。
【0016】
したがって、本発明は、良好な品質を有して広範な波長でデバイスにおいて使用することができるCMTを生成するために、MBEおよびMOVPEの両方を組み合わせる。これは、すべてMBEまたはすべてMOVPEのプロセスを使用しようとする、この分野の従来の考えに反するものである。本発明の方法は、2つの別個の処理ステップを必要とし、方法の複雑さを追加するが、本発明者は、2つの技術を結びつけることにより、優れたデバイスを生産した信頼性があり、制御可能なプロセスを提供することができることを実現した。
【0017】
本明細書において使用されるように、テルル化カドミウム水銀という用語は、xが1と0を含めてその間にあるように制御されるとして、組成Hg1−xCdTeを意味する。xが1のとき、物質は実際にはテルル化カドミウムであり、xが0のとき、材料は実際にはテルル化水銀であるが、両方とも、本明細書の目的では、テルル化カドミウム水銀すなわちCMTの用語の範囲内に含まれる。
【0018】
基板は、任意の適切な結晶材料とすることができる。基板は、物理的に頑強であり、大領域検出器については、大領域において利用可能であることが好都合である可能性がある。いくつかの応用分野では、最終デバイスの基板は、適切な波長の赤外線放射に対して透過性であることが必要であるが、これは、基板を薄くすることによって達成することができる。適切な基板材料には、テルル化カドミウム、テルル化亜鉛、テルル化カドミウム亜鉛、セレン化カドミウム亜鉛、およびセレン化テルル化カドミウム亜鉛(しかし、これらは一般的には大領域において利用可能ではない)、ヒ化ガリウム、シリコン、ゲルマニウム、アンチモン化インジウム、アンチモン化インジウムアルミニウム、アンチモン化インジウムガリウム、リン化インジウム、サファイア、アルミナ、または尖晶石(MgAl)がある。
【0019】
いくつかの実施形態では、シリコンが好ましい基板であるが、その理由は、読取り回路と本質的に熱整合されるからである。本発明の方法により、デバイス構造をシリコン上に成長させ、非常に良好なデバイス性能を有して、赤外線波長の全領域にわたって任意の波長において動作するように調整することが可能になる。
【0020】
基板の配向は、正確な材料成長を保証することにおいて重要である。配向は、MBEによるバッファ層の正確な成長を可能にし、バッファ層が、MOVPEによるCMTの成長の正確な配向を有することを保証するはずである。したがって、基板は、<111>または<110>の方向において、形態{100}からミスアライメントされるように配置されることが好ましい。ミスアライメントの程度は、1°と10°との間であることが好ましい。このように基板の配向をミスアライメントさせることにより、MBEバッファ層において欠陥が構築されることが防止される。基板がシリコンであるとき、基板の配向は、[111]の方向に向かってミスアライメントされた(001)であることが好ましく、ミスアライメントの程度は、1°と10°を含めて、1°〜10°の領域にあることが好ましい。シリコンは、一般に、上に成長させるのがより困難な基板であり、正確な配向が重要となることがある。
【0021】
1つまたは複数のバッファ層の選択は、使用される基板に応じる可能性がある。バッファ層は、MOVPE成長について正確な配向を設定し、基板における種によるCMTの化学汚染を防止する。適切なバッファ層は、テルル化カドミウムおよびテルル化亜鉛を含む。テルル化亜鉛の単一層など単一バッファ層、または層の組合せが、存在することが可能であり、たとえば、テルル化亜鉛の層が、上に成長されたテルル化カドミウムの層を有する基板上に成長されることが可能である。テルル化カドミウム亜鉛は、バッファ層としても使用することが可能である。
【0022】
テルル化亜鉛を成長させるために、テルル化亜鉛がMBE源材料として使用されることが可能であり、元素の亜鉛およびテルル、または元素材料と化合物材料の組合せが使用されることが可能である。同様に、テルル化カドミウムが、元素のカドミウムおよびテルル、あるいはテルル化カドミウムまたは組合せを使用して、成長されることが可能である。バッファ層は、当業者なら認識する標準的なMBE成長プロセスを使用して成長される。
【0023】
バッファ層のMBE成長後、CMTが、MOVPEによってバッファ層上に成長されることが可能である。しかし、MOVPE成長の前に、バッファ層の表面を清浄にすることが好ましい可能性がある。使用される機器に応じて、バッファ基板を、MBE成長装置からMOVPE反応装置に移送することが必要である可能性があり、および/または処理ステップ間に遅延が存在する可能性がある。バッファ基板が、制御環境において維持されない場合、上部バッファ層の表面上に構築される不純物が存在する可能性がある。清浄は、これらの不純物の少なくともいくらかを除去する。清浄は、MOVPEの当業者なら十分に理解するように、バッファ基板をエッチングすることによって、または任意の適切な清浄プロセスによって実施することが可能である。2つの部分間のロードロックを完備する組合せMBE/MOVPEシステムが適所にある場合、清浄は必要ではない。
【0024】
少なくとも1つのCMT層を成長させる前に、方法は、MOVPEによって少なくとも1つの他のバッファ層を成長させるステップをさらに含むことが可能である。このMOVPEバッファ層は、MBEによって成長されるバッファ層材料と同じ、または異なるとすることが可能である。上述されたように、MBEは、MOVPE成長のための正確な配向を有して、シリコン上に適切なバッファ層を成長させる良好な制御可能方式を与える。しかし、CMTのMOVPE成長の条件をさらに改善するために、MOVPEによってバッファ層を敷設することが有用である可能性がある。たとえば、MBEバッファ層が、基板上のベース層テルル化亜鉛上に成長されたテルル化カドミウムの上部層を備えるとき、方法は、MBECdTe層の頂部上に、MOVPEによって他のテルル化カドミウム層を成長させるステップを含むことが可能である。
【0025】
MOVPEによって他のバッファ層を成長させることにより、バッファ層の厚さを増大させることができ、これは、いくつかの実施形態では有益なことがあり、また、MOVPEは、MBEより迅速な成長方法である。MOVPEバッファ層は、結晶品質を向上させることができる。他のMOVPEバッファ層は、大気に暴露された表面からCMTを隔離するのにも有用である。すなわち、MOVPEバッファ層を敷設することにより、MBEバッファ層の酸化などによるあらゆるわずかな表面不純物、および実施されるとすれば清浄プロセスのあらゆる残留物上を覆うことができる。
【0026】
CMT層の成長は、標準的なMOVPE技術によるものであり、それにより、反応装置に入る先駆物質の濃度は、その蒸気圧力、および可能であれば追加の清浄気体(H)の流れによってさらに希釈される先駆物質を含むバブラを通る気体の流れ(便宜的には水素)によって制御される。このようにして、Hg1−xCdTeは、望ましいデバイス特性を与えるように、xの制御された値を有して成長させることができる。MOVPEプロセスは、米国特許第4566918号において記載されているように、CMT成長の相互拡散された多層プロセスを使用することが好都合である。すなわち、CMTを成長させるステップは、CMTの単一層を与えるように成長中に相互拡散するCdTeおよびHgTeの薄層を連続的に成長させることを含み、CdTeおよびHgTe層の相対的な厚さが、カドミウム含有量xを決定する。
【0027】
使用される有機金属先駆物質は、カドミウムおよびテルルのアルキルなど、任意の適切な揮発性のテルルおよびカドミウムの化合物である。一実施形態では、テルル先駆物質は、ジイソプロピルテルライドであり、カドミウム先駆物質は、ジメチルカドミウムである。
【0028】
CMT層は、nタイプまたはpタイプとすることが可能である適切なドーパントでドーピングすることが可能である。適切なドーパントには、ヨウ素、ヒ素、インジウム、およびアンチモンがあるが、他のドーパントを使用することができる。適切な先駆物質には、ヨウ化イソブチルおよびトリ(ジメチルアミノ)ヒ素がある。
【0029】
一般的には、方法は、意図したデバイスの要件に従って、CMTの2つ以上の層を成長させることを含む。異なる層が、異なる厚さ、組成(Hg1−xCdTeのx)、および/または異なるドーパント、ならびにドーパントの濃度を有することが可能である。
【0030】
したがって、本発明は、記述されたように、広範な赤外線デバイスの作製において使用することができる、制御されたテルル化カドミウム水銀層を成長させる再生可能で有効な方法を提供する。製作される層は、当技術分野において知られているように、デバイスを形成するために、メサエッチング、イオンビームミリング、またはイオン注入することができる。方法は、当業者なら理解するように、デバイスを形成する前に、MOVPEによって1つまたは複数のキャッピング層または接触層を成長させることを含むことが可能である。キャッピング層は、この技術が、メサを形成せずにイオンミリングまたはイオン注入に使用された場合、必要である可能性がある。
【0031】
メサデバイスが形成される場合、デバイスは、当業者なら理解するように、パッシベーション層でコーティングされることが好ましい。メサの側壁は、デバイスの電気的安定性を保証し、かつ材料からの水銀の損失を防止するために、1つまたは複数のパッシベーション層でコーティングされることが好ましい。したがって、方法は、デバイス処理後、デバイスを少なくとも1つのパッシベーション層でコーティングするステップを含むことが好ましい。パッシベーション層は、テルル化カドミウムの層とすることが好都合である可能性がある。パッシベーション層は、MOVPEによって成長されたエピタキシャル層であることが好都合である。
【0032】
本明細書の目的では、デバイス処理という用語は、初期CMT成長後にCMTに適用される任意のステップ、すなわち非平坦なCMT表面を残すエッチングなどの特定のステップにおいて、MOVPEによってCMTを成長させるステップに対するあらゆる中断を含むことが可能である。
【0033】
パッシベーション層を成長させるためにMOVPEを使用することは、本発明の他の新規な態様である。従来のパッシベーション層は、たとえばMBEによって、またはより一般的には蒸着器において加えられた蒸着層である。
【0034】
デバイスをパッシベーションするためにMOVPEを使用することは、いくつかの観点において有利なことがある。第1に、メサデバイスをドライエッチングすることにより、急勾配の側壁を有するデバイスを得ることができ、MBE技術は、材料のビームが側壁に対して垂直ではなく平行であるために、側壁を覆うことがますますできなくなる。メサ間のチャネルを容易に貫通することができる気体に基づくMOVPEプロセスは、そのようなデバイスをコーティングするのにはるかに良好である。
【0035】
MOVPEによって成長されるテルル化カドミウムなどの他のパッシベーション層は、CMT層および結晶でのエピタキシャルであるが、MBEおよび蒸着されたCdTeは、多結晶である。
【0036】
実際、デバイス処理後にエピタキシャル層をさらに成長させる能力は、本発明の他の新規な態様である。これは、デバイス処理後に他のCMT層を成長させることを可能にする。したがって、方法は、デバイス処理後に、MOVPEによってCMTの他のエピタキシャル層を成長させるステップを含むことが有利である可能性がある。したがって、本発明により、CMTサンプルをMOVPE反応装置から除去し、デバイス処理ステージを経て配置し、MOVPE反応装置の中に再配置し、上に成長された他のCMT層を有することが可能になる。サンプルの処理および取扱いに応じて、清浄が、デバイス処理ステージ後に必要である可能性がある。
【0037】
次いで、製作されたデバイスは、提供されて読取り回路に結合された接触を有することができる。シリコンが基板として使用される場合、これにより、薄くするプロセスを必要とせずに、熱整合されたIR透過性の基板を有するデバイスが得られる。さらに、本発明は、長波(>8μm)の赤外線波長において作用する赤外線デバイスをシリコン基板上に作製する手段を提供する。
【0038】
本発明によって可能になるデバイスには、短波の検出器および源、中波の検出器および源、長波の検出器および源、ならびに超長波の検出器および源がある。本発明によって成長されたCMTを使用して、デュアルバンドデバイス、マルチバンドデバイス、ハイパースペクトルデバイス、およびアバランシェデバイスを作製することができる。LEDおよび単一光子源を製作することができるように、負のルミネセンスデバイスを製作することができ、デバイスは、焦平面アレイ赤外線検出器から気体センサの技術分野において使用することができる。本発明の方法を使用して、トランジスタを製作することもできる。
【0039】
本発明は、基板上にバッファ層を作製するためのMBEと、任意の追加のバッファ層であるCMT層およびパッシベーション層を成長させるためのMOVPEとの2つの別個のプロセスを使用することが明らかであろう。これらの2つのプロセスは、異なる時間に異なる種の装置において実施することが可能であるが、上述されたように、MOVPEより前に保護環境において維持されていないバッファ層は、清浄を必要とする可能性がある。
【0040】
したがって、本発明の第2の態様において、有機金属気相エピタキシによってテルル化カドミウム水銀の少なくとも1つの層を成長させるのに適切なバッファ基板を作製する方法が提供される。方法は、結晶基板を選ぶステップと、分子ビームエピタキシによって少なくとも1つのバッファ層を成長させるステップとを含む。したがって、本発明の第2の態様は、MOVPEによるCMTの制御された成長において使用することができる適切なバッファ基板を提供する。MBEバッファ層の成長に関する本発明の第1の態様の実施形態のすべてが、本発明の第2の態様に適用可能である。具体的には、基板は、{100}形態から<111>または<110>に向かってミスアライメントされることが好ましい。基板は、シリコンであることが好ましく、配向は、<111>に対して、1°から10°にミスアライメントされた(001)であることが好ましい。
【0041】
1つまたは複数のバッファ層を成長させる前に、方法は、基板を清浄する、および/または処置する/準備するステップを含むことが好ましい。基板を清浄する方法は、ヒ素フラックスの下で基板を加熱するステップを含むことが可能であり、ヒ素は、フラックスを清浄するのに好ましい材料であるが、代わりにまたは追加として、カドミウム、亜鉛、テルル、テルル化カドミウム、テルル化亜鉛、アンチモン、またはリンなど、他の材料またはその組合せを使用することができる。
【0042】
本発明の第3の態様において、テルル化カドミウム水銀を製造する方法が提供され、分子ビームエピタキシによって結晶基板上に成長された1つまたは複数のバッファ層を備えるバッファ基板を選ぶステップと、有機金属気相エピタキシによってテルル化カドミウム水銀の少なくとも1つの層を成長させるステップとを含む。したがって、本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様によって作製することが可能であるようなバッファ基板を選び、特定のデバイスに必要とされるように少なくとも1つのCMTの層を成長させる。CMT層の成長、バッファ基板の可能な清浄、およびMOVPEによる他のバッファの可能な成長に関する、本発明の第1の態様に関して上述されたすべての実施形態は、本発明の第3の態様に適用可能である。
【0043】
本発明により、赤外線波長の全領域にわたって、検出器または源などの赤外線デバイスにおいて使用されるCMTの作製が可能になり、また、以前は困難であった基板材料の使用が可能になるので、本発明により、新規なデバイスを作製することが可能になる。
【0044】
したがって、本発明の他の態様において、基板、基板上の少なくとも1つのバッファ層、および少なくとも1つのバッファ層上のテルルカドミウム水銀の少なくとも1つの層を備える赤外線デバイスが提供され、基板の配向は、<110>または<111>に対して、1°と10°を含めて、1°から10°だけミスアライメントされた{100}である。この文脈において、デバイスという用語は、焦平面アレイの検出器要素など、適切な回路に接続されているとき、赤外線デバイスとして使用することができる材料構成を指す。すなわち、適切な接触などを有して形成されるとき、検出器要素として機能する。本発明の新規なデバイスは、本発明の方法によって作製されることが好ましく、したがって、上述された方法の利点および実施形態のすべてが適用可能である。具体的には、基板は、シリコンとし、[111]に対して、1°と10°を含めて、1°から10°だけミスアライメントされた配向(001)を有することが可能であり、少なくとも1つのバッファ層は、テルル化亜鉛、テルル化カドミウム、およびテルル化カドミウム亜鉛から選択された1つまたは複数の層を含むことが可能である。
【0045】
本発明の他の態様では、基板、基板上に形成された少なくとも1つのバッファ層、および少なくとも1つのバッファ層上に形成されたテルル化カドミウム水銀の少なくとも1つの層を備える赤外線デバイスが提供される。テルル化カドミウム水銀の少なくとも1つの層は、長波赤外線放射において活性であるように調整され、基板はシリコンである。上記で使用されたように、活性という用語は、CMTが、長波長赤外線放射を検出または放出するように調整されることを意味すると解釈されるべきである。上述されたように、実用的な長波長赤外線CMT検出器をシリコン上に製作することは、以前は不可能であった。本明細書の文脈では、長波赤外線という用語は、8μmより長いカットオフ波長であることを意味すると解釈されるべきである。本発明により、優れた性能を有して、長波長赤外線ルミネセンス源をシリコン上に作製することも可能になった。
【0046】
上述されたように、デバイス処理後に、他のCMT層をCMT上にエピタキシャル成長させることは、本発明の他の新規な態様である。したがって、本発明の他の態様では、0≦x≦1として、Hg1−xCdTeの少なくとも1つの結晶層を成長させる方法が提供され、テルル化カドミウム水銀の少なくとも1つの層において形成された少なくとも1つのメサデバイスを有する基板を選び、かつMOVPEによって前記Hg1−xCdTeの少なくとも1つの層を成長させるステップを含む。
【0047】
ここで、以下の図面を参照して例示としてのみ本発明を記述する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
図1を参照すると、本発明の方法により製作された典型的な赤外線ダイオードが示されている。デバイスは、2つのバッファ層104、106を有するシリコン基板102を備える。バッファ層104は、テルル化亜鉛の薄層であり、バッファ層106は、テルル化カドミウムのより薄い層であるが、記述されるように、他のバッファ層を使用することができる。
【0049】
次いで、デバイスは、3つの異なるCMT層108、110、112を有する。CMT層108は、pドーピング接触層である。層110は、nドーピング吸収層であり、最上CMT層112は、n接触層である。最上CMT層112上に、金属接触114、およびある読取り回路にバンプ結合するためのインジウムバンプ116が形成される。テルル化カドミウム118のパッシベーション層が、金属接触114によって覆われていない上部CMT層112の領域にわたって提供される。したがって、デバイスは、当業者なら理解するように、n−on−pダイオード構造を呈示する。代替として、層108、110、および112の順序を単に反対にすることによって、p−on−n構造を作製することができる。
【0050】
図1に示されたデバイスは、記述されるように、本発明の新規な方法を使用して製作することが可能である。第1に、必要なサイズのシリコンウエハが、選ばれかつ準備される。シリコンは、赤外線放射に対して透過性であり、大きなウエハにおいて利用可能であり、熱伝導率が高く、頑強であり、シリコンであることにより読取り回路に熱整合されるので、好ましい基板材料である。したがって、シリコン基板を使用することにより、デバイスが動作温度(たとえば、約80K)に冷却されるときに熱不整合によって生じる応力が排除される。しかし、テルル化カドミウム、テルル化亜鉛、テルル化カドミウム亜鉛、セレン化カドミウム亜鉛、CdSeTe、CdZnSeTe、および、同様にヒ化ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン化インジウム、アンチモン化インジウムアルミニウム、アンチモン化インジウムガリウム、リン化インジウム、サファイア、アルミナ、または尖晶石など、他の基板材料を使用することができる。
【0051】
シリコンウエハは、配向が[111]に向かって、1°から10°だけミスアライメントされた(001)であるように切断される。{100}配向においてシリコン上のバッファ層上に成長されたCMTは、ドメインおよびヒロック欠陥を形成する傾向を有する。しかし、本発明者は、[111]に向かって(001)から数度の配向不一致が、ドメインを排除し、したがって欠陥を低減することができることを認識した。
【0052】
次いで、シリコン基板は、水素終端表面を残すために、フッ化水素酸/エタノールにおいてエッチングされ、不活性気体で吹付け乾燥される。エッチングは、REOXプロセスを使用して実施することも可能である。次いで、基板は、MBE室にロードされる準備が整う。
【0053】
MBEは、超高真空において行われるプロセスである。図2を参照すると、液体窒素202シュラウドは、真空を維持するのを補助する。源材料は、機械内の滲出セル(204)の内側において、るつぼに含まれる。滲出セル(204)は、るつぼの開端部が、加熱基板(206)を指すように配置される。るつぼの端部を覆うシャッタ(208)が移動されるとき、材料が、るつぼから加熱基板に移送される。
【0054】
基板に移送される材料の量は、るつぼの温度に応じ、温度が高くなると、材料の蒸気圧は高くなり、したがって、より多くの材料が移送される。加熱コイル210が、るつぼの加熱を制御する。システムは真空下にあるので、十分に加熱される場合、一様な低蒸気圧材料が蒸発し、基板に移送されることができる。再び、システムは真空下にあるので、材料のビームは、周囲気体からの妨害がない状態で、滲出セルからサンプルへ移送される。滲出セルは温かく維持されるが、材料を蒸発させるほど高くないアイドリング温度において通常保持される。成長が開始される前、セルは、望ましい層を成長させるために十分な材料がるつぼから蒸発するように、成長温度まで加温される。
【0055】
エッチングされたシリコン基板206は、ロードロックを介してMBEキットにロードされる。基板は、加熱されて回転もするホルダ212の上にクリップ留めされる。回転は、成長層の一様性を補助する。成長中の基板の温度は、付着された材料が再蒸発する温度より低いが、原子が表面上を動き回り、結晶材料を形成することを可能にするように十分高い。
【0056】
必要なバッファ層を成長させるために以前に使用されたMBEキットを使用することが、有益である可能性があることが判明した。以前の成長ランの効果は、その後の高品質の結晶成長を可能にするように、MBEキットを調整することであり得る。したがって、「清浄な」MBEキットで、いくつかの成長ランをまず調整することが有益である可能性がある。
【0057】
室にロードされた後、エッチングされた基板は、ヒ素フラックスの下においてある温度において処置される。基板は、成長温度より高い温度までヒ素フラックスの下において加熱される。ヒ素フラックスは、ヒ素セルの前面からシャッタを移動することによって開始され、シャッタを再配置して、あらゆる過剰なヒ素圧力を室から除去することによって終了される。温度は、成長温度まで下げられ、どの源が成長に使用されるかに応じて必要により、テルル化亜鉛、亜鉛、およびテルルのセルの前からシャッタを移動することによって、テルル化亜鉛の成長が開始される。必要な厚さのテルル化亜鉛が成長した後、シャッタは再配置される。同様に、テルル化カドミウムは、必要によりテルル化カドミウム、カドミウム、およびテルルのセルの前からシャッタを移動することによって成長される。再び、CdTeの成長終了時に、シャッタは再配置される。成長が完了した後、セルは、アイドル温度まで下げられ、基板は冷却されて、機械からアンロードされる。
【0058】
ZnTeの薄いバッファ層が、基板配向を(001)に設定し、その後成長されるCdTeバッファ層の接着を向上させるために、MBEによってシリコン基板上に成長される。MBEによってシリコン上に直接成長されたCdTeは、基板からより剥離しやすい。しかし、いくつかの基板では、接着は問題ではなく、CdTeの単一層またはベース層を使用することができる(たとえば、GaAs基板上において)。また、いくつかのデバイスでは、追加のCdTe層のないZnTeの単一層が十分である。バッファ層は、結晶の品質は約8μmまで厚さと共に増大することができるので、全体で約8μmの厚さを有することが好ましい。しかし、MBEは、比較的緩慢なプロセスであり、したがって、8μmより薄い厚さを許容可能とすることが可能である。
【0059】
成長プロセスの一部は、マイグレーションエンハンストエピタキシ(MEE)を使用して実施することが可能であり、本明細書の目的では、MBEの言及は、MEEの言及を含む。
【0060】
次いで、CdTe/ZnTe/Siは、MOVPE反応装置に移送され、必要に応じてあらゆるエッチング/清浄ステップが実施される。図1に示されたデバイスを作製するために、3つのCMT層が成長され、各層は、米国特許第4566918号において記載された相互拡散多層プロセスによって成長される。MBE装置およびMOVPE装置は、しばしば、機器の別の部分であるが、2つの間にロードロックまたは移送機構を有して、単一ユニットに組み合わせることができない理由はない。キットの特定の部分は、MBE室およびMOVPE室、ならびに2つの間のロードロックまたは移送機構と共に構成することはできない。
【0061】
図3は、MOVPE成長の原理を示し、かつMOVPE成長に適切な装置を示すが、使用される実際の装置は変更することが可能である。米国特許第4566918号においてより完全に記載されているように、水素の供給が、マニホルド1からバブラ6、7、および25に、質量流量制御装置3、4、および23を介して供給される。バルブ8が閉じ、バルブ10および11が開いた状態で、気体がバブラ6を通って流れ、一方、バルブ10および11が閉じ、バルブ8が開いた状態で、質量流量制御装置2からの水素の流れは、バイパスライン14を介してスクラバまたはフィルタ31に向けられる。同様に、バブラ7は、バルブ9、12、および13によって制御することができ、バブラ25は、バルブ26、27、および28によって制御することができる。図3では3つのバルブのみが簡略化のために示されているが、実際にはより多くのバブラが必要とされることが可能である。それにより、各バブラを通る流れを制御することができる。バブラ6、7、および25からの流れは、ミキサ15において混合することが可能であり、ミキサ15で、反応装置ベセル16に入る前に、制御装置5(バルブ32、33によって制御される)からの気体の流れで希釈することが可能であるが、他の構成では、先駆物質を別に反応装置ベセルに供給し、反応装置においてそれらを混合することが好ましい可能性がある。
【0062】
バッファ基板20は、サセプタ21上の反応装置ベセル16に配置される。元素水銀19のバスが、反応装置壁24を介して加熱要素17によって、または水銀バスの下に配置された内部カートリッジヒータなどのあらゆる適切な加熱手段によって加熱され、水銀蒸気の分圧を維持する。バッファ基板は、誘導ヒータ18によって加熱され、または、あらゆる他の適切な手段によって加熱され、それにより、バブラ6、7、および25からの気体流の有機金属先駆物質は、基板の周辺において分解する。
【0063】
バブラ6は、ジメチルカドミウムなどのカドミウムの先駆物質を含み、バブラ7は、ジイソプロピルテルライドなどのテルルの先駆物質を含む。バブラ6および7から反応装置室への気体の流れは、テルル化水銀およびテルル化カドミウムの薄層を成長させるために、バルブの適切な制御によって連続的に制御され、層の厚さは、成長プロセス中に層の相互拡散によって形成される最終的なCMT層の全体的なカドミウム含有量を制御するために制御される。
【0064】
第1のpCMT層を作製するために、pタイプのドーパントが導入されるべきである。適切なpタイプのドーパントは、ヒ素であるが、リンまたはアンチモンなどの他のドーパントを考慮することができる。したがって、ドーパントバブラ25は、トリ(ジメチル)アミノヒ素など(他の揮発性ヒ素成分を使用することができる)の適切な先駆物質を含み、バブラの温度およびこのバブラを通る気体の流れは、適切なドーピングを与えるように制御される。第1のCMT層が成長された後、他のCMT層を連続して成長させることができる。nタイプ層の適切なnタイプのドーパントは、たとえばヨウ化イソブチルを先駆物質として有するヨウ素であるが、他の先駆物質を使用することができ、実際、インジウムなどの他のドーパントを使用することができる。上述されたように、異なるドーパントが使用される場合、MOVPE装置は、図3に示された単一ドーパントバブラではなく、別々に制御することができる複数のドーパントバブラを有する。同様に、任意のMOVPEバッファ層が成長される場合、装置は、バッファ層構成要素の先駆物質を保持するバブラを含むことが可能である。
【0065】
MOVPEによるCMT層の成長に続いて、水銀の豊富な環境において材料をアニ−ルすることが好ましい。これは、水銀の空格子点を充填し、望ましい電気特性を保証する。アニ−ルは、MOVPE反応装置において実施することが可能であり、CMT層の成長直後に実施することが可能であり、または、任意の適切な装置を使用して後に実施することが可能である。
【0066】
55μmピッチの128×128検出器のいくつかの2次元アレイが、上述されたように成長したCMT材料から製作され、長波赤外線波長動作に対して調整された。個々のダイオードは、臭化水素酸を使用してウエットエッチングメサによって形成された。薄い結晶のCdTeパッシベーション層が、MOVPEによって付着された。
【0067】
ドライエッチングを使用することもできる。ドライエッチングされたメサは、メサ間においてはるかにより深く、かつより狭いトレンチを有し、気相MOVPEプロセスの使用は、気体が狭いトレンチをより容易に貫通することができるので、パッシベーションにおいてかなり有利である。パッシベーション層を成長させるためにMOVPEを使用することにより、従来のMBEパッシベーション層を使用して形成された多結晶層とは異なり、より頑強な結晶のCdTe層も得られる。ウィンドウが、金属接触およびインジウムバンプ付着の前に、パッシベーションにエッチングされた(図1参照)。1つのアレイは、デバイスの特性を測定するために、シリコンリードアウトチップに結合されたフリップチップであり、他は、検出器の撮像アレイを実現するために、読取りチップに結合されたフリップチップであった。
【0068】
吸収層のカドミウムの組成(Hg1−xCdTeのx)は、カットオフが最大応答の50%として規定される、10.2μmのカットオフ波長に対応するように設定された。ダイオードの特性は、実質的にゼロの視野(FOV)を有する低温保持装置において温度の関数として測定された。アレイのダイオードの1つにおける80K電流−電圧(I−V)および抵抗−面積の積(R.A)が、図3に示されている。ゼロ電圧RAにおけるR.AおよびRmaxAは、このカットオフ波長(それぞれ〜10オームcmおよび〜10オームcm)を有するデバイスについて高い。降伏特性も優れており、R.A値は、1Vの逆バイアスにおいて10オームcmを超える。
【0069】
アレイの対向端部に配置された2つのダイオードについて温度の関数としてのRAのプロットが、図4に示されている。これらのデバイスについて、予測された拡散および生成−再結合(G−R)限定RA曲線も示されている。両方のダイオードからのRA値は、60Kまで下がる温度について同様であり、CMT組成、ドーピングプロファイル、パッシベーション、および製作が、アレイにわたって一様であることを示す。
【0070】
読取り回路に結合されたアレイからの像(図6)は、99.7%の実用的な検出器からなる。これは、シリコン基板上に成長された長波CMTアレイについて報告された最高の動作性である。
【0071】
上記において与えられた例では、デバイス処理、および次いでパッシベーション層のMOVPE成長が続く、MOVPEによるCMTの唯一の成長ステップが存在したが、この後続の成長ステップは、他のエピタキシャル結晶CMT層の成長を含むことができる。これにより、以前には達成不可能であった複雑なデバイスおよび構造を形成することが可能になる。他のCMT層は、次いで、CMTの他の再成長またはパッシベーション層について必要とされる他のデバイス処理ステップを受けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明による典型的な赤外線検出器構成を示す図である。
【図2】MBEの原理を示す一般的なMBE装置を示す図である。
【図3】MOVPEの原理を示す一般的なMOVPE装置を示す図である。
【図4】本発明の方法を使用して製作された図1に示されたデバイスについて、80Kにおける抵抗−面積および電流−電圧のプロットを示す図である。
【図5】本発明の方法を使用して製作された128×128アレイの対向側面における2つのダイオードについて、温度の関数としてRAのプロットを示す図である。
【図6】シリコン上の128×128長波CMTアレイからの赤外線像を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
xを0≦x≦1として、テルル化カドミウム水銀Hg1−xCdTeを成長させる方法であって、
a)結晶基板を選ぶステップと、
b)分子ビームエピタキシによって前記基板上に少なくとも1つのバッファ層を成長させるステップと、
c)有機金属気相エピタキシによって前記少なくとも1つのバッファ層上にテルル化カドミウム水銀の少なくとも1つの層を成長させるステップとを含む方法。
【請求項2】
基板が、テルル化カドミウム、テルル化亜鉛、テルル化カドミウム亜鉛、ヒ化ガリウム、シリコン、ゲルマニウム、アンチモン化インジウム、アンチモン化インジウムアルミニウム、アンチモン化インジウムガリウム、リン化インジウム、サファイア、セレン化カドミウム亜鉛、セレン化テルル化カドミウム亜鉛、アルミナ、または尖晶石からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基板がシリコンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
結晶基板を選ぶステップが、<111>または<110>の方向において、形態{100}からミスアライメントされるように前記基板を構成することを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
基板のミスアライメントの程度が、1°と10°との間である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
基板がシリコンであり、前記シリコン基板の配向が、[111]の方向に向かってミスアライメントされた(001)である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
分子ビームエピタキシによって少なくとも1つのバッファ層を成長させるステップが、テルル化亜鉛、テルル化カドミウム、およびテルル化カドミウム亜鉛から選択された1つまたは複数の層を成長させるステップを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
分子ビームデピタクシによって少なくとも1つのバッファ層を成長させるステップが、基板上にテルル化亜鉛の層を成長させ、かつ前記テルル化亜鉛の層上にテルル化カドミウムの層を成長させるステップを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
テルル化カドミウム水銀の少なくとも1つの層を成長させるステップの前に、分子ビームエピタキシによって成長された最上バッファ層の表面を清浄するステップをさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
分子ビームエピタキシによって少なくとも1つのバッファ層を成長させた後、有機金属気相エピタキシによって少なくとも1つのバッファ層を成長させるステップをさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
有機金属気相エピタキシステップによって成長された少なくとも1つのバッファ層が、分子ビームエピタキシによって成長されたバッファ層と同じである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
分子ビームエピタキシによって少なくとも1つのバッファ層を成長させるステップが、基板上のベース層のテルル化亜鉛上にテルル化カドミウムの上部層を成長させることを含み、少なくとも1つの他のバッファ層を成長させるステップが、有機金属気相エピタキシによって他のテルル化カドミウムの層を成長させることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つのテルル化カドミウム水銀の層を成長させるステップが、テルル化カドミウム水銀(CMT)の単一層を与えるために、成長中に相互拡散するCdTeおよびHgTeの薄層を連続的に成長させることを含み、CdTeおよびHgTeの層の相対的な厚さが、カドミウムの含有量xを決定する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
有機金属気相エピタキシ(MOVPE)によって少なくとも1つのテルル化カドミウム水銀を成長させるステップにおいて、ジイソプロピルテルライドが、テルルの先駆物質であり、ジメチルカドミウムが、カドミウムの先駆物質である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つのテルル化カドミウム水銀の層を成長させるステップが、テルル化カドミウム水銀の層の少なくとも1つにドーパントをドーピングすることを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ドーパントが、ヨウ素、ヒ素、インジウム、リン、およびアンチモンから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つのテルル化カドミウム水銀の層を成長させるステップが、テルル化カドミウム水銀の複数の層を成長させるステップを含み、テルル化カドミウム水銀の層の少なくともいくつかが、異なる厚さ、組成、ドーパント、および/またはドーパント濃度を有する、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
デバイス処理ステップをさらに含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
デバイス処理ステップ後、デバイスを少なくとも1つのパッシベーション層でコーティングするステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つのパッシベーション層が、テルル化カドミウムを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
デバイスをパッシベーション層でコーティングするステップが、有機金属気相エピタキシによって成長された少なくとも1つのエピタキシャル層を成長させることを含む、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
デバイス処理ステップ後、有機金属気相エピタキシによってテルル化カドミウム水銀の他のエピタキシャル層を成長させるステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
有機金属気相エピタキシによってテルル化カドミウム水銀の少なくとも1つの層を成長させるのに適切なバッファ基板を作製する方法であって、結晶基板を選ぶステップと、分子ビームエピタキシによって少なくとも1つのバッファ層を成長させるステップとを含む、方法。
【請求項24】
基板が、<111>または<110>に向かって{100}の形態からミスアライメントされる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
基板がシリコンである、請求項23または請求項24に記載の方法。
【請求項26】
シリコン基板の配向が、[111]に対して1°から10°にミスアライメントされた(001)である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
分子ビームエピタキシによって少なくとも1つのバッファ層を成長させる前に、基板を清浄する/処置するステップをさらに含む、請求項1から22のいずれか一項、または請求項23から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
基板を清浄する/処置するステップが、ヒ素フラックスの下で基板を加熱するステップを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
分子ビームエピタキシによって結晶基板上に成長された1つまたは複数のバッファ層を備えるバッファ基板を選ぶステップと、有機金属気相エピタキシによってテルル化カドミウム水銀の少なくとも1つの層を成長させるステップとを含む、テルル化カドミウム水銀を製作する方法。
【請求項30】
バッファ基板が、請求項23から28のいずれか一項に記載の方法によって作製されたバッファ基板である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
基板、基板上の少なくとも1つのバッファ層、および少なくとも1つのバッファ層上のテルル化カドミウム水銀の少なくとも1つの層を備える赤外線デバイスであって、基板の配向が、<110>または<111>に対して、1°と10°を含めて、1°から10°だけミスアライメントされた{100}である赤外線デバイス。
【請求項32】
前記基板がシリコンであり、[111]に対して、1°と10°を含めて、1°から10°だけミスアライメントされた配向(001)を有する、請求項31に記載の赤外線デバイス。
【請求項33】
少なくとも1つのバッファ層が、テルル化亜鉛、テルル化カドミウム、およびテルル化カドミウム亜鉛から選択された1つまたは複数の層を含む、請求項31または請求項32に記載の赤外線デバイス。
【請求項34】
基板、基板上に形成された少なくとも1つのバッファ層、および少なくとも1つのバッファ層上に形成されたテルル化カドミウム水銀の少なくとも1つの層を備える赤外線デバイスであって、テルル化カドミウム水銀の少なくとも1つの層が、長波赤外線波長放射において活性であるように調整され、基板がシリコンである、赤外線デバイス。
【請求項35】
デバイスが検出器である、請求項31から34のいずれか一項に記載の赤外線デバイス。
【請求項36】
デバイスが赤外線源である、請求項31から34のいずれか一項に記載の赤外線デバイス。
【請求項37】
0≦x≦1として、Hg1−xCdTeの少なくとも1つの結晶層を成長させる方法であって、テルル化カドミウム水銀の少なくとも1つの層において形成された少なくとも1つのメサデバイスを有する基板を選び、かつ有機金属気相エピタキシによってHg1−xCdTeの前記少なくとも1つの層を成長させるステップを含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2007−532007(P2007−532007A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506831(P2007−506831)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【国際出願番号】PCT/GB2005/001322
【国際公開番号】WO2005/098097
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)
【Fターム(参考)】