説明

デバイス作製法

【課題】Si−O−Si結合を含む化合物等の基体に対して極めて平滑な膜を、薄膜から厚膜まで広い膜厚範囲で、マイクロ/ナノ領域に位置選択的に形成可能とした基体への膜形成法を用いた、マイクロ/ナノデバイスの作製のための基盤技術となるデバイス作製法を提供する。
【解決手段】予め改質が施された改質部分2aを有する基体2上に、マスクを密着配置して、前記改質部分2aを覆うように、気相中で膜6を位置選択的に形成する工程と、その後、前記改質部分2aのみを化学エッチングする工程とを備える。これによって、基体2及び膜6からなるマイクロトンネル構造を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイス作製法に係り、とくにSi−O−Si結合を含む化合物基体上に、マスクを配置することにより、従来困難とされてきたSi−O−Si結合を含む化合物基体上への平滑な膜の形成を位置選択的に行うことが可能なデバイス作製法に関する。
【背景技術】
【0002】
Si−O−Si結合を含む化合物上へ膜形成を行うと、形成膜表面にはテクスチャ構造やマイクロクラックが形成される場合が多い。これは、形成膜とSi−O−Si結合を含む化合物との熱膨張係数の差によるものと理解されている。このことが、優れた特性を有するSi−O−Si結合を含む化合物のデバイスとしての使用を制限していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
Si−O−Si結合を含む化合物等の基体へ、極めて平滑な膜を、薄膜から厚膜まで広い膜厚範囲で、マイクロ/ナノ領域に位置選択的に形成することにより、Si−O−Si結合を含む化合物等を基礎とした新規マイクロ/ナノデバイスの作製法の確立を課題とする。
【0004】
そこで、本発明は、上記の点に鑑み、Si−O−Si結合を含む化合物等の基体に対して極めて平滑な膜を、薄膜から厚膜まで広い膜厚範囲で、マイクロ/ナノ領域に位置選択的に形成可能とした基体への膜形成法を用いた、マイクロ/ナノデバイスの作製のための基盤技術となるデバイス作製法を提供することを目的とする。
【0005】
本発明のその他の目的や新規な特徴は後述の実施の形態において明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のある態様に係るデバイス作製法は、予め改質が施された改質部分を有する基体上に、マスクを密着配置して、前記改質部分を覆うように、気相中で膜を位置選択的に形成する工程と、その後、前記改質部分のみを化学エッチングする工程とを備えることを特徴としている。
【0007】
前記態様において、前記膜を位置選択的に形成する工程が、前記基体をターゲットに接近させ、レーザーアブレーションを用いて前記基体上に前記膜を形成するものであるとよい。
【0008】
前記態様において、前記マスクは多数の孔が形成されたメッシュ構造であるとよい。
【0009】
前記態様において、前記孔の開口サイズは250μm以下であるとよい。
【0010】
前記態様において、前記基体がSi−O−Si結合を含む化合物基体であるとよい。
【0011】
前記態様において、前記膜を位置選択的に形成する工程では、前記基体の湾曲に対してクラックの発生しない膜を形成するとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Si−O−Si結合を含む化合物等の基体へ、極めて平滑な膜を、薄膜から厚膜まで広い膜厚範囲で、基体面のマイクロ/ナノ領域に位置選択的に形成することにより、Si−O−Si結合を含む化合物等を基礎とした新規マイクロ/ナノデバイスの作製法を確立でき、エレクトロニクス、オプトエレクトロニクス、フォトニクスあるいはバイオ/メディカル分野でのデバイス作製の基盤技術として利用可能であるなど多機能性マイクロ/ナノデバイス作製のための必要不可欠な技術となる。また本発明は、これら電気・電子工学の分野にとどまらず、今後マイクロ・ナノマシーニング技術を利用して発展するデバイス作製の分野に多大に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るデバイス作製法の実施の形態を示す構成図である。
【図2】本発明で利用する膜形成法による膜形成手順を示す説明図である。
【図3】本発明に係るデバイス作製法の実施の形態における膜形成及びその後のマイクロトンネル形成手順を示す説明図である。
【図4】本発明の実施例において、シリコーンゴム及びSiウエハを基体として用い、成膜時間を変化させた場合のDLC膜の表面粗さの原子間力顕微鏡像である。
【図5】本発明の実施例において、マスクの開口サイズとDLC膜の表面粗さとの関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例において、基体−ターゲット間距離と膜厚との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例において、シリコーンゴム基体上に、平滑なDLC膜を、位置選択的に、かつ厚膜として形成した試料表面の光学顕微鏡写真図である。
【図8】本発明の実施例において、予め改質が施されたシリコーンゴム基体上に、PLD法によりDLC膜を形成し、その後改質部分のみを化学エッチングした試料の光学顕微鏡写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、デバイス作製法の実施の形態を図面に従って説明する。
【0015】
図1及び図2は本発明で利用する基体への膜形成法、及び本発明に係るデバイス作製法の実施の形態を示す。図1は実施の形態で用いる実験装置の概略構成であり、チャンバー1内には、マスク3を配置した基体2(例えば基板)が固定支持されており、チャンバー1内部は真空ポンプ(ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプ)で真空排気可能となっている。
【0016】
また、チャンバー1内部の基体2に対向する位置に凝固ペンタノール(C11OH)のターゲット5を形成するためにチャンバー1には液体窒素で冷却されるリザーバー10及び導入管11が設けられている。ターゲット5の形成は、チャンバー内を真空排気するとともに液体窒素によりリザーバーを冷却しておき、導入管11よりチャンバー内に導入したペンタノールを真空中でガス状にして、リザーバー10の底面に吹き付けることにより行うことができる。
【0017】
レーザーアブレーション膜形成(pulsed laser deposition;PLD)法による成膜を行うためのPLD用光源20のレーザー光は集光用光学系21、入射窓22を通してターゲット5の表面に、集光、照射されるようになっている。
【0018】
前記基体2のターゲット5に対向する側には、図2(A)のように、多数の小孔3aが開口したマスク3を密着乃至ごく近接させて配置している。マスク3としては例えば金属製のメッシュマスクを用いることができる。前記小孔3aの形状は丸、三角、四角、その他の多角形等のいずれでもよい。
【0019】
上記装置を用い、まずロータリーポンプでチャンバー1内を4Pa以下まで真空排気し、その後、液体窒素によりリザーバー10を冷却する。次に、ペンタノールを真空中でガス状にし、冷却したリザーバー底面に吹き付けることにより、厚さ数mm程度の凝固ペンタノールからなるターゲット5形成する。ターゲット5の形成後、ターボ分子ポンプによりチャンバー1内を3×10−3Pa以下まで真空排気する。
【0020】
この状態において、PLD用光源20からのレーザー光を集光用光学系21を介し、入射窓22を通してターゲット5の表面に、集光、照射する。このレーザー光の照射によって、レーザーアブレーションによりターゲット5に対向している基体2上にダイヤモンド状炭素(diamond-like carbon;DLC)膜6が形成される。このとき、基体2のターゲット5に対向する側に多数の小孔が開口した金属メッシュ等のマスク3を密着乃至ごく近接させて配置し、開口サイズを適正範囲の値にすることで、平滑膜の形成が従来困難とされてきたSi−O−Si結合を含む化合物で基体2が形成されている場合であっても、図2(B)のように、マスク3を外して基体2側に付着して残ったDLC膜6は、1mm未満の狭い領域(マイクロ/ナノ領域)ではあるが極めて平滑なDLC膜となることが本発明者により見いだされた。詳細な考察は後述の実施例において述べる。
【0021】
また、基体2上に配置したマスク3のパターンに応じて位置選択的にDLC膜6を形成することができる。つまり、マスク3に開口の無い部分を設けることで、開口の無い部分にはDLC膜が成膜されないようにすることが可能である。また、開口の形状に合致した膜パターンを得ることができる。
【0022】
さらに、基体2をターゲット5に接近させた状態で膜形成を行うことにより、数10μmの厚膜を形成可能である。
【0023】
図2(B)のように、マイクロ/ナノ領域の極めて平滑なDLC膜6を多数形成した基体2を湾曲させた場合であっても、平滑なDLC膜6にはクラックの発生は見られない。従って、クラックの発生しない膜を形成可能なデバイス作製法を実現できる。
【0024】
さらに、図3は本発明の実施の形態であって、マイクロトンネル構造を基体上に形成するデバイス作製法を示す。この場合、図3(A)のように、Si−O−Si結合を含む化合物等の基体2に予め改質が施された部分、つまり改質部分2aを形成しておき、その後、上述の図1及び図2で説明した基体への膜形成法により、図3(B)のように改質部分2aを有する基体2上に改質部分2aを覆うように膜6を形成し、その後、図3(C)のように改質部分2aのみを化学エッチングで除去することにより、基体2及び膜6からなるマイクロトンネル構造が得られる。
【0025】
この実施の形態によれば、次の通りの効果を得ることができる。
【0026】
(1) Si−O−Si結合を含む化合物基体2上に、マスク3を配置することにより、従来困難とされてきたSi−O−Si結合を含む化合物基体上への平滑な膜の形成を位置選択的に行うことが可能となる。
【0027】
(2) マイクロ/ナノ領域への膜形成故、レーザーアブレーション膜形成法においては、基体2をターゲット5に接近させることができ、薄膜のみならず厚膜も形成可能となる。
【0028】
(3) 基体2の湾曲に対してクラックの発生しない膜を形成可能である。
【0029】
(4) 基体2及び膜6からなるマイクロトンネル構造を得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明に係るデバイス作製法を実施例で詳述する。
【0031】
図1の実験装置の概略図において、PLD用光源20として、波長790nmのモードロックTi:sapphireレーザー光を再生増幅した、パルス幅130フェムト秒(fs)のfsレーザー光を用いた。実験手順として、まずロータリーポンプでチャンバー1内を4Pa以下まで真空排気し、その後、液体窒素によりリザーバー10を冷却した。次に、ペンタノールを真空中でガス状にし、冷却したリザーバー底面に吹き付けることにより、厚さ約3mmの凝固ペンタノールをターゲット5として形成した。ターゲット形成後、ターボ分子ポンプによりチャンバー内を3×10−3Pa以下まで真空排気した。前記fsレーザー光は、焦点距離170mmの集光用光学系21としての石英レンズを介し、石英製の入射窓22を通してターゲット5の表面に集光させた。基体2には、厚さ2mmのシリコーンゴムを用いた。また、比較のためにSi基板(ウエハ)も用いている。シリコーンゴム基体2上には、予め金属製のメッシュマスク3を配置した。
【0032】
図4は、シリコーンゴム基体及びSiウエハ上にPLD法により形成したDLC膜の原子間力顕微鏡(atomic force microscope;AFM)像を示している。AFM観察したこれら試料は、マスクは使用せずに成膜された場合である。成膜条件は、レーザー光のパルスエネルギー0.8mJ、エネルギー密度10J/cm、パルス繰り返し周波数500Hz、照射時間0分、30分、60分をそれぞれ示し、基体−ターゲット間距離20mmであった。Siウエハ上では平滑なDLC膜が形成しているのに対し、シリコーンゴム基体上では成膜時間とともにテクスチャ構造が形成することがわかった。
【0033】
次に、シリコーンゴム基体上に金属製メッシュマスクを配置した場合を示す。図5は、マスクの開口サイズを変化させたときの、形成膜の表面粗さの測定結果である。マスクの開口サイズが小さくなっていくと、表面粗さは顕著に低減することが判明した。開口サイズ{メッシュの小孔の径(四角孔の場合には一辺の長さ、五角形以上では近似円の径と考えてよい)}は500μm以下で表面粗さを低減する効果が見られるが、さらに開口サイズを小さくして行くことで、低減効果が増す。例えば、開口サイズ10μmのとき、50nm以下の表面粗さの平滑な膜が形成できた。
【0034】
図6は、基体−ターゲット間距離を変化させたときの、形成膜の膜厚を測定した結果である。成膜条件は、レーザー光のパルスエネルギー0.38mJ、エネルギー密度5J/cm、パルス繰り返し周波数1kHzであった。また、シリコーンゴム基体上に配置したマスクの開口サイズは125μm一定とした。例えば、基体−ターゲット間距離5mmでは、30μmの膜厚を有するDLC膜が容易に得られることがわかった。このようにマイクロ領域への膜形成故、基体−ターゲット間距離を極近傍まで接近させることができ、これまで困難とされてきたDLC膜の厚膜化も可能となることが明らかとなった。
【0035】
図7は、これまでの実験結果を基に、シリコーンゴム基体上に平滑なDLC膜を、位置選択的に形成した例を示す。図7は光学顕微鏡によるものである。このときの成膜条件は、レーザー光のパルスエネルギー0.4mJ、エネルギー密度5J/cm、パルス繰り返し周波数1kHz、基体−ターゲット間距離5mmであった。マスクの開口サイズは、図7(A)の場合250μm径、図7(B)は30μm四方であった。また、レーザー光照射時間はそれぞれ30分、60分であった。これら試料は、基体を湾曲させても、膜にクラックが発生することはなかった。
【0036】
図3で説明した実施の形態について、予め改質が施されたシリコーンゴムを基体として用い、その基体上に、PLD法によりDLC膜を形成し、その後改質部分のみを化学エッチングするデバイス作製法について実験を行った。具体的には、図8のように、波長157nmのFレーザー光を、シリコーンゴム基体表面に10μm線幅で線状に露光し、シリカガラス(SiO)改質層(厚さ5μm)を形成した。露光条件は、レーザー光のエネルギー密度10mJ/cm、繰り返し周波数10Hz、照射時間30分であった。その後、PLD法により線幅100μmのDLC膜を形成した。作製した試料を、1重量%のHF水溶液に浸漬し、シリカガラス改質層のみを化学エッチングした。その結果、シリコーンゴム基体上にDLC膜のマイクロトンネル構造が作製できた。
【0037】
上記実施例で述べたように、Si−O−Si結合を含む化合物基体上に、所定開口サイズのマスクを配置することにより、従来困難とされてきたSi−O−Si結合を含む化合物基体上への平滑な膜の形成を位置選択的に行うことが可能となる。また、マイクロ/ナノ領域への膜形成故、レーザーアブレーション膜形成法においては、前記基体をターゲットに接近させることができ、薄膜のみならず厚膜も形成可能となる。さらに、予め改質が施されたSi−O−Si結合を含む化合物基体上に、位置選択的に膜を形成し、その後改質部分のみを化学エッチングすることにより、Si−O−Si結合を含む化合物を基礎とした新規マイクロ/ナノデバイスの開発も可能となる。この結果は、エレクトロニクス、オプトエレクトロニクス、フォトニクスあるいはバイオ/メディカル分野でのデバイス作製に適用可能になるなど、その用途は電気、電子のみならずあらゆる分野で有用である。
【0038】
以上本発明の実施の形態及び実施例について説明してきたが、本発明はこれに限定されることなく請求項の記載の範囲内において各種の変形、変更が可能なことは当業者には自明であろう。
【符号の説明】
【0039】
1 チャンバー
2 基体
3 マスク
5 ターゲット
6 DLC膜
10 リザーバー
11 導入管
20 PLD用光源
21 集光用光学系
22 入射窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め改質が施された改質部分を有する基体上に、マスクを密着配置して、前記改質部分を覆うように、気相中で膜を位置選択的に形成する工程と、
その後、前記改質部分のみを化学エッチングする工程とを備えることを特徴とするデバイス作製法。
【請求項2】
前記膜を位置選択的に形成する工程が、前記基体をターゲットに接近させ、レーザーアブレーションを用いて前記基体上に前記膜を形成するものである請求項1記載のデバイス作製法。
【請求項3】
前記マスクは多数の孔が形成されたメッシュ構造である請求項1又は2記載のデバイス作製法。
【請求項4】
前記孔の開口サイズは250μm以下である請求項3記載のデバイス作製法。
【請求項5】
前記基体がSi−O−Si結合を含む化合物基体である請求項1,2,3又は4記載のデバイス作製法。
【請求項6】
前記膜を位置選択的に形成する工程では、前記基体の湾曲に対してクラックの発生しない膜を形成する請求項1,2,3,4又は5記載のデバイス作製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−256379(P2011−256379A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108952(P2011−108952)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【分割の表示】特願2006−56411(P2006−56411)の分割
【原出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月7日 社団法人応用物理学会発行の「2005年(平成17年)秋季第66回応用物理学会学術講演会講演予稿集第3分冊」に発表
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【Fターム(参考)】