説明

トランスファ成形方法及び成形装置

【課題】ポットからの樹脂漏れを防止するとともに、プランジャをスムーズに摺動させることができるトランスファ成形方法及び成形装置を提供すること。
【解決手段】高周波加熱より溶融させた樹脂20aをキャビティ15に加圧、注入してワークWを樹脂封止するトランスファ成形方法において、金属により形成され上型11、及び絶縁物により形成された下型12に備わる金属製のプランジャ13が高周波発生装置14に接続されており、ワークWの一部を、キャビティ15の外で上型11に接触させた状態で型締めして、高周波発生装置14により上型11及びプランジャ13に高周波を印加し、ワークWを高周波電極として機能させてポット17内に配置した樹脂タブレット20を高周波加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスファ成形方法及び成形装置に関する。より詳細には、型に設けたポット内に樹脂タブレットを配置して高周波加熱するトランスファ成形方法及び成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トランスファ成形では、樹脂タブレットを加熱した金型に押しつけて溶融させ、ランナーを介して、金型内に形成されたキャビティに溶融した樹脂を注入・充填している。ところが、このようなトランスファ成形では、ランナー部で固まった樹脂を無駄樹脂として廃棄しなければならない。特に、電子部品などの樹脂封止に使用する樹脂は高価であり、できるだけ無駄樹脂の発生を回避することが望まれていた。
【0003】
そこで、無駄樹脂の発生を回避するトランスファ成形として、例えば、特許文献1に記載されているように、樹脂タブレットを高周波加熱して溶融させる方法が提案させている。このトランスファ成形技術では、金型に設けたポット内に樹脂タブレットを配置し、ポット内壁に高周波電極を設けて、樹脂タブレットを高周波加熱して溶融させる。その後、溶融した樹脂をプランジャにより、金型内に形成されたキャビティ内に加圧・注入するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−299356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1において、高周波電極の配置についての詳細な記載はないが、図面(公報の図1)の記載から樹脂タブレットと高周波電極とが接していることから考えると、高周波電極の配置は、図8に示すように、ポット104の内壁部が4分割されており、高周波電極107,107間に絶縁物110,110が配置されていると考えられる。このように特許文献1に記載の技術では、ポット104の内壁に高周波電極107,107が配置されているため、ポット104内におけるプランジャの摺動を安定して確保することが困難である。なぜなら、絶縁物110は誘電体であるから、高周波が印加されると加熱されるため、高周波電極107と絶縁物110との間に温度差が生じる。そうすると、図9に示すように、絶縁物100が変形してポット104の形が歪むからである。
【0006】
このようにポット104の形が歪んでしまうと、プランジャと絶縁物110,110の間における隙間が大きくなってしまうため、金型内に形成されたキャビティ内に加圧・注入する際に、その部分から樹脂漏れが発生してしまう。また、ポット104の形が歪むことにより、プランジャのかじりも発生してしまい、キャビティ内にスムーズに樹脂を加圧・注入することができなくなる。
【0007】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、ポットからの樹脂漏れを防止するとともに、プランジャをスムーズに摺動させることができるトランスファ成形方法及び成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、高周波加熱より溶融させた樹脂を一対の型内に形成されたキャビティに加圧、注入してワークを樹脂封止するトランスファ成形方法において、前記一対の型のうち一方の型が金属により形成され、ポットを備える他方の型が絶縁物により形成され、前記一方の型、及び前記他方の型に備わる金属製のプランジャが高周波発生装置に接続されており、ワークの一部を、前記キャビティの外で前記一方の型に接触させた状態で前記一対の型を型締めして、前記高周波発生装置により前記一方の型及び前記プランジャに高周波を印加し、ワークを高周波電極として機能させて前記ポット内に配置した樹脂タブレットを高周波加熱することを特徴とする。
【0009】
このトランスファ成形方法では、ワークの一部を、キャビティの外で一方の型に接触させた状態で型締めして、高周波発生装置により一方の型及びプランジャに高周波を印加し、ワークを高周波電極として機能させてポット内に配置した樹脂タブレットを高周波加熱する。これにより、ワークとプランジャとの間で樹脂タブレットが高周波加熱されるため、ポット内で樹脂タブレットが溶融する。このとき、ポット内壁が加熱されて高温になることがないため、ポットの形が歪むことがない。その後、高周波加熱を止めて、プランジャを移動させて溶融させた樹脂をキャビティ内に加圧、注入する。このとき、ポットが変形していないので、ポットからの樹脂漏れが発生しないし、また、プランジャがスムーズにポット内を摺動するため、プランジャのかじりも発生しない。
【0010】
上記したトランスファ成形方法において、前記ワークが電子部品であり、前記一方の型に接触する部分が前記電子部品のリードフレームであることが好ましい。
【0011】
このトランスファ成形方法を適用して電子部品の樹脂封止を行うことにより、樹脂封止に使用される高価な樹脂の使用量を低減(無駄樹脂の発生を防止)した上で、精度良く電子部品を樹脂封止することができるからである。
【0012】
上記したトランスファ成形方法において、前記他方の型がセラミックで形成されていることが望ましい。
【0013】
他方の型は絶縁物で形成されていればよいが、他方の型をセラミックで形成することにより、他方の型の強度を高めることができる。その結果として、上記した効果に加えて、型の寿命を向上させることもできる。
【0014】
また、上記課題を解決するためになされた本発明の別態様は、高周波加熱より溶融させた樹脂を型内に形成されたキャビティに加圧、注入してワークを樹脂封止するトランスファ成形装置において、金属製の型と樹脂タブレットが配置されるポットが形成されたセラミック製の型とを備える一対の型と、前記セラミック製の型に摺動可能に配置された金属製のプランジャと、前記金属製の型及び前記プランジャに接続された高周波発生装置とを有し、前記一対の型を型締めする際に、ワークの一部を、前記キャビティの外で前記金属製の型に接触させ、前記高周波発生装置により前記金属製の型及び前記プランジャに高周波を印加し、前記ワークを高周波電極として機能させて、前記ポット内に配置された樹脂タブレットを高周波加熱することを特徴とする。
【0015】
このようなトランスファ成形装置により、上記した成形方法を実施することができるので、型内のキャビティに樹脂を加圧、注入する際に、ポットからの樹脂漏れを発生させず、また、プランジャをスムーズにポット内で摺動させてプランジャのかじりを発生させないようにすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るトランスファ成形方法及び成形装置によれば、上記した通り、型内のキャビティに樹脂を加圧、注入する際に、ポットからの樹脂漏れを防止するとともに、プランジャをスムーズに摺動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態に係るトランスファ成形装置の概略構成を示す図である。
【図2】樹脂タブレットをポットに配置した状態を示す図である。
【図3】ワークを下型にセットした状態を示す図である。
【図4】上型と下型とを型締めした状態を示す図である。
【図5】樹脂タブレットを高周波加熱により溶融させた状態を示す図である。
【図6】キャビティ内に溶融樹脂を充填する状態を示す図である。
【図7】キャビティ内に充填した溶融樹脂が硬化した状態を示す図である。
【図8】従来の高周波電極の配置を示す図である。
【図9】図8に示す高周波電極の配置によりポットが変形した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のトランスファ成形方法及び成形装置を具体化した実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。ここでは、ワークである、リードフレームを備える半導体素子を樹脂封止する際に本発明を適用した場合を例示する。
まず、トランスファ成形装置について、図1を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態に係るトランスファ成形装置の概略構成を示す図である。図1に示すように、トランスファ成形装置10には、一対の成形型である上型11及び下型12と、プランジャ13と、高周波発生装置14とが備わっている。なお、本実施の形態では、上型11が可動型であり、下型12が固定型となっているが、これとは逆に、上型11を固定型とし下型12を可動型としてもよい。
【0019】
上型11には、ワークを樹脂封止するために樹脂材料が注入されるキャビティ15aが形成されている。この上型11は、金属により形成されており、高周波発生装置14に接続されている。
【0020】
また、下型12にも、ワークを樹脂封止するために樹脂材料が注入されるキャビティ15bが形成されている。これにより、上型11と下型12とが型締めされることにより、成形型内に樹脂材料の注入空間であるキャビティ15(図4参照)が、キャビティ15a,15bによって形成されるようになっている。この下型12には、ワークを配置するために凹部(不図示)が形成されており、この凹部にワークがセットされることにより、ワークが所定位置に配置される(ワークの位置決めが行われる)ようになっている。
【0021】
さらに、下型12には、キャビティ15bのほぼ中央に連通するように形成された貫通穴16が形成されている。そして、この貫通穴16に金属製のプランジャ13が摺動可能に配置されている。このプランジャ13と貫通穴16とにより、下型12内にポット17が形成されている。ポット17は、樹脂材料を溶融させる箇所であり、ここに樹脂タブレットが配置されるようになっている。なお、ポット17内における樹脂材料の溶融方法についての詳細は後述する。そして、プランジャ13は、高周波発生装置14に接続されており、下型12によって上型11との絶縁が図られている。
【0022】
このように、上型11とプランジャ13との絶縁を確保するため、下型12を絶縁物で形成している。そして、本実施の形態では下型12をセラミックで形成することにより、下型12の強度を高めているため、型寿命を向上させることができる。
【0023】
続いて、上記したトランスファ成形装置10により、ワークを樹脂封止する方法(トラスファ成形方法)について、図2〜図7を参照しながら説明する。図2は、樹脂タブレットをポットに配置した状態を示す図である。図3は、ワークを下型にセットした状態を示す図である。図4は、上型と下型とを型締めした状態を示す図である。図5は、樹脂タブレットを高周波加熱により溶融させた状態を示す図である。図6は、キャビティ内に溶融樹脂を充填する状態を示す図である。図7は、キャビティ内に充填した溶融樹脂が硬化した状態を示す図である。
【0024】
まず、図2に示すように、樹脂封止に使用する樹脂材料である樹脂タブレット20をポット17内に配置する。樹脂タブレット20の材料は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂であればよい。
次に、図3に示すように、下型12の上面(上型11側)に対して、ワークWをセットする。具体的には、下型12に形成された凹部(不図示)にワークWがセットされる。これにより、ワークWが下型12の所定位置に配置される。なお、ワークWは、リードフレーム25を備える半導体素子26である。
【0025】
続いて、図3に示すように、上型11を下降させて、上型11と下型12とを型締めする。これにより、ワークWのうち半導体素子26とリードフレーム25の一部が、キャビティ15内の所定位置に配置される。そして、キャビティ15の外に配置されたリードフレーム25の部分が、上型11と接触する。これにより、ワークWが上型11を介して高周波発生装置に電気的に接続されるため、ワークWを高周波電極として機能させることができるようになる。
【0026】
この状態で、高周波発生装置14を作動させて、上型11及びプランジャ13に高周波を印加する。そうすると、ワークWとプランジャ13とが高周波電極として機能して、図5に示すように、ワークWとプランジャ13との間で樹脂タブレット20が高周波加熱され、ポット17内で溶融する。その後、高周波発生装置14による上型11及びプランジャ13に対する高周波の印加が停止させられる。このとき、上型11は160〜180℃程度に、下型12は70〜100℃程度に加熱されているが、ポット17の内壁部は高温になることはない。このため、ポット17の形が歪まない。
【0027】
そして、図6に示すように、プランジャ13を上昇させて、ポット17内の溶融樹脂20aをキャビティ15内に加圧、注入する。このとき、ポット17が変形していないため、ポット17から溶融樹脂20aが漏れない。また、プランジャ13は、ポット17内をスムーズに摺動するため、プランジャ13のかじりも発生しない。これにより、キャビティ15内に溶融樹脂20aがスムーズに充填される。従って、精度良くワークWを樹脂封止することができる。
【0028】
その後、キャビティ15内への溶融樹脂20aの充填が終了すると、溶融樹脂20aが硬化するのに必要な所要時間が経過すると、図7に示すように、キャビティ15内に充填された溶融樹脂20aが硬化してワークW(半導体素子26)の樹脂封止が完了する。そして、上型11と下型12とが型開きされて樹脂封止されたワークWが取り出される。
【0029】
このように、トランスファ成形装置10によるトランスファ成形方法では、樹脂タブレット20を高周波加熱して溶融させても、ポット17が変形しないため、ポット17からの樹脂漏れが発生しない。また、トランスファ成形装置10には、ランナーが存在しないため、無駄樹脂が発生しない。従って、ワークW(電子部品)の樹脂封止に使用される高価な樹脂の使用量を低減した上で、精度良くワークWを樹脂封止することができる。
【0030】
以上、詳細に説明したように本実施の形態に係るトランスファ成形装置10によるトランスファ成形方法によれば、ワークWのリードフレーム25を、キャビティ15の外で上型11に接触させた状態で型締めして、高周波発生装置14により上型11及びプランジャ13に高周波を印加する。これにより、ワークW及びプランジャ13が高周波電極として機能して、ポット17内に配置した樹脂タブレット20が高周波加熱される。このとき、ポット17の内壁部が加熱されて高温になることがないため、ポット17の形が歪むことがない。従って、プランジャ13を移動させて溶融樹脂20aをキャビティ15内に加圧、注入する際、ポット17からの樹脂漏れが発生しないし、また、プランジャ13がスムーズにポット17内を摺動するため、プランジャ13のかじりも発生しない。
【0031】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した実施の形態では、プランジャ13及びポット17を下型12に設けているが、これらを上型11に設けることもできる。ただし、この場合には、上型11を絶縁物で形成し、下型12を金属で形成する必要がある。
【0032】
また、上記した実施の形態では、電子部品の樹脂封止に本発明を適用した場合を例示したが、電子部品以外であっても電極になり得るワークであれば、本発明を適用してトランスファ成形することができる。
【符号の説明】
【0033】
10 トランスファ成形装置
11 上型
12 下型
13 プランジャ
14 高周波発生装置
15 キャビティ
17 ポット
20 樹脂タブレット
25 リードフレーム
26 半導体素子
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波加熱より溶融させた樹脂を一対の型内に形成されたキャビティに加圧、注入してワークを樹脂封止するトランスファ成形方法において、
前記一対の型のうち一方の型が金属により形成され、ポットを備える他方の型が絶縁物により形成され、
前記一方の型、及び前記他方の型に備わる金属製のプランジャが高周波発生装置に接続されており、
ワークの一部を、前記キャビティの外で前記一方の型に接触させた状態で前記一対の型を型締めして、前記高周波発生装置により前記一方の型及び前記プランジャに高周波を印加し、ワークを高周波電極として機能させて前記ポット内に配置した樹脂タブレットを高周波加熱する
ことを特徴とするトランスファ成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載するトランスファ成形方法において、
前記ワークが電子部品であり、前記一方の型に接触する部分が前記電子部品のリードフレームである
ことを特徴とするトランスファ成形方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載するトランスファ成形方法において、
前記他方の型がセラミックで製作されている
ことを特徴とするトランスファ成形方法。
【請求項4】
高周波加熱より溶融させた樹脂を型内に形成されたキャビティに加圧、注入してワークを樹脂封止するトランスファ成形装置において、
金属製の型と樹脂タブレットが配置されるポットが形成されたセラミック製の型とを備える一対の型と、
前記セラミック製の型に摺動可能に配置された金属製のプランジャと、
前記金属製の型及び前記プランジャに接続された高周波発生装置とを有し、
前記一対の型を型締めする際に、ワークの一部を、前記キャビティの外で前記金属製の型に接触させ、前記高周波発生装置により前記金属製の型及び前記プランジャに高周波を印加し、前記ワークを高周波電極として機能させて、前記ポット内に配置された樹脂タブレットを高周波加熱する
ことを特徴とするトランスファ成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−199346(P2012−199346A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61850(P2011−61850)
【出願日】平成23年3月21日(2011.3.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】