説明

ハイブリッド式作業機械

【課題】ミニショベルのような小型の建設機械において、簡易なハイブリッド方式を採用することで燃費の向上、排ガス特性の改善及び騒音の低減を図り、かつ排出ガス規制をクリアできる安価なハイブリッド式作業機械を提供する。
【解決手段】エンジン出力馬力の制限値HELeが油圧ポンプ21のPQ馬力特性Dにより近接した設定とし、エンジン11をダウンサイジングする。走行高速時にバッテリ33により発電・電動機31を電動機として作動させて出力アシストを行う。バッテリ33の充電時は、トルク制御電磁弁44に制御信号を出力して減トルク制御を行い、エンジン11の余剰トルクを強制的に作り出し、急速充電を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリット式作業機械に係わり、特に小型の油圧ショベル等のハイブリッド式作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油圧ショベル等の作業機械においては、燃費の向上、排ガス特性の改善及び騒音の低減等の観点から、エンジン(ディーゼルエンジン)と電動機を併用するハイブリッド式作業機械が開発され、一部実用化されている。このようなハイブリッド式作業機械の従来技術として例えば特許文献1及び特許文献2に記載のものがある。これらは、エンジンにより駆動される油圧ポンプの補助動力源として電動機を設け、バッテリからの電力により電動機を駆動する一方、エンジンにより電動機を駆動して発電し、この発電した電力をバッテリに蓄電するものである。
【0003】
また、特許文献2では、油圧ショベルの上部旋回体を下部走行体に対して旋回駆動する旋回モータに電動機を採用し、旋回動作の減速時に発生する慣性エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリに蓄電するエネルギー回生を行っている。
【0004】
一方、自動車などのいわゆるオンロード車にあっては、ディーゼルエンジンから排出されるPM(パティキュレート・マター),NOx,CO,HC等の排出量に対する排出ガス規制が実施されており、この排出ガス規制をクリアするため、例えば、特許文献3に記載のような連続再生型パティキュレートフィルター装置などの排出ガス後処理装置を搭載するなどの排出ガス浄化対策が取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−173024号公報
【特許文献2】特開2002−275945号公報
【特許文献3】特開2005−282545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載のような従来のハイブリット式建設機械は、建設機械の中では中型及び大型の建設機械を対象としているため、例えば旋回減速時に発生する慣性エネルギーも大きく、その慣性エネルギーを電気エネルギーに変換することにより、有効に利用することが可能である。しかしながらミニショベルのような小型の建設機械では、旋回動作が行われる頻度が非常に少ないばかりでなく、旋回減速時に発生する慣性エネルギーが非常に小さいために、中型及び大型の建設機械で行われているようなエネルギー回生を行うことができない。また、一般的にミニショベルのような小型の建設機械では、中型及び大型な建設機械でみられるハイブリット方式を採用することが、レイアイト面、コスト面、技術面で非常に困難である。
【0007】
また、油圧ショベル等の作業機械などのオフロード車においても、近年、オンロード車と同様に排出ガス規制が始まり、この排出ガス規制をクリアするため、特許文献3に記載されるような連続再生型パティキュレートフィルター装置などの排出ガス後処理装置を設置することが必要になってきている。しかし、建設機械に排出ガス後処理装置を設置することは非常にコスト高となり、売価高になる傾向がある。特に、特許文献1及び2に記載のようなハイブリッド式建設機械に排出ガス後処理装置を設置することは、排出ガス対策とハイブリッド化の両面からコスト高となり、機械全体の価格が非常に高価となる。ミニショベルのような小型の建設機械においては、売価高は極力避けなければならない。
【0008】
本発明の目的は、ミニショベルのような小型の建設機械において、簡易なハイブリッド方式を採用することで燃費の向上、排ガス特性の改善及び騒音の低減を図り、かつ排出ガス規制をクリアできる安価なハイブリッド式作業機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、エンジンと、このエンジンによって駆動される油圧ポンプと、この油圧ポンプから吐出油によって駆動される走行用油圧モータを含む複数の油圧アクチュエータと、走行用操作装置と、走行速度切替スイッチと、前記エンジンに接続された発電・電動機と、蓄電装置とを有し、前記走行用油圧モータは、前記走行速度切換スイッチの指示に基づいて低速大容量モードと高速小容量モードとに切り換え可能であるハイブリッド式建投機械において、前記走行用油圧モータが高速小容量モードにありかつ前記走行操作装置が操作された運転状態である走行高速時に、前記蓄電装置からの電力により前記発電・電動機を駆動して電動機として作動させ、前記エンジンの出力トルク不足分を補うように制御する制御装置を設けたものとする。
【0010】
このように走行高速時に発電・電動機を駆動して電動機として作動させエンジンの出力トルク不足分を補うことにより、エンジンの定格出力馬力を掘削作業等の油圧ポンプの必要油圧馬力が少ない状態で設定でき、エンジンの定絡出力馬力を下げることでエンジンをダウンサイジングすることが可能になり、燃費の向上、排ガス特性の改善及び騒音の低減が可能となる。また、排ガス特性が改善されるため、排出ガス後処理装置の小型化或いは簡略化が可能となり、場合によっては排出ガス後処理装置をなくすことも可能であり、これによりエンジンのダウンサイジング化によるコスト低減と相まってエンジンの製作コストを低減することができ、機械全体の価格を安くすることができる。更に、アクチュエータ側には発電機等の電気機器を装着しないため、簡易なハイブリッド方式となり、ハイブリッド化によるコストアップの影響を最小に留めることが可能であるとともに、簡易なハイブリッド方式であるためミニショベルのような小型の建設機械であってもレイアウト面の困難性を回避することができる。
【0011】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記制御装置は、前記蓄電装置の充電状態が不十分である場合は、前記油圧ポンプの吸収トルクを下げる減トルク制御を行って前記エンジンの余剰トルクを強制的に作り出す。
【0012】
これにより蓄電装置の急速充電が可能となる。
【0013】
(3)上記(2)において、好ましくは、前記制御装置は、前記走行速度切替スイッチが走行高速を指示しかつ前記走行操作装置が操作されたときに前記蓄電装置の充電状態が不十分である場合は、前記走行速度切替スイッチの走行高速の指示を無効にして、前記走行用油圧モータを低速大容量モードに制御する。
【0014】
これにより蓄電装置の急速充電を確実に行うことができる。
【0015】
(4)また、上記(1)において、好ましくは、前記制御装置は、前記走行高速時以外の運転状態では、前記油圧ポンプを前記エンジン出力トルクのみで駆動するとともに、前記エンジンに余剰トルクがあるときは、その余剰トルクによって前記発電・電動機を駆動して発電機として作動させ、その発電電力を前記蓄電装置に蓄電させる。
【0016】
これにより走行高速時以外の運転状態で、エンジンに余剰トルクがある場合は、減トルク制御をすることなく、蓄電装置の充電を行うことができる。
【0017】
(5)また、上記(1)〜(4)において、好ましくは、前記エンジンの出力馬力を、前記走行高速時に、前記油圧ポンプに必要とされる油圧馬力を賄うことができない大きさの設定とする。
【0018】
これによりエンジンがダウンサイジング化され、燃費の向上、排ガス特性の改善及び騒音の低減を図り、かつ排出ガス規制をクリアできる安価なハイブリッド式作業機械を提供することができる。
【0019】
(6)更に、上記(1)〜(4)において、好ましくは、前記エンジンの出力馬力を、前記走行高速時以外の運転状態では、前記油圧ポンプに必要とされる油圧馬力を賄うことができ、前記走行高速時には、前記油圧ポンプに必要とされる油圧馬力を賄うことができない大きさの設定とする。
【0020】
これによりエンジンがダウンサイジング化され、燃費の向上、排ガス特性の改善及び騒音の低減を図り、かつ排出ガス規制をクリアできる安価なハイブリッド式作業機械を提供することができる。
【0021】
(7)また、上記(1)〜(4)において、より好ましくは、前記エンジンの出力馬力を、排ガス規制対象のエンジン出力馬力より小さい設定とする。
【0022】
これにより高価で複雑な排出ガス後処理装置を搭載する必要がなくなり、機械全体の価格を大きく下げることができる。
【0023】
(8)また、本発明は、エンジンと、このエンジンによって駆動される油圧ポンプと、この油圧ポンプから吐出油によって駆動される走行用油圧モータを含む複数の油圧アクチュエータと、走行用操作装置と、走行速度切替スイッチと、前記エンジンに接続された発電・電動機と、蓄電装置とを有し、前記走行用油圧モータは、前記走行速度切換スイッチの指示に基づいて低速大容量モードと高速小容量モードとに切り換え可能であるハイブリッド式建投機械において、前記蓄電装置の充電状態が不十分である場合は、前記油圧ポンプの吸収トルクを下げる減トルク制御を行って前記エンジンの余剰トルクを強制的に作り出す制御装置を設け、前記制御装置は、前記走行速度切替スイッチが走行高速を指示しかつ前記走行操作装置が操作されたときに前記蓄電装置の充電状態が不十分である場合は、前記走行速度切替スイッチの走行高速の指示を無効にして、前記走行用油圧モータを低速大容量モードに制御するものとする。
【0024】
これによりエンジンをダウンサイジングした場合でも、エンジンに過負荷を与えることなく或いは場合によっては過負荷によってエンジンをストールさせることなく、蓄電装置の急速充電を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、走行高速時に発電・電動機を駆動して電動機として作動させエンジンの出力トルク不足分を補うため、エンジンの定格出力馬力を掘削作業等の油圧ポンプの必要油圧馬力が少ない状態で設定でき、エンジンの定絡出力馬力を下げることでエンジンをダウンサイジングすることが可能になり、燃費の向上、排ガス特性の改善及び騒音の低減が可能となる。また、排ガス特性が改善されるため、排出ガス後処理装置の小型化或いは簡略化が可能となり、場合によっては排出ガス後処理装置をなくすことも可能であり、これによりエンジンのダウンサイジング化によるコスト低減と相まってエンジンの製作コストを低減することができ、機械全体の価格を安くすることができる。更に、アクチュエータ側には発電機等の電気機器を装着しないため、簡易なハイブリッド方式となり、ハイブリッド化によるコストアップの影響を最小に留めることが可能であるとともに、簡易なハイブリッド方式であるためミニショベルのような小型の建設機械であってもレイアウト面の困難性を回避することができる。
【0026】
また、油圧ポンプの減トルク制御を行うことにより蓄電装置の急速充電が可能となり、しかもその蓄電装置の急速充電を確実に行うことができる。
【0027】
更に、走行高速時以外の運転状態で、エンジンに余剰トルクがある場合は、減トルク制御をすることなく、蓄電装置の充電を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例に係わるハイブリッド式建投機械の駆動システムを示す図である。
【図2】ポンプレギュレータの構成の詳細を示す図である。
【図3】ポンプレギュレータのトルク制御部の機能を示すポンプトルク特性図である。
【図4】油圧系のコントロールバルブと複数の油圧アクチュエータのうち、左右の走行用油圧モータに係わる油圧回路部分を示す図である。
【図5】本実施の形態に係わる油圧ショベルの外観を示す図である。
【図6】図6(A)は従来の一般的なミニショベルのエンジン出力馬力の制限値と油圧ポンプのPQ特性(馬力特性)と出力使用範囲との関係を示す図であり、図6(B)は同ミニショベルのエンジン出力馬力特性と出力使用範囲との関係を示す図である。
【図7】図7(A)は本実施の形態のミニショベルのエンジン出力馬力と油圧ポンプのPQ特性(馬力特性)と出力使用範囲との関係を示す図であり、図7(B)は同ミニショベルのエンジン出力馬力特性と出力使用範囲との関係を示す図である。
【図8】本実施の形態のミニショベルにおける減トルク制御時のエンジン出力馬力と油圧ポンプのPQ特性との関係を示す図である。
【図9】電動機による出力アシスト制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】バッテリの充電制御の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明の一実施例に係わるハイブリッド式建投機械の駆動システムを示す図である。建設機械は小型の油圧ショベルである。
【0030】
図1において、1はエンジン系であり、2は油圧系であり、3は発電電動系であり、4は制御系である。
【0031】
エンジン系1は、ディーゼルエンジン11と、エンジンコントロールダイヤル12と、エンジンコントローラ13と、電子ガバナ14とを備えている。ディーゼルエンジン11は、後述する如く、従来のものよりもダウンサイジングした(エンジン出力の小さい)エンジンである。
【0032】
エンジンコントロールダイヤル12はオペレータの操作によりエンジンの目標回転数を指示するものであり、エンジンコントローラ13はエンジンコントロールダイヤル12からの目標回転数信号を入力し、所定の演算処理を行って目標燃料噴射量を求め、電子ガバナ14を制御することによりエンジンの各気筒に噴射される燃料噴射量を制御し、エンジン出力トルクと回転数を制御する。また、エンジンコントローラ13はエンジン負荷率を演算し、エンジン負荷率情報を生成する。エンジン負荷率は、例えば、最大燃料噴射量に対する目標燃料噴射量の割合を演算することにより求められる。
【0033】
エンジン1の出力軸は大径ギヤ6aと小径ギヤ6bからなる動力分配機6を介して油圧系2と発電電動系3に接続されている。
【0034】
油圧系2は、油圧ポンプ21及びパイロットポンプ22と、コントロールバルブ23と、複数の油圧アクチュエータ24a〜24hと、複数の操作装置25,26とを備えている。
【0035】
油圧ポンプ21はエンジン11の出力軸に動力分配機6を介して接続され、エンジン11により駆動される。油圧ポンプ21から吐出された圧油はコントロールバルブ23を介して複数の油圧アクチュエータ24a〜24hに供給され、それぞれの被駆動体を駆動する。油圧ポンプ21は可変容量型であり、押しのけ容積可変機構(例えば斜板)21aと、押しのけ容積可変機構21aの傾転位置を調整し、油圧ポンプの容量を制御するポンプレギュレータ27を備えている。
【0036】
複数の油圧アクチュエータ24a〜24hは、左右の走行用油圧モータと、それ以外の油圧アクチュエータを含み、それ以外の油圧アクチュエータは、例えば、ブーム用油圧シリンダ、アーム用油圧シリンダ、バケット用油圧シリンダ、スイング用油圧シリンダ、ブレード用油圧シリンダを含む。
【0037】
コントロールバルブ23は複数の油圧アクチュエータ24a〜24hに対応する複数のメインスプールを内蔵し、これらメインスプールは操作装置25,26から出力される油圧信号により切換操作される。操作装置25は左右の走行用の操作装置を代表したものであり、操作装置26は走行以外の操作装置を代表したものである。
【0038】
発電電動系3は、発電・電動機31と、インバータ32と、バッテリ(蓄電装置)33と、バッテリコントローラ34と、操作パネル35とを備えている。
【0039】
発電・電動機31はエンジン11の出力軸に動力分配機6を介して接続され、エンジン11に余剰トルクがあるときは、その余剰トルクによって駆動されて発電機として作動する。発電・電動機31が発生した電気エネルギはインバータ32を介してバッテリ33に蓄電される。また、発電・電動機31は、バッテリ33の蓄電量が規定値以上でありかつ油圧ポンプ21をアシスト駆動する必要があるときは、インバータ32を介してバッテリ33の電気エネルギが供給され、電動機として作動する。バッテリコントローラ34はバッテリ33の蓄電量を監視し、操作パネル35はその蓄電量に係わる情報(蓄電情報)を表示する。
【0040】
制御系4は、走行速度切換スイッチ41と、走行の操作パイロット圧センサ42と、走行以外の操作パイロット圧センサ43と、トルク制御電磁弁44と、走行速度切替電磁弁45と、車体コントローラ46とを備え、車体コントローラ46は、走行速度切換スイッチ41、操作パイロット圧センサ42,43、トルク制御電磁弁44、走行速度切替電磁弁45と電気的に接続されている。また、車体コントローラ46はインバータ32、バッテリコントローラ34及びエンジンコントローラ13とも電気的に接続されている。車体コントローラ46は、走行速度切換スイッチ41の指示信号、操作パイロット圧センサ42,43の検出信号、バッテリコントローラ34の蓄電情報及びエンジンコントローラ13のエンジン負荷率情報を入力し、所定の演算処理を行い、インバータ32、トルク制御電磁弁44及び走行速度切替電磁弁45に制御信号を出力する。
【0041】
図2はポンプレギュレータ27の構成の詳細を示す図である。
【0042】
ポンプレギュレータ27は、複数の操作装置25,26の操作量に基づく要求流量に応じた流量を吐出するよう油圧ポンプ21の押しのけ容積可変機構21aの傾転位置を制御する(したがって油圧ポンプの容量を制御する)LS制御部等の要求流量応答制御部と、油圧ポンプ21の最大吸収トルクを予め定められた値を超えないように油圧ポンプ21の押しのけ容積可変機構21aの最大傾転位置を制御する(したがって油圧ポンプの最大容量を制御する)トルク制御部とを有している。図2は、図示の簡略化のため、トルク制御部のみ図示している。また、動力分配機6は図示を省略している。
【0043】
図2において、ポンプレギュレータ27は、油圧ポンプ21の押しのけ容積可変機構21aに作動的に連結された制御スプール27aと、この制御スプール27aに対して油圧ポンプ21の容量増加方向に作用する第1及び第2の2つのバネ27b,27cと、スプール27aに対して油圧ポンプ21の容量減少方向に作用する第1及び第2の2つの受圧部27d,27eとを有している。第1受圧部27dには油圧ポンプ21の吐出圧力がパイロットライン27fを介して導入され、第2受圧部27eにはトルク制御電磁弁44からの制御圧力が制御油路27gを介して導入される。第1及び第2バネ27b,27cは油圧ポンプ21の最大吸収トルクを設定するものであり、第2受圧部27eはその最大吸収トルクを調整する(減トルク制御する)ものである。第1バネ27bは第2バネ27cよりも長く、制御スプール27aが図示の初期位置にあるときは第1バネ27bのみが制御スプール27aに接触して、制御スプール27aを図示右方向に付勢する。制御スプール27aが図示左方向にある程度移動すると第2バネ27cも制御スプール27aに接触して、第1及び第2バネ27b,27cの両方が制御スプール27aを図示右方向に付勢する。
【0044】
トルク制御電磁弁44は、車体コントローラ46から制御信号が出力されていないときは図示のOFF位置にあり、ポンプレギュレータ27の第2受圧部27eをタンクに連通させる。車体コントローラ46から制御信号が出力されると、トルク制御電磁弁44はON位置に切り換えられ、第2受圧部27eに制御圧力としてパイロットポンプ22の吐出圧力が導かれる。パイロットポンプ22の吐出圧力はパイロットリリーフ弁28により一定の値(例えば4Mpa)に保たれている。
【0045】
図3はポンプレギュレータ27のトルク制御部の機能を示すポンプトルク特性図であり、横軸は油圧ポンプ21の吐出圧力を示し、縦軸は油圧ポンプ21の容量を示している。
【0046】
また、図3において、符号TP1及びTP2で示される2つの直線(実線)からなる折れ曲がり線は第1及び第2の2つのバネ27b,27cにより設定される最大吸収トルク特性であり、符号TP3及びTP4で示される2つの直線(一点鎖線)からなる折れ曲がり線はトルク制御電磁弁44からの制御圧力によって減トルク制御された最大吸収トルク特性である。符号TELで示される曲線はエンジン11の最大出力トルクTEmaxを基準として、それよりも所定の余裕分だけ小さくなるように設定されたエンジン11の制限トルクである。
【0047】
ポンプレギュレータ27のトルク制御部は、油圧ポンプ21の吐出圧力に応じて油圧ポンプ21の押しのけ容積改変機構21の最大傾転位置(したがって油圧ポンプ21の最大容量)を制限することで油圧ポンプ21の最大吸収トルクを制限するものである。トルク制御電磁弁44が図2に示すOFF位置にあるとき、ポンプレギュレータ27の第2受圧部27eはタンクに連通し、最大吸収トルク特性は第1及び第2の2つのバネ27b,27cによって実線の直線TP1,TP2からなる折れ曲げ線のように設定される。この場合、油圧ポンプ21の吐出圧力の上昇時に吐出圧力が第1の値P1を超える前は、油圧ポンプ21の吐出圧力が導かれる第1受圧部27dの油圧力は第1バネ27bの付勢力より小さく、油圧ポンプ21の最大容量はqmaxに維持される。すなわち、油圧ポンプ21の容量は要求流量応答制御部の制御によりqmaxまで上昇することができる。油圧ポンプ21の吐出圧力が更に上昇して第1の値P1を超えると、油圧ポンプ21の吐出圧力が導かれる第1受圧部27dの油圧力は第1バネ27bの付勢力より大きくなり、制御スプール27aは図示左方向に移動して、油圧ポンプ21の最大容量は折れ曲げ線の直線TP1に沿って減少する。これにより要求流量応答制御部により制御される油圧ポンプ21の容量は直線TP1が規定する最大容量以下に制限され、油圧ポンプ21の吸収トルク(ポンプ吐出圧力と容量の積)はエンジン11の制限トルクTELを超えないように制御される。
【0048】
油圧ポンプ21の吐出圧力が更に上昇して第2の値P2を超えると、制御スプール27aは第2バネ27cにも接触して、油圧ポンプ21の吐出圧力の上昇量に対する制御スプール27aの移動量の割合(油圧ポンプ21の容量の減少割合)は減少し、油圧ポンプ21の最大容量は直線TP1よりも傾きの小さい直線TP2に沿って減少する。この場合も、油圧ポンプ21の吸収トルクはエンジン11の制限トルクTELを超えないように制御される。油圧ポンプ21の吐出圧力がメインリリーフ弁29の設定圧力に達すると、それ以上油圧ポンプ21の吐出圧力の上昇は阻止される。
【0049】
トルク制御電磁弁44がON位置に切り換わると、第2受圧部27eに制御圧力が導かれ、制御スプール27aには第2受圧部27eの油圧力が第1及び第2バネ27b,27cの付勢力に対向して作用する。これにより第1及び第2バネ27b,27cによる最大吸収トルクの設定は、第2受圧部27eの油圧力の分だけ減少するよう調整され、最大吸収トルク特性は、実線の直線TP1,TP2からなる折れ曲げ線から一点鎖線の直線TP3,TP4からなる折れ曲げ線へとシフトする。その結果、油圧ポンプ21の吐出圧力の上昇時、油圧ポンプ21の最大容量は折れ曲げ線の一点鎖線の直線TP3,TP4に沿って減少する。このときの油圧ポンプ21の最大吸収トルク(ポンプ吐出圧力と最大容量の積)は直線TP1,TP2の最大吸収トルクに比べて小さくなり、エンジン11の余剰トルクが強制的に作り出される。本願明細書では、この制御を減トルク制御という。
【0050】
図4は、油圧系のコントロールバルブと複数の油圧アクチュエータのうち、左右の走行用油圧モータに係わる油圧回路部分を示す図である。図中、左右の走行用のメインスプールを符号23a,23bで示し、左右の走行用油圧モータを符号24a,24bで示している。左右の油圧モータ24a,24bはメインスプール23a,23bを介して油圧ポンプ21に接続されている。
【0051】
左右の油圧モータ24a,24bはそれぞれ可変容量型であり、押しのけ容積可変機構(斜板)24a1,24b1と、押しのけ容積可変機構24a1,24b1をそれぞれ駆動する制御ピストン24a2,24b2とを備えている。制御ピストン24a2,24b2の一側には受圧部24a3,24b3が形成され、その反対側にはバネ24a4,24b4が配置されている。
【0052】
走行速度切替電磁弁45が図示のOFF位置にあるとき、制御ピストン24a2,24b2の受圧部24a3,24b3はタンクに連通しており、制御ピストン24a2,24b2はバネ24a4,24b4の力で押されて図示の位置にあって、押しのけ容積可変機構24a1,24b1は大傾転位置(大容量位置)に保持されている。走行速度切替電磁弁45がON位置に切り換えられると、制御ピストン24a2,24b2の受圧部24a3,24b3に制御圧力としてパイロットポンプ22の吐出圧力が導かれ、これにより制御ピストン24a2,24b2が作動して、押しのけ容積可変機構24a1,24b1は大傾転位置(大容量位置)から小傾転位置(小容量位置)へと切り換えられる。大傾転位置では油圧モータ24a,24bは低速回転が可能であり、走行低速に適した状態となり、小傾転位置では油圧モータ24a,24bは高速回転が可能であり、走行高速に適した状態となる。本明細書では、押しのけ容積可変機構24a1,24b1が大傾転位置にあるときの状態を油圧モータ24a,24bの低速大容量モードといい、押しのけ容積可変機構24a1,24b1が小傾転位置にあるときの状態を油圧モータ24a,24bの高速小容量モードという。
【0053】
図5は本実施の形態に係わる油圧ショベルの外観を示す図である。
【0054】
油圧ショベルは、下部走行体101と、この下部走行体101上に旋回可能に搭載された上部旋回体102と、この上部旋回体102の先端部分にスイングポスト103を介して上下及び左右方向に回動可能に連結されたフロント作業機104とを備えている。下部走行体101はクローラ方式であり、トラックフレーム105の前方側に上下動可能な排土用のブレード106が設けられている。上部旋回体102は基礎下部構造をなす旋回台107と、旋回台107上に設けられたキャビン(運転室)108とを備えている。フロント作業機104はブーム111と、アーム112と、バケット113とを備え、ブーム111の基端はスイングポスト103にピン結合され、ブーム111の先端はアーム112の基端にピン結合され、アーム112の先端はバケット113にピン結合されている。
【0055】
上部旋回体102は下部走行体101に対して図示しない旋回モータにより旋回駆動され、スイングポスト103及びフロント作業機104は旋回台107に対してスイングシリンダ24gにより左右に回動駆動され、ブーム111、アーム112、バケット113は、それぞれ、ブームシリンダ24c、アームシリンダ24d、バケットシリンダ24eを伸縮することにより上下に回動駆動される。下部走行体101は左右の走行モータ24a,24bにより回転駆動され、ブレード106はブレードシリンダ24hにより上下に駆動される。
【0056】
次に、本発明の動作原理とエンジン11の出力馬力の設定について説明する。
【0057】
図6(A)は従来の一般的なミニショベルのエンジン出力馬力の制限値と油圧ポンプのPQ特性(馬力特性)と出力使用範囲との関係を示す図であり、図6(B)は同ミニショベルのエンジン出力馬力特性と出力使用範囲との関係を示す図である。図6(A)の横軸は油圧ポンプの吐出圧力を示し、縦軸は油圧ポンプの吐出流量を示している。図6(B)の横軸はエンジンの回転数を示し、縦軸はエンジンの出力馬力を示している。
【0058】
まず、油圧ポンプのPQ特性について説明する。油圧ポンプのPQ特性とは、ある最大吸収トルク特性を持つ油圧ポンプをエンジンで駆動して回転させ、作業を行ったときに得られる油圧ポンプの出力馬力特性である。図6(A)の油圧ポンプのPQ特性は、一例として、図3に示した最大吸収トルク特性を持つ油圧ポンプ21の場合のものであり、かつエンジン回転数が定格最大回転数にある場合のものである。図6(A)のエンジン出力馬力の制限値と図6(B)のエンジン出力馬力特性も、同様に、エンジン回転数が定格最大回転数にある場合のものである。
【0059】
一般的なミニショベルの作業状態として、走行高速と走行低速と通常作業とを考える。図6(A)及び図6(B)中、Aは走行高速時の出力使用範囲、Bは走行低速時の出力使用範囲、Cは通常作業時の出力使用範囲を示している。走行高速とは、走行用の油圧モータ24a,24bが高速小容量モードにありかつ走行用の操作装置25が操作されて走行している状態をいい、走行低速とは、走行用の油圧モータ24a,24bが低速大容量モードにありかつ走行用の操作装置25が操作されて走行している状態をいう。通常作業とは、走行以外の操作装置26(特にフロント作業機104に係わる油圧アクチュエータ111,112,113及び旋回モータのいずれかに係わる操作装置)が操作されて作業を行っている状態をいう。
【0060】
図6(A)のHELcはエンジン出力馬力の制限値であり、HEmaxcはエンジンの最大出力馬力である。エンジン出力馬力の制限値HELcは、エンジンの最大出力馬力HEmaxcよりも所定の余裕分だけ小さくなるように設定されている。
【0061】
走行高速時はスピード(流量)が必要なため、そのときの油圧ポンプ21の出力は最も大きく、エンジン出力馬力の制限値HELcは、この走行高速時の油圧ポンプ21の出力使用範囲Aに対してある程度の余裕X1を持たせて設定されている。
【0062】
一方、ポンプレギュレータ27の最大吸収トルク特性(図3)は、第1及び第2の2つのバネ27b,27cによって実線の直線TP1,TP2からなる折れ曲げ線のように設定されるため、油圧ポンプ21のPQ特性も同様に符号Dで示すように折れ曲げ線形状となり、通常作業時ではエンジン出力馬力の制限値HELcに対して油圧ポンプ21の出力使用範囲BがX2と大きく離れて、余裕がありすぎる状態となる。これは、エンジン出力馬力をフルに使用していないことを意味する。
【0063】
図7(A)は本実施の形態のミニショベルのエンジン出力馬力と油圧ポンプのPQ特性(馬力特性)と出力使用範囲との関係を示す図であり、図7(B)は同ミニショベルのエンジン出力馬力特性と出力使用範囲との関係を示す図である。
【0064】
本実施の形態では、エンジン11の最大出力馬力HEmaxeを図6(B)に示した従来のエンジン最大出力馬力HEmaxcよりも小さくし、エンジン出力馬力の制限値HELeが油圧ポンプ21のPQ馬力特性Dにより近接した設定とする。更に言えば、本実施の形態では、エンジン11の最大出力馬力HEmaxeを通常作業及び走行低速時である走行高速時以外の運転状態では、油圧ポンプ21に必要とされる油圧馬力を賄うことができ、走行高速時に油圧ポンプ21に必要とされる油圧馬力を賄うことができない大きさの設定とする。通常作業時の出力使用範囲Cは、油圧ポンプ21のPQ特性Dの曲げ線形状の凹部により生じる余裕X3を利用して確保する。
【0065】
そして、走行高速時にはバッテリ33により発電・電動機31を電動機として作動させて出力アシストを行う。図7(A)の点線HELe+HMは出力アシスト後のエンジン出力馬力HELeと電動機出力馬力HMの合計の出力馬力である。
【0066】
このようにエンジン11の出力馬力を従来よりも小さくし、エンジン出力馬力の制限値HELeを油圧ポンプ21のPQ馬力特性Dに近接させることにより、エンジン11の出力馬力をフルに使用できるようになり、エンジン11をダウンサイジング(小さいエンジン)することが可能となる。エンジン11をダウンサイジングすることにより低燃費化、エンジン11から排出される有害なガスの量の低減、及び騒音の低減が可能となる。また、排出ガス後処理装置の小型化或いは簡略化が可能となり、エンジン11のダウンサイジング化によるコスト低減と相まってエンジンの製作コストを低減することができ、機械全体の価格を安くすることができる。更に、アクチュエータ側には発電機等の電気機器を装着しないため、簡易なハイブリッド方式となり、ハイブリッド化によるコストアップの影響を最小に留めることが可能であるとともに、簡易なハイブリッド方式であるためミニショベルのような小型の建設機械であってもレイアウト面の困難性を回避することができる。
【0067】
更に、エンジン11の出力帯によっては排出ガス後処理装置をなくすことが可能であり、機械全体の価格を更に安くすることができる。
【0068】
すなわち、現在の作業機械(オフロード車)に対する排出ガス規制は、出力19kW以上のエンジンを搭載した車両に対して適用され、出力19kW未満のエンジンを搭載した車両は適用外となっている。本実施の形態では、エンジン11を、好ましくは、排ガス規制適用外の出力である19kW未満のエンジン、例えば出力18kWのエンジンとする。このようにエンジン出力を19kW未満とすることで、高価で複雑な排出ガス後処理装置を搭載する必要がなくなり、機械全体の価格を大きく下げることができる。
【0069】
図8は本実施の形態のミニショベルにおける減トルク制御時のエンジン出力馬力と油圧ポンプのPQ特性との関係を示す図である。
【0070】
本実施の形態では、上述したように、走行高速時は、バッテリ33により発電・電動機31を電動機として作動させてエンジン出力をアシストする。このためバッテリ33を充電するための仕組みを確保する必要がある。
【0071】
ここで、バッテリ33の充電は、通常作業時或いは走行低速時にエンジン出力の余裕分で行えることが好ましい。しかし、エンジンをダウンサイジングした場合、バッテリ33の残量が著しく少ない状態では、充電時間が必要以上に掛かってしまう可能性がある。また、走行高速時には必要な充電状態が確保できなくなってしまう可能性がある。そこで、バッテリ33の充電時は、トルク制御電磁弁44に制御信号を出力して減トルク制御を行い、図3の最大吸収トルク特性を実線の直線TP1,TP2から一点鎖線の直線TP3,TP4にシフトすることで、図8のPQ特性をDからDrにシフトする。そして、この減トルク制御により油圧ポンプ21の出力を低下させてエンジン11の余剰トルク乃至は余剰馬力を強制的に作り出し、急速充電を行う。
【0072】
次に、図9及び図10を用いて上述した本発明の動作原理を実現する車体コントローラ46の制御機能について説明する。図9は電動機による出力アシスト制御の処理手順を示すフローチャートであり、図10はバッテリの充電制御の処理手順を示すフローチャートである。
【0073】
<図9:電動機による出力アシスト制御>
車体コントローラ46は走行速度切換スイッチ41の指示信号を入力し、走行速度切換スイッチ41が走行高速を指示しているかどうかを判定する(ステップS100)。走行速度切換スイッチ41が走行高速を指示していなければ何もせず、この判定処理を繰り返す。走行速度切換スイッチ41が走行高速を指示していれば、次に走行の操作パイロット圧センサ42の検出信号を入力し、走行用の操作装置25が操作されたかどうかを判定する(ステップS110)。走行用の操作装置25が操作されていなければ何もせず、ステップS100及びS110の処理を繰り返す。走行用の操作装置25が操作されていれば、次にバッテリコントローラ34から蓄電情報を入力し、バッテリ33の蓄電状態が不十分であるかどうかを判定する(ステップS120)。この判定は、例えばバッテリ33の充電率が30%以下であるかどうかを判定することにより行う。そして、バッテリ33の充電率が30%以上であればバッテリ33の電力を電動・発電機31に供給して電動・発電機31を電動機として作動させ、出力アシストを行う(ステップS130)。これにより図7(A)に点線で示すように、エンジン出力馬力HELeに電動機出力馬力HMを加算したHELe+HMの馬力が得られ、走行高速時の出力使用範囲Aに対して余裕が確保される。また、走行速度切替電磁弁45に制御信号を出力してON位置に切り換え、走行用の油圧モータ24a,24bの押しのけ容積可変機構24a1,24b1を大傾転位置から小傾転位置へと切り換える(ステップS140)。これにより高速走行が可能となる。
【0074】
一方、ステップS120において、バッテリ33の充電率が30%以下である場合は、走行速度切換スイッチ41が走行高速を指示しているにも係わらず、走行速度切替電磁弁45をOFF位置に保持し、走行用の油圧モータ24a,24bを大傾転(大容量)位置のままとする。そして、このときは、以下に説明するバッテリ充電制御によりバッテリの充電が行われる。
<図10:バッテリの充電制御>
車体コントローラ46は、バッテリコントローラ34から蓄電情報を入力し、バッテリ33の蓄電状態が不十分であるかどうか、例えばバッテリ33の充電率が30%以下であるかどうかを判定する(ステップS220)。バッテリ33の充電率が30%以上であれば何もせず、この判定処理を繰り返す。バッテリ33の充電率が30%以下であれば、次に走行の操作パイロット圧センサ42及び走行以外の操作パイロット圧センサ43の検出信号を入力し、走行用の操作装置25及びそれ以外の操作装置26のいずれかが操作されているかどうか(すなわち、現在、オペレータが油圧ショベルを操作中であるかどうか)を判定し(ステップS210)、いずれの操作装置も操作されていない場合(すなわち、油圧ショベルが非操作中である場合)は、次に車体コントローラ46はトルク制御電磁弁44に制御信号を出力している状態であるかどうか(減トルク制御がONであるかどうか)を判定し(ステップS220)、制御信号が出力されている場合は制御信号の出力を停止して(減トルク制御をOFFにして)(ステップS230)、エンジン11の出力トルク(出力馬力)によって充電を開始する(ステップS240)。すなわち、エンジン11の出力トルク(出力馬力)によって発電・電動機31を駆動して発電機として作動させ、その発電電力をバッテリ33に蓄電する。車体コントローラ46がトルク制御電磁弁44に制御信号を出力していない場合は、直ちにエンジン11の出力トルクによる充電を開始する(ステップS240)。次にバッテリ33の蓄電状態が十分であるかどうか、例えばバッテリ33の充電率が70%を超えたかどうかを判定し(ステップS250)、バッテリ33の充電率が70%を超えていなければステップS210の処理に戻り、ステップS210〜S250の処理を繰り返す。バッテリ33の充電率が70%を超えれば、エンジン11の出力トルクによる充電を終了する(ステップS320)。
【0075】
一方、ステップS210において、いずれかの操作装置(走行用の操作装置及びそれ以外の操作装置のいずれか)が操作されている場合は、次に車体コントローラ46はエンジンコントローラ13から負荷率情報を入力し、エンジン11の負荷率に基づいてエンジン11に余剰トルクがあるかどうかを判定する(ステップS260)。この判定では、例えば、負荷率にしきい値(例えば70%)を設定しておき、負荷率がしきい値以下であればエンジン11に余剰トルクがあると判定する。そして、エンジン11に余剰トルクがない場合は、トルク制御電磁弁44に制御信号を出力して減トルク制御を行い(ステップS270)、図3の最大吸収トルク特性を実線の直線TP1,TP2から一点鎖線の直線TP3,TP4にシフトすることで、図8のPQ特性をDからDrにシフトする。そして、この減トルク制御によりエンジン11の余剰トルク及び余剰馬力を強制的に作り出し、充電を開始する(ステップS208)。エンジン11に余剰トルクがある場合は、直ちにその余剰トルクによる充電を開始する(ステップS280)。
【0076】
次にバッテリ33の蓄電状態が不十分であるかどうか、例えばバッテリ33の充電率が70%を超えたかどうかを判定し(ステップS290)、バッテリ33の充電率が70%を超えていなければステップS210の処理に戻り、ステップS210,S260〜S290の処理を繰り返す。なお、この繰り返しの処理の間に、オペレータが操作装置を中立に戻していずれの操作装置も操作されていない状態になった場合は、ステップS210からステップS220に移行し、減トルク制御によらずに充電を継続する(ステップS230→S240)。
【0077】
ステップS290において、バッテリ33の充電率が70%を超えれば、次に車体コントローラ46がトルク制御電磁弁44に制御信号を出力している状態であるかどうか(減トルク制御がONであるかどうか)を判定し(ステップS300)、制御信号が出力されている場合は制御信号の出力を停止して(減トルク制御をOFFにして)(ステップS310)、エンジン11の余剰トルクによる充電を終了する(ステップS320)。制御信号が出力されていない場合は、直ちにエンジン11の余剰トルクによる充電を終了する(ステップS320)。
【0078】
図9のフローチャートで、S100で走行速度切換スイッチ41が走行高速を指示しており、ステップS110で走行用の操作装置25が操作されており、ステップS120でバッテリ33の充電率が30%以下であり、ステップS150で走行速度切替電磁弁45をOFF位置に保持した場合は、図10のフローチャートでは、ステップS200→S210→ステップS260の処理を経由して直ちにステップS270にて減トルク制御が開始され、ステップS280にてバッテリ33の充電が行われる。このように油圧ポンプの減トルク制御を行いかつ走行速度切替電磁弁45をOFF位置に保持して走行用の油圧モータ24a,24bが低速大容量モードに保持することで、エンジン11に過負荷を与えることなく或いは場合によっては過負荷によってエンジン11をストールさせることなく、バッテリ33の急速充電を確実に行うことができる。また、走行用の油圧モータ24a,24bが低速大容量モードに保持することで最低限の走行機能を確保することができる。
【0079】
また、図10のフローチャートでは、ステップS260でエンジン11の余剰トルクの有無を判定し、エンジン11に余剰トルクがあるときは、減トルク制御を行わず、エンジン11の余剰トルクによって発電・電動機31を駆動して発電機として作動させ、バッテリ33を充電するようになっている。これにより走行高速時以外の運転状態で、エンジン11に余剰トルクがある場合は、減トルク制御をすることなく、バッテリ33の充電を行うことができる。
【0080】
更に、図10のフローチャートでは、ステップS210で、いずれの操作装置も操作されていない場合は、ステップS220の流れに移行して、減トルク制御を行わずにバッテリ33を充電できるようになっている。これにより例えば一日の作業開始時や新しい作業現場での作業開始時にバッテリ33の充電状態が不十分である場合は、車体の電源をONして車体コントローラ46を立ち上げるだけで、減トルク制御を行うことなく、自動的にエンジン11の出力トルクによって発電・電動機31を駆動して発電機として作動させ、バッテリ33の充電を行うことができる。
【0081】
なお、上記実施の形態では、作業機械としてクローラのあるミニショベルに本発明を適用した場合について説明したが、ホイールショベル等、その他の小型の作業機械にも同様に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 エンジン系
2 油圧系
3 発電電動系
4 制御系
6 動力分配機
11 エンジン
12 エンジンコントロールダイヤル
13 エンジンコントローラ
14 電子ガバナ
21 油圧ポンプ
21a 押しのけ容積可変機構
22 パイロットポンプ
23 コントロールバルブ
23a,23b 走行用のメインスプール
24a,24b 走行用の油圧モータ
24c〜24h その他の油圧アクチュエータ
24a1,24b1 押しのけ容積可変機構(斜板)
24a2,24b2 制御ピストン
24a3,24b3 受圧部
24a4,24b4 バネ
25 走行用の操作装置
26 走行以外の操作装置
27a 制御スプール
27b,27c 第1バネ及び第2バネ
27d,27e 第1受圧部及び第2受圧部
27f パイロットライン
27g 制御油路
31 発電・電動機
32 インバータ
33 バッテリ(蓄電装置)
34 バッテリコントローラ
35 操作パネル
41 走行速度切換スイッチ
42 走行の操作パイロット圧センサ
43 走行以外の操作パイロット圧センサ
44 トルク制御電磁弁
45 走行速度切替電磁弁
46 車体コントローラ
27b,27c 第1バネ及び第2バネ
101 下部走行体
102 上部旋回体
103 スイングポスト
104 フロント作業機
105 トラックフレーム
106 排土用のブレード
107 旋回台
108 キャビン(運転室)
111 ブーム
112 アーム
113 バケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
このエンジンによって駆動される油圧ポンプと、
この油圧ポンプから吐出油によって駆動される走行用油圧モータを含む複数の油圧アクチュエータと、
走行用操作装置と、
走行速度切替スイッチと、
前記エンジンに接続された発電・電動機と、
蓄電装置とを有し、
前記走行用油圧モータは、前記走行速度切換スイッチの指示に基づいて低速大容量モードと高速小容量モードとに切り換え可能であるハイブリッド式建投機械において、
前記走行用油圧モータが高速小容量モードにありかつ前記走行操作装置が操作された運転状態である走行高速時に、前記蓄電装置からの電力により前記発電・電動機を駆動して電動機として作動させ、前記エンジンの出力トルク不足分を補うように制御する制御装置を設けたことを特徴とするハイブリッド式作業機械。
【請求項2】
請求項1記載のハイブリッド式作業機械において、
前記制御装置は、
前記蓄電装置の充電状態が不十分である場合は、前記油圧ポンプの吸収トルクを下げる減トルク制御を行って前記エンジンの余剰トルクを強制的に作り出すことを特徴とするハイブリッド式作業機械。
【請求項3】
請求項2記載のハイブリッド式作業機械において、
前記制御装置は、
前記走行速度切替スイッチが走行高速を指示しかつ前記走行操作装置が操作されたときに前記蓄電装置の充電状態が不十分である場合は、前記走行速度切替スイッチの走行高速の指示を無効にして、前記走行用油圧モータを低速大容量モードに制御することを特徴とするハイブリッド式作業機械。
【請求項4】
請求項1記載のハイブリッド式作業機械において、
前記制御装置は、
前記走行高速時以外の運転状態では、前記油圧ポンプを前記エンジン出力トルクのみで駆動するとともに、前記エンジンに余剰トルクがあるときは、その余剰トルクによって前記発電・電動機を駆動して発電機として作動させ、その発電電力を前記蓄電装置に蓄電させることを特徴とするハイブリッド式作業機械。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のハイブリッド式作業機械において、
前記エンジンの出力馬力を、前記走行高速時に、前記油圧ポンプに必要とされる油圧馬力を賄うことができない大きさの設定としたことを特徴とするハイブリッド式作業機械。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載のハイブリッド式作業機械において、
前記エンジンの出力馬力を、前記走行高速時以外の運転状態では、前記油圧ポンプに必要とされる油圧馬力を賄うことができ、前記走行高速時には、前記油圧ポンプに必要とされる油圧馬力を賄うことができない大きさの設定としたことを特徴とするハイブリッド式作業機械。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項記載のハイブリッド式作業機械において、
前記エンジンの出力馬力を、排ガス規制対象のエンジン出力馬力より小さい設定としたことを特徴とするハイブリッド式作業機械。
【請求項8】
エンジンと、
このエンジンによって駆動される油圧ポンプと、
この油圧ポンプから吐出油によって駆動される走行用油圧モータを含む複数の油圧アクチュエータと、
走行用操作装置と、
走行速度切替スイッチと、
前記エンジンに接続された発電・電動機と、
蓄電装置とを有し、
前記走行用油圧モータは、前記走行速度切換スイッチの指示に基づいて低速大容量モードと高速小容量モードとに切り換え可能であるハイブリッド式建投機械において、
前記蓄電装置の充電状態が不十分である場合は、前記油圧ポンプの吸収トルクを下げる減トルク制御を行って前記エンジンの余剰トルクを強制的に作り出す制御装置を設け、
前記制御装置は、
前記走行速度切替スイッチが走行高速を指示しかつ前記走行操作装置が操作されたときに前記蓄電装置の充電状態が不十分である場合は、前記走行速度切替スイッチの走行高速の指示を無効にして、前記走行用油圧モータを低速大容量モードに制御することを特徴とするハイブリッド式作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−149226(P2011−149226A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12304(P2010−12304)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】