説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】固定変速モードから無段変速モードへの切り替えに際して駆動力不足によるドライバビリティの低下を防止する。
【解決手段】エンジン200、MG1及びMG2を有し、ハイブリッド車両10の動力ユニットとして機能するハイブリッド駆動装置1000は、サンギア303の回転を阻止することによりMG1をロック状態と非ロック状態とに制御可能なブレーキ機構400を備えている。走行モード選択制御において、ECU100は、要求駆動力Ftの変化率たる駆動力変化率RFtを算出し、この駆動力変化率RFtに応じて、走行モード選択マップにおいてMG1をロック状態とすべき旨を規定するMG1ロック領域の駆動力側の上限値である高駆動力側境界値FtHLを設定する。ECU100は、高駆動力側境界値FtHLは、駆動力変化率RFtが大きい程小さく設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と電動発電機とを動力源として備えたハイブリッド車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、無段変速状態と有段変速状態とに切り替えられる車両用変速機構において、変速状態の切り替え制御に伴う切り替えショックを抑制したり、係合装置の耐久性を向上させたりするものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された車両用駆動装置の制御装置(以下、「従来の技術」と称する)によれば、切り替え用のクラッチ或いはブレーキを解放して無段変速状態へ切り替えるに際して、第1電動機にトルクを生じさせることにより、反力トルクの受け渡しを適切に行うことが可能となり、切り替えショックが抑制されるとされている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−278387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第1電動機をブレーキによりロックした固定変速状態においては、動力循環の回避により動力の伝達効率が向上するため、熱効率が比較的低い領域で内燃機関を駆動させたとしても、ハイブリッド車両全体としてシステム効率を向上させることが可能となるが、従来の技術では、第1電動機をロックするか否かの判断が、このシステム効率を端的に表す燃費に基づいてなされている。ところが、このように燃費のみに基づいてこの種の変速状態の切り替えを行った場合、車両の走行状態によっては、切り替え前後において車軸に出力される駆動力が不足して、ドライバビリティを悪化させる可能性がある。即ち、従来の技術には、ドライバビリティを悪化させることなく固定変速状態から無段変速状態への切り替えを行うことが困難な場合があるという技術的な問題点がある。
【0005】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、無段変速状態から固定変速状態への切り替えに際したドライバビリティの低下を防止し得るハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、内燃機関と、第1電動機と、第2電動機と、相互に差動回転可能な、前記内燃機関に連結される第1回転要素、前記第1電動機に連結される第2回転要素並びに車軸に連結された出力部材及び前記第2電動機に連結される第3回転要素を含む複数の回転要素を備える動力分配手段と、前記第2回転要素の状態を回転不能なロック状態と非ロック状態との間で切り替え可能なロック手段とを備え、前記第2回転要素の状態に応じて、走行モードとして、前記内燃機関の機関回転速度と前記出力部材の回転速度たる出力回転速度との比たる変速比が連続的に可変とされる無段変速モードと、前記変速比が固定される固定変速モードとを選択可能なハイブリッド車両の制御装置であって、前記ハイブリッド車両の要求駆動力の変化の度合いを特定する特定手段と、該特定された変化の度合いに応じて前記走行モードの切り替え条件を設定する設定手段と、該設定された切り替え条件に基づいて前記ロック手段を制御することにより前記走行モードを切り替える制御手段とを具備することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る動力分配手段は、内燃機関、例えばモータジェネレータ等の電動発電機を好適な一形態として採り得る第1電動機及び例えばモータジェネレータ等の電動発電機を好適な一形態として採り得る第2電動機の各動力源と夫々接続される或いは接続可能に構成される第1、第2及び第3回転要素を含む、相互に差動回転可能な複数の回転要素(即ち、各動力源に対応する回転要素は、動力分配手段に備わる回転要素の少なくとも一部であって、必ずしも全てでなくてもよい)を備え、好適な一形態として、例えば第1、第2及び第3回転要素として夫々キャリア、サンギア及びリングギア等を備えた遊星歯車機構等の形態を採る。
【0008】
また、本発明に係るロック手段とは、第1電動機に接続され得る第2回転要素の状態をロック状態と非ロック状態との間で少なくとも二値的に切り替えることが可能に構成された手段であり、好適な一形態として、例えば摩擦係合式或いは噛合式等各種態様を採り得る係合手段(ブレーキ装置やクラッチ装置等を好適な一形態として含み、係合要素同士を相互に係合及び離間させるべく駆動することが可能な各種の駆動装置、並びに係合要素の物理状態を検出する各種検出手段等を適宜に含み得る)等として構成される。ここで、「ロック状態」とは、例えば物理的、機械的、電気的又は磁気的な各種抑止力により回転不能に固定された状態であり、非ロック状態とは、このようなロック状態にない、言い換えれば回転可能な状態を指す。
【0009】
本発明に係るハイブリッド車両は、ロック手段により適宜選択的に切り替えられる第2回転要素の状態に応じて、例えばクランク軸等内燃機関の出力軸と、車軸に直接的又は間接的の別を問わず連結される出力部材との間の回転速度比(以下、適宜「変速比」と称する)の制御態様を意味する走行モードを、無段変速モードと固定変速モードとの間で切り替えることが可能である。尚、この際、一の走行モードに属する変速段は単数であっても複数であってもよい。
【0010】
ここで、「無段変速モード」とは、第2回転要素が非ロック状態にある場合に対応しており、上記変速比を、理論的に、実質的に或いは予め規定された物理的、機械的、機構的又は電気的な制約の範囲内で、連続的に(実践上連続的であるのと同等に段階的な態様を含む)変化させることが可能な変速比の制御態様を指し、好適な一形態として、第2回転要素を、内燃機関の反力トルクを負担する反力要素とし、非ロック状態にある第2回転要素に接続された第1電動機によりその回転速度を制御すること等により実現される。無段変速モードにおいては、内燃機関の動作点(例えば、機関回転速度と出力トルクとにより規定される内燃機関の一運転条件を規定する点)は、例えば、理論的に、実質的に又は何らかの制約の範囲で自由に選択され、例えば、燃費が理論的に、実質的に又は何らかの制約の範囲で最小(単位燃料量当たりの走行距離といった意味では最大)とし得る最適燃費動作点等に制御される。
【0011】
また、「固定変速モード」とは、第2回転要素がロック状態にある場合に対応しており、上記変速比が一の値に固定される制御態様を指す。固定変速モードにおいては、必然的に、機関回転速度がハイブリッド車両の車速に応じて一義的に規定される。尚、第2回転要素がロック状態にある場合に固定変速状態が得られることから明らかなように、動力分配手段は、好適には、第1回転要素又は第1回転要素と一体回転可能な回転要素群と、第2回転要素又は第2回転要素と一体回転可能な回転要素群と、第3回転要素又は第3回転要素と一体回転可能な回転要素群の三種類の回転要素又は回転要素群のうち二種類の回転要素又は回転要素群の回転速度が規定された場合に残余の一回転要素又は回転要素群の回転速度が一義的に規定されるように、その差動態様が規定されている。
【0012】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置において、無段変速モードと固定変速モードとの間の走行モードの切り替えは、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る制御手段が、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る設定手段により設定される切り替え条件に基づいて上記ロック手段を制御することにより実現される。即ち、第2回転要素がロック状態となるようにロック手段が制御された場合には上記固定変速モードが、また第2回転要素が非ロック状態となるようにロック手段が制御された場合には上記無段変速モードが、夫々ハイブリッド車両における動力の伝達に供される。
【0013】
一方、ハイブリッド車両は、固定変速モードにおいては、基本的に内燃機関の出力トルクのみにより走行する(第2電動機は、第3回転要素を介して出力部材に連結されるため、内燃機関及び第1電動機の状態に関係なく出力部材にトルクを供給することができるものの、蓄電手段のSOC(State Of Charge:蓄電状態)によっては、必ずしも必要なトルクを出力することができない上、第1電動機が発電を行い得ない固定変速モードでは、SOCの低下を防ぐため第2電動機もまた停止されるのが望ましい)。このため、固定変速モードを選択することのできる要求駆動力の領域(即ち、走行モードの切り替え条件を規定する)は、動力分配手段の各回転要素相互間のギア比や内燃機関の最大駆動力等により、物理的にその上限が規定されることになる。
【0014】
ここで、例えば走行モードを固定変速モードから無段変速モードへ切り替えるに際しては、停止状態にある第1電動機の回転速度を迅速に目標回転速度まで上昇させると共に、第1電動機、第2電動機及び内燃機関の夫々の動作点を、無段変速モードにおいて採るべき動作点に速やかに変化させる必要が生じる。ところが、固定変速モードにおいて第1電動機の回転は停止しているから、第1電動機に作用するイナーシャの影響により、第1電動機の回転速度が目標回転速度に到達するまでには、当該目標回転速度の高低に対応する大小の差こそあれ、相応の時間遅延が生じ得ることは避け難い。この時間遅延に相当する過渡的期間においては、内燃機関の出力トルクの一部は反力要素となる第1電動機の回転上昇に消費され、駆動軸に現れる実質的なトルクは減少する。このため、駆動軸を介して車軸に加わるに加わる駆動力が不足し易く、動力性能の低下が顕在化し易い。このような動力性能の低下は、ドライバビリティの低下を招来する要素となる。
【0015】
ここで特に、この不足する駆動力を内燃機関の出力トルクを上昇させることにより補うこともできるが、上述した物理的な上限による制限を受ける形でこの種の走行モードの切り替えが生じる場合、内燃機関はそれ以上のトルクを出力することができないから、上述した駆動力不足は回避され得ない。また、この際、第2電動機が、蓄電手段から供給される電力により不足する駆動力を補うべく駆動軸にトルクを付与するにしても、第2電動機の動作は蓄電手段のSOCに律束されるから、必ずしも常にこの種の駆動力のアシストが得られる保証はない。
【0016】
一方で、上述した物理的な制限未満の範囲でこの種の走行モードの切り替えがなされる(即ち、固定変速モードの選択領域を規定する要求駆動力の上限値に予めマージンが設定されている)場合、内燃機関には、未だ上記物理的な上限値までの動作上の余裕があるから、係る過渡的期間において、出力トルクを上昇させ駆動力の不足を補うことが可能である。ところが、ハイブリッド車両の走行状態は走行環境によっても、ドライバによっても、またその時々のシチュエーションによっても千差万別であり、この種のマージンの設定が何らの指針に基づくことなく行われた場合には、駆動力の不足によるドライバビリティの低下は、必ずしも解消されない。或いは、この種のマージンを過度に大きく設定すれば、固定変速モードによって折角動力循環(即ち、第1電動機を力行領域で駆動し、出力部材に現れる余剰な駆動力を第2電動機で回生して、回生電力で第1電動機を駆動するといった、非効率な電気パスの発生を指す)を解消し得るにもかかわらず、その恩恵を十分に享受することができなくなって、システム効率の低下を招きかねない。
【0017】
そこで、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置において、設定手段は、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る特定手段により特定された、要求駆動力の変化の度合いに応じて二値的、段階的又は連続的な変化を伴うように、走行モードの切り替え条件を設定する。尚、本発明に係る「特定」とは、検出、推定、算出、導出、同定及び取得等を包括する概念であり、真偽の程度はともかく、特定対象(この場合、駆動力の変化の度合い)を、制御上参照し得る情報として最終的に補正手段に把握させ得る限りにおいて、そのプロセスは、各種態様を有してよい趣旨である。
【0018】
要求駆動力の変化の度合いは、走行モードの切り替えに際して駆動力不足に起因するドライバビリティの低下を顕在化させない(少なくともドライバにその旨を感知させない)ために必要とされる内燃機関の動作上の余力の大小(即ち、上記物理的な上限に対して必要となるマージンの大小)と相関する。即ち、例えば、急加速時等、要求駆動力が比較的大きく変化し易い状況において確実に駆動力不足を補う(無段変速モードにおける動力供給が開始される以前に要求駆動力が内燃機関の出力トルクの物理的上限に相当する駆動力を超えない)ためには、当該マージンの量を相対的に大きく採る必要が生じるし、要求駆動力の変化が比較的小さい場合には、当該マージンの量は逆に相対的に小さくて済む。従って、要求駆動力の変化の度合いに応じて切り替え条件が設定された場合には、駆動力不足を招来しない範囲で可及的に固定変速モードを維持し、システム効率の向上を図ることが可能となるのである。
【0019】
補足すると、走行モードの切り替え条件が少なくとも要求駆動力の変化に対しては一義的である技術思想の範疇では、駆動力の不足を確実に解消できる保証もなければ、また固定変速モードを可及的に維持することによるシステム効率の維持も図り難い。即ち、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、固定変速モードと無段変速モードとの間でなされる走行モードの切り替えに際し、ドライバビリティの低下を防止しつつ、固定変速モードにおいて得られるシステム効率向上に係る実践上の利益を可及的に担保することが出来る点において、この種の技術思想に対し明らかに優越している。
【0020】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の一の態様では、前記切り替え条件は、前記要求駆動力が所定の上限値以下である場合に前記固定変速モードが選択されるように規定されており、前記設定手段は、前記特定された変化の度合いが大きくなるのに伴って小さくなるように前記上限値を設定する。
【0021】
この態様によれば、走行モードの切り替え条件が、要求駆動力が所定の上限値(上記物理的な上限であってもよいし、それ未満の値であってもよい)以下である場合に固定変速モードが選択されるように規定されるため、走行モードの切り替え要否に係る判断を迅速且つ的確に行うことができる。尚、このような要求駆動力の上限値は、切り替え条件の全てでなくてもよく、固定変速モードにおいて、内燃機関の機関回転速度が車速と一義的である点に鑑みれば、車速或いはその相関値に基づいて切り替え条件の一部が規定されていてもよい。同様に、要求駆動力の下限値についても、適宜条件が設定されてよい。
【0022】
ここで、設定手段は、特定された変化の度合いの大小が小大に対応するように係る上限値を設定する。このため、例えば、急加速時等比較的要求駆動力の変化の度合いが大きい場合には、走行モードの切り替えに係る過渡的期間における駆動力のマージンが大きく採られ、駆動力不足が確実に解消される。
【0023】
尚、この態様では、前記設定手段は、予め前記要求駆動力の変化の度合いが小さい旨が規定された所定の入力が生じた場合に、平常時と較べて大きくなるように前記上限値を設定してもよい。
【0024】
この態様によれば、例えば、ドライバが車両内の各種操作手段(例えば、ボタン、レバー或いはダイアル等)を人為的に操作すること等によって得られる、或いは、ハイブリッド車両の走行条件や運転条件等に基づいて然るべきコントローラ等によりドライバの意思とは無関係に(好適には、ドライバがその意思を有する旨の判断を下して)自動的に出力する、所定の入力に応じて、閾値を減少側に補正するに際しての補正量が減少せしめられる。
【0025】
ここで、この所定の入力とは、平常時(この種の入力が生じない期間を指す)と比較して要求駆動力の変化の度合いが小さい旨が確定的な、或いはその旨の判断を下すことが合理的となり得る性質のものであり、好適な一形態としては、例えば、経済性を優先させるべき旨に相当するエコノミーボタンの操作、駆動輪のスリップやロックを防止させるべき旨に相当するスノーボタンの操作、或いは目標車速と実車速との偏差等に応じて要求駆動力が決定されるクルーズコントロール制御の実行ボタンの操作等を指す。
【0026】
この種の入力がなされた場合、駆動力の変化の度合い自体は大小なり変化するにしても、一の駆動力の変化の度合いに対し設定すべき上記物理的な上限に対するマージンの量は、より小さくて済む。従って、固定変速モードをより広範な領域で維持することが可能となり、システム効率向上に係る利益が、より好適に享受される。また、この種の入力が生じた場合、少なくともドライバの第1の要求は動力性能にはないから、上記過渡的期間について、多少駆動力が不足しても、或いは駆動力の立ち上がりが緩慢となっても、ドライバ側に違和感が生じることが少ない。即ち、この態様によれば、システム効率の確保とドライバビリティの確保とを、ドライバの意思をより反映させた形で両立することができ、実践上極めて有益である。
【0027】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、前記要求駆動力の変化の度合いは、前記要求駆動力の変化率である。
【0028】
この態様によれば、車速やアクセル開度等に基づいて周期的又は非周期的に得られる要求駆動力を時間処理することによって、比較的簡便に要求駆動力の変化の度合いを特定することが可能となる。
【0029】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の好適な各種実施形態について説明する。
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両10の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッド車両10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0031】
図1において、ハイブリッド車両10は、ECU100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、車速センサ13及びアクセル開度センサ14並びにハイブリッド駆動装置1000を備えた、本発明に係る「ハイブリッド車両」の一例である。
【0032】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM等を備え、ハイブリッド車両10の各部の動作を制御することが可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「ハイブリッド車両の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する走行モード選択制御を実行することが可能に構成されている。尚、ECU100は、本発明に係る「制御手段」、「特定手段」及び「補正手段」の夫々一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0033】
PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給することが可能に構成された不図示のインバータを含み、バッテリ12と各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いは各モータジェネレータ相互間の電力の入出力(即ち、この場合、バッテリ12を介さずに各モータジェネレータ相互間で電力の授受が行われる)を制御することが可能に構成された制御ユニットである。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
【0034】
バッテリ12は、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能することが可能に構成された充電可能な蓄電手段である。
【0035】
車速センサ13は、ハイブリッド車両10の車速Vを検出することが可能に構成されたセンサである。車速センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0036】
アクセル開度センサ14は、ハイブリッド車両10の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0037】
ハイブリッド駆動装置1000は、ハイブリッド車両10のパワートレインとして機能する動力ユニットである。ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置1000の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置1000の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0038】
図2において、ハイブリッド駆動装置1000は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、ブレーキ機構400及び減速機構500を備える。
【0039】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両10の主たる動力源として機能するように構成されている。ここで、図3を参照し、エンジン200の詳細な構成について説明する。ここに、図3は、エンジン200の一断面構成を例示する模式図である。尚、同図において、図1及び図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。尚、本発明における「内燃機関」とは、例えば2サイクル又は4サイクルレシプロエンジン等を含み、少なくとも一の気筒を有し、当該気筒内部の燃焼室において、例えばガソリン、軽油或いはアルコール等の各種燃料を含む混合気が燃焼した際に発生する力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランク軸等の物理的又は機械的な伝達手段を適宜介して駆動力として取り出すことが可能に構成された機関を包括する概念である。係る概念を満たす限りにおいて、本発明に係る内燃機関の構成は、エンジン200のものに限定されず各種の態様を有してよい。
【0040】
図3において、エンジン200は、気筒201内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介して、機関出力軸たるクランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成されている。
【0041】
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。このクランクポジションセンサ206は、ECU100(不図示)と電気的に接続されており、ECU100では、このクランクポジションセンサ206から出力されるクランク角信号に基づいて、エンジン200の機関回転速度NEが算出される構成となっている。
【0042】
尚、エンジン200は、紙面と垂直な方向に4本の気筒201が直列に配されてなる直列4気筒エンジンであるが、個々の気筒201の構成は相互に等しいため、図2においては一の気筒201についてのみ説明を行うこととする。また、本発明に係る内燃機関における気筒数及び各気筒の配列形態は、上述した概念を満たす範囲でエンジン200のものに限定されず多様な態様を採り得、例えば、6気筒、8気筒或いは12気筒エンジンであってもよいし、V型、水平対向型等であってもよい。
【0043】
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート210を介して吸気バルブ211の開弁時に気筒201内部へ導かれる。一方、吸気ポート210には、インジェクタ212の燃料噴射弁が露出しており、吸気ポート210に対し燃料を噴射することが可能な構成となっている。インジェクタ212から噴射された燃料は、吸気バルブ211の開弁時期に前後して吸入空気と混合され、上述した混合気となる。
【0044】
燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介してインジェクタ212に供給される構成となっている。気筒201内部で燃焼した混合気は排気となり、吸気バルブ211の開閉に連動して開閉する排気バルブ213の開弁時に排気ポート214を介して排気管215に導かれる。
【0045】
一方、吸気管207における、吸気ポート210の上流側には、図示せぬクリーナを経て導かれた吸入空気に係る吸入空気量を調節するスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続されたスロットルバルブモータ209によってその駆動状態が制御される構成となっている。尚、ECU100は、基本的には不図示のアクセルペダルの開度(即ち、上述したアクセル開度Ta)に応じたスロットル開度が得られるようにスロットルバルブモータ209を制御するが、スロットルバルブモータ209の動作制御を介してドライバの意思を介在させることなくスロットル開度を調整することも可能である。即ち、スロットルバルブ208は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
【0046】
排気管215には、三元触媒216が設置されている。三元触媒216は、エンジン200から排出されるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、及びNOx(窒素酸化物)を夫々浄化することが可能に構成されている。尚、本発明に係る触媒装置の採り得る形態は、このような三元触媒に限定されず、例えば三元触媒に代えて或いは加えて、NSR触媒(NOx吸蔵還元触媒)或いは酸化触媒の各種触媒が設置されていてもよい。
【0047】
排気管215には、エンジン200の排気空燃比を検出することが可能に構成された空燃比センサ217が設置されている。更に、気筒201を収容するシリンダブロックに設置されたウォータージャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温を検出するための水温センサ218が配設されている。これら空燃比センサ217及び水温センサ218は、夫々ECU100と電気的に接続されており、検出された空燃比及び冷却水温は、夫々ECU100により一定又は不定の検出周期で把握される構成となっている。
【0048】
図2に戻り、モータジェネレータMG1は、本発明に係る「第1電動機」の一例たる電動発電機であり、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。モータジェネレータMG2は、本発明に係る「第2電動機」の一例たる電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有していてもよいし、他の構成を有していてもよい。
【0049】
動力分割機構300は、中心部に設けられた、本発明に係る「第2回転要素」の一例たるサンギア303と、サンギア303の外周に同心円状に設けられた、本発明に係る「第3回転要素」の一例たるリングギア301と、サンギア303とリングギア301との間に配置されてサンギア303の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア305と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支する、本発明に係る「第1回転要素」の一例たるプラネタリキャリア306とを備えた、本発明に係る「動力分配手段」の一例たる動力伝達装置である。
【0050】
ここで、サンギア303は、サンギア軸304を介してMG1のロータ(符合は省略)に結合されており、その回転速度はMG1の回転速度(以下、適宜「MG1回転速度Nmg1」と称する)と等価である。また、リングギア301は、駆動軸302(即ち、本発明に係る「出力部材」の一例)及び減速機構500を介してMG2の不図示のロータに結合されており、その回転速度はMG2の回転速度(以下、適宜「MG2回転速度Nmg2」と称する)と等価である。更に、プラネタリキャリア306は、エンジン200のクランクシャフト205に結合されており、その回転速度はエンジン200の機関回転速度NEと等価である。
【0051】
一方、駆動軸302は、ハイブリッド車両の駆動輪たる右前輪FR及び左前輪FLを夫々駆動するドライブシャフトSFR及びSFL(即ち、これらドライブシャフトは、本発明に係る「車軸」の一例である)と、デファレンシャル等各種減速ギアを含む減速装置としての減速機構500を介して連結されている。従って、モータジェネレータMG2から駆動軸302に出力されるモータトルクは、減速機構500を介して各ドライブシャフトへと伝達され、同様に各ドライブシャフトを介して伝達される各駆動輪からの駆動力は、減速機構500及び駆動軸302を介してモータジェネレータMG2に入力される。即ち、モータジェネレータMG2の回転速度は、ハイブリッド車両10の車速Vと一義的な関係にある。
【0052】
動力分割機構300は、係る構成の下で、エンジン200が発する動力を、プラネタリキャリア306とピニオンギア305とによってサンギア303及びリングギア301に所定の比率(各ギア相互間のギア比に応じた比率)で分配し、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能となっている。
【0053】
尚、本発明に係る「動力分配手段」に係る実施形態上の構成は、動力分割機構300のものに限定されない。例えば、本発明に係る動力分配手段は、複数の遊星歯車機構を備え、一の遊星歯車機構に備わる複数の回転要素が、他の遊星歯車機構に備わる複数の回転要素の各々と適宜連結され、一体の差動機構を構成していてもよい。また、本実施形態に係る減速機構500は、予め設定された減速比に従って駆動軸302の回転速度を減速するに過ぎないが、ハイブリッド車両10は、この種の減速装置とは別に、例えば、複数のクラッチ機構やブレーキ機構を構成要素とする複数の変速段を備えた有段変速装置を備えていてもよい。
【0054】
ブレーキ機構400は、一方のブレーキ板がサンギア303に連結され、他方のブレーキ板が物理的に固定された構成を有する、本発明に係る「ロック手段」の一例たるブレーキ装置である。ブレーキ機構400は、不図示の油圧駆動装置と接続されており、当該油圧駆動装置からの油圧の供給によりサンギア側のブレーキ板が固定側のブレーキ板に押圧され、サンギア303の状態を、回転不能のロック状態と回転可能な非ロック状態との間で選択的に切り替え可能に構成されている。尚、ブレーキ機構400の油圧駆動装置は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によりその動作が上位に制御される構成となっている。
【0055】
<実施形態の動作>
本実施形態に係るハイブリッド車両10では、上述したサンギア303の状態(一義的に、モータジェネレータMG1の状態)に応じて無段変速モード及び固定変速モードの二種類の走行モードを選択することが可能である。ここで、図4を参照し、ハイブリッド車両10の走行モードについて説明する。ここに、図4は、ハイブリッド駆動装置1000の各部の動作状態を説明する動作共線図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0056】
図4(a)において、縦軸は回転速度を表しており、横軸には、左から順にモータジェネレータMG1、エンジン200及びモータジェネレータMG2が表されている。ここで、動力分割機構300は遊星歯車機構により構成されており、サンギア303(即ち、実質的にMG1)、プラネタリキャリア306(即ち、実質的にエンジン200)及びリングギア301(即ち、実質的にMG2)のうち二要素の回転速度が定まれば、残余の一要素の回転速度が必然的に決定される。即ち、共線図上において各要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置1000の一動作状態について、一の直線(動作共線)によって表すことができる。
【0057】
例えば、図4(a)において、モータジェネレータMG2の動作点を図示白丸m1とし、エンジン200の反力トルクを負担するモータジェネレータMG1の動作点が図示白丸m3であるとすれば、エンジン200の動作点は必然的に図示白丸m2となる。ここで、車速V(即ち、MG2回転速度Nmg2と一義的である)を一定とすれば、MG1回転速度Nmg1を制御して、MG1の動作点を図示白丸m4或いは白丸m5に変化させた場合、エンジン200の動作点は、夫々図示白丸m6或いは白丸m7に変化する。このように、モータジェネレータMG1を回転速度制御装置として利用し、エンジン200を所望の動作点で動作させることが可能な走行モードが、無段変速モードである。無段変速モードでは、エンジン200の動作点は、基本的に、要求出力毎にエンジン200の燃料消費率が最小となる最適燃費動作点に制御される。
【0058】
ここで、高速軽負荷走行時等、MG2回転速度Nmg2が高いものの機関回転速度NEが低く済むような運転条件においては、モータジェネレータMG1の動作点を、例えば図示白丸m5の如き負回転側に設定する必要が生じる場合がある。この場合、モータジェネレータMG1は、エンジン200の反力トルクとして負トルクを出力しており、負回転負トルクの状態となって力行状態となる。即ち、この場合、モータジェネレータMG1の出力トルクは、ハイブリッド車両10の駆動トルクとして駆動軸302に伝達される。一方、モータジェネレータMG2は、駆動軸302に出力される、要求トルクに対し過剰なトルクを吸収するため、負トルク状態となる。この場合、モータジェネレータMG2は、正回転負トルクの状態となって発電状態となる。このような状態においては、MG1からの駆動力によりMG2で発電し、この発電電力によりMG1を力行駆動する、といった所謂動力循環と称される電気パスが生じることとなる。動力循環が生じた状態では、動力の伝達効率が低下してハイブリッド駆動装置1000のシステム効率(例えば、エンジン200の熱効率×伝達効率等として定義される)が低下し、結局はエンジン200の燃料消費率が低下してしまう。
【0059】
そこで、このような動力循環が生じ得る運転領域においては、ブレーキ機構400によりサンギア303が先に述べたロック状態に制御される。その様子が図4(b)に示される。サンギア303がロック状態となると、必然的にモータジェネレータMG1もまたロック状態となり、MG1回転速度Nmg1はゼロとなる(図示白丸m8参照)。このため、エンジン200の機関回転速度NEは、車速Vと一義的なMG2回転速度Nmg2とこのNmg1とにより一義的に決定され(即ち、変速比が一定となる)、動作点は図示白丸m9となる。このようにMG1がロック状態にある場合に対応する走行モードが、固定変速モードである。
【0060】
固定変速モードでは、本来モータジェネレータMG1が負担すべきエンジン200の反力トルクをブレーキ機構400の物理的な制動力により代替させることができる。即ち、モータジェネレータMG1を発電状態にも力行状態にも制御する必要はなくなり、モータジェネレータMG1は停止させられる。従って、基本的にモータジェネレータMG2も停止(電気的に停止)状態に制御され、空転状態となる。結局、固定変速モードでは、ハイブリッド駆動装置1000から出力されるトルクは、エンジントルクTEのうち、動力分割機構300により駆動軸302側に分割された一部のみとなる。ここで、リングギア301とサンギア303とのギア比をρとすれば、この駆動軸302側に現れるエンジントルクTout(ドライブシャフトに加わる駆動力を規定する)は、下記(1)式によって示される。
【0061】
Tout=(1/(1+ρ))・TE・・・(1)
このように、固定変速モードでは、エンジントルクのみがハイブリッド車両10の駆動トルク(尚、駆動トルクは、各ドライブシャフトに加わる駆動力と一義的である)となり、ハイブリッド駆動装置1000は、機械的な動力伝達を行うのみとなって、伝達効率が上昇する。
【0062】
ハイブリッド車両10において、走行モードは、ECU100により実行される走行モード選択制御により適宜選択される。ここで、図5を参照し、走行モード選択制御の詳細について説明する。ここに、図5は、走行モード選択制御のフローチャートである。
【0063】
図5において、ECU100は、ハイブリッド車両10の要求駆動力Ftを取得する(ステップS101)。要求駆動力Ftとは、各ドライブシャフトに加わる駆動力の要求値であり、車速センサ14により検出される車速Vとアクセル開度センサ13により検出されるアクセル開度Accとをパラメータとする要求駆動力マップより取得される。尚、取得された要求駆動力Ftは、最新値を含む最低二個について、RAMに格納される。
【0064】
要求駆動力Ftを取得すると、ECU100は、ステップS101において取得されRAMに格納された要求駆動力Ftを参照し、要求駆動力Ftの変化率たる駆動力変化率RFtを算出する(ステップS102)。駆動力変化率RFtは、最新値と前回値との差分を要求駆動力Ftの取得周期で除した値であり、本発明に係る「要求駆動力の変化の度合い」の一例である。尚、これは一例に過ぎず、本発明に係る「要求駆動力の変化の度合い」とは、例えば、単に取得された要求駆動力の最新値と前回値との差分であってもよい。尚、ステップS102に係る動作は、本発明に係る「特定手段」に係る動作の一例である。
【0065】
駆動力変化率RFtが算出されると、ECU100は、走行モードの切り替え条件を設定する(ステップS103)。ここで、本実施形態において、走行モードの切り替え条件は、要求駆動力Ftと車速Vとをパラメータとする走行モード選択マップ上で規定される。尚、ステップS103に係る動作は、本発明に係る「設定手段」の動作の一例である。
【0066】
ここで、図6を参照し、走行モード選択マップの詳細について説明する。ここに、図6は、走行モード選択マップの模式図である。
【0067】
図6において、走行モード選択マップは、縦軸及び横軸に夫々要求駆動力Ft及び車速Vが表されてなる二次元マップである。マップ上において、MG1をロック状態に制御して固定変速モードを選択すべき領域が、MG1ロック領域(図示ハッチング領域)として規定されている。
【0068】
ここで、MG1ロック領域の低車速側の境界を規定する低速側境界値VLLは、エンジン200の最低回転速度により規定されている。即ち、MG1がロック状態となることにより実現される固定変速モードでは、エンジン200と駆動軸302とは直結状態となるが、エンジン200が自立回転可能であるか否かにかかわらず車速Vは低下し得るから、予めエンジン200が失火状態或いはストール状態とならないように、低速側境界値VLLが定められているのである。
【0069】
尚、ハイブリッド車両10では、モータジェネレータMG2のみの動力を使用してハイブリッド車両10を走行させるEV走行モード(EV走行モードもまた、本発明に係る「走行モード」の一例である)を選択することも可能である。従って、低速側境界値VLLは、上述のエンジン200の低速側の動作限界に替えて或いは加えて、このEV走行モードの選択条件に対応付けられていてもよい。但し、EV走行は、モータジェネレータMG2から駆動軸302にモータトルクを出力すればよく、エンジン200を機関停止状態としたところでその遂行に支障をきたさないため、結局のところ、モータジェネレータMG1がロック状態にあろうが非ロック状態にあろうが無関係に選択可能である。
【0070】
また、MG1ロック領域の高車速側の境界を規定する高速側境界値VHLは、エンジン200の上限回転速度(所謂レブリミットである)により規定されている。逆に言えば、エンジン200の機関回転速度NEは、車速Vと一義的であるから、固定変速モードが選択された状態におけるハイブリッド車両10において、機関回転速度NEの上限値を超えて車速Vを上昇させることは不可能である。それ以上の車速が要求されているか否かは、その時点の車速Vとアクセル開度Accに基づいて判断されるが、それ以上の車速が要求される場合、結局は、要求駆動力Ftが後述する高駆動力側境界値を越えることとなり、駆動力側の要請によって固定変速モードは解除される。
【0071】
一方、MG1ロック領域の低駆動力側の境界を規定する低駆動力側境界値FtLL(図示破線参照)は、ハイブリッド駆動装置1000のシステム効率に基づいて定められている。ハイブリッド駆動装置1000は、MG1及びMG2を動力源として備えるため、エンジン200には、元来、最大出力よりも熱効率を優先した燃焼形態を有するエンジンが採用されることが多い。然るに、基本的にエンジンの熱効率は、ある程度高回転側且つ高負荷側の領域に最良点が存在し、低回転側或いは軽負荷側では熱効率は極端に悪くなる場合が多い。このため、要求駆動力が低い領域では、固定変速モードにより伝達効率を向上させても、熱効率の低下がそれを上回って、ハイブリッド駆動装置1000のシステム効率としては無段変速モードを選択した方が良好となる場合がある。従って、低駆動力側境界値FtLLは、低車速側程高くなる。
【0072】
他方、MG1ロック領域の高駆動力側の境界は、高駆動力側境界値FtHL(本発明に係る「所定の上限値」の一例であり、図示鎖線参照)によって規定される。上記ステップS103においては、この高駆動力側の境界を規定する高駆動力側境界値FtHLが設定される。例えば、上記ステップS102で算出された駆動力変化率RFtがRFt1である場合と、RFt2(RFt2>RFt1)である場合とを考えた場合、RFt=RFt1である場合の高駆動力側境界値はFtHL2となり、RFt=RFt2である場合の高駆動力側の境界値はFtHL1(FtHL1<FtHL2)となる。即ち、駆動力変化率RFtが大きい程、MG1ロック領域の高駆動力側境界値FtHLは低下し、MG1ロック領域は狭くなる。尚、図6では、高駆動力側境界値FtHLは車速Vに応じて不変であるが、これは一例に過ぎず、高駆動力側境界値は、車速Vに応じて可変であってもよい。
【0073】
高駆動力側境界値FtHLについて補足すると、固定変速モードにおいて駆動軸302に現れるエンジントルクの上限値は、先述の(1)式により、(1/(1+ρ))・TEmax(但し、TEmaxはエンジン200の最大トルク)となる。従って、高駆動力側境界値FtHLの上限値は、この駆動軸302に現れるエンジントルクの上限値に律束される。この高駆動力側境界値FtHLの上限値をFtHLmaxとすると、上記ステップS103において、ECU100は、下記(2)式に従って高駆動力側境界値FtHLを算出する。
【0074】
FtHL=FtHLmax−α・・・(2)
ここで、αは、駆動力変化率RFtの増加に伴って増加するように設定された可変な補正係数である。ECU100は、予め駆動力変化率RFtとこの補正係数αとを対応付けてなる補正係数マップをROMに保持しており、上記ステップS103においては、上記ステップS102において算出された駆動力変化率RFtに対応する一の値を選択し、先述した高駆動力側境界値FtHLの上限値から減じることにより高駆動力側境界値FtHLを設定する。尚、高駆動力側境界値FtHLの設定態様は、ここに例示するものに限定されない。
【0075】
図5に戻り、切り替え条件を補正すると、ECU100は、要求駆動力Ftが無段変速モードの選択条件に該当するか否か(即ち、MG1ロック領域に該当しないか否か)を判別する(ステップS104)。無段変速モードの選択条件に該当しない場合(ステップS104:NO)、ECU100は、モータジェネレータMG1がロック状態となるようにブレーキ機構400を駆動制御する(ステップS106)。ステップS106が実行されると、処理はステップS101に戻される。尚、既にMG1がロック状態にある場合(即ち、固定変速モードが継続されている場合)には、ECU100は、ステップS106をスキップして処理をステップS101に戻す。
【0076】
一方、要求駆動力Ftが無段変速モードの選択条件に該当する場合(ステップS104:YES)、ECU100は更に現時点で固定変速モードが選択されているか否かを判別する(ステップS105)。この際、現時点で既に無段変速モードが選択されている場合(ステップS105:NO)、ECU100は、処理をステップS101に戻す。
【0077】
ステップS105において、現時点で固定変速モードが選択されている旨の判別がなされた場合(ステップS105:YES)、即ち、固定変速モードから無段変速モードへ走行モードを切り替える必要が生じた場合、ECU100は、スロットルバルブ208の駆動制御による吸気量の増量及びそれに伴うインジェクタ212の駆動制御による燃料噴射量の増量を行って、エンジントルクTEを、停止状態にあるモータジェネレータMG1の回転上昇に消費される分と、その時点の要求駆動力に応じて駆動軸302に要求されるトルクと現時点のエンジントルクとの差分に相当する分だけ上昇させる(ステップS107)。
【0078】
エンジントルクを上昇させると、ECU100は、モータジェネレータMG1が非ロック状態となるようにブレーキ機構400を駆動制御する(ステップS108)。モータジェネレータMG1が非ロック状態とされると、処理はステップS101に戻される。走行モード選択制御は、このようにして実行される。尚、無段変速モード及び固定変速モード各々における各動力源の出力の制御は、別途出力制御用の制御プログラムにより適宜実行されており、本実施形態において、その詳細には触れないこととする。
【0079】
<実施形態の効果>
ステップS108においてモータジェネレータMG1を非ロック状態とし、無段変速モードが選択された場合、モータジェネレータMG1の目標回転速度は、無論その時点の車速V及び要求駆動力Ftに応じて変化するものの、ゼロではなくなり得るため、過渡的に、大なり小なり目標回転速度までの比較的大きな速度偏差が生じることとなる。ところが、モータジェネレータMG1を、回転速度がゼロの状態から相応の回転状態に移行させるためには、モータジェネレータMG1のイナーシャに対抗する、言わば余剰なトルクが必要となる。また、要求駆動力自体は、時間的に絶えず変化し得るため、走行モードの切り替えが必要とされた時点以降、更に上昇した場合には、その分の余剰トルクも必要となる。
【0080】
この余剰なトルクを調達できなければ、エンジントルクTEは、例えばその一部がモータジェネレータMG1の回転上昇に消費され、各ドライブシャフトに加わる駆動力を規定する駆動軸302のトルクが実質的に減少する結果となり、各ドライブシャフトに供給される駆動力が減少して、動力性能が過渡的に低下してしまう。本実施形態に係る走行モード選択制御によれば、ステップS107においてエンジントルクの上昇が図られることにより、駆動軸302の出力トルクToutを減少させることなくモータジェネレータMG1の回転速度を上昇させることが可能となる。
【0081】
ここで特に、ステップS107を実行するに際して既にエンジントルクTEが最大トルクTEmaxである場合、エンジントルクを上昇させることは不可能であるから、本実施形態においては、走行モードの切り替え条件を規定する走行モード選択マップ上で規定される高駆動力側境界値FtHLが、駆動力変化率RFtに応じて可変な補正係数α(即ち、物理的上限値に対するエンジントルクのマージンに相当する)に応じて設定される。即ち、高駆動力側境界値FtHLは、駆動力変化が生じている限りにおいて上限値FtHLmax未満となり、上述した余剰なトルクを出力する余裕が担保されるのである。そのため、本実施形態によれば、走行モードが固定変速モードから無段変速モードへ切り替わる過渡期間における駆動力不足が解消され、ハイブリッド車両10の動力性能が担保される。即ち、係る過渡期間におけるドライバビリティの低下が防止されるのである。
【0082】
ここで、本実施形態と同様の装置構成において、この種のエンジントルクの余裕のみを考え、予め高駆動力側境界値FtHLを上限値FtHLmax未満の固定値とした場合、一見すると上記ドライバビリティの低下防止に係る利益が享受されるように思える。ところが、多くの場合、走行モードの切り替え時において要求駆動力Ftは連続的に変化しており、また要求駆動力Ftの大きさ自体も広範囲にわたる。従って、駆動力の余裕がどの程度必要であるのかは、その時点のハイブリッド車両10の運転条件により千差万別である。
【0083】
従って、例え予め高駆動力側境界値FtHLにマージンを設けていたところで、過渡的に生じる要求駆動力の変化を考慮していなければ、結局は、駆動力不足によるドライバビリティの低下は完全に解消されず、高駆動力側境界値FtHLが上限値FtHLmaxに設定される場合とさしたる相違はないことになる。また、別の観点から言えば、駆動力不足によるドライバビリティの低下を嫌って、係るマージンを必要以上に大きく設定すれば、固定変速モード自体が継続され難くなり、先に述べた動力循環によるシステム効率の低下が別途問題となってしまう。その点、本実施形態に例示するように、要求駆動力変化率RFtに応じて高駆動力側境界値FtHLが可変とされた場合には、ハイブリッド車両10の運転条件に応じた適切なマージンの設定が可能となり、駆動力不足によるドライバビリティの低下を確実に防止しつつ、固定変速モードによるシステム効率の向上効果を可及的に維持することができるのである。即ち、本発明に係る技術思想は、要求駆動力の変化を考慮しない技術思想に対して明らかに優れるものである。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。始めに、図7を参照し、第2実施形態に係るハイブリッド車両20の構成について説明する。ここに、図7は、ハイブリッド車両20の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には、同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0084】
図7において、ハイブリッド車両20は、エコスイッチ15を備える点において第1実施形態に係るハイブリッド車両10と相違している。
【0085】
エコスイッチ15は、ハイブリッド車両20の車室内部において操作可能に構成されたボタンスイッチであり、操作者により操作された状態において、経済性能を動力性能に優先すべき旨の電気信号(即ち、本発明に係る「平常時と比較して動力性能が要求されない旨に相当する所定の入力」の一例)が生じる構成となっている。また、このエコスイッチ15は、ECU100と電気的に接続されており、係る電気信号は、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0086】
次に、図8を参照し、走行モード選択制御において参照される走行モード選択マップについて説明する。ここに、図8は、第2実施形態に係り、エコスイッチ15が操作された場合に参照される走行モード選択マップの模式図である。尚、同図において、図6と重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0087】
図8において、エコスイッチ15が操作された場合に参照される走行モード選択マップは、第1実施形態に係る走行モード選択マップと、低車速側境界値VLL、高車速側境界値VHL及び低駆動力側境界値FtLLについては共通であり、高駆動力側境界値FtHLのみが相違する構成となっている。即ち、本実施形態において、高駆動力側境界値FtHLは、下記(3)式により規定される。
【0088】
FtHL=FtHLmax−α’・・・(3)
ここで、α’は、第1実施形態の補正係数αと同様の補正係数であるが、駆動力変化率RFtに対する変化の度合いが異なっており、第1実施形態と較べて、駆動力変化率RFtに対する変化の傾きが小さく設定されている。従って、高駆動力側境界値FtHLは、第1実施形態と較べて高駆動力側で設定され、例えば、駆動力変化率RFt=RFt2である場合の高駆動力側境界値FtHLは、FtHL3(FtHL3>FtHL1)となり、駆動力変化率RFt=RFt1である場合の高駆動力側境界値FtHLは、FtHL4(FtHL4>FtHL2)となる。即ち、MG1ロック領域は第1実施形態と較べて大きくなる。尚、エコスイッチ15が操作されない場合、走行モード選択マップは、第1実施形態と同一となる。
【0089】
本実施形態によれば、エコスイッチ15が操作された場合には、このようにMG1ロック領域が相対的に大きくなる。エコスイッチ15が操作される場合、ドライバは経済性能を優先しており、運転操作自体もそれに準じたものとなるため、駆動力変化率RFtに対する高駆動力側境界値FtHLのマージンは、第1実施形態と較べて小さくてよいのである。また、エコスイッチ15が操作される場合、動力性能に比して経済性能が要求されているため、係るマージンの減少により駆動力の不足による加速性能の停滞が生じたとしても、それがドライバビリティの低下に繋がることがない。一方で、このようにMG1ロック領域が拡大されることによって、第1実施形態と較べてより広範にわたり固定変速モードが継続されるため、システム効率が最適化されることによる高い経済性能が担保されるのである。
【0090】
尚、本実施形態ではエコスイッチ15が例示されたが、同様の思想に基づけば、例えば、スノーモード(例えば、雪道や氷結路等で選択され、過度な駆動力変化によるスリップ、スピン或いはタイヤロック等を生じさせない走行モード)や、クルーズモード(車速を目標値に維持する走行モード)等、操作時に、要求駆動力の変化率が予め小さい旨の判断を下し得る各種の操作手段の操作時において、MG1ロック領域の拡大が図られてもよい。
【0091】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1のハイブリッド車両におけるハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図3】図2のハイブリッド駆動装置に備わるエンジンの一断面構成を例示する模式図である。
【図4】図2のハイブリッド駆動装置の各部の動作状態を説明する動作共線図である。
【図5】ECUにより実行される走行モード選択制御のフローチャートである。
【図6】図5の走行モード選択制御において参照される走行モード選択マップの模式図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図8】図7のハイブリッド車両においてECUが走行モード選択制御を実行するに際して参照される走行モード選択マップの模式図である。
【符号の説明】
【0093】
10…ハイブリッド車両、20…ハイブリッド車両、100…ECU、200…エンジン、201…気筒、203…ピストン、205…クランクシャフト、300…動力分割機構、MG1…モータジェネレータ、MG2…モータジェネレータ、400…ブレーキ機構、500…減速機構、1000…ハイブリッド駆動装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、第1電動機と、第2電動機と、相互に差動回転可能な、前記内燃機関に連結される第1回転要素、前記第1電動機に連結される第2回転要素並びに車軸に連結された出力部材及び前記第2電動機に連結される第3回転要素を含む複数の回転要素を備える動力分配手段と、前記第2回転要素の状態を回転不能なロック状態と非ロック状態との間で切り替え可能なロック手段とを備え、前記第2回転要素の状態に応じて、走行モードとして、前記内燃機関の機関回転速度と前記出力部材の回転速度たる出力回転速度との比たる変速比が連続的に可変とされる無段変速モードと、前記変速比が固定される固定変速モードとを選択可能なハイブリッド車両の制御装置であって、
前記ハイブリッド車両の要求駆動力の変化の度合いを特定する特定手段と、
該特定された変化の度合いに応じて前記走行モードの切り替え条件を設定する設定手段と、
該設定された切り替え条件に基づいて前記ロック手段を制御することにより前記走行モードを切り替える制御手段と、
を具備することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記切り替え条件は、前記要求駆動力が所定の上限値以下である場合に前記固定変速モードが選択されるように規定されており、
前記設定手段は、前記特定された変化の度合いが大きくなるのに伴って小さくなるように前記上限値を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記設定手段は、予め前記要求駆動力の変化の度合いが小さい旨が規定された所定の入力が生じた場合に、平常時と較べて大きくなるように前記上限値を設定する
ことを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記要求駆動力の変化の度合いは、前記要求駆動力の変化率である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−137723(P2010−137723A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316180(P2008−316180)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】