説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】窒素酸化物の浄化効率の低下を抑制できるハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関EGと、電動機MGと、前記内燃機関又は前記電動機の出力軸に接続された車輪RR,RLと、を備えたハイブリッド車両HEVに対し制御信号を出力する制御装置であって、前記内燃機関の排気系に設けられた排気浄化触媒127の酸素貯蔵量を検出する酸素貯蔵量検出手段126,128と、前記酸素貯蔵量検出手段により検出された酸素貯蔵量が所定値以上であって前記内燃機関を始動する場合に、始動開始から第1の期間t〜tはストイキよりリッチな空燃比で燃焼させる信号を出力し、前記第1の期間に続く第2の期間t〜tは燃料噴射を停止する信号を出力する制御手段1と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関及び電動機を駆動源とするハイブリッド車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関と電動機の出力を駆動源として走行するハイブリッド車両において、内燃機関の始動を電動機により行うものが提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、上記ハイブリッド車両では、内燃機関が停止する際や始動する際に燃料を噴射することなくピストンが動作するので、排気系に設けられた触媒の酸素貯蔵量が増加し、触媒の還元力が低下する。
【0004】
そこで、内燃機関の始動開始からリッチで燃焼させることにより排気浄化触媒の酸素貯蔵量を減少させて還元力を高め、窒素酸化物の浄化効率の低下を抑制したものも提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−251221号公報
【特許文献2】特開2000−104588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記ハイブリッド車両では、内燃機関の始動時にリッチな混合気によって燃焼させるので、平衡付着量より大きな壁流となる。そして、壁流が減少しないまま内燃機関が停止してモータ走行に移り変わり、その後再び内燃機関を始動させると、残存した壁流によって混合気がリッチになるという問題があった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、窒素酸化物の浄化効率の低下を抑制しつつ、始動時のリッチ化を防止できるハイブリッド車両の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、内燃機関の始動開始から所定期間はストイキよりリッチな空燃比で燃焼させ、続く所定期間は燃料噴射を停止してスロットルバルブを閉じることによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内燃機関の始動開始からリッチで燃焼させることにより排気浄化触媒の酸素貯蔵量が減少して還元力が高まるので、窒素酸化物の浄化効率の低下を抑制することができる。また、続く所定期間で燃料噴射を停止してスロットルバルブを閉じることで、リッチな混合気による壁流を素早く気化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】発明の実施形態に係るハイブリッド車両を示すブロック図である。
【図2】図1の内燃機関を示すブロック図である。
【図3】図1の制御装置の主たる制御手順を示すフローチャートである。
【図4】図3の制御手順における各要素の変化を示すタイムチャートである。
【図5】図3のステップS4における排気浄化触媒の酸素貯蔵量と燃料噴射停止時間との関係を示すグラフである。
【図6】図3のステップS9における燃料増量と燃料噴射停止時期との関係を示すグラフである。
【図7】図3のステップS12における壁流量と燃料噴射再開時期との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施形態に係る制御装置を図面に基づいて説明する。
【0012】
本実施形態の制御装置1は、図1に示す後輪駆動のハイブリッド車両HEVに適用したものであり、その駆動系の構成を説明する。同図に示すハイブリッド車HEVの駆動系は、エンジンEGと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータ(電動機・発電機)MGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルギヤユニットDFと、ドライブシャフトDSと、左右の駆動車輪RRとを備える。なお、FL,FRは左右の操舵前輪である。
【0013】
エンジンEGは、ガソリン又は軽油を燃料として作動する内燃機関であり、エンジンコントローラ11からの制御信号に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度や燃料噴射量等が制御される。エンジンEGの細部構造は後述する。
【0014】
第1クラッチCL1は、エンジンEGの出力軸とモータジェネレータMGの出力軸との間に介装されたクラッチであり、たとえば比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いることができる。そして、制御装置1からの制御信号に基づいて油圧ユニットの油圧が制御され、これによりクラッチ板のスリップ締結を含む締結と解放が制御される。
【0015】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、インバータINVにより生成された三相交流を印加することにより駆動し、モータコントローラ31からの制御信号に基づいてその駆動が制御される。
【0016】
このモータジェネレータMGは、バッテリBATからの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(力行)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリBATを充電することもできる(回生)。
【0017】
なお、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0018】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右の駆動輪RL,RRとの間に介装されたクラッチであり、たとえば比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いることができる。そして、制御装置1からの制御信号に基づいて、油圧ユニットの油圧が制御され、これによりクラッチ板のスリップ締結とスリップ解放を含む締結と解放が制御される。
【0019】
自動変速機ATは、前進5速、後退1速などの有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機又は無段階変速機であり、トランスミッションコントローラ12からの制御信号により切り換え動作が制御される。なお、第2クラッチCL2は、専用クラッチとして設けることができるが、これに代えて自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用することもできる。
【0020】
自動変速機ATの出力軸は、プロペラシャフトPS、ディファレンシャルギヤユニットDF、左右のドライブシャフトDSを介して左右の駆動輪RL,RRに連結されている。
【0021】
本例のハイブリッド車両HEVは、第1クラッチCL1の締結と解放状態に応じて3つの走行モードを備える。
【0022】
第1走行モードは、第1クラッチCL1が解放状態とされた場合であり、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードである。
【0023】
第2走行モードは、第1クラッチCL1が締結状態とされた場合であり、エンジンEGを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モードである。
【0024】
第3走行モードは、第1クラッチCL1が締結状態とされ第2クラッチCL2がスリップ制御された場合であり、エンジンEGを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モードである。このモードは、特にバッテリBATの充電状態SOC(State of Charge)が低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成するモードである。さらに、エンジン停止状態からの発進時にエンジン始動をしつつ駆動力を出力可能なモードでもある。
【0025】
以下、第1走行モードをEV走行モード、第2走行モードをHEV走行モード、第3走行モードをWSC(Wet Start Clutch)走行モードともいう。
【0026】
第2走行モードであるHEV走行モードは、さらにエンジン走行モードと、モータアシスト走行モードと、走行発電モードという3つの走行モードを有する。
【0027】
エンジン走行モードは、モータジェネレータMGは駆動制御せずにエンジンEGのみを動力源として駆動輪RR,RLを動かすモードである。
【0028】
モータアシスト走行モードは、エンジンEGとモータジェネレータMGの両方を駆動制御し、これら2つを動力源として駆動輪RR,RLを動かすモードである。
【0029】
走行発電モードは、エンジンEGを動力源として駆動制御して駆動輪RR,RLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させ、バッテリBATに充電するモードである。
【0030】
なお、これらのモード以外に、車両停止時にエンジンEGの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させ、バッテリBATを充電したり電装品へ電力を供給したりする発電モードを備えることもできる。
【0031】
次に、エンジンEGの構成例を説明する。
【0032】
図2は、本例に係るエンジンEGを示すブロック図であり、エンジンEGの吸気通路111には、エアーフィルタ112、吸入空気流量を検出するエアフローメータ113、吸入空気流量を制御するスロットルバルブ114およびコレクタ115が設けられている。
【0033】
スロットルバルブ114には、当該スロットルバルブ114の開度を調整するDCモータ等のアクチュエータ116が設けられている。このスロットルバルブアクチュエータ116は、運転者のアクセルペダル操作量等に基づき演算される要求トルクを達成するように、エンジンコントロールユニット11からの駆動信号に基づき、スロットルバルブ114の開度を電子制御する。また、スロットルバルブ114の開度を検出するスロットルセンサ117が設けられて、その検出信号をエンジンコントロールユニット1へ出力する。なお、スロットルセンサ117はアイドルスイッチとしても機能させることができる。
【0034】
また、コレクタ115から各気筒に分岐した吸気通路111aに臨ませて、燃料噴射バルブ118が設けられている。燃料噴射バルブ118は、エンジンコントロールユニット11において設定される駆動パルス信号によって開弁駆動され、図外の燃料ポンプから圧送されてプレッシャレギュレータにより所定圧力に制御された燃料を吸気通路(以下、燃料噴射ポートともいう)111a内に噴射する。
【0035】
シリンダ119と、当該シリンダ内を往復移動するピストン120の冠面と、吸気バルブ121及び排気バルブ122が設けられたシリンダヘッドとで囲まれる空間が燃焼室123を構成する。点火プラグ124は、各気筒の燃焼室123に臨んで装着され、エンジンコントロールユニット11からの点火信号に基づいて吸入混合気に対して点火を行う。
【0036】
一方、排気通路125には、排気中の特定成分、たとえば酸素濃度を検出することにより排気、ひいては吸入混合気の空燃比を検出する空燃比センサ126が設けられ、その検出信号はエンジンコントロールユニット11へ出力される。この空燃比センサ126は、リッチ・リーン出力する酸素センサであっても良いし、空燃比をリニアに広域に亘って検出する広域空燃比センサであってもよい。
【0037】
また、排気通路125には、排気を浄化するための排気浄化触媒127が設けられている。この排気浄化触媒127としては、ストイキ(理論空燃比,λ=1、空気重量/燃料重量=14.7)近傍において排気中の一酸化炭素COと炭化水素HCを酸化するとともに、窒素酸化物NOxの還元を行って排気を浄化することができる三元触媒、或いは排気中の一酸化炭素COと炭化水素HCの酸化を行う酸化触媒を用いることができる。
【0038】
排気通路125の排気浄化触媒127の下流側には、排気中の特定成分、たとえば酸素濃度を検出し、リッチ・リーン出力する酸素センサ128が設けられ、その検出信号はエンジンコントロールユニット11へ出力される。ここでは、酸素センサ128の検出値により、空燃比センサ126の検出値に基づく空燃比フィードバック制御を補正することで、空燃比センサ126の劣化等に伴う制御誤差を抑制する等のために(いわゆるダブル空燃比センサシステム採用のために)、下流側酸素センサ128を設けて構成したが、空燃比センサ126の検出値に基づく空燃比フィードバック制御を行なわせるだけで良い場合には、酸素センサ128を省略することができる。
【0039】
なお、図1において129はマフラである。
【0040】
エンジンEGのクランク軸130にはクランク角センサ131が設けられ、エンジンコントロールユニット11は、クランク角センサ131から機関回転と同期して出力されるクランク単位角信号を一定時間カウントすることで、又は、クランク基準角信号の周期を計測することで、機関回転速度Neを検出することができる。
【0041】
エンジンEGの冷却ジャケット132には、水温センサ133が当該冷却ジャケットに臨んで設けられ、冷却ジャケット131内の冷却水温度Twを検出し、これをエンジンコントロールユニット11へ出力する。
【0042】
図1に戻り、本例のハイブリッド車両HEVの制御系は、同図に示すように、制御装置1と、エンジンコントローラ11と、モータコントローラ31と、トランスミッションコントローラ51と、を備える。これら制御装置1と、エンジンコントローラ11と、モータコントローラ31と、トランスミッションコントローラ51とは、たとえば情報交換が可能なCAN通信線を介して接続することができる。
【0043】
エンジンコントローラ11は、エンジン水温センサ133からのエンジン水温、エアフローメータ113からの吸入空気量、スロットル開度センサ116aからのスロットル開度、クランク角センサ131からのエンジン回転数Ne情報を入力し、制御装置1からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(エンジン回転数Ne,エンジントルクTe)を制御する指令を、スロットルバルブアクチュエータ116へ出力する。スロットルバルブアクチュエータ116は、エンジンコントローラ11からの指令に応じてスロットルバルブ114の開度を調節する。
【0044】
また、エンジンコントローラ11は、エンジンEGの燃料噴射量やスロットル開度等に基づいてエンジントルクTeを推定する。エンジン回転数Neや推定されたエンジントルクTeの情報は、CAN通信線を介して制御装置1へ送出される。
【0045】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバからの情報を入力し、制御装置1からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(モータ回転数Nm,モータトルクTm)を制御する指令をインバータINVへ出力する。なお、このモータコントローラ31では、バッテリBATの充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いられると共に、CAN通信線を介して制御装置1へ送出される。
【0046】
また、モータコントローラ31は、モータジェネレータMGに流れる電流値(電流値の正負によって駆動トルクと回生制動トルクを区別している)に基づいて、モータジェネレータトルクTmを推定し、この推定されたモータジェネレータトルクTmの情報は、CAN通信線を介して制御装置1へ送出される。
【0047】
制御装置1は、第1クラッチCL1に設けられた油圧センサとストロークセンサからのセンサ情報を入力し、第1クラッチ制御指令に応じて、第1クラッチCL1の締結・解放を制御する指令を第1クラッチCL1の油圧ユニットに出力する。
【0048】
ATコントローラ51は、アクセル開度センサ71と車速センサ72と第2クラッチCL2の油圧センサとからのセンサ情報を入力し、制御装置1からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・解放を制御する指令を第2クラッチCL2の油圧ユニットに出力する。なお、アクセルペダル開度APOと車速VSPの情報は制御装置1に入力される。
【0049】
図示は省略するが、ブレーキコントローラは、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサとブレーキストロークセンサからのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を摩擦制動力で補うように、制御装置1からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。
【0050】
制御装置1は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサと、第2クラッチCL2の出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサと、第2クラッチCL2のトルクTCL2を検出する第2クラッチトルクセンサと、ブレーキ油圧センサと、第1クラッチCL1の温度を検知する温度センサと、第2クラッチCL2の温度を検知する温度センサと、からの情報およびCAN通信線を介して得られた情報を入力する。
【0051】
なお、モータ回転数センサは、自動変速機ATの入力軸回転数センサと等価である。また、第2クラッチ出力回転数センサは、自動変速機ATの出力軸回転数を検出し、各締結要素の関係に基づいて、第2クラッチCL2の出力回転数を算出するセンサであるため、自動変速機ATの出力軸回転数センサと等価である。
【0052】
また、制御装置1は、エンジンコントローラ11への制御指令によるエンジンEGの動作制御と、モータコントローラ31への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、ATコントローラ51への制御指令による自動変速機の動作制御と、第1クラッチCL1の油圧ユニットへの制御指令による第1クラッチCL1の締結・解放制御と、第2クラッチCL2の油圧ユニットへの制御指令による第2クラッチCL2の締結・解放制御とを行う。
【0053】
さて、上述したハイブリッド車両ではエンジンEGが停止してモータジェネレータMGのみを駆動源として走行するEV走行モードに切り替えるときや、停止したエンジンEGをモータジェネレータMGの駆動力により始動するときなど、燃料を噴射することなくピストンが動作すると、排気通路125に設けられた排気浄化触媒127の酸素貯蔵量が増加し還元力が低下する。還元力が低下すると窒素酸化物NOxの浄化効率が低下するので、本例ではこうした排気浄化触媒127の酸素貯蔵量が増加する状況において下記の制御を実行する。
【0054】
図3は制御装置1の制御手順を示すフローチャートであり、エンジンEGが停止した状態から再始動の要求信号が入った場合について説明する。
【0055】
まず、このようにエンジンEGが停止した状態において再始動の要求信号が入るとステップS1〜S3にて、ステップS4〜S12の制御を実行するか又はステップS14の制御を実行するかを判定する。
【0056】
すなわち、水温センサ133により検出される水温Twが所定値以上の暖機状態であるか否か(ステップS1)を判定し、排気浄化触媒127が活性化していることを確認する。水温Twが所定値以上の暖機状態ではなく排気浄化装置127が活性化していないときはステップS14へ進んで排気浄化触媒127を活性化させる制御を実行する。
【0057】
ステップS2では、バッテリBATの充電量SOCが所定値以上であるか否かを判定し、充電量SOCが不充分である場合はモータジェネレータMGによる始動が行えないのでステップS14へ進む。
【0058】
ステップS3では、排気浄化触媒127の酸素貯蔵量OSCが目標OSC量以上であるか否かを判定し、目標OSC量に満たない場合は酸化力が低いのでステップS14へ進む。
【0059】
ステップS1〜S3にて、排気浄化触媒127が活性化している暖機状態であり、バッテリBATの充電量が再始動に足りる充電量であり、排気浄化触媒127の酸素貯蔵量がリッチな混合気に対しても充分な酸化力を有する状態であると判定されると、ステップS4へ進む。
【0060】
ステップS4では、排気浄化触媒127の目標酸素貯蔵量と、エンジンの始動要求がされたときtの酸素貯蔵量OSCの差を演算し、この差分の酸素貯蔵量を放出するのに必要な燃料のトータル増量分ΔVを演算する。すなわち、排気浄化触媒127に目標酸素貯蔵量より多い酸素が貯蔵されているときは、エンジンEGの始動に際しストイキよりリッチの空燃比で燃焼させ、炭化水素HC及び一酸化炭素COを酸化することにより、過多となっている排気浄化触媒127の酸素貯蔵量を調整する。
【0061】
目標酸素貯蔵量は、排気浄化触媒127の酸化力と還元力とのバランスにより予め決定される値であり、ステップS7における燃料噴射の処理において目標となる酸素貯蔵量である。なお、図5に示すように、目標酸素貯蔵量は、触媒の転換効率が最適な酸素貯蔵量より小さく設定することもできる。
【0062】
また、t時における排気浄化触媒127の酸素貯蔵量は、空燃比センサ126または酸素センサ128により検出される酸素濃度から演算により推定することができる。
【0063】
ステップS5では、ステップS4で演算された増量分ΔVの燃料の分割比を演算し、噴射する際の空燃比と噴射時間とを求める。続くステップS6にて第1クラッチCL1を締結してモータジェネレータMGの駆動力によりエンジンEGを始動し、ステップS7にて燃料噴射を開始する。
【0064】
ここで、ステップS5における分割比の演算において、ステップS4で求められた排気浄化触媒127の酸素貯蔵量に応じた燃料の増量分ΔVにより、たとえばリッチ可燃限界の当量比を目標空燃比λとして燃料噴射したり、あるいはこれよりリーンであるがストイキよりリッチな当量比を目標空燃比λとして燃料噴射したり、あるいは運転性の要求に応じてリッチ可燃限界の当量比から徐々にストイキに漸近させる目標空燃比で燃料噴射することができる。これらの様子を図6に示す。
【0065】
同図の(i)は最もリッチな可燃限界の空燃比で燃料噴射する場合を示し、(ii)はそれよりもリーンな空燃比で燃料噴射する場合を示し、(iii)は可燃限界の空燃比から徐々にストイキに向かって空燃比を変動させながら燃料噴射する場合を示す。いずれの場合にあっても燃料噴射の積算値である面積がステップS4にて求められた酸素貯蔵量に応じた燃料の増量分ΔVに相当し、これによりそれぞれの燃料噴射時間t(i),t(ii),t(iii)を求めることができる。
【0066】
ステップS8では、ステップS4で求められた燃料の増量分ΔVと、実際に噴射された燃料の積算値との差がゼロになるまで、すなわち図6の面積がステップS4の燃料増量分ΔVに等しくなる時間tまで燃料噴射を継続し、ゼロになったらステップS9へ進んで、燃料噴射を停止する。
【0067】
以上の時間t1までのエンジン回転数、ブースト、燃料噴射量、吸気通路の壁流量、スロットル開度、燃料空燃比、ピストンの空回しサイクル数の積算値、酸素貯蔵量OSC量、排気通路の窒素酸化物NOx排出量の各要素の変化の様子を、図4を参照しながら説明する。
【0068】
同図の左端の時間−tにおいてエンジンEGの停止要求がなされると、これにともない燃料噴射バルブ118からの燃料噴射が停止するとともにスロットルバルブ114の開度がアイドル開度まで閉じる。このエンジン停止の際にピストン120が数回だけ空廻しされるので排気浄化触媒127の酸素貯蔵量はエンジンEGの運転時に比べて酸素リッチとなる。
【0069】
同図の時間−tにおいてエンジンEGが停止すると、それまでスロットルバルブが閉じてピストンの空回しがされることで負圧となっていたブースト圧が上昇する。これにともない吸気通路(燃料噴射ポート)111aの壁流量も若干低下する。
【0070】
同図の時間tにおいて、エンジンEGの再始動要求がされると、上述したように時間tまでの間、モータジェネレータMGによりエンジンEGの回転数を上昇させると同時に、スロットルバルブ114を開いて燃料噴射バルブ118から燃料を噴射して、ストイキよりリッチな混合気を燃焼室123へ供給し、燃焼を開始する。これにより排気浄化触媒127に貯蔵されていた酸素が目標酸素貯蔵量まで減少する。
【0071】
同図の時間t及び図3のステップS8において、酸素貯蔵量に応じた燃料の増量分ΔVの燃料噴射を終了したら、ステップS9にて燃料噴射バルブ118からの燃料噴射を一時停止するとともに、スロットルバルブ114を閉じる。このとき図4に示すようにモータジェネレータMGのアシストによりエンジンEGの回転数はさらに上昇を継続する。
【0072】
この時間tからtまでの燃料カット、スロットルバルブ114の閉動作及びエンジン回転の継続により、吸気通路(燃料噴射ポート)111aのブーストが低下し、これによりそれまでリッチな混合気によって平衡付着量より大きい壁流となっていた燃料を素早く気化させることができる。すなわち、時間tからtまでの間はブーストが充分に低くなく、低回転で、しかもリッチな混合気を燃焼させるため噴射ポート111aの壁流量は平衡付着量より大きくなっているが、ステップS9の処理により燃料の気化を促進させることができる。気化した燃料(炭化水素)は排気浄化触媒127の還元作用に寄与する。
【0073】
次のステップS10では、アクセル開度センサ71の出力に基づいて要求トルクを演算し、エンジンEGの始動時の回転数とブーストを演算する。
【0074】
ステップS11では、ステップS10で求められたエンジン回転数とブーストから目標壁流量を演算する。そして、ステップS12にて現在の壁流量が目標壁流量に等しくなったとき、すなわち時間t2において燃料噴射を再開する(ステップS13)。これにより、排気浄化触媒127の酸素貯蔵量が過多ではない状態でエンジンを始動させることができ、窒素酸化物NOxの排出量を抑制することができる。また、ブーストが充分に低くなった状態でエンジンを始動させるので、短時間かつ最小限の壁流補正量で燃焼を安定化させることができる。
【0075】
なお、エンジンEGが停止したとき(図4の時間-t)の壁流量から、エンジンEGが停止していた時間及び温度(水温センサ133を用いる)から決まる壁流気化量を減算することで、エンジンEGの再始動要求時(図4の時間t)の壁流量が求められる。
【0076】
燃料を噴射している時間t〜tの間の壁流量は、空燃比センサ126の出力と、燃料噴射バルブ118による燃料噴射量及びエアフローメータ113による吸入空気量との差を演算することにより求めることができる。
【0077】
燃料の噴射を停止している時間t〜tの間の壁流量は、水温毎のブーストと気化割合のマップを用いて求めることができ、燃料噴射停止時の壁流量=前回壁流量×(1−壁流気化割合)となる。
【0078】
そして、上記のようにして求められた壁流量が、図7に示すように目標回転数に応じた平衡付着量に漸近した時間tから燃料噴射を再開する。
【0079】
ちなみに、図4の時間tの初期において(図3のステップS13)、排気浄化触媒127の窒素酸化物NOx浄化効率を高めるために、さらに時間t〜tの間の制御(図3のステップS4〜S8)を追加してもよい。
【0080】
また、図4の時間t〜tの間における燃料噴射のタイミングは、壁流の付着量が比較的少ない吸気行程としてもよい。
【0081】
また、図4の時間t〜tの間において壁流気化燃料を燃焼させるために、所定のサイクルだけ燃焼させることが望ましい。
【0082】
上述した実施形態の制御装置1が本発明に係る制御手段に相当し、空燃比センサ126または酸素センサ128が本発明に係る酸素貯蔵量検出手段に相当し、時間t〜tが本発明に係る第1の期間に相当し、時間t〜tが本発明に係る第2の期間に相当し、時間t〜が発明に係る第3の期間に相当し、制御装置1が本発明に係る壁流量推定手段に相当する。
【符号の説明】
【0083】
HEV…ハイブリッド車両
1…制御装置
EG…エンジン(内燃機関)
11…エンジンコントローラ
111,111a…吸気通路
112…エアーフィルタ
113…エアフローメータ
114…スロットルバルブ
115…コレクタ
116…スロットルバルブアクチュエータ
117…スロットルセンサ
118…燃料噴射バルブ
119…シリンダ
120…ピストン
121…吸気バルブ
122…排気バルブ
123…燃焼室
124…点火プラグ
125…排気通路
126…空燃比センサ
127…排気浄化触媒
128…酸素センサ
129…マフラ
130…クランク軸
131…クランク角センサ
132…冷却ジャケット
133…水温センサ
MG…モータジェネレータ
31…モータコントローラ
INV…インバータ
BAT…バッテリ
AT…自動変速機
51…トランスミッションコントローラ
CL1…第1クラッチ
CL2…第2クラッチ
PS…プロペラシャフト
DS…ドライブシャフト
DF…ディファレンシャルギヤユニット
71…アクセル開度センサ
72…車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、電動機と、前記内燃機関又は前記電動機の出力軸に接続された車輪と、を備えたハイブリッド車両に対し制御信号を出力する制御装置であって、
前記内燃機関の排気系に設けられた排気浄化触媒の酸素貯蔵量を検出する酸素貯蔵量検出手段と、
前記酸素貯蔵量検出手段により検出された酸素貯蔵量が所定値以上であって前記内燃機関を始動する場合に、始動開始から第1の期間はストイキよりリッチな空燃比で燃焼させる信号を出力し、前記第1の期間に続く第2の期間は燃料噴射を停止するとともにスロットルバルブを閉じる信号を出力する制御手段と、を備えたことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記制御手段は、
前記第1の期間は前記スロットルバルブを開く信号を出力することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記制御手段は、
前記第2の期間に続く第3の期間は、前記スロットルバルブを負荷に応じた目標開度に設定するとともにストイキで燃焼させる信号を出力することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記制御手段は、
前記排気浄化触媒の目標酸素貯蔵量と、前記始動開始時における前記酸素貯蔵量検出手段により検出された酸素貯蔵量との差分に基づいて、前記第1の期間の燃料噴射量を設定することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記制御手段は、
前記設定された燃料噴射量と実際に噴射された燃料の積算値との差がゼロになったときに、前記第2の期間の燃料噴射の停止信号を出力することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
請求項3に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
吸気系の温度及び圧力に基づいて燃料噴射ポートの壁流量を推定する壁流量推定手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記壁流量推定手段により推定された燃料噴射ポートの壁流量が、要求負荷に応じた目標壁流量に等しくなったときに、前記第3の期間のストイキで燃焼させる信号を出力することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記ハイブリッド車両は、出力軸を有する内燃機関と、前記出力軸に連結された出力軸を有する電動機と、前記電動機の出力軸に接続された車輪と、前記内燃機関の出力軸と前記電動機の出力軸との間の動力伝達を断接する第1クラッチと、前記電動機の出力軸と車輪との間の動力伝達を断接する第2クラッチと、を備えたことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−179864(P2010−179864A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27039(P2009−27039)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】