説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】エンジン停止制御時、差動許容機構を有さない直列接続駆動系でありながら、エンジン再始動時の排気浄化効率の維持と、車速低下の抑制と、燃費の向上と、を併せて達成すること。
【解決手段】駆動系に、エンジンEng、第1クラッチCL1、モータ/ジェネレータMG、第2クラッチCL2、左右タイヤLT,RTを備え、エンジンEngを停止させる際、第1クラッチCL1を締結状態でエンジンEngへの燃料噴射を継続したままでエンジン回転数を低下させ、エンジン回転数N1が所定回転数N2まで低下した段階でエンジンEngへの燃料噴射を停止する。このハイブリッド車両において、エンジン停止制御手段(図4,図5)は、モータ/ジェネレータMGによりエンジン回転数N1を低下させるとともに、第2クラッチCL2をスリップ締結状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとモータの一方または両方によって走行する走行モードを有し、エンジン再始動時の排気浄化効率を維持するためのエンジン停止制御を実施するハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気通路に、触媒雰囲気を理論空燃比に保つことにより、排気中のエミッション(HC、CO、NOx)を同時に浄化する三元触媒を備えるものにおいて、再始動時にも排気浄化触媒の浄化効率が維持されるようにエンジンを停止させるハイブリッド車両におけるエンジンの停止制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これは、エンジンの出力軸に回転を伝達することができるモータジェネレータを備え、エンジンを停止させる際、先ずスロットル弁を閉じ、エンジンの燃料噴射を継続したままでモータ/ジェネレータの発電トルクを増大させることによって、エンジンの出力軸を制動し、エンジンの出力軸の回転が停止するか、または、エンジンの出力軸の回転が所定の低回転以下まで低下したら、エンジンの燃料噴射を停止するようにしている。そして、この技術は、エンジン回転を低下させる際に、差動許容機構で出力回転を制御することにより、エンジン回転の低下に同期して車速が低下することがないようにしている。
【0004】
ここで、「差動許容機構」とは、特許文献1に示される構成のように、遊星歯車の各回転要素にトルク発生要素がそれぞれ連結され、各トルク発生要素のトルク制御により出力回転数(=車速)を維持しながら、エンジン回転数の低下を許容する機能を持つ機構をいう。以下、明細書中で用いる「差動許容機構」は、全て同じ意味であり、例えば、有段式の自動変速機内に設けられた遊星歯車(差動機構)を含むものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−64097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジンとモータ/ジェネレータと駆動輪とが、それぞれ2つのクラッチを介して直列に接続されるハイブリッドシステムがある(以下、このハイブリッドシステムを「差動許容機構を有さない直列接続駆動系」という)。この差動許容機構を有さない直列接続駆動系では、モータ/ジェネレータによりエンジン出力軸を制動すると、エンジン回転数の低下に同期して車速も低下する。このため、上記従来例における場合と同様に、エンジンを停止させる際、モータ/ジェネレータによってエンジンの出力軸を制動することができない、という問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、エンジン停止制御時、差動許容機構を有さない直列接続駆動系でありながら、エンジン再始動時の排気浄化効率の維持と、車速低下の抑制と、燃費の向上と、を併せて達成することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両の制御装置では、駆動系に、エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータの間に介装した第1クラッチと、前記モータと駆動輪の間に介装した第2クラッチと、を備え、前記エンジンを停止させる際、前記第1クラッチを締結状態でエンジンへの燃料噴射を継続したままでエンジン回転数を低下させ、エンジン回転数が所定回転数まで低下した段階で前記エンジンへの燃料噴射を停止するエンジン停止制御手段を設けた。
このハイブリッド車両の制御装置において、前記エンジン停止制御手段は、前記モータによりエンジン回転数を低下させるとともに、前記第2クラッチをスリップ締結状態とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
よって、本発明にあっては、エンジン停止制御時、燃料噴射を継続したままでエンジン回転数を低下させるとき、モータの一方に締結状態の第1クラッチを介してエンジンが連結され、モータの他方にスリップ締結状態の第2クラッチを介して駆動輪が連結された駆動系となる。このため、エンジンとモータと駆動輪を直列接続した差動許容機構を持たない駆動系でありながら、エンジンとモータの回転数変化が等しく、且つ、第2クラッチのスリップ締結によりモータと駆動輪の回転差を許容するというように、エンジンとモータと駆動輪の間での差動回転関係が確保される。
したがって、エンジンを停止させる際、エンジンの停止直前まで排気系触媒に燃焼ガスを送るため、エンジン再始動時の排気浄化効率を維持できる。また、モータの回転数低下にかかわらず、第2クラッチの滑りによる回転差吸収作用により、駆動輪の回転数(車速)の低下を抑制することができる。さらに、制御応答性が高いモータの回転数低下により、エンジン回転数を連れ回しで素早く低下させることができ、燃料噴射を停止するまでの時間短縮化により燃費の向上となる。
この結果、エンジン停止制御時、差動許容機構を有さない直列接続駆動系でありながら、エンジン再始動時の排気浄化効率の維持と、車速低下の抑制と、燃費の向上と、を併せて達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の制御装置が適用された前輪駆動または後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の統合コントローラ10で行われる演算処理を示す制御ブロック図である。
【図3】実施例1の統合コントローラ10のモード選択部200に設定されているEV-HEV選択マップの一例を示す図である。
【図4】実施例1の統合コントローラ10にて実行されるエンジン停止条件の成立にしたがってエンジンEngを停止させるエンジン停止制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施例1のエンジンコントローラ1にて実行されるエンジン停止フラグと燃料噴射停止フラグを入力したときにエンジンEngを停止するエンジン停止制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1のエンジン停止制御において自動変速機CVTのハイ側変速に制限がないときのエンジン回転数・モータ回転数・エンジントルク・モータトルク・第1クラッチ容量・CVT変速比の各特性を示すタイムチャートである。
【図7】実施例1のエンジン停止制御において自動変速機CVTのハイ側変速に制限がかかったときのエンジン回転数・CVT変速比・第2クラッチ差回転の各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の電動車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置が適用された前輪駆動または後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【0013】
実施例1におけるハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジンEngと、フライホイールFWと、第1クラッチCL1と、モータ/ジェネレータMG(モータ)と、メカオイルポンプM-O/Pと、第2クラッチCL2と、自動変速機CVTと、変速機入力軸INと、変速機出力軸OUTと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左タイヤLT(駆動輪)と、右タイヤRT(駆動輪)と、を有する。
【0014】
前記エンジンEngは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、エンジンコントローラ1からのエンジン制御指令に基づいて、エンジン始動制御やエンジン停止制御やスロットルバルブのバルブ開度制御や燃料カット制御、等が行われる。エンジンEngは、位相変化型の可変バルブタイミング機構(以下、VTC(Variable Timing Controlの略)という。)を有し、吸排気バルブの進角・遅角をコントロールすると共に、点火時期の進角・遅角をコントロールする。なお、エンジン出力軸には、フライホイールFWが設けられている。
【0015】
前記第1クラッチCL1は、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGの間に介装されたクラッチであり、第1クラッチコントローラ5からの第1クラッチ制御指令に基づき第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された第1クラッチ制御油圧により、締結・半締結状態・解放が制御される。この第1クラッチCL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力にて完全締結を保ち、ピストン14aを有する油圧アクチュエータ14を用いたストローク制御により、締結状態を制御するノーマルクローズの乾式単板クラッチが用いられる。
【0016】
前記モータ/ジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータ/ジェネレータであり、モータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータ/ジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(力行)、ロータがエンジンEngや駆動輪から回転エネルギーを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ4を充電することもできる(回生)。
【0017】
前記メカオイルポンプM-O/Pは、モータ/ジェネレータMGのモータ軸MSに設けられ、モータ/ジェネレータMGにより駆動される。このメカオイルポンプM-O/Pは、自動変速機CVTに付設される油圧コントロールバルブユニットCVUと、これに内蔵している第1クラッチ油圧ユニット6と第2クラッチ油圧ユニット8に対する油圧源とされる。なお、メカオイルポンプM-O/Pからの吐出圧が見込めないときや不足するときのため、電動モータにより駆動される電動オイルポンプを設けるようにしても良い。
【0018】
前記第2クラッチCL2は、モータ/ジェネレータMGと左右タイヤLT,RTの間のうち、モータ軸MSと変速機入力軸INの間に介装されたクラッチである。この第2クラッチCL2は、CVTコントローラ7からの第2クラッチ制御指令に基づき、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、締結・スリップ締結・解放が制御される。この第2クラッチCL2としては、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できるノーマルオープンの湿式多板クラッチ等が用いられる。
【0019】
前記自動変速機CVTは、第2クラッチCL2の下流位置に配置され、車速やアクセル開度等に応じて目標入力回転数を決め、無段階による変速比を自動的に変更するベルト式による無段変速機が用いられる。この自動変速機CVTは、変速機入力軸IN側のプライマリプーリと、変速機出力軸OUT側のセカンダリプーリと、両プーリに掛け渡されたベルトを主要構成とする。そして、ポンプ油圧を元圧とし、プライマリプーリ圧とセカンダリプーリ圧を作り出し、このプーリ圧によりプライマリプーリの可動プーリとセカンダリプーリの可動プーリを軸方向に動かし、ベルトのプーリ接触半径を変化させることで、変速比を無段階に変更する。
【0020】
前記自動変速機CVTの変速機出力軸OUTには、図外の終減速機構を介してディファレンシャルDFが連結され、ディファレンシャルDFから、左ドライブシャフトDSLと右ドライブシャフトDSRを介してそれぞれに左右タイヤLT,RTが設けられている。
【0021】
このハイブリッド車両は、駆動形態の違いによる走行モードとして、電気自動車走行モード(以下、「EVモード」という。)と、ハイブリッド車走行モード(以下、「HEVモード」という。)と、駆動トルクコントロール走行モード(以下、「WSCモード」という。なお、WSCは、「Wet Start Clutch」の略である。)と、を有する。
【0022】
前記「EVモード」は、第1クラッチCL1を解放状態とし、モータ/ジェネレータMGを駆動源として走行するモードであり、モータ走行モード・回生走行モードを有し、何れかのモードにより走行する。この「EVモード」は、要求駆動力が低く、バッテリSOCが確保されているときに選択される。
【0023】
前記「HEVモード」は、第1クラッチCL1を締結状態とし、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGを駆動源として走行するモードであり、モータアシスト走行モード・発電走行モード・エンジン走行モードを有し、何れかのモードにより走行する。この「HEVモード」は、要求駆動力が高いとき、あるいは、バッテリSOCが不足するようなときに選択される。
【0024】
前記「WSCモード」は、モータ/ジェネレータMGの回転数制御とクラッチ油圧制御により、第2クラッチCL2をスリップ締結状態に維持し、第2クラッチCL2を経過するクラッチ伝達トルクが、車両状態やドライバー操作に応じて決まる要求駆動トルクとなるようにクラッチトルク容量をコントロールしながら走行するモードである。この「WSCモード」は、「HEVモード」の選択状態での停車時・発進時・減速時等のように、エンジン回転数がアイドル回転数を下回るような走行領域やポンプ吐出油が不足するような発進領域において選択される。
【0025】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。
実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、CVTコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。なお、各コントローラ1,2,5,7,9と、統合コントローラ10とは、情報交換が互いに可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0026】
前記エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報と、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、エンジンEngのスロットルバルブアクチュエータ等へ出力する。
このエンジンコントローラ1は、エンジンEngの吸入空気量を検出するエアフローメータ23、排気空燃比を検出するO2センサ24からの検出信号が入力され、「HEVモード」の選択時において、エンジンEngの点火時期を、X°BTDC(X>0)に設定する。
また、エンジンコントローラ1は、エンジンEngの燃料噴射量を、エンジン回転数と吸入空気量に基づき設定し、排気系統に設置されている三元触媒25の触媒雰囲気がほぼ理論空燃比に維持されるように、O2センサ24の検出値に基づいて燃料噴射補正値λを変更する制御を行う(λコントロール)。
【0027】
前記モータコントローラ2は、モータ/ジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報と、統合コントローラ10からの目標MGトルク指令および目標MG回転数指令と、他の必要情報を入力する。そして、モータ/ジェネレータMGのモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2は、モータトルクを目標トルクとし、回転数を駆動系の回転に追従させるトルク制御を基本制御とするが、第2クラッチCL2のスリップ制御中等においては、モータ回転数を目標回転数とし、トルクを駆動系負荷に追従させる回転数制御を行う。また、このモータコントローラ2は、バッテリ4の充電容量をあらわすバッテリSOCを監視していて、このバッテリSOC情報を、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0028】
前記第1クラッチコントローラ5は、油圧アクチュエータ14のピストン14aのストローク位置を検出する第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの目標CL1トルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、第1クラッチCL1の締結・半締結・解放を制御する指令を油圧コントロールバルブユニットCVU内の第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。
【0029】
前記CVTコントローラ7は、アクセル開度センサ16と、車速センサ17と、他のセンサ類18等からの情報を入力する。そして、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる目標入力回転数をシフトマップにより検索し、検索された目標入力回転数(変速比)を得る制御指令を油圧コントロールバルブユニットCVUに出力する。
この変速制御に加えて、統合コントローラ10から目標CL2トルク指令を入力した場合、第2クラッチCL2へのクラッチ油圧を制御する指令を油圧コントロールバルブユニットCVU内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する第2クラッチ制御を行う。
また、エンジン始動制御やエンジン停止制御等において、統合コントローラ10から変速制御指令が出力された場合、通常の変速制御に優先し、変速制御指令にしたがった変速制御を行う。
【0030】
前記ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19と、ブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの回生協調制御指令と、他の必要情報を入力する。そして、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(液圧制動力やモータ制動力)で補うように、回生協調ブレーキ制御を行う。
【0031】
前記統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21や他のセンサ・スイッチ類22からの必要情報およびCAN通信線11を介して情報を入力する。そして、エンジンコントローラ1へ目標エンジントルク指令、モータコントローラ2へ目標MGトルク指令および目標MG回転数指令、第1クラッチコントローラ5へ目標CL1トルク指令、CVTコントローラ7へ目標CL2トルク指令、ブレーキコントローラ9へ回生協調制御指令を出力する。
【0032】
図2は、実施例1の統合コントローラ10で行われる演算処理を示す制御ブロック図である。図3は、統合コントローラ10のモード選択部200に設定されているマップの一例を示す図である。以下、図2及び図3を用いて、統合コントローラ10で行われる演算処理を説明する。
【0033】
前記統合コントローラ10は、図2に示すように、目標駆動トルク演算部100と、モード選択部200と、目標発電出力演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を備えている。
【0034】
前記目標駆動トルク演算部100は、目標定常駆動トルクマップとMGアシストトルクマップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPから、目標定常駆動トルクとMGアシストトルクを算出する。
【0035】
前記モード選択部200は、図3に示すEV-HEV選択マップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPから、目標走行モード(HEVモード、EVモード、WSCモード)を演算する。
このEV-HEV選択マップには、EV領域に存在する運転点(APO,VSP)が横切ると「HEVモード」へと切り替えるEV⇒HEV切替線(エンジン始動線)と、HEV領域に存在する運転点(APO,VSP)が横切ると「EVモード」へと切り替えるHEV⇒EV切替線(エンジン停止線)と、「HEVモード」の選択時に運転点(APO,VSP)がWSC領域に入ると「WSCモード」へと切り替えるHEV⇒WSC切替線と、が設定されている。前記HEV⇒EV切替線と前記HEV⇒EV切替線は、EV領域とHEV領域を分ける線としてヒステリシス量を持たせて設定されている。前記HEV⇒WSC切替線は、自動変速機CVTが1速段や最低変速比のときに、エンジンEngがアイドル回転数を維持する第1設定車速VSP1に沿って設定されている。但し、「EVモード」の選択中、バッテリSOCが所定値以下になると、強制的に「HEVモード」を目標走行モードとする。
【0036】
前記目標発電出力演算部300は、走行中発電要求出力マップを用いて、バッテリSOCから目標発電出力を演算する。また、現在のエンジン動作点(回転数、トルク)から最良燃費線までエンジントルクを上げるために必要な出力を演算し、前記目標発電出力と比較して少ない出力を要求出力として、エンジン出力に加算する。
【0037】
前記動作点指令部400は、アクセル開度APOと目標定常トルクとMGアシストトルクと目標走行モードと車速VSPと要求発電出力とから、これらを動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標MGトルクと目標CL2トルク容量と目標変速比(目標CVTシフト)とCL1ソレノイド電流指令を演算する。
【0038】
前記変速制御部500は、目標CL2トルク容量と目標変速比(目標CVTシフト)とから、これらを達成するように自動変速機CVT内のソレノイドバルブを駆動制御するCVTソレノイド電流指令を演算する。
【0039】
図4は、実施例1の統合コントローラ10にて実行されるエンジン停止条件の成立にしたがってエンジンEngを停止させるエンジン停止制御処理の流れを示すフローチャートである(エンジン停止制御手段)。以下、図4の各ステップについて説明する。
【0040】
ステップS1では、エンジンEngの停止条件が成立しているか否かを判断し、YES(Eng停止条件成立)の場合はステップS2へ進み、NO(Eng停止条件不成立)の場合はエンドへ進む。
例えば、「HEVモード」を選択しての走行中、バッテリ4の充電容量(バッテリSOC)が十分で、アクセル開度APOにあらわれる要求駆動力が低く、エンジンEngの動力に頼らずモータ/ジェネレータMGのみでの走行が可能であると判断されたとき、「HEVモード」から「EVモード」へのモード遷移指令が出されが(図3参照)、このモード遷移指令に基づくエンジン停止要求の出力をもってエンジンEngの停止条件成立とする。
【0041】
ステップS2では、ステップS1でのEng停止条件成立であるとの判断に続き、エンジン停止動作を許可するエンジン停止フラグを、エンジン停止フラグ=1にセットし、ステップS3へ進む。
【0042】
ステップS3では、ステップS2でのエンジン停止フラグ=1のセットに続き、エンジン停止制御開始時のエンジン回転数N1が、所定回転数N2(=燃料カット制御の開始回転数)以上であるか否かを判断し、YES(エンジン回転数N1≧所定回転数N2)の場合はステップS4へ進み、NO(エンジン回転数N1<所定回転数N2)の場合はステップS10へ進む。
【0043】
ステップS4では、ステップS3あるいはステップS8でのエンジン回転数N1≧所定回転数N2との判断に続き、第1クラッチCL1を完全締結状態としたままでモータ/ジェネレータMGによるモータ回転数を低下させ、ステップS5へ進む。
【0044】
ステップS5では、ステップS4でのモータ回転数の低下に続き、モータ回転数の低下にかかわらず車速(=変速機出力回転数)を低下させることがないように、自動変速機CVTの変速比を徐々に低下させ(ハイ側変速)、ステップS6へ進む。
【0045】
ステップS6では、ステップS5での自動変速機CVTの変速比低下に続き、モータ回転数の低下に追従して自動変速機CVTの変速比を低下(ハイ側変速)させるのに制限(ハイ側変速制限やハイ側変速速度制限)がかかっているか否かを判断し、YES(変速比低下に制限有り)の場合はステップS7へ進み、NO(変速比低下に制限無し)の場合はステップS8へ進む。
【0046】
ステップS7では、ステップS6での変速比低下に制限有りとの判断に続き、第2クラッチCL2をスリップ締結状態にし、ステップS8へ進む。
【0047】
ステップS8では、ステップS6での変速比低下に制限無しとの判断、あるいは、ステップS7でのCL2スリップ締結に続き、エンジン回転数N1が所定回転数N2未満になったか否かを判断し、YES(エンジン回転数N1<所定回転数N2)の場合はステップS9へ進み、NO(エンジン回転数N1≧所定回転数N2)の場合はステップS4へ戻る。
【0048】
ステップS9では、ステップS8でのエンジン回転数N1<所定回転数N2であるとの判断に続き、燃料噴射停止を許可する燃料噴射停止フラグを、燃料噴射停止フラグ=1にセットし、ステップS16へ進む。
【0049】
ステップS10では、ステップS3でのエンジン回転数N1<所定回転数N2であるとの判断に続き、燃料噴射停止を許可する燃料噴射停止フラグを、燃料噴射停止フラグ=1にセットし、ステップS11へ進む。
【0050】
ステップS11では、ステップS10での燃料噴射停止フラグ=1のセットに続き、そのときのエンジン回転数N1に維持し、ステップS12へ進む。
【0051】
ステップS12では、ステップS11でのエンジン回転数N1の維持、あるいは、ステップS15でのタイマー値<T1であるとの判断に続き、エンジン回転数維持継続時間を示すタイマー値をカウントアップし、ステップS13へ進む。
ここで、タイマー値の設定時間T1は、エンジンEngが単独で自立回転している状態から所定回転数N2で燃料噴射を停止した場合、エンジン回転数N1まで低下するのに要する時間と等しく設定する。
【0052】
ステップS13では、ステップS12でのタイマーカウントアップに続き、自動変速機CVTのプライマリプーリ回転数を維持できない等を原因とし、モータ回転を維持することができないか否かを判断し、YES(モータ回転の維持不可)の場合はステップS14へ進み、NO(モータ回転の維持可)の場合はステップS145へ進む。
【0053】
ステップS14では、ステップS13でのモータ回転の維持不可であるとの判断に続き、第2クラッチCL2をスリップ締結状態にし、ステップS15へ進む。
【0054】
ステップS15では、ステップS13でのモータ回転の維持可であるとの判断、あるいは、ステップS14でのスリップ締結に続き、タイマー値が、設定時間T1以上であるか否かを判断し、YES(タイマー値≧T1)の場合はステップS16へ進み、NO(タイマー値<T1)の場合はステップS12へ戻る。
【0055】
ステップS16では、ステップS9での燃料噴射停止フラグ=1のセット、あるいは、ステップS15でのタイマー値≧T1であるとの判断に続き、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGとを連結している第1クラッチCL1を解放して、エンジンEngをモータ/ジェネレータMGから切離し、ステップS17へ進む。
【0056】
ステップS17では、ステップS16での第1クラッチCL1の解放に続き、自動変速機CVTの変速比をこのエンジン停止制御の開始時の変速比に戻し、これに伴いモータ/ジェネレータMGの回転数も、同様にエンジン停止制御の開始時のモータ回転数に戻し、エンドへ進む。
【0057】
図5は、実施例1のエンジンコントローラ1にて実行されるエンジン停止フラグと燃料噴射停止フラグを入力したときにエンジンEngを停止するエンジン停止制御処理の流れを示すフローチャートである(エンジン停止制御手段)。以下、図5の各ステップについて説明する。
【0058】
ステップS20では、統合コントローラ10から入力されるエンジン停止フラグが、エンジン停止フラグ=1であるか否かを判断し、YES(エンジン停止フラグ=1)の場合はステップS21に進み、NO(エンジン停止フラグ=0)の場合はリターンへ進む。
【0059】
ステップS21では、ステップS20でのエンジン停止フラグ=1であるとの判断に続き、エンジンEngの吸気バルブのバルブタイミングを最遅角化して、エンジン始動時のバルブタイミングに戻し、ステップS22へ進む。
【0060】
ステップS22では、ステップS21でのVTC最遅角化に続き、エンジンEngの点火時期を遅角し、点火時期をY°BTDC(Y<0)に設定し、ステップS23へ進む。
このように、点火時期を遅らせることで、エンジントルクとエンジン回転数を低下させることができる。点火時期Y°BTDCは、エンジンEngの燃焼安定性を悪化させない範囲でできるだけ遅角側に設定される。
【0061】
ステップS23では、ステップS22での点火時期遅角化に続き、統合コントローラ10から入力される燃料噴射停止フラグが、燃料噴射停止フラグ=1であるか否かを判断し、YES(燃料噴射停止フラグ=1)の場合はステップS24に進み、NO(燃料噴射停止フラグ=0)の場合はリターンへ進む。
【0062】
ステップS24では、ステップS23での燃料噴射停止フラグ=1であるとの判断に続き、エンジンEngの電子スロットル弁の開度を全閉とし、ステップS25へ進む。
このように電子スロットル弁の開度を全閉とすることで、エンジンEngの吸入空気量を低下させ、エンジントルクとエンジン回転数をさらに低下させる。
【0063】
ステップS25では、ステップS24でのスロット開度の全閉に続き、エンジンEngの燃料噴射を停止してエンジンEngを停止させ、リターンへ進む。
なお、上記したエンジン停止制御中に、大きな要求駆動力が出されて「EVモード」へのモード遷移が中止された場合は、エンジン停止制御を中止し、自動変速機CVTの変速比を元に戻す。その際には、エンジン停止フラグや燃料噴射停止フラグ等は初期値(0)に戻される。
【0064】
次に、作用を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置における作用を、「エンジン再始動時の排気浄化効率維持作用」、「N1≧N2のときのエンジン停止制御作用」、「N1<N2のときのエンジン停止制御作用」に分けて説明する。
【0065】
[エンジン再始動時の排気浄化効率維持作用]
エンジンの排気通路には、排気を浄化するための三元触媒が設けられている。この三元触媒は、排気中のエミッション(HC、CO、NOx)を同時に浄化する触媒であり、その浄化効率を最大にするには、触媒雰囲気を理論空燃比に保つ必要がある。このため、エンジン制御では、エンジンの空燃比をリッチ状態とリーン状態とで交互に切り換え、触媒雰囲気が理論空燃比に保たれるようにしている。
【0066】
しかし、エンジン停止制御時において、エンジン停止条件が成立すると直ちに燃料噴射を停止することでエンジンを停止させる制御を実行すると、燃料噴射を停止してからエンジンの回転が停止するまでの間、空気(酸素)のみが三元触媒に流入し、触媒雰囲気がリーン状態となる。触媒雰囲気がリーン状態になると三元触媒が貯蔵する酸素の量が増大してしまうので、エンジン再始動時に三元触媒によるNOx浄化能力が低下し、大気中に排出されるNOxの量が増大する原因となる。
【0067】
これに対し、実施例1のエンジン停止制御では、エンジン停止条件が成立すると(ステップS1でYES)、エンジン停止フラグをセットする(ステップS2)。エンジン停止フラグがセットされると、図5のフローチャートにおいて、ステップS20→ステップS21→ステップS22→ステップS23→リターンへと進む流れが繰り返される。つまり、ステップS21では、エンジンEngの吸気バルブのバルブタイミングを最遅角化して、エンジン始動時のバルブタイミングに戻され、ステップS22では、エンジンEngの点火時期が遅角化される。
【0068】
そして、エンジン停止フラグをセットした後、エンジン回転数N1が所定回転数N2を超えていると(ステップS3でYES)、エンジン回転数N1が所定回転数N2未満であるという条件が成立するまで待ち、エンジン回転数N1が所定回転数N2未満であるという条件が成立すると(ステップS8でYES)、燃料噴射停止フラグをセットし(ステップS9)、第1クラッチCL1を解放する(ステップS16)。この燃料噴射停止フラグがセットされると、図5のフローチャートにおいて、ステップS23からステップS24→ステップS25→リターンへと進む流れが繰り返される。つまり、ステップS24では、エンジンEngの電子スロットル弁の開度が全閉とされ、ステップS25では、エンジンEngの燃料噴射を停止してエンジンEngが停止される。
【0069】
このように、エンジン停止制御においては、エンジン停止条件が成立してもエンジン再始動のための準備体制を整えておくだけで、エンジンEngの燃料噴射を継続したままでエンジン回転数N1が所定回転数N2まで低下するのを待ち、所定回転数N2まで低下したところで、電子スロットル弁を閉じ燃料噴射を停止することでエンジンEngを停止させるようにしている。
【0070】
したがって、エンジンEngの停止直前まで燃料噴射が継続され、三元触媒25には燃焼ガスが送られるので、三元触媒25に空気(酸素)のみが流入して触媒雰囲気がリーン状態となることがなく、エンジン再始動時のNOx浄化性能が悪化するのを防止することができる。
【0071】
また、燃料噴射停止フラグがセットされてから燃料噴射を停止する燃料カットまでの間は電子スロットル弁を開いており、燃料カットと共に電子スロットル弁を閉じるようにしているため、急激なブースト(負圧)の発達がなくなり、噴射燃料に加えてインテークマニホールドのポート壁に付着している燃料が筒内に流入して空燃比のリッチ/ピークを生ずることがなく、排気性能を向上させることができる。
【0072】
[N1≧N2のときのエンジン停止制御作用]
エンジン停止条件が成立時にエンジン回転数N1が所定回転数N2以上であり、自動変速機CVTの変速比低下(ハイ側変速)に制限がないときには、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS8へと進み、ステップS8においてN1≧N2であると判断される限り、ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS8へと進む流れが繰り返される。すなわち、ステップS4では、第1クラッチCL1を完全締結状態としたままでモータ/ジェネレータMGによるモータ回転数を低下させ、ステップS5では、モータ回転数の低下にかかわらず車速(=変速機出力回転数)を低下させることがないように、自動変速機CVTの変速比を徐々に低下させてハイ側へ変速させる。
【0073】
一方、自動変速機CVTの変速比低下(ハイ側変速)に制限がかかると、ステップS8においてN1≧N2であると判断される限り、ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS8へと進む流れが繰り返される。すなわち、ステップS6で自動変速機CVTによる変速比低下に制限がかかっていると判断されると、ステップS7では、第2クラッチCL2がスリップ締結状態とされる。
【0074】
そして、モータ回転数の低下によりエンジン回転数N1が低下していき、ステップS8においてN1<N2であると判断されると、ステップS8からステップS9→ステップS16→ステップS17→エンドへと進む。すなわち、ステップ9では、燃料噴射停止フラグがセットされ、ステップS16では、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGとを連結している第1クラッチCL1が解放され、ステップS17では、自動変速機CVTの変速比をこのエンジン停止制御の開始時の変速比に戻され、これに伴いモータ/ジェネレータMGの回転数についても、同様にエンジン停止制御の開始時のモータ回転数に戻される。
【0075】
このように、実施例1では、エンジン停止条件が成立したとき(ステップS1でYES)、エンジン停止制御開始時のエンジン回転数N1が所定回転数N2以上である場合(ステップS3でYES)、モータ回転数を低下させ(ステップS4)、それと共にエンジン回転数も締結状態の第1クラッチCL1を介した連れ回しで低下させる。そして、自動変速機CVTのプライマリ回転数もモータ回転数と等しく低下するが、ロー側への戻し確保のためにハイ側に変速比制限がかかったり、ロー変速速度が限界に達したりして、プライマリ回転数を低下させられなくなったら(ステップS6でYES)、第2クラッチCL2の油圧を抜き、第2クラッチCL2をスリップさせる(ステップS7)。そして、所定回転数N2とモータ最低回転数のうちの高い方の回転数まで、モータ/ジェネレータMGを用いてエンジン回転数を低下させると(ステップS8でYES)、エンジン回転数が低下したところで第1クラッチCL1を解放し(ステップS16)、エンジンEngの回転を停止させる(図5)。以下、N1≧N2のときのエンジン停止制御における燃費向上作用、車速低下抑制作用、再発進・再加速作用について説明する。
【0076】
(燃費向上作用)
実施例1のエンジン停止制御では、エンジンEngを停止させる際、モータ/ジェネレータMGによりエンジン回転数N1を所定回転数N2まで低下させるようにしている。
【0077】
例えば、自動変速機CVTのハイ側変速に制限がないときのエンジン停止制御作用を図6に示すタイムチャートにより説明する。
まず、自動変速機CVTの変速比をハイ側にし、変速機入力回転数を低下させる手法によりエンジン回転数を低下させようとすると、1点鎖線のエンジン回転数特性に示すように、エンジン停止条件成立時でエンジン回転数N1である時刻t0から、緩やかな勾配にて低下していき、時刻t3となった時点で所定回転数N2まで低下する。これに対し、モータ制御によりエンジン回転数を低下させると、実線によるエンジン回転数特性に示すように、エンジン停止条件成立時でエンジン回転数N1である時刻t0から、モータ回転数の低下特性にそのまま追従してエンジン回転数が低下していき、時刻t2となった時点で所定回転数N2まで低下する。
【0078】
そして、NOx排出量規制を守るべくエンジン回転数が所定回転数N2まで低下するまで燃料噴射を継続する場合、所定回転数N2まで低下するまでに要する時間が短いほど、エンジンEngへの燃料噴射を停止するタイミングが早期になる。
【0079】
したがって、実施例1の場合、エンジン停止条件が成立したときのエンジン回転数N1を、燃料カットする所定回転数N2まで、乗り心地性能を損なわない最大限の低下勾配によりモータ/ジェネレータMGで下げることができるので、この間のエンジン回転数の低下時間の短縮効果(Δt=t3−t2)を確保でき、NOx排出量規制を守りながら燃費を向上させることができる。
【0080】
(車速低下抑制作用)
実施例1のエンジン停止制御では、モータ/ジェネレータMGによりエンジン回転数を低下させる際、自動変速機CVTをハイ側に変速させ、ハイ側への変速に制限がかかったとき、第2クラッチCL2をスリップ締結状態とするようにしている。
【0081】
例えば、自動変速機CVTのハイ側変速に対し、ロー側への戻し制御の確保を図る等の理由により制限があるときのエンジン停止制御作用を、図7に示すタイムチャートにより説明する。
まず、エンジン停止条件成立時でエンジン回転数N1である時刻t0から、自動変速機CVTのハイ側変速を開始し、時刻t1となった時点でそれ以上はハイ側に変速できないという制限がかかるとする。このとき、時刻t1となった時点から第2クラッチCL2への油圧が抜かれてスリップを開始し、エンジン回転数が所定回転数N2まで低下する時刻t2まで変速比のハイ側制限量Aに相当するスリップ量Bによりスリップ状態が継続される。これにより、モータ制御によりエンジン回転数を低下させると、図7の実線によるエンジン回転数特性に示すように、エンジン停止条件成立時でエンジン回転数N1である時刻t0から、モータ回転数の低下特性にそのまま追従してエンジン回転数が低下していき、図6の場合と同じ時刻t2となった時点で所定回転数N2まで低下する。
【0082】
すなわち、エンジン停止条件が成立してから、燃料噴射を継続したままでエンジン回転数N1を所定回転数N2まで低下させるとき、モータ/ジェネレータMGの一方に締結状態の第1クラッチCL1を介してエンジンEngが連結され、モータ/ジェネレータMGの他方にスリップ締結状態の第2クラッチCL2を介して自動変速機CVT及び左右タイヤLT,RTが連結された駆動系となる。このため、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGと自動変速機CVTと左右タイヤLT,RTを直列接続した差動許容機構を持たない駆動系でありながら、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGの回転数変化が等しく、且つ、第2クラッチCL2のスリップ締結によりモータ/ジェネレータMGと自動変速機CVTの入力回転数の回転差を許容するというように、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGと自動変速機CVTの間での差動回転関係が確保される。
【0083】
したがって、モータ/ジェネレータMGによるエンジン回転数低下制御に対し、自動変速機CVTでのハイ側変速が追従できない制限がかかっていて、ハイ側変速によって車速を維持することができないとき、第2クラッチCL2の滑りによる回転差吸収作用により、左右タイヤLT,RTの回転数(車速)の低下を抑制することができる。
【0084】
そして、この自動変速機CVTのハイ側変速に制限がかかったとき、第2クラッチCL2のスリップ締結により、モータ/ジェネレータMGによるエンジン回転数の低下制御への影響も同時に排除され、エンジン回転数の低下時間の短縮効果(Δt=t3−t2)をそのまま享受するため、NOx排出量規制を守りながら燃費を向上させることができる。
【0085】
さらに、ハイ側への変速制限がかかってはじめて第2クラッチCL2をスリップさせるというように、第2クラッチCL2がスリップ状態となる頻度やスリップ状態が継続する時間を短く抑えることができ、この結果、第2クラッチCL2の過熱が抑えられ、耐久性が悪化することを防止できる。
【0086】
加えて、第2クラッチCL2をスリップさせることにより自動変速機CVTの変速が制限されることはなくなるので、例えば、車両停止前の減速中にあっては自動変速機CVTのロー側への戻し制御が可能となり、発進性の向上を図ることができる。
【0087】
(再発進・再加速作用)
実施例1のエンジン停止制御では、エンジンEngを停止させる際、エンジン回転数N1が予め設定した設定回転数N2まで低下した段階で、第1クラッチCL1を解放し、自動変速機CVTの変速比をエンジン回転数が低下される以前の変速比に戻すようにしている。
【0088】
したがって、エンジン停止制御が終了する時点で、自動変速機CVTの変速比がロー側寄りに戻っているので、その後、車両停止して再発進する際には、高い駆動トルクによる力強い再発進を行うことができる。また、エンジン停止制御の終了後、アクセル踏み込み操作により加速する際には、高い駆動トルクによる力強い再加速を行うことができる。
【0089】
[N1<N2のときのエンジン停止制御作用]
エンジン停止条件が成立時にエンジン回転数N1が所定回転数N2未満であり、そのときのエンジン回転数およびモータ回転数を維持できるときには、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS10→ステップS11→ステップS12→ステップS13→ステップS15へと進み、ステップS15においてタイマー値<T1であると判断される限り、ステップS12→ステップS13→ステップS15へと進む流れが繰り返される。すなわち、ステップS10では、燃料噴射停止フラグをセットし、ステップS11では、そのときのエンジン回転数N1に維持し、ステップS12では、エンジン回転数維持継続時間を示すタイマー値をカウントアップする。
【0090】
一方、モータ回転数を維持できないときは、ステップS12→ステップS13→ステップS14→ステップS15へと進む流れが繰り返される。すなわち、ステップS15においてタイマー値<T1であると判断される限り、ステップS13で自動変速機CVTのプライマリプーリ回転数を維持できない等を原因とし、モータ回転を維持することができないと判断されると、ステップS14では、第2クラッチCL2がスリップ締結状態とされる。
【0091】
そして、エンジン回転数とモータ回転数を維持した状態で、エンジンEngが単独で自立回転している状態から所定回転数N2で燃料噴射を停止した場合、エンジン回転数N1まで低下するのに要する時間と等しく設定されたタイマー値の設定時間T1を経過すると、ステップS15からステップS16→ステップS17→エンドへと進む。すなわち、ステップS16では、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGとを連結している第1クラッチCL1が解放され、ステップS17では、自動変速機CVTの変速比をこのエンジン停止制御の開始時の変速比に戻され、これに伴いモータ/ジェネレータMGの回転数についても、同様にエンジン停止制御の開始時のモータ回転数に戻される。
【0092】
このように、実施例1では、エンジン停止条件が成立したとき(ステップS1でYES)、既にエンジン回転数N1が所定回転数N2未満である場合には(ステップS3でNO)、エンジンEngへの燃料噴射を直ちに停止し(ステップS10)、モータ/ジェネレータMGでエンジンEngを連れ回してその時のエンジン回転数N1にしばらく維持し(ステップS11〜ステップS15)、その後に第1クラッチCL1を解放し(ステップS16)、エンジン回転を停止させる。ここで、自動変速機CVTの入力回転数(プライマリ回転数)もモータ回転数と等しく動くが、エンジンEngのVTCが戻るのに十分な程度の時間、モータ回転数を維持しなければならない。しかし、モータ回転数を維持できなくなったら(ステップS13でYES)、第2クラッチCL2の油圧を抜き、第2クラッチCL2をスリップさせる(ステップS14)。
【0093】
上記のように、実施例1のエンジン停止制御では、エンジン停止条件成立時におけるエンジン回転数N1が所定回転数N2未満のときは直ちに燃料噴射を停止し、モータ/ジェネレータMGでエンジンEngを連れまわしてエンジン回転数を一定の値以上に維持し、所定時間経過後に第1クラッチCL1を解放してエンジンを停止するようにしている。
【0094】
したがって、モータ/ジェネレータMGでエンジンEngを連れ回す時間を確保することによって、燃料消費を抑えながらエンジンEngのVTC戻し動作を確実に行えるため、エンジンEngの再始動が保証でき、力強い再発進や再加速ができる。
【0095】
さらに、エンジン停止制御では、モータ/ジェネレータMGによりエンジン回転数N1を維持している間、モータ回転数を維持させることができなくなったとき、第2クラッチCL2をスリップ締結状態とするようにしている。
【0096】
したがって、第2クラッチCL2の下流側に存在する自動変速機CVTや左右タイヤLT,RT等によってモータ回転数の維持(=エンジン回転数N1の維持)ができない状況になっても、モータ/ジェネレータMGでエンジンEngを連れ回す時間を確保することができ、エンジンEngのVTC戻し動作を確実に行える。
【0097】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0098】
(1) 駆動系に、エンジンEngと、モータ(モータ/ジェネレータMG)と、前記エンジンEngと前記モータ(モータ/ジェネレータMG)の間に介装した第1クラッチCL1と、前記モータ(モータ/ジェネレータMG)と駆動輪(左右タイヤLT,RT)の間に介装した第2クラッチCL2と、を備え、前記エンジンEngを停止させる際、前記第1クラッチCL1を締結状態でエンジンEngへの燃料噴射を継続したままでエンジン回転数を低下させ、エンジン回転数N1が所定回転数N2まで低下した段階で前記エンジンEngへの燃料噴射を停止するエンジン停止制御手段を設けたハイブリッド車両の制御装置において、前記エンジン停止制御手段(図4,図5)は、前記モータ(モータ/ジェネレータMG)によりエンジン回転数N1を低下させるとともに、前記第2クラッチCL2をスリップ締結状態とする。
このため、エンジン停止制御時、差動許容機構を有さない直列接続駆動系でありながらエンジンEngとモータ(モータ/ジェネレータMG)と駆動輪(左右タイヤLT,RT)の間での差動回転関係を確保することで、エンジン再始動時の排気浄化効率の維持と、車速低下の抑制と、燃費の向上と、を併せて達成することができる。
【0099】
(2) 前記モータ(モータ/ジェネレータMG)と前記駆動輪(左右タイヤLT,RT)との間に自動変速機CVTを備え、前記エンジン停止制御手段(図4)は、前記モータ(モータ/ジェネレータMG)によりエンジン回転数を低下させる際、前記自動変速機CVTをハイ側に変速させ(ステップS5)、ハイ側への変速に制限がかかったとき(ステップS6でYES)、前記第2クラッチCL2をスリップ締結状態とする(ステップS7)。
このため、ハイ側への変速制限がかかってはじめて第2クラッチCL2をスリップさせるというように、第2クラッチCL2がスリップ状態となる頻度やスリップ状態が継続する時間を短く抑えることができ、この結果、第2クラッチCL2の過熱が抑えられ、耐久性が悪化することを防止できる。加えて、第2クラッチCL2をスリップさせることにより自動変速機CVTの変速が制限されることはなくなるので、例えば、車両停止前の減速中にあっては自動変速機CVTのロー側への戻し制御が可能となり、発進性の向上を図ることができる。
【0100】
(3) 前記エンジン停止制御手段(図4)は、前記エンジンEngを停止させる際、エンジン回転数N1が予め設定した設定回転数N2まで低下した段階で(ステップS8でYES)、第1クラッチCL1を解放し、前記自動変速機CVTの変速比をエンジン回転数が低下される以前の変速比に戻す(ステップS17)。
このため、エンジン停止制御の終了時点で、モータ(モータ/ジェネレータMG)とロー側変速比による自動変速機CVTにより高い駆動トルクを発揮できる体制が整えられ、力強い再発進や再加速を行うことができる。
【0101】
(4) 前記エンジン停止制御手段(図4)は、前記エンジンEngを停止させる際、エンジン回転数N1が予め設定した設定回転数N2まで低下した段階で(ステップS8でYES)、前記エンジンEngのスロットル弁を全閉にする(ステップS9)。
このため、急激なブースト(負圧)の発達がなくなり、噴射燃料に加えてインテークマニホールドのポート壁に付着している燃料が筒内に流入して空燃比のリッチ/ピークを生ずることがなく、排気性能を向上させることができる。
【0102】
(5) 前記エンジン停止制御手段(図4)は、エンジン停止条件成立時におけるエンジン回転数N1が所定回転数N2未満のときは直ちに燃料噴射を停止し(ステップS3→ステップS10)、前記モータ(モータ/ジェネレータMG)で前記エンジンEngを連れまわしてエンジン回転数を一定の値以上に維持し(ステップS11)、所定時間経過後に前記第1クラッチCL1を解放してエンジンEngを停止する(ステップS15→ステップS16)。
このため、モータ(モータ/ジェネレータMG)でエンジンEngを連れまわす時間を確保することによって、燃料消費を抑えながらVTC戻しを確実に行えるので、エンジンEngの再始動を保証でき、力強い再発進や再加速を行うことができる。
【0103】
(6) 前記エンジン停止制御手段(図4)は、前記モータ(モータ/ジェネレータMG)によりエンジン回転数N1を維持している間、モータ回転数を維持させることができなくなったとき(ステップS13でYES)、前記第2クラッチCL2をスリップ締結状態とする(ステップS14)。
このため、第2クラッチCL2の下流側に存在する自動変速機CVTや左右タイヤLT,RT等によってモータ回転数の維持ができない状況になっても、モータ/ジェネレータMGでエンジンEngを連れ回す時間が確保され、エンジンEngのVTC戻し動作を確実に行うことができる。
【0104】
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0105】
実施例1では、自動変速機として、モータ/ジェネレータMGによるエンジン回転数低下制御に追従し、変速機入力回転数(=モータ回転数)を滑らかに低下させながら変速機出力回転数(=車速)を維持することができる無段階の変速比を得るベルト式の自動変速機CVTを用いる例を示した。しかし、自動変速機としては、トロイダル式の自動変速機CVTや有段階の変速段を得る自動変速機AT等のように他の型式のものを用いても良い。そして、例えば、有段の自動変速機ATを用いる場合には、モータによりエンジン回転数を低下する際、車速を維持するために自動変速機ATの変速ギア比の変化を監視し、変速ギア比の変化に追従する段階的なエンジン回転数の低下制御を行う。あるいは、モータによるエンジン回転数の低下制御中、第2クラッチCL2のスリップ締結状態を維持する制御を行う。
【0106】
実施例1では、第2クラッチCL2を、モータ/ジェネレータMGと自動変速機CVTの間に介装する例を示した。しかし、例えば、自動変速機として、有段の自動変速機ATを用いる場合、自動変速機ATに内蔵した摩擦締結要素の中から第2クラッチCL2を選択する例としても良い。さらに、自動変速機と駆動輪との間に第2クラッチCL2を介装する例としても良い。
【0107】
実施例1では、自動変速機付きの1モータ2クラッチのハイブリッド車両への適用例を示した。しかし、例えば、自動変速機の無い駆動系を持つハイブリッド車両にも適用することができる。要するに、エンジン、第1クラッチ、モータ、第2クラッチ、駆動輪が直列接続されている駆動系を有するハイブリッド車両であれば、実施例1以外の型式を持つハイブリッド車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0108】
Eng エンジン
CL1 第1クラッチ
MG モータ/ジェネレータ(モータ)
MS モータ軸
CL2 第2クラッチ
CVT 自動変速機
IN 変速機入力軸
OUT 変速機出力軸
M-O/P メカオイルポンプ
LT 左タイヤ(駆動輪)
RT 右タイヤ(駆動輪)
1 エンジンコントローラ
2 モータコントローラ
3 インバータ
4 バッテリ
5 第1クラッチコントローラ
6 第1クラッチ油圧ユニット
7 CVTコントローラ
8 第2クラッチ油圧ユニット
9 ブレーキコントローラ
10 統合コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動系に、エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータの間に介装した第1クラッチと、前記モータと駆動輪の間に介装した第2クラッチと、を備え、
前記エンジンを停止させる際、前記第1クラッチを締結状態でエンジンへの燃料噴射を継続したままでエンジン回転数を低下させ、エンジン回転数が所定回転数まで低下した段階で前記エンジンへの燃料噴射を停止するエンジン停止制御手段を設けたハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジン停止制御手段は、前記モータによりエンジン回転数を低下させるとともに、前記第2クラッチをスリップ締結状態とすることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記モータと前記駆動輪との間に自動変速機を備え、
前記エンジン停止制御手段は、前記モータによりエンジン回転数を低下させる際、前記自動変速機をハイ側に変速させ、ハイ側への変速に制限がかかったとき、前記第2クラッチをスリップ締結状態とすることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジンとモータとの間に第1クラッチを備え、
前記エンジン停止制御手段は、前記エンジンを停止させる際、エンジン回転数が予め設定した設定回転数まで低下した段階で、前記第1クラッチを解放し、前記自動変速機の変速比をエンジン回転数が低下される以前の変速比に戻すことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか1項に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジン停止制御手段は、前記エンジンを停止させる際、エンジン回転数が予め設定した設定回転数まで低下した段階で、前記エンジンのスロットル弁を全閉にすることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れか1項に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジン停止制御手段は、エンジン停止条件成立時におけるエンジン回転数が所定回転数未満のときは直ちに燃料噴射を停止し、前記モータで前記エンジンを連れまわしてエンジン回転数を一定の値以上に維持し、所定時間経過後に前記第1クラッチを解放してエンジンを停止することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジン停止制御手段は、前記モータによりエンジン回転数を維持している間、モータ回転数を維持させることができなくなったとき、前記第2クラッチをスリップ締結状態とすることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−25811(P2011−25811A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173030(P2009−173030)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】