説明

ハイブリッド車

【課題】走行中にモータのインバータの出力の1相が制御不能になった場合であっても長時間走行することのできるハイブリッド車を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車100の第1モータ6aは、ギアセットを介してエンジン4と連動するとともに、セルモータと発電機を兼ねている。第2モータ6bは、ギアセットを介してエンジンと連動するとともに、車輪にトルクを伝達するギアセット出力軸に係合している。コントローラ8は、HVモードで走行中に、第1インバータの3相出力のうちの1相が制御不能の場合、第1インバータの3相出力を用いたモータ制御を停止するとともにエンジンを停止して第2モータだけで走行するEVモードへ移行する。次いでコントローラ8は、2相出力で第1モータを駆動するための駆動信号を第1インバータの制御可能な2相のスイッチング回路に与えて第1モータを駆動してエンジンを始動して再びHVモードに移行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪駆動用のモータとエンジンを備えるハイブリッド車に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪駆動用のモータとエンジンを備えるハイブリッド車は、モータに電力を供給するインバータを備える。ハイブリッド車のインバータは、大電流を扱う電子デバイスであるため、直流から交流を生成する多数のスイッチング回路の一つあるいは幾つかが故障し、UVW3相の交流出力のうちの1相が制御不能となることがある。
【0003】
インバータの技術においては、3相出力のうちの1相が制御不能の場合、残りの2相でモータを駆動する技術が知られている(例えば特許文献1)。そのような技術をハイブリッド車に適用することで、車両を走行できる状態に維持することが可能となる(例えば特許文献2)。以下、本来はUVW3相交流電流で駆動するモータを2相で駆動することを2相制御と称することにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−067429号公報
【特許文献2】特開2009−201194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
走行中にインバータに不具合が発生した場合、そのインバータを用いて制御しているモータを停止することが好ましい。また、モータとエンジンが連動して回転する機構を有するハイブリッド車の多くは、エンジンを使わずにモータだけで走行するEVモードと、エンジンを使って走行するHVモードを走行中に切り換えることが可能であるが、特許文献2の技術では、HVモードで走行中にインバータに不具合が発生した場合、そのインバータ用いて制御しているモータを停止させるとともにエンジンを停止させ、別のモータのみで走行する。しかしながら、ハイブリッド車は、エンジンの駆動力と回生エネルギにより走行中にバッテリを充電することを前提としており、バッテリの容量が小さいため、モータのみでは長時間走行することができない。本明細書は、モータに不具合が生じ、一旦エンジンを停止させた後でも、長時間走行が可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する技術は、エンジンを使わずにモータだけで走行するEVモードと、エンジンとモータを使って走行するHVモードを走行中に切り換えることが可能なハイブリッド車を対象とする。そのハイブリッド車は、エンジン、複数のモータ(第1モータと第2モータ)、それらモータを制御するインバータ(第1インバータと第2インバータ)、及び、コントローラを備えている。第1モータは、ギアセットを介してエンジンと連動するとともに、セルモータと発電機を兼ねている。第1インバータは、第1モータに電力を供給する3相出力のインバータである。第2モータは、前述のギアセットを介してエンジンと連動するとともに、車輪にトルクを伝達するギアセット出力軸に係合している。第2インバータは、第2モータに電力を供給する3相出力のインバータである。本明細書が開示する技術の一態様のコントローラは、HVモードで走行中に、第1インバータの3相出力のうちの1相が制御不能の場合、第1インバータの3相出力を用いたモータ制御を停止するとともにエンジンを停止して第2モータだけで走行するEVモードへ移行する。次いでコントローラは、EVモードで走行中に、2相出力で第1モータを駆動するための駆動信号を第1インバータの制御可能な2相のスイッチング回路に与えて第1モータを駆動してエンジンを始動して再びHVモードに移行する。
【0007】
本明細書が開示するハイブリッド車では、HVモードで走行中に第1モータに不具合が生じた場合、第1モータのインバータ(第1インバータ)とエンジンを一旦停止する。エンジンを一旦停止するが、第1モータが2相制御可能の場合は、2相制御でエンジンを再び始動する。エンジンが始動したらエンジンの駆動力を車輪と第1モータに分配し、第1モータで発電する。第1モータが発電した電力でバッテリを充電することが可能となる。本明細書が開示するハイブリッド車は、第1モータの1相が制御不能になった場合でも長時間走行することが可能となる。また、HVモードで走行中に第1モータのインバータに不具合が生じた際、第1モータのインバータとエンジンを停止し、健全な第2モータのみで走行し、その間にエンジンを再始動することで、故障時の走行モードに安全に移行することができる。
【0008】
ところで、一般にモータは回転数の増加に伴って出力が小さくなる特性を有しており、エンジンを停止させモータだけで走行しているときにインバータに不具合が生じた場合、さらに出力が小さくなってしまう2相制御でモータを駆動しても出力不足でエンジンを再始動できない虞がある。そのため、HVモードで走行中にインバータに不具合が生じてエンジンを停止した場合、エンジンを再始動できなくなる可能性がある。
【0009】
そこで、本明細書が開示するハイブリッド車のコントローラは、好ましくは、第1インバータによる2相出力で第1モータを駆動してエンジンを始動する条件を、第1モータの回転数が予め定められた回転数閾値以下のときに制限する。前述したように、モータは、回転数の増加に伴って出力が低下する。上記の回転数閾値は、第1モータが2相制御であってもエンジンを始動するのに十分な出力を出せる回転数の上限値に設定される。上記のハイブリッド車は、第1モータを2相制御しなければならない場合、エンジンを始動するのに十分な出力を出せる回転数以下で第1モータを駆動するので、走行中であってもエンジンを確実に再始動することができる。第1モータのインバータが故障した際、第2モータによるEVモードだけでは短距離しか走行できないが、エンジンを再始動させることによって、長い距離を走行することが可能となる。
【0010】
なお、「エンジンを使って走行する」とは、エンジンで直接車輪を駆動することと、エンジンで発電機を駆動して発電し、その電力を使ってモータで車輪を駆動することの双方を含む。
【0011】
ギアセットの典型例は、次の構成を有するプラネタリギアである。即ち、プラネタリキャリアがエンジンに連結している。リングギアとサンギアの一方が第1モータに連結している。リングギアとサンギアの他方が第2モータに連結しているとともに車軸にトルクを伝える出力軸に係合している。上記構成のプラネタリギアでは、第1モータを駆動しなければエンジンを始動することができない。第1モータを駆動しなければ、第2モータの回転数を変えてもエンジン回転はゼロのままだからである。なお、上記構成のプラネタリギアを有するハイブリッド車では、第1モータが故障した場合に第2モータを使ってエンジンを始動させるという技術は適用することはできないことに留意されたい。本明細書が開示する技術は、上記構成のプラネタリギアを有するハイブリッド車に特に有用である。
【0012】
本明細書は、さらに、好適な2相制御が可能なハイブリッド車も提供する。そのハイブリッド車では、第1モータのインバータが、UVW3相の交流電流を生成するスイッチング回路群の入力側(直流側)にて正極線と負極線の間に直列に接続されている第1及び第2コンデンサと、第1モータから出ているUVW3相の各モータ線(モータの巻き線に繋がる電力供給線)の接続先を切り換えるリレーであり、各モータの接続先を、個別に、インバータの対応する出力端から第1及び第2コンデンサの間の接続点へ切り換えるリレーと、を備えている。なお、「第1及び第2コンデンサの間の接続点」は「中性点」と呼ばれる。上記の構成を備えた上で、コントローラは、第1モータのUVW3相の各モータ線のうち制御不能の1相に接続されているモータ線の接続先をスイッチング回路の出力端から中性点へ切り換えるようにリレーを制御するとともに、2相で第1モータを駆動するための駆動信号を制御可能な2相のスイッチング回路に与えて第1モータを駆動してエンジンを始動させる。そしてコントローラは、エンジン始動後に第1モータの発電によりバッテリを充電させる。バッテリが充電されればエンジンと第2モータを使ったハイブリッド走行を長時間続けることができる。なお、モータを駆動するための駆動信号の一例は、スイッチング回路のON/OFFを規定するPWM信号である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例のハイブリッド車の模式的ブロック図である。
【図2】動力分配機構(プラネタリギア)のスケルトン図である。
【図3】動力分配機構(プラネタリギア)の共線図である。
【図4】インバータとその周辺のデバイスの回路図である。
【図5】インバータに不具合が発生したときの処理のフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に、実施例のハイブリッド車100の模式的ブロック図を示す。ハイブリッド車100は、車輪駆動用のエンジン4と2個のモータ(第1モータ6a、第2モータ6b)を有する。ハイブリッド車100は、第1モータ6a(MG1)と第2モータ6b(MG2)のそれぞれに対して第1インバータ3a、第2インバータ3bを備える。いずれのインバータも、バッテリ2から電力の供給を受ける。いずれのインバータも、PWM駆動型であり、そのPWM信号は、コントローラ8が供給する。コントローラ8は、車速、アクセル開度、バッテリ2の残量(SOC:State Of Chage)などから、夫々のモータとエンジンが出力すべき出力の大きさを算出し、モータへは出力分担に応じたPWM信号を与え、エンジンには出力分担に応じた燃料噴射量を指令する。なお、ハイブリッド車を含む電気自動車の場合、モータやエンジンの出力は電力換算値(単位は[kW])で表されることが多い。モータの駆動エネルギが電力だからである。
【0015】
第1モータ6aは主にセルモータ及び発電機として機能する。第2モータ6bが主として駆動力を発生する。ただし、高い駆動力が必要とされる場合は第1モータ6aも駆動力を供給し、また、回生時は第2モータ6bが発電機として機能する。
【0016】
第1モータ6aの出力と第2モータ6bの出力とエンジン4の出力は、動力分配機構9で合成/分配され、車軸7に伝えられる。車軸7は、デファレンシャルギア12を介して車輪13に繋がっている。第1モータ6aと第2モータ6bは車軸7及びエンジン4と連動して回転する。
【0017】
動力分配機構9について説明する。動力分配機構9は、主としてプラネタリギアで構成されている。図2に、動力分配機構9を構成するプラネタリギア50のスケルトン図を示す。プラネタリギア50は、サンギア51、プラネタリキャリア52、及び、リングギア53が組み合わさったギアセットである。プラネタリキャリア52は、エンジン4の出力軸に連結している。サンギア51は、第1モータ6aの出力軸に連結している。リングギア53は、第2モータ6bに連結している。なお、リングギア53の一部が第2モータ6bのロータを構成している。また、リングギア53は、リングギア53に同軸に固定されているアウトプットギア54とアイドルギア55を介して車軸7と係合している。なお、図3の符号56は、車軸7に固定された伝達ギアである。上記構成の動力分配機構9により、エンジン4と第1モータ6a、及び、第2モータ6bの出力の割合によって車軸7の出力が定まる。場合によって、エンジン4と第2モータ6bの出力で車軸を駆動するとともに第1モータ6aを駆動して電力得る。プラネタリギア50の構造と機能は良く知られているので詳しい説明は省略する。図2から明らかなとおり、第1モータ6a、第2モータ6bともに、エンジン4と車輪7に連動して回転する。即ち、走行中にアクセルがOFFされてもモータは回転し続ける。このとき、モータ6a、6bが発生する逆起電力は、夫々のインバータ3a、3bを介して直流電力に変換され、バッテリ2に蓄えられる。即ち、ハイブリッド車100は車両の運動エネルギを電気エネルギに回生してバッテリ2に蓄えることもできる。
【0018】
図3に、プラネタリギア50の共線図を示す。グラフL1とL2は、いずれも車両が所定の車速で走行しているときのギア比を表すが、グラフL1はエンジン4が回転数C1で回転しているときのグラフを示しており、グラフL2はエンジン回転数がゼロのときのグラフを示している。リングギア53の回転数は、車軸の回転数に比例するため、エンジン4が回転していても停止していても回転数R1である。車両が定常走行している場合は、エンジン4が駆動しており、グラフL1が示す回転数となる。このとき、第1モータ6aに連結しているサンギア51の回転数はS1である。この場合、第1モータ6aは発電している。
【0019】
走行中にエンジン4が停止すると、エンジン回転数(プラネタリキャリア回転数)はゼロ(C2)となる。今、車両は一定車速で走行していると仮定すると、リングギア53の回転数は、R1のままである。リングギア53の回転数がR1のままエンジン回転数がC1からC2(ゼロ)に低下すると、サンギア51の回転数はS1からS2に低下する。即ち、各ギアの回転数の関係がグラフL1からグラフL2に変化する。図4の共線図から明らかなとおり、サンギア51の回転方向は反転する。
【0020】
図3から理解されるように、エンジン4と第1モータ6aがともに停止している場合は、第2モータ6bによってエンジン回転数を上げることはできない。即ち、上記の動力分配機構を有するハイブリッド車は、第2モータをセルモータとして利用することができない。走行中にエンジン4を再始動するためには第1モータ6aを使わなければならない。
【0021】
エンジン4が停止した状態(プラネタリキャリア52が回転していない状態)で、第1モータ6aを駆動することによって、エンジン4をその出力軸側から回転させ、同時に燃料を供給し、エンジンを始動させる。エンジンを始動させるためには第1モータ6aは、図3においてサンギア51の回転数をS2からS1まで引き上げるだけの出力を出さねばならない。回転数S2からS1まで引き上げるには、回転方向の反転を含むため、相応の出力が要求される。即ち、車速が高くなるほど、エンジンを始動させるのに第1モータ6aに要求される出力は大きくなる。逆に、車速が低くなれば、即ち、リングギア53の回転数が低下すると、サンギア51の回転数はゼロに近づくので、エンジンを再始動させるのに第1モータ6aに要求される出力は小さくなる。
【0022】
2相制御ではモータの出力は顕著に低下する。他方、図3を参照して先に述べたように、走行中、エンジン4が停止している場合、車速が高いほどエンジンの再始動に要するモータ出力は大きくなる。従って、2相制御によって第1モータ6aを駆動しエンジンを再始動する場合、エンジンを始動することのできる第1モータ6aの回転数には制限があることに留意されたい。以下、本実施例では、エンジンを始動することのできる第1モータ回転数の上限値を回転数制限値Nmaxとする。
【0023】
次に、第1インバータ3aの電気回路を説明する。図4に、第1インバータ3aとそれに関係するデバイスの回路図を示す。インバータ3aは、多数のスイッチング回路Sw1〜Sw6を含むインバータ主回路21、リレー回路22、2個のコンデンサ(第1コンデンサCp、第2コンデンサCn)、及び、電流センサ24を主たる構成要素として備える。なお、図示を省略しているが、インバータ3aは、上記のほか、インバータ主回路21の入力側(直流側)と出力側(交流側)の電圧を計測する電圧センサ等も備える。
【0024】
インバータ主回路21は、6個のスイッチング回路Sw1〜Sw6で構成される。即ち、ここでは、バッテリ2の直流電力から3相の交流電力を発生する6個のスイッチング回路群をインバータ主回路21と称している。各スイッチング回路Sw1〜Sw6は、IGBTとダイオード(還流ダイオード)が逆並列に接続された回路構成を有している。なお、電流許容値の小さいIGBTで大電流を許容するスイッチング回路を構成するために、複数のIGBTを並列につないで一つのスイッチング回路を構成することもある。
【0025】
インバータ主回路21では、2個のスイッチング回路が直列に接続された組が3組並列に接続されており、直列の2個のスイッチング回路の接続点からモータへインバータ出力線が伸びている。直列の2個のスイッチング回路の接続点が、インバータ主回路21の出力端に相当する。インバータ主回路21の出力は、UVWの3本であり、その3本の出力線は、リレー回路22を通じてモータのUVW各線(モータ線14)に接続されている。モータ線14は、モータ6aの巻き線に繋がる線であり、「電力供給線」と別称することもできる。3本の出力線の夫々と、その出力線に対応するスイッチング回路の組は「アーム」と呼ばれる。
【0026】
リレー回路22は、モータから出ているUVW3相の各モータ線14の接続先を、インバータの対応するスイッチング回路から中性点Np(後述)へ切り換えるためのスイッチである。リレー回路22は、3個のリレー22a、22b、及び、22cで構成され、モータ線14の各線の接続先を個別に、インバータの出力線から中性点へ切り換えることができる。どのリレーを切り換えるかは、コントローラ8が指令する。各リレーは電力が供給されていない状態ではモータ線14をインバータの出力線に接続しており、リレーのコイルに所定の電圧を加えるとモータ線の接続先を中性点Npに切り換える。なお、「リレー回路22」とは、3個のリレー22a、22b、及び、22cの総称である。
【0027】
その他、センサとして、モータの回転数を計測する回転数センサ26がモータ6aに備えられている。
【0028】
インバータ主回路21の入力端21a、21bは、バッテリ2に接続されている。図4では、バッテリ2の上側の線が正極線10aであり、下側の線が負極線10bである。インバータ主回路21の入力側(スイッチング回路群の入力側であり、直流側でもある)において正極線10aと負極線10bの間に2個の平滑化コンデンサCpとCnが直列に接続されている。2個の平滑化コンデンサCpとCnの容量は等しい。平滑化コンデンサCp、Cnは、スイッチング回路群(インバータ主回路21)のスイッチング動作の影響による入力電流の脈動を抑制するために挿入されている。
【0029】
2個の平滑化コンデンサCp、Cnの接続点が中性点Npに相当する。2個のコンデンサCp、Cnの容量は等しいため、インバータ主回路21が動作していない状態では、中性点Npの電位は、バッテリ2の電圧の半分である。他方、インバータ主回路21の出力側からみると、中性点Npの電位は、インバータ主回路21が出力する交流電圧における平均電圧に相当する。
【0030】
コントローラ8は、インバータ主回路21のいずれかのスイッチング回路に不具合が生じ、UVW3相の交流出力のうちいずれか1相が制御不能となった場合、残りの2相で第1モータ6aを駆動する。コントローラ8は、2相制御を開始するのに先立ち、リレー回路22を制御し、制御不能となった相のモータ線14の接続先を第1インバータ3aの出力線から中性点Npに切り換える。その後、制御可能な残りの2相にモータを駆動するためのPWM信号を与える。そのような2相制御の一例が特開2004−120883号に開示されているので、詳しくはそちらを参照されたい。なお、スイッチング回路の不具合は、例えば、電流センサ24のセンサデータをモニタすることで検知できる。
【0031】
図5に、HVモードで走行中に第1インバータ3aのいずれかのスイッチング回路に不具合が発生した際のコントローラ8の処理のフローチャートを示す。図5の処理は、スイッチング回路に不具合が検知されると起動される。スイッチング回路の不具合が検知されると、コントローラ8はまず、第1インバータ3aを停止するとともに、エンジンを停止する(S2、S3)。具体的には、コントローラ8は、第3インバータ3aに対して、出力ゼロに相当するPWM信号を出力するとともに、エンジン4への燃料供給を停止する。即ち、この時点で、ハイブリッド車100は、第2モータ6bのみで走行するEVモードになっている。
【0032】
次にコントローラ8は、リレー回路22を制御し、UVW3相のモータ線14のうち、制御不能の相に対応するモータ線14(不具合が検知されたスイッチング回路に対応するモータ線14)の接続先をインバータ主回路21(スイッチング回路)の出力端から中性点Npへ切り換える(S4)。
【0033】
次にコントローラ8は、回転数センサ26のセンサデータをモニタし、第1モータ6aの回転数が前述した回転数閾値Nmax以下となるまで待機する(S5)。第1モータ6aの回転数が回転数閾値Nmax以下に低下したら、コントローラ8は、第1モータ6aを2相制御により駆動する。第1モータ6aの回転に伴ってエンジン4も回転する。同時にコントローラ8は、エンジンに燃料を供給し、再始動させる(S6)。ここで、ハイブリッド車100は、再びHVモードに移行することになる。エンジン4が再始動した後は、第1インバータ3aから第1モータ6aへの電力供給は停止する。第1モータ6aはエンジン4によって回転させられ、発電する(S7)。コントローラ8は、第1モータ6aが発電した電力によってバッテリ2を充電するように第1インバータ3aを制御する。バッテリ2が充電されるので、ハイブリッド車100はエンジン4と第2モータ6bを使って走行を続けることができる。
【0034】
コントローラ8の処理を簡潔に述べると次の通りである。コントローラ8は、インバータ主回路21内のスイッチング回路群のいずれかが故障した場合に、HVモードであれば、第1インバータ3aを停止するとともに、エンジン4を停止する。次いで、コントローラ8は、第1モータ6aのUVW3相の各モータ線14のうち故障したスイッチング回路の出力端に接続されているモータ線の接続先を中性点Npへ切り換えるようにリレー回路22を制御するとともに、2相で第1モータ6aを駆動するためのPWM信号を故障していないスイッチング回路に与えて第1モータ6aを駆動し、エンジンを始動させる。
【0035】
上記したハイブリッド車100は、エンジンと2個のモータを備え、セルモータを兼ねているモータのインバータに不具合が生じ、UVW3相のうちの1相が制御不能となってもそのモータでエンジンを再始動することができる。
【0036】
実施例の技術に関する留意点を述べる。実施例のハイブリッド車では、モータはPWM駆動型であった。モータは、PWM駆動型以外であってもよい。モータは、例えば、PAM(Pulse Amplitude Modulation)駆動型であってもよい。
【0037】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0038】
2:バッテリ
3a:第1インバータ
3b:第2インバータ
4:エンジン
6a:第1モータ
6b:第2モータ
7:車軸
8:コントローラ
9:動力分配機構
10a:正極線
10b:負極線
12:デファレンシャルギア
13:車輪
14:モータ線
21:インバータ主回路
22:リレー回路
24:電流センサ
26:回転数センサ
50:プラネタリギア
51:サンギア
52:プラネタリキャリア
53:リングギア
54:アウトプットギア
55:アイドルギア
100:ハイブリッド車
Cp:第1コンデンサ
Cn:第2コンデンサ
Np:中性点
Sw:スイッチング回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを使わずにモータだけで走行するEVモードと、エンジンとモータを使って走行するHVモードを走行中に切り換えることが可能なハイブリッド車であって、
エンジンと、
ギアセットを介してエンジンと連動するとともに、セルモータと発電機を兼ねている第1モータと、
第1モータに電力を供給する3相出力の第1インバータと、
前記ギアセットを介してエンジンと連動するとともに、車輪にトルクを伝達するギアセット出力軸に係合している第2モータと、
第2モータに電力を供給する3相出力の第2インバータと、
コントローラと、を備えており、
コントローラは、HVモードで走行中に、第1インバータの3相出力のうちの1相が制御不能の場合、
第1インバータの3相出力を用いたモータ制御を停止するとともにエンジンを停止して第2モータだけで走行するEVモードへ移行し、
EVモードで走行中に、2相出力で第1モータを駆動するための駆動信号を第1インバータの制御可能な2相のスイッチング回路に与えて第1モータを駆動してエンジンを始動して再びHVモードに移行する、
ことを特徴とするハイブリッド車。
【請求項2】
前記コントローラは、第1インバータによる2相出力で第1モータを駆動してエンジンを始動する条件を、第1モータの回転数が予め定められた回転数閾値以下のときに制限することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車。
【請求項3】
前記インバータは、
3相の交流電流を生成するスイッチング回路群の入力側にて正極線と負極線の間に直列に接続されている第1及び第2コンデンサと、
第1モータから出ている3相の各モータ線の接続先を切り換えるリレーであり、各モータの接続先を、個別に、インバータの対応する出力端から第1及び第2コンデンサの間の接続点(中性点)へ切り換えるリレーと、を備えており、
前記コントローラは、
第1モータの3相の各モータ線のうち制御不能の1相に接続されているモータ線の接続先を前記中性点へ切り換えるように前記リレーを制御するとともに、2相で第1モータを駆動するための駆動信号を制御可能な2相のスイッチング回路に与えて第1モータを駆動してエンジンを始動させ、
エンジン始動後に第1モータの発電力によってバッテリを充電する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車。
【請求項4】
前記ギアセットはプラネタリギアであり、
プラネタリキャリアがエンジンに連結しており、
リングギアとサンギアの一方が第1モータに連結しており、
リングギアとサンギアの他方が、第2モータに連結しているとともに車軸にトルクを伝える出力軸に係合していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のハイブリッド車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−107525(P2013−107525A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254840(P2011−254840)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】