説明

ハイブリッド電気自動車の制御装置

【課題】ハイブリッド電気自動車に関し、走行する自車両の前方に渋滞路がある場合に、簡素な論理でエンジン駆動による発電を抑制することができるようにする。
【解決手段】バッテリ19の充電状態を検出する充電状態検出手段23と、充電状態検出手段23により検出されたバッテリ19の充電状態が所定の下限値未満になったら、エンジン11の駆動による電動発電機12での発電を行うと判定するエンジン駆動発電判定手段25と、走行する自車両1の前方に、渋滞路があるか否かを判定する渋滞路判定手段26と、渋滞路判定手段26により渋滞路があると判定されたら、エンジン駆動発電判定手段25の判定に関らず、エンジン11駆動による電動発電機12での発電を禁止するエンジン駆動発電禁止手段27とをそなえる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラレル式のハイブリッド電気自動車の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンに加えて電動機(以下、モータともいう)を装備し、モータ出力によって走行可能なハイブリッド電気自動車が知られている。特に、エンジンとモータとの駆動力を適宜に使い分けて走行するシステムを搭載したものを一般にパラレル式ハイブリッド電気自動車と呼んでいる。
このようなパラレル式ハイブリッド電気自動車では、発電も可能な電動機(電動発電機)を走行用モータとして備え、エンジンの出力トルクによってモータを発電機として作動させ、発電電力によりバッテリを充電できるようにしたものがある。また、車両の制動時にはモータを発電機として作動させ、この発電負荷により制動する回生制動を行い、この発電電力によってエンジン出力に頼ることなくバッテリへ充電することで、走行中の燃費効率の向上を図っている。
【0003】
このバッテリの充電残量または充電状態(State Of Charge;以下、SOCという)は、高過ぎれば充電効率が悪化しバッテリの寿命低下にもなり、低過ぎればモータを通常作動させることが困難になりやはりバッテリの寿命低下にもなるので、通常は上下限値の間の制御幅内に管理される。
ところで、渋滞路走行時には、発進、停止を繰り返し、低速でエンジン走行を実施するため、燃費が悪く、また、排ガスの排出も多い。
【0004】
したがって、このような視点からは、渋滞路走行時には、燃費を向上させたり排ガスを減少させるため、エンジンの使用を低減或いは停止し、出来る限りモータの使用比率を増加させることが望まれる。
このため、渋滞路に突入しても即座にエンジン走行を実施する或いはエンジンでバッテリを充電する必要がないように、渋滞路に突入する直前にSOCを改善する技術が知られており、例えば、特許文献1が挙げられる。
【0005】
特許文献1には、渋滞路でのモータ走行を増加させ、燃費を改善し排ガスを減少させるために、ナビゲーションシステム等による車両の現在位置情報や走行経路上の渋滞路情報を含む道路情報を用いてその時点からの車両の走行を予測し、渋滞路に進入するまでにSOCの上下限値を調整する技術が提案されている。
この技術は、走行経路の前方に渋滞路が検知されると、渋滞路でのモータ単独による走行に備えSOCの上限値を引き上げ、また、下限値を引き下げ、渋滞路の最後尾に追いついた時に引き上げたSOCの上限値までバッテリが充電されるように制御するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−134719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、このSOCの上限値までの充電を積極的にエンジン駆動の発電によって行うことを前提としている。したがって、前方に渋滞路があることを検知した後から引き上げたSOC上限値に達するまで、つまり渋滞路の最後尾に到達するまでは、基本的にエンジン駆動による発電によって充電を行うものであり、減速による回生を利用し切れず、発電のためにエンジンで消費される燃料分の燃費が悪化することになる。
【0008】
また、渋滞路の最後尾の現在位置等の渋滞路の状況は時々刻々と変化しうるものであるため、渋滞路の最後尾に追いついた時にSOCの上限値までバッテリを充電するには、常にその渋滞路の変化に応じたバッテリの制御を行なわなくてはならず、制御が複雑である。
特許文献1の技術では、可能な限り渋滞路でモータ単独による走行を行なおうとする技術思想が根底にあるが、例えば、バスやトラックといった大型車両では、発進時や加速時等のエンジンにかかる負荷を軽減しエンジン駆動により排出する排ガスを低減させる目的で、回生制動によってエネルギを回収し、これによりモータを補助的に使用するパラレル式ハイブリッド電気自動車が開発されている。そして、このようなハイブリッド電気自動車の場合、走行中のエンジン駆動の割合を可能な限り減らし排出する排ガスを低減すると共に、回生制動によってエネルギ回収をより効率よく行なうことが望まれており、特に回生制動に着目してトータルな燃費改善や排ガス低減を促進させたいという要望が強い。
【0009】
また、上記特許文献1の技術では、渋滞路に到達した後の渋滞路走行中には、渋滞路の最後尾に到達した時に上限値まで充電されたSOCが引き下げられた下限値に低下するまで、モータ単独による走行を行うことを前提としている。つまり、この区間では渋滞路走行中の減速を利用したエネルギ回生による充電は想定されていない。
しかしながら、渋滞路では発進及び停止を繰り返す場合が多く、小刻みではあるが、エネルギ回生の機会が十分に発生しうる。したがって、渋滞路走行中の減速を利用した回生制動による発電も考慮すべきである。
【0010】
本願の発明ではこのような課題に鑑み案出されたもので、走行する自車両の前方に渋滞路がある場合に、簡素な論理でエンジン駆動による発電を抑制することができるようにした、パラレル式ハイブリッド電気自動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述の目的を達成すべく創案されたものであって、本発明のハイブリッド電気自動車の制御装置は、走行用トルクを出力しうるエンジンと、走行用トルクを出力しうると共に前記エンジンの駆動による発電及び制動時のエネルギ回生による発電が可能な電動発電機と、前記電動発電機による発電電力によって充電可能なバッテリと、をそなえたハイブリッド電気自動車において、前記バッテリの充電状態を検出する充電状態検出手段と、前記充電状態検出手段により検出された前記バッテリの充電状態が予め設定された下限値未満になったら、前記エンジンの駆動による前記電動発電機での発電を行うと判定するエンジン駆動発電判定手段と、走行する自車両の前方に、渋滞路があるか否かを判定する渋滞路判定手段と、前記渋滞路判定手段により渋滞路があると判定されたら、前記エンジン駆動発電判定手段の判定に関らず、前記エンジン駆動による前記電動発電機での発電を禁止するエンジン駆動発電禁止手段とをそなえていることを特徴とする。
【0012】
また、自車両の現在位置情報及び自車両の予定走行経路の道路情報を出力可能なナビゲーションシステムをさらにそなえ、前記渋滞路判定手段は、前記ナビゲーションシステムからの前記現在位置情報及び前記予定走行経路の道路情報を用いて判定を行うことが好ましい。
これにより、ナビゲーションシステムによる自車両の現在位置情報及び自車両の予定走行経路の道路情報を用いるため、走行経路上に渋滞路があるか否かをより正確に判定することができる。
【0013】
また、車両に既存のナビゲーションシステムを利用することができるため、コストを削減しながら渋滞路の判定を行うことができる。
また、前記渋滞路判定手段は、自車両の前記現在位置から前記予定走行経路の一定の道のりの範囲で自車両の前方に渋滞路があるか否かを判定することが好ましい。
これにより、自車両の現在位置から予定走行経路の一定の道のりの範囲に渋滞路が存在する場合に、自車両の前方に渋滞路があると判定するため、エンジン駆動による発電を禁止しても、渋滞路に到達する一定の道のりの範囲で渋滞路到達に伴なう回生制動による発電を期待でき、バッテリの充電状態が大幅に低下するような事態を、より確実に回避することができる。
【0014】
また、前記走行用トルクを、前記エンジンによるエンジントルクと前記電動発電機による電動機トルクとに配分するトルク配分手段をそなえ、前記充電状態検出手段により検出された前記バッテリの充電状態が予め設定された下限値未満になったら、前記トルク配分手段は前記バッテリの放電を禁止するように前記トルクの配分を規制することが好ましい。
【0015】
これにより、渋滞路に到達するまではもちろん、渋滞路を脱するまでにバッテリの充電状態が低下して、エンジン駆動による発電が行われることをより確実に回避することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、走行する自車両の前方に渋滞路があると判定された場合には、渋滞箇所に到達する際の回生制動による発電や、渋滞路走行中での加減速に伴なう減速時の回生制動による発電が期待できる。このため、エンジン駆動による発電を抑制し、かかる回生制動を有効に利用することにより、エンジンで消費される燃料を低減し燃費を向上させ、且つ、排出する排ガスを低減しながら、バッテリの充電量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るパラレル式ハイブリッド電気自動車の駆動系及び制御装置を模式的に示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るパラレル式ハイブリッド電気自動車の制御装置による制御を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に係るパラレル式ハイブリッド電気自動車の制御装置における道のりと制御との関係を示す模式的な説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るパラレル式ハイブリッド電気自動車の制御装置による具体的な制御例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面により、本発明の一実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るハイブリッド電気自動車(以下、車両ともいう)1の駆動系は、エンジン11の出力軸11aにクラッチ13を介して電動発電機(以下、単に、電動機、又はモータともいう)12の回転軸12aが装備され、電動機12の回転軸12aに変速機14の入力軸14aが直結されたパラレル式ハイブリッド自動車として構成されている。また、クラッチ13にはマニュアル式クラッチが、変速機14にはマニュアル式変速機が、それぞれ用いられている。また、変速機14の出力軸14bはプロペラシャフト15、ディファレンシャル16、及びドライブシャフト17を介して左右の駆動輪18に接続されている。
【0019】
したがって、クラッチ13が接続されているときには、エンジン11の出力軸11aと電動機12の回転軸12aの双方が駆動輪18と機械的に接続され、クラッチ13が切断されているときには電動機12の回転軸12aのみが駆動輪18と機械的に接続された状態となる。
電動機12は、バッテリ19に蓄えられた直流電力がインバータ20によって交流電力に変換されて供給されることによりモータとして作動し、その駆動力が変速機14によって適切な速度に変速された後に駆動輪18に伝達される。また、車両制動時には、電動機12が発電機として作動し、駆動輪18の回転による運動エネルギが変速機14を介し電動機12に伝達されて交流電力に変換されることにより回生制動力を発生する。そして、この交流電力はインバータ20によって直流電力に変換された後、バッテリ19に充電され、駆動輪18の回転による運動エネルギが電気エネルギとして回収される。なお、渋滞路に向けた減速走行中や渋滞路で車両1の加速を抑える制動時には、車両1の位置エネルギが駆動輪18の運動エネルギに変換され、さらに電気エネルギに変換されることになる。
【0020】
一方、エンジン11は車両の走行中には基本的に常時作動し、このエンジン11の駆動力は、クラッチ13が接続されているときに電動機12の回転軸12aを経由して変速機14に伝達され、適切な速度に変速された後に駆動輪18に伝達されるようになっている。従って、エンジン11の駆動力が駆動輪18に伝達されているときに電動機12がモータとして作動する場合には、エンジン11の駆動力と電動機12の駆動力とがそれぞれ駆動輪18に伝達される。即ち、車両の駆動のために駆動輪18に伝達されるべき駆動トルクの一部或いは全部がエンジン11から供給されると共に、前記の場合には残部が電動機12から供給される。電動機12のモータ作動時には、バッテリ19の直流電力がインバータ20によって交流電力に変換されて電動機12に供給される。
【0021】
また、バッテリ19の充電状態(State Of Charge;以下、SOCともいう)が低下してバッテリ19を充電する必要があるときには、電動機12が発電機として作動すると共に、エンジン11の駆動力の一部を用いて電動機12を駆動することにより発電が行われ、発電された交流電力をインバータ20によって直流電力に変換した後にバッテリ19に充電する。
【0022】
そして、エンジン11を制御するためにエンジンECU(エンジン用電子制御ユニット)21が、インバータ20を制御するためにインバータECU(インバータ用電子制御ユニット)22が、SOCの検出やバッテリ19を制御するためにバッテリECU(バッテリ用電子制御ユニット、以下、充電状態検出手段ともいう)23がそれぞれ設けられ、これらのエンジンECU21、インバータECU22、及びバッテリECU23を通じて自車両1を統合制御するために、車両ECU(車両用電子制御ユニット、以下、制御手段ともいう)24が設けられている。なお、各ECU21〜ECU24は、メモリ(ROM,RAM)及びCPU等で構成されるコンピュータである。
【0023】
この車両ECU24は、そのソフトウェアによる機能要素として、エンジン駆動発電判定手段25、渋滞路判定手段26、エンジン駆動発電禁止手段27、トルク配分手段28をそなえている。また、この車両ECU24には、Global Positioning System(以下、GPSという)からの位置情報等から自車両の現在位置を検出し、例えばVICS(Vehicle Information & Communication System)と称される道路交通情報通信システム等の車外システムからの渋滞路情報を含む道路情報を受信するナビゲーションシステム29が接続され、この自車両1の現在位置情報、道路情報、及びナビゲーションシステム29に記憶された地図情報に基づく自車両1の予定走行経路の道路情報が、ナビゲーションシステム29から車両ECU24へ出力される。そして、この車両ECU24は、自車両1やエンジン11の運転状態、エンジンECU21、インバータECU22、バッテリECU23、並びにナビゲーションシステム29からの情報などに応じて、車両の発進、加速、減速など様々な運転状態に合わせてエンジン11や電動機12を適切に運転するための統合制御を行なう。
【0024】
エンジン駆動発電判定手段25は、充電状態検出手段23により検出されたSOCが予め設定された下限値未満となったら、エンジン11の駆動による電動発電機12での発電を行うと判定する。
渋滞路判定手段26は、ナビゲーションシステム29から入力される自車両1の現在位置情報及び予定走行経路の道路情報に基づき、予定走行経路のうちで現在位置から予め設定された一定の道のり(走行距離)の範囲に渋滞路があると、走行する自車両1の前方に渋滞路があると判定する。そしてその後、渋滞路の最後尾に到達するまではもちろん、少なくともその渋滞路を脱するまでは、渋滞路判定手段26は走行する自車両1の前方に渋滞路があると判定する。
【0025】
エンジン駆動発電禁止手段27は、渋滞路判定手段26によって走行する自車両の前方に渋滞路がある(渋滞路走行中も含む)と判定されると、エンジン駆動発電判定手段25の判定に関らず、エンジン11駆動による電動発電機12での発電を禁止する。
そして、トルク配分手段28は、走行用トルクを、エンジン11が発生すべきトルク(エンジントルク)と電動発電機12が発生すべきトルク(電動機トルク)とに配分制御する。つまり、車両を走行させる走行トルクとして、エンジン11によるエンジントルクと電動機12による電動機トルクとを用いることができるが、例えば車両1の発進時には基本的には電動機トルクを利用(モータアシスト)し、発進後は駆動トルク要求が大きい場合にモータアシストを用いる。ただし、SOCが低くなる程、モータアシストするエンジン運転領域の範囲を狭めていき、そして、本トルク配分手段28では、SOCが下限値未満になった場合に、モータアシストを禁止する。
【0026】
本実施形態に係るハイブリッド電気自動車の制御装置は、上述のごとく構成されているので、例えば、図2に示すように、ハイブリッド電気自動車におけるエンジン駆動の発電開始の制御を行なうことができる。なお、所定周期で完了とする。
まず、目的地がナビゲーションシステム29に入力され、予定走行経路が検索され車両の運転が開始される。
【0027】
そして、続くステップS10では、充電状態検出手段23により検出されるSOCが読み込まれ確認され、続くステップS20で、このSOCが予め設定した下限値未満であるかが判定される。
ステップS20で、SOCが下限値未満であると判定された場合には、ステップS30へ進む。
【0028】
一方、ステップS20で、SOCが下限値未満でないと判定された場合には、リターンへ進み、この周期の処理を終了する。
ステップS30では、ナビゲーションシステム29から入力される現在位置情報及び予定走行経路の道路情報が渋滞路判定手段26で読み込まれ、予定走行経路の一定の道のりの範囲に渋滞路があるかの確認が行われ、続くステップS40で、渋滞路判定手段26により渋滞路があるか否かが判定される。
【0029】
そして、渋滞路判定手段26により、走行する自車両1の前方に渋滞路があると判定された場合は、ステップS50へ進み、エンジン駆動発電禁止手段27によりエンジン11駆動による発電が禁止される。
そして、続くステップS60では、トルク配分手段28により、バッテリ19の放電を禁止するように、走行用トルクのエンジントルクと電動機トルクとの配分が規制され、つまり、バッテリ19の放電が禁止され、リターンへ進み、この周期の処理を終了する。
【0030】
一方、ステップS40で渋滞路判定手段26により、走行する自車両1の前方に渋滞路がないと判定された場合は、ステップS70へ進み、エンジン駆動発電判定手段25によりエンジン11の駆動による電動発電機12での発電を行うと判定され、エンジン11駆動による発電が実施され、リターンへ進み、この周期の処理を終了する。
なお、エンジン11駆動による発電を開始した場合、チャタリングを防ぐために、SOCが下限値よりも大きい発電完了値に達するまで発電を続行する。
【0031】
また、エンジン11駆動による発電の開始を判定するSOCの下限値は、バッテリ19に許容されるSOCの最下限値よりも大きく設定されるが、エンジン11駆動による発電禁止中に、万一バッテリ19の放電が実施されてもSOCが最下限値に達しないように、最下限値と発電開始判定の下限値との間に、第2の下限値を設け、エンジン11駆動による発電禁止中に、SOCが第2の下限値に達したら、エンジン11駆動による発電禁止を解除するように構成してもよく、これによりSOCを適切に管理できる。
【0032】
また、図2のフローのステップS40は、渋滞路に向けた減速走行に突入後、この渋滞路に到達するまではもちろん、少なくとも渋滞路を脱するまでは、走行する自車両1の前方に渋滞路があると判定する。
本実施形態に係るハイブリッド電気自動車の制御装置は、上記の制御により、以下のような作用および効果を奏する。
【0033】
まず、目的地がナビゲーションシステム29に入力され、予定走行経路が検索され運転を開始し、充電状態検出手段23により検出されるSOCが予め設定された下限値未満と判定された状況において、走行する自車両1の前方に渋滞路がないと判定された場合には、エンジン駆動発電判定手段25によりエンジン11による発電を行うと判定され、エンジン11駆動による発電が実施されるため、バッテリ19の使用が不可能となりバッテリ19によってモータ12を作動させることができなくなる事態を回避することができる。つまり、バッテリ19によって発進時や急加速時等のエンジン11にかかる負担を軽減し、排ガスを低減させることができる。
【0034】
一方、走行する自車両1の前方に渋滞路があると判定された場合について説明する。渋滞路に到達するまでは、通常走行から渋滞箇所に到達する際の減速を利用した回生制動による発電が期待できる。また、渋滞路に到達後は、渋滞路走行中での加減速に伴なう減速時の回生制動による発電が期待できる。本制御装置では、渋滞路走行中にも、走行する自車両1の前方に渋滞路があると判定され、エンジン11駆動による発電を禁止し、これらの回生制動を有効に利用するので、エンジン11で消費される燃料を低減し燃費を向上させ、且つ、排出する排ガスを低減しながら、バッテリ19の充電量を確保することができる。さらに、走行する自車両1の前方に渋滞路があると判定された場合においては、この渋滞路に向けて減速を開始した後であってこの渋滞路に到達するまではもちろん、少なくとも渋滞路を脱するまでは、走行する自車両1の前方に渋滞路があると判定し、エンジン11駆動による電動発電機12での発電を禁止するため、渋滞路に向けた減速中及び渋滞路を走行中はエンジン11による発電を実施せず、減速を利用してエネルギ回生による発電をより確実に行うことができるため、燃費を向上させ、且つ、エンジン11による排ガスを低減しながら、バッテリ19の充電量を確保することができる。
【0035】
そして、渋滞路判定手段26による渋滞路の判定では、ナビゲーションシステム29から入力される自車両1の現在位置及び自車両1の予定走行経路の道路情報を用いて渋滞路の判定を行うため、予定走行経路上に渋滞路があるか否かをより正確に判定することができる。また、車両に既存のナビゲーションシステムを利用することができるため、コストを削減しながら渋滞路の判定を行うことができる。
【0036】
また、渋滞路判定手段26では、自車両1の現在位置から予定走行経路の一定の道のりの範囲に、図3の(A)に示すように渋滞路があるか、或いは、図3の(B)に示すように渋滞路がないかの判定を行う。したがって、渋滞路を判定した後にエンジン11駆動による発電を禁止しても、渋滞路に到達する一定の道のりの範囲で渋滞路到達に伴なう回生制動による発電を期待でき、SOCが最下限値となるような事態を、より確実に回避することができる。
【0037】
また、走行用トルクを、エンジン11によるエンジントルクと電動発電機12による電動機トルクとに配分するトルク配分手段28をそなえ、充電状態検出手段23により検出されたSOCが予め設定された下限値未満になったら、トルク配分手段28によって、バッテリ19の放電を禁止するようにトルクの配分が規制されるため、渋滞路に到達するまではもちろん、少なくとも渋滞路を脱するまでにSOCが低下してエンジン11駆動による発電が行われることをより確実に回避することができる。
【0038】
ここで、走行する自車両の前方に渋滞路がある場合について、SOC、車速及び道路状況の関係に着目した図4を参照しながら、本実施形態に係るパラレル式ハイブリッド電気自動車の制御の効果について説明する。
図4は、本実施形態に係るパラレル式ハイブリッド電気自動車の制御装置(図中実線、本実施形態の制御装置という)のSOCと、パラレル式ハイブリッド電気自動車の一般的な制御装置(図中二点鎖線、比較例の制御装置という)のSOCとを対比しながら、両者の制御装置の具体的な制御例を示している。
【0039】
本実施形態の制御装置では、図1〜図3を用いて上述したように、「渋滞路があると判定されると、エンジン駆動発電判定手段の判定に関らず、エンジン駆動による電動発電機での発電を禁止するエンジン駆動発電禁止手段」をそなえているが、比較例は、このエンジン駆動発電禁止手段をそなえていない制御装置である。なお、本実施形態の制御装置と比較例の制御装置とは、ここで説明した点を除き同様の構成としており、いずれの制御装置も通常の運転時には、SOCが所定の制御幅内に管理されている。
【0040】
なお、横軸は時間を示し、時点t3は自車両の前方に渋滞路があると判定され、且つ、SOCが下限値となる時点を、時点t5は渋滞路に向けて減速を開始する時点を、時点t7は渋滞路の到達時点を示している。なお、時点t2は定常走行から加速を開始する時点を、時点t8、時点t11は渋滞路走行中における加速開始時点を、時点t9、時点t12は渋滞路走行中における減速開始時点を、さらに、時点t10は渋滞路走行中における停止開始時点を示している。そして、いずれの制御装置においても、渋滞路中の加速区間(例えば、時点t8から時点t9、時点t11から時点t12)では、モータアシスト走行が行われ、バッテリが使用される。一方、渋滞路走行中の減速区間(例えば、時点t9から時点t10)では、減速時の回生制動を利用することによりバッテリの充電を行い、エンジン駆動による発電で消費される燃料を低減している。また、S1はエンジン駆動による発電の開始を判定するSOC下限値を、S2は下限値よりも大きくエンジン駆動による発電を開始した場合の発電完了値を示している。
【0041】
時点t1から時点t2までは定常運転が行われており、本実施形態の制御装置と比較例の制御装置のいずれも、SOCは制御幅内でほぼ一定の値となっている。
そして、加速が開始される時点t2から時点t3では、本実施形態の制御装置と比較例の制御装置のいずれもモータアシスト走行が行なわれ、バッテリが使用されるためSOCが低下し、時点t3ではSOCが下限値となる。
【0042】
この時、比較例の制御装置では、エンジン駆動発電判定手段により、エンジン駆動による電動発電機での発電を行うと判定され、図中の二点鎖線で示すように時点t3からSOCが制御幅の発電完了値に達する時点t4まで、エンジン駆動による発電が行われる。この例では、その後、時点t4から渋滞路に向けて減速を開始する時点t5までは、エンジン駆動による電動発電機での発電は行われず、図中の二点鎖線で示すようにSOCは制御幅内で維持されている。
【0043】
一方、本実施形態の制御装置では、時点t3で自車両の前方に渋滞路があると判定されると、時点t3からエンジン駆動発電禁止手段によりエンジン駆動による電動発電機での発電が禁止されるため、図中の実線で示すように時点t3から時点t5までSOCが下限値で維持されることとなる。
次に、渋滞路に向けて減速を開始する時点t5以降のSOCに関して説明する。この時点t5から渋滞路の到達時点である時点t7までは、通常走行から渋滞路に到達する際の減速を利用した回生制動による発電が期待できる。
【0044】
本実施形態の制御装置では、時点t5から時点t7まで、この回生制動を有効に利用することにより、バッテリの充電量を確保することができ、時点t7でSOCが上限値となる。
一方、比較例の制御装置では、時点t5では、そもそもSOCが下限値S1よりもCだけ高いS2であるため、時点t7に到達する手前の時点t6で既にSOCが上限値に達し、時点t6から渋滞路の到達時点t7までは、回生制動を行ってもSOCが上限値を超えないようにバッテリの放電を行うか、或いは、回生制動を行わないように制御しなければならない。
【0045】
つまり、比較例の制御装置ではエネルギ回生によるバッテリの充電が行えない渋滞路に向けた減速中の時点t6から渋滞路の到達時点t7までの区間においても、本実施形態の制御装置では減速時の回生制動を有効利用した発電によりバッテリの充電を行なうことができる。さらに、比較例の制御装置では行った、時点t3から時点t4の区間でのエンジン駆動による発電を、本実施形態の制御装置では行わない。したがって、時点t3から時点t4の区間において比較例の制御装置でエンジン駆動の発電のために消費される燃料が本実施形態の制御装置では不要であり、また、渋滞路に向けた減速を利用した回生制動による充電を比較例の制御装置よりも本実施形態の制御装置の方がより多く行うことができるため、本実施形態の制御装置の方が比較例の制御装置よりも排ガスの排出を軽減でき、また、エネルギ効率がよい。
【0046】
(その他)
以上、本実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
例えば、上述の実施形態では、車両1にマニュアル式クラッチ13及びマニュアル式変速機14が用いられている場合について述べたが、これに限定するものではない。例えば、マニュアル式クラッチ13及びマニュアル式変速機14の代わりに、トルクコンバータを用いたオートマティック式変速機等を用いても良い。また、クラッチ13や変速機14は、アクチュエータによって自動制御されるものでもよい。さらに変速機14は、有段変速機または無段変速機、いずれを用いても良い。
【0047】
また、上述の実施形態では、クラッチ13と変速機14との間に電動機12を設けた構成となっているが、クラッチ13と電動機12の配置を入れ替えた配列のもの、つまり電動機12と変速機14との間にクラッチ13を配列したものでもよい。
また、上述の実施形態においては、目的地がナビゲーションシステム29に入力され、予定走行経路が検索された上で運転を開始する場合を記載したが、運転を開始した後に目的地をナビゲーションシステム29に入力したり、途中で経路変更した場合、その後予定走行経路が検索されるようにすればよい。
【0048】
また、上記実施形態では説明していないが、渋滞路に向けた減速中や渋滞路走行中の減速中にエネルギ回生によってSOCが上限値に達すると、エネルギ回生を停止するようにすることも必要である。これにより、バッテリ19の過充電を防止しバッテリ19の寿命の低下を抑制することができる。
また、上述の実施形態においては、渋滞路判定手段26は、さらに車速に基づいて、例えば、高速道路走行中に、渋滞路に近づいたり、渋滞路に入ったりすると車速が低下するので、車速が予め設定した閾値以下になったか否か等によって、自車両1の前方に渋滞路があるか否かを判定してもよい。これにより、自車両1の現在位置から予定走行経路の一定の道のりの範囲に渋滞路が存在し、渋滞路に到達する前に回生がより確実に行えると考えられる(算出される)場合に、自車両1の前方に渋滞路があると判定するため、エンジン11駆動による発電を禁止しても、渋滞路に到達するまでにバッテリ19の充電状態が下限値となるような事態を、より確実に回避することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 自車両(ハイブリッド電機自動車、車両)
11 エンジン
11a エンジン11の出力軸
12 電動発電機(電動機、モータ)
12a 電動発電機12の回転軸
13 マニュアル式クラッチ
14 マニュアル式変速機
14a 変速機14の入力軸
14b 変速機14の出力軸
15 プロペラシャフト
16 ディファレンシャル
17 ドライブシャフト
18 駆動輪
19 バッテリ
20 インバータ
21 エンジンECU
22 インバータECU
23 バッテリECU(バッテリ充電状態検出手段)
24 車両ECU(制御装置)
25 エンジン駆動発電判定手段
26 渋滞路判定手段
27 エンジン駆動発電禁止手段
28 トルク配分手段
29 ナビゲーションシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用トルクを出力しうるエンジンと、走行用トルクを出力しうると共に前記エンジンの駆動による発電及び制動時のエネルギ回生による発電が可能な電動発電機と、前記電動発電機による発電電力によって充電可能なバッテリと、をそなえたハイブリッド電気自動車において、
前記バッテリの充電状態を検出する充電状態検出手段と、
前記充電状態検出手段により検出された前記バッテリの充電状態が予め設定された下限値未満になったら、前記エンジンの駆動による前記電動発電機での発電を行うと判定するエンジン駆動発電判定手段と、
走行する自車両の前方に、渋滞路があるか否かを判定する渋滞路判定手段と、
前記渋滞路判定手段により渋滞路があると判定されたら、前記エンジン駆動発電判定手段の判定に関らず、前記エンジン駆動による前記電動発電機での発電を禁止するエンジン駆動発電禁止手段とをそなえている
ことを特徴とする、ハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項2】
自車両の現在位置情報及び自車両の予定走行経路の道路情報を出力可能なナビゲーションシステムをさらにそなえ、
前記渋滞路判定手段は、前記ナビゲーションシステムからの前記現在位置情報及び前記予定走行経路の道路情報を用いて判定を行う
ことを特徴とする請求項1記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項3】
前記渋滞路判定手段は、自車両の前記現在位置から前記予定走行経路の一定の道のりの範囲で自車両の前方に渋滞路があるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項2記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項4】
前記走行用トルクを、前記エンジンによるエンジントルクと前記電動発電機による電動機トルクとに配分するトルク配分手段をそなえ、
前記充電状態検出手段により検出された前記バッテリの充電状態が予め設定された下限値未満になったら、前記トルク配分手段は前記バッテリの放電を禁止するように前記トルクの配分を規制する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−121406(P2011−121406A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278816(P2009−278816)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】