説明

ハイブリッド電気自動車の報知装置

【課題】報知音を発生するための構成を追加することなく最小限のコストにより実施できると共に、内燃機関の燃料消費の増加などの弊害を未然に回避できるハイブリッド電気自動車の報知装置を提供する。
【解決手段】シリーズ方式のハイブリッド電気自動車において、バッテリ6のSOCに基づき発電不要として発電機8を駆動するための内燃機関10が停止され、且つ車両が報知上限車速Vlmt未満で走行中であり走行音が低くて歩行者が自車の接近を認識し難いときに、発電機8をモータとして機能させて内燃機関10を駆動することにより筒内の燃焼を伴わないモータリング運転させ、発生したモータリング音により歩行者の注意を喚起する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド電気自動車の報知装置に係り、詳しくは走行モータのみを使用したモータ走行時に周囲の歩行者や自転車など(以下、単に歩行者と総称する)に向けて報知音を発して自車の接近を認識させるハイブリッド電気自動車の報知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンエンジンなどの内燃機関を走行用動力源とする自動車に代わりハイブリッド電気自動車が普及し始めている。
この種のハイブリッド電気自動車では、内燃機関により発電機を駆動してバッテリを充電しながら、発電した電力により走行モータを駆動しているが、内燃機関を発電機の駆動専用とし、走行のための動力源を走行モータのみとした所謂シリーズ方式のハイブリッド電気自動車、或いは、内燃機関を発電機の駆動のみならず走行モータと共に動力源としても利用する所謂パラレル方式やスプリット方式のハイブリッド電気自動車を挙げることができる。
【0003】
内燃機関による発電機の駆動はバッテリのSOC(State Of Chargeの略であり、充電率)に基づき行われ、SOCが高いときには発電が不要と見なして内燃機関を停止させているため、このような作動状態では、シリーズ方式ハイブリッド電気自動車では走行中であっても内燃機関の運転音を発生せず、パラレル方式やスプリット方式のハイブリッド電気自動車でも、動力源として走行モータのみを使用したモータ走行中には内燃機関の運転音を発生しない。
従って、この種のハイブリッド電気自動車は、従来の内燃機関を備えた車両に比較して騒音を低減できるという大きな長所がある反面、歩行者が自車の接近に気付かずに歩道から車道に飛び出すなどのアクシデントを発生する可能性がある。
【0004】
そこで、モータ走行時にはスピーカなどから報知音を発生させて、周囲の歩行者に自車の接近を認識させるなどの対策が検討されている(例えば、特許文献1に記載)。当該特許文献1の技術は、コストアップの要因となるスピーカなどの追加を回避することを目的としたものであり、歩行者への報知音としてエンジン音を利用している。
即ち、人体検知センサにより自車の周囲に歩行者が検出されると、エンジンの駆動がON/OFFであるかの判定を行い、エンジン駆動がONのときには、エンジンの駆動レベルを上昇させる制御を行ってエンジン音を上昇させ、一方、エンジン駆動がOFFのときには、電動モータをONからOFFすると共にエンジン駆動をONする制御を行ってエンジン音を発生させ、これにより歩行者の注意を喚起して自車の接近を認識させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−254935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように特許文献1の技術では、エンジン駆動をOFFからONに切り換える制御、即ち、モータ走行からエンジン走行に切り換える制御を行い、発生したエンジン音を報知音として利用しているが、そのためにはエンジンを運転させる必要があり、必然的にエンジンの燃料消費が増加するという弊害が生じてしまう。歩道上の歩行者の数などの道路環境によっても相違するが、歩行者の検出に基づき報知音を必要とする状況が頻繁に発生する場合もあるため、上記した燃料消費の増加という弊害は無視できないものであった。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、報知音を発生するための構成を追加することなく最小限のコストにより実施できると共に、内燃機関の燃料消費の増加などの弊害を未然に回避することができるハイブリッド電気自動車の報知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、少なくとも走行するための動力源として蓄電装置からの電力供給により駆動される電動モータを備え、蓄電装置の充電率の低下に応じて内燃機関により発電機を駆動して蓄電装置を充電する一方、動力源として電動モータのみを使用して所定車速未満で走行し、且つ発電機による発電が不要として内燃機関が停止されているときに、周囲の歩行者に対して報知手段から報知音を発して自車の接近を知らせる報知制御手段を備えたハイブリッド電気自動車の報知装置において、報知手段が、内燃機関及び発電機であり、報知制御手段が、発電機をモータとして機能させて内燃機関を駆動することにより、内燃機関を筒内の燃焼を伴わないモータリング運転させるものである。
【0009】
従って、走行するための動力源として電動モータが単独で用いられたり、或いは動力源として電動モータと内燃機関とが併用されたりし、その駆動力により車両が走行する。電動モータへの電力供給のために蓄電装置の充電率は低下し、その充電率の低下に応じて内燃機関により発電機が駆動されて蓄電装置の充電が行われる。
【0010】
動力源として電動モータのみを使用して所定車速未満で走行し、且つ発電機による発電が不要として内燃機関が停止されているときには、車両の走行音が低い上に内燃機関が運転音を発生しないことから、周囲の歩行者は自車の接近を認識し難くなり報知音の発生が必要となる。このとき本発明では、発電機をモータとして機能させて内燃機関を駆動する。内燃機関は筒内の燃焼を伴わないモータリング運転され、それに伴って発生したモータリング音により歩行者は注意を喚起されて自車の接近を認識する。
そして、このように報知音を発生させる報知手段として内燃機関及び発電機が機能し、これらの内燃機関及び発電機はハイブリッド電気自動車に備えられた既存のものであることから、部材を追加することなく最小限のコストにより実施可能となる。また、筒内の燃焼を伴わないモータリング運転させるだけのため、内燃機関の燃料消費の増加などの弊害が未然に回避される。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1において、内燃機関が、車両を走行させるための動力源として機能することなく、発電を目的とした発電機に対する駆動、及び発電機からの駆動によるモータリング運転のみを行い、電動モータが車両を走行させるための動力源として機能するものである。
従って、内燃機関により発電機を駆動して発電し、発電した電力により電動モータを駆動して走行する所謂シリーズ方式のハイブリッド電気自動車において、その内燃機関及び発電機を報知手段として機能させることが可能となる。
【0012】
そして、例えば特許文献1の技術をシリーズ方式のハイブリッド電気自動車に適用すると、発電不要な場合でもエンジン音の発生のためにエンジンが運転されて発電機を駆動することになるが、発電された電力は有効利用できない不要なものとなる。即ち、不要な電力を発電するために無駄に燃料が消費されてしまうが、本発明では、内燃機関をモータリング運転させるだけのため、このような不要な電力を発電するための無駄な燃料消費が未然に防止される。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1において、内燃機関が、発電を目的とした発電機に対する駆動、及び発電機からの駆動によるモータリング運転に加えて、電動モータと共に車両を走行させるための動力源として機能するものである。
従って、内燃機関により発電機を駆動して発電し、発電した電力により電動モータを駆動して走行すると共に、内燃機関を動力源としても走行可能な所謂パラレル方式やスプリット方式のハイブリッド電気自動車において、その内燃機関及び発電機を報知手段として機能させることが可能となる。
【0014】
そして、例えば特許文献1の技術をパラレル方式やスプリット方式のハイブリッド電気自動車に適用すると、エンジン音を発生させるだけのために本来は必要がないモータ走行からエンジン走行への切換を行うことになるが、本発明では、発電機をモータとして機能させて内燃機関をモータリング運転させるだけで、走行モードを切り換える必要はない。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1乃至3において、自車の車速を検出する車速検出手段を備え、報知制御手段が、車速検出手段により検出された車速に応じてモータリング運転時の内燃機関の回転速度を変化させるものである。
従って、自車の車速に応じてモータリング運転時の内燃機関の回転速度が変化し、それに伴ってモータリング音の音量も変化することから、歩行者は音量の変化から車両の接近が急なものか否かを容易に認識可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように請求項1の発明のモータ駆動車両の報知装置によれば、動力源として電動モータのみを使用して所定車速未満で走行し、且つ発電機による発電が不要として内燃機関が停止されているときに、蓄電装置を充電するための発電機をモータとして機能させて内燃機関を駆動することにより筒内の燃焼を伴わないモータリング運転させるようにしたため、発生したモータリング音により歩行者の注意を喚起して自車の接近を確実に認識させることができる。そして、このように報知音を発生させる報知手段として内燃機関及び発電機が機能し、これらの内燃機関及び発電機はハイブリッド電気自動車に備えられた既存のものであることから、部材を追加することなく最小限のコストにより実施できると共に、内燃機関の燃料消費の増加などの弊害を未然に回避することができる。
【0017】
請求項2の発明のモータ駆動車両の報知装置によれば、請求項1に加えて、シリーズ方式のハイブリッド電気自動車において内燃機関及び発電機を報知手段として機能させ、これにより不要な電力を発電するための無駄な燃料消費を未然に防止することができる。
請求項3の発明のモータ駆動車両の報知装置によれば、請求項1に加えて、パラレル方式やスプリット方式のハイブリッド電気自動車において内燃機関及び発電機を報知手段として機能させ、これにより無用な走行モードの切換を未然に防止することができる。
請求項4の発明のモータ駆動車両の報知装置によれば、請求項1乃至3に加えて、自車の車速に応じてモータリング音の音量を変化させることにより、自車の接近が急なものか否かを歩行者に容易に認識させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の報知装置が適用されたシリーズ方式のハイブリッド電気自動車を示す全体構成図である。
【図2】車両ECUが実行する発電機制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】内燃機関のファイアリング運転時に発生するファイアリング音とモータリング運転時に発生するモータリング音とを比較した特性図である。
【図4】本発明の報知装置をパラレル方式のハイブリッド電気自動車に適用した別例を示す全体構成図である。
【図5】本発明の報知装置をスプリット方式のハイブリッド電気自動車に適用した別例を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化したハイブリッド電気自動車の報知装置の一実施形態を説明する。
本実施形態のハイブリッド車両は、走行用動力源として電動モータのみを用い、内燃機関は発電専用に使用するシリーズ方式のハイブリッド電気自動車として構成されており、例えば、都市部で低速走行を多用する乗合バスなどに適用される。
【0020】
図1は本発明の報知装置が適用されたシリーズ方式のハイブリッド電気自動車を示す全体構成図である。この図に示すように、車両には走行用動力源として走行モータ1(電動モータ)が搭載されており、走行モータ1は減速機2及び差動装置3を介して左右の後輪4に連結され、走行モータ1の駆動力により後輪4が回転駆動されるようになっている。
走行モータ1は誘導型モータ、或いは永久磁石同期型モータとして構成され、インバータ回路5を介して駆動用のバッテリ6(蓄電装置)が電気的に接続されている。また、インバータ回路5には発電機8が電気的に接続されており、この発電機8は増速機9を介してディーゼル式の内燃機関10に連結され、内燃機関10の回転が増速されて発電機8に伝達されるようになっている。
【0021】
インバータ回路5は、モータ駆動による走行時には、バッテリ6からの電力或いは発電機8からの電力を走行モータ1に供給して、走行モータ1の駆動力により後輪4を回転駆動する一方、車両の減速時には、後輪4からの逆駆動により走行モータ1が発生した交流の回生電力を整流してバッテリ6に充電する。
図示はしないがインバータ回路5は、補機駆動用モータにも電気的に接続され、この補機駆動用モータを駆動制御するようになっている。補機類駆動用モータにはパワーステアリング用のオイルポンプやエアコンディショナ用のコンプレッサなどが連結され、オイルポンプからのオイルの供給、或いはコンプレッサからの冷媒の供給を受けて車両に装備されたパワーステアリングやエアコンディショナが作動する。
【0022】
また、バッテリ6にはバッテリECU7が電気的に接続され、バッテリECU7はバッテリ6の充電電流及び放電電流を逐次積算することによりバッテリ6のSOC(State Of Charge)を算出するようになっている。
一方、車室内には図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAMなど)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えた車両ECU(電子制御ユニット)11が設置されている。車両ECU11には上記したインバータ回路5及びバッテリECU7が電気的に接続されると共に、内燃機関10に装備された図示しない燃料噴射弁や燃料噴射ポンプなどのデバイス類、及び車速Vを検出する車速センサ12(車速検出手段)やアクセル操作量Accを検出するアクセルセンサ13などのセンサ類が電気的に接続されている。
【0023】
そして、車両ECU11はハイブリッド車両を走行させるための各種制御を実行する。例えば、車速センサ12により検出された車速V及びアクセルセンサ13により検出されたアクセル操作量Accに基づき所定のマップから要求トルクを算出し、この要求トルクを達成するようにインバータ回路5に走行モータ1を駆動制御させる。また、車速Vやアクセル操作量Accから車両の減速を判定したときには、インバータ回路5に走行モータ1からの回生電力をバッテリ6に充電させる。一方、バッテリECU7により算出されたバッテリ5のSOCに基づき、内燃機関10により発電機8を駆動させて適宜バッテリ5を充電し、これによりバッテリ5のSOCを所定範囲内に保持する。
【0024】
ところで、[発明が解決しようとする課題]でも述べたように、特許文献1に記載された従来技術では、歩行者への注意喚起のために報知音を発生するスピーカなどを追加した場合のコストアップを回避すべく、報知音としてエンジン音を発生させているが、エンジンを運転する必要があることから燃料消費が増加するという問題があった。
このような点を鑑みて本実施形態の報知装置では、スピーカなどを追加せず、且つ内燃機関10の運転による弊害を防止した上で報知音を発生させており、以下、当該対策のための構成を詳述する。
【0025】
車両ECU11は、図2に示す発電機制御ルーチンを所定の制御インターバルで実行している。当該ルーチンは、上記したSOCを所定範囲内に保持するためのバッテリ6の充電制御時に、歩行者に報知音を発生させるための制御(後述するモータリング制御)を加えたものである。
まず、ステップS2でバッテリECU7により算出されたバッテリ6のSOCに基づき、発電機8による発電を要するか否かを判定する。発電が必要なときにはステップS2でYes(肯定)の判定を下し、ステップS4で発電モードとして内燃機関10を始動・運転して発電機8を駆動させ、これにより発電された電力をバッテリ6に充電し、その後に一旦ルーチンを終了する。また、発電が不要なときにはステップS2でNo(否定)の判定を下してステップS6に移行し、以下に述べるステップS6以降の処理により発電中止モードを実行して、発電機8の発電を中止している。
【0026】
なお、ステップS2の判定に基づくバッテリ6の充電制御としては、一般的な手法と同様のものを適用することができる。例えば、予め設定されたSOC目標値(例えば、満充電の60%)を閾値として、実際のSOCがSOC目標値よりも低いときには発電を行い、SOCがSOC目標値よりも高いときには発電を中止するようにしてもよく、この場合のバッテリ6のSOCは、充放電に応じて微小な増減を繰り返しながらSOC目標値近傍に保持される。
また、予め設定されたSOC上限値(例えば、満充電の80%)とSOC下限値(例えば、満充電の60%)とを閾値として、実際のSOCがSOC下限値まで低下すれば発電を開始し、SOCがSOC上限値まで上昇すれば発電を中止するようにしてもよく、この場合のバッテリ6のSOCは、SOC上限値とSOC下限値との間で充放電に応じて増減を繰り返す。
【0027】
上記ステップS2で発電不要としてステップS6に移行した場合には、現在の車速Vが0km/h、即ち車両が停止中であるか否かを判定する。判定がYesのときにはステップS8に移行して発電中止モードとして内燃機関10を停止保持し、その後にルーチンを終了する。当該処理は、一般的なバッテリ6の充電制御における発電中止モードと同様の内容であり、内燃機関10による発電機8の駆動が行われずに発電機8の発電が中止される。
【0028】
また、車両走行中であるとして上記ステップS6でNoの判定を下したときにはステップS10に移行し、現在の車速Vが予め設定された報知上限車速Vlmt、例えば20km/h未満であるか否かを判定する。
報知上限車速Vlmtは歩行者への報知音による報知を要する上限の車速として設定されたものであり、この報知上限車速Vlmt以上の車速Vではタイヤノイズなどの走行音の増大により歩行者が自ずと自車の接近を認識することから、報知音は不要と見なすことができる。車速Vが報知上限車速Vlmt以上で上記ステップS10の判定がNoのときには、上記ステップS8に移行して内燃機関10を停止保持する。
【0029】
また、車速Vが報知上限車速Vlmt未満で上記ステップS10の判定がYesのときには、ステップS12に移行してモータリング制御を実行する。当該モータリング制御は、発電機8をモータとして機能させて内燃機関10を駆動させるものであり、発電機8の回転は増速機9を介して発電時とは逆に減速されながら内燃機関10に伝達され、内燃機関10は筒内の燃焼を伴わずに回転する所謂モータリング運転を行う。
そして、モータリング制御中の発電機8は発電を中止するため、結果として当該モータリング制御は発電中止モードの機能も兼ねている。以上のようにバッテリ6のSOCに応じて発電モードと発電中止モードとが適宜実行されることにより、バッテリ5のSOCが所定範囲内に保持される。
【0030】
本実施形態では、内燃機関10及び発電機8が報知手段として機能し、ステップS2,6,10,12の処理により内燃機関10をモータリング運転させるときの車両ECU11が報知制御手段として機能する。ここで、以下の説明では、筒内の燃焼を伴わないモータリング運転に対して、上記発電モードなどで内燃機関10が筒内の燃焼を伴って回転している通常の運転状態をファイアリング運転と称して区別する。
【0031】
次に、以上の車両ECU11の処理により実行される報知音の発生状況を説明する。
まず、発電要と判定されて図2のステップS4で発電モードが実行されているときには、発電機8を回転駆動するために内燃機関10がファイアリング運転されており、内燃機関10の運転音(筒内の燃焼によるファイアリング音)が発生している。走行モータ1を動力源としたモータ走行のみを行うシリーズ方式のハイブリッド電気自動車では、タイヤノイズなどの走行音が低くなる低速走行時において、歩行者が自車の接近を認識し難くなるが、内燃機関10の運転音により車速に関わらず歩行者は注意を喚起されて自ずと自車の接近を認識する。
【0032】
また、発電不要と判定され、且つ車両停止中若しくは車速Vが報知上限車速Vlmt以上のときには、ステップS8で実行される発電中止モードにより発電機8の発電が中止され、内燃機関10は停止保持されて運転音を発生していない。しかしながら、車両停止中には歩行者への注意喚起のための報知音は必要なく、また、車速Vが報知上限車速Vlmt以上では車両の走行音が高いことから、歩行者は注意を喚起されて自ずと自車の接近を認識する。
一方、発電不要と判定され、且つ車両走行中で車速Vが報知上限車速Vlmt未満のときには、ステップS10でモータリング制御が実行される。従って、このときの内燃機関10は発電機8を駆動するためのファイアリング運転はしないものの、これに代えて逆に発電機8に駆動されてモータリング運転され、これによりモータリング音を発生している。
【0033】
図3は内燃機関10のファイアリング運転時に発生するファイアリング音とモータリング運転時に発生するモータリング音とを比較した特性図である。筒内の燃焼を伴わないモータリング音は、筒内の燃焼を伴うファイアリング音から燃焼音を差し引いた関係である。同図では、機関回転速度毎のファイアリング音を発音寄与率=100%とし、各回転速度においてファイアリング音の発生に寄与している燃焼音とモータリング音(燃料噴射ポンプの駆動音も含む)との内訳を示している。全体として低回転域では燃焼音が低いことからモータリング音の寄与率が高く、機関回転速度が上昇すると燃焼音の増加と共にモータリング音の寄与率が低下する傾向となる。
【0034】
発電モードにおいて発電機8を駆動するときの内燃機関10は、例えば1600rpm程度に回転速度を制御されるが、このとき燃焼音とモータリング音との寄与率の内訳は約50:50となり、モータリング音の音圧レベルは、ファイアリング音の音圧レベルに対して3デシベル程度しか低下しないため、モータリング音だけでも歩行者の注意を喚起可能な音量を確保できることが判る。
なお、一般的に内燃機関10の音量は回転速度が上昇するほど大きくなるため、モータリング音の音量が不足する場合には、内燃機関10を駆動する発電機8の回転速度を増加させることで必要な音量を確保できる。
【0035】
以上のように本実施形態では、バッテリ6のSOCに基づき発電不要として発電機8を駆動するための内燃機関10が停止され、且つ車両が報知上限車速Vlmt未満で走行中であり走行音が低くて歩行者が自車の接近を認識し難いときに、発電機8をモータとして機能させて内燃機関10を駆動するモータリング制御を実行し、これにより内燃機関10を筒内の燃焼を伴わないモータリング運転させている。従って、モータリング運転に伴って発生したモータリング音により歩行者の注意を喚起でき、自車の接近を確実に認識させることができる。
【0036】
そして、このように報知音を発生させる報知手段として内燃機関10及び発電機8が機能し、これらの内燃機関10及び発電機8は、走行モータ1に供給する電力を発電するためにシリーズ方式のハイブリッド電気自動車に備えられた既存のものであることから、部材を追加することなく最小限のコストにより実施することができる。しかも、筒内の燃焼を伴わないモータリング運転させるだけのため、モータリング制御中に内燃機関10は燃料を消費せず、燃料消費の増加などの弊害を未然に回避することができる。
【0037】
また、例えば特許文献1の技術をシリーズ方式のハイブリッド電気自動車に適用した場合には、発電不要な場合でもエンジン音の発生のためにエンジンが運転されて発電機が駆動されることになるが、発電された電力は有効利用できない不要なものとなる。即ち、不要な電力を発電するために無駄に燃料が消費されてしまうが、本実施形態では、内燃機関10をモータリング運転させるだけのため、このような不要な電力を発電するための無駄な燃料消費を未然に防止することができる。
【0038】
ところで、モータリング制御中に内燃機関10が発生するモータリング音の音量は、常に一定としてもよいし、車速Vに応じて変化させてもよい。例えば車速Vの増加に応じてモータリング音の音量を次第に増加させれば、歩行者は音量の変化から車両の接近が急なものか否かを容易に認識できることから、このような増減特性で音量を制御することが望ましい。
【0039】
上記したようにモータリング音の音量は内燃機関10の回転速度と共に増減することから、この場合には、車速Vの増加に応じて発電機8の回転速度を増加させれば、それに応じて内燃機関10の回転速度と共にモータリング音の音量を増加させることができる。
また、このような車速Vに応じた音量の増減特性を採りつつ、停車時にはモータリング音の音量が0になるようにしてもよい。この場合には、停車時に発電機8による内燃機関10の駆動を中止して内燃機関10を停止させ、車両が発進すると発電機8による内燃機関10の駆動を開始して車速Vの増加に応じて発電機8の回転速度を増加させればよい。
【0040】
一方、本実施形態では、シリーズ方式のハイブリッド電気自動車に適用された報知装置として具体化したが、適用対象となる車両の形式はこれに限ることはなく、種々の形式のハイブリッド電気自動車の報知装置に具体化することができる。そこで、以下に実施形態の別例を順次説明する。
まず、本発明の報知装置をパラレル方式のハイブリッド電気自動車に適用した別例を図4に基づいて説明する。実施形態との構成上の相違点は、内燃機関10及び走行モータ1に関する動力伝達系、それに付随する制御系にあり、全体的な構成は図1に示す実施形態と同様である。そこで、共通する構成箇所は同一部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に説明する。
【0041】
パラレル方式のハイブリッド電気自動車では内燃機関10も走行用動力源として用いており、そのために内燃機関10は電磁式のクラッチ21を介して走行モータ1に連結されている。走行モータ1は走行用動力源として機能すると共に発電機の役割も果たし、このため上記実施形態で述べた発電機8は省略されている。
車両ECU11は内燃機関10及び走行モータ1の運転状態に加えてクラッチ21の断接状態についても制御する。
【0042】
クラッチ21を切断して走行モータ1を運転しているときには、走行モータ1の駆動力を後輪4側に伝達することにより走行モータ1単独で走行し、クラッチ21を接続して内燃機関10を運転し、走行モータ1を停止しているときには、内燃機関10の駆動力をクラッチ21を介して後輪4側に伝達することにより内燃機関10単独で走行する。一方、クラッチ21を接続して内燃機関10及び走行モータ1を共に運転しているときには、内燃機関10及び走行モータ1の駆動力を後輪4側に伝達することにより内燃機関10及び走行モータ1併用で走行する。
【0043】
これらの走行状態の切換は、バッテリ6のSOCやアクセル操作量Accから求めた要求トルクなどの各種情報に基づき車両ECU11により実行される。例えばSOCが高く要求トルクが低いときには、発電不要と見なして走行モータ1を走行用電力源として機能させて走行モータ1単独の走行を行い、SOCが低いときや要求トルクが高いときには内燃機関10及び走行モータ1併用の走行を行い、SOCが極端に低いときには内燃機関10単独で走行しながら走行モータ1を発電機として機能させてバッテリ6を充電する。
【0044】
以上のように構成されたパラレル方式のハイブリッド電気自動車において、モータ走行中で発電不要として内燃機関10が停止されているとき、車速Vが報知上限車速Vlmt未満になると走行音が低下して歩行者が自車の接近を認識し難くなる。
そこで、このような運転状態では車両ECU11はクラッチ21を接続し、クラッチ21を介して走行モータ1の駆動力を内燃機関10に伝達させる。このため走行モータ1は、一方で後輪4を回転駆動して車両を走行させ、他方では内燃機関10を駆動する。
【0045】
従って、このときの内燃機関10は走行モータ1の駆動により筒内の燃焼を伴わないモータリング運転することになり、重複する説明はしないが、モータリング音により歩行者の注意を喚起して自車の接近を確実に認識させることができる。
この別例では、内燃機関10及び走行モータ1が報知手段として機能し、内燃機関10をモータリング運転させるときの車両ECU11が報知制御手段として機能する。そして、これらの内燃機関10及び走行モータ1は既存のものであるため、部材を追加することなく最小限のコストで実施でき、しかも、内燃機関10をモータリング運転させるだけのため燃料消費の増加などの弊害を未然に回避することができる。
【0046】
ところで、例えば特許文献1の技術をパラレル方式のハイブリッド電気自動車に適用すると、報知音としてエンジン音を発生させるだけために本来は必要がないモータ走行からエンジン走行への切換が必要となる。このため、エンジンの燃料消費が増加する問題だけでなく、予め制御上で設定された現在の走行状態に対応する最適な走行モードが選択されずに、パラレル方式のハイブリッド電気自動車による効率的な走行を実現できなくなるという弊害も生じる。
これに対してこの別例では、クラッチ21を介して走行モータ1の駆動により内燃機関10をモータリング運転させているときでもモータ走行を継続でき、他の走行モードに切り換える必要は一切ない。このため、現在のバッテリ6のSOCや要求トルクに対して最適な走行モード(具体的にはモータ走行)を継続でき、もって効率的な走行を実現することができる。
【0047】
次に、本発明の報知装置をスプリット方式のハイブリッド電気自動車に適用した別例を図5に基づいて説明する。このスプリット方式のハイブリッド電気自動車は図4に基づき説明したパラレル方式のものと基本構成が近いため、図4の構成をベースとして相違点を重点的に述べる。
スプリット方式のハイブリッド電気自動車では、パラレル方式のものと同じく内燃機関10も走行用動力源として用いているが、クラッチ21に代えて動力分割機構31を介して内燃機関10が走行モータ1に連結されている。
【0048】
走行モータ1は走行用動力源に加えて発電機としても機能し、また走行モータ1とは別に発電機32が動力分割機構31に連結されている。図示はしないが動力分割機構31はプラネタリギアにより構成されており、内燃機関10からの駆動力を発電機32側と走行モータ1側とに任意の比率で分割しながら伝達し得るようになっている。
車両ECU11は内燃機関10及び走行モータ1の運転状態に加えて動力分割機構31の動力分割状態についても制御する。例えば車両の発進時や低速走行時には走行モータ1を運転してモータ走行を行い、車速Vが増加すると内燃機関10を最大トルク近傍の回転域で運転しながら、その駆動力を動力分割機構31により発電機32側と走行モータ1側とに分割しながら伝達する。
【0049】
このときの駆動力の分割比率はバッテリ6のSOCや要求アクセル操作量Accから求めた要求トルクなどに基づき決定される。例えばSOCが低いときには発電機32側への駆動力配分を大としてバッテリ6を充電し、要求トルクが大きいときには走行モータ1側への駆動力配分を大として加速要求に応答し、一方、SOCが高くて要求トルクが低いときには発電不要と見なして内燃機関10を停止させる。
以上のように構成されたスプリット方式のハイブリッド電気自動車において、モータ走行中で発電不要として内燃機関10が停止されているとき、車速Vが報知上限車速Vlmt未満になると走行音が低下して歩行者が自車の接近を認識し難くなる。
【0050】
そこで、このような運転状態では車両ECU11は発電機32をモータとして機能させ、その駆動力を動力分割機構31を介して内燃機関10に伝達する。これにより、内燃機関10は筒内の燃焼を伴わないモータリング運転を行うことになる。
そして、この別例では、内燃機関10及び発電機32が報知手段として機能し、内燃機関10をモータリング運転させるときの車両ECU11が報知制御手段として機能する。
【0051】
従って、重複する説明はしないが、上記したパラレル方式のものと同じく、モータリング音により運転者の注意を喚起できると共に、部材を追加することなく最小限のコストにより実施でき、燃焼消費の増加などの弊害を未然に回避することができる。また、走行モードに切換についても同様であり、動力分割機構31を介して発電機32の駆動により内燃機関10をモータリング運転させているときでもモータ走行を継続できることから、効率的な走行を実現することができる。
【0052】
なお、発電機32の駆動により動力分割機構31を介して内燃機関10をモータリング運転させる代わりに、後輪4を駆動している走行モータ1の駆動力の一部を動力分割機構31を介して内燃機関10に伝達することによりモータリング運転させてもよい。この場合には、内燃機関10及び走行モータ1が報知手段として機能することになり、上記と同様の作用効果が得られる。
【0053】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態ではシリーズ方式のハイブリッド電気自動車に具体化し、別例ではパラレル方式及びスプリット方式のハイブリッド電気自動車に具体化したが、これらの車両に限ることはなく、他の方式のハイブリッド電機自動車に具体化してもよい。また、内燃機関10の種類についてもディーゼル機関に限ることはなく、例えばガソリンを燃料とするガソリン機関、或いは水素を燃料とする水素機関を用いてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 走行モータ(電動モータ、報知手段)
6 バッテリ(蓄電装置)
8,32 発電機(報知手段)
10 内燃機関(報知手段)
11 車両ECU(報知制御手段)
12 車速センサ(車速検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも走行するための動力源として蓄電装置からの電力供給により駆動される電動モータを備え、上記蓄電装置の充電率の低下に応じて内燃機関により発電機を駆動して上記蓄電装置を充電する一方、動力源として上記電動モータのみを使用して所定車速未満で走行し、且つ上記発電機による発電が不要として上記内燃機関が停止されているときに、周囲の歩行者に対して報知手段から報知音を発して自車の接近を知らせる報知制御手段を備えたハイブリッド電気自動車の報知装置において、
上記報知手段は、上記内燃機関及び発電機であり、
上記報知制御手段は、上記発電機をモータとして機能させて上記内燃機関を駆動することにより、該内燃機関を筒内の燃焼を伴わないモータリング運転させることを特徴とするハイブリッド電気自動車の報知装置。
【請求項2】
上記内燃機関は、上記車両を走行させるための動力源として機能することなく、上記発電を目的とした発電機に対する駆動、及び該発電機からの駆動によるモータリング運転のみを行い、上記電動モータが車両を走行させるための動力源として機能することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド電気自動車の報知装置。
【請求項3】
上記内燃機関は、上記発電を目的とした発電機に対する駆動、及び該発電機からの駆動によるモータリング運転に加えて、上記電動モータと共に上記車両を走行させるための動力源として機能することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド電気自動車の報知装置。
【請求項4】
自車の車速を検出する車速検出手段を備え、
上記報知制御手段は、上記車速検出手段により検出された車速に応じて上記モータリング運転時の上記内燃機関の回転速度を変化させることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のハイブリッド電気自動車の報知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−201395(P2011−201395A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69958(P2010−69958)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】