説明

ハイブリッド駆動装置の制御装置、ハイブリッド駆動装置を備える自動車およびハイブリッド駆動装置の制御方法

【課題】 ハイブリッド駆動装置において、エンジン始動時に運転外乱となる駆動力を抑制するように考慮したエンジン始動制御を行なう。
【解決手段】 エンジン始動要求の発生時(ステップS100)には、駆動輪への伝達トルク制限を行なう必要があるかどうかの判定(ステップS110)が行なわれる。エンジン始動による反力を相殺する反力相殺トルクが発生されても車両状態を維持可能なレベルの車両制動力が十分確保されている場合、あるいは、エンジン始動不良原因が新たに発生する危険性が低い車両走行中である場合には、駆動輪への伝達トルク制限を行なうことなく、通常のエンジン始動が指示される(ステップS120)。一方、車両停車中であり、かつ、十分な車両制動力が確保されていない場合には、エンジン始動を禁止することにより、駆動輪へ運転外乱となり得るトルクが伝達されることを制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハイブリッド駆動装置の制御装置、ハイブリッド駆動装置を備える自動車およびハイブリッド駆動装置の制御方法に関し、より特定的には、エンジンおよびモータジェネレータを動力源として備えるハイブリッド駆動装置のエンジン始動制御に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンの低燃費化を図るために、エンジンおよびモータの両方を動力源とするハイブリッド車両が提案されている。このようなハイブリッド車両に用いられるハイブリッド駆動装置には、シリーズ方式、パラレル方式などの各種の方式が提案されているが、遊星歯車機構によってエンジンおよび2つのモータジェネレータを連結した、シリーズ−パラレルハイブリッド方式が提案されている。このようなシリーズ−パラレルハイブリッド方式では、遊星歯車機構によって構成された動力分割機構によって、エンジンおよびモータの動力の遠心力が制御される。
【0003】
特に、このようなハイブリッド駆動装置において、モータジェネレータの1つにより分配機構を介してエンジンを回転駆動することによってエンジンを始動する構成が提案されている。このような構成では、始動専用のスタータが不要となるため、部品点数が少なくなって装置が安価となる(たとえば特許文献1)。
【0004】
さらに、特許文献1には、第1モータジェネレータによりエンジンを駆動する際にエンジン起動の反力などで車両の駆動力が変動することを抑制するために、第2モータジェネレータによって上記駆動力を相殺するようなトルク(以下、「反力相殺トルク」とも称する)を発生するように制御することが提案されている。
【0005】
また、原動機の運転状態が変更される過渡時にも安定した目標動力を出力するために、エンジンの運転ポイント変更の際にサンギヤの回転角速度を求め、かつ、この回転各速度から当該運転ポイント変更に用いられるトルクを算出して、このトルクを考慮してモータを駆動制御する方式が提案されている(たとえば特許文献2)。
【特許文献1】特開平9−170533号公報
【特許文献2】特開平10−98805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されるエンジン始動制御では、モータジェネレータによる反力相殺トルクが大きすぎると、運転者の意図しない駆動力が車両に働くため、運転性が損なわれる危険性がある。たとえば、第1モータジェネレータの回転異常によってエンジンが正常に始動されないときには、エンジン始動指令に応答した第2モータジェネレータからの反力相殺トルクのみが発生されることにより、当該反力相殺トルクそのものが運転外乱となってしまう可能性がある。
【0007】
また、特許文献2に開示される動力出力装置は、ハイブリッド駆動装置にモータジェネレータのトルク制御方式を開示しているが、エンジン始動時における運転外乱の抑制を考慮したエンジン始動制御については言及していない。
【0008】
その他、ハイブリッド自動車では、エンジンおよびモータジェネレータの双方によって車両駆動力を発生可能であるため、両者の協調制御によってエンジン始動制御および停止制御を高度化できる一方で、その際に車両駆動力変動による運転外乱の抑制に配慮する必要がある。
【0009】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、ハイブリッド駆動装置において、エンジン始動・停止時に運転外乱となる駆動力を抑制するように考慮したエンジン始動・停止制御を行なうことである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明によるハイブリッド駆動装置の制御装置は、燃料の燃焼によって作動するエンジンと、該エンジンの出力を第1モータジェネレータおよび出力部材に機械的に分配する動力分割機構と、出力部材から駆動輪までの間で回転力を加える第2モータジェネレータとを備えるハイブリッド駆動装置の制御装置であって、始動手段と、始動時モータ制御手段と、制動力判定手段と、トルク制限手段とを備える。始動手段は、エンジンの始動要求時に、第1のモータジェネレータにより動力分割機構を介してエンジンを回転駆動することにより該エンジンを駆動する。始動時モータ制御手段は、エンジンの始動要求時に、始動手段によるエンジンの始動に起因する駆動力変動を相殺するような反力相殺トルクを第2モータジェネレータに発生させる。制動力判定手段は、エンジンの始動要求時に、その時点における車両の制動力が、第2モータジェネレータから反力相殺トルクが発生されても車両状態を維持可能なレベルに確保されているかどうかを判定する。トルク制限手段は、制動力判定手段によって、車両の制動力が車両状態を維持可能なレベルよりも小さいと判定された場合に、駆動輪への伝達トルクを制限する。
【0011】
上記ハイブリッド駆動装置の制御装置によれば、専用のスタータを設けることなくエンジンを始動可能な構成とした上で、エンジンが正常に起動された場合には、第2モータジェネレータによる反力相殺トルクによってエンジン始動に起因する駆動力変動を相殺して、運転性を維持できるとともに、第1のモータジェネレータの異常によりエンジン始動が不成功となった場合にも、十分な車両制動力が確保されているため、第2モータジェネレータによる反力相殺トルクが運転外乱となることがない。したがって、正常なエンジン始動成功時および、遊星歯車機構や第1のモータジェネレータのロータにおける潤滑不良による焼付き等に起因する第1のモータジェネレータの回転不良異常(ロック異常)等によりエンジン始動が不成功となった時のいずれにおいても、運転外乱となる駆動力が車両に作用して運転性を損なうことがない。
【0012】
好ましくは、この発明によるハイブリッド駆動装置の制御装置では、車両の制動力は、パーキングポジション選択時のパーキングロックブレーキにより発生される。
【0013】
また好ましくは、この発明によるハイブリッド駆動装置の制御装置では、車両の制動力は、車輪ブレーキの制動力により発生される。
【0014】
これらのハイブリッド駆動装置の制御装置によれば、新たな制動機構を設けることなく、既存の制動機構を利用して、エンジン始動制御時における車両制動力を確保できる。
【0015】
さらに好ましくは、この発明によるハイブリッド駆動装置の制御装置では、トルク制限手段は、エンジンの始動要求が発せられても、始動手段によるエンジンの始動および、始動時モータ制御手段による反力相殺トルクの発生を禁止することにより、伝達トルクを制限する。
【0016】
上記ハイブリッド駆動装置の制御装置によれば、エンジン始動要求時に十分な車両制動力が確保されていない場合には、エンジン始動を禁止するので、簡易な制御ルーチンによって運転外乱となる車両駆動力の発生を確実に防止できる。
【0017】
また、さらに好ましくは、この発明によるハイブリッド駆動装置の制御装置では、トルク制限手段は、エンジンの始動要求時に車輪ブレーキの制動力を増加させることにより伝達トルクを制限する。
【0018】
あるいは、さらに好ましくは、この発明によるハイブリッド駆動装置の制御装置では、トルク制限手段は、伝達トルクの制限のために、エンジンの始動要求時に始動時モータ制御手段による反力相殺トルクの指令値を減少させることにより、伝達トルクを制限する。
【0019】
これらのハイブリッド駆動装置の制御装置によれば、エンジン始動要求時に十分な車両制動力が確保されていない場合には、運転外乱の発生が抑制されるように車両条件を自動的に修正した上で、エンジン始動を試みることが可能である。
【0020】
好ましくは、この発明によるハイブリッド駆動装置の制御装置では、車両の走行中には、車両の制動力にかかわらず、トルク制限手段による伝達トルクの制限は非実行とされる。
【0021】
上記ハイブリッド駆動装置の制御装置によれば、エンジン始動不良の原因となる第1のモータジェネレータの異常(遊星歯車機構や第1のモータジェネレータのロータにおける潤滑不良による焼付き等)が走行時に突発的に起こるケースは考え難く、停車時の低温状態に部品間が固着することによって発生する可能性が高い点を考慮して、不必要に駆動輪への伝達トルクが制限されるのを回避することができるので、効率的なエンジン始動制御を行なうことができる。
【0022】
この発明による自動車は、ハイブリッド駆動装置と、始動手段と、始動時モータ制御手段と、制動力判定手段と、トルク制限手段とを備える。ハイブリッド駆動装置は、燃料の燃焼によって作動するエンジンと、該エンジンの出力を第1モータジェネレータおよび出力部材に機械的に分配する動力分割機構と、出力部材から駆動輪までの間で回転力を加える第2モータジェネレータとを含んで構成される。始動手段は、エンジンの始動要求時に、第1のモータジェネレータにより動力分割機構を介してエンジンを回転駆動することにより該エンジンを駆動する。始動時モータ制御手段は、エンジンの始動要求時に、始動手段によるエンジンの始動に起因する駆動力変動を相殺するような反力相殺トルクを第2モータジェネレータに発生させる。制動力判定手段は、エンジンの始動要求時に、その時点における車両の制動力が、第2モータジェネレータから反力相殺トルクが発生されても車両状態を維持可能なレベルに確保されているかどうかを判定する。トルク制限手段は、制動力判定手段によって、車両の制動力が車両状態を維持可能なレベルよりも小さいと判定された場合に、駆動輪への伝達トルクを制限する。
【0023】
この発明によるハイブリッド駆動装置の制御方法は、燃料の燃焼によって作動するエンジンと、該エンジンの出力を第1モータジェネレータおよび出力部材に機械的に分配する動力分割機構と、出力部材から駆動輪までの間で回転力を加える第2モータジェネレータとを備えるハイブリッド駆動装置の制御方法であって、エンジンの始動要求時に、第1のモータジェネレータにより動力分割機構を介してエンジンを回転駆動することにより該エンジンを駆動するステップと、エンジンの始動要求時に第1のモータジェネレータによるエンジンの始動に起因する駆動力変動を相殺するような反力相殺トルクを第2モータジェネレータに発生させるステップと、エンジンの始動要求時に、その時点における車両の制動力が、第2モータジェネレータから反力相殺トルクが発生されても車両状態を維持可能なレベルに確保されているかどうかを判定する判定ステップと、判定ステップにおいて車両の制動力が車両状態を維持可能なレベルよりも小さいと判定された場合に、駆動輪への伝達トルクを制限するステップとを備える。
【0024】
この発明による自動車ならびにハイブリッド駆動装置の制御方法によれば、専用のスタータを設けることなくエンジンを始動可能な構成とした上で、エンジンが正常に起動された場合には、第2モータジェネレータによる反力相殺トルクによってエンジン始動に起因する駆動力変動を相殺して、運転性を維持できるとともに、第1のモータジェネレータの異常によりエンジン始動が不成功となった場合にも、十分な車両制動力が確保されているため、第2モータジェネレータによる反力相殺トルクが運転外乱となることがない。したがって、正常なエンジン始動成功時および、遊星歯車機構やロータにおける潤滑不良による焼付き等に起因する第1のモータジェネレータの回転不良異常(ロック異常)等によりエンジン始動が不成功となった時のいずれにおいても、運転外乱となる駆動力が車両に作用して運転性を損なうことがない。
【0025】
この発明の他の構成によるハイブリッド駆動装置の制御装置は、燃料の燃焼によって作動するエンジンと、該エンジンの出力が伝達される出力部材から駆動輪までの間で回転力を加えるモータジェネレータ(MG2)とを備えるハイブリッド駆動装置を制御する。制御装置は、トルク判定手段と、トルク発生手段と、出力制限手段とを備える。トルク判定手段は、エンジンの始動指示時または停止指示時に、モータジェネレータによる出力トルクが所定以下であるかどうかを判定する。トルク発生手段は、トルク判定手段によってモータジェネレータによる出力トルクが所定以下であると判定されたときに、モータジェネレータに所定トルクの出力を指示する。出力制限手段は、トルク発生手段によって出力が指示された所定トルクによる駆動力増加分の駆動輪への伝達を制限する。特に、所定トルクは、ハイブリッド駆動装置内のガタを解消可能なトルク量に対応して設定される。
【0026】
上記ハイブリッド駆動装置の制御装置によれば、モータジェネレータからのトルク印加
によってハイブリッド駆動装置の内部ガタを解消した状態でエンジンの始動・停止を行なうことができる。また、モータジェネレータによる所定トルク(ガタ詰めトルク)発生時に、この所定トルクによる駆動力増加分が駆動輪へ伝達されることを防止できる。したがって、所定トルク(ガタ詰めトルク)の発生が運転外乱となることを防止した上で、エンジン始動・停止時にハイブリッド駆動装置の内部ガタに起因する振動・異音の発生を防止できる。
【0027】
好ましくは、この発明の他の構成によるハイブリッド駆動装置の制御装置では、出力制限手段は、所定トルクによる駆動力増加分に対応させて駆動輪の制動力を増加させる手段を含む。
【0028】
上記ハイブリッド駆動装置の制御装置によれば、駆動輪の制動力増加によって、所定トルク(ガタ詰めトルク)が駆動力変動につながることを防止できる。すなわち、専用の制動装置を設けることなく、既存の駆動輪制動装置を用いて所定トルク(ガタ詰めトルク)の発生が運転外乱となることを防止して、エンジン始動・停止時におけるハイブリッド駆動装置の内部ガタに起因する振動・異音の発生を防止できる。
【0029】
また好ましくは、この発明の他の構成によるハイブリッド駆動装置の制御装置では、ハイブリッド駆動装置は、モータジェネレータの出力が該ハイブリッド駆動装置の出力軸へ伝達される経路上に設けられた補助制動装置をさらに備え、出力制限手段は、第1のモータ制御手段によって所定トルク出力が指示された場合に、補助制動装置に制動力を出力される手段を含む。
【0030】
上記ハイブリッド駆動装置の制御装置によれば、ハイブリッド駆動装置内の補助制動装置により、所定トルク(ガタ詰めトルク)がハイブリッド駆動装置からの出力変動につながることを防止できる。したがって、エンジン始動・停止時の振動・異音防止のための所定トルク(ガタ詰めトルク)発生により、車両駆動力が変動して運転外乱が発生することをより確実に防止できる。
【0031】
この発明の他の構成による自動車は、ハイブリッド駆動装置と、トルク判定手段と、トルク発生手段と、出力制限手段とを備える。ハイブリッド駆動装置は、燃料の燃焼によって作動するエンジンと、該エンジンの出力が伝達される出力部材から駆動輪までの間で回転力を加えるモータジェネレータとを含む。トルク判定手段は、エンジンの始動指示時または停止指示時に、モータジェネレータによる出力トルクが所定以下であるかどうかを判定する。トルク発生手段と、トルク判定手段によってモータジェネレータによる出力トルクが所定以下であると判定されたときに、モータジェネレータに所定トルクの出力を指示する。出力制限手段は、トルク発生手段によって出力が指示された所定トルクによる駆動力増加分の駆動輪への伝達を制限する。
【0032】
この発明の他の構成によるハイブリッド駆動装置の制御方法は、燃料の燃焼によって作動するエンジンと、該エンジンの出力が伝達される出力部材から駆動輪までの間で回転力を加えるモータジェネレータとを備えるハイブリッド駆動装置の制御方法であって、第1から第3のステップを備える。第1のステップは、エンジンの始動指示時または停止指示時に、モータジェネレータによる出力トルクが所定以下であるかどうかを判定する。第2のステップは、第1のステップによってモータジェネレータによる出力トルクが所定以下であると判定されたときに、モータジェネレータに所定トルクの出力を指示する。第3のステップは、第2のステップによって出力が指示された所定トルクによる駆動力増加分の駆動輪への伝達を制限する。
【0033】
この発明の他の構成による自動車ならびにハイブリッド駆動装置の制御方法によれば、モータジェネレータからのトルク印加によってハイブリッド駆動装置の内部ガタを解消した状態で、エンジンの始動・停止を行なうことができる。また、モータジェネレータによる所定トルク(ガタ詰めトルク)発生時に、この所定トルクによる駆動力増加分が駆動輪へ伝達されることを防止できる。したがって、所定トルク(ガタ詰めトルク)の発生が運転外乱となることを防止した上で、エンジン始動・停止時にハイブリッド駆動装置の内部ガタに起因する振動・異音の発生を防止できる。
【発明の効果】
【0034】
この発明によるハイブリッド駆動装置の制御装置、ハイブリッド駆動装置の制御方法およびハイブリッド駆動装置を備える自動車では、エンジン始動・停止時に運転性を損なうような駆動力の発生を抑制するように考慮したエンジン始動・停止制御を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下において、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明を原則として繰返さないものとする。
【0036】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態によるハイブリッド駆動装置の制御装置を搭載したハイブリッド自動車の構成を示すブロック図である。
【0037】
図1を参照して、ハイブリッド自動車(以下、単に「自動車」と称する)5は、ハイブリッド駆動装置10と、制御装置20と、シフト選択部25と、ディファレンシャルギヤ30と、車軸40と、車輪(駆動輪)50aと、車輪制動装置60と、パーキングブレーキ65と、ブレーキペダル70と、制動用マスタシリンダ80と、油圧経路85とを備える。
【0038】
ハイブリッド駆動装置10は、自動車5の駆動力を発生する。ハイブリッド駆動装置10の構成については、後ほど詳細に説明する。ハイブリッド駆動装置10によって発生された駆動力は、ディファレンシャルギヤ30を介して車軸40に伝達され、車輪50aの回転駆動に用いられる。ディファレンシャルギヤ30は、路面からの抵抗の差を利用して車輪50aの左右間の回転差を吸収する。
【0039】
電子制御ユニット(ECU)で構成される制御装置20は、ハイブリッド駆動装置10が搭載された自動車5を運転者の指示に応じて運転させるために、自動車に搭載された機器・回路群の全体動作を制御する。
【0040】
シフト選択部25は、図示しないシフトレバーへの運転者の操作(シフトレバー操作)に従って、複数のシフトポジションのうちから1つを選択する。複数のシフトポジションには、たとえば、車両停止時のパーキングポジション(Pポジション)、車両後退時のリバースポジション(Rポジション)、ニュートラルポジション(Nポジション)および車両前進時のドライブポジション(Dポジション)等が含まれる。なお、ドライブポジション(Dポジション)の他に、変速可能な変速段数を制限する細分化されたドライブポジション(たとえば4ポジション、3ポジション、2ポジション、Lポジション等)が設けられてもよい。
【0041】
車輪制動装置60は、各車輪50aに対応して設けられ、運転者によるブレーキペダル70の踏み込み量に応じた制動力を対応の車輪50aに対して発生させる。車輪制動装置60による制動力は、ブレーキペダル70の踏み込み量に応じてマスタシリンダ80が発生する油圧が油圧経路85を介して伝達されることにより発生される。すなわち、車輪制動装置60による制動力は、ブレーキペダル70の踏み込み量に応じたものとなる。
【0042】
なお、図1に示された自動車5ではハイブリッド駆動装置によって駆動される車輪50aのみが図示されているが、これ以外に非駆動の車輪(図示せず)が存在してもよい。このような非駆動輪に対しても、同様の車輪制動装置60が設けられ、共通のマスタシリンダ80からの油圧によって同様の制動力が発揮される構成とすることができる。
【0043】
パーキングブレーキ65は、運転者の操作に応答してオンし、車輪50aを機械的にロックすることで制動力を発揮する。あるいは、パーキングブレーキ65は、プロペラシャフトの回転を機械的にロックする機構として設けられてもよい。
【0044】
次に、ハイブリッド駆動装置の構成について説明する。
図2は、図1に示されたハイブリッド駆動装置の構成を詳細に説明する図である。
【0045】
図2を参照して、この発明の実施の形態によるハイブリッド駆動装置10は、燃料の燃焼によって作動する内燃機関などのエンジン112と、そのエンジン112の回転変動を吸収するスプリング式のダンパ装置114と、そのダンパ装置114を介して伝達されるエンジン112の出力を第1モータジェネレータ116および出力部材118に機械的に分配する遊星歯車式の動力分割機構120と、出力部材118に回転力を加える第2モータジェネレータ122とを備えている。
【0046】
エンジン112、ダンパ装置114、動力分割機構120、および第1モータジェネレータ116は同軸上において軸方向に並んで配置されており、第2モータジェネレータ122は、ダンパ装置114および動力分割機構120の外周側に同心に配設されている。
【0047】
動力分割機構120は、シングルピニオン型の遊星歯車装置で、3つの回転要素として第1モータジェネレータ116のモータ軸124に連結されたサンギヤ120sと、ダンパ装置114に連結されたキャリア120cと、第2モータジェネレータ122のロータ122rと連結されたリングギヤ120rとを含む。
【0048】
出力部材118は、第2モータジェネレータ122のロータ122rにボルトなどによって一体的に固設されており、そのロータ122rを介して動力分割機構120のリングギヤ120rに連結されている。出力部材118には出力歯車126が設けられており、中間軸128の大歯車130および小歯車132を介して傘歯車式のディファレンシャルギヤ30が減速回転させられて、図1に示した駆動輪50aに動力が分配される。
【0049】
出力歯車126には、出力部材118からの出力をロックするためのパーキングロックブレーキ機構(図示せず)が設けられる。パーキングロックブレーキ機構は、運転者によるパーキングポジション(Pポジション)選択時に、出力歯車126をロックすることにより、ハイブリッド駆動装置10からの駆動力出力を制限する。
【0050】
第1モータジェネレータ116および第2モータジェネレータ122は、それぞれ、第1M/G制御器136,第2M/G制御器138を介して高電圧(たとえば280V)の蓄電装置(バッテリ)140に電気的に接続されている。これらのモータジェネレータ116,122は、蓄電装置140からの電気エネルギが供給されて所定のトルクで回転駆動される回転駆動状態と、回転制動(モータジェネレータ自体の電気的な制動トルク)により発電機として機能して蓄電装置140に電気エネルギを充電する充電状態と、モータ軸124やロータ122rが自由回転することを許容する無負荷状態との間で動作を切換えられる。
【0051】
図3に示されるように、制御装置20は、CPUで構成されるコントローラと、RAM,ROM等で構成されるメモリ領域22とを含む。第1M/G制御器136,第2M/G制御器138は、制御装置20によって制御される。また、エンジン112も、燃料噴射量やスロットル弁開度、点火時期(起動指令)などが制御装置20によって制御されることにより、その回転数やトルク等の作動状態が制御される。
【0052】
制御装置20は、予め設定されたプログラムに従って信号処理を行なうことにより、運転状況に応じて、モータジェネレータ116,122による走行モードを、モータ走行、充電走行やエンジン・モータ走行等の間で切換える。
【0053】
たとえばモータ走行では、自動車5は、第1モータジェネレータ116を無負荷状態とするとともに第2モータジェネレータ122を回転駆動状態とし、その第2モータジェネレータ122のみを動力源として走行する。また、充電走行では、第1モータジェネレータ116を発電機として機能させるとともに第2モータジェネレータ122を無負荷状態としてエンジン112のみを駆動力源として走行しながら、第1モータジェネレータ116によって蓄電装置140が充電される。
【0054】
あるいは、エンジン・モータ走行では、第1モータジェネレータ116を発電機として機能させる一方で、エンジン112および第2モータジェネレータ122の両方を動力源として走行しながら第1モータジェネレータ116によって蓄電装置140が充電される。
【0055】
また、上記モータ走行時に第2モータジェネレータ122を発電機として機能させて回生制動する回生制動制御や、車両停止時に第1モータジェネレータ116を発電機として機能させるとともにエンジン112を作動させ、もっぱら第1モータジェネレータ116によって蓄電装置140を充電する充電制御なども制御装置20によって行なわれる。
【0056】
制御装置20は、各走行モードにおいて、所望の駆動力発生や発電が行なわれるように、各モータジェネレータ116,122のトルク指令値を発生する。
【0057】
ハイブリッド自動車では、エンジン112は、車両停止時には自動的に停止される一方で、その始動タイミングは、運転状況に応じて制御装置20によって制御される。
【0058】
具体的には、発進時ならびに低速走行時あるいは緩やかな坂を下るとき等の軽負荷時には、エンジン効率の悪い領域を避けるために、エンジン112を起動させることなく、第2モータジェネレータ122による駆動力で走行する。そして、一定以上の駆動力が必要な運転状態となったときには、エンジン112が始動される。但し、暖気等のためにエンジン112の駆動が必要な場合には、エンジン112は発進時に無負荷状態で始動されて、所望の暖気が実現するまでアイドリング回転数で駆動される。また、車両駐車時に上記充電制御を行なう場合にも、エンジン112が始動される。
【0059】
なお、この発明によるハイブリッド駆動装置10では、第1モータジェネレータによってエンジン112を始動する。このように、第1モータジェネレータ116によってエンジン112を始動する構成とすることにより、始動専用のスタータが不要となり、部品点数が少なくなって装置が安価となる。
【0060】
特許文献1にも記載されるように、第1モータジェネレータ116によって動力分割機構120を介してエンジン112を回転駆動すると、エンジン112の回転抵抗(フリクションなど)によって出力部材118に反力が作用したり、エンジン112の始動に伴ってエンジン出力や第1モータジェネレータ116のモータ出力が出力部材118に作用する可能性がある。このような現象が発生すると、車両に運転外乱となる駆動力が発生し、運転性を損なうおそれがある。
【0061】
このため、この発明の実施の形態では、エンジン112の始動時には、運転外乱となる駆動力が働くことがないように、第1モータジェネレータ116に加えて第2モータジェネレータ122のトルク制御を行なう。具体的には、第1モータジェネレータによりエンジン112を回転駆動するとともに、その反力などで発生する駆動力を相殺するような反力相殺トルクが第2モータジェネレータ122によって発生されるように、エンジン112の始動を制御する。
【0062】
この場合の各モータジェネレータ116,122のトルク設定値や出力タイミングは、車両停止状態を保持しつつエンジン112を確実に始動できるような値を予め実験等によって求められ、以下に説明するエンジン始動制御時にコントローラ21の要求によって随時参照可能なように、制御装置20内のメモリ領域22に格納される。
【0063】
しかしながら、第1モータジェネレータに回転不良(いわゆる、ロック異常)が発生してエンジンが始動できないような場合には、第2モータジェネレータ122からの反力相殺トルクのみが発生されることにより、当該反力相殺トルクそのものが運転外乱となってしまう可能性がある。このため、この発明によるハイブリッド駆動装置におけるエンジン始動制御では、この点を考慮したエンジン始動制御を行なう。
【0064】
さらに、制御装置20に対しては、図1に示したブレーキペダル70に設けられたブレーキペダル踏込量センサによって検知されるブレーキペダル踏込量150や、シフト選択部25によって選択されたシフトポジション152が入力される。これらのデータも、エンジン始動制御に用いられる。
【0065】
図4は、この発明の実施の形態によるハイブリッド駆動装置におけるエンジン始動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0066】
図4を参照して、エンジン自動制御では、所定条件の成立に応じたエンジン始動要求の発生が逐次チェックされ(ステップS100)、エンジン始動要求が発生すると(ステップS100におけるYES判定)、エンジン始動に際して、駆動輪への伝達トルク制限を行なう必要があるかどうかを判定するための判定ステップS110が実行される。
【0067】
判定ステップS110では、以下の条件(1)〜(3)が成立しているかどうかが判定される。
【0068】
(1)パーキングポジション(Pポジション)が選択されているか、
(2)エンジン始動要求時の車両制動力が所定値よりも大きいか、
(3)車速が車両走行中と認められる所定速度よりも大きいか。
【0069】
条件(1)の成立時には、運転者のシフト選択に応答したパーキングギアロックの制動力によって、第2モータジェネレータ(MG2)によって反力相殺トルクが発生されても、停車中の車両について停止状態を維持可能と認識される。
【0070】
条件(2)の判定には、運転者のブレーキペダル踏込量150やマスタシリンダ80(図1)の発生力等が用いられ、車輪制動装置60(図1)による制動力、すなわち車輪ブレーキ力が、第2モータジェネレータによる反力相殺トルク設定値に対応する所定値よりも大きいかどうかが判定される。なお、反力相殺トルク設定値によっては、パーキングブレーキ65のオン時にも、条件(2)の成立を判定してもよい。
【0071】
条件(2)の成立時には、運転者のブレーキペダル操作に応答した車輪制動装置60(図1)の制動力によって、第2モータジェネレータによって反力相殺トルクが発生されても、停車中の車両について停止状態を維持可能と認識される。
【0072】
条件(3)の成立時には、第1モータジェネレータ(MG1)のロック異常が新たに発生する可能性が低いため、第2のモータジェネレータ(MG2)による反力相殺トルクが運転外乱となる可能性が非常に低いと認識される。なぜなら、第1モータジェネレータ(MG1)のロック異常の原因としては、遊星歯車機構での潤滑不良による歯車間焼付きの発生や、第1モータジェネレータ(MG1)での潤滑不良によるロータ焼付き発生が存在するが、いずれも走行中に突発的に起るケースは考えにくく、停車中の低温状態に部品が固着することによって発生する可能性が高いためである。
【0073】
したがって、条件(1)〜(3)の少なくとも1つが成立する場合(ステップS110におけるYES判定)、すなわち、「車両が停車しており、かつ、第2モータジェネレータ(MG2)によって反力相殺トルクが発生されても車両状態(停止状態)を維持できるだけの車両制動力が確保されている」、または「車両走行中」と認識される場合には、駆動輪への伝達トルク制限を行なうことなく、通常のエンジン始動が指示される(ステップS120)。この場合には、第1のモータジェネレータ(MG1)によるエンジンの回転駆動トルク発生(ステップS122)、および第2モータジェネレータ(MG2)による反力相殺トルク発生(ステップS124)が指示される。
【0074】
これにより、エンジンが正常に起動された場合には、第2モータジェネレータによる反力相殺トルクによってエンジン始動に起因する駆動力変動を相殺して、運転性を維持できる。また、第1のモータジェネレータの異常によりエンジン始動が不成功となった場合にも、十分な車両制動力が確保されているため、第2モータジェネレータによる反力相殺トルクが運転外乱となることがない。
【0075】
一方、判定ステップS110において、上記条件(1)〜(3)のすべてが不成立である場合(ステップS110におけるNO判定)には、第2モータジェネレータ(MG2)による反力相殺トルクの発生が運転外乱となる可能性がある。したがって、この場合には、駆動輪への伝達トルクが制限される。
【0076】
たとえば、ステップS130の実行により、エンジンの始動が禁止される。エンジンの始動禁止により、第1モータジェネレータ(MG1)および第2モータジェネレータ(MG2)がトルクを発生しないので、運転外乱となり得るトルクが駆動輪へ伝達されることがない。
【0077】
したがって、通常のエンジン始動時および、第1モータジェネレータ(MG1)のロック異常等によりエンジン始動が不成功となった時のいずれにおいても、運転外乱となる駆動力が車両に作用して運転性を損なうことがない。
【0078】
図4に示したエンジン始動制御フローでは、十分な車両制動力が確保されていない場合にはエンジン始動を禁止することにより、簡易な制御ルーチンによって、運転外乱となる車両駆動力の発生を確実に防止できる。
【0079】
一方で、以下に説明するように、運転外乱の発生が抑制されるように車両条件を自動的に修正した上で、エンジン始動を試みるようなエンジン始動制御フローを採用することも可能である。
【0080】
図5に示すように、駆動輪への伝達トルク制限は、図4におけるステップS130に代えて実行されるステップS140によっても実現可能である。
【0081】
図5を参照して、車両の駆動トルクを制限するためのステップS140では、車両ブレーキ力を増加させた上で(ステップS142)、ステップS120と同様のエンジン始動制御が行なわれる(ステップS144,S146)。
【0082】
ステップS142における車両ブレーキ力の増加は、たとえば制御装置20からの指令に応じて、マスタシリンダ80からの発生油圧を高めるように制御することで実現される。
【0083】
このようなエンジン始動制御によっても、エンジンが始動されずに第2モータジェネレータ(MG2)によって反力相殺トルクが発生されても、車両制動力の増加によって、運転外乱となる車両駆動力が発生することがない。
【0084】
あるいは、図6に示されるように、駆動輪への伝達トルク制限は、図4におけるステップS130に代えて実行されるステップS150によっても実現可能である。
【0085】
図6を参照して、車両の駆動トルクを制限するためのステップS150では、モータジェネレータMG2による反力相殺トルクの指令値を、通常時のトルク指令値Ts1よりも小さいTs2に変更した上で(ステップS152)、ステップS120と同様のエンジン始動制御が行なわれる(ステップS154,S156)。
【0086】
このようなエンジン始動制御によっても、エンジンが始動されずに第2モータジェネレータ(MG2)によって反力相殺トルクが発生されても、運転外乱となる車両駆動力が発生することを防止できる。
【0087】
なお、図4〜図6に示したフローチャートとこの発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS110がこの発明における「制動力判定手段」に相当し、ステップS122、S144およびS154の各々がこの発明における「始動手段」に相当する。さらに、ステップS124、S146およびS156の各々がこの発明における「始動時モータ制御手段」に相当し、ステップS130、S142およびS152の各々がこの発明における「トルク制限手段」に相当する。
【0088】
以上説明したように、この発明の実施の形態1による構成では、第1モータジェネレータ(MG1)のトルク制御によってエンジンを始動するので、専用のスタータを設けることなく、簡易な構成でエンジンを始動することができる。また、エンジン始動時にその反力などで発生する駆動力を第2モータジェネレータ(MG2)による反力相殺トルク発生制御によって相殺して、運転外乱の発生を抑制できる。さらに、エンジン始動が不成功となって第2モータジェネレータ(MG2)による反力相殺トルクのみが発生すると運転性を損なう危険性がある場合には、駆動輪への伝達トルク制限を、エンジンの始動禁止、車両制動力の増加、反力相殺トルク設定値の低下によって実現することにより、運転外乱となる車両駆動力の発生を抑制して運転性の悪化を防止できる。
【0089】
[実施の形態2]
図2に示したハイブリッド駆動装置10では、内部の歯車間等、たとえば、図2の出力歯車126と中間軸128の大歯車130との間にガタが存在すると、エンジン始動、停止時に振動や異音が発生する可能性がある。
【0090】
したがって、第2モータジェネレータ(MG2)により、実施の形態1で説明したようなエンジン始動時の反力相殺トルクの発生に代えて、エンジンの停止・始動時に上記ガタを解消可能な所定トルク(以下、「ガタ詰めトルク」とも称する)を発生させる制御構成とすることも可能である。実施の形態2では、上記ガタ詰めトルクの発生を伴うエンジン始動・停止制御について説明する。
【0091】
図7は、この発明の実施の形態によるハイブリッド駆動装置を搭載したハイブリッド自動車の他の構成例を示すブロック図である。
【0092】
図7に示したハイブリッド自動車は、図2に示したハイブリッド自動車と比較して、ブレーキシステムの構成が異なる。具体的には、ブレーキペダル70の踏込みに応じた油圧を発生するマスタシリンダ80に代えて、制御装置20によって発生油圧が常時制御される油圧制御部80♯が設けられる。油圧制御部80♯が発生する油圧に応じた制動力を発揮する油圧ブレーキは、たとえば図2と同様の車輪制動装置60として設けられる。
【0093】
なお、図7では、複数の車輪制動装置60に対して共通の経路により油圧制御部80♯から油圧が印加される構成を例示するが、車輪毎に独立の油圧経路を設けることにより、車輪間で車輪制動装置60に印加される油圧を独立のものとすることもできる。また、油圧ブレーキとして、車軸の回転に対して制動力を与える制動装置を設ける構成とすることも可能である。
【0094】
図7のハイブリッド自動車では、制御装置20は、ブレーキペダル踏込みセンサ150♯によって検知された、運転者が要求する車両全体でのトータルブレーキ力PBTを、ハイブリッド装置内の第2モータジェネレータ(MG2)による回生ブレーキ力PBM、油圧ブレーキ力PBOおよびエンジンブレーキ力PBE(エンジン運転時のみ)の間の協調制御により発生する。すなわち、制御装置20は、ブレーキペダル70の踏込み量に応じてトータルブレーキ力PBTを算出するとともに、車両の走行条件(たとえば車速)に応じて予め設定された制動力分担テーブルに従って、下記(1)式を満たすようにブレーキ力分担を設定する。
【0095】
PBT=PBM+PBO+PBE …(1)
油圧制御部80♯の発生油圧は、(1)式によって設定された油圧ブレーキ力PBOに従って設定される。また、第2モータジェネレータ(MG2)のトルク指令値が回生ブレーキ力PBMに従って設定される。なお、回生ブレーキ力発生時のトルク出力方向(すなわち、トルク指令値の正・負)は、現在の車輪回転方向とは反対の回転方向に設定される。
【0096】
図8には、図7に示したハイブリッド自動車におけるエンジン停止制御のフローチャートが示される。
【0097】
図8を参照して、エンジン運転時には、制御装置20は、エンジン停止指示が発生されたかどうかを逐次チェックし、(ステップS200)、エンジン停止指示が発生されると(ステップS200におけるYES判定)、第2モータジェネレータ(MG2)の現在の発生トルクが零近傍(極小)であるかどうかをチェックする(ステップS210)。ステップS210の判定は、第2モータジェネレータ(MG2)の現在のトルク指令値Tr2comが零近傍の判定値Tjより小さいか否かの判定によって実行できる。
【0098】
第2モータジェネレータ(MG2)がトルクを発生している場合には、ハイブリッド駆動装置10内部の歯車に回転力が印加されるため、歯車間のガタは解消されている。したがって、ステップS210のNO判定時(Tr2com≧Tj)には、この状態のままでエンジン112を停止しても振動や異音は発生しないので、エンジン停止がそのまま許可される(ステップS240)。
【0099】
これに対して、第2モータジェネレータ(MG2)が殆どトルクを発生していない場合には、ハイブリッド駆動装置10内部の歯車間のガタは解消されておらず、この状態のままでエンジン112を停止すると振動や異音が発生する可能性がある。したがって、ステップS210のYES判定時(Tr2com<Tj)には、車両駆動力としてトルク出力が不要であっても第2モータジェネレータ(MG2)に対してガタ詰めトルクの出力が指示される(ステップS220)。すなわち、第2モータジェネレータ(MG2)のトルク指令値Tr2comが、ハイブリッド駆動装置10内部のガタ解消に必要なトルク量に対応する所定値Ts3に設定される。なお、ガタ詰めトルクの発生方向(すなわち、トルク指令値の正・負)は、現在の車輪の回転方向と同一方向となるようにに設定される。
【0100】
さらに、ステップS220による第2モータジェネレータ(MG2)からのトルク出力が、車両駆動力として作用して運転外乱となることがないように、ガタ詰めトルクの相殺分車両ブレーキ力が増加される(ステップS230)。この車両ブレーキ力増加分ΔPBTは、ガタ詰めトルク量Ts3に対応させて、予め所定値に設定される。制御装置20は、式(1)に従って、車両ブレーキ力増加分ΔPBT分だけ油圧ブレーキ力PBOを増加させる。これにより、油圧制御部80♯の発生油圧が車両ブレーキ力増加分ΔPBTに対応して増加されることにより、油圧ブレーキ(車輪制動装置60)の制動力は、ガタ詰めトルクの相殺分だけ増加する。
【0101】
ステップS220に従うガタ詰めトルク発生と、ステップS230による車両制動力増加とを同期させて実行した状態で、エンジン112が停止される(ステップ240)。これにより、ガタ詰めトルクの印加により車両駆動力を変動させることなく、エンジン112を停止による振動・異音の発生を防止することができる。
【0102】
図9に示されるように、図7に示したハイブリッド自動車では、エンジン始動時にも同様の制御を実行できる。
【0103】
図9を参照して、エンジン停止時には、制御装置20は、エンジン始動指示が発生されたかどうかを逐次チェックし、(ステップS300)、エンジン始動指令が発生されると(ステップS300におけるYES判定)、第2モータジェネレータ(MG2)の現在の発生トルクが零近傍であるかどうかをチェックする(ステップS310)。ステップS310の判定は、図8のステップS210と同様に実行される。
【0104】
第2モータジェネレータ(MG2)がトルクを発生している、ステップS310のNO判定時(Tr2com≧Tj)には、この状態のままでエンジン112を始動しても振動や異音は発生しないため、エンジン始動がそのまま許可される(ステップS340)。
【0105】
これに対して、第2モータジェネレータ(MG2)が殆どトルクを発生していない場合には、エンジン停止時と同様に、ハイブリッド駆動装置10内部の歯車間のガタによるエンジン始動に伴う振動や異音の発生が懸念される。
【0106】
したがって、ステップS310のYES判定時(Tr2com<Tj)には、第2モータジェネレータ(MG2)に対してステップS220と同様のガタ取りトルクの発生が指示される(ステップS320)とともに、ステップS230と同様のガタ詰めトルクの相殺分の車両制動力増加が指示される(ステップS330)。
【0107】
これにより、エンジン始動時にも、ガタ詰めトルクの印加により車両駆動力を変動させることなく、振動・異音の発生を防止することができる。
【0108】
図10には、ステップS230,S330による車両制動力増加の他の実現例が示される。図10を参照して、ハイブリッド駆動装置10の内部、たとえば、中間軸128の回転を制動する補助ブレーキ装置162を設けることによっても、ガタ詰めトルク発生が車両駆動力への外乱となることを防止する制動力が発生できる。
【0109】
補助ブレーキ装置162は、たとえば、制御装置20によって制御される油圧制御部80♯からの油圧による動作する油圧ブレーキで構成できる。補助ブレーキ装置162は、油圧制御部80♯により、他の油圧ブレーキ(車輪制動装置60)とは独立にを作動される。
【0110】
このような構成とすることにより、ガタ詰めトルク発生時におけるハイブリッド駆動装置10からの出力を零に維持できるので、エンジン始動・停止時の振動・異音防止のためのガタ取りトルク発生により、車両駆動力が変動して運転外乱が発生することをより確実に防止できる。
【0111】
なお、図8および図9のステップS210,S310は本発明での「トルク判定手段」または「第1のステップ」に対応し、ステップS220,S320は本発明での「トルク発生手段」または「第2のステップ」に対応し、ステップS230,S330は本発明での「出力制限手段」または「第3のステップ」に対応する。さらに、図10の補助ブレーキ装置162は、本発明での「補助制動装置」に対応する。
【0112】
ところで、図7に示したハイブリッド自動車のブレーキシステム構成は、実施の形態1にも適用可能である。すなわち、反力相殺トルクに打ち勝つための車両ブレーキ力増加(図5のステップS142)は、図7に示したブレーキシステム構成において、制御装置20による油圧制御部80♯の発生油圧を高めるように制御しても実現できる。
【0113】
また、図10に示したハイブリッド駆動装置10を実施の形態1に適用して、油圧ブレーキ162を作動させることによって、反力相殺トルクに対応した車両ブレーキ力増加(図5のステップS142)を実現することも可能である。
【0114】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】この発明の実施の形態によるハイブリッド駆動装置を搭載したハイブリッド自動車の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示されたハイブリッド駆動装置の構成を詳細に説明する図である。
【図3】図1に示されたハイブリッド駆動装置におけるエンジン始動制御を説明するブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態1によるハイブリッド駆動装置でのエンジン始動制御ルーチンの第1の例を説明するフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態1によるハイブリッド駆動装置でのエンジン始動制御ルーチンの第2の例を説明するフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態1によるハイブリッド駆動装置でのエンジン始動制御ルーチンの第3の例を説明するフローチャートである。
【図7】この発明の実施の形態1によるハイブリッド駆動装置を搭載したハイブリッド自動車の他の構成例を示すブロック図である。
【図8】この発明の実施の形態2によるエンジン始動制御ルーチンを説明するフローチャートである。
【図9】この発明の実施の形態2によるエンジン停止制御ルーチンを説明するフローチャートである。
【図10】この発明の実施の形態2によるハイブリッド駆動装置の構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0116】
5 ハイブリッド自動車、10 ハイブリッド駆動装置、20 制御装置(ECU)、25 シフト選択部、30 ディファレンシャルギヤ、40 車軸、50a 車輪、60
車輪制動装置、65 パーキングブレーキ、70 ブレーキペダル、80 制動用マスタシリンダ、80♯ 油圧制御部、85 油圧経路、112 エンジン、116 第1モータジェネレータ(MG1)、118 出力部材、120 動力分割機構、120c キャリア、120s サンギヤ、120r リングギヤ、122 第2モータジェネレータ(MG2)、126 出力歯車、140 蓄電装置(バッテリ)、150♯ ブレーキペダル踏込みセンサ、162 補助ブレーキ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、該エンジンの出力を第1モータジェネレータおよび出力部材に機械的に分配する動力分割機構と、前記出力部材から駆動輪までの間で回転力を加える第2モータジェネレータとを備えるハイブリッド駆動装置の制御装置であって、
エンジンの始動要求時に、前記第1のモータジェネレータにより前記動力分割機構を介して前記エンジンを回転駆動することにより該エンジンを駆動するための始動手段と、
前記エンジンの始動要求時に、前記始動手段による前記エンジンの始動に起因する駆動力変動を相殺するような反力相殺トルクを前記第2モータジェネレータに発生させるための始動時モータ制御手段と、
前記エンジンの始動要求時に、その時点における車両の制動力が、前記第2モータジェネレータから前記反力相殺トルクが発生されても車両状態を維持可能なレベルに確保されているかどうかを判定する制動力判定手段と、
前記制動力判定手段によって、前記車両の制動力が前記車両状態を維持可能なレベルよりも小さいと判定された場合に、前記駆動輪への伝達トルクを制限するトルク制限手段とを備える、ハイブリッド駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記車両の制動力は、パーキングポジション選択時のパーキングロックブレーキにより発生される、請求項1記載のハイブリッド駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記車両の制動力は、車輪ブレーキの制動力により発生される、請求項1記載のハイブリッド駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記トルク制限手段は、前記エンジンの始動要求が発せられても、前記始動手段による前記エンジンの始動および、前記始動時モータ制御手段による前記反力相殺トルクの発生を禁止することにより、前記伝達トルクを制限する、請求項1から3のいずれか1項に記載のハイブリッド駆動装置の制御装置。
【請求項5】
前記トルク制限手段は、前記エンジンの始動要求時に車輪ブレーキの制動力を増加させることにより前記伝達トルクを制限する、請求項1から3のいずれか1項に記載のハイブリッド駆動装置の制御装置。
【請求項6】
前記トルク制限手段は、前記伝達トルクの制限のために、前記エンジンの始動要求時に前記始動時モータ制御手段による前記反力相殺トルクの指令値を減少させることにより、前記伝達トルクを制限する、請求項1から3のいずれか1項に記載のハイブリッド駆動装置の制御装置。
【請求項7】
前記車両の走行中には、前記車両の制動力にかかわらず、前記トルク制限手段による前記伝達トルクの制限は非実行とされる、請求項1から6のいずれか1項に記載のハイブリッド駆動装置の制御装置。
【請求項8】
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、該エンジンの出力を第1モータジェネレータおよび出力部材に機械的に分配する動力分割機構と、前記出力部材から駆動輪までの間で回転力を加える第2モータジェネレータとを含んで構成されたハイブリッド駆動装置と、
エンジンの始動要求時に、前記第1のモータジェネレータにより前記動力分割機構を介して前記エンジンを回転駆動することにより該エンジンを駆動するための始動手段と、
前記エンジンの始動要求時に、前記始動手段による前記エンジンの始動に起因する駆動力変動を相殺するような反力相殺トルクを前記第2モータジェネレータに発生させるための始動時モータ制御手段と、
前記エンジンの始動要求時に、その時点における車両の制動力が、前記第2モータジェ
ネレータから前記反力相殺トルクが発生されても車両状態を維持可能なレベルに確保されているかどうかを判定する制動力判定手段と、
前記制動力判定手段によって、前記車両の制動力が前記車両状態を維持可能なレベルよりも小さいと判定された場合に、前記駆動輪への伝達トルクを制限するトルク制限手段とを備える、自動車。
【請求項9】
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、該エンジンの出力を第1モータジェネレータおよび出力部材に機械的に分配する動力分割機構と、前記出力部材から駆動輪までの間で回転力を加える第2モータジェネレータとを備えるハイブリッド駆動装置の制御方法であって、
エンジンの始動要求時に、前記第1のモータジェネレータにより前記動力分割機構を介して前記エンジンを回転駆動することにより該エンジンを駆動するステップと、
前記エンジンの始動要求時に、前記第1のモータジェネレータによる前記エンジンの始動に起因する駆動力変動を相殺するような反力相殺トルクを前記第2モータジェネレータに発生させるステップと、
前記エンジンの始動要求時に、その時点における車両の制動力が、前記第2モータジェネレータから前記反力相殺トルクが発生されても車両状態を維持可能なレベルに確保されているかどうかを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおいて前記車両の制動力が前記車両状態を維持可能なレベルよりも小さいと判定された場合に、前記駆動輪への伝達トルクを制限するステップとを備える、ハイブリッド駆動装置の制御方法。
【請求項10】
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、該エンジンの出力が伝達される出力部材から駆動輪までの間で回転力を加えるモータジェネレータとを備えるハイブリッド駆動装置の制御装置であって、
前記エンジンの始動指示時または停止指示時に、前記モータジェネレータによる出力トルクが所定以下であるかどうかを判定するトルク判定手段と、
前記トルク判定手段によって前記モータジェネレータによる出力トルクが所定以下であると判定されたときに、前記モータジェネレータに所定トルクの出力を指示するトルク発生手段と、
前記トルク発生手段によって出力が指示された前記所定トルクによる駆動力増加分の前記駆動輪への伝達を制限する出力制限手段とを備える、ハイブリッド駆動装置の制御装置。
【請求項11】
前記出力制限手段は、前記所定トルクによる駆動力増加分に対応させて前記駆動輪の制動力を増加させる手段を含む、請求項10記載のハイブリッド駆動装置の制御装置。
【請求項12】
前記ハイブリッド駆動装置は、前記モータジェネレータの出力が該ハイブリッド駆動装置の出力軸へ伝達される経路上に設けられた補助制動装置をさらに備え、
前記出力制限手段は、前記第1のモータ制御手段によって前記所定トルク出力が指示された場合に、前記補助制動装置に制動力を出力させる手段を含む、請求項10記載のハイブリッド駆動装置の制御装置。
【請求項13】
前記所定トルクは、前記ハイブリッド駆動装置内のガタを解消可能なトルク量に対応して設定される、請求項10記載のハイブリッド駆動装置の制御装置。
【請求項14】
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、該エンジンの出力が伝達される出力部材から駆動輪までの間で回転力を加えるモータジェネレータとを含むハイブリッド駆動装置と、
前記エンジンの始動指示時または停止指示時に、前記モータジェネレータによる出力トルクが所定以下であるかどうかを判定するトルク判定手段と、
前記トルク判定手段によって前記モータジェネレータによる出力トルクが所定以下であると判定されたときに、前記モータジェネレータに所定トルクの出力を指示するトルク発生手段と、
前記トルク発生手段によって出力が指示された前記所定トルクによる駆動力増加分の前記駆動輪への伝達を制限する出力制限手段とを備える、自動車。
【請求項15】
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、該エンジンの出力が伝達される出力部材から駆動輪までの間で回転力を加えるモータジェネレータとを備えるハイブリッド駆動装置の制御方法であって、
前記エンジンの始動指示時または停止指示時に、前記モータジェネレータによる出力トルクが所定以下であるかどうかを判定する第1のステップと、
前記第1のステップによって前記モータジェネレータによる出力トルクが所定以下であると判定されたときに、前記モータジェネレータに所定トルクの出力を指示する第2のステップと、
前記第2のステップによって出力が指示された前記所定トルクによる駆動力増加分の前記駆動輪への伝達を制限する第3のステップとを備える、ハイブリッド駆動装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−44638(P2006−44638A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146716(P2005−146716)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】