説明

ハイブリッド駆動装置

【課題】装置の大型化や重量増を抑えつつ、広い車速域で十分な駆動力を出力可能であり、更にエネルギ効率を高めることが可能なハイブリッド駆動装置を提供する。
【解決手段】エンジンEに接続された入力部材Iと、車輪Wに接続された出力部材Oと、第一回転電機MG1と、第二回転電機MG2と、入力部材I、出力部材O及び第二回転電機MG2、並びに第一回転電機MG1にそれぞれ接続された3つの回転要素を有する差動歯車装置P1と、を備えたハイブリッド駆動装置であって、入力部材Iの回転を無段階に変速して出力部材O側に伝達する無段変速モードと、第一回転電機MG1の回転駆動力を出力部材Oに伝達するモードであって2つの変速段を切り替え可能に備える第一回転電機駆動モードと、を切り替え可能に備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに接続された入力部材と、車輪に接続された出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、前記入力部材に接続された回転要素、前記出力部材及び前記第二回転電機に接続された回転要素、並びに前記第一回転電機に接続された回転要素の3つの回転要素を有する差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、駆動力源としてエンジンと回転電機とを併用することにより、エンジンの燃費向上及び排出ガスの低減を図ることのできるハイブリッド車両が実用化されている。このようなハイブリッド車両に用いるハイブリッド駆動装置の一例として、例えば、下記の特許文献1には、エンジンと、車輪に接続された出力用差動歯車装置と、発電機と、電動機と、遊星歯車装置とを備えた構成が開示されている。このハイブリッド駆動装置では、遊星歯車装置には、サンギヤに発電機が接続され、キャリアにエンジンが接続され、リングギヤにカウンタギヤ機構を介して電動機及び出力用差動歯車装置が接続されている。また、前記カウンタギヤ機構を介して接続される電動機と出力用差動歯車装置とは、一定の回転速度比を保って回転する構成とされている。
【0003】
【特許文献1】特開平08−183347号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、エンジンを停止させ、電動機及び発電機の一方又は双方の駆動力により車両を走行させるEV(Electric Vehicle:電動車両)走行を行う場合、上記特許文献1に記載されたハイブリッド駆動装置では、通常、発電機は駆動せず、電動機のみを駆動して車両を走行させることになる。この場合、発電機は、電動機の駆動力により回転させられる状態となるため、当該発電機のロータの慣性による影響を受けて車両の加速及び減速の際に余分に駆動力を消費することになり、エネルギ効率が悪化するという問題がある。また、電動機の回転駆動力のみにより高速走行や大きい加速を可能とするためには、体格の大きい電動機を備えることが必要となり、ハイブリッド駆動装置が大型化や重量増を招くという問題がある。
【0005】
また、エンジンの駆動力を発電機と出力用差動歯車装置側とに分配し、発電機によって発電するとともに出力用差動歯車装置側の電動機により車両の駆動力を補助する走行モードにおいて、特に高車速域において、電動機が発電した電力を用いて発電機を力行させる状態となることがある。この状態では、発電機が発生した回転駆動力の一部が、動力伝達系の下流側(車輪側)にある電動機により発電のために消費されることによる動力循環が発生し、エネルギ効率が悪化するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、装置の大型化や重量増を抑えつつ、広い車速域で十分な駆動力を出力可能であり、更にエネルギ効率を高めることが可能なハイブリッド駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る、エンジンに接続された入力部材と、車輪に接続された出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、前記入力部材に接続された回転要素、前記出力部材及び前記第二回転電機に接続された回転要素、並びに前記第一回転電機に接続された回転要素の3つの回転要素を有する差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置の特徴構成は、前記差動歯車装置の3つの回転要素を自由に回転可能な状態とするとともに前記第一回転電機の回転を制御することにより、前記入力部材の回転を無段階に変速して前記出力部材側に伝達する無段変速モードと、前記第一回転電機の回転駆動力を前記出力部材に伝達するモードであって、前記差動歯車装置の3つの回転要素の回転状態を切り替えることによって、前記第一回転電機の回転を前記出力部材側に伝達する際の変速比が異なる2つの変速段を切り替え可能に備える第一回転電機駆動モードと、を切り替え可能に備えた点にある。
【0008】
なお、本願では、「接続」とは、回転の伝達を直接的に行う構造を含むほか、1又は2以上の部材を介して回転の伝達を間接的に行う構造も含む。また、本願では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。また、本願では、「回転駆動力」はトルクを含む概念として用いている。
【0009】
この特徴構成によれば、無段変速モード及び第一回転電機駆動モードの各モード、並びに第一回転電機駆動モードが2つ備える変速段を、車両の走行状態や車速域に応じて切り替えることにより、様々な車両の走行状態や車速域において、十分な駆動力を出力しつつ高いエネルギ効率で車両を走行させることが可能となる。また、このような各モード及び変速段を、単一の差動歯車装置の各回転要素の回転状態を切り替えることで実現しているため、ハイブリッド駆動装置の駆動伝達系を簡略な構成にすることができ、装置の大型化や重量増を抑えることが可能となっている。
【0010】
ここで、前記第一回転電機駆動モードは、前記入力部材に接続された回転要素の回転を停止させ、前記第一回転電機の回転を変速して前記出力部材側に伝達する第一変速段と、前記差動歯車装置が一体回転する状態として前記第一回転電機の回転を同速で前記出力部材側に伝達する第二変速段とを切り替え可能に備える構成とすると好適である。
【0011】
この構成によれば、第一回転電機の回転駆動力を主に用いて車両を走行させる第一回転電機駆動モードにおいて、差動歯車装置により第一回転電機の回転を変速して出力部材側に伝達する変速段と、差動歯車装置による変速を行わずに第一回転電機の回転を同速で出力部材側に伝達する変速段とを、車両の要求駆動力に応じて選択して切り替えることができる。したがって、第一回転電機駆動モードを広い車速域に適用することが可能となる。
【0012】
また、前記入力部材の回転駆動力を前記出力部材に伝達するモードであって、前記差動歯車装置の3つの回転要素の回転状態を切り替えることによって、前記入力部材の回転を前記出力部材側に伝達する際の変速比が異なる2つの変速段を切り替え可能に備えるエンジン駆動モードを、切り替え可能に更に備えた構成とすると好適である。
【0013】
この構成によれば、上記の無段変速モード及び第一回転電機駆動モードの各モードに加えて、エンジン駆動モードを、車両の走行状態や車速域に応じて切り替えることができる。更に、エンジン駆動モード及び第一回転電機駆動モードがそれぞれ2つずつ備える変速段を、車両の走行状態や車速域に応じて適切に切り替えることにより、様々な車両の走行状態や車速域において、十分な駆動力を出力しつつ高いエネルギ効率で車両を走行させることが可能となる。また、このような各モード及び変速段を、単一の差動歯車装置の各回転要素の回転状態を切り替えることで実現しているため、ハイブリッド駆動装置の駆動伝達系を簡略な構成にすることができ、装置の大型化や重量増を抑えることが可能となっている。
【0014】
また、前記エンジン駆動モードは、前記第一回転電機に接続された回転要素の回転を停止させ、前記入力部材の回転を変速して前記出力部材側に伝達する第一変速段と、前記差動歯車装置が一体回転する状態として前記入力部材の回転を同速で前記出力部材側に伝達する第二変速段とを切り替え可能に備える構成とすると好適である。
【0015】
この構成によれば、エンジンの回転駆動力を主に用いて車両を走行させるエンジン駆動モードにおいて、差動歯車装置によりエンジンの回転を変速して出力部材側に伝達する変速段と、差動歯車装置による変速を行わずにエンジンの回転を同速で出力部材側に伝達する変速段とを、車両の要求駆動力に応じて選択して切り替えることができる。したがって、エンジン駆動モードを広い車速域に適用することが可能となる。
【0016】
また、前記第二回転電機は、前記無段変速モード及び前記第一回転電機駆動モードの一方又は双方で、回転駆動力を前記出力部材に伝達する構成とすると好適である。
【0017】
この構成によれば、無段変速モード及び第一回転電機駆動モードの一方又は双方において、差動歯車装置により出力部材側に分配されるエンジンの回転駆動力、又は第一回転電機の回転駆動力に、第二回転電機の駆動力を補助的に加えることにより、車両の要求駆動力に応じて適切な駆動力を出力部材に出力することが可能となる。
【0018】
また、前記第二回転電機は、前記エンジン駆動モードで、回転駆動力を前記出力部材に伝達する構成とすると好適である。
【0019】
この構成によれば、エンジン駆動モードにおいて、エンジンの駆動力に第二回転電機の駆動力を補助的に加えることにより、車両の要求駆動力に応じて適切な駆動力を出力部材に出力することが可能となる。
【0020】
また、前記第一回転電機を非駆動状態にするとともに、前記第二回転電機の回転駆動力を前記出力部材に伝達する第二回転電機駆動モードを、切り替え可能に更に備えた構成とすると好適である。
【0021】
この構成によれば、無段変速モード及び第一回転電機駆動モードの各モードに加えて、更に二回転電機の回転駆動力で車両を走行させる第二回転電機駆動モードに切り替えることが可能である。また、ハイブリッド駆動装置がエンジン駆動モードを備える場合には、無段変速モード、エンジン駆動モード、及び第一回転電機駆動モードの各モードに加えて、更に二回転電機の回転駆動力で車両を走行させる第二回転電機駆動モードに切り替えることが可能である。したがって、車両の走行状態や車速域に応じて上記の各モードを切り替えることにより、十分な駆動力を出力しつつ、更に高いエネルギ効率で車両を走行させることが可能となる。
【0022】
また、上記の各モードを実現するためのハイブリッド駆動装置の具体的構成として、前記差動歯車装置は、第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素の3つの回転要素を有し、前記第一回転要素が前記第一回転電機に接続され、前記第二回転要素が前記入力部材に接続され、前記第三回転要素が前記出力部材及び前記第二回転電機に接続され、前記第二回転要素を非回転部材に選択的に固定する第一固定装置と、前記差動歯車装置の任意の2つの回転要素を選択的に接続して一体回転させる差動規制装置と、を備えた構成とすると好適である。
【0023】
この構成によれば、第一固定装置及び差動規制装置を制御することにより、差動歯車装置の3つの回転要素の回転状態を切り替えて、無段変速モード及び第一回転電機駆動モードの各モード、並びに第一回転電機駆動モードの各変速段を実現することができる。したがって、この構成によれば、車両の走行状態や車速域に応じて各モード及び各変速段を切り替え、様々な車両の走行状態や車速域において十分な駆動力を出力しつつ高いエネルギ効率で車両を走行させることが可能なハイブリッド駆動装置を、簡略な構成で実現することができる。
【0024】
また、前記差動歯車装置の3つの回転要素は、回転速度の順に前記第一回転要素、前記第二回転要素、前記第三回転要素となっていると好適である。
【0025】
なお本願では、「回転速度の順」は、高速側から低速側に向かう順、又は低速側から高速側に向かう順のいずれかであり、差動歯車装置の回転状態によりいずれともなり得るが、いずれの場合にも回転要素の順は変わらない。
【0026】
この構成によれば、無段変速モードにおいては、エンジンに接続された入力部材の回転駆動力を第一回転電機に伝達して発電を行わせつつ、入力部材の回転を無段階に変速し、その回転駆動力を出力部材側に伝達して車両を走行させることができる。またこの際、第一回転電機で発電した電力により第二回転電機を力行させ、その回転駆動力で入力部材からの回転駆動力を補助することができる。また、この構成によれば、第一回転電機駆動モードにおいて、差動規制装置を接続状態とすることにより差動歯車装置が第一回転電機の回転を同速で出力部材側に伝達する直結段を実現でき、第一固定装置を固定状態とすることにより差動歯車装置が第一回転電機の回転を変速して出力部材側に伝達するもう一つの変速段を実現できる。
【0027】
また、前記入力部材と前記第二回転要素とを選択的に分離する分離装置を更に備える構成とすると好適である。
【0028】
この構成によれば、エンジンの回転駆動力を用いずに第一回転電機及び第二回転電機の一方又は双方の回転駆動力のみにより車両を走行させるモードにおいて、入力部材と差動歯車装置の第二回転要素とを分離することができる。よって、第一回転電機及び第二回転電機の一方又は双方の回転駆動力がエンジンを空転させるために消費されることを防止できる。したがって、このようなエンジンの回転駆動力を用いないモードにおいて、エネルギ効率を高めることが可能となる。
【0029】
また、前記第一回転要素を非回転部材に選択的に固定する第二固定装置を更に備える構成とすると好適である。
【0030】
この構成によれば、第一固定装置及び差動規制装置に加えて、更に第二固定装置を制御することにより、差動歯車装置の3つの回転要素の回転状態を切り替えて、無段変速モード及び第一回転電機駆動モードの各モード、並びに第一回転電機駆動モードの各変速段に加えて、エンジン駆動モード及び当該エンジン駆動モードの各変速段を更に実現することができる。なお、前記差動歯車装置の3つの回転要素が、回転速度の順に前記第一回転要素、前記第二回転要素、前記第三回転要素となっている場合には、エンジン駆動モードにおいて、差動規制装置を接続状態とすることにより差動歯車装置が入力部材の回転を同速で出力部材側に伝達する直結段を実現でき、第二固定装置を固定状態とすることにより差動歯車装置が入力部材の回転を増速して出力部材側に伝達する増速段を実現できる。よって、エンジン駆動モードを中〜高車速域に適用することができ、特に高車速域ではエンジン駆動モードの増速段を用いることにより、エンジンの回転速度を低く抑えて走行することができる。従って、エンジンの回転駆動力を用いて高いエネルギ効率で車両を走行させることが可能となる。
【0031】
上述したハイブリッド駆動装置の具体的構成においては、前記第一回転電機駆動モードは、前記第一固定装置が固定状態、及び前記差動規制装置が非接続状態で第一変速段が実現され、前記第一固定装置が非固定状態、及び前記差動規制装置が接続状態で第二変速段が実現される。
【0032】
また、前記無段変速モードは、前記第一固定装置が非固定状態、及び前記差動規制装置が非接続状態で実現される。
【0033】
また、前記第一回転要素を非回転部材に選択的に固定する第二固定装置を更に備えるとともに、前記入力部材の回転駆動力を前記出力部材に伝達するモードであって、前記差動歯車装置の3つの回転要素の回転状態を切り替えることによって、前記入力部材の回転を前記出力部材側に伝達する際の変速比が異なる2つの変速段を切り替え可能に備えるエンジン駆動モードを、切り替え可能に更に備えた場合においては、前記エンジン駆動モードは、前記第一固定装置が非固定状態、前記第二固定装置が固定状態、及び前記差動規制装置が非接続状態で第一変速段が実現され、前記第一固定装置が非固定状態、前記第二固定装置が非固定状態、及び前記差動規制装置が接続状態で第二変速段が実現される。
【0034】
ところで、前記第一固定装置は、例えば、前記第二回転要素又はこれと一体回転する回転要素と非回転部材とを摩擦係合させる摩擦係合要素、前記第二回転要素又はこれと一体回転する回転要素と非回転部材とを噛み合い係合させる噛み合い式係合要素、及び前記第二回転要素の負方向回転を阻止するワンウェイクラッチ、のいずれかを有して構成されていると好適である。
【0035】
また、前記差動規制装置は、前記第一回転要素又はこれと一体回転する回転要素と前記第二回転要素又はこれと一体回転する回転要素とを摩擦係合させる摩擦係合要素、前記第一回転要素又はこれと一体回転する回転要素と前記第二回転要素又はこれと一体回転する回転要素とを噛み合い係合させる噛み合い式係合要素、及び前記噛み合い式係合要素と前記第一回転要素の回転速度が前記第二回転要素の回転速度より速くなることを阻止するワンウェイクラッチとの組み合わせ、のいずれかを有して構成されていると好適である。
【0036】
また、前記第二固定装置は、前記第一回転要素又はこれと一体回転する回転要素と非回転部材とを摩擦係合させる摩擦係合要素、前記第一回転要素又はこれと一体回転する回転要素と非回転部材とを噛み合い係合させる噛み合い式係合要素、及び前記噛み合い式係合要素と前記第一回転要素の正方向回転を阻止するワンウェイクラッチとの組み合わせ、のいずれかを有して構成されていると好適である。
【0037】
本発明に係るハイブリッド駆動装置は、2つの変速段を切り替え可能に備える第一回転電機駆動モードを有することにより、エンジンの回転駆動力を用いずに回転電機の回転駆動力のみにより車両を走行させるモードを、比較的広い車速域において実行することが可能となっている。したがって、このハイブリッド駆動装置は、前記第一回転電機及び前記第二回転電機に電力を供給するための蓄電手段が、外部電源により充電可能に構成された、いわゆるプラグインハイブリッド車両の駆動装置として特に適している。
【0038】
本発明に係る、エンジンに接続された入力部材と、車輪に接続された出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置のもう一つの特徴構成は、前記差動歯車装置は、第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素の3つの回転要素を有し、前記第一回転要素が前記第一回転電機に接続され、前記第二回転要素が前記入力部材に接続され、前記第三回転要素が前記出力部材及び前記第二回転電機に接続され、前記第二回転要素を非回転部材に選択的に固定する第一固定装置と、前記差動歯車装置の任意の2つの回転要素を選択的に接続して一体回転させる差動規制装置と、を備えた点にある。
【0039】
この特徴構成によれば、第一固定装置及び差動規制装置を制御することにより、入力部材の回転を無段階に変速して出力部材側に伝達する無段変速モードと、第一回転電機の回転駆動力を出力部材に伝達する第一回転電機駆動モードの変速比が異なる2つの変速段と、を実現することができる。したがって、この構成によれば、車両の走行状態や車速域に応じて各モード及び各変速段を切り替え、様々な車両の走行状態や車速域において十分な駆動力を出力しつつ高いエネルギ効率で車両を走行させることが可能なハイブリッド駆動装置を実現することができる。また、このような各モード及び変速段を、単一の差動歯車装置の各回転要素の回転状態を切り替えることで実現しているため、ハイブリッド駆動装置の駆動伝達系を簡略な構成にすることができ、装置の大型化や重量増を抑えることが可能となっている。
【0040】
ここで、前記入力部材と前記第二回転要素とを選択的に分離する分離装置を更に備える構成とすると好適である。
【0041】
この構成によれば、第一回転電機の回転駆動力のみにより車両を走行させる第一回転電機駆動モードにおいて、入力部材と差動歯車装置の第二回転要素とを分離することができる。よって、第一回転電機の回転駆動力がエンジンを空転させるために消費されることを防止できる。したがって、このようなエンジンの回転駆動力を用いない第一回転電機駆動モードにおいて、エネルギ効率を高めることが可能となる。
【0042】
また、前記第一回転要素を非回転部材に選択的に固定する第二固定装置を更に備える構成とすると好適である。
【0043】
この構成によれば、上記の無段変速モードと、第一回転電機駆動モードの2つの変速段に加えて、入力部材の回転駆動力を出力部材に伝達するエンジン駆動モードの変速比が異なる2つの変速段を更に実現することができる。したがって、車両の走行状態や車速域に応じて各モード及び各変速段を切り替え、様々な車両の走行状態や車速域において十分な駆動力を出力しつつ高いエネルギ効率で車両を走行させることが可能なハイブリッド駆動装置を実現することができる。
【0044】
また、前記差動歯車装置の3つの回転要素は、回転速度の順に前記第一回転要素、前記第二回転要素、前記第三回転要素となっている構成とすると好適である。
【0045】
この構成によれば、無段変速モードにおいては、エンジンに接続された入力部材の回転駆動力を第一回転電機に伝達して発電を行わせつつ、入力部材の回転を無段階に変速し、その回転駆動力を出力部材側に伝達して車両を走行させることができる。またこの際、第一回転電機で発電した電力により第二回転電機を力行させ、その回転駆動力で入力部材からの回転駆動力を補助することができる。また、この構成によれば、第一回転電機駆動モードにおいて、差動規制装置を接続状態とすることにより差動歯車装置が第一回転電機の回転を同速で出力部材側に伝達する直結段を実現でき、第一固定装置を固定状態とすることにより差動歯車装置が第一回転電機の回転を変速して出力部材側に伝達するもう一つの変速段を実現できる。また、この構成によれば、第二固定装置を更に備え、エンジン駆動モードを更に切り替え可能に備える場合において、差動規制装置を接続状態とすることにより差動歯車装置が入力部材の回転を同速で出力部材側に伝達する直結段を実現でき、第二固定装置を固定状態とすることにより差動歯車装置が入力部材の回転を増速して出力部材側に伝達する増速段を実現できる。したがって、エンジン駆動モードを中〜高車速域に適用することができ、特に高車速域ではエンジン駆動モードの増速段を用いることにより、エンジンの回転速度を低く抑えて走行することができるので、エンジンの回転駆動力を用いて高いエネルギ効率で車両を走行させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
1.第一の実施形態
まず、本発明の第一の実施形態について図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図1は、軸対称の構成を一部省略して示している。図2は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hのシステム構成を示す模式図である。なお、図2において、実線の矢印は各種情報の伝達経路を示し、破線は電力の伝達経路を示し、白抜きの矢印は油圧の伝達経路を示している。
【0047】
図1に示すように、このハイブリッド駆動装置Hは、エンジンEに接続された入力軸Iと、出力用差動歯車装置DFを介して車輪W(図2参照)に接続された出力部材Oと、第一モータ・ジェネレータMG1と、第二モータ・ジェネレータMG2と、第一遊星歯車装置P1とを備えている。ここで、第一遊星歯車装置P1は、入力軸Iに接続された回転要素、出力部材O及び第二モータ・ジェネレータMG2に接続された回転要素、並びに第一モータ・ジェネレータMG1に接続された回転要素の3つの回転要素を有している。そして、このハイブリッド駆動装置Hは、第一遊星歯車装置P1の3つの回転要素の回転状態を切り替えることによって、複数のモード及び各モードが備える変速段を切り替え可能に備えている。なお、本実施形態においては、第二モータ・ジェネレータMG2は、伝動チェーン16を介して第一遊星歯車装置P1の一つの回転要素と接続され、減速装置として機能する第二遊星歯車装置P2を介して出力部材Oと接続されている。また、ハイブリッド駆動装置Hの各構成は、車体に固定される非回転部材としての駆動装置ケースC(以下、単に「ケースC」という。)内に収納されている。本実施形態においては、第一モータ・ジェネレータMG1が本発明における「第一回転電機」に相当し、第二モータ・ジェネレータMG2が本発明における「第二回転電機」に相当する。また、入力軸Iが本発明における「入力部材」に相当し、第一遊星歯車装置P1が本発明における「差動歯車装置」に相当する。
【0048】
1−1.ハイブリッド駆動装置の機械的構成
まず、ハイブリッド駆動装置Hの各部の機械的構成について説明する。図1に示すように、入力軸Iは、エンジンEに接続されている。ここで、エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、入力軸Iは、ダンパ11を介してエンジンEのクランクシャフト等の出力回転軸に接続されている。なお、入力軸Iが、エンジンEの出力回転軸と一体的に接続され、或いはクラッチ等の他の部材を介して接続された構成としても好適である。なお、本実施形態においては、入力軸IはエンジンEの出力回転軸と一体的に回転するため、入力軸Iの回転はエンジンEの回転と同じであり、入力軸Iの回転駆動力(トルク)はエンジンEの回転駆動力(トルク)と同じである。したがって、以下では、特に区別する必要が有る場合を除き、適宜、入力軸I及びエンジンEの回転を単にエンジンEの回転と呼び、入力軸I及びエンジンEの回転駆動力(トルク)を単にエンジンEの回転駆動力(トルク)と呼ぶ。
【0049】
出力部材Oは、出力用差動歯車装置DFを介して車輪W(図2参照)に回転駆動力を伝達可能に接続されている。本例では、出力部材Oは、出力用差動歯車装置DFのデフケースと第二遊星歯車装置P2のキャリアca2とを連結し、これらと一体回転する部材により構成されている。なお、出力部材Oは、出力用差動歯車装置DFのデフケース及び第二遊星歯車装置P2のキャリアca2の一方又は双方と一体的に形成された部材としても良いし、或いはこれらと別部材として構成されていても良い。本実施形態においては、入力軸Iと出力部材Oとは異なる軸上に配置されている。すなわち、このハイブリッド駆動装置Hは、エンジンE、第一遊星歯車装置P1、及び第一モータ・ジェネレータMG1が、入力軸Iと同軸の第一軸上に配置され、第二モータ・ジェネレータMG2、第二遊星歯車装置P2、及び出力用差動歯車装置DFが、出力部材Oと同軸の第二軸上に配置された2軸構成となっている。
【0050】
図1に示すように、第一モータ・ジェネレータMG1は、ケースCに固定されたステータSt1と、このステータSt1の径方向内側に回転自在に支持されたロータRo1と、を有している。この第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1は、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1と一体回転するように接続されている。また、第二モータ・ジェネレータMG2は、ケースCに固定されたステータSt2と、このステータSt2の径方向内側に回転自在に支持されたロータRo2と、を有している。この第二モータ・ジェネレータMG2のロータRo2は、第二遊星歯車装置P2のサンギヤs2と一体回転するように接続されている。第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、図2に示すように、それぞれインバータ22a、22bを介してバッテリ21に電気的に接続されている。そして、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、それぞれ電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能を果すことが可能とされている。
【0051】
ここで、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2に電力を供給するバッテリ21は、家庭用電源等の外部電源により充電可能に構成されている。すなわち、図示は省略するが、バッテリ21は、外部電源に接続されるコネクタや、外部電源が交流電源である場合には直流に変換するインバータ等の構成に電気的に接続され、外部電源によって充電される構成となっている。これにより、ハイブリッド駆動装置Hは、プラグインハイブリッド車両の駆動装置として構成されている。なお、バッテリ21は、蓄電手段の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電手段を用い、或いは複数種類の蓄電手段を併用することも可能である。
【0052】
後述するように、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、それぞれ回転方向と回転駆動力の向きとの関係に応じてジェネレータ及びモータのいずれか一方として機能する。そして、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、ジェネレータとして機能する場合には、発電した電力をバッテリ21に供給して充電し、或いは当該電力をモータとして機能する他方のモータ・ジェネレータMG1、MG2に供給して力行させる。また、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、モータとして機能する場合には、バッテリ21に充電され、或いはジェネレータとして機能する他方のモータ・ジェネレータMG1、MG2により発電された電力の供給を受けて力行する。そして、第一モータ・ジェネレータMG1の動作制御は、主制御ユニット31からの制御指令に従ってMG1制御ユニット33及びインバータ22aを介して行われ、第二モータ・ジェネレータMG2の動作制御は、主制御ユニット31からの制御指令に従ってMG2制御ユニット34及びインバータ22bを介して行われる。
【0053】
本実施形態においては、図1に示すように、第一遊星歯車装置P1は、入力軸Iと同軸状に配置されたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第一遊星歯車装置P1は、複数のピニオンギヤを支持するキャリアca1と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合うサンギヤs1及びリングギヤr1とを回転要素として有している。サンギヤs1は、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1の回転軸である第一ロータ軸13と一体回転するように接続されている。キャリアca1は、中間軸12と一体回転するように接続されている。リングギヤr1は、駆動歯車14と一体回転するように接続されている。このように、差動歯車装置としての第一遊星歯車装置P1は3つの回転要素を有しており、本実施形態においては、サンギヤs1、キャリアca1、及びリングギヤr1が、それぞれ本発明における「第一回転要素」、「第二回転要素」、及び「第三回転要素」に相当する。なお、この第一遊星歯車装置P1では、3つの回転要素は、回転速度の順にサンギヤs1(第一回転要素)、キャリアca1(第二回転要素)、及びリングギヤr1(第三回転要素)となっている。
【0054】
第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1、及び第一ロータ軸13は、第二ブレーキB2によりケースCに選択的に固定される。第一遊星歯車装置P1のキャリアca1及び中間軸12は、第一ブレーキB1によりケースCに選択的に固定されるとともに、第一クラッチC1を介して入力軸Iに選択的に接続される。言い換えれば、第一クラッチC1は、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1及び中間軸12と入力軸Iとを選択的に分離するように機能する。すなわち、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1及び中間軸12は、第一クラッチC1の係合状態では入力軸Iと一体回転するように接続され、第一クラッチC1の解放状態では入力軸Iから分離される。また、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1、及び第一ロータ軸13と、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1及び中間軸12とは、第二クラッチC2を介して選択的に接続される。言い換えれば、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1とキャリアca1とは、第二クラッチC2の係合状態では、互いに一体回転するように接続される。本実施形態においては、第一ブレーキB1が本発明における「第一固定装置」に相当し、第二ブレーキB2が本発明における「第二固定装置」に相当する。また、第一クラッチC1が本発明における「分離装置」に相当し、第二クラッチC2が本発明における「差動規制装置」に相当する。
【0055】
本実施形態においては、第一固定装置、第二固定装置、分離装置、及び差動規制装置は、いずれも摩擦係合要素としてのブレーキ又はクラッチにより構成されている。すなわち、第二固定装置としての第二ブレーキB2は、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1と一体回転する第一ロータ軸13とケースCとを摩擦係合させる。第一固定装置としての第一ブレーキB1は、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1と一体回転する中間軸12とケースCとを摩擦係合させる。分離装置としての第一クラッチC1は、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1と一体回転する中間軸12と入力軸Iとを摩擦係合させる。差動規制装置としての第二クラッチC2は、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1と一体回転する第一ロータ軸13とキャリアca1とを摩擦係合させる。これらの摩擦係合要素としては、いずれも油圧により動作する多板式クラッチや多板式ブレーキを用いることができる。図2に示すように、これらの摩擦係合要素B1、B2、C1、C2へは、主制御ユニット31からの制御指令により動作する油圧制御装置35から油圧が供給され、この油圧により、各摩擦係合要素B1、B2、C1、C2の係合又は解放が制御される。本実施形態においては、第一ブレーキB1及び第二ブレーキB2については、係合状態が第一固定装置及び第二固定装置の固定状態に相当し、解放(係合解除)状態が第一固定装置及び第二固定装置の非固定状態に相当する。また、第一クラッチC1及び第二クラッチC2については、係合状態が分離装置及び差動規制装置の接続状態に相当し、解放(係合解除)状態が分離装置及び差動規制装置の非接続状態に相当する。
【0056】
また、第二遊星歯車装置P2は、出力部材Oと同軸状に配置されたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第二遊星歯車装置P2は、複数のピニオンギヤを支持するキャリアca2と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合うサンギヤs2及びリングギヤr2とを回転要素として有している。サンギヤs2は、第二モータ・ジェネレータMG2のロータRo2の回転軸である第二ロータ軸17と一体回転するように接続されている。キャリアca2は、出力部材O及び出力用差動歯車装置DFのデフケースと一体回転するように接続されている。リングギヤr2は、ケースCに固定されている。これにより、第二遊星歯車装置P2は、第二ロータ軸17の回転速度を一定の減速比で減速してキャリアca2から出力し、出力部材O及び出力用差動歯車装置DFのデフケースに伝達する減速装置として機能する。
【0057】
ところで、第二ロータ軸17には、従動歯車15が一体回転するように固定されている。そして、第一遊星歯車装置P1のリングギヤr1と一体回転する駆動歯車14と、この従動歯車15とをつなぐように、伝動チェーン16が巻回されている。これにより、駆動歯車14と従動歯車15とは、伝動チェーン16を介して駆動力を伝達可能に接続されている。ここで、従動歯車15は駆動歯車14よりも大径とされている。したがって、第一遊星歯車装置P1のリングギヤr1及び駆動歯車14の回転は、駆動歯車14、伝動チェーン16、及び従動歯車15を介して減速されて第二ロータ軸17に伝達される。言い換えれば、第二遊星歯車装置P2のサンギヤs2、第二モータ・ジェネレータMG2のロータRo2、及び第二ロータ軸17の回転は、従動歯車15、伝動チェーン16、及び駆動歯車14を介して増速されて第一遊星歯車装置P1のリングギヤr1に伝達される。
【0058】
1−2.ハイブリッド駆動装置の制御システムの構成
図2に示すように、ハイブリッド駆動装置Hは、装置の各部を制御するための主制御ユニット31を備えている。主制御ユニット31は、エンジン制御ユニット32、MG1制御ユニット33、MG2制御ユニット34、及び油圧制御装置35との間で、相互に情報伝達が可能な状態で接続されている。エンジン制御ユニット32は、エンジンEの各部を制御することにより、エンジンEが所望の回転速度やトルクを出力するように制御する。MG1制御ユニット33は、インバータ22aを制御することにより、第一モータ・ジェネレータMG1が所望の回転速度やトルクを出力するように制御する。MG2制御ユニット34は、インバータ22bを制御することにより、第二モータ・ジェネレータMG2が所望の回転速度やトルクを出力するように制御する。油圧制御装置35は、図示しないオイルポンプから供給される油圧を調整し、各摩擦係合要素B1、B2、C1、C2に分配供給することにより、各摩擦係合要素B1、B2、C1、C2の係合又は解放を制御する。このような各摩擦係合要素B1、B2、C1、C2の係合又は解放は、主制御ユニット31からの制御指令に基づいて行われる。
【0059】
また、主制御ユニット31は、ハイブリッド駆動装置Hを搭載する車両の各部の情報を取得するために、車両の各部に設けられたセンサ等からの情報を取得可能に構成されている。図示の例では、主制御ユニット31は、バッテリ状態検出センサSe1、車速センサSe2、アクセル操作検出センサSe3、及びブレーキ操作検出センサSe4からの情報を取得可能に構成されている。バッテリ状態検出センサSe1は、バッテリ21の充電量等の状態を検出するためのセンサであり、例えば電圧センサや電流センサ等により構成される。車速センサSe2は、車速を検出するために出力部材Oの回転速度を検出するためのセンサである。アクセル操作検出センサSe3は、アクセルペダル23の操作量を検出するためのセンサである。ブレーキ操作検出センサSe4は、図示しないホイールブレーキに連動するブレーキペダル24の操作量を検出するためのセンサである。
【0060】
主制御ユニット31は、各センサSe1〜Se4で取得される情報を用いて、後述する複数のモード及び各モードが備える変速段の選択を行う。そして、主制御ユニット31は、油圧制御装置35を介して、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2の係合状態を制御することにより、モード及び変速段の切り替えを行う。また、主制御ユニット31は、エンジン制御ユニット32、MG1制御ユニット33、及びMG2制御ユニット34を介して、エンジンE、第一モータ・ジェネレータMG1、第二モータ・ジェネレータMG2の動作状態を協調制御することにより、選択されたモード及び変速段に応じて適切な車両の走行が行われるようにする。
【0061】
そのため、本実施形態では、主制御ユニット31は、各種制御を実行するための機能部として、バッテリ状態検出部41、モード選択部42、及び切替制御部43を備えている。主制御ユニット31が備えるこれらの各手段は、CPU等の演算処理装置を中核部材として、入力されたデータに対して種々の処理を行うための機能部がハードウエア又はソフトウエア(プログラム)或いはその両方により実装されて構成されている。また、主制御ユニット31は、メモリ44を備えており、このメモリ44内には、第一切替マップ45及び第二切替マップ46が格納されている。
【0062】
バッテリ状態検出部41は、バッテリ状態検出センサSe1から出力される電圧値や電流値等の情報に基づいて、バッテリ21の充電量等のバッテリ状態を推定して検出する。
【0063】
モード選択部42は、車速センサSe2により検出される車速、アクセル操作検出センサSe3により検出されるアクセルペダル23の操作量、及びブレーキ操作検出センサSe4により検出されるブレーキペダル24の操作量等に応じて、所定の制御マップに従い適切なモードの選択及び各モードの変速段の選択を行う。本実施形態においては、モード選択部42は、バッテリ状態検出部41により検出されるバッテリ状態に応じて、メモリ44内に格納された第一切替マップ45及び第二切替マップ46のいずれか一方を制御マップとして用いる。具体的には、モード選択部42は、バッテリ充電量に関して、充電量が比較的多い第一領域と、充電量が比較的少ない第二領域とを設定し、現在のバッテリ充電量が第一領域にあるときには第一切替マップ45を用い、現在のバッテリ充電量が第二領域にあるときには第二切替マップ46を用いる。このような制御マップの一例として、図3に第一切替マップ45の例を示し、図4に第二切替マップ46の例を示している。この図に示すように、本実施形態においては、モード選択部42は、車速及びアクセル開度(アクセルペダル23の操作量)に応じて、モード及び変速段の選択を行う。本実施形態においては、ハイブリッド駆動装置Hは、スプリットモード、パラレルモード、第一EVモード、及び第二EVモードの4つのモードと、パラレルモード及び第一EVモードのそれぞれについて低速段(Lo)及び高速段(Hi)の2つの変速段を切り替え可能に備えている。したがって、モード選択部42は、制御マップ(第一切替マップ45、第二切替マップ46)に従い、これらの中から一つのモード及び変速段を選択する。なお、モード選択の際に参照される車両の各部の状態としては、バッテリ充電量、車速、及びアクセル開度(アクセルペダル23の操作量)の他にも、ブレーキペダル24の操作量、冷却水温度、油温等の各種条件を用いても好適である。各モード及び変速段の詳細、並びに図3の第一切替マップ45及び図4の第二切替マップ46の内容については後述する。
【0064】
切替制御部43は、モード選択部42により選択されたモード及び変速段に応じて油圧制御装置35の動作を制御することにより、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2のそれぞれの係合又は解放を行い、ハイブリッド駆動装置Hのモード及び変速段を切り替える制御を行う。
【0065】
1−3.ハイブリッド駆動装置の動作モード
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにより実現可能な動作モードについて説明する。図5は、各モード及び変速段での複数の摩擦係合要素C1、C2、B1、B2の作動状態を示す作動表である。この図において、「○」は各摩擦係合要素が係合状態にあることを示しており、「無印」は、各摩擦係合要素が解放(係合解除)状態にあることを示している。なお、「(○)」は、各摩擦係合要素が係合状態と解放状態のいずれでも良いことを示している。図6〜図9は、第一遊星歯車装置P1の速度線図を示しており、図6はスプリットモードでの速度線図、図7はパラレルモードでの速度線図、図8は第一EVモードでの速度線図、図9は第二EVモードでの速度線図をそれぞれ示している。これらの速度線図において、縦軸は、各回転要素の回転速度に対応している。すなわち、縦軸に対応して記載している「0」は回転速度がゼロであることを示しており、上側が正回転(回転速度が正)、下側が負回転(回転速度が負)である。そして、並列配置された複数本の縦線のそれぞれが、第一遊星歯車装置P1の各回転要素に対応している。すなわち、各縦線の上側に記載されている「s1」、「ca1」、「r1」はそれぞれ第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1、キャリアca1、リングギヤr1に対応している。
【0066】
一方、各縦線の下側に記載されている「E」、「MG1」、「MG2」、「O」は、それぞれ第一遊星歯車装置P1の各回転要素に接続されているエンジンE、第一モータ・ジェネレータMG1、第二モータ・ジェネレータMG2、出力部材Oに対応している。また、「×」は、第一ブレーキB1又は第二ブレーキB2による各回転要素がケースCに固定された状態を示している。また、各回転要素の回転速度を示す点に隣接配置された矢印は、各モードでの通常走行時に各回転要素に作用するトルクの方向を示しており、上向き矢印が正方向のトルクを表し、下向き矢印が負方向のトルクを表している。そして、「TE」はエンジンEからキャリアca1に伝達されるエンジントルクTE、「T1」は第一モータ・ジェネレータMG1からサンギヤs1に伝達されるMG1トルクT1、「T2」は第二モータ・ジェネレータMG2からリングギヤr1に伝達されるMG2トルクT2、「TO」は出力部材(車輪)側からリングギヤr1に伝達される走行抵抗TOを示している。以下、複数のモード及び変速段のそれぞれについて、ハイブリッド駆動装置Hの動作状態を詳細に説明する。
【0067】
1−4.スプリットモード
まず、スプリットモードでのハイブリッド駆動装置Hの動作状態について説明する。スプリットモードは、第一遊星歯車装置P1の3つの回転要素を自由に回転可能な状態とするとともに第一モータ・ジェネレータMG1の回転を制御することにより、エンジンE(入力軸I)の回転を無段階に変速して出力部材O側に伝達するモードである。このスプリットモードが本発明における無段変速モードに相当する。図5に示すように、スプリットモードは、第一クラッチC1が係合状態、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2が解放状態で実現される。
【0068】
スプリットモードでは、第一遊星歯車装置P1は、エンジンEの回転駆動力を出力部材O及び第一モータ・ジェネレータMG1に分配する動作を行う。すなわち、図6に示すように、第一遊星歯車装置P1は、回転速度の順で中間となるキャリアca1がエンジンEと一体的に回転する。そして、このキャリアca1の回転が、その回転が回転速度の順で一方端となるサンギヤs1、及び回転速度の順で他方端となるリングギヤr1に分配される。サンギヤs1に分配された回転は第一モータ・ジェネレータMG1に伝達される。リングギヤr1に分配された回転は、伝動チェーン16を介して減速されて第二ロータ軸17に伝達され、そこから第二モータ・ジェネレータMG2に伝達されるとともに、第二遊星歯車装置P2により減速されて出力部材Oに伝達される。
【0069】
このスプリットモードにおける車両の通常走行時には、図6に実線で示すように、エンジンEは、効率が高く排気ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うように)維持されるよう制御されつつ主制御ユニット31からの制御指令に応じた正方向のエンジントルクTEを出力し、このエンジントルクTEが入力軸Iを介してキャリアca1に伝達される。一方、第一モータ・ジェネレータMG1は、負方向のMG1トルクT1を出力することにより、エンジントルクTEの反力をサンギヤs1に伝達する。すなわち、第一モータ・ジェネレータMG1は、エンジントルクTEの反力を支持する反力受けとして機能し、それによりエンジントルクTEが出力部材O側のリングギヤr1に分配される。この際、エンジンEの回転速度に対して、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を制御することにより、リングギヤr1の回転速度、すなわち出力部材O及び第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度が決定される。したがって、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を制御することにより、エンジンEの回転を無段階に変速して出力部材Oに伝達する電気的無段変速が実現される。
【0070】
また、スプリットモードにおける車両の通常走行時には、第一モータ・ジェネレータMG1は、正回転しつつ負方向のトルクを発生して発電を行う。そして、第二モータ・ジェネレータMG2は、第一モータ・ジェネレータMG1が発電して得た電力を消費して力行し、正方向のMG2トルクT2を出力して出力部材Oに伝達されるエンジントルクTEを補助する。また、車両の減速時には、第二モータ・ジェネレータMG2は正回転しつつ負方向のトルクを発生して回生制動を行い、発電する。したがって、このスプリットモードでは、基本的には、バッテリ21の電力は消費されない。一方、車速(出力部材Oの回転速度)が高くなり、リングギヤr1の回転速度が一定以上に高くなると、図6に破線で示すように、第一モータ・ジェネレータMG1は、負回転しつつ負方向のトルクを発生して力行を行う状態となる。この場合、第一モータ・ジェネレータMG1を力行させるための電力を発電すべく、第二モータ・ジェネレータMG2は正回転しつつ負方向のトルクを発生して発電を行う。このような高車速域では、MG1トルクT1の一部が、動力伝達系の下流側(出力部材O側)にある第二モータ・ジェネレータMG2により発電のために消費され、当該第二モータ・ジェネレータMG2で発電された電力が第一モータ・ジェネレータMG1の力行のために消費されるという動力循環が発生し、エネルギ効率が悪化する。
【0071】
そこで、本実施形態においては、図4に示すように、スプリットモードは、車速が低い低車速域で用いることにしている。図示の例では、スプリットモードは、アクセル開度が0〔%〕の状態で車速V1であってアクセル開度が高くなるに従って低い車速となる第一境界線L1よりも低車速側の領域で用いられる。また、上記のとおり、スプリットモードでは、一方のモータ・ジェネレータが発電した電力で他方のモータ・ジェネレータを力行させるため、基本的にバッテリ21の電力は消費されない。そこで、本実施形態においては、バッテリ21の充電量が比較的多い第一領域で用いられる第一切替マップ45(図3)にスプリットモードの設定がなく、バッテリ21の充電量が比較的少ない第二領域で用いられる第二切替マップ46(図4)にスプリットモードが設定されることにより、バッテリ21の充電量が比較的少ない状態でスプリットモードを用いることにしている。なお、詳しい説明は省略するが、このスプリットモードは、エンジンEの停止状態からのエンジン始動や車両停止状態での発電にも用いられる。
【0072】
1−5.パラレルモード
次に、パラレルモードでのハイブリッド駆動装置Hの動作状態について説明する。パラレルモードは、エンジンE(入力軸I)の回転駆動力を出力部材Oに伝達するモードであって、第一遊星歯車装置P1の3つの回転要素の回転状態を切り替えることによって、入力軸Iの回転を出力部材O側に伝達する際の変速比が異なる2つの変速段を切り替え可能に備えるモードである。このパラレルモードが本発明におけるエンジン駆動モードに相当する。このパラレルモードでは、後述するように、エンジンEの回転駆動力のみにより車両を走行させることが可能である。但し、本実施形態においては、必要に応じて第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力を出力部材O側に伝達し、出力部材Oに伝達されるエンジンEの回転駆動力を補助する構成としているため、このモードをパラレルハイブリッド走行を行うパラレルモードと呼ぶ。図5に示すように、パラレルモードは、低速段(Lo)と高速段(Hi)の2つの変速段を切り替え可能に備えている。そして、パラレルモードの低速段(Lo)は、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が係合状態、第一ブレーキB1及び第二ブレーキB2が解放状態で実現される。また、パラレルモードの高速段(Hi)は、第一クラッチC1及び第二ブレーキB2が係合状態、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1が解放状態で実現される。
【0073】
パラレルモードでは、上記スプリットモードとは異なり、第一遊星歯車装置P1を所定の固定変速比状態とすることより、モータ・ジェネレータ(特に第一モータ・ジェネレータMG1)の反力を必要とせずに、エンジンEの回転が所定の変速比で出力部材O側に伝達される。このため、パラレルモードでは、基本的にはエンジンEの回転駆動力のみにより車両を走行させることが可能である。更に、このパラレルモードは、低速段(Lo)と高速段(Hi)の2つの変速段を切り替え可能に備えているため、エンジンEの回転を出力部材O側に伝達する際の変速比を、車両の走行状態に応じて選択的に切り替えることができる。後述するように、本実施形態においては、低速段(Lo)が、第一遊星歯車装置P1が一体回転する状態としてエンジンEの回転を同速で出力部材O側に伝達する第二変速段に相当し、高速段(Hi)が、第一モータ・ジェネレータMG1に接続された回転要素(サンギヤs1)の回転を停止させ、エンジンEの回転を変速(ここでは増速)して出力部材O側に伝達する第一変速段に相当する。
【0074】
図7に示すように、パラレルモードの低速段(Lo)では、第二クラッチC2を係合状態とすることにより、第一遊星歯車装置P1は、キャリアca1がエンジンEと一体的に回転する状態で、当該第一遊星歯車装置P1の全体(3つの回転要素)が一体回転する直結状態とされる。すなわち、この低速段(Lo)は、第一遊星歯車装置P1がエンジンEの回転を同速のまま出力する直結段である。したがって、エンジンEの回転は同速のままリングギヤr1から出力される。そして、第一遊星歯車装置P1のリングギヤr1の回転は、伝動チェーン16を介して減速されて第二ロータ軸17に伝達され、そこから第二モータ・ジェネレータMG2に伝達されるとともに、第二遊星歯車装置P2により減速されて出力部材Oに伝達される。したがって、このパラレルモードの低速段(Lo)では、エンジンEの回転速度に応じて、出力部材O、第一モータ・ジェネレータMG1、及び第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度が定まる。
【0075】
このパラレルモードの低速段(Lo)では、エンジンEは、車速及びアクセル開度等に応じて、適切な回転速度及びエンジントルクTEを出力するように制御される。また、第二モータ・ジェネレータMG2は、車両側からの要求トルクに対して出力部材Oに伝達されるエンジントルクTEが不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して出力部材Oに伝達されるエンジントルクTEを補助する。また、車両の減速時には、第二モータ・ジェネレータMG2は正回転しつつ負方向のトルクを発生して回生制動を行い、発電する。一方、第一モータ・ジェネレータMG1は、エンジンEの回転速度に応じて定まる回転速度(ここではエンジンEと同速)で回転しつつ、回転駆動力を出力しない状態に制御される。すなわち、このパラレルモードの低速段(Lo)では、第一モータ・ジェネレータMG1は、基本的には、力行も発電も行わない。但し、バッテリ21の電力が不足する場合には、第一モータ・ジェネレータMG1に発電を行わせることも可能である。
【0076】
図7に示すように、パラレルモードの高速段(Hi)では、第二ブレーキB2を係合状態とすることにより、第一遊星歯車装置P1の3つの回転要素の中で、回転速度の順で一方端となるサンギヤs1がケースCに固定されて回転が停止される。これにより、回転速度の順で中間となるキャリアca1に接続されたエンジンEの回転が増速されて、回転速度の順で他方端となるリングギヤr1に伝達される。すなわち、この高速段(Hi)は、第一遊星歯車装置P1がエンジンEの回転を増速して出力する増速段である。そして、第一遊星歯車装置P1のリングギヤr1の回転は、伝動チェーン16を介して減速されて第二ロータ軸17に伝達され、そこから第二モータ・ジェネレータMG2に伝達されるとともに、第二遊星歯車装置P2により減速されて出力部材Oに伝達される。したがって、このパラレルモードの高速段(Hi)では、エンジンEの回転速度に応じて、出力部材O及び第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度が定まる。なお、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1と一体回転する第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度は、当然ながらゼロに固定される。
【0077】
このパラレルモードの高速段(Hi)では、低速段(Lo)と同様に、エンジンEは、車速及びアクセル開度等に応じて、適切な回転速度及びエンジントルクTEを出力するように制御される。また、第二モータ・ジェネレータMG2は、車両側からの要求トルクに対して出力部材Oに伝達されるエンジントルクTEが不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して出力部材Oに伝達されるエンジントルクTEを補助する。また、車両の減速時には、第二モータ・ジェネレータMG2は正回転しつつ負方向のトルクを発生して回生制動を行い、発電する。一方、第一モータ・ジェネレータMG1の動作は低速段(Lo)とは異なっている。すなわち、高速段(Hi)では、第一モータ・ジェネレータMG1は、ロータRo1が回転しないようにケースCに固定され、停止される。したがって、第一モータ・ジェネレータMG1は、力行も発電も行わない。
【0078】
以上のとおり、パラレルモードでは、低速段(Lo)及び高速段(Hi)のいずれにおいても、基本的にエンジンEの回転駆動力のみにより車両を走行させることができる。この際、第二モータ・ジェネレータMG2は必要に応じてエンジンEの回転駆動力に対する補助を行うだけであり、第一モータ・ジェネレータMG1は基本的には力行も発電も行わない。したがって、パラレルモードでは、エンジンEの回転駆動力を用いて発電することにより発生するエネルギ損失を小さく抑えることができる。そのため、エンジンE単体でのエネルギ効率が比較的高い走行状態、例えば、エンジンEの回転数やトルクの変動が比較的少ない高車速域において、特にエネルギ効率が高い。
【0079】
そこで、本実施形態においては、図3及び図4に示すように、パラレルモードは、車速が比較的高い中〜高車速域で用いることにしている。更にその中でも、パラレルモードの高速段(Hi)は、車速に対してエンジンEの回転速度を低く抑えて走行することができるので、車速が高い高車速域であって、アクセル開度が低〜中程度(要求される駆動力が比較的小さい)領域で用いられる。一方、パラレルモードの低速段(Lo)は、高速段(Hi)と比べて大きい駆動力を出力することができるので、中車速域に加えて、高車速域であってアクセル開度が高い(要求される駆動力が大きい)領域で用いられる。図示の例では、パラレルモードは、上述した第一境界線L1よりも高車速側の領域で用いられる。また、車速が比較的低い領域ではアクセル開度が0〔%〕の状態で車速V2であってアクセル開度が高くなるに従って高い車速となる線であり、それより車速が高い領域ではアクセル開度A2に沿った線で構成される第二境界線L2よりも高車速側かつ低アクセル開度側の領域でパラレルモードの高速段(Hi)が用いられる。よって、この第二境界線L2よりも低車速側又は高アクセル開度側の領域でパラレルモードの低速段(Lo)が用いられる。また、上記のとおり、パラレルモードでは、基本的にエンジンEの回転駆動力のみにより高いエネルギ効率で車両を走行させることができるため、バッテリ21の充電量に関係なく一定の車速以上ではパラレルモードを用いることにしている。したがって、バッテリ21の充電量が比較的多い第一領域で用いられる第一切替マップ45(図3)と、バッテリ21の充電量が比較的少ない第二領域で用いられる第二切替マップ46(図4)との双方に、同様にパラレルモードが設定されている。
【0080】
1−6.第一EVモード
次に、第一EVモードでのハイブリッド駆動装置Hの動作状態について説明する。第一EVモードは、第一モータ・ジェネレータMG1の回転駆動力を出力部材Oに伝達するモードであって、第一遊星歯車装置P1の3つの回転要素の回転状態を切り替えることによって、第一モータ・ジェネレータMG1の回転を出力部材O側に伝達する際の変速比が異なる2つの変速段を切り替え可能に備えるモードである。この第一EVモードが本発明における第一回転電機駆動モードに相当する。この第一EVモードでは、後述するように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転駆動力のみにより車両を走行させることが可能である。但し、本実施形態においては、必要に応じて第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力を出力部材O側に伝達し、出力部材Oに伝達される第一モータ・ジェネレータMG1の回転駆動力を補助する構成としている。このように、第一EVモードは、いずれにしても、バッテリ21の電力を消費してモータ・ジェネレータの回転駆動力のみにより車両を走行させるEV(Electric Vehicle:電動車両)走行を行うモードであり、また後述する第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力のみにより車両を走行させる第二EVモードと区別するために、このモードを第一EVモードと呼ぶ。図5に示すように、第一EVモードは、低速段(Lo)と高速段(Hi)の2つの変速段を切り替え可能に備えている。そして、第一EVモードの低速段(Lo)は、第一ブレーキB1が係合状態、第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第二ブレーキB2が解放状態で実現される。また、第一EVモードの高速段(Hi)は、第二クラッチC2が係合状態、第一クラッチC1、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2が解放状態で実現される。なお、図5に「(○)」として示すように、第一EVモードの低速段(Lo)では、エンジンEが連結されるキャリアca1は第一ブレーキB1によりケースCに固定されるので、第一クラッチC1は係合状態と解放状態のいずれであっても良い。
【0081】
第一EVモードでは、上記パラレルモードと同様に、第一遊星歯車装置P1を所定の固定変速比状態とすることより、第一モータ・ジェネレータMG1の回転が所定の変速比で出力部材O側に伝達される。このため、第一EVモードでは、基本的には第一モータ・ジェネレータMG1の回転駆動力のみにより車両を走行させることが可能である。更に、この第一EVモードは、低速段(Lo)と高速段(Hi)の2つの変速段を切り替え可能に備えているため、第一モータ・ジェネレータMG1の回転を出力部材O側に伝達する際の変速比を、車両の走行状態に応じて選択的に切り替えることができる。後述するように、本実施形態においては、低速段(Lo)が、入力軸I(エンジンE)に接続された回転要素(サンギヤs1)の回転を停止させ、第一モータ・ジェネレータMG1の回転を変速(ここでは減速)して出力部材O側に伝達する第一変速段に相当し、高速段(Hi)が、第一遊星歯車装置P1が一体回転する状態として第一モータ・ジェネレータMG1の回転を同速で出力部材O側に伝達する第二変速段に相当する。
【0082】
図8に示すように、第一EVモードの低速段(Lo)では、第一ブレーキB1を係合状態とすることにより、第一遊星歯車装置P1の3つの回転要素の中で、回転速度の順で中間となるキャリアca1がケースCに固定されて回転が停止される。これにより、回転速度の順で一方端となるサンギヤs1に接続された第一モータ・ジェネレータMG1の負方向の回転が、正方向の回転に反転されて、回転速度の順で他方端となるリングギヤr1に伝達される。この際、第一遊星歯車装置P1の歯数比(=〔サンギヤの歯数〕/〔リングギヤの歯数〕)に応じて第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が減速されてリングギヤr1に伝達される。すなわち、この低速段(Lo)は、第一遊星歯車装置P1が第一モータ・ジェネレータMG1の回転を減速して出力する減速段である。そして、第一遊星歯車装置P1のリングギヤr1の回転は、伝動チェーン16を介して減速されて第二ロータ軸17に伝達され、そこから第二モータ・ジェネレータMG2に伝達されるとともに、第二遊星歯車装置P2により減速されて出力部材Oに伝達される。したがって、この第一EVモードの低速段(Lo)では、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度に応じて、出力部材O及び第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度が定まる。なお、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1と一体回転するエンジンEの回転速度は、当然ながらゼロに固定される。
【0083】
この第一EVモードの低速段(Lo)では、第一モータ・ジェネレータMG1は、車速及びアクセル開度等に応じて、適切な回転速度及びMG1トルクT1を出力するように制御される。この際、第一モータ・ジェネレータMG1は、負回転しつつ負方向のMG1トルクT1を出力して力行する。また、第二モータ・ジェネレータMG2は、車両側からの要求トルクに対して出力部材Oに伝達されるMG1トルクT1が不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して出力部材Oに伝達されるMG1トルクT1を補助する。一方、車両の減速時には、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の一方又は双方は、回生制動を行い、発電する。この回生制動の際には、第一モータ・ジェネレータMG1は負回転しつつ正方向のMG1トルクT1を出力し、第二モータ・ジェネレータMG2は正回転しつつ負方向のトルクを出力する。
【0084】
図8に示すように、第一EVモードの高速段(Hi)では、第二クラッチC2を係合状態とすることにより、第一遊星歯車装置P1は、サンギヤs1が第一モータ・ジェネレータMG1と一体的に回転する状態で、当該第一遊星歯車装置P1の全体(3つの回転要素)が一体回転する直結状態とされる。すなわち、この高速段(Hi)は、第一遊星歯車装置P1が第一モータ・ジェネレータMG1の回転を同速のまま出力する直結段である。したがって、第一モータ・ジェネレータMG1の回転は同速のままリングギヤr1から出力される。そして、第一遊星歯車装置P1のリングギヤr1の回転は、伝動チェーン16を介して減速されて第二ロータ軸17に伝達され、そこから第二モータ・ジェネレータMG2に伝達されるとともに、第二遊星歯車装置P2により減速されて出力部材Oに伝達される。したがって、この第一EVモードの高速段(Hi)では、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度に応じて、出力部材O及び第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度が定まる。なお、第一EVモードの高速段(Hi)では、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1も第一モータ・ジェネレータMG1と同速で回転するが、第一クラッチC1が解放されているため、エンジンEは回転せず停止されている。
【0085】
この第一EVモードの高速段(Hi)では、低速段(Lo)と同様に、第一モータ・ジェネレータMG1は、車速及びアクセル開度等に応じて、適切な回転速度及びMG1トルクT1を出力するように制御される。但し、高速段(Hi)では、この際、第一モータ・ジェネレータMG1は、正回転しつつ正方向のMG1トルクT1を出力して力行する。また、第二モータ・ジェネレータMG2は、車両側からの要求トルクに対して出力部材Oに伝達されるMG1トルクT1が不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して出力部材Oに伝達されるMG1トルクT1を補助する。一方、車両の減速時には、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の一方又は双方は、回生制動を行い、発電する。この回生制動の際には、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は正回転しつつ負方向のトルクを出力する。
【0086】
以上のとおり、第一EVモードでは、低速段(Lo)及び高速段(Hi)のいずれにおいても、エンジンEを停止させた状態で、バッテリ21の電力を使って駆動される第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力のみにより車両を走行させる。したがって、第一EVモードでは、エンジンEを動作させるための燃料を使用することがないため、バッテリ21の充電量に余裕がある場合には、このモードを用いることにより、燃料を節約してエネルギ効率を高めることができる。また、上記のとおり、第一EVモードは、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の双方の回転駆動力を用いて車両を走行させることができるため、後述するように、第二モータ・ジェネレータMG2のみの回転駆動力を用いて車両を走行させる第二EVモードと比べて、大きい駆動力を出力することができる。一方、第一EVモードを、車速が比較的高い中〜高車速域で用いると、短時間で多くの電力を消費し、バッテリ21の充電量が急激に低下するため、当該第一EVモードを継続することができなくなる。
【0087】
上記のとおり、第一EVモードでは、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2を力行させて車両を走行させるため、バッテリ21の電力を多く消費する。そこで、本実施形態においては、バッテリ21の充電量が比較的多い第一領域で用いられる第一切替マップ45(図3)に第一EVモードが設定され、バッテリ21の充電量が比較的少ない第二領域で用いられる第二切替マップ46(図4)に第一EVモードの設定がないことにより、バッテリ21の充電量が比較的多い状態で第一EVモードを用いることにしている。
【0088】
また、本実施形態においては、上記のように、車速が比較的高い中〜高車速域で第一EVモードを用いると、バッテリ21の充電量が急激に低下して第一EVモードを継続することができなくなるため、図3に示すように、第一EVモードは、車速が低い低車速域で用いることにしている。図示の例では、2つのEVモード、すなわち第一EVモード及び第二EVモードが、アクセル開度が0〔%〕の状態で車速V1であってアクセル開度が高くなるに従って低い車速となる第一境界線L1よりも低車速側の領域で用いられる。そして、上記のとおり、第一EVモードは、第二EVモードより大きい駆動力を出力することができるので、第二EVモードよりもアクセル開度が高い(要求される駆動力が比較的大きい)領域で用いられる。図示の例では、車速が比較的低い領域ではアクセル開度A1に沿った線であり、それより車速が高い領域では車速が高くなるに従ってアクセル開度が低くなる線で構成される第三境界線L3よりもアクセル開度が高い側で第一EVモードが用いられる。更にその中でも、第一EVモードの低速段(Lo)は、高速段(Hi)と比べて大きい駆動力を出力することができるので、アクセル開度が高い領域で用いられる。一方、第一EVモードの高速段(Hi)は、車速に対して第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を低く抑えて走行することができてエネルギ効率が高い。そのため、第一EVモードの高速段(Hi)は、低速段(Lo)に対してアクセル開度が低い(要求される駆動力が小さい)領域、ここでは第二EVモードとの関係でアクセル開度が中程度の領域で用いられる。図示の例では、第一EVモードの低速段(Lo)は、アクセル開度A2に沿った線で構成される第四境界線L4よりもアクセル開度が高い領域で用いられる。また、第一EVモードの高速段(Hi)は、当該第四境界線L4よりもアクセル開度が低く、上記第三境界線L3よりもアクセル開度が高い領域で用いられる。
【0089】
1−7.第二EVモード
最後に、第二EVモードでのハイブリッド駆動装置Hの動作状態について説明する。第二EVモードは、第一モータ・ジェネレータMG1を非駆動状態にするとともに、第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力を出力部材Oに伝達するモードである。この第二EVモードが本発明における第二回転電機駆動モードに相当する。この第二EVモードは、バッテリ21の電力を消費して第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力のみにより車両を走行させるEV(Electric Vehicle:電動車両)走行を行うモードであり、上述した第一EVモードと区別するために、このモードを第二EVモードと呼ぶ。図5に示すように、第二EVモードは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2の全てが解放状態で実現される。
【0090】
第二EVモードでは、上記スプリットモードと同様に、第一遊星歯車装置P1の3つの回転要素を自由に回転可能な状態とする。但し、この第二EVモードでは、スプリットモードとは異なり、第一クラッチC1が解放状態とされ、エンジンE及び入力軸Iは第一遊星歯車装置P1のキャリアca1から分離されている。また、エンジンEは停止される。その状態で、第二EVモードでは、第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力が、第二遊星歯車装置P2により減速して出力部材Oに伝達される。これにより、第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力のみにより車両を走行させることが可能である。なおこの際、第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力は、第二ロータ軸17から伝動チェーン16を介して増速されて第一遊星歯車装置P1のリングギヤr1に伝達される。但し、図9に示すように、第二EVモードでは、第一遊星歯車装置P1のリングギヤr1の回転は、エンジンEから分離されたキャリアca1が空転することにより、第一モータ・ジェネレータMG1に接続されたサンギヤs1には回転駆動力はほとんど伝達されない。
【0091】
よって、第二EVモードでは、第二モータ・ジェネレータMG2は、車速及びアクセル開度等に応じて、適切な回転速度及びMG2トルクT2を出力するように制御される。この際、第二モータ・ジェネレータMG2は、正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して力行する。一方、この第二EVモードでは、第一モータ・ジェネレータMG1は、非駆動状態とされ、力行も発電も行わない。第二EVモードでは、エンジンEを停止させた状態で、バッテリ21の電力を使って駆動される第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力のみにより車両を走行させる。したがって、第二EVモードでは、第一EVモードと同様に、エンジンEを動作させるための燃料を使用することがないため、バッテリ21の充電量に余裕がある場合には、このモードを用いることにより、燃料を節約してエネルギ効率を高めることができる。一方、第二EVモードは、第二モータ・ジェネレータMG2のみの回転駆動力を用いて車両を走行させるため、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の双方の回転駆動力を用いて車両を走行させる第一EVモードと比べて、出力することができる駆動力は小さい。一方、第二EVモードも、第一EVモードと同様に、車速が比較的高い中〜高車速域で用いると、短時間で多くの電力を消費し、バッテリ21の充電量が急激に低下するため、当該第二EVモードを継続することができなくなる。
【0092】
上記のとおり、第二EVモードでは、第二モータ・ジェネレータMG2を力行させて車両を走行させるため、バッテリ21の電力を比較的多く消費する。そこで、本実施形態においては、バッテリ21の充電量が比較的多い第一領域で用いられる第一切替マップ45(図3)に第二EVモードが設定され、バッテリ21の充電量が比較的少ない第二領域で用いられる第二切替マップ46(図4)に第二EVモードの設定がないことにより、バッテリ21の充電量が比較的多い状態で第二EVモードを用いることにしている。また、本実施形態においては、上記のように、車速が比較的高い中〜高車速域で第二EVモードを用いると、バッテリ21の充電量が急激に低下して第二EVモードを継続することができなくなるため、図3に示すように、第二EVモードは、車速が低い低車速域で用いることにしている。図示の例では、上記のとおり、第一EVモード及び第二EVモードが、アクセル開度が0〔%〕の状態で車速V1であってアクセル開度が高くなるに従って低い車速となる第一境界線L1よりも低車速側の領域で用いられる。そして、第二EVモードは、第一EVモードと比べて出力することができる駆動力が小さいので、第一EVモードよりもアクセル開度が低い(要求される駆動力が比較的小さい)領域で用いられる。図示の例では、上記第三境界線L3よりもアクセル開度が低い側で第二EVモードが用いられる。
【0093】
2.第二の実施形態
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。図10は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図10は、図1と同様に、軸対称の構成を一部省略して示している。この図に示すように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、上記第一の実施形態において摩擦係合要素により構成されていた第一固定装置、第二固定装置、分離装置、及び差動規制装置を、噛み合い式係合要素としてのドグクラッチ、又はドグクラッチとワンウェイクラッチとの組み合わせにより構成している点で、上記第一の実施形態とは相違している。またこれに伴い、各モード及び変速段でのそれらドグクラッチ及びワンウェイクラッチの作動状態も、上記第一の実施形態とは相違している。図11は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにおける、各モード及び変速段での複数のドグクラッチDC1、DC2、DC3、及び複数のワンウェイクラッチOC1、OC2、OC3の作動状態を示す作動表である。以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hについて、上記第一の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、特に説明しない点については、上記第一の実施形態と同様とする。
【0094】
本実施形態においては、分離装置は、上記第一の実施形態における第一クラッチC1に代えて、第一ドグクラッチDC1により構成されている。第一ドグクラッチDC1は、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1と入力軸Iとを選択的に接続又は分離する。図10では簡略化して記載しているが、第一ドグクラッチDC1は、入力軸Iに固定されて外周面に外歯が形成された入力軸側ギヤと、キャリアca1と一体回転する中間軸12に固定されて外周面に外歯が形成された中間軸側ギヤと、これら入力軸側ギヤ及び中間軸側ギヤに対して軸方向にスライド可能に外嵌され、内周面に内歯が形成された略円筒状のスリーブとを有して構成されている。そして、スリーブの内歯が入力軸側ギヤと中間軸側ギヤとの双方の外歯に噛み合うことにより、第一ドグクラッチDC1が係合状態とされ、入力軸Iと中間軸12とが接続される。一方、スリーブが軸方向に移動し、当該スリーブの内歯が入力軸側ギヤ及び中間軸側ギヤのいずれか一方の外歯とだけ噛み合う位置では、第一ドグクラッチDC1が解放状態とされ、入力軸Iと中間軸12とが分離される。
【0095】
本実施形態においては、第一固定装置は、上記第一の実施形態における第一ブレーキB1に代えて、第一ワンウェイクラッチOC1により構成されている。第一ワンウェイクラッチOC1は、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1と一体回転する中間軸12を、ケースCに選択的に固定する。ここでは、第一ワンウェイクラッチOC1は、アウタレースが中間軸12と一体回転するように接続され、インナレースがケースCに固定されている。この第一ワンウェイクラッチOC1は、アウタレースがインナレースに対して相対的に正回転することは許容されるが、アウタレースがインナレースに対して相対的に負回転することは阻止されるように構成されている。これにより、第一ワンウェイクラッチOC1は、中間軸12の正回転を許容し、負回転を阻止するワンウェイブレーキとして機能する。したがって、第一ワンウェイクラッチOC1は、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1及び中間軸12が負回転したときに係合状態となり、キャリアca1及び中間軸12をケースCに固定して停止させる。なお、正回転は、エンジンEの回転方向と同じ方向の回転であって、図6〜図9の速度線図における回転速度が正の回転である。一方、負回転は、エンジンEの回転方向と逆方向の回転であって、図6〜図9の速度線図における回転速度が負の回転である。
【0096】
本実施形態においては、差動規制装置は、上記第一の実施形態における第二クラッチC2に代えて、第二ドグクラッチDC2と第二ワンウェイクラッチOC2の組み合わせにより構成されている。第二ドグクラッチDC2は、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1と第二ワンウェイクラッチOC2のアウタレースとを選択的に接続又は分離する。第二ワンウェイクラッチOC2のインナレースは、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1及び第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1と一体回転する第一ロータ軸13に一体回転するように接続されている。そして、第二ワンウェイクラッチOC2は、第二ドグクラッチDC2が第一遊星歯車装置P1のキャリアca1と第二ワンウェイクラッチOC2のアウタレースとを接続した状態で、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1の正方向の回転速度がキャリアca1の正方向の回転速度より速くなることを阻止するように機能する。図10では簡略化して記載しているが、第二ドグクラッチDC2は、キャリアca1に固定されて外周面に外歯が形成されたキャリア側ギヤと、第二ワンウェイクラッチOC2のアウタレースに固定されて外周面に外歯が形成された第二ワンウェイクラッチ側ギヤと、これらキャリア側ギヤ及び第二ワンウェイクラッチ側ギヤに対して軸方向にスライド可能に外嵌され、内周面に内歯が形成された略円筒状のスリーブとを有して構成されている。また、第二ワンウェイクラッチOC2は、アウタレースがインナレースに対して相対的に正回転することは許容されるが、アウタレースがインナレースに対して相対的に負回転することは阻止されるように構成されている。
【0097】
そして、スリーブの内歯がキャリア側ギヤと第二ワンウェイクラッチ側ギヤとの双方の外歯に噛み合うことにより、第二ドグクラッチDC2が係合状態とされ、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1と第二ワンウェイクラッチOC2のアウタレースとが接続される。この状態で、アウタレースがインナレースに対して相対的に負回転することが阻止されることにより、サンギヤs1の回転速度がキャリアca1の回転速度より速くなることが阻止される。したがって、第二ワンウェイクラッチOC2は、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1の回転速度がキャリアca1の回転速度より速くなったときに係合状態となり、サンギヤs1とキャリアca1とを一体回転させる。一方、スリーブが軸方向に移動し、当該スリーブの内歯がキャリア側ギヤ及び第二ワンウェイクラッチ側ギヤのいずれか一方の外歯とだけ噛み合う位置では、第二ドグクラッチDC2が解放状態とされ、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1とサンギヤs1との関係は、第二ドグクラッチDC2及び第二ワンウェイクラッチOC2によっては規制されない。
【0098】
本実施形態においては、第二固定装置は、上記第一の実施形態における第二ブレーキB2に代えて、第三ドグクラッチDC3と第三ワンウェイクラッチOC3の組み合わせにより構成されている。第三ドグクラッチDC3は、ケースCと第三ワンウェイクラッチOC3のアウタレースとを選択的に接続又は分離する。第三ワンウェイクラッチOC3のインナレースは、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1及び第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1と一体回転する第一ロータ軸13に一体回転するように接続されている。そして、第三ワンウェイクラッチOC3は、第三ドグクラッチDC3がケースCと第三ワンウェイクラッチOC3のアウタレースとを接続した状態で、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1の正回転を阻止するように機能する。図10では簡略化して記載しているが、第三ドグクラッチDC3は、ケースCに固定されて外周面に外歯が形成されたケース側ギヤと、第三ワンウェイクラッチOC3のアウタレースに固定されて外周面に外歯が形成された第三ワンウェイクラッチ側ギヤと、これらケース側ギヤ及び第三ワンウェイクラッチ側ギヤに対して軸方向にスライド可能に外嵌され、内周面に内歯が形成された略円筒状のスリーブとを有して構成されている。また、第三ワンウェイクラッチOC3は、インナレースがアウタレースに対して相対的に負回転することは許容されるが、インナレースがアウタレースに対して相対的に正回転することは阻止されるように構成されている。
【0099】
そして、スリーブの内歯がケース側ギヤと第三ワンウェイクラッチ側ギヤとの双方の外歯に噛み合うことにより、第三ドグクラッチDC3が係合状態とされ、ケースCと第三ワンウェイクラッチOC3のアウタレースとが接続される。この状態で、インナレースがアウタレースに対して相対的に正回転することが阻止されることにより、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1の正回転が阻止される。したがって、第三ワンウェイクラッチOC3は、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1が正回転したときに係合状態となり、サンギヤs1及び第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1とケースCに固定して停止させる。一方、スリーブが軸方向に移動し、当該スリーブの内歯がケース側ギヤ及び第三ワンウェイクラッチ側ギヤのいずれか一方の外歯とだけ噛み合う位置では、第三ドグクラッチDC3が解放状態とされ、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1及び第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1は、ケースCに対して自由に回転可能とされる。
【0100】
以上に説明した第一ドグクラッチDC1、第二ドグクラッチDC2、及び第三ドグクラッチDC3のそれぞれのスリーブは、上記第一の実施形態における摩擦係合要素B1、B2、C1、C2と同様に、主制御ユニット31からの制御指令により動作する油圧制御装置35からの油圧によって、軸方向に動作する。すなわち、本実施形態においても、第一ドグクラッチDC1、第二ドグクラッチDC2、及び第三ドグクラッチDC3の係合又は解放の制御は、油圧制御装置35からの油圧を介して行われる。なお、各ドグクラッチDC1、DC2、DC3のスリーブの動作は、例えば、スリーブの外周面に設けられた凹部に係合される図示しないシフトフォーク等の切替用部材を、油圧により軸方向に動作させることにより行う。
【0101】
本実施形態においても、ハイブリッド駆動装置Hは、スプリットモード、パラレルモード、第一EVモード、及び第二EVモードの4つのモードと、パラレルモード及び第一EVモードのそれぞれについて低速段(Lo)及び高速段(Hi)の2つの変速段を切り替え可能に備えている。この際、各モード及び変速段でのハイブリッド駆動装置Hの動作状態は、上記第一の実施形態について、図6〜図9の速度線図を用いて説明したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0102】
そして、図11に示すように、スプリットモードは、第一ドグクラッチDC1が係合状態、第二ドグクラッチDC2、第三ドグクラッチDC3、第一ワンウェイクラッチOC1、第二ワンウェイクラッチOC2、及び第三ワンウェイクラッチOC3が解放状態で実現される。パラレルモードの低速段(Lo)は、第一ドグクラッチDC1、第二ドグクラッチDC2、及び第二ワンウェイクラッチOC2が係合状態、第三ドグクラッチDC3、第一ワンウェイクラッチOC1、及び第三ワンウェイクラッチOC3が解放状態で実現される。パラレルモードの高速段(Hi)は、第一ドグクラッチDC1、第三ドグクラッチDC3、及び第三ワンウェイクラッチOC3が係合状態、第一ワンウェイクラッチOC1及び第二ワンウェイクラッチOC2が解放状態で実現される。なお、図11に「(○)」として示すように、パラレルモードの高速段(Hi)では、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1の回転速度がキャリアca1の回転速度より速くなることがなく、第二ワンウェイクラッチOC2が係合状態となることがないため、第二ドグクラッチDC2は係合状態と解放状態のいずれであっても良い。
【0103】
また、第一EVモードの低速段(Lo)は、第一ワンウェイクラッチOC1が係合状態、第二ドグクラッチDC2、第三ドグクラッチDC3、第二ワンウェイクラッチOC2、及び第三ワンウェイクラッチOC3が解放状態で実現される。なお、図11に「(○)」として示すように、第一EVモードの低速段(Lo)では、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1の回転速度が、第一ドグクラッチDC1を介して連結されるエンジンEと同じくゼロであるため、第一ドグクラッチDC1は係合状態と解放状態のいずれであっても良い。第一EVモードの高速段(Hi)は、第二ドグクラッチDC2及び第二ワンウェイクラッチOC2が係合状態、第一ドグクラッチDC1、第三ドグクラッチDC3、第一ワンウェイクラッチOC1、及び第三ワンウェイクラッチOC3が解放状態で実現される。第二EVモードは、第一ドグクラッチDC1、第三ドグクラッチDC3、第一ワンウェイクラッチOC1、第二ワンウェイクラッチOC2、及び第三ワンウェイクラッチOC3が解放状態で実現される。なお、図11に「(○)」として示すように、第二EVモードでは、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1の回転速度がキャリアca1の回転速度より速くなることがなく、第二ワンウェイクラッチOC2が係合状態となることがないため、第二ドグクラッチDC2は係合状態と解放状態のいずれであっても良い。
【0104】
3.第三の実施形態
次に、本発明の第三の実施形態について説明する。図12は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図12は、図1及び図10と同様に、軸対称の構成を一部省略して示している。この図に示すように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、上記第二の実施形態における差動規制装置としての第二ドグクラッチDC2及び第二ワンウェイクラッチOC2と、第二固定装置としての第三ドグクラッチDC3及び第三ワンウェイクラッチOC3とに代えて、第四ドグクラッチDC4及び第四ワンウェイクラッチOC4を備えている。その他の構成は、上記第二の実施形態と同様である。そこで、以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hについて、上記第二の実施形態との相違点を中心として説明する。
【0105】
第四ドグクラッチDC4は、上記第二の実施形態における第二ドグクラッチDC2と第三ドグクラッチDC3とを一つにまとめたドグクラッチである。第四ワンウェイクラッチOC4は、上記第二の実施形態における第二ワンウェイクラッチOC2及び第三ワンウェイクラッチOC3の両方の機能を果たすワンウェイクラッチである。よって、本実施形態においては、第四ドグクラッチDC4と第四ワンウェイクラッチOC4の組み合わせにより、差動規制装置及び第二固定装置が構成されている。
【0106】
図12では簡略化して記載しているが、第四ドグクラッチDC4は、キャリアca1に固定されて外周面に外歯が形成されたキャリア側ギヤと、第四ワンウェイクラッチOC4のアウタレースに固定されて外周面に外歯が形成された第四ワンウェイクラッチ側ギヤと、ケースCに固定されて外周面に外歯が形成されたケース側ギヤと、これらキャリア側ギヤ、第四ワンウェイクラッチ側ギヤ、及びケース側ギヤに対して軸方向にスライド可能に外嵌され、内周面に内歯が形成された略円筒状のスリーブとを有して構成されている。そして、第四ドグクラッチDC4は、第二ワンウェイクラッチOC2のアウタレースを、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1又はケースCに対して選択的に接続又は分離する。第四ワンウェイクラッチOC4のインナレースは、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1及び第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1と一体回転する第一ロータ軸13に一体回転するように接続されている。そして、また、第四ワンウェイクラッチOC4は、アウタレースがインナレースに対して相対的に正回転することは許容されるが、アウタレースがインナレースに対して相対的に負回転することは阻止されるように構成されている。これにより、第四ワンウェイクラッチOC4は、第四ドグクラッチDC4が第一遊星歯車装置P1のキャリアca1と第四ワンウェイクラッチOC4のアウタレースとを接続した状態で、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1の正方向の回転速度がキャリアca1の正方向の回転速度より速くなることを阻止するように機能する。また、第四ワンウェイクラッチOC4は、第四ドグクラッチDC4がケースCと第四ワンウェイクラッチOC4のアウタレースとを接続した状態で、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1の正回転を阻止するように機能する。
【0107】
そして、スリーブの内歯がキャリア側ギヤと第四ワンウェイクラッチ側ギヤとの双方の外歯に噛み合うことにより、第四ドグクラッチDC4は、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1と第四ワンウェイクラッチOC4のアウタレースとを接続した第一係合状態とされる。この第一係合状態で、アウタレースがインナレースに対して相対的に負回転することが阻止されることにより、サンギヤs1の回転速度がキャリアca1の回転速度より速くなることが阻止される。したがって、第四ワンウェイクラッチOC4は、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1の回転速度がキャリアca1の回転速度より速くなったときに係合状態となり、サンギヤs1とキャリアca1とを一体回転させる。一方、スリーブの内歯がケース側ギヤと第四ワンウェイクラッチ側ギヤとの双方の外歯に噛み合うことにより、第四ドグクラッチDC4は、ケースCと第四ワンウェイクラッチOC4のアウタレースとを接続した第二係合状態とされる。この第二係合状態で、ケースCと第四ワンウェイクラッチOC4のアウタレースとが接続される。この状態で、インナレースがアウタレースに対して相対的に正回転することが阻止されることにより、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1の正回転が阻止される。したがって、第四ワンウェイクラッチOC4は、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1が正回転したときに係合状態となり、サンギヤs1及び第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1とケースCに固定して停止させる。
【0108】
一方、スリーブが軸方向に移動し、当該スリーブの内歯がキャリア側ギヤ、第四ワンウェイクラッチ側ギヤ、及びケース側ギヤのいずれか一つの外歯とだけ噛み合う位置では、第四ドグクラッチDC4が解放状態とされる。この解放状態では、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1とサンギヤs1との関係は、第四ドグクラッチDC4及び第四ワンウェイクラッチOC4によっては規制されず、また、第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1及び第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1は、ケースCに対して自由に回転可能とされる。
【0109】
本実施形態においても、ハイブリッド駆動装置Hは、スプリットモード、パラレルモード、第一EVモード、及び第二EVモードの4つのモードと、パラレルモード及び第一EVモードのそれぞれについて低速段(Lo)及び高速段(Hi)の2つの変速段を切り替え可能に備えている。この際、各モード及び変速段でのハイブリッド駆動装置Hの動作状態は、上記第一の実施形態について、図6〜図9の速度線図を用いて説明したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。そして、各モード及び変速段での各ドグクラッチ及びワンウェイクラッチの作動状態は、基本的に図11の作動表を用いて説明した上記第二の実施形態と同様である。但し、本実施形態においては、第四ドグクラッチDC4は、上記第二の実施形態における第二ドグクラッチDC2と第三ドグクラッチDC3とを一つにまとめたドグクラッチである。したがって、上記第二の実施形態における第二ドグクラッチDC2の係合状態は、本実施形態においては、第四ドグクラッチDC4が第一遊星歯車装置P1のキャリアca1と第四ワンウェイクラッチOC4のアウタレースとを接続した第一係合状態に相当する。また、上記第二の実施形態における第三ドグクラッチDC3の係合状態は、本実施形態においては、第四ドグクラッチDC4がケースCと第四ワンウェイクラッチOC4のアウタレースとを接続した第二係合状態に相当する。また、上記第二の実施形態における第二ワンウェイクラッチOC2及び第三ワンウェイクラッチOC3のいずれかの係合状態は、本実施形態においては、第四ワンウェイクラッチOC4の係合状態に相当する。
【0110】
4.第四の実施形態
次に、本発明の第四の実施形態について説明する。図13は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図13は、図1と同様に、軸対称の構成を一部省略して示している。この図に示すように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、第二固定装置としての第二ブレーキB2を備えていない点で、上記第一の実施形態とは相違している。すなわち、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、複数の摩擦係合要素として、分離装置としての第一クラッチC1、差動規制装置としての第二クラッチC2、及び第一固定装置としての第一ブレーキB1を備えて構成されている。またこれに伴い、ハイブリッド駆動装置Hが切り替え可能に備えるモード及び変速段、並びに各モード及び変速段での複数の摩擦係合要素の作動状態も、上記第一の実施形態とは相違している。以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hについて、上記第一の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、特に説明しない点については、上記第一の実施形態と同様とする。
【0111】
図14は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにおける、各モード及び変速段での複数の摩擦係合要素C1、C2、B1の作動状態を示す作動表である。この図に示すように、本実施形態においては、ハイブリッド駆動装置Hはパラレルモードを備えておらず、スプリットモード、第一EVモード、及び第二EVモードの3つのモードと、第一EVモードについて低速段(Lo)及び高速段(Hi)の2つの変速段とを切り替え可能に備えている。スプリットモードは、第一クラッチC1が係合状態、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1が解放状態で実現される。第一EVモードの低速段(Lo)は、第一ブレーキB1が係合状態、及び第二クラッチC2が解放状態で実現される。なお、第一クラッチC1は係合状態と解放状態のいずれであっても良い。第一EVモードの高速段(Hi)は、第二クラッチC2が係合状態、第一クラッチC1及び第一ブレーキB1が解放状態で実現される。第二EVモードは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第一ブレーキB1の全てが解放状態で実現される。
【0112】
これらの各モード及び変速段でのハイブリッド駆動装置Hの動作状態については、第一の実施形態と同様であるのでここでは詳しい説明を省略するが、第一EVモードでは基本的に第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2を力行させて車両を走行させるため、バッテリ21の電力を多く消費する。同様に、第二EVモードでは基本的に第二モータ・ジェネレータMG2を力行させて車両を走行させるため、バッテリ21の電力を比較的多く消費する。一方、スプリットモードにおける車両の通常走行時には、第一モータ・ジェネレータMG1は正回転しつつ負方向のトルクを発生して発電を行い、第二モータ・ジェネレータMG2は第一モータ・ジェネレータMG1が発電して得た電力を消費して力行し、正方向のMG2トルクT2を出力して出力部材Oに伝達されるエンジントルクTEを補助する。よって、スプリットモードでは基本的にはバッテリ21の電力が消費されない。
【0113】
従って、本実施形態においては、バッテリ充電量が比較的多い第一領域にあるときには、モード選択部42は、図15に示すような第一切替マップ45を用いて、車速及びアクセル開度(アクセルペダル23の操作量)に応じて、第一EVモード、第二EVモード、及びスプリットモードの中からモード及び変速段の選択を行う。一方、バッテリ充電量が比較的少ない第二領域にあるときには、モード選択部42は、車速及びアクセル開度(アクセルペダル23の操作量)に関わらず、スプリットモードを選択する(不図示)。
【0114】
ここで、バッテリ充電量が第一領域にある場合の各モード及び変速段の選択について、図15を参照して説明する。まず、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hが切替可能に備える各モードのうち、第一EVモード及び第二EVモードでは、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の一方又は双方を力行させて車両を走行させるため、車速が比較的高い中〜高車速域であってかつアクセル開度が比較的高い(要求される駆動力が比較的大きい)領域で第一EVモード又は第二EVモードを用いると、バッテリ21の充電量が急激に低下してこれらのモードを継続することができなくなってしまう。そこで、本実施形態においては、車速が比較的高い中〜高車速域であってかつアクセル開度が比較的高い領域では、スプリットモードが選択されることにしている。図示の例では、車速及びアクセル開度が比較的高い領域を区画する線、すなわち、車速が高くなるに従ってアクセル開度が低くなり、更に車速が高い領域では車速が高くなるに従ってアクセル開度が僅かずつ低くなる線で構成される第一境界線L1よりも高車速・高アクセル開度側の領域で、スプリットモードが用いられる。
【0115】
次に、第二EVモードは、第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力のみを用いて車両を走行させるため、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力の双方を用いて車両を走行させる第一EVモードと比べて、出力することができる駆動力は小さい。そこで、本実施形態においては、アクセル開度が比較的低い(要求される駆動力が小さい)領域では、第二EVモードが選択されることにしている。図示の例では、車速が比較的低い領域ではアクセル開度A1に沿った線であり、それより車速が高い領域では車速が高くなるに従ってアクセル開度が低くなり、更に車速が高い領域では車速が高くなるに従ってアクセル開度が僅かずつ低くなる線で構成される第二境界線L2よりもアクセル開度が低い側で第二EVモードが用いられる。
【0116】
第一EVモードは、第二EVモードより大きい駆動力を出力することができるので、第二EVモードよりもアクセル開度が高い領域で用いられる。すなわち、上記第二境界線L2よりもアクセル開度が高い側で第一EVモードが用いられる。更にその中でも、第一EVモードの低速段(Lo)は、高速段(Hi)と比べて大きい駆動力を出力することができるので、アクセル開度が高い領域で用いられる。一方、第一EVモードの高速段(Hi)は、車速に対して第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を低く抑えて走行することができてエネルギ効率が高い。そのため、第一EVモードの高速段(Hi)は、低速段(Lo)に対してアクセル開度が低い領域、ここでは第二EVモードとの関係でアクセル開度が中程度の領域で用いられる。図示の例では、第一EVモードの低速段(Lo)は、アクセル開度A2に沿った線で構成される第三境界線L3よりもアクセル開度が高い領域で用いられる。また、第一EVモードの高速段(Hi)は、上記第三境界線L3や第一境界線L1よりもアクセル開度が低く、上記第二境界線L2よりもアクセル開度が高い領域で用いられる。
【0117】
上記のようにして、モード選択部42によりモード及び変速段が選択されると、それに応じて切替制御部43が油圧制御装置35の動作を制御して第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第一ブレーキB1のそれぞれの係合又は解放を行い、ハイブリッド駆動装置Hのモード及び変速段を切り替える制御を行う。
【0118】
このように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、スプリットモード、第一EVモード、及び第二EVモードの3つのモードを切り替え可能に備えるとともに、第一EVモードについて低速段(Lo)及び高速段(Hi)の2つの変速段を切り替え可能に備えている。この構成では、スプリットモード、第一EVモード、及び第二EVモードの各モード、並びに第一EVモードが備える低速段(Lo)及び高速段(Hi)の2つの変速段を、車両の走行状態や車速域に応じて適切に切り替えることにより、様々な車両の走行状態や車速域において、十分な駆動力を出力しつつ高いエネルギ効率で車両を走行させることが可能となっている。また、このような各モード及び変速段の切り替えを、三つの摩擦係合要素C1、C2、B1の係合状態を制御することにより単一の遊星歯車装置P1の回転要素の回転状態を切り替えるという非常に簡略な構成で実現している。従って、ハイブリッド駆動装置Hの駆動伝達系を簡略化し、装置の大型化や重量増を抑えることが可能となっている。
【0119】
5.その他の実施形態
(1)上記の各実施形態では、第一回転電機駆動モードとしての第一EVモードが、減速段としての低速段(Lo)と直結段としての高速段(Hi)とを切り替え可能に備える構成を例として説明した。また、上記の第一から第三の実施形態では、エンジン駆動モードとしてのパラレルモードが、直結段としての低速段(Lo)と増速段としての高速段(Hi)とを切り替え可能に備える構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。したがって、第一回転電機駆動モードが、直結段と増速段の2つの変速段を切り替え可能に備え、或いは減速段と増速段の2つの変速段を切り替え可能に備えた構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。同様に、エンジン駆動モードが、減速段と直結段の2つの変速段を切り替え可能に備え、或いは減速段と増速段の2つの変速段を切り替え可能に備えた構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。このような構成は、第一遊星歯車装置P1の構成を変更し、或いは第一遊星歯車装置P1の3つの回転要素と各部との接続関係を変更することにより実現可能である。なお、第一遊星歯車装置P1の構成を変更としては、例えば、シングルピニオン型遊星歯車機構からダブルピニオン型遊星歯車機構への変更等が可能である。
【0120】
(2)上記の第一から第三の実施形態では、差動規制装置が、差動歯車装置としての第一遊星歯車装置P1のサンギヤs1(第一回転要素)とキャリアca1(第二回転要素)とを選択的に接続する構成を例として説明した。しかし、差動規制装置は、第一遊星歯車装置P1の任意の2つの回転要素を選択的に接続するものであれば、上記の各実施形態と同様の機能を果たすことができる。したがって、例えば、差動規制装置が、第一遊星歯車装置P1のキャリアca1とリングギヤr1とを選択的に接続する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0121】
(3)上記の各実施形態では、無段変速モードとしてのスプリットモード、第一回転電機駆動モードとしての第一EVモード、及びエンジン駆動モードとしてのパラレルモードの全てのモードにおいて(ただし、パラレルモードについては第一から第三の実施形態のみ)、第二モータ・ジェネレータMG2をアシストモータとして用いる構成、すなわち、車両の走行のための駆動力を補助するために、第二モータ・ジェネレータMG2が回転駆動力を出力部材Oに伝達する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。したがって、無段変速モード及び第一回転電機駆動モードの一方又は双方で、第二モータ・ジェネレータMG2をアシストモータとして用いない構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、エンジン駆動モードで、第二モータ・ジェネレータMG2をアシストモータとして用いない構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0122】
(4)上記第一及び第四の実施形態では、第一固定装置、第二固定装置(第一の実施形態のみ)、分離装置、及び差動規制装置が、いずれも摩擦係合要素としてのブレーキ又はクラッチにより構成されている場合を例として説明した。また、上記第二及び第三の実施形態では、分離装置が噛み合い式係合要素としてのドグクラッチにより構成され、第一固定装置がワンウェイクラッチにより構成され、第二固定手段及び差動規制装置が噛み合い式係合要素としてのドグクラッチとワンウェイクラッチとの組み合わせにより構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第一固定装置は、噛み合い式係合要素としてのドグクラッチにより構成し、或いは噛み合い式係合要素としてのドグクラッチとワンウェイクラッチとの組み合わせにより構成しても好適である。また、第二固定装置は、噛み合い式係合要素としてのドグクラッチのみにより構成しても好適である。また、差動規制装置は、噛み合い式係合要素としてのドグクラッチのみにより構成しても好適である。また、分離装置は、噛み合い式係合要素としてのドグクラッチとワンウェイクラッチとの組み合わせ、或いはワンウェイクラッチのみにより構成しても好適である。
【0123】
(5)上記の第四の実施形態では、ハイブリッド駆動装置Hがエンジン駆動モードとしてのパラレルモードを切替可能に備えていない場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第一クラッチC1及び第二クラッチC2を係合状態、第一ブレーキB1を解放状態とするとともに、第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力を出力部材O側に伝達させることによりパラレルモードが実現可能な構成とし、スプリットモード、第一EVモード、第二EVモード、及びパラレルモードの間でモードの切り替えが可能な構成としても好適である。そしてこれらの各モード、並びに第一EVモードの低速段(Lo)及び高速段(Hi)の2つの変速段を、車両の走行状態や車速域に応じて切り替えることにより、様々な車両の走行状態や車速域において、十分な駆動力を出力しつつ高いエネルギ効率で車両を走行させることが可能となる。
【0124】
(6)第二の実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにおいて、第二固定装置としての第三ドグクラッチDC3と第三ワンウェイクラッチOC3の組み合わせを備えておらず、エンジン駆動モードとしてのパラレルモードを切替可能に備えていない構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、第四の実施形態における場合と同様に、スプリットモード、第一EVモード、及び第二EVモードの間でモードの切り替えが可能となる。なお、この場合において、第一ドグクラッチDC1、第二ドグクラッチDC2、及び第二ワンウェイクラッチOC2を係合状態、第一ワンウェイクラッチOC1を解放状態とするとともに、第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力を出力部材O側に伝達させることにより実現されるエンジン駆動モードとしてのパラレルモードを、更に切替可能に備える構成としても好適である。
【0125】
(7)上記の各実施形態では、差動歯車装置としての第一遊星歯車装置P1が、シングルピニオン型遊星歯車機構で構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、第一遊星歯車装置P1をダブルピニオン型遊星歯車機構により構成することも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、本発明の実施形態は、差動歯車装置を遊星歯車装置により構成したものに限定されない。したがって、本発明における差動歯車装置を、複数の傘歯車を組み合わせた構成等のように、他の形態の歯車機構を用いて差動歯車装置を構成することも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0126】
(8)上記の各実施形態では、第一遊星歯車装置P1の出力回転要素としてのリングギヤr1が駆動歯車14及び従動歯車15、並びにこれらに巻回された伝動チェーン16を介して第二ロータ軸17に接続され、この第二ロータ軸17が、第二モータ・ジェネレータMG2のロータRo2と一体回転するとともに、減速装置として機能する第二遊星歯車装置P2を介して出力部材Oに接続された構成を例として説明した。しかし、このような接続関係は単なる例示であり、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。したがって、例えば、第一遊星歯車装置P1の出力回転要素及び第二モータ・ジェネレータMG2が、伝動チェーン16や減速機構等を介することなく、出力部材Oに直接接続された構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、第一遊星歯車装置P1の出力回転要素と第二モータ・ジェネレータMG2との接続も、各種構成とすることが可能であり、例えば、伝動ベルト、ギヤ、カウンタギヤ機構等を介してこれらの間の接続を行うことも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0127】
(9)上記の各実施形態において説明した差動歯車装置の各回転要素に対する各部材の接続関係、並びに差動歯車装置の各回転要素に対する摩擦係合要素の配置構成は単なる例示であり、上記以外の構成によっても本発明の構成を実現することが可能な全ての構成が、本発明の範囲に含まれる。
【0128】
(10)上記の各実施形態では、蓄電手段としてのバッテリ21が外部電源により充電可能に構成され、ハイブリッド駆動装置Hがプラグインハイブリッド車両の駆動装置として構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、蓄電手段が、ハイブリッド駆動装置Hが備える回転電機としてのジェネレータ又はモータ・ジェネレータのみにより充電される構成である、ハイブリッド車両の駆動装置として、本発明に係るハイブリッド駆動装置Hを構成することも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、ハイブリッド車両の駆動装置として好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明の第一の実施形態に係るハイブリッド駆動装置の構成を示すスケルトン図
【図2】本発明の第一の実施形態に係るハイブリッド駆動装置のシステム構成を示す模式図
【図3】本発明の第一の実施形態に係る第一切替マップの例を示す図
【図4】本発明の第一の実施形態に係る第二切替マップの例を示す図
【図5】本発明の第一の実施形態に係る各モード及び変速段での複数の摩擦係合要素の作動状態を示す作動表
【図6】本発明の第一の実施形態に係るスプリットモードでの第一遊星歯車装置の速度線図
【図7】本発明の第一の実施形態に係るパラレルモードでの第一遊星歯車装置の速度線図
【図8】本発明の第一の実施形態に係る第一EVモードでの第一遊星歯車装置の速度線図
【図9】本発明の第一の実施形態に係る第二EVモードでの第一遊星歯車装置の速度線図
【図10】本発明の第二の実施形態に係るハイブリッド駆動装置の構成を示すスケルトン図
【図11】本発明の第二の実施形態に係る各モード及び変速段での複数のドグクラッチ及びワンウェイクラッチの作動状態を示す作動表
【図12】本発明の第三の実施形態に係るハイブリッド駆動装置の構成を示すスケルトン図
【図13】本発明の第四の実施形態に係るハイブリッド駆動装置の構成を示すスケルトン図
【図14】本発明の第四の実施形態に係る各モード及び変速段での複数の摩擦係合要素の作動状態を示す作動表
【図15】本発明の第四の実施形態に係る第一切替マップの例を示す図
【符号の説明】
【0131】
H:ハイブリッド駆動装置
E:エンジン
I:入力軸(入力部材)
O:出力部材
W:車輪
MG1:第一モータ・ジェネレータ(第一回転電機)
MG2:第二モータ・ジェネレータ(第二回転電機)
P1:第一遊星歯車装置(差動歯車装置)
s1:サンギヤ(第一回転要素)
ca1:キャリア(第二回転要素)
r1:リングギヤ(第三回転要素)
C1:第一クラッチ(分離装置)
C2:第二クラッチ(差動規制装置)
B1:第一ブレーキ(第一固定装置)
B2:第二ブレーキ(第二固定装置)
C:ケース(非回転部材)
21:バッテリ(蓄電手段)
DC1:第一ドグクラッチ(分離装置)
DC2:第二ドグクラッチ(差動規制装置)
DC3:第三ドグクラッチ(第二固定装置)
OC1:第一ワンウェイクラッチ(第一固定装置)
OC2:第二ワンウェイクラッチ(差動規制装置)
OC3:第三ワンウェイクラッチ(第二固定装置)
DC4:第四ドグクラッチ(差動規制装置、第二固定装置)
OC4:第四ワンウェイクラッチ(差動規制装置、第二固定装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに接続された入力部材と、車輪に接続された出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、前記入力部材に接続された回転要素、前記出力部材及び前記第二回転電機に接続された回転要素、並びに前記第一回転電機に接続された回転要素の3つの回転要素を有する差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置であって、
前記差動歯車装置の3つの回転要素を自由に回転可能な状態とするとともに前記第一回転電機の回転を制御することにより、前記入力部材の回転を無段階に変速して前記出力部材側に伝達する無段変速モードと、
前記第一回転電機の回転駆動力を前記出力部材に伝達するモードであって、前記差動歯車装置の3つの回転要素の回転状態を切り替えることによって、前記第一回転電機の回転を前記出力部材側に伝達する際の変速比が異なる2つの変速段を切り替え可能に備える第一回転電機駆動モードと、
を切り替え可能に備えたハイブリッド駆動装置。
【請求項2】
前記第一回転電機駆動モードは、
前記入力部材に接続された回転要素の回転を停止させ、前記第一回転電機の回転を変速して前記出力部材側に伝達する第一変速段と、
前記差動歯車装置が一体回転する状態として前記第一回転電機の回転を同速で前記出力部材側に伝達する第二変速段と、
を切り替え可能に備える請求項1に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項3】
前記入力部材の回転駆動力を前記出力部材に伝達するモードであって、前記差動歯車装置の3つの回転要素の回転状態を切り替えることによって、前記入力部材の回転を前記出力部材側に伝達する際の変速比が異なる2つの変速段を切り替え可能に備えるエンジン駆動モードを、切り替え可能に更に備えた請求項1又は2に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項4】
前記エンジン駆動モードは、
前記第一回転電機に接続された回転要素の回転を停止させ、前記入力部材の回転を変速して前記出力部材側に伝達する第一変速段と、
前記差動歯車装置が一体回転する状態として前記入力部材の回転を同速で前記出力部材側に伝達する第二変速段と、
を切り替え可能に備える請求項3に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項5】
前記第二回転電機は、前記無段変速モード及び前記第一回転電機駆動モードの一方又は双方で、回転駆動力を前記出力部材に伝達する請求項1から4のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項6】
前記第二回転電機は、前記エンジン駆動モードで、回転駆動力を前記出力部材に伝達する請求項3又は4に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項7】
前記第一回転電機を非駆動状態にするとともに、前記第二回転電機の回転駆動力を前記出力部材に伝達する第二回転電機駆動モードを、切り替え可能に更に備えた請求項1から6のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項8】
前記差動歯車装置は、第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素の3つの回転要素を有し、前記第一回転要素が前記第一回転電機に接続され、前記第二回転要素が前記入力部材に接続され、前記第三回転要素が前記出力部材及び前記第二回転電機に接続され、
前記第二回転要素を非回転部材に選択的に固定する第一固定装置と、
前記差動歯車装置の任意の2つの回転要素を選択的に接続して一体回転させる差動規制装置と、
を備えた請求項1又は2に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項9】
前記差動歯車装置の3つの回転要素は、回転速度の順に前記第一回転要素、前記第二回転要素、前記第三回転要素となっている請求項8に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項10】
前記入力部材と前記第二回転要素とを選択的に分離する分離装置を更に備える請求項8又は9に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項11】
前記第一回転要素を非回転部材に選択的に固定する第二固定装置を更に備える請求項8から10のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項12】
前記第一回転電機駆動モードは、前記第一固定装置が固定状態、及び前記差動規制装置が非接続状態で第一変速段が実現され、前記第一固定装置が非固定状態、及び前記差動規制装置が接続状態で第二変速段が実現される請求項8から11のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項13】
前記無段変速モードは、前記第一固定装置が非固定状態、及び前記差動規制装置が非接続状態で実現される請求項8から12のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項14】
前記入力部材の回転駆動力を前記出力部材に伝達するモードであって、前記差動歯車装置の3つの回転要素の回転状態を切り替えることによって、前記入力部材の回転を前記出力部材側に伝達する際の変速比が異なる2つの変速段を切り替え可能に備えるエンジン駆動モードを、切り替え可能に更に備え、
前記エンジン駆動モードは、前記第一固定装置が非固定状態、前記第二固定装置が固定状態、及び前記差動規制装置が非接続状態で第一変速段が実現され、前記第一固定装置が非固定状態、前記第二固定装置が非固定状態、及び前記差動規制装置が接続状態で第二変速段が実現される請求項11に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項15】
前記第一固定装置は、前記第二回転要素又はこれと一体回転する回転要素と非回転部材とを摩擦係合させる摩擦係合要素、前記第二回転要素又はこれと一体回転する回転要素と非回転部材とを噛み合い係合させる噛み合い式係合要素、及び前記第二回転要素の負方向回転を阻止するワンウェイクラッチ、のいずれかを有して構成されている請求項8から14のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項16】
前記差動規制装置は、前記第一回転要素又はこれと一体回転する回転要素と前記第二回転要素又はこれと一体回転する回転要素とを摩擦係合させる摩擦係合要素、前記第一回転要素又はこれと一体回転する回転要素と前記第二回転要素又はこれと一体回転する回転要素とを噛み合い係合させる噛み合い式係合要素、及び前記噛み合い式係合要素と前記第一回転要素の回転速度が前記第二回転要素の回転速度より速くなることを阻止するワンウェイクラッチとの組み合わせ、のいずれかを有して構成されている請求項8から15のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項17】
前記第二固定装置は、前記第一回転要素又はこれと一体回転する回転要素と非回転部材とを摩擦係合させる摩擦係合要素、前記第一回転要素又はこれと一体回転する回転要素と非回転部材とを噛み合い係合させる噛み合い式係合要素、及び前記噛み合い式係合要素と前記第一回転要素の正方向回転を阻止するワンウェイクラッチとの組み合わせ、のいずれかを有して構成されている請求項11又は14に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項18】
前記第一回転電機及び前記第二回転電機に電力を供給するための蓄電手段が、外部電源により充電可能に構成された請求項1から17のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項19】
エンジンに接続された入力部材と、車輪に接続された出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置であって、
前記差動歯車装置は、第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素の3つの回転要素を有し、前記第一回転要素が前記第一回転電機に接続され、前記第二回転要素が前記入力部材に接続され、前記第三回転要素が前記出力部材及び前記第二回転電機に接続され、
前記第二回転要素を非回転部材に選択的に固定する第一固定装置と、
前記差動歯車装置の任意の2つの回転要素を選択的に接続して一体回転させる差動規制装置と、
を備えたハイブリッド駆動装置。
【請求項20】
前記入力部材と前記第二回転要素とを選択的に分離する分離装置を更に備える請求項19に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項21】
前記第一回転要素を非回転部材に選択的に固定する第二固定装置を更に備える請求項19又は20に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項22】
前記差動歯車装置の3つの回転要素は、回転速度の順に前記第一回転要素、前記第二回転要素、前記第三回転要素となっている請求項19から21のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−36880(P2010−36880A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304719(P2008−304719)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】