説明

バリア性積層体とその製造方法、デバイスおよび光学部材

【課題】簡便な製法により従来よりもバリア性が高い有機無機積層型のバリア性積層体を提供する。
【解決手段】プラスチックフィルム支持体上に、少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有するバリア性積層体を製造する方法において、支持体にバイアスを印加しながら前記有機層をスパッタリング法によって成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体上に、少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有するバリア性積層体とその製造方法に関する。また本発明は、このようなバリア性積層体を用いたデバイスおよび光学部材にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示素子や有機EL素子(有機電界発光素子)等の分野においては、重くて割れやすいガラス基板に代わって、プラスチックフィルム基板が採用され始めている。プラスチックフィルム基板はロールトゥロール(Roll to Roll)方式に適用可能であることから、製造効率やコストの点で有利である。しかし、プラスチックフィルム基板はガラス基板と比較すると水蒸気バリア性に劣るという問題がある。水蒸気バリア性に劣る基板を液晶表示素子や有機EL素子に用いると、水蒸気が液晶セル内に侵入して表示欠陥が発生しやすくなる。
【0003】
このため、プラスチックフィルム基板のバリア性を向上させるために、プラスチックフィルム支持体上にバリア性を有する無機層を形成することが広く行われている。例えば、プラスチックフィルム支持体上に酸化珪素を蒸着したもの(例えば、特許文献1参照)や、プラスチックフィルム支持体上に酸化アルミニウムを蒸着したもの(例えば、特許文献2参照)が知られている。しかしながら、プラスチックフィルム支持体上には傷やゴミが存在しているため、そのようなプラスチックフィルム支持体上に直に無機層を形成しても、十分なバリア性を確保することはできなかった。
【0004】
そこで、この問題を解決するために、プラスチックフィルム支持体上に有機層を形成してから無機層をさらに形成したプラスチックフィルム基板が開発された。このような有機無機積層型のバリア性フィルム基板として、水蒸気透過率が0.1g/m2/day未満を実現するもの(例えば、特許文献3および4参照)や、さらに低い水蒸気透過率を実現するもの(例えば、特許文献5参照)が提案されている。このような有機無機積層型のプラスチックフィルム基板は、プラスチックフィルム支持体上に、蒸着法やプラズマ重合法により有機層を形成し、さらにスパッタリング法で無機層を形成することにより製造されている(例えば特許文献6参照)。
【特許文献1】特公昭53−12953号公報(第1頁〜第3頁)
【特許文献2】特開昭58−217344号公報(第1頁〜第4頁)
【特許文献3】特開2003−335880号公報
【特許文献4】特開2003−335820号公報
【特許文献5】特開2005−7741号公報
【特許文献6】特開2003−109748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、蒸着法やプラズマ重合法では、有機材料を昇華させる工程が必須となるため、使用できる有機材料の分子量に制約がある。また、蒸着法の場合は、昇華させるために行う加熱により分解したり炭化したりしない有機材料しか用いることができないという制約もある。このため、蒸着法やプラズマ重合法では、プラスチックフィルム支持体上に必ずしも所望の有機層を形成することができないという問題がある。また、上記特許文献6に記載される方法で製造される積層体は必ずしもバリア性が十分でなく、液晶表示素子や有機EL素子等に用いるにはなお改善が必要とされている。
【0006】
本発明者らは、従来技術の上記課題に鑑みて、簡便な方法により従来よりもバリア性が高い有機無機積層型のバリア性積層体を提供することを目的として検討を進めた。また、有機層と無機層を真空状態で一貫して形成することが可能な方法を提供することも目的として検討を進めた。さらに、本発明者らは、そのような新たな製法を用いて、新しい材料による高バリア性の積層体や、耐久性に優れたデバイスや光学部材を提供することも目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、支持体の上に特定の方法で有機層を形成し、さらにその上に無機層を形成すれば、従来技術の課題を解決しうることを見出した。その結果、以下に記載の本発明を提供するに至った。
【0008】
[1] 支持体上に、少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有するバリア性積層体の製造方法であって、前記有機層をスパッタリング法によって成膜することを特徴とする製造方法。
[2] 前記支持体にバイアスを印加しながら、前記有機層を成膜することを特徴とする、[1]に記載のバリア性積層体の製造方法。
[3] 前記有機層がポリエーテルサルホンを主成分とすることを特徴とする、[1]または[2]に記載のバリア性積層体の製造方法。
[4] 前記支持体がプラスチックフィルムであることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のバリア性積層体の製造方法。
[5]前記支持体が有機EL基板であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のバリア性積層体の製造方法。
[6]前記無機層もスパッタリング法により成膜することを特徴とする、[1]〜[5]のいずれか1項に記載のバリア性積層体の製造方法。
[7] 前記無機層が酸化アルミニウムまたは窒化珪素からなる層であることを特徴とする、[6]に記載のバリア性積層体の製造方法。
[8]前記無機層をCVD法により成膜することを特徴とする、[1]〜[5]のいずれか1項に記載のバリア性積層体の製造方法。
[9]前記無機層が窒化珪素からなる層であることを特徴とする、[8]に記載のバリア性積層体の製造方法。
[10] 同一のスパッタリング装置内にて、前記有機層と前記無機層を成膜することを特徴とする、[7]に記載のバリア性積層体の製造方法。
[11] 真空中にて、前記有機層と前記無機層とを真空状態を維持したまま順次成膜することを特徴とする、[6]〜[9]に記載のバリア性積層体の製造方法。
【0009】
[12] [1]〜[11]のいずれか1項に記載の方法により製造したバリア性積層体。
[13] 支持体上に、少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有するバリア性積層体であって、前記有機層が、分子量が2000以上の有機材料を主成分とする層であり、かつ、前記バリア性積層体の水蒸気透過率が0.1g/m2/day未満であることを特徴とするバリア性積層体。
[14] 支持体上に、少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有するバリア性積層体であって、前記有機層が、ポリエチレンナフタレートまたはポリエーテルサルホンを主成分とする層であり、かつ、前記バリア性積層体の水蒸気透過率が0.1g/m2/day未満であることを特徴とするバリア性積層体。
[15] [12]〜[14]のいずれか1項に記載のバリア性積層体を用いたデバイス。
[16] [12]〜[14]のいずれか1項に記載のバリア性積層体を封止フィルムとして用いたデバイス。
[17] 前記デバイスが有機EL素子である[15]または[16]に記載のデバイス。
[18] [12]〜[14]のいずれか一項に記載のバリア性積層体を用いた光学部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、分子量などの制約なく多種多様な有機材料を用いて有機無機積層型のバリア性積層体を提供することができる。また、本発明の製造方法を利用すれば、有機層と無機層を真空状態で一貫して成膜することも可能である。さらに本発明の製造方法により製造されるバリア性積層体は、従来法で製造されるものよりもバリア性が高く、当該積層体を用いたデバイスや光学部材は耐久性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0012】
<支持体>
支持体は、本発明のバリア性積層体において、少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層を形成するための土台となるものである。
本発明におけるバリア性積層体には、支持体としてプラスチックフィルムを好ましく用いることができる。本発明において用いるプラスチックフィルムは、その表面に有機層、無機層等の積層体を形成し保持することができるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記プラスチックフィルムとしては、具体的には、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0013】
本発明のバリア性積層体に耐熱性が要求される場合には、支持体にも耐熱性が要求される。例えば、本発明のバリア性積層体を後述する有機EL素子等のデバイスの基板等として使用する場合は、支持体が耐熱性を有する素材からなることが好ましい。具体的には、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上および/または線熱膨張係数が40ppm/℃以下で耐熱性の高い透明な素材からなることが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂であれば、ポリマー単体のTgが70℃〜350℃であるものが好ましく、中でも120℃以上であるものがさらに好ましい。このような熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN:120℃)、ポリカーボネート(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン(例えば日本ゼオン(株)製 ゼオノア1600:160℃)、ポリアリレート(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン(PES:220℃)、ポリスルホン(PSF:190℃)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001−150584号公報の化合物:162℃)、ポリイミド(例えば三菱ガス化学(株)ネオプリム:260℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート(BCF−PC:特開2000−227603号公報の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート(IP−PC:特開2000−227603号公報の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報の化合物:300℃以上)が挙げられる(括弧内はTgを示す)。特に、透明性を求める場合には脂環式ポレオレフィン等を使用するのが好ましい。なお、Tgや線膨張係数は、添加剤などによって調整することができる。
【0014】
本発明のバリア性積層体の支持体としては、熱硬化性樹脂を使用することもできる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂および放射線硬化性樹脂が挙げられる。エポキシ系樹脂は、ポリフェノ−ル型、ビスフェノール型、ハロゲン化ビスフェノール型およびノボラック型のものが挙げられる。エポキシ系樹脂を硬化させるための硬化剤は、公知の硬化剤を用いることができる。例えば、アミン系、ポリアミノアミド系、酸および酸無水物、イミダゾール、メルカプタンおよびフェノール樹脂等の硬化剤が挙げられる。中でも、耐溶剤性、光学特性、熱特性等の観点から、酸無水物および酸無水物構造を含むポリマーまたは脂肪族アミン類が好ましく用いられ、特に好ましいのは、酸無水物および酸無水物構造を含むポリマーである。さらに、公知の第三アミン類やイミダゾール類等の硬化触媒を適量加えることが好ましい。
【0015】
本発明のバリア性積層体を偏光板と組み合わせて使用する場合、バリア性積層体のバリア層面(少なくとも1層の無機層と少なくとも1層の有機層を含む積層体を形成した面)がセルの内側に向くようにし、最も内側に(素子に隣接して)配置することが好ましい。このとき偏光板よりセルの内側にバリア性積層体が配置されることになるため、バリア性積層体のレターデーション値が重要になる。このような態様でのバリア性積層体の使用形態は、レターデーション値が10nm以下の支持体を用いたバリア性積層体と円偏光板(1/4波長板+(1/2波長板)+直線偏光板)を積層して使用するか、あるいは1/4波長板として使用可能な、レターデーション値が100nm〜180nmの支持体を用いたバリア性積層体に直線偏光板を組み合わせて用いるのが好ましい。
【0016】
レターデーションが10nm以下の支持体としては、セルローストリアセテート(富士フイルム(株):富士タック)、ポリカーボネート(帝人化成(株):ピュアエース、(株)カネカ:エルメック)、シクロオレフィンポリマー(JSR(株):アートン、日本ゼオン(株):ゼオノア)、シクロオレフィンコポリマー(三井化学(株):アペル(ペレット)、ポリプラスチック(株):トパス(ペレット))ポリアリレート(ユニチカ(株):U100(ペレット))、透明ポリイミド(三菱ガス化学(株):ネオプリム)等を挙げることができる。なお1/4波長板としては、上記のフィルムを適宜延伸することで所望のレターデーション値に調整したフィルムを用いることができる。
【0017】
本発明のバリア性積層体を有機EL素子等のデバイスとして利用する場合には、支持体は透明であることが望ましい。このような透明性が求められる用途に用いる場合は、支持体の光線透過率は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。光線透過率は、JIS−K7105に記載された方法、すなわち積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率および散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。
【0018】
本発明のバリア性積層体をディスプレイ用途に用いる場合であっても、バリア性積層体を観察側に設置しない場合などは必ずしも透明性が要求されない。したがって、このような場合は、支持体として不透明な材料を用いることもできる。不透明な材料としては、例えばポリイミド、ポリアクリロニトリル、公知の液晶ポリマーなどが挙げられる。
【0019】
本発明のバリア性積層体に用いられる支持体の厚みは、用途によって適宜選択されるので特に制限がない。上記のようなプラスチックフィルム等からなる支持体を用いる場合、その厚みは典型的には1〜800μmであり、好ましくは10〜200μmである。これらの支持体は、透明導電層、プライマー層等の機能層を有していてもよい。
【0020】
本発明では、支持体として有機EL素子のようなデバイスや光学部材を選択してもよい。特に封止を必要とするデバイスや光学部材を支持体として選択し、その上に本発明の製造方法にしたがって少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層を形成すれば、これらのデバイスや光学部材を効果的に封止することができる。これらのデバイスや光学部材の詳細については後述する。
【0021】
<有機層>
本発明のバリア性積層体は、有機層をスパッタリング法により成膜する点に特徴がある。
スパッタリング法は、真空中に不活性ガスを導入しながら、直流電圧や高周波による自己バイアスをターゲットに印加することにより、不活性ガスのプラズマ化により発生したイオンをターゲットに衝突させることによりはじき飛ばされたターゲット物質を支持体上に付着させる方法である。本発明では、高周波による自己バイアスを有機材料が主成分であるターゲットに印加して支持体上に有機層を成膜する。
【0022】
本発明の製造方法によれば、幅広い有機材料をターゲットとして用いて有機層を成膜することができる。すなわち、固体であれば特に制限なく有機材料をターゲットとして用いることができ、分子量が大きな有機材料もターゲットとして用いることができるという利点がある。例えば、分子量が2000以上の有機材料をターゲットとして用いることが可能であり、より大きな分子量領域では分子量が5000以上の有機材料をターゲットとして用いることが可能であり、さらに大きな分子量領域では分子量が10000以上の有機材料をターゲットとして用いることが可能である。これらの分子量が大きな有機材料は、従来の蒸着法やプラズマ重合法による有機層形成では用いることができなかったものである。したがって、本発明の製造方法によれば有機材料の選択の幅が拡がり、所望の機能を有する有機材料を自由に選択できるという利点がある。また、それによって材料設計が容易になり、産業上の利用可能性も高まるという利点がある。
【0023】
本発明で成膜する有機層は、通常、ポリマーからなる層である。具体的には、ポリエステル、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂の層である。
【0024】
本発明において、有機層に主として用いられる有機材料として、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエステル、シクロオレフィンポリマー(例えばゼオノア(商品名)など)、ポリエーテルサルホン(PES)を好ましい例として挙げることができる。これらの中では、ポリエステル、シクロオレフィンポリマー、ポリエーテルサルホンがより好ましく、シクロオレフィンポリマー、ポリエーテルサルホンがさらに好ましく、ポリエーテルサルホンが特に好ましい。ここにおいて、主として用いられる有機材料とは、有機層内に少なくとも80質量%以上含まれる有機材料を意味し、好ましくは90質量%以上、より好ましくは
95質量%以上含まれる有機材料である。
【0025】
有機層成膜の際のスパッタリングでは、不活性ガスとして通常ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガス等の第18族元素を用いることが好ましく、なかでもアルゴンガスを用いることがスパッタ率とコストの点でより好ましい。また、不活性ガスとともに微量の酸素ガスや窒素ガスを入れることにより、反応性スパッタリングを行うことも可能である。
【0026】
有機層を成膜する際には、有機材料をターゲットにすることができるスパッタリング装置を用いることができる。有機物専用のスパッタリング装置を用いることもでき、真空中にて他の真空槽に搬送することでスパッタリング法やCVD法にて無機層を真空一貫にて成膜することもできる。また、同一の真空槽にて有機物も無機物もスパッタリングできる装置を用いることもできる。
【0027】
スパッタリング法による有機層の成膜方法について、図1に示すスパッタリング装置を用いた場合を例にとって具体的に説明する。
図1のスパッタリング装置は、アースされた真空槽1内に高周波電極2が設置されており、不活性ガス導入口8から不活性ガスを真空槽1内に導入し、排気口9から排気しうるようになっている。高周波電極2には、RF電源とマッチングボックス10よりRF電力を印加できるようになっている。
【0028】
有機層を成膜する際には、まず本発明のバリア性積層体を製造するための支持体5を、ホルダー6上に固定する。このとき、支持体5はホルダー6上に単に搭載されているだけでもよいし、接着剤などで固定されていてもよい。
また、スパッタリングターゲットとなる有機材料4をバッキングプレート3に貼り付け、図1に示すように高周波電極2に設置する。有機材料をバッキングプレートに貼り付ける前に、有機材料は必要に応じて乾燥させておく。例えば、乾燥ガスを有機材料に当てたり、真空中で加熱したりすることにより有機材料を乾燥させることができる。バッキングプレートに貼り付ける有機材料は、スパッタリングを行うことができる形状であればよい。通常はフィルム状にして貼り付ける。有機材料の貼り付け方は特に制限されず、例えばエポキシやシリコーン樹脂系接着剤によりバッキングプレートに貼り付けることができる。
【0029】
支持体5と有機材料4を設置した後、真空槽1内を減圧して真空状態にする。減圧する際には、ロータリーポンプ、ターボポンプなどを適宜選択して使用することができる。また、必要に応じて真空槽を加熱してもよい。本発明では、有機層のスパッタリング成膜を行う際の圧力を0.01〜100Paとすることが好ましく、0.1〜10Paとすることがより好ましく、1〜10Paとすることがさらに好ましい。不活性ガス導入口8から不活性ガスを真空槽1内に導入し、排気口9から排気しながら、高周波電極2にRF電力を印加してプラズマを発生させてスパッタリングを行う。このとき、支持体にバイアス(基板バイアス)を印加しながら有機層を成膜すれば、よりバリア性を高めることができるため好ましい。バイアスは、通常25〜−200Vとし、好ましくは25〜−100Vとし、より好ましくは25〜−50Vとする。
【0030】
プラズマ発生用電源や支持体にバイアスを印加するための電源としては、RF電源(1MHz以上)、MF電源(1MHz以下)など絶縁物ターゲットのスパッタリングに用いることができるものであれば特に制限なく用いることができる。プラズマ発生用電源と支持体へのバイアス印加用電源は、同一であっても異なっていてもよい。同じ周波数の電源を用いる場合は位相が異なるものを用いる。
【0031】
スパッタリング中の支持体温度は、通常−40〜100℃とし、−20〜50℃とすることが好ましく、0〜25℃とすることがより好ましい。スパッタリングを行う前から、高周波電極2とバッキングプレート3の間には冷却水を流して冷却してもよい。また、スパッタリングを行う際には、支持体を回転や搬送させ膜厚を均一化することが好ましい。
【0032】
スパッタリング法による有機層の成膜には、図2に示すスパッタリング装置も好ましく用いることができる。
図2のスパッタリング装置は、帯状の支持体フィルムを搬送しながら有機層を成膜する装置であり、ロールトゥロール(Roll to Roll)方式で連続成膜することができるものである。支持体25は、チャンバー28内のドラム30上を矢印24の方向にパスロール27を介して搬送される。ドラム30にはドラム用RF電源とマッチングボックス29が接続されている。有機材料ターゲット33は、高周波電極35に設置されたバッキングプレート32に貼り付けられ、高周波電極35にはRF電源とマッチングボックス36が接続されている。不活性ガスは不活性ガス導入口34から導入され、排気口31から排出される。排気口31には、それぞれロータリーポンプ21とターボポンプ22が設置されており、減圧できるようになっている。
【0033】
スパッタリング法により成膜する有機層の膜厚については特に限定はないが、50nm〜2000nmが好ましく、200nm〜1500nmがより好ましい。50nm以上であれば欠陥数が少なくなりバリア性が向上する傾向があるため好ましく、1500nm以下であれば外力によりクラックが発生せずバリア性が低下しにくいため好ましい。有機層の膜厚は、スパッタリング処理時の電力や成膜時間などを制御することにより調整することができる。
【0034】
本発明では、有機層を2層以上積層してもよい。この場合、各層が同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、2層以上積層する場合は、少なくとも1層の有機層がスパッタリング法で成膜されていれば、他の有機層は別の方法で成膜したものであってもよい。好ましいのは、本発明のバリア性積層体の有機層をすべてスパッタリング法で成膜する場合である。
【0035】
本発明の製造方法にしたがって、有機層をスパッタリング法で成膜することにより、無機層の形成までを真空条件下で一貫して行うことが可能である。すなわち、有機層の形成と無機層の形成を真空状態を維持したまま順次行うことが可能である。
【0036】
また、本発明にしたがって有機層をスパッタリング法で成膜することにより、より強固な有機層を形成することができる。いかなる理論にも拘泥するものではないが、このような強固な有機層は、プラズマによるラジカル発生により有機層が架橋したことによるものと考えられる。
さらに、本発明にしたがって支持体上にスパッタリング法により有機層を成膜することにより、支持体と有機層との間の密着性を向上させることができる。支持体と有機層との間の密着性が向上すれば、無機層の内部応力による剥離防止や曲げ耐性向上を図ることができるという利点がある。
【0037】
<無機層>
無機層は、通常、金属化合物からなる薄膜の層である。無機層の形成方法は、目的の薄膜を形成できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法(PVD)、種々の化学的気相成長法(CVD)、めっきやゾルゲル法等の液相成長法がある。有機層と無機層を一貫して真空状態で同一法により形成することができる点では、無機層もスパッタリング法により形成することが好ましい。無機層もスパッタリング法により形成する場合は、有機層を形成したスパッタリング装置と同じ装置を用いてターゲットを変えるだけで無機層を形成することができるため、全体の製造装置をコンパクトにし、製造効率を上げることができる。
【0038】
無機層に含まれる成分は特に限定されないが、例えば、Si、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce、またはTa等から選ばれる1種以上の金属を含む酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物などを用いることができる。これらの中でも、Si、Al、In、Sn、Zn、Tiから選ばれる金属の酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましく、特にSiまたはAlの金属酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましい。これらは、副次的な成分として他の元素を含有してもよい。
【0039】
無機層の厚みに関しては特に限定されないが、1層につき、通常、5〜300nmの範囲内である。無機層の厚みは、好ましくは20〜200nmであり、より好ましくは30〜90nmである。
本発明では、無機層の上に有機層を形成した後、さらに有機層の上に無機層を形成してもよい。また、さらに有機層と無機層の交互積層を繰り返して、複数の無機層を形成してもよい。これらの場合、各無機層は同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、2層以上の無機層を形成する場合は、各無機層の上に有機層を形成する際に、本発明の製造方法を適用することができる。なお、本発明のバリア性積層体には、米国公開特許2004−46497号明細書に開示されるような有機層との界面が明確で無く、組成が膜厚方向で連続的に変化する層が存在していてもよい。
【0040】
<バリア性積層体>
(基本構成)
本発明のバリア性積層体は、支持体上に少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層を有するものであれば、その他の構成は特に制限されない。このとき、支持体上には、まず有機層が形成されており、さらにその有機層の上に無機層が形成されていることが好ましい。有機層と無機層の層数については特に制限はなく、それぞれ2層〜30層が好ましく、3層〜20層がより好ましい。また、有機層と無機層が形成されている面は、支持体の片面のみであってもよいし、両面であってもよい。さらに、片面には本発明にしたがって有機層と無機層が設けられており、その反対面には本発明の要件を満たさない有機層と無機層が設けられていてもよい。このような態様についても、本発明の範囲内に含まれる。
【0041】
本発明のバリア性積層体の支持体上には、有機層、無機層以外に、その他の層が形成されていてもよい。その他の層としては、機能層を挙げることができる。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としては、導電層、マット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。機能層は、少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層からなるバリア層の上、バリア層と支持体の間、有機層と無機層が形成されていない支持体の反対面などのいずれに設置してもよい。
【0042】
(バリア性積層体の性能)
本発明のバリア性積層体は、水蒸気透過率が低いという特徴を有する。本発明のバリア性積層体の水蒸気透過率は、40℃・相対湿度90%の測定環境において、無機層1層あたり通常0.01g/m2・day以下であり、好ましくは0.005g/m2・day以下であり、より好ましくは0.003g/m2・day以下であり、さらに好ましくは0.001g/m2・day以下である。また有機EL素子の封止材とした場合、故障が発生せず発光面状が良好である。
【0043】
(バリア性積層体の用途)
本発明のバリア性積層体は、ガスバリア性が要求される物品の基板として用いることができる。例えば、デバイスや光学部材の基板として有用である。また、本発明のバリア性積層体は、ガスバリア性が要求されるデバイスや光学部材の封止に用いることもできる。以下、これらについて詳細に説明する。
【0044】
<デバイス>
本発明のバリア性積層体は空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等)によって性能が劣化するデバイスに好ましく用いることができる。前記デバイスの例としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池等)等の電子デバイスを挙げることができ、なかでも有機EL素子に好ましく用いられる。
【0045】
本発明のバリア性積層体は、デバイスの膜封止にも利用することができる。すなわち、上記のようにデバイス自体を支持体として、その表面に少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層を設けることにより封止を行うことができる。
このような有機層と無機層を形成する前にデバイスを保護層で覆ってもよい。また、保護層の上に接着剤層を形成してから有機層と無機層を形成してもよい。接着剤には特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等を例示することができる。
【0046】
(有機EL素子)
バリア性積層体を用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。
【0047】
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明のバリア性積層体は、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。このうち本発明のバリア性積層体は、前記上透明電極および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型またはHAN(Hybrid Aligned Nematic)型、VA(Vertically Alignment)型、ECB(Electrically Controlled Birefringence)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、CPA(Continuous Pinwheel Alignment)型、IPS(In−Plane Switching)型であることが好ましい。
【0048】
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のタッチパネル、特開2000−98326号公報に記載の電子ペーパー、特願平7−160334号公報に記載の太陽電池等が挙げられる。
【0049】
<光学部材>
本発明のバリア性積層体を用いる光学部材の例としては円偏光板等が挙げられる。
(円偏光板)
本発明におけるバリア性積層体を基板としλ/4板と偏光板とを積層し、円偏光板を作製することができる。この場合、λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とが45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°の方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−865554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1] スパッタリング法によるバリア性積層体の作製と評価
(サンプルA−1の作製)
アースされた真空槽において、放電ガスとしてはAr、支持体としてはポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン社製、商品名:テオネックスQ65FA、以下PENフィルムという)、ターゲットとしてはAlを用いPEM装置を用いてAl23の組成比になるよう反応ガスとしてO2を加えてターゲットに1000W印加してプラズマ放電しターゲットをスパッタした。30nm成膜したものをA−1とした。
【0052】
(サンプルA−2の作製)
アースされた真空槽において、放電ガスとしてはAr、支持体としてはPESフィルム、ターゲットとしてはAlを用いPEM装置を用いてAl23の組成比になるよう反応ガスとしてO2を加えてターゲットに1000W印加してプラズマ放電しターゲットをスパッタした。30nm成膜したものをA−2とした。
【0053】
(サンプルA−3の作製)
真空槽に支持体としてPENフィルムを用いMMAとIRGCURE907が100:1となるよう温度調節し500nm共蒸着した後UV光を照射し重合させた。次に支持体をアースされた真空槽へ搬送し、放電ガスとしてはAr、ターゲットとしてはAlを用いPEM装置を用いてAl23の組成比になるよう反応ガスとしてO2を加えてターゲットに1000W印加してプラズマ放電しターゲットをスパッタした。30nm成膜したものをA−3とした。
【0054】
(サンプルA−4の作製)
アースされた真空槽において、放電ガスとしてはAr、支持体としてはPENフィルム、ターゲットとしては100μmの厚みのPMMAフィルムを銅製のバッキングプレートに貼り付けた。ターゲットにRF電力を200W印加して0℃、1Paにてプラズマ放電しターゲットをスパッタした。500nm成膜した後ターゲットをAlに切り替えPEM装置を用いてAl23の組成比になるよう反応ガスとしてO2を加えてターゲットに1000W印加してプラズマ放電しターゲットをスパッタした。30nm成膜したものをA−4とした。
【0055】
(サンプルA−5の作製)
アースされた真空槽において、放電ガスとしてはAr、支持体としてはPENフィルム、ターゲットとしては100μmの厚みのPMMAフィルムを銅製のバッキングプレートに貼り付けた。ターゲットにRF電力を200W印加し支持体にRF電力を10W印加して0℃、1Paにてプラズマ放電しターゲットをスパッタした。500nm成膜した後ターゲットをAlに切り替えPEM装置を用いてAl23の組成比になるよう反応ガスとしてO2を加えてターゲットに1000W印加してプラズマ放電しターゲットをスパッタした。30nm成膜したものをA−5とした。
【0056】
(サンプルA−6の作製)
アースされた真空槽において、放電ガスとしてはAr、支持体としてはPENフィルム、ターゲットとしては100μmの厚みのPENフィルムを銅製のバッキングプレートに貼り付けた。ターゲットにRF電力を200W印加して0℃、1Paにてプラズマ放電しターゲットをスパッタした。500nm成膜した後ターゲットをAlに切り替えPEM装置を用いてAl23の組成比になるよう反応ガスとしてO2を加えてターゲットに1000W印加してプラズマ放電しターゲットをスパッタした。30nm成膜したものをA−6とした。
【0057】
(サンプルA−7の作製)
アースされた真空槽において、放電ガスとしてはAr、支持体としてはPENフィルム、ターゲットとしては100μmの厚みのPENフィルムを銅製のバッキングプレートに貼り付けた。ターゲットにRF電力を200W印加し支持体にRF電力を10W印加して0℃、1Paにてプラズマ放電しターゲットをスパッタした。500nm成膜した後ターゲットをAlに切り替えPEM装置を用いてAl23の組成比になるよう反応ガスとしてO2を加えてターゲットに1000W印加してプラズマ放電しターゲットをスパッタした。30nm成膜したものをA−7とした。
【0058】
(サンプルA−8の作製)
アースされた真空槽において、放電ガスとしてはAr、支持体としてはPENフィルム、ターゲットとしては100μmの厚みのPESフィルムを銅製のバッキングプレートに貼り付けた。ターゲットにRF電力を200W印加して0℃、1Paにてプラズマ放電しターゲットをスパッタした。500nm成膜した後ターゲットをAlに切り替えPEM装置を用いてAl23の組成比になるよう反応ガスとしてO2を加えてターゲットに1000W印加してプラズマ放電しターゲットをスパッタした。30nm成膜したものをA−8とした。
【0059】
(サンプルA−9の作製)
アースされた真空槽において、放電ガスとしてはAr、支持体としてはPENフィルム、ターゲットとしては100μmの厚みのPESフィルムを銅製のバッキングプレートに貼り付けた。ターゲットにRF電力を200W印加し支持体にRF電力を10W印加して0℃、1Paにてプラズマ放電しターゲットをスパッタした。500nm成膜した後ターゲットをAlに切り替えPEM装置を用いてAl23の組成比になるよう反応ガスとしてO2を加えてターゲットに1000W印加してプラズマ放電しターゲットをスパッタした。30nm成膜したものをA−9とした。
【0060】
(水蒸気透過率の測定)
G.NISATO、P.C.P.BOUTEN、P.J.SLIKKERVEERらSID Conference Record of the International Display Research Conference 1435-8頁に記載の方法を用いて、40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率をバリア性積層体A−1からA−9についてそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0061】
[実施例2] スパッタリング法によるバリア性積層体の作製と評価
(サンプルB−1の作製)
アースされた真空槽において、放電ガスとしてはAr、支持体としてはPENフィルム、ターゲットとしては100μmの厚みのPMMAフィルムを銅製のバッキングプレートに貼り付けた。ターゲットにRF電力を200W印加し支持体にRF電力を10W印加して0℃、1Paにてプラズマ放電しターゲットをスパッタした。500nm成膜した後ターゲットをSiに切り替えPEM装置を用いてSi34の組成比になるよう反応ガスとしてN2を加えてターゲットに1000W印加してプラズマ放電しターゲットをスパッタした。30nm成膜したものをB−1とした。
【0062】
(サンプルB−2の作製)
アースされた真空槽において、放電ガスとしてはAr、支持体としてはPENフィルム、ターゲットとしては100μmの厚みのPENフィルムを銅製のバッキングプレートに貼り付けた。ターゲットにRF電力を200W印加し支持体にRF電力を10W印加して0℃、1Paにてプラズマ放電しターゲットをスパッタした。500nm成膜した後ターゲットをSiに切り替えPEM装置を用いてSi34の組成比になるよう反応ガスとしてN2を加えてターゲットに1000W印加してプラズマ放電しターゲットをスパッタした。30nm成膜したものをB−2とした。
【0063】
(サンプルB−3の作製)
アースされた真空槽において、放電ガスとしてはAr、支持体としてはPENフィルム、ターゲットとしては100μmの厚みのPESフィルムを銅製のバッキングプレートに貼り付けた。ターゲットにRF電力を200W印加し支持体にRF電力を10W印加して0℃、1Paにてプラズマ放電しターゲットをスパッタした。500nm成膜した後ターゲットをSiに切り替えPEM装置を用いてSi34の組成比になるよう反応ガスとしてN2を加えてターゲットに1000W印加してプラズマ放電しターゲットをスパッタした。30nm成膜したものをB−3とした。
【0064】
(水蒸気透過率の測定)
G.NISATO、P.C.P.BOUTEN、P.J.SLIKKERVEERらSID Conference Record of the International Display Research Conference 1435-8頁に記載の方法を用いて、40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率をバリア性積層体B−1からB−3についてそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0065】
[実施例3] CVD法によるバリア性積層体の作製と評価
(サンプルC−1の作製)
アースされた真空槽において、放電ガスとしてはAr、支持体としてはPENフィルム、ターゲットとしては100μmの厚みのPMMAフィルムを銅製のバッキングプレートに貼り付けた。ターゲットにRF電力を200W印加し支持体にRF電力を10W印加して0℃、1Paにてプラズマ放電しターゲットをスパッタした。500nm成膜した後有機層つき支持体を大気に触れさせることなく真空中にてCVD室へ搬送した。CVD室にて、シランガス(SiH4)、アンモニアガス(NH3)および窒素ガス(N2)を導入した。周波数13.56MHzのRF放電電力を印加して、温度25℃、成膜圧力10Paで膜厚が100nm成膜したものをC−1とした。
【0066】
(サンプルC−2の作製)
アースされた真空槽において、放電ガスとしてはAr、支持体としてはPENフィルム、ターゲットとしては100μmの厚みのPENフィルムを銅製のバッキングプレートに貼り付けた。ターゲットにRF電力を200W印加し支持体にRF電力を10W印加して0℃、1Paにてプラズマ放電しターゲットをスパッタした。500nm成膜した後有機層つき支持体を大気に触れさせることなく真空中にてCVD室へ搬送した。CVD室にて、シランガス(SiH4)、アンモニアガス(NH3)および窒素ガス(N2)を導入した。周波数13.56MHzのRF放電電力を印加して、温度25℃、成膜圧力10Paで膜厚が100nm成膜したものをC−2とした。
【0067】
(サンプルC−3の作製)
アースされた真空槽において、放電ガスとしてはAr、支持体としてはPENフィルム、ターゲットとしては100μmの厚みのPESフィルムを銅製のバッキングプレートに貼り付けた。ターゲットにRF電力を200W印加し支持体にRF電力を10W印加して0℃、1Paにてプラズマ放電しターゲットをスパッタした。500nm成膜した後有機層つき支持体を大気に触れさせることなく真空中にてCVD室へ搬送した。CVD室にて、シランガス(SiH4)、アンモニアガス(NH3)および窒素ガス(N2)を導入した。周波数13.56MHzのRF放電電力を印加して、温度25℃、成膜圧力10Paで膜厚が100nm成膜したものをC−3とした。
【0068】
(水蒸気透過率の測定)
G.NISATO、P.C.P.BOUTEN、P.J.SLIKKERVEERらSID Conference Record of the International Display Research Conference 1435-8頁に記載の方法を用いて、40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率をバリア性積層体C−1からC−3についてそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
A−6,7,8,9より、従来薄膜化が困難であった有機材料であっても、本発明によれば有機層として成膜できることがわかる。A−1,2とA−3〜9の比較により、支持体に直に無機層を成膜した場合は水蒸気透過率が高いが、支持体に有機層を成膜してから無機層を成膜すれば水蒸気透過率を下げることができることがわかる。これは支持体には傷やゴミがあり無機薄膜ではカバーできていないからであり、傷やゴミのない下地としての有機層があると水蒸気透過率を0.1g/m2/day以下まで下げることができる。A−3とA−4,5との比較から従来の真空一貫成膜法である蒸着法よりもスパッタリング法で有機層を成膜した方が、水蒸気透過率が下がることがわかる。また、A−4,6,8とA−5,7,9のそれぞれの比較により支持体にバイアスを印加することでさらに水蒸気透過率が下がることがわかる。これはプラズマにより有機層が架橋しプラズマに耐えうるより強固な有機層が形成されたため、より緻密な無機層が成膜できたことによるものと考えられる。また、有機層としてはPESが最も水蒸気透過率を下げることが確認された。B−1〜3、C−1〜3によりスパッタリング法やCVD法にて成膜したSi34においても本発明の効果は明らかである。
【0071】
[実施例4] バリア性積層体の作製と評価
支持体としてポリエチレンテレフタレート(PET、厚み100μm、製造元:東レ(株)、品番:ルミラーT60)フィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にしてバリア性積層体を作製して評価した。その結果、表1とほぼ同じ傾向が確認された。
【0072】
[実施例5] 有機EL素子の作製と評価
(有機EL素子基板の作成)
ITO膜を有する導電性のガラス基板(表面抵抗値10Ω/□)を2−プロパノールで洗浄した後、10分間UV−オゾン処理を行った。この基板(陽極)上に真空蒸着法にて以下の有機化合物層を順次蒸着した。
第1正孔輸送層
銅フタロシアニン:膜厚10nm
第2正孔輸送層
N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチルベンジジン:膜厚40nm
発光層兼電子輸送層
トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム:膜厚60nm
最後にフッ化リチウムを1nm、金属アルミニウムを100nm順次蒸着して陰極とし、その上に厚さ3μm窒化珪素膜を平行平板CVD法によって付け、有機EL素子を作成した。
【0073】
(有機EL素子上へのバリア性積層体の設置)
熱硬化型の接着剤(エポテック310、ダイゾーニチモリ(株))を用いて、実施例1で作製したサンプルA−4からA−9の各バリア性積層体と上記有機EL素子基板を、無機層が有機EL素子基板の側となるように貼り合せ、65℃で3時間加熱して接着剤を硬化させた。このようにして封止された有機EL素子を各20素子ずつ作成した。
【0074】
(有機EL素子発光面状の評価)
作成直後の有機EL素子をソースメジャーユニット(SMU2400型、Keithley社製)を用いて7Vの電圧を印加して発光させた。顕微鏡を用いて発光面状を観察したところ、いずれの素子もダークスポットの無い均一な発光を与えることが確認された。
次に各素子を60℃・相対湿度90%の暗い室内に24時間静置した後、発光面状を観察した。直径300μmよりも大きいダークスポットが観察された素子の比率を故障率と定義し、各素子の故障率を測定した。その結果、サンプルA−4からA−9の各バリア性積層体を用いて製造した有機EL素子は、いずれも故障の発生はなく、発光面状が良好であることが確認された。
【0075】
[実施例6] 有機EL素子の作製と評価
封止フィルムとして実施例1で作製したサンプルA−4からA−9の各バリア性積層体を用いて、実施例5と同様にして封止された有機EL素子を作成した。有機EL素子上へのガスバリア層の設置の際、熱硬化型の接着剤の代わりに紫外線硬化型の接着剤(XNR5516HV、長瀬チバ(株)製)を用いて、アルゴンガスで置換したグローブボックス内で紫外線を照射して硬化させ、接着した。実施例5と同様に評価した結果、実施例5とほぼ同様の傾向が認められた。
【0076】
[実施例7] バリア性積層体を基板として用いた有機EL素子の作製
実施例1で作製したサンプルA−4からA−9の各バリア性積層体を真空チャンバー内に導入し、ITOターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタリングにより、厚み0.2μmのITO薄膜からなる透明電極を形成した。ITO膜を有するバリア性積層体を洗浄容器に入れ、2−プロパノール中で超音波洗浄した後、30分間UV−オゾン処理を行った。この基板を用いて、実施例5と同様にして有機EL素子を作成した。この素子は基板と封止フィルムの双方とも樹脂を主体としているため、フレキシブルであった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の製造方法に用いることができるスパッタリング装置の概略図である。
【図2】本発明の製造方法に用いることができる別のスパッタリング装置の概略図である。
【符号の説明】
【0078】
1 真空槽
2 高周波電極
3 バッキングプレート
4 有機材料
5 支持体
6 ホルダー
7 アースシールド
8 不活性ガス導入口
9 排気口
10 RF電源とマッチングボックス
21 ロータリーポンプ
22 ターボポンプ
23 排気口
24 支持体の搬送方向
25 支持体
26 アースシールド
27 パスロール
28 チャンバー
29 ドラム用RF電源とマッチングボックス
30 ドラム
31 排気口
32 バッキングプレート
33 有機材料
34 不活性ガス導入口
35 高周波電極
36 RF電源とマッチングボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有するバリア性積層体の製造方法であって、前記有機層をスパッタリング法によって成膜することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記支持体にバイアスを印加しながら、前記有機層を成膜することを特徴とする、請求項1に記載のバリア性積層体の製造方法。
【請求項3】
前記有機層がポリエーテルサルホンを主成分とすることを特徴とする、請求項1または2に記載のバリア性積層体の製造方法。
【請求項4】
前記支持体がプラスチックフィルムであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバリア性積層体の製造方法。
【請求項5】
前記支持体が有機EL基板であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバリア性積層体の製造方法。
【請求項6】
前記無機層もスパッタリング法により成膜することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリア性積層体の製造方法。
【請求項7】
前記無機層が酸化アルミニウムまたは窒化珪素からなる層であることを特徴とする、請求項6に記載のバリア性積層体の製造方法。
【請求項8】
前記無機層をCVD法により成膜することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリア性積層体の製造方法。
【請求項9】
前記無機層が窒化珪素からなる層であることを特徴とする、請求項8に記載のバリア性積層体の製造方法。
【請求項10】
同一のスパッタリング装置内にて、前記有機層と前記無機層を成膜することを特徴とする、請求項7に記載のバリア性積層体の製造方法。
【請求項11】
真空中にて、前記有機層と前記無機層とを真空状態を維持したまま順次成膜することを特徴とする、請求項6〜9に記載のバリア性積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の製造方法により製造したバリア性積層体。
【請求項13】
支持体上に、少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有するバリア性積層体であって、前記有機層が、分子量が2000以上の有機材料を主成分とするターゲットを用いて成膜した層であり、かつ、前記バリア性積層体の水蒸気透過率が0.1g/m2/day未満であることを特徴とするバリア性積層体。
【請求項14】
支持体上に、少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有するバリア性積層体であって、前記有機層が、ポリエチレンナフタレートまたはポリエーテルサルホンを主成分とする層であり、かつ、前記バリア性積層体の水蒸気透過率が0.1g/m2/day未満であることを特徴とするバリア性積層体。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれか1項に記載のバリア性積層体を用いたデバイス。
【請求項16】
請求項12〜14のいずれか1項に記載のバリア性積層体を封止フィルムとして用いたデバイス。
【請求項17】
前記デバイスが有機EL素子である請求項15または16に記載のデバイス。
【請求項18】
請求項12〜14のいずれか一項に記載のバリア性積層体を用いた光学部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−224190(P2009−224190A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67540(P2008−67540)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】