説明

パルスECDによる、組成変調された強磁性層を含むナノ構造の形成

【課題】本発明は、交互する異なった材料組成の第一強磁性層と第二強磁性層とを包含する構造を形成する方法に関する。
【解決手段】最初に、少なくとも一つの開孔を有する支持マトリックスと、導電ベース層とを包含する基材が形成される。次いで、少なくとも一つの強磁性金属元素と、さらなる一つ以上の異なった金属元素を包含する電気メッキ液の中で該基材の電気メッキが行われる。交互する高電位と低電位とを有するパルス電流を基材構造の導電ベース層に印加し、これにより、支持マトリックスの開孔中に、交互する異なった材料組成の層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連出願の相互参照
本出願は、同時係属中の米国特許出願、名称「MEMORY STORAGE DEVICES COMPRISING DIFFERENT FERROMAGNETIC MATERIAL LAYERS,AND METHODS OF MAKING AND USING THE SAME(異なる強磁性材料層を含む記憶素子、並びにその作製および使用方法)」(代理人整理番号YOR20060192US1−SSMP19771)および「FORMATION OF VERTICAL DEVICES BY ELECTROPLATING(電気メッキによる垂直素子形成)」(代理人整理番号YOR20060194US1−SSMP19770)に関連し、これらは、本出願と同日付で出願され、本出願と同一の譲受人に譲渡される。上記の同時係属中の米国特許出願の全内容は、全ての目的のため参照によって本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、組成変調された強磁性層を含むナノ構造、およびパルス電気化学堆積法(ECD:electrochemical deposition)ないし電気メッキ技法を使ってかかるナノ構造を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来から、金属ナノワイヤは、図1A〜図1Cに示すような、マスク処理を介したボトムアップECDないし電気メッキによって形成されてきた。具体的には、図1Aに示すように、最初に、一つ以上の開孔104を有する支持マトリックス100と、導電ベース層102とを含む基材構造が準備される。
開孔104の各々は、支持マトリックス100を貫通して導電ベース層102上に延びる。次いでECDないし電気メッキ処理が行われ、図1Bに示すように、導電ベース層102の上に金属材料106が堆積されて開孔104を満たす。開孔104が金属材料106で完全に充填された後ECD処理は終了され、次いで支持マトリックス100の選択的除去が行われ、図1Cに示すように独立した金属ナノワイヤ106が形成される。図2は、こういった従来式のボトムアップECD処理で形成された、複数の金属ナノワイヤの写真である。
【0004】
前述したような従来式のボトムアップECD処理は、Co/Cu、Co/Ru、Co/Au、Ni/Cu、NiCo/Cu、NiFe/Cu、CoFe/Cu、FeCoNi/Cuなど、交互する強磁性材料と非磁性材料との層を含む組成変調された構造を形成するためにも使われてきた。このような組成変調された強磁性−非磁性構造は、交互する強磁性材料と非磁性材料との層を必要とする、巨大磁気抵抗(GMR:giant magnetoresisitance)用途に特に有用である。
【0005】
しかしながら、上記の強磁性/非磁性の層状構造の従来式ボトムアップ電着は、強磁性/非磁性材料の可逆電位の大きな差に依存している。CuおよびAuなど、ほとんどの非磁性元素は、Fe、NiおよびCoなどの強磁性元素よりもはるかに非活性である。言い換えれば、非磁性元素は、強磁性元素よりもより小さい負電位で電着される。さらに、電着の過程で、非磁性と強磁性元素とが相互作用することはない。従って、強磁性/非磁性の層状構造を形成するため、一般に、少量の非磁性元素と過剰な量の強磁性元素とを含有する電解液が使われる。相対的に小さい負電位では、純元素の非磁性材料は電気化学的に堆積されるが、強磁性元素は堆積されない。相対的に大きい負電位では、非磁性および強磁性元素の両方が電気化学的に堆積される。溶液中に含まれている非磁性種の量が少ないので、強磁性元素の方が非磁性元素よりもかなり速いレートで堆積され、これにより強磁性特性を持つ堆積層が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
強磁性材料どうしは、非常に近似した可逆電位を有し電着の過程において相互作用するので、異なる強磁性材料の交互層含む組成変調された構造を形成するために、従来式のボトムアップECD処理が使われたことはない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願と同日付で出願され本出願と同一の譲受人に譲渡される、米国特許出願、名称「MEMORY STORAGE DEVICES COMPRISING DIFFERENT FERROMAGNETIC MATERIAL LAYERS,AND METHODS OF MAKING AND USING THE SAME」(代理人整理番号YOR20060192US1−SSMP19771)は、異なる材料組成の第一および第二強磁性の交互する複数の層を含む記憶素子について記載している。本発明は、上記に対応して、パルスECDないし電気メッキ処理を使って、こういった記憶素子を形成する方法を提供する。
【0008】
一つの態様において、本発明は、自体を貫通して導電ベース層上に延びる少なくとも一つの開孔を有する支持マトリックスを含む基材構造を形成するステップと、該基材構造を、少なくとも一つの強磁性構造元素と、さらなる一つ以上の磁性あるいは非磁性の異なった金属元素とを含む電気メッキ液に浸漬して、該基材構造に電気メッキするステップと、基材構造の導電ベース層に、交互に入れ替わるパルスを有する電気メッキ・パルス電位を印加して、支持マトリックスの少なくとも一つの開孔中に、交互する複数の異なる材料組成の強磁性層を堆積するステップと、を含む方法に関する。
【0009】
望ましくは、該少なくとも一つの開孔は、約10nmから約1000nmの範囲の断面直径を有する。
【0010】
本発明の、必須ではないが好適な実施形態において、電気メッキ液は第一強磁性金属元素および第二の異なった強磁性金属元素を含む。生成される強磁性層群の一部には、第一(第二なしの)強磁性金属元素を含めることができ、生成される強磁性層群の他の層には第二(第一なしの)強磁性金属元素を含めることができる。あるいは、堆積された強磁性層の全てに、第一および第二強磁性金属元素が含まれるがその比率が相異なる。
【0011】
本発明の別の実施形態において、電気メッキ液は、強磁性金属元素と非磁性金属元素とを含む。生成される強磁性層は強磁特性であり、その全ては強磁性金属元素と非磁性金属元素とを含むがその比率が相異なる。
【0012】
本発明のさらなる別の実施形態において、電気メッキ液は、強磁性金属元素と、第一非磁性金属元素と、第二の異なった非磁性金属元素とを含む。生成された強磁性層群の一部は、第一(第二なしの)非磁性金属元素と合金された強磁性金属元素を含み、生成された強磁性層群の他の層は、第二(第一なしの)非磁性金属元素と合金された強磁性金属元素を含む。
【0013】
本発明のさらに別の実施形態において、複数の高電位値または低電位値あるいはその両方の電位値を有するパルスを印加することができ、基材マトリックス中の少なくとも一つの開孔を、交互する2より多い異なる材料組成の層で充填することができる。該異なる材料組成には、相異なる強磁性元素、相異なる非磁性元素、同一強磁性元素どうしの異なる比率組成、または同一の強磁性と非磁性元素との異なる比率組成を含めることができる。
【0014】
具体的な例として、電気メッキ液にNi塩およびFe塩を含め、生成される第一および第二強磁性層の両方ともNi−Fe合金を含むが、そのNiとFeの比率が相異なる。
【0015】
上記の支持マトリックスには、例えば、フォトレジスト、eビームまたはx線誘電体レジスト材料など、該マトリックス中に開孔を形成するためのパターン生成が可能な任意の適切な材料を含めることができる。必須ではないが望ましくは、支持マトリックスは、Si、SiO、Si、Al、Al、およびこれらの混合物から成る群から選択された材料を含む。
【0016】
導電ベース層には、金属、金属合金、金属シリサイド、金属窒化物、ドープ半導体など、導電性の任意の材料を含めることができる。必須ではないが望ましくは、該導電ベース層は、Au、Cu、Pt、Pd、Ag、Si、GaAs、およびこれらの混合物から成る群から選択された材料を含む。
【0017】
上記の電気メッキ・パルス電位は、約−1.0Vから約−1.8V(飽和カロメル電極ないしSCEに対して測定)までの範囲の高電位パルスと、−0.3Vから約−1.4V(SCEに対して測定)までの範囲の低電位パルスとすることができる。但し、高電位パルスは、必ず、前後の低電位パルスよりも高い電位を有する。さらに、該電気メッキ・パルス電位には、2より多い電位値の高電位パルスまたは低電位パルスあるいはその両方のパルスを含め、形成されるナノ構造が、相交互する、2より多い異なる材料組成の強磁性層を含むようにすることができる。さらに、電気メッキ・パルス電位に連続的変化を含め、後記でさらに詳しく説明するように、形成されるナノ構造が連続的で漸進的組成変化を含むようにすることができる。
【0018】
本発明の方法には、交互する強磁性層を磁化するステップをさらに含め、間に位置する磁壁で相互に隔てられ、反対方向に磁化された、相交互する複数の磁区を形成することができる。かかる磁区および磁壁は、駆動電流を印加することにより、交互する強磁性層に亘って移動が可能である。このような方法で磁気記憶素子を形成し、この中に、磁区の磁化および磁壁の存在の形でデータを記憶させることができる。
【0019】
別の態様において、本発明は、約10nmから約1000nmの範囲の断面直径を有し、交互する異なる材料組成の複数の強磁性層を含む、ナノ構造に関する。例えば、強磁性層群の一部には、第一強磁性金属元素を含め、該強磁性層群の他の層には、第二の異なった強磁性金属元素を含めることができる。これに換えて、交互する強磁性層には、第一と第二の異なった強磁性金属元素との双方とも含めるが、相異なった比率とすることができる。さらに、強磁性層群の一部には、第一非磁性金属元素と合金された強磁性金属元素を含め、該強磁性層群の他の層には、第二の異なる非磁性金属元素と合金された同一の強磁性金属元素を含めることができる。さらになお、相交互する強磁性層に同じ強磁性と非磁性金属元素とを含め、その比率を違わせることができる。
【0020】
本発明の、必須ではないが好適な例示実施形態において、第一および第二強磁性層は、双方ともNi−Fe合金を含むが、NiとFeの比率が異なる。
【0021】
本発明のナノ構造には、間に位置する磁壁で相互に隔てられ相反対方向に磁化された、交互する複数の磁区をさらに含めることができる。かかる磁区および磁壁は、駆動電流を印加することにより、第一および第二強磁性層に亘って移動が可能である。従って、本発明のナノ構造は、磁気記憶素子として機能することができ、この中に、磁区の磁化および磁壁の存在の形でデータを記憶させることができる。
【0022】
本発明の他の態様、特質および利点は、以降の開示および添付の特許請求の範囲からさらに十分に明確になろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1A〜図1Cは金属ナノワイヤを形成するための、従来式のマスク処理を介したボトムアップECDないし電気メッキの処理ステップを図示した断面図である。
【図2】従来式のボトムアップECD処理で形成された複数の金属ナノワイヤの写真である。
【図3】本発明の一つの実施形態による、交互する異なった材料組成の第一および第二強磁性層群を含む、組成変調されたナノ構造の断面図である。
【図4】2つの異なるNi−Fe電気メッキ液から堆積されたNi−Fe合金のFe含有量を、印加された電気メッキ電位の関数としてプロットしたグラフである。
【図5】本発明の一つの実施形態による、急激に交互する高電位および低電位パルスを含む電気メッキ・パルス電位の電位プロフィールを示す。
【図6】図6Aおよび図6Bは、本発明の一つの実施形態による、図5に示されたのと類似の電位プロフィールを有するパルス電位を使って電気メッキされた、交互するNi45Fe55合金層とND Ni80Fe20合金層とを包含する強磁性ナノワイヤの走査電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscopy)写真を示す。これらのワイヤは、Ni45Fe55合金を酸性溶液の中でエッチングし選択的に除去した後に写されている。ワイヤの太い部分は、Ni80Fe合金を包含し、ワイヤの細い部分は、Ni45Fe55合金を包含している。
【図7】本発明の一つの実施形態による、間に傾斜期間を挟んで交互する高電位および低電位のパルスを含む、電気メッキ・パルス電位の電位プロフィールを示す。
【図8】本発明の一つの実施形態による、図7に示されたのと類似の電位プロフィールを有するパルス電位を使って電気メッキされた、交互するNi45Fe55合金層とNi80Fe20合金層とを包含する強磁性ナノワイヤのSEM写真を示す。これらのワイヤは、Ni45Fe55合金を酸性溶液の中でエッチングし選択的に除去した後に写されている。ワイヤの太い部分は、Ni80Fe20合金を包含し、ワイヤの細い部分は、Ni45Fe55合金を包含する。
【図9】異なる電位プロフィールのさまざまな例示的電気メッキ・パルス電位の一つを示す。
【図10】異なる電位プロフィールのさまざまな例示的電気メッキ・パルス電位の一つを示す。
【図11】異なる電位プロフィールのさまざまな例示的電気メッキ・パルス電位の一つを示す。
【図12】異なる電位プロフィールのさまざまな例示的電気メッキ・パルス電位の一つを示す。
【図13】異なる電位プロフィールのさまざまな例示的電気メッキ・パルス電位の一つを示す。
【図14】異なる電位プロフィールのさまざまな例示的電気メッキ・パルス電位の一つを示す。
【図15】異なる電位プロフィールのさまざまな例示的電気メッキ・パルス電位の一つを示す。
【図16】異なる電位プロフィールのさまざまな例示的電気メッキ・パルス電位の一つを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下の説明において、本発明の徹底した理解を提供するために、特定の構造、構成要素、材料、寸法、処理ステップ、および技法など、数多くの具体的詳細を述べる。しかしながら、当業者は、こういった具体的詳細なしでも、本発明が実施できることはよく理解していよう。他の例では、本発明が不明瞭になるのを避けるため、周知の構造または処理ステップは詳細を記載していない。
【0025】
層、部位、または基材などの要素が、別の要素の「上に(on)」あると記載されている場合、該要素が該別要素の直接上にあることも、その間に介在する要素が存在することもあると理解する。これに対し、要素が、別要素の「直接上に」と記載されている場合、それら要素の間に介在する要素は存在しないものとする。また、ある要素が、別の要素に「接続」または「連結」されると記載されている場合、それが直接に接続または連結されることもあり、介在する要素が存在することもあると理解する。これに対し、ある要素が別の要素に「直接接続」または「直接連結」されると記載されている場合、介在する要素は存在しないものとする。
【0026】
本明細書で用いる「強磁性材料」という用語は、外部磁界を印加することにより磁化可能で、外部磁界を取り除いた後も残留磁化を示す任意の材料をいう。
【0027】
本明細書で用いる「強磁性層」または「強磁性層群」という用語は、全体として自発磁化を示す一つ以上の層状構造をいう。本発明の強磁性層または層群は、少なくとも一つの強磁性元素を含み、それ以外の強磁性元素または非磁性元素を含むことも含まないこともある。
【0028】
本発明は、各々が約10nmから約1000nmの範囲の断面直径を有し、交互する相異なる材料特性の強磁性層を含む、組成変調された強磁性ナノ構造を提供する。また、本発明は、交互する異なる材料特性の強磁性層を含むフィルム構造にも広く適用できる。
【0029】
このような強磁性ナノ構造を磁化して、間に位置する磁壁を有する、交互する相反対方向の複数の磁区を形成することができる。これら磁区および磁壁は、強磁性層に亘って移動が可能であり、交互する異なる材料特性の強磁性層は、磁壁を位置設定し、非常に離散的で精度ある増分ないしステップで、一切ドリフトすることなく、磁壁が移動することを確実にする。このような方法で、強磁性ナノ構造を記憶素子として使うことができ、その中では、データが磁区と磁化磁壁との位置として記憶される。かかる記憶素子についてのさらなる情報については、同時係属中の米国特許出願、名称「MEMORY STORAGE DEVICES COMPRISING DIFFERENT FERROMAGNETIC MATERIAL LAYERS,AND METHODS OF MAKING AND USING THE SAME」(代理人整理番号YOR20060192US1−SSMP19771)を参照することができる。
【0030】
具体的には、図3に、各々が約10nmから約1000nmの範囲の断面直径を有し、交互する異なった材料組成の第一および第二強磁性層、14Aと14Bとを含む複数の強磁性ナノ構造14の断面図が示されている。
【0031】
本発明の、必須ではないが好適な例実施形態において、第一強磁性層14Aの各々は第一強磁性材料Aを包含し、第二強磁性層14Bの各々は第二の異なった強磁性材料Bを包含する。本発明の別の実施形態では、第一および第二強磁性層、14Aと14Bとの双方とも第一強磁性材料Aおよび第二強磁性材料Bを含むが、その比率が相異なる。本発明のさらに別の実施形態において、第一強磁性層14Aの各々は、第一非磁性材料Cと混合された強磁性材料Aを包含し、第二強磁性層14Bの各々は、第二の異なった非磁性材料Dと混合された強磁性材料Aを包含する。但し、かかる非磁性材料CおよびDは、層14Aおよび14Bの全体的強磁性特性には影響しない。本発明のさらなる別の実施形態では、第一および第二強磁性層、14Aおよび14Bの双方が、非磁性材料Cと混合された第一強磁性材料Aを含むが、その比率が異なる。但し、かかる非磁性材料Cは、層14Aおよび14Bの全体的強磁性特性には影響しない。
【0032】
上記に示した強磁性材料AおよびBには任意の適切な強磁性元素(単数または複数)を含めることができる。例えば、強磁性材料AおよびBには、以下に限らないが、Fe、Ni、Co、Gd、Dy、Tb、Ho、Er、およびこれらの混合物または組合せを含め、一つ以上の強磁性元素を包含することができる。かかる強磁性材料AおよびBは、純粋な形態とすることもでき、あるいは他の強磁性または非磁性元素との混合体にすることもできる。
【0033】
上記に示した非磁性材料CおよびDには、以下に限らないが、Ru、Mo、Mn、Cr、Si、Ge、Ga、As、Cu、Rh、Pt、Au、Pdなどを含め、任意の適切な強磁性元素(単数または複数)を包含させることができる。
【0034】
図3の強磁性ナノワイヤは、小区分して磁化し、相反対方向の交互する磁区とその間に位置する磁壁とを形成することができる。駆動電流を印加することによりこれらの磁区および磁壁の移動が可能である。このようにして、強磁性ナノワイヤは記憶素子として機能し、その中では、各区分14Aにおける各磁区の磁化としてデジタル・データが格納され、区分14Bの中に、隣接する磁区の間の磁壁を位置設定することができる。駆動電流が印加されることにより磁壁が読取りまたは書込み素子上を移動するときに、かかる読取りまたは書込み素子によって、上記の記憶素子から情報を読取りまたはこれに書込むことができる。
【0035】
本発明の強磁性ナノワイヤの断面形状は、円形、正方形、矩形、三角形、多角形、半円形、楕円形など、任意の標準的または非標準的形状とすることができることに留意するのが重要である。さらに、本発明の強磁性ナノ構造は、比較的均質な外部および内部組成を有する固体ナノ・ロッドとすることも、非磁性の絶縁性または高抵抗の半導体のコアを有する管状ナノ構造とすることもできる。
【0036】
図3に示された強磁性ナノ構造は、2種だけの異なる強磁性層を含んでいるが、本発明の強磁性ナノ構造には、2種より多い異なった層を含めることができる。すなわち、交互する第一および第二強磁性層14Aおよび14Bの間に異なった材料組成の追加層を設けることができ、これらの追加層を強磁性または非磁性のいずれともすることができる。
【0037】
上記の強磁性ナノワイヤは、パルスECDにより形成することができる。具体的には、最初に、少なくとも一つのの開孔を有する支持マトリックスと、導電ベース層とを包含する基材が形成される。該支持マトリックスには、以下に限らないが、Si、SiO、Si、Al、Al、およびこれらの混合物を含め、任意の適切な材料を包含させることができる。しかして、該開孔は、約10nmから約1000nmの断面直径を有する。さらに、望ましくは、該開孔は支持マトリックスを貫通して導電ベース層上に延びており、これにより、後工程の電気メッキのためのシード層として該導電ベース層を使用することが可能となる。この開孔の形状により、形成される強磁性ナノワイヤの形状が決まる。導電ベース層には、以下に限らないが、Au、Cu、Pt、Ag、Si、GaAs、およびこれらの合金を含め、任意の適切な導電材料を含めることができる。
【0038】
例えば、開孔を有する酸化アルミニウムの支持マトリックスを包含する、陽極酸化Alフィルムまたは市販のWhatman(R)膜(ニュージャージー州、フローラム・パークのWhatman,Inc.製)を使い、膜の片面に金属をスパッタリングして導電ベース層を形成して、本発明の基材を作製することができる。
【0039】
次いで、電気メッキ液中で電気メッキ・パルス電位の下で、上記の基材構造の電気メッキが行われ、交互する異なる材料組成の層が形成される。しかる後、支持マトリックスが選択的に除去されて、所望の強磁性ナノ構造が形成される。
【0040】
本発明で使われる電気メッキ液は、強磁性金属種の一つ以上の塩と、一つ以上の支持電解質塩とを含む。該電気メッキ液には、堆積された層の金属品質を向上させるため、pH緩衝剤、錯化剤、界面活性剤、有機添加剤(例、光沢剤、抑制剤)など、一つ以上の成分をさらに含めることができる。
【0041】
例えば、電気メッキ液には、第一強磁性金属元素の第一塩と、少なくとも一つの、異なる強磁性金属元素の第二の追加塩とを含めることができ、該第二塩は、交互する、異なる強磁性金属元素を含む強磁性層、または比率が異なる同一強磁性金属元素群を含む強磁性層を形成するため使用することができる。これに換えて、該電気メッキ液には、強磁性金属元素の塩と、少なくとも一つの非磁性金属元素の追加塩を含めることができ、追加塩は、強磁性金属元素及び非磁性金属元素の双方を含むがその比率が相異なる、交互する強磁性層を形成するために使用することができる。さらに、該電気メッキ液には、強磁性金属元素の塩と、第一非磁性金属元素の第一追加塩と、第二の異なった非磁性金属元素の第二追加塩とを含めることができ、これらを使って、異なった非磁性金属元素と混合された同一強磁性金属元素を含む層が交互する強磁性層群を形成することができる。
【0042】
ある例示的な電気メッキ液は、約0.05〜0.5mol/Lの硫酸ニッケル、0.1〜1mol/Lの塩化ニッケル、0.005〜0.2mol/Lの硫酸第一鉄、0.1〜0.5mol/Lのホウ酸、0.1〜1mol/Lの塩化ナトリウム、および0.1〜2g/Lのナトリウムサッカリン、および0.05〜0.1g/Lのラウリル硫酸ナトリウムを含み、該液を使って、交互する、相異なるNi含有量とFe含有量とを有するNi−Fe合金を含む強磁性層を形成することができる。
【0043】
同じ電気メッキ液を使って、異なった電気メッキ電位を印加し、異なる材料組成の金属層を堆積することができる。図4は、電気メッキ電位の変化に対する、電気メッキされたNi−Fe合金中のFe含有量の変化を示す。具体的には、約−1.3V(SCEに対する測定)の相対的に低い電気メッキ電位の下では、メッキ液1および2から電気メッキされたNi−Fe合金中のFe含有量は約40%から約55%の範囲である。しかしながら、約−1.6V(SCEに対する測定)の相対的に高い電気メッキ電位の下では、Fe含有量は、約20%に減少する。
【0044】
従って、上記のように、基材構造の導電ベース層に、高電位と低電位が交互する電気メッキ・パルス電位を印加することによって、同じ電気メッキ液を使った連続的電気メッキ処理で、交互する異なった材料組成の層を形成することができる。該交互する強磁性層の厚さは、各電位パルスの持続時間によって精度よく制御することができる。
【0045】
図5は、本発明で使用可能な例示的電気メッキ・パルス電位の電位プロフィールを示す。具体的には、該電気メッキ・パルス電位は、電位値E1の低電位パルスと電位値E2の高電位パルスとを含み、これら高電位および低電位パルスは、時間的に急激に相互交代する。必須ではないが望ましくは、該高電位は、約−1.0Vから約−1.8V(SCEに対して測定)の範囲の電位値を有し、該低電位は、約−0.3Vから約−1.4V(SCEに対して測定)の範囲の電位値を有する。
【0046】
図6Aは、図5に示されたのと類似の電位プロフィールを有する電気メッキ・パルス電位を使って、先に述べた例示的電気メッキ液から電気メッキされた、交互するNi45Fe55とNi80Fe20との層を含む強磁性ナノワイヤのSEM写真を示す。具体的には、これらの高電位パルスは、飽和カロメル基準段極に対し約−1.6Vの電位値を有し、低電位パルスは約−1.3Vの電位値を有する。撮像の前に、NaOH溶液中でAlマトリックスは溶解され、これらワイヤはHNOエタノール溶液でエッチングされた。典型的には、NiFe合金中のFe含有量が多いほど、NiFe合金は、HNOエタノール溶液に速く溶出する。従って、Ni80Fe20合金を上回るNi45Fe55合金への選択的エッチング性により、Ni45Fe55合金を含む部分は、Ni80Fe20合金を含む部分よりもかなり細くなっている。その結果として組成的変調が容易に観察できる。図6Bは、図6A中の白丸で囲んだ部分の拡大写真である。図6Bに示されたNi45Fe55層は約400nmの層厚を有し、Ni80Fe20層は約200nmの層厚を有する。
【0047】
図7は、本発明で使用可能な、別の例示的電気メッキ・パルス電位の電位プロフィールを示す。具体的には、該電気メッキ・パルス電位は、交互する電位E1の低電位パルスと電位E2の高電位パルスとを含み、E1とE2との間には傾斜期間(T)が設けられている。電気メッキ層の組成は、かかる傾斜期間を使ってより連続的で漸進的に制御することができる。図8は、図7に示されたのと類似の電位プロフィールを有する電気メッキ・パルス電位を使って電気メッキされた、交互するNi45Fe55層とNi80Fe20層とを包含する強磁性ナノワイヤのSEM写真を示す。
【0048】
電気メッキ・パルス電位は、電位プロフィールが交互する高電位と低電位のパルスを包含する限りにおいて、適切な任意の電位プロフィールにすることができる。例えば、同様に、図9〜図16に示されたさらなる電位プロフィールを使って本発明の強磁性ナノ構造を形成することができる。さらに、電気メッキ・パルス電位に、いろいろな電位値の高電位パルス群またはいろいろな電位値の低電位パルス群あるいはその双方を包含させ、これにより、形成されたナノ構造が、第一磁性層と第二強磁性層との間にいろいろな材料組成の追加の層を含むようにすることができる。
【0049】
本発明が、交互する異なる材料組成の層を有する任意の強磁性ナノ構造を広く網羅していることに留意するのが重要である。交互する強磁性層の数は、2から数百までの範囲とすることができる。さらに、各強磁性層には、その層の全体的特性が強磁性に留まる限りにおいて、任意の数の追加の強磁性元素または非磁性元素と混合された任意の強磁性元素群を含めることができる。
【0050】
本発明の強磁性ナノ構造は、前述のような記憶素子を形成するために、あるいは、交互する異なった材料組成の層を必要とする、他の任意のスピントロニック素子のために用いることができる。
【0051】
本明細書において、特定の実施形態、特質、および態様を参照しながら本発明を説明してきたが、本発明はこれらに限定されるものでなく、記載外の修改案、変更案、アプリケーション、および実施形態に対する用途に展開でき、従って、かかる記載外の修改案、変更案、アプリケーション、および実施形態が、本発明の精神および範囲内にあると見なされることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自体を貫通し導電ベース層上に伸びる少なくとも一つの開孔を有する支持マトリックスを含む、基材構造を形成するステップと、
前記基材構造を、少なくとも一つの強磁性金属元素とさらなる一つ以上の異なった強磁性または非磁性の金属元素とを含む電気メッキ液に浸漬し、交互する高電位および低電位のパルスを有する電気メッキ・パルス電位を前記基材構造の前記導電ベース層に印加することによって前記基材構造を電気メッキし、これにより、前記少なくとも一つの開孔中に、少なくとも複数の、交互する相異なった材料組成の強磁性層を堆積するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記開孔は、約10nmから約1000nmまでの範囲の断面直径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気メッキ液は、第一強磁性金属元素および第二の異なった強磁性金属元素含み、前記堆積された強磁性層群の一部は前記第一強磁性金属元素を含み、前記堆積された強磁性層群の他の層は前記第二の異なった強磁性金属元素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記電気メッキ液は、第一強磁性金属元素および第二の異なった強磁性金属元素含み、前記交互する強磁性層の全てが前記第一および第二強磁性金属元素を含むがその比率が異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記電気メッキ液は、強磁性金属元素および非磁性金属元素を含み、前記交互する強磁性層の全てが前記強磁性金属元素と前記非磁性金属元素とを含むがその比率が異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記電気メッキ液は、強磁性金属元素、第一非磁性金属元素、および第二の異なった非磁性金属元素を含み、前記堆積された強磁性層群の一部は前記第一非磁性金属元素と合金された前記強磁性金属元素を含み、前記堆積された強磁性層群の他の層は前記第二の異なった非磁性金属元素と合金された前記強磁性金属元素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記支持マトリックスは、フォトレジスト、eビーム、およびx線レジスト誘電体材料、およびこれらの混合物から成る群から選択された材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記支持マトリックスは、Si、SiO、Si、Al、Al、およびこれらの混合物から成る群から選択された材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記導電ベース層は、Au、Cu、Pt、Pd、Ag、Si、GaAs、およびこれらの混合物から成る群から選択された材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記電気メッキ・パルス電位の高電位パルスは、飽和カロメル電極(SCE)に対する測定で約−1.0Vから約−1.8Vまでの範囲にあり、前記電気メッキ・パルス電位の低電位パルスは、SCEに対する測定で、約−0.3Vから約−1.4Vまでの範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記電気メッキ・パルス電位は、いろいろな電位値の高電位パルスまたはいろいろな電位の低電位パルス、あるいはその両方を含み、これにより、交互する2より多い異なった材料組成の強磁性層を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記交互する強磁性層を磁化し、間に位置する磁壁によって相互に隔てられた、交互する相反対方向の複数の磁区を形成するステップをさらに含み、前記磁区および磁壁は、駆動電流を印加することにより、前記交互する強磁性層に亘って移動が可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
約10nmから約1000nmの範囲の断面直径を有し、少なくとも複数の交互する異なる材料組成の強磁性層を含むナノ構造。
【請求項14】
前記強磁性層群の一部は第一強磁性金属元素を含み、前記強磁性層群の他の層は第二の異なった強磁性金属元素を含む、請求項13に記載のナノ構造。
【請求項15】
前記強磁性層の全てが、第一強磁性金属元素と第二の異なった強磁性金属元素とを含むがその比率が相異なる、請求項13に記載のナノ構造。
【請求項16】
前記強磁性層の全てが、強磁性金属元素と非磁性金属元素とを含むがその比率が相異なる、請求項13に記載のナノ構造。
【請求項17】
前記強磁性層群の一部は第一非磁性金属元素と合金された強磁性金属元素を含み、前記強磁性層群の他の層は第二の異なった非磁性金属元素と合金された前記強磁性金属元素を含む、請求項13に記載のナノ構造。
【請求項18】
前記第一および第二強磁性層の双方ともNi−Fe合金を含むが、NiとFeとの比率が相異なる、請求項13に記載のナノ構造。
【請求項19】
交互する、2より多い異なった材料組成の強磁性層を含む、請求項13に記載のナノ構造。
【請求項20】
間に位置する磁壁によって相互に隔てられた、交互する相反対方向の複数の磁区をさらに含み、前記磁区および磁壁は、駆動電流を前記ナノ構造に印加することにより、前記交互する強磁性層に亘って移動が可能である、請求項13に記載のナノ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−515820(P2010−515820A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544828(P2009−544828)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【国際出願番号】PCT/US2007/020646
【国際公開番号】WO2008/130371
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION
【Fターム(参考)】