説明

パンタグラフのすり板検査装置

【課題】
従来のパンタグラフのすり板検査では、検査に必要なカメラを架線上でかつレールの上方に配置し撮像していたが、この方法ではカメラ設置時や調整時に危険作業を伴うため手軽に行うことが難しかった。
【解決手段】
パンタグラフ2を映す凹面鏡12と凹面鏡12に映ったパンタグラフ2の像を映すカメラ14を架線4やレール3a,3bから離れた位置に設置し、パンタグラフ2をカメラ14で凹面鏡12を介して撮像するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行に伴いその屋根上に取り付けられたパンタグラフのすり板が架線との摩擦などにより発生する損傷や磨耗の状況を検査するパンタグラフのすり板検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パンタグラフにおけるすり板の損傷状況や磨耗状況の検査は、作業者が車両基地に停車している車両の屋根上に上り、目視で行っていた。この作業は、高圧電気の流れる架線近くでの高所作業であり、高圧電源の切断など安全確保のための準備に手間がかかっていた。
【0003】
最近は検査業務の安全性を高め、かつ省力化する手段として、撮像手段を用いてパンタグラフの画像を撮影し、画像処理を利用して自動的に行うことが提案されており、そのようなものを示すものとして特許文献1に開示のものがある。
【0004】
【特許文献1】特開平9−265524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術は、パンタグラフの画像を得るためにカメラを高圧電気の通る架線に近い高所に設置し、パンタグラフを撮像して得た画像データから画像処理を利用してパンタグラフのすり板の検査をするというものである。
【0006】
画像処理において検査の省力化は達成できるが、カメラの設置作業は、安全確保のため高所作業櫓の設置や架線への高圧電源の切断および軌道閉鎖による車両進入阻止が必要である。
【0007】
特に、カメラの調整作業は実際に車両を走行させパンタグラフを撮像して得た画像を見て行う必要があり、ピントを合わせるための撮像タイミングや所望の映像を得るための撮影角度などで再調整が必要であれば、電源切断や軌道閉鎖を行い、カメラの調整をして、電源投入や軌道閉鎖解除を行い、車両を走行させて撮像することを繰り返さねばならず、カメラの設置箇所と変電所などが離れていれば、連絡による確認も必要で、準備に手間が掛かる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、カメラの設置や調整を安全に行うことができ、しかも準備に手間が掛からないパンタグラフのすり板検査装置を提供することにある。
【0009】
さらに本発明の他の目的は、簡単な構成であるにも係らず、正確にすり板の損傷や磨耗の状況を検査することができるパンタグラフのすり板検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の特徴とするところは、車両におけるパンタグラフを撮像手段で撮像して得た画像データについて画像処理を行いすり板が架線との摩擦などにより発生する損傷や磨耗の状況を検査するパンタグラフのすり板検査装置において、パンタグラフを映す凹面鏡を設け、凹面鏡に映ったパンタグラフの像を撮影する撮像手段を凹面鏡から離れた位置に設けたことにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、焦点距離の長い凹面鏡を用いることで、パンタグラフの撮像位置変化によらず、大きさ変化の少ないカメラ画像を得ることができる。凹面鏡は架線から離れた位置に設置することができ、凹面鏡に映ったパンタグラフの像を撮像する撮像手段も架線や軌道から離れた安全な位置に設置することができる。
【0012】
凹面鏡およびカメラの設置作業や調整作業では車両の走行を確認していれば十分であり、再三にわたる電源切断や軌道閉鎖は不要で、設置作業や調整作業は簡略化され、大きな業務の省力化と作業環境の改善が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に示した本発明の実施形態について説明する。
【実施例1】
【0014】
図1乃至図3は本発明の一実施形態であるパンタグラフのすり板検査装置の要部を示しており、図1は電車1を側面に見る方向から概略的に示した図であり、図2は図1のA−A矢視方向に電車1の後方から前方を見た電車1の横断面を概略的に示した図であり、図3は図1の電車1を架線上から見て概略的に示した図である。
【0015】
電車1は先頭からの二車両で図示を代表させており、二両目の車両はパンタグラフ2を備えている。
【0016】
3a,3bは電車1が走行するレール(軌道)であり、パンタグラフ2は図1,図3においてレール3a,3bが延びた左右方向(電車1の走行方向)に直交する方向(レール3a,3bが並ぶ方向)に延びた長尺棒形状の舟を有している。舟における長尺部は電車の種類により900〜1800mmの長さを持っている。舟は一例として電車1の走行方向において前舟7と後舟8に分かれており、各舟上にすり板が各々二列に設けられている。
【0017】
4は、電車1にパンタグラフ2を介して電力を供給する架線である。なお、各図では、説明の都合上、架線4を支持する電柱などは省略し、また図3では先頭車両の図示を省略した。架線4は、パンタグラフ2におけるすり板との摩擦ですり板が平等に摩耗するように、レール3a,3bが並ぶ方向にジグザグに蛇行するように配設されるが、ここでは架線4の配設状況は問題ではないので、直線的に表示している。
【0018】
電車1の先頭部には、列車編成番号等の車両情報を発信する発信器5を設けてあり、地上側には列車編成番号等の車両情報を受信するための受信器6を設けてある。
【0019】
地上設備として、先頭車両を検知する先頭車両検知センサや後尾車両の退出を検知する後尾車両検知センサを設置してあるが、図示は省略した。両車両検知センサはレーザ式の反射センサであり、誤検知を防止するために車両の比較的高い位置にレーザ光を照射するように設定してある。車両がセンサ高さ位置を通過すると、センサの照射光は車両側面で反射しその戻り光がセンサに入射することで、車両の通過状況から車両を確認する。
【0020】
10,20は支柱であり、支柱10の腕木11にはパンタグラフ2を映す凹面鏡12とパンタグラフ2の照明用ライト13を設けてあり、支柱10の地上近くには凹面鏡12に映るパンタグラフ2の像を撮影するカメラ(撮像手段)14を設けてある。カメラ14は撮像を画像処理ができるように、CCD素子またはCMOS素子などの撮像素子を内蔵したデイジタルカメラを使用している。
【0021】
支柱20の腕木21にはパンタグラフ2を検知するパンタグラフ検知センサ22を設けてある。パンタグラフ検知センサ22は、カメラ14がパンタグラフ2に対する撮影開始タイミングを決めるもので、架線4の真下を通過するパンタグラフ2を真上から検知できる高さに設置してある。
【0022】
支柱10,20,腕木11,21,凹面鏡12,ライト13,カメラ14,パンタグラフ検知センサ22などは、電車1の運行に支障がないように定められた建築限界と車両限界について、建築限界内で車両限界外に位置するように設置される。
【0023】
具体的には図2,図3に示すように各部材の中心が、支柱10はレール3a,3bが並ぶ幅方向での中心から外側へ距離L1だけ離れた位置に設置され、凹面鏡12は支柱10の腕木11にレール3a,3bが並ぶ幅方向での中心から外側へ距離L2だけ離れた位置で、レール3a,3bの上面よりH1の高さに設置してある。
【0024】
カメラ14は、支柱10にレール3a,3bの上面よりH2の高さで設置してある。このような設置状況において定まる凹面鏡12における鏡面の中心とカメラ14のレンズ中心の距離をLcとする。カメラ14の光軸は凹面鏡12における鏡面中心に向けてあり、距離Lcは凹面鏡12の焦点距離Fとしてある。
【0025】
パンタグラフ2のすり板の厚みを測定する際、パンタグラフ2の真正面に凹面鏡12を配置しその凹面鏡12にパンタグラフ2のすり板が映るようにすると、カメラ14の撮像素子上に投影されるすり板像の視角による形状変形が最小となり、後述する画像処理過程における校正手順を簡略化することができる。
【0026】
しかし、真正面からでは、後舟が前舟の陰に隠れて撮影ができない。このため本実施形態では、凹面鏡12をパンタグラフ2の斜め上方に設置してパンタグラフ2の前舟7と後舟8のすり板前縁部の画像を撮影することができるようにしている。
【0027】
カメラ14はパンタグラフ2がパンタグラフ検知センサ22の真下を通過した際に凹面鏡12に映ったパンタグラフ2の像を撮像するようにしてある。従って凹面鏡12の水平方向の光軸中心は架線4の中央位置に向けてあり、垂直方向の光軸中心はカメラ14がパンタグラフに映った像を撮影できるように、架線4とカメラ14を結ぶ角度の1/2の方向に向けてある。
【0028】
即ち、図3において、凹面鏡12はレール3a,3bと平行な線に対しθ1の角度を光軸中心とし、図2において、凹面鏡12における鏡面中心を通る垂直線からθ2の角度を光軸中心としている。
【0029】
この配置により、凹面鏡12に入射した光はその焦点位置に集光する凹面鏡12の特性から、カメラ14で得た像の歪みは小さく、後述するようにレール3a,3bが並ぶ幅方向での中心の垂直線上の位置を中心としたパンタグラフ2の像を正確に得ることができる。
【0030】
床下機器が多い列車などでは、列車の走行を支援する地上機器をレール3a,3bの周辺に設置する際の建築限界は厳しいことが多いが、凹面鏡12はパンタグラフ1を映し、カメラ14はその光軸を凹面鏡12の中心に向けてあれば良いので、凹面鏡12やカメラ14は架線4とレール3a,3bから離して設置することができ、厳しい建築限界にも十分対処することができる。
【0031】
図3は電車1を真上から見た図で、前述したように本実施形態では、前舟7と後舟8を持つパンタグラフ2を対象としており、パンタグラフ2を前方から撮像する様子を示している。
【0032】
パンタグラフ検知センサ22を設置した支柱20と凹面鏡12,ライト13,カメラ14などを設置した支柱10の間隔はL3で、これはパンタグラフ2と凹面鏡12との撮影距離L4だけ間隔をあけるためであるが、パンタグラフ検知センサ22を凹面鏡12などと同じ支柱10から支柱腕を伸ばし、その支柱腕上に設置する構成としても良い。
【0033】
ライト13は、省エネのため撮像タイミングに合せて発光するストロボを用いているが、撮像中は常時点灯してあっても良い。凹面鏡12は、その焦点距離Fがパンタグラフ2の撮影距離L4よりも長いものを用いている。
【0034】
この実施形態ではパンタグラフ2の前舟7と後舟8の前縁部(すり板が設けられている部分)をカメラ視野の中心に入れて撮影するため、パンタグラフ2を正面前方で斜め上方から凹面鏡12に映し、凹面鏡12の中心高さをパンタグラフ2の高さより少し高い位置に設置してある。
【0035】
凹面鏡12の形状と大きさは、写し取るカメラ視野の大きさに関連して設定するが、カメラ14の撮像素子形状が角型であることから角型の凹面鏡を用い、パンタグラフ2の全体像がカメラ視野内に収まるように、凹面鏡12の鏡高さを設定してある。
【0036】
凹面鏡12の水平方向の鏡幅は、レール3a,3bが延びる方向に対する水平面での凹面鏡12の設置角θ1に関係して設定する。この設置角θ1を大きくすれば、パンタグラフ2の全体が収まる凹面鏡12の視野を小さくすることができ、凹面鏡12の小型化ができる。
【0037】
パンタグラフ2は長尺棒形状であり、設置角θ1を大きくすると、パンタグラフ2の長手方向の寸法が縮小するが、すり板の厚み方向の寸法は変化しない。ただし、設置角θ1を大きくしすぎると、パンタグラフ2が凹面鏡12の視野に対して、両端縁部の遠近差が大きくなるため遠近差による画像歪みが増大し、この画像歪みの補正のために後述する画像処理手順が複雑化する。
【0038】
凹面鏡12の設置に制約がない場合、円形の凹面鏡を用いることもできる。凹面鏡12は撮像カメラ14における撮像素子に対しカメラ視野を有効に収めるために撮像素子と相似形となったものが好ましい。
【0039】
次に図4に従い、凹面鏡12に映るパンタグラフ2の像をカメラ14で撮像することについて、カメラ14の撮像素子14aに映る被写体(パンタグラフ2の前舟7と後舟8)の撮影倍率Mに基づいて説明する。
【0040】
図4において、被写体であるパンタグラフ2は凹面鏡12から距離A(図3では撮影距離L4)の位置にあり、凹面鏡12と撮影区間の関係から被写体(パンタグラフ)2 は凹面鏡12の焦点距離F内にある(F>L4=A)。
【0041】
凹面鏡12で作られる被写体2の像Xと凹面鏡12間との距離Bは、光学系の公式から数1の関係式があり、数2より求められる。また、そのときの像倍率M1は数3より求められる。
【0042】
1/A+1/B=1/F …数1
B=AF/(A−F) …数2
M1=B/A=F/(A−F) …数3
被写体2が凹面鏡12の焦点距離F内にある条件F>Aを数2に代入すると、数2から被写体2の像Xと凹面鏡12間との距離Bは負数となり、被写体2の像Xは虚像となる。即ち、凹面鏡12の裏側の位置に虚像ができる。
【0043】
また、被写体2が凹面鏡12の焦点距離F内にある条件F>Aを数3に代入し像倍率M1の絶対値を計算すると、|M1|>1になり凹面鏡12でできる虚像Xは被写体2よりも大きくなる性質がある。
【0044】
次いで、凹面鏡12に映った虚像Xを被写体としてカメラ14で撮影する場合、被写体Xとカメラ14のレンズ間の距離aとカメラ14のレンズから撮像素子14aまでの距離bは、光学系の公式より数4の関係式がある。ここで、fはカメラ14におけるレンズの焦点距離で、そのときの像倍率M2は数5より求められる。
【0045】
1/a+1/b=1/f …数4
M2=b/a=f/(a−f) …数5
カメラ14を凹面鏡12の焦点距離Fのところに設置する場合、カメラ14のレンズから虚像Xまでの距離aは数6で表示される(被写体は虚像Xであるため負数である距離Bの前に負符号が付けられ正数に直して扱われる)。
【0046】
a=−B+F …数6
凹面鏡12の焦点距離Fとカメラ14の焦点距離fの関係をF>fと設定し、数5を用いてカメラ14の像倍率M2を計算すると、M2<1になり、カメラ14では、逆に凹面鏡12の虚像Xを小さく撮像する。
【0047】
被写体2が凹面鏡12を介して最終的にカメラ14の撮像素子14aに撮影されるときの総合倍率MはM1×M2で求められので、数1乃至数6の関係式より総合倍率Mを求めると、数7が得られる。
【0048】
M=−f/{F+(A/F−1)×f} …数7
数7において、被写体2が移動する位置範囲0<A<Fに対する総合倍率Mの変化を計算する。
【0049】
被写体2が凹面鏡12に最も接近した場合(A≒0)の総合倍率M0は数8で近似できる。
【0050】
M0≒−f/{F−f} …数8
一方、被写体2 が凹面鏡12から最も離れた場合(A≒F)の総合倍率MFは数9で近似できる。
【0051】
MF≒−f/F …数9
この結果、被写体(パンタグラフ)2の走行移動に伴う総合倍率Mは、M0〜MFの間で変化する。
【0052】
数8および数9の総合倍率M0,MFに着目すると、凹面鏡12の焦点距離Fとカメラ14におけるレンズの焦点距離fが同程度の値であれば、M0〜MFは1〜無限大までの範囲で変化する。
【0053】
一方、凹面鏡12の焦点距離Fがカメラ14のレンズの焦点距離fより10〜100倍以上大きい場合には、M0〜MFの変化は1〜10%程度と小さくなる。
【0054】
上記したように凹面鏡12の焦点距離Fはパンタグラフ2までの撮影距離L4(=A)より大きいものを用いており、凹面鏡12の焦点距離Fは3000〜5000mm程度が好適である。
【0055】
一方、カメラ14におけるレンズの焦点距離fは撮像素子14aの大きさとカメラ視野との関連で最適値が決まるが、通常25mm程度のものが標準レンズとして使いやすい。これらを組合せると焦点距離比F/fは100倍程度となり、被写体2の撮像位置変動に伴うカメラ14の撮像素子14a上の総合倍率変化は1%程度と小さくなる。
【0056】
従って、凹面鏡12とカメラ14を組み合すことにより撮影区間におけるパンタグラフ2の位置によらず、ほぼ一定な撮影倍率となる撮影条件を得ることができる。
【0057】
前記した従来技術のように、被写体にカメラを直接向けて希望とする大きさの像を得るには、被写体が遠方にあるときは望遠レンズを装着したカメラとし、また近くにあるときは広角レンズを装着したカメラと云うように、被写体とカメラの撮影距離に応じてカメラかレンズを交換する必要がある。
【0058】
さらにパンタグラフ2のような長尺棒形状の被写体を撮像するには、カメラ視野を大きく設定する必要があり、広角レンズを装着したカメラを使用する場合、カメラをパンタグラフ2や架線4の近くに設置する制約がある。
【0059】
また、被写体との撮影距離を大きくとれる望遠レンズを装着したカメラを使用する場合、カメラ視野が狭いため、パンタグラフ2のごとく長尺棒形状の被写体を漏れなく全体像を撮影するには複数台のカメラを並列に設置する必要がある。さらに、被写体であるパンタグラフ2を直接見通せる位置に望遠レンズを装着したカメラを設置する制約がある。
【0060】
本実施形態によれば、被写体2の位置に係らず像の大きさ変化の小さいカメラ画像が得られる。従って、被写体2は移動するものであり、パンタグラフ検知センサ22のパンタグラフ検知のタイミングに対しカメラ14での撮像タイミングにずれがあっても、総合倍率変化が小さいことから、撮影位置変動の影響を小さく押さえられる利点を備えている。
【0061】
また、焦点距離の長い凹面鏡12を用いることで、被写体であるパンタグラフ2からの撮影距離を大きくとれるため、パンタグラフ2や架線4から離れた安全な位置に凹面鏡12を設置することができ、作業の安全を確保することができる。
【0062】
さらに、凹面鏡12に映った被写体であるパンタグラフ2の像をカメラ14で撮像するので、設備の構成は簡単であり、カメラ14は凹面鏡12を見通せる位置に設置すればよく、パンタグラフ2を直接見通す位置にカメラを設置するという従来技術における制約は解消される。
【0063】
このため、カメラ14を架線4やレール3a,3bから離れ、しかも地上から低い位置に設置することができ、設置作業が楽であるばかりか安全で、電車1の走行に注意さえすれば架線4への電力供給を止めたり電車の運行を止めたりすることなく、撮像タイミングや所望の映像を得るための撮影角度などの再調整を容易に行うことができる。
【0064】
凹面鏡12の像倍率M1は被写体2が凹面鏡12に近づくにつれて小さくなるが、カメラ14の像倍率M2は大きなものとなり、補完しあうので、カメラ14で捉える像の大きさは被写体2の位置が変わっても、変化の度合いは小さく、被写体2の位置変化に係らずカメラ14でほぼ同じ大きさの像を撮影することができる。
【0065】
従って、後述する画像処理において画像データの取り扱いが楽で、複雑な画像処理を必要としないので、画像処理に時間が掛からない。
【0066】
被写体であるパンタグラフ2の位置変化に係らずカメラ14でほぼ同じ大きさの像を撮影することができるので、電車1の進行に合わせて近い距離において複数枚の撮像を得ることにより、電車1が振動し鮮明な画像を得られなかったような場合の予備画像を用意することもできる。
【0067】
図5は、パンタグラフのすり板検査装置30における電気系の概略構成を示すブロック図である。
【0068】
31は制御装置で、制御装置31は列車編成番号等の車両情報を受信するための受信器6,パンタグラフ2を均一に照明するためのライト13,凹面鏡12を介してパンタグラフ2を撮影するカメラ14,撮影開始タイミングを決定するためのパンタグラフ検知センサ22,図1乃至図3では図示を省略した電車1の進入と退出を検知する車両検知センサ32,33,および画像処理装置34と接続されており、双方向に制御信号や画像データを伝送するようになっている。制御装置31や画像処理装置34での処理状況はモニタ画面35で表示している。
【0069】
制御装置31は、すり板検査装置30の動作プログラムを格納したROM,ROMの動作プログラムに従って各種の処理や演算を行うCPU,上記各部材から送られてくる諸データやCPUでの演算結果のデータなどを一時的に記憶するRAM,RAMに一時的に記憶した各データを保存する記憶装置などから構成されている。
【0070】
画像処理装置34では、カメラ14で撮像された画像情報に基づいて、パンタグラフ2の前舟7と後舟8に設けられているすり板の摩耗量を求め、異常摩耗を起こしたすり板を検出すると、警報を発してすり板交換を促すと共に、摩耗状態からすり板の交換時期を予測し、監視者に報知する機能を備えている。
【0071】
画像処理装置34は、画像処理の動作プログラムを格納したROM,ROMの動作プログラムに従って各種の処理や演算を行うCPU,制御装置31を通して上記各部材から送られてくる諸データやCPUでの演算結果のデータなどを一時的に記憶するRAM,RAMに一時的に記憶した各データを保存する記憶装置などから構成されている。
【0072】
次に、パンタグラフのすり板検査装置30における全体の動作を説明する。
【0073】
先ず、車両検知センサ(進入側)32が計測位置に電車1の進入を検知すると、その検知信号に基づいて、列車編成番号等の車両情報を受信するための受信器6とパンタグラフ検知センサ22が起動され、パンタグラフ2の有無の検出を開始する。同時にカメラ14,ライト13が起動され、撮影可能状態になる。
【0074】
この状態で、受信器6で受信した列車編成番号等の列車情報は、制御装置31の記憶装置に記憶しておく。
【0075】
パンタグラフ検知センサ22がパンタグラフ2を検知すると、カメラ14は予め設定した待ち時間を経て撮影を開始する。但し、車両検知センサ(退出側)33が電車1の退出を検出するまでは、各センサ等は起動状態を保持している。
【0076】
カメラ14では予め電車1の編成に合わせて設定されたパンタグラフ数を撮影(撮像)するまで撮影を続け、制御装置31の要求に応じて各画像データを転送する。
【0077】
なお、パンタグラフ数の設定などは図示していないキーボードから制御装置31の記憶装置に格納してあり、車両検知センサ(進入側)32が電車1の進入を検知した際の起動時に制御装置31がROMの動作プログラムに従ってCPUが設定値を読み出して、カメラ14に設定されたパンタグラフ数を撮影(撮像)するように指示している。
【0078】
制御装置31ではカメラ14から画像データが転送されてくると、パンタグラフ2の画像データとして編集し、車両編成番号,パンタグラフ番号,測定日時等のデータと共に画像処理装置34に転送し、画像処理装置34は一旦画像処理装置34内の記憶装置に格納して、公知の技術で順次各画像データについて所望の画像処理を遂行して、パンタグラフ2のカメラ画像とすり板厚みの計測結果をモニタ画面35に表示する。
【0079】
以下、図6に従って、画像処理装置34で行う画像処理の大まかな手順について説明する。
【0080】
図6(a)は、画像処理装置34の記憶装置に格納してある画像データについてモニタ画面35に表示した1枚のカメラ画像50を示しており、図中にはパンタグラフ2の前舟7と後舟8上に設けられたすり板7bと8bとが映っている。カメラ画像50の上辺から下辺にかけて中央部においてやや斜めに映っている架線4は、分かり易くするために図示を省略した。
【0081】
以下、前舟7と後舟8で画像処理を行いすり板の摩耗を判定することについて説明する。なお、後舟8の画像処理は前舟7の画像処理と大略同一につき、その説明は省略する。
【0082】
図6(a)において、7aは前舟7の舟板であり、7bはすり板、7cはすり板7bの上エッジ線である。凹面鏡12はパンタグラフ2をやや上方の前方から映すので、パンタグラフ2の前舟7と後舟8が架線4と摩擦する上側の面が映り込む。
【0083】
ライト13の照明光は上面においてほぼ全反射で電車1の後方の方向に反射してしまう結果、上面は暗く映る。従ってカメラ14は側面部を明瞭に写した撮像になり、上エッジ線7cの位置および舟板7aとすり板7bの接合境界線7dの位置は明白になっている。なお、図ではすり板7b,8bの側面部にハッチングをつけて、それらの側面部の箇所が分かるようにした。
【0084】
図6(b)〜(d)は、画像処理により図6(a)に示したカメラ画像50からパンタグラフ2における前舟7の画像の一部分を切り出して表示したカメラ画像50における部分画像51である。
【0085】
図6(b)において、上エッジ線7cの部分が架線4と摺動して磨耗する。すり板7bの厚みは、上エッジ線7cと接合境界線7dの間隔を画像処理により正しく計測することで得られる。
【0086】
まず、表示されたカメラ画像50から部分画像51となる前舟7の適宜な領域を切り出す(抽出する)。そのために、表示された画像領域を指定したグレイ値(輝度値)の閾値範囲により、閾値以上のグレイ値を持つ領域の抽出を行う。この閾値範囲の設定は、表示画像全体の平均グレイ値と標準偏差を求め、その値に基づいて行っている。なお、この抽出においては、一部に輝いた部分がある場合はその部分によって値が振られるために、輝いている部分はあるグレイ値に置き直している。
【0087】
上記抽出領域には前舟7のみが存在すればよいが、前舟7以外の屋根上機器が存在する場合が多い。そのため、横方向に長い矩形構造要素を用いて、抽出したグレイ領域の膨張,収縮処理を繰り返し行うことで前舟7の領域と屋根上機器の領域とを分離する。分離された領域から、面積、位置等の形状特徴量に基づき前舟7の領域を選択する。
【0088】
選択された領域を囲む最小の矩形位置を求め、それを画像全体に対する前舟7とする。
【0089】
次に、抽出された領域内の横方向に長い線分を抽出し、図6(b)に示すように傾きがあれば、図6(c)に示すように大まかに回転させ略水平位置にする。この処理は下記のようにして行う。
【0090】
まず、先に選択された領域を前舟7の領域として、この領域内の横方向に長い線分の抽出を行う。横方向の線分抽出は、横方向線分を強調するため、横方向に大きなフィルタを用いて平滑化処理を行う。これにより領域内の横方向線分を抽出する。抽出するための閾値は、領域内の画像の平均グレイ値と標準偏差を求めて、その値に基づいて設定する。
【0091】
上記処理によって、複数個の線分が抽出される場合があり、その場合は長さ,位置と言った特性に基づき一つの線分を選択する。次に、選択した線分の傾きのある画像を回転することで大まかに水平にする。
【0092】
図6(c)の大まかに回転させた部分画像51において、基準となる正確な位置を求めるために、前舟7の特徴的な部位を検出する。本実施形態では、舟板7aの端部を検出する方法とした。
【0093】
先ず、検索領域を平滑化して画像を滑らかにする。滑らかにした画像から横方向に長い線分を抽出する。抽出のための閾値は、検索領域内の画像の平均グレイ値と標準偏差を求め、その値に基づいて設定している。抽出される線分は複数個ある場合があり、この時は、長さと位置と言った特性に基づき舟板7aとすり板7bの接合部7dの線分を抽出する。
【0094】
次に、抽出された線分(基準線)7dの傾きを求め、その傾きが完全になくなるように部分画像51を精密に回転処理する。そして、回転させた画像において、舟板7aとすり板7bの接合面7dの線分を囲む最小の矩形の位置を計算により求め、その位置を最終的に舟板7aとすり板7bとの接合部7dの線分の位置とする。
【0095】
図6(d)において、基準となる舟板7aとすり板7bの接合部7dの位置が決まると、次にすり板7bの上エッジ線7cの検出処理を実行する。
【0096】
前舟7に設けてあるすり板7bの表面は、架線4との接触により傷や汚れが多い部分である。そのため細かな輝度差が多く発生しており、単純にエッジ検出を行うと多くのエッジがあるように認識してしまう。そこで、エッジ検出領域52を定めてこの微小領域内で輝度値を低いところから高いところまで順次振り、輝度変化の大きい点を検出してそこを境界とする2値化処理をして白と黒の領域に分ける。すり板7bの上面が黒領域にすり板7bの側面を白領域とし、黒い領域の最下点を上エッジ線7cの位置とする。この処理をすり板7bの長手方向(図の左右水平方向)に渡り逐一を行い、全ての上エッジ線7cの位置を求める。
【0097】
そして、求めた最下点を結ぶ線分を最終的にすり板7bの上エッジ線7cとした。このようにして求めた上エッジ線7cと(舟板7aとすり板7bの)接合部7dの線分との間をすり板7bの厚みhとして抽出する。
【0098】
以上のように、画像処理によりすり板各部の厚みhを求めて、予め設定した摩耗量以上の摩耗を検出するとすり板の交換時期であると判定し、そのことを監視者に報知すると同時に、制御装置31や画像処理装置34の記憶装置に格納しておき、摩耗量等のデータと一緒に画像処理前のカメラ画像をモニタ画面35に表示して監視者が摩耗の状態を確認出来るようにしている。
【0099】
以上説明したように、本発明車両のパンタグラフのすり板検査装置によれば、架線4とレール3a,3bから離れた安全な場所でカメラの設置および調整作業ができるので準備に手間が掛からない。
【実施例2】
【0100】
図7は、さらに他の実施形態なるパンタグラフのすり板検査装置を示しており、図7において、図1乃至図3に示したものと同一物には同一符号を付けている。
【0101】
前述したように、電車の種類によりパンタグラフ2は前舟と後舟に分かれ、それぞれの舟上にすり板が二列設けられたものがある。図1の実施形態では、進行する電車1におけるパンタグラフ2の前側から凹面鏡12にパンタグラフ2の像が映るように設置しているが、前舟7や後舟8のすり板の後縁部は陰に隠れてその画像を撮影することができない。
【0102】
図7の実施形態では、凹面鏡12,ライト13,カメラ14などを電車1に対する位置関係が電車1の進行方向に対して図1の実施形態とは丁度逆の配置となるようにして支柱10に設けて、遠ざかっていくパンタグラフ2の像が凹面鏡12に映るように構成しているので、凹面鏡12に映る前舟7と後舟8におけるすり板の後縁部側の像をカメラ14で撮影することができる。
【0103】
図1の実施形態との相違点は、パンタグラフ検知センサ22に代えて支柱10の前方に支柱40を設置し、この支柱40に電車1の進入と退出を検知する車両検知センサ32,33を設け、車両検知センサ(進入側)32の電車検知で図5に示した電気系が動作を開始するようにしていることにある。画像処理の手法は図1乃至図3に示した実施形態と同様であるので、説明は省略する。
【0104】
電車1がレール3a,3b上を等速で走行すれば、支柱10と支柱40の距離は動かないので、車両検知センサ(進入側)32が電車1を検知してから凹面鏡12に映る前舟7と後舟8におけるすり板の後縁部側の像をカメラ14で撮影するタイミングは容易に制御装置31において求められ、電車1の速度に応じた最適なタイミングで撮像を得ることができる。
【0105】
以上説明したように、本実施形態によれば、前側からはパンタグラフ2のすり板が隠される場合に、裏側からのパンタグラフ2の撮像が可能となり、一回の列車走行において漏れなくパンタグラフ2のすり板検査が可能となる。
【0106】
さらに、架線4の影になりパンタグラフ2のすり板が撮像できない場合も裏側からのパンタグラフ2の撮像が可能となる。
【実施例3】
【0107】
図8は、さらに他の実施形態なるパンタグラフのすり板検査装置を示しており、図8において、図7に示したものと同一物には同一符号を付けている。
【0108】
支柱10を2本とし、支柱10Aには前舟7に対する凹面鏡12Aとライト13Aを設置し、支柱10Bには後舟8に対する凹面鏡12Bとライト13Bを設置し、両支柱10A,10Bを繋ぐ梁50上に各凹面鏡12A,12Bにそれぞれ映るパンタグラフ2の前舟側からの像と後舟側からの像を撮像するカメラ14を設けている。
【0109】
図8の実施形態では、パンタグラフ2を前舟側と後舟側からそれぞれ撮像する構成となっている。電車1の進行に従い、凹面鏡12Aに前舟側からパンタグラフ2が映る時点と凹面鏡12Bに後舟側からパンタグラフ2が映る時点がずれるので、1台のカメラ14を共用できる。
なお、カメラ14は前舟7撮像用と後舟8撮像用を分けて設置してもよい。
【0110】
この実施形態によれば、パンタグラフ2を撮像する機会が倍増し、カメラ14での撮像に不鮮明な画像があっても、1個のパンタグラフ2について前側か後側のいずれかの撮像を用いることにより、すり板の摩耗状況を判定することができる。
【0111】
さらに、カメラ14での撮像が鮮明であれば、前舟7のすり板と後舟8のすり板の摩耗状況を個別に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明パンタグラフのすり板検査装置の一実施形態の要部を示し、電車を側面に見る方向から概略的に示した図である。
【図2】図1のA−A矢視方向に電車の後方から前方を見た電車の横断面を概略的に示した図である。
【図3】図1に示したパンタグラフのすり板検査装置の要部を示し、電車を架線上から見て概略的に示した図である。
【図4】図1に示したパンタグラフのすり板検査装置の光学系を説明する図である。
【図5】図1に示したパンタグラフのすり板検査装置の電気系を示すブロック図である。
【図6】図1に示したパンタグラフのすり板検査装置による画像処理について説明する図である。
【図7】本発明パンタグラフのすり板検査装置の他の実施形態の要部を示し、電車を側面に見る方向から概略的に示した図である。
【図8】本発明パンタグラフのすり板検査装置のさらに他の実施形態の要部を示し、電車を側面に見る方向から概略的に示した図である。
【符号の説明】
【0113】
1…電車(車両)
2…パンタグラフ
3a,3b…レール
4…架線
5…発信器
6…受信器
7…パンタグラフの前舟
8…パンタグラフの後舟
10,20…支柱
12…凹面鏡
13…ライト
14…カメラ(撮像手段)
22…パンタグラフ検知センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両におけるパンタグラフを撮像手段で撮像して得た画像データについて画像処理を行い、パンタグラフのすり板が架線との摩擦などにより発生する損傷や磨耗の状況を検査するパンタグラフのすり板検査装置において、
パンタグラフを映す凹面鏡を設け、凹面鏡に映ったパンタグラフの像を撮影する撮像手段を凹面鏡から離れた位置に設けたことを特徴とするパンタグラフのすり板検査装置。
【請求項2】
上記請求項1のパンタグラフのすり板検査装置において、凹面鏡は架線から離れた位置に設置してあることを特徴とするパンタグラフのすり板検査装置。
【請求項3】
上記請求項1のパンタグラフのすり板検査装置において、凹面鏡は車両におけるパンタグラフの前方もしくは後方からパンタグラフを映すものであることを特徴とするパンタグラフのすり板検査装置。
【請求項4】
上記請求項1のパンタグラフのすり板検査装置において、撮像手段はパンタグラフが凹面鏡の焦点距離内にある時点で凹面鏡に映ったパンタグラフの像を撮像するようになされていることを特徴とするパンタグラフのすり板検査装置。
【請求項5】
上記請求項1のパンタグラフのすり板検査装置において、さらに車両の進入を検出する検知手段もしくはパンタグラフを検出する検知手段を設け、該検知手段の出力に従って撮像手段が凹面鏡に映るパンタグラフの像を撮像するようになされていることを特徴とするパンタグラフのすり板検査装置。
【請求項6】
上記請求項1のパンタグラフのすり板検査装置において、該凹面鏡はその焦点距離が該撮像手段における焦点距離より長いものであることを特徴とするパンタグラフのすり板検査装置。
【請求項7】
請求項6のパンタグラフのすり板検査装置において、該凹面鏡の焦点距離は該撮像手段における焦点距離のほぼ100倍の長さを有するものであることを特徴とするパンタグラフのすり板検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−349432(P2006−349432A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174477(P2005−174477)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】