説明

フレキシブル積層板及びフレキシブル積層板の製造方法

【課題】高温環境下においてもベースフィルムと中間層との接合強度の低下が少なく、信頼性の高いフレキシブル積層板を提供する。
【解決手段】ベースフィルムと、このベースフィルム上に積層された中間層と、この中間層上に積層された導電層と、を備えたフレキシブル積層板であって、前記ベースフィルムは、少なくとも前記中間層が積層される表面が、ポリイミド樹脂で構成されており、前記中間層は、Niを55重量%以上、Crを4重量%以上含有するとともに、Crよりも酸化しやすい易酸化元素を含有しており、この易酸化元素の濃度は、積層方向において前記ベースフィルム側が高く設定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂等からなるベースフィルムの表面に銅などによって導電層を形成したフレキシブル積層板に関し、特に、TABテープ、フレキシブル回路基板またはフレキシブル配線板などとして使用されるフレキシブル積層板及びこのフレキシブル積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化・軽量化・構造の柔軟化に有利な回路基板として、TAB(Tape Automated Bonding)やFPC(Flexible Print Circuit) 等を用いた回路基板に対する需要が高まってきている。
このような回路基板として使用されるフレキシブル積層板として、例えば、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の薄膜形成技術により、ポリイミド等からなるベースフィルム上に直接的に金属薄膜を回路パターンに沿って成膜したのちこの金属薄膜上に電解めっき等により金属めっき層を堆積させて回路パターン状に導電層を形成したものや、金属薄膜をベースフィルムの表面に形成し、その上に電解めっき等で金属を堆積させて導電層を形成し、この導電層をエッチングして回路パターンを形成したもの等が提案されている。しかし、このような構造のフレキシブル積層板では、エッチングによる回路パターン形成工程や電解めっき工程等において、ベースフィルムと導電層間の接合強度が低下し、剥離しやすいという問題があった。
【0003】
そこで、例えば特許文献1〜6には、導電層とベースフィルムとの間に中間層を設けることにより、ベースフィルムと導電層との間の接合強度の向上を図ったフレキシブル積層板が提案されている。
特に、特許文献6に記載されたフレキシブル積層板においては、中間層としてCrを含有する中間層を配置しており、Crのd電子とポリイミド樹脂のπ電子とのとが共有結合することで、中間層及び導電層とベースフィルムとの接合強度が向上させられている。
【特許文献1】特開平01−133729号公報
【特許文献2】特開平03−274261号公報
【特許文献3】特開平05−183012号公報
【特許文献4】特開平07−197239号公報
【特許文献5】特開平08−330695号公報
【特許文献6】特開2005−26378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、前述のフレキシブル積層板を用いたフレキシブル回路基板は、自動車や航空機などの電装部品にも適用され、高温環境下で使用されるようになってきており、高温環境下での信頼性の高いフレキシブル積層板が望まれている。
しかしながら、従来のフレキシブル積層板においては、高温環境下において接合強度が低下することが知られている。本発明者らが検討したところ、この接合強度の低下は中間層である合金とポリイミド樹脂との結合力の低下が原因であることが判明した。
【0005】
中間層である合金とポリイミド樹脂との結合力の低下のメカニズムとしては、合金の酸化による界面劣化が考えられる。
詳述すると、ベースフィルムを構成するポリイミド樹脂は、酸素や水蒸気が拡散しやすい性質を有しているため、ベースフィルムの裏面(中間層が設けられていない側の面)から雰囲気中の酸素や水蒸気が中間層とベースフィルムの界面にまで達することになり、この界面で中間層が酸化すると考えられる。特に、高温環境下では、酸素や水蒸気の拡散が促進されるため、中間層とベースフィルムとの接合強度が常温環境下よりも大きく低下してしまうことになる。
【0006】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであって、高温環境下においてもベースフィルムと中間層との接合強度の低下が少なく、信頼性の高いフレキシブル積層板及びこのフレキシブル積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、本発明に係るフレキシブル積層板は、ベースフィルムと、このベースフィルム上に積層された中間層と、この中間層上に積層された導電層と、を備えたフレキシブル積層板であって、前記ベースフィルムは、少なくとも前記中間層が積層される表面が、ポリイミド樹脂で構成されており、前記中間層は、Niを55重量%以上、Crを4重量%以上含有するとともに、Crよりも酸化しやすい易酸化元素を含有しており、この易酸化元素の濃度は、積層方向において前記ベースフィルム側が高く設定されていることを特徴としている。
【0008】
本発明に係るフレキシブル積層板によれば、ベースフィルムと導電層との間に、Ni; 55重量%以上、Cr;4重量%以上含有するとともに、Crよりも酸化しやすい易酸化元素を含有する中間層が設けられているので、ベースフィルムと中間層との界面に存在する酸素や水蒸気によって易酸化元素が優先的に酸化することになり、Crの酸化を抑制できる。よって、Crのd電子とポリイミド樹脂のπ電子との共有結合が破壊されることがなくなり、高温環境下でも接合強度の低下を抑制できる。また、導電層側は易酸化元素の濃度が低く設定されているので、易酸化元素による中間層の性質の変化を抑制できる。
なお、Crよりも酸化しやすい元素とは、このフレキシブル積層板が使用される温度範囲(例えば−20℃〜200℃)において、Crよりも酸化物生成自由エネルギーが小さな元素のことである。
【0009】
ここで、前記中間層に含有される前記易酸化元素を、Moとしてもよい。
この場合、中間層においてベースフィルム側のMo濃度が高く設定されるので、ベースフィルムと中間層との界面に存在する酸素や水蒸気によってMoが優先的に酸化され、Crの酸化を確実に抑制できる。また、Moは耐食性が高くエッチング性に劣ることになるが、導電層側のMo濃度がベースフィルム側よりも低くされているので、エッチングによって回路パターンを容易に形成することができる。
【0010】
さらに、前記中間層を、積層方向におけるCrの濃度が一定となるように構成してもよい。
この場合、ベースフィルム側の易酸化元素の濃度を高くしても、ベースフィルム側のCrの濃度が減少することがなくなり、Crのd電子とポリイミド樹脂のπ電子との共有結合によって中間層とベースフィルムとの接合強度を向上させることができる。
【0011】
また、前記中間層は、Al、Fe、Nb及びCoから選択される1種または2種以上を含有し、これらAl、Fe、Nb及びCoの含有量が合計で10重量%以下とされていてもよい。
この場合、Al、Fe、Nb及びCoが含有されることでNi相の固溶範囲が広がり、Ni相が安定し、緻密な不動態皮膜を安定して形成することができる。
【0012】
さらに、前記中間層は、W、Ta、Nb及びTiから選択される1種または2種以上を含有し、これらW、Ta、Nb及びTiの含有量が合計で6重量%以下とされていてもよい。
この場合、W、Ti、Nb及びTaによって緻密な不動態皮膜が形成されることになり、ピッチングの発生を防止し、このフレキシブル積層板の信頼性を向上させることができる。
【0013】
また、本発明に係るフレキシブル積層板の製造方法は、前述のフレキシブル積層板の製造方法であって、前記ベースフィルムの表面に前記中間層を積層する積層工程を有し、該積層工程は、前記ベースフィルムの表面に前記易酸化元素を含有するベースターゲットによってスパッタリングを行うベーススパッタリング工程と、前記ベーススパッタリング工程の後に、前記ベースターゲットよりも前記易酸化元素の濃度が低い低濃度ターゲットによってスパッタリングを行うスパッタリング工程を少なくとも1つ備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るフレキシブル積層板の製造方法によれば、ベースフィルムの表面に前記易酸化元素を含有するベースターゲットによってスパッタリングを行うベーススパッタリング工程と、前記ベーススパッタリング工程の後に、前記ベースターゲットよりも前記易酸化元素の濃度が低い低濃度ターゲットによってスパッタリングを行うスパッタリング工程を備えているので、中間層のうちベースフィルム側における易酸化元素の濃度を高く設定することが可能となる。
【0015】
ここで、前記ベースフィルムを上流側から下流側へと搬送し、前記ベースターゲットが上流側に配置され、前記低濃度ターゲットが下流側に配置されており、前記ベーススパッタリング工程と前記スパッタリング工程とを連続的に行うとともに、前記ベースターゲット及び前記低濃度ターゲットの搬送方向長さを変更することにより前記易酸化元素の濃度分布を調整する構成としてもよい。
【0016】
この場合、前記ベーススパッタリング工程と前記スパッタリング工程とを連続的に行うことで中間層を効率良く成形することができ、このフレキシブル積層板を低コストで製造することができる。また、ベースターゲット及び前記低濃度ターゲットの搬送方向長さを変更することにより、ベースフィルムの搬送速度を一定にした状態でベーススパッタリング工程及び前記スパッタリング工程の時間を調整することが可能となり、中間層における易酸化元素の濃度分布を精度良く調整することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温環境下においてもベースフィルムと中間層との接合強度の低下が少なく、信頼性の高いフレキシブル積層板及びこのフレキシブル積層板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態であるフレキシブル積層板について添付した図面を参照して説明する。
このフレキシブル積層板は、図1に示すように、ベースフィルム1と、ベースフィルム1の表面に形成された中間層2と、この中間層2上に形成された導電層3とを具備する。
【0019】
ベースフィルム1は、いわゆるポリイミド樹脂で構成されている。ここで、ベースフィルム1を構成するポリイミド樹脂は、BPDA系ポリイミド樹脂やPMDA系ポリイミド樹脂であってもよい。一般的にBPDA(ビフェニルテトラカルボン酸)を原料とするポリイミドフィルム(宇部興産製商品名「ユーピレックス」など)は熱および吸湿寸法安定性および剛性が良好であり、主にTAB用途に使用されているが、金属薄膜との接合強度が低い特徴を有する。一方、PMDA(ピロメリット酸二無水物)を原料とするポリイミドフィルム(東レ・デュポン製商品名「カプトン」、鐘淵化学工業製商品名「アピカル」など)は金属薄膜との接合強度が高いとされている。このような特性を考慮して適宜選択することが好ましい。
【0020】
また、ベースフィルム1は、単層であってもよいが、複数種のポリイミド樹脂を積層した積層フィルムであってもよいし、中間層2が形成される表面のみがポリイミド樹脂で構成されていてもよい。
さらに、ベースフィルム1の厚さは特に限定されないが、ベースフィルム1としての剛性を確保する観点から12μm以上が好ましく、フレキシブル積層板の変形の容易さを確保する観点から125μm以下であることが好ましい。
【0021】
中間層2は、Ni;55重量%以上、Cr;4重量%以上を含有するとともに、Crよりも酸化しやすい易酸化元素を含有した合金で構成されている。なお、Crよりも酸化しやすい元素とは、このフレキシブル積層板が使用される温度範囲(例えば−20℃〜200℃)においてCrよりも酸化物生成自由エネルギーが小さな元素のことである。
本実施形態では、中間層2は易酸化元素としてMoを含有しており、中間層2全体の成分は、Ni;67.5重量%、Cr;20重量%、Mo;12.5重量%とされている。
【0022】
中間層2は、その積層方向においてMoの濃度が変化させられている。図2に示すように、ベースフィルム1側のMo濃度が高く、導電層3側に向かうにしたがいMo濃度が漸次低くなるように構成されている。ここで、Crの濃度は前記積層方向において略一定とされ、Moの濃度変化に応じてNiの濃度が変化させられている。例えば、中間層2のうちベースフィルム1の界面近傍は、Ni;60重量%、Cr;20重量%、Mo;20重量%とされ、導電層3との界面近傍は、Ni;75重量%、Cr;20重量%、Mo;5重量%とされているのである。
【0023】
なお、中間層2の厚さは特に限定されないが、耐食性を向上させる観点から10nm以上とすることが好ましく、中間層2を積層した後にエッチングにて回路パターンを形成する際におけるエッチング速度を確保する観点から30nm以下とすることが好ましい。
【0024】
導電層3は、導電性を有する材質、具体的には、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銀、金、白金などから選択される1種または2種以上で構成され、特に好ましくは純銅、または、ニッケル、亜鉛、もしくは鉄等を含む銅合金で構成されている。
導電層3の厚さは特に限定されないが、10nm以上であればよく、より好ましくは30nm以上である。なお、導電層3が300nmよりも厚いとコストが高くなりすぎ、10nmよりも薄いとめっき工程にて焼き切れる等の不良が発生しやすくなる。
【0025】
次に、この構成のフレキシブル積層板の製造方法について説明する。
ポリイミド樹脂で構成されたベースフィルム1の表面に中間層2を積層する(積層工程)。まず、ベースフィルム1の表面に、易酸化元素であるMoを含有するベースターゲット11によってベーススパッタリングを行う。その後に、ベースターゲット11よりもMo濃度の低い低濃度ターゲット12によって2次スパッタリングを行う。これにより、ベースフィルム1側のMo濃度が高く導電層側3のMo濃度が低い中間層2を形成する。
【0026】
本実施形態においては、図3に示すように、ベースフィルム1が搬送ロール10によって矢印X方向へと搬送されており、ベースフィルム1の表面に対向する側に、ベースターゲット11及び低濃度ターゲット12が搬送方向に間隔をあけて配設されている。べースターゲット11が搬送方向上流側に位置し、低濃度ターゲット12が搬送方向下流側に位置させられており、ベーススパッタリングと2次スパッタリングを連続的に行う。ここで、ベースターゲット11の搬送方向長さL1と低濃度ターゲット12の搬送方向長さL2とを変更することにより、スパッタリング時間を調整して積層厚さを制御することが可能とされている。
【0027】
なお、ベースターゲット11や低濃度ターゲット12として、市販の耐食合金(例えば、三菱マテリアル製商品名「MAT21」、Ni;60重量%、Mo;19重量%、Cr;19重量%)を使用してもよい。
【0028】
次に、中間層2の上に導電層3を形成する。導電層3を形成するには、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の薄膜形成技術によって金属を成膜すればよい。また、ある程度の薄膜を前記各方法で成膜した後に、この金属薄膜上に電解めっき法や無電解めっき法等により金属めっき層を堆積させて所定厚さの導電層3を形成してもよい。
【0029】
このように構成されたフレキシブル積層板は、導電層3及び中間層2をエッチングすることにより回路パターンが形成され、フレキシブル回路基板として使用される。エッチング液としては、通常使用される塩化第二鉄溶液や、塩化第二鉄溶液に過酸化水素や硫酸鉄溶液を加えてエッチング性を向上させたものを使用することができる。
【0030】
本実施形態であるフレキシブル積層板においては、ベースフィルム1と導電層3との間に、Ni;55重量%以上、Cr;4重量%以上含有するとともに、Crよりも酸化しやすいMoを含有する中間層2が設けられ、ベースフィルム1側のMo濃度が高く設定されているので、ベースフィルム1と中間層2との界面に存在する酸素や水蒸気によってMoが優先的に酸化することになり、Crの酸化を抑制できる。よって、Crのd電子とポリイミド樹脂のπ電子との共有結合が破壊されることがなくなり、高温環境下でも接合強度の低下を抑制できる。また、導電層3側はMoの濃度が低く設定されているので、導電層3側の耐食性が必要以上に向上せず、エッチングによって回路パターンを容易に形成することができる。
【0031】
また、中間層2において、その積層方向におけるCrの濃度が20重量%で一定となるように構成されているので、ベースフィルム1側のMo濃度を高くしても、ベースフィルム1側のCrの濃度が減少することがなくなり、Crのd電子とポリイミド樹脂のπ電子との共有結合によって中間層2とベースフィルム1との接合強度を確実に向上させることができる。
【0032】
また、このフレキシブル積層板は、ベースフィルム1の表面にMoを含有するベースターゲット11によってベーススパッタリングを行うとともに、ベーススパッタリングの後に、ベースターゲット11よりもMo濃度が低い低濃度ターゲット12によって2次スパッタリングを行っているので、中間層2のうちベースフィルム1側におけるMo濃度を確実に高く設定することができる。
【0033】
さらに、本実施形態では、ベースフィルム1を搬送ロール10によって上流側から下流側へと搬送し、このベースフィルム1の表面に対向する側にベースターゲット11及び低濃度ターゲット12が搬送方向に間隔をあけて配設され、べースターゲット11が搬送方向上流側に位置し、低濃度ターゲット12が搬送方向下流側に位置させられているので、ベーススパッタリングと2次スパッタリングを連続的に行うことで中間層2を効率良く成形することができ、このフレキシブル積層板を低コストで製造することができる。
また、ベースターゲット11の搬送方向長さL1と低濃度ターゲット12の搬送方向長さL2とを変更することにより、スパッタリング時間を調整して積層厚さを制御することが可能とされているので、中間層2におけるMo濃度を精度良く調整することができる。
【0034】
さらに、構造材として市販されている耐食合金をベースターゲット11として使用してベースフィルム1の表面に中間層2を積層することにより、低コストでこのフレキシブル積層板を製造することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態であるフレキシブル積層板について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、易酸化元素としてMoを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、Ta,W等のフレキシブル積層板が使用される温度範囲においてCrよりも酸化物生成自由エネルギーが小さな元素であればよい。
【0036】
また、中間層に、Al、Fe及びCoから選択される1種または2種以上が含有され、これらAl、Fe及びCoの含有量が合計で10重量%以下とされていてもよい。これらAl、Fe及びCoが含有されることでNi相の固溶範囲が広がり、Ni相が安定して緻密な不動態皮膜を安定して形成することが可能となる。
また、中間層に、W、Ta、Nb及びTiから選択される1種または2種以上をが含有され、これらW、Ta、Nb及びTiの含有量が合計で6重量%以下とされていてもよい。これらW、Ta、Nb及びTiが含有されることで緻密な不動態皮膜が形成されることになり、ピッチングの発生を防止し、このフレキシブル積層板の信頼性を向上させることができる。
【0037】
さらに、中間層に、Ni、Cr、易酸化元素以外の元素が、不可避不純物として含有されていてもよい。ここで、不可避不純物としては総量で2重量%以下に抑えることが好ましい。
なお、中間層が複数の易酸化元素を含有する場合には、複数の易酸化元素のうちの少なくともひとつが、中間層の積層方向においてベースフィルム側の濃度が高く設定されていればよい。
【0038】
また、ベースターゲット1つと低濃度ターゲット1つを配設して中間層を形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、図4に示すようにベースターゲットを1つ、低濃度ターゲットを2つ以上配設して中間層を形成してもよい。
さらに、中間層を積層する場合には、スパッタリング法以外に、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の乾式薄膜形成技術を適用してもよい。
【0039】
また、中間層を図2のようにMo濃度が積層方向において連続的に変化するように構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば図5に示すようにステップ状にMo濃度が変化してもよいし、図6に示すようにMo濃度が不連続に変化するように構成されていてもよい。
【0040】
また、回路パターンをエッチングによって形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、ベースフィルムの表面に、中間層及び導電層を回路パターン形状に形成してもよい。
さらに、フレキシブル積層板は、フレキシブル回路基板のみでなく、TABテープ、フレキシブル配線板などを構成するものであってもよい。
また、ベースフィルムの片面に中間層及び導電層を形成したもので説明したが、これに限定されることはなく、ベースフィルムの両面に中間層及び導電層が形成されていてもよい。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明の効果を実証する。
図3に示すように、ベースフィルムを搬送ロールによって搬送し、ベースフィルムの表面に対向するように、第1ターゲットと第2ターゲットとを搬送方向に配列し、スパッタリングを連続的に行うことによって中間層を形成した。このとき、第1ターゲットと第2ターゲットの材質及びその搬送方向長さを変更した。そして、中間層の上に純銅よりなる導電層を形成した。
【0042】
(実施例1〜5)
ベースフィルムとしてBPDA系ポリイミド樹脂で構成された宇部興産株式会社製商品名「ユーピレックスS」(厚さ38μm)を使用した。
第1ターゲットとして三菱マテリアル製商品名MAT21(Ni−19重量%Mo−19重量%Cr−2重量%Ta合金)を使用し、その搬送方向長さを1cmとした。
第2ターゲットとして易酸化元素を含まないNi−20重量%Cr合金を使用した。第2ターゲットの搬送方向長さを、第1ターゲットの搬送方向長さを1として12、9、4、1、0.1とした。
【0043】
(実施例6)
ベースフィルムは実施例1〜5と同一とした。
第1ターゲットとして三菱マテリアル製商品名MA22(Ni−13重量%Mo−22重量%Cr−4重量%Fe−3重量%W合金)を使用し、その搬送方向長さを1とした。
第2ターゲットとして易酸化元素を含まないNi−20重量%Cr合金を使用し、その搬送方向長さを1とした。
【0044】
(実施例7)
ベースフィルムは実施例1〜6と同一とした。
第1ターゲットとして三菱マテリアル製商品名MCアロイ(Ni−1重量%Mo−45重量%Cr合金)を使用し、その搬送方向長さを1とした。
第2ターゲットとして易酸化元素を含まないNi−20重量%Cr合金を使用し、その搬送方向長さを1とした。
【0045】
(比較例1〜5)
ベースフィルムは実施例1〜7と同一とした。
第1ターゲットとして易酸化元素を含まないNi−20重量%Cr合金を使用し、その搬送方向長さを、後述する第2ターゲットの搬送方向長さを1として12、9、4、1、0.1とした。
第2ターゲットとして三菱マテリアル製商品名MAT21(Ni−19重量%Mo−19重量%Cr−2重量%Ta合金)を使用し、その搬送方向長さを1とした。
つまり、実施例1〜5の第1ターゲットと第2ターゲットとを反対に配置して中間層を形成したものである。
【0046】
(比較例6)
ベースフィルムは実施例1〜7と同一とした。
第1ターゲットとして易酸化元素を含まないNi−20重量%Cr合金を使用し、その搬送方向長さを1とした。
第2ターゲットとして三菱マテリアル製商品名MA22(Ni−13重量%Mo−22重量%Cr−4重量%Fe−3重量%W合金)を使用し、その搬送方向長さを1とした。
つまり、実施例6の第1ターゲットと第2ターゲットとを反対に配置して中間層を形成したものである。
【0047】
(比較例7)
ベースフィルムは実施例1〜7と同一とした。
第1ターゲットとして易酸化元素を含まないNi−20重量%Cr合金を使用し、その搬送方向長さを1とした。
第2ターゲットとして三菱マテリアル製商品名MCアロイ(Ni−1重量%Mo−45重量%Cr合金)を使用し、その搬送方向長さを1とした。
つまり、実施例7の第1ターゲットと第2ターゲットとを反対に配置して中間層を形成したものである。
【0048】
(比較例8)
ベースフィルムは実施例1〜7と同一とした。
第1ターゲットとして易酸化元素を含まないNi−20重量%Cr合金を使用し、その搬送方向長さを1とした。また、第2ターゲットを配置せず、第1ターゲットのみで中間層を形成した。つまり、比較例8は、中間層に易酸化元素が全く含有されていないものである。
【0049】
(成分分析)
これらのフレキシブル積層板の評価として、中間層のみを酸溶解してICP分析によって成分分析を行った。これにより、中間層全体のNi,Cr,Moの濃度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0050】
(積層方向の濃度分布)
実施例2及び比較例1のフレキシブル積層板において、オージェ電子分光分析法によって積層方向におけるNi、Cr、Mo、Cu、Cの濃度分布を測定した。分析条件としては、電子銃の加速電圧5kV,照射電流5nAとし、イオン銃の加速電圧500V、InterVal 5分、2分とした。これらのオージェ電子分光分析結果を図7(実施例2)及び図8(比較例1)に示す。
【0051】
(比較試験)
実施例1〜7および比較例1〜8のフレキシブル積層板から幅10mm×長さ150mmの短冊状試験片を切り出し、IPC−TM−650(米国プリント回路工業会規格試験法)による方法にて、ベースフィルムと中間層間のピール強度を測定した。この試験法は、前記短冊状試験片のベースフィルム側を6インチの直径ドラムの外周に周方向へ向けて接着固定したうえ、導電層の一端を治具で50mm/分でベースフィルムから剥離させながら引っ張り、それに要する荷重を測定する方法である。
また、各試験片に対して耐熱試験(150℃、168時間)を行い、その後のフレキシブル積層板について、上記と同じ接合強度試験を行うことにより、耐熱試験後の接合強度(高温ピール強度)を測定した。
そして、常温ピール強度Aと高温ピール強度Bとを比較して、ピール強度保持率Cを以下の式(1)で算出した。
C=(A−B)/A×100 … (1)
この比較実験の結果を表1に併せて示す。
【0052】
【表1】

【0053】
(評価結果)
図7に示す実施例2のフレキシブル積層板のオージェ分光分析結果においては、ベースフィルム(Cの強度ピークがある部分)側にMoの強度ピークが認められ、導電層(Cuの強度ピークがある部分)側にNi,Crの強度ピークが認められる。このことから、中間層においてベースフィルム側のMo濃度が高いことが確認される。
一方、比較例1のフレキシブル積層板のオージェ分光分析結果においては、ベースフィルム(Cの強度ピークがある部分)側にNi,Crの強度ピークが認められ、導電層(Cuの強度ピークがある部分)側にMoの強度ピークが認められる。このことから、中間層において導電層側のMo濃度が高いことが確認される。
この結果から、中間層を積層させるための第1ターゲット及び第2ターゲットのMo濃度を変更することで、中間層内部でのMo濃度分布を制御できることが確認された。
【0054】
また、実施例1〜7においては、ピール強度保持率が92〜97%と高く、高温環境下においてもベースフィルムと中間層との接合強度の低下が少ないことが確認される。一方、比較例1〜7においては、ピール強度保持率が82〜89%であり、Moを含有しない比較例8では76%であった。
これら比較試験の結果から、本発明によれば、高温環境下で使用されても、ベースフィルムと中間層との接合強度が維持され、信頼性の高いフレキシブル積層板を提供することができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態であるフレキシブル積層板を示す断面図である。
【図2】図1に示すフレキシブル積層板の中間層における濃度分布を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態であるフレキシブル積層板の製造方法を示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態であるフレキシブル積層板の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図5】本発明の他の実施形態であるフレキシブル積層板の中間層における濃度分布を示す説明図である。
【図6】本発明の他の実施形態であるフレキシブル積層板の中間層における濃度分布を示す説明図である。
【図7】実施例2であるフレキシブル積層板のオージェ電子分光分析結果を示す図である。
【図8】比較例1であるフレキシブル積層板のオージェ電子分光分析結果を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 ベースフィルム
2 中間層
3 導電層
10 搬送ロール
11 ベースターゲット
12 低濃度ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルムと、このベースフィルム上に積層された中間層と、この中間層上に積層された導電層と、を備えたフレキシブル積層板であって、
前記ベースフィルムは、少なくとも前記中間層が積層される表面が、ポリイミド樹脂で構成されており、
前記中間層は、Niを55重量%以上、Crを4重量%以上含有するとともに、Crよりも酸化しやすい易酸化元素を含有しており、
この易酸化元素の濃度は、積層方向において前記ベースフィルム側が高く設定されていることを特徴とするフレキシブル積層板。
【請求項2】
前記中間層に含有される前記易酸化元素は、Moであることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル積層板。
【請求項3】
前記中間層は、積層方向におけるCrの濃度が一定となるように構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフレキシブル積層板。
【請求項4】
前記中間層は、Al、Fe及びCoから選択される1種または2種以上を含有し、これらAl、Fe及びCoの含有量が合計で10重量%以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のフレキシブル積層板。
【請求項5】
前記中間層は、W、Ta、Nb及びTiから選択される1種または2種以上を含有し、これらW、Ta、Nb及びTiの含有量が合計で6重量%以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のフレキシブル積層板。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載されたフレキシブル積層板の製造方法であって、
前記ベースフィルムの表面に前記中間層を積層する積層工程を有し、
該積層工程は、前記ベースフィルムの表面に前記易酸化元素を含有するベースターゲットによってスパッタリングを行うベーススパッタリング工程と、前記ベーススパッタリング工程の後に、前記ベースターゲットよりも前記易酸化元素の濃度が低い低濃度ターゲットによってスパッタリングを行うスパッタリング工程を少なくとも1つ備えていることを特徴とするフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項7】
前記ベースフィルムが上流側から下流側へと搬送し、前記ベースターゲットが上流側に配置され、前記低濃度ターゲットが下流側に配置されており、前記ベーススパッタリング工程と前記スパッタリング工程とを連続的に行うとともに、
前記ベースターゲット及び前記低濃度ターゲットの搬送方向長さを変更することにより前記易酸化元素の濃度分布を調整する構成とされていることを特徴とする請求項6に記載のフレキシブル積層板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−279610(P2008−279610A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123418(P2007−123418)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】