説明

ブレーキ装置

【課題】 駆動輪の回生制動と、駆動輪および従動輪の液圧制動とを調和させ、駆動輪および従動輪の両方を的確に制動できるようにする。
【解決手段】 通常の液圧制動時には、マスタシリンダ11からのブレーキ液圧をABS装置24を介して駆動輪用ホイールシリンダ16,20および従動輪用ホイールシリンダ17,21に伝達する。駆動輪の回生制動時には、マスタシリンダか11ら駆動輪用ホイールシリンダ16,20に伝達されるブレーキ液圧をABS装置24で遮断し、駆動輪を回生制動してエネルギー回収効率を高めることができる。回生制動だけでは駆動輪の制動力が不足する場合には、モータシリンダ23が発生するブレーキ液圧で駆動輪用ホイールシリンダ16,20を作動させる。このとき、従動輪用ホイールシリンダ17,21はマスタシリンダ11により作動させられるため、回生制動によるエネルギー回収効率を高めながら、駆動輪および従動輪の両方に必要充分な制動力を発生させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動輪および従動輪のアンチロックブレーキ制御が可能であり、かつ駆動輪を回生制動および液圧制動して従動輪を液圧制動するブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータにより駆動される駆動輪を備えた車両のブレーキ装置において、回生制動が行われないときにはマスタシリンダが発生したブレーキ液圧で車輪の制動を行い、回生制動が行われるときには、液圧制動の比率を低くして回生制動の比率を高くすることでエネルギーの回収効率を高めるべく、ブレーキ液圧をブレーキペダルの操作量に応じた値よりも低くして出力するものが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開2005−162138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで上記従来のものは、回生制動の実行時に、回生制動される駆動輪に供給されるブレーキ液圧だけでなく、回生制動されない従動輪に供給されるブレーキ液圧も一括して減圧されてしまうため、従動輪が本来発生すべき制動力を発生できなくなり、運転者が感じる制動フィーリングが悪化する可能性があった。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、駆動輪の回生制動と駆動輪および従動輪の液圧制動とを調和させ、駆動輪および従動輪の両方を的確に制動できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、運転者の操作によりブレーキ液圧を発生可能なマスタシリンダと、電動モータにより駆動あるいは回生制動される駆動輪を液圧制動する駆動輪用ホイールシリンダと、従動輪を液圧制動する従動輪用ホイールシリンダと、ブレーキ液をリザーバに逃がすことによりブレーキ液圧を減圧あるいは遮断可能なABS装置と、電動アクチュエータによりブレーキ液圧を発生可能な電動液圧発生手段とを備え、前記マスタシリンダと前記駆動輪用ホイールシリンダおよび前記従動輪用ホイールシリンダとの間に前記ABS装置を配置し、前記ABS装置と前記駆動輪用ホイールシリンダとの間に前記電動液圧発生手段を配置したことを特徴とするブレーキ装置が提案される。
【0006】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記電動液圧発生手段は、後部液圧室および前部液圧室と、前記後部液圧室および前記前部液圧室の後側にそれぞれ摺動自在に嵌合する後部ピストンおよび前部ピストンとを備え、前記電動アクチュエータで前記後部ピストンを前進させることで前記後部液圧室および前記前部液圧室にブレーキ液圧を発生可能であり、かつ前記後部ピストンおよび前記前部ピストンの最大距離を規制する第1規制手段と、前記前部ピストンの後退限を規制する第2規制手段とを備えることを特徴とするブレーキ装置が提案される。
【0007】
尚、実施の形態のホイールシリンダ16,20は本発明の駆動輪用ホイールシリンダに対応し、実施の形態のホイールシリンダ17,21は本発明の従動輪用ホイールシリンダに対応し、実施の形態のモータシリンダ23は本発明の電動液圧発生手段に対応する。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の構成によれば、通常の液圧制動を行う場合には、運転者の操作によりマスタシリンダが発生したブレーキ液圧がABS装置を介して駆動輪用ホイールシリンダおよび従動輪用ホイールシリンダに伝達され、駆動輪および従動輪を制動する。このとき、駆動輪あるいは従動輪がロック傾向になれば、ABS装置が作動してマスタシリンダからのブレーキ液圧を減圧あるいは遮断してロックを抑制することができる。
【0009】
駆動輪の回生制動時には、マスタシリンダから駆動輪用ホイールシリンダに伝達されるブレーキ液圧をABS装置で遮断し、駆動輪を回生制動することでエネルギーの回収効率を高めることができる。回生制動だけでは駆動輪の制動力が不足する場合には、電動液圧発生手段が発生するブレーキ液圧で駆動輪用ホイールシリンダを作動させることで、駆動輪に必要な制動力を発生させることができる。このとき、従動輪用ホイールシリンダにはマスタシリンダのブレーキ液圧がABS装置を介して供給されるため、回生制動によるエネルギーの回収効率を高めながら、駆動輪および従動輪の両方に必要充分な制動力を発生させることができる。
【0010】
また請求項2の構成によれば、ABS装置が作動して前部液圧室に連通するホイールシリンダのブレーキ液圧を減圧すると該前部液圧室も減圧するため、前部ピストンが前進することで後部液圧室の容積が増大して該後部液圧室に連通するホイールシリンダのブレーキ液圧も減圧してしまう問題があるが、後部ピストンおよび前部ピストンは相互の最大距離が拡大しないように第1規制手段で連結されているため、後部液圧室の容積の増大を防止して該後部液圧室に連通するホイールシリンダの制動力を確保することができる。
【0011】
一方、ABS装置が作動して後部液圧室に連通するホイールシリンダのブレーキ液圧を減圧すると該後部液圧室も減圧するため、前部ピストンが後退することで前部液圧室の容積が増大して該前部液圧室に連通するホイールシリンダのブレーキ液圧も減圧してしまう問題があるが、前部ピストンが第2規制手段で後退限を規制されるため、前部液圧室の容積の増大を防止して該前部液圧室に連通するホイールシリンダの制動力を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0013】
図1および図2は本発明の実施の形態を示すもので、図1は車両用ブレーキ装置の液圧回路図、図2はモータシリンダの縦断面図である。
【0014】
図1に示すように、負圧ブースタ10を備えたタンデム型のマスタシリンダ11は、運転者がブレーキペダル12を踏む踏力に応じたブレーキ液圧を出力する二つの液圧室13A,13Bを備えており、一方の液圧室13Aは液路Pa,Pb,Pc,Pd(第1系統)を介して例えば左前輪および右後輪のディスクブレーキ装置14,15のホイールシリンダ16,17に接続されるとともに、他方の液圧室13Bは液路Qa,Qb,Qc,Qd(第2系統)を介して例えば右前輪および左後輪のディスクブレーキ装置18,19のホイールシリンダ20,21に接続される。
【0015】
液路Pa,Qaと液路Pb,Pd;Qb,Qdとの間にABS(アンチロック・ブレーキ・システム)装置24が配置される。
【0016】
ABS装置24の構造は周知のもので、左前輪および右後輪のディスクブレーキ装置14,15の第1系統と、右前輪および左後輪のディスクブレーキ装置18,19の第2系統とに同じ構造のものが設けられる。その代表として左前輪および右後輪のディスクブレーキ装置14,15の第1系統について説明すると、液路Paと液路Pb,Pdとの間に一対の常開型電磁弁よりなるインバルブ42,42が配置され、インバルブ42,42の下流側の液路Pb,Pdとリザーバ43との間に常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ44,44が配置される。各インバルブ42にはチェックバルブ49が並列に接続される。リザーバ43と液路Paとの間に、一対のチェックバルブ45,46に挟まれた液圧ポンプ47が配置されており、この液圧ポンプ47は電動モータ48により駆動される。
【0017】
ABS装置24の下流側の液路Pb,Qbと、左右の前輪のディスクブレーキ装置14,18のホイールシリンダ16,20の上流側の液路Pc,Qcとの間に、モータシリンダ23が配置される。
【0018】
モータシリンダ23を駆動する電動アクチュエータ31は、電動モータ32と、電動モータ32の出力軸に設けた駆動ベベルギヤ33と、駆動ベベルギヤ33に噛合する従動ベベルギヤ34と、従動ベベルギヤ34により作動するボールねじ機構35とを備える。モータシリンダ23のシリンダ本体36の内部に一対のリターンスプリング37A,37Bで後退方向に付勢された後部ピストン38Aおよび前部ピストン38Bが摺動自在に配置されており、後部ピストン38Aおよび前部ピストン38Bの前面にそれぞれ後部液圧室39Aおよび前部液圧室39Bが区画される。後部液圧室39Aはポート40A,41Aを介して液路Pb,Pcに連通し、前部液圧室39Bはポート40B,41Bを介して液路Qb,Qcに連通する。
【0019】
しかして、電動モータ32を一方向に駆動すると、駆動ベベルギヤ33、従動ベベルギヤ34およびボールねじ機構35を介して後部および前部ピストン38A,38Bが前進し、後部および前部液圧室39A,39Bに発生したブレーキ液圧をポート41A,41Bを介して液路Pc,Qcに出力することができる。
【0020】
図2から明らかなように、モータシリンダ23のシリンダ本体36の後部に摺動自在に嵌合する後部ピストン38Aは、前側の第1カップシール51と後側の第2カップシール52とを備えており、その後退端をサークリップ53で規制された状態で、液路Pbに連なるポート40Aが第1カップシール51の前方で後部液圧室39Aに開口する。後部ピストン38Aが僅かに前進して第1カップシール51がポート40Aを通過すると、その瞬間に後部液圧室39Aにブレーキ液圧が発生する。
【0021】
モータシリンダ23のシリンダ本体36の前部に摺動自在に嵌合する前部ピストン38Bは、前側の第3カップシール54と後側の第4、第5カップシール55,56とを備えており、シリンダ本体36に固定したピン57に、第3カップシール54および第4カップシール55間を直径方向に貫通する長孔38aが摺動自在に嵌合する。前部ピストン38Bに設けられた開閉弁58は、前部ピストン38Bの前端に形成した凹部38bを前記長孔38aに連通させる連通孔38cと、連通孔38cが凹部38bに開口する部分に形成された弁座38dと、頭部59aを弁座38dに着座可能に対向させて脚部59bを前記連通孔38cに摺動自在に嵌合させた弁体59と、前部ピストン38Bの前端に嵌合するばね座60と、ばね座60と弁体59の頭部59aとの間に縮設された弁ばね61とを備える。ピン57および長孔38aは前部ピストン38Bの後退端を規制するもので、本発明の第2規制手段66を構成する。
【0022】
前部ピストン38Bはリターンスプリング37Bで後方に付勢され、長孔38aの前端がピン57に当接する後退端に規制されている。この状態で弁体50の脚部59bがピン57に当接して頭部59aが弁座38dから離間し、前部液圧室39Bと第3、第4カップシール54,55間の背室とが連通孔38cを介して連通する。前部ピストン38Bが僅かに前進すると、脚部59bを連通孔38cに案内された弁体59が弁ばね61の弾発力で後方に付勢され、頭部59aが弁座38dに着座して前部液圧室39Bにブレーキ液圧が発生する。
【0023】
後部液圧室39Aの容積を縮小してブレーキ液圧を発生させるべく、後部ピストン38Aは前部ピストン38Bに対して接近可能であるが、その最大距離が第1規制手段62により規制される。第1規制手段62は、前部ピストン38Bの後端に形成された環状突起38eにカシメ部63aにより固定されたばね座63と、カシメ部63aから後方に筒状に延びるガイド部63bの後端の孔63cに頭部64aを係合させ、その後端が後部ピストン38Aの前端に螺合してばね座65を固定するボルト64とで構成される。
【0024】
通常は、前後のばね座63,65間に縮設されたリターンスプリング37Aの弾発力で後部ピストン38Aおよび前部ピストン38Bは相互に離反する方向に付勢されており、ボルト64の頭部64aがばね座63の孔63cの周囲に当接して後部ピストン38Aおよび前部ピストン38Bの距離が最大距離に規制されるが、ボルト64が孔63cに沿って摺動することで、後部ピストン38Aは前部ピストン38に対して接近可能である。
【0025】
ABS装置24の作動を制御する不図示の電子制御ユニットには、各車輪の車輪速を検出する車輪速センサSa…が接続される。
【0026】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用について説明する。
【0027】
通常の制動時には、運転者がブレーキペダル12を踏んでマスタシリンダ11の液圧室13Aが発生したブレーキ液圧は、液路PaからABS装置24の一方の開弁したインバルブ42→液路Pb→モータシリンダ23のポート40A→後部液圧室39A→ポート41A→液路Pcの経路で左前輪のホイールシリンダ16に伝達されるとともに、マスタシリンダ11の液圧室13Aが発生したブレーキ液圧は、液路PaからABS装置24の他方の開弁したインバルブ42→液路Pdの経路で右後輪のホイールシリンダ17に伝達される。
【0028】
また運転者がブレーキペダル12を踏んでマスタシリンダ11の液圧室13Bが発生したブレーキ液圧は、液路QaからABS装置24の一方の開弁したインバルブ42→液路Qb→モータシリンダ23のポート40B→前部液圧室39B→ポート41B→液路Qcの経路で右前輪のホイールシリンダ20に伝達されるとともに、マスタシリンダ11の液圧室13Bが発生したブレーキ液圧は、液路QaからABS装置24の他方の開弁したインバルブ42→液路Qdの経路で左後輪のホイールシリンダ21に伝達される。
【0029】
このように、通常時にはマスタシリンダ11が発生したブレーキ液圧で四輪のホイールシリンダ16,17,20,21が作動する。
【0030】
上述したマスタシリンダ11が発生したブレーキ液圧による制動中に、車輪速センサSa…の出力に基づいて何れかの車輪のスリップ率が増加してロック傾向になったことが検出されると、ABS装置24を作動させて車輪のロックを防止する。
【0031】
即ち、所定の車輪がロック傾向になると、その車輪のディスクブレーキ装置のホイールシリンダに連なるインバルブ42を閉弁してマスタシリンダ11からのブレーキ液圧の伝達を遮断した状態で、アウトバルブ44を開弁してホイールシリンダのブレーキ液圧をリザーバ43に逃がす減圧作用と、それに続いてアウトバルブ44を閉弁してホイールシリンダのブレーキ液圧を保持する保持作用とを行うことで、車輪がロックしないように制動力を低下させる。
【0032】
その結果、車輪速度が回復してスリップ率が低下すると、インバルブ42を開弁してホイールシリンダのブレーキ液圧を増加させる増圧作用を行うことで、車輪の制動力を増加させる。この増圧作用により車輪が再びロック傾向になると、前記減圧、保持、増圧を再び実行し、その繰り返しにより車輪のロックを抑制しながら最大限の制動力を発生させることができる。その間にリザーバ43に流入したブレーキ液は、液圧ポンプ47により上流側の液路Pa,Qaに戻される。
【0033】
バッテリが満充電状態でなく、回生電力による充電が可能な場合には、電動モータで駆動される駆動輪である左右前輪を回生制動する。このとき、ABS装置24の液路Pb,Qbに連なる二つのインバルブ42,42を閉弁することでマスタシリンダ11から左右の前輪のホイールシリンダ16,20にブレーキ液圧が伝達されなくなり、左右の前輪を回生制動のみによって制動することで、エネルギーの回収効率を最大限に高めることができる。このとき、左右の後輪は通常時と同様にマスタシリンダ11が発生したブレーキ液圧により制動される。
【0034】
左右の前輪の制動力が回生制動だけでは不足する場合には、モータシリンダ23が発生するブレーキ液圧で左右の前輪のホイールシリンダ16,20を作動させ、回生制動による制動力の不足分をアシストする。
【0035】
即ち、モータシリンダ23の電動アクチュエータ31が作動して後部および前部ピストン38A,38Bが前進することで、後部および前部液圧室39A,39Bにブレーキ液圧が発生する。このブレーキ液圧は液路Pc,Qcを介してホイールシリンダ16,20に伝達され,左右の前輪に制動力を発生させることができる。
【0036】
尚、モータシリンダ23の後部および前部ピストン38A,38Bが僅かに前進すると、液路Pb,Qbと後部および前部液圧室39A,39Bとの連通が遮断されるため、後部および前部液圧室39A,39Bが発生したブレーキ液圧がチェックバルブ49,49を通過してマスタシリンダ11側に逆伝達されることはない。
【0037】
上述した前輪の回生制動時には、マスタシリンダ11が送出するブレーキ液のうち、前輪のホイールシリンダ16,20に供給されるべきものがABS装置24において遮断されてしまうため、その分だけブレーキペダル12のストロークが減少してペダルフィーリングが悪化する可能性がある。そこで本実施の形態では、回生制動時に後輪のホイールシリンダ17,21の連なる液路Pd,Qdのブレーキ液を、アウトバルブ44,44を適宜開弁することでリザーバ43,43に逃がし、その分だけブレーキペダル12のストロークを増加させてペダルフィーリングの悪化を防止している。
【0038】
このように、ABS装置24のリザーバ43,43を用いてブレーキペダル12のストロークを確保するので、特別のストロークシミュレータが不要になってコストダウンに寄与することができる。
【0039】
ところで、例えば左前輪がロック傾向になり、ABS装置24が作動して左前輪のホイールシリンダ16に供給するブレーキ液圧を減圧すると、モータシリンダ23の後部液圧室39Aが減圧するため、前部ピストン38Aが後退することで前部液圧室39Bの容積が増大して右前輪のホイールシリンダ20に供給するブレーキ液圧も減圧してしまう問題がある。しかしながら本実施の形態では、前部ピストン38Bの長孔38aの前端がピン57に係合して後退を規制されるため、即ち第2規制手段66が機能することにより、前部液圧室39Bの容積の増大を防止して右前輪のホイールシリンダ20の制動力を確保することができる。
【0040】
逆に、右前輪がロック傾向になり、ABS装置24が作動して右前輪のホイールシリンダ20に供給するブレーキ液圧を減圧すると、モータシリンダ23の前部液圧室39Bが減圧するため、前部ピストン38Aが前進することで後部液圧室39Aの容積が増大して左前輪のホイールシリンダ16に供給するブレーキ液圧も減圧してしまう問題がある。しかしながら本実施の形態では、後部ピストン38Aおよび前部ピストン38Bが、その距離が拡大しないようにばね座63およびボルト64よりなる第1規制手段62で連結されているため、後部液圧室39Aの容積の増大を防止して左前輪のホイールシリンダ16の制動力を確保することができる。
【0041】
以上のように、本実施の形態のブレーキ装置によれば、駆動輪を回生制動しない場合は、通常のABS装置24を備えた液圧ブレーキ装置として機能し、駆動輪を回生制動する場合には、従動輪へのブレーキ液圧の供給を行いながら駆動輪へのブレーキ液圧の供給を遮断し、駆動輪を回生制動だけで制動してエネルギーの回収効率を高めることができる。駆動輪の制動力が回生制動だけでは不足する場合には、モータシリンダ23が発生したブレーキ液圧で駆動輪を制動することで、駆動輪に必要な制動力を発生させることができる。しかして、回生制動によるエネルギーの回収効率を高めながら、駆動輪および従動輪の両方に必要充分な制動力を発生させることができる。
【0042】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0043】
例えば、実施の形態のでは前輪を駆動輪とし、後輪を従動輪としているが、その関係を逆転することができる。
【0044】
また実施の形態のABS装置24は、ABS機能を有したブレーキ液圧制御装置(VSA装置:ビークル・スタビリティ・アシスト装置)を含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】車両用ブレーキ装置の液圧回路図
【図2】モータシリンダの縦断面図
【符号の説明】
【0046】
11 マスタシリンダ
16 ホイールシリンダ(駆動輪用ホイールシリンダ)
17 ホイールシリンダ(従動輪用ホイールシリンダ)
20 ホイールシリンダ(駆動輪用ホイールシリンダ)
21 ホイールシリンダ(従動輪用ホイールシリンダ)
23 モータシリンダ(電動液圧発生手段)
24 ABS装置
31 電動アクチュエータ
38A 後部ピストン
38B 前部ピストン
39A 後部液圧室
39B 前部液圧室
43 リザーバ
62 第1規制手段
66 第2規制手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の操作によりブレーキ液圧を発生可能なマスタシリンダ(11)と、
電動モータにより駆動あるいは回生制動される駆動輪を液圧制動する駆動輪用ホイールシリンダ(16,20)と、
従動輪を液圧制動する従動輪用ホイールシリンダ(17,21)と、
ブレーキ液をリザーバ(43)に逃がすことによりブレーキ液圧を減圧あるいは遮断可能なABS装置(24)と、
電動アクチュエータ(31)によりブレーキ液圧を発生可能な電動液圧発生手段(23)とを備え、
前記マスタシリンダ(11)と前記駆動輪用ホイールシリンダ(16,20)および前記従動輪用ホイールシリンダ(17,21)との間に前記ABS装置(24)を配置し、前記ABS装置(24)と前記駆動輪用ホイールシリンダ(16,20)との間に前記電動液圧発生手段(23)を配置したことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
前記電動液圧発生手段(23)は、後部液圧室(39A)および前部液圧室(39B)と、前記後部液圧室(39A)および前記前部液圧室(39B)の後側にそれぞれ摺動自在に嵌合する後部ピストン(38A)および前部ピストン(38B)とを備え、前記電動アクチュエータ(31)で前記後部ピストン(38A)を前進させることで前記後部液圧室(39A)および前記前部液圧室(39B)にブレーキ液圧を発生可能であり、かつ前記後部ピストン(38A)および前記前部ピストン(38B)の最大距離を規制する第1規制手段(62)と、前記前部ピストン(38B)の後退限を規制する第2規制手段(66)とを備えることを特徴とする、請求項1に記載のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−279966(P2009−279966A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131182(P2008−131182)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】