説明

ブレーキ装置

【課題】ブレーキレバーのストロークを補助するブースタアクチュエータが失陥した場合でも、ブレーキレバーのストローク増大を防止でき、制動力を確保できるブレーキ装置を提供する。
【解決手段】マスタシリンダ3とホイルシリンダとの間に接続されたブースタシリンダ4と、ブースタシリンダ内を加圧室(第1ブースタ室Rb1)と背圧室(第2ブースタ室Rb2)とに隔成し、電動アクチュエータ(モータM)により摺動するブースタピストン42と、を有し、マスタシリンダは2つの圧力室(第1加圧室Rm1、第2加圧室Rm2)を有し、上記2つの圧力室に接続された油路の一系統(油路10,11)がホイルシリンダおよびブースタシリンダの加圧室に接続されるとともに、他系統(油路12,13)がブースタシリンダの背圧室に接続されていることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2輪車等に用いられるブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ装置のうち2輪車等のブレーキ装置は、前輪は(右)ハンドルに設けたブレーキレバーを手動操作するものとなっている。このようなブレーキレバーを用いたブレーキ装置では推力(操作力)やストローク(操作量)が不足しがちである。このため、ブレーキレバーを用いたブレーキ装置は、マスタシリンダとは独立してホイルシリンダにブレーキ液を供給することでマスタシリンダのストローク(容積変化)を補助可能な液圧倍力(ブースタ)機能を備えていることが望ましい。
【0003】
特許文献1には、電動モータにより駆動されるアンチロックブレーキ制御(以下、ABSという)用のシリンダを有し、このABS用シリンダを用いて、ホイルシリンダへの液圧をマスタシリンダ圧以上に増圧することが可能な4輪車用ブレーキ装置が開示されている。よって、このブレーキ装置をブレーキレバーを用いたブレーキ装置に適用し、少ないレバー操作量で所望のホイルシリンダ圧を得る上記ブースタ機能を実現することが考えられる。
【特許文献1】特開平9−30387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来技術をブレーキレバーを用いたブレーキ装置に単に適用しただけでは、ブースタ機能を有する電動アクチュエータ(ABS加圧シリンダ)が失陥した場合には、マスタシリンダのストロークが補助されないため、所定のホイルシリンダ圧を得るためのマスタシリンダのストローク量、すなわちブレーキレバーの操作量が大幅に増大してしまう。手動操作が前提のブレーキレバーを用いたブレーキ装置では、このようなストローク増大要求に応えられずにストロークエンドに達してしまい、発生可能な最大ホイルシリンダ圧が低下して、制動力が不足するおそれがある、という問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、ブレーキレバー(マスタシリンダ)のストロークを補助するブースタアクチュエータが失陥した場合でも、ブレーキレバーの操作量増大を防止でき、制動力を確保できるブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のブレーキ装置は、ホイルシリンダにブレーキ液を供給するブースタ装置をマスタシリンダと前記ホイルシリンダとの間に接続し、前記ブースタ装置は、前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダとの間に接続されたブースタシリンダと、該ブースタシリンダ内を加圧室と背圧室とに隔成し、電動アクチュエータにより摺動するブースタピストンと、を有し、前記マスタシリンダは少なくとも1つのピストンの移動によって加圧される2つの圧力室を有し、前記マスタシリンダの2つの圧力室に接続された油路の一系統が前記ホイルシリンダおよび前記加圧室に接続されるとともに、他系統が前記ブースタシリンダにおける前記背圧室に接続されていることとした。
【発明の効果】
【0007】
よって、マスタシリンダ(ブレーキレバー)のストロークを補助する電動アクチュエータ(ブースタアクチュエータ)が失陥した場合でも、ブレーキレバーの操作力によりホイルシリンダへの給液量を保ちマスタシリンダストロークの補助を継続できるため、ブレーキレバーの操作量増大が許容範囲内となり、制動力を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明のブレーキ装置を実現する最良の形態を、図面に基づき説明する。
【実施例1】
【0009】
[ブレーキ装置の構成]
図1は、本実施例1のブレーキレバーを用いたブレーキ装置である2輪車用ブレーキ装置1(以下、ブレーキ装置1という)の全体構成であり、ブレーキレバー20の操作量がゼロであり、ブレーキ力が発生していないときの初期状態を示す。以下、説明のためマスタシリンダ3の軸方向にx軸を設け、ハンドル2に対してマスタシリンダ3が設置されている側を正方向と定義する。
【0010】
ブレーキ装置1は2輪車の前輪側ブレーキ系統に設けられており、ブレーキレバー20と、ブレーキレバー20の操作に応じて作動するマスタシリンダ3と、マスタシリンダ3と前輪ディスクブレーキのキャリパ(以下、ホイルシリンダという)との間に設けられたブースタシリンダ4と、ブースタシリンダ4を作動させるアクチュエータであるモータMおよび回転−直動変換機構5と、を有している。
【0011】
(ブレーキレバー)
ハンドル2には、スロットルグリップ2aに対向する位置に、ブレーキレバー20が、図1の双方向矢印に示すようにピン21を支点として揺動可能に設けられている。ブレーキレバー20は、運転者の握力が作用するグリップ部22と、グリップ部22のx軸正方向側の端においてグリップ部22と略直交するように形成され、グリップ部22よりも短いレバー当接部23と、を有している。
【0012】
ブレーキレバー20は、グリップ部22とレバー当接部23との上記直交部位で、ハンドル2に固定されたピン21により、ピン止めされている。レバー当接部23は、マスタシリンダピストン32のx軸負方向側の端であるピストン入力軸32cに当接している。ブレーキレバー20が握られて、グリップ部22がスロットルグリップ2aに近づく方向に揺動すると、レバー当接部23がx軸正方向側(図1の時計回り方向)に回転移動し、ピストン入力軸32cをx軸正方向側に押し付ける。
【0013】
(マスタシリンダ)
マスタシリンダ3は、シリンダハウジング30に形成された段付のシリンダ室31と、シリンダ室31内に摺動可能に収容された段付のマスタシリンダピストン32と、を有している。シリンダハウジング30のx軸正方向側には、有底円筒形状の小径シリンダ室31aが形成されている。シリンダハウジング30のx軸負方向側には円筒形状の大径シリンダ室31bが形成され、シリンダハウジング30の外部に開口している。小径シリンダ室31aのx軸負方向側の内周面にはシール部材Sm1が設けられ、大径シリンダ室31bのx軸負方向側の内周面にはシール部材Sm2が設けられている。
【0014】
マスタシリンダピストン32は、x軸負方向側に向かって順に、ピストン小径部32aとピストン大径部32bとピストン入力軸32cとを有している。ピストン小径部32aは小径シリンダ室31aに収容されている。ピストン大径部32bは大径シリンダ室31bに収容されている。ピストン入力軸32cは、シリンダハウジング30の外部にx軸負方向側に向かって突出している。ピストン入力軸32cのx軸負方向側の端は半球面状に突出するように形成され、ブレーキレバー20のレバー当接部23に当接している。
【0015】
ピストン小径部32aはシール部材Sm1に対して摺動し、ピストン大径部32bはシール部材Sm2に対して摺動する。小径シリンダ室31aの内周面とピストン小径部32aのx軸正方向側の端面(後述するシール部材Sm3)とにより、第1加圧室Rm1(一系統に係る圧力室、第1圧力室)が隔成されている。大径シリンダ室31bの内周面(およびピストン小径部32aの外周面)とピストン大径部32bのx軸正方向側の端面(後述するシール部材Sm4)とにより、第2加圧室Rm2(他系統に係る圧力室、第2圧力室)が隔成されている。これら第1加圧室Rm1および第2加圧室Rm2は、一のマスタシリンダピストン32の移動によって加圧されるようになっており、その際にほぼ同時に液圧が発生するようになっている。
【0016】
第1加圧室Rm1内には、一端が小径シリンダ室31aのx軸正方向側の端面に取り付けられ、他端がピストン小径部32aのx軸正方向側の端面に取り付けられた戻しバネ33が設置されており、マスタシリンダピストン32をx軸負方向側に付勢している。戻しバネ33の付勢力により、ブレーキ非動作時(ブレーキレバー20の非操作時)に、マスタシリンダピストン32はx軸負方向側の最大変位位置である初期位置Xa0に位置決めされる。
【0017】
マスタシリンダ3には、マスタシリンダピストン32の変位(ストローク)量Xaを検出するストロークセンサ9が設けられている。ストローク量Xaは、初期位置Xa0からのマスタシリンダピストン32のx軸正方向側への変位量を示す。
【0018】
シリンダハウジング30には、ブレーキ液を貯留するリザーバタンクRES(液量吸収手段、リザーバ)が取り付けられている。リザーバタンクRESは、シリンダハウジング30に形成された油路30a、30bを介して小径シリンダ室31aと連通する一方、シリンダハウジング30に形成された油路30c、30dを介して大径シリンダ室31bと連通している。また、小径シリンダ室31aは、シリンダハウジング30に形成された油路30eを介して、油路10と連通している。大径シリンダ室31bは、シリンダハウジング30に形成された油路30f、30gを介して、それぞれ油路12,液圧開放油路14と連通している。
【0019】
油路30bは、シール部材Sm1に対してx軸正方向側に隣接した位置に形成され、油路30aは、油路30bに対してx軸正方向側に隣接した位置に形成されている。油路30eは、小径シリンダ室31aのx軸正方向側の端に形成されている。一方、油路30dおよび油路30gは、シール部材Sm2に対してx軸正方向側に隣接した位置に形成され、油路30cは、油路30d、30gに対してx軸正方向側に隣接した位置に形成されている。油路30fは、大径シリンダ室31bのx軸正方向側の端に形成されている。
【0020】
ピストン小径部32aのx軸正方向側の外周面にはシール部材Sm3が設けられ、第1加圧室Rm1を液密状態に保っている。ピストン大径部32bのx軸正方向側の外周面にはシール部材Sm4が設けられ、第2加圧室Rm2を液密状態に保っている。また、シール部材Sm1とシール部材Sm3との間には、油路30bに接続されピストン32の後退時にシール部材Sm3の外周を通って第1加圧室Rm1にブレーキ液を補給するための第1補給室Rm3が設けられている。同様に、シール部材Sm2とシール部材Sm4との間には、油路30dに接続されピストン32の後退時にシール部材Sm4の外周を通って第2加圧室Rm2にブレーキ液を補給するための第2補給室Rm4が設けられている。第2補給室Rm4には液圧開放油路14が連通している。
【0021】
マスタシリンダピストン32が初期位置Xa0にあるとき、シール部材Sm3は油路30aと油路30bの間に位置する。よって、リザーバタンクRESは油路30aを介して第1加圧室Rm1と連通し、第1加圧室Rm1にブレーキ液を供給して第1加圧室Rm1を大気圧にしている。また、シール部材Sm4は油路30cと油路30dの間に位置する。よって、リザーバタンクRESは油路30cを介して第2加圧室Rm2と連通し、第2加圧室Rm2にブレーキ液を供給して第2加圧室Rm2を大気圧にする一方、リザーバタンクRESは油路30dを介して油路30gおよび液圧開放油路14と連通している。
【0022】
なお、マスタシリンダピストン32がどのストローク位置にあっても、油路30bが第1加圧室Rm1と連通することはなく、油路30dおよび油路30gが第2加圧室Rm2と連通することはない。また、マスタシリンダピストン32がどのストローク位置にあっても、油路30eおよび油路30fは、常にそれぞれ油路10、12と連通する。一方、後述するように、マスタシリンダピストン32のストローク位置に応じて、油路30aと第1加圧室Rm1との連通、および油路30cと第2加圧室Rm2との連通が切り換えられる。
【0023】
(ブースタアクチュエータ)
モータMおよび回転−直動変換機構5は、ブースタシリンダ4を作動させるブースタアクチュエータである。モータMは、制御性、静粛性、耐久性の点で優れた、電動式のDCブラシレスモータである。なお、ブラシ付モータやACモータ等を用いることとしてもよい。回転−直動変換機構5は、モータMの回転を直動(x軸方向の往復移動)に変換する機構であり、ボールネジ方式やラックピニオン方式等いずれの方式を用いてもよい。モータMが所定の回転方向(一方向)に回転する(以下、正回転という)と、その回転量に応じて、回転−直動変換機構5の当接部5aがx軸正方向に移動する。一方、モータMが上記一方向とは反対側の他方向に回転する(以下、逆回転という)と、その回転量に応じて当接部5aがx軸負方向に移動する。
【0024】
(ブースタシリンダ)
ブースタシリンダ4は、シリンダハウジング40に形成されたシリンダ室41と、シリンダ室41内に摺動可能に収容されたブースタピストン42と、を有している。シリンダハウジング40のx軸負方向側の端面ではシリンダ室41が外部に開口しており、この開口部にはシール部材Sb1が設けられている。
【0025】
ブースタピストン42は、x軸負方向側に向かって順に、大径のピストン摺動部42aと小径のピストン入力軸42bとを有している。ピストン摺動部42aはシリンダ室41内で摺動可能に収容されており、ピストン摺動部42aの外周面には、シリンダ室41の内周面に対して摺動するシール部材Sb2が設けられている。ピストン入力軸42bのx軸正方向側の端は、ピストン摺動部42aに結合している。ピストン入力軸42bは、シリンダハウジング40の上記開口部においてシール部材Sb1に対して摺動可能に支持され、そのx軸負方向側の端は、シリンダハウジング40の外部に突出している。この突出したピストン入力軸42bのx軸負方向側の端は半球面状に形成され、回転−直動変換機構5の当接部5aに当接している。
【0026】
ブースタシリンダ4は、ブースタピストン42によりx軸正負方向2つの室に仕切られている。すなわち、シリンダ室41の内周面とピストン摺動部42aのx軸正方向側の端面(シール部材Sb2)とにより、第1ブースタ室Rb1が隔成されている。シリンダ室41の内周面(およびピストン入力軸42bの外周面)とピストン摺動部42aのx軸負方向側の端面(シール部材Sb2)とシール部材Sb1とにより、第2ブースタ室(背圧室)Rb2が隔成されている。
【0027】
第1ブースタ室Rb1内には、一端がシリンダ室41のx軸正方向側の端面に取り付けられ、他端がピストン摺動部42aのx軸正方向側の端面に当接した強い(バネ係数が大きく硬い)バネ43が設置されており、ブースタピストン42をx軸負方向側に付勢している。第2ブースタ室Rb2内には、一端がピストン摺動部42aのx軸負方向側の端面に取り付けられ、他端がシリンダ室41のx軸負方向側の端面に取り付けられた弱い(バネ係数が小さく柔かい)バネ44が設置されており、ブースタピストン42をx軸正方向側に付勢している。これらのバネ43,44の付勢力により、ブレーキ非動作時(ブレーキレバー20の非操作時かつモータMおよび電磁弁6,7の非駆動時)に、ブースタピストン42はブースタシリンダ4の中間位置である初期位置Xb0に位置決めされる。
【0028】
シリンダハウジング40には、シリンダ室41のx軸正方向側の端に、油路40a、40cが形成されている。また、シリンダ室41のx軸負方向側の端に、油路40bが形成されている。油路40aは油路10に接続し、油路40bは油路13に接続し、油路40cは油路11に接続している。
【0029】
(油路構成)
リザーバタンクRESは、油路30aを介して、マスタシリンダ3の第1加圧室Rm1に接続されている。第1加圧室Rm1は、油路30e、油路10および油路40aを介して、ブースタシリンダ4の第1ブースタ室Rb1に接続されている。第1ブースタ室Rb1は、油路40cおよび油路11を介して、前輪ホイルシリンダに接続されている。
【0030】
なお、油路10上には、常開の電磁弁6(第2の電磁弁)が設けられている。また、電磁弁6と並列に、ブースタシリンダ4からマスタシリンダ3へ向かうブレーキ液の流通のみを許容する逆止弁6aが設けられている。電磁弁6の下流の油路10上には、油路10の液圧、言い換えるとホイルシリンダ圧(ブレーキ液圧Pw)を検出する液圧センサ8が設けられている。
【0031】
リザーバタンクRESは、油路30cを介して、マスタシリンダ3の第2加圧室Rm2に接続されている。第2加圧室Rm2は、油路30fおよび油路12、油路13および油路40bを介して、ブースタシリンダ4の第2ブースタ室Rb2に接続されている。
【0032】
また、リザーバタンクRESは、油路30d、油路30g、および液圧開放油路14に接続されている。液圧開放油路14は、油路12と合流し、油路13に接続されている。なお、液圧開放油路14上には、常閉の電磁弁7(第1の電磁弁、電磁弁)が設けられている。
【0033】
(制御構成)
液圧センサ8、ストロークセンサ9、モータM、および電磁弁6,7は、ECUに接続されている。また、前後輪にはそれぞれの車輪速度を検出する車輪速センサ9a、9bが設けられており、ECUに接続されている。また、ECUは、液圧センサ8が検出したブレーキ液圧Pwおよびストロークセンサ9が検出したストローク量Xaに基づき、モータMおよび電磁弁6,7に制御指令を出力する。このようにECUは、モータMおよび電磁弁6,7の作動を制御することで、ブースタ機能やABS機能等を実現する。
【0034】
[実施例1の作用]
マスタシリンダ3の第1加圧室Rm1の径方向断面積(x軸方向での受圧面積)をA1、第2加圧室Rm2の受圧面積をA2、ブースタシリンダ4の第1ブースタ室Rb1の受圧面積をB1、第2ブースタ室Rb2の受圧面積をB2とする。各室の受圧面積A1,A2,B1,B2の比を変えることで、正常時のストローク補助量(倍力比)および失陥時のストローク補助量を設定できる。以下、説明を簡単にするため、A1=A2=B1=B2として動作を説明する。
【0035】
(ブースタ機能)
図2は、液圧倍力(ブースタ)機能を実現する際のブレーキ制御装置1の動作を示す。
ここでブースタ機能とは、マスタシリンダ3とは独立してホイルシリンダにブレーキ液を供給することでマスタシリンダ3のストロークを補助し、結果としてブレーキレバー20の少ない操作量で所望のホイルシリンダ圧を得る機能をいう。
【0036】
運転者がブレーキレバー20を握ると、マスタシリンダピストン32が図1の初期位置Xa0から(ブレーキレバー20の操作量αに対応した変位量)Xaだけx軸正方向側に変位する。ECUは、常閉電磁弁7を開弁させるとともに、ストロークセンサ9の検出値Xaに基づき、モータMを正回転させてブースタピストン42をx軸正方向側にXb=Xaだけ移動させる。電磁弁7の開弁によりブースタシリンダ4の第2ブースタ室Rb2はリザーバタンクRESと連通する。このため第2ブースタ室Rb2の圧力は上昇せず、大気圧のままである。
【0037】
マスタシリンダピストン32がXaだけx軸正方向側に変位すると、第1加圧室Rm1とリザーバタンクRESとの連通が遮断されるとともに、第1加圧室Rm1の容積がQm1=A1×Xaだけ圧縮される。これにより第1加圧室Rm1からQm1の量のブレーキ液が、油路10を介してブースタシリンダ4の第1ブースタ室Rb1に送られる。同時に、第2加圧室Rm2とリザーバタンクRESとの連通が遮断され、第2加圧室Rm2からQm2=A2×Xaのブレーキ液が、油路12を介して油路13,液圧開放油路14に送られる。
【0038】
ブースタピストン42がXb(=Xa)だけx軸正方向側に変位すると、第1ブースタ室Rb1の容積がQb1=B1×Xbだけ圧縮される。よって、第1ブースタ室Rb1からは、第1加圧室Rm1から送られてきたQm1=A1×XaにQb1=B1×Xbを加えたQ= Qm1+Qb1だけの量のブレーキ液が、油路11を介して前輪キャリパ(ホイルシリンダ)に送られる。
【0039】
ここで、A1=B1かつXa=Xbであるため、Qm1=Qb1であり、ホイルシリンダへの送液量は、Q= Qm1+Qb1=2Qm1{=2(A1×Xa)}である。よって、ブレーキレバー20の同一の操作量α(マスタシリンダピストン32の同一ストローク量Xa)に対して、ホイルシリンダへの送液量Qが2倍となる。これによりマスタシリンダ3のストローク量が2倍に増大された効果が得られ(Q=A1×2Xa)、ホイルシリンダの圧力上昇が早められる。言い換えれば、マスタシリンダピストン32(ピストン小径部32a)の受圧面積A1が上記ブースタ機能なしのものに比べて1/2であっても、同一のブレーキレバー操作量αに対するホイルシリンダへの送液量Q(ホイルシリンダ圧Pw)をブースタ機能なしのものと同一に確保できる。
【0040】
一方、ブースタピストン42がXb(=Xa)だけx軸正方向側に変位すると、第2ブースタ室Rb2の容積がQb2=B2×Xbだけ拡張されるため、第2ブースタ室Rb2には、Qb2の量のブレーキ液が、油路13を介して流入する。また、A2=B2かつXa=Xbであるため、Qb2=Qm2である。よって、第2加圧室Rm2から油路12を介して送られてきたQm2の量のブレーキ液は、油路13を介して第2ブースタ室Rb2に流入する。したがって、開かれた電磁弁7を通って、リザーバタンクRESから補充され、またはリザーバタンクRESに戻されるブレーキ液の流量は僅かである。
【0041】
また、ホイルシリンダ圧をPwとすると、第1加圧室Rm1の圧力はPwと等しいため、戻しバネ33の弾性力を無視すると、マスタシリンダピストン32にはx軸負方向にFm1=Pw×A1の力が作用する。第2加圧室Rm2の圧力は大気圧であるため、第2加圧室Rm2からはマスタシリンダピストン32に力が作用しない(Fm2=0)。よって、マスタシリンダピストン32からブレーキレバー20に対してx軸負方向側に作用する力Fmの大きさは、Fm=Fm1+Fm2=Pw×A1である。したがって、ホイルシリンダ圧Pw(制動力)に比例した反力が、ブレーキレバー20を介して運転者に感知される。なお、マスタシリンダピストン32(ピストン小径部32a)の受圧面積A1を上記ブースタ機能なしのものに比べて1/2にすることで、所望のホイルシリンダ圧Pwを得るためのレバー操作力が1/2で済む(倍力比=2)。
【0042】
次に、図3に基づき、ブースタアクチュエータ(モータM等)の動作不良時のブレーキ装置1の動作を説明する。図3は、モータMが失陥し、回転−直動変換機構5の当接部5aが、x軸負方向側に最大変位したまま固定された状態を示す。
【0043】
図2における電磁弁7の開弁状態で上記失陥が発生すると、ブースタピストン42がx軸負方向側に変位してしまい、第1ブースタ室Rb1からはホイルシリンダに向けてブレーキ液が供給されない(Qb1=0)。それだけでなく、マスタシリンダ3の第1加圧室Rm1からホイルシリンダに向けて供給される液量Qm1が、容積縮小しない第1ブースタ室Rb1内に吸収されてしまい、ホイルシリンダに供給される液量がQm1未満となる。よって、液圧センサ8によるホイルシリンダ圧の検出値が正常時よりも低下したことを検知すると、ECUは、モータMへの駆動指令の出力を停止するとともに、電磁弁7に指令を出力して、電磁弁7を閉弁させる(図3参照)。また、電源が失陥した場合にはECUからの指令が出力されないが、電磁弁7は常閉弁であるため、閉弁するようになっている。
【0044】
図3に示すように、運転者がブレーキレバー20を握ると、マスタシリンダピストン32が図1の初期位置Xa0からXaだけx軸正方向側に変位する。電磁弁7の閉弁により、ブースタシリンダ4の第2ブースタ室Rb2は、リザーバタンクRESとの連通を遮断され、マスタシリンダ3の第2加圧室Rm2とのみ連通する。よって、第2ブースタ室Rb2からは、第2加圧室Rm2に向けて、Qm2=A2×Xaのブレーキ液量が供給される。
【0045】
ここでモータMは駆動しないので、ブースタピストン42のピストン入力軸42bは回転−直動変換機構5の当接部5aから離れ、ブースタピストン42はフリーピストンとして動作する。B2=A2であるため、ブースタピストン42のx軸正方向側の変位量XbはXaとなる。
【0046】
一方、ブースタピストン42がXb(=Xa)だけx軸正方向側に変位すると、第1ブースタ室Rb1の容積がQb1=B1×Xbだけ圧縮される。よって、第1ブースタ室Rb1からは、第1加圧室Rm1から送られてきたQm1=A1×XaにQb1=B1×Xbを加えたQ= Qm1+Qb1だけの量のブレーキ液が、ホイルシリンダに送られる。
【0047】
ここで、A1=B1かつXa=Xbであるため、Qm1=Qb1であり、ホイルシリンダへの送液量は、Q= Qm1+Qb1=2Qm1{=2(A1×Xa)}である。よって、ブレーキレバー20の同一の操作量α(マスタシリンダピストン32の同一ストローク量Xa)に対して、ホイルシリンダへの送液量Qが、正常時と同様に2倍となり、正常時と同様のホイルシリンダ圧Pwを発生できる。すなわち、正常時と同様に、マスタシリンダ3のストローク量を2倍に増大する効果が得られる(Q=A1×2Xa)。
【0048】
また、ブースタシリンダ4の第2ブースタ室Rb2の圧力をPb2とし、バネ43,44の弾性力を無視すると、ブースタピストン42に作用する力の釣り合い式は、Pw×B1=Pb2×B2であるため、Pb2=Pw×B1/B2である。ここでB1=B2であり、Pb2はマスタシリンダ3の第2加圧室Rm2の圧力と同一であるため、マスタシリンダピストン32には、第2加圧室Rm2からx軸負方向にPwの圧力が作用する。
【0049】
よって、マスタシリンダピストン32には、第1加圧室Rm1からx軸負方向にFm1=Pw×A1の力が作用するとともに、第2加圧室Rm2からx軸負方向にFm2=Pw×A2の力が作用する。したがって、マスタシリンダピストン32からブレーキレバー20に対してx軸負方向側に作用する力Fmの大きさは、Fm=Fm1+Fm2=2(Pw×A1)である。言い換えれば、モータMの失陥時には、ホイルシリンダ圧Pwを正常時と同一に確保できるものの、レバー反力の大きさは正常時の2倍となる。すなわち、正常時と同じ制動力(ホイルシリンダ圧Pw)を得るのに、レバーストローク量は正常時と同一(α)で済むが、ブレーキレバー20を握る力は正常時に比べて2倍必要となる。
【0050】
次に、図4に基づき、ABS制御時のブレーキ装置1の動作を説明する。図4は、ブースタ動作時(電磁弁7の開弁時)にモータMを作動させてABS機能を実現(ホイルシリンダ圧Pwを減圧)した状態を示す。
【0051】
図2に示すように、ブレーキレバー20がαだけ操作され、マスタシリンダピストン32がXaだけx軸正方向側に変位した状態で、電磁弁7が開弁され、モータMが所定量だけ正回転すると、ブレーキ液量Q=2(A1×Xa)に対応したホイルシリンダ圧Pwが実現される。一方、ECUは、常時、車輪速センサ9a、9bの検出値(例えば両者のセレクトハイ値)に基づき車体速度を演算し、演算した車体速度と検出した前輪速度とに基づき前輪の路面に対するスリップ量を検出している。
【0052】
そして、上記ブースタ動作状態において、検出した前輪スリップ量が所定の閾値を上回ると、ECUは、常開の電磁弁6を閉弁するとともに、モータMを所定量だけ逆回転させることで、以下のようにホイルシリンダ圧の減圧を実現する(図4参照)。
【0053】
すなわち、モータMが逆回転すると、図4に示すように、回転−直動変換機構5の当接部5aがx軸負方向側に変位(例えばx軸負方向側に最大変位)するため、ブースタピストン42はx軸負方向側にストローク可能となる。なお、電磁弁7が開弁しているため、第2ブースタ室Rb2の圧力は大気圧である。一方、電磁弁6が閉じているため、ブースタピストン42には、第1ブースタ室Rb1のホイルシリンダ圧Pwにより、x軸負方向側への力Fb1=Pw×B1が作用する。
【0054】
よって、この力Fb1により、ブースタピストン42は、初期位置Xb0よりもx軸負方向側の位置であって、Fb1が(弱い)バネ44の反力と釣り合う位置まで戻される。なお、(強い)バネ43のx軸負方向側の端はピストン摺動部42aの端面に当接しているのみであるため、ブースタピストン42が初期位置Xb0よりもx軸負方向側に戻されることで、バネ43はブースタピストン42から離れ、(弱い)バネ44のみがブースタピストン42に作用することとなる。したがって、ホイルシリンダ圧Pwは、(弱い)バネ44の反力と釣り合う圧力にまで低下する。
【0055】
なお、電磁弁6が閉じられているため、第1加圧室Rm1の圧力がホイルシリンダ圧Pw以上である限り、マスタシリンダピストン32はx軸正方向側へそれ以上ストロークすることはない。よって、ブレーキレバー20には、第1加圧室Rm1の圧力に応じた反力が作用する。一方、ブレーキレバー20が戻される等により、第1加圧室Rm1の圧力がホイルシリンダ圧Pw(第1ブースタ室Rb1の圧力)未満になると、ホイルシリンダ(第1ブースタ室Rb1)から1加圧室33に向けて逆止弁6aを介してブレーキ液が戻され、ホイルシリンダ圧Pwが減圧される。
【0056】
モータMの逆回転によるホイルシリンダ圧Pwの減圧後、スリップ量が所定閾値以下となり、前輪のスリップが解消されたことを検知すると、ECUは、モータMを再び正回転させて、Xb=Xaとなるブースタ位置(図2参照)までブースタピストン42を戻す。これによりホイルシリンダ圧が再増圧され、上記ABS開始前の、ブレーキ液量Q=2(A1×Xa)に対応したホイルシリンダ圧Pwが再び実現される。このとき再度のスリップ発生を検知しなければ、電磁弁6を開弁させる。これにより正常のブースタ状態に戻り、ABS動作を終了する。
【0057】
なお、上記ブースタ位置までブースタピストン42を戻す途中、再度のスリップ発生を検知すると、電磁弁6を閉じたまま再びモータMを逆回転させ、ブースタピストン42をx軸負方向側にストロークさせる。すなわち、前輪スリップが解消するまで、上記のような減圧動作−スリップ解消検知−再増圧を繰り返す。
【0058】
(比較例との対比における本実施例1の作用効果)
2輪車のブレーキ装置においても、車輪ロックによる転倒防止、および制動距離の短縮のために、4輪車と同様のABS制御を実行可能であることが望ましい。一方、2輪車のブレーキ装置の特徴として、前輪は右ハンドルに設けたブレーキレバーの手動操作、後輪は右ブレーキペダルの足踏み操作であることが挙げられる。
【0059】
しかし、前輪側のブレーキ装置では推力×ストロークが不足しがちである。特にブレーキレバーのストローク量、およびブレーキレバーの操作に応じて作動するマスタシリンダのストローク量が不足しがちである。このため、前輪に高摩擦係数(例えば0.5)のブレーキパッドを用いても、上記ストローク量不足によるホイルシリンダ圧不足を補うための充分な余裕がない。よって、前輪側のブレーキ装置は、ABS機能のほかに、マスタシリンダとは独立してホイルシリンダにブレーキ液を供給することでマスタシリンダのストローク(容積変化)を補助可能なブースタ機能を備えていることが望ましい。
【0060】
(比較例1)
マスタシリンダにストロークシミュレータを設けてブレーキレバーの操作力とレバーストロークとの関係を好適に設定し、レバーストロークないしレバー操作力に応じたブレーキ液圧を、液圧ユニットを用いた電気的制御により発生させるブレーキバイワイヤ(以下、BBW)システムが知られている(例えば特開2006-123767)。このブレーキ装置は、電気的制御によりブレーキ液圧をレバー操作力に対して自由に設定できるため、ブースタ機能を実現することが可能である。また、ABSモジュレータをブレーキキャリパの手前に追加すれば、ABS機能も実現できる。
【0061】
電気的制御を正常に実行できるときはマスタシリンダをストロークシミュレータに接続する一方、上記液圧ユニットの電動アクチュエータに異常が発生したときはマスタシリンダをストロークシミュレータから分離して、マスタシリンダで発生した液圧を直接にブレーキキャリパに供給する。
【0062】
しかし、上記ブレーキ装置の構成では、第1に、電気的制御時にブレーキ液圧が反力としてブレーキレバーに作用しないため、制動力を直接感知することができない。また、温度変化(例えば温度上昇によるホイルシリンダ容積の拡大)によるレバーストローク変化も感知できない。
【0063】
第2に、ストロークシミュレータとブレーキキャリパとの液量差を大きくして倍力比を大きく設定すると、上記異常発生時にはマスタシリンダのストロークが補助されないため、所望のブレーキ液圧を実現するために必要なレバーストローク(マスタシリンダのストローク)が大幅に増大してしまう。よって、すぐにストロークエンドに達してしまってレバーストロークに余裕がなくなる。このため、発生可能なブレーキ液圧の上限が低下して、制動力が不足するおそれがある、という問題がある。
【0064】
これに対し、本実施例1のブレーキ装置1では、電動アクチュエータ(モータM)を用いてブースタ機能を実現するときにも、ブレーキ液圧(ホイルシリンダ圧Pw)に比例した反力がブレーキレバー20を介して運転者に伝達される。このため、運転者がレバー反力により制動力を直接感知することができ、温度変化によるレバーストローク変化も感知できる。
【0065】
また、電動アクチュエータ(モータM)の失陥時にも、ブレーキレバー20の操作力によりブースタピストン42をストロークさせ、マスタシリンダ3のストロークを補助する。このため、必要なレバーストロークの増大を許容範囲内に収めることができる。したがって、発生可能なブレーキ液圧(ホイルシリンダ圧Pw)の上限が低下したり、制動力が不足したりするおそれがない。
【0066】
さらに、ブレーキレバー20の操作による仕事量にモータMの仕事量を加算することでブースタ機能を実現する構成であるため、制動に必要な仕事量(液量×液圧)を全て電動機により出力する比較例1のBBWシステムよりもモータMを小型化できる。
【0067】
(比較例2)
図7は、比較例2のブレーキ装置である。このブレーキ装置は、本実施例1のブレーキ装置1と同様、電動アクチュエータ(電動機M)を駆動してブースタシリンダF_Bstrを作動させることで、前輪Fのブースタ機能およびABS機能を実現できる。また、通常のブースタ動作時には、ブレーキ液圧が反力としてブレーキレバーF_Lvrに作用するため、制動力を直接感知することができる。
【0068】
まず、ブースタ動作を説明する。前輪のブレーキレバーF_Lvrは、前輪マスタシリンダF_MCに推力を伝える。前輪マスタシリンダF_MCで発生した液圧は、前輪Fのキャリパに伝えられる。一方、ブースタシリンダF_Bstrは電動機Mの正回転により加圧される。ブースタシリンダF_Bstrで発生した液圧は、前輪マスタシリンダF_MCで発生した液圧に加算されて、前輪Fのキャリパに供給される。
【0069】
前輪マスタシリンダF_MCおよびブースタシリンダF_Bstrには、変位センサSが設けられている。ここで、前輪マスタシリンダF_MCとブースタシリンダF_Bstrの受圧面積を等しく設定するとともに、両シリンダF_MC、F_BstrのピストンストロークXが等しくなるように、すなわち相対変位ΔX=0になるように電動機Mを制御すれば、前輪マスタシリンダF_MCからのブレーキ液量の2倍の液量が前輪Fのキャリパに供給される。よって、本実施例1と同様、前輪マスタシリンダF_MCの受圧面積をブースタ機能なしのものに比べて1/2にすることで、ブレーキレバーF_Lvrの操作量を同一としつつ、1/2のレバー操作力で所望のブレーキ液圧が得られる。
【0070】
次に、ABS動作を説明すると、前輪Fのロック発生時には、前輪マスタシリンダF_MCと前輪キャリパとの間に設けられた常開電磁弁Valveを閉じる。これにより前輪キャリパとブースタシリンダF_Bstrが閉鎖系を構成する。このとき電動機Mを逆回転してブースタシリンダF_Bstrのピストンを後退させることにより、前輪Fのブレーキ液圧を減圧する。前輪Fがグリップ力を回復した後は、電動機Mを正回転して相対変位ΔX=0の位置まで戻すことで、前輪Fのブレーキ液圧を回復する。
【0071】
なお、前輪マスタシリンダF_MCと前輪キャリパとを接続する配管上に設けられた圧力センサPにより、前輪キャリパの液圧をモニタできる。またブレーキレバーF_Lvrの操作時には、配管Yを介して、後輪キャリパに設けられた補助ホイルシリンダc_WCにマスタシリンダ液圧を導く。この後輪キャリパの構造と前輪液圧系からの配管接続は、コンバインド・ブレーキシステムCBSとして公知である。
【0072】
以上のように、比較例2のブレーキ装置は、ブレーキ液圧を直接にレバー反力として返しながら、少ないレバー操作量および操作力で所望のブレーキ液圧が得られるブースタ機能とABS機能とを1個の電動機Mの制御で実現できる。また、電磁弁の数も少なく単純な構成である。
【0073】
しかし、このブレーキ装置では、電動機Mが断線等により動作不能になった場合、所定ブレーキ液圧が得られる前輪マスタシリンダF_MCのストローク、すなわちブレーキレバーF_Lvrのストロークが2倍になってしまう。このため、レバーストロークに余裕がなくなり、発生可能なブレーキ液圧の上限が低下して制動力が不足する、という上記比較例1と同様の問題がある。特に、本比較例2では、ブレーキレバーF_Lvrの操作中、前輪キャリパだけでなく後輪キャリパの補助ホイルシリンダc_WCにも前輪マスタシリンダF_MCからブレーキ液を供給する構成であるため、失陥時のレバーストローク余裕不足という上記問題が起こりやすい。
【0074】
これに対し、本実施例1のブレーキ装置1は、マスタシリンダ3に独立した2つの加圧室(第1、第2加圧室Rm1,Rm2)を設け、片方の加圧室(第1加圧室Rm1)をホイルシリンダ(前輪キャリパ)に接続し、他方の加圧室(第2加圧室Rm2)をブースタシリンダ4の背圧室(第2ブースタ室Rb2)に接続した。
【0075】
すなわち、ブースタアクチュエータ(モータM等)および電源系の正常時には、片方の加圧室(第1加圧室Rm1)からのみ前輪キャリパに向けてブレーキ液を供給しつつ、他方の加圧室(第2加圧室Rm2)においては反力(液圧)を発生しない構成とした。マスタシリンダ3とホイルシリンダ(前輪キャリパ)との間にはブースタアクチュエータ(モータM等)により作動するブースタシリンダ4が接続され、上記片方の加圧室(第1加圧室Rm1)から供給されるブレーキ液には、ブースタシリンダ4(第1ブースタ室Rb1)からのブレーキ液が加給される。
【0076】
一方、ブースタアクチュエータ(モータM等)や電源系の異常時には、両加圧室(第1、第2加圧室Rm1,Rm2)から前輪キャリパに向けてブレーキ液を供給する。すなわち、上記他方の加圧室(第2加圧室Rm2)においても反力(液圧)を発生させ、この反力(液圧)により、ブースタシリンダ4の背圧室(第2ブースタ室Rb2)を加圧する。これによりブースタピストン42がストロークすることで、上記片方の加圧室(第1加圧室Rm1)から供給されるブレーキ液に、ブースタシリンダ4(第1ブースタ室Rb1)からのブレーキ液が加給される。
【0077】
以上のように、本実施例1のブレーキ装置1では、ブースタアクチュエータ(モータM等)の失陥時や電源系の失陥時にも、ブレーキレバー20の操作力によりブースタシリンダ4を作動させてブレーキ液を補給するため、失陥時のレバーストローク余裕不足という上記問題を解決できる。
【0078】
また、本実施例1のブレーキ装置1にも、比較例2と同様のコンバインド・ブレーキシステムCBSを適用することが可能である。すなわち、後輪キャリパに補助ホイルシリンダを設け、油路10に上記補助ホイルシリンダを接続すれば、比較例2と同様のCBSの機能を得ることができる。この場合、本実施例1のブレーキ装置1では、CBSの適用に伴う上記レバーストローク余裕不足を効果的に予防・抑制できる。
【0079】
なお、本実施例1では、上記「独立した2つの加圧室」を構成するために、マスタシリンダ3を段付シリンダ/ピストンとしたが、下記実施例3(図6)のように、2つのシリンダ/ピストンを平行に配置し、両ピストンを同時にレバーで押す構成としてもよい。
【0080】
また、本実施例1では、上記「正常時には他方の加圧室(第2加圧室Rm2)は反力(液圧)を発生せず、異常時には両加圧室(第1、第2加圧室Rm1,Rm2)から給液する」構成として、第2加圧室Rm2と第2ブースタ室Rb2とを接続する油路12,13と、この油路12,13とリザーバタンクRESとを接続する液圧開放油路14と、液圧開放油路14の連通/遮断を切り換える電磁弁7と、を設け、ブースタ正常動作時には電磁弁7を開弁して第2加圧室Rm2をリザーバタンクRESと連通させることとした。しかし、これに限らず、上記構成として、液圧開放油路14および電磁弁7を設ける代わりに、油路12,13上に、液量吸収手段を設け、これにより第2加圧室Rm2で発生する反力(液圧)を吸収する(異常時には油路12,13と液量吸収手段との連通を遮断する)こととしてもよい。
【0081】
[実施例1の効果]
以下、実施例1から把握される、本発明のブレーキ装置1が有する効果を列挙する。
【0082】
(1)ホイルシリンダ(前輪キャリパ)にブレーキ液を供給するブースタ装置をマスタシリンダ3とホイルシリンダとの間に接続し、上記ブースタ装置は、マスタシリンダ3とホイルシリンダとの間に接続されたブースタシリンダ4と、ブースタシリンダ4内を加圧室(第1ブースタ室Rb1)と背圧室(第2ブースタ室Rb2)とに隔成し、電動アクチュエータ(モータM)により(ブースタシリンダ4内を)摺動するブースタピストン42と、を有し、マスタシリンダ3は2つの圧力室(第1加圧室Rm1、第2加圧室Rm2)を有し、上記2つの圧力室に接続された油路の一系統(第1加圧室Rm1に接続された油路10,11)がホイルシリンダおよびブースタシリンダ4の加圧室(第1ブースタ室Rb1)に接続されるとともに、他系統(第2加圧室Rm2に接続された油路12,13)がブースタシリンダ4の背圧室(第2ブースタ室Rb2)に接続されていることとした。
【0083】
よって、マスタシリンダ3(ブレーキレバー20)のストロークを補助する電動アクチュエータ(モータM等)を用いてブースタ機能を実現できる。また、上記電動アクチュエータ(モータM等)や電源系が失陥した場合でも、ブレーキレバー20の操作力によりホイルシリンダへの給液量を保ちマスタシリンダストロークの補助を継続できるため、ブレーキレバー20の操作量増大がなく、レバー動作範囲が変わらない。したがって、上記失陥時にも所定制動力を確保できる。また、ブースタアクチュエータ(モータM等)を用いてブースタ機能を実現するとき、ブレーキ液圧(ホイルシリンダ圧Pw)に比例した反力がブレーキレバー20に作用するため、運転者がレバー反力として制動力を直接感知することができ、温度変化によるレバーストローク変化も感知できる。さらに、ブレーキレバー20の操作をモータMによりアシストする構成であるため、制動に必要な仕事量を全て電動機で出力する比較例1のようなBBWシステムよりもモータMを小型化できる、という効果を有する。
【0084】
(2)上記他系統に係る圧力室(第2加圧室Rm2)の液圧は、電動アクチュエータ(モータM等)の正常時に上記ブースタ装置(ブースタシリンダ4)の背圧室(第2ブースタ室Rb2)に作用せず、電動アクチュエータ(モータM等)の失陥時に上記ブースタ装置(ブースタシリンダ4)の背圧室(第2ブースタ室Rb2)に作用することとした。
【0085】
よって、モータMの正常時には、ブースタ装置(ブースタシリンダ4)の背圧室(第2ブースタ室Rb2)に液圧が作用しないので、モータMを作動させることでホイルシリンダ圧の減圧(および増圧)を阻害することがない。また、モータMの異常時には、ブースタ装置(ブースタシリンダ4)の背圧室(第2ブースタ室Rb2)に液圧が作用するので、モータMが作動しなくてもブースタピストン42が摺動して加圧室(第1ブースタ室Rb1)の容積を縮小する。これにより、一系統に係る圧力室(第1加圧室Rm1)からの液量を損出することがないため、ブレーキレバー20の操作量増大がなく、レバー動作範囲が変わらない、という効果を有する。
【0086】
(3)上記他系統に係る圧力室(第2加圧室Rm2)と上記ブースタ装置(ブースタシリンダ4)の背圧室(第2ブースタ室Rb2)との間(油路12,13)には、液量吸収手段(リザーバタンクRES)への液圧開放油路14が接続され、該液圧開放油路14には電磁弁7が配置され、該電磁弁7は電動アクチュエータ(モータM等)の失陥時に閉弁することとした。
【0087】
よって、電磁弁7を電動アクチュエータ(モータM等)の失陥時に閉弁することで、確実にブースタ装置(ブースタシリンダ4)の背圧室(第2ブースタ室Rb2)に液圧が伝達されるので、モータMが作動しなくてもブースタピストン42が摺動して加圧室(第1ブースタ室Rb1)の容積を縮小する。したがって、一系統に係る圧力室(第1加圧室Rm1)からの液量を損出することがないため、ブレーキレバー20の操作量増大がなく、レバー動作範囲が変わらない、という効果を有する。また、電磁弁7を開弁することでABS作動時(減圧時)にブースタシリンダ4(第2ブースタ室Rb2)からブレーキ液を逃がす開放系を構成でき、ABS制御を円滑に実行できる。電磁弁7を、ブースタアクチュエータ(モータM等)を用いたブースタ作動時に開弁する電磁弁としても用いることで、ブースタ機能とABS機能の両方で1個の電磁弁を共用できる。したがって、1個のモータMと2個の電磁弁6,7という部品点数の少ない単純な構成により、ブースタ機能とABS機能の両方を実現できる、という効果を有する。なお、上記液量吸収手段としては、リザーバタンクRESに限らず他の手段を用いることとしてもよい。
【0088】
(4)マスタシリンダ3の2つの圧力室(第1加圧室Rm1、第2加圧室Rm2)には、液量吸収手段(リザーバタンクRES)に接続され、圧力室(第1加圧室Rm1、第2加圧室Rm2)にブレーキ液を補給する補給室(第1補給室Rm3、第2補給室Rm4)がそれぞれ設けられ、該補給室のうち少なくとも一方(第2補給室Rm4)には液量吸収手段(リザーバタンクRES)への油路(液圧開放油路14)が接続されている。
【0089】
よって、ブースタ装置(ブースタシリンダ4)の背圧室(第2ブースタ室Rb2)からの液圧開放油路14を直接液量吸収手段(リザーバタンクRES)へ延出させる必要がなく、油路の構成が簡易になる、という効果を有する。
【0090】
(5)電動アクチュエータ(モータM等)の正常作動時において、他系統に係る圧力室(第2加圧室Rm2)のピストン32の移動に伴う増加液量と電動アクチュエータ(モータM等)によるブースタピストン42の摺動に伴う背圧室(第2ブースタ室Rb2)の吸収液量とはほぼ等しくなっている。
【0091】
よって、電動アクチュエータ(モータM等)の正常作動時に、マスタシリンダ3の他系統に係る圧力室(第2加圧室Rm2)の増加液量を液量吸収手段(リザーバタンクRES)へ排出する必要がなくなり、油路構成が簡易になる、という効果を有する。
【0092】
(6)マスタシリンダ3は、ピストン(マスタシリンダピストン32)およびシリンダ(段付のシリンダ室31)を有し、シリンダ(段付のシリンダ室31)には小径シリンダ室31aと大径シリンダ室31bとが形成され、ピストン(マスタシリンダピストン32)には、小径シリンダ室31aに収容される小径部(ピストン小径部32a)と大径シリンダ室31bに収容される大径部(ピストン大径部32b)とが形成され、シリンダ(段付のシリンダ室31)およびピストン(マスタシリンダピストン32)は圧力室(第1加圧室Rm1、第2加圧室Rm2)をそれぞれ構成している。
【0093】
よって、マスタシリンダ3の全長を抑えて、2つの圧力室(第1加圧室Rm1、第2加圧室Rm2)を形成することができる、という効果を有する。
【実施例2】
【0094】
(実施例2の構成)
図5は、実施例2のブレーキ装置1の全体構成を示す。実施例2のブレーキ装置1は、実施例1のマスタシリンダ3(第1加圧室Rm1、第2加圧室Rm2)のx軸方向での配置を逆転させ、かつマスタシリンダ3とブースタシリンダ4とを1つの液圧ユニット100にまとめたものである。これにより、マスタシリンダ3とブースタシリンダ4とを接続していたブレーキ配管(実施例1の油路10,12,13,液圧開放油路14)がなくなり、それらの配管に対応する油路10,12が、液圧ユニット100内に形成されている。同様に、実施例1では上記配管上に設けられていた電磁弁6,7および逆止弁6aも、液圧ユニット100内に収容されている。
【0095】
具体的には、第1加圧室Rm1は油路12を介してブースタシリンダ4の第2ブースタ室Rb2と接続される一方、液圧開放油路14を介してリザーバタンクRESと接続されている。液圧開放油路14には常閉の電磁弁7が設けられている。また、第2加圧室Rm2は油路10を介して第1ブースタ室Rb1と接続されている。油路10には常開の電磁弁6が設けられ、電磁弁6と並列に、第1ブースタ室Rb1から第2加圧室Rm2へのブレーキ液の流通のみを許容する逆止弁6aが設けられている。また、逆止弁6aと第1ブースタ室Rb1とを結ぶ油路上には、ホイルシリンダ圧Pwを検出する液圧センサ8が(液圧ユニット100の外に)設けられている。
【0096】
液圧ユニット100に一体的に取り付けられたモータMには、回転−直動変換機構5が内蔵されている。回転−直動変換機構5の当接部5aのx軸負方向側の端は半球状に形成され、ブースタピストン42のx軸正方向側の面に当接している。実施例2のブースタピストン42は、ピストン入力軸42bが省略され、ピストン摺動部42aのみを有するフリーピストンとなっている。モータMが正回転することにより、当接部5aがx軸負方向側に移動し、ピストン摺動部42aを押し付けて、ブースタピストン42をx軸負方向側にストロークさせる。
【0097】
その他の構成は、実施例1と同様である。
【0098】
(実施例2の作用)
実施例1と同様、各室の面積A1,A2,B1,B2の比を変えることで、正常時のストローク補助量(倍力比)および失陥時のストローク補助量を設定できる。本実施例2では、ブースタシリンダ4の第1、第2ブースタ室Rb1,Rb2の面積B1,B2を、マスタシリンダ3の第1、第2加圧室Rm1,Rm2の面積A1,A2よりも大きく設定することで、所定ホイルシリンダ圧Pwを得るために必要なブースタピストン42のストロークを短縮している。これにより、ブースタシリンダ4のx軸方向寸法を小さくできる。
【0099】
例えば、各室の面積比をA1=A2=1/2・B1=1/2・B2に設定すれば、Xb=−1/2・Xa(x軸正方向側が正)となるようにモータMの駆動を制御する(すなわち、マスタシリンダピストン32がx軸正方向側にXaだけ変位したとき、ブースタピストン42をx軸負方向側にXb=1/2・Xaだけ変位させる)ことで、倍力比=2のブースタ機能が得られる。なお、モータMの正常時には、電磁弁7を開弁させておく。
【0100】
このとき第1ブースタ室Rb1からは、第2加圧室Rm2から送られてきたQm2=A2×XaにQb1=B1×Xbを加えたQ= Qm2+Qb1だけの量のブレーキ液が、ホイルシリンダに送られる。ここで、A2=1/2・B1かつXa=2Xbであるため、Qm2=Qb1であり、ホイルシリンダへの送液量は、Q= Qm2+Qb1=2Qm2{=2(A2×Xa)}である。これによりマスタシリンダ3のストローク量が2倍に増大された効果が得られる(Q=A1×2Xa)。
【0101】
その他の作用は、実施例1と同様である。また、モータMの失陥時およびABS機能実現時の作用効果も、実施例1と同様である。さらに実施例2のブレーキ装置1は、1つの液圧ユニット100内にマスタシリンダ3およびブースタシリンダ4が設けられているため、装置全体をコンパクトに小型化できる、という効果を有する。
【実施例3】
【0102】
(実施例3の構成)
図6は、実施例3のブレーキ装置1の全体構成を示す。実施例1,2では段付シリンダ/ピストンを有するマスタシリンダ3を用いたが、実施例3では、シリンダ室31a、31bおよびマスタシリンダピストン32a、32bが並列に配置されたマスタシリンダ3を用い、リンク24を介してブレーキレバー20のストロークを両マスタシリンダピストン32a、32bに伝達する。
【0103】
具体的には、シリンダハウジング30内に2つのシリンダ室31a、31bが並列に形成され、それぞれx軸負方向側でシリンダハウジング30の外部に開口している。シリンダ室31a、31bにはそれぞれ円柱形状のマスタシリンダピストン32a、32bが収容されている。マスタシリンダピストン32aが実施例1のピストン小径部32aに相当し、マスタシリンダピストン32bが実施例1のピストン大径部32bに相当している。
【0104】
シリンダ室31aとマスタシリンダピストン32aとの間で第1加圧室Rm1が隔成され、シリンダ室31bとマスタシリンダピストン32bとの間で第2加圧室Rm2が隔成されている。第1加圧室Rm1には戻しバネ33aが設置され、第2加圧室Rm2には戻しバネ33bが設置されている。図6はブレーキレバー20の非操作状態を示し、シリンダ室31bに開口する油路30c、30dは、リザーバタンクRESに連通している。
【0105】
リンク24の揺動部24bは、支点24aを中心としてx軸方向に揺動可能に設けられている。揺動部24bのx軸正方向側には、リンク当接部24d、24eが半球面状に突出するように形成されている。リンク当接部24d、24eは、それぞれマスタシリンダピストン32a、32bのx軸負方向側の端面に当接している。一方、揺動部24bのx軸負方向側には、リンク当接部24cが半球面状に突出するように形成されている。リンク当接部24cは、ブレーキレバー20のレバー当接部23に当接している。なお、リンク24の構成は上記のものに限られない。
【0106】
その他の構成は、実施例1と同様である。
【0107】
(実施例3の作用)
ブレーキレバー20が握られると、レバー当接部23がリンク当接部24cを介して揺動部24b をx軸正方向側に押し付ける。これにより揺動部24bが支点24aを中心としてx軸正方向側に揺動する。揺動部24bはリンク当接部24d、24eを介してそれぞれマスタシリンダピストン32a、32bをx軸正方向側に押し付け、ストロークさせる。なお、同一のブレーキレバー20の操作量に対するマスタシリンダピストン32a、32bのストローク量は略同一とみなせる。よって、第1加圧室Rm1および第2加圧室Rm2の各受圧面積A1,A2を例えばA1=A2に設定すれば、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0108】
また、2つのマスタシリンダ/ピストンを並列に配置し、両ピストンを同時にブレーキレバー20で押す構成としたため、マスタシリンダ3を段付シリンダ/ピストンとした実施例1,2に比べてシリンダ/ピストンの加工や組み付けが容易であり、作業性を向上できる。
【0109】
なお、リンク24における支点24aから力点(リンク当接部24c)までの長さβに対する、支点24aからマスタシリンダピストン32aへの作用点(リンク当接部24d)までの長さγの比(レバー比)γ/βは、上記長さβに対する、支点24aからマスタシリンダピストン32bへの作用点(リンク当接部24e)までの長さδの比δ/βよりも小さい。このレバー比の差により、ブレーキレバー20の同一の操作力により発生するマスタシリンダピストン32a、32bへの上記押し付け力は、マスタシリンダピストン32bよりもマスタシリンダピストン32aのほうが大きい。上記レバー比の大小関係は、力点(リンク当接部24c)の位置に関わらず保たれる。
【0110】
上記のように、モータMの正常駆動によりブースタ機能を実現しているとき、第2加圧室Rm2の圧力は大気圧であるのに対し、第1加圧室Rm1の圧力はホイルシリンダ圧Pwである。よって、ブレーキレバー20に作用する力Fmは、マスタシリンダピストン32aのみから作用する(Fm=Pw×A1)。したがって、上記力Fmに対抗してブレーキレバー20を握る力は、上記レバー比のために小さくなり、ホイルシリンダ圧Pwをより容易に発生させることができる。言い換えると、実施例1,2に比べて小さなレバー操作力で所望のブレーキ力を得ることができる。
【0111】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1〜3に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例1〜3に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0112】
実施例1〜3では、電動ブースタとして、モータMの回転動力を機械的に伝達してブースタピストン42を移動させる方式を用いたが、電動モータを用いた他の方式を採用してもよい。
【0113】
実施例1では、第1加圧室Rm1の受圧面積A1、第2加圧室Rm2の受圧面積A2、第1ブースタ室Rb1の受圧面積B1、および第2ブースタ室Rb2の受圧面積B2の比をA1=A2=B1=B2とし、マスタシリンダ3のストロークXaとブースタシリンダ4のストロークXbをXb=Xaとして説明したが、これらの比に限られず、適宜設定を変更することで、正常時のストローク補助量(倍力比)およびブースタアクチュエータ失陥時のストローク補助量(特性)を任意に設定できる。実施例2,3でも同様である。
【0114】
例えば、ブースタピストン42のストロークXbを検出するセンサを設け、ブースタアクチュエータ正常時には、任意に設定したレバーストローク(Xa)とレバー反力および制動力(ホイルシリンダ圧Pw)との関係特性に基づき、この特性を実現するストロークXbとなるようにブースタピストン42を位置フィードバック制御して、ストローク補助量を可変制御することとしてもよい。
【0115】
実施例1〜3では、ブレーキレバーを用いたブレーキ装置1を、2輪車に適用する例を示したが、その他の車両、例えば4輪車に適用することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】実施例1のブレーキ装置の全体システム図である。
【図2】実施例1のブレーキ装置の全体システム図である(ブースタ動作時)。
【図3】実施例1のブレーキ装置の全体システム図である(モータ失陥時)。
【図4】実施例1のブレーキ装置の全体システム図である(ABS動作時)。
【図5】実施例2のブレーキ装置の全体システム図である。
【図6】実施例3のブレーキ装置の全体システム図である。
【図7】比較例2のブレーキ装置の全体システム図である。
【符号の説明】
【0117】
1 ブレーキ装置
3 マスタシリンダ
4 ブースタシリンダ
6 常開電磁弁(第2の電磁弁)
7 常閉電磁弁(第1の電磁弁、電磁弁)
8 液圧センサ
9 ストロークセンサ
14 液圧開放油路
20 ブレーキレバー
32 マスタシリンダピストン
42 ブースタピストン
M モータ(電動アクチュエータ)
RES リザーバタンク(リザーバ)
Rm1 第1加圧室(一系統に係る圧力室、第1圧力室)
Rm2 第2加圧室(他系統に係る圧力室、第2圧力室)
Rb1 第1ブースタ室(加圧室)
Rb2 第2ブースタ室(背圧室)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイルシリンダにブレーキ液を供給するブースタ装置をマスタシリンダと前記ホイルシリンダとの間に接続し、
前記ブースタ装置は、前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダとの間に接続されたブースタシリンダと、該ブースタシリンダ内を加圧室と背圧室とに隔成し、電動アクチュエータにより摺動するブースタピストンと、を有し、
前記マスタシリンダは少なくとも1つのピストンの移動によって加圧される2つの圧力室を有し、
前記マスタシリンダの2つの圧力室に接続された油路の一系統が前記ブースタシリンダの前記加圧室および前記ホイルシリンダに接続されるとともに、他系統が前記ブースタシリンダの前記背圧室に接続されていることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
前記他系統に係る圧力室の液圧は、前記電動アクチュエータの正常時に前記ブースタ装置の背圧室に作用せず、前記電動アクチュエータの失陥時に前記ブースタ装置の背圧室に作用することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記他系統に係る圧力室と前記背圧室との間には、液量吸収手段への液圧開放油路が接続され、該液圧開放油路には第1の電磁弁が配置され、該第1の電磁弁は前記電動アクチュエータの失陥時に閉弁することを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記マスタシリンダの2つの圧力室には、前記液量吸収手段に接続され前記圧力室にブレーキ液を補給する補給室がそれぞれ設けられ、該補給室の少なくとも一方には前記液圧開放油路が接続されていることを特徴とする請求項3に記載のブレーキ装置。
【請求項5】
前記電動アクチュエータの正常作動時において、前記他系統に係る圧力室の前記ピストンの移動に伴う増加液量と前記電動アクチュエータによる前記ブースタピストンの摺動に伴う前記背圧室の吸収液量とがほぼ等しいことを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ装置。
【請求項6】
前記マスタシリンダは、前記ピストンおよびシリンダを有し、前記シリンダには小径シリンダ室と大径シリンダ室とが形成され、前記ピストンには、前記小径シリンダ室に収容される小径部と前記大径シリンダ室に収容される大径部とが形成され、前記シリンダおよびピストンは前記圧力室をそれぞれ構成していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項7】
前記マスタシリンダおよび前記ブースタ装置は1つの液圧ユニット内に設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項8】
前記マスタシリンダは、並列配置された2つの独立したシリンダおよびピストンを有し、前記シリンダおよびピストンは前記圧力室をそれぞれ構成していることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項9】
前記2つのピストンの前記圧力室とは反対側の端部のそれぞれに作用する2つの作用部が設けられ、運転者のブレーキ操作に応じて揺動することで前記2つのピストンを同一方向に押し付けるリンクを有し、
前記一系統に係る圧力室を構成する前記ピストンに作用する前記作用部から前記リンクの揺動支点までの長さが、前記他系統に係る圧力室を構成する前記ピストンに作用する前記作用部から前記リンクの揺動支点までの長さよりも短いこと
を特徴とする請求項8に記載のブレーキ装置。
【請求項10】
前記一系統に係る圧力室と前記ブースタ装置の加圧室との間には、第2の電磁弁が配置され、該第2の電磁弁はABS作動時に閉弁することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項11】
ホイルシリンダにブレーキ液を供給する第1圧力室と該第1圧力室とは別に液圧を発生する第2圧力室とを有し、ブレーキ操作に応じて前記第1圧力室と前記第2圧力室とがともに液圧を発生するマスタシリンダと、
電動アクチュエータにより摺動するブースタピストンによりブースタシリンダの内部を加圧室と背圧室とに隔成し、該加圧室が前記ホイルシリンダと前記第1圧力室との間に接続されるブースタ装置と、からなり、
前記マスタシリンダの第2圧力室が前記ブースタシリンダにおける前記背圧室に接続されているブレーキ装置。
【請求項12】
前記第2圧力室の液圧は、前記電動アクチュエータの正常時に前記ブースタ装置の背圧室に作用せず、前記電動アクチュエータの失陥時に前記ブースタ装置の背圧室に作用することを特徴とする請求項11に記載のブレーキ装置。
【請求項13】
前記第2圧力室と前記背圧室との間には、前記マスタシリンダに設けられるリザーバへの液圧開放油路が接続され、該液圧開放油路には電磁弁が配置され、該電磁弁は前記電動アクチュエータの失陥時に閉弁することを特徴とする請求項11または12に記載のブレーキ装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−35033(P2009−35033A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198737(P2007−198737)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】