説明

プラズマフローを内部通路コーティングのために指向させる装置

ワークピース(40、120、142)の表面をコーティングする装置(10)であって、ワークピースを通る内部通路(44、46、48)内に圧力勾配を形成するものであり、これにより内部通路内のコーティングが平滑さや硬度に関連する特徴などの意図する特徴を呈するものである。上記装置は協働するシステムを含んでおり、これにはプラズマ発生システム(12)、操作可能なワークピース支持システム(34、90、122)、ワークピース内または周囲のイオン化を増加するイオン化励起システム(66、116)、選択された電圧パターンをワークピースに印加するバイアスシステム(52)および2房室システム(96、98)があり、2房室システムはプラズマ発生を第1の選択された圧力で起こさせかつ第2の選択された圧力で堆積を起こさせるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は堆積システム、より詳しくはワークピースの内部通路をコーティングする装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特定の産業において使われるシステム要素の設計と製造に際して、重要な事項は表面の平滑性、硬度、コストおよび製造技術の周辺効果である。一例を挙げると、半導体製造産業では超高度純粋ガス配送システムがあり、それらの要素がシステム要素の製造のために技術の選択が考慮される。
【0003】
そのようなシステム要素はマスフロー制御器、弁、圧力調節器、純化器、フィルターおよび配管などである。半導体産業においては、無汚染環境を達成維持するためにガス配送システムにおける腐食抵抗が重要である。平滑性は乱流を制御しかつ含湿状態の最小化のために重要な役割を果たす。ガス配送システムに使用される要素の製造に使われる材料の清浄性、平滑性および硬度については詳細、厳正な仕様があり、Semicondutor Equipment and Materials International(SEMI)などの組織により特定されている。他にも関心の重要な産業としては医薬・宇宙空間分野がある。
【0004】
多くのガス配送要素は300のビッカース硬度に適合しなければならない。これは金属表面が相互に接触したときに傷が発生しないことを確実にする標準的な意図である。粒子を発生する元になるので傷は問題である。他の要求を満足するので選ばれた材料はこの標準に合わないこともあり、したがって、硬度を増加すべく設計された苦心した製造後技術に掛けられる。
【0005】
例えば鉄、クロム、ニッケルおよび他のトレース材料からなるオーステナイト合金である316Lステンレススチールは、要素が研磨されるまでは、300ビッカース硬度要求には本来合わない。残念なことに、研磨は時間が掛り、要素の製造バッチの歩留りに顕著に影響する。
【0006】
集合的に懸念に対処するひとつの試みでは、ある種の性質について基材を選択して、要素の成形後基材をコーティングする。一般にコーティング材料は金属または金属含有化合物(セラミックなど)である。コーティング技術としては化学的蒸着(CVD)、物理的蒸着(PVD)、プラズマスプレー、電気メッキおよびゾルゲルがある。
【0007】
CVDについては、コーティング材料を含んだガス状の種が真空房室に導入される。これによりガスが房室内で分解されると、コーティング材料が要素(つまりワークピース)上に堆積される。
【0008】
これに比べて、PVDはガス相中での薄いフィルムの堆積プロセスであり、コーティング材料が化学反応なしに真空中で物理的に移転される。つまり、コーティング材料の化学的組成にはなんらの変化もない。PVDは加熱、イオンビーム、陰極アークまたは電子ビームを使ってコーティング材料の対象を真空中で蒸発させる。陰極アークプロセスは磁界を採用して、対象の領域に高電流密度を有したアークを集中させる。アークを操作する磁界を使うことにより、対象のより大きな部分が交換が必要となる前に使用できる。
【0009】
金属または、チタン、窒化チタン、クロムおよび窒化クロムなどの金属を含んだフィルムを堆積する際に、CVDプロセスに比べて、PVDプロセスは安全性と環境状態を改善する。PVDは一般に1〜10mTorrの範囲で作用する。これは陰極付近のプラズマ電子を磁気で閉じ込めること(所謂スパッタリングマグネトロン)により達成されるものであって、低圧でプラズマを高める。スパタリングの非マグネトロン形態(例えばダイオードスパッタリング)は高圧で作用でき、1Torrまで作用できる。
【0010】
これに比較してCVD圧力は50mTorr〜大気圧の範囲にあり、低圧CVD(LPCVD)は一般に100mTorr〜1Torrである。しかし他の圧力理由からLPCVDが推奨される。平均自由通路とガスフローの方向性を低減する目的でPVDプロセスよりもLPCVDが選択される。コーティングされるワークピースが形状複雑な場合への応用においてはこれは重要である。
【0011】
弁や圧力調節器や管路など内部通路を含んだワークピースの場合にはワークピースのコーティングは特に問題的である。ワークピースの形状の複雑性が増すにつれて、環境と人間の安全性に基づいてコーティングプロセスを選択する可能性が低減する。アメリカ特許第5,026,466号(Wesenmeyer他)に開示された溶液は内部通路をコーティングする限られた数の応用において使用できる。
(ここが抜けているようである)
【特許文献1】アメリカ特許第5,026,466号
【0012】
前記特許においては、陰極(つまりコーティング材料からなる対象)はワークピースの房室内に配置されている。例えばワークピースが管である場合には、陰極は管を通る内部通路内に配置されている。作用時には、陰極表面からの材料は蒸発されてワークピースの内部表面上に堆積される。選択的にワークピースは陽極として連結される。つまり、負の電圧がワークピースに印加されて、ワークピース内に配置された陰極からの材料の蒸発を誘発する状態を与える。
【0013】
前記特許とアメリカ特許第5,435,900号および6,663,755号(Gorokhovsky)に開示されたコーティング装置は種々の応用においてよく実行し、コーティング均一性などの実行ファクターは、ワークピースが形状複雑な場合には、顕著に影響される。
【特許文献2】アメリカ特許第5,435,900号
【特許文献3】アメリカ特許第6,663,755号
【0014】
少なくとも1個の内部通路を有したワークピースの表面をコーティングする装置はプラズマ源と支持体とプラズマフローシステムとを有しており、プラズマ源はコーティング材料を含んだプラズマを発生し、支持体はプラズマ源に対して離間する位置関係の空間内にワークピースを特定な配置で固定し、プラズマフローシステムは固定されたワークピースの各内部通路を通って制御されたプラズマフローを指向させる。
【0015】
該装置は、プラズマ発生システム、ワークピース支持システム、プラズマフローシステム、ワークピース内または周囲のイオン化を増大するように形成されたイオン化励起システム、選択された電圧パターンをワークピースに印加するバイアスシステムおよび第1の選択された圧力でプラズマ発生を起こさせてかつ第2の選択された圧力で堆積を起こさせる2房室システム、などの種々のサブシステムの特定な組合せを含むことができる。
【0016】
内部通路の均一コーティングのためには、分子フロー領域を回避することが重要である。つまり内部通路の内径はイオン(または原子)平均自由通路の長さより大でなければならない。内径が平均自由通路の100倍を超える場合には、連続フローが望ましい。
【0017】
ワークピース支持体システムはワークピースの内部通路を通るプラズマフローを与えるように形成される。ワークピース内には圧力勾配が形成される。ワークピースの各開口がプラズマの排出または取込みポートであるようにワークピースは固定される。絞り弁などのフロー制御体は、ワークピースを通っての流速と圧力勾配をバランスするように、調節される。電圧バイアスシステムは特定のデューティサイクルを有した負のパルスバイアスを印加するが、該デューティサイクルはワークピースの表面にイオン化コーティング材料を引き付ける期間にイオンが再補給されように選ばれる。バイアスの強度は、ワークピースの表面に対するイオンの到達角度を制御するように調節され、これにより高いアスペクト比の形状のコーティングが可能となる。
【0018】
2房室システムを有した一実施例においては、装置は物理的蒸着(PVD)を使用し、源房室は比較的低圧に保たれ、堆積房室はより高い圧力に保たれる。安全性および環境的な配慮から、CVDに比べて、PVDを金属源に用いるのが望ましい。ダイオードスパッタリングを選択することにより、2房室システムを使うことなしにPVD技術を採用できる。
【0019】
低圧源房室に比べて高圧堆積房室は小さいサイズにできる。2個の房室はイオンを遮断しフィルムの滞留を防止する狭窄領域により結合できる。この狭窄は高圧房室から源房室への逆流を防止する助けとなる。アルゴンなどのガスを導入して圧力を増加できる。他の可能性としては、1対の低圧源房室を採用して、2つの源を高圧堆積房室に供給するのに協働させることもできる。
【0020】
いかなるプラズマも種々のイオン対非イオン化ガス原子または分子の比率を含んでいる。イオン化は0.1〜100%の範囲である。一般に高いイオン化はコンフォーマルコーティングになる。源房室から堆積房室への圧力増加はイオン化のロスを招く。これを解決するにはイオン化励起システムを採用してワークピース内または近辺のイオン化を増加させる。一例としてマイクロウエーブ源を使って、ワークピースの周囲に高いイオン化を与える。これに代えて、イオン化を増加するには、電子サイクロトロン共鳴(ECR)、分散ECRおよび無線周波数(RF)源などのプラズマ源を採用できる。
【0021】
増加が望まれるイオン化の対象レベルを達成するには、ワークピースの内部通路をホロー陰極として使って、内部通路それ自身内にプラズマを発生する。プラズマがワークピース外で発生される場合はいつでも、入口から出口へのイオンおよび原子フローとしてイオン化の増加がある。潜在的には、これにより内部通路の長手方向に沿ってのコーティングフィルムが非均一となり、内部通路の長さが増し、かつ内部通路直径が減少して、出口におけるコーティング厚さはゼロに近づく。内部通路(ホロー陰極を介して)の全長に亘ってのプラズマ発生を用いると、非常に長い通路でも均一なコーティングが達成される。
【発明の開示】
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、最終製品が腐食抵抗や高真空完全性などのメリットを帯び基材は安価でよく(プラスチックなど)、基材に対して金属コーティングが保護バリアとして機能し、コーティングの均一性も向上する。
【実施例】
【0023】
図1に示すのはこの発明のコーティング装置10の一実施例であって、プラズマ発生システム、ワークピース支持システム、プラズマフローシステム、イオン化励起システムおよび2房室システムを有している。さらにワークピースバイアスシステムも含まれており、これを図2に示す。しかし他の実施例のコーティング装置は異なるシステムを含んでいる。例えば図6の実施例では、ダイオードスパッタリングを利用しているので2房室システムは含んでない。これら異なる実施例の共通の特徴はイオン化プラズマがコーティングされるワークピースの少なくとも1個の内部通路を流れる点である。
【0024】
コーティング装置10はプラズマ源12を有している。他の技術(例えばCVD)も使えるが、前記の理由からPVDが望ましい。陰極アーク技術は高いイオン化源プラズマ(ほぼ100%のイオン化に近い)を提供する一方、導入される低イオン化を有したバックグラウンドガス(反応性または不活性)の量が少ない。これに代えて、多くの周知のスパッタリングアプローチのようにバックグラウンドガスはイオン化でき、かつ中性源原子を含有することができる。異なる操作パラメータの設定の選択は技術の選択に応じて変わるが、またしても共通の特徴は「流れ通る」点である。
【0025】
プラズマ源12には比較的低圧の圧力源房室14が併設されている。該房室中の圧力は高真空ポンプ16と真空ポンプ(ターボポンプ)18を使って維持される。例えば、圧力源房室14中の圧力は1〜10mTorrの範囲にあり、プラズマ源としてはPVD源が望ましい。これと比較して、CVD源は50mTorrなどの顕著に高い圧力を必要とする。
【0026】
圧力源房室14に加えて、高圧堆積房室20が設けられている。2個の房室間の圧力差は第2の真空ポンプ26とブロアー30の組合せにより維持できる。圧力制御弁22、24が圧力を調節する。堆積房室20に関して受容できる圧力範囲は50mTorr〜1Torrである。所望の圧力が範囲の終端の1Torrに近い場合には、1個の房室、図6のダイオードスパッタリングが特に適している。
【0027】
堆積房室20内にはワークピース支持システムが設けられており支持体34を有している。この一実施例においては、支持システムはまた締結体36を有しており、その有する4個の垂直突起38はワークピースを支持体34に固定する。これに代えて、締結体36とその垂直突起は図1のワークピースであるとも考えられる。ワークピース支持システムの部分であるかまたはワークピースそのものであっても、この構成要素は通路を有しており、該通路は堆積房室20とポンプ26間の流れを可能とする。
【0028】
図1〜3においてこの発明に重要なのは、ガスフローがワークピース中を流れることを可能とするようにワークピース40が支持されることである。図2、3において矢印で示されるようにワークピースの少なくとも1個の内部通路が、開口が真空ポンプ26のフローと一線をなすように配置されており、他の開口はプラズマ環境(図1、3の42)に開いている。
【0029】
図示のように外面は内面と同時にコーティングされる。真空ポンプ26により維持される低圧とガス供給源62からのバックグラウンドガスにより堆積房室20中に維持されている高圧の結果、圧力勾配が生成される。該圧力勾配はワークピースの内部通路を通るプラズマフローを指向しており、これにより内面がコーティング可能となる。圧力制御弁22、24の調節と真空ポンプ16、18、26の調節および/またはバックグラウンドガス流速の調節により勾配はバランスを保たれる。
【0030】
図2、3に3個の圧力領域(P1、P2、P3)を示す。ここでP3>P2>P1である。P1は真空ポンプ16により発生され非常に低圧であり、該真空ポンプは機械的なポンプであり、ほぼ10mTorr(高い真空ポンプを使えばより低い基本圧力も可能である)の基本圧力を発生する。P1とP3の圧力差により矢印49で示すようにフローは内部通路44を通って真空ポンプ26の方に駆動される。P2とP3の圧力差によりフローは矢印50で示すように内部通路46、48を通って真空ポンプ26の方に駆動される。
【0031】
この圧力勾配によりワークピース40の開口の方への内部通路を通ってのフローの流速が制御される。また内部通路の直径も圧力勾配に影響するが、ワークピースのデザインにより選択される一定値である。異なるワークピースの寸法差を補償すべく、絞り弁24の位置を設定してP1および/またはガス流速および絞り弁22の位置はP3に設定するべく調節される。図1〜3のワークピース支持システムに代えて、図2、3の支持体34はワークピースの頂上に配置できる。これにより全てのフローは圧力P3でメイン開口に入り、かつ圧力P1で他の3個の開口を通って出て行く。
【0032】
図2にワークピース(部分)バイアスシステム52を示す。該バイアスシステムはプラズマ内のイオンと反対の極性を有した電流を印加する。該バイアスは連続的であるが、好ましくはパルスの形で印加され、該パルスの有するデューティサイクルは調節されて、プラズマ42、特に内部通路44、46、48のプラズマ内にイオンが再補給され得る。プラズマ内のイオン化のレベルに応じて強度の上限は少なくとも部分的である。コーティング材料の装填が表面より下で行われるような応用では、−25kV〜−100kVなどの高電圧が印加されるべきである。
【0033】
コーティング材料の装填が表面より下で行われる一例としては鋼鉄のニドリデーション(nidridation)がある。これに比較して、トップフィルムが堆積されてワークピースの内部通路が高いアスペクト比を有するような応用にあっては、低圧が使用されるべきである。プラズマシースの寸法の増加の結果、低圧強度はワークピース40内のプラズマのロスの可能性を低減する。
【0034】
プラズマのロスはコーティングの均一性をネガティブに衝撃する。高アスペクト比応用に関しては、低圧は入射イオンの小到達角度を結果してコーティング挙動を改善する。小内径のコーティングの応用における受容できる電圧は−50〜−2kVの範囲にある。かくして比較的高いバイアスを印加することによる増加堆積比率と最高の品質ともっとも均一なコーティングを達成することの間には妥協があることになる。
【0035】
バイアスシステム52からの電圧バターンのデューティサイクルと強度は再スパッタリングに影響があり、特に高アスペクト比を有した小径筒のコーティングの場合にはそうである。一般に、1〜75%の間のデューティサイクルがそのような応用に使用されるべきである。この一般的な範囲内では、最適なデューティサイクルはバイアスの強度と房室与圧に応じて変化する。
【0036】
図2に陽極54と陰極56とを示す。陰極アークについての作用と状態、スパッターマグネトロン、他のプラズマ発生器は当業界周知であるので説明を省く。
【0037】
図1の2房室システムにあっては、プラズマ源12から堆積房室20への磁気操縦領域55がある。該領域はプラズマフロー制御システムの一部と考えてもよい。固定磁気体57が慎重に配置されるかまたは電磁手段が使用される。磁気操縦領域の利点のひとつはプラズマ源12において発生された粒子が堆積房室20に到達するプラズマ流れから濾過されることである。図4に示す磁気操縦領域は異なる配置である。図1、4の同じ構成要素には同じ参照番号を用いる。磁気操縦領域は2房室の実施例について記載したが、図6の1房室実施例や図5の2源実施例にも同じような領域が使用できる。
【0038】
全体の圧力勾配を定める要因のひとつは「くびれ」(狭窄)ポート58である。このポートは好ましくは通路バイアスシステム60を使ってバイアスされている。該バイアスシステムは図2に示された通路バイアスシステム52と反対の極性の電圧を提供する。ポートをバイアスしてイオンを遮断し、かつ好ましくない場所でのフィルムの構築を防止する。源房室から堆積房室へのこの狭窄は房室間のコンダクタンスを低減し、かつ堆積房室20に注入されたガスフローと2個の房室のためのポンプ速度の調節可能な差と組み合わされて、堆積房室20中の圧力をより高くする。
【0039】
前記したように、ガス供給源62は堆積房室に連結されて、調節可能なバックグラウンドガス流速を与える。図1において、第2のガス供給源64は圧力源房室14に連結されているが、2個の房室間の圧力を等しくはしない。導入されるガスはアルゴンなどの不活性ガスまたは反応性スパッタリングに用いるような反応性ガスでもよい。しかし、源ガスを堆積速度が好ましくないレベルに落ちるほどには希釈しないように注意すべきである。
【0040】
2個の房室14、20の圧力の増加の問題はプラズマがイオン化を失い始めることである。つまり圧力が増加すると、イオン化が低減する。プラズマ浸漬イオン注入堆積(PIIID)には高いイオン化が必要である。かくして図1のコーティング装置10にはイオン励起システム66が含まれる。一例では、該システムがマイクロ波源であって、ワークピースの周りまたは内部のイオン化を増加させる。
【0041】
これに代えて、RF励起またはECRまたはDECR源などの他のプラズマ源も使用できる。ワークピース内において増加イオン化が起きる場合には、装備は「ホロー陰極」であると考えられる。堆積房室20内の高圧領域は短い平均自由通路の故にガスフローがより少ない方向性となる。結果として、衝突により増加する。複雑な形状のワークピースの内面をコーティングしたい場合には、前記の圧力勾配を使ってワークピースの内部通路を通るようにガスフローを指向させ得る。ワークピースの寸法に応じてこれは圧力差を生じる。
【0042】
ワークピース40を通るに必要とされる流速と圧力を考えると、層流を有する長い円形筒の内部部分に内部部分がほぼ等しい場合にはポアシュイレ(Poisuille)の等式を使える。
【数1】

【0043】
ここでQはスループットまたは圧力時間容積流速であり、dは内部通路直径であり、Pは平均圧力((P1+P2)/2)であり、lは内部通路長であり、ηは速度であり、P1は堆積房室へのワークピース開口における圧力であり、P2はポンプへのワークピース開口における圧力である。
【0044】
真空ポンプ26への絞り弁を開くことにより圧力勾配が増加されると(P2を低減する)、Qは増加してワークピースの内部通路内の圧力は落ちる。
【0045】
圧力勾配がさらに増加すると、最大値に達するまでQは増加を続け、最大値においてガスは音速で流れる。Qが最大値に達すると、前記の等式は最早適用されず、この状態を「絞られた」または「臨界」フローと呼ぶ。等式においてdは第4の力に上がり、Qおよび圧力勾配に顕著な影響を有する。この理由から堆積房室に調節可能な代わりのポンプ通路を提供し、代わりのより大きなdの値を与える。
【0046】
ワークピース内では、層流を維持して均一なコーティングを達成するのなら分子フローを回避する。典型的な低圧陰極アークまたはスパッタリングの方向性を避けるには、より高い圧力堆積(50mTorr〜1Torr)が使用されるべきである。層流に関しては、クヌドソン(Knudson)数(Kn<0.01でレイノルズ(Reynolds)数Rn<1200)が使われる。ここでKn=λ/dであり、λ=イオンまたは原子の平均自由通路であり、Rn=4m/(kTπη)X(Q/d)であり、QはPa−L/s内のスループットであり、k=ボルトマンの定数であり、ηは粘度である。
【0047】
クヌドソン数は分子フロー方式(Kn<1)から粘性または乱流フロー方式への転移を示すものである。1cm直径の管では、λ<1cmでフローは分子フローから転移領域フローに動く。N2については、これは0.8Pa(6mTorr)の圧力に相当し、λ=0.01cmでフローは完全に粘性(もしRn<1200ならば)となり、N2については65Pa(488mTorr)の圧力に相当する。
【0048】
ワークピース支持システムは堆積房室20内で静止状で示されているが、水平および/または垂直に移動してコーティングの均一性を促進する支持体34を提供することも可能である。他の可能性としては、支持体が垂直軸について回転し、複雑な形状のワークピースをコーティングするのに助けとなる。
【0049】
図5の第2の実施例においては、2個の源房室96、98があり、単一の堆積房室100に供給する。2個の源房室は同じである。各源房室は陽極102、陰極104、ポンプ装置106および「狭窄」領域108を有している。
【0050】
源房室96、98から堆積房室100への通路は絞り弁110、112により制御される。図示しないが、狭窄領域108は好ましくはバイアスされて、コーティング材料の蓄積を防止する。圧力制御システムの他の要素は堆積房室の絞り制御ポンプ装置114である。
【0051】
図5において、堆積房室100はイオン励起システム116とガス源118とに連結されている。前記したように、イオン化励起システムは、ECR、分散ECRまたはRF技術などを利用したような、マイクロウエーブ源またはプラズマ源である。ガス源118はアルゴンなどの不活性ガスまたは反応性ガスを供給する。
【0052】
堆積房室100内にはワークピース120があり、ワークピース支持システム122により位置固定されている。該支持システムはワークピースの回転を可能とし(曲線124で示すように)、ワークピースの上下動を可能とする(線126で示す)。好ましくは、ワークピースはまた水平方向にも移動可能である。
【0053】
作用においては、絞り弁110、112が2源房室96、98から単一堆積房室100へのプラズマのフローを調節する。ガス供給118は房室への第3のガス入口として機能する。房室からの排出は絞り制御ポンプ装置114により定められる。ワークピース120は、圧力勾配がワークピースの内部通路または通路に形成されるように、固定される。ワークピース支持システム122はワークピースを垂直または水平に動かしかつ回転させる。
【0054】
選択的に、この実施例においては磁気操縦システムが設けられており、該システムでは、ワークピース内および周囲におけるプラズマ内の磁界を連続的に変化させることにより、コーティングプロセスがラスタスキャンされる。コーティングプロセスを局部化させるこの磁界を変化させる考えはワークピースのコーティング内部通路を含まない実施例において使用される。例えば半導体基盤を取り巻くプラズマ内の磁界は操作されて、半導体基盤の表面に沿っての溝において適切にカバーするステップを確実にする。堆積房室内でワークピースを線形および/または回転的に位置変えさせる機能と組み合わせると、磁界操作は特に有効である。
【0055】
図6に示す第3の実施例においては、PVD方法を利用しており、ダイオードスパッタリングなどの高圧(20mTorr〜1Torr)で作用できる。この結果、単一の房室のみが必要であり、前記の実施例よりは簡単になっている。前記と同様に、不活性または反応性バックグラウンドガスがガスマニフォルド入口130を経て導入される。バックグラウンドガスの導入は、連続フローおよびフロースルー技術の有効な使用のために、堆積房室132を必要な圧力にする。
【0056】
ワークピース支持体34と絞り弁22、24は図1の実施例のものと機能的に同じであって、同じ参照番号を用いてある。前記支持体は絶縁材料からなり、フローがワークピースを通るような構造になっている。絞り弁22、24の調節とバックグラウンドガスの流速の調節とによりワークピースを通っての圧力勾配が決まる。
【0057】
陰極136には負のバイアス134が印加されて、陽極138はアース電位にされる。負のバイアスは固定電位またはパルス信号である。ダイオードスパッタリングに使用される高圧の故に、3kVを越得るような高いバイアス電圧がしばしば必要とされる。これはプラズマシースを加速しているイオンの平均自由通路がシースの厚さより小さくなるからであり、エネルギーの衝突とロスを結果する。増加した電圧はこのエネルギーロスを補償するが、陰極の水冷が再必要となる。陰極はチタン、クロムなどの金属または合金から構成される。
【0058】
スパッタリング技術の当業者に周知のように、陽極138と陰極136を横切る電圧電位はバックグラウンドガスをイオン化してイオンは陰極中に加速する。この結果、金属原子は勢いよくガス流中に移転される。圧力勾配がワークピースを通ってガス流を引き込む。
【0059】
ガス流はクロムなどのコーティング材料を含んでいる。金属イオンの反応性の故に、コーティング材料は陰極に最も近いワークピースの部分に付着しようとし、一方ポンプに最も近いワークピースの部分にはコーティングの堆積が少なくなる。
【0060】
図6の実施例はワークピースを負にバイアスする別個のパルス化電源140を使って堆積のこの非均一性への傾向をなくする。バックグラウンドガスがAr+だと、このAr+はプラズマシースを横切って加速し、フィルム品質を改善することに加えて、ガス流中へのコーティング材料の再スパッタリングを起こさせる。
【0061】
圧力勾配の故に、ガス流の速度はワークピースのポンプ端に指向される。この速度はコーティング材料の原子をポンプ端の方に運ぶ。筒の長さの下でこのプロセスが繰り返される。この結果、ワークピースの内部通路の全長に亙ってAr+がイオン化を維持するならば、均一な堆積となる。堆積/再スパッタリングの比は、デューティサイクルと電源140により該部に印加される負のバイアスの強度とを制御できる。デューティサイクルと強度の調節も堆積比率を変える。
【0062】
この発明の他の技術思想においてはホロー陰極を使ってワークピース内のイオン化を維持する。この技術では、電子の平均自由通路がワークピース内部通路の直径より小さいこと、を必要とする。この状態では、電子は電源140による負バイアスの印加により内部通路の壁の間で往復動する。この往復動の結果多重イオン化衝突が起きて内部通路内にプラズマを生成する。
【0063】
種々の内径の多重内部通路を具えたワークピースをコーティングする場合、プロセス圧力は、電子平均自由通路が最少直径内部通路より僅かに小さいように調節される。全ての通路は内部発生されたプラズマを有し、全ての大きな通路がプラズマを維持する。内部ホロー陰極プラズマのために必要なλ/d=1が設定された場合には(ここでλは電子の平均自由通路であり、dは最少内部管形である)、直径が小さくなると圧力が増加(λを低減する)する。
【0064】
かくして作用圧力はこの最少内部間隔内にプラズマを発生するか、またはワークピースセットがコーティングされる。これを達成するには、絞り弁22、24を調節しおよび/または入口130を通ってのガスフロー比率を調節する。
【0065】
内部ホロー陰極の使用とフロースルー技術の使用に必要な作用圧力においては、陰極とコーティングされているワークピース142(および陽極138)との間の間隔は顕著である。スパッタされた原子の低減された平均自由通路は陰極への原子のバックスパッタリングと堆積房室132の壁へのロスを増加させる。これは陰極へのより近い間隔を必要とし、フロースルー圧力勾配がスパッタ原子を失う前にワークピース中に引込む。
【0066】
実際には、狭い間隔へのこの必要と狭い間隔の結果として起きるアーシング(arcing)または非均一スパッタリングへの配慮との間にはバランスがある。図4の実施例は垂直方向に調節可能な台144を含んでおり、これにより矢印145で示すように間隔の調節が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】この発明のコーティング装置の一実施例の機能図である。
【図2】プラズマフローが種々の内部通路を流れる堆積房室内のワークピースの側面図である。
【図3】プラズマ内における図2のワークピースを示す図である。
【図4】この発明の絞り領域の側面図である。
【図5】単一の堆積房室に同時にプラズマを供給する2個の源房室の一実施例の側面図である。
【図6】ダイオードスパッタリングを使用するこの発明の実施例の側面図である。
【符号の説明】
【0068】
12: プラズマ源
14: 圧力源房室
16、18、26: 真空ポンプ
20: 堆積房室
22、24: 圧力制御弁
34: 支持体
40: ワークピース
42: プラズマ
44、46、48: 内部通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個の内部通路を具えたワークピースの表面をコーティングする装置であって、コーティング材料を含んだプラズマを発生するプラズマ源と、該プラズマ源に対して離間関係で上記ワークピースを特定の配列に固定する支持体と、プラズマの制御フローを各前記内部通路内に指向させ、かつ前記ワークピースが前記支持体に固定されたときに前記ワークピースからプラズマを排出するプラズマフローシステムとを有してなるコーティング装置。
【請求項2】
前記支持体が前記ワークピースを堆積房室に配置し、前記プラズマフローシステムが圧力方式を定め、前記ワークピースの少なくとも1個の内部通路開口が前記堆積房室に開いており、前記ワークピースの少なくとも1個の他の内部通路が前記プラズマフローシステムのポンプシステムに開いており、フローが前記堆積房室から前記各内部通路を通って指向していることを特徴とする請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項3】
前記各内部通路を通っての流速が前記支持体中の調節可能な開口の前記堆積房室からポンプシステムへの変動により堆積制御されることを特徴とする請求項2に記載のコーティング装置。
【請求項4】
ホロー陰極技術により前記各内部通路内にプラズマを発生する手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項5】
低圧源房室と高圧堆積房室とが設けられており、前記プラズマ源が該低圧源房室内に配置されており、前記ワークピースが該高圧堆積房室内に位置するように前記支持体が配置されており、前記低圧堆積房室が真空源に連結され、該真空源が前記高圧堆積房室内より低い圧力を維持することを特徴とする請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項6】
前記低圧源房室と前記高圧堆積房室は結合されて陰極アークシステムを形成することを特徴とする請求項5に記載のコーティング装置。
【請求項7】
前記陰極アークシステムが物理的な蒸着(PVD)を与え、前記プラズマフローシステムが磁気操縦領域を有しており、該領域中に磁界が形成されてイオン化プラズマを前記プラズマ源から前記ワークピースへと指向させることを特徴とする請求項6に記載のコーティング装置。
【請求項8】
前記プラズマフローシステムが前記低圧源房室の第1の排出口と前記高圧源房室の第2の排出口とを具えた真空制御装置を有しており、(a)前記磁気操縦領域が第1のフロー方式を定め、(b)前記第2の排出口が第2のフロー方式を定めるように、前記第2の排出口が前記ワークピースを通っていることを特徴とする請求項7に記載のコーティング装置。
【請求項9】
高圧源房室から低圧堆積領域への仲介領域が低減する横断面寸法を有していることを特徴とする請求項5に記載のコーティング装置。
【請求項10】
前記仲介領域がプラズマのイオンを遮断するべくバイアスされていることを特徴とする請求項9に記載のコーティング装置。
【請求項11】
前記支持体の領域においてプラズマのイオン化を増加する装置が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項12】
前記増加する装置がマイクロウエーブ源であることを特徴とする請求項11に記載のコーティング装置。
【請求項13】
前記増加する装置が無線周波数(RF)源、電子サイクロトロン共鳴(ECR)源または分配ECR源のいずれかひとつであることを特徴とする請求項11に記載のコーティング装置。
【請求項14】
ワークピースの各前記内部通路の表面にイオンを引き寄せるべくワークピースへのバイアス連結が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項15】
ワークピースへのバイアス連結のバイアス強度とデューティサイクルを調節するバイアス源が設けられていることを特徴とする請求項14に記載のコーティング装置。
【請求項16】
支持体が複数の前記内部通路を具えたワークピースを捕捉すべく形成されており、前記内部通路が異なる横断面寸法を有しており、前記プラズマフローシステムが支持体と協働して前記プラズマが前記各内部通路内に入って、そこを通る連続フローを形成することを特徴とする請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項17】
前記プラズマフローシステムが前記ワークピースの前記内部通路を通る流速を定めることに関して調節可能であることを特徴とする請求項16に記載のコーティング装置。
【請求項18】
前記プラズマフローシステムを使って得られる前記内部通路が電子平均自由通路を形成し、該通路が少なくとも1個の前記内部通路の最小内径以下であり、バイアス源により前記ワークピースに負のバイアスが掛かると、ホロー陰極状態が発生されて、バックグラウンドガスのイオン化の発生と維持とを行うことを特徴とする請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項19】
前記バイアス源が調節可能なデューティサイクルと強度を有していて堆積中のコーティング品質の変化を可能とし、負のバイアスが、少なくとも1個の前記内部通路の各上流端において初期に堆積されたコーティング材料の再スパッタリングを起こすように選ばれ、上流端の下流では再堆積が行われ、再スパッタコーティング材料がフローの速度で下流に運ばれることを特徴とする請求項18に記載のコーティング装置。
【請求項20】
イオン化プラズマのプラズマ源と、イオン化プラズマが前記ワークピースに印加される堆積房室と、前記イオン化プラズマが前記プラズマ源から前記堆積房室へと移動した後に前記ワークピースに近い前記プラズマのイオン化を増加させ得るイオン化励起システムとを有してなることを特徴とするワークピースの内部通路コーティング装置。
【請求項21】
前記イオン化励起システムがマイクロウエーブとECR技術のいずれかを使用することを特徴とする請求項20に記載のコーティング装置。
【請求項22】
前記イオン化励起システムがホロー陰極技術を使い、前記プラズマ源が堆積房室より低圧に維持されることを特徴とする請求項20に記載のコーティング装置。
【請求項23】
さらにバイアスシステムが設けられていて前記ワークピースに電圧を印加し、該電圧が前記イオン化プラズマとはイオンについて逆の極性を有していることを特徴とする請求項20に記載のコーティング装置。
【請求項24】
前記バイアスシステムが、コーティング状態を定めるべく選ばれたデューティサイクルに基づいて前記電圧を印加するように制御されることを特徴とする請求項23に記載のコーティング装置。
【請求項25】
さらに第2のプラズマ源が設けられていて、前記堆積房室と供給関係にあることを特徴とする請求項20に記載のコーティング装置。
【請求項26】
陰極アーク技術を使ってイオン化プラズマを供給するプラズマ発生システムと、プラズマフローについて前記プラズマ発生システムの下流側の堆積房室と、該堆積房室内に位置して、前記プラズマフローが必ずかつ連続的に前記ワークピース内の全ての複数の内部通路を通るようにワークピースを位置させるワークピース支持システムとを有してなり、前記内部通路が物理的蒸着(PVD)によりコーティングされることを特徴とするコーティング装置。
【請求項27】
さらにイオン化励起システムが設けられており、前記ワークピースの前記内部通路内のイオン化を増加させることを特徴とする請求項26に記載のコーティング装置。
【請求項28】
さらに調節可能なフロー制御システムが設けられており、前記ワークピースの前記内部通路を通るプラズマ流速を設定することを特徴とする請求項27に記載のコーティング装置。
【請求項29】
さらにバイアスシステムが設けられており、前記ワークピースにバイアスパターンを印加することを特徴とする請求項28に記載のコーティング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2007−538158(P2007−538158A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527240(P2007−527240)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/013619
【国際公開番号】WO2005/116291
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(506384006)サブ−ワン テクノロジー, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】