説明

マスク基板及びその製造方法並びに液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置の製造方法

【課題】被加工面の接触による表面欠陥を抑制でき、またマスク基板の変形を抑え、微細パターンを高精度に加工することができ、かつ生産性の良いマスク基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】加工対象の基板の加工部分以外の部分を保護するためのシリコンを材料とするマスク基板1であって、加工対象の基板と接する面側には、異方性ドライエッチングにより、加工部分の形状に対応させた形状に形成された接面側開口部2と、この接面側開口部と独立に設けられ、加工部分以外の所定の部位と接触させないように形成された凹部4とを備え、加工対象の基板と接する面と反対側の面側には、異方性ウェットエッチングにより所定の結晶面方位に沿って残されたシリコンにより壁面が形成され、接面側開口部と連通する外面側開口部3を備え、接面側開口部2の側壁厚さaを凹部4の深さbよりも厚く形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細加工素子を製造する際に、所定の部分以外の部分を保護するためのマスクの製造方法及びそれによって得られるマスクに関するものである。また、そのマスク基板を用いて製造される液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばシリコン等を加工して微小な素子等を形成する微細加工技術(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)が急激な進歩を遂げている。微細加工技術により形成される微細加工素子の例としては、例えば液滴吐出方式のプリンタのような記録(印刷)装置で用いられている液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)、マイクロポンプ、光可変フィルタ、モータのような静電アクチュエータ、圧力センサ等がある。
【0003】
ここで、微細加工素子の一例として静電アクチュエータである液滴吐出ヘッドについて説明する。液滴吐出方式の記録(印刷)装置は、家庭用、工業用を問わず、あらゆる分野の印刷に利用されている。液滴吐出方式とは、例えば複数のノズルを有する液滴吐出ヘッドを対象物(紙等)との間で相対移動させ、対象物の所定の位置に液滴を吐出させて印刷等をするものである。この方式は、液晶(Liquid Crystal)を用いた表示装置を作製する際のカラーフィルタ、有機化合物等の電界発光(ElectroLuminescence)素子を用いた表示パネル(OLED)、DNA、タンパク質等、生体分子のマイクロアレイ等の製造にも利用されている。
【0004】
液滴吐出ヘッドの中で、液体をためておく吐出室を流路の一部に備え、吐出室の少なくとも一面の壁(ここでは、底部の壁とし、以下、この壁のことを振動板ということにする)を撓ませて(動作させて)形状変化により吐出室内の圧力を高め、連通するノズルから液滴を吐出させる方法がある。可動電極となる振動板を変位させる力として、例えば、振動板と距離を空けて対向する、電極(固定電極)との間に発生する静電気力(静電引力を用いることが多い)を利用している。そして上記のような静電力を利用した静電アクチュエータを形成する際、エッチング等、様々な工程中の加工において、加工しようとする部分以外の部分を保護するためのマスクが用いられる(例えば特許文献1、特許文献2参照)。マスクには成膜により形成されるマスクもあるが、ここではマスク用の基板(以下、マスク基板という)を指すものとする。
【0005】
【特許文献1】特開2002−305079号公報
【特許文献2】特開2007−190730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に示されるように、シリコンからなるマスクを用いて薄膜パターンを形成する場合、開口部以外の部分は直接加工対象の基板の表面に接触しているため、加工対象の基板との間に異物等を挟み込む可能性があり、そのような場合にはマスクからの接触ダメージを受けてしまい、加工対象の基板に表面欠陥が残るといった課題があった。
【0007】
一方、特許文献2に示されるマスクでは、加工対象の基板に接する面側には、異方性ドライエッチングにより、接面側開口部と、加工部分以外の既加工部(加工済みの有効パターンをいう)を保護するための凹部とを設け、外面側には異方性ウェットエッチングにより接面側開口部に連通するテーパ形状の貫通穴からなる外面側開口部を設けるものであるが、異方性ウェットエッチングを行う面側の保護膜パターニングは1回のみであるため、異方性ウェットエッチングにより開口する部分(接面側開口部)と上記凹部とは同じエッチング深さとならざるを得ない。したがって、凹部の面積が増えるに従い、面内のエッチングレートは低下し、深掘りする際には加工時間が長くなって生産性が低くなるといった問題が生じる。逆に、異方性ドライエッチングの深さを浅くすれば、外面側開口部での異方性ウェットエッチングに要する時間が長くなる上に、接面側開口部の側壁厚さ(ここでは、いわゆる庇部の厚さをいう)が薄くなるため、例えばスパッタ法により加工対象の基板を加工した場合、スパッタ膜の応力によって庇部がたわみ、スパッタ回り込み量が増えるといった問題が生じる。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、被加工面の接触による表面欠陥を抑制できるようにするとともに、マスク基板の変形を抑え、微細パターンを高精度に加工することができ、かつ生産性の良いマスク基板の製造方法を得ることを目的とし、さらに、その方法により得られたマスク、そのマスクにより製造された液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るマスク基板は、加工対象の基板の加工部分以外の部分を保護するためのシリコンを材料とするマスク基板であって、加工対象の基板と接する面側には、異方性ドライエッチングにより、加工部分の形状に対応させた形状に形成された接面側開口部と、この接面側開口部と独立に設けられ、加工部分以外の所定の部位と接触させないように形成された凹部とを備え、加工対象の基板と接する面と反対側の面側には、異方性ウェットエッチングにより所定の結晶面方位に沿って残されたシリコンにより壁面が形成され、接面側開口部と連通する外面側開口部を備え、接面側開口部の側壁厚さを凹部の深さよりも厚く形成したものである。
【0010】
本発明によれば、接面側開口部の側壁厚さを凹部の深さよりも厚く形成したので、接面側開口部の反りなどの変形を抑制できるため、スパッタ等の加工材料の回り込みを抑制でき、精度の高い加工を行うことができる。また、凹部は加工部分以外の部分すなわち有効パターンに接触させないよう有効パターンをカバーしているため、異物の挟み込みなど、接触による表面欠陥を抑制することができる。
【0011】
本発明に係るマスク基板は、表面が(100)面方位の単結晶シリコンを材料とし、外面側開口部の壁面は(111)面方位が残されて形成される。
本発明によれば、表面が(100)面方位の単結晶シリコンを材料として外面側開口部の壁面は(111)を残すようにしたので、テーパ状に形成することができ、例えば蒸着する材料等が開口部に入り込みやすくすることができる。
【0012】
本発明に係るマスク基板の凹部は、所定の部位よりも大きな範囲で形成されている。
したがって、有効パターンの保護がより確実なものとなる。
【0013】
本発明に係るマスク基板の製造方法は、単結晶シリコン基板の一方の面に、加工対象の基板と接する面側の接面側開口部となる部分の少なくとも周縁部分をパターニングする第1の工程と、単結晶シリコン基板の一方の面に、加工対象の基板の加工部分以外の所定の部位と接触させないための凹部となる部分をパターニングする第2の工程と、第1の工程の後に、保護膜をエッチングにより除去してシリコンを露出させる工程と、第2の工程の後に、シリコンを露出させないように保護膜をエッチングにより薄くする工程と、シリコンを露出させた接面側開口部となる部分を異方性ドライエッチングにより所定の深さにエッチングして、接面側開口部を形成する工程と、薄くした保護膜を異方性ドライエッチングにより除去した後、凹部となる部分を異方性ドライエッチングにより所定の深さにエッチングして、凹部を形成する工程と、一方の面と反対の面側にパターニングを行い、異方性ウェットエッチングを行って、外面側開口部を形成し、接面側開口部と外面側開口部とを連通させる工程とを有するものである。
【0014】
本発明によれば、接面側開口部となる部分のパターニングと凹部となる部分のパターニングとを別個に少なくとも2回にわたって行うようにしたので、接面側開口部の側壁厚さを凹部の深さよりも厚く形成することができる。また、凹部の深さは必要最小限度の深さで良いため、エッチング時間の短縮が可能となり、マスク基板の生産性が向上する。
また、接面側開口部となる部分の少なくとも周縁部分をパターニングするようにしたので、中心部分が抜け落ちる形態で接面側開口部が形成されることになる。したがって、異方性ドライエッチング時間の短縮が可能となり、生産性が向上する。
【0015】
本発明に係るマスク基板の製造方法は、水酸化カリウム水溶液または水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いて異方性ウェットエッチングを行う。
本発明によれば、異方性ウェットエッチングに水酸化カリウム水溶液または水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いるようにしたので、エッチングのばらつきが少なく、平面方向に均一な寸法精度が高いマスク基板を製造することができる。
【0016】
本発明に係るマスク基板の製造方法は、第1の工程及び第2の工程では、互いに異なる保護膜厚を有するように、独立した階層でパターニングを行うことが望ましい。
本発明によれば、接面側開口部と凹部とをそれぞれ独立に任意のエッチング深さで設定することが可能となり、上述の接面側開口部の側壁厚さと凹部の深さとの関係を加工対象に応じて最適に調整することができる。
【0017】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記のマスク基板を用いて、ノズルから吐出させる液体の流路が形成される基板を加工する工程を少なくとも有する。
本発明によれば、上記のマスク基板を用いるようにしたので、所定の位置に所定の形状で高精度の加工を行うことができる液滴吐出ヘッドを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
実施の形態1.
図1(a)は本発明の実施の形態1に係るマスク断面の一部を表す図で、(b)はその平面図である。
本実施の形態はマスク基板1で構成され、シリコン基板をエッチングすることで形成される(なお、構成部材を図示し、見やすくするため、図3を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものと異なる場合がある。また、図の上側を上とし、下側を下として説明する)。特に限定するものではないが、本実施の形態ではシリコン基板として表面が(100)面方位の単結晶シリコン基板を用いるものとする。マスク基板1は、接面側開口部2、外面側開口部3及び凹部4を有している。ここで、接面側開口部2及び凹部4は異方性ドライエッチング(プラズマ放電による乾式のエッチング)による方法(以下、ドライエッチングという)で形成され、外面側開口部3はウェットエッチング(液体を用いた湿式のエッチング)による方法(以下、ウェットエッチングという)で形成される。そして、接面側開口部2の側壁厚さaは、凹部4の深さbよりも厚く形成される(a>b)。なお、接面側開口部2、外面側開口部3及び凹部4の数については特に制限はない。
【0019】
接面側開口部2と外面側開口部3とは連通しており、マスク基板1の両面が貫通している。接面側開口部2の形状は、加工対象となる基板の加工部分の形状に合わせて形成される。凹部4は、マスク基板1を用いて加工を行う加工対象の表面に形成された任意の所定の部位(以下、有効パターンという)とマスク基板1とを接触させずに保護するため、加工対象との接面側に設けるカバー部である。これは、例えば加工対象となる基板の洗浄時に、洗浄しきれなかった異物(例えばパーティクル等)が加工対象の表面に存在した場合、マスク基板1との接触で異物を挟み込んでしまい、有効パターンを傷つけないようにするためである。凹部4は、例えば異物の大きさ、マスク基板1の厚さ等にもよるが、少なくとも10μm、より好ましくは数十μm(20〜30μm)の深さがあることが望ましい。ここで、接面側開口部2(外面側開口部3)と凹部4とは独立して設けられている(連通していない)ものとする。ここで、凹部4を有効パターンよりも大きく形成しておけば、より確実な保護を図ることができる。
【0020】
図2は本実施の形態におけるマスクの製造工程を表す図である。次にマスクの製造方法について説明する。
【0021】
(a)まず、所望の厚さのシリコン基板11に、エッチングを行う際、シリコン基板11を保護するための膜(レジスト)となる酸化シリコン膜12を例えば約1.2μm成膜する(図2(a))。成膜方法については特に限定しないが、ここでは、高温(約1075℃)で酸素及び水蒸気雰囲気中にシリコン基板11を晒して成膜する熱酸化による方法を用いる。
【0022】
(b)次に、酸化シリコン膜12を選択的にエッチングしてパターニングを行うため、フォトリソグラフィ法を用い、レジスト膜となる感光剤を塗布し、露光、現像により、接面側開口部2となる部分のレジスト膜を除去する。そして、例えばフッ酸水溶液、緩衝フッ酸水溶液(BHF:例えばフッ酸水溶液とフッ化アンモニウム水溶液とを1:6で混合した液体)、希釈フッ酸水溶液等に浸積し、接面側開口部2となる部分2aの酸化シリコン膜12をエッチングにより除去する(図2(b))。ここで、接面側開口部2について、形成する開口部分の面積が大きい場合、接面側開口部2の開口部分と壁面との境界部分(周縁部分)だけのシリコンを露出させ、ドライエッチングをするようにしておけば、その後の工程でウェットエッチングが行われて基板が貫通した際に中心部分も抜けるので、エッチング時間の短縮を図る上で都合がよい。
【0023】
(c)次に、凹部4となる部分4aに対して、フォトリソグラフィ法を用い、2回目のパターニングを行う(図2(c))。すなわち、上記(b)の1回目のパターニングでは接面側開口部2となる部分2aのシリコンを露出させるが、この2回目のパターニングでは、後に行われるエッチングにおいて、接面側開口部2及び凹部4のエッチングの深さを異ならせ、凹部4の深さを接面側開口部2よりも浅くするため、凹部4となる部分4aの酸化シリコン膜12を薄く残しておき、シリコンを露出させないハーフエッチングを行う。ここで凹部4となる部分4aは、有効パターンよりも広い範囲で形成されるようにしておく。
【0024】
(d)次に、凹部4となる部分4aの酸化シリコン膜12をドライエッチングにより除去し、シリコンを露出させる(図2(d))。また、接面側開口部2となる部分2aは凹部4となる部分4aよりもエッチングが先に進行して掘り下げられることになる。ここで、ドライエッチングの種類については特に限定するものではないが、本実施の形態では、例えば、ICP(Inductively Coupled Plasma)放電等を利用したドライエッチングを行うものとする。ドライエッチングの場合は、結晶面方位による制限を受けないため、例えば壁面を基板に対して垂直方向に形成することができる。そのため、接面側開口部2の幅等をシリコン基板11の厚さに関係なく規定することができる。
【0025】
(e)引き続き、ドライエッチングを行い、接面側開口部2及び凹部4を所定の深さ分だけエッチングする(図2(e))。ここでエッチングの深さについては、シリコン基板11の幅、後に行われるウェットエッチングの範囲等により異なり、任意の深さにすればよいため特に限定しない。ここで、例えば、ドライエッチングの深さが深くなるほど、外面側開口部3からのウェットエッチングが浅くなり、シリコン基板11の外面側開口部3を有する面における開口幅を狭くすることができる。したがって、外面側開口部3同士の間隔が狭い場合にはドライエッチングの深さは深くなる傾向になる。
【0026】
(f)ドライエッチングが終了すると、保護膜として成膜していた酸化シリコン膜12を除去する(図2(f))。
(g)そして、さらにウェットエッチングを行うための保護膜として酸化シリコン膜13を全面に成膜する(図2(g))。成膜の方法については特に限定しないが、ここでは、凹凸に関係なく成膜することができる熱酸化法を用いる。
(h)酸化シリコン膜13の成膜後、再度、フォトリソグラフィ法を用いて外面側開口部3となる部分3aをパターニングして、外面側開口部3となる部分3aの酸化シリコン膜13をウェットエッチングにより除去してシリコンを露出させる(図2(h))。
【0027】
(i)そして、エッチング液に浸積し、接面側開口部2と外面側開口部3とが連通するまでウェットエッチングを行う(図2(i))。ここで、ウェットエッチングに用いる液体(エッチャント)について、特に限定するものではないが、本実施の形態では例えば水酸化カリウム(KOH)水溶液、25重量パーセントの水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液(有機アルカリ溶液)を用いるものとする。KOH水溶液、TMAH水溶液は酸化シリコン膜との選択比の関係がよく、エッチングのばらつきが少なく、平面に対する寸法精度がよい。特にTMAH水溶液は現像液として用いられているものである。ここで、エッチングされにくい(111)の結晶面に沿ってシリコンが残っていき、基板に対して、約55°の角度で開口部分の壁面が形成される。これにより、開口部分がテーパ状に形成されるため、例えば膜、層等の形成の材料、ガス等が開口部分に入りやすくなる。
【0028】
(j)そして、保護膜として成膜していた酸化シリコン膜13を除去し、マスクが完成する(図2(j))。例えば、用いる用途によっては、マスク基板1(シリコン)を液体、ガス等から保護するための絶縁保護膜等を成膜してもよい。
以上により、接面側開口部2の側壁厚さaを凹部4の深さbよりも厚く形成することができる。
【0029】
以上のように実施の形態1によれば、少なくとも前後2回にわたって接面側開口部2となる部分2aと凹部4となる部分4aとを順次パターニングするようにしたので、異方性ドライエッチングにより接面側開口部2と凹部4とを所望のエッチング深さに形成した際には、接面側開口部2の側壁厚さaを凹部4の深さbよりも厚く形成することができる。
したがって、接面側開口部2の側壁厚さaを凹部4の深さbに依存することなく任意に設定することが可能になり、かつ接面側開口部2の庇部の厚み増加により、反り等の変形を抑制できるため、マスク基板1の加工対象の基板との密着性が向上する。その結果、このマスク基板1を使用して、加工対象の基板に例えばスパッタにより所望の微細パターンの成膜をしようとする場合、スパッタの回り込みを防止することができるため、精度の高いパターン形成が可能となる。
【0030】
凹部4についても、凹部4の深さbを任意に設定することが可能になり、異物の挟み込みなどによる有効パターン領域の接触ダメージの発生を抑制することができる。また、凹部4の深さbを任意に設定できることから、接面側開口部2のエッチング深さに依存することなく、凹部4は必要最小限の深さでよいため、ドライエッチングの時間の短縮が可能となり生産性が向上する。
【0031】
また、接面側開口部2となる部分2aと凹部4となる部分4aとを、互いに異なる酸化シリコン膜12、13の膜厚を有するように、独立した階層でパターニングを行ってもよい。このように、複数回のパターニングを繰り返すことで、接面側開口部2と凹部4とをそれぞれ独立に任意のエッチング深さで設定することが可能となり、接面側開口部2の側壁厚さaと凹部4の深さbとの関係(a>b)を加工対象に応じて最適に調整することができる。
【0032】
また、接面側開口部2となる部分の開口形状形成をドライエッチングにより行うようにしたので、ドライエッチングにおいては、結晶面方位によりエッチング形状が制限されることがないため、開口部分の形状の自由度を高くすることができ、これにより設計された形状の接面側開口部2を有するマスク基板1により、任意の形状による加工対象の加工を行うことができる。一方で、外面側開口部3をウェットエッチングにより形成するので、複数の基板を一括して処理することができる等、製造時における時間短縮を図ることができる。また、異方性ウェットエッチングに水酸化カリウム水溶液又は水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いるようにしたので、エッチングのばらつきが少なく、平面方向により均一したマスク基板1を得ることができる。
【0033】
実施の形態2.
図3は本発明の実施の形態2に係る液滴吐出ヘッドを分解して示す斜視図である。本実施の形態では、実施の形態1で製造したマスク基板1を用いて加工する加工対象の基板を、例えば静電方式で駆動する静電アクチュエータを用いるデバイスである液滴吐出ヘッドのキャビティ基板30とした場合について説明する。
【0034】
図3に示すように本実施の形態に係る液滴吐出ヘッドは、電極基板20、キャビティ基板30、リザーバ基板40及びノズル基板50の4つの基板が下から順に積層されて構成される。ここで本実施の形態では、電極基板20とキャビティ基板30とは陽極接合により接合する。また、キャビティ基板30とリザーバ基板40、リザーバ基板40とノズル基板50とはエポキシ樹脂等の接着剤を用いて接合する。
【0035】
電極基板20は、厚さ約1mmの例えばホウ珪酸系の耐熱硬質ガラス等の基板を主要な材料としている。本実施形態では、ガラス基板とするが、例えば単結晶シリコンを基板とすることもできる。電極基板20の表面には、後述するキャビティ基板30の吐出室31となる凹部に合わせて例えば深さ約0.3μmで複数の凹部41が形成されている。そして、凹部41の内側(特に底部)に、キャビティ基板30の各吐出室31(振動板32)と対向するように固定電極となる個別電極22が設けられ、個別電極22の一方の端部(電極基板20の中央部に延びる側の端部)はドライバIC60と実装するためのIC出力実装部23となっている。さらに、電極基板20の中央部には、ドライバIC60および図示しないFPC(Flexible Print Circuit)に接続するためのリード部24がITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)パターンにより形成されている。リード部24は、複数本のリード(配線)から構成されている。なお、本実施の形態においてリード部24とは、1つのドライバIC60に接続される複数のリードをいうものとする。また、ドライバIC60の実装数及び実装方法は特に制限されない。リード部24は、電極基板20の端部にてFPCのIC入力配線(図示せず)と接続されるFPC実装部24aとなっており、ドライバIC60の入力端子に2箇所で接続されるIC入力実装部24b、24cと、ドライバIC60の下に配線されるIC入力信号配線24dとから構成されている。ドライバIC60の出力端子は各列の個別電極22に接続されている。このようにリード部24の配線が電極基板20とドライバIC60に挟まれた状態で形成されているため、液滴吐出ヘッドの面積を増やす(横方向に大きくする)ことなくコンパクトに配線することができる。
振動板32と個別電極22との間には、振動板32が撓む(変位する)ことができる一定のギャップ(空隙)が凹部41により形成されている。個別電極22は、例えばスパッタ法により、ITOを0.1μmの厚さで凹部41の内側に成膜することで形成される。電極基板20には、他にも外部のタンク(図示せず)から供給された液体を取り入れる流路となる液体取り入れ口25となる貫通穴が設けられている。
【0036】
キャビティ基板30は、シリコン単結晶基板(以下、シリコン基板という)を主要な材料としている。キャビティ基板30には、吐出室31となる凹部(底壁が可動電極となる振動板32となっている)及びドライバIC60を電極基板20上のリード部24と各個別電極22のIC出力実装部23上に実装するための貫通溝穴からなるIC実装用開口部34、ならびに後述するように封止材35をIC出力実装部23の直上部分に堆積し、封止部35aを形成するための貫通溝穴からなる封止用開口部36が形成されている。封止用開口部36の幅を狭くするほど小型化に寄与するが、ここでは封止材35をうまく堆積させるため10μm〜20μmとする。ただし、これに限定するものではない。また、堆積した封止材35の厚さは例えば、少ない部分でもギャップの幅(約0.18μm)以上有するようにする。リザーバ基板40との接合に影響しない範囲で、約2〜3μm又はそれ以上あることが望ましい。
【0037】
そして、キャビティ基板30の下面(電極基板20と対向する面)には、振動板32と個別電極22との間を電気的に絶縁するためのTEOS(ここでは、Tetraethylorthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン(珪酸エチル)を用いてできるSiO2 膜をいう)である絶縁膜33をプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition :TEOS−pCVDともいう)法を用いて、0.1μm成膜している。ここでは絶縁膜33をTEOS膜としているが、例えばAl23(酸化アルミニウム(アルミナ))を用いてもよい。ここで、キャビティ基板30にも液体取り入れ口25と連通する貫通穴38が設けられている。さらに、外部の電力供給手段(図示せず)からキャビティ基板30(振動板32)に個別電極22と反対の極性の電荷を供給する際の端子となる共通電極端子37を備えている。
【0038】
リザーバ基板40は例えばシリコン基板を主要な材料とする。リザーバ基板40には、各吐出室31に液体を供給するリザーバ(共通液室)41となる凹部が形成されている。凹部の底面にも上記の貫通穴38を介して液体取り入れ口25と連通する貫通穴44が設けられている。また、リザーバ41から各吐出室31に液体を供給するための供給口42が各吐出室31の位置に合わせて形成されている。さらに、各吐出室31とノズル基板50に設けられたノズル孔51との間の流路となり、吐出室31で加圧された液体がノズル孔51に移送する流路となる複数のノズル連通孔43が各ノズル孔51(各吐出室31)に合わせて設けられている。また、リザーバ基板40の中央部には、IC実装用開口部34と対応してほぼ同形状の貫通溝穴45が形成されている。
【0039】
ノズル基板50についても、例えばシリコン基板を主要な材料とする。ノズル基板50には、複数のノズル孔51が形成されている。各ノズル孔51は、各ノズル連通孔43から移送された液体を液滴として外部に吐出する。ノズル孔51を複数段で形成すると、液滴を吐出する際の直進性向上が期待できる。本実施の形態ではノズル孔51を2段で形成する。ここで、振動板32によりリザーバ41側の液体に加わる圧力を緩衝するためのダイヤフラムを設けるようにしてもよい。
【0040】
図4は組立状態を示す液滴吐出ヘッドの部分断面図である。ただし、ノズル孔51の片列についての断面図である。キャビティ基板30と接合した電極基板20の各個別電極22の端子部であるIC出力実装部23にドライバIC60を実装するため、キャビティ基板30の一部を開口等して、電極基板20とキャビティ基板30との間で空間を形成する(この空間を以下、IC実装用開口部34という)。そして、個別電極22に対する電力(電荷)供給手段となるドライバIC60は、IC実装用開口部34においてリード部24及び各個別電極22のIC出力実装部23と電気的に接続し、選択した個別電極22に電荷を供給する。
【0041】
ドライバIC60により選択された個別電極22には約40Vの電圧が印加され、正に帯電する。このとき、振動板32は相対的に負に帯電する(ここでは、FPC(Flexible Print Circuit)等、共通電極端子37を介してキャビティ基板30には負の極性を有する電荷が供給される)。そのため、選択された個別電極22と振動板32との間では静電気力が発生し、振動板32は個別電極22に引き寄せられて撓む。これにより吐出室31の容積は広がる。そして電荷供給を止めると振動板32は元に戻るが、そのときの吐出室31の容積も元に戻り、その圧力で加圧された液体がノズル孔51から液滴として吐出する。この液滴が例えば記録紙に着弾することによって印刷等が行われる。
【0042】
図5は、キャビティ基板30にIC実装用開口部34と封止用開口部36とを同時に加工するために使用するマスク基板1の外観図、図6はその使用状態を示す断面図である。
図5及び図6に示すように、本実施の形態では、ドライバIC60を電極基板20上に実装するためのIC実装用開口部34と、静電アクチュエータを構成する個別電極22と振動板32との間のギャップの開放端部を封止材35で封止するための封止用開口部36とをキャビティ基板30に同時に加工する。したがって、このマスク基板1には、IC実装用開口部34を加工するための当該IC実装用開口部34の輪郭形状に対応する形状に形成された接面側開口部2Aと、封止用開口部36を加工するための当該封止用開口部36の輪郭形状に対応する形状に形成された接面側開口部2Bと、有効パターンすなわちキャビティ基板30に形成された吐出室31となる凹部の全体を保護するように有効パターンよりも多少広い領域をカバーする凹部4と、接面側開口部2A、2Bのそれぞれに連通するテーパ状の貫通穴が形成された外面側開口部3A、3Bとが設けられている。そしてさらに、接面側開口部2A、2Bの側壁厚さは凹部4の深さよりも厚く形成されている。
【0043】
封止用開口部36は、片側の個別電極22と振動板32との間のギャップを一度に封止できるように細長い溝穴で形成されており、その短辺方向の幅が狭いほど小型化に寄与することができる。ただ、幅が狭すぎると封止材35がうまく堆積しない可能性があるため、10μm〜20μmであることが望ましい。場合によっては、キャビティ基板30の厚さによって加工時に制限を受けることがあるため、10μm〜20μmに特に限定するものではない。確実な封止ができるのであれば、例えば300μm(0.3mm)等の幅があってもよい。また、堆積する封止材35として、ここでは絶縁性、気密封止能力が高く、洗浄等に用いる酸性、アルカリ性溶液に対して耐性を有する酸化シリコン(無機化合物)を用いるものとする。堆積した封止材35の厚さは、例えば、少ない部分でもギャップの幅(約0.18μm)以上有するようにする。リザーバ基板40との接合に影響しない範囲で、約2〜3μm又はそれ以上あることが望ましい。
【0044】
そして、封止用開口部36の開口部分から、CVD(Chemical Vapor Deposition :化学的気相法)、(ECR)スパッタ、真空蒸着等の方法により、電極基板20上の個別電極22のIC出力実装部23部分からキャビティ基板30に至る空間(ギャップの一部)に、封止材35である酸化シリコン(SiO2 )を堆積させ、封止部35aを形成し、ギャップを外気と遮断して、水分、異物等の侵入を防ぐ。ここで、封止材35は酸化シリコンに限らず、例えばAl23(酸化アルミニウム(アルミナ))、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)、Ta25(五酸化タンタル)、DLC(Diamond Like Carbon )、ポリパラキシリレン(polypalaxylylene)、PDMS(polydimethylsiloxane:シリコーンゴムの一種)、エポキシ樹脂等であってもよい。また、1種類に限らず、複数種の封止材を積層するようにしてもよい。
【0045】
次に、第1の実施の形態に係る液滴吐出ヘッドの製造方法について、図7及び図8を用いて説明する。図7及び図8は液滴吐出ヘッドの製造工程を表す図である。なお、実際には、ウェハ単位で複数個分の液滴吐出ヘッドの部材を同時形成するが、図7及び図8ではその一部分だけを示している。
【0046】
(a)シリコン基板71の片面(電極基板20との接合面側となる)を鏡面研磨し、例えば220μmの厚みの基板(キャビティ基板30となる)を作製する。次に、シリコン基板71のボロンドープ層72を形成する面を、B23を主成分とする固体の拡散源に対向させて石英ボートにセットする。さらに縦型炉に石英ボートをセットして、炉内を窒素雰囲気にし、温度を1050℃に上昇させて7時間保持することで、ボロンをシリコン基板71中に拡散させ、ボロンドープ層72を形成する。取り出したボロンドープ層72の表面にはボロン化合物(SiB6 :ケイ化6ホウ素)が形成されているが(図示せず)、酸素及び水蒸気雰囲気中、600℃の条件で1時間30分酸化させると、ふっ酸水溶液によるエッチングが可能なB23+SiO2 に化学変化させることができる。B23+SiO2 に化学変化させた状態で、B23+SiO2 をふっ酸水溶液にてエッチング除去する(図7(a))。
【0047】
(b)ボロンドープ層72を形成した面に、プラズマCVD法により、成膜時の処理温度は360℃、高周波出力は250W、圧力は66.7Pa(0.5Torr)、ガス流量はTEOS流量100cm3 /min(100sccm)、酸素流量1000cm3 /min(1000sccm)の条件で絶縁膜33を0.1μm成膜する(図7(b))。
【0048】
(c)電極基板20については、上記図7(a)、(b)とは別工程で作製する。約1mmのガラスの基板の一方の面に対し、約0.3μmの深さの凹部41を形成する。凹部41の形成後、例えばスパッタリング法を用いて、0.1μmの厚さの個別電極22を同時に形成する。最後に液体取り入れ口25となる穴をサンドブラスト法または切削加工により形成する。これにより、電極基板20を作製する。そして、シリコン基板71と電極基板20を360℃に加熱した後、電極基板20に負極、シリコン基板71に正極を接続して、800Vの電圧を印加して陽極接合を行う(図7(c))。
【0049】
(d)陽極接合後の接合済み基板に対し、シリコン基板71の厚みが約60μmになるまでシリコン基板71表面の研削加工を行う。その後、加工変質層を除去するために、32wt%の濃度の水酸化カリウム溶液でシリコン基板71を約10μm異方性ウェットエッチング(以下、ウェットエッチングという)を行う。これによりシリコン基板71の厚みを約50μmにする(図7(d))。
【0050】
(e)次に、ウェットエッチングを行った面に対し、TEOSによる酸化シリコンのハードマスク(以下、TEOSハードマスクという)73をプラズマCVD法により成膜する。成膜条件としては、例えば、成膜時の処理温度は360℃、高周波出力は700W、圧力は33.3Pa(0.25Torr)、ガス流量はTEOS流量100cm3 /min(100sccm)、酸素流量1000cm3 /min(1000sccm)の条件で1.5μm成膜する(図7(e))。TEOSを用いた成膜は比較的低温で行うことができ、基板の加熱をできる限り抑えられる点で都合がよい。
【0051】
(f)TEOSハードマスク73を成膜した後、吐出室31、IC実装用開口部34、封止用開口部36となる部分のTEOSハードマスク73をエッチングするため、レジストパターニングを施す。そして、ふっ酸水溶液を用いてTEOSハードマスク73が無くなるまで、それらの部分をエッチングしてTEOSハードマスク73をパターニングし、それらの部分について、シリコンを露出させる。エッチングした後にレジストを剥離する(図7(f))。
【0052】
(g)次に、接合済み基板を35wt%の濃度の水酸化カリウム水溶液に浸し、吐出室31、封止用開口部36、IC実装用封止用開口部34となる部分の厚みが約10μmになるまで異方性ウェットエッチング(以下、ウェットエッチングという)を行う。さらに、接合済み基板を3wt%の濃度の水酸化カリウム水溶液に浸し、ボロンドープ層72が露出し、エッチングの進行が極度に遅くなるエッチングストップが十分効いたものと判断するまでウェットエッチングを続ける(図8(g))。このように、2種類の濃度の異なる水酸化カリウム水溶液を用いたエッチングを行うことによって、吐出室31となる部分に形成される振動板32の面荒れを抑制し、厚み精度を0.80±0.05μm以下にすることができる。その結果、液滴吐出ヘッドの吐出性能を安定化することができる。
【0053】
(h)ウェットエッチングを終了すると、接合済み基板をふっ酸水溶液に浸し、シリコン基板71表面のTEOSハードマスク73を剥離する。次に、IC実装用開口部34及び封止用開口部36となる部分のボロンドープ層72を除去するため、図5及び図6に示したように、IC実装用開口部34及び封止用開口部36となる部分を開口させた実施の形態1で製造したマスク基板1を、接合済み基板のシリコン基板71の表面に取り付ける。そして、例えば、RFパワー200W、圧力40Pa(0.3Torr)、CF4 流量30cm3 /min(30sccm)の条件で、RIEドライエッチング(異方性ドライエッチング)を30分間行い、IC実装用開口部34、封止用開口部36となる部分のみにプラズマを当てて、開口する(図8(h))。ここで、例えば接合済み基板とマスク基板1とのアライメント精度を高めるため、マスク基板1の装着は、接合済み基板とマスク基板1とにピンを通すピンアライメントにより行うようにするとよい。また、ピンアライメント用の位置決め穴(図示せず)の側壁厚さについても、接面側開口部2A、2Bの側壁厚さと同等以上に厚く形成することができるため、位置決めピンのガイド性が良くなり、アライメント精度が向上する。なお、マスク基板1自体がエッチングされないようにマスク基板1表面に保護膜を成膜している。
【0054】
(i)さらに、封止用開口部36の部分に合わせて開口したマスク基板1Aを、接合済み基板のシリコン基板71側の表面に取り付ける。本工程においてもマスク基板1Aの装着は、ピンアライメントにより行うようにするとよい。ここで、アライメントの精度等を考慮し、封止材35がキャビティ基板30表面(リザーバ基板40との接合面)に付着しないように、マスク基板1Aの開口部分を、封止用開口部36の開口部分より小さくしておくことが望ましい。そして、例えば、TEOSを用いたプラズマCVD、蒸着、スパッタ等により、封止材35を封止用開口部36に堆積させ、封止部35aを形成する(図8(i))。堆積させる封止材35の厚さについては、上述したように特に限定しないが、ギャップの幅が約0.2μmであることから、最薄部分で約2〜3μm又はそれ以上、他の基板との接合に影響しない範囲で堆積できればよい。
【0055】
(j)封止が完了すると、例えば、さらに共通電極端子37となる部分を開口したマスク基板1Bを、接合済み基板のシリコン基板71側の表面に、例えばピンアライメントにより取り付ける。そして、例えばプラチナ(Pt)をターゲットとしてスパッタ等を行い、共通電極端子37を形成する(図8(j))。
【0056】
(k)あらかじめ別工程で作製していたリザーバ基板40を、例えばエポキシ系接着剤により、接合済み基板のキャビティ基板30側から接着し、接合する。また、ドライバIC60を個別電極22のIC出力実装部23とリード部24とに接続する。さらに別工程で作製していたノズル基板50についても同様に、例えばエポキシ系接着剤により、接合したリザーバ基板40側から接着する。そして、ダイシングラインに沿ってダイシングを行い、個々の液滴吐出ヘッドに切断し、液滴吐出ヘッドが完成する(図8(k))。
【0057】
以上のように実施の形態2によれば、液滴吐出ヘッドの製造に際して実施の形態1のマスク基板1を用いるようにしたので、任意の形状に形成した接面側開口部2A、2Bにより、キャビティ基板30の所定の位置に精度の高い加工を行うことができる。また、凹部4によりキャビティ基板30の吐出室31となる凹部の部分とマスク基板1とを接触させずに保護することができ、マスク基板1の装着による欠損を生じることなく、品質を維持することができる。以上のように、加工精度が高く、吐出性能、耐久性のよい液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0058】
実施の形態3.
上述の実施の形態では、電極基板20、キャビティ基板30、リザーバ基板40及びノズル基板50の4つの基板が積層されて構成された液滴吐出ヘッドについて説明したがこれに限定されるものではない。例えば、吐出室とリザーバとを同一基板に形成した3層の基板で構成した液滴吐出ヘッドについても適用することができる。例えばこのような場合には、基板の形状に合わせたマスク基板を製造する。
【0059】
実施の形態4.
図9は上述の実施の形態で製造した液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置(プリンタ100)の外観図である。また、図10は液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。図9及び図10の液滴吐出装置は液滴吐出方式(インクジェット方式)による印刷を目的とする。また、いわゆるシリアル型の装置である。図10において、被印刷物であるプリント紙110が支持されるドラム101と、プリント紙110にインクを吐出し、記録を行う液滴吐出ヘッド102とで主に構成される。また、図示していないが、液滴吐出ヘッド102にインクを供給するためのインク供給手段がある。プリント紙110は、ドラム101の軸方向に平行に設けられた紙圧着ローラ103により、ドラム101に圧着して保持される。そして、送りネジ104がドラム101の軸方向に平行に設けられ、液滴吐出ヘッド102が保持されている。送りネジ104が回転することによって液滴吐出ヘッド102がドラム101の軸方向に移動するようになっている。
【0060】
一方、ドラム101は、ベルト105等を介してモータ106により回転駆動される。また、プリント制御手段107は、印画データ及び制御信号に基づいて送りネジ104、モータ106を駆動させ、また、ここでは図示していないが、発振駆動回路を駆動させて振動板32を振動させ、制御をしながらプリント紙110に印刷を行わせる。
【0061】
ここでは液体をインクとしてプリント紙110に吐出するようにしているが、液滴吐出ヘッドから吐出する液体はインクに限定されない。例えば、カラーフィルタとなる基板に吐出させる用途においては、カラーフィルタ用の顔料を含む液体、有機化合物等の電界発光素子を用いた表示パネル(OLED等)の基板に吐出させる用途においては、発光素子となる化合物を含む液体、基板上に配線する用途においては、例えば導電性金属を含む液体を、それぞれの装置において設けられた液滴吐出ヘッドから吐出させるようにしてもよい。また、液滴吐出ヘッドをディスペンサとし、生体分子のマイクロアレイとなる基板に吐出する用途に用いる場合では、DNA(Deoxyribo Nucleic Acids :デオキシリボ核酸)、他の核酸(例えば、Ribo Nucleic Acid:リボ核酸、Peptide Nucleic Acids:ペプチド核酸等)タンパク質等のプローブを含む液体を吐出させるようにしてもよい。その他、布等の染料の吐出等にも利用することができる。
【0062】
実施の形態5.
上述の実施の形態2では、液滴吐出ヘッドの製造を例にして説明したが、実施の形態1のマスク基板を用いることができる素子はこれに限定されない。例えば、モータ、センサ、SAWフィルタのような振動素子(レゾネータ)、波長可変光フィルタ、ミラーデバイス等、他の種類の微細加工のアクチュエータ、圧力センサ等のセンサ等にも上述のマスク基板を用いて、加工を行うことができる。また、半導体等の素子においても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】(a)は本発明の実施の形態1に係るマスク断面の一部を表す図、(b)は平面図。
【図2】本実施の形態におけるマスクの製造工程を表す図。
【図3】実施の形態2に係る液滴吐出ヘッドを分解して表した図。
【図4】液滴吐出ヘッドの部分断面図。
【図5】実施の形態2において使用するマスク基板の外観図。
【図6】マスク基板の使用状態を表す図。
【図7】実施の形態2の液滴吐出ヘッドの製造工程(その1)を表す図。
【図8】実施の形態2の液滴吐出ヘッドの製造工程(その2)を表す図。
【図9】液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置の外観図。
【図10】液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図。
【符号の説明】
【0064】
1、1A、1B マスク基板、2、2A、2B 接面側開口部、3、3A、3B 外面側開口部、4 凹部、11 シリコン基板、12、13 酸化シリコン膜、20 電極基板、21 凹部、22 個別電極、23 IC出力実装部、24 リード部、25 液体取り入れ口、30 キャビティ基板、31 吐出室、32 振動板、33 絶縁膜、34 IC実装用開口部、35 封止材、35a 封止部、36 封止用開口部、37 共通電極端子、40 リザーバ基板、41 リザーバ、42 供給口、43 ノズル連通孔、44 貫通穴、45 貫通溝穴、50 ノズル基板、51 ノズル孔、60 ドライバIC、71 シリコン基板、72 ボロンドープ層、73 TEOSハードマスク、100 プリンタ、101 ドラム、102 液滴吐出ヘッド、103 紙圧着ローラ、104 送りネジ、105 ベルト、106 モータ、107 プリント制御手段、110 プリント紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象の基板の加工部分以外の部分を保護するためのシリコンを材料とするマスク基板であって、
前記加工対象の基板と接する面側には、異方性ドライエッチングにより、前記加工部分の形状に対応させた形状に形成された接面側開口部と、この接面側開口部と独立に設けられ、前記加工部分以外の所定の部位と接触させないように形成された凹部とを備え、
前記加工対象の基板と接する面と反対側の面側には、異方性ウェットエッチングにより所定の結晶面方位に沿って残されたシリコンにより壁面が形成され、前記接面側開口部と連通する外面側開口部を備え、
前記接面側開口部の側壁厚さを前記凹部の深さよりも厚く形成したことを特徴とするマスク基板。
【請求項2】
表面が(100)面方位の単結晶シリコンを材料とし、前記外面側開口部の前記壁面は(111)面方位が残されて形成されることを特徴とする請求項1記載のマスク基板。
【請求項3】
前記凹部は、前記所定の部位よりも大きな範囲で形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のマスク基板。
【請求項4】
単結晶シリコン基板の一方の面に、加工対象の基板と接する面側の接面側開口部となる部分の少なくとも周縁部分をパターニングする第1の工程と、
前記単結晶シリコン基板の一方の面に、前記加工対象の基板の加工部分以外の所定の部位と接触させないための凹部となる部分をパターニングする第2の工程と、
前記第1の工程の後に、保護膜をエッチングにより除去してシリコンを露出させる工程と、
前記第2の工程の後に、シリコンを露出させないように保護膜をエッチングにより薄くする工程と、
前記シリコンを露出させた前記接面側開口部となる部分を異方性ドライエッチングにより所定の深さにエッチングして、前記接面側開口部を形成する工程と、
前記薄くした保護膜を異方性ドライエッチングにより除去した後、前記凹部となる部分を異方性ドライエッチングにより所定の深さにエッチングして、前記凹部を形成する工程と、
前記一方の面と反対の面側にパターニングを行い、異方性ウェットエッチングを行って、外面側開口部を形成し、前記接面側開口部と前記外面側開口部とを連通させる工程と、
を有することを特徴とするマスク基板の製造方法。
【請求項5】
水酸化カリウム水溶液または水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いて前記異方性ウェットエッチングを行うことを特徴とする請求項4記載のマスク基板の製造方法。
【請求項6】
前記第1の工程及び前記第2の工程では、互いに異なる保護膜厚を有するように、独立した階層でパターニングを行うことを特徴とする請求項4または5記載のマスク基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のマスク基板または請求項4〜6のいずれかに記載のマスク基板の製造方法により製造されたマスク基板を用いて、ノズルから吐出させる液体の流路が形成される基板を加工する工程を少なくとも有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造することを特徴とする液滴吐出装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−119699(P2009−119699A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295541(P2007−295541)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】