説明

ラジカル選択装置及び基板処理装置

【課題】プラズマからラジカルのみを確実に選択的に通過させることができるラジカル選択装置を提供する。
【解決手段】基板処理装置10のチャンバ11内において、載置台12に載置されたウエハW及びプラズマジェネレータ13の間に配置されるラジカルフィルタ14は、上部シールドプレート17と、プラズマジェネレータ13との間に上部シールドプレート17を介在させるように配置される下部シールドプレート18とを備え、上部シールドプレート17は当該上部シールドプレート17を厚み方向に貫通する複数の上部貫通孔17aを有し、下部シールドプレート18は当該下部シールドプレート18を厚み方向に貫通する複数の下部貫通孔18aを有し、上部シールドプレート17には負の直流電圧が印加され、下部シールドプレート18には正の直流電圧が印加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマからラジカルを選択的に通過させるラジカル選択装置及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカルを利用する成膜処理やドライエッチング処理等のプラズマ処理において陽イオンが基板へ到達すると、該陽イオンによって基板上の膜がスパッタされて損傷することがあるため、従来、プラズマからラジカルのみを選択的に透過させる手段が開発されている。このような手段としては、プラズマソースと基板の間に2枚のプレートを配置し、該2枚のプレートを重ねた状態で一方のプレートの貫通孔が他方のプレートの貫通孔と重ならないように各プレートの貫通孔が形成されるプラズマ処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般に陽イオンは基板を載置するサセプタに生じるバイアス電圧によって引き寄せられるため、直線的に移動する一方、ラジカルは電気的に中性であるため、バイアス電圧によって引かれず、ランダム的に移動する。したがって、一方のプレートの貫通孔が他方のプレートの貫通孔と重ならない場合、一方のプレートの貫通孔を通過した陽イオンは他方のプレートに衝突して他方のプレートの貫通孔を通過できないが、一方のプレートの貫通孔を通過したラジカルは直線的に移動しないため、他方のプレートの貫通孔を通過する可能性があり、その結果、プラズマからラジカルを選択的に通過させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−086449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、ラジカルを用いたプラズマ処理の効率を向上させるために、プラズマソースにて密度の高いプラズマを生じさせると、陽イオンの密度も高くなるため、上述した2枚のプレートを通過する陽イオンの発生確率が高まり、基板上の膜が陽イオンによって損傷するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、プラズマを閉じ込めてプラズマからラジカルのみを確実に選択的に通過させることができるラジカル選択装置及び基板処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載のラジカル選択装置は、プラズマからラジカルを選択的に通過させるラジカル選択装置であって、第1の遮蔽板と、プラズマソースとの間に前記第1の遮蔽板を介在させるように配置される第2の遮蔽板とを備え、前記第1の遮蔽板は当該第1の遮蔽板を厚み方向に貫通する複数の第1の貫通孔を有し、前記第2の遮蔽板は当該第2の遮蔽板を厚み方向に貫通する複数の第2の貫通孔を有し、前記第1の遮蔽板には第1の直流電圧が印加され、前記第2の遮蔽板には第2の直流電圧が印加され、前記第1の直流電圧の極性と前記第2の直流電圧の極性とは異なることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載のラジカル選択装置は、請求項1記載のラジカル選択装置において、前記第1の遮蔽板側から眺めたときに、前記第1の貫通孔を通して前記第2の貫通孔が見えないように、前記第1の遮蔽板及び前記第2の遮蔽板が配置されることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載のラジカル選択装置は、請求項1又は2記載のラジカル選択装置において、前記第1の貫通孔の最大幅は、前記第1の遮蔽板の表面に発生するシースの厚さの2倍以下であることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載のラジカル選択装置は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のラジカル選択装置において、前記第1の直流電圧の極性と、前記第2の直流電圧の極性は変更することができることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載のラジカル選択装置は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のラジカル選択装置において、前記第1の直流電圧の極性は負であることを特徴とする。
【0012】
請求項6記載のラジカル選択装置は、請求項5記載のラジカル選択装置において、前記
第1の遮蔽板は、高周波電力が供給される電極板と平行に配されて当該電極と平行平板電
極をなすことを特徴とする。
【0013】
請求項7記載のラジカル選択装置は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のラジカル選択装置において、前記プラズマソースと、プラズマ処理が施される基板との間の空間を囲むように配置されることを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成するために、請求項8記載の基板処理装置は、プラズマ処理が施される基板を収容する収容室と、プラズマソースと、前記収容室内に配置されるプラズマからラジカルを選択的に通過させるラジカル選択装置とを備える基板処理装置であって、前記ラジカル選択装置は、前記プラズマソース及び前記基板の間に介在する第1の遮蔽板と、前記プラズマソースとの間に前記第1の遮蔽板を介在させるように配置される第2の遮蔽板とを有し、前記第1の遮蔽板は当該第1の遮蔽板を厚み方向に貫通する複数の第1の貫通孔を有し、前記第2の遮蔽板は当該第2の遮蔽板を厚み方向に貫通する複数の第2の貫通孔を有し、前記第1の遮蔽板には第1の直流電圧が印加され、前記第2の遮蔽板には第2の直流電圧が印加され、前記第1の直流電圧の極性と前記第2の直流電圧の極性とは異なることを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成するために、請求項9記載の基板処理装置は、プラズマ処理が施される基板を収容する収容室を備え、該収容室内に電極を兼ねる前記基板の載置台及び該載置台と対向し且つ高周波電源が接続される対向電極が配置される基板処理装置であって、前記載置台及び前記対向電極の間の処理空間に面するように配置される第1の遮蔽板と、前記処理空間との間に前記第1の遮蔽板を介在させるように配置される第2の遮蔽板とを備え、前記第1の遮蔽板は当該第1の遮蔽板を厚み方向に貫通する複数の第1の貫通孔を有し、前記第2の遮蔽板は当該第2の遮蔽板を厚み方向に貫通する複数の第2の貫通孔を有し、前記第1の遮蔽板には第1の直流電圧が印加されるとともに、前記第2の遮蔽板には第2の直流電圧が印加され、前記第1の直流電圧の極性と前記第2の直流電圧の極性とは異なり、前記第1の遮蔽板には第1のインピーダンス調整回路が接続されるとともに、前記載置台には第2のインピーダンス調整回路が接続され、前記高周波電源が供給する高周波電力に起因する高周波電流が前記処理空間を流れる際、前記第1のインピーダンス調整回路及び前記第2のインピーダンス調整回路は前記第1の遮蔽板へ向かう前記高周波電流及び前記載置台へ向かう前記高周波電流をそれぞれ制御することを特徴とする。
【0016】
請求項10記載の基板処理装置は、請求項9記載の基板処理装置において、前記第1の遮蔽板及び前記第2の遮蔽板は前記処理空間を囲むように配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、第1の遮蔽板に印加される第1の直流電圧の極性と、プラズマソースとの間に第1の遮蔽板を介在させるように配置される第2の遮蔽板に印加される第2の直流電圧の極性とは異なる。例えば、第1の直流電圧の極性が負であって、第2の直流電圧の極性が正である場合、第1の遮蔽板における第1の貫通孔以外の部分と対向する陽イオンは第1の遮蔽板に引き込まれて電気的に中和され、第1の遮蔽板に留まり、第1の貫通孔と対向する陽イオンは第1の貫通孔を通過した後、第2の遮蔽板から反発力を受けるため、第2の貫通孔を通過しないとともに、第1の遮蔽板における第1の貫通孔以外の部分と対向する電子は第1の遮蔽板から反発力を受けて第1の遮蔽板から遠ざかり、第1の貫通孔と対向する電子は第1の貫通孔を通過した後、第2の遮蔽板に引き込まれて消失する。また、第1の直流電圧の極性が正であって、第2の直流電圧の極性が負である場合、第1の遮蔽板における第1の貫通孔以外の部分と対向する電子は第1の遮蔽板に引き込まれて消失し、第1の貫通孔と対向する電子は第1の貫通孔を通過した後、第2の遮蔽板から反発力を受けるため、第2の貫通孔を通過しないとともに、第1の遮蔽板における第1の貫通孔以外の部分と対向する陽イオンは第1の遮蔽板から反発力を受けて第1の遮蔽板から遠ざかり、第1の貫通孔と対向する陽イオンは第1の貫通孔を通過した後、第2の遮蔽板に引き込まれて電気的に中和され、第2の遮蔽板に留まる。したがって、プラズマ中の陽イオン、電子はラジカル選択装置を通過しない。一方、プラズマ中のラジカルは電気的に中性であるため、第1の遮蔽板や第2の遮蔽板に引き込まれることがなく、且つ第1の遮蔽板や第2の遮蔽板から反発力を受けることもない。その結果、プラズマを閉じ込めてプラズマからラジカルのみを確実に選択的に通過させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る基板処理装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図2】図1における白抜きの矢印に沿ってラジカルフィルタを眺めた場合における上部貫通孔及び下部貫通孔の位置関係を示す部分拡大平面図である。
【図3】静電気力効果を説明するためのラジカルフィルタの部分拡大図であり、図3(A)及び図3(B)は上部シールドプレートに負の直流電圧を印加し、下部シールドプレートに正の直流電圧を印加する場合を示す図であり、図3(C)及び図3(D)は上部シールドプレートに正の直流電圧を印加し、下部シールドプレートに負の直流電圧を印加する場合を示す図である。
【図4】図1における上部シールドプレートの表面及び上部貫通孔の側面に発生するシースの様子を説明するためのラジカルフィルタの拡大部分断面図である。
【図5】上部シールドプレートと下部シールドプレートの間に進入したプラズマに作用するローレンツ力効果を説明するためのラジカルフィルタの部分拡大図であり、図5(A)は上部シールドプレート及び下部シールドプレートの間におけるプラズマ中の陽イオンの動きを示す図であり、図5(B)は上部シールドプレート及び下部シールドプレートの間におけるプラズマ中の電子の動きを示す図である。
【図6】図1の基板処理装置の第1の変形例の構成を概略的に示す断面図である。
【図7】図1の基板処理装置の第2の変形例の構成を概略的に示す断面図である。
【図8】図1の基板処理装置の第3の変形例の構成を概略的に示す断面図である。
【図9】図1の基板処理装置の第4の変形例の構成を概略的に示す断面図である。
【図10】図1の基板処理装置の第5の変形例の構成を概略的に示す断面図である。
【図11】第4の変形例及び第5の変形例におけるLC回路の変形例を示す図であり、図11(A)は並列型LC回路を示し、図11(B)はπ型LC回路を示し、図11(C)はT型LC回路を示す。
【図12】図1の基板処理装置の第6の変形例の構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本実施の形態に係る基板処理装置の構成を概略的に示す断面図である。
【0021】
図1において、基板処理装置10は、基板としてのウエハWを収容する、接地された円筒状のチャンバ11(収容室)と、該チャンバ11の底部に配置されてウエハWを載置する載置台12と、チャンバ11の天井部に載置台12と対向するように配置されるプラズマソースとしてのプラズマジェネレータ13と、載置台12及びプラズマ発生装置13の間の処理空間Sに配置されるラジカルフィルタ14(ラジカル選択装置)と、処理空間Sに向けて処理ガスを導入する不図示の処理ガス導入部と、処理空間Sを含むチャンバ11の内部のガスを排気する排気管15とを備える。
【0022】
基板処理装置10は、導入された処理ガスからプラズマジェネレータ13によってプラズマを生じさせ、該プラズマ中のラジカルを利用してウエハW上へ結晶性の膜、例えば、GaNエピタキシャル膜を成膜する。
【0023】
プラズマジェネレータ13は、互いに溝状空間を間に挟んで対峙する複数の導電体13a,13bからなる電極であり、第1の高周波電源16aに接続された複数の導電体13aと、第2の高周波電源16bに接続され且つ各導電体13aの間に配置される複数の導電体13bとを有する。第2の高周波電源16bは、第1の高周波電源16aが供給する高周波電力とは逆位相の高周波電力を供給するので、隣接する導電体13a,13bのそれぞれに供給される高周波電力の位相は逆となり、導電体13a及び導電体13bの間には電界が生じ、該電界によって処理ガスからプラズマPが生成される。その結果、プラズマジェネレータ13では隣接する導電体13a,13bの間においてプラズマPが生成される。
【0024】
ラジカルフィルタ14は、プラズマジェネレータ13と対向するように配置される、導電体、例えば、アルミからなる上部シールドプレート17(第1の遮蔽板)と、プラズマジェネレータ13との間に上部シールドプレート17を介在させるように配置される、導電体、例えば、アルミからなる下部シールドプレート18(第2の遮蔽板)とを有する。
【0025】
上部シールドプレート17及び下部シールドプレート18の、少なくともラジカルと接触しうる部分の表面は、セラミックス(例えば、アルミナ等)などの誘電性の材料でコーティングされていることが望ましい。これにより、表面に露出する導電体との接触によってラジカルが失活するのを防止することができる。上記コーティングには、溶射などの既存の方法を用いることが出来る。但し、後述するように、シールドプレートにおいてラジカルのみの選択的通過の実現に静電気力効果を用いる場合、上部のシールドプレート及び下部のシールドプレートには直流電圧を印加するので、コーティングの厚さを厚くし過ぎると電界が弱まり、静電気力効果が抑制されてしまう。したがって、静電気力効果を抑制しない程度の厚さに留めておく必要がある。
【0026】
なお、本実施の形態では、上部シールドプレート17及び下部シールドプレート18が互いに平行に配置される。上部シールドプレート17には、当該上部シールドプレート17を厚み方向に貫通する多数の上部貫通孔17a(第1の貫通孔)が形成され、下部シールドプレート18には、当該下部シールドプレート18を厚み方向に貫通する多数の下部貫通孔18a(第2の貫通孔)が形成される。
【0027】
また、上部シールドプレート17には第1の直流電源19aが接続されて、該第1の直流電源19aは負の直流電圧を上部シールドプレート17に印加する。下部シールドプレート18には第2の直流電源19bが接続されて、該第2の直流電源19bは正の直流電圧を下部シールドプレート18に印加する。
【0028】
なお、上部シールドプレート17及び下部シールドプレート18への直流電圧の印加の形態はこれに限られず、上部シールドプレート17へ印加される直流電圧の極性と下部シールドプレート18へ印加される直流電圧の極性とが異なればよく、例えば、上部シールドプレート17へ正の直流電圧が印加され、下部シールドプレート18へ負の直流電圧が印加されてもよい。
【0029】
図2は、図1における白抜きの矢印に沿ってラジカルフィルタを眺めた場合における上部貫通孔及び下部貫通孔の位置関係を示す部分拡大平面図である。
【0030】
ラジカルフィルタ14を上部シールドプレート17側から眺めたとき、図2に示すように、上部貫通孔17aの位置が下部貫通孔18aの位置と重ならず、上部貫通孔17aを通して下部貫通孔18aを見ることができない。すなわち、上部貫通孔17aを上部シールドプレート17に対してほぼ垂直に通過する粒子は確実に下部貫通孔18aへ衝突する。また、プラズマからはウエハW上の膜に損傷を与えるおそれがある紫外線などの光も発せられるが、ラジカルフィルタ14では、上部貫通孔17aを通過する光が下部シールドプレート18によって遮られる。
【0031】
本実施の形態では、ラジカルフィルタ14は以下に説明する3つの効果(静電気力効果、シース効果、ローレンツ力効果)によってプラズマPからラジカルのみを選択的に通過させる。
【0032】
まず、静電気力効果について図3(A)乃至図3(D)を用いて説明する。
【0033】
例えば、第1の直流電源19aが上部シールドプレート17に負の直流電圧を印加し、第2の直流電源19bが下部シールドプレート18に正の直流電圧を印加する場合、上部シールドプレート17の上部貫通孔17a以外の部分と対向するプラズマP中の陽イオンIの極性は上部シールドプレート17に印加される直流電圧の極性と異なるため、当該陽イオンIは静電気力によって上部シールドプレート17へ引き込まれ、上部シールドプレート17に接触すると当該上部シールドプレート17に捕捉された後に電気的に中和されて上部シールドプレート17に留まる。また、仮に、陽イオンIが捕捉されずにシールドプレート17の表面で跳ね返されたとしても、当該陽イオンIは既に電気的に中和されて電荷を失っているので、電界から静電気力の作用を受けて再びウエハWの方へ引き込まれることはなく、ウエハW上の膜に損傷を与えることも無い。また、上部貫通孔17aと対向する陽イオンIの極性は下部シールドプレート18に印加される直流電圧の極性と同じであるため、当該陽イオンIはシールドプレート17と衝突せずに上部貫通孔17aを通過した場合には、下部シールドプレート18から静電気力による反発力を受けて上部シールドプレート17へ向けて押し戻される。その結果、当該陽イオンIは下部シールドプレート18の下部貫通孔18aを通過しない(図3(A))。
【0034】
一方、上部シールドプレート17の上部貫通孔17a以外の部分と対向するプラズマP中の電子Eの極性は上部シールドプレート17に印加される直流電圧の極性と同じであるため、当該電子Eは上部シールドプレート17から静電気力による反発力を受けてプラズマジェネレータ13へ向けて押し戻される。また、上部貫通孔17aと対向する電子Eの極性は下部シールドプレート18に印加される直流電圧の極性と異なるため、当該電子Eは上部貫通孔17aを通過した後、静電気力によって下部シールドプレート18へ引き込まれ、下部シールドプレート18に接触すると電気的に中和されて消失する(図3(B))。
【0035】
また、例えば、第1の直流電源19aが上部シールドプレート17に正の直流電圧を印加し、第2の直流電源19bが下部シールドプレート18に負の直流電圧を印加する場合、上部シールドプレート17の上部貫通孔17a以外の部分と対向する陽イオンIの極性は上部シールドプレート17に印加される直流電圧の極性と同じであるため、当該陽イオンIは上部シールドプレート17から静電気力による反発力を受けてプラズマジェネレータ13へ向けて押し戻される。また、上部貫通孔17aと対向する陽イオンIの極性は下部シールドプレート18に印加される直流電圧の極性と異なるため、当該陽イオンIは上部貫通孔17aを通過した後、静電気力によって下部シールドプレート18へ引き込まれ、下部シールドプレート18に接触すると当該下部シールドプレート18に捕捉された後に電気的に中和されて下部シールドプレート18に留まる(図3(C))。
【0036】
一方、上部シールドプレート17の上部貫通孔17a以外の部分と対向する電子Eの極性は上部シールドプレート17に印加される直流電圧の極性と異なるため、当該電子Eは静電気力によって上部シールドプレート17へ引き込まれ、上部シールドプレート17に接触すると電気的に中和されて消失する。また、上部貫通孔17aと対向する電子Eの極性は下部シールドプレート18に印加される直流電圧の極性と同じであるため、当該電子Eは上部貫通孔17aを通過した後、下部シールドプレート18から静電気力による反発力を受けて上部シールドプレート17へ向けて押し戻される。その結果、当該電子Eは下部シールドプレート18の下部貫通孔18aを通過しない(図3(D))。
【0037】
したがって、上部シールドプレート17へ印加される直流電圧の極性と下部シールドプレート18へ印加される直流電圧の極性とが異なれば、プラズマP中の陽イオンI、電子Eがラジカルフィルタ14を通過するのを防止することができる。
【0038】
一方、プラズマP中のラジカルは電気的に中性であるため、上部シールドプレート17や下部シールドプレート18に静電気力によって引き込まれることがなく、且つ上部シールドプレート17や下部シールドプレート18から静電気力による反発力を受けることもない。その結果、プラズマPからラジカルのみを確実に選択的に通過させることができる。
【0039】
次に、シース効果について図4を用いて説明する。
【0040】
通常、プラズマに対向する物体の表面には電界を伴うシースが発生するため、上部シールドプレート17を構成する導電体の表面にもシースが発生する。シースは空間電離層であり、シース中の電界により陽イオンを導電体に向かう方向に加速し、電子を導電体から遠ざかる方向に加速するが、導電体に負の電位を印加することによってシースをさらに厚くすることができる。シースとプラズマとの接合部では空間電位の勾配が急激に変わるが、通常、物体の表面からプラズマとの接合部までの間のシースの領域をシースの厚みとして考える。簡易的には、発光するプラズマと物体の表面との間の発光が著しく弱い領域をシースとみなす。
【0041】
本実施の形態では、第1の直流電源19aから上部シールドプレート17へ負の直流電圧を印加することによって上部シールドプレート17の表面に発生するシースの厚さを増加させる。
【0042】
図4は、図1における上部シールドプレートの表面及び上部貫通孔の側面に発生するシースの様子を説明するためのラジカルフィルタの拡大部分断面図である。
【0043】
図4において、負の直流電圧が印加された上部シールドプレート17の表面にはシース20が発生する。シース20は厳密には、プラズマジェネレータ13が発生させたプラズマPに起因して発生した部分20aと、上部シールドプレート17に印加される負の直流電圧に起因して発生した部分20bとからなる。部分20bの厚さは印加される負の直流電圧の値に応じて変化するため、上部シールドプレート17へ印加される負の直流電圧を調整することによってシース20の厚さを制御することができる。
【0044】
本実施の形態では、シース20の厚さδが上部貫通孔17aの最大幅dの半分以上となるように、上部シールドプレート17へ印加される負の直流電圧の値が調整される。これにより、上部貫通孔17aが、上部シールドプレート17の表面に発生するシース20、より具体的には、上部貫通孔17aの両側面に発生するシース20で塞がれる。
【0045】
ここで、上部貫通孔17aへ進入しようとする陽イオンIはシース20によって上部貫通孔17aの側壁へ向けて加速され、当該側面へ引き込まれる。また、上部貫通孔17aへ進入しようとする電子Eはシース20によって上部シールドプレート17から遠ざかるように加速され、上部貫通孔17aから押し戻される。
【0046】
したがって、シース20の厚さδを上部貫通孔17aの最大幅dの半分以上、換言すれば、上部貫通孔17aの最大幅dをシース20の厚さの2倍以下にすれば、陽イオンI、電子Eが上部貫通孔17aを通過するのを防止することができる。
【0047】
次に、ローレンツ力効果について図5(A)及び図5(B)を用いて説明する。 ローレンツ力効果は、上述した静電気力効果及びシース効果と作用形態が異なるが、ラジカルフィルタ14を通り抜けて処理空間Sに進入しようとするプラズマを阻止する効果である。
【0048】
ここで、粒子に作用するローレンツ力Fは、一般的に下記式(1)で表わされる。
F=q(E+v×B) ・・・ (1)
qは電荷、Eは電界、vは粒子の速度、Bは磁界である。本実施の形態では磁場が存在しないため、電界に起因するローレンツ力のみが粒子に作用する。
【0049】
ラジカルフィルタ14では、上部シールドプレート17及び下部シールドプレート18へ極性が異なる直流電圧が印加されているため、上部シールドプレート17及び下部シールドプレート18の間には、上部シールドプレート17及び下部シールドプレート18に垂直な向きを有する電界(以下「垂直電界」という。)が発生する。ここで、上部貫通孔17aを通過して上部シールドプレート17及び下部シールドプレート18の間にプラズマが進入すると、プラズマ中で自由な方向に運動している陽イオン及び電子に垂直電界が作用してローレンツ力により、特定の方向に引っ張られる。このとき、陽イオンと電子では電荷が異なるため互いに反対の方向、すなわち、イオンIは上部シールドプレート17aに引っ張られる一方、電子Eは下部シールドプレート18aに引っ張られてプラズマが分極する。分極したプラズマは両極性拡散が阻止される、すなわち、イオンIや電子Eは上部シールドプレート17及び下部シールドプレート18の間に留まるため、上部シールドプレート17及び下部シールドプレート18の間で分極したプラズマは、もはや、下部プレート18の下部貫通孔18aを透過して処理空間Sに進入することはない。
【0050】
上述したように、本実施の形態では磁場が存在しないため、電界に起因するローレンツ力のみが粒子に作用する場合の効果を説明したが、垂直電界に直交し且つ上部シールドプレート17などに平行な成分を有する磁場をさらに印加した場合には、プラズマ中の陽イオン及び電子は電界と磁場に直交し且つ上部シールドプレート17等に平行な方向に、それぞれ逆の方向へドリフトするので、プラズマが下部シールドプレート18の下部貫通孔18aを通過して処理空間Sに進入するのをより効果的に防ぐことが出来る。
【0051】
一方、ラジカルは電気的に中性であるため、上部シールドプレート17及び下部シールドプレート18の電界に起因するローレンツ力を受けることもない。その結果、プラズマPからラジカルのみを確実に選択的に通過させることができる。
【0052】
本実施の形態に係るラジカルフィルタ14によれば、上部シールドプレート17へ負の直流電圧が印加され、下部シールドプレート18へ正の直流電圧が印加されるため、上述した3つの効果(静電気力効果、シース効果、ローレンツ力効果)によって陽イオンIや電子Eがラジカルフィルタ14を通過するのを防止することができ、もって、プラズマPをラジカルフィルタ14の上部に閉じ込めてプラズマPからラジカルのみを確実に選択的に通過させることができる。
【0053】
また、プラズマPは紫外線を発し、該紫外線がウエハW上に成膜されているGaNエピタキシャル膜に到達すると、該GaNエピタキシャル膜を変質させることがあるが、ラジカルフィルタ14では、当該ラジカルフィルタ14を上部シールドプレート17側から眺めたとき、上部シールドプレート17の上部貫通孔17aを通して下部シールドプレート18の下部貫通孔18aを見ることができないので、プラズマPから発せられた紫外線はラジカルフィルタ14を通過することがない。その結果、紫外線によってGaNエピタキシャル膜が変質するのを防止することができる。
【0054】
上述したラジカルフィルタ14では、上部シールドプレート17及び下部シールドプレート18へ極性が異なる直流電圧を印加したが、上部シールドプレート17及び下部シールドプレート18の間の電位差(以下、「プレート間電位差」という。)の絶対値は、プラズマジェネレータ13の出力に応じて変化させるのが好ましい。
【0055】
具体的には、導電体13a,13bに供給される高周波電力の値が大きいほど、プレート間電位差の絶対値を大きく設定する。導電体13a,13bに供給される高周波電力の値が大きいと、発生するプラズマPの量が多くなり、陽イオンIや電子Eの量も多くなって陽イオンIや電子Eがラジカルフィルタ14を通過する可能性が高まるが、プレート間電位差の絶対値が大きいと、上部シールドプレート17及び下部シールドプレート18の間に発生する電界が強くなり、上部シールドプレート17及び下部シールドプレート18の間に進入した陽イオンIや電子Eに作用するローレンツ力が大きくなるとともに、陽イオンIや電子Eのそれぞれに関して上部シールドプレート17又は下部シールドプレート18との電位差を大きくすることができるため、陽イオンIや電子Eのそれぞれに作用する上部シールドプレート17又は下部シールドプレート18からの静電気力も大きくなる。すなわち、上述したローレンツ力効果や静電気力効果を有効に活用することができる。その結果、陽イオンIや電子Eの量が多くなっても陽イオンIや電子Eがラジカルフィルタ14を通過するのを防止することができる。
【0056】
例えば、本発明者は、後述する図6の基板処理装置21において上部電極板23に供給される高周波電力の値を300Wに設定した場合、プレート間電位差の絶対値が50V以下であれば、陽イオンIや電子Eがラジカルフィルタ14を通過するのを確認したが、プレート間電位差の絶対値が100V以上であれば、陽イオンIや電子Eがラジカルフィルタ14を通過しないことを確認した。また、上部電極板23に供給される高周波電力の値を600Wに設定した場合、プレート間電位差の絶対値が100V以下であれば、陽イオンIや電子Eがラジカルフィルタ14を通過するのを確認したが、プレート間電位差の絶対値が150V以上であれば、陽イオンIや電子Eがラジカルフィルタ14を通過しないことを確認した。さらに、上部電極板23に供給される高周波電力の値を900Wに設定した場合、プレート間電位差の絶対値が250V以下であれば、陽イオンIや電子Eがラジカルフィルタ14を通過するのを確認したが、プレート間電位差の絶対値が300V以上であれば、陽イオンIや電子Eがラジカルフィルタ14を通過しないことを確認した。
【0057】
また、プレート間電位差を大きくする際に、上部シールドプレート17又は下部シールドプレート18に印加される負の直流電圧の値を大きくすると、当該シールドプレートへ陽イオンIが勢いよく引き込まれるため、当該シールドプレートがスパッタリングによって消耗したり、当該シールドプレートから2次電子が放出される。したがって、上部シールドプレート17又は下部シールドプレート18に印加される負の直流電圧の値は−数10V程度に設定するのが好ましい。
【0058】
上述した上部シールドプレート17には負の直流電圧及び正の直流電圧のいずれも印加することができるが、負の直流電圧を印加するのが好ましい。これにより、上部シールドプレート17の表面に発生するシースの厚さを大きくすることができ、上部貫通孔17aをシースによって確実に塞ぐことができる。すなわち、下部シールドプレート18よりもウエハWから遠い上部シールドプレート17において陽イオンI及び電子Eの通過を防止することができるので、陽イオンI及び電子EがウエハWに到達するのを確実に防止することができる。
【0059】
また、上部シールドプレート17及び下部シールドプレート18に印加される直流電圧の極性を時間の経過に応じて変化させてもよい。これにより、陽イオンIを引き込むシールドプレートを変更することができるので、陽イオンIの引き込みに伴うスパッタリングによって一方のシールドプレートのみが消耗するのを防止することができ、もって、ラジカルフィルタ14の寿命を長くすることができる。
【0060】
以上、本発明について、上記実施の形態を用いて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0061】
上述した基板処理装置10では、プラズマソースとして複数の導電体13a,13bを有するプラズマジェネレータ13が用いられたが、プラズマソースはこれに限られず、他のプラズマソース、例えば、平行平板電極を用いてもよい。
【0062】
図6は、図1の基板処理装置の第1の変形例の構成を概略的に示す断面図であり、本変形例ではプラズマソースとして平行平板電極を用いる。
【0063】
図6において、基板処理装置21は、チャンバ11の天井部において載置台12と対向するように配置された、例えば、導電体からなる上部電極板23を備え、該上部電極板23は上部シールドプレート17と平行に配置されるとともに、高周波電源22が接続され、上部電極板23へは高周波電力が供給される。ここで、上部シールドプレート17には負の直流が印加されているため、上部電極板23及び上部シールドプレート17の間には電界が生じ、該電界によってプラズマPが発生する。すなわち、上部電極板23及び上部シールドプレート17は平行平板電極をなす。これにより、基板処理装置21にプラズマソースを設けるために上部電極板23と平行に配置される他の電極板を新たに設ける必要が無くなり、基板処理装置21の構成を簡素化することができる。
【0064】
また、ラジカルフィルタ14はプラズマジェネレータ13及び載置台12の間ではなく、図7に示すように、プラズマジェネレータ13と、載置台12に載置されたウエハWとの間の処理空間Sを囲むように配置して該ラジカルフィルタ14をプラズマ閉じ込め装置として機能させてもよい。ラジカルフィルタ14は陽イオンIや電子Eを通過させないため、陽イオンIや電子Eを封じ込めることができる。したがって、処理空間Sを囲むように配置されたラジカルフィルタ14は、処理空間Sに陽イオンIを封じ込めて処理空間Sにおける陽イオンIの密度を高めることができる。その結果、ウエハWへ施されるプラズマ処理、例えば、ドライエッチング処理の効率を向上することができる。
【0065】
さらに、図8に示すように、ラジカルフィルタ14を載置台12の側壁を囲むように配置して排気プレートとして機能させてもよい。これにより、処理空間Sから陽イオンIや電子Eが排気管15へ流入するのを防止することができ、もって、排気ポンプ等が陽イオンIのスパッタリングによって消耗するのを防止することができる。
【0066】
なお、図7及び図8におけるラジカルフィルタ14を備えた基板処理装置の変形例においても、プラズマソースはプラズマジェネレータ13に限らず、図6の基板処理装置と同様に、平行平板電極を用いたプラズマ発生装置やその他の方法を用いたプラズマ発生装置であってもよい。
【0067】
例えば、図9に示すように、基板処理装置26が、高周波電源22が接続される上部電極板23(対向電極)及び載置台12からなる平行平板電極を備える場合、上部電極板23及び載置台12の間の処理空間Sを囲むように配置されたラジカルフィルタ27を備えてもよい。
【0068】
ラジカルフィルタ27は、処理空間Sに面する円筒状の内側シールドプレート28(第1の遮蔽板)と、処理空間Sとの間に内側シールドプレート28を介在させるように配置される円筒状の外側シールドプレート29(第2の遮蔽板)とを有し、内側シールドプレート28及び外側シールドプレート29はともに導電体、例えば、アルミからなる。
【0069】
内側シールドプレート28及び外側シールドプレート29は同軸に配置され、内側シールドプレート28には、当該内側シールドプレート28を厚み方向に貫通する多数の内側貫通孔28a(第1の貫通孔)が形成され、外側シールドプレート29には、当該外側シールドプレート29を厚み方向に貫通する多数の外側貫通孔29a(第2の貫通孔)が形成される。
【0070】
また、内側シールドプレート28には第1の直流電源19aが接続されて、該第1の直流電源19aは負の直流電圧を内側シールドプレート28に印加し、外側シールドプレート29には第2の直流電源19bが接続されて、該第2の直流電源19bは正の直流電圧を外側シールドプレート29に印加する。なお、内側シールドプレート28へ正の直流電圧が印加され、外側シールドプレート29へ負の直流電圧が印加されてもよい。
【0071】
ラジカルフィルタ27を内側シールドプレート28側から眺めたとき、内側貫通孔28aの位置が外側貫通孔29aの位置と重ならず、内側貫通孔28aを通して外側貫通孔29aを見ることができない。
【0072】
以上の構成により、ラジカルフィルタ27は、ラジカルフィルタ14と同様に、処理空間Sのプラズマからラジカルのみを選択的に通過させ、結果として陽イオンIや電子Eを処理空間Sに封じ込めることにより、プラズマを処理空間Sに閉じ込める。
【0073】
ところで、平行平板電極を用いたプラズマ発生装置をプラズマソースとして用いた場合、下部電極として機能する載置台と上部電極板の間の処理空間においてプラズマは均一に分布せず、通常、載置台に載置されたウエハの中心や上部電極板の中心に対向する部分、すなわち、処理空間の中心のプラズマ密度が高くなることが知られている。このような場合、ラジカルフィルタ27をプラズマ密度分布制御装置として機能させることができる。プラズマ密度分布制御装置として機能するラジカルフィルタ27では、内側シールドプレート28へ第1のLC回路30(第1のインピーダンス調整回路)が第1の直流電源19aと並列に接続されて内側シールドプレート28は第1のLC回路30を介して接地する。また、載置台12には第2のLC回路31(第2のインピーダンス調整回路)が接続されて載置台12は第2のLC回路31を介して接地する。
【0074】
第1のLC回路30及び第2のLC回路31はそれぞれ直列に接続されたコイルLと可変コンデンサCからなり、可変コンデンサCの容量を変化させることによって第1のLC回路30や第2のLC回路31のインピーダンスを調整する。
【0075】
基板処理装置26において処理空間Sに高周波電源22から供給される高周波電力に起因するプラズマが発生する際、該処理空間Sには高周波電流が流れるが、内側シールドプレート28及び載置台12はそれぞれ第1のLC回路30及び第2のLC回路31を介して接地されているので、処理空間Sの高周波電流は内側シールドプレート28へ向かう第1の高周波電流32と、載置台12へ向かう第2の高周波電流33へ分流する。
【0076】
このとき、第1の高周波電流32の値は第1のLC回路30のインピーダンスによって左右され、第2の高周波電流33の値は第2のLC回路31のインピーダンスによって左右される。また、プラズマ密度は高周波電流の値の大小に対応して増減するので、処理空間Sの周縁におけるプラズマ密度は第1の高周波電流32によって左右され、処理空間Sの中心におけるプラズマ密度は第2の高周波電流33によって左右される。したがって、第1のLC回路30及び第2のLC回路31のインピーダンスを調整することにより、第1の高周波電流32及び第2の高周波電流33を制御して処理空間Sにおけるプラズマ密度の分布を制御することができる。
【0077】
基板処理装置26では、第2の高周波電流33よりも第1の高周波電流32が大きくなるように第1のLC回路30及び第2のLC回路31のインピーダンスの比が調整されて処理空間Sにおけるプラズマ密度の分布が均一化される。
【0078】
また、図10に示すように、ラジカルフィルタ27、すなわち、内側シールドプレート28及び外側シールドプレート29を載置台12の側壁を囲むように配置して排気プレートとして機能させてもよい。この場合、内側シールドプレート28及び外側シールドプレート29は互いに重なるように配置された環状の導電体からなるが、ラジカルフィルタ27は処理空間Sから陽イオンIや電子Eが排気管15へ流入するのを防止することができるとともに、第1のLC回路30及び第2のLC回路31のインピーダンスを調整することにより、第1の高周波電流32や第1の高周波電流32を制御して処理空間Sにおけるプラズマ密度の分布を制御することができる。
【0079】
なお、第1のLC回路30や第2のLC回路31は、直列に接続されたコイルLと可変コンデンサCからなる直列型LC回路に限られず、例えば、コイルLと可変コンデンサCが並列に接続された並列型LC回路(図11(A)参照)、1つのコイルLの両端のそれぞれに可変コンデンサCが接続されたπ型LC回路(図11(B)参照)、若しくは直列に接続された2つのコイルLの中間点に可変コンデンサCが接続されたT型LC回路(図11(C)参照)であってもよい。
【0080】
また、上述した基板処理装置10では、3つの効果(静電気力効果、シース効果、ローレンツ力効果)を利用してラジカルフィルタ14がプラズマPからラジカルのみを選択的に通過させたが、上述した3つの効果のうち1つのみを利用してもラジカルのみを選択的に通過させることができるため、例えば、シース効果のみを利用する場合、図12に示すように、ラジカルフィルタを導電体、例えば、アルミからなる1枚のシールドプレート24で構成してもよい。
【0081】
シールドプレート24には、当該シールドプレート24を厚み方向に貫通する多数の貫通孔24aが形成されるとともに、直流電源25が接続されて、該直流電源25は負の直流電圧をシールドプレート24に印加する。このとき、シールドプレート24の表面には厚いシースが生じるが、貫通孔24aの最大幅を当該シースの厚さの2倍以下にすれば、貫通孔24aは当該貫通孔24aの両側面に発生するシースで塞がれるため、陽イオンIや電子Eが貫通孔24aを通過するのを防止することができる。その結果、1枚のシールドプレート24で構成されるラジカルフィルタであっても、ラジカルのみを選択的に通過させることができる。
【0082】
なお、上述した上部シールドプレート17の上部貫通孔17a、下部シールドプレート18の下部貫通孔18a及びシールドプレート24の貫通孔24aの断面形状は特に限られず、円形、矩形等いずれの形状であってもよい。
【符号の説明】
【0083】
E 電子
I 陽イオン
P プラズマ
W ウエハ
10,21,26 基板処理装置
11 チャンバ
12 載置台
13 プラズマジェネレータ
14,27 ラジカルフィルタ
17 上部シールドプレート
17a 上部貫通孔
18 下部シールドプレート
18a 下部貫通孔
19a 第1の直流電源
19b 第2の直流電源
20 シース
28 内側シールドプレート
29 外側シールドプレート
30 第1のLC回路
31 第2の高周波電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマからラジカルを選択的に通過させるラジカル選択装置であって、
第1の遮蔽板と、
プラズマソースとの間に前記第1の遮蔽板を介在させるように配置される第2の遮蔽板とを備え、
前記第1の遮蔽板は当該第1の遮蔽板を厚み方向に貫通する複数の第1の貫通孔を有し、
前記第2の遮蔽板は当該第2の遮蔽板を厚み方向に貫通する複数の第2の貫通孔を有し、
前記第1の遮蔽板には第1の直流電圧が印加され、前記第2の遮蔽板には第2の直流電圧が印加され、前記第1の直流電圧の極性と前記第2の直流電圧の極性とは異なることを特徴とするラジカル選択装置。
【請求項2】
前記第1の遮蔽板側から眺めたときに、前記第1の貫通孔を通して前記第2の貫通孔が見えないように、前記第1の遮蔽板及び前記第2の遮蔽板が配置されることを特徴とする請求項1記載のラジカル選択装置。
【請求項3】
前記第1の貫通孔の最大幅は、前記第1の遮蔽板の表面に発生するシースの厚さの2倍以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のラジカル選択装置。
【請求項4】
前記第1の直流電圧の極性と、前記第2の直流電圧の極性は変更することができることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のラジカル選択装置。
【請求項5】
前記第1の直流電圧の極性は負であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のラジカル選択装置。
【請求項6】
前記第1の遮蔽板は、高周波電力が供給される電極板と平行に配されて当該電極と平行平板電極をなすことを特徴とする請求項5記載のラジカル選択装置。
【請求項7】
前記プラズマソースと、プラズマ処理が施される基板との間の空間を囲むように配置されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のラジカル選択装置。
【請求項8】
プラズマ処理が施される基板を収容する収容室と、プラズマソースと、前記収容室内に配置されるプラズマからラジカルを選択的に通過させるラジカル選択装置とを備える基板処理装置であって、
前記ラジカル選択装置は、前記プラズマソース及び前記基板の間に介在する第1の遮蔽板と、前記プラズマソースとの間に前記第1の遮蔽板を介在させるように配置される第2の遮蔽板とを有し、
前記第1の遮蔽板は当該第1の遮蔽板を厚み方向に貫通する複数の第1の貫通孔を有し、
前記第2の遮蔽板は当該第2の遮蔽板を厚み方向に貫通する複数の第2の貫通孔を有し、
前記第1の遮蔽板には第1の直流電圧が印加され、前記第2の遮蔽板には第2の直流電圧が印加され、前記第1の直流電圧の極性と前記第2の直流電圧の極性とは異なることを特徴とする基板処理装置。
【請求項9】
プラズマ処理が施される基板を収容する収容室を備え、該収容室内に電極を兼ねる前記基板の載置台及び該載置台と対向し且つ高周波電源が接続される対向電極が配置される基板処理装置であって、
前記載置台及び前記対向電極の間の処理空間に面するように配置される第1の遮蔽板と、前記処理空間との間に前記第1の遮蔽板を介在させるように配置される第2の遮蔽板とを備え、
前記第1の遮蔽板は当該第1の遮蔽板を厚み方向に貫通する複数の第1の貫通孔を有し、
前記第2の遮蔽板は当該第2の遮蔽板を厚み方向に貫通する複数の第2の貫通孔を有し、
前記第1の遮蔽板には第1の直流電圧が印加されるとともに、前記第2の遮蔽板には第2の直流電圧が印加され、前記第1の直流電圧の極性と前記第2の直流電圧の極性とは異なり、
前記第1の遮蔽板には第1のインピーダンス調整回路が接続されるとともに、前記載置台には第2のインピーダンス調整回路が接続され、
前記高周波電源が供給する高周波電力に起因する高周波電流が前記処理空間を流れる際、前記第1のインピーダンス調整回路及び前記第2のインピーダンス調整回路は前記第1の遮蔽板へ向かう前記高周波電流及び前記載置台へ向かう前記高周波電流をそれぞれ制御することを特徴とする基板処理装置。
【請求項10】
前記第1の遮蔽板及び前記第2の遮蔽板は前記処理空間を囲むように配置されることを特徴とする請求項9記載の基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−84552(P2013−84552A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−76348(P2012−76348)
【出願日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】