説明

リフトオフ装置およびリフトオフ処理方法

【課題】シリコン基板からの被覆物の除去処理を短時間化できる上、バリ発生のない高品質なパターン生成を行うことができるようにする。
【解決手段】フォトレジストに対して溶解性がない純水200中にシリコン基板100を浸漬させた状態で、ホーン型超音波発生器20から純水200を介してシリコン基板100に対して強力な超音波を照射することにより、金属膜の殆ど全てとフォトレジストの一部とを金属疲労の原理により、バリの発生もなく短時間で除去することができようにするとともに、金属膜を除去した後、フォトレジストに対して溶解性のあるIPAを用いることによって、残ったフォトレジストを完全に除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリフトオフ装置およびリフトオフ処理方法に関し、特に、シリコン基板等の平板状のワーク上に回路等のパターンを生成するに際して、シリコン基板に付着した被覆物であるフォトレジストおよびこのフォトレジスト上に成膜された金属膜をシリコン基板から除去するのに用いられるリフトオフ装置およびリフトオフ処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体の微細加工技術の1つとして、リフトオフ法と呼ばれる技術が使われている。リフトオフ法とは、シリコン基板等の平板状のワーク上に回路パターン等を生成するに際して、シリコン基板に付着した被覆物であるフォトレジストおよびこのフォトレジスト上に成膜された金属膜をシリコン基板から除去する方法の1つである。リフトオフ法は、シリコン基板を有機溶剤に浸漬させるなどのウェット環境において、シリコン基板からフォトレジストおよび金属膜を除去するのに用いられる。
【0003】
リフトオフ法では、アルミ等の金属膜でシリコン基板上にパターンを生成するのが一般的である。図7は、リフトオフ法によるパターンの生成手順を示す図である。図7に示すように、まず、リソグラフィといった露光により、シリコン基板上にフォトレジストパターンを作成する(図7(a))。続いて、蒸着法やスパッタリング法といった成膜手法により、レジストパターン上にアルミ等の金属膜を堆積させる(図7(b))。その後、フォトレジストおよびこのフォトレジスト上の金属膜を同時に、パターンとして形成すべき一部の金属膜を除いて除去する(図7(c))。以上の手順により、アルミ等の金属膜による所望のパターンをシリコン基板上に生成する。
【0004】
従来、フォトレジストおよびその上の金属膜をシリコン基板から剥がす手段として、高圧ジェットや超音波振動、スチーム、超臨界CO2などの物理的除去手段が採用されている。そのほか、フォトレジストに対して高い溶解性のあるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)やアセトンやイソプロピルアルコール(IPA)といった可燃性有機溶剤を用いた化学的除去手段も採用されている。化学的除去手段では、可燃性有機溶剤を用いた長時間高温浸漬環境下で、フォトレジストおよびその上の金属膜を同時に、パターン部分を除いて除去する。
【0005】
最近では、これらの物理的除去手段および化学的除去手段を組み合わせたリフトオフ処理も実施が検討されている(例えば、特許文献1〜3参照)。例えば、可燃性有機溶剤を用いた長時間高温浸漬環境下で物理的除去手段の超音波振動を併用したり、可燃性有機溶剤による化学的除去手段と高圧ジェットといった物理的除去手段とを組み合わせたりして、フォトレジストおよび金属膜を除去することが行われている。
【0006】
ウェット環境下における化学的除去手段の一般的な処理プロセス例としては、まず、浸透性が強くフォトレジストの溶解性が高いNMPを高温加熱し、そのNMPの中に、フォトレジストおよび金属膜が形成されたシリコン基板を浸漬させる。これにより、フォトレジストおよびその上の金属膜を同時に、パターン部分を除きシリコン基板から剥離して除去する。次に、IPAを用いて、シリコン基板に付いたNMPおよび再付着した金属膜やフォトレジストをリンス除去する。最後に、IPA蒸気乾燥、スピンドライ乾燥または温純水乾燥といった乾燥操作を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−221096公報
【特許文献2】特開2006−114738公報
【特許文献3】特開2005−183859公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、フォトレジストパターン上の金属膜は、フォトレジストパターンの上ばかりでなく、フォトレジストパターンの側壁を含め、シリコン基板上の全域を覆っている(図7(b)参照)。そのため、土台となるフォトレジストを溶解除去する可燃性有機溶剤の浸透がその上の金属膜によって阻害され、非常に長い浸漬時間が必要であった。そこで従来は、可燃性有機溶剤を高温加熱しながら超音波を照射することで、少しでも浸漬時間の短縮化を図っていた。しかし、それでも少なくとも30分以上の処理時間がかかってしまっていた。そのため、ウェット環境下でリフトオフ処理を行う従来のリフトオフ装置は、どうしても多枚数同時処理のバッチ方式が主流となり、少量多品種処理の枚葉方式に対応しづらいという問題があった。
【0009】
一方、高圧ジェットやスチーム、超臨界CO2に代表される物理的除去手段によれば、除去処理の短時間化を図ることが可能であり、枚葉方式で少量多品種への対応がしやすい。しかしながら、短時間化のためには、高圧ジェットの場合は瞬間的な一方向の強力な衝撃力を用いて、土台となるフォトレジストごと倒壊させて金属膜の剥離を行う必要がある。そのため、図7(c)のようにどうしてもパターンにバリが生じてしまっていた。
【0010】
スチームや超臨界CO2を用いた場合でも、金属膜下の土台となるフォトレジストが熱溶融されたり、分解除去されたりすることにより、金属膜下部に液状化構造や中空構造が形成されてしまう。そのため、スチームによるフォトレジストの熱融解と瞬間的な一方向の衝撃力とでフォトレジストごと金属膜を倒壊除去したり、超臨界CO2で金属膜下の土台となるフォトレジストを分解除去しながら金属膜を除去したりすると、金属膜が剥離除去される段階でバリが生じてしまうという問題があった。
【0011】
また、可燃性有機溶剤と超音波とを併用した化学的除去手段でも、金属膜パターンの縁などから浸透した可燃性有機溶剤により、土台となるフォトレジストが溶解液状化されてから金属膜が除去されるため、バリの発生は避けられなかった。このバリ発生対策として現状は、フォトレジストおよび金属膜の剥離を簡単にする目的でフォトレジストパターンの形状に工夫をしている。例えば、フォトレジストパターン自身を逆テーパー形状にしたり、2層レジストの上層によって屋根が形成されているような形状にしたりしている。ところが、この場合はリソグラフィによるレジストパターンの形成時に複雑な操作を行う必要があり、パターン精度の劣化はもちろん、プロセスステップ数も増えてしまう問題があった。
【0012】
また、化学的除去手段による従来のリフトオフ処理方法では、シリコン基板を浸漬させるために大量のNMPが必要である。そして、フォトレジスト上の金属膜をフォトレジストと一緒にシリコン基板上から除去する都合上、フォトレジストはNMP液中に溶解し、シリコン基板から除去された金属膜は多量の、そしてサイズの大きい不要性固形成分の汚れとしてNMP中に排出されることとなる。
【0013】
地球環境への負荷軽減を考えると、NMPの排液を再利用することが求められるが、上述のように排液中にはフォトレジストや金属膜の汚れが混入している。よって、NMPを再利用したときにこの汚れをシリコン基板に再付着させないためには、多量の汚れとなっている金属膜等の不溶性固形成分を排液中から分離回収しなければならない。NMPの代わりにアセトンを用いる場合も同様で、多量の汚れとなっている金属膜等を排液中から分離回収しなければならない。
【0014】
しかし、NMPやアセトンは取扱が難しい薬液であり、そのために排液の処理費用が多大なものになってしまう。すなわち、NMPやアセトンを再利用するためには微細なサイズまでの汚れを排液中から除去して、清浄な液に戻す必要があるため、高価なフィルタを多段使用する必要がある。また、除去処理の短時間化のためにこれらの薬液を高温加熱しているため、安全性のための自動消火装置や、ガス濃度計や精密な温度制御機能等が不可欠で、大掛かりで複雑かつ高価なシステム構成にする必要がある。しかも、NMPやアセトンは高価な薬液であるが、高温加熱に伴い蒸発消耗してしまう。これに加え、液中に溶解したフォトレジストはフィルタでは除去できないため、適時、NMPやアセトンを新液に交換する必要がある。そのため、薬液購入費用自体も多大なものになってしまう。その結果、リフトオフ処理コストの上昇を招いてしまうという問題もあった。
【0015】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、被覆物(フォトレジストおよび金属膜)の除去処理を短時間化して少量多品種生産にも対応できる上、リソグラフィによるレジストパターンの形成時に複雑な操作を行うことなくバリ発生のない高品質なパターン生成を行うことができるようにすることを目的としている。また、本発明は、上記目的に加えて、有機溶剤使用量の大幅削減により処理コストの低減および地球環境への負荷低減を実現できるようにすることをも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記した課題を解決するために、本発明では、フォトレジストに対して溶解性がない不溶解性液体中にワークを浸漬させた状態で、ホーン型超音波発生器から不溶解性液体を介してワークに対して超音波を照射することにより、金属膜の殆ど全てとフォトレジストの一部とを除去した後、フォトレジストに対して溶解性のある溶解性液体を用いることによって、ワーク上に残ったフォトレジストを完全に除去するようにしている。
【発明の効果】
【0017】
上記のように構成した本発明によれば、可燃性有機溶剤と併用していた従来型超音波の数倍以上の振動振幅を持つ強力なホーン型超音波が、ワークが浸漬された不溶解性液体に照射される。このとき、ワークの表面に付着したフォトレジストは不溶解性液体には溶解せず、ワーク自身が強力な超音波を受けて振動する。これにより、フォトレジストの上を覆っている金属膜は金属疲労の原理で剥離し、除去される。そのため、短時間で金属膜を除去することができ、かつ、バリの発生も抑止することができる。
【0018】
ワークとその上のフォトレジストとの間、フォトレジストとその上の金属膜との間の密着力に違いにより、金属膜の殆ど全ては不溶解性液体とホーン型超音波との併用により除去される。このとき、フォトレジストの一部もワーク上から除去される。しかし、フォトレジストと金属膜との間よりも、ワークとフォトレジストとの間の密着力の方が強いため、ホーン型超音波を長時間照射してもワーク上に残ったフォトレジストの完全除去は難しい。これに対して本発明では、フォトレジストに対して溶解性のある液体により除去処理が行われるので、ワーク上に残ったフォトレジストも完全に除去することができる。
【0019】
以上により、本発明によれば、被覆物の除去処理を短時間化して少量多品種生産にも対応できる上、リソグラフィによるレジストパターンの形成時に複雑な操作を行うことなく、フォトレジスト残差もバリも無い高品質なパターンを得ることができる。
【0020】
また、本発明ではワークの浸漬に従来から多用されてきた可燃性有機溶剤は使わないので、可燃性有機溶剤の使用量を大幅に減らすことができる。これにより、有機溶剤の薬液購入費を従来に比べて低く抑えることができる。また、可燃性有機溶剤の代わりに不溶解性液体として純水を用いた場合、ワークから剥がれた多量のフォトレジストや金属膜により純水に汚れが発生するが、純水であれば可燃性有機溶剤とは異なり、リフトオフ装置での再生・再使用を行わずにワンパスで使い捨てることが可能である。そのため、排液処理のために複雑な制御系や大容量フィルタや数多くの保全管理機器が必要でなくなり、排液の処理費用も低く抑えることができる。その結果、有機溶剤使用量の大幅削減により地球環境への負荷低減を図りつつ、リフトオフ処理コストの上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態によるリフトオフ装置の側断面構成例を示す図である。
【図2】本実施形態によるリフトオフ装置の平面構成例を示す図である。
【図3A】本実施形態によるリフトオフ処理の例(基板ローディング)を示す図である。
【図3B】本実施形態によるリフトオフ処理の例(給水)を示す図である。
【図3C】本実施形態によるリフトオフ処理の例(金属膜除去)を示す図である。
【図3D】本実施形態によるリフトオフ処理の例(排水)を示す図である。
【図3E】本実施形態によるリフトオフ処理の例(フォトレジスト除去)を示す図である。
【図3F】本実施形態によるリフトオフ処理の例(乾燥)を示す図である。
【図3G】本実施形態によるリフトオフ処理の例(基板アンローディング)を示す図である。
【図4】2チャンバ方式によるリフトオフ装置の平面構成例を示す図である。
【図5】2チャンバ方式によるリフトオフ装置の他の平面構成例を示す図である。
【図6】本実施形態のリフトオフ装置に用いる液体容器の他の構成例を示す図である。
【図7】リフトオフ法によるパターンの生成手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態によるリフトオフ装置の側断面構成例を示す図である。図2は、本実施形態によるリフトオフ装置の平面構成例を示す図である。本実施形態のリフトオフ装置は、平板状のワークであるシリコン基板100上に回路等のパターンを生成する際に、当該シリコン基板100からフォトレジストおよびその上に成膜された金属膜(以下、両者をまとめて被覆物という)を、回路パターン部分を除いてウェット環境で除去するものである。
【0023】
本実施形態のリフトオフ装置では、2段階の液体処理でリフトオフ処理を行うことにより、シリコン基板100から被覆物を除去する。1段階目では、フォトレジストに対して溶解性のない不溶解性液体にシリコン基板100を浸漬させた状態で強力な超音波を照射することによって、金属膜の殆ど全てとフォトレジストの一部とを除去する。2段階目では、フォトレジストに対して溶解性のある溶解性液体を用いることによって、シリコン基板100に残存しているフォトレジストを除去する。これら2段階の除去処理に必要な図1および図2に示す各構成は、1つのチャンバ内に収納されている。
【0024】
図1および図2に示すように、本実施形態のリフトオフ装置は、シリコン基板100を載置するステージ10と、不溶解性液体(例えば、純水200)を収容する液体容器14と、所定値(例えば、10kHz)以上の周波数で、かつ、純水200の超音波照射面において所定値(例えば、10μm)以上の振動振幅を持つ強力な超音波を照射するホーン型超音波発生器20とを備えている。このステージ10、液体容器14およびホーン型超音波発生器20により本発明の金属膜除去部が構成されている。
【0025】
ホーン型超音波発生器20は、周波数10〜100kHzの超音波を発生する電歪型または磁歪型の振動素子と、この振動素子で発生する超音波の振動振幅を増幅する超音波ブースタと、超音波照射部である超音波ホーンとで構成されている。超音波ブースタおよび超音波ホーンは、その基端から先端側の振動放射端面に向けて断面積が漸次変化しているとともに、振動素子の共振周波数と超音波ホーンを構成する材料中の音速とで定まる波長の1/2の整数倍である長さを有している。そして、振動素子および超音波ホーンを互いに強固に結合することで、超音波ホーンの先端から強力な超音波を照射し得るようになっている。
【0026】
ステージ10は、その表面に対して垂直な方向の駆動軸12により支持されており、駆動軸12はシール軸受11により軸支されている。そして、駆動軸12は、モータ13によって上下方向に平行移動するとともに、水平方向に回転するようになっている。これにより、ステージ10は、モータ13の駆動により上下方向に平行移動するとともに、駆動軸12を中心として水平方向に回転する。
【0027】
図1のように、ステージ10を液体容器14の上縁よりも下方に移動させることにより、ステージ10上に載置されたシリコン基板100を純水200中に浸漬させることが可能である。ホーン型超音波発生器20は、シリコン基板100が純水200中に浸漬された状態で、先端の超音波照射部から純水200を介してシリコン基板100に対して超音波を照射する。
【0028】
液体容器14内の純水200は、給水ノズル21から注入する。給水ノズル21は、ホーン型超音波発生器20と共にスイングアーム22に支持されている。アーム駆動部23は、スイングアーム22を水平面内で回動させるとともに、スイングアーム22を上下方向に昇降させる。アーム駆動部23によってスイングアーム22を移動させることにより、ホーン型超音波発生器20および給水ノズル21の各先端部を液体容器14内に配置させたり、液体容器14から退避させたりできるようになっている。
【0029】
シリコン基板100から金属膜を除去するときは、ホーン型超音波発生器20の超音波照射部を純水200を介してシリコン基板100の表面に対峙させて、シリコン基板100の表面に向けて超音波を照射する。ホーン型超音波発生器20が超音波を照射する際に、超音波照射部の先端は、純水200の液面から所定距離以上(例えば、液面から1mm以上の距離)を持って液面下に没している。また、超音波照射部の先端とシリコン基板100の表面との距離は、所定距離以下(望ましくは、0.1〜20mm)となるようにする。
【0030】
本実施形態では上述のとおり、ホーン型超音波発生器20によって強力なホーン型超音波を純水200に印加している。このとき、超音波照射部の先端から生じる直進流と呼ばれる液流に乗じて液面上の気体層から気体が純水200中に混入してしまうと、超音波照射部の先端から照射された超音波の振動エネルギーは、この混入した気体泡の膨張伸縮により吸収されてしまう。そのため、一般に超音波に伴って生じるキャビテーションに起因する衝撃波が得られなくなってしまい、結果としてリフトオフ処理もできなくなってしまう。そこで、超音波照射部の先端が液面下1mm以上の距離のところまで没するようにして超音波を照射することにより、液面上の気体層から気体が混入することを防止している。
【0031】
また、ホーン型超音波発生器20が超音波を照射する際に、アーム駆動部23は、スイングアーム22を水平面内で回動させて、超音波照射部をシリコン基板100の表面に沿って所定速度以下(例えば、シリコン基板100と超音波照射部との相対速度が50cm/秒以下)で平行移動させる。それと同時に、モータ13は、駆動軸12を回転中心としてステージ10を第1の所定速度以下(例えば、20rpm以下)の低速で回転させて、シリコン基板100の全面に超音波を照射するようにする。このように、駆動軸12およびモータ13は本発明の回転機構を構成し、スイングアーム22およびアーム駆動部23は、本発明の照射部移動機構を構成する。
【0032】
上述のように、超音波周波数が10kHz以上で、10μm以上の振動振幅を持つ強力な超音波を得るためには、超音波照射領域を狭くしてエネルギーの集束を行う必要がある。そこで、シリコン基板100に対して単位面積当たりの照射エネルギーの均一化を行いながら同時に基板全面のリフトオフ処理を行うために、ホーン型超音波発生器20の超音波照射部をシリコン基板100に対して相対的に50cm/秒以下の速度で平行移動させると同時に、ステージ10に載置されたシリコン基板100を20rpm以下の低速で回転させるようにしている。
【0033】
液体容器14の内側および外側にはそれぞれ、排水用の配管16,17が設けられている。配管16,17の途中にはバルブ18,19が設けられている。シリコン基板100から金属膜を除去するときは、液体容器14内を満水状態にするために、液体容器14の内側の配管16ではバルブ18(以下、それぞれを内側配管16、内側バルブ18という)が閉じられる。一方、給水ノズル21から純水200が注入され続けることによって液体容器14から溢れ出た純水200を排水するために、液体容器14の外側の配管17ではバルブ19(以下、それぞれを外側配管17、外側バルブ19という)が開けられる。
【0034】
なお、液体容器14の外側には、液体容器14から溢れ出た純水200を外側配管17に導くとともに、ホーン型超音波発生器20による超音波の照射によって液面において波立つ純水200が外に飛び出すのを防ぐためのフード15が設けられている。
【0035】
以上のように、本実施形態では、化学的除去手段による従来のリフトオフ処理方法で用いていた従来型超音波の数倍以上の振動振幅を持つ強力なホーン型超音波を、純水200を介してシリコン基板100に印加するようにしている。純水200を介してシリコン基板100にホーン型超音波を印加したときに、フォトレジストは純水200に溶解することなく、基板および金属膜の回路パターン自身が超音波により振動する。
【0036】
ここで、基板、フォトレジスト、金属膜の間には、各素材に応じた密着力の差がある(基板と金属膜との密着力>基板とフォトレジストとの密着力>フォトレジストと金属膜との密着力)。そのため、シリコン基板100が超音波により振動すると、フォトレジストの上および側壁を覆っている金属膜が、上記のように最も弱い密着力に応じて金属疲労による原理で剥離除去される。すなわち、フォトレジストの上および側壁を覆っている金属膜はフォトレジストに対する密着力が小さいので、強力な超音波の照射に伴い発生するキャビテーションや振動加速度や直進流の相互作用で物理的に剥離除去される。このため、短時間で金属膜を除去することができ、かつバリが発生しない。
【0037】
剥離除去された金属膜は、上述のキャビテーションや振動加速度や直進流の相互作用で、シリコン基板100上の回路パターンに再衝突して損傷を与える恐れがある。そのため、本実施形態では、ホーン型超音波発生器20の超音波照射部からシリコン基板100の表面に向けて超音波を照射する際に、超音波照射部とシリコン基板100との間の液体層を、超音波照射方向に対してほぼ垂直かつシリコン基板100の表面に対してほぼ平行な方向に、ほぼ均一な速さの流速を持って流すことができるようにしている。
【0038】
具体的には、図1に示すように、ホーン型超音波発生器20の超音波照射部の近傍に給水ノズル21の先端部を設ける。そして、給水ノズル21の先端部の向きを、超音波照射方向に対してほぼ垂直かつシリコン基板100の表面に対してほぼ平行な方向に純水200を供給可能なように構成する。このようにすることにより、シリコン基板100から除去された金属膜等を純水200と共に超音波照射領域外に速やかに排出させることが可能となる。これにより、シリコン基板100上から剥離除去された金属膜等の汚れが、超音波照射時の衝撃波に乗ってシリコン基板100への再衝突するというダメージを回避することができる。
【0039】
IPA供給ノズル24は、本発明のリンス洗浄部およびレジスト除去部に相当するものであり、超音波の照射によって金属膜の殆ど全てとフォトレジストの一部とが除去された状態のシリコン基板100に対して、溶解性液体であるIPAを吹き付けることによってシリコン基板100のリンス洗浄を行う。IPA供給ノズル24は、高圧ジェットノズルまたは2流体ノズル(圧縮空気などの高速流で液体を微粒化し微細な霧を噴霧するノズル)により構成され、スイングアーム25に支持されている。
【0040】
アーム駆動部26は、スイングアーム25を水平面内で回動させるとともに、スイングアーム25を上下方向に昇降させる。アーム駆動部26によってスイングアーム25を移動させることにより、IPA供給ノズル24の先端部を液体容器14内に配置させたり、液体容器14から退避させたりできるようになっている。
【0041】
シリコン基板100から残存したフォトレジストを除去するときは、シリコン基板100の表面に対してIPA供給ノズル24の先端を所定距離まで接近させて対峙させ、シリコン基板100の表面に向けてIPAを吹き付ける。IPA供給ノズル24がIPAを吹き付ける際に、アーム駆動部26は、スイングアーム25を水平面内で回動させて、IPA供給ノズル24の先端部をシリコン基板100の表面に沿って所定速度以下で平行移動させる。それと同時に、モータ13は、駆動軸12を回転中心としてステージ10を第1の所定速度より早く第2の所定速度以下の中速(例えば、200〜300rpm)で回転させる。これにより、シリコン基板100の全面にIPAを吹き付けるようにし、シリコン基板100から除去された被覆物をIPAと共にステージ10の外側に排出させる。このように、スイングアーム25およびアーム駆動部26は、本発明のノズル移動機構を構成する。
【0042】
気体供給ノズル27は、シリコン基板100に対して浄化した気体を高圧で吹き付けることによってシリコン基板100の乾燥を行う。気体供給ノズル27は、スイングアーム28に支持されている。アーム駆動部29は、スイングアーム28を水平面内で回動させるとともに、スイングアーム28を上下方向に昇降させる。アーム駆動部29によってスイングアーム28を移動させることにより、気体供給ノズル27の先端部を液体容器14内に配置させたり、液体容器14から退避させたりできるようになっている。
【0043】
シリコン基板100を乾燥させるときは、気体供給ノズル27の先端部をシリコン基板100の表面に対峙させて、シリコン基板100の表面に向けて気体を吹き付ける。気体供給ノズル27が気体を吹き付ける際に、アーム駆動部29は、スイングアーム28を水平面内で回動させて、気体供給ノズル27の先端部をシリコン基板100の表面に沿って所定速度以下で平行移動させる。それと同時に、モータ13は、駆動軸12を回転中心としてステージ10を第2の所定速度より早い第3の所定速度(例えば、800〜3000rpm)で高速に回転させる。
【0044】
シリコン基板100を高速に回転させると同時に、シリコン基板100の表面に対して浄化した気体を吹き付けすることで、シリコン基板100の乾燥効果を向上させることができる。すなわち、ステージ10の回転数を上げることで、シリコン基板100から除去された被覆物をシリコン基板100表面およびステージ10の外側に排出させながら乾燥操作を行うことが可能となる。
【0045】
次に、上記のように構成した本実施形態によるリフトオフ装置の動作を説明する。図3A〜図3Gは、本実施形態によるリフトオフ処理の例を示す図である。まず、図3Aに示すように、図示しないローダー(ローディング機構)によってシリコン基板100をステージ10上に載置する。次に、図3Bに示すように、内側バルブ18を閉じて、給水ノズル21から純水200を液体容器14に供給し、ステージ10上に載置されたシリコン基板100を純水200中に浸漬させる。このとき外側バルブ19は開けておくが、液体容器14が満水になるまでは閉じておいても良い。
【0046】
そして、図3Cに示すように、シリコン基板100が純水200中に浸漬された状態で、ホーン型超音波発生器20の超音波照射部から純水200を介してシリコン基板100に対して超音波を照射することにより、シリコン基板100上の金属膜の殆ど全てとフォトレジストの一部とをシリコン基板100から除去する。このとき、ホーン型超音波発生器20をシリコン基板100の表面に沿って矢印Aのように平行移動させると同時に、シリコン基板100を矢印Bのように低速で回転させて、シリコン基板100の全面に超音波を照射するようにする。また、外側バルブ19は、液体容器14から溢れ出てくる純水200を排水するために開けておく。
【0047】
シリコン基板100上の金属膜の殆ど全てとフォトレジストの一部とをシリコン基板100から除去できたら、図3Dに示すように、内側バルブ18を開けて純水200を液体容器14から排水する。このとき外側バルブ19は閉じるが、開けたままの状態であっても良い。
【0048】
その後、図3Eに示すように、金属膜の殆ど全てとフォトレジストの一部とが除去された状態のシリコン基板100に対して、IPA供給ノズル24からIPAをシリコン基板100に吹き付けるリンス洗浄を行うことにより、シリコン基板100に残存しているフォトレジストを除去する。このとき、IPA供給ノズル24をシリコン基板100の表面に沿って矢印Aのように平行移動させると同時に、シリコン基板100を矢印Bのように中速で回転させることにより、シリコン基板100の全面にIPAを吹き付けるようにする。
【0049】
シリコン基板100に残存しているフォトレジストをシリコン基板100から除去できたら、図3Fに示すように、シリコン基板100の表面に対して浄化した気体を気体供給ノズル27から吹き付けすることで、シリコン基板100を乾燥させる。このとき、気体供給ノズル27をシリコン基板100の表面に沿って矢印Aのように平行移動させると同時に、シリコン基板100を矢印Bのように高速で回転させることにより、シリコン基板100の全面に気体を吹き付けて乾燥を行うようにする。最後に、図3Gに示すように、図示しないアンローダー(アンローディング機構)によってシリコン基板100をステージ10上から取り外して一連のリフトオフ処理を終了する。
【0050】
以上詳しく説明したように、本実施形態では、フォトレジストに対して溶解性がない純水200中にシリコン基板100を浸漬させた状態で、ホーン型超音波発生器20から純水200を介してシリコン基板100に対して強力な超音波を照射することにより、金属膜の殆ど全てとフォトレジストの一部とを除去した後、フォトレジストに対して溶解性のあるIPAを用いてリンス洗浄を行うことによって、シリコン基板100上に残ったフォトレジストを完全に除去するようにしている。
【0051】
このように構成した本実施形態によれば、フォトレジストの上を覆っている金属膜が、強力なホーン型超音波によって金属疲労の原理で除去される。そのため、短時間で金属膜を除去することができ、かつ、バリの発生も抑止することができる。従来のように可燃性有機溶剤を高温加熱して通常型の超音波を併用した場合に30分以上の処理時間がかかっていたシリコン基板100でも、2分以下程度の短時間で金属膜の殆どを除去することができ、かつバリの発生も抑止することができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、純水200中でホーン型超音波を長時間照射しても除去し切れないフォトレジストについても、当該フォトレジストに対して溶解性のあるIPAによるリンス洗浄によって完全に除去することができる。以上により、本実施形態によれば、被覆物の除去処理を短時間化して少量多品種生産(枚葉処理)にも対応できる上、リソグラフィによるレジストパターンの形成時に複雑な操作を行うことなく、フォトレジスト残差もバリも無い高品質なパターンを得ることができる。
【0053】
また、本実施形態ではシリコン基板100の浸漬に従来から多用されてきたNMPやアセトン等の可燃性有機溶剤は使わないので、可燃性有機溶剤の使用量を大幅に減らすことができる。これにより、有機溶剤の薬液購入費を従来に比べて低く抑えることができる。また、可燃性有機溶剤の代わりに不溶解性液体として純水200を用いた場合、シリコン基板100から剥がされた多量のフォトレジストや金属膜により純水200に汚れが生じても、純水200であれば可燃性有機溶剤とは異なり、リフトオフ装置での再生・再使用を行わずにワンパスで使い捨てることが可能である。さらに、配管16,17中に金属膜とフォトレジストとが混入することへの対策としても、例えばバグフィルタ程度の安価かつ簡易なフィルタシステムを具備するだけで済む。
【0054】
なお、ホーン型超音波発生器20を用いた金属膜の除去によってシリコン基板100上に残った極微量の金属膜とフォトレジストの大部分はIPAを用いて溶解除去するが、このIPAはフィルタを用いて清浄化して再利用する。ただし、本実施形態では従来型のバッチ処理とは異なる枚葉処理の装置形態をとることが可能なため、リフトオフ装置内に貯蔵するIPAの液量は少なくて済む。また、従来は多量の汚れとなっていた金属膜は、純水200とホーン型超音波発生器20とを用いた処理で殆どが除去されているので、IPAの排液に用いるフィルタへの負荷は大幅に軽減される。
【0055】
これらのため、排液処理のために複雑な制御系や大容量フィルタや数多くの保全管理機器が必要でなくなり、排液の処理費用も低く抑えることができる。ランニングコスト面だけを見ても大幅にコストを低減することが可能である。その結果、有機溶剤使用量の大幅削減により地球環境への負荷低減を図りつつ、リフトオフ処理コストの上昇を抑制することができる。また、リフトオフ装置の簡略化および小型化を実現するとともに、メンテナンスも容易にすることができる。
【0056】
なお、上記実施形態では、図1および図2に示す各構成を1つのチャンバ内に収納し、当該1つのチャンバにて1段階目の金属膜除去処理と2段階目のフォトレジスト除去処理とを順次に行う例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、チャンバを2つ設け、あるシリコン基板100に関する1段階目の金属膜除去処理を第1チャンバで行い、それと同時に別のシリコン基板100に関する2段階目のフォトレジスト除去処理を第2チャンバで行うようにしても良い。
【0057】
図4は、2チャンバ方式によるリフトオフ装置の平面構成例を示す図である。なお、この図4において、図1および図2に示した符号と同一の符号を付したものは同一の機能を有するものであるので、ここでは重複する説明を省略する。図4に示すリフトオフ装置は、第1チャンバ31、第2チャンバ32、自動搬送ロボット33、ローダ34およびアンローダ35を備えている。
【0058】
第1チャンバ31は、ホーン型超音波発生器20、給水ノズル21、スイングアーム22、アーム駆動部23、気体供給ノズル27、スイングアーム28およびアーム駆動部29を備えている。その他に第1チャンバ31は、図1および図2に示した構成要素10〜19を備えている。
【0059】
第2チャンバ32は、IPA供給ノズル24、スイングアーム25、アーム駆動部26、気体供給ノズル27、スイングアーム28およびアーム駆動部29を備えている。その他に第2チャンバ32は、図1および図2に示した構成要素10〜19を備えている。
【0060】
自動搬送ロボット33は、ローダ34と第1チャンバ31との間、第1チャンバ31と第2チャンバ32との間、第2チャンバ32とアンローダ35との間でシリコン基板100を自動搬送する。すなわち、自動搬送ロボット33は、リフトオフ処理前のシリコン基板100をローダ34から第1チャンバ31に搬送する。また、自動搬送ロボット33は、金属膜の殆ど全てとフォトレジストの一部とが除去されたシリコン基板100を第1チャンバ31から第2チャンバ32に搬送する。さらに、自動搬送ロボット33は、残存したフォトレジストも除去されたシリコン基板100(回路パターンの完成したもの)を第2チャンバ32からアンローダ35に搬送する。
【0061】
以下に、図4のように構成したリフトオフ装置の動作を説明する。まず、自動搬送ロボット33は、ローダ34から抜いたシリコン基板100を第1チャンバ31のステージ10にセットする。次に、第1チャンバ31の液体容器14内に満たした純水200中にシリコン基板100を浸漬させた状態で、ステージ10を低速回転させながらホーン型超音波発生器20により超音波をシリコン基板100に照射することにより、金属膜の殆ど全てとフォトレジストの一部とをシリコン基板100から除去する。
【0062】
その後、第1チャンバ31の液体容器14から純水200を排水し、ステージ10を高速回転させながら気体供給ノズル27から浄化した気体をシリコン基板100に吹き付けることにより、シリコン基板100を乾燥させる。乾燥が終わると、自動搬送ロボット33は、シリコン基板100を第1チャンバ31から第2チャンバ32へ搬送し、第2チャンバ32のステージ10にセットする。このとき、自動搬送ロボット33は、ローダ34から抜いた次のシリコン基板100を第1チャンバ31のステージ10にセットする。
【0063】
第2チャンバ32では、第1チャンバ31から搬送されてきたシリコン基板100(金属膜の殆ど全てとフォトレジストの一部とが除去された状態のもの)に対して、ステージ10を中速回転させながらIPA供給ノズル24からIPAを吹き付けるリンス洗浄を行うことにより、シリコン基板100に残存しているフォトレジストを除去する。
【0064】
シリコン基板100に残存しているフォトレジストをシリコン基板100から除去できたら、ステージ10を高速回転させながらシリコン基板100の表面に対して浄化した気体を気体供給ノズル27から吹き付けすることで、シリコン基板100を乾燥させる。そして、乾燥が終わったら、自動搬送ロボット33は、シリコン基板100を第2チャンバ32からアンローダ35へ搬送し、一連のリフトオフ処理を終了する。
【0065】
このように、2チャンバ方式でリフトオフ装置を構成することにより、1枚のシリコン基板100に対して1段階目の金属膜除去処理を行うのと同時に、もう1枚のシリコン基板100に対して2段階目のフォトレジスト除去処理を行うことができる。これにより、複数枚のシリコン基板100をリフトオフ処理する場合の処理時間を短くすることができる。なお、ここでは2チャンバ構成の例を示したが、3チャンバ以上の構成としても良い。
【0066】
また、上記実施形態では、2段階目のフォトレジスト除去処理において、IPA供給ノズル24からシリコン基板100に対してIPAを吹き付けることによってリンス洗浄を行う例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、液体容器に満たされたIPA中にシリコン基板100を浸漬させることによって2段階目のフォトレジスト除去処理を行うようにしても良い。その際、溶解除去効果を促進するために超音波を照射するようにしても良い。この場合の超音波は、ホーン型超音波であっても良いし、ホーン型超音波ではない従来型の超音波であっても良い。
【0067】
図5は、IPA中にシリコン基板100を浸漬させることによって2段階目のフォトレジスト除去処理を行うようにした2チャンバ方式によるリフトオフ装置の平面構成例を示す図である。なお、この図5において、図4に示した符号と同一の符号を付したものは同一の機能を有するものであるので、ここでは重複する説明を省略する。
【0068】
図5に示すリフトオフ装置は、第1チャンバ31、第2チャンバ32、自動搬送ロボット33、ローダ34およびアンローダ35を備えている。第1チャンバ31の構成は、図4の場合と同じである。図5に示すリフトオフ装置において、第2チャンバ32は、図4に示したIPA供給ノズル24、スイングアーム25およびアーム駆動部26の代わりに、超音波発生器40、IPA供給ノズル41、スイングアーム42およびアーム駆動部43を備えている。
【0069】
IPA供給ノズル41は、第2チャンバ32の液体容器14にIPAを供給する。IPA供給ノズル41は、超音波発生器40と共にスイングアーム42に支持されている。アーム駆動部43は、スイングアーム42を水平面内で回動させるとともに、スイングアーム42を上下方向に昇降させる。アーム駆動部43によってスイングアーム42を移動させることにより、超音波発生器40およびIPA供給ノズル41の各先端部を液体容器14内に配置させたり、液体容器14から退避させたりできるようになっている。
【0070】
シリコン基板100からフォトレジストを除去するときは、超音波発生器40の超音波照射部を液体容器14中のIPAを介してシリコン基板100の表面に対峙させて、シリコン基板100の表面に向けて超音波を照射する。超音波発生器40が超音波を照射する際に、アーム駆動部43は、スイングアーム42を水平面内で回動させて、超音波照射部をシリコン基板100の表面に沿って所定速度以下(例えば、50cm/秒以下)で平行移動させる。それと同時に、ステージ10を低速で回転させて、シリコン基板100の全面に超音波を照射するようにする。
【0071】
以下に、図5のように構成したリフトオフ装置の動作を説明する。まず、自動搬送ロボット33は、ローダ34から抜いたシリコン基板100を第1チャンバ31のステージ10にセットする。次に、第1チャンバ31の液体容器14内に満たした純水200中にシリコン基板100を浸漬させた状態で、ステージ10を低速回転させながらホーン型超音波発生器20により超音波をシリコン基板100に照射することにより、金属膜の殆ど全てとフォトレジストの一部とをシリコン基板100から除去する。
【0072】
その後、第1チャンバ31の液体容器14から純水200を排水し、ステージ10を高速回転させながら気体供給ノズル27から浄化した気体をシリコン基板100に吹き付けることにより、シリコン基板100を乾燥させる。乾燥が終わると、自動搬送ロボット33は、シリコン基板100を第1チャンバ31から第2チャンバ32へ搬送し、第2チャンバ32のステージ10にセットする。このとき、自動搬送ロボット33は、ローダ34から抜いた次のシリコン基板100を第1チャンバ31のステージ10にセットする。
【0073】
第2チャンバ32では、第1チャンバ31から搬送されてきたシリコン基板100(金属膜の殆ど全てとフォトレジストの一部とが除去された状態のもの)を第2チャンバ32の液体容器14内に満たしたIPA中に浸漬させた状態で、ステージ10を低速回転させながら超音波発生器40により超音波をシリコン基板100に照射することにより、残存しているフォトレジストをシリコン基板100から除去する。
【0074】
シリコン基板100に残存しているフォトレジストをシリコン基板100から除去できたら、IPAを排水した後、ステージ10を高速回転させながらシリコン基板100の表面に対して浄化した気体を気体供給ノズル27から吹き付けすることで、シリコン基板100を乾燥させる。そして、乾燥が終わったら、自動搬送ロボット33は、シリコン基板100を第2チャンバ32からアンローダ35へ搬送し、一連のリフトオフ処理を終了する。
【0075】
このように、IPAの吹き付け方式ではなく浸漬方式でフォトレジストを除去する場合でも、可燃性有機溶剤としてNMPやアセトンなどは全く使う必要がない。一方、IPA自体は、吹き付け方式でも浸漬方式でも使用量はあまり変わらない。すなわち、IPAは純水200と異なりワンパスで使い捨てることができため、排液処理をして再利用する。再利用するためには、IPAの貯液タンクが必要となる。したがって、貯液タンクまで含めたIPAの貯液量という観点でみれば、吹き付け方式と浸漬方式とでは大幅な差は生じない。
【0076】
図5に示したリフトオフ装置において、単純なチューブ吐出構造以外に高圧ジェットノズルまたは2流体ノズルなどで構成した給水ノズルを第1チャンバ31に更に設け、金属膜等が除去されたシリコン基板100に対して純水200でリンス洗浄をした後に、乾燥処理を行うようにしても良い。
【0077】
リフトオフ装置内に2チャンバ構成を持ち、それぞれのチャンバで純水200およびIPAを別々に用いるとともに、第1チャンバ31での金属膜除去処理後にリンス洗浄処理・乾燥処理を行うことで、排水ラインへの完全分離回収を実施することが可能となる。すなわち、第1チャンバ31で使用した純水200がシリコン基板100に付着したままの状態で第2チャンバ32のIPA中に浸漬されることがないので、第1チャンバ31の配管16,17には純水200だけを、第2チャンバ32の配管16,17にはIPAだけを排液することができる。
【0078】
また、図5に示したリフトオフ装置において、単純なチューブ吐出構造以外に高圧ジェットノズルまたは2流体ノズルなどで構成したIPA供給ノズルを第2チャンバ32に更に設け、IPAへの浸漬でフォトレジストが除去されたシリコン基板100に対してIPAでリンス洗浄をした後に、乾燥処理を行うようにしても良い。
【0079】
第2チャンバ32で浸漬に使用したIPAはワンパスで使い捨てることができないため、これを再利用するために、フィルタやポンプを具備した循環再利用系統が設けられる。そのため、剥離されたフォトレジストがIPAの排水中に溶解して再利用液に溶け込んでくる。溶解して液体状になったフォトレジストをフィルタでは基本的に除去できないので、再利用液のIPAに浸漬されたシリコン基板100をそのまま乾燥させると、そのIPA中に溶け込んだフォトレジストがシリコン基板100の表面に皮膜状に乾燥固着してしまう。そこで、IPA(再利用液ではなく新液が好ましい)をシリコン基板100上に吐出して最終仕上げのリンス洗浄を行い、その後に乾燥処理を行うのが好ましい。
【0080】
また、上記実施形態では、液体容器14を図1のように構成する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図6に示すように、液体容器は、ステージ10を底面とし、ステージ10に載置されたシリコン基板100の保持ピン10a,10bの高さよりも高い側壁を備えた皿形状の容器としても良い。なお、図6に示す構成では、内側配管16がシール軸11、駆動軸12およびモータ13内の中空部に通されており、モータ13と内側バルブ18との間にはロータリジョイント51が設けられている。
【0081】
ステージ10を底面とする皿形状に液体容器を構成することで、シリコン基板100を浸漬させるために必要な液体容器の容積を小さくすることができる。これにより、排水を容易にすることができるので、シリコン基板100から除去された金属膜等を純水200とともに超音波照射領域外に速やかに排出させることが可能となる。したがって、シリコン基板100上から剥離除去された金属膜等の汚れが、超音波照射時の衝撃波に乗ってシリコン基板100への再衝突するというダメージをより効果的に回避することができる。
【0082】
また、上記実施形態では、シリコン基板100上に金属膜の回路パターンを生成する際のリフトオフ処理を例示して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、本実施形態のリフトオフ装置は、プリント基板、FPD(Flat Panel Display)基板、SAW(Surface Acoustic Wave)デバイス、MEMS(Micro -Electro Mechanical Systems)、あるいはハードディスク等の製造時において、各種基板上に様々な膜のパターンを生成する際のリフトオフ処理にも適用することも可能である。
【0083】
また、上記実施形態では、フォトレジストに対して溶解性のない不溶解性液体の一例として純水200を用いたが、本発明はこれに限定されない。例えば、住友スリーエム社の「フロリナート」というフッ素系不活性液体を用いることも可能である。
【0084】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその精神、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0085】
10 ステージ
11 シール軸受
12 駆動軸
13 モータ
14 液体容器
20 ホーン型超音波発生器
21 給水ノズル
22 スイングアーム
23 アーム駆動部
24 IPA供給ノズル
25 スイングアーム
26 アーム駆動部
27 気体供給ノズル
28 スイングアーム
29 アーム駆動部
100 シリコン基板(ワーク)
200 純水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のワークから、フォトレジストおよびその上に成膜された金属膜から成る被覆物をウェット環境で除去するリフトオフ装置であって、
上記フォトレジストに対して溶解性のない不溶解性液体が注入された液体容器内において、ステージ上に載置された上記ワークを上記不溶解性液体に浸漬させた状態で、ホーン型超音波発生器の超音波照射部から上記不溶解性液体を介して上記ワークに対して超音波を照射することによって上記金属膜の殆ど全てと上記フォトレジストの一部とを除去する金属膜除去部と、
上記金属膜の殆ど全てと上記フォトレジストの一部とが除去された状態のワークに対して、上記フォトレジストに対して溶解性のある溶解性液体によって上記ワークに残存している上記フォトレジストを除去するレジスト除去部とを備えたことを特徴とするリフトオフ装置。
【請求項2】
上記金属膜除去部は、上記ワークを載置する上記ステージと、
上記ステージ上に載置された上記ワークを上記不溶解性液体中に浸漬させる上記液体容器と、
上記ワークが上記不溶解性液体中に浸漬された状態で、上記超音波照射部から上記不溶解性液体を介して上記ワークに対して超音波を照射する上記ホーン型超音波発生器とを備えたことを特徴とする請求項1に記載のリフトオフ装置。
【請求項3】
上記ホーン型超音波発生器は、上記超音波照射部を上記不溶解性液体を介して上記ワークの表面に対峙させて、上記ワークの表面に向けて超音波を照射するように成され、
上記ホーン型超音波発生器が超音波を照射する際に上記超音波照射部を上記ワークの表面に沿って所定速度以下で平行移動させる照射部移動機構を更に備えたことを特徴とする請求項2に記載のリフトオフ装置。
【請求項4】
上記ホーン型超音波発生器が超音波を照射する際に、上記ステージを、その表面に対して垂直な方向の軸を回転中心として所定速度以下で回転させる回転機構を備えたことを特徴とする請求項3に記載のリフトオフ装置。
【請求項5】
上記超音波照射部の先端は、超音波を照射する際に、上記不溶解性液体の液面から所定距離以上を持って液面下に没していることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のリフトオフ装置。
【請求項6】
上記レジスト除去部は、上記金属膜の殆ど全てと上記フォトレジストの一部とが除去された状態のワークに対して、ノズルから上記溶解性液体を吹き付けることによってリンス洗浄を行うリンス洗浄部を備えたことを特徴とする請求項1に記載のリフトオフ装置。
【請求項7】
上記リンス洗浄部が上記ワークに対して上記ノズルから上記溶解性液体を吹き付ける際に、上記ワークの表面に対して上記ノズルの先端を所定距離まで接近させ、上記ワークの表面に沿って上記ノズルを平行移動させるノズル移動機構を更に備えたことを特徴とする請求項6に記載のリフトオフ装置。
【請求項8】
上記不溶解性液体は純水であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のリフトオフ装置。
【請求項9】
平板状のワークから、フォトレジストおよびその上に成膜された金属膜から成る被覆物をウェット環境で除去するリフトオフ処理方法であって、
上記ワークをステージ上に載置する第1のステップと、
上記フォトレジストに対して溶解性がない不溶解性液体を液体容器に供給し、上記ステージ上に載置された上記ワークを上記不溶解性液体中に浸漬させる第2のステップと、
上記ワークが上記不溶解性液体中に浸漬された状態で、ホーン型超音波発生器の超音波照射部から上記不溶解性液体を介して上記ワークに対して超音波を照射することにより、上記金属膜の殆ど全てと上記フォトレジストの一部とを上記ワークから除去する第3のステップと、
上記金属膜の殆ど全てと上記フォトレジストの一部とが除去された状態のワークに対して、上記フォトレジストに対して溶解性のある溶解性液体によって上記ワークに残存している上記フォトレジストを除去する第4のステップとを有することを特徴とするリフトオフ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−103361(P2011−103361A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257540(P2009−257540)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(509311322)株式会社ソフ.エンジニアリング (1)
【Fターム(参考)】