説明

乗用型芝刈り車両及びその制御方法

【課題】モータで発生する回生電力をバッテリに適切に充電する制御を行うことにより、回生用抵抗器の小型化及びエネルギーの有効利用を図ることができる乗用型芝刈り車両及びその制御方法を提供する。
【解決手段】乗用型芝刈り車両1は、電力を供給するバッテリBと、バッテリBからの電力によって走行用の駆動力を発生するモータ41と、車両の速度を検出する速度センサ36と、車両の姿勢を検出する3Dジャイロセンサ37と、速度センサ36及び3Dジャイロセンサ37の検出結果に基づいてモータ41で発生する回生電力の電力量を推定する回生電力量推定部38bと、回生電力量推定部38bの推定結果に応じてバッテリBの充電量を制御する充電制御部38bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業者が乗車して運転しながら芝の刈り取りを行うことが可能な乗用型芝刈り車両及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用型芝刈り車両は、車輪が取り付けられた車体と、車体に設けられた昇降可能な芝刈りユニット(リール)とを備えており、作業者が車両に乗車して運転しながら芝の刈り取りを行うことが可能である。このため、乗用型芝刈り車両は、作業者が車両の後側から操作する手押し式(ウォークビハインド式)芝刈り車両よりも、例えばゴルフ場におけるグリーンや競技場等の広範な領域の芝を刈り取るのに適している。
【0003】
従来の乗用型芝刈り車両は、ガソリンエンジン等の内燃機関を動力発生源として備えており、油圧ポンプを駆動することにより発生する油圧動力を用いて車輪や油圧シリンダ(芝刈りユニットを昇降させる油圧シリンダ)を駆動するものが多かった。しかしながら、近年では、温室効果ガスの一種である二酸化炭素(CO)の排出量を低減すべく、エンジンの動力で発電して蓄電池に充電することにより、走行部や芝刈りユニットの駆動(昇降を含む)をモータで行うハイブリッド方式の乗用型芝刈り車両や、エンジンを廃止して大容量蓄電池から供給される電力によって走行部や芝刈りユニットの駆動(昇降を含む)をモータで行う電動式の乗用型芝刈り車両の研究・開発が盛んに行われている。
【0004】
このような乗用型芝刈り車両が備えるモータは、駆動源として動作するばかりではなく発電機としても動作するため、車両の減速時等においては回生電力がモータで発生する。モータで発生した回生電力は、例えば回生電力を消費するために設けられた回生抵抗器で消費されるか、或いはモータを駆動する電力を供給する二次電池(バッテリ)の充電に用いられる。尚、以下の特許文献1には、左右車輪が左右の車軸側電動モータによって独立に走行駆動される電動対地作業車両の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−255840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、モータで発生する回生電力を回生抵抗器で消費させる場合には、以下の問題が考えられる。つまり、モータで発生した回生電力を回生用抵抗器で消費させようとすると回生用抵抗器は発熱するため、乗用型芝刈り車両に回生用抵抗器を設置するには、電力容量の大きな抵抗器を選択する必要があり、また温度上昇を防止する観点からある程度のスペースが必要になるという問題がある。また、モータで発生した回生電力は無駄に消費されているだけであり、エネルギーの有効利用が図られていないという問題がある。
【0007】
モータで発生する回生電力を用いてバッテリを充電する場合には、エネルギーの有効利用は図られてはいるが以下の問題が考えられる。つまり、モータの回生電力の電力量は、車両の走行速度、走行路の状況(例えば、下り坂、上り坂、平地の別)等により大きく異なるため、バッテリが過充電されることがあるという問題がある。また、バッテリが過充電の状態にあり、モータで発生する回生電力を消費できない場合には、電圧上昇が生じて電動装置停止等の異常が生ずる可能性も考えられる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、モータで発生する回生電力をバッテリに適切に充電する制御を行うことにより、回生用抵抗器の小型化及びエネルギーの有効利用を図ることができる乗用型芝刈り車両及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の乗用型芝刈り車両は、電力を供給するバッテリ(B)と、該バッテリからの電力によって走行用の駆動力を発生するモータ(41)とを備える乗用型芝刈り車両(1)において、車両の速度を検出する第1センサ(36)と、車両の姿勢を検出する第2センサ(37)と、前記第1,第2センサの検出結果に基づいて、前記モータで発生する回生電力の電力量を推定する推定部(38a)と、前記推定部の推定結果に応じて前記バッテリの充電量を制御する制御部(38b)とを備えることを特徴としている。
また、本発明の乗用型芝刈り車両は、前記推定部が、前記第1センサの検出結果に応じた車両の慣性エネルギーを求めるとともに、前記第2センサの検出結果に応じた車両に対する勾配抵抗を求め、該慣性エネルギーと該勾配抵抗とを用いて前記モータで発生する回生電力の電力量を推定することを特徴としている。
また、本発明の乗用型芝刈り車両は、前記推定部が、車両の速度と車両の慣性エネルギーとの関係を示す第1テーブル(T1)と、車両の姿勢と車両に対する勾配抵抗との関係を示す第2テーブル(T2)とを有しており、前記第1テーブルを用いて前記第1センサの検出結果に応じた車両の慣性エネルギーを求め、前記第2テーブルを用いて前記第2センサの検出結果に応じた車両に対する勾配抵抗を求めることを特徴としている。
また、本発明の乗用型芝刈り車両は、前記制御部が、前記バッテリの充電状態が予め設定された目標充電状態を超えないように、前記バッテリの充電量を制御することを特徴としている。
また、本発明の乗用型芝刈り車両は、前記モータで発生する回生電力を前記バッテリに回収することで制動をかける第1制動装置と、車両が備える車輪に機械的な力を作用させることで制動をかける第2制動装置とを備えており、前記制御部が、前記推定部で推定される前記回生電力の電力量に応じて、前記第1,第2制動装置の制動量を調整することにより前記バッテリの充電量を制御することを特徴としている。
本発明の乗用型芝刈り車両の制御方法は、電力を供給するバッテリ(B)と、該バッテリからの電力によって走行用の駆動力を発生するモータ(41)とを備える乗用型芝刈り車両(1)の制御方法であって、車両の速度を検出する第1ステップ(S11)と、車両の姿勢を検出する第2ステップ(S12)と、前記第1,第2ステップの検出結果に基づいて、前記モータで発生する回生電力の電力量を推定する第3ステップ(S13)と、前記第3ステップの推定結果に応じて前記バッテリの充電量を制御する第4ステップ(S14)とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両の速度及び姿勢をそれぞれ検出し、これらの検出結果に基づいてモータで発生する回生電力の電力量を推定し、この推定結果に応じてバッテリの充電量を制御しているため、モータで発生する回生電力を用いてバッテリの適切な充電制御を行うことができ、その結果として回生用抵抗器を小型化或いは回生用抵抗器を不要とすることができるとともに、エネルギーの有効利用を図ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両の外観を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両の制御系統の要部構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両で行われる回生電力の電力量を推定する処理を説明するための図である。
【図4】本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両で行われるバッテリBの充電制御を説明するための図である。
【図5】本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両の制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両及びその制御方法について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両の外観を示す斜視図である。図1に示す通り、本実施形態の乗用型芝刈り車両1は、フレーム10に支持される2つの前輪11a,11b及び1つの後輪12と、2つの前側芝刈りユニット13a,13b及び1つの後側芝刈りユニット14とを備えており、前輪11a,11b及び後輪12によって走行しつつ、走行経路に沿って前側芝刈りユニット13a,13b及び後側芝刈りユニット14により芝の刈り取りを行う。
【0013】
図1に示す乗用型芝刈り車両1は、モータで発生する動力を用いて走行を行うとともに、モータで発生する動力を用いて芝の刈り取りを行う電動式の乗用型芝刈り車両である。尚、乗用型芝刈り車両1が備える前側芝刈りユニット13a,13b及び後側芝刈りユニット14の各々には、刈り取られた芝(刈芝)を収容するバケットが取り付けられるが、図1ではバケットが取り外されている状態を図示している。
【0014】
フレーム10の略中央上部には、作業者が着席するシート15が配設されている。このシート15の前方上部にはステアリングホイール16が設けられており、前方下部には後進アクセルペダル17、前進アクセルペダル18、及びブレーキペダル19が設けられている。シート15に着席した作業者によってステアリングホイール16が操作されることで乗用型芝刈り車両1の進行方向が定められ、後進アクセルペダル17、前進アクセルペダル18、及びブレーキペダル19が操作されることにより、乗用型芝刈り車両1の後退、前進、停止、及び走行速度が定められる。
【0015】
前輪11a,11bは、フレーム10の右側前方下部及び左側前方下部にそれぞれ配設されており、モータ41(図1では図示省略、図2参照)で発生する動力によって駆動される駆動輪であり、車両の左右方向に沿う回転軸の周りで回転可能にフレーム10に支持されている。後輪12は、フレーム10の中央後方下部に配設されており、ステアリングホイール16の回転量に応じて左右方向に揺動可能に構成されて操舵輪として機能する。後輪12の左右方向への揺動に合わせて後輪12の回転軸も揺動するため、ステアリングホイール16を回転させることにより乗用型芝刈り車両1の進行方向が変更される。
【0016】
ここで、前輪11a,11b及び後輪12には、ショルダーが緩やかな曲面に形成された幅広のタイヤが用いられる。これは、前輪11a,11b及び後輪12にかかる芝刈り車両1の車重及び応力を分散することによって、芝へのダメージを避けるためである。また、前輪11a,11b及び後輪12には、溝が形成されていないタイヤが用いられる。これは、接地面積を極力広くして車重を分散させて抵抗を少なくすることにより芝への負担を軽減するためである。
【0017】
前側芝刈りユニット13a,13bは、前輪11a,11bの各々の前方において昇降可能に支持されており、下降して前輪11a,11bの前方で地面に接している状態で芝の刈り取りを行う。これら前側芝刈りユニット13a,13bの各々は、前側ローラ21、電動リール22(回転刃)、不図示の後側ローラ、及びモータ24を備える。前側ローラ21は、回転軸が車両の左右方向に設定されて、周方向に沿う溝が軸方向に複数形成された略円柱形状の部材であり、電動リール22の前方に配設される。この前側ローラ21は、下降した状態にある前側芝刈りユニット13a,13bを地面上に支持するために設けられている。
【0018】
電動リール22は、芝を刈るための螺旋状の刃が側面に複数形成された略円柱形状の部材であって、回転軸が車両の左右方向に設定されており、モータ24によって駆動される。この電動リール22は、前側ローラ21と不図示の後側ローラとの間に配設され、刈り取った後の芝の高さの分だけ前側ローラ21及び不図示の後側ローラよりも上方に配置されている。尚、前側ローラ21及び不図示の後側ローラに対する電動リール22の高さ位置は、例えば数mm〜十数mm程度の範囲で微調整が可能である。不図示の後側ローラは、前側ローラ21の様な溝が形成されていない略円柱形状の部材であり、上述した前側ローラ21と同様に、下降した状態にある前側芝刈りユニット13a,13bを地面上に支持するために設けられている。
【0019】
フレーム10の前部には、中央部から右方向に延びる支持アーム25aと、中央部から左方向に延びる支持アーム25bとが設けられている。支持アーム25aは、その右端部において車両の前後方向における回転軸の周りで前側芝刈りユニット13aを揺動可能に支持しており、支持アーム25bは、その左端部において車両の前後方向における回転軸の周りで前側芝刈りユニット13bを揺動可能に支持している。このため、車両の左右方向に地面が傾斜していても、その傾斜に合わせて前側芝刈りユニット13a,13bを傾斜させることができる。
【0020】
支持アーム25a,25bには、電動アクチュエータとしての電動シリンダ26a,26bが取り付けられている。電動シリンダ26aが伸縮すると支持アーム25aの右端部が上下方向に移動し、これにより前側芝刈りユニット13aが昇降する。同様に、電動シリンダ26bが伸縮すると支持アーム25bの左端部が上下方向に移動し、これにより前側芝刈りユニット13bが昇降する。つまり、支持アーム25a,25b及び電動シリンダ26a,26bは、前側芝刈りユニット13a,13bを昇降させる昇降機構をなす。尚、図1では、前側芝刈りユニット13aが上昇しており、前側芝刈りユニット13bが下降している状態を図示している。
【0021】
後側芝刈りユニット14は、前輪11a,11bと後輪12との間において昇降可能に支持されており、下降して後輪12の前方で地面に接している状態で芝の刈り取りを行う。この後側芝刈りユニット14は、前側芝刈りユニット13a,13bと同様に、前側ローラ21、電動リール22(回転刃)、不図示の後側ローラ、及びモータ24を備えており、電動シリンダ26a,26bと同様の電動シリンダ(電動アクチュエータ)等を備える不図示の昇降機構によって昇降される。尚、後側芝刈りユニット14も、前側芝刈りユニット13a,13bと同様に、車両の前後方向における回転軸の周りで揺動可能に支持されており、車両の左右方向における地面の傾斜に合わせて傾斜が可能である。
【0022】
また、シート15の右側前方(ステアリングホイール16の右側)には、タッチパネル式の表示装置(例えば、液晶表示装置)27が設けられている。この表示装置27は、作業者の指示を入力するとともに、乗用型芝刈り車両1の現在の状態を示す情報等の各種情報を表示するものである。前側芝刈りユニット13a,13b及び後側芝刈りユニット14の昇降、及びこれらに設けられた電動リール22の始動・停止は、作業者が表示装置27を操作することによって入力される指示に応じて制御される。表示装置27に表示される情報としては、乗用型芝刈り車両1の走行速度、前側芝刈りユニット13a,13b及び後側芝刈りユニット14の各々に設けられた電動リール22の回転速度、及び芝の育成状況を示す情報等の情報である。
【0023】
尚、ステアリングホイール16の下方であって、前進アクセルペダル18とブレーキペダル19との間には、乗用型芝刈り車両1の前方を照明する照明装置28が設けられている。また、シート15の後方のフレーム10上には、乗用型芝刈り車両1を動作させる電力を供給するバッテリBが設けられている。具体的に、バッテリBから供給される電力は、前輪11a,11bを駆動するモータ41(図2参照)、後輪12を揺動させる駆動力を発生する電動シリンダ45に内蔵されるモータ42(図2参照)、前側芝刈りユニット13a,13b及び後側芝刈りユニット14の各々に設けられたモータ24、及び電動シリンダ26a,26bを駆動する動力を発生するモータ43a,43b(図2参照)等を駆動するために用いられる。
【0024】
図2は、本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両の制御系統の要部構成を示すブロック図である。尚、図2においては、図1に示した構成に相当するものについては同一の符号を付してある。図2に示す通り、乗用型芝刈り車両1は、DC/DCコンバータ31、ACモータドライバ32、電動シリンダ用ドライバ33、電動シリンダ用ドライバ34a,34b、ACモータドライバ35a,35b、速度センサ36(第1センサ)、3Dジャイロセンサ37(第2センサ)、及び制御装置38を備える。尚、図2では、電力が伝達される経路を実線で表しており、制御系統に係る信号の経路を破線で表している。
【0025】
DC/DCコンバータ31は、バッテリBと各種ドライバ(ACモータドライバ32〜ACモータドライバ35b)との間に設けられ、制御装置38の制御の下で、バッテリBから各種ドライバに供給される直流電力の電圧変換を行うとともに、前輪11a,11bを駆動するモータ41で発生してバッテリBに回収される回生電力の電圧変換を行う。具体的には、バッテリBの出力電圧を昇圧して各種ドライバに印加し、或いはモータ41で発生する起電力を降圧してバッテリBに印加する。
【0026】
ACモータドライバ32は、バッテリBからDC/DCコンバータ31を介して供給される直流電力を用い、制御装置38の制御の下で、前輪11a,11bを駆動する動力を発生するモータ41を駆動する。尚、図2において、モータ41と前輪11a,11bとの間に設けられているブロック(符号44が付されたブロック)は、モータ41で発生する動力(回転動力)を、その回転数を減じて前輪11a,11bに伝達する減速ギア(減速器)を示している。
【0027】
ここで、モータ41は、前輪11a,11bを駆動する動力を発生する動力発生源(電動機)として動作するばかりでなく発電機としても動作する。このため、例えば作業者が前進アクセルペダル18又は後進アクセルペダル17を操作することによって制御装置38から前進又は後進を示す信号が出力された場合には、ACモータドライバ32は、バッテリBからDC/DCコンバータ31を介して供給される直流電力を用いてモータ41を電動機として動作させ、モータ41を正転駆動又は逆転駆動する。
【0028】
これに対し、例えば作業者がブレーキペダル19を操作することによって制御装置38から減速を示す信号が出力された場合には、ACモータドライバ32は、モータ41を発電機として動作させ、モータ41で発生する回生電力を、DC/DCコンバータ31を介してバッテリBに回収させる。モータ41が発電機として動作してモータ41で発生した回生電力がバッテリBに回収されるときには、モータ41の回転抵抗によって制動をかける回生ブレーキ(第1制動装置)が実現される。
【0029】
尚、図示は省略しているが、乗用型芝刈り車両1には、ディスクブレーキ、ドラムブレーキ等の前輪11a,11bに対して機械的な力を作用させることで制動をかける機械ブレーキ(第2制動装置)も設けられている。詳細は後述するが、モータ41で得られるであろうと推定される回生電力の電力量に応じて、回生ブレーキによる制動量と機械ブレーキによる制動量とを調整する制御が制御装置38によって行われる。
【0030】
また、モータ41には、モータ41の回転数を検出するエンコーダ又はレゾルバ(図示省略)が設けられており、このエンコーダ等の検出結果を示す回転数信号S1がACモータドライバ32に入力されている。ACモータドライバ32は、制御装置38との間で通信を行って、回転数信号S1で示されるモータ41の回転数、モータ41に流れている電流、及びモータ41で発生しているトルク等の情報を送信する。
【0031】
電動シリンダ用ドライバ33は、バッテリBからDC/DCコンバータ31を介して供給される直流電力を用い、制御装置38の制御の下で、後輪12を揺動させる電動シリンダ45を駆動する動力を発生するモータ42を駆動する。このモータ42には、電動シリンダ45の駆動量(即ち、後輪12の揺動角)を検出するエンコーダ(図示省略)が設けられており、このエンコーダの検出結果を示す揺動角信号S2が電動シリンダ用ドライバ33に入力されている。電動シリンダ用ドライバ33は、制御装置38との間で通信を行って、揺動角信号S2で示される後輪12の揺動角等の情報を送信する。
【0032】
電動シリンダ用ドライバ34a,34bは、バッテリBからDC/DCコンバータ31を介して供給される直流電力を用い、制御装置38の制御の下で、電動シリンダ26a,26bを駆動する動力を発生するモータ43a,43bを駆動する。ACモータドライバ35a,35bは、バッテリBからDC/DCコンバータ31を介して供給される直流電力を用い、制御装置38の制御の下で、前側芝刈りユニット13a,13b及び後側芝刈りユニット14に設けられるモータ24を駆動する。
【0033】
ここで、前側芝刈りユニット13a,13b及び後側芝刈りユニット14に設けられるモータ24の各々には、それぞれの回転数を検出するエンコーダ又はレゾルバ(図示省略)が設けられており、このエンコーダ等の検出結果を示す回転数信号S3,S4がACモータドライバ35a,35bにそれぞれ入力されている。尚、図2では簡略化して図示しているが、ACモータドライバ35aは、前側芝刈りユニット13aに設けられるモータ24を駆動するドライバと、前側芝刈りユニット13bに設けられるモータ24を駆動するドライバとを含むものである。また、回転数信号S3は、前側芝刈りユニット13aに設けられるモータ24の回転数を示す信号と、前側芝刈りユニット13bに設けられるモータ24の回転数を示す信号とを含む信号である。
【0034】
速度センサ36は、乗用型芝刈り車両1の車速を検出するセンサである。この速度センサ36は、例えば減速ギア44と前輪11a,11bとの間の駆動軸(シャフト)に取り付けられた数十〜百超の歯を有する検出用ギア(歯車)が回転することによって発生するパルスを一定時間毎にカウントし、そのカウント結果から乗用型芝刈り車両1の車速を検出するセンサである。尚、上記のパルスの間隔(インターバル時間)から車速を検出するセンサを用いても良い。
【0035】
3Dジャイロセンサ37は、乗用型芝刈り車両1の姿勢を検出するセンサである。具体的には、水平面内における互いに直交する2つの軸(X軸,Y軸)の周りの回転角(θX,θY)及び水平面に直交する垂直方向の軸(Z軸)の周りの回転角(θZ)、並びにX軸,Y軸,Z軸各々の加速度を検出するセンサである。このため、車速の加減速及び坂の上り下りが判断できる。尚、ここでは乗用型芝刈り車両1の姿勢の検出に3Dジャイロセンサ37を用いる例について説明するが、3Dジャイロセンサ37に代えて乗用型芝刈り車両1の前後方向の傾きのみを検出する傾斜センサを用いることも可能である。以上の速度センサ36及び3Dジャイロセンサ37の検出結果は制御装置38に出力される。
【0036】
制御装置38は、乗用型芝刈り車両1を統括して制御する。例えば、バッテリBの充電状態(SOC:State Of Charge)を監視し、DC/DCコンバータ31による電力消費量を制御するとともに、各種ドライバ(ACモータドライバ32〜ACモータドライバ35b)から送信されてくる信号を参照しつつ、各種ドライバによる各種モータ(モータ24,41〜43b)の駆動量の制御を行う。
【0037】
また、制御装置38は、回生電力量推定部38a(推定部)及び充電制御部38b(制御部)を備えており、モータ41で発生する回生電力を用いたバッテリBの充電制御を行う。回生電力量推定部38aは、速度センサ36及び3Dジャイロセンサ37の検出結果に基づいて、モータ41で発生する回生電力の電力量を推定する。具体的には、速度センサ36の検出結果に応じた乗用型芝刈り車両1の慣性エネルギーと、3Dジャイロセンサ37の検出結果に応じた乗用型芝刈り車両1に対する勾配抵抗とを求め、これらを用いてモータ41で発生する回生電力の電力量を推定する。
【0038】
図3は、本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両で行われる回生電力の電力量を推定する処理を説明するための図である。図3に示す通り、回生電力量推定部38aは、乗用型芝刈り車両1の速度と慣性エネルギーとの関係を示すテーブルT1(第1テーブル)と、勾配(乗用型芝刈り車両1の前後方向の姿勢)と乗用型芝刈り車両1に対する勾配抵抗との関係を示すテーブルT2(第2テーブル)とを有している。
【0039】
一般的に物体の運動エネルギーは、物体の質量と物体の速度の2乗との積に比例する。乗用型芝刈り車両1の質量が一定(例えば、800kg)であるとした場合には、テーブルT1は、図3に示す通り、乗用型芝刈り車両1の慣性エネルギーが車速の2乗に比例するものとなる。また、乗用型芝刈り車両1の質量が一定(例えば、800kg)であるとした場合には、テーブルT2は、図3に示す通り、乗用型芝刈り車両1の重量にSIN(勾配角度)を乗じたものとなる。つまり、乗用型芝刈り車両1の重量をWとし、勾配をθとすると、勾配抵抗Reは、Re=W・sinθなる式で表される。
【0040】
回生電力量推定部38aは、図3に示すテーブルT1を用いて速度センサ36の検出結果に応じた乗用型芝刈り車両1の慣性エネルギーを求め、テーブルT2を用いて3Dジャイロセンサ37の検出結果に応じた乗用型芝刈り車両1に対する勾配抵抗を求める。例えば、速度センサ36によって検出された乗用型芝刈り車両1の車速が10[km/h]である場合には、図3に示すテーブルT1から乗用型芝刈り車両1の慣性エネルギーとして約2.5[kJ]を求める。また、例えば3Dジャイロセンサ37によって検出された勾配(乗用型芝刈り車両1の前後方向の姿勢)が30[度]である場合には、図3に示すテーブルT2から乗用型芝刈り車両1に対する勾配抵抗として約400[kg]を求める。
【0041】
また、回生電力量推定部38aは、図3に示す演算手段51〜54を備えており、テーブルT1,T2を用いて求めた慣性エネルギー及び勾配抵抗に対して各種演算を施すことによりモータ41で発生する回生電力の電力量を推定する。尚、演算手段51〜54は、例えば論理回路等のハードウェアにより実現されていても良く、ソフトウェアにより実現されていても良い。
【0042】
演算手段51は、テーブルT2を用いて求められた勾配抵抗に対し、3Dジャイロセンサ37によって検出された勾配の角度が俯角(下向きの角度)である場合には正符号を付し、仰角(上向きの角度)である場合には負符号を付す演算を行う。演算手段52は、演算手段51の演算結果に対して予め設定された係数(k1)を乗算する演算を行う。演算手段53は、テーブルT1を用いて求められた慣性エネルギーと演算手段52の演算結果とを乗算する演算を行う。また、演算手段54は、演算手段53の演算結果に対して予め設定された係数(k2)を乗算する演算を行う。このような演算が行われることによって回生電力の電力量が推定される。
【0043】
充電制御部38bは、回生電力量推定部38aの推定結果に応じてバッテリBの充電量を制御する。但し、バッテリBの充電状態が予め設定された目標充電状態を超えないようにバッテリBの充電量を制御する。図4は、本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両で行われるバッテリBの充電制御を説明するための図である。尚、図4においては、回生電力量推定部38bで推定された回生電力の電力量を横軸にとり、バッテリBの充電状態(SOC)を縦軸にとっている。但し、理解を容易にするために、横軸にとった回生電力の電力量は、バッテリBで充電可能な電力量に対するパーセンテージで表している。尚、バッテリBの目標充電状態は70%に設定されているとする。
【0044】
充電制御部38bは、バッテリBの現在の充電状態と回生電力量推定部38aで推定される回生電力量との関係が図中符号R1が付された領域(斜線が付されていない領域)に含まれる関係である場合には、機械ブレーキを用いずに回生ブレーキのみで制動をかける制御を行う。これに対し、同関係が図中符号R2が付された領域(斜線が付された領域)に含まれる関係である場合には、回生ブレーキに加えて機械ブレーキを用いて制動をかける制御を行う。
【0045】
例えば、バッテリBの現在の充電状態が59%であって、回生電力量推定部38aで推定される回生電力の電力量がバッテリBの全容量の10%に相当する電力量であり、バッテリBの現在の充電状態と回生電力量推定部38aで推定される回生電力量との関係が図4中の領域R1に含まれる関係である場合について考える。かかる場合には、モータ41で発生するであろうと推定される回生電力の全てをバッテリBに充電しても、バッテリBの充電状態は目標充電状態である70%を超えない。このため、充電制御部38bは、モータ41発生する回生電力の全てをバッテリBに回収させるべく、機械ブレーキを用いずに回生ブレーキのみで制動をかける制御を行う。
【0046】
これに対し、例えば、バッテリBの現在の充電状態が59%であって、回生電力量推定部38aで推定される回生電力の電力量がバッテリBの全容量の20%に相当する電力量であり、バッテリBの現在の充電状態と回生電力量推定部38aで推定される回生電力量との関係が図4中の領域R2に含まれる関係である場合について考える。かかる場合には、モータ41で発生するであろうと推定される回生電力の全てをバッテリBに充電してしまうと、バッテリBの充電状態は目標充電状態である70%を超えてしまう。
【0047】
このため、充電制御部38bは、バッテリBの充電状態が目標充電状態を超えないようにすべく回生ブレーキに加えて機械ブレーキを用いて制動をかける制御を行う。具体的には、回生電力量推定部38aで推定された電力量(バッテリBの全容量の20%に相当する電力量)のうち、目標充電状態である70%と現在の充電状態である59%との差分である11%に相当する分の電力はバッテリBの充電に用いることができ、残りの9%に相当する分の電力はバッテリBの充電に用いることができない。従って,充電制御部38bは、11%に相当する分の電力をバッテリBに回収させるべく、回生ブレーキによる制動量と機械ブレーキによる制動量とを11対9に調整する制御を行う。
【0048】
次に、上記構成における乗用型芝刈り車両1の制御方法について説明する。図5は、本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両の制御方法を示すフローチャートである。尚、図5に示すフローチャートは、乗用型芝刈り車両1上のシート15に着席した作業者によりキー操作が行われて乗用型芝刈り車両1が始動されてから、作業者によるキー操作が行われて乗用型芝刈り車両1が停止されるまで一定の時間間隔で実行される。
【0049】
図5に示すフローチャートの処理が開始されると、まず速度センサ36によって乗用型芝刈り車両1の車速が検出され(ステップS11:第1ステップ)、次いで3Dジャイロセンサ37によって乗用型芝刈り車両1の前後方向の姿勢が検出される(ステップS12:第2ステップ)。これら速度センサ36及び3Dジャイロセンサ37の検出結果は制御装置38の回生電力量推定部38aに入力され、これらの検出結果に基づいた回生電力量が推定される(ステップS13:第3ステップ)。
【0050】
具体的には、図3に示すテーブルT1を用いて速度センサ36の検出結果に応じた乗用型芝刈り車両1の慣性エネルギーが求められるとともに、テーブルT2を用いて3Dジャイロセンサ37の検出結果に応じた乗用型芝刈り車両1に対する勾配抵抗が求められる。そして、これら慣性エネルギー及び分配抵抗に対して、図3中に示す演算手段51〜54による各種演算が行われることによりモータ41で発生する回生電力の電力量が推定される。
【0051】
回生電力量推定部38aによって回生電力量が推定され、推定された回生電力量がバッテリBを充電し得る電力量である場合には、推定された回生電力量に応じたバッテリBの充電量の制御が充電制御部38bによって行われる(ステップS14:第4ステップ)。具体的には、バッテリBの現在の充電状態と回生電力量推定部38aで推定された回生電力量との関係が図4中の符号R1が付された領域(斜線が付されていない領域)に含まれる関係であるときには、充電制御部38bは機械ブレーキを用いずに回生ブレーキのみで制動をかける制御を行う。かかる制御を行うことで、充電制御部38bは、モータ41で発生した回生電力の全てをバッテリBに回収させる。
【0052】
これに対し、バッテリBの現在の充電状態と回生電力量推定部38aで推定された回生電力量との関係が図4中の符号R2が付された領域(斜線が付された領域)に含まれる関係であるときには、充電制御部38bは回生ブレーキによる制動力と機械ブレーキによる制動力とを調整し、回生ブレーキに加えて機械ブレーキを用いて制動をかける制御を行う。これにより、バッテリBの充電状態が目標充電状態を超えないように制御される。尚、回生電力量推定部38aで推定された回生電力量がバッテリBを充電し得る電力量でない場合(例えば、推定された回生電力量の値が零又は負の場合)には、ステップS14の処理は省略される。
【0053】
以上説明した通り、本実施形態では、速度センサ36及び3Dジャイロセンサ37が乗用型芝刈り車両1の速度及び前後方向の姿勢をそれぞれ検出し、これらの検出結果に基づいて回生電力量推定部38aがモータ41で発生する回生電力の電力量を推定し、回生電力量推定部38aの推定結果に応じて充電量制御部38bがバッテリBの充電量を制御している。これにより、モータ41で発生する回生電力を用いてバッテリBの適切な充電制御を行うことができ、その結果として回生用抵抗器を小型化或いは回生用抵抗器を不要とすることができるとともに、エネルギーの有効利用を図ることができる。
【0054】
以上、本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両及びその制御方法について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されず、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、回生電力量推定部38bがテーブルT1,T2を用いてモータ41で発生する回生電力の電力量を推定する例について説明した。しかしながら、必ずしもテーブルT1,T2を用いる必要はなく、乗用型芝刈り車両1の速度と慣性エネルギーとの関係を示す関数及び乗用型芝刈り車両1に対する勾配抵抗との関係を示す関数を用いてモータ41で発生する回生電力の電力量を推定しても良い
【0055】
また、上記実施形態では、モータで発生する動力を用いて走行を行うとともに、モータで発生する動力を用いて芝の刈り取りを行う電動式の乗用型芝刈り車両を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明は、動力発生源としてエンジン及びモータを備えており、これらの動力発生源で発生する動力を用いて走行を行うハイブリッド式の乗用型芝刈り車両にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 乗用型芝刈り車両
36 速度センサ
37 3Dジャイロセンサ
38a 回生電力量推定部
38b 充電制御部
41 モータ
B バッテリ
T1,T2 テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を供給するバッテリと、該バッテリからの電力によって走行用の駆動力を発生するモータとを備える乗用型芝刈り車両において、
車両の速度を検出する第1センサと、
車両の姿勢を検出する第2センサと、
前記第1,第2センサの検出結果に基づいて、前記モータで発生する回生電力の電力量を推定する推定部と、
前記推定部の推定結果に応じて前記バッテリの充電量を制御する制御部と
を備えることを特徴とする乗用型芝刈り車両。
【請求項2】
前記推定部は、前記第1センサの検出結果に応じた車両の慣性エネルギーを求めるとともに、前記第2センサの検出結果に応じた車両に対する勾配抵抗を求め、該慣性エネルギーと該勾配抵抗とを用いて前記モータで発生する回生電力の電力量を推定することを特徴とする請求項1記載の乗用型芝刈り車両。
【請求項3】
前記推定部は、車両の速度と車両の慣性エネルギーとの関係を示す第1テーブルと、車両の姿勢と車両に対する勾配抵抗との関係を示す第2テーブルとを有しており、
前記第1テーブルを用いて前記第1センサの検出結果に応じた車両の慣性エネルギーを求め、前記第2テーブルを用いて前記第2センサの検出結果に応じた車両に対する勾配抵抗を求める
ことを特徴とする請求項2記載の乗用型芝刈り車両。
【請求項4】
前記制御部は、前記バッテリの充電状態が予め設定された目標充電状態を超えないように、前記バッテリの充電量を制御することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の乗用型芝刈り車両。
【請求項5】
前記モータで発生する回生電力を前記バッテリに回収することで制動をかける第1制動装置と、
車両が備える車輪に機械的な力を作用させることで制動をかける第2制動装置とを備えており、
前記制御部は、前記推定部で推定される前記回生電力の電力量に応じて、前記第1,第2制動装置の制動量を調整することにより前記バッテリの充電量を制御する
ことを特徴とする請求項4記載の乗用型芝刈り車両。
【請求項6】
電力を供給するバッテリと、該バッテリからの電力によって走行用の駆動力を発生するモータとを備える乗用型芝刈り車両の制御方法であって、
車両の速度を検出する第1ステップと、
車両の姿勢を検出する第2ステップと、
前記第1,第2ステップの検出結果に基づいて、前記モータで発生する回生電力の電力量を推定する第3ステップと、
前記第3ステップの推定結果に応じて前記バッテリの充電量を制御する第4ステップと
を有することを特徴とする乗用型芝刈り車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−70554(P2012−70554A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213823(P2010−213823)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】