説明

位置制御装置、位置制御方法及び光学装置

【課題】 原点位置付近での位置制御対象物の位置検出精度の低下による位置制御装置の性能低下を防止する
【解決手段】 第2の移動範囲での位置制御対象物(201)の移動に応じて、周期信号とは異なる信号成分を含み不連続に変化する信号を生成し、この信号に基づいて原点位置を検出する。第1の移動範囲での位置制御対象物の移動に応じて、所定の周期で連続して変化する周期信号を生成し、この周期信号と原点位置とに基づいて位置制御対象物の絶対位置を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば撮像装置の自動合焦制御に適した位置制御装置及び位置制御方法並びに当該位置制御装置を備えた光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルスチルカメラやビデオカメラ等の撮像装置においては、CCD等の撮像素子の多画素化、小型化にともない、レンズの位置決め制御において数μmオーダーの高い精度が要求されるようになってきている。これは、撮像素子が多画素化、小型化されるほど、レンズの位置決め誤差による撮影画像のピントボケが目立ちやすくなるために、撮像装置としての性能を確保する上でより高い精度の位置決め制御が必要となることがその理由である。
【0003】
このような高い位置決め精度を実現するための、レンズの位置検出を行うセンサの一つに光学式エンコーダがある。光学式エンコーダは基本的に、光を透過する格子と透過しない格子とを一定の周期で配列した第1の光学格子が形成されたメインスケールと、これに対向して同様の第2の光学格子が形成されたインデックススケールと、メインスケールに光を照射する光源と、メインスケールの光学格子を透過又は反射し、更にインデックススケールの光学格子を透過した光を受光する受光素子とを備えて構成される。このとき受光素子アレイを用いてインデックススケールを兼ねる構成とするものもある。この種の光学式エンコーダは既に種々提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
上記のような構成のエンコーダはインクリメンタル型と呼ばれ、スケールの移動に伴ってエンコーダから出力される複数相の正弦波状の信号を信号処理回路によりパルス状の信号に変換し、パルスの増減によりその移動量を検出する。よって、このインクリメンタル型では相対的な移動量しか検出できないため、絶対位置や絶対角度を検出するためには原点位置(基準位置)となる絶対位置を検出するためのセンサが別途必要となり、そのためコストや設置スペースが増大する場合がある。
【0005】
一方、絶対位置や絶対位置を検出することのできる光学エンコーダとして以下のものが提案されている(例えば、特許文献2)。
【0006】
図7は、円形の光学スケールを用いて角度検出を行うインクリメンタル式のエンコーダにおける、原点位置を検出する手段を示した図である。この例では原点位置を検出するために光学スケール101のパターンの透過率を変化させており、領域102は透過率が概ね100%であるのに対し、領域103,104,105・・・と徐々に透過率が下がるように構成されている。
【0007】
図8は、上記スケールを用いたとき、光学スケール101における透過率の変化している部位がセンサを通過した際に得られる信号変化であり、106,107はセンサから得られるエンコーダ出力信号(アナログ2相信号)である。このとき、光学スケール101の透過率が徐々に下がっていくのに伴いエンコーダ出力信号の信号振幅が小さくなっていくため、この変化を検出することにより原点位置を検出する。このような構成とすることで、原点位置を検出するセンサを別途設けることなく絶対角度を検出でき、コストやセンサの設置スペースの増大を回避することができる。
【0008】
ここまでは光学式エンコーダにおける原点検出について説明したが、次に、光学式エンコーダから出力される複数相の正弦波状の信号に基づいて、数μmオーダーの高精度の位置検出を行う従来技術について説明する。
【0009】
上述したように、光学式エンコーダから出力される複数相の正弦波状の信号をパルス状の信号に変換した場合、1パルスの分解能はスケール上の光学格子の配置密度に依存し、数10μm程度である。そこで、より高精度の位置検出を行うために、複数相の正弦波状の信号成分のうち直線性に優れた信号成分を持つ相を選択して、その信号成分を内挿する演算を行い、演算結果に基づいて位置を検出する手法が提案されている(例えば、特許文献3)。
【0010】
内挿演算による位置の演算手法については公知のため詳細な説明は省略し、以下では内挿演算を行うためのエンコーダ出力信号の補正に関する従来技術についてのみ説明する。
【0011】
一般に、光学式エンコーダの複数相の出力は、例えば図9に示すように、その振幅、および振幅中心のレベルが異なっていることが多い。よって、このままでは前記の内挿演算によって位置を演算する上で十分な精度が得られないため、例えば図10に示すように、振幅および振幅中心が揃うようにエンコーダ出力データの補正処理が行われる。
【0012】
この補正処理は以下のように行われる。即ち、測定対象物であるレンズをエンコーダの正弦波出力の1周期以上動かし、エンコーダ出力信号をA/D変換器を介して位置演算用のマイクロコンピュータに取り込む。取り込んだ出力信号データの最大値と最小値とより補正処理に用いるゲイン・オフセット調整値を求め、この調整値に基づいて振幅および振幅中心が揃うように出力信号データを加工することで補正処理が行われる。
【0013】
具体的には、出力信号データの最大値をMAX、最小値をMINとすると、調整値であるGAIN及びOFFSETは、数式(1)及び数式(2)により夫々計算される。なお、数式(1)中のRANGEは調整後のデータのダイナミックレンジである。
【0014】
【数1】

【0015】
【数2】

【0016】
ここで得られたGAIN及びOFFSETにより、出力信号データSIGに対して数式(3)の補正式を適用することにより、補正処理されたエンコーダ出力データOUTPUTが得られる。
【0017】
【数3】

【0018】
このようにして補正処理されたエンコーダ出力データを用いて内挿演算を行うことにより、撮像装置に要求される高い精度のレンズ位置検出およびレンズの位置決め制御を実現することができる。
【特許文献1】特開2003−161645号公報(段落番号0024〜0032、図1等)
【特許文献2】特開平10−318790号公報(段落番号0011〜0020、図1等)
【特許文献3】特許第03008503号(段落番号0008〜0013、図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ここで、上述した位置演算処理手法と、原点位置検出手法とを組み合わせ、これによりコストや設置スペースを増大させることなくレンズの絶対位置を高精度に制御する手法の検討を進めていたところ、撮像装置としての性能低下という問題点が顕在化した。
【0020】
より詳しくは、既に図9で示したように、原点位置においてはエンコーダ信号の信号振幅が急激に変化し、これに伴い信号の最大値が得られる位置と最小値が得られる位置での信号振幅が異なってしまうため、上記数式(1)で得られるGAINは正確な信号振幅とは異なった値となる。また同様に信号振幅の変化に伴い信号の最大値と最小値とが振幅中心に対して上下非対称となるために、数式(2)で得られるOFFSETも信号の振幅中心とずれた値となる。この結果、エンコーダの出力信号データの補正処理に誤差が生じ、原点位置の近辺において内挿演算による位置検出の精度が低下してしまう。
【0021】
即ち、従来の原点位置検出手法と位置演算処理手法とを組み合わせた場合、原点位置付近における位置検出精度の低下により、原点位置付近でレンズ位置の制御精度が低下し、撮像時にピントボケが生じるなどの、撮像装置としての性能が低下してしまう場合がある。
【0022】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、以上に述べた原点位置付近での位置制御対象物の位置検出精度の低下による位置制御装置の性能低下を防止することを目的とする。また他の目的は、撮像装置内のレンズの位置制御のために位置制御装置を用いた場合に、撮像装置としての性能低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の位置制御装置は、位置制御対象物の移動範囲内における高い精度で位置検出が必要な第1の移動範囲で、前記位置制御対象物の移動に伴い所定の周期で連続して変化する周期信号を生成する周期信号生成部と、前記第1の移動範囲以外の第2の移動範囲で、前記位置制御対象物の移動に伴い前記周期信号とは異なる信号成分を含み不連続に変化する信号を生成する不連続信号生成部と、前記不連続信号生成部からの信号に基づいて位置制御の原点位置を検出すると共に、検出された原点位置を用いて前記周期信号生成部からの信号により位置制御対象物の絶対位置を検出する位置検出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0024】
本発明の位置制御方法は、位置制御対象物の移動に伴い生成された所定の周期で連続して変化する周期信号に基づいて前記位置制御対象物の位置を制御する位置制御方法であって、前記位置制御対象物の移動範囲内における高い精度での位置検出が必要な第1の移動範囲以外の第2の移動範囲で、前記周期信号とは異なる信号成分を含み不連続に変化する不連続信号を生成させ、この信号に基づいて原点位置を検出するステップと、前記原点位置を用いて前記第1の移動範囲内における前記位置制御対象物の絶対位置を検出するステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、第1の移動範囲内における位置制御対象物の移動に応じて、所定の周期で連続して変化する周期信号を生成し、この周期信号に基づいて位置制御対象物の絶対位置を検出することで、高精度の位置検出を行うことができる。また、第2の移動範囲内における位置制御対象物の移動に応じて、周期信号とは異なる信号成分を含み不連続に変化する信号を生成し、この信号に基づいて原点位置を検出することで、容易に原点位置を検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0027】
本発明の実施例1である位置制御装置を、撮像装置におけるレンズの位置制御に適用した場合について添付図面を参照しながら以下に説明する。
【0028】
図1は、位置制御装置を備えた撮像装置、例えばデジタルビデオカメラやデジタルスチルカメラの構成を示すブロック図である。図中201は、光軸方向(図1の矢印方向)に移動可能な位置制御対象物である、撮影光学系の一部のレンズ(フォーカスレンズ)であり、例えばリング状のレンズ支持部202aにより支持されて鏡筒202の内部に設けられている。
【0029】
レンズ支持部202aは駆動源としてのレンズ駆動モータ203からの駆動力を受けることでスライド移動可能であり、これによりレンズ201は光軸方向に移動可能なように構成されている。
【0030】
また、図中204は、光電変換素子である例えばCCDセンサやCMOSセンサなどの撮像素子である。レンズ201を介して入射された被写体からの光束は撮像素子204上に結像し、被写体像(光学像)が電気信号に変換される。撮像素子204から読み出された画像信号は、画像処理回路205において、例えば輝度信号や色信号を形成するなどの所定の画像処理が施され、カラーの画像信号(画像データ)が生成される。
【0031】
こうして生成された画像信号は、撮像装置に設けられた液晶表示部に表示されたり、磁気テープや画像記憶メモリなどの記憶媒体に記憶されたりする。
【0032】
なお、図1ではレンズ201を1枚のレンズとして示しているが、一般に撮影光学系は複数のレンズで構成されている。また、撮像装置は、像面に入射する光量を調節する光量調節ユニット(例えば、絞りユニットを含む)を備えている。さらに、撮影光学系の焦点距離を変更するズーム機構(ズームレンズを含む)を備えていてもよい。
【0033】
鏡筒202の内部には、図1および図2に示すように、光軸方向に延びる光学スケール301が、レンズ支持部202aに固定されたスケール支持部304に支持されて設けられている。つまり、光学スケール301は、レンズ201の移動に伴いレンズ201と一体的に光軸方向にスライド移動するように構成されている。
【0034】
光学スケール301の表面には、光軸方向に沿って一定の周期例えば等間隔に配列された所定の反射率を有する複数の光学格子302が設けられている。また、レンズ201の原点位置(基準位置)を検出するために、光学スケール301の表面には、光学的な特性が異なる不連続領域302aが設けられている。
【0035】
この不連続領域302aでは、光学スケール301の表面に設けられた複数の光学格子302の一部、例えば隣り合う3つの光学格子302における反射率が互いに異なっている。また、不連続領域302a内における光学格子302の反射率は、不連続領域302a外における他の光学格子302の反射率とは異なっている。
【0036】
例えば、スケールに黒色のマーキングを施すことにより、不連続領域302a内の光学格子302における反射率を変えることができる。
【0037】
即ち、光学スケール301は、所定の反射率を有する複数の光学格子302が光軸方向に並べられた第1の領域と、互いに異なる反射率を有する複数の光学格子302が光軸方向に並べられた第2の領域(不連続領域302a)とを有している。
【0038】
ここで、第1の領域内における複数の光学格子302は、略等しい反射率を有している。また、第1および第2の領域はそれぞれ、周期信号生成部及び不連続信号生成部として構成される。
【0039】
光学スケール301の表面に対向するように、光学センサ303が例えば鏡筒202の内周面に固定されて設けられている。この光学センサ303は、光学スケール301の表面に光を照射する発光部(図示せず)と、光学スケール301で反射した光を受光する受光部とを有している。
【0040】
受光部は、光軸方向に所定の間隔で並べられた3つの受光素子アレイ305が一体化されて構成されている。
【0041】
光学センサ303と光学スケール301とを組み合わせて光学式エンコーダとして使用される。受光素子アレイ301は、光学センサ303の発光部から照射され、光学スケール301で反射した干渉光を受光することで、例えば2相の正弦波状の信号(正弦波信号)を出力する。
【0042】
なお、正弦波信号は必ずしも2相に限定されるものではなく、3相以上の場合もあるが、以下の説明においては、2相の正弦波信号を用いて位置検出を行う場合について説明する。
【0043】
図1において、光学センサ303から出力された2相の正弦波信号は、アンプ306a,306bにて増幅され、位置検出手段としてのマイクロコンピュータ307に取り込まれる。マイクロコンピュータ307は、入力信号の補正処理、内挿演算などを行うことにより、レンズ201の現在位置を求める。そして、レンズ201を目標位置に移動させるための位置制御演算を行い、駆動信号を駆動回路308に出力する。
【0044】
駆動回路308は、マイクロコンピュータ307からの駆動信号に基づきレンズ駆動モータ203を駆動させて、レンズ201を目標位置に移動させる。
【0045】
ここで、マイクロコンピュータ307の具体的な構成について説明する。
【0046】
サンプルホールド回路401a,401bは、アンプ306a,306bにより増幅された信号をサンプリングする。A/D変換器402は、サンプルホールド回路401a,401bの出力信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換する。
【0047】
レンズ位置演算部403は、A/D変換器402の出力信号に対して補正処理、内挿演算処理などを行うことにより、レンズ201の現在位置を求める。位置制御演算部404は、レンズ位置演算部403での演算結果に基づいて、レンズ201を目標位置に移動させるための位置制御演算を行う。具体的には、レンズ201の現在位置から目標位置までの移動量を求める。
【0048】
オートフォーカス処理部406は、画像処理回路205からの信号に基づいて、撮影光学系が合焦状態となるレンズ201の位置(目標位置)を求め、この位置情報を位置制御演算部404に出力する。
【0049】
駆動信号生成部405は、位置制御演算部404での演算結果に応じた駆動信号を生成して駆動回路308に出力する。
【0050】
なお、レンズ位置演算部403、位置制御演算部404の機能は、電気回路でなくマイクロコンピュータで実行されるソフトウェアとして実現することもできる。
【0051】
本実施例の撮像装置において、位置制御対象物であるレンズ201の位置を検出するために行われる信号処理について図3を参照しながら説明する。先ず、レンズ201が移動可能範囲内の任意の位置にある場合、光学センサ303からは、レンズ201の現在位置に対応するサイン波及びコサイン波の2相の信号が出力される。
【0052】
マイクロコンピュータ307は、上述した数式(1)〜(3)を用いることにより、光学センサ303の出力信号に対してゲイン調整及びオフセット調整を行う。これにより、図3(A)に示すような振幅の揃った2相の信号(位相の異なる正弦波信号)が得られる。
【0053】
続いて、図3(B)に示すように、各相の信号に対して正負を反転させることで、4相(SIN、COS、−SIN、−COS)の信号を生成し、これらの信号の中から直線性に優れた信号成分を持つ相を選択する。ここで、4つの相はそれぞれ90°の位相差を持つため、図3(C)に示すように、レンズ201が位相90°分だけ移動するごとに選択される相が切り替わることとなる。
【0054】
そして、図3(D)に示すように、選択した相が切り替わるごとに、対応する信号成分のゲイン分だけ信号成分をシフトさせることで、レンズ201の位置に対して直線的に対応する位置演算結果(位置情報)を得る。この位置演算結果を用いて、レンズ201の現在位置における信号の電圧値に基づきその位置を検出する。
【0055】
上述したようにレンズ201の現在位置を検出し、この検出結果に基づいてレンズ201を駆動するフィードバックシステムを構成することにより、光学式エンコーダによる位置検出に基づいた位置制御が可能となる。
【0056】
なお、レンズ201を移動させる目標位置については、例えば画像処理回路205の出力信号からマイクロコンピュータ307にて撮像画像の合焦度を判定し、オートフォーカス処理部406により公知の合焦制御アルゴリズムに基づいて撮影光学系が合焦状態となるようなレンズ位置を目標位置として演算するなどして決定される。
【0057】
このような制御手法の一例としては、画像処理回路205から出力された信号の高周波成分のピークを検出して、レンズ201の駆動を制御する山登り方式と呼ばれるものが用いられる。具体的には、レンズ201を少しずつ移動させて高周波成分が増加する方向を見つけ、さらにその方向に目標位置を設定しながらレンズ201を移動させていき、高周波成分が増加から減少に変ったらピーク付近までレンズ201を戻し、再度目標位置を設定して微調整していくことによりピークを検出するようにする。
【0058】
なお、本実施例において、光学センサ303として、発光部および受光部が一体的に構成されたものを用いたが、別個に設けた構成にすることもできる。
【0059】
また、本実施例では、受光素子アレイ305が、光学スケール301からの反射光を受光する構成としたが、以下に説明する構成とすることもできる。すなわち、光学センサの発光部から照射された光を光学スケール(光学格子)で透過させ、透過した光を光学センサの受光部で受光する構成とすることができる。
【0060】
さらに、以上の説明では光学スケール301およびレンズ201と、光学センサ303および鏡筒202とがそれぞれ一体となっているものとしたが、レンズ201の移動に応じて、光学スケール301および光学センサ303が相対的に移動する構成であればよい。
【0061】
例えば、光学スケール301を鏡筒202に固定し、光学センサ303をレンズ201と一体となって移動させることもできる。
【0062】
次に、本実施例における撮影光学系の光学的有効範囲(撮像可能領域と呼ばれることもある)について、以下に詳しく説明する。撮影光学系は、所定の被写体距離範囲(例えば1m〜無限遠など)内にある被写体に対して合焦するように設計され、それに伴い焦点調節の際に必要となるレンズ201の移動範囲が決定される。この範囲が撮影光学系の光学的有効範囲となる。
【0063】
図4は、光学的有効範囲について詳しく説明するための図であって、被写体距離とフォーカスレンズの位置との関係を模式的に示した図である。なお、上述したように一般に撮影光学系は複数のレンズ群により構成されるが、ここでは簡単のため1枚のレンズ201で模式的に図示している。
【0064】
撮影光学系を構成する各レンズ群は、凸状又は凹状など種々の形状のレンズを組み合わせて構成されるが、複数のレンズ群の全て又は一部を位置制御対象物とすることができる。本実施例においては、焦点調節を行うフォーカスレンズ(レンズ201)を位置制御対象物としている。
【0065】
図4(A)は、例えば1mの離間距離(被写体距離)にある被写体の像が撮像素子204の撮像面上で合焦している状態を示しており、このときのレンズ201は位置Aにある。図4(B)は、無限遠の距離(被写体距離)にある被写体の像、すなわち略平行光線の像が合焦している状態を示しており、このときのレンズ201は位置Aよりも図中右側(つまり撮像素子204側)の位置Bにある。
【0066】
これらに対し、図4(C)では、レンズ201が位置Bよりもさらに右側の位置Cにあるが、この状態ではいかなる被写体距離にある被写体に対しても合焦状態とならない。
【0067】
このため光学設計上、レンズ201の移動位置は位置Aと位置Bとの間の範囲で制御すればよく、この範囲が光学的有効範囲となる。一方、位置Cは光学的有効範囲外(撮像可能領域外)であり、光学的有効範囲外でレンズ201の位置を制御することは光学的には実質意味をなさない。すなわち、撮像装置の合焦制御において、光学的有効範囲外にレンズ201を移動させる必要はない。
【0068】
光学的有効範囲(第1の移動範囲)内では、高精度でのレンズ位置の検出および位置制御が必要であるのに対し、光学的有効範囲以外の範囲(第2の移動範囲)では精度が低下しても撮像装置としての性能には影響しないか、あるいは影響があったとしても極めて小さい。
【0069】
以上を踏まえて、本発明の特徴である、光学スケール301上における原点の設定位置について説明する。
【0070】
図5は、光学スケール301のうち原点位置となり得る位置に、光学的な特性(反射率や透過率)が異なる不連続領域を設けた場合における、光学センサ303の出力信号を示す図である。なお、光学センサ303の出力信号は複数相あるが、ここでは説明を簡単とするために1相のみ示している。
【0071】
図5において、横軸は光軸方向におけるレンズ201の位置、縦軸は光学センサ303からの出力信号を示す。図5に示した位置Pが原点位置に対応し、位置Pを含む領域C内で出力信号の振幅が減少している。すなわち、領域C内において、領域Cの端から位置Pに向かって出力信号の振幅が減少している。この振幅の変化に基づいて、原点位置を検出することができる。
【0072】
一方、図5中の領域B内でのレンズ位置は、位置Pから十分離れており、出力信号の振幅が一定となっている。
【0073】
そこで、図5中の領域Aがレンズ201の移動可能範囲となり、かつ図5中の領域Bが撮影光学系の光学的有効範囲となるように、レンズ201、光学スケール301、光学センサ303を配置する。
【0074】
このような構成とすることにより、光学的有効範囲内においては光学式エンコーダからの出力信号の振幅は一定となり、高い精度でレンズ201の位置検出及び位置制御を行うことができる。
【0075】
一方、原点位置Pの近傍では出力信号の振幅が減少しているため、既述の演算処理を行うと位置検出精度が低下するおそれがある。しかし、原点位置の検出は、例えば撮像装置の起動時にのみ実行すればよく、前述したように撮影動作のときに光学的有効範囲外にレンズ201を移動させる必要はないために、この位置検出精度の低下が撮像装置の性能に影響することはない。
【0076】
これまで詳しく説明してきた処理方法や構成を用いて行われるレンズ201の位置制御の流れを、図6を参照しながら簡単に説明しておく。
【0077】
まず、例えば撮像装置の電源がオンにされるなどして起動されるか、又は操作者が撮像装置の操作部で所定の操作を行うと、レンズ201を第2の移動範囲における後方端に移動させ、例えば徐々に前方に移動させながら原点位置を検出する(ステップS501)。
【0078】
このとき、例えば図5を参照すると、原点位置は光学センサ303からの信号の再現性の信頼が高い点、例えばゲイン及びオフセットが補正された後の信号で中心軸と交わる点を検出することにより原点位置とする。
【0079】
こうして原点位置が検出されると、レンズ201を光学的有効範囲(第1の移動範囲)まで移動させる(ステップS502)。レンズ201が光学的有効範囲内に位置しているか否かは、検出した原点位置を基準位置として既述の位置演算を行うことにより判定する。
【0080】
撮像装置が起動処理を完了しオートフォーカス動作が開始されると、検出された原点位置を基準位置として既述の位置演算によりレンズ201の現在位置を検出する(ステップS503)。撮像素子204の出力信号を用いて合焦度を判定し、レンズ201の目標位置を設定する(ステップS504)。
【0081】
これら現在位置と目標位置に基づいてレンズ201の移動量が設定され、その設定値に基づいてレンズ201を目標位置まで移動させる(ステップS505)。
【0082】
本実施例によれば、光学式エンコーダ(光学センサ303)からの正弦波信号を処理してレンズ201の現在位置を検出すると共に、光学式エンコーダの光学スケール301に不連続領域302aを設けて原点位置を検出している。そして、原点位置を光学的有効範囲外に位置させている。
【0083】
これにより、原点位置付近でのレンズ位置制御精度の低下による撮像装置の性能低下を防止することができる。
【0084】
なお、本実施例においては、光学スケール301の表面に、所定の周期で連続して変化する信号を生成する領域と、この周期とは異なる信号成分を含む不連続な信号を生成する領域とを形成した構成、つまり共通の光学スケール301に周期信号生成部及び不連続信号生成部の両方を形成している。なお、別個に設けた光学スケールに不連続信号生成部を形成するようにしてもよい。
【0085】
更に、光学スケール301は直線状に形成しなくともよく、対象とする位置制御対象物の移動経路に応じてその形状を選択することができる。
【0086】
また、本発明においては、正弦波信号を出力するものであれば光学式エンコーダでなくともよく、例えば磁気式エンコーダを用いるようにしてもよい。
【0087】
磁気式エンコーダは、例えばレンズ201の移動方向に沿って延びるスケールに交互に逆極性となるような着磁を施し、さらにこのスケールの表面に対向して磁気抵抗素子としてのMRセンサを設けることによって構成することができる。
【0088】
この場合にもレンズ201が移動するとMRセンサから複数相の正弦波信号が出力されるので、既述の場合と同様に信号処理することによりレンズ201の高精度な位置制御を可能にすることができる。
【0089】
この場合、例えばスケールの着磁強度を低くした領域(不連続領域302aに対応する)をスケールの一部に設け、この領域においてMRセンサの出力を不連続に変化(出力信号の振幅を変化)させることで、本実施例と同様に原点位置の検出を行うことができる。
【0090】
本実施例によれば、原点位置の検出を容易に行うことができるとともに、レンズ201の絶対位置の検出を高精度で行うことができる。しかも、光学スケール301に、絶対位置の検出を行うために用いられる複数の光学格子302と、原点位置の検出を行うために用いられる複数の光学格子302とを設けているため、各位置を検出するための部材をそれぞれ設ける場合に比べて小型化および低コスト化を図ることができる。
【0091】
一方、本実施例では、上述したようにレンズ一体型のカメラ(光学装置)について説明したが、カメラ本体と、該カメラ本体に装着されるレンズ装置とで構成されるカメラシステムにおいて、レンズ装置(光学装置)内に位置制御装置を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の位置制御装置を、撮像装置のレンズ位置制御に適用した場合の実施の形態を示す図である。
【図2】上記位置制御装置の光学式エンコーダを示す図である。
【図3】上記光学式エンコーダからの信号の処理手順を示す図である。
【図4】被写体距離と合焦レンズ位置との関係を模式的に示す図である。
【図5】スケール上における原点の設定位置を示す図である。
【図6】レンズ位置制御の流れの概略を示す工程図である。
【図7】従来技術における原点位置の検出手段を示す図である。
【図8】スケール上に原点位置となる光学的不連続部を設けた状態での、エンコーダの出力信号の例を示す図である。
【図9】エンコーダ出力データの振幅、振幅中心の補正処理前の状態を示す図である。
【図10】エンコーダ出力データの振幅、振幅中心の補正処理後の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
201 レンズ
202 鏡筒
203 撮像素子
204 画像処理回路
205 レンズ駆動モータ
301 光学スケール
302 光学格子
302a 不連続領域
303 光学センサ
305 受光素子アレイ
307 マイクロコンピュータ
308 駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置制御対象物の移動範囲内における高い精度で位置検出が必要な第1の移動範囲で、前記位置制御対象物の移動に伴い所定の周期で連続して変化する周期信号を生成する周期信号生成部と、
前記第1の移動範囲以外の第2の移動範囲で、前記位置制御対象物の移動に伴い前記周期信号とは異なる信号成分を含み不連続に変化する信号を生成する不連続信号生成部と、
前記不連続信号生成部からの信号に基づいて位置制御の原点位置を検出すると共に、検出された原点位置を用いて前記周期信号生成部からの信号により前記位置制御対象物の絶対位置を検出する位置検出手段と、を備えたことを特徴とする位置制御装置。
【請求項2】
光学的特性が周期的に変化するパターンが形成された光学スケールと、この光学スケールに対して相対移動可能に設けられた受光部と、前記光学スケールを介して前記受光部に光を照射する発光部と、を有する光学式エンコーダを備え、前記光学スケールは前記周期信号生成部及び前記不連続信号生成部を兼ねていることを特徴とする請求項1に記載の位置制御装置。
【請求項3】
前記光学スケールは、所定の透過率又は反射率を有する複数の光学格子を並べて形成した部位と、この光学格子とは異なる透過率又は反射率を有する光学格子を並べて形成した部位と、を備えていることを特徴とする請求項2に記載の位置制御装置。
【請求項4】
磁気的特性が周期的に変化するパターンが形成された磁気スケールと、この磁気スケールに対して相対移動可能に設けられた磁気抵抗部と、を有する磁気式エンコーダを備え、前記磁気スケールは前記周期信号生成部及び前記不連続信号生成部を兼ねていることを特徴とする請求項1に記載の位置制御装置。
【請求項5】
前記位置制御対象物を移動させる移動手段と、前記位置検出手段の検出結果に基づいて前記移動手段により前記位置制御対象物を目標位置に移動させる位置制御手段と、を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の位置制御装置。
【請求項6】
前記周期信号生成部からの出力信号は複数相の正弦波状の信号であり、前記位置検出手段は、前記正弦波状の信号の振幅および振幅中心の情報を用いて前記出力信号を補正したデータを処理することにより前記位置制御対象物の位置を検出することを特徴とする請求項1に記載の位置制御装置。
【請求項7】
前記位置制御対象物は撮影光学系のレンズであり、前記第1の移動範囲は前記撮影光学系の光学的有効範囲であることを特徴とする請求項1に記載の位置制御装置。
【請求項8】
前記位置制御対象物は、撮影光学系を構成する複数のレンズのうち焦点調節を行うフォーカスレンズであることを特徴とする請求項7に記載の位置制御装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1つに記載の位置制御装置を備えたことを特徴とする光学装置。
【請求項10】
位置制御対象物の移動に伴い生成された所定の周期で連続して変化する周期信号に基づいて前記位置制御対象物の位置を制御する位置制御方法であって、
前記位置制御対象物の移動範囲内における高い精度での位置検出が必要な第1の移動範囲以外の第2の移動範囲で、前記周期信号とは異なる信号成分を含み不連続に変化する不連続信号を生成させて、この信号に基づいて位置制御の原点位置を検出するステップと、
前記原点位置を用いて前記第1の移動範囲内における前記位置制御対象物の絶対位置を検出するステップと、を含むことを特徴とする位置制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−194695(P2006−194695A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5501(P2005−5501)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】