説明

光学素子を製造するための研削装置、光学素子の製造方法、及び光学素子を製造するための金型または光学素子の形状・寸法を精密に測定する精密測定装置

【課題】 大型光学素子を大型望遠鏡などへ組み込む場合は、加工機のワーク支持治具へ被研削物を載置している場合と支持状態や荷重分布が異なるため、加工機に取り付けられた状態で測定される面形状が、組み込んだ状態の面形状とは異なるため、自重で変形する光学素子の製造装置は存在しなかった。
【構成】 光学素子となる被研削物の研削面に対向する裏面と研削状態において密着する形状のワーク支持面を有するワーク支持治具であって、ワーク支持面に開放部を備え、中心軸が垂直方向に向いている、複数のピエゾアクチュエータ内蔵穴を所定の穴配置位置に設け、それぞれのピエゾアクチュエータ内蔵穴の中に、ピエゾアクチュエータ及びロードセルを昇降自在に内蔵したワーク支持治具を備えた、自重で変形する光学素子を製造するための研削装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自重で変形する光学素子を製造するための研削装置に関する。また、本発明は自重で変形する光学素子の製造方法に関する。さらに、本発明は光学素子を製造するための金型または光学素子の形状・寸法を精密に測定する精密測定装置に関する。本明細書において、「光学素子」の語句には、レンズ及び反射鏡が含まれる。
本発明は主として研削加工機に光学的な干渉計装置を一体化した複合精密研削加工機として新たに設計製作したもので、特殊反射鏡や光学レンズなどの凹非球面光学素子や凸非球面光学素子の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
凹非球面形状をもつ高精度の反射鏡やレンズは、回転対称である軸対称非球面形状のものと対称軸がずれている非軸対称非球面形状のものがあり、どちらも通常の研削方法での製造や精度検定が難しいため、その有用性にもかかわらず、実際の製造例はごく限られている。
【0003】
カメラや投影機など通常の光学系に使用される反射鏡やレンズの面形状は回転対称であり、従来の製法は、NC精密旋盤の回転チャックに反射鏡またはレンズ硝材を取り付けて、ダイアモンドバイトにより形状を制御しながら切削加工を行う方法、およびレンズ硝材を水平のターンテーブルに固定して、テーブルを回転しながら、比較的高速回転させる砥石ホールで非球面の成型を行う方法がとられてきた。これらの方法では被研削面の形状測定は、機上において接触式・非接触式の変位計での計測は行われていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第1課題
大型光学素子を大型望遠鏡などの製品へ組み込む場合は、研削の際の加工機自身のワーク支持治具へ被研削物を載置している場合と支持状態や荷重分布が異なるため、研削機に取り付けられた状態のままで測定される面の形状が、実際の製品の面形状とは異なる。すなわち、大型光学素子は自重で変形する。
【0005】
必然的に自重変形が効くようなサイズの大きな反射鏡面やレンズ面、または相対的に厚さが薄い光学素子では、レンズ硝材の荷重分布や研削加工の際に蓄積するレンズ硝材の内部応力に起因して、研削終了後に固定を外して望遠鏡に組み込んだ時には、反射鏡面やレンズ面の形状が変わってしまう。
【0006】
第2課題
また、非球面の形状寸法を光干渉法によって精密に測定する方法が存在しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の第1課題は、請求項1に記載の本発明に係る研削装置、すなわち、光学素子となる被研削物の研削面に対向する裏面と研削状態において密着する形状のワーク支持面を有するワーク支持治具であって、ワーク支持面に開放部を備え、中心軸が垂直方向に向いている、複数のピエゾアクチュエータ内蔵穴を所定の穴配置位置に設け、それぞれのピエゾアクチュエータ内蔵穴の中に、ピエゾアクチュエータ及びロードセルを昇降自在に内蔵したワーク支持治具を備えた、自重で変形する光学素子を製造するための研削装置によって、解決される。
【0008】
本発明の好ましい実施態様においては、請求項2に記載のように、当該ワーク支持面に開放部を備え、中心軸が垂直方向に向いている複数の熱膨張アクチュエータ内蔵穴を所定の副穴配置位置に設け、それぞれの熱膨張アクチュエータ内蔵穴の中に熱膨張柱状部品と、当該柱状部品を加熱するためのヒータと、を内蔵している。
【0009】
本発明の他の好ましい実施態様においては、請求項3に記載のように、各穴配置位置において、各ロードセルで測定した荷重測定値と当該非球面光学素子を製品に組み込んだ際の荷重算出値とを比較し、荷重測定値と荷重算出値との差が所定値以下になるように、各穴配置位置におけるピエゾアクチュエータの突出寸法を制御して、模擬フローティング支持状態を創出する制御装置をさらに備えている。
【0010】
また、上記の第1課題は、請求項4に記載の本発明に係る光学素子の製造方法、すなわち、光学素子となる被研削物の研削面に対向する裏面と研削状態において密着する形状のワーク支持面を有するワーク支持治具であって、ワーク支持面に開放部を備え、中心軸が垂直方向に向いている、複数のピエゾアクチュエータ内蔵穴を所定の穴配置位置に設け、それぞれのピエゾアクチュエータ内蔵穴の中に、ピエゾアクチュエータ、ロードセルを昇降自在に内蔵したワーク支持治具を備えた、自重で変形する光学素子を製造するための研削装置を用いて、模擬フローティング支持状態において被研削物の研削面の途中形状・寸法と目標形状・寸法とを当該研削面上の所定点において比較し、寸法差を求める測定ステップと、その後に、被研削物をワーク支持面に密着させて研削状態とし、当該研削状態において、当該研削面上の所定点において当該寸法差に基づいて研削を行う研削ステップと、を、被研削物を研削装置から移動することなく、交互に行う、自重で変形する光学素子の製造方法によっても、解決される。
【0011】
上記の第2課題は、請求項5に記載の本発明に係る光学素子の形状・寸法を精密に測定する精密測定装置、すなわち、平行光発生装置と、ハーフミラーと、得ようとする研削面の形状・寸法に対応するCGHマスクと、金型または光学素子となる被研削材と、を順に配置し、当該被研削材に近接して基準平面を配置し、平行光発生装置からの平行光がCGHマスクを透過する際に回折されずに直進した0次回折光が当該基準平面に投射され、当該基準平面からの反射光が当該CGHマスクを再び透過する際に回折された1次回折光はハーフミラーで反射されて光路を側方へ変えて干渉計に第一光束として入射されるとともに、平行光発生装置からの平行光がCGHマスクを透過する際に回折された1次回折光が被研削材の研削面に投射され、当該研削面からの反射光が当該CGHマスクを再び透過する際に回折されずに直進する0次回折光は当該ハーフミラーで反射されて光路を側方へ変えて当該干渉計に第二光束として入射されて、第一光束と第二光束との干渉縞を当該干渉計が観察できるように、当該平行光発生源、当該ハーフミラー、当該CGHマスク、当該被研削材、当該基準平面、及び当該干渉計を配置してなること、を特徴とする非軸対称凸非球面の光学素子を製造するための金型または非軸対象凹非球面の光学素子の形状・寸法を精密に測定する精密測定装置によって、解決される。
【0012】
また、上記の第2課題は、請求項6に記載の本発明に係る光学素子の形状・寸法を精密に測定する精密測定装置、すなわち、平行光発生干渉計と、基準平面ハーフミラーと、ヌルレンズと、を金型または光学素子となる被研削材の対称軸にこれらの光軸とを一致させて、順に配置してなることを特徴とする、軸対象凸非球面の光学素子を製造するための金型または軸対象凹非球面の光学素子の形状・寸法を精密に測定する精密測定装置によって、解決される。
【0013】
さらにまた、上記の第2課題は、請求項7に記載の本発明に係る光学素子の形状・寸法を精密に測定する精密測定装置、すなわち、F付き光発生装置と、ハーフミラーと、上面が得ようとする研削面よりも非球面度の大きな凸面形状を有し、下面が得ようとする研削面と同一の凹面形状を有するヒンドルシェルであって、当該F付き光発生装置で発生したF付き光が、ハーフミラーを透過して直進し、ヒンドルシェルの上面から入射され、屈折され、下面からその法線方向へ放射されるように設計されたヒンドルシェルと、金型または光学素子となる被研削材とを、被研削材の対称軸にこれらの光軸を一致させて、順に配置するとともに、当該ハーフミラーの側方に干渉計を配置して、当該被研削材の研削面で反射された光が、ヒンドルシェルを通過した後、当該ハーフミラーで反射されて、光路を側方へ変えて、当該干渉計に入射されるように配置してなることを特徴とする、軸対称凹非球面の光学素子を製造するための金型または軸対称凸非球面の光学素子を精密に測定する精密測定装置によって、解決される。
【発明の効果】
【0014】
軸外しの凹非球面形状を含めた、任意の凹非球面の高精度成形を達成する。本発明によれば、凹非球面形状の被研削面計測を、多点荷重モニター式の浮上型フローティング支持治具とCGHマスク使用の完全一体型の機上干渉計システムとを組み合わせて行うもので、姿勢変化を伴う機器への組み込みまで含めた大型光学素子の研削加工製造を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
第1実施形態(ワーク支持治具)
図3は第1実施形態のワーク支持治具の部分正面断面図であり、図7は第1実施形態のワーク支持治具の平面図である。
【0017】
ワーク支持治具10とは、研削状態において被研削物8を支持する治具であり、被研削物8の研削面81に対向する裏面82と密着する形状のワーク支持面101を有する。被研削物はワークとも呼ばれ、本出願においては光学素子についてはレンズ硝材やプラスティック材が用いられ、金型については金属材料が用いられる。ワーク支持治具は回転制御を含めたX、Y軸駆動との同期制御によって研削加工を行う際に用いる治具である。ワーク支持治具10は被研削物8と回転テーブル11との間に配置される。そして、回転テーブル11はXYステージ12の上に載置されている。
【0018】
ワーク支持治具10にはピエゾアクチュエータ3、ロードセル2、支持パッド1からなるピエゾアクチュエータ機構を昇降自在に内蔵するピエゾアクチュエータ内蔵穴102が3個以上、好ましくは数十個設けてある。ピエゾアクチュエータ内蔵穴102の開放部103はワーク支持面101に位置し、ピエゾアクチュエータ内蔵穴102の中心軸104は垂直方向を向いている。中央にねじ孔41が設けてある円板状の可動ステージ4と、当該可動ステージ4が平行を保ちつつ中心軸104の方向に上下移動するのを案内するガイドピン5と、当該ねじ孔41と螺合するねじ軸7と、当該ねじ軸7を正逆回転させるギアードモーター6と、からなる昇降機構によって、ピエゾアクチュエータ機構は精密に昇降させられる。
【0019】
また、ワーク支持治具10には熱膨張柱状部品の一例としてのアルミニウム棒13を昇降自在に内蔵する熱膨張アクチュエータ内蔵穴105が多数個設けてある。ヒータ14によって当該アルミニウム棒13を加熱すると、当該アルミニウム棒13が熱膨張して、その先端が熱膨張アクチュエータ内蔵穴105から突出する。
【0020】
研削状態において、ピエゾアクチュエータ機構はピエゾアクチュエータ内蔵穴102の中に収納されており、支持パッド1はワーク支持面101より下に位置しているとともに、アルミニウム棒13は熱膨張アクチュエータ内蔵穴105の中に収納されており、アルミニウム棒13の上端はワーク支持面101より下に位置しており、被研削物の裏面82はワーク支持面101にのみ接触して支持されている。すなわち、支持パッド1は被研削物の裏面82と接触していないとともにアルミニウム棒13の上端は被研削物の裏面82と接触していない。
【0021】
研削の1パス(研削ホイールが一通り研削面全面をスキャンすることを1パスと呼ぶ)が終了して、研削面の寸法・形状を精密に測定する前には、初めに、ヒータ14によって当該アルミニウム棒13を加熱して、当該アルミニウム棒13を熱膨張させる。すると、その上端が熱膨張アクチュエータ内蔵穴105から突出し、被研削物の裏面82と接触して、被研削物8をわずかに押し上げ、被研削物8とワーク支持面101との密着を断つ。続いて、昇降機構によって、ピエゾアクチュエータ機構を上昇させ、支持パッド1を被研削物8の裏面82に当接させる。続いて、ピエゾアクチュエータ3を作動させ、被研削物8を所定の位置にわずかに浮かせて、所定の姿勢に保つ。この時に被研削物8は各支持パッド1によって支持され各ロードセル2によって各支持パッド1にかかる荷重を測定される。各ロードセルで測定した荷重測定値と当該被研削物である光学素子を大型望遠鏡等の製品に組み込んだ際の荷重算出値とを比較し、荷重測定値と荷重算出値との差が所定値以下になるように、各穴配置位置におけるピエゾアクチュエータの突出寸法を精密に制御して、模擬フローティング支持状態を創出する。
【0022】
模擬フローティング支持状態においては、大型望遠鏡等の製品に組み込んだ際と同様に被研削物である光学素子はその自重で変形する。製品組み込み時と同様に自重で変形している模擬フローティング支持状態において、当該被研削物の研削面の形状・寸法を精密に測定するのである。本発明の光学素子の製造方法では、研削砥石9とワーク支持治具10と干渉計などの寸法・形状測定機構が一体に組み込まれた装置を用い、ワーク支持治具10と制御装置によって、自動的にその場で研削状態と模擬フローティング支持状態とを切り替え、研削加工と形状・寸法精密測定を交互に行うことができる。したがって、自重で変形する光学素子を精密に加工し製造することができる。
【0023】
なお、熱膨張アクチュエータは、安価で大きな力を発生できるが、移動距離を精密に増減できない。一方、ピエゾアクチュエータは移動距離を精密に増減できるが、極めて高価である。被研削物がワーク支持治具に密着しているのを分離するためには、被研削物の静的な荷重の3倍程度の力が必要であるが、この力をピエゾアクチュエータのみに負担させるとコストが高くなってしまう。そこで、被研削物とワーク支持治具との分離を熱膨張アクチュエータによって行い、分離後の精密移動はピエゾアクチュエータに担当させるように意図している。すなわち、移動距離の精度と設備のコストとの両立を本発明は達成しているのである。
【0024】
第2実施形態(凹非軸対称非球面レンズの加工と寸法・形状測定)
図1は第2実施形態の凹非軸対称非球面レンズの加工・測定装置の正面概略図である。
【0025】
フレーム50は、加工部及び測定部を組み込み、一体化構成するともにに、周囲の振動に影響されないよう施工された基礎部の上に設置されている。すなわち除震された一体フレームである。
【0026】
第2実施形態の凹非軸対称非球面レンズの加工・測定装置の測定部について説明する。光源部16は、通常のヘリウム・ネオンレーザーのレーザー光源161と不図示の対物レンズとピンホ−ル162を含む。波長632.8ナノメータの平行波面を発生する基準となる点状の光源の発生と、F比4程度の広がりをもつ光束を射出する。光源からの光を平行光にするためコリメータレンズ17、ハーフミラー18、得ようとする研削面の形状・寸法に対応するCGH(計算機合成ホログラム)マスク19が光路に順番に配置されている。ハーフミラー18は、光源部16からの光束を透過して、被研削物8の研削面81及び当該被研削物8に近接して配置された基準平面20に投射されるとともに、当該研削面81からの反射光束及び当該基準平面20からの反射光束を反射して干渉計21へ投射される。光源部16からの光束がCGHマスク19を透過する際に回折されずに直進する0次回折光が基準平面20に投射され、当該基準平面20からの反射光は当該CGHマスク19に逆方向から透過する際に回折されて1次回折光となりハーフミラー18に投射される。CGHマスク19はガラスプレートに得ようとする凹非軸対称非球面の形状のデータに基づいて予めコンピュータで計算された2次元の干渉縞のパターンが刻線されている。また、光源部16からの光束がCGHマスク19を透過する際に回折された1次回折光が研削面81に投射され、当該研削面81からの反射光は当該CGHマスク19に逆方向から透過する際に回折されず直進し0次回折光がハーフミラー18に投射される。干渉計21にはCCDカメラが収納されており、被研削面からの反射光と、基準平面からの反射光を合わせて干渉させて干渉縞を記録する。CGHマスクの2次元の干渉縞のパターンを変更すれば、非軸対称(軸はずし)あるいは軸対称のあらゆる非球面を精密に測定することができる。
【0027】
次に、第2実施形態の凹非軸対称非球面レンズの加工・測定装置の加工部について説明する。研削加工機の主軸に装着された砥石ホイール9には、目的とする凹非球面を成形するために粗い研削用砥石、中段階の研削用砥石及び仕上げ面研削用砥石を順に装着して研削を行う。凹非球面加工を行う被研削物8はワーク支持治具10の上に載置されている。当該ワーク支持治具10はXYステージ12の上に載置されており、当該XYステージ12は回転台11の上に載置されている。回転台11は回転制御が可能となっている。XYステージ12はX方向及びY方向に移動可能である。回転制御とX軸Y軸移動との同期をとりながら研削することによって、軸外し非球面加工が可能となる。
【0028】
ワーク支持治具10は第1実施形態で説明したものであり、被研削物8を密着して支持する研削状態と被研削物8を少し浮かせた模擬フローティング支持状態とを自動的に切り替え、研削加工と形状・寸法精密測定を交互に行うものである。第2実施形態の凹非軸対称非球面レンズの加工・測定装置によれば測定結果を補正として直ちに研削プログラムにフィードバックすることができる。
【0029】
研削加工機は、曲率半径が10mの凹非球面の加工を想定したものである。干渉計の光源位置は研削加工面からの高さが約10000mm(10ミリ)となり、これにより外形の最大の差し渡し径 1400mm の硝材を、近似曲率半径 10000mm までの凹非球面(例えばリッチィクレティアンタイプの望遠鏡の主鏡)の分割鏡(セグメント鏡)として製作することができる。第2実施形態によれば、従来の研磨の方法では軸外し凹非球面形状の成形や測定が非常に困難であった口径が1mを超えるような大型の凹面鏡の研削加工や測定が可能となる。
【0030】
第3実施形態(凹非軸対称非球面レンズの加工と寸法・形状測定)
図2は第3実施形態の凹非軸対称非球面レンズの加工・測定装置の正面概略図である。第3実施形態は第2実施形態と似ているが、光源部16と干渉計21が変更されている。
【0031】
光源部16は、レーザー光源163と光ファイバーのファイバー導光路164と不図示の対物レンズとピンホール162を含んでおり、レーザー光源163と対物レンズとの間を導光路164で結んでいる。干渉計21はカメラレンズとCCD素子を含んでおり、焦点距離調整台22に載置されている。
【0032】
ヘリウムネオンレーザー光源163は、波長 632.8 ナノメータの光を発生し、被研削加工面と基準平面を照射して干渉パターンを得るのに十分な強度をもつ光源である。ファイバー導光路164はその一端をピンホールの近くに配置されていて、光をピンホールへ導く。ピンホール162は、レーザー光を点状光源として射出するための小穴である。ピンホールから射出された光は、約F比4程度の広がりをもって、次に置かれているコリメータレンズ17によって平行光束が作られる。平行光束はハーフミラー18を通過してCGHマスクプレート19に入り、1次の回折光は被研削面に広がりながら射出していく。一方、0次の回折は平行光束のままで向きを変えないで、基準平面に射出していく。それぞれの面で反射して戻ってきた光はCGHマスク19を逆向きに通過する際、被研削面からの反射光は0次の回折を、また基準平面から戻ってきた光は1次の回折を受けてからハーフミラーに当たって干渉計21に向かう。このとき、両方の反射光ともに平行ではなく収束する光束としてカメラレンズを照射する。このような構成で被研削面全体をCCD素子で撮像すれば被研削面の面形状・寸法と基準平面との干渉パターンを記録することができるのである。
【0033】
第4実施形態(凹軸対称非球面レンズの加工と寸法・形状測定)
図5は第4実施形態の凹非軸対称非球面レンズの加工・測定装置の正面概略図である。
第2及び第3実施形態では凹非軸対称非球面の研削加工面形状の測定を、干渉計及び面形状に対応するCGHマスクを用いて行うが、軸対称の非球面の場合には、干渉計及び面形状に対応するヌルレンズを用いて測定する。この場合は、得ようとする凹非球面の近似球面の中心に相当する位置に平行光を射出する干渉計である平行光射出・干渉計23を配置する。当該平行光射出・干渉計23から射出されたF付の光束は、基準平面ハーフミラー24を透過した後に得ようとする凹非球面形状に対応したヌルレンズ25を通して、測定すべき研削面81′全体を照射する。適切な広がり角の光束が研削面81′で反射され、再度ヌルレンズ25に入射され平行光となる。平行光射出・干渉計23の前に設置されている基準平面ハーフミラー24の反射光と再度ヌルレンズ25に入射された平行光との干渉縞を解析して、研削面81′の形状・寸法を測定するのである。
【0034】
第4実施形態の凹非軸対称非球面レンズの加工・測定装置によれば、測定部と、精密な大型研削加工機と一体化しているので、軸対称非球面形状である被研削物の被研削面の形状・寸法を計測して直ちに研削加工にフィードバックし研削加工を行うことを繰り返すことができる。
【0035】
第5実施形態(凸非球面レンズの加工と寸法・形状測定)
図6は第5実施形態の凸非球面レンズの加工・測定装置の正面概略図である。
【0036】
上記の第2、3,4実施形態は、いずれも凹非球面レンズの研削加工と形状・寸法測定に関する実施形態を述べたものであるが、本第5実施形態は、凸非球面の機上計測をしながら研削加工を行って検査結果を研削加工にフィードバックするものである。
【0037】
研削加工中の凸面の機上測定は、ヌルレンズの役目をするヒンドルシェル26を用いて行う。ヒンドルシェル26はメニスカス形状の透過ガラスで作られている。その上面261は球面から外れる程度が大きな凸面形状であり、下面262は研削面81′′と得ようとする凸非球面の形状に対応した凹面となっている。必要に応じて待機位置にヒンドルシェル26′を移動させることができる。出し入れが可能な可動機構に搭載して使用する。ヒンドルシェル26のサポートは、ガラス接着剤で上面側に貼り付けたパッドからワイーヤで吊る方法が一般的で、収納・検査の位置移動を行う。
【0038】
図6に示すように、ヒンドルシェル26の上面261からF付きビームが入ってきたときに、屈折してガラスの中に入った光線が、下面262の非球面の法線方向に射出されるように設計されている。したがって、研削面81′′における反射光と、ヒンドルシェル下面262における反射光との干渉を干渉縞として観察し解析することによって面形状を高精度で測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上説明したように本発明によれば、軸外しの凹非球面反射鏡や凹非球面レンズ(第2,3実施形態)、軸対称の凹非球面反射鏡や凹非球面レンズ(第4実施形態)、および凸非球面反射鏡や凸非球面レンズ(第5実施形態)を、研削加工機と一体化して組み立てられた機上計測により、全面の光学的な干渉法測定を可能とするもので、その計測結果を直ちに研削や付加されている研磨の加工過程にフィードバックすることができる。そのため、通常の研削加工では達成が困難な高精度の非球面の成形が効率的にできるのである。研削面の表面粗さは加工機本体に付属させる磨き装置により、Ra=10nm 以下の所定の表面粗さが達成できた。
【0040】
また、本発明のワーク支持治具によれば、自動的にその場で研削状態と模擬フローティング支持状態とを切り替え、研削加工と形状・寸法精密測定を交互に行うことができる。したがって、自重で変形する光学素子を精密に加工し製造することができる(第1実施形態)。
【0041】
なお、第2、3、4、5実施形態においては、第1実施形態のワーク支持治具を含んでいるが、金型など自重で変形しない被研削物へ応用する場合には、通常のワーク支持治具を用いても良い。
【0042】
第2,3実施形態は凸非軸対称非球面のレンズを製造するための金型についての研削と形状・寸法測定に応用することができる。
【0043】
第4実施形態は凸軸対称非球面のレンズを製造するための金型についての研削と形状・寸法測定に応用することができる。
【0044】
そして、第5実施形態は凹非球面のレンズを製造するための金型についての研削と形状・寸法測定に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第2実施形態の凹非軸対称非球面レンズの加工・測定装置の正面概略図である。
【図2】第3実施形態の凹非軸対称非球面レンズの加工・測定装置の正面概略図である。
【図3】第1実施形態のワーク支持治具の部分正面断面図である。
【図4】第1実施形態のワーク支持治具の部分正面断面図である。
【図5】第4実施形態の凹非軸対称非球面レンズの加工・測定装置の正面概略図である。
【図6】図6は第5実施形態の凸非球面レンズの加工・測定装置の正面概略図である。
【図7】第1実施形態のワーク支持治具の平面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 支持パッド
2 ロードセル
3 ピエゾアクチュエータ
4 可動ステージ
41 ねじ孔
5 ガイドピン
6 ギアードモーター
7 ねじ軸
8 被研削物
81 研削面
81′ 研削面
81′′ 研削面
82 裏面
9 研削砥石、砥石ホイール
10 ワーク支持治具
101 ワーク支持面
102 ピエゾアクチュエータ内蔵穴
103 開放部
104 中心軸
105 熱膨張アクチュエータ内蔵穴
11 回転テーブル
12 XYステージ
13 アルミニウム棒
14 ヒーター
16 光源部
161 レーザー光源
162 ピンホ−ル
163 レーザー光源
164 ファイバー導光路
17 コリメータレンズ
18 ハーフミラー
19 CGH(計算機合成ホログラム)マスク
20 基準平面
21 干渉計
22 焦点距離調整台
23 平行光射出・干渉計
24 基準平面ハーフミラー
25 ヌルレンズ
26 ヒンドルシェル
26′ ヒンドルシェル
261 上面
262 下面
50 フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子となる被研削物の研削面に対向する裏面と研削状態において密着する形状のワーク支持面を有するワーク支持治具であって、ワーク支持面に開放部を備え、中心軸が垂直方向に向いている、複数のピエゾアクチュエータ内蔵穴を所定の穴配置位置に設け、それぞれのピエゾアクチュエータ内蔵穴の中に、ピエゾアクチュエータ及びロードセルを昇降自在に内蔵したワーク支持治具を備えた、自重で変形する光学素子を製造するための研削装置。
【請求項2】
当該ワーク支持面に開放部を備え、中心軸が垂直方向に向いている、複数の熱膨張アクチュエータ内蔵穴を所定の副穴配置位置に設け、それぞれの熱膨張アクチュエータ内蔵穴の中に、熱膨張柱状部品と、当該柱状部品を加熱するためのヒータと、を内蔵した、請求項1に記載の研削装置。
【請求項3】
各穴配置位置において、各ロードセルで測定した荷重測定値と当該非球面光学素子を製品に組み込んだ際の荷重算出値とを比較し、荷重測定値と荷重算出値との差が所定値以下になるように、各穴配置位置におけるピエゾアクチュエータの突出寸法を制御して、模擬フローティング支持状態を創出する制御装置をさらに備えた、請求項1または2に記載の研削装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1つに記載の研削装置を用いて、模擬フローティング支持状態において光学素子となる被研削物の研削面の途中形状・寸法と目標形状・寸法とを当該研削面上の所定点において比較し、寸法差を求める測定ステップと、その後に、被研削物をワーク支持面に密着させて研削状態とし、当該研削状態において、当該研削面上の所定点において当該寸法差に基づいて研削を行う研削ステップと、を、被研削物を研削装置から移動することなく、交互に行う、自重で変形する光学素子の製造方法。
【請求項5】
平行光発生装置と、ハーフミラーと、得ようとする研削面の形状・寸法に対応するCGHマスクと、被研削材と、を順に配置し、当該被研削材に近接して基準平面を配置し、平行光発生装置からの平行光がCGHマスクを透過する際に回折されずに直進した0次回折光が当該基準平面に投射され、当該基準平面からの反射光が当該CGHマスクを再び透過する際に回折された1次回折光はハーフミラーで反射されて光路を側方へ変えて干渉計に第一光束として入射されるとともに、平行光発生装置からの平行光がCGHマスクを透過する際に回折された1次回折光が金型または光学素子となる被研削材の研削面に投射され、当該研削面からの反射光が当該CGHマスクを再び透過する際に回折されずに直進する0次回折光は当該ハーフミラーで反射されて光路を側方へ変えて当該干渉計に第二光束として入射されて、第一光束と第二光束との干渉縞を当該干渉計が観察できるように、当該平行光発生源、当該ハーフミラー、当該CGHマスク、当該被研削材、当該基準平面、及び当該干渉計を配置してなること、を特徴とする非軸対称凸非球面の光学素子を製造するための金型または非軸対象凹非球面の光学素子の形状・寸法を精密に測定する精密測定装置。
【請求項6】
平行光発生干渉計と、基準平面ハーフミラーと、ヌルレンズと、を、金型または光学素子となる被研削材の対称軸にこれらの光軸とを一致させて、順に配置してなることを特徴とする、軸対象凸非球面の光学素子を製造するための金型または軸対象凹非球面の光学素子の形状・寸法を精密に測定する精密測定装置。
【請求項7】
F付き光発生装置と、ハーフミラーと、上面が得ようとする研削面よりも非球面度の大きな凸面形状を有し、下面が得ようとする研削面と同一の凹面形状を有するヒンドルシェルであって、当該F付き光発生装置で発生したF付き光が、ハーフミラーを透過して直進し、ヒンドルシェルの上面から入射され、屈折され、下面からその法線方向へ放射されるように設計されたヒンドルシェルと、金型または光学素子となる被研削材とを、被研削材の対称軸にこれらの光軸を一致させて、順に配置するとともに、当該ハーフミラーの側方に干渉計を配置して、当該被研削材の研削面で反射された光が、ヒンドルシェルを通過した後、当該ハーフミラーで反射されて、光路を側方へ変えて、当該干渉計に入射されるように配置してなることを特徴とする、軸対称凹非球面の光学素子を製造するための金型または軸対称凸非球面の光学素子の形状・寸法を精密に測定する精密測定装置。
【請求項8】
請求項1から3までのいずれか1つに記載のワーク支持治具の上に、当該被研削材が載置されることを特徴とする、請求項5から7までのいずれか1つに記載の光学素子の形状・寸法を精密に測定する精密測定装置。
【請求項9】
除震された一体構造のフレームに、請求項5から8までのいずれか1つに記載の精密測定装置及び請求項1から3までのいずれか1つに記載のワーク支持具が組み込まれていることを特徴とする、自重で変形する光学素子を製造するための研削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−166136(P2009−166136A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3479(P2008−3479)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(508010536)株式会社ナノオプトニクス研究所 (4)
【Fターム(参考)】