説明

光断層画像撮像装置及びその制御方法

【課題】被検査物の移動により生じる取得画像の、XYZ座標におけるZ方向に当たる眼底の深さ方向の変形または変位を低減するために、撮像中における被検査物の移動量を検出する光断層画像撮像装置等を提供する。
【解決手段】被検査物の断層画像を撮像するOCTシステムを備えた光断層画像撮像装置であって、
複数のビームからなる光をXY座標で走査する単一の走査手段と、
前記走査手段により走査される走査角の設定によって、XY座標で高速に走査する軸方向である、主走査方向に空間分割されると共に該空間分割された境界部分で重なり合う領域を持つように、被検査物に照射する手段と、
前記空間分割された境界部分で重なり合う領域の断層像の、XYZ座標におけるZ方向に当たる深さ方向の位置差を求める手段と、
前記求められた前記空間分割された境界部分で重なり合う領域の断層像の深さ方向の位置差から、被検査物の移動量を算出する手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物の断層画像を撮像する光断層画像撮像装置及びその制御方法に関し、特に眼科診療等に用いられる干渉光学系を有する光断層画像撮像装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、眼科用機器として、様々な光学機器が使用されている。
中でも、眼を観察する光学機器として、前眼部撮影機、眼底カメラ、共焦点レーザー走査検眼鏡(Scanning Laser Ophthalmoscope:SLO)や、
低コヒーレント光による光干渉を利用した光断層画像撮像装置である光コヒーレンストモグラフィ(OCT:Optical Coherence Tomography)等、様々な機器が使用されている。
特に、この低コヒーレント光による光干渉を利用したOCTシステムを備えた光断層画像撮像装置は、眼底の断層像を高解像度に得る装置であり、現在、網膜の専門外来では必要不可欠な装置になりつつある。
以下、このようなOCTシステムを備えた光断層画像撮像装置を、OCT装置と記す。
【0003】
OCT装置は低コヒーレント光を、網膜に代表されるサンプルに照射し、そのサンプルからの反射光を干渉計を用いることで、高感度に測定する装置である。また、OCT装置は該低コヒーレント光を、該サンプル上にスキャンすることで、断層像を得ることができる。特に、網膜の断層像は眼科診断に広く利用されている。
ところで、OCT装置により撮像する際、スキャンにより画像を構成することから、撮像中に被検査物が移動した場合、取得する画像に変形または変位を生じる
こととなる。
特に、被検査物が人の眼である場合、眼球の固視微動と呼ばれる不随意的な眼球運動や、頭部全体を含む眼球の前後方向等の運動により、取得する画像に変形または変位を起こすことが問題となる。
このような変形を防ぐための方策の一つとして、高速にスキャンすることが求められており、そのための提案はいくつかなされている。
その1つとして、特許文献1では、複数ビームでの画像取得を行うOCT装置が開示されている。
これによると、単一ビームでの取得と比較して、画像収録時間を短縮することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−508068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、OCT装置を用いて被検査物の断層画像を撮像する際、撮像中に被検査物が移動した場合、特に、眼球に前後方向等に動きがあると、取得される画像に深さ方向の変形または変位が発生してしまうこととなる。
昨今では眼底観察を行う場合等において、このような変形または変位を低減することが重要な課題となっている。
上記した特許文献1のOCT装置によれば、複数ビームでの画像取得により、単一ビームでの取得と比較し、画像収録時間を短縮することが可能とされている。しかしながら、この特許文献1の装置では、被検査物である眼球の前後方向等の運動を検出して、取得される画像の深さ方向の変形または変位を低減することについては、何も考慮されていない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、被検査物の移動により生じる取得画像の、XYZ
座標におけるZ方向に当たる眼底の深さ方向の変形または変位を低減するために、撮像中における被検査物の移動量を検出する光断層画像撮像装置及びその制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、つぎのように構成した光断層画像撮像装置を提供するものである。本発明の光断層画像撮像装置は、光源から出射され、複数のビームからなる光を測定光と参照光とに分割し、これらの測定光による戻り光と参照光路を経由した参照光とを合波させた干渉光を用い、被検査物の断層画像を撮像するOCTシステムを備えた光断層画像撮像装置であって、
前記複数のビームからなる光をXY平面に走査する単一の走査手段と、
前記走査手段により走査される走査角の設定によって、XY平面のうち高速に走査する軸方向である、主走査方向に空間分割されると共に該空間分割された境界部分で重なり合う領域を持つように、前記被検査物に照射する手段と、
前記空間分割された境界部分で重なり合う領域の断層像の、XYZ座標におけるZ方向に当たる深さ方向の位置差を求める手段と、
前記求められた前記空間分割された境界部分で重なり合う領域の断層像の深さ方向の位置差から、前記被検査物の移動量を算出する手段と、
を有することを特徴とする。
また、本発明の光断層画像撮像装置の制御方法は、複数のビームからなる測定光を被検査物の測定領域に照射することにより得られる戻り光を、それぞれ参照光と合波させた干渉光を取得する光断層画像撮像装置の制御方法であって、
前記測定領域の重なる部分の領域のそれぞれの画像を取得し、
前記それぞれの画像から深さ方向の位置差を求め、
前記求めた位置差に基づいて、前記被検査物の移動量を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被検査物の移動により生じる取得画像の、XYZ座標におけ
るZ方向に当たる眼底の深さ方向の変形または変位を低減するために、撮像中における被検査物の移動量を検出する光断層画像撮像装置及びその制御方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態における光断層画像撮像装置の構成を説明する模式図。
【図2】本発明の実施例1における画像収録範囲が重なり合う構成例を説明する図。
【図3】本発明の実施例1における画像取得中に眼球の前後方向の動きがない場合の断層画像取得例を説明する図。
【図4】本発明の実施例1における画像取得中に眼球の前後方向に動きがある場合の断層画像取得例を説明する図。
【図5】本発明の実施例2における画像取得中に被検眼が眼軸と直交方向に変位した場合の断層画像取得例を説明する図。
【図6】本発明を具現化する低コヒーレント光断層撮影装置のブロック図である。
【図7】本発明の実施形態における制御フローを説明するフローチャートである。
【図8】本発明の実施例2における制御フローを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態における被検査物の断層画像を撮像するOCTシステムを備えた光断層画像撮像装置について説明する。
本発明の実施形態の光断層画像撮像装置は、光源から出射され、複数のビームからなる光を測定光と参照光とに分割し、これらの測定光による戻り光と参照光路を経由した参照光とを合波させた干渉光を用い、フーリエドメイン方式のOCT装置を構成する。
その際、それぞれの複数のビームからなる光をXY座標で走査する走査手段により走査し、被検査物の測定領域である眼球における眼底の異なる部位を照射するように構成される。
そして、それぞれのビームの眼底照射位置関係をOCT装置のビームの高速走査軸方向である、主走査方向に空間分割するように配置される。
さらに、それぞれのビームの主走査方向の走査手段は、同一のものが用いられ、かつ、それぞれのビームの画像取得範囲をそれぞれの境界部位で重なり合う領域を持つような、走査角とされる。
また、画像収録時に、重なり合う領域に隣接するそれぞれのビームによる、重なりあう領域の取得画像を比較し、XYZ座標におけるZ方向に当たる眼底の深さ方向の位置差を求める手段が構成される。
また、前記求められた前記空間分割された境界部分で重なり合う領域の断層像の深さ方向の位置差から、前記被検査物の移動量を算出する手段が構成される。
さらに、前記算出された前記被検査物の移動量を元に、前記被検査物の移動により生じる取得画像の深さ方向の変形または変位を低減するように、前記参照光における光路長を変更する手段が構成される。
本実施形態では、以上のように、複数のビームの画像取得部位を主走査方向に空間分割して配置するため、同一画素数のデータ取得をする場合、走査速度を向上させることが可能とされており、そのビームの重なり領域での深さズレを用いるように構成されている。
したがって、追加の計測手段を必要とせずに、高速に眼球の固視微動や前後方向の運動を計測でき、眼底断層像取得のための参照光光路長を補正を行うことが可能となる。
【0011】
つぎに、図1を用いて、本実施形態のOCT装置の具体的構成について説明する。
低コヒーレント光を出射する光源101からの出射光は、光ファイバを通してビームスプリッタ102を用いて複数に分岐される。
そして、ファイバカプラ103〜105によって、参照光と測定光とに分割され
る。
分岐された測定光は、ファイバコリメータ106〜108によって、走査光学系に導かれる。
ファイバコリメータ106〜108から出射した測定光は、ガルバノスキャナ109によって主走査方向にスキャンされる。
そして、レンズ110、111により副走査方向のガルバノスキャナ112に導かれる。ここで、スキャナ109と112は、それぞれレンズ110と111によって共役関係の配置となる。
さらに、レンズ113,117によって、被検眼の瞳孔位置にて、それぞれのビームが交差し、被検眼の眼底でそれぞれのビームが焦点を結ぶように導かれる。このときに、各分岐したビームが、それぞれ矢印119〜121で示すような走査範囲を有している。
この矢印119〜121の走査方向がガルバノスキャナ109の主走査方向となっており、主走査方向に各ビームの取得画像範囲が空間分割されている。
【0012】
ファイバカプラ103〜105によって分割された、参照光は、ファイバコリメータ112〜124により、平行光となり、分散補償ガラス125を経由する。
そして、それぞれ参照光光路長を変更するためのステージ126上のミラー127、128によって、さらに、高速参照光光路長変更ステージ130上のミラー131に導かれる。
測定光および参照光は、それぞれ同一の経路をたどり、カプラ103〜105に戻り、それぞれ対応する測定光と参照光が合波される。
合波された干渉光は、ファイバコリメータ132〜134より出射され、分光器135〜137に導かれ、干渉光の強度が検出されることにより断層画像が生成される。
【0013】
つぎに、本実施形態の光断層画像撮像装置において使用する各構成部の詳細について説明する。
低コヒーレント光光源101とは、時間コヒーレントが小さく、空間コヒーレントが大きい光源が望ましく、スーパールミネッセントダイオード、ASE(自然放出光)光源、フェムト秒レーザ光源、波長掃引レーザが好適に用いられる。
波長掃引光源を用いる場合は、分光器135〜137が、フォトダイオードとなる。
また、上記説明では、干渉計の構成をマイケルソン型としたが、マイケルソン型、マッハツェンダー型いずれも使用可能である。
また、干渉計光路は、空気中に開放した形態で構成してもよいし、当然ながら、上記した構成のように光ファイバ光学系で構成してもよい。
参照光光路の光路長可変手段は、空気中に開放した光をステージ上に搭載したミラーによって、光路長を可変にする方法が好適である。
ここでは、被検眼毎の個体差を吸収するための長作動距離のステージ126と短作動距離で高速応答のステージ130の2ステージによる構成をとっている。
また、被検眼の眼底の断層像として画像化するための方式としては、フーリエドメイン方式であるが、スペクトラルドメイン方式、スウェプトソース方式いずれも利用可能である。
【0014】
つぎに、本実施形態の光断層画像撮像装置における制御部の構成について、図6を用いて説明する。
401は中央演算装置である。402は、主走査方向であるX方向のスキャナを制御するスキャナドライバである。
403は、副走査方向であるY方向のスキャナを制御するためのスキャナドライバである。
404は、被検者毎に眼底の深さ方向位置を調整するための参照光光路を変更するためのステージを制御する、ステージコントローラである。
405は、眼底断層像取得中の眼球前後方向動作を追尾するための、参照光光路長変更手段である追尾ステージのコントローラである。
409〜411は、スペクトラルドメイン方式のOCT信号を取得するための分光器用のラインセンサーである。
406は、結果表示および検者の操作用のユーザインターフェースを司る表示装置である。
407は、動作プログラム、撮像結果を格納するための固定ディスク装置である。
408は、プログラムを動作時にロードするため、および、動作時に一次的にデータを格納しておくための主記憶装置である。
本実施形態の光断層画像撮像装置における制御部は、以上の各構成を備え、図1に記載の各部の制御等を行う。
【0015】
つぎに、図7に示すフローチャートを用いて、本実施形態における第1の制御フローについて説明する。
本制御フローは、上記した図6に示す制御部によって、画像を取得したタイミングで実行される。
まず、ステップ501で処理を開始する。
次に、502〜504の各ステップでの処理を、ビームの重なり領域数分(主走査方向のビーム数−1)繰り返す。
すなわち、ステップ502での処理において、N番目(ループ回数番目)の重なり領域の画像の右側のビームによって取得された画像を得る。
また、ステップ503での処理において、N番目(ループ回数番目)の重なり領域の画像の左側のビームによって取得された画像を得る。
ステップ504での処理によって、ステップ502で得られた画像とステップ503で得られた画像から、XYZ座標におけるZ方向に当たる深さ方向の位置ズレを求める。
次に、ステップ505において、すべての重なり領域の処理を完了したかの確認を行う。
次に、ステップ506において、ステップ504で求めたすべての重なり領域の深さ方向のズレ量から平均値を求める。
次に、ステップ507において、ステップ506で求めた平均値から眼球の変位量を計算する。
次に、ステップ508において、参照光のディレイラインをステップ507で求めた眼球の変位量だけ駆動する。
【実施例】
【0016】
つぎに、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1では、本発明を適用したOCTシステムを備えた光断層画像撮像装置(OCT装置)について説明する。
本実施例のOCT装置は、基本構成において上記した図1に示す本発明の実施形態と同様のものが用いられる。
低コヒーレント光源101は、ここでは、840nmを中心波長とした、波長幅50nmのSLD光源を用いている。
この光源101からの出射光は、光ファイバを通して、ファイバビームスプリッタ102を用いて複数に分岐されている。
また、ここでは3分岐のスプリッタを用いている。そして、ファイバカプラ103〜105によって、参照光と測定光とに分割する。
分岐された測定光は、ファイバコリメータ106〜108によって、走査光学系に導かれる。
ファイバコリメータ106〜108から出射した測定光は、それぞれある角度を持って、ガルバノスキャナ109に入射する。
ガルバノスキャナ109によって主走査方向にスキャンされる。レンズ110,111により副走査方向のガルバノスキャナ112に導かれる。
ここで、スキャナスキャナ109と112は、それぞれレンズ110と111によって共役関係の配置となる。
さらに、レンズ113,117によって、被検眼の瞳孔位置にて、それぞれのビームが交差し、被検眼の眼底でそれぞれのビームが焦点を結ぶように導かれる。このときに、各分岐したビームがそれぞれ矢印119〜121で示す走査範囲を有している。
この矢印119〜121の走査方向がスキャナ109の走査方向となっており、
主走査方向に各ビームの取得画像範囲が空間分割されており、かつ、主走査方向に取得画像範囲が重なり合うように構成されている。
【0017】
この重なり合いのイメージ図を図2に示す。
200が被検眼の眼底2次元イメージである。
領域201は、図1の矢印119で示される走査範囲に対応する、3次元、画像収録範囲である。
同様に、領域202に対して矢印120、領域203に対して矢印121で示される走査範囲が対応する画像収録範囲である。
図2に示されているように、これらの画像収録範囲は重なり合う領域が設けられている。ここでの主走査方向は、横方向となっている。
断層像でのイメージは、図3の(a)(b)のような形態となる。201に対して301、202に対して302、203に対して303のそれぞれの断層が対応している。
ここで、主走査方向は、図3(b)に示されるように、304の図内の矢印の方向がスキャン方向となっている。
【0018】
ファイバカプラ103〜105によって分割された参照光は、ファイバコリメータ122〜124により、平行光となり、分散補償ガラス125を経由する。そして、それぞれ参照光光路長を変更するためのステージ126上のミラー127、128を経由し、さらに、高速参照光光路長変更ステージ130上のミラー131に導かれる。
ここでは、ステージ126は、ボールネジを用いた、ステッピングモータ駆動で長作動距離が達成できるステージを用いている。
また、ステージ130は、ボイスコイルモータによる、高速応答可能なステージとなっている。
測定光および参照光は、それぞれ同一の経路をたどり、カプラ103〜105に戻り、それぞれ対応する測定光と参照光とが合波される。合波された干渉光は、ファイバコリメータ132〜134より出射され、分光器135〜137に導か
れる。
分光器135〜137によって取得される干渉スペクトルは、図6に示される制御部によって、各々、フーリエ変換処理が行われ、断層画像に変換される。
このフーリエ変換処理は、フーリエドメイン式OCT装置における基本的な処理方式であり、既に多数の報告がなされている処理であることから、ここでは説明は省略する。
【0019】
つぎに、本実施例のOCT装置における制御部の構成について説明する。
本実施例の制御部は、基本的には図6に示される本発明の実施形態と同様の構成のものが用いられる。
本実施例の制御部における制御プログラムは、固定ディスク装置407に格納されており、装置起動時に主記憶装置408に読み込まれる。
検者の操作は、操作用インターフェース412からなされる。
ここでは、キーボード、マウスが接続されている。
表示装置406には、グラフィカルユーザインターフェースが搭載されており、画面上で画像取得開始指示および、画像収録指示を、操作インターフェース412を用いて指示することが可能となっている。
画像収録指示がなされた際に、主、副それぞれのスキャナドライバ402,403は、それぞれの走査波形に応じて、スキャナの制御を行う。
実際には、3次元断層像の取得を行うが、ここでは説明を簡略にするため、単一のBスキャン画像収録(1主走査画像収録)での説明を行う。
主走査スキャナ402が走査範囲を1パス走査する際に、3つのラインセンサ409〜411により1方向のBスキャンに相当する範囲の干渉スペクトルが取得できる。
このデータをそれぞれフーリエ変換処理し、断層画像化する。断層画像化したデータが図3のイメージである。ラインセンサ毎に画像301、302、303がそれぞれ取得できる。
この3画像は、主走査方向に空間分割されたビームで取得されたものであり、かつ、重なり合う領域を持っているため、図3(b)の様な断層取得パターン30
4となっている。
この図3は、画像取得中に、被検者の眼球の前後方向の動きがないケースの例を示している。
そのため、図3(b)の重なり合う領域において、断層像の深さ方向(画像では上下方向)での位置ズレが発生していない画像となっている。
【0020】
つぎに、画像に変位が生じる場合について説明する。
図4を用いて、実際に眼球の前後方向の動きがある場合の断層画像取得例を説明する。
図4は、撮影中に、被検眼が断層撮像装置に対して、近づいている際の取得画像例である。
図4(b)において、スキャン方向は、断層取得パターン304の図中に示しているとおり、左より右の向きに画像を収録している。
このとき、領域301と領域302の重なりあう領域は、それぞれ、領域305および領域306となる(図4(c))。
領域305は、領域301のなかで、スキャンの終盤に収録している。
領域306は、領域302のなかで、スキャンの開始早々に収録している。領域301と302は、ビームは異なるが、同一走査手段、すなわち図1のスキャナ109により走査されて取得されている画像である。
ここで、領域305および306の画像の深さ方向を比較すると、領域305の画像の方が、取得時間は後から取得した画像となっているため、断層像が上方に変位した画像となっている。
すなわち、この変位量が領域306と305の断層像取得時間差内で被検眼が前後方向に動いた量を示している。
【0021】
ここで、実際の補正シーケンスを図7を用いて説明する。
本制御フローは、上述した図6の制御部によって、1主走査分の画像を取得したタイミングで実行される。
まず、ステップ501で処理を開始する。
次に、ステップ502での処理において、N番目(ループ回数番目)の重なり領域の画像の右側のビームによって取得された画像を得る。
これは、図4の領域306の画像に相当する。
次に、ステップ503での処理において、N番目(ループ回数番目)の重なり領域の画像の左側のビームによって取得された画像を得る。これは図4の領域305の画像に相当する。
つぎに、ステップ504での処理によって、ステップ502で取得された画像とステップ503で取得された画像から、XYZ座標におけるZ方向に当たる深さ方向の位置ズレを求める。
次に、ステップ505において、すべての重なり領域の処理を完了したかの確認を行う。
本実施形態では、3ビーム構成となっているため、2箇所の重なり領域分の処理を行うこととなる。
次に、ステップ506において、ステップ504で求めたすべての重なり領域の深さ方向のズレ量から平均値を求める。
ここで求めた平均値より、ステップ507で、眼球の変位量を計算する。
ここでの求め方は、あらかじめ模型眼によって、模型眼を単位長さ変位させたときの眼底像の上下変位量を求めておき、この値を用いて換算処理すればよい。
次に、ステップ508において、求めた眼球変位量から、図1の追尾用参照光路長変更ステージ130を図6に示される追尾ステージコントローラ405を用いて駆動する。
これよって、スキャン画像を1パス取得する毎に追尾ステージを駆動することが可能となり、被検眼が前後方向に動いた際にも安定して、すなわち画像の上下の変位量少なく、画像収録することが可能となる。
【0022】
[実施例2]
実施例2では、撮像中に被検眼が眼軸と直交方向に変位した場合の例について説明する。
本実施例のOCT装置は、その全体構成、制御部の構成は実施例1と同様のもの
が用いられているから、説明を省略する。
実際に眼球の前後方向の動きがある場合の取得画像を図5を用いて説明を行う。図5は、撮影中に、被検眼が断層撮像装置に対して、眼軸と直交方向(主走査方向)に移動している際の取得画像例である。
図5(b)において、スキャン方向は、断層取得パターン304の図中に示しているとおり、左より右の向きに画像を収録している。このとき、領域301と領域302の重なりあう領域は、それぞれ、領域305および領域306となる。領域305は、領域301のなかで、スキャンの終盤に収録している。
図5(c)に示される領域306は、領域302のなかで、スキャンの開始早々に収録している。
領域301と302は、ビームは異なるが、同一走査手段、図1のスキャナ109により走査されて取得されている画像である。
ここで、領域305および306の画像の深さ方向差と、もう一方の重なり合い領域307、308の画像の深さ方向差を求める。
ここで、領域305、306からは、時間ともに断層画像が上方に変位していることがわかる。
また、領域307と308からは、時間とともに画像が下方に変位していることがわかる。このことより、断層像が時間とともに、傾いていることが検出できることがわかる。
【0023】
ここで実際の補正シーケンスを、図8を用いて説明する。
本制御フローは、上述した図6の制御部によって、画像を取得したタイミングで実行される。
まず、ステップ601で処理を開始する。
次に、ステップ602での処理において、N番目(ループ回数番目)の重なり領域の画像の右側のビームによって取得された画像を得る。これは、1番目のループの場合、図5の領域306に相当する。
次に、ステップ603での処理において、N番目(ループ回数番目)の重なり領域の画像の左側のビームによって取得された画像を得る。これは図5の領域30
5に相当する。
次に、ステップ604での処理によって、ステップ602で取得された画像とステップ603で取得された画像から、XYZ座標におけるZ方向に当たる深さ方向の位置ズレを求める。
次に、ステップ605において、すべての重なり領域の処理を完了したかの確認を行う。
本実施例では、3ビーム構成となっているため、2箇所の重なり領域分の処理を行うこととなる。
次に、ステップ606において、ステップ604で求めたすべての重なり領域の深さ方向のズレ量から平均値を求める。
ここで求めた平均値より、ステップ607で、眼球の変位量を計算する。
ここでの求め方は、あらかじめ模型眼によって、模型眼を単位長さ変位させたときの眼底像の上下変位量を求めておき、この値を用いて換算処理すればよい。次に、ステップ608において、求めた眼球変位量から、図1の追尾用参照光路長変更ステージ130を図6に示される追尾ステージコントローラ405を用いて、駆動する。
さらに、ここでは、ステップ609によって、複数の重なり領域の深さ方向差から、断層像の傾きの変動量を算出する。
傾き量が、予め設定された基準値を上回った際、それを表示する手段によって、ステップ610において検者に対してその旨を通知する。
本実施例では、検者に対する通知のみとしているが、断層像の取得が自動的に再取得可能に構成し、断層画像の自動再取得処理を実行してもよい。
断層像の3次元データ取得中の傾きは、3次元ボリュームデータ作成を困難にする一因となっており、本実施例を適用すれば、3次元構築処理を実行する前に適切に断層画像の再取得処理を行うことができる。
【符号の説明】
【0024】
101:低コヒーレント光源
102:ファイバビームスプリッタ
103〜105:ファイバカプラ
106〜108:ファイバコリメータ
109:ガルバノスキャナ(X)
110:レンズ
111:レンズ
112:ガルバノスキャナ(Y)
113:レンズ
114〜116:ビーム
117:レンズ
118:被検眼
122〜124:ファイバコリメータ
125:分散補償ガラス
126:参照光路長調整ステージ
127:ミラー
128:ミラー
129:ミラー
130:高速参照光路長変更ステージ
131:ミラー
132〜134:ファイバコリメータ
135〜137:分光器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出射され、複数のビームからなる光を測定光と参照光とに分割し、これらの測定光による戻り光と参照光路を経由した参照光とを合波させた干渉光を用い、被検査物の断層画像を撮像するOCTシステムを備えた光断層画像撮像装置であって、
前記複数のビームからなる光をXY座標で走査する単一の走査手段と、
前記走査手段により走査される走査角の設定によって、XY座標で高速に走査する軸方向である、主走査方向に空間分割されると共に該空間分割された境界部分で重なり合う領域を持つように、前記被検査物に照射する手段と、
前記空間分割された境界部分で重なり合う領域の断層像の、XYZ座標におけるZ方向に当たる深さ方向の位置差を求める手段と、
前記求められた前記空間分割された境界部分で重なり合う領域の断層像の深さ方向の位置差から、前記被検査物の移動量を算出する手段と、
を有することを特徴とする光断層画像撮像装置。
【請求項2】
前記算出された前記被検査物の移動量を元に、前記被検査物の移動により生じる取得画像の深さ方向の変形または変位を低減するように、前記参照光における光路長を変更する手段を有することを特徴とする請求項1に記載の光断層画像撮像装置。
【請求項3】
複数のビームからなる光が、3つ以上のビームからなる光であり、
前記求められた前記空間分割された境界部分で重なり合う領域の断層像の深さ方向の位置差から、前記被検査物の断層像の傾き量を検出する手段を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光断層画像撮像装置。
【請求項4】
前記検出された前記被検査物の断層像の傾き量が、予め設定された基準値を上回った際、それを表示する手段を有することを特徴とする請求項3に記載の光断層画像撮像装置。
【請求項5】
前記検出された前記被検査物の断層像の傾き量が、予め設定された基準値を上回った際、前記被検査物の断層像の取得が自動的に再取得可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の光断層画像撮像装置。
【請求項6】
前記被検査物が眼球であり、
前記被検査物の移動が、前記眼球の固視微動または前後方向の運動であり、
前記被検査物に照射する手段による前記複数のビームからなる光の照射が、前記眼球における眼底への照射であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光断層画像撮像装置。
【請求項7】
複数のビームからなる測定光を被検査物の測定領域に照射することにより得られる戻り光を、それぞれ参照光と合波させた干渉光を取得する光断層画像撮像装置の制御方法であって、
前記測定領域の重なる部分の領域のそれぞれの画像を取得し、
前記それぞれの画像から深さ方向の位置差を求め、
前記求めた位置差に基づいて、前記被検査物の移動量を算出することを特徴とする光断層画像撮像装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−246654(P2010−246654A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97402(P2009−97402)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】