説明

光検出装置および電子機器

【課題】単一の受光素子を用いた簡単な構成による小型かつ低コストな近接/方向センサとして、対象物体の近接/非近接状態の変化とそれに直交する移動方向を、同時に最も効率よく検出して人体の動作に十分に追随させるための光検出装置を提供する。
【解決手段】受光素子200は、反射光103が直接入射する第1のウェル301と、第1のウェル301を挟んで対向し、かつ反射光103は遮光されて入射しない第2のウェル302及び第3のウェル303とを備えている。受光素子200による受信信号は、第1のウェル301の出力と第2のウェル302の出力との和、及び、第1のウェル301の出力と第3のウェル303との出力の和を、時間軸上で交互に出力する。この受信信号に基づいて、光検出装置天面の法線方向である第1の軸方向に沿う対象物体の近接状態と、前記対象物体の近接状態が変化した際の移動方向とが判定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の近接状態および移動方向を検知するための光検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等の表示画面を備えた電子機器、例えば携帯電話やスマートフォン、タブレット型情報端末、あるいはデジタルカメラ等においては、機器への人体の近接具合を検出して種々の制御が行われている。これらの機器の表示画面は、タッチパネルとしての情報入力機能も兼ねており、通話の開始や機器をポケット等に挿入するなど何らかの物体がタッチパネルに近接した際、その機能をオフすることで誤動作を防止することが必要となる場面がある。またデジタルカメラでは、ユーザが液晶画面からファインダーに目線を移す際に自動的に液晶画面の明るさを落とすといった制御が行われる。このような用途に向け、自らパルス発光し対象物体からの反射パルス光を検出して対象物体の近接具合を判定する、小型かつ安価な光学式の近接センサが広く用いられている。
【0003】
ところで、タッチパネル機能を有するディスプレイを使用していると、操作自体による画面の汚れが避けられず頻繁に拭き取りが必要と感じるユーザは少なくない。特に、ページ送りなどの操作、所謂スワイプ動作により油脂汚れが引き伸ばされ、好ましくない。
【0004】
上記近接センサは、画面への物体(人体、例えば耳や頬)の接近を検出するためのものなので、ディスプレイと同一のXY平面内に実装され、ディスプレイ面の法線Z方向への物体の近接状態を検出している。ここで、上記センサに物体(指)が近接した際、物体のXY平面内での移動方向も同時に検出する機能があれば、上記スワイプ動作をタッチレス化することが可能になる。スワイプ動作自体は、画面全体の表示内容をXまたはYの軸方向に沿って切り替える大雑把な操作なので、上記センサのディスプレイ平面上での実装位置を強く制約するものではない。また、このような目的を達成するためだけに複数の近接センサや測距センサあるいは高価なイメージングデバイスを配置し、情報端末が高コスト化するのは望ましくない。
【0005】
このため、近接センサに方向検知機能を容易に集積化し、小型かつ安価な近接/方向センサとすることが求められる。これにより、例えば携帯情報端末のタッチレススワイプ動作を容易に実現することでき、タッチパネルの汚れの問題は解決される。勿論、これに限らず、モーションセンサとして他の様々な用途に展開することができる。
【0006】
近接センサと方向センサのモノリシック化において、まず想起されるのは分割フォトダイオードを用いた光検出装置である。このような装置では、分割した各フォトダイオードの出力差に基づいてフォトダイオード面上での信号光スポットサイズの移動方向を知ることができる。ここで、分割フォトダイオード全体の合計出力を近接センサの信号光として利用する場合、分割された個々のフォトダイオードの出力信号は必ずそれよりも小さくなる。光ディスクのトラッキング制御のように、上記各出力信号から生成される誤差信号を最小化するよう連続的に帰還制御をかけるシステムにおいてはこれでも十分に機能が果たされる。
【0007】
しかしながら、上記分割フォトダイオードを近接/方向センサとして用いる場合には、移動方向を判定すること、すなわちXY方向の移動は無いが正面からの(Z方向のみの)近接状態の変化を検知することも必要とされる。このようなシステムにおいては、不定状態(XY移動方向の判定結果がチャタリングする状態)を避けるため、方向検知に用いる信号光に対しても十分なS/Nで閾値判定する必要がある。
【0008】
したがって、上記のようにフォトダイオードを分割することで近接センサに方向検知機能を加えるには、フォトダイオード全体の面積を大きくするか、そうでない場合は発光信号量を相応に大きくしなければならない。その結果、近接/方向センサのサイズ及びコストは増大する。
【0009】
また、単一の受発光素子を用いて近接/方向検知機能を実現するために、フォトダイオードの深さ方向の構造を利用することができる。これに関連する従来技術としては、特許文献1が挙げられる。
【0010】
特許文献1では、i)より長い波長の光は吸収係数が相対的に小さく、フォトダイオード中に深く進入する現象、及び、ii)その光吸収に伴い発生したキャリアは、密度勾配によって入射方向(Z方向)に垂直なXY方向に拡散する現象、を利用して入射光の波長分布スペクトルを推定することが開示されている。
【0011】
特許文献1自体は、上記現象の近接/方向センサへの利用可能性に対して何らの示唆も与えてはいないが、上記現象を用いて近接/方向センサを実現しうる。その場合、通常使用されるシリコンフォトダイオードの感度ピーク波長に近く、より深く進入する特定の波長帯(概ね800nm以上、より望ましくは900nm乃至980nm)の近赤外域に発光スペクトルのピークを有する発光素子を用いる。すなわち、単体のシリコンフォトダイオードの基板厚み方向(Z方向)に深く進入した近赤外域の信号光によって発生したキャリアは、ドリフトしながらフォトダイオード外側の面内XY方向に拡散する。このキャリアを、フォトダイオードの外側に配置したコレクタ領域で収集し電流として取り出すことができる。このコレクタ領域を分割して配置することにより、原理的には、フォトダイオード面積自体の大幅な増大を招くことなく、被検知物体の移動方向を検知するために使用する信号を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6,596,981号明細書(2003年7月22日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に開示の上記現象を用いて近接/方向センサを実現しようとする場合、実際に人体の動きに追随して誤動作のない近接/方向センサを実現するには、以下に述べるような相反する重要な課題がある。このため、上記現象を利用した近接方向センサの構成自体、全く自明なものではない。
【0014】
1つ目の課題は、概ね1m/sのオーダである人体の動作速度に十分追随するような、近接/移動方向に関する情報のサンプリングが必要なことである。一般的に、このような用途に用いられる受光素子のサイズは100μm乃至数100μmスクエア程度であるので、上記人体の動きを検出するために必要な測定サイクルは、100μs乃至数100μs以下の程度となる。これを大きく上回る測定サイクルでは、近接/非近接状態が切り替わる際の対象物体の移動方向に関する情報を見逃すことになる。
【0015】
一方、対象物体の近接/非近接状態が変化し、近接/方向センサがその変化を検知するその瞬間及びその前後の時間においては、人体の動きが相対的に遥かに遅いため、信号レベルは判定基準となる閾値レベルの近傍にほぼ停滞した状態にあるとみなせる。その結果、必然的にセンサは信号処理回路自身あるいは回路外部から混入する光学的あるいは電気的な雑音に非常に弱い状態に晒される。このため、2つ目の課題として、判定結果の安定性が問題となる。これは、直接的にパルス波形を増幅再生してパルス数を数える方式のセンサであろうと、パルス波形を積分する積分器及びカウンタを用いたA/D変換によるデジタル方式のセンサであろうと、特定の閾値に対する判定を行う限りは問題となり得る。
【0016】
近接センサでは、一般的にパーシスタンス(複数回連続する同一判定結果をもって最終判定結果とすること)の回数を増大することで、判定結果の安定性を得ている。しかしながら、パーシスタンスの回数を増大することは、上記1つ目の課題であるセンサの応答時間とは相反する制約を与えるものであり、応答時間と判定精度/安定性のトレードオフは、近接/方向センサにおいて、より重要な課題となる。
【0017】
本願発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、単一の受光素子を用いた簡単な構成による小型かつ低コストな近接/方向センサとして、対象物体の近接/非近接状態の変化とそれに直交する移動方向を、同時に最も効率よく検出して人体の動作に十分に追随させるための光検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、本発明は、発光素子と、前記発光素子の照射光が対象物体によって反射されたときの反射光を受光する受光素子とを備える光検出装置であって、前記受光素子は、前記反射光が直接入射する第1のウェルと、前記第1のウェルの外周に沿って前記第1のウェルを挟んで対向し、かつ前記発光素子からの光は遮光されて入射しない第2のウェル及び第3のウェルとを、備えており、さらに、前記第1のウェルの出力と前記第2のウェルの出力との和、及び、前記第1のウェルの出力と前記第3のウェルとの出力の和を、時間軸上で交互に信号処理し、当該光検出装置天面の法線方向である第1の軸方向に沿う対象物体の近接状態を表す第1の判定結果と、前記対象物体の近接状態が変化した際、前記対象物体が前記第2及び第3のウェルを結ぶ第2の軸方向に沿って移動した向き又は方向性無しの3状態のいずれかを表す第2の判定結果と、を出力する信号処理回路を備えていることを特徴としている。
【0019】
上記の構成によれば、上記光検出装置の受光素子は、第1乃至第3のウェルを有しており、第1のウェルには発光素子の照射光が対象物体によって反射されたときの反射光が直接入射するようになっている。また、第2および第3のウェルは、第1のウェルの外周に沿って第1のウェルを挟んで対向している。これにより、第2および第3のウェルは、第1のウェルに入射した反射光によって発生したキャリアを収集し電流として取り出すことができる。
【0020】
第1乃至第3のウェルにおける出力電流は、前記第1のウェルの出力と前記第2のウェルの出力との和、及び、前記第1のウェルの出力と前記第3のウェルとの出力の和が、時間軸上で交互になるように信号処理される。すなわち、上記処理された信号は、常に第1のウェルの出力を含んでいるものとなる。このため、単一の受光素子を用いた近接/方向センサにおいて、全体の受光面積の増加を招くことなく近接センサと方向センサの機能を両立しつつ、良好な応答特性を得ることができる。また、この応答特性は、安定性を得るためのパーシスタンスを設定しても、人体の動作速度に十分追随する十分な応答特性が得られる程度のものであり、応答時間と判定精度/安定性を両立できる。
【0021】
また、上記光検出装置では、前記受光素子はシリコン基板上に形成され、前記発光素子の発光スペクトルは900nm乃至980nmの波長に最大強度を有し、前記第1のウェルと前記第2のウェルの間隔、及び、前記第1のウェルと前記第2のウェルの間隔は、相等しく10μm以内である構成とすることができる。
【0022】
上記の構成によれば、受光素子としてシリコンフォトダイオードが使用され、該シリコンフォトダイオードの感度ピーク波長に近く、より深く進入する波長帯に発光スペクトルのピークを有する発光素子が使用されるため、効率の良い受光検知が可能となる。また、第1のウェルと第2のウェルの間隔、及び、第1のウェルと第2のウェルの間隔を上記のように設定することにより、第2および第3のウェルによるキャリア収集効率を良好なものとできる。
【0023】
また、上記光検出装置では、前記信号処理回路は、前記第1のウェルの出力および前記第2のウェルの出力の和と、前記第1のウェルの出力および前記第3のウェルの出力の和との、いずれに対しても、同一の1組の閾値を用いて3値以上の多値出力を有する比較器を備え、前記第1の判定結果は、時間軸上で交互に信号処理された前記各和が、順序に関係なく複数回連続して、前記比較器によって前記1組の閾値のうちのいずれかの閾値と比較された結果として、同一であったか否かに基づいて判定され、前記第2の判定結果は、上記第1の判定結果が判定される直前に信号処理された前記各和が、前記比較器によって前記一組の閾値のうちのいずれかでかつ第1の判定に用いられたものとは異なる閾値と比較された結果に基づいて判定される構成とすることができる。
【0024】
上記の構成によれば、上記1組の閾値を用いて、対象物体の近接/非近接状態の変化とそれに直交する移動方向を、同時に効率よく検出することができる。
【0025】
また、上記光検出装置では、前記信号処理回路は、前記第1のウェルの出力と前記第2のウェルの出力との和、および前記第1のウェルの出力と前記第3のウェルの出力との和を積分する積分器と、前記積分器の出力を閾値電圧と比較して2値のデジタルパルス信号を生成する比較器と、前記デジタルパルス信号のパルス発生回数をカウントするアップダウンカウンタとを備え、(A) 前記発光素子が発光した状態で前記第1のウェルの出力と前記第2(または第3)のウェルの出力の和をアップカウント、またはダウンカウントし、続いて、(B) 前記発光素子が発光した状態で前記第1のウェルの出力と前記第3(または第2)のウェルの出力の和を、前記(A)とは逆方向にダウンカウントまたはアップカウントし、前記第1の判定結果は、(A)終了時点のカウント値が第1の閾値を超えるか否かに基づいて判定され、前記第2の判定結果は、(B)終了時点のカウント値が第2及び第3の閾値の間にあるか否か、に基づいて判定される構成とすることができる。
【0026】
上記の構成によれば、上記アップダウンカウンタのカウント値と第1乃至第3の閾値を用いて、対象物体の近接/非近接状態の変化とそれに直交する移動方向を、同時に効率よく検することができる。また、積分器を用いる上記構成は、信号帯域が狭帯域となりS/Nで有利であることに加え、回路ブロックを照度センサやRGBセンサと共通化できるといったメリットもある。
【0027】
また、上記光検出装置では、前記第2の判定結果を出力するための出力端子を備え、前記第2の判定結果は、ハイレベル、ローレベル、および内部で生成されるパルス列の3状態の何れかとして出力される構成とすることができる。
【0028】
上記の構成によれば、光検出装置の外部からは、例えば出力信号の平均値を検出することで移動方向に関する3状態(移動方向(2方向)および移動なし)を判別することができる。
【0029】
また、上記光検出装置では、外部との通信手段と、前記第1および第2の判定結果の状態変化に基づき出力する出力端子と、前記第1及び第2の判定結果が格納され、前記通信手段により外部から読み出し可能なレジスタとを少なくとも備え、前記第1の判定結果は1ビット、前記第2の判定結果は2ビットの情報として、前記レジスタに格納される構成とすることができる。
【0030】
上記の構成によれば、光検出装置の外部からは、レジスタに格納される情報を読み出すことで移動方向に関する3状態(移動方向(2方向)および移動なし)を判別することができる。また、外部において出力信号を検出するために、平均化やウィンドウコンパレータ、あるいはA/D変換器などの追加コスト要因を発生させること無く、対象物体の近接情報及び移動方向の情報を得ることができる。
【0031】
また、上記光検出装置では、前記受光素子と前記信号処理回路とが集積化されている構成とすることができる。
【0032】
また、上記光検出装置では、当該光検出装置のパッケージは、前記受光素子のためのレンズを含まない構成とすることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の光検出装置は、単一の受光素子を用いた近接/方向センサにおいて、全体の受光面積の増加を招くことなく良好な応答特性を得ることができるといった効果を奏する。また、この応答特性は、安定性を得るためのパーシスタンスを設定しても、人体の動作速度に十分追随する十分な応答特性が得られる程度のものであり、応答時間と判定精度/安定性を両立できるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであり、(a)は光検出装置の受光部の平面図、(b)は前記受光部の断面図である。
【図2】本発明の光検出装置の使用状況を説明する斜視図である。
【図3】(a),(b)は、本発明の光検出装置の全体構成を説明する図である。
【図4】実施の形態1に係る光検出装置の全体構成を説明する図である。
【図5】実施の形態1に係る光検出装置の信号処理の概略を説明する波形図である。
【図6】実施の形態1に係る光検出装置の増幅部の構成を示す回路図である。
【図7】実施の形態1に係る光検出装置の非近接→近接及び方向検知判定方法を説明する図である。
【図8】実施の形態1に係る光検出装置の近接→非近接及び方向検知判定方法を説明する図である。
【図9】実施の形態2に係る光検出装置の増幅部の構成を示す回路図である。
【図10】実施の形態2に係る光検出装置の信号処理方法を説明する図である。
【図11】実施の形態3に係る光検出装置の出力部の構成を示す回路図である。
【図12】実施の形態4に係る光検出装置の出力部の構成を示す回路図である。
【図13】本発明の光検出装置を搭載する携帯端末の一部とその使用状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、本発明は、以下に示す各実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。以下に説明する本発明の構成において、同様のものに関しては共通の符号を用いて示し、同一部分又は同様な機能を有する部分の詳細な説明は省略する。
【0036】
〔実施の形態1〕
図2は、本発明に係る光検出装置100が使用される状況を説明する図である。図2では、検出の対象物体である人間の指101が、光検出装置100の発光素子(詳細は図示せず)から放射される近赤外線のビームコーン102に接し始め、反射光103が生じる様子が描かれている。尚、ビームコーン102は、光検出装置100の天面の法線である第1の軸106に沿って放射されている。ここで、光検出装置100は受発光一体型のパッケージとして図示されているが、本発明はこの形態に限定されず、受発光セパレート型などのいずれの形態にも適用されることは以下の説明から自ずと明らかとなるであろう。
【0037】
また、光検出装置100における近接センサとしての機能は、第1の軸106方向、すなわち発光素子の光軸方向(あるいは受光素子面の法線方向)に沿った、対象物体101の近接/非近接状態を検知する。また、図2は、方向センサとして検出すべき、第2の軸(すなわち105方向)に沿う対象物体101の移動方向に対して、光検出装置100の発光素子及び受光素子(詳細は図示せず)を結ぶ軸104が垂直に配置された例を示している。この例は、これ以降の説明を分かりやすくするための便宜的な配置であって、第2の軸105と検出方向と発光素子及び受光素子を結ぶ軸104とは、必ずしも垂直である必要はなく、厳密に垂直または平行である必要もない。第2の軸105は、光検出装置100を搭載するホストシステムの仕様として、光検出装置に無関係に決定される軸である。この第2の軸105に対応させるべき本光検出装置に固有の軸方向の定義については、後に図1を参照してより詳しく説明する。
【0038】
図3(a),(b)は、図2の光検出装置100の内部構造について詳細を示すものである。同図(a)は軸104を紙面横方向に、同図(b)は軸104を紙面法線方向にとっている。光検出装置100は、受光素子200および発光素子202を有しており、受光素子200は信号処理回路201の一部として集積化されている。また、発光素子202の駆動回路も前記信号処理回路201に含まれ得る。図3(a),(b)は、図2の状態からさらに指101が105方向に移動し、指101からの反射光103が、備える受光素子200に入射する様子を示している。尚、光検出装置100内部の相互配線や端子配線等は任意であり、当業者にとって容易に想到し得るものであるため省略した。
【0039】
光検出装置100の受光部周辺にはレンズ作用を有する構造は設けられておらず、赤外線に対して吸収の小さい平板樹脂によるモールドが施されている。これは、対象物体が光検出装置100に近接しつつ方向102に移動するような状況においての望ましい設計のうち、最も単純かつ確実なものである。ここでの望ましい設計とは、反射光103が受光素子200の端から入射し始め、対象物体101の移動に伴って入射光量が単調に増大するような設計である。勿論、受光素子200の上部にレンズ構造を設けてもよいが、その場合は、レンズ以外の部分から受光素子200に斜め入射する反射光103と、レンズを通して結像する反射光103とは、受光素子200に対して入射位置が大きく異なるので注意深く設計を行う必要がある。
【0040】
また、光検出装置100のパッケージの発光素子202周辺には、ビーム整形レンズ203及び受光部への直接入射を避けるための吸光部204が設けられている。これらの構造についての設計詳細は任意であり、受発光別体(セパレート型)のパッケージにより前記吸光部204が存在しない、あるいは発光側にビーム整形レンズが無い、といった種々の変形が可能である。
【0041】
図1(a)には、受光素子200のより詳細な構造を図3(a)と同様の断面として示した。また、図1(b)は受光素子200の上面図である。図1(a),(b)に示すように、受光素子200は、p型シリコン基板300上に、第1のウェル301、第2のウェル302、及び第3のウェル303が設けられて構成されている。第1のウェル301は、フォトダイオードとして作用する。第2のウェル302及び第3のウェル303は、第1のウェル301と同様の積層構造を有し、第1のウェル301の外周に沿って第1のウェル301を挟んで対向配置されている。
【0042】
受光素子200では、この第2のウェル302(の重心)と第3のウェル303(の重心)とを結ぶ軸を、対象物体101の移動方向を検知すべき前記第2の軸105と一致させる。
【0043】
図1および図3の例では、発光素子202の照射光における発光スペクトルは、受光素子に使用されるシリコンフォトダイオードの感度ピーク波長に近く、より深く進入する特定の波長帯(概ね800nm以上、より望ましくは900nm乃至980nm)に最大強度を有していることが好ましい。このため、発光素子202の発光スペクトルは、波長940nmに強度ピークを有し、入射光のほぼ100%を吸収させるべくp型シリコン基板300の厚さは400μmとした。また、第1乃至第3のウェルはn型の伝導性を有し、p基板との接合面の深さは約4μmである。
【0044】
第2のウェル302及び第3のウェル303は、光学的に厚いメタル層304(例えば1μm厚のAl層)で遮光され、シリコン基板300の上面からの光が入射しないようにされる。メタル層304の上下及び周囲には通常のシリコンプロセスで使用される絶縁層が形成されている(詳細構造は図示せず)。
【0045】
一方、第1のウェル301は、対象物体101からの反射光103に対しては、上記絶縁層も含めて光学的に開口された構造となっている。これは、必ずしも第1のウェルの上にはメタル層が全く存在しないことを意味するものではない。例えば、数10nmの厚さの1対の貴金属層(例えばAg)で数100nmの厚さの誘電体を挟んだ積層体(図示せず)は、ファブリペローエタロンとして、特定の波長すなわち発光素子202の波長ピークに対して、ほぼ透明となるよう設計し得ることは周知であり、図3に示した平板樹脂による受光部モールドとの組み合わせは本願発明にとっても好ましいものである。
【0046】
ここで、第1のウェル301と第2のウェル302あるいは第3のウェル303との距離305はいずれも10μm以内(ここでは5μm)とし、またそれぞれのウェルの幅306は20μmとしている。p型シリコン基板300における少数キャリアである電子の拡散長は概ね5乃至10μmであり、上記構造によって、第1のウェル301すなわちフォトダイオードの最周辺部の直下で光吸収により発生したキャリアは、その近傍の第2のウェル302あるいは第3のウェル303にも効率よく収集される構造となっている。これは、単一のフォトダイオードで方向検知を行うために必要な構造である。
【0047】
また上記の例では、第2のウェル302あるいは第3のウェル303の幅306は、10乃至100μm程度が望ましい。これは、信号光の波長(ここでは940nm)における吸収係数(約120cm−1)の逆数乃至その1/10程度の範囲内で選択すればよいことを意味する。ただし、幅306が小さすぎると上記の収集効率が低下し、大きすぎると受光素子200全体のサイズが大きくなる。詳細な検討の結果、例えば900乃至940nmの近赤外光に対しては、より望ましくは第2及び第3のウェルの幅306を20乃至50μm程度とし、さらに以下に説明する信号処理を用いることによって、実用上十分な方向検知作用が得られることが分かった。他の波長についても同様に、第2及び第3のウェルの幅306を当該波長における吸収係数の逆数乃至その1/10までの範囲を目安として選択することにより良好な方向検知特性が得られる。
【0048】
尚、第1のウェル301の幅307は、第2及び第3のウェルの幅よりも大きければ任意に設定できる。なぜならば、以降で詳しく説明するように、上記方向検知の作用は、フォトダイオードの最周辺部にのみ信号光が入射する状況下でその直下に発生したキャリアを第2あるいは第3のウェルで収集することによって得られるからである。この理由からも明らかなように、図1(b)に示す第1乃至第3のウェルの軸104方向への長さは相等しくすることが望ましく、第1のウェルの長さは、通常、幅307と概ね同じ程度のサイズとされる。方向検知特性の切れを良くする目的で、第1のウェルの形状を長方形あるいは他の形状とすることは任意であるが、常に第2及び第3のウェルが上記距離305をもって第1のウェルと境界を接することにより、第2及び第3のウェルを結ぶ第2の軸方向、すなわち前記軸104に垂直な方向105、に沿う対象物体101の移動方向の検知作用が、高い面積利用効率を保って実現される。
【0049】
ここまで図1乃至図3を用いて説明した光検出装置100における、信号処理の詳細の一例を、図4乃至図8を参照して説明する。
【0050】
第1乃至第3のウェル301〜303からは、それぞれ信号処理回路201に対して電流が出力される。ただし、第2のウェル302及び第3のウェル303の出力電流402及び403は、それぞれスイッチ404及び405を介して信号処理回路201に接続される。第1のウェル301の出力電流401も同様にスイッチを介して接続されてよいが、光検出装置100が近接方向センサとして動作している間は常に接続された状態に維持されればよいので、ここでは第1のウェルに対応するスイッチを省略している。尚、表記を簡単にするため、図4では、第1乃至第3のウェル301乃至303と基板300で形成されるダイオードを前記ウェルと同一番号で表記し、第2及び第3のウェル上に形成されるメタル層304も合わせて簡略的に図示した。ただし、電磁ノイズ耐性の観点から、実際のメタル層304には通常GND電位が与えられ、各電流出力ノードとは電位が異なっている。
【0051】
ここで、スイッチ404及び405は信号処理回路201の制御部407で生成される制御信号408及び409によってそれぞれ制御され、図5に示すようなシーケンスで開閉される。すなわち、出力電流401と出力電流402の和、及び、出力電流401と出力電流403の和が、時間軸上で交互に信号処理回路201の内部の増幅部406に入力されて信号処理がなされる。同図中に示したように、これ以降、上記各信号処理期間を[A]相及び[B]相と呼ぶものとする。この信号処理については、後に図7乃至8を用いて詳細を説明する。この信号処理がなされ、近接/非近接あるいは移動方向の検知結果が判定されると、出力部412を駆動するための信号413が制御部407から出力され、光検出装置100の外部に出力信号414が出力される。また、発光素子202も制御部407から発光素子駆動回路411に送られる制御信号410により駆動される。尚、図5に示した信号はいずれもHレベルまたはLレベルのデジタル信号で、制御信号410のパルス幅は典型的には10μs、繰り返し周期は100μs程度である。
【0052】
次に、増幅部406の1つの具体例として、増幅部601を図6に示す。増幅部601は送信光パルスのON/OFF波形を受光信号600から増幅して2値のデジタルレベルに再生する。受光信号600は、先述の通り、時間軸上で交互に入力される出力電流401と出力電流402との和、および出力電流401と出力電流403との和のいずれかである。受光信号600はトランスインピーダンスアンプ602で電圧信号603に変換され、AC結合を経た後で2分岐され(信号604)、それぞれ閾値電圧605及び606と比較器607及び608にて比較され、2値のデジタルパルス信号609及び610が再生される。全体として、比較器611は2ビットの多値出力となる。また、この再生信号609及び610は制御部407に含まれるフリップフロップ(FF)により保持される。
【0053】
ここで、実際に、図3の状況に応じて受光信号600乃至上記各増幅信号が変化する様子と、さらに制御部407で行われる信号処理について、図7を参照して説明する。図3の状況では、図5で説明した発光素子の駆動波形410に基づいて放射された光パルスの列が対象物体101に反射されつつ、対象物体101は図1の105方向に移動し、かつ光検出装置100に近接する。
【0054】
この状況では、図7に示すように、トランスインピーダンスアンプ602の出力パルス電圧603の振幅は時間の経過とともに増大する。また、図2に示したような受光部にレンズ作用のない光学系では、図3あるいは図4に示した第2のウェルの側から反射光103が入射し始める。従って、図4あるいは図7に示した制御信号408及び409による信号の切り替え処理の結果、図7の信号603の振幅は、[B]相よりも先に[A]相で増大する。ただし、いずれの相の出力にも第1のウェルの出力電流401は共通して含まれているので、信号603の振幅は、[A]相/[B]相比を最大でも2程度に保って増大する。尚、図7は分かりやすくするために急激に信号振幅を増大させているが、実際の動作において信号603の振幅が上昇するスロープは、既に説明したように、人体の動く速度と受光部200のサイズの関係からこの時間軸スケールではほとんどわからない程に緩やかである。
【0055】
リファレンス電圧として比較器607及び608に与えられる閾値605及び閾値606は、この状況においては、閾値605が非近接→近接の検出閾値であり、閾値606が移動方向検出のための閾値である。図7から分かるように、制御部407は信号609が3回連続して発光パルスを再生するか否かを継続的に監視して、非近接→近接という第1の判定結果が得られる(パーシスタンス=3の例)。
【0056】
ここで、この第1の判定が行われる直前の[A],[B]各相における比較器608の出力(信号610)から、第2の判定すなわち移動方向の判定が行われる。尚、比較器608の直前の出力は、制御部407のフリップフロップにて保持されている。図7では、第1の判定は[A]相終了時に発生し、その時の[A]相の比較器出力はパルス再生有り、その直前の[B]相の比較器出力はパルス再生無しである。
【0057】
このように、非近接から近接に遷移し、直前の[A]相と[B]相とのパルス再生有無が異なる場合、移動方向はパルス再生有りから無しの方向に生じたと判定できる。すなわち上記の例では、第2のウェルから第3のウェルの方向(第1と第2の和[A]側から第1と第3の和[B]側への方向)、従って、軸105に沿って図2の右方向に生じたものと判定できる。また、非近接から近接に遷移し、直前の[A]相と[B]相とのパルス再生有無が等しい場合は、近接方向に垂直な第2及び第3のウェルを結ぶ方向には対象物体の移動は無かったものと判定できる。この、方向性無し(近接動作に横方向の移動は伴わない)と判定する領域は前記閾値606と605との差によって調整され得る。例えば、閾値606と605との差を小さくすることで、図2における指101の軸105に沿う横方向の移動が、軸106に沿う近接速度よりも非常に遅い場合、すなわち指101が軸106となす角度が小さい遠方から近接する場合であっても、方向検知が可能となる(方向性無しと判定する角度範囲が狭くなる)。逆に、閾値606と605との差を大きくすることで、指101が軸106となす角度が小さい場合に軸105方向の移動が無い(方向性無し)と判定する角度範囲は広くなる。
【0058】
次に、近接状態にあった対象物体101が光検出装置100から遠ざかる場合について、図8を参照して説明する。面内の移動方向についても図7の例とは逆に第3のウェルから第2のウェルに向かうものとする。この場合、図8に示すように、トランスインピーダンスアンプ602の出力パルス電圧603の振幅は時間の経過とともに減少する。また、図7の説明と同様の理由で、図8の信号603の振幅は[A]相よりも先に[B]相で減少し、信号603の振幅の[A]相/[B]相比は最大でも2程度に保たれる。
【0059】
ここで、対象物体101が近接状態が判定されている状況においては、図8に示す閾値605’及び606’の意味が以下のように変更されることに注意が必要である。ここで、近接→非近接の判定の基準となるのは閾値605’であり、移動の方向性を判定するための閾値は閾値606’である。そして、方向判定のための閾値と非近接検出のための閾値との大小関係は、図7の非近接→近接の場合とは異なり、方向判定のための閾値606’が非近接検出のための閾値605’よりも小さい。
【0060】
これは、第1の判定が行われた直前の[A]相及び[B]相の信号振幅の差異を検出するために必須の変更である。図7及び図8を見比べると明らかなように、図8では、3回連続パルス再生無しと判定した以降は、信号振幅はもはや検出不可能なほどに減少してしまう。このため、方向判定のための閾値606’を非近接検出のための閾値605’よりも小さくすることが必要である。
【0061】
図8から分かるように、制御部407は信号609が3回連続して発光パルス無しが検出されるか否かを継続的に監視して、近接→非近接という第1の判定結果が得られる(パーシスタンス=3の例)。そして、この第1の判定が行われる直前の[A],[B]各相における比較器608の出力(信号610)から、第2の判定すなわち移動方向の判定が行われる。図8では、第1の判定は[B]相終了時に発生し、その時の[B]相の比較器出力はパルス再生無し、その直前の[A]相の比較器出力はパルス再生有りである。
【0062】
このように、近接から非近接に遷移し、直前の[A]相と[B]相とのパルス再生有無が異なる場合、移動方向はパルス再生無しから有りの方向に生じたと判定できる。すなわち上記の例では、第3のウェルから第2のウェルの方向、軸105に沿って図2の左方向に生じたものと判定できる。また、近接から非近接に遷移し、直前の[A]相と[B]相とのパルス再生有無が等しい場合は、近接方向に垂直な第2及び第3のウェルを結ぶ方向には対象物体の移動は無かったものと判定できる。この、方向性無し(近接動作に横方向の移動は伴わない)と判定する領域は前記閾値606’と605’との差によって調整され得る。
【0063】
以上より、図7乃至図8に示した4つの閾値が以下の関係を満たすことで、光検出装置100の誤動作は防止され安定に動作する。
【0064】
606(非近接→近接時の方向判定)>605(近接→非近接判定)
>605’(非近接→近接判定)>606’(近接→非近接時の方向判定)
尚、上記の一組の閾値(606、605、605’、606’)の互いの差、或いは最小値である閾値606’は、実施の形態2以降で詳細を説明する実際の回路内雑音を考慮して、雑音による誤動作が生じない範囲において設定すべきであることは言うまでもない。
【0065】
以上説明したように、本実施の形態1に係る光検出装置100では、パーシスタンス3回で近接/非近接及びその方向性の判定を安定に完了することができ、300μs程度で対象物体の動きに応答することが可能である。
【0066】
以上説明したように、単一の受光素子を用いた簡単な構成による小型かつ低コストな近接方向センサとして、対象物体の近接/非近接状態の変化とそれに直交する移動方向を、同時に効率よく検出して人体の動作に十分に追随させるための光検出装置が実現できた。
【0067】
〔実施の形態2〕
本実施の形態2では、増幅部406の他の具体例として、増幅部901を図9に示す。増幅部901は、以下で説明するように、受光信号900をその強度に応じた電圧パルス列に変換し、A/D変換器、より詳細にはVFC(voltage-frequency converter)を構成するために用いられている。以下、図7の説明と同様に、発光素子の駆動波形410に基づいて放射された光パルスの列が対象物体101に反射されつつ、対象物体101は図1の105方向に移動し、かつ光検出装置100に近接してくる、という状況を想定して説明する。
【0068】
まず、図10を参照して増幅器901の動作を説明する。受光信号900は、前述の通り、時間軸上で交互に入力される出力電流401および出力電流402の和と、出力電流401および出力電流403の和とのいずれかである。受光信号900は、積分器902で電圧ランプ波形903に変換され、比較器904にて閾値電圧と比較される。ランプ出力903が閾値電圧を上回ると、極短い一定幅の2値のデジタルパルス信号905が生成される(one shot)。このパルスは、積分器902のリセットに使用されるとともに、制御部407のアップダウンカウンタに入力されて、そのパルス発生回数がカウントされる。
【0069】
次に、図7乃至図8のパルス再生型の増幅器の場合と同様、[A]相[B]相を交互に続けて増幅(積分)する際、図10に示すように、アップダウンカウンタのupとdownを切り替えてカウントする。すなわち、[A]相と[B]相の切り替え時のカウント値から近接/非近接の第1の判定を行う。この判定のために用いる閾値は図中の906である。また、[B]相終了時のカウント値から方向性に関する第2の判定を行う。この判定のために用いる閾値は図中907及び909である。尚、図10では[A]相のカウントをアップカウント、[B]相のカウントをダウンカウントとしているが、これらのカウント方向は逆であっても良い。
【0070】
本実施の形態2にかかる近接/方向では、[A]相の開始前にカウンタはリセット値908にリセットされる。そして、[A]相と[B]相の切り替え時のカウント値、すなわち、[A]相のみによるカウント値が閾値906と比較される。第1のウェル301での反射光103の受光が多くなればカウント値が増加するため、カウント値が閾値906よりも大きくなれば、その時点で対象物体101の近接状態が発生したと判定される。
【0071】
対象物体101の近接が検出されると、その時点で続いて方向性の判定が行われる。ここで、方向性の判定については図7及び図8の例と全く異なるので特に注意が必要である。方向性判定のための閾値907及び909は、リセット値907に対して±方向に対称に設定される。そして、[B]相終了時点のカウント値が、閾値907及び909の間にあれば方向性無しと判定する。これは以下の理由による。[B]相終了時点のカウント値が閾値907及び909の間にあれば、[A]相でのカウント数と[B]相でのカウント数がほぼ等しいと見なされる。この場合は、反射光103が第1のウェル301のほぼ中央で受光されていると見なされるため、対象物体101の近接は、第2の軸105に沿った移動によるものではないと判定される。
【0072】
次に、対象物体101が第2の軸105に沿って、第2のウェルから第3のウェルに向かう方向へ移動する場合を考える。この場合、対象物体101が第1のウェルに近づいてくるに伴って反射光103の受光量が増加するため、[A]相でのカウント数が増加し、やがて上記第1の判定による近接が検出される。この時点では、反射光103は第2のウェル側で強い強度を有しており、[A]相でのカウント数が大きく、[B]相でのカウント数が小さいと考えられる。このため、[B]相終了時点のカウント値が閾値907よりも大きければ、[A]相から[B]相、すなわち第2のウェルから第3のウェルに向かう方向への移動があったと判定する。
【0073】
逆に、対象物体101が第2の軸105に沿って、第3のウェルから第2のウェルに向かう方向へ移動する場合は、第1の判定による近接の検出時点で、反射光103は第3のウェル側で強い強度を有している。このため、[A]相でのカウント数が小さく、[B]相でのカウント数が大きくなる。したがって、[B]相終了時点のカウント値が閾値909よりも小さければ、[B]相から[A]相、すなわち第3のウェルから第2のウェルに向かう方向への移動があったと判定する。
【0074】
これらのカウント値の大小比較は、制御部407の中でデジタル演算により行われ(図示せず)、上記一連の信号処理に関連する増幅器及び制御部の全回路規模は、図5乃至図8で説明したパルス再生増幅器(601)による場合と比べて大幅に小さくできる。一方で、本実施の形態2においては、実施の形態1と比べ、発光素子の駆動パルス幅及び[A]相[B]相の生成パルス幅をより長い時間に設定する必要がある。例えば、10nAの受光信号900で1pFの帰還容量を持つ積分器902に1Vの出力電圧を発生させるには、100μsの時間を要する。図10の[A],[B]各相に100μsの時間を与えるとすれば1回の測定に200μsかかり、duty50%で発光素子を駆動しても、パーシスタンス=3とした場合の応答時間は1.2msと長くなる。但し、1.2msの応答時間は、これによる消費電力は大きくなるものの、近接方向センサとしての人体の動きへの追随は十分可能と言える。また、積分器を用いる本実施の形態2は、信号帯域が狭帯域となりS/Nで有利であることに加え、回路ブロックを照度センサやRGBセンサと共通化できるといったメリットもあり、有用である。
【0075】
尚、図9乃至図10においては、VFC型のA/D変換器を用いた光検出装置100について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、Charge balance型、あるいはΣΔ型等の任意のA/D変換器に適用され得るものである。また、[A]相[B]相をup/downカウンタで交互に信号処理することで近接検知と方向検知を効率よく行う特徴を損なわない範囲で、図10の信号処理方法を変形することが可能である。例えば、[A]相[B]相各1回の積分期間を連続して設けているが、[A]相[B]相をさらに分割して[A1],[B1],[B2],[A2]として対称性を高めれば、背景光等のDC乃至極低周波の変動成分の影響をより効率よく低減することができる。
【0076】
以上説明したように、単一の受光素子を用いた簡単な構成による小型かつ低コストな近接方向センサとして、対象物体の近接/非近接状態の変化とそれに直交する移動方向を、同時に効率よく検出して人体の動作に追随させるための光検出装置が実現できた。
【0077】
〔実施の形態3〕
上記実施の形態1および2では、第1の判定結果である近接/非近接状態、あるいは、第2の判定結果である近接/非近接時の移動方向について、それぞれ2値あるいは3値の状態を検出するための手段について詳細に説明してきた。本実施の形態3では、判定結果を光検出装置100の外部に出力する手段について説明する。尚、この手段は、上記実施の形態のいずれにも適用できる、
図11に、図4で説明した出力部412の詳細な構成例を示す。この例では、第1の判定結果の出力段412aと、第2の判定結果の出力段412bとが個別に設けられており、いずれもCMOSインバータとして構成されている。尚、出力段414aあるいは414bの回路構成は、図11に示したCMOSインバータに限られるものではなく、一般的なオープンドレイン出力としてもよい。
【0078】
出力段412aの出力信号414aは、例えば、Hの時は非近接状態、Lの時は近接状態、というように2状態を表すことができる。あるいは、出力段412aの出力信号414aは外部へのアラート信号とすることも望ましい。例えば、第1の判定結果に変化が生じたときのみ出力信号414aはHからLに遷移し、一定時間後に再びLからHに遷移するOne Shotパルスを出力する。このような出力信号414aに対し、外部からは当該出力信号414aを1ビットカウンタでカウントして近接/非近接の判定結果を得ることができる。あるいはまた、出力段412aの出力信号414aは、第1の判定結果に変化が生じたときのみ出力信号414aはHからLに遷移し、外部からクリアされるまでLレベルを保持する所謂割り込み出力とすることもできる。この場合にも、外部からは出力信号414aを1ビットカウンタでカウントすることで近接/非近接の判定結果を容易に得ることができる。
【0079】
一方、出力段412bは、対称物体の移動の向き、あるいは方向性無し、という3状態を表すことが必要である。このため、出力信号414bに以下のように対応させることができる。すなわち、出力信号414bがハイレベル固定の場合は、近接/非近接の状態変化に伴い、第2のウェル302から第3のウェル303の方向に対象物体の移動があったことを示し、ローレベル固定の場合は逆向きの移動があったことを示すものとする。さらに、出力信号414bとして、光検出装置内部の制御部407でのタイミング生成に用いられている内部クロック信号が出力された場合、近接/非近接の状態変化に伴う対象物体の面内方向への移動は無かったことを示すものとする。あるいは上記クロック信号そのものではなく、デューティを変えるなどした周期性パルス列が出力されても良い。第2の判定結果を出力する出力段412bをこのように構成することにより、光検出装置100の外部からは、例えば出力信号414bの平均値を検出することで移動方向に関する前記3状態を判別することができる。
【0080】
以上説明したように、対象物体の近接/非近接状態の変化とそれに直交する移動方向を、同時に効率よく検出して人体の動作に追随させるための光検出装置が実現できた。
【0081】
〔実施の形態4〕
本実施の形態4では、図4で説明した出力部412の他の構成例を、図12を参照して説明する。
【0082】
この構成例も、実施の形態1乃至2で説明した実施の形態、あるいはそこから派生する任意の実施形態に対しても容易に適用できる。この構成においては、光検出装置100と外部との通信手段として汎用のシリアル通信を用いる。例えば、I2Cなどのシリアルバス規格を用いることができる。ただし、外部との通信手段としてのSDA及びSCLの2端子に加えて、判定結果の状態変化をアラートするための割り込み出力回路414も通常は必要となる。この事情は単体の近接センサにおいても同様であり、近接方向センサの構成に特有の問題ということではない。
【0083】
上記のような構成とすることにより、第1の判定結果に1ビット、第2の判定結果に2ビットのレジスタを割り当てて外部から読み出し可能とすることができる。例えば、第2の判定結果用の2ビットレジスタに対しては、11:方向性無し、10:第3のウェルから第2のウェルの方向に移動、01:第2のウェルから第3のウェルの方向に移動、00:方向性無し、といったように判定結果をマッピングすることができる。
【0084】
上記構成では、外部機器は、出力端子412からの出力信号414によって判定結果の状態変化を通知される。そして、この通知を受けた外部機器は、SDA及びSCL端子より、制御部407内のレジスタにアクセスし、このレジスタ内に格納された上記判定結果を読み出す。従って、外部で出力端子412の出力信号414を検出するために、平均化やウィンドウコンパレータ、あるいはA/D変換器などの追加コスト要因を発生させること無く、対象物体の近接情報及び移動方向の情報を得ることができる。
【0085】
このようにして、単一の受光素子を用いた簡単な構成による小型かつ低コストな近接方向センサとして、対象物体の近接/非近接状態の変化とそれに直交する移動方向を、同時に効率よく検出して人体の動作に十分に追随させるための光検出装置が構成できた。
【0086】
〔実施の形態5〕
実施の形態1乃至4で説明した光検出装置100を搭載した携帯端末(電子機器)110を図13に示す。図13において、端末110はマルチタッチディスプレイ(タッチパネル)111を備えており、端末110の使用者から見てディスプレイの下部に、光検出装置100が埋め込まれている。図13における光検出装置100の長手方向の軸は、図1乃至3で示した例とは向きが90度異なっているが、内部に搭載される受光素子200の第2及び第3のウェルを結ぶ軸が図13中の方向105に概ね一致していれば何ら問題はなく、単なる変形例に過ぎない。
【0087】
このような携帯機器の構成により、少なくとも図13の105方向に対するスワイプ動作はタッチレス化することができる。特に、近接センサとしての出力変化時にのみ方向検知がなされるため、余計な方向検知出力は生じず、機器としての誤動作を招くことが無い。このようにして、スワイプ動作によるディスプレイの油脂汚れの問題が、極めて低コストかつ省スペースである単体の近接方向センサによって解決された。
【0088】
尚、これまでの説明から明らかなように、本発明による光検出装置100をXYZ、3軸の近接方向センサに拡張することは容易である(Z:近接、X,Y:方向)。すなわち、第2及び第3のウェルを結ぶ軸に垂直となるよう、第4及び第5のウェルを第1のウェルを挟んで対向させて配置するとともに、信号処理においては、第2及び第3のウェルに対する[A]相及び[B]相の信号処理に加えて、第4及び第5のウェルに対する[C]相及び[D]相の信号処理を行い、また判定結果の出力についても同様に、実施の形態4乃至5を利用してさらに3値の状態を追加して表せるようにすればよい。その結果、1軸のスワイプ動作に限らず、携帯端末110におけるユーザの各種モーションのセンシングに本発明の光検出装置を利用することができる。
【0089】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、単一の受光素子を用いた簡単な構成による小型かつ低コストな近接方向センサを提供でき、携帯電話やスマートフォン、タブレット型情報端末、あるいはデジタルカメラ等の電子機器に利用することができる。
【符号の説明】
【0091】
100 光検出装置
101 対象物体
111 マルチタッチディスプレイ(タッチパネル)
200 受光素子
201 信号処理回路
202 発光素子
300 p型シリコン基板
301 第1のウェル
302 第2のウェル
303 第3のウェル
406 増幅部
407 制御部
412 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と、前記発光素子の照射光が対象物体によって反射されたときの反射光を受光する受光素子とを備える光検出装置であって、
前記受光素子は、前記反射光が直接入射する第1のウェルと、前記第1のウェルの外周に沿って前記第1のウェルを挟んで対向し、かつ前記発光素子からの光は遮光されて入射しない第2のウェル及び第3のウェルとを、備えており、
さらに、前記第1のウェルの出力と前記第2のウェルの出力との和、及び、前記第1のウェルの出力と前記第3のウェルとの出力の和を、時間軸上で交互に信号処理し、当該光検出装置天面の法線方向である第1の軸方向に沿う対象物体の近接状態を表す第1の判定結果と、前記対象物体の近接状態が変化した際、前記対象物体が前記第2及び第3のウェルを結ぶ第2の軸方向に沿って移動した向き又は方向性無しの3状態のいずれかを表す第2の判定結果と、を出力する信号処理回路を備えていることを特徴とする光検出装置。
【請求項2】
前記受光素子はシリコン基板上に形成され、
前記発光素子の発光スペクトルは900nm乃至980nmの波長に最大強度を有し、
前記第1のウェルと前記第2のウェルとの距離、及び、前記第1のウェルと前記第2のウェルとの距離は、相等しく10μm以内であることを特徴とする請求項1に記載の光検出装置。
【請求項3】
前記信号処理回路は、
前記第1のウェルの出力および前記第2のウェルの出力の和と、前記第1のウェルの出力および前記第3のウェルの出力の和との、いずれに対しても、同一の1組の閾値を用いて3値以上の多値出力を有する比較器を備え、
前記第1の判定結果は、時間軸上で交互に信号処理された前記各和が、順序に関係なく複数回連続して、前記比較器によって前記1組の閾値のうちのいずれかの閾値と比較された結果として、同一であったか否かに基づいて判定され、
前記第2の判定結果は、上記第1の判定結果が判定される直前に信号処理された前記各和が、前記比較器によって前記1組の閾値のうちのいずれかでかつ第1の判定に用いられたものとは異なる閾値と比較された結果に基づいて判定されることを特徴とする請求項1または2に記載の光検出装置。
【請求項4】
前記信号処理回路は、
前記第1のウェルの出力と前記第2のウェルの出力との和、および前記第1のウェルの出力と前記第3のウェルの出力との和を積分する積分器と、
前記積分器の出力を閾値電圧と比較して2値のデジタルパルス信号を生成する比較器と、
前記デジタルパルス信号のパルス発生回数をカウントするアップダウンカウンタとを備え、
(I) 前記発光素子が発光した状態で前記第1のウェルの出力と前記第2または第3のウェルの出力との和をアップカウント、またはダウンカウントし、続いて、
(II) 前記発光素子が発光した状態で前記第1のウェルの出力と前記第3または第2のウェルの出力との和を、前記(I)とは逆方向にダウンカウントまたはアップカウントし、
前記第1の判定結果は、(I)終了時点のカウント値が第1の閾値を超えるか否かに基づいて判定され、
前記第2の判定結果は、(II)終了時点のカウント値が第2及び第3の閾値の間にあるか否か、に基づいて判定されることを特徴とする請求項1または2に記載の光検出装置。
【請求項5】
前記第2の判定結果を出力するための出力端子を備え、
前記第2の判定結果は、ハイレベル、ローレベル、および内部で生成されるパルス列の3状態の何れかとして出力されることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の光検出装置。
【請求項6】
外部との通信手段と、
前記第1の判定結果および第2の判定結果の状態変化に基づいて出力する出力端子と、
前記第1の判定結果および第2の判定結果が格納され、前記通信手段により外部から読み出し可能なレジスタとを少なくとも備え、
前記第1の判定結果は1ビット、前記第2の判定結果は2ビットの情報として、前記レジスタに格納されることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の光検出装置。
【請求項7】
前記受光素子と前記信号処理回路とが集積化されていることを特徴とする請求項1から6の何れか一項に記載の光検出装置。
【請求項8】
当該光検出装置のパッケージは、前記受光素子のためのレンズを含まないことを特徴とする請求項7に記載の光検出装置。
【請求項9】
タッチパネルを備える電子機器であって、前記請求項1から8の何れか一項に記載の光検出装置を搭載することにより、少なくとも前記タッチパネルにおけるスワイプ動作をタッチレス化していることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−233783(P2012−233783A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102375(P2011−102375)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】