説明

内燃機関および排気再循環装置

【課題】新気と不活性ガスとの接触面積が減少して混合が低減されるとともに、新気と不活性ガスとの成層化が促進される内燃機関および排気再循環装置を提供する。
【解決手段】ECU16は、エンジン本体11が吸気行程にあるとき、EGR弁15を開閉駆動する。これにより、吸気通路32から燃焼室27には、排気の濃度の高い高EGR層と新気を主成分とする低EGR層とが時期的にずれて流入する。そのため、燃焼室27に流入した吸気は、燃焼室27の軸方向へ成層化した高EGR層および低EGR層を形成する。その結果、高EGR層と低EGR層との接触面積は、燃焼室27の軸に垂直な断面積に近似する程度に減少する。また、高EGR層および低EGR層は、いずれも燃焼室27の軸方向の厚さが大きくなる。したがって、高EGR層と低EGR層との混合が低減され、高EGR層と低EGR層との成層化が促進される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関および排気再循環装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば内燃機関の排気や窒素など、燃料の燃焼に寄与しない不活性ガスを内燃機関の燃焼室に供給することにより、燃焼温度を低下させ、NOxの生成を抑制することが知られている。このような内燃機関として、特許文献1は、吸気通路を流れる新気に対し層状に排気を導入することを開示している。これにより、吸気通路を流れる吸気は、排気が混合されていない新気と排気とが不均一なまま燃焼室へ流入する。そのため、燃焼室には、成層化した新気と排気とが導入される。
【0003】
しかしながら、特許文献1の場合、新気と排気とは流れ方向に沿って層状に成層化している。そのため、これら新気および排気は、燃焼室の内部においてピストンの往復移動方向すなわち燃焼室の軸と平行な境界の層を形成する。その結果、新気および排気の層の厚さが小さくなるとともに、新気と排気とが接触する面積は大きくなる。これにより、新気と排気とは、燃焼室の内部において混合しやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008―196306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、新気と不活性ガスとの接触面積が減少して混合が低減されるとともに、新気と不活性ガスとの成層化が促進される内燃機関および排気再循環装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明では、制御手段は、不活性ガス供給部から吸気通路へ不活性ガスの供給を断続する不活性ガス供給弁を開閉駆動する。制御手段は、内燃機関本体が吸気行程にあるとき、新気および不活性ガスが燃焼室へ導入される時期を制御する。これにより、吸気通路から燃焼室には、不活性ガスの濃度が低い新気と不活性ガスとが時期的にずれて流入する。そのため、燃焼室に流入した吸気は、新気と不活性ガスとが燃焼室の軸方向へ層を形成する。その結果、新気と不活性ガスとの接触面積は、燃焼室の軸に垂直な断面積に近似する程度に減少する。また、新気の層および不活性ガスの層は、いずれも厚さが大きくなる。したがって、燃焼室に吸入された新気と不活性ガスとの混合が低減され、新気と不活性ガスとの成層化を促進することができる。なお、本明細書および特許請求の範囲において「不活性ガス」とは、新気に比較して酸素濃度が低下し、新気に比較して燃料の燃焼を促す作用が小さいものをいう。そのため、不活性ガスは、例えば二酸化炭素、窒素あるいは希ガスに限らず、排気再循環装置で再循環される排気も含む。
【0007】
請求項2記載の発明では、制御手段は、不活性ガス供給弁の開閉駆動によって、接続部から燃焼室へ至る吸気通路において吸気に含まれる不活性ガスの濃度に差を形成する。これにより、新気と不活性ガスとは、燃焼室へ至る吸気通路において層状に濃度差を形成する。そして、層状に濃度差を形成している新気および不活性ガスは、吸気行程において吸気通路から燃焼室へ導入されるとき、吸気通路における濃度を維持した状態で燃焼室へ流入する。したがって、燃焼室に吸入された新気と不活性ガスとの混合が低減され、新気と不活性ガスとの成層化を促進することができる。
【0008】
請求項3記載の発明では、運転状態取得手段は、内燃機関本体の運転状態を取得する。制御手段は、取得した内燃機関本体の運転状態に応じて不活性ガス供給弁の開閉時期を変更する。そのため、内燃機関本体の運転状態に応じて適切な新気および不活性ガスを燃焼室へ供給することができる。
【0009】
請求項4記載の発明では、制御手段は、吸気行程の前半に不活性ガスの濃度を低め、吸気行程の後半に不活性ガスの濃度を高める。すなわち、制御手段は、吸気行程の前半において燃焼室へ不活性ガスの濃度の低い新気を供給し、吸気行程の後半において燃焼室へ供給する不活性ガスの濃度を高める。これにより、燃焼室には、吸気通路から遠い側に不活性ガスの濃度の低い新気の層が形成され、吸気通路から近い側に不活性ガスの濃度の高い層が形成される。そのため、燃焼室における燃料の燃焼は、不活性ガスの濃度の高い層で開始される。その結果、燃焼温度が低下し、NOxの生成が低減される。したがって、内燃機関本体から排出されるNOxを低減することができる。
【0010】
請求項5記載の発明では、制御手段は、吸気行程の前半に不活性ガスの濃度を高め、吸気行程の後半に不活性ガスの濃度を低める。すなわち、制御手段は、吸気行程の前半において燃焼室へ高い濃度の不活性ガスを供給し、吸気行程の後半において燃焼室へ不活性ガスの濃度の低い新気を供給する。これにより、燃焼室には、吸気通路から遠い側に不活性ガスの濃度の高い層が形成され、吸気通路から近い側に不活性ガスの濃度の低い新気の層が形成される。そのため、燃焼室を形成する内燃機関本体の壁面付近には、新気に比較して温度の高い不活性ガスの層が形成される。その結果、特に負荷が小さいときにおいて内燃機関本体から燃焼室内の吸気への熱の移動にともなう熱損失が低減されるとともに、燃焼室に噴射された燃料は酸素が豊富な新気によって燃焼が促進される。したがって、内燃機関本体の負荷が小さいときでも、熱効率を高めることができるとともに、安定した運転を確保することができる。
【0011】
一般に、内燃機関本体の負荷が大きくなるほど、燃焼室における燃料の燃焼温度は上昇しやすく、燃料の燃焼によって生成するNOxは増大する。そのため、内燃機関本体の負荷が大きくなるほど、燃焼室において燃料の燃焼が生じる位置に近い、すなわち吸気通路に近い位置において不活性ガスの濃度を高めることが望ましい。そこで、請求項6記載の発明では、制御手段は、内燃機関本体の負荷が大きくなるにしたがって、不活性ガスを供給する時期を吸気行程の後半にずらしている。これにより、燃焼室において燃料の燃焼が生じる位置に近い、すなわち吸気通路に近い位置において不活性ガスの濃度が高くなる。これとともに、新気と不活性ガスとが接する時間が短縮され、新気と不活性ガスとの混合も低減される。したがって、内燃機関本体の負荷に応じて燃料の燃焼温度を制御することができ、排気に含まれるNOxを低減することができる。
【0012】
請求項7記載の発明では、失火条件判断手段をさらに備えている。失火条件判断手段は、例えば冷却水の温度が低いとき、新気の酸素密度が低いとき、あるいは燃料のセタン価が低いときなどのように、内燃機関本体で燃料が失火しやすい条件にあるか否かを判断する。このように失火条件判断手段が内燃機関本体で失火しやすい条件が成立していると判断すると、制御手段は、吸気行程の前半に不活性ガスの濃度を高めるとともに、吸気行程の後半に不活性ガスの濃度を低める。そのため、燃焼室において燃料の燃焼が生じる位置に近い、すなわち吸気通路に近い位置には、不活性ガスの濃度が低い、すなわち酸素が豊富な新気の層が形成される。その結果、燃料の着火性が向上する。したがって、内燃機関本体の安定した運転を確保することができる。
【0013】
請求項8記載の発明では、吸気系は、ストレートポートおよびヘリカルポートを有している。不活性ガスを供給する供給通路は、このストレートポートに接続している。そのため、不活性ガス供給部から供給される不活性ガスは、ストレートポートが形成する吸気通路を経由して燃焼室へ流入する。これにより、吸気は、層流に近い状態で燃焼室の径方向中心付近へ流入する。したがって、燃焼室における新気と不活性ガスとの混合が低減され、新気と不活性ガスとの成層化を促進することができる。
【0014】
請求項9記載の発明では、排気を吸気通路へ還流する排気再循環部を備えている。そして、不活性ガス供給部は、排気通路を流れる排気を不活性ガスとして吸気通路へ供給する。したがって、排気再循環部を経由して循環する排気を不活性ガスとする場合でも、新気と排気との混合を低減することができ、新気と排気との成層化を促進することができる。
【0015】
請求項10記載の発明では、排気循環部は、吸気通路へ供給する排気を加圧する過給部を有している。これにより、吸気通路から燃焼室へ供給される排気は、圧力が高くなり、より迅速に燃焼室へ流入する。したがって、排気と新気との接触時間を低減することができ、燃焼室における新気と不活性ガスとの混合をより低減することができる。
【0016】
請求項11記載の発明では、制御手段は、排気通路から吸気通路へ再循環される排気の流れを断続する排気再循環弁を開閉駆動する。制御手段は、内燃機関本体が吸気行程にあるとき、新気および再循環される排気が燃焼室へ導入される時期を制御する。これにより、吸気通路から燃焼室には、排気の濃度が低く新鮮な空気の濃度が高い新気と、排気の濃度が高く新鮮な空気の濃度が低い最循環ガスとが時期的にずれて流入する。そのため、燃焼室に流入した吸気は、新気と再循環ガスとが燃焼室の軸方向へ層を形成する。その結果、新気と再循環ガスとの接触面積は、燃焼室の軸に垂直な断面積に近似する程度に減少する。また、新気の層および再循環ガスの層は、いずれも厚さが大きくなる。したがって、燃焼室に吸入された新気と再循環ガスとの混合が低減され、新気と再循環ガスとの成層化を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態による内燃機関の概略構成を示す模式図
【図2】第1実施形態による内燃機関を示すブロック図
【図3】第1実施形態による内燃機関のEGR弁の作動時期を示す概略図
【図4】従来の内燃機関のEGR弁の作動時期を示す概略図
【図5】第1実施形態による内燃機関のEGR弁の作動時期と高EGR層および低EGR層の形成の流れを示す模式図
【図6】第1実施形態による内燃機関において吸気通路側に高EGR層を形成した例を示す模式図
【図7】第1実施形態による内燃機関において吸気通路側に低EGR層を形成した例を示す模式図
【図8】第1実施形態による内燃機関の処理の流れを示す概略図
【図9】エンジン回転数、燃料噴射量、目標成層度の関係を示す概略図
【図10】第2実施形態による内燃機関の要部を示す模式図
【図11】第3実施形態による内燃機関の図10に相当する図
【図12】第4実施形態による内燃機関の図10に相当する図
【図13】第5実施形態による内燃機関の図1に相当する図
【図14】第6実施形態による内燃機関の図1に相当する図
【図15】その他の実施形態による内燃機関の図1に相当する図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、内燃機関の複数の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
図1に第1実施形態による内燃機関としてのディーゼルエンジン(以下、「エンジン」と称する。)10を示す。エンジン10は、内燃機関本体(以下、「エンジン本体」と称する。)11、吸気系12、排気系13、不活性ガス供給部および排気再循環部としてのEGR(Exhoust Gas Recirculation)装置14、不活性ガス供給弁としてのEGR弁15、および制御手段としてECU(Electronic Control Unit)16を備えている。エンジン本体11は、シリンダブロック21、シリンダヘッド22、ピストン23、吸気バルブ24、排気バルブ25および図示しないバルブ駆動機構部などを備えている。シリンダブロック21は、筒状のシリンダ26を有している。ピストン23は、このシリンダ26の内部を軸方向へ往復移動する。シリンダブロック21、シリンダヘッド22およびピストン23は、燃焼室27を形成している。エンジン10は、シリンダヘッド22を貫いて端部が燃焼室27に露出するインジェクタ28を備えている。インジェクタ28は、図示しない燃料ポンプで加圧された燃料を燃焼室27へ噴射する。なお、エンジン10は、吸気を過給する図示しないターボチャージャを備えていてもよい。
【0019】
吸気系12は、吸気管部材31を有している。吸気管部材31は、吸気通路32を形成している。吸気通路32の一方の端部は、図示しない吸気口を経由して大気に開放している。吸気通路32の他方の端部は、燃焼室27に接続している。吸気バルブ24は、吸気通路32と燃焼室27との間を断続する。これにより、吸気通路32の図示しない吸気口から吸入された空気は、吸気通路32を経由して燃焼室27へ供給される。排気系13は、排気管部材33を有している。排気管部材33は、排気通路34を形成している。排気通路34の一方の端部は、図示しない触媒やマフラーを経由して大気に開放している。排気通路34の他方の端部は、燃焼室27に接続している。排気バルブ25は、燃焼室27と排気通路34との間を断続する。これにより、燃焼室27から排出された排気は、排気通路34を経由して大気中へ放出される。吸気バルブ24および排気バルブ25は、ピストン23の往復移動に同期する図示しないバルブ駆動機構部によって駆動される。
【0020】
EGR装置14は、EGR通路部材41を有している。EGR通路部材41は、特許請求の範囲の通路形成部材に相当し、EGR通路42を形成している。EGR通路42は、一方の端部が排気通路34に接続し、他方の端部が吸気通路32に接続している。具体的には、EGR通路42の一方の端部は、排気通路34の排気バルブ25から図示しない触媒までの間に接続している。また、EGR通路42の他方の端部は、吸気通路32の図示しない吸気口から燃焼室27までの間に接続している。EGR通路42と吸気通路32とは、接続部43で接続している。これにより、排気通路34を流れる排気の一部は、EGR通路42を経由して吸気通路32へ戻される。以下、吸気通路32へ戻される排気は「EGRガス」と称する。このEGRガスは、燃焼室27における燃料の燃焼によって酸素が消費されている。そのため、EGRガスに含まれる酸素の濃度は、吸気通路32の図示しない吸気口から吸入された新鮮な空気(以下、「新気」と称する。)に比較して低下している。その結果、EGRガスは、新気に比較して燃料の燃焼を促す活性が低い。つまり、EGRガスは、特許請求の範囲の不活性ガスに相当する。
【0021】
EGR弁15は、特許請求の範囲の排気再循環弁に相当し、このEGR通路42に設けられている。EGR弁15は、EGR通路部材41が形成するEGR通路42を開閉する。これにより、EGR通路42を流れるEGRガスは、EGR弁15によって吸気通路32への供給が断続される。EGR弁15は、アクチュエータ44を有している。これにより、EGR弁15は、ECU16からアクチュエータ44へ出力された電気信号にしたがってEGR通路42を開閉する。ECU16は、図示しないCPU、ROMおよびRAMを有するマイクロコンピュータで構成されている。ECU16は、ROMに記憶されているコンピュータプログラムにしたがってエンジン10の全体を制御する。
【0022】
エンジン10は、図2に示すように運転状態取得部50を備えている。運転状態取得部50は、アクセル開度センサ51および回転数センサ52などを有している。アクセル開度センサ51は、図示しないアクセルペダルの踏み込み量を検出する。アクセル開度センサ51は、検出したアクセルペダルの踏み込み量を電気信号としてECU16へ出力する。また、回転数センサ52は、エンジン本体11の回転数を検出する。回転数センサ52は、検出したエンジン本体11の回転数を電気信号としてECU16へ出力する。さらに、ECU16は、水温センサ53、酸素濃度センサ54およびセタン価取得部55などに接続している。水温センサ53は、エンジン本体11の冷却水の温度を検出し、検出した冷却水の温度を電気信号としてECU16へ出力する。酸素濃度センサ54は、吸気通路32を流れる新気の酸素濃度を検出し、検出した酸素濃度を電気信号としてECU16へ出力する。セタン価取得部55は、エンジン本体11における燃料の燃焼状態から燃料のセタン価を取得し、取得した燃料のセタン価を電気信号としてECU16へ出力する。
【0023】
ECU16は、負荷判断手段として負荷判断部56、および失火条件判断手段としての失火条件判断部57を有している。これら負荷判断部56および失火条件判断部57は、ECU16においてコンピュータプログラムを実行することにより、ソフトウェア的に実現されている。なお、負荷判断部56および失火条件判断部57は、ハードウェア的に実現してもよい。負荷判断部56は、アクセル開度センサ51で検出したアクセルペダルの開度、および回転数センサ52で検出したエンジン本体11の回転数に基づいて、エンジン10の負荷状態を判断する。また、失火条件判断部57は、水温センサ53で検出した冷却水の温度、酸素濃度センサ54で検出した新気の酸素濃度、およびセタン価取得部55で取得した燃料のセタン価などに基づいて、エンジン本体11において燃料の失火を招く条件が成立しているか否かを判断する。なお、失火条件判断部57は、例示であり、上記のセンサに限らず、他のセンサから取得した情報を利用してもよい。
【0024】
次に、上記した第1実施形態によるエンジン10における吸気の供給について説明する。
第1実施形態によるエンジン10は、通常のエンジンと同様に吸気行程、圧縮行程、燃焼行程および排気行程を順に実行する。第1実施形態の場合、ECU16は、図3に示すようにエンジン本体11が吸気行程にあるとき、EGR弁15によってEGR通路42を開閉する。そのため、EGR通路42は、圧縮行程、燃焼行程および排気行程にあるとき、EGR弁15によって閉鎖されている。一方、ECU16は、エンジン本体11が吸気行程にあるとき、この吸気行程の全期間ではなく、圧縮行程に近い期間でEGR弁15によってEGR通路42を開放する。これにより、第1実施形態の場合、EGR通路42を経由して排気通路34から戻されるEGRガスは、吸気行程の後期に燃焼室27へ供給される。ところで、従来のEGR装置を備えるエンジンの場合、運転状態が一定であれば、図4に示すようにエンジン本体がいずれの行程にあってもEGR弁の開度は一定である。そのため、従来のエンジンの場合、図示しない吸気口から導入された新気とEGR通路を経由して戻されたEGRガスとは、所定の割合で混合されて燃焼室に供給される。
【0025】
第1実施形態の場合、ECU16は、EGR弁15によって吸気行程の途中にEGR通路42を開閉する。一般に排気通路34からEGR通路42を経由して吸気通路32へ戻されるEGRガスの圧力は、大気圧の空気を主とする新気の圧力よりも高い。また、EGRガスは、新気との間で温度差および濃度差も大きい。そのため、燃焼室27に供給される吸気は、新気とEGRガスとが容易に混合しにくい。その結果、燃焼室27に供給される吸気は、接続部43から燃焼室27へ至る吸気通路32において、新気を主成分としてEGRガスの濃度が低い低EGR層とEGRガスを主成分としてEGRガスの濃度が高い高EGR層とが層状になる。
【0026】
例えば図5に示すように吸気行程の後半にEGR弁15によってEGR通路42を開放すると、接続部43から燃焼室27へ至る吸気通路32において燃焼室27に近い側に低EGR層62が形成され、燃焼室27から遠い側に高EGR層61が形成される。すなわち、エンジン本体11が吸気行程に移行する直前において、吸気バルブ24が吸気通路32と燃焼室27との間を閉鎖しているとき、吸気通路32には図示しない吸気口から吸入された新気が充満している。そのため、吸気通路32の燃焼室27側は、新気を主成分とする低EGR層62となっている。そして、EGR弁15がEGR通路42を開放すると、吸気通路32にはEGR通路42から排気が流入する。そのため、吸気通路32の燃焼室27から遠い側すなわち低EGR層62の図示しない吸気口側には、排気を主成分とする高EGR層61が形成される。
【0027】
このとき、吸気バルブ24が開弁し、吸気通路32から燃焼室27へ吸気が供給されると、図6に示すように燃焼室27の軸方向において、吸気通路32から遠いピストン23側に低EGR層62が形成され、吸気通路32に近い側に高EGR層61が形成される。このように、燃焼室27には成層化した高EGR層61および低EGR層62が形成される。ここで、EGR弁15によるEGR通路42の閉鎖時期が早すぎると、燃焼室27へ高EGR層61を供給した後、再び低EGR層62が供給されることになる。また、EGR弁15によるEGR通路42の閉鎖時期が遅すぎると、吸気バルブ24が閉弁した後の吸気通路32には高EGR層61が滞留することになる。したがって、ECU16は、これら吸気の移動時間も考慮してEGR弁15の開閉時期を設定する。
【0028】
このように、燃焼室27においてピストン23側に低EGR層62を形成し吸気通路32側に高EGR層61を形成することにより、燃料が噴射されるインジェクタ28の周辺には高EGR層61が形成される。そのため、インジェクタ28から噴射された燃料は、酸素の濃度が比較的低い高EGR層61において緩やかに燃焼する。そして、インジェクタ28から噴射された燃料は、十分に着火した状態で酸素の濃度が比較的高い低EGR層62へ到達する。これにより、特にエンジン10の負荷が大きな高負荷状態のときでも、燃料の着火遅れが大きくなるとともに、燃焼温度が低下する。その結果、黒煙の原因となる粒子状物質(PM:Particulate Matter)の生成、騒音の発生およびNOxの生成は、いずれも低減される。
【0029】
一方、ECU16は、EGR弁15によって吸気行程の前半にEGR通路42を開閉してもよい。この場合、接続部43から燃焼室27へ至る吸気通路32において、燃焼室27に近い側に高EGR層61が形成され、燃焼室27から遠い側に低EGR層62が形成される。このとき、吸気通路32から燃焼室27へ吸気が供給されると、図7に示すように燃焼室27の軸方向において、図6とは逆に吸気通路32から遠いピストン23側に高EGR層61が形成され、吸気通路32に近い側に低EGR層62が形成される。
【0030】
このように、燃焼室27においてピストン23側に高EGR層61を形成し吸気通路32側に低EGR層62を形成することにより、燃料が噴射されるインジェクタ28の周辺には低EGR層62が形成される。そのため、インジェクタ28から噴射された燃料は、酸素の濃度が比較的高い低EGR層62によって速やかに着火する。また、この場合、燃焼室27を形成するシリンダブロック21およびピストン23に近い側には、高EGR層61が形成される。そのため、シリンダブロック21およびピストン23に接する吸気は、排気を含むことにより比較的温度の高い高EGR層61となる。その結果、燃焼室27を形成するシリンダブロック21およびピストン23の壁面から吸気が奪う熱量は小さくなる。これにより、特にエンジン10の始動直後のように温度が低いとき、あるいはエンジン10の負荷が小さな低負荷状態のときでも、燃料の安定した着火が確保されるとともに、熱効率の向上が図られる。
【0031】
一般に、エンジン10の負荷が大きくなるほど、燃焼室27における燃料の燃焼温度は上昇しやすく、燃料の燃焼によって生成するNOxは増大する。そのため、エンジン10の負荷が大きくなるほど、図6に示すように燃焼室27において燃料の燃焼が生じる位置に近い、すなわち吸気通路32およびインジェクタ28に近い位置に高EGR層61を形成することが望ましい。そこで、ECU16は、エンジン10の負荷が大きくなるにしたがって、EGR弁15の開弁時期を遅らせ、高EGR層61を燃焼室27へ供給する時期を吸気行程の後半にずらしてもよい。これにより、排気の濃度が高い高EGR層61は、燃焼室27において燃料の燃焼が生じるインジェクタ28に近い位置に形成される。また、高EGR層61の供給時期を吸気行程の後半にずらすことにより、高EGR層61と低EGR層62とが接する時間が短縮され、高EGR層61と低EGR層62との混合も低減される。
【0032】
次に、上記した第1実施形態によるエンジン10の作動の流れについて図8に基づいて説明する。
ECU16は、エンジン10を運転しているとき、定期的にエンジン10の運転状態を取得する(S101)。具体的には、ECU16は、アクセル開度センサ51からアクセルペダルの踏み込み量を取得するとともに、回転数センサ52からエンジン本体11の回転数を取得する。ECU16は、取得したアクセルペダルの踏み込み量およびエンジン本体11の回転数に基づいて、エンジン10の運転状態を取得する。ECU16は、S101においてエンジン10の運転状態を取得すると、吸気の成層化が必要であるか否かを判断する(S102)。ECU16は、S101で取得したエンジン10の運転状態に応じて、燃焼室27へ供給する吸気を成層化するか否かを判断する。
【0033】
ECU16は、S102において吸気の成層化が必要であると判断すると(S102:Yes)、EGR弁15の開閉時期を設定する(S103)。そして、ECU16は、S103で設定したEGR弁15の開閉時期にしたがってEGR弁15を駆動する(S104)。一方、ECU16は、S102において吸気の成層化が必要でないと判断すると(S102:No)、S101へリターンし、エンジン10の運転が継続している間、S101以降の処理を繰り返す。
【0034】
ECU16は、S102において、図9に示すようなエンジン本体11の回転数とエンジン本体11への燃料噴射量との関係に基づいて目標成層度を設定する。図9に示す目標成層度は、エンジン本体11の回転数と燃料噴射量との関係に基づいて予め設定され、例えば図示しないROMなどの記憶装置に記憶されている。燃料噴射量は、S101で取得したエンジン10の運転状態に基づいて設定される。ここで、目標成層度とは、燃焼室27へ供給される吸気に設定される成層度合いである。また、成層度合いとは、高EGR層61と低EGR層62との境界部の鮮明度、すなわち高EGR層61と低EGR層62との間におけるEGRガスの濃度勾配の大きさに相当する。
【0035】
図9に示すようにエンジン本体11の回転数に対する燃料噴射量が小さいとき、エンジン10の負荷は小さいと考えられる。そのため、ECU16の負荷判断部56は、回転数に対する燃料噴射量が小さいときエンジン10の負荷が小さいと判断する。そして、ECU16は、エンジン10の負荷が小さいと判断したとき、目標成層度を低く設定する。一方、エンジン本体11の回転数に対する燃料噴射量が大きいとき、エンジン10の負荷は大きいと考えられる。そのため、ECU16の負荷判断部56は、回転数に対する燃料噴射量が大きいとき、エンジン10の負荷が大きいと判断する。そして、ECU16は、エンジン10の負荷が大きいと判断したとき、目標成層度を高く設定する。このように、ECU16は、S101で取得したエンジン10の運転状態に基づいて目標成層度を設定する。また、このとき、ECU16は、S101で取得したエンジン10の運転状態に基づくエンジン10の負荷状態から、高EGR層61および低EGR層62の供給順も設定する。
【0036】
エンジン本体11が吸気行程にあるとき、EGR弁15がEGR通路42を開放する期間を短期間として、EGR弁15の開度を比較的大きくすると、比較的大量のEGRガスは短期間で吸気通路32へ流入する。そのため、新気とEGRガスとは、吸気通路32における接触期間が短かく、吸気通路32において混合しにくい。その結果、高EGR層61と低EGR層62との境界部は鮮明となり、成層度は向上する。一方、エンジン本体11が吸気行程にあるとき、EGR弁15がEGR通路42を開放する期間を長期間として、EGR弁15の開度を比較的小さくすると、比較的少量のEGRガスは長期間で吸気通路32へ流入する。そのため、新気とEGRガスとは、吸気通路32における接触期間が長く、吸気通路32において混合しやすくなる。その結果、高EGR層61と低EGR層62との境界部は不鮮明となり、成層度は低下する。このように、ECU16は、S103において設定した目標成層度に応じて、S104においてEGR弁15を駆動する。これにより、吸気通路32から燃焼室27へ供給される吸気の成層度は、目標成層度に制御される。上述のように、エンジン10の負荷が大きいとき、ECU16は低EGR層62および高EGR層61の順で燃焼室に吸気を供給する。一方、エンジン10の負荷が小さいとき、ECU16は高EGR層61および低EGR層62の順で燃焼室27に吸気を供給する。さらに、ECU16は、エンジン10の負荷が大きくなるほど、高EGR層61を形成する時期を吸気行程の後半にずらしていく。このように、ECU16は、高EGR層61および低EGR層62の供給順序、ならびに高EGR層61の供給時期などを総合的に判断し、これらに基づいてEGR弁15を駆動する。
【0037】
以上説明したように、第1実施形態では、ECU16は、エンジン本体11が吸気行程にあるとき、EGR弁15を開閉駆動して新気およびEGRガスを燃焼室27へ導入する時期を制御する。これにより、吸気通路32から燃焼室27には、高EGR層61と低EGR層62とが時期的にずれて流入する。そのため、燃焼室27に流入した吸気は、燃焼室27の軸方向へ成層化した高EGR層61および低EGR層62を形成する。その結果、高EGR層61と低EGR層62との接触面積は、燃焼室27の軸に垂直な断面積に近似する程度に減少する。また、高EGR層61および低EGR層62は、いずれも燃焼室27の軸方向の厚さが大きくなる。したがって、燃焼室27に吸入された高EGR層61と低EGR層62との混合が低減され、高EGR層61と低EGR層62との成層化を促進することができる。
【0038】
第1実施形態では、ECU16は、EGR弁15を開閉駆動することにより、接続部43から燃焼室27への至る吸気通路32において吸気に含まれるEGRガスの濃度に差を形成する。これにより、新気とEGRガスとは、接続部43から燃焼室27へ至る吸気通路32において層状に濃度差のある高EGR層61と低EGR層62とを形成する。そして、吸気通路32において層状に濃度差を形成している高EGR層61および低EGR層62は、吸気行程において吸気通路32から燃焼室27へ導入されるとき、吸気通路32における濃度差を維持した状態で燃焼室27へ流入する。したがって、燃焼室27に吸入された高EGR層61と低EGR層62との混合が低減され、高EGR層61と低EGR層62との成層化を促進することができる。
【0039】
第1実施形態では、ECU16は、アクセル開度センサ51および回転数センサ52を経由してエンジン10の運転状態を取得する。ECU16は、取得したエンジン10の運転状態に応じてEGR弁15の開閉時期を変更する。したがって、エンジン10の負荷状態に応じた適切な高EGR層61および低EGR層62を形成して、燃焼室27へ供給することができる。
【0040】
第1実施形態では、ECU16は、吸気行程の前半に低EGR層62、吸気行程の後半に高EGR層61を供給する。これにより、燃焼室27には、吸気通路32から遠いピストン23側に低EGR層62が形成され、吸気通路32に近い側に高EGR層61が形成される。そのため、燃焼室27における燃料の燃焼は、高EGR層61で開始される。その結果、燃料の燃焼温度が低下するとともに、燃料の着火遅れが生じる。したがって、エンジン本体11から排出されるNOx、PMおよび騒音を低減することができる。また、ECU16は、EGR弁15の開閉時期を調整することにより、逆に吸気行程の前半に高EGR層61、吸気行程の後半に低EGR層62を供給することもできる。これにより、燃焼室27には、吸気通路32から遠いピストン23側に高EGR層61が形成され、吸気通路32に近い側に低EGR層62が形成される。そのため、燃焼室27を形成するシリンダブロック21やピストン23の壁面付近には、低EGR層62に比較して温度の高い高EGR層61が形成される。その結果、特に負荷が小さいときにおいてエンジン本体11から燃焼室27内の吸気への熱の移動にともなう熱損失が低減されるとともに、燃焼室27に噴射された燃料は酸素が豊富な新気によって燃焼が促進される。したがって、エンジン10の負荷が小さいときでも、熱効率を高めることができるとともに、安定した運転を確保することができる。
【0041】
第1実施形態では、ECU16は、エンジン10の負荷が大きくなるにしたがって、高EGR層61を供給する時期を吸気行程の後半にずらしている。これにより、高EGR層61は、燃焼室27において燃料の燃焼が生じるインジェクタ28に近い位置に形成される。これとともに、高EGR層61と低EGR層62とが接する時間が短縮され、高EGR層61と低EGR層62との混合も低減される。したがって、エンジン10の負荷に応じて燃料の燃焼温度を制御することができるとともに、成層化を促進することができる。
【0042】
第1実施形態では、排気を吸気通路32へ還流するEGR装置14を備えている。そして、EGR装置14は、排気通路34を流れる排気を不活性ガスとして吸気通路32へ供給する。したがって、EGR装置14を経由して循環するEGRガスを使用する場合でも、新気とEGRガスとの混合を低減して成層化を促進することができる。
【0043】
(第1実施形態の変形例)
ECU16は、失火条件判断部57においてエンジン本体11で燃料の失火を招く条件が成立しているか否かを判断してもよい。具体的には、失火条件判断部57は、水温センサ53で検出した冷却水の温度、酸素濃度センサ54で検出した新気の酸素濃度、およびセタン価取得部55で検出した燃料のセタン価などに基づいて失火を招く条件が成立しているか否かを判断する。例えば冷却水の温度が低いとき、新気の酸素濃度が低いとき、あるいは燃料のセタン価が低いとき、燃焼室27に噴射された燃料は、着火しにくく、失火することが考えられる。そこで、失火条件判断部57は、各種センサから取得したデータに基づいて、失火を招く条件が成立しているか否かを判断する。
【0044】
ECU16は、失火条件判断部57において失火を招く条件が成立していると判断されると、吸気行程の前半にEGR通路42を開放して高EGR層61を形成するとともに、吸気行程の後半にEGR通路42を閉鎖して低EGR層62を形成する。これにより、燃焼室27は、インジェクタ28に近い側に比較的酸素の濃度の高い低EGR層62が形成される。そのため、インジェクタ28から噴射された燃料は、酸素の豊富な低EGR層62と接することとなり、着火性が向上する。
【0045】
第1実施形態の変形例では、失火条件判断部57を備えている。ECU16は、失火条件判断部57で失火しやすい条件が成立していると判断されると、吸気行程の前半にEGRガスの濃度を高めるとともに、吸気行程の後半にEGRガスの濃度を低める。そのため、燃焼室27において燃料の燃焼が生じるインジェクタ28に近い位置には、酸素が豊富な低EGR層62が形成される。その結果、燃料の着火性が向上する。したがって、エンジン本体11の安定した運転を確保することができる。
【0046】
(第2実施形態)
第2実施形態によるエンジンの要部を図10に示す。
第2実施形態では、EGR通路42と吸気通路32との接続部43は燃焼室27に近い位置に設けられている。第1実施形態の場合、図1に示すように接続部43と燃焼室27との間には、比較的長い距離が確保されている。これに対し、第2実施形態では、接続部43を燃焼室27に近い位置に設けることにより、接続部43と燃焼室27との距離は小さくなっている。このように接続部43を燃焼室27に近づけることにより、EGR通路42から吸気通路32へ流入したEGRガスは燃焼室27までの経路が短縮される。そのため、吸気通路32において新気とEGRガスとが接触する機会は低減される。したがって、第2実施形態では、燃焼室27における高EGR層61と低EGR層62との成層化をより向上することができる。
【0047】
また、第2実施形態の場合、EGR弁15によるEGR通路42の開放によって吸気通路32に流入したEGRガスは、吸気通路32に残留している新気を図示しない吸気口側へ押しのけながら吸気通路32に滞留する。そのため、吸気バルブ24が閉弁しているとき、EGR弁15がEGR通路42を開放すると、EGRガスは吸気通路32の燃焼室27側の端部に滞留する。その結果、吸気バルブ24が開弁すると、高EGR層61が優先的に燃焼室27へ流入する。さらに、第2実施形態では、接続部43から燃焼室27までの距離が短い。そのため、EGR弁15の開弁からEGRガスの燃焼室27への供給までの時期的な遅れは低減される。したがって、燃焼室27における高EGR層61と低EGR層62との成層化をより向上することができる。
【0048】
(第3実施形態)
第3実施形態によるエンジンの要部を図11に示す。
第3実施形態の場合、エンジン10の吸気系12は、ストレートポート71およびヘリカルポート72を有している。すなわち、吸気通路32は、ストレートポート71側とヘリカルポート72側に分岐している。ストレートポート71は、吸気を燃焼室27へ直進させて導入する。また、ヘリカルポート72は、吸気を燃焼室27へ旋回させながら導入する。これにより、ストレートポート71を流れる吸気は、燃焼室27へ向けて直線的に流入する。一方、ヘリカルポート72を流れる吸気は、燃焼室27へ向けて旋回流すなわちスワール流を形成しながら流入する。
【0049】
この第3実施形態の場合、EGR通路42の接続部43は、ストレートポート71に設けられている。そのため、EGR通路42を流れるEGRガスは、ストレートポート71を経由して燃焼室27へ導入される。ストレートポート71を経由する吸気は、乱れが少ない層流に近い状態で燃焼室27の径方向において中心付近に流入する。これにより、吸気行程の後半でEGRガスを燃焼室27へ導入する場合、高EGR層61はインジェクタ28に近い燃焼室27の中心軸付近でシリンダヘッド22側に形成される。その結果、燃料が着火するインジェクタ28の近傍に成層化した高EGR層61が形成される。したがって、燃料の燃焼温度を低下させることができ、NOxの生成を低減することができる。
【0050】
(第4実施形態)
第4実施形態によるエンジンの要部を図12に示す。
第4実施形態の場合、EGR通路42は吸気通路32側の端部にガスインジェクタ73を有している。この場合、接続部43は、EGRガスを噴射するガスインジェクタ73の噴孔に相当する。これにより、EGR通路42を流れるEGRガスは、ガスインジェクタ73によって吸気通路32への流入が断続される。すなわち、ガスインジェクタ73が開弁しているとき、EGR通路42を流れるEGRガスは吸気通路32を流れる新気に噴射される。一方、ガスインジェクタ73が閉弁しているとき、EGR通路42を流れるEGRガスは吸気通路32への噴射が停止される。EGRガスは、排気通路34から導入されるため、吸気通路32を流れる新気よりも圧力が高い。したがって、EGRガスは、上述の複数の実施形態におけるEGR弁15に代えてガスインジェクタ73の開閉によって吸気通路32への流入を調整することもできる。
【0051】
(第5実施形態)
第5実施形態によるエンジンを図13に示す。
第5実施形態の場合、EGR装置14は、過給部80を有している。過給部80は、排気通路34から吸気通路32へ戻されるEGRガスを加圧する。過給部80は、例えば排気通路34を流れる排気によって過給するターボチャージャ、またはエンジン本体11の駆動力によって過給するスーパーチャージャなどが適用される。これにより、EGR通路42から吸気通路32へ流入するEGRガスの圧力は、より高められる。そのため、EGRガスは、より短時間でより多くが吸気通路32へ供給される。したがって、高EGR層の形成がより容易になり、成層化をより促進することができる。
【0052】
(第6実施形態)
第6実施形態によるエンジンを図14に示す。
第6実施形態の場合、エンジン10は不活性ガス供給部90を備えている。不活性ガス供給部90は、不活性ガスタンク91、不活性ガス通路部材92および不活性ガス供給弁93を有している。不活性ガスタンク91は、例えば窒素、二酸化炭素、アルゴンなどの燃料の燃焼に寄与しない不活性ガスを貯えている。不活性ガス通路部材92は、不活性ガスタンク91に貯えられている不活性ガスが流れる供給通路94を形成している。供給通路94は、接続部95において吸気通路32に接続している。不活性ガス供給弁93は、ECU16からの指示にしたがうアクチュエータ44によって供給通路94を断続する。
【0053】
第6実施形態の場合、上述の第1実施形態から第5実施形態におけるEGRガスに代えて、不活性ガスタンク91に貯えられている不活性ガスを吸気に供給する。この場合でも、第1実施形態から第5実施形態と同様に、燃焼室27へ供給される吸気を、新気を主とする層と不活性ガスを主とする層とに成層化することができる。
【0054】
(その他の実施形態)
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
例えば、図15に示すようにEGR通路42は、二つに分岐させてもよい。分岐させた一方の分岐通路421は、吸気通路32側の先端にガスインジェクタ422を設けている。これにより、EGR通路42から供給されるEGRガスの一部は、吸気通路32において燃焼室27に近いところへ噴射される。これに対し、分岐させた他方のEGR通路423は、ガスインジェクタ422よりも吸気通路32の上流側すなわち吸気通路32の図示しない吸気口側に接続している。これにより、吸気に含まれるEGRガスの割合を全体として高めるとき、EGRガスは上流側のEGR通路423を経由して吸気通路32へ補給される。したがって、EGRガスの濃度を十分に確保することができる。
【0055】
また、上述の複数の実施形態では、燃焼室27において高EGR層61と低EGR層62とを二層に形成する例について説明した。しかし、エンジン10の要求によっては、燃焼室27において三層以上の高EGR層61と低EGR層62とを形成してもよい。この場合、ECU16は、吸気行程においてEGR弁15を複数回開閉する。これにより、燃焼室27における高EGR層61および低EGR層62は、三層以上でも安定した成層化を図ることができる。
【0056】
また、上述の複数の実施形態では、内燃機関としてディーゼルエンジンを例に説明した。しかし、複数の実施形態は、ディーゼルエンジンに限らず、ガソリンエンジンに適用してもよい。
【符号の説明】
【0057】
図面中、10はエンジン(内燃機関)、11はエンジン本体(内燃機関本体)、12は吸気系、13は排気系、14はEGR装置(不活性ガス供給部、排気再循環部)、15はEGR弁(不活性ガス供給弁)、16はECU(制御手段)、27は燃焼室、32は吸気通路、34は排気通路、42はEGR通路(供給通路)、43は接続部、50は運転状態取得部、51はアクセル開度センサ(運転状態取得手段)、52は回転数センサ(運転状態取得手段)、53は水温センサ(失火条件判断手段)、54は酸素濃度センサ(失火条件判断手段)、55はセタン価取得部(失火条件判断手段)、56は負荷判断部、57は失火条件判断部、71はストレートポート、72はヘリカルポート、80は過給部、90は不活性ガス供給部、91は不活性ガスタンク、92は不活性ガス通路部材、93は不活性ガス供給弁、94は供給通路、95は接続部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室を形成する内燃機関本体と、
前記燃焼室に吸入される吸気が流れる吸気通路を形成する吸気系と、
前記燃焼室から排出される排気が流れる排気通路を形成する排気系と、
前記吸気通路に接続する供給通路を形成し、前記吸気通路に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
前記供給通路を開閉可能に設けられ、前記吸気通路への前記不活性ガスの供給を断続する不活性ガス供給弁と、
前記不活性ガス供給弁を開閉駆動して、前記吸気通路を流れる新気、および前記不活性ガス供給部から供給される前記不活性ガスが前記吸気通路へ導入される時期を制御し、前記内燃機関本体が吸気行程にあるとき、前記新気と前記不活性ガスとを成層状態として前記燃焼室へ供給する制御手段と、
を備える内燃機関。
【請求項2】
前記制御手段は、前記不活性ガス供給弁を開閉駆動して、前記吸気通路と前記供給通路との接続部から前記燃焼室に至る前記吸気通路において、吸気に含まれる前記不活性ガスの濃度に差を形成する請求項1記載の内燃機関。
【請求項3】
前記内燃機関本体の運転状態を取得する運転状態取得手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記運転状態取得手段で取得した前記内燃機関本体の運転状態に応じて前記不活性ガス供給弁の開閉時期を変更する請求項1または2記載の内燃機関。
【請求項4】
前記制御手段は、前記内燃機関本体の吸気行程において、前半に前記不活性ガスの濃度を低め、後半に前記不活性ガスの濃度を高める請求項3記載の内燃機関。
【請求項5】
前記制御手段は、前記内燃機関本体の吸気行程において、前半に前記不活性ガスの濃度を高め、後半に前記不活性ガスの濃度を低める請求項3記載の内燃機関。
【請求項6】
前記制御手段は、前記運転状態取得手段で取得した前記内燃機関本体の負荷状態が大きくなるにしたがって、前記不活性ガスを供給する時期を吸気行程の後半にずらす請求項3記載の内燃機関。
【請求項7】
前記内燃機関本体において燃料の失火を招く条件が成立しているか否かを判断する失火条件判断手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記失火条件判断手段で燃料の失火を招く条件が成立していると判断すると、前記内燃機関本体の吸気行程において、前半に前記不活性ガスの濃度を高め、後半に前記不活性ガスの濃度を低める請求項3記載の内燃機関。
【請求項8】
前記吸気系は、吸気が前記燃焼室へ直進して導入されるストレートポートと、吸気が前記燃焼室へ旋回しながら導入されるヘリカルポートとを有し、
前記供給通路は、前記ストレートポートに接続している請求項1から7のいずれか一項記載の内燃機関。
【請求項9】
前記排気通路を流れる排気を前記吸気通路へ還流する排気再循環部をさらに備え、
前記不活性ガス供給部は、前記排気通路を流れる排気を前記不活性ガスとして前記吸気通路へ供給する請求項1から8のいずれか一項記載の内燃機関。
【請求項10】
前記排気再循環部は、前記排気通路から前記吸気通路へ還流する排気を加圧する過給部を有する請求項9記載の内燃機関。
【請求項11】
燃焼室へ吸入される吸気が流れる吸気通路と前記燃焼室から排出される排気が流れる排気通路とを接続する排気再循環通路を形成する通路形成部材と、
前記排気再循環通路を開閉可能に設けられ、前記排気通路から前記吸気通路へ再循環される排気の流れを断続する排気再循環弁と、
前記排気再循環弁を開閉駆動して、前記吸気通路を流れる新気、および前記排気再循環通路から再循環される排気が前記吸気通路へ導入される時期を制御し、内燃機関本体が吸気行程にあるとき、前記新気と再循環された排気とを成層状態として前記燃焼室へ供給する制御手段と、
を備える排気再循環装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−225213(P2012−225213A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92060(P2011−92060)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】