説明

内燃機関の制御装置および内燃機関の制御方法

【課題】自動停止要求発生後、エンジン回転速度の変動を抑制し、かつ再始動性を確保可能な範囲に吸気管圧を制御し、その吸気管圧を維持可能な内燃機関の制御装置を得る。
【解決手段】自動停止要求の発生に応じて燃料噴射を停止して内燃機関を停止させるとともに、再始動要求の発生に応じて内燃機関を再始動させるアイドルストップ制御部と、自動停止要求の発生時における内燃機関の吸気管圧が、所定圧よりも高圧側である場合に、内燃機関の吸気量を制御する吸気系の制御量を、吸気量がほぼ0となるように設定し、吸気管圧が、所定圧よりも低圧側である場合に、吸気管圧が所定圧となるまでの間、吸気系の制御量を、自動停止要求の発生時よりも吸気量が増大する側に設定し、その後、吸気量がほぼ0となるように設定する吸気量制御部とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関(エンジン)の停止および再始動を制御するエンジン自動停止始動制御システム(アイドルストップ制御システム)を搭載した車両における内燃機関の制御装置および内燃機関の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費の低減やエミッションの低減等を目的として、エンジン自動停止始動制御システム、いわゆるアイドルストップ制御システムを搭載した車両が増加しつつある。一般的なアイドルストップ制御システムは、運転者が車両を停止させた場合に、燃料噴射を停止(燃料カット)してエンジンを自動的に停止させ、その後、運転者が車両を発進させようとする動作、例えばブレーキ解除操作やアクセル踏み込み操作等を行ったときに、自動的にスタータまたはスタータ兼用のモータに通電して、エンジンをクランキングして再始動させるものである。
【0003】
このようなアイドルストップ制御システムでは、自動停止要求の発生直後に、燃料カットによりエンジン回転速度が低下している途中で、再始動要求が発生することがある。このとき、エンジンの回転が完全に停止してから、スタータに通電してエンジンをクランキングして再始動させると、自動停止要求の発生から再始動の完了までに時間がかかり、運転者に再始動の遅れ(もたつき)を感じさせることとなる。
【0004】
そこで、アイドルストップ制御の燃料カットによりエンジン回転速度が低下している途中で、再始動要求が発生した場合に、エンジン回転速度が燃料噴射のみで再始動可能な回転速度領域にあるときには、スタータを使用せず燃料噴射のみでエンジンを再始動させる(自立復帰させる)ことが提案されている。
【0005】
これに対して、再始動要求が発生したときのエンジン回転速度が、自立復帰可能な回転速度領域を下回った場合には、エンジンの回転が停止する前であっても、スタータに通電してエンジンを再始動させる必要がある。このとき、気筒内の空気量が少ないと、回転停止間際のエンジン回転速度の変動が小さくなり、エンジン(車体)の振動が抑制されるので、運転者の不快感を低減することができる。逆に、気筒内の空気量が多いと、エンジン回転速度の変動が大きくなり、運転者に振動による不快感を与えることとなる。
【0006】
なお、スタータが、ピニオンギアを押し出してリングギアと噛合させる押し出し式のスタータである場合、リングギアとの噛み合い時に、リングギアの回転速度とピニオンギアの回転速度との差が小さいと、短い時間で噛み合うので、噛み合い時の不快音が運転者に認知されにくい。逆に、回転速度の差が大きいと、噛み合いに時間を要し、噛み合い時の不快音が運転者に認知されやすい。また、エンジン回転速度の変化幅が大きいと、回転速度の差が大きく変化してなかなか噛み合うことができず、噛み合い時の不快音が運転者に認知されやすい。
【0007】
一方、燃料カット中は、スロットル開度が全閉位置に制御されるが、再始動要求が発生し、スロットル開度を全閉位置から再始動時の目標開度まで開いて、気筒内の空気量が再始動時の要求空気量に増加するまでには、応答遅れが存在する。ここで、この吸気系の応答遅れは、燃料噴射系の応答遅れと比較してかなり大きいので、再始動要求の発生時に直ちに燃料噴射を再開しても、吸気系の応答遅れにより、気筒内の空気量の増加が遅れて再始動時のエンジンの燃焼トルクが小さくなる。
【0008】
そのため、自立復帰可能な回転速度領域において、再始動に失敗する頻度(確率)が増加する。また、スタータによるエンジンの再始動においても、再始動からエンジン回転速度が復帰するまでの時間が長くなる。これらのことを防止するためには、再始動要求が発生する以前に、気筒内の空気量をある程度確保しておくこと、つまり吸気管圧をある値以上にしておくことが必要になる。
【0009】
すなわち、エンジン回転速度の変動を抑制しつつ再始動性を確保するという、背反する目的を達成するためには、自動停止要求の発生後、運転者の要求によりいつ発生するか分からない再始動要求に備えて、気筒内の空気量をある範囲内に制御すること、つまり吸気管圧をある範囲内に制御することが必要になる。
【0010】
そこで、自動停止要求が発生すると、吸気系の制御量、例えばスロットル開度を、自動停止要求の発生時よりも開き側(空気量増大側)であって、吸気量を確保して再始動性を確保しつつ、回転停止間際のエンジン回転速度の変動を小さくしてエンジンの振動を抑制することができるような開度に設定する内燃機関の自動停止始動制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、この装置では、エンジン回転速度の低下に伴って、スロットル開度を閉め側に駆動し、さらにエンジン回転速度の変動によるエンジンの振動を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−242621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
自動停止要求の発生によりエンジン回転速度が低下している過程において、吸気管圧は、スロットル弁を通過して気筒内に吸入される空気量と、気筒内から排気管に排気される空気量とがバランスする圧力となる。上記の過程においては、エンジン回転速度が低下するに従って、吸気管圧は次第に上昇し、やがて大気圧となる。
【0013】
ここで、スロットル弁を通過する空気量は、スロットル開度とスロットル弁の前後差圧とによって定まるので、スロットル開度が小さいほど、吸気管内に導入される空気量が減り、エンジン回転速度の低下により吸気管圧が上昇する度合いは小さくなる。また、自動停止要求の発生時のスロットル開度は、通常、エンジンのアイドル状態を維持できるだけの空気量(ISC(Idol Speed Control)分の空気量)を確保する開度となっている。
【0014】
特許文献1のものでは、スロットル開度を一定とする場合でも、エンジン回転速度の低下に伴ってスロットル開度を閉め側に駆動する場合でも、スロットル開度を、自動停止要求の発生時のスロットル開度よりも閉め側には設定しない。そのため、スロットル弁を通過する空気量は、ISC分以上の空気量が確保された状態となり、エンジン回転速度の低下により吸気管圧が上昇する度合いは比較的大きくなる。
【0015】
したがって、上述したような背反する目的を達成するために、吸気管圧をある範囲内に制御したいにもかかわらず、そのような領域を確保できる時間が比較的短くなる。すると、制御したい範囲よりも低い吸気管圧で再始動要求が発生したり、回転停止間際の吸気管圧が制御したい範囲よりも高くなり、エンジン回転速度の変動が大きくなったりするという問題がある。
【0016】
さらに、特許文献1のものでは、スロットル開度を一定とする場合、上述したような背反する目的を達成するようなスロットル開度を設定する必要があるので、自動停止要求の発生時のスロットル開度から大きく開くことはできない。そのため、吸気管圧が制御したい範囲に到達するまでに時間がかかるという問題もある。また、スロットル開度を大きく開いてから、エンジン回転速度の低下に伴ってスロットル開度を閉め側に駆動するとしても、実際には、スロットル開度を閉め側に駆動する条件として設定されるようなエンジン回転速度の変化は生じるものではない。
【0017】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、自動停止要求の発生後、エンジン回転速度の変動を抑制しつつ、再始動性を確保することができる範囲に吸気管圧を速やかに制御するとともに、その吸気管圧をより長く維持することができる内燃機関の制御装置および内燃機関の制御方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明に係る内燃機関の制御装置は、自動停止要求の発生に応じて燃料噴射を停止して内燃機関を停止させるとともに、再始動要求の発生に応じて内燃機関を再始動させるアイドルストップ制御部と、自動停止要求の発生時における内燃機関の吸気管圧が、所定圧よりも高圧側である場合に、内燃機関の吸気量を制御する吸気系の制御量を、吸気量がほぼ0となるように設定し、吸気管圧が、所定圧よりも低圧側である場合に、吸気管圧が所定圧となるまでの間、吸気系の制御量を、自動停止要求の発生時よりも吸気量が増大する側に設定し、その後、吸気量がほぼ0となるように設定する吸気量制御部とを備えたものである。
【0019】
また、この発明に係る内燃機関の制御方法は、自動停止要求の発生に応じて燃料噴射を停止して内燃機関を停止させるとともに、再始動要求の発生に応じて内燃機関を再始動させるアイドルストップ制御部を備えた内燃機関を制御する方法であって、自動停止要求の発生時における内燃機関の吸気管圧が、所定圧よりも高圧側である場合に、内燃機関の吸気量を制御する吸気系の制御量を、吸気量がほぼ0となるように設定し、吸気管圧が、所定圧よりも低圧側である場合に、吸気管圧が所定圧となるまでの間、吸気系の制御量を、自動停止要求の発生時よりも吸気量が増大する側に設定し、その後、吸気量がほぼ0となるように設定する吸気量制御ステップを備えたものである。
【発明の効果】
【0020】
この発明に係る内燃機関の制御装置および内燃機関の制御方法によれば、吸気量制御部(ステップ)は、自動停止要求の発生時における内燃機関の吸気管圧が、所定圧よりも高圧側である場合に、内燃機関の吸気量を制御する吸気系の制御量を、吸気量がほぼ0となるように設定し、吸気管圧が、所定圧よりも低圧側である場合に、吸気管圧が所定圧となるまでの間、吸気系の制御量を、自動停止要求の発生時よりも吸気量が増大する側に設定し、その後、吸気量がほぼ0となるように設定する。
そのため、自動停止要求の発生後、エンジン回転速度の変動を抑制しつつ、再始動性を確保することができる範囲に吸気管圧を速やかに制御するとともに、その吸気管圧をより長く維持することができる内燃機関の制御装置および内燃機関の制御方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置を含むシステム全体を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置における、スロットル開度に対する吸気管圧の応答特性を示す説明図である。
【図4】(a)、(b)は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置における、スロットル開度ステップ量に対する吸気管圧の応答特性を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図6】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図7】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置における、スタータモータの回転速度特性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明に係る内燃機関の制御装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。
【0023】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置を含むシステム全体を示す構成図である。なお、この内燃機関1(以下、「エンジン1」と称する)には、複数の気筒2が設けられているが、図1では、そのうちの1本の気筒2のみを示している。
【0024】
図1において、エンジン1の気筒2には、気筒2内に空気を吸入する吸気管3と、気筒2の燃焼室(図示せず)内で混合ガスが燃焼して生成された排気ガスを排出する排気管4とが接続されている。吸気管3の上流側には、エアフィルタ5が設けられている。エアフィルタ5には、吸入された空気の温度を検出する吸気温センサ6が取り付けられ、エアフィルタ5の下流側には、吸入された空気の流量(吸気量)を検出するエアフロセンサ7が取り付けられている。
【0025】
エアフロセンサ7の下流側には、吸入される空気の流量を、モータ8の動力を用いて調節するスロットル弁9が設けられている。また、吸気管3において、スロットル弁9の近傍には、スロットル弁9の開度を検出するスロットル開度センサ10が取り付けられている。スロットル弁9の下流側には、サージタンク11が設けられている。
【0026】
サージタンク11には、吸気管圧を検出する吸気圧センサ12が取り付けられている。サージタンク11の下流側には、吸入された空気を各気筒2の燃焼室に分配して供給する吸気マニホルド13が設けられている。吸気マニホルド13において、各気筒2の吸気ポートの近傍には、燃料を噴射する燃料噴射弁14が設けられている。
【0027】
ここで、この燃料噴射弁14から噴射された燃料と、吸入された空気との混合ガスが、吸気弁(図示せず)を介して各気筒2の燃焼室内に吸入される。各気筒2の燃焼室内に吸入された混合ガスは、気筒2の頂部に取り付けられ、吸入された混合ガスに点火する点火プラグ(図示せず)によって着火されて燃焼する。混合ガスの燃焼によって生成された排気ガスは、排気管4から触媒(図示せず)を通して大気に排出される。
【0028】
また、エンジン1には、エンジン1の冷却水温を検出する水温センサ(図示せず)や、エンジン1のクランク軸が所定角度回転する毎に出力される信号を検出するクランク角センサ15が取り付けられている。後述するエンジンコントロールユニット30(以下、「ECU(Engine Control Unit)30」と称する)は、クランク角センサ15の検出信号に基づいて、クランク角度の検出やエンジン回転速度の演算を実行する。
【0029】
また、エンジン1には、キー(図示せず)による始動(キーオン始動)時や再始動時に、エンジン1に設けられたリングギア16を回転駆動させるスタータ20が設けられている。スタータ20は、ピニオンギア21、ピニオン押し出し部22、スタータモータ23およびスタータモータ駆動部24を有している。
【0030】
ピニオンギア21は、リングギア16と噛合してリングギア16を回転駆動させる。ピニオン押し出し部22は、ピニオンギア21をリングギア16に噛み込ませるために、ピニオンギア21をリングギア16の方向に押し出す。スタータモータ駆動部24は、スタータモータ23を駆動させて、ピニオンギア21を回転駆動させる。
【0031】
ここで、ピニオン押し出し部22およびスタータモータ駆動部24は、ECU30からの駆動信号によって個々に駆動される。なお、スタータ20の詳細な動作については、後述する。なお、スタータ20、ECU30および上述した各種センサは、バッテリ17から電力が供給されている。
【0032】
ECU30は、入出力インタフェース31、CPU(マイクロプロセッサ)32、ROM(リードオンメモリ)33、RAM(ランダムアクセスメモリ)34および駆動回路35を有している。入出力インタフェース31は、上述した各種センサからの出力信号や、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量や、ブレーキペダル(図示せず)の踏み込み量等の検出信号が入力される。
【0033】
CPU32は、エンジン1の始動停止、再始動の制御実施可否等を演算し、駆動回路35に演算結果を出力する。ROM33は、CPU32での種々の演算に使用される制御プログラムや各種制御定数を格納する。RAM34は、CPU32での演算結果を一時的に格納する。駆動回路35は、CPU32からの演算結果に応じて、燃料噴射弁14等に駆動信号を出力する。
【0034】
ECU30は、クランク角センサ15の検出信号に基づいて、エンジン回転速度の演算を実行するとともに、吸気温センサ6等各種センサからの出力信号に基づいて、ROM33に格納された制御プログラムおよび制御定数を用いて、エンジン1の運転状態を判断し、運転者の意思に応じた駆動信号や制御量を、燃料噴射弁14およびモータ8等に出力する。また、ECU30は、エンジン1の自動停止要件や再始動要件の成立可否を判断し、自動停止中のスロットル弁9の制御や、再始動時のスタータ20の制御を実行する。
【0035】
続いて、スタータ20の動作について説明する。まず、キーオン始動時、またはエンジン1の自動停止後で、エンジン1の回転状態が停止後の再始動要件を満たしている場合、入出力インタフェース31を介してECU30に入力された各種センサからの出力信号に基づいて、CPU32がエンジン1の始動演算、または再始動演算を実行する。
【0036】
次に、その演算結果に基づいて、ECU30の駆動回路35からピニオン押し出し部22に駆動信号が出力され、ピニオン押し出し部22への通電が開始される。ピニオン押し出し部22への通電が開始されることにより、ピニオンギア21が押し出されてリングギア16と噛合する。
【0037】
その後、ECU30の駆動回路35からスタータモータ駆動部24に駆動信号が出力されてスタータモータ23への給電回路が閉じ、バッテリ17から電力が供給されてスタータモータ23が駆動され、ピニオンギア21およびリングギア16を介してエンジン1の回転駆動が開始されることで、エンジン1が始動または再始動する。
【0038】
また、エンジン1の自動停止後の惰性回転中において、再始動要件が成立した後は、後述するように、ECU30に入力されたクランク角センサ15からの検出信号等に基づいて、CPU32内にプログラムソフトにより構成された回転速度演算手段により、エンジン回転速度Neが演算される。その後、演算されたエンジン回転速度Neに応じた駆動信号が、ECU30の駆動回路35からピニオン押し出し部22またはスタータモータ駆動部24に出力され、スタータ20が駆動されてエンジン1が再始動する。
【0039】
ここで、ECU30は、アイドルストップ制御部および吸気量制御部を含んでいる。
アイドルストップ制御部は、自動停止要求の発生に応じて燃料噴射を停止してエンジン1を停止させるとともに、再始動要求の発生に応じてエンジン1を再始動させる。
【0040】
吸気量制御部は、自動停止要求の発生時におけるエンジン1の吸気管圧が、所定圧よりも高圧側である場合に、エンジン1の吸気量を制御する吸気系の制御量を、吸気量がほぼ0となるように設定し、吸気管圧が、所定圧よりも低圧側である場合に、吸気管圧が所定圧となるまでの間、吸気系の制御量を、自動停止要求の発生時よりも吸気量が増大する側に設定し、その後、吸気量がほぼ0となるように設定する。
【0041】
ここで、所定圧は、エンジン1の再始動時に、エンジン1の回転速度の変動が所定量以下になるとともに、再始動要求の発生時におけるエンジン1の気筒内の空気量が、気筒内に供給される燃料を燃焼させるために必要な量以上となる吸気管圧である。
【0042】
次に、図2のフローチャートを参照しながら、この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置の動作について説明する。なお、この動作は、ECU30において一定時間ごとに実行される。
【0043】
図2において、まず、ECU30は、エンジン1の吸気管圧を測定する(ステップS1)。続いて、ECU30は、ステップS1で測定された吸気管圧の平均化処理を実行する(ステップS2)。次に、ECU30は、再始動条件が成立しているか否かを判定する(ステップS3)。
【0044】
ステップS3において、再始動条件が成立している(すなわち、Yes)と判定された場合には、ECU30は、スロットル目標開度を再始動開度に設定してエンジン1を再始動させる(ステップS4)。続いて、ECU30は、実行フラグを0にクリアして(ステップS5)、図2の処理を終了する。
【0045】
一方、ステップS3において、再始動条件が成立していない(すなわち、No)と判定された場合には、ECU30は、ブレーキペダルが踏み込まれている等、個々の再始動条件が成立しておらず、再始動要件を満たしていないとして、自動停止条件が成立しているか否かを判定する(ステップS6)。
【0046】
ステップS6において、自動停止条件が成立していない(すなわち、No)と判定された場合には、ECU30は、ブレーキペダルが踏み込まれていない等、個々の自動停止条件が成立しておらず、自動停止要件を満たしていないとして、ISS(Idol Stop System)フラグ前回値にISSフラグを代入する(ステップS7)。次に、ECU30は、ISSフラグを0にクリアして(ステップS8)、ステップS4に移行する。
【0047】
一方、ステップS6において、自動停止条件が成立している(すなわち、Yes)と判定された場合には、ECU30は、ISSフラグ前回値にISSフラグを代入する(ステップS9)。続いて、ECU30は、ISSフラグを1にセットする(ステップS10)。次に、ECU30は、ISSフラグ前回値が1であるか否かを判定する(ステップS11)。
【0048】
ステップS11において、ISSフラグ前回値が1でない(0である)(すなわち、No)と判定された場合には、ECU30は、吸気管圧が第1判定値P1よりも小さいか否かを判定する(ステップS12)。
【0049】
ステップS12において、吸気管圧が第1判定値P1よりも小さい(すなわち、Yes)と判定された場合には、ECU30は、実行フラグを1にセットして(ステップS13)、実行フラグが1にセットされているか否かを判定する(ステップS14)。
【0050】
一方、ステップS12において、吸気管圧が第1判定値P1以上である(すなわち、No)と判定された場合には、ECU30は、実行フラグを0にクリアして(ステップS15)、ステップS14に移行する。また、ステップS11において、ISSフラグ前回値が1である(すなわち、Yes)と判定された場合には、直ちにステップS14に移行する。
【0051】
ステップS14において、実行フラグが1にセットされている(すなわち、Yes)と判定された場合には、ECU30は、吸気管圧が第2判定値P2よりも小さいか否かを判定する(ステップS16)。
【0052】
ステップS16において、吸気管圧が第2判定値P2よりも小さい(すなわち、Yes)と判定された場合には、ECU30は、スロットル目標開度を所定値K1に設定して(ステップS17)、図2の処理を終了する。
【0053】
一方、ステップS14において、実行フラグが0にクリアされている(すなわち、No)と判定された場合、およびステップS16において、吸気管圧が第2判定値P2以上である(すなわち、No)と判定された場合には、ECU30は、スロットル目標開度を全閉学習値に対して所定値K2を加えた値を設定する(ステップS18)。続いて、ECU30は、実行フラグを0にクリアして(ステップS19)、図2の処理を終了する。
【0054】
ここで、図3を参照しながら、ステップS2の吸気管圧の平均化処理について説明する。吸気圧センサ12で検出される吸気管圧は、エンジン1のピストンの動きに連動して脈動する。そこで、この脈動を除去するためにフィルタを用いて吸気管圧を平均化するが、フィルタ定数が大きすぎると、図3に示すように、過渡的な吸気管圧の変化時に検出遅れが生じる恐れがある。なお、吸気管圧の平均化処理は、移動平均によって実行されてもよい。
【0055】
次に、図4を参照しながら、ISSフラグが1にセットされたときのスロットル開度設定値K1について説明する。図4(a)は、スロットル開度設定値が大きい場合におけるスロットル開度設定値に対する吸気管圧の応答例を示し、図4(b)は、スロットル開度設定値が小さい場合におけるスロットル開度設定値に対する吸気管圧の応答例を示している。また、吸気管圧は、実線がフィルタ前を示し、破線がフィルタ後を示しており、プログラムではフィルタ後の吸気管圧により制御が実行されている。
【0056】
図4(a)において、時刻T1でスロットル開度がK11まで開かれることにより、吸気管圧は上昇を開始する。その後、時刻T2でフィルタ後の吸気管圧が上述した第2判定値P2になるので、スロットル弁9が閉じられる。このとき、フィルタ前の吸気管圧は、POS1まで上昇する。
【0057】
続いて、図4(b)において、時刻T1でスロットル開度がK12(K12<K11)まで開かれることにより、吸気管圧は上昇を開始する。その後、時刻T3でフィルタ後の吸気管圧が上述した第2判定値P2になるので、スロットル弁9が閉じられる。このとき、フィルタ前の吸気管圧は、POS2まで上昇する。
【0058】
ここで、吸気管圧が第2判定値P2に到達する時間は、図4(a)、(b)から、スロットル開度設定値を大きくした方が速くなることが分かる。また、フィルタ後の吸気管圧の応答は、図4(a)の場合も図4(b)の場合も、第2判定値P2近傍の吸気管圧で安定することが分かる。
【0059】
しかしながら、フィルタ前の吸気管圧の応答を見てみると、図4(a)の場合がPOS1まで、図4(b)の場合がPOS2までオーバシュートする。このとき、エンジン1の再始動に最適な吸気管圧はP2なので、図4(a)の場合は、エンジン回転速度の変化幅が大きくなり、リングギアとピニオンギアとの回転速度の差が大きく変化するので、噛み合いにくい状態となる。そのため、噛み合い時の不快音が運転者に認知されやすくなる。そこで、スロットル開度設定値K1は、エンジン1の排気量やスロットル流量特性に応じて、吸気管圧のオーバシュート量が、所定値以内となるように、かつ第2判定値P2に到達するまでの時間が所定時間以下となるように設定される。
【0060】
次に、スロットル開度の全閉学習値に加える所定値K2について説明する。なお、スロットル開度の全閉学習値は、キーオフ直後のエンジン停止中に、スロットル弁9を押し当て、そのときのセンサ値を学習値として記憶しておくものである。
【0061】
ここで、スロットル弁9を全開にしようとしたとき、全閉学習値の学習時と制御実行時とで雰囲気温度等が変化していた場合には、スロットル弁9を駆動するモータ8の温度特性により、スロットル弁9を吸気管3に押しつけすぎる可能性がある。スロットル弁9を吸気管3に押しつけすぎた場合には、最悪の場合、モータ焼損の恐れがある。そこで、全閉学習値に所定値K2の余裕分を加算することにより、モータ焼損を回避してスロットル制御を実行することができる。所定値K2の設定値としては、5mV程度が一般的である。
【0062】
続いて、図5、6のタイミングチャートを参照しながら、この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置の動作について説明する。図5は、エンジン回転速度が低回転の場合に再始動要求が発生したときの応答を示し、図6は、エンジン回転速度が高回転の場合に再始動要求が発生したときの応答を示している。
【0063】
図5において、まず、時刻t1でエンジン1の自動停止要件が成立すると、燃料噴射弁14からの燃料供給が停止される等、自動停止制御が実行されて、ISSフラグが1にセットされる。自動停止要件が成立し、自動停止制御が実行されることにより、エンジン回転速度Neは、時刻t1以降惰性回転しながら低下する。
【0064】
また、このとき(時刻t1)、吸気管圧Pbと第1判定値P1[mmHg]とが比較される。図5のケースでは、吸気管圧Pbが第1判定値P1よりも小さいので、スロットル開度が所定値K1に設定される。時刻t1でスロットル開度を所定値K1に設定することにより、以後吸気管圧Pbは増加する。
【0065】
続いて、吸気管圧Pbが第2判定値P2を超えた時刻t2において、スロットル開度が、全閉学習値に所定値K2を加えた値に設定される。これにより、吸気管圧Pbを、再始動に必要な空気量を確保できる圧力である第1判定値P1の近傍に維持することができる。
【0066】
次に、時刻t3において、ブレーキペダルが離された等、個々の再始動条件が成立した場合には、再始動要求フラグ(実行フラグ)が1にセットされ、スロットル開度が再始動時の開度に設定される。
【0067】
また、このとき(時刻t3)、再始動条件が成立し、再始動が実行されることにより、ピニオン押し出し部22が駆動され、ピニオンギア21がリングギア16に噛合された後、スタータモータ駆動部24によってスタータモータ23が駆動されて、ピニオンギア21およびリングギア16を介して、スタータ20によってエンジン1が駆動されて加速する。
【0068】
エンジン1が加速すると同時に、燃料噴射弁14からの燃料供給も再開され、エンジン1での燃焼が再開されたことで、エンジン回転速度NeがNe1[rpm]を超えてエンジン1の再始動が完了する。また、時刻t4以降は、アクセル開度に応じたスロットル開度となる。
【0069】
次に、図6において、時刻t3までの応答は、図5に示したものと同様なので、説明を省略する。
図6において、時刻t3でブレーキペダルが離された等、個々の再始動条件が成立した場合には、再始動要求フラグが1にセットされ、スロットル開度が再始動時の開度に設定される。
【0070】
また、時刻t3で再始動要件が成立した場合には、エンジン1の再始動のために、スタータ20による加速が必要となるが、エンジン回転速度Neが高いので、スタータモータ駆動部24によってスタータモータ23を先に駆動させ、ピニオンギア21が破線で示すように回転し始める。ピニオンギア21の回転速度は、図7に示される特性のように上昇するが、エンジン回転速度Neは惰性回転しながら低下していくので、ピニオンギア21が回転を始めてから所定時間後には、両者の回転速度が一致する。
【0071】
エンジン回転速度Neとピニオンギア21の回転速度とが一致するタイミングに合わせて、ピニオン押し出し部22が駆動され、ピニオンギア21がリングギア16に噛合された後、スタータ20のスタータモータ23によってエンジン1が駆動されて加速する。
【0072】
エンジン1が加速すると同時に、燃料噴射弁14からの燃料供給も再開され、エンジン1での燃焼が再開されたことで、エンジン回転速度NeがNe1[rpm]を超えてエンジン1の再始動が完了する。また、時刻t4以降は、アクセル開度に応じたスロットル開度となる。
【0073】
図5、6において、第1判定値P1は、エンジン1の再始動に必要な空気量を確保できる300[mmHg]程度、第2判定値P2は、310[mmHg]程度に設定するとよい。なお、図5ではP1<P2としたが、P1とP2とは、同じ設定値であってもよい。
【0074】
以上のように、実施の形態1によれば、吸気量制御部は、自動停止要求の発生時における内燃機関の吸気管圧が、所定圧よりも高圧側である場合に、内燃機関の吸気量を制御する吸気系の制御量を、吸気量がほぼ0となるように設定し、吸気管圧が、所定圧よりも低圧側である場合に、吸気管圧が所定圧となるまでの間、吸気系の制御量を、自動停止要求の発生時よりも吸気量が増大する側に設定し、その後、吸気量がほぼ0となるように設定する。
そのため、自動停止要求の発生後、エンジン回転速度の変動を抑制しつつ、再始動性を確保することができる範囲に吸気管圧を速やかに制御するとともに、その吸気管圧をより長く維持することができる内燃機関の制御装置および内燃機関の制御方法を得ることができる。
【0075】
また、所定圧は、内燃機関の再始動時に、内燃機関の回転速度の変動が所定量以下になるとともに、再始動要求の発生時における内燃機関の気筒内の空気量が、気筒内に供給される燃料を燃焼させるために必要な量以上となる吸気管圧である。
そのため、エンジンの振動や、ピニオンが噛み合い完了するまでの不快音を抑制することができる。
【0076】
また、吸気管圧は、測定された吸気管圧を移動平均処理またはフィルタ処理した値なので、吸気の脈動を抑制し、吸気管圧を、好適に再始動を確保できる範囲に制御することができる。
また、吸気量が増大する側の設定値は、吸気管圧のオーバシュート量が所定値以下になるとともに、所定圧に到達するまでの時間が所定時間以下になる値なので、ピニオンギアとリングギアとを噛み合わせることができる領域を拡大することができる。
【0077】
なお、上記実施の形態1では、スロットル開度を用いて吸気管圧を制御した例を示したが、これに限定されず、吸気系の制御量は、EGR弁の開度および可変吸気バルブのリフト量の少なくとも一方であってもよい。これらの場合も、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 エンジン、2 気筒、3 吸気管、4 排気管、5 エアフィルタ、6 吸気温センサ、7 エアフロセンサ、8 モータ、9 スロットル弁、10 スロットル開度センサ、11 サージタンク、12 吸気圧センサ、13 吸気マニホルド、14 燃料噴射弁、15 クランク角センサ、16 リングギア、17 バッテリ、20 スタータ、21 ピニオンギア、22 ピニオン押し出し部、23 スタータモータ、24 スタータモータ駆動部、30 ECU(アイドルストップ制御部、吸気量制御部)、31 入出力インタフェース、32 CPU、33 ROM、34 RAM、35 駆動回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動停止要求の発生に応じて燃料噴射を停止して内燃機関を停止させるとともに、再始動要求の発生に応じて前記内燃機関を再始動させるアイドルストップ制御部と、
前記自動停止要求の発生時における前記内燃機関の吸気管圧が、所定圧よりも高圧側である場合に、前記内燃機関の吸気量を制御する吸気系の制御量を、前記吸気量がほぼ0となるように設定し、前記吸気管圧が、前記所定圧よりも低圧側である場合に、前記吸気管圧が前記所定圧となるまでの間、前記吸気系の制御量を、前記自動停止要求の発生時よりも前記吸気量が増大する側に設定し、その後、前記吸気量がほぼ0となるように設定する吸気量制御部と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記所定圧は、前記内燃機関の再始動時に、前記内燃機関の回転速度の変動が所定量以下になるとともに、前記再始動要求の発生時における前記内燃機関の気筒内の空気量が、前記気筒内に供給される燃料を燃焼させるために必要な量以上となる吸気管圧であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記吸気管圧は、測定された吸気管圧を移動平均処理またはフィルタ処理した値であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記吸気量が増大する側の設定値は、前記吸気管圧のオーバシュート量が所定値以下になるとともに、前記所定圧に到達するまでの時間が所定時間以下になる値であることを特徴とする請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記吸気系の制御量は、前記内燃機関のスロットル弁の開度、EGR弁の開度および可変吸気バルブのリフト量の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記アイドルストップ制御部は、前記再始動要求が発生した場合に、前記内燃機関に設けられたスタータのピニオンギアを押し出し、前記内燃機関のリングギアと噛合させて前記内燃機関を再始動させることを特徴とする請求項1から請求項5までの何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
自動停止要求の発生に応じて燃料噴射を停止して内燃機関を停止させるとともに、再始動要求の発生に応じて前記内燃機関を再始動させるアイドルストップ制御部を備えた内燃機関を制御する方法であって、
前記自動停止要求の発生時における前記内燃機関の吸気管圧が、所定圧よりも高圧側である場合に、前記内燃機関の吸気量を制御する吸気系の制御量を、前記吸気量がほぼ0となるように設定し、前記吸気管圧が、前記所定圧よりも低圧側である場合に、前記吸気管圧が前記所定圧となるまでの間、前記吸気系の制御量を、前記自動停止要求の発生時よりも前記吸気量が増大する側に設定し、その後、前記吸気量がほぼ0となるように設定する吸気量制御ステップ、
を備えたことを特徴とする内燃機関の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−225289(P2012−225289A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94742(P2011−94742)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【特許番号】特許第5047376号(P5047376)
【特許公報発行日】平成24年10月10日(2012.10.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】