説明

内燃機関の制御装置

【課題】筒内噴射弁を備えた内燃機関の制御装置において、機関冷間時にPMの発生量が増加することを抑制できる技術を提供する。
【解決手段】機関冷間時において、ポート燃料噴射比率DIPを零に維持した状態でEGRガス量を増加させ、EGR限界量QLegrにEGRガス量Qegrが到達した場合には、EGRガス量QegrをEGR限界量QLegrに維持した状態でポート燃料噴射比率DIPを零より大きな目標噴射比率DIPtに変更する。目標噴射比率DIPtは、EGR限界時PM粒子数NLpmと目標PM粒子数との差が大きいほど高く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁を備えた内燃機関では、機関冷間時だと気筒内に噴射された燃料の気化が促進され難くなり、噴射燃料が機関ピストンの頂面(ピストン頂面)や気筒内周面(シリンダボア)に多量に付着する傾向がある。この付着燃料(以下、「ウェット燃料」とも称呼することもある)、特にピストン頂面への付着燃料)は、その後の機関燃焼時に不完全燃焼して気筒から排出されることになる。その結果、黒煙や未燃成分(これらを総称してPM( Particulate Matter )と称する)が多く発生し、排気エミッションの悪化を招く要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−258023号公報
【特許文献2】特開2003−227374号公報
【特許文献3】特開2005−207251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、気筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁を備えた内燃機関の制御装置において、機関冷間時にPMの発生量が増加することを抑制できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した課題を解決するために、本発明にかかる内燃機関の制御装置は、以下の手段を採用した。
【0006】
すなわち、内燃機関の気筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁と、前記内燃機関の吸気通路内に燃料を噴射する吸気通路内噴射弁と、前記内燃機関の排気通路に排出された排気ガスの一部をEGRガスとして機関に導入させるEGR装置と、機関冷間時において、前記筒内噴射弁による燃料噴射量と前記吸気通路内噴射弁による燃料噴射量との和である総燃料噴射量に対する該吸気通路内噴射弁による燃料噴射量の比率である吸気通路内噴射比率を零に維持した状態でEGRガス量を増加させ、機関燃焼が安定状態に維持される上限のEGR限界量にEGRガス量が到達した場合には、EGRガス量を該EGR限界量に維持した状態で該吸気通路内噴射比率を零より大きな目標噴射比率に変更することによって、気筒内で発生するPM粒子数を目標PM粒子数まで低減する冷間時PM低減手段と、EGRガス量に基づいてPM粒子数を推定するPM粒子数推定手段と、を備え、前記冷間時PM低減手段は、EGRガス量が前記EGR限界量に到達した際に推定された前記PM粒子数の推定値と前記目標PM粒子数との差が大きいほど、前記目標噴射比率を高く設定することを特徴とする。
【0007】
機関冷間時においては、EGRガス量を多くするほど気筒内における混合気の温度を高めることができるので、機関燃焼状態の改善効果が得られる。従って、機関冷間時において気筒内で生成されるPM粒子数は、EGR装置によって機関に導入されるEGRガス量と相関がある。本発明では、この相関を利用して機関冷間時におけるEGRガス量に基づき、PM粒子数を推定することができる。
【0008】
EGRガスは二酸化炭素などの不活性成分を多く含むため、多量のEGRガスを導入し過ぎてしまうと燃焼変動が大きくなったり、失火を招く虞がある。そのため、この構成では、EGRガス量がEGR限界量を超えない範囲内で、EGRガス量を増加させることとしている。これにより、機関燃焼状態を安定状態に保ちながらPM粒子数を減少させることができる。また、その際の吸気通路内噴射比率が零に維持されているため、機関冷間時における機関出力や走行燃費の向上を図りつつPMの発生量を減少させることができる。
【0009】
そして、EGRガス量がEGR限界量に到達した場合には、EGRガス量を該EGR限界量に維持した状態で吸気通路内噴射比率を零から、それよりも大きな目標噴射比率へと変更する。吸気通路内噴射弁から噴射された燃料は、吸気ガス(新気+EGRガス)と充分に混合されてから気筒へと導入されるため、燃焼室内での気化が促進され易い。そのため、吸気通路内噴射弁から噴射された燃料は、筒内噴射弁から噴射された燃料に比べてピストン頂面やシリンダボアへ付着し難い。また、吸気通路内噴射弁による燃料噴射量に相当する分だけ、ピストン頂面などに付着しやすい筒内噴射弁による燃料噴射量を減らすことができる。これにより、EGRガス量をそれ以上増やすことなく(EGR限界量を超えない範囲内に維持したままで)、ウェット燃料の量を減らすことができる。従って、機関燃焼状態の悪化を抑制しつつ、PMの発生量を減少させることができる。
【0010】
ここで、目標PM粒子数とは、機関冷間時におけるPM粒子数の目標値を意味するものである。例えば、機関冷間時における機関負荷が低負荷のときに気筒内で生成されるPM粒子数を目標PM粒子数として採用することもできる。
【0011】
EGRガス量がEGR限界量に到達した以降、PM粒子数を目標PM粒子数まで低減させるために要求されるウェット燃料量の低減度合いは、EGRガス量がEGR限界量に到達したときのPM粒子数の推定値と目標PM粒子数との差が大きいほど顕著になる。そこで、本発明においては、EGRガス量がEGR限界量に到達したときのPM粒子数の推定値と目標PM粒子数との差が大きいほど、目標噴射比率を高く設定することとした。これによれば、EGRガス量がEGR限界量に到達したときのPM粒子数の大小に関わらず、PM粒子数を確実に目標PM粒子数まで低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、気筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁を備えた内燃機関の制御装置において、機関冷間時にPMの発生量が増加することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1に係る内燃機関とその吸排気系の概略構成を示す図である。
【図2】機関冷間時の機関負荷毎におけるEGRガス量Qegrと気筒で発生するPM粒子数Npmとの関係を示したPM粒子数推定マップである。
【図3】実施例1における冷間時PM低減制御の内容を概念的に示した図である。
【図4】実施例1の複合噴射・EGR定量処理におけるPM粒子数低減要求量ΔNRpm及び目標噴射比率DIPtの関係を示した目標噴射比率設定マップである。
【図5】実施例1の機関冷間時に実行される冷間時PM低減制御ルーチンを示したフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。尚、本実施の形態に記載されている構成要素の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に特定的な記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0015】
本発明に係る内燃機関の制御装置の実施例1について説明する。ここでは、本発明を車両駆動用のガソリンエンジンに適用した場合を例に挙げて説明する。図1は、本実施例に係る内燃機関とその吸排気系の概略構成を示す図である。
【0016】
内燃機関1は、気筒2を有しており、気筒2内にはピストン3が摺動自在に設けられている。気筒2内上部の燃焼室4には、吸気ポート5と排気ポート6とが開口している。吸気ポート5は吸気管7と接続されており、排気ポート6は排気管8と接続されている。
【0017】
吸気ポート5および排気ポート6の燃焼室4への開口部は、それぞれ吸気弁9および排気弁10によって開閉される。吸気管7には、吸気ポート5内へ向けて燃料を噴射するポート内噴射弁12が設けられている。また、気筒2内上部には、該気筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁13が設けられている。燃焼室4には混合気に点火するための点火プラグ14が突出して設けられている。また、気筒2には、該気筒2のウォータージャケット内の冷却水温THwを検出する水温センサ15が設置されている。また、吸気管7には、該吸気管7を流れる空気の量を測定するエアフローメータ11が設置されている。
【0018】
また、排気管8を流れる排気の一部をEGRガスとして吸気管7に還流(再循環)させるEGR(Exhaust Gas Recirculation)装置16を具備する。EGR装置16は、排気
管8と吸気管7におけるエアフローメータ11の下流側とを接続するEGR管17、及びEGR管17の流路断面積を変更してEGRガス量を調節するEGR弁18とを有して構成される。
【0019】
本実施例においては吸気ポート5及び吸気管7が本発明における吸気通路に対応する。また、排気ポート6及び排気管8が本発明における排気通路に対応する。また、ポート内噴射弁12が本発明における吸気通路内噴射弁に対応する。
【0020】
以上述べたように構成された内燃機関1には、この内燃機関1を制御するためのECU( Electronic Control Unit )20が併設されている。このECU20は、内燃機関1
の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1の運転状態を制御するユニットである。ECU20には、エアフローメータ11、水温センサ15、内燃機関1の機関回転数を検出するクランクポジションセンサ、アクセル開度を検出するアクセルポジションセンサ(共に図示省略)等のセンサが電気配線を介して接続されており、これらの出力信号がECU20に入力される。例えば、ECU20は、水温センサ15の検出値から気筒2内の温度を推定する。
【0021】
また、ECU20には、ポート内噴射弁12、筒内噴射弁13、点火プラグ14、EGR弁18等が電気的に接続されており、これらの機器はECU20によって制御されるようになっている。
【0022】
例えば、概略的には、筒内噴射弁13からの燃料噴射は内燃機関1の出力性能の上昇に寄与し、ポート内噴射弁12からの燃料噴射は、混合気の均一性に寄与する。そこで、ECU20は、ポート内噴射弁12からの燃料噴射量(以下、「ポート内燃料噴射量」という)と筒内噴射弁13からの燃料噴射量(以下、「筒内燃料噴射量」という)との和である総燃料噴射量に対するポート内噴射量の比率(以下「ポート燃料噴射比率DIP」と称する)を、適宜制御する。このポート燃料噴射比率DIPは、本発明における吸気通路内噴射比率に対応する。
【0023】
また、ECU20は、EGR装置16のEGR管17を介したEGRガスの内燃機関1
への導入量(EGRガス量)Qegrを、EGR弁18の開度(以下、「EGR開度」ということもある)を調節することで制御する。また、ECU20は、エアフローメータ11の出力信号と、EGR開度の制御信号に基づいて、現在のEGRガス量Qegrを推定、検出することができる。
【0024】
次に、機関冷間時におけるポート燃料噴射比率DIP、及びEGRガス量Qegrの制御について説明する。内燃機関1を冷間始動させる際など、機関冷間時においては、筒内噴射弁13から噴射された燃料(以下、この燃料を「筒内噴射燃料」と称呼する)の気化が促進され難くなり、ピストン3の頂面(以下、「ピストン頂面」と称呼する)や気筒2内周面(以下、「シリンダボア」と称呼する)に多量に付着し易くなる。この付着燃料(以下、「ウェット燃料」と称呼する)は、その後の機関燃焼時に不完全燃焼して気筒から排出されることになる。これに起因して、黒煙や未燃成分などのPM( Particulate Matter )が気筒2内で多く発生し、排気特性の悪化を招く要因になる。
【0025】
そこで、本実施例では、機関冷間時におけるポート燃料噴射比率DIP及びEGRガス量Qegrを調節することによって、気筒2内で発生するPM粒子数をその目標値である目標PM粒子数以下に低減する制御(以下、「冷間時PM低減制御」という)を行う。この冷間時PM低減制御はECU20によって実行される制御である。
【0026】
図2は、機関冷間時の機関負荷毎におけるEGRガス量Qegrと気筒2で発生するPM粒子数Npmとの関係を示したPM粒子数推定マップである。この図においては、ポート燃料噴射比率DIPを零とした場合におけるEGRガス量Qegr及びPM粒子数Npmの関係を表している。図示したように、概略、EGRガス量Qegrが等しくなる条件下においては、機関負荷が高いほどこれに対応するPM粒子数Npmが多くなる。これは、低負荷(KLlo)に比べて中負荷(KLmid)の方が、さらに中負荷(KLmid)に比べて高負荷(KLhi)の方が総燃料噴射量は多くなり、他の条件が等しければウェット燃料量が増えることでPM粒子数Npmが増加することに因るものである。
【0027】
また、機関負荷が等しくなる条件下においては、EGRガス量Qegrが多いほど(例えば、EGR開度を増やすほど)、対応するPM粒子数Npmが多くなる。これは、EGRガスは既燃焼ガスであり、その温度が比較的に高いところ、高温のEGRガスを多く内燃機関1に導入することで混合気の温度が高まり、機関の燃焼状態が改善されることによるものと考えられる。
【0028】
以上のように、機関冷間時におけるPM粒子数Npmは、概略、EGRガス量Qegrを増やすほど低減され、PM粒子数Npmが低減される度合いやその程度は、負荷が低いときほど小さくなる(緩やかになる)。このマップにおける低負荷KLlo時には、EGRガス量Qegrが変化してもPM粒子数Npmが一定値を示す関係が例示されている。縦軸の符号Npmloは、低負荷時(KLlo)に対応するPM粒子数を表す。因みに、PM粒子数Npmloは、低負荷時(KLlo)に対応するPM粒子数であるが、機関冷間時における機関負荷が中負荷や高負荷である場合に冷間時PM低減制御を実行する際の目標PM粒子数として採用される。以下、低負荷時(KLlo)に対応するPM粒子数Npmloを、目標PM粒子数Npmloと称呼する場合もある。
【0029】
図示したように、ポート燃料噴射比率DIPを零に制御する場合、機関冷間時におけるPM粒子数Npmを目標PM粒子数Npmloまで低減するためには、機関負荷が中負荷(KLmid)である場合にはEGRガス量QegrをQegr1まで増やし、高負荷(KLhi)である場合にはQegr2まで増やす必要がある。
【0030】
しかしながら、EGRガスは二酸化炭素などの不活性成分を多く含むため、大量のEG
Rガスを導入し過ぎると燃焼変動が大きくなったり、失火を招く要因となる。従って、EGRガス量Qegrには、機関燃焼を安定状態に維持できる上限の値(以下、「EGR限界量」と称する)QLegrが存在する。そのため、本実施例における冷間時PM低減制御では、EGR限界量QLegrを超えない範囲内でEGRガス量Qegrを制御することとした。
【0031】
図3は、本実施例における冷間時PM低減制御の内容を概念的に示した図である。図中に示した機関負荷、EGRガス量Qegr、PM粒子数Npmの関係は、図2に示したものと同様であり、共通する符号については同義である。
【0032】
前述したように、ポート燃料噴射比率DIPを零に維持した状態でPM粒子数Npmを目標PM粒子数Npmloまで低減するためには、高負荷時(中負荷時)ではEGRガス量QegrをQegr2(Qegr1)まで増やす必要がある。この図においては、EGR限界量QLegrがQegr1及びQegr2に比べて小さな値を示す(少ない)。また、中負荷時におけるQLegr〜Qegr1の範囲、及び高負荷時におけるQLegr〜Qegr2の範囲を鎖線で表したのは、EGRガス量QegrはEGR限界量QLegrを超えない範囲内で制御されることを表したものである。なお、便宜上、この図においては中負荷時(KLmid)及び高負荷時(KLhi)におけるEGR限界量QLegrを等しい値として図示しているが、実際にはEGR限界量QLegrは機関負荷等、運転状態に応じて変化なし得る。
【0033】
ここで、冷間時PM低減制御の具体的内容を説明するに当たり、高負荷時(KLhi)の場合を例に説明する。ECU20は、機関冷間時において、EGRガス量QegrがEGR限界量QLegrポートを超えない範囲内で、燃料噴射比率DIPを零に維持した状態でEGRガス量Qegrを増加させる処理(以下、「筒内単独噴射・EGR増量処理」という)を行う。ここで、ポート燃料噴射比率DIPが零に維持されるということは、筒内噴射弁13のみによる燃料噴射(以下、「筒内単独噴射」という)が行われることを意味する。筒内噴射燃料は、ポート内噴射弁12から噴射された燃料(以下、「ポート内噴射燃料」という)に比べて内燃機関1の出力性能の上昇に寄与する。そのため、EGRガス量QegrがEGR限界量QLegrに到達するまでにおいては、筒内単独噴射を行うことで内燃機関1の出力性能の向上を図るようにしている。また、筒内噴射燃料によって機関燃焼を行う場合とポート内噴射燃料によって機関燃焼を行う場合とを比較すると、前者における効率の方が優れているため、筒内単独噴射を行うことにより走行燃費を向上することができる。
【0034】
筒内単独噴射・EGR増量処理は、EGRガス量QegrがEGR限界量QLegrに到達するまで継続される。そして、EGRガス量QegrがEGR限界量QLegrに到達した場合、それ以上EGRガス量Qegrを増やすと燃焼状態の悪化を招く可能性が高まるため、ECU20は、冷間時PM低減制御に係る処理を「筒内単独噴射・EGR増量処理」から「複合噴射・EGR定量処理」に切り替える。この「複合噴射・EGR定量処理」は具体的には、EGRガス量QegrをEGR限界量QLegrに維持した状態でポート燃料噴射比率DIPを零より大きな目標噴射比率DIPtに変更するものである。なお、目標噴射比率DIPtの設定については後から詳述する。
【0035】
ここで、「複合噴射・EGR定量処理」において、ポート燃料噴射比率DIPを零よりも大きな値に変更すると、内燃機関1の燃料噴射が、筒内単独噴射から、筒内噴射弁13及びポート内噴射弁12を複合した燃料噴射(以下、「複合噴射」という)に切り替えられる。ここで、ポート内噴射燃料は、吸気ガス(新気+EGRガス)と充分に混合されてから気筒2内に導入されるため燃焼室内で気化が促進され易い。そのため、ポート内噴射燃料は、筒内噴射燃料に比べてピストン頂面やシリンダボアへ付着し難いというメリット
がある。また、上記切り替えを行うことで、総燃料噴射量に占めるポート内燃料噴射量の分だけ、ピストン頂面などに付着しやすい筒内噴射燃料の量が減ることになる。従って、このように内燃機関1への燃料噴射を筒内単独噴射から複合噴射に切り替えることによって、EGRガス量Qegrをそれ以上増やすことなく(つまり、EGRガス量QegrをEGR限界量QLegr以下に維持したままで)、ウェット燃料量を減らすことができる。
【0036】
ここで、冷間時PM低減制御において、EGRガス量QegrがEGR限界量QLegrに到達した時(つまり、筒内単独噴射・EGR増量処理から複合噴射・EGR定量処理に切り替えられる時)に対応するPM粒子数を、「EGR限界時PM粒子数NLpm」と称呼する。ここで、機関冷間時における機関負荷が中負荷時(KLmid)、高負荷時(KLhi)の夫々に対応するEGR限界時PM粒子数NLpmを図3の縦軸にプロットすると、それぞれ符号NLpm1,NLpm2で表される。
【0037】
ここで、EGR限界時PM粒子数NLpmと目標PM粒子数Npmloとの差(NLpm−Npmlo)に注目すると、この値は複合噴射・EGR定量処理の実施に際して要求されるPM粒子数の低減要求量(以下、「PM粒子数低減要求量ΔNRpm」と称呼する)に相当する。図示のように、高負荷時(KLhi)に対応するEGR限界時PM粒子数NLpm2は、中負荷時(KLmid)に対応するEGR限界時PM粒子数NLpm1よりも多い(NLpm2>NLpm1)。そのため、中負荷時(KLmid)よりも高負荷時(KLhi)の方がPM粒子数低減要求量ΔNRpmも多くなる(ΔNRpm2>ΔNRpm1)。
【0038】
図4は、本実施例の複合噴射・EGR定量処理におけるPM粒子数低減要求量ΔNRpm及び目標噴射比率DIPtの関係を示した目標噴射比率設定マップである。横軸にPM粒子数低減要求量ΔNRpmを表し、縦軸に目標噴射比率DIPtを表す。目標噴射比率DIPtは、前述のように零よりも大きな値として設定される。目標噴射比率DIPtが大きい値に設定されるときほど、ピストン頂面やシリンダボア面に付着するウェット燃料量を低減するときの低減効果を高めることができる。
【0039】
そこで、この目標噴射比率設定マップでは、PM粒子数低減要求量ΔNRpmが大きいほど、それに対応する目標噴射比率DIPtを大きい値としている。これにより、ECU20は、PM粒子数低減要求量ΔNRpmが大きいほど、目標噴射比率DIPtを高く制御する。その結果、機関負荷に関わらず、PM粒子数NpmがEGR限界時PM粒子数NLpmから目標PM粒子数Npmloへと確実に減少する。なお、PM粒子数低減要求量ΔNRpmは、機関冷間時における機関負荷に相関するため、目標噴射比率DIPtを機関負荷に応じて設定することもできる。この場合、例えば図4のマップの横軸のパラメータとして機関負荷を採用し、機関負荷が高いときほど対応する目標噴射比率DIPtを大きい値とすると良い。この場合、ECU20は、冷間時PM低減制御時における機関負荷が高いときほど目標噴射比率DIPtを高く制御する。
【0040】
図5は、本実施例の機関冷間時に実行される冷間時PM低減制御ルーチンを示したフローチャート図である。本ルーチンは、予めECU20に記憶されており所定時間毎に繰り返されるルーチンである。本実施例では、本ルーチンを実行するECU20が本発明における冷間時PM低減手段、PM粒子数推定手段に対応する。なお、ECU20が本ルーチンを実行する際におけるEGR弁18、ポート内噴射弁12、筒内噴射弁13への制御信号の初期値は、それぞれ「閉弁」、「OFF」、「ON」である。すなわち、EGR開度Degr及び、ポート燃料噴射比率DIPは共に0(零)を初期設定値として制御されている。
【0041】
本ルーチンでは、ECU20は、先ずS101においては、現在、筒内単独噴射・EGR増量処理中であるか否かが判定される。筒内単独噴射・EGR増量処理中ではないと判定された場合にはステップS102に進み、筒内単独噴射・EGR増量処理中であると判定された場合にはステップS106に進む。
【0042】
ステップS102では、現在、複合噴射・EGR定量処理中であるか否かが判定される。複合噴射・EGR定量処理中ではないと判定された場合にはステップS103に進み、複合噴射・EGR定量処理中であると判定された場合にはステップS112に進む。
【0043】
ステップS103では、水温センサ15の出力信号に基づき内燃機関1の冷却水温THwを検出し、この冷却水温THwが規定水温THwb以下であるか否かを判定する。本実施例における規定水温THwbは、機関冷間時に該当するかどうかを判断する基準となる水温であり、冷却水温THwがこの温度以下であれば機関冷間時に該当するとECU20は判断する。本ステップにおいて、冷却水温THwが規定水温THwb以下であると判定された場合(THw≦THwb)には、ステップS104に進む。
【0044】
一方、冷却水温THwが規定水温THwbよりも高いと判定された場合(THw>THwb)には、ECU20は、機関冷間時でないと判断し、そのまま本ルーチンを一旦抜ける。この場合、EGR装置16によるEGRが行われずに、筒内単独噴射が行われる運転状態が継続する。なお、この制御ルーチンにおいて、機関冷間時ではない通常の運転時にEGRを行わないのは気筒2内で発生するPM粒子数が少ないことに因るが、通常の運転時にEGRを行うことは何等妨げられるものではない。
【0045】
ステップS104において、ECU20は、機関負荷率KLをアクセルポジションセンサの出力信号に基づいて取得し、機関負荷率KLが基準低負荷率KLlo以下であるか否かが判定される。基準低負荷率KLloは、冷間時PM低減制御を実行しないと機関冷間時におけるPM粒子数Npmが既述の目標PM粒子数Npmloを超えてしまうと判断される機関負荷率の上限値である。基準低負荷率KLloは、図2及び3に示した低負荷(KLlo)に対応している。
【0046】
機関負荷率KLが基準低負荷率KLlo以下であると判定された場合には(KL≦KLlo)、冷間時PM低減制御を実行しなくてもPMの排出量を充分に少なく維持することができると判断され、本ルーチンを一旦抜ける。一方、機関負荷率KLが基準低負荷率KLloよりも高いと判定された場合には(KL>KLlo)、冷間時PM低減制御を実行しないと排気エミッションが悪化すると判断され、ステップS105に進む。なお、このときの機関負荷率KLは、図2及び3における中負荷(KLmid)や高負荷(KLhi)に対応している。
【0047】
ステップS105において、ECU20は、EGR弁18を開弁させる。具体的には、EGR開度Degrの制御指令値を零から、零よりも大きいDegr(i)に変更することでEGR弁18を開弁させ、EGR管17を介してEGRガスを内燃機関1に導入する。前述したように、ポート燃料噴射比率DIPの初期設定値は0(零)であるため、本ステップの処理を行うことにより、筒内単独噴射・EGR増量処理が開始されることになる。そして、本ステップの処理が終了すると本ルーチンを一旦抜ける。
【0048】
次に、本ルーチンのステップS101において、筒内単独噴射・EGR増量処理中であると判定された後に進むステップS106の処理について説明する。ステップS106において、ECU20は、現在のEGRガス量QegrがEGR限界量QLegrに到達しているか否かが判定される。現在のEGRガス量Qegrは、エアフローメータ11の出力信号及びEGR開度Degrの制御指令値Degr(i)に基づいて求めることができ
る。また、EGR限界量QLegrについては、予め実験等の経験則に基づいて内燃機関1の運転状態毎に設定しておくことができる。或いは、内燃機関1の燃焼状態の良否を判定可能なパラメータに基づいてEGRガス量QegrがEGR限界量QLegrに到達しているか否かを判定しても良い。例えば、排気の空燃比に応じた電気信号を出力する空燃比センサ(図示省略)を排気管8に設置しておき、このセンサの出力信号の変動量が規定値を超えたときにEGRガス量QegrがEGR限界量QLegrを超えたものと判断することもできる。
【0049】
本ルーチンにおいて、EGRガス量QegrがEGR限界量QLegrに到達していると判定された場合(Qegr≧QLegr)にはステップS107に進み、そうでない場合(Qegr<QLegr)にはステップS108に進む。先に、ステップS108の処理を説明すると、本ステップでは、EGR開度Degrの制御指令値をDegr(i)から、さらに所定開度だけ開き側のDegr(i+α)に変更する。すなわち、EGR開度Degrを現在の開度から所定開度だけ増加させる処理が行われる。本ステップの処理が終了すると本ルーチンを一旦抜ける。すなわち、この場合には筒内単独噴射・EGR増量処理が継続される。
【0050】
ステップS107において、ECU20は、図2に示したPM粒子数推定マップに現在のEGRガス量Qegr(すなわち、EGR限界量QLegrに一致する)及び機関負荷率KLを代入してEGR限界時PM粒子数NLpmを推定する。そして、続くステップS109では、ステップS107で推定したEGR限界時PM粒子数NLpmから目標PM粒子数Npmloを減算してPM粒子数低減要求量ΔNRpmを算出する(ΔNRpm=NLpm−Npmlo)。
【0051】
続くステップS110において、ECU20は、図4に示した目標噴射比率設定マップに、ステップS109で算出したPM粒子数低減要求量ΔNRpmを代入することによって、目標噴射比率DIPtを演算する。続くステップS111において、ECU20は、ポート燃料噴射比率DIPを零から、ステップS110において求めた目標噴射比率DIPtに変更する。本ステップの処理を行うことにより、複合噴射・EGR定量処理が開始されることになる。そして、本ステップの処理が終了すると本ルーチンを一旦抜ける。
【0052】
次に、本ルーチンのステップS102において、複合噴射・EGR定量処理中であると判定された場合に進むステップS112の処理について説明する。ステップS112において、ECU20は、複合噴射・EGR定量処理の終了条件が成立しているか否かを判定する。具体的には、冷却水温THwが規定水温THwbより高いか、或いは、機関負荷率KLが基準低負荷率KLlo以下である場合に、同処理の終了条件が成立する。本ルーチンにおいて複合噴射・EGR定量処理の終了条件が成立していると判定された場合にはステップS113に進む。一方、そうでない場合には本ルーチンを一旦抜ける。この場合には、複合噴射・EGR定量処理が継続して実施されることになる。
【0053】
ステップS113において、ECU20は、EGR開度Degrの制御指令値を零に変更することでEGR弁18を閉弁する。これにより、EGR装置16によるEGRガスの再循環が停止される。また、本ステップでは、ECU20は、ポート燃料噴射比率DIPの設定値を0(零)に戻す。これにより、内燃機関1への燃料噴射制御が、複合噴射から筒内単独噴射に切り替えられる。このように、本ステップの処理によって複合噴射・EGR定量処理が終了させられると、本ルーチンを一旦抜ける。
【0054】
なお、この制御ルーチンにおいて、ステップS106で否定判定がなされた後、ステップS108の処理を行う前に、図2に示したPM粒子数推定マップに現在のEGRガス量Qegr及び機関負荷率KLを代入し、対応する現在のPM粒子数Npmを推定すると良
い。そして、PM粒子数Npmの推定値と目標PM粒子数Npmloとの大小関係を比較し、PM粒子数Npmの推定値が目標PM粒子数Npmloよりも多い場合に限りステップS108に進むと良い。そして、現在のPM粒子数Npmの推定値が目標PM粒子数Npmlo以下の場合には、これ以上EGRガス量Qegrを敢えて増やす必要がない。その場合には、冷却水温THwが規定水温THwbよりも高くなり、内燃機関1の暖機が完了するまでこの制御状態を維持すると良い。
【0055】
以上のように、本実施例における冷間時PM低減制御によれば、EGRガス量QegrがEGR限界量QLegrに到達するまでは「筒内単独噴射・EGR増量処理」を実施することで、機関出力や走行燃費の向上を実現しつつ、PM粒子数Npmの低減を図ることができる。そして、EGRガス量QegrがEGR限界量QLegrに到達した後は「複合噴射・EGR定量処理」を実施することで、内燃機関1の燃焼状態が安定状態に維持しつつPM粒子数Npmを目標PM粒子数Npmlo以下に低減することができる。その結果、機関冷間時に多量のPMが排出されることが抑制される。従って、本実施例に係る冷間時PM低減制御が適用される内燃機関1の制御装置においては、機関冷間時における排気エミッションの悪化を確実に抑制することができる。
【符号の説明】
【0056】
1・・・内燃機関
2・・・気筒
3・・・ピストン
4・・・燃焼室
5・・・吸気ポート
6・・・排気ポート
7・・・吸気管
8・・・排気管
12・・ポート内噴射弁
13・・筒内噴射弁
14・・点火プラグ
16・・EGR装置
17・・EGR管
18・・EGR弁
20・・ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の気筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁と、
前記内燃機関の吸気通路内に燃料を噴射する吸気通路内噴射弁と、
前記内燃機関の排気通路に排出された排気ガスの一部をEGRガスとして機関に導入させるEGR装置と、
機関冷間時において、前記筒内噴射弁による燃料噴射量と前記吸気通路内噴射弁による燃料噴射量との和である総燃料噴射量に対する該吸気通路内噴射弁による燃料噴射量の比率である吸気通路内噴射比率を零に維持した状態でEGRガス量を増加させ、機関燃焼が安定状態に維持される上限のEGR限界量にEGRガス量が到達した場合には、EGRガス量を該EGR限界量に維持した状態で該吸気通路内噴射比率を零より大きな目標噴射比率に変更することによって、気筒内で発生するPM粒子数を目標PM粒子数まで低減する冷間時PM低減手段と、
EGRガス量に基づいてPM粒子数を推定するPM粒子数推定手段と、
を備え、
前記冷間時PM低減手段は、EGRガス量が前記EGR限界量に到達した際に推定された前記PM粒子数の推定値と前記目標PM粒子数との差が大きいほど、前記目標噴射比率を高く設定することを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−222978(P2010−222978A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67979(P2009−67979)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】