説明

内燃機関の制御装置

【課題】点火プラグ周りに可燃混合気を形成し成層燃焼運転が行われる直噴火花点火式内燃機関において、点火プラグの状態が悪化することによる燃焼変動や失火を防止する。
【解決手段】この発明による内燃機関の制御装置は、内燃機関の燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁と、燃料噴射弁からの燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御手段と、燃焼室に流入する空気の吸気流量を制御する吸気流量制御手段と、燃料噴射弁から噴射された燃料と燃焼室に流入する空気とで形成される混合気に火花点火する点火プラグと、点火プラグの状態を検出する点火プラグ状態検出手段とを備え、点火プラグ状態検出手段により前記点火プラグの状態悪化を検出した場合は、成層燃焼運転のまま、燃焼室の混合気濃度を高めるようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置、特に、点火プラグ近傍に可燃混合気を形成し成層燃焼運転が行われる直噴火花点火方式内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
成層燃焼が行われる直噴火花点火式内燃機関では、圧縮行程に於いて内燃機関の燃焼室に直接燃料を噴射して点火プラグ近傍のみに可燃混合気を形成し、成層リーン燃焼を実現することができる。成層リーン燃焼では、点火プラグ近傍に可燃範囲の混合気を存在させ、それ以外の領域は空気が占めているため、内燃機関の出力を制御する場合には点火プラグ近傍の混合気の量を制御するだけでよく、一般的な均質混合気を供給する内燃機関のように吸入混合気量を制御する必要がない。そのため、ポンピングロスに起因する出力損失を低減することができ、燃費改善方策として有効である。
【0003】
圧縮行程に噴射された燃料は、噴射口から噴射された後に分裂や蒸発とともに空気を取り込みながら、点火プラグ近傍に可燃混合気を形成する。この可燃混合気は、点火プラグの火花放電ギャップに火花放電することで燃焼する。しかし、内燃機関の回転数や負荷といった運転条件が変化することによって燃焼室の温度や吸気流動も変化するので、噴射された燃料の分裂や蒸発の状態も変わり、点火プラグ近傍の混合気形成も変化する。
【0004】
燃料の分裂や蒸発が進み難く、混合気濃度が可燃範囲より低くなりやすい運転条件が連続的に続いた場合には、点火プラグ近傍に未蒸発の液相燃料が存在しやすくなり、点火プラグに付着した燃料が完全燃焼することなくカーボンとなって点火プラグのくすぶり汚損となる。点火プラグのくすぶり汚損が進行すると、点火プラグの電極間に火花放電用の高電圧を印加しても火花放電ギャップに火花放電せずにリーク電流として流れてしまい、燃焼変動や最悪の場合には失火に陥ってしまう。
【0005】
そこで、従来、燃焼室全体の空燃比を理論空燃比よりも高い空燃比にして成層燃焼を行う筒内噴射式エンジンの制御装置に於いて、点火プラグへのカーボンの付着に起因する点火異常が検出されたときに、成層燃焼運転時よりも空燃比を下げ、且つ少なくとも一部の燃料の噴射タイミングを進ませるカーボン除去運転に切り換えることで、エンジンの運転状態が悪化するのを防ぐようにした装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1に開示された従来の装置によれば、成層燃焼運転からカーボン除去運転に切り換え、成層燃焼運転時よりも空燃比を下げることで燃焼状態が良くなり、点火プラグに付着したカーボンが自己清浄作用によって自ずと焼却されて点火異常が解消される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−125131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された従来の技術の場合、点火異常が検出された直後に成層燃焼運転からカーボン除去運転に切り換えるようにしているので、燃費の悪化が大きい。又、点火異常が検出された直後から、燃料の噴射タイミングを均質燃焼となる吸気行程以前に早めており、成層燃焼時よりもポンピングロスに起因する出力損失が多くなり、燃費が悪化する。更に、成層燃焼となる圧縮行程に於いて燃料の噴射タイミングを早めた場合、点火プラグに燃料の噴霧が到達するタイミングが早まるので点火タイミングを変更する必要が生じる。通常、点火タイミングは燃焼効率が最も良いタイミングに設定されているが、点火タイミング変更による燃焼効率の低下分を補う為に燃費は悪化する。
【0009】
この発明は、従来の装置に於ける前述のような課題を解決するためになされたものであって、点火プラグのくすぶり汚損によって燃焼が不安定となった際に、燃費の悪化を最小限に抑制しつつ点火プラグを正常な状態に復帰させて燃焼状態を安定させることができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による内燃機関の制御装置は、内燃機関の燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁から噴射される燃料量を制御する燃料噴射量制御手段と、前記燃焼室に吸入する空気の吸気流量を制御する吸気流量制御手段と、前記燃料噴射弁から噴射された燃料と燃焼室に吸入する空気で形成される可燃混合気に火花点火する点火プラグと、前記点火プラグの状態を検出する点火プラグ状態検出手段とを備え、前記点火プラグの近傍に形成された可燃混合気に前記点火プラグの火花点火により成層燃焼運転を行うようにした直噴火花点火式内燃機関であって、前記点火プラグ状態検出手段により前記点火プラグの状態悪化を検出した場合は、前記成層燃焼運転のまま、前記燃焼室の混合気濃度を高めるようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明による内燃機関の制御装置によれば、点火プラグ状態検出手段により点火プラグの状態悪化を検出した場合は、成層燃焼運転のまま、燃焼室の混合気濃度を高めるようにしたので、点火プラグ近傍の混合気濃度を高めることで点火プラグ近傍の燃焼が良くなり、点火プラグに付着したカーボンが自己清浄作用によって自ずと焼却されるので、燃費の悪化を抑制しつつ点火プラグのくすぶり汚損を解消し、燃焼変動や失火のない良好な燃焼を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1及び実施の形態2による内燃機関の制御装置を示す概略構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1及び実施の形態2による内燃機関の制御装置に於けるECUの内部構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1及び実施の形態2による内燃機関の制御装置に於ける成層燃焼実行時の燃料噴射タイミングでの燃料噴霧形状を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置に於ける制御内容を示すフローチャートである。
【0013】
【図5】点火プラグ正常時とくすぶり汚損時のイオン電流値波形を説明する説明図である。
【図6】この発明の実施の形態2による内燃機関の制御装置に於ける制御内容を示すフローチャートである。
【図7】この発明の実施の形態2による内燃機関の制御装置に於ける排気温度と燃焼温度との関係を示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態2による内燃機関の制御装置に於ける燃焼温度に基づく補正量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1及び実施の形態2による内燃機関の制御装置を示す概略構成図である。図1に示す内燃機関は、直噴火花点火式内燃機関であり、内燃機関本体1には、複数の気筒を備えているが、説明の便宜上、一つの気筒のみを図示している。図1に於いて、内燃機関本体1には、燃焼室2を往復運動するピストン3を備え、往復運動することにより吸気弁9を経由して燃焼室2へ空気を導入し、また混合気の燃焼圧力を運動エネルギーに変換し、さらに燃焼後の既燃ガスを排気弁8から排出する。内燃機関本体1には、吸気弁9及び排気弁8を介して、吸気管4及び排気管5が接続されている。燃料噴射弁10は、内燃機関本体1に設けられており、加圧された燃料を燃焼室2に直接噴射する。
【0015】
排気管5に於ける排気弁8の近傍には、燃焼温度を推定するための排気温度を検出する排気温度センサ6が設けられている。吸気管4の途中に設けられたスロットルバルブ7は、例えばDCモータ若しくはステッピングモータ等により開閉量が制御され、燃焼室2への吸気流量を制御する。
【0016】
前述の燃料噴射弁10は、エンジンコントロールユニット(以下、ECUと称する)12からの信号に基づいて開弁し、燃焼室2へ加圧燃料を直接噴射する。噴射された燃料と吸気管4から流入する空気により燃焼室2に成層混合気が形成され、点火プラグ11により着火される。
【0017】
車室内等に設けられたECU12は、燃料噴射弁10による燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御、及び吸気管4からの吸気流量を制御する吸気流量制御等を実行するマイクロコンピュータシステムにより構成されており、入出力インターフェース13、中央演算処理装置14、ROM15、RAM16、駆動回路17を備えている。
【0018】
ECU12の入力側には、排気温度センサ6、及びその他の各種センサ(図示せず)、スイッチ類(図示せず)が接続されている。入出力インターフェース13に入力された排気温度センサ6及び各種センサの出力は、A/D変換されてECU12内へ取り込まれる
。中央演算処理装置14は、A/D変換された入力信号に基づいて、各種の演算処理を実行する。駆動回路17は、中央演算処理装置14による演算結果に基づいて、各種アクチュエータ用制御信号を出力し、燃料噴射弁10、スロットルバルブ7等を夫々駆動する。
【0019】
又、点火プラグ11の状態を検出する手段として、燃焼室2で燃焼時に発生するイオンに基づき燃焼状態を検出する為のイオン電流検出回路18が設けられている。燃焼状態が良ければ点火プラグ11の状態も良く、悪ければ点火プラグ11の状態が悪いと判断する。イオン電流検出回路18に設けられたバイアス回路(図示せず)から点火プラグ11にバイアス電圧を印加することで燃焼室2に発生したイオンが流れ、燃焼室2に発生したイオンはイオン電流検出回路18によりイオン電流として検出される。
【0020】
図2は、この発明の実施の形態1及び実施の形態2による内燃機関の制御装置で実行される制御のブロック図であり、点火プラグ状態検出手段121と、燃焼形態切替手段122と、燃焼温度推定手段123と、吸気流量制御手段124と、燃料噴射量制御手段125を備える。
【0021】
点火プラグ状態検出手段121は、イオン電流検出回路18により検出したイオン電流に基づいて点火プラグ11の状態を検出し、点火プラグ11の状態を示す信号を燃焼形態切替手段122に入力する。燃焼形態切替手段122は、入力された点火プラグ状態検出手段121からの信号が点火プラグ121の状態が悪化していないことを示している場合は、燃焼形態を成層燃焼のままとする信号を吸気流量制御手段124、及び燃料噴射量制御手段125に入力する。燃焼形態を成層燃焼のままとする信号を燃焼形態切替手段122から受けた吸気流量制御手段124と燃料噴射量制御手段125は、夫々、補正量「1.0」を乗算して吸気流量、及び燃料噴射量の演算を行う。
【0022】
一方、燃焼形態切替手段122に入力された点火プラグ状態検出手段121からの信号が点火プラグ11の状態が悪化していることを示している場合は、燃焼形態切替手段122は、燃焼形態の切り替えを決定し、その切り替えを決定した燃焼形態を示す信号を吸気流量制御手段124、及び燃料噴射量制御手段125に入力する。例えば、燃焼形態切替手段122は、点火プラグの状態が悪化していることを示す信号を受けた場合に、前述の演算に於ける補正回数が20回以下であれば燃焼形態は成層燃焼のままとし、補正回数が20回を超えているなら成層燃焼での点火プラグの回復は困難と判断して、燃焼形態を成層燃焼から均質燃焼に切り替える決定を行い、その切り替えに対応する信号を吸気流量制御手段124と燃料噴射量制御手段125に入力する。
【0023】
前述の切り替えに対応する信号を受けた吸気流量制御手段124と燃料噴射量制御手段125は、混合気濃度を高めるために、吸気流量と燃料噴射量に予め実験から求めた点火プラグ11の復帰に必要な補正量を乗算して吸気流量と燃料噴射量等を夫々演算する。したがって、燃焼温度推定手段123は省略することができる。又、点火プラグ11の悪化状態を検出した直後から均質燃焼に切り替えるのではなく、成層燃焼のまま点火プラグ近傍の混合気濃度を高めて点火プラグ11の復帰を目指すようにして燃費の悪化を最小限に抑制する。
【0024】
尚、予め実験から求めた補正量に代えて、排気温度センサ6により検出した排気温度に基づいて燃焼温度推定手段123により推定した燃焼温度に応じて吸気流量と燃料噴射量に乗算補正するようにすれば、燃料の分裂や蒸発に寄与する燃焼温度に即した精度の高い補正を行うことができる。この場合は、この発明の実施の形態2に相当する内燃機関の制御装置として後述する。
【0025】
スロットルバルブ7及び燃料噴射弁10は、吸気流量制御手段124及び燃料噴射量制御手段125により夫々補正を反映して演算された吸気流量と燃料噴射量に基づき駆動される。
【0026】
以上述べた構成により、点火プラグ11の近傍の混合気濃度を高めることで点火プラグ11の近傍の燃焼が良くなり、点火プラグ11に付着したカーボン等が自己清浄作用によって自ずと焼却されるので、燃費の悪化を最小限に抑制しつつ点火プラグのくすぶり汚損を解消し、燃焼変動や失火のない良好な燃焼を得ることができる。
【0027】
ここで、成層燃焼が行われる直噴火花点火式内燃機関での混合気形成について説明する。図3は、この発明の実施の形態1及び実施の形態2による内燃機関の制御装置に於ける成層燃焼実行時の燃料噴射タイミングでの燃料噴霧形状を示す説明図である。図3に於いて、燃焼室2、ピストン3、排気弁8、吸気弁9、燃料噴射弁10、及び点火プラグ11は、図1により説明した通りである。実線により囲む領域19は、燃料噴射弁10から噴射された燃料のうち蒸発不十分で液体噴霧が多く含まれる液相領域を示す。液相領域19の外側を破線で囲む領域20は、液相領域19と同様に噴射された燃料であるが、噴霧の外周部分であり燃料噴霧の分裂と蒸発が進んで燃料が気化した気相領域を示す。
【0028】
成層燃焼は、燃料噴射弁10から噴射された燃料を燃料噴射弁10の近傍に設置した点火プラグ11により火花点火する方式である。そのため、点火プラグ11の先端の電極に点火が可能な気相領域20が含まれる必要がある。もし、液相領域19が点火プラグ11の先端の電極に含まれると、混合気はオーバーリッチ状態となり、点火プラグ11の電極が燃料によって濡らされ火花放電が阻害され失火するか、点火しても液相燃料の燃焼により燃焼変動が増加する。逆に、点火プラグ11の先端の電極が気相領域20から離れるとオーバーリーンとなり、オーバーリッチ時と同様に燃焼変動が増加する。
【0029】
燃焼が不安定な状態では燃焼温度が低くなり、燃料の分裂や蒸発が進まないので気相領域20は狭まり、点火プラグ11の近傍の混合気はオーバーリーンとなる。オーバーリーンが原因で着火性能が低下し、燃焼しにくい液相領域の燃料の一部が点火プラグに付着してくすぶりに至る。
【0030】
この発明の実施の形態1及び実施の形態2による内燃機関の制御装置では、点火プラグ11が悪化した場合に、燃料噴射量と吸気流量を制御することで混合気濃度を高めて、噴霧の外周部分の燃料が分裂や蒸発する量を増加させるものであり、点火プラグ11の近傍の気相領域20が広がり着火性能が向上する。更に、燃焼室2の混合気濃度を高めることで、燃焼による発生エネルギーが増加して燃焼温度が上昇するので、燃料の蒸発促進効果が向上し可燃範囲となる成層混合気が形成しやすくなり、燃焼状態は良くなる。その結果、燃料の完全燃焼による点火プラグの自己清浄作用は有効に発揮されるので、点火プラグに付着したカーボンは焼き切られてくすぶり汚損を解消できる。
【0031】
以下、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置について、具体的に説明する。前述したように、点火プラグ11の悪化を検出した場合には、混合気濃度を高めることで点火プラグ11の近傍まで気相領域20を広げて着火性能を向上し、燃焼による発生エネルギーを増加させて燃焼温度を上げる。燃焼温度を上げることで燃料の分裂や蒸発を促進できるので、混合気を可燃範囲に復帰させると共に、燃料の完全燃焼により点火プラグ11を正常な状態に復帰できる。
【0032】
そこで、先ずは、燃料噴射量を増加すると共に吸気流量を減少させることで混合気濃度を高める。点火プラグ11の悪化検出の直後には燃焼形態を変更せずに、成層燃焼の状態で点火プラグ11の近傍のみの混合気を可燃混合気にして燃費の悪化を最小限に抑制する。成層燃焼状態での補正で改善されないようであれば、燃焼形態を均質燃焼に切り替えることで点火プラグ11の悪化状態からより確実に正常な状態へ回復させる。
【0033】
成層燃焼は点火プラグ11の近傍のみに可燃混合気を作るのに対し、均質燃焼は燃焼室2全体を可燃混合気とするので、着火性能が向上する。更に、均質燃焼では燃焼室2全体の空気に対して可燃混合気を作ることになり成層燃焼時よりも燃料噴射量が増加するので、燃焼による発生エネルギーは増加して燃焼温度が高くなる。燃焼温度がより高くなることで、燃料の分裂と蒸発が活発になり、点火プラグ復帰の効果がより大きくなる。
【0034】
図4は、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置に於ける制御内容を示すフローチャートである。図4に於いて、先ず、ステップS101によりイオン電流を用いて点火プラグ11の状態を検出する。イオン電流は、主にガソリン等の炭化水素系燃料が燃焼する過程で火炎中にラジカルと称される電荷を帯びた中間生成物に由来して生じるマイクロアンペア程度の微弱な電気の流れである。
【0035】
図5は、この発明の実施の形態1及び実施の形態2による内燃機関の制御装置に於ける点火プラグ正常時とくすぶり汚損時のイオン電流値を示す波形図である。図5に於いて、縦軸はイオン電流値、横軸はクランク角を示す。図5に示すように、点火プラグ11のくすぶり汚損時にはリーク電流がイオン電流検出時に重畳する。この点に着目し、図4に於けるステップS101ではイオン電流検出回路18により検出される電流の挙動をモニタすることで点火プラグ11の状態を検出する。
【0036】
そこで、ステップS101では、混合気が燃焼する際に発生するイオン電流発生期間以外のクランク角度、例えば、図5に示すように、排気行程が終了するクランク角度d1のタイミングに於いて、イオン電流値がイオン電流ピーク値の10[%]に相当する所定の判定値以上であれば点火プラグ11がくすぶり汚損により悪化していると判定し(Y)、所定の判定値未満であれば、点火プラグ11は良好であると判定する(N)。
【0037】
ステップS101に於いて点火プラグ11が悪化していないと判断した場合(N)には吸気流量及び燃料噴射量を補正する必要がないので、ステップS102に進んで吸気流量に補正値「1.0」を乗算し、次にステップS103に進んで燃料噴射量に補正量「1.0」を乗算し、次のステップS104に於いて補正回数をリセットして本ルーチンを終了する。ここで、補正回数は燃料噴射量と吸気流量を補正した回数を意味する。
【0038】
一方、ステップS101に於いて点火プラグ11の状態が悪化していると判断した場合(Y)は,ステップS105に進み、燃焼形態を均質燃焼に切り替えるべきかを判断する
ため、燃料噴射量と吸気流量の補正回数が例えば20回を超えたか否かを判断する。ステップS105にて補正回数が20回以下と判定した(N)場合は、ステップS106に進んで燃焼形態を成層燃焼のままとし、次にステップS107に進んで混合気濃度を高めるために吸気流量補正として2割吸気流量を減少させるように補正し、次にステップS108に於いて燃料噴射量を2割増量補正する。ステップS107での吸気流量補正、及びステップS108での燃料噴射量補正に於ける補正量は、実験から予め算出した固定値を用いる。
【0039】
混合気濃度を高めて分裂や蒸発する燃料量を増加させることで点火プラグ11の近傍に気相領域を形成し、更に燃焼による発生エネルギーが増加するので、燃焼温度が上昇し、燃料噴射時の燃焼室温度も必然的に高まる。点火プラグ11の悪化によって燃焼状態が悪化し、燃焼温度が低下したことで可燃範囲から外れた点火プラグ11の近傍の混合気濃度は、燃焼温度を高めることで可燃範囲に復帰させることができる。次に、ステップS112により補正回数を「1」加算して本ルーチンを終了する。
【0040】
一方、ステップS105に於いて補正回数が20回を超えていると判定した場合(Y)に於いて、それでも点火プラグ11の状態が改善されないのであれば、成層燃焼での点火プラグ11の復帰は困難であると判断し、ステップS109に於いて成層燃焼から均質燃焼に切替える。均質燃焼への切替えは、燃料噴射時期を圧縮行程から吸気行程に変更すると共に、ステップS110とステップS111に於いて、夫々吸気流量と燃料噴射量を均質燃焼に即した値に補正し、ステップS112に進んで、補正回数に「1」を加えて処理を終了する。燃焼形態を均質燃焼として、燃焼室全体を可燃混合気にすることで着火性能は向上し、燃料を完全燃焼させることができるので、点火プラグ11に付着したカーボンを確実に焼き切り点火プラグのくすぶりを解消することができる。
【0041】
以上のように、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置によれば、点火プラグ近傍の混合気濃度を高めることで着火性能が向上し燃焼状態を良くすることができるので、点火プラグに付着したカーボンが自己清浄作用によって自ずと焼却されて、点火プラグのくすぶり汚損を解消できる。又、点火プラグの悪化検出直後には成層燃焼で点火プラグの悪化状態からの復帰を実行するので、燃費の悪化を最小限に抑制しつつ、燃焼変動や失火のない良好な燃焼を得ることができる。
【0042】
実施の形態2.
実施の形態1では点火プラグの状態が悪化していると判断した場合は、吸気流量と燃料噴射量の補正を実験から予め算出した固定値としたが、実施の形態2では排気温度から推定した燃焼温度に応じて吸気流量と燃料噴射量の補正を行うことで、燃料の分裂や蒸発に寄与する燃焼温度に即した精度の高い補正を行うようにしたものである。実施の形態1に於ける図1及び図2に示す構成は、実施の形態2に於いても同様である。
【0043】
以下、この発明の実施の形態2による内燃機関の制御装置について説明する。図6は、この発明の実施の形態2による内燃機関の制御装置に於ける制御内容を示すフローチャートである。図6に於いて、ステップS201からステップS204までの点火プラグ11が正常時の処理は、実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0044】
ステップS201に於いて、点火プラグ11が悪化していると判断すると、ステップS205にて排気弁8の近傍に設置された排気温度センサ6により検出された排気温度に基づいて燃焼温度を推定する。図7に示す排気温度と燃焼温度との関係に基づいて推定する。即ち、図7はこの発明の実施の形態2による内燃機関の制御装置に於ける排気温度と燃焼温度の関係を示す説明図である。図7に於いて、縦軸は燃焼温度、横軸は排気温度を示す。
【0045】
次にステップS206に進み、実施の形態1の場合と同様に、燃焼形態を均質燃焼に切り替えるべきかを判断するため、燃料噴射量と吸気流量の補正回数が例えば20回を超えているか否かを判断する。ステップS206に於いて補正回数が20回以下であると判定した場合(N)は、ステップS207に進んで燃焼形態を成層燃焼のままとし、次に、ステップS208とステップS209に於いて、混合気濃度を高めるために、図8を参照して推定した燃焼温度に応じた補正量を導き出し、吸気流量と燃料噴射量に夫々その補正量を乗算して補正する。
【0046】
図8は、この発明の実施の形態2による内燃機関の制御装置に於ける燃焼温度に基づく補正量を示す図であり、縦軸は補正量、横軸は燃焼温度を示している。吸気流量と燃料噴射量の補正量は、図8に示すように、燃焼温度が高ければ小さくし、燃焼温度が低ければ大きく設定する。尚、排気温度以外の筒内圧波形等から燃焼温度を推定して補正量を決定しても良い。
【0047】
一方、ステップS206に於いて補正回数が20回以上であると判断した場合(Y)は、実施の形態1の場合と同様にステップS210からステップS212により燃焼形態を均質燃焼に切り替えて燃料噴射量と吸気流量を均質燃焼に即した値に補正し、ステップS213に進んで補正回数に「1」を加算して処理を終了する。
【0048】
以上のように、この発明の実施の形態2による内燃機関の制御装置によれば、点火プラグ近傍の推定した燃焼温度に応じて精度よく混合気濃度を高めることで燃焼が良くなり、点火プラグに付着したカーボンが自己清浄作用によって自ずと焼却されるので、燃費の悪化を抑制しつつ点火プラグのくすぶり汚損を解消し、燃焼変動や失火のない良好な燃焼を得ることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 内燃機関本体 2 燃焼室
3 ピストン 4 吸気管
5 排気管 6 排気温度センサ
7 スロットルバルブ 8 排気弁
9 吸気弁 10 燃料噴射弁
11 点火プラグ 12 ECU
13 入出力インターフェース 14 中央演算処理装置
15 ROM 16 RAM
17 駆動回路 18 イオン電流検出回路
121 点火プラグ状態検出手段 122 燃焼形態切替手段
123 燃焼温度推定手段 124 吸気流量制御手段
125 燃料噴射量制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記燃料噴射弁から噴射する燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御手段と、
前記燃焼室に吸入する空気の吸気流量を制御する吸気流量制御手段と、
前記燃料噴射弁から噴射された燃料と燃焼室に吸入する空気とで形成される混合気に火花点火する点火プラグと、
前記点火プラグの状態を検出する点火プラグ状態検出手段と、
を備え、前記点火プラグの近傍に形成された混合気に前記点火プラグの火花点火により成層燃焼運転を行うようにした直噴火花点火式内燃機関であって、
前記点火プラグ状態検出手段により前記点火プラグの状態悪化を検出した場合は、前記成層燃焼運転のまま、前記燃焼室の混合気濃度を高めることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記点火プラグ状態検出手段により前記点火プラグの状態悪化を検出した場合は、前記燃料噴射量を増加させるように前記燃料噴射量制御手段による前記燃料噴射量を補正することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記燃料噴射量の補正は、予め求めた前記点火プラグの状態復帰に必要な補正量に基づいて行うことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記点火プラグ状態検出手段により前記点火プラグの状態悪化を検出した場合は、前記吸気流量を減少させるように前記吸気流量制御手段による前記吸気流量を補正することを特徴とする請求項1乃至3のうちの何れか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記吸気流量の補正は、予め求めた前記点火プラグの状態復帰に必要な補正量に基づいて行うことを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記内燃機関に於ける前記混合気の燃焼温度を推定する燃焼温度推定手段を備え、
前記点火プラグ状態検出手段により前記点火プラグの状態悪化を検出した場合は、前記燃焼温度推定手段により推定した燃焼温度に基づいて前記燃料噴射量を増加させるように前記燃料噴射量制御手段による前記燃料噴射量を補正することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記内燃機関に於ける前記混合気の燃焼温度を推定する燃焼温度推定手段を備え、
前記点火プラグ状態検出手段により前記点火プラグの状態悪化を検出した場合は、前記燃焼温度推定手段により推定した燃焼温度に基づいて前記吸気流量を減少させるように前記吸気流量制御手段による前記吸気流量を補正することを特徴とする請求項1、4、6のうちの何れか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記内燃機関の燃焼形態を、均質燃焼と成層燃焼のうちの一方から他方へ切り替える燃焼形態切替手段を備え、
点火プラグ状態の悪化を検出した場合に於いて前記補正が所定回数を超えて行われたことを判定した場合は、前記燃焼形態切替手段により前記成層燃焼から前記均質燃焼に切り替えることを特徴とする請求項1乃至7のうちの何れか一項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−220159(P2011−220159A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88598(P2010−88598)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】